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sf小説・体験版・未来の出来事5

メレニは、
「パーティには他のクラスからも来るわ。流太郎が見た事もない人も来るから。楽しみね。」
と教唆した。

 そんな楽しさを想像したりと、流太郎が期待にも似た気持ちでいると時間が経つのは速いものだ。そのパーティ会場に流太郎は、いた。立食パーティみたいな会場であった。飲み放題、食べ放題。百人はいる大きな会場だ。流太郎は黒い背広を着たハンサムな若い男性に、
「こんにちわ。日本から来ましたね、あなたは?」
と声を掛けられた。
「はい、そうです。ぼくは講師の助手です。初めまして。」
「ぼくも初めまして、ですが、あなたは学校で見た事ありますよ。」
「そうですか。気が付きませんでした。」
「地球の日本にいるのですが、ちょっと二か月ほど、ここで日本語を更に学んだのです。」
「わざわざ火星へ?日本にいたのなら、日本語は学べませんか?」
「それがねえ。私本来の姿に戻れないでしょう、日本では。長い時間ね。」
「はあ、あなた本来の姿・・・それは人間誰しも、人前では幾分、取り繕った顔をするものですよ。そういうのがストレスが溜まる、って事もありますよね。分かります、分かります。」
その男は歯を見せて笑うと、
「ははははは。その程度のものなら火星に来るものですか。私本来の姿、とは、こうですよ。」
流太郎が見ているハンサム男の顔は、みるみるうちに蛇のような顔になった。歯は牙が尖って見えた。
流太郎は驚きと恐怖で、
「なななな、それが貴方の本当の姿・・・。」
「ええ、レプティリアンとも地球で呼ばれているタイプの宇宙人、正確には火星人なのでね。」
男の顔は蛇のような顔のまま、ニッ、と笑う。流太郎の背中はゾクゾクしたが、
「シェイプシフトとかいうアレですね。メレニさんや僕が会ったソリゲムさん、ダリモ部長やセロナさん、それに、ここの校長先生もみんな地球の北欧の人を神秘的にした感じの人間なのに、あなたは・・・。」
「国が違えば火星人も異なるのさ。僕は、この国に留学する事を認められている。地球で謂えばビザも持っている。それがねえ地球も、いずれそうなると思うけど、僕らのビザは君達のスマートフォンに類似した、それより進化した携帯の中にね、ビザを持っているんだ。だから入国審査官には、それを火星のスマートフォンで見せれば、いい。見せてあげよう。」
蛇男はズボンのポケットからスマートフォンらしきものを取り出して画面を操作すると、流太郎に見せた。
そこには火星のアルファベットと数字らしきものが表示されていて、ビザらしきデザインのものが見えた。流太郎は、
「これは初見です。ほー、すごいですね。カードのビザなんて紛失する事もありますよね。そしたら大変ですもん。」
「だから地球は遅れている。僕は月への入国ビザも、このスマートフォン、火星ではスマートフォンとは呼ばないけど、君への便宜上、そう呼ばせてもらうが、この中に収めてある。」
「月、というと月面の月ですか。アメリカのアポロが行かなくなって百年以上、経ってますけど。」
蛇男はスマートフォンらしきものをポケットにしまうと、
「月はね、地球に見えない裏側には億単位の宇宙人がいる。円盤の基地や建物、その他、文明を示すものは地球からは見えないんだ。」
その蛇男、レプティリアンの顔などは近くにいる火星人にも見えるはずだが、誰も驚いたりしないようだ。驚きの顔は流太郎だけで、流太郎は、
「それで月には何もない、と思われていたんですね。」
と相槌をカン、と打った。
「月の裏側を探査しようとしたアポロは、彼らの円盤に攻撃された。命からがらのアポロの乗組員達を知ったNASAは、二度と月への宇宙計画を行わなかったんだ。まあ、その方が身の為だね。インターネットの動画共有サイトでは、少しリークされているよ数十年前から。」
「そうなんですか、では竹取物語の、かぐや姫の話しも本当とか。」
「月に帰るとか、そうだろう。昔の人間が想像だけで、そんな事を想いつかない。それは、ともかく、僕は日本で株取引をしている。」
「ああ、デイトレーダーの方ですか。僕も株には興味があります。」
「今度、教えてやろう。日本では蕪山得男(かぶやま・とくお)と名乗っている。戸籍なんて上野に行けば失業者から、いくつでも買えるからね。」
流太郎は蕪山から名刺を貰った。そこには福岡市の蕪山の住所が載っていた。流太郎は嬉しそうに、
「福岡市に住んでいるんですね、蕪山さん。高宮・・鴻巣山の上の方みたいですね。」
「ああ、電話かけてから訪ねて来いよ。デイトレーダーだと外に出る時間も短いから人間の外観になっている時間も短くて、いいからな。」
蕪山の手は指は長くて爪も長く、肌は鮫肌でウロコがあった。
株をやっているから蕪山か、と流太郎は思った。本当は火星のレプティリアン、爬虫類型宇宙人なのだ、蕪山さんは、と流太郎は思うが火星人の株取引を知りたい、と思い、
「蕪山さんは、明日からでも日本へ、福岡市へ戻るんですか。」
「ああ、今日から戻るよ。君は、いつまでも火星にいるのか?」
「そういうつもりも、ないです。火星では日本語講師が関の山ですから。」
「だろう?だったらさ、早めに地球に帰って何かした方が、いい。」
「そうします。蕪山さん、マンゴープリンが、お好きのようですね。さっきから、そればかし食べてますよ。」
「うん、地球人にシェイプシフトすると暑いんだよ。それでマンゴーが、おいしいのさ。」
「ちょっと失礼します、蕪山さん。」
「ああ、いいよ。次は地球でな、会おう。」

 流太郎は少し離れた場所で立食しているメレニのところに行くと、
「メレニさん。ぼく、地球に帰りたいんです。」
と心境を打ち明けた。
「まあ、そうなの、いいわ、あなたは日本語講師助手として数年勤務しているから、国の円盤で地球に送ってもらえるわ。その代り、この火星での仕事は地球では秘密にしておいてね。」
「分かりました。というより、火星での体験を話したって誰も本当だとは思ってくれませんし、頭が狂っていると思われるに決まっていますから、話はしませんよ。」
「そうね、でも秘密を強いる訳ではないから、話していい、と思える人がいたら話してもいい。何故なら、火星に来ている地球人って結構、多いからね。」
なんだ、そうなのか、と流太郎は思った。

 翌日、メレニの話通り、時・流太郎は国のUFOで地球へ帰った。火星人とはいえ、公務員らしき態度の船員に、
「あれが君のマンションですか?」
と香椎駅前にあるマンションの上空から尋ねられたので、
「そうです。屋上で降ろしてもらえませんか。」
「ああ、そうするよ。火星での勤務、ご苦労さん。」
と、ねぎらわれて流太郎は自分のマンションの屋上に降りることが出来た。
(もう、二年にもなるのか。でも一応、分譲マンションだから家賃滞納の心配はなし、管理費と修繕積立金は安いから銀行口座の引き落としで、なんとかなっている筈だ。)
と回想した。
 屋上から自分の部屋に戻ると、電気もガスも止められないでいた。水道も、ちゃんと出た。それらも銀行引き落としだったのだ。パソコンはWINDOWS37が、まだ使えた。起動させてオンラインバンキングの自分の口座を見ると、まだ貯金があった。次にビットコインの口座を見る。
(やはり騰がったな。ビットコインは。火星ではビットコインに似たもので光熱費は払える、とメレニさんは話していたけど。)
日本株は、と見ると上がったのもあれば、下がったのも、ある。ほぼほぼ、同じ株価のものも多い。
ネットニュースを見れば、リニアモーターカーが鹿児島に向けて建設を計画中だそうだ。
リニアより揺れない、というより、全く揺れない火星の空飛ぶ円盤に乗った経験からすると、リニアなんて、と流太郎は考えてしまう。
鹿児島では桜島が爆発したらしく、それの被害に会わなかったところにリニアを通す計画らしい。
とにかく今は昼間だ。会社に電話しよう。携帯電話で流太郎は籾山に連絡を取る。籾山が出て、
「もしもし?おう、時じゃないか。どこに行っていたんだ。」
「ちょっとした事情がありまして、その訳は追い追い、話しますから、今日から出社します。」
「ああ、いいけど君の席は、もうないから、明日までに机とか椅子は何とか、しよう。今日は、そんな状態だけど、来るなら来いよ。」
「はい、行きます、今すぐ。」
という事で、今はマザーズ上場企業の株式会社夢春に流太郎は出社する事になった。

 籾山も今は社長室を使っている。そこに入った流太郎は元気そうな籾山を見て、
「お早うございます。お元気そうで何よりも素晴らしい。」
と挨拶した。籾山は鷹揚に頷くと、
「君も元気で何よりさ。一体、何処に蒸発していたのかい。」
「蒸発だなんて液体ではないんですから、僕は。火星に連れていかれたんです。信じてもらえないと思いますけど。」
籾山は好奇の目を光らせると、
「信じるも何もだね、僕も火星には行ったよ。それどころか、-これは内緒の話だがね、うちの大株主の一人は火星人なんだ。」
流太郎は、そういう時代なんだと思ってみた。だから納得顔で、
「そうでしょう、うちも、そこまでいかないと発展しませんですものね。」
「ああ、技術屋の会社としてはね。火星人からの技術供与は、我が社の向上には必要欠くべからざるものだな。パリノさん、彼が大株主だけど、その人は火星の医師で、エレクトロニクスの方面は得意じゃないらしい。」
「医学でもコンピューターを使う事は、あるのではないですか?」
「あるらしいけど、パリノさんはプログラムを作ったりできる人じゃないから、直接的にはパリノさんからの技術協力は無理だけど。十歳若返るマンゴーが火星にあるらしいよ。」
それを聞いた流太郎は、
「それを輸入販売すれば、絶大な販売業績が出ますよ、籾山さん!!」
「でも、それはパリノさんの兄さんの領域らしいけどね。」
と籾山は嘆息した。

