アーカイブ | 9月 2024

2098年のキスl無料体験版

2098年のキス
 2013年の現在、首都・東京などでは特に気軽な男女のキスが一目も憚らずに行われる事が少なからずあるらしい。これは今からもう少し前から見られる現象で、欧米の影響だといえるのだろう。
それと並行するように日本では、少子化が進んでいった。
2098年の現在、日本でそのような行為、すなわち、人前でキスをする事は公然わいせつ罪として逮捕されるようになった。その理由は、おいおい述べていく事とする。
他の現象としては、映画やテレビドラマなどは見る人も極めて稀となっているのだが、キスシーンはアダルトなものとして取り扱われ、テレビからはキスシーンが姿を消すなどしている。
ここまで取り締まられるようになったなどは、2013年に生きているあなたがたには時代の逆行のように思われるに違いない。
さてさて、そういう時代となっているから2098年現在、女性は外出時にはマスク着用が一般となっている。日本政府としても、マスク着用を義務付けようかという検討もしたが、中東の女性とは違う伝統のためにそこまではやらない方がいい、ということになり、法的に規制はされない。
それでも、大抵の女性は外出時、のみならず勤務時間帯もマスクを取らない。
ある平凡なサラリーマン家庭を見てみよう。女性は、その辺を歩いているような、よくみかけて顔も覚えられないようなありきたりの三十代の主婦、凡子は帰宅した夫、沙羅男(さらお)にマスクをしたまま、
「会社の方は、どうなの?」
と聞く。
「ああ、なかなか出世できそうもないよ。」
「じゃあ、わたし、まだパートに出た方がいいのね。」
「うん、すまない。でも、キスぐらい、おまえ・・。」
凡子は目で抵抗して、
「簡単に、させてあげられるもんですか。2000年初期の頃とは、違うんだから。」
沙羅男は、ふーっ、とため息をついた。それから独り言のように、
「あーあ。おれも2013年頃に生まれていればなー。そうしたら、もっと簡単にキスもできたし。」
「そんな、いやらしい事、夫婦だからって気楽に話さないでくださいな。その頃のキス映像は、すべて成人指定のアダルトになってるでしょ。今は。」
「そうだけどね。昔の人達は、気楽だね。」
「ずいぶんと昔だわ。公務員も勤めていれば、給料が上がったそうじゃない。」
「そうだったらしいね。役人天国だったんだろうな。でも、今はそれも違うね。おれの同級生も地方公務員になったけど、リストラされてね。」
「大変ねー。」
「風俗産業に入って、今は安定した生活を送っている。」
凡子は眼をきらめかせると、
「そうだ、あなた。風俗関係の仕事に転職なさいよ。自動車の会社なんているから、だめなのよ。何十社もあるでしょう、車の会社。」

熟女の近未来の性生活 無料体験版

近未来の不動産会社OL

 美山響子(よしやま・きょうこ)は、三十歳、不動産会社勤務、独身、身長百五十八センチ、88>59>89のサイズで、通勤はフェラーリで通勤している。
満員電車では必ず、痴漢された。美山響子は男性の好みは限定されていたので、多くの男に触られるなど気分のいいものではない。もちろん、大抵の女性なら痴漢は気分が悪いものだが。それで、二千万円クラスの黒のフェラーリを現金で購入した。
インターネット検索で、フェラーリの販売店を探し出したのだ。フェラーリの公式ホームページから探せる。響子は福岡市なので、福岡の販売店を探すと、一つしかなかった。
2013年も一つだったが、2033年の今もフェラーリの販売店は福岡市にしかない。なにせ、トヨタがレクサスなどの高級車の販売に力を入れたため、高級外車は昔ほど売れなくなっていた。

響子は帰宅すると高級マンションの最上階で、宅配ピザを注文する。
「春吉の美山です。」
「毎度ありがとうございます。」
名乗った後に、間を置くのはピザの店の人間がパソコンから美山の情報を呼び出すためで、これはもう随分昔から行われている。
Sサイズのピザを二枚、注文した響子はフカフカのソファに座った。それから向こうの部屋にいる彼の体を思い出す。彼