 パリノ・ユーワクの兄、パリノ・ユーワクは、十歳若返るマンゴーの果実を地球に輸出する事に決めた。
販売場所は何と、博多湾上空に浮かぶ巨大な島、で行われる。この巨大な空中に浮かぶ島は、巨大な反重力によって支えられている。そもそも重力などは地球が消滅しない限り、永久にあるものだから、反重力も同じく存在し続ける。太陽光発電でさえ、太陽が沈んだ後にはエネルギーを採れないが、反重力は夜にも、その力を保ち続けるのだ。
 パリノは城川康美に、
「この若返るマンゴーは高価な値段で売りたい。あの浮かぶ島、それは愛高島(あいたかしま)と福岡市からの愛称募集で決まった名称だがね、そこで一個、百万円辺りで売ろうと思うよ。」
康美は、もはや自営業者となっていた。その愛高島にはヘリコプターで時々、訪れた事もある。観光ヘリコプターが空に浮かぶ島へ飛んでいる。島の大体は火星で作られたものだが、そこに宿泊施設などは地球側、というより日本の企業側で作らなければ、ならない。
パリノは康美の事務所で、マンゴー販売を持ち掛けた。康美は社長の椅子に腰かけて、
「それは賛成です。妹の貴美は行方不明になりましたし、何か有意義な事をしたいんです。妹が、いなくなって張り合いがないところもありました。若返りは実証されているのですか、そのマンゴーで?」
パリノは部屋で康美の前に立ったまま、
「もちろんさ。火星人に効くものは地球人にも効く。まず、君に試してほしいね。」
康美は期待で胸がワクワクと雲が湧く思いになって、
「やりますわ!わたしも二十六、若返りたいな。」
と心境を吐露した。
 パリノは上着のポケットの中からマンゴーを取り出すと、
「これが、その十歳若返るマンゴーだ。果実のままだから、皮をむいて食べてごらんよ。」
康美は立ち上がると手渡されたマンゴーを受け取り、事務所の片隅の調理の出来る場所に行って、ナイフでマンゴーの皮を剥き、食べられるように切り分けた。そのひと切れを口にすると、ビタミン剤の強力な味がして、全身に電流が走ったような感覚がした。何か体が軽い。五歳、若返った感じ。鏡のある所に歩いて、自分を鏡で見ると確かに自分は二十一に戻ったようだ。康美はパリノを振り返ると、
「若返りましたわ、パリノさん。でも、五歳だけみたいですよ。」
と嬉しそうな声を出す。パリノも喜ばしい顔で、
「それで、いいんだ。君が十歳若返ると十六になる。それでは未成年者に逆戻りだからね。君はもう自営業、会社に行かなくていいから、会社の人達に見られて奇妙がられることもないよ。」
「そうですわ。でも、父には時々、会います。だから、びっくりしますわ、父は。」
「彼は科学者だし、その火星のマンゴーの事も話していい。だが、他の地球人には秘密にしておいてくれ。若返るマンゴーはネットショップで売り出す。だけど取りに来る場所は浮かぶ島に来てもらうんだ。」
こうして若返るマンゴーは日本初、発売となった。
十歳、若返るマンゴー
なんてインターネットで見ても、すぐ信じる人は、いない。お試しサンプル、無料というので試しに送ってもらった人が、
「確かに少し若返った。よし、買いたい。でも百万円じゃあ・・・。」
とネットで呟いたので大反響を竜巻のように巻き起こし、その噂は旋回して日本中を駆け巡ったのであった。
 購入場所は博多湾に浮かぶ海抜五百メートルの浮かぶ島。観光ヘリで訪れる事が、できる。一日に浮かぶ島に飛ぶヘリコプターも限られている為、日曜祭日には予約が殺到している。
康美はパリノがUFOで浮かぶ島まで朝晩、康美のマンションから送迎した。人間の目には見えないUFOにすれば、誰にも気づかれない訳なのだ。そのUFOでは香椎駅前の康美のマンションから浮かぶ島「愛高島」まで一秒以内に到達できる。標高五百メートルの愛高島は、冬の今、とても寒い。
観光客が来る前の販売所の室内で、パリノは康美に、こう話した。
「今日は寒いね。太陽の表面温度は実は、たったの26℃なんだから。」
何の冗談かと康美は思い、聞き返す。
「なんですか、その話。太陽の表面温度は6000℃だと習いましたが。」
「ワハハハハ。それが天動説と同じで、科学的という間違った迷信、いや迷推測によるものなんだ。太陽が高温を発しているのなら地表から五百メートルも離れて高い、この愛高島が何故、こんなに寒いのだね?」
「それは寒気団が来るからではないですか?」
「それは、あるだろうけど富士山やエベレスト山は頂上付近は、いつも雪で覆われている。実は、かなり昔、アメリカのNASAは太陽の表面温度を計測し、それが26℃である事を突き止めたが発表しなかった。だがインターネットでは漏れ伝わっている。」
「では、太陽熱とは一体何でしょう?」
「T線と呼ばれるものが太陽から出ていて、それが惑星の大気に触れて気温が上昇するのだ。だから太陽に地球より近い金星にも高度な文明を持つ人達が、存在する。」
「金星!??金星って、とても高温で・・・でもないんですね、太陽は平穏な平温としたら。」
「そうだ。金星には厚い雲もある。そもそも太陽は燃える塊ではない。なのだから金星には快適に住める空間は、あるんだ。NASAも太陽の温度を知っていながら、探査船を金星に飛ばさないのは科学的常識、それは大昔の天動説と同じだが、太陽は爆発している燃える星、というものに敬意(笑)を表してだろう。」
康美は新たに金星の謎の一つを少し知った気がした。随分昔、金星に行った、と主張した人々は世間から冷笑されていったものだ。地動説と違ってガリレオ裁判みたいなものは、ないけれど世の中の人間は自分で体験しないものは、世論に動かされる。それで大衆操作は可能だ。百パーセント近くの人間は月にさえ行けないのだ。どうして金星に行けるだろう。
その自分が体験不可能な事に就いては、マスコミュニケーション、マスメディアの打ち出す説を正当なものとする、というのが大衆心理なのだ。康美はパリノに、
「若返るマンゴーも火星からの輸入、という事は知らせない方が、いいんですね?」
「無論の論だよ。愛高島にしたって科学者共は隕石の巨大なもの、と結論付けた。山や川もあるのにだ。(笑)、我々が愛高島を地球へ運んでくるスピードは、巨大な隕石が地球に向かう速度と同じにした。停止も我々がしたのであって、自然現象ではない。
若返るマンゴーは火星の赤道直下で栽培された、品種改良のものだ。これも自然発生のものではない。自然は偉大だ、と思われるところもあっても、人工的手段がなければ快適な生活は望めないのは火星も地球も同じだよ。」
「冬は服を多く着ますものね、人間は。」
康美は首に巻いたマフラーに手を当てつつ、そう言う。
パリノは、うなずくと、
「医学も又、人工的な手段そのものだな。ところで若返った康美君、君は恋人に何か言われなかったかね?若くなったね、とか。」
「いいえ、恋人はいませんし、付き合っている人もいませんから。」
パリノの目に希望の光が滲み出ると、
「おお、そうかね。では私の第三夫人になるかい?」
「それは今少し、考えさせてください。火星で生きていくかどうか、もう少し考えたいんです。」
「ふうむ、いいだろう。君は、いつまでも二十一歳で、いられるよ。」
「え?え?え?どういう事ですか、それは。」
「又、二十六になったら、若返るマンゴーを食べれば、いい。」
「それなら二十五歳になったら食べると、二十歳に?」
「いや、それは無理だろう。最初に若返った年齢までしか戻れないみたいだ。火星での人体の治験で分かっている。だから君は二十一歳までしか戻れない。それでも、いつまでも二十一歳に戻りつつづけられるかと言うと、それは無理なのも火星の治験で分かっている。とはいえ、何回かは戻れるからね。」

 時・流太郎は、博多湾に面した少し高い山、愛宕山から浮かぶ島、愛高島を一人で眺めると、
(すごいなあ、あれは。大きな島が海の上に浮いているようだ。)と思う。ジャンパーのポケットから精度のいい双眼鏡を取り出すと、目に当てて、愛高島を見る。
なにか販売所のような所があって、おや?康美が、いるではないか!!何で、あんなところにいるんだろう。それに若返ったような康美ではあるみたいで。二十一歳ぐらいに見えるぞ。おれが教えていた専門学校を卒業して、すぐの頃の康美に似ている。それなら妹なのだろうか、康美の。
康美には双子の妹、貴美がいたが。その貴美の行方が分からなくなっている。もしかしたら、あそこにいるのは貴美?なのだろうか。それに彼女の隣には北欧の白人男性らしき人もいる。彼は何者、だろう。
愛宕神社の境内の北側から双眼鏡で愛高島を眺める流太郎の両肩に鳩が二羽、飛び乗ってきて一緒の方向を鳩たちも眺めている。

 愛高島のパリノに携帯電話が鳴る。店先にいたパリノは店の奥に引っ込むと、
「もしもし、どうしたんだ。」
「ダレダカ、ワカリマセンガ、ソウガンキョウデ、ソコヲミテイル青年が、います。」
「ああ、人工ロボット、カンシー君、お勤め、ご苦労さん。そのロボット風の話し方も、やめたらどうだ、もう。」
「分かりました。でも、プログラムされたワタシです。最初の喋り方は、この方が、いいのかも、と。」
カンシーはパリノが愛高島の近くに停止させているUFOに乗せているロボットだ。そのUFOは人間の目やレーダーにすら!映らない透明な保護光線で円盤の船体を包んでいる。
パリノの身辺警護をカンシーは受け持っている。
パリノは気になって、
「話し方は君に任せよう、カンシー君。双眼鏡で島を見ている人々は多くいるだろう。私に危害を加える地球人は、いない筈だが。」
「ソウデハ、アリマセンガ、パリノさん、あなたより城川康美さんに、その青年は双眼鏡の焦点を当てているみたいデス。」
「ふうむ、そうか。でも、いいじゃないか。康美は美人だし、双眼鏡で見ていて美人が見えたら、そう、眼鏡をかけても見たい時もあるさ。」
「ソウデスネ。で、ワタシは、その青年に向けて探査光線を発しました。帰って来た光線波を分析装置の画面で見ると、
『元、恋人』と、なっています。」
「康美の元・恋人だって?それは、ありうるだろう。何人も、いるかもしれない。ご苦労さん、それだけかね?」
「ソソレダケデス、閣下。」
「閣下は、言わなくてもいい。」
「ハイ、ワカリマシタ。サー、パリノ。」
「サーも、どうでもいいけどサー。では、引き続き頼むよ。」
「リョウカイ、リョウカイ。日本の領海内に於いて監視を続けます。」
携帯電話は通話を停止した。パリノは康美の元、恋人を知りたいとも思ったけど、どうでも、いい気はする。何せ、康美は今、つきあっている彼氏は、いないと云ったのだ。おれの第三夫人にする日も近いだろう。二十一歳の彼女の肉体、横から見ていても大きな彼女の乳房は服の下で揺れていた。ああ、あれこそ、おいしそうなマンゴープリンだ、とパリノは思うと店先の康美の横に歩いて行った。

 双眼鏡で見ていた流太郎は、康美の横に北欧の白人らしき男性が立ったので、康美が見えなくなる。
(ちぇっ、ああ、そうだ。観光ヘリで愛高島に行けば、いいんだ。まだ店舗施設も少ないから、すぐに康美は見つけられる。というか、あれは康美ではないかも知れない、というより若返りでもしないと、もう二十六のはずだから。)
 携帯電話で「愛高島 観光ヘリ」と文字を打ち、検索して電話番号が出たので、そこへ指を置いて通話する。若い女が出て応答した。
「はい、愛高島観光ヘリです。」
「来週の日曜日、予約が取れますか?一人なんですけど。」
「ええ、午後からでしたら、大丈夫です。お名前と御住所、電話番号をお願いします。」
流太郎は、そのオペレーターに個人情報を伝えて、
「福岡空港から飛行機でも愛高島に行けるんでしょう?」
と訊いてみた。
「ええ、来月から開通予定です。観光ヘリの方が、いくらか安くて、お得ですよ。」
と女性オペレーターは答えてくれた。
流太郎が今いる愛宕神社境内は小さな山の頂上で、そこから東北の方を見ると博多湾の上に巨大な浮かぶ島の愛高島が見える。世界第一の奇妙な景色としてギネスにも登録認定されたし、日本観光の一番の名所になった。それだけに観光ヘリは愛高島へ飛ぶ回数を増やし、一機だけでなく五機は常に飛んでいる。日本に観光に来た外国人は必ず、愛高島を訪れる。流太郎は地元の人間なのに、まだ愛高島には昇っていない。観光客で、いっぱい、というニュースをネットで見ると、少し人出が少なくなって行こう、と流太郎は思っていたのだ。
 コンピューターグラフィックスのような眺めの浮かぶ愛高島だが、海からの潮風を頬に流太郎は感じると、あれは現実だ、と我に返る。
愛高島 画像、で検索すると島の外側は松林になっている。一番外側はコンクリートの壁が三メートルほどの高さで、愛高島を囲んでいるようだ。画像を見て三メートルと分かるわけもないが、紹介しているブログを読むと愛高島の最も外側の壁の高さについて説明してあった。
愛高島にある大きな山は、愛高山だそうだ。滝も流れているらしい。そんな島が博多湾の上に浮かんで静止している。
 ともあれ、流太郎は来週の日曜日に愛高島へ行くヘリコプターを携帯電話で予約した。
 先週の日曜日に発売された*若返るマンゴー*も、たちまち評判となった。愛高島でのみでの販売なので、康美のいるマンゴー販売所には立ち並ぶ人たちで、三時間待ちもある。ただ、*若返るマンゴー*は高価なため、最初の爆発的な売れ行きは幾分、おさまっていた。
もちろん、その他の美味なマンゴーも販売されている。♪地球には、ない美味しさ♪まるで火星のマンゴーみたい、というキャッチフレーズで売り出されているが、それは、その言葉通りの事実で、火星から直輸入されている。でも、本当だと思う人は誰も、いなかった。
そもそも愛高島に行くヘリに乗るだけで、かなりの出費なのだ。流太郎は持っているビットコインの一部を売って、愛高島へ向かうヘリに乗っている。
博多湾に浮かぶ島、そこにヘリでは、すぐに到着した。島の中央近くに着陸すると、地平線が見える訳もなく、かなり遠くは松林が小さく見えた。
それで海抜五百メートルという感覚は流太郎には、掴めそうにない。空港も建設中らしいが、小型の飛行機の離発着のみに限られるような小さなものらしい。
この島にしたって積載重量は無限ではないのだ。それでパリノ氏の国で愛高島の反重力による浮揚を調節、維持している。
 福岡市では、この愛高島の正体をパリノからの申し出で理解していて、浮かぶ島に着陸するヘリの重量、人の数などを毎日、パリノに報告する。火星で作られた人口島である事は世間に公表しない、日本政府や福岡県にも公表しない事をパリノ氏に厳密に約束させられた。もし、その約束を破った場合、パリノ氏は福岡市役所の市長室で福岡市長と助役に、
「愛高島を福岡市役所の上に移動させた上で、反重力をゼロにして落下させる。」
と宣言したのだ。震え上がった福岡市長と助役だった。市長は、
「どうか、それだけは、しないでください。福岡市役所は天神という福岡市の一番の繁華街の東南にあるんですよ。我々だけでなく多くの人が・・・。」
「死ぬだろう。そのためにも愛高島が火星で作られ、運ばれてきた事を秘密にするんだ。」
市長と助役は姿勢を同時に正すと、口を合わせたように、
「はい、パリノ様。」
と同時に服従の意を表明した。

 流太郎はヘリから降りて、そこはヘリポートみたいに小さい場所だが、そこから見える市場のような場所に歩いて行った。島の直径は十キロメートルらしい。北の方には百メートルの高さの山が見えた。ヘリポート周辺にはビルが立ち並び、車道と歩道が同じ幅で続いている。車は観光タクシーらしいものが時々、走る程度で、歩道には多くの人達が歩いていた。
世界中から観光や若返るマンゴーを買う目的で訪れた人々。その多くは富裕層らしい、と外見でも分かる。
世界各国の航空会社は愛高島に空港を建設して欲しい、と要請しているが福岡市としては、
「只今の所、旅客機は受け入れておりません。」
と断る一方通行だった。
 流太郎は火星から帰る時にメレニから貰った携帯電話で、それは火星にいるメレニに通じるというもの!しかもメレニが通話に出れるか、出れないかを示す表示まである、それをポケットから取り出して見ると、メレニは通話に出れるようだ。ホットラインを使ってみよう。ルルルルルル、メレニが出た。
「はい、おや、流太郎、お久しぶりね。」
「福岡市の海の上に浮かぶ島が出来ているんですが、こんな不思議なものを見るのは初めてです。メレニさん、何か御存じでは、ありませんか?こんな現象を。」
「それねー、我が国で関わっている国家的プロジェクトだそうよ。地球へ話を持ち込んだのはパリノっていう実業家ですけど、いくら火星で金持ちと云っても、あの大きさの島を浮かばせるには、それなりのお金が必要だわ。国の予算で作られています。パリノは使い走りのようなものね。」
流太郎は(ああ、そうだったのか、不無(ふむ)。)と大納得した。
「なるほど、よく分かりました。メレニさんも見物に来ませんか?愛高島、という愛称でよばれていますよ、この浮かぶ島は。」
「そうね、いつか行くでしょうけど。火星にも浮かぶ島は、あるの。スウィフトのガリバー旅行記に飛行島が出てくるけど、あれは火星にある浮かぶ島の事よ。なお馬の顔をした火星人も昔いたし、巨人も小人もいたの。それをスウィフトは体験しただけ。彼の想像ではないのよ。」
「スウィフト・・・ガリバー・・ああ、あの子供向けにもある本ですね。」
「そうです。では、又ね。」
忙しいらしいメレニは通話を切った。流太郎は物産展が開かれているような市場らしき場所へ足を運び始める。もしかしたら、あそこに康美がいるかもしれない。
 行列が立ち並ぶ店先に顔が見えるのは、確かに!康美だ。その隣にも若い女性が立っているが、彼女は*若返るマンゴー*は販売していないらしい。高価な若返るマンゴーは康美が売っている。噂に聞く、その高額なものは流太郎が買えるものでは、なかった。
康美と顔を合わせるために百万円ものマンゴーを買うなんて。なんか方法は、ないのだろうか。なさそうだ。
康美は遠くにいる流太郎に気づいていない。気づいても康美にとって流太郎は過去の人物なのだ。もはや康美はネット関連会社の仕事ではなく、マンゴーの販売で巨万の富を得ていると流太郎は聞いた。
自分とは違った人生を歩いているようだ。それが分かっただけでも、いいではないか、と流太郎は思い、せっかく来た愛高島、観光をしていこうと歩き始める。観光を敢行するのだ。

 歩道を歩いていると、やがて橋が見え、大きな川が流れていた。空に浮かぶ島に流れている川。地上の川は海へ、やがて流れていく。この川は、何処に?その橋のところに若い観光ガイドのような女性が、紺色の制服で立っている。流太郎は聞いてみずには、いられない。
「こんにちわ。この川は何処に流れ着くんでしょう。」
「こんにちわ、観光者さん!この川は島の外縁に流れて、そこから霧のように博多湾に落ちていきます。」
なるほど、そうだったのか、と流太郎は納得する。観光ガイドは両眼の大きな黒い瞳で、二重瞼、頬はふっくらとして、背は女性にしては高身長で、制服の上からでも胸と腰の張りは隠せない。しかもミニスカートで、強い風が吹くと彼女はスカートの端を抑えなければならなかった。流太郎が次の質問をする前にも突風が彼女のスカートを捉えたので、彼女が両手で抑える前に捲れ上がり、それで黄色い彼女のショーツが半分ほど流太郎の視線に入った。それはショーツの下半分であったので、女性器に食い込んだ形も見えたのだ。
流太郎は唾を飲み込むと、
「スカートを気にしないといけないなんて、大変ですね。」
と話すと、彼女は、
「でもミニスカートは制服なので、長いスカートは履けないんです。」

2098年のキスl無料体験版

2098年のキス
 2013年の現在、首都・東京などでは特に気軽な男女のキスが一目も憚らずに行われる事が少なからずあるらしい。これは今からもう少し前から見られる現象で、欧米の影響だといえるのだろう。
それと並行するように日本では、少子化が進んでいった。
2098年の現在、日本でそのような行為、すなわち、人前でキスをする事は公然わいせつ罪として逮捕されるようになった。その理由は、おいおい述べていく事とする。
他の現象としては、映画やテレビドラマなどは見る人も極めて稀となっているのだが、キスシーンはアダルトなものとして取り扱われ、テレビからはキスシーンが姿を消すなどしている。
ここまで取り締まられるようになったなどは、2013年に生きているあなたがたには時代の逆行のように思われるに違いない。
さてさて、そういう時代となっているから2098年現在、女性は外出時にはマスク着用が一般となっている。日本政府としても、マスク着用を義務付けようかという検討もしたが、中東の女性とは違う伝統のためにそこまではやらない方がいい、ということになり、法的に規制はされない。
それでも、大抵の女性は外出時、のみならず勤務時間帯もマスクを取らない。
ある平凡なサラリーマン家庭を見てみよう。女性は、その辺を歩いているような、よくみかけて顔も覚えられないようなありきたりの三十代の主婦、凡子は帰宅した夫、沙羅男(さらお)にマスクをしたまま、
「会社の方は、どうなの?」
と聞く。
「ああ、なかなか出世できそうもないよ。」
「じゃあ、わたし、まだパートに出た方がいいのね。」
「うん、すまない。でも、キスぐらい、おまえ・・。」
凡子は目で抵抗して、
「簡単に、させてあげられるもんですか。2000年初期の頃とは、違うんだから。」
沙羅男は、ふーっ、とため息をついた。それから独り言のように、
「あーあ。おれも2013年頃に生まれていればなー。そうしたら、もっと簡単にキスもできたし。」
「そんな、いやらしい事、夫婦だからって気楽に話さないでくださいな。その頃のキス映像は、すべて成人指定のアダルトになってるでしょ。今は。」
「そうだけどね。昔の人達は、気楽だね。」
「ずいぶんと昔だわ。公務員も勤めていれば、給料が上がったそうじゃない。」
「そうだったらしいね。役人天国だったんだろうな。でも、今はそれも違うね。おれの同級生も地方公務員になったけど、リストラされてね。」
「大変ねー。」
「風俗産業に入って、今は安定した生活を送っている。」
凡子は眼をきらめかせると、
「そうだ、あなた。風俗関係の仕事に転職なさいよ。自動車の会社なんているから、だめなのよ。何十社もあるでしょう、車の会社。」

熟女の近未来の性生活 無料体験版

近未来の不動産会社OL

 美山響子(よしやま・きょうこ)は、三十歳、不動産会社勤務、独身、身長百五十八センチ、88>59>89のサイズで、通勤はフェラーリで通勤している。
満員電車では必ず、痴漢された。美山響子は男性の好みは限定されていたので、多くの男に触られるなど気分のいいものではない。もちろん、大抵の女性なら痴漢は気分が悪いものだが。それで、二千万円クラスの黒のフェラーリを現金で購入した。
インターネット検索で、フェラーリの販売店を探し出したのだ。フェラーリの公式ホームページから探せる。響子は福岡市なので、福岡の販売店を探すと、一つしかなかった。
2013年も一つだったが、2033年の今もフェラーリの販売店は福岡市にしかない。なにせ、トヨタがレクサスなどの高級車の販売に力を入れたため、高級外車は昔ほど売れなくなっていた。

響子は帰宅すると高級マンションの最上階で、宅配ピザを注文する。
「春吉の美山です。」
「毎度ありがとうございます。」
名乗った後に、間を置くのはピザの店の人間がパソコンから美山の情報を呼び出すためで、これはもう随分昔から行われている。
Sサイズのピザを二枚、注文した響子はフカフカのソファに座った。それから向こうの部屋にいる彼の体を思い出す。彼は料理、洗濯なんてやってはくれないばかりか、自分で歩行するのもままならない体だ。
それでも一昔前の彼のタイプの・・・
ピンポーンと、何十年と変化のないチャイムが鳴った。携帯電話の着信音なんて様々なものがあるのに、ドアのチャイムは何処も同じ、およそ建築関係の人間は発展性がないのだ。それが証拠とはいえるかどうか、日本の大手建設会社の起源は江戸時代の頃で、保守一点張りといえるのかもしれない。
玄関ドアを開けると、男子大学生アルバイトらしい青年が顔を出した。背も高く百八十センチはあり、フットボールでもやっていそうだ。響子は(ピザよりも、この青年の方がおいしそうだわ。)と思ったが、学生では面倒な事も多い。
「お待たせしました、ピザビッグです。」
ズボンと上着が繋がっている、いわゆるツナギの白い制服を着た大学生は
ピザビッグ!おいしさ二万倍。
と文字が印刷された白い箱を響子に手渡した。受け取って玄関脇の棚のところに置くと響子は、代金を払った。その宅配員の視線を胸に感じながら響子は、その男の股間を見ると白い制服に大きく張り出した格好になっている。(勃起しているのかしら)
「丁度、いただきました。ありがとうございます。」
深々と頭を下げた青年の股間を響子は注視していたが、ドアが閉まるまで張り出したものは、引っ込まなかった。

ピザビッグはSサイズも他の宅配ピザより、大きかった。響子の好きなメニューの一つがウインナーピザで、長さ二十センチのウインナーを先に手にとって、男性のペニスを頬張るように口に入れる。
このウインナーピザの注文は独身女性からが最も多かったので、ピザビッグの経営者は、含み笑いをしながら、
「裏メニューを開発しよう。簡単だ。ウインナーを男性器の形にするんだ。それをバイブ版、という形でメニューに載せる。メニューには、未成年のお客様は、このバイブ版は御注文できません、と但し書きは入れるようにする。さっそく、取り掛かってくれ。」
という発案に、開発スタッフが取り組み、できたものはバイブというより食べられるだけに松茸という感じの黒い大きなウインナーだった。
今、響子が口に入れたのは、この裏メニューのバイブ版だった。
(まるで、男の大きなアレみたい・・・。)
響子の舌は、その男性器と同じ形に作られた、というより勃起時の男性器と同じに作られたウインナーの亀頭の部分を舐め回していた。亀頭のカリも舐め回していく。
TANNERの第五段階、の男性器をモデルにしている。すなわち、最終的に成熟した男の性器である。
響子は上着を脱ぎ、シャツも脱いでブラジャーを外すと、TANNERの第五段階である自分の乳房を揉みながら、ウインナーをまるで男性の勃起したペニスにするように舌を這わせていった。
広い食卓に一人で座って、響子はウインナーにかぶりつく、のではなく、しゃぶりついている。
響子の白い大きな乳房はTANNERの第五段階のため、乳輪は後退して見えない。
世間的に見られるAVなどでの乳輪の大きな女性は、TANNERの第四段階であり、完全成熟とはなっていないのである。
空腹は、響子の想像を打ち破った。カリカリとウインナーは、響子の口の中で噛み裂かれる。胃袋から伝達される感覚が、彼女を現実に戻したのだ。
(彼は、寝室にいたわね。ダブルベッドで寝てるけど。わたしがピザのウインナーで、こんな事をしているのは知らないでしょう。)
そもそも、その彼との性生活に不満があるから、ウインナーもビッグサイズのものを求めるようになる。でも、それは彼のモノのサイズが小さいからではない。
ウインナーを食べ終わると、ベッドに寝ている彼のビッグなモノを想像して響子は笑顔を浮かべた。

ピザが入っていた紙の容器をゴミ箱に捨てると、響子は寝室に向った。ドアを開けると、ダブルベッドの片隅で全裸の彼が寝そべっている。響子は彼の股間に真っ先に、眼をやる。ビッグ!ただ、それはまだ固くなっていない。
その彼は、同じ不動産会社の同僚だった。年齢も同じで、三年前に結婚した。半年ほどは薔薇色の結婚生活だった。何が楽しいといって、仕事から帰って夕食を食べ、そのあとにすぐするセックス以外にあるだろうか。彼は大学時代、ラグビーをしていたのでタフだった。
響子を手早く全裸にしてくれて、先に全裸になっていた彼は、すでに怒髪天を衝くという言葉を変えて、怒棒天を向くという趣の姿態だ。
お互い立ったままの彼らは、響子が尻を向けて彼に寄り添う。彼は高く突き出した彼女の尻の間に見える大きな割れ目に、太く長いイチモツを突き入れると、響子の両脚を膝の後ろから両手で抱えて、空中に浮かせた。
駅弁体位の女性が、逆を向いた姿勢になる。駅弁体位の場合、女は男の肩に掴まったりするが、響子の今の体位は背中が彼の胸に密着して両手は空いている。
彼が響子の体を高く持ち上げるようにして、おろすという動作は騎上位を空中で行っている気になり、
「あっ、あっ、あっ。」
という悶え声を響子は止められなかった。空中に座ったまま、彼の雄大なペニ棒が出入りしている。それが、新婚生活で響子が最も好きな時間だった。
響子のマンコは締め付けが強く、セックスを終わった後、彼のペニスを観察するとその皮膚が締め付けられて赤くなっていた。
それ位の締め付けだから、彼も五分と持たないことが多かった。
不動産会社も多種あるのだが、響子の勤めているところは主に賃貸物件の仲介だ。福岡市の中心に近いところにあるので、家賃の高い部屋が多く、したがって仲介を頼みに来る人達も少ない。
平日の昼間など、午前中もだが、客は一人も来ないことが多い。高い家賃を払ってまで福岡市の中心に引っ越したい人達は、東は神戸まで見当たらない巨大商業地の天神でビジネスとか店を考えている人達なのだ。
響子は一人で店にいる事も、しばしばだったので、逆駅弁の夫とのセックスを思いながら指はスカートの中に入れて、パンティの上からマンスジを強くなぞって楽しむ事もある。
不動産の仲介店に行けば、どこでも座っている女性の下半身は見えないようになっている。だから、万一、客が入ってきても響子は指を素早くパンティから離せばよい。
大手建設会社の受付も暇なことが多いし、人も通らない時間が多いと受付の女性はオナニーに耽る事もあるらしいが、響子は店のドアが開く瞬間に手を離して来客用笑顔を向けるので、気づかれた事はない。
響子の夫は営業に回されていたので、部屋も違い、顔を会社で合わせる事もなかった。
それでも、二人が付き合っている事は社内では知れ渡っていた。それは狭い世間というところだろう。響子と彼が、会社の休日にラブホテルに入ったのを見た社員がいたらしい。
休みの少ない不動産会社の休日に、二人はホテルで朝から晩までセックスした。
昼の食事も、そこそこのホテルに泊まるようになってからは、部屋に持って来てもらうようにした。その昼食を受け取る時だけ、彼が衣服を身につけた。大抵は若いホテルマンが、台車で昼食の上に布をかけて持ってきた。その時には、一発は響子の尻の中に射精していたし、入り口から見えないベッドで響子は全裸で寝そべっていた。
不動産会社の休日だから、水曜日、響子の会社も水曜日が休みだ。昼食を食べ終わった二人は、再び全裸で抱き合う。窓のカーテンも締め切っているけど、その外の下の空間では忙しそうに白いカッターシャツを着たサラリーマンが、歩き回っていた。
正常位で挿入しようとした彼に響子は、
「昨日のお客さん、案内した部屋の中で、さりげなくだけど、わたしのお尻をむにゅーと掴んだのよ。」
と告白する。彼の勃起したイチモツは、響子の膣口の前で停止した。
「ええーっ、それだけか。」
「うん、それだけ。」
「よーし。おれがもっと、おまえの尻を愛してやる。」
彼は響子を、うつ伏せにした。大きな二つの乳房が、プルンと揺れる。尻を高く上げた響子の股間には、大きな淫裂の線が彼の眼にイヤラシく映った。潤んだその長い割れ目に、彼は長大なモノを根元まで突き入れた。響子は尻を震わせて、顔を横向けにすると、
「あああ、すっごく、いい。マンコ、気持ちいい。こすって!」
と淫らに悶えた。頬が紅色に染まっていた。不動産会社で働いている時の顔とは、別人のようだ。恐らく、AVに出ても分からないのではないかと、思われる。
この頃のAVはマンネリ化して売り上げも落ちてきていたのだが、テレビに出た、もしくは出ていた芸能人を出演させるという企画で、どうにか持ちこたえていた。狙い目は昔、大人数で歌っていたあの数十人単位のメンバーをどれか一人でもAVに出せば、昔のファンが必ず買うという現象がある。メンバーの二人を同時に出演させて、男優四人と絡ませる。そういう企画ものは、四十万枚もの大ヒットとなった。AVは昔からレンタルされるのが普通で、十万枚も売れれば大ヒットだった。
昔のファンには、たまらないシリーズだった。握手をしたファンは、一人で二枚は買った人もいる。
傑作なのが、この元アイドルグループのシリーズものを三十枚買うと、誰か好きなメンバーとホテルで、しかも高級ホテルで一泊できるというものだった。そのシリーズのDVDに付いている応募券を集めて郵送すれば、東京のホテルまでの往復の旅費まで旅行券がついて好きなアイドルとの夜が過ごせた。大抵は三十過ぎになっていたメンバーが多いけど、その高級ホテルの従業員の話では、そのアイドルと泊まっている客の部屋では一晩中、灯りがついていて、その元アイドルの悶え狂う下品な悶え声が四、五時間続いて聞こえた、とか、朝、その元アイドルが蟹股でヨタヨタとホテルの通路を歩く姿が見られるという。
やはり一晩中、大股開きにさせられて、熱くなったファンのモノを受け入れていると股ずれが起きる事もあるらしい。
元メンバーの中には、結婚しているものもいたけど、旦那公認でそのAVに出ている場合もある。その場合も、応募できるのでシリーズ累計二百万枚の売り上げを記録しつつあるAVのミリオンダラー箱である。
オンデマンドという言葉があるけれども、これ以上に客の要求に応えたシリーズは過去には、なかったろう。
これらのシリーズものの売り上げは、低迷しているCD業界などには垂涎の的ではあったが、彼女等の悶え声だけを収録したCDも大した売り上げには、ならなかった。
彼女達が出るAVをAVB24と称していた。アダルトビデオ部隊24の略だった。

結婚が決まるまで部屋に入れてくれなかった響子の彼、だったが、結婚が決まって、
「おれも包み隠さず、部屋を見せる。」
と男らしく公言するように話すと、薬院という福岡市の中心に近い場所の二十階立ての十五階に住む、彼の部屋に響子は連れて行ってもらった。
神戸の人口を抜いて、名古屋に迫ろうという福岡市でも高層マンションの建築はボツボツだ。それは郊外にまだ、土地があるからである。神戸の人口より少ない頃も、高層マンションを多く作るという発想は福岡市内では、あまりなかった。東京のように完売できるかという心配もあったと思われるが、新築のマンションはすぐに満室になったり、分譲マンションは建築中でも完売御礼が出るのが福岡市である。

sf小説・体験版・未来の出来事4

 福岡市の東区にある人工島!、アイランドシティに野球場ほどの広さを持つゲームセンターが、ある。平日の午前中は人は少ないかというと、そうでもなく年金生活者の老人が、屯していた。このゲームセンターには未成年者立ち入り禁止のコーナーがある。
福岡市にプロ野球球団が無くなったのも、ただ野球を見るよりも、その成人向けゲームに人気が出たため、とも言われている。そこに、貴美はバリノを連れて行った。入り口でバリノの前に立った貴美は、
「クレジットカードで成人か、どうかは認証判断されます。バリノさんはクレジットカードを、お持ちですか。」
と聞く。バリノはズボンのポケットに手を入れ、
「ああ、持っているよ。世界共通のをね。ビットコインじゃ、ダメなのかね。」
「そう、ビットコインカードでも大丈夫ですわ。説明不足で、御免なさい。ビットコインは世界共通の通貨ですものね。」
仮想通貨は日本でも、相当数の種類が出ていたが、それらの大半はビットコインと連動している。
貴美とバリノはビットコインカードで、そのゲームセンターの成人向け入り口を通過した。
二人の目に留まったのは、ダッチワイフのような女性の姿だった。とても人形とは思えない。着ているものは下着だけ。目もダッチワイフや人形のそれとは違う。常に動いているのだ。瞬きもしている。肌の色は白く、両手はダラリと下がっている。透けた下着で乳首と陰毛は浮き出ている。これで入場料を払った甲斐がある、というものだ。身長は百六十センチほどの美女のダッチワイフ、又、ラブドールとも呼ばれるものが進化している。立札には、
この奥には部屋があります。そこに、わたしを連れて行って下さるとドアを閉めて、貴方の好きにしてください。その前に十万円はカード払いで、どうぞ。
と書いてあるではないか。バリノは日本語を読むことも出来るので、
「これは、すごいな。貴美さん、貴女も一緒においで。」
と貴美を誘う。
「ええ、行きます。バリノさん、何処まで、この人形と、されるのか、見たいですわ。」
と貴美は答えた。
バリノがビットコインカードで十万円を支払うと、なんと、そのラブドールは先に立って歩き、部屋のドアを開けたのだ!驚きつつ中に入る二人の後から、ラブドールは入ると部屋のドアを閉め、ウインクした。
その部屋はダブルベッドのあるラブホテル風の部屋だった。ツインの部屋の広さ。窓には赤いカーテンが、かかっている。ラブドールは臀部を左右に振りつつ歩いてくると、バリノの前で立ち止まる。バリノは、
「君はレズは好みでは、ないかね?」
と、そのラブドールに話した。すると、
「いえ、わたしは男の人を好きになるように作られました。女性には興味は、アアリマセン。」
という自動音声の女性のような声でラブドールは答えると、次に、
「わたし、キミ、といいます。」
と話したから貴美は、ビックリした。自分の名前も貴美だからだ。バリノは、
「ほう、貴美さん、同じ名前だね。でも、よく答えてくれるなあ、このラブドール。」
と感想を漏らすと、ラブドール・キミは、
「だってワタシ、大学まで出てますもの。」
と話したではないか!バリノは、
「何処の大学かね。」
「福岡で作られたから、九州大学に通いましたの。福岡市の西の方にあります。文学部でしたのよ。」
と、スラスラっと流れる水のように答えた。
ラブドールが大学に行く時代なのだ。只の夜の愛玩人形と思ってはいけない。でも・・・?バリノは、
「君は歩けるのかね?」と簡易な質問をする。微笑んだラブドール・キミは、
「フルマラソン、できます。福岡市で大昔から行われている福岡市民マラソンにも、毎年出ますから。」
「順位は、どれくらいかね。」
「真ん中より上くらいです。そんなに早くは、ありません。」
「そんな時は、燃料補給をする人が、いるんだろう?」
「いえ、朝、出る前に、わたしのオーナーが充電してくれます。電気自動車と同じ原理なんです。もしもの時は、道路沿いの電気自動車用スタンドに寄って、給電します。セルフなんです、大抵、利用するのは。」
すごいスタミナだ。むしろ、燃費というより電費のいいラブドールなのだろう。バリノは、これを作った日本の技師に感動して、
「火星にはラブドールは、ないんだよ。必要ないからね。」
と貴美に話す。貴美は、
「そうなんですの。ありそうで、ないのですね。火星には。女性が沢山いるから、とか。」
「そう、いう事かな。ラブドールは地球では女性に不足する場合のためにある。長期航海の船員とか、だけど火星では長旅は、ないといってもいいから。」
バリノはラブドール・キミの前に立つと、ブラジャーを外した。美形の、揺れ動く白い乳房が現れた。
貴美とバリノの目が、キミの桃のような胸部へ移動する。バリノは、それを揉んでみたかったが、貴美がいるので放擲した。キミはバリノの手が自分の乳房を掴まないので、
「あれ、私の胸、魅力ありませんか?」
と聞いてくる。驚くべき事は、キミの表情に悲しみの色が浮かんでいる事だ。つまり、このラブドールは表情筋を持っているかのように作られている。バリノは貴美に、
「驚いたよ。一体、この精巧な人形を誰が作っているのかね?輸入物なのか、貴美君。」
「これは黒沢のサイバーモーメントの子会社、『ラブドールメーカー』が作っています。そこは勿論、福岡市にありますわ。西区の森林地帯に、です。」
ラブドール・キミは返答しないバリノの前で、上半身を屈めると股間を覆う白いショーツを立ったまま、脱ぎ始めた。最も魅力的なのは彼女の表情よりも、その女性器が存在する部分、それを隠すかのような性毛の密生の分布状況、および縮れ具合、大陰唇の成熟したふくらみ、など二十歳の女性が持つものをキミは持っているのだ。
バリノは貴美が、いなければ勃起したかもしれない。貴美はバリノの反応を見ている。時々、バリノの股間に貴美は視線を走らせていた。だがズボンの中心は愛を叫ぼうとは、しない。それで貴美は(自制心が強いのかしら、それとも性的不能?)と思う。
バリノはキミに何もしようとは、しない。ただ、彼の視線はキミの股間を注視している。そして、
「見事なものだ。ラブドールは地球のものを色々と集めていたけど、これは最高級品だよ。顔の表情が動くものは、見た事がない。このラブドールは、小さなコンピューターを内部に持っている筈だ。私が反応しなかった場合も、それに対応するデータを打ち込まれている。今のショーツを脱ぐ行為もね。」
小さなスーパーコンピューターを、キミの頭部の内部に、入れてあるのかもしれない。
そのように説明するバリノを見て、貴美はバリノが自分の性欲を抑えようとしているのではないか、と思ったりもするが、
「ラブドールメーカーでも最高級品を、ここに納品しているのですわ。わたしは女性ですので、それほど興味が、ありませんけれども。」
受け答えする。そして大胆にも、
「バリノさん、ここで、このラブドールを抱かれては、いかがですか。」
と提案した。
「うん、いや、それほど性欲に飢えていないんだ。このラブドールの使用料は中洲のソープランド、よりも安いな。」
「まあ、そうなのですか。わたし、中洲のソープの相場は知りませんわ。それでなのですね、ここは平日の夜とか、休日には行列が出来ているって聞きましたけど。」
突然、それに、キミが答えたので、或る意味で気味が悪いわけだが、
「でも、わたくし、一日に五人までしか相手を勤めませんの。大陰唇の摩耗を防ぐためです。そのようにプログラムされています。機械は何でも、そうなのです。過度な負荷は故障に繋がります。バイクや自動車の制限速度も、そうです、ですので六人を相手にすると、わたくし、動作停止となり、ラブドール技師を呼んでもらわないと、いけなくなります。女性器と乳房の損傷を防ぐためです、一日、五人までの性交相手の人数制限は。二時間も、わたしの、おっぱいを吸い続けた人もいたわ。それで、わたしの乳首は立ちっぱなしでした。」
バリノは興味深そうに、
「一人につき二時間は相手をするのかね。」
と聞くと、ラブドール・キミは、
「そうです。だから十時間の性労働ですけど、わたしには処女膜は、ありませんでしたし、そう、最近、わたしを製作したラブドールメーカーは、処女膜付きのラブドールを開発中だとか。それで、その完成後の商売に於ける得失について検討中なんだそうです。それは人間の女性が処女膜を失う際に感じる苦痛、それが喜びに変ずるため、その現象を引き起こした相手の男性に対する心理的な従属意識を起こす、とはいえ、女性により、処女膜を捧げた男性に生涯の貞潔を誓う女性の圧倒的な減少が、かなり前の日本で起こっていた事なども研究課題となっています。要はヒーメン(処女膜)をラブドールに付帯させる事が、顧客サービスの向上になるか、という事らしいです。」
それを聞いてバリノは、
「なるほどね。昔、というより大昔の日本人女性が、大半、そうであったような処女性のラブドールなら、一人の顧客に従属してしまうという懼れだな。だが火星にはラブドールは、ないから、私には良く分からないな。君の体は十分に鑑賞した。それでは。貴美さん、行こうか。」
「はい、そうした方が、いいみたいですわ。」
二人はラブドールには見えない女性(!)を、そのままにして、部屋を出た。
火星人バリノとしても、ラブドールよりは目の横にいる城川貴美の方に興味がある。貴美も処女である気がする。さすれば、わが男根を貴美のヒーメンに貫通なさせしめば、彼女は我に従属せん、とは前時代的な発想であろうか。さは、さりながら、かなり昔の日本のAVですら処女喪失をAV男優と、という例はある。それはバリノも日本の歴史として火星の学校で、『日本AV史』の講座で受講した。
そうだっ!とバリノは考えつく。今まで日本のAVは火星に密輸という形が黙認されてきたが、関係各庁に連絡して許認可事業として始めよう、火星での日本のAV販売を始めるのだ。
だが餅は餅屋、AVはAV屋だ。それに火星には地球にはない、すごいものがある。それを輸出してみよう。それは、そのうち明らかにするが。
AV屋については、すぐに解決する。バリノの知り合いの若い医師は日本のAVを持ちうる限り、持っている。とはいえ、ほぼ、ほぼ、過去のものになってしまうのは致し方ない。貴美はバリノを見て、
「ぼんやりしていますわ、バリノさん。あそこの長椅子に腰かけると、無料で花火が見れますわ。」
「あっ?ああ、そうだね。ゲームセンター内に大きな池があるなあ。あの池の向こうに花火が見えるのか。」
二人は並んでソファのような長椅子に座って、疑似夜空を眺めた。バリノの思考は先ほどのAV好きの医師、ミタリーに戻っていく。
火星ではAVなどは作られていない。それは火星人男性が聖人君子だからではなく、火星人女性の数が多いのだ。それで一夫多妻を認めているが、それでも、そう何人でも妻には出来ない。そのような事情から火星では性産業は皆無に等しい。
そういう中で独身医師ミタリーは地球の医者と違って経済力もない。そのため、結婚もしてない、それが百五十年も続くとなると地球の、それも特に日本のAVに興味をエベレスト山のように持っても不思議な事では、なかろう。
そんな医師ミタリーをバリノは、自分の医院で働くように誘ったが、ミタリーは、
「独立開業医の方が自由だから。それに親の遺産で、あと百年は自分の食い扶持なんて持っていますよ。暇な時は日本のAVを見て右手を動かしていますし。」
とスッキリした顔で答えるのだった。ミタリーは美形の男性、日本の格言に「色男、金と力は、なかりけり」に該当するわけだが、火星には女性が多いため、プレイボーイでもある。それに飽き足りずに、余暇は日本のAVで、というわけだ。少々古いとはいえ、日本のアダルトビデオ、アダルト動画に該博な知見を所有する医師、ミタリーである。妹がミタリーにはいて、ミタリーナという。関西弁の「見たりーな。」とは発音が似ているとはいえ、英語と日本語の発音以上に相違はある。だから関西弁で「ミタリーナ」とミタリーの妹に云っても通じないであろう。
ミタリーナも独身の美女だ。西欧の美女を百倍位綺麗にすると、ミタリーナとなる、そういう形容で想像されたい。目の色は緑色、それは兄のミタリーも同じだ。
バリノはスクリーンに映る花火を見つつ、
(ミタリーにラブドール・キミの事を教えてやりたい。)と思うのだった。
 花火は立体的なものとはいえ、火星の映像技術に比べれば、つまらないもの、なのでバリノは、アレを日本に火星から輸入する事を考える。(ミタリーは妹も一度、使った事がある、と言ったな。それについてはミタリーに聞くことにしよう、帰星後に。)数分で火星に戻れるので帰星という表現も何かと思われるが。
 貴美に連れられて美少女ゲームの大型版など、あったがロリコン趣味のないバリノには興味が、なかった。それで、
「もう、いいから、出よう。」
と貴美にバリノは語った。
それでも時間というものは早く過ぎていた。外は冬空で雪が降りそうだ。バリノは空を見上げて、太陽の位置を見ると、
「貴美さん。昼食に行きなさい。私は、あの森林みたいな公園で待っているから。」
と自分の意思を伝える。貴美はバリノをチラリと見ると、
「寒くないですか、バリノさん。アイランドシティ地下街は暖房が強いですわ。それに食事・・・。」
「火星から携帯食を持ってきているよ。地球の食べ物は日本に限らず苦手だ。」
「栄養価が、あまりないからですねえ。」
「それは、そうだな、味覚の違いさ。火星の農作物も進んでいる、という事だ。地球では農業は何千年の昔から、あまり変わりがないだろう。それより、ひとまず君は食事へ行きなさい。」
「はい、一時には戻りますわ。」
 バリノは遠ざかる貴美の背中を見送ると、森林のような公園に入った。火星の樹木より生育の悪いものだ、とバリノは思う。火星では砂漠と森林と、はっきりと対比できる樹木の生息頒布なのだ。
バリノにとっては殺伐とした風景なので、木製ベンチに腰掛け、コートの中からタブレットパソコンのようなものを取り出し、操作する。画面にミタリーの顔が映る。ミタリーにもバリノの顔が見えるらしい。バリノは火星語で、もちろん火星語といっても複数の言語があるのは地球と同じだ。むしろ、地球の言語が火星と同じように複数ある、と言うべきかもしれない。周囲に人もいないので、
「やあ、ミタリー、寝るところじゃなかったのかい?」
イタリア人みたいなミタリーの顔が答える。
「まだまだ、これからだよ。さっきまで急患を執刀していたからね。これから遊ぶんだ。」
「それは、この場合、よかった。地球まで来ないか?」
「空飛ぶ円盤は所有していないんだ。まだまだ富裕層とは言えないからね。」
「私のを貸すよ。私の家へ来て、私の執事に連絡してくれ。執事には私から電話しておくから。」
「そう?それなら、行くよ。バリノさんの地球位置情報は、今もぼくの携帯に出ているよ。日本、かな、それも福岡市東区のアイランドシティの公園だろう?」
「そうだ。日本時間の午後一時までに来れるかい?」
「やってみるよ、行けそうだ。それでは。」
バリノは携帯を切ると、火星の自宅の執事に電話した。
「ああ、ラソー君か。今から私の後輩のミタリーという男が来るから、円盤のカギを渡してくれ。」
「かしこまりました、旦那様。それだけで、よろしいので?」
「それだけだよ。よろしく、な。」
「夜食前の仕事、でございます。速やかにミタリー様、御到着後に実行いたします。」
バリノは携帯通話を止め、ズボンのポケットに入れると、ゆったりとしたコートの中から携帯食を取り出すと、乾燥マンゴーと牛肉、豚肉、鶏肉を混ぜ合わせた乾パンらしきものを食べる。火星にも牛や豚は、いるのだ。ただ、地下で飼育されている為、決して地球からの探査船では見つけられない。火星の地表から大量の水が無くなる前に、火星人は家畜を地下に移動させておいた。それにより、地上で生活する者は地下の家畜の肉を購入する事になる。
もっとも野生の牛、鶏に近い鳥、その他の動物は火星の少ない水と緑のある地帯で生息している。
一時前、五分になる頃、貴美が小走りに公園に戻ってくると、
「バリノさん、お待たせしましたか?」
とベンチに座ったバリノに聞いた。
「いや、待ったほどではないね。」
その時、空から白色の円形UFOが貴美の後ろに降り立つ。バリノには見えたが、貴美は気づかない。それほど音もなく着陸したのだ。
バリノは、にやつくと、
「火星から、後輩が来たよ。後ろを見てごらん。」
と貴美に呼びかける。
振り返った貴美の目に反映されたのは、イタリア人みたいな顔の若い男性と、その背後の着地した空飛ぶ円盤だった。その男、ミタリーは貴美を見て右手を挙げると、
「はーい、初めまして。僕も火星人なんだ。バリノさんと親しいのかい?」
と流暢な日本語で話しかけて来た。貴美は、
「え、ええ、割とですけど親しくさせてもらっています。でも、それはビジネスでの、お付き合いですわ。」
「それなら僕も、そのビジネスの仲間入りをさせて欲しい、いいかい?」
「ええ、もちろんですわ。わたしが力になれれば。」
それにしても、ミタリーの円盤は、あのまま公園に待機させておくのだろうか。ミタリーは、
「あの円盤を空中で待機させておこう。地球人の不可視の光線領域に円盤を置けば、いいから。」
と貴美に分かるように説明すると、ズボンのポケットからリモコンを出してボタンを押す。すると円盤は垂直に上昇して、貴美の目には見えなくなった。2017年頃だって日本の上空には沢山の空飛ぶ円盤が飛行していたはずだ。地球人には見えない形で。
軽やかに動くミタリーを見てバリノは、
「地球の重力は火星の三倍なのに、元気がいいね。」
と感心するから、
「時々、地球に来てますよ。日本は初めてだけど。アメリカでなら、何人もの女と一晩で肉体関係を持てたけど。ん?日本語のモテるっていう言葉、肉体関係を持てる、という意味なのかな。女にモテるというけど。まあ、それより、日本は楽しみだね。日本語は話せるように家庭教師に来てもらったから。日本人のね。」
ある日本語教師の話
 私、東京で外国人相手に日本語教師をしていました。三十代、独身、当たり前ですか、大学の文学部を出ましたけど仕事がなくて。それで日本への留学生やら、外国からの商社マンなどに語学教室で雇われて、日本語を教えていました。給料は高くなく、サイバーセキュリティとかの仕事が花形の世の中、文学部出なんて、せいぜい学校の国語の教師がオチとされています。
マンションの屋上に出て、私は夜空の星を眺めながら、
「どこかに、いい仕事が、ありませんか、神様。」
と懇願するように願ったのです。すると、私の頭の中で、
(いい仕事あるよ、私が連れて行こう。)
と声がするではありませんか。
「えっ、どこです?貴方は神様ですか。」
と尋ねると、
「ここだよ、目の前に現れるから。」
と声がしたと同時に、私の目の前に小型のUFOが出現して、マンションの屋上に着陸しました。
中から現れたのはイタリア人みたいな男性で、
「火星で私の日本語の先生になってくれ、そうしたら、うまいものを食べさせてやるし、いい女も抱かせてやる。」
と励ますように話してくれます。信じられないし、夢かなと思っていると、
「私は神様ではないよ。火星にはね、人間の思考を拾い上げる機械がある。それでUFOの中から、マンションの屋上に一人でいる君を見た。そこでだ、その思考解読機の照準を君に合わせたら、君が(どこかに、いい仕事が、ありませんか、)と願っている事が分かったのさ。」
明快な答えです。それで、
「それなら、どうか、私を火星に連れて行ってください。日本語を教えます。」
と頼むと、
「よし、決まりだよ、円盤に乗ろう。」
と誘われ、火星に行きました。そこで豪華な食事を食べさせられ、いい女、といっても地球の日本人でした、と毎晩、夜の楽しみを満喫して、朝と昼、その火星人が仕事がない時に日本語を教えました。
何か月もかからず、その人は日本語を覚えてしまい、私が教える事は、なくなりました。国語の辞書も八割は暗記していました。
ですから私は、
「ミタリーさん。もう、日本語で貴方に教える事は、もうありません。」
と結論づけると、
「ありがとう。私も礼を言いたい。報酬はビットコインが、いいと思うので、そうしたいんだが。」
と優しく話します。
「ええ、ぜひ、そうしてください。ビットコインが一番、いいです。」
と私は答えました。
だってビットコインが世界の貨幣の時価総額の中で一番なのは、文学部出身の私でも知っていますから。
日本も動物園や植物園の入場料も、ビットコインで払えるようになっています。こんなの小学生でも知っている事で、私は、これを歴史的な文献として残すために書いています。
もう少ししたら税金もビットコインで払えるように、なるかもしれないのです。今、国会で審議中らしいですよ。日本銀行が株をすべて売り払い、ビットコインを買い始めたのも日本経済新聞の電子版に出ていました。アクセスランキングの一位、は日銀のビットコイン買い、だったんです。
何故、文学部を出た私が日経電子版を読んでいるかというと、ある商社に面接に行ったら、
「うちは文学部を出た人は採用しない方針だが、日経電子版を一年読んだ後で、もう一度、面接する。」
と、そこの社長さんに言われたからです。で、それから半年して、火星での家庭教師でしょう。ミタリーさんもビットコインは、相当持っているし、アルトコインも集めているらしいですね。
その会社で採用されたら、火星との貿易も可能になるんですがねー、ミタリーさんを通して。
今度の面接で社長さんに話してみようかな。気が狂っている、と普通なら思われるでしょう。なので、どうしようか迷っています。
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貴美はミタリーに、
「その家庭教師の人、今は地球にいるんでしょう?」
と聞く。
「ああ、いるだろう。月には、いないだろうね。東京に帰しておいた。その間の電気料金、水道料金、その他の家賃とかも、火星から納付しておいたから。彼の授業料の中から天引きしてね。それもビットコインだった。彼が授業を始める前に、『生活の心配が、あります。公共料金は銀行引き落としなんです。』と言うから、
「それは心配しなくて、いいよ。こちらで、何とかする。」
と答えた。私一人では難しくても、地球との金融取引、銀行取引をしている友人は多くいるから、私にはね。」
とのミタリーの答えに貴美は、
「すごいですわ。何か月も家賃滞納なら強制退去ですもの。」
と称賛した。
バリノは貴美に、
「ミタリー君は独身だから、独身者が好むところを案内してくれないかね。」
と話す。貴美は思案顔を三秒したが、
「それでは行きましょう。タクシー!」
彼らは公園を出て車道に面した歩道にいたので、貴美が右手を挙げると桃色のタクシーが三人の横に停まったのだ。

 貴美がタクシーに指示して火星人を連れて行ったのは、福岡市博多区中洲一丁目。大昔からソープランドの密集している場所だった。バリノは、
「地球用シューズを履いてきているよな、ミタリー君。」
と足を自分で動かしながら、聞く。ミタリーも足踏みをして見せて、
「勿論ですよ。地球の重力は火星の三倍、でも、筋肉を鍛えるには、いいですから。」
それだから火星人は地球上に姿を現しにくいのかもしれない。逆に地球人が火星に行けば、地球の三分の一の重力なので、スキップしながら歩く事も簡単だ。バリノは歩きながら、
「それで地球は太陽系の刑務所的存在なのだよ。重い、というのは労役だからね。地球の女を抱けば、三倍の重さというところ。」
ミタリーは笑顔を夏の太陽みたいに浮かべた。そして、
「重力は左程の問題ではありませんよ。固体の質量は重力とは別のものです。我々の身長と体重は地球人とは変わりませんから。それに重力とは、そもそも天道説的地球人の頑迷固陋な妄念ですよ。鉄下駄でさえ地球人は履くと、そのうち慣れます。靴と鉄下駄の質量の違いは、どの位、あるか。それでも、重い、というのは、やはり天国とは正反対の概念にあるようですね。」
バリノは歩きつつ、
「私は地球上では女は抱きたくないなー。」
と話すが、彼らはソープランドの看板ばかり目にしている。背広を着た男性が入り口で待っている。或いは店の玄関を開けて待っているソープの、お店も昔からだが、違うのは五階建てのソープビルディングも、ちらほらと見受けられることだ。中洲は一丁目だけにソープランドがあり、他は飲み屋が占める事が多い。五丁目ともなるとワンルームマンションも見られ、会社のビルもある。しかし、ソープは中洲一丁目のみ、という暗黙の規制があるようなので、しかも、それは福岡市全体でソープは中洲一丁目だけが許可されている為か、上へと伸ばさないと、いけなくなったのだ。
それと併設される、お泊りソープもある。ホテルとソープランドを同時に機能させるという建築物。大変好評で福岡市の観光名所になっている。ミタリーは好色な目をギラッ、ギラさせて、
「ほほうー、こんなに女を抱ける場所があるなんて、知りませんでしたよ。夜のために、今、入るのは遠慮して。中洲って、ソープランドばかりなの?」
と歩きながら話すミタリーに、貴美は、
「大通りの信号を渡れば、中洲一丁目では、なくなりますわ。そしたらファッションヘルスの店以外は、酒場か食堂です。」
と答えるから、バリノは、
「私は中洲以外の別の場所に行きたい。何処かあるかい?」
貴美は車の流れを見つめつつ、
「観光タクシーが時々、通りますわ。それに乗れば福岡市の観光が出来ます。あっ、来ましたわ。タクシー!」
その観光タクシーは車の上に山笠の山車の小さなものを置物のように乗せて走っているので、すぐわかる。
バリノは、それに乗ると貴美たちの視点から遠ざかって行った。

 ミタリーは、しめた、と思う。貴美は中々の美女で胸も大きめ、冬服の上からでも見える胸部の曲線は、火星の男性の性的発動を促すような様々な変数となる曲線を展開するからだ。歩く彼女を横目で見ても、胸だけでなく、臀部の容積の魅惑的な事、および、その左右に揺れる女性の尻的なゆらぎの曲線の変数の変化にミタリーは、強い性的な痺れも感じる。おまけに、これは、と医師であるミタリーは思う。(処女のモノだ)と。
 貴美を誘おうか、とミタリーが思った時、貴美の携帯電話が鳴った。「はい、え?バリノさんは観光タクシーに・・・帰社?ええ、それでは、今すぐに。」
貴美はミタリーに向くと、
「ミタリーさん、さようなら。わたし会社に戻らなければ、なりませんのよ。」
貴美はタクシーを止めて、乗り込み、ミタリーの可視範囲から消失する。
一人になったミタリーは、さっきの中洲一丁目に戻る。一人で歩くミタリーは、すぐに声を掛けられ、とあるソープランドに入っていった。

 福岡市観光をタクシーで終えたバリノは、宿泊料の安い地下(!)ホテルに泊まった。それは福岡市中央区にあり、天神地下街から直結している。地上が建物で埋まっている天神地区の再開発として地下街を広げるという計画と共に、宿泊施設を建設しようという構想ができて、いくつかのビジネスホテルが出来ている。
その地下ホテルも観光タクシーの運転手からバリノは、
「お客さん、ヨーロッパからでしょう?」
と聞かれたので、
「ああ、そうだよ。(火星からとは、いえるものではない。と思いつつ)。」
「だったら安いホテルあるよ。天神地下街の南の方にね、地下ホテルだけど。朝起きた時、太陽が見えないだけさー。すぐ、ホテルを出れば、いい訳でしょ。」
と教えてもらった。
「それは、いいね。知らなかった、ありがとう。ホテル名は?」
「いくつか、あるから。南の果てまでいけば、ある。」
それで、天神地下街を歩いているバリノだ。二百メートルも歩いたら、両腕のない女神のブロンズ像が見えて、その後ろにホテルの玄関らしきものがある。ドアボーイらしき背広の男性が中からドアを開けてくれた。「ホテル・チカフクオカ」という表札が見える。
若いドアボーイはバリノをフロントへ導き、白の背広のフロントの男は、
「地下五階のツインは、お風呂が天然温泉です。そちらが、おすすめですよ。」
と揉み手をして笑顔で勧める。バリノは軽く頷くと、
「それに、してくれたまえよ、それが、いいね。」
カギを貰ったバリノはエレベーターで地下五階へ。部屋に入るとツインでも六畳の広さ、だからビジネスホテルらしい。部屋には、備え付けのノートパソコンがあった。起動してみると、ブラウザが出てくる。ネットタッチなる新しいブラウザらしい。操作は簡単で、最初に出てくるページが動画共有サイト、それでバリノは火星で検索してみると、色々出てきたが、
「やはり日本人は、いまだにUFOトンデモ論を信じているらしい。おめでたい民族だ。だから私も西洋人と思われて、ホテルに泊まる事ができるわけだがね。」
と一人呟く。
旧式の卓上電話機が呼び出し音を鳴らす。バリノは受話器を取ると、
「フロントです。お休みの所、すみません。お客様が見えられたようです。お部屋に向かっておられます。」
「分かった。どうも。」
と答えたバリノ。でも、訪ねてくる人など、いないはずだ。貴美もミタリーも、ここに自分がいる事など、知らないはずだからだ。誰にも教えていないのに、誰かが来るなんて。そんなのミステリーだ。
トントン!バリノの部屋のドアはノックされた。
バリノは息を呑むと、「空いてますよ、どうぞ。」と答える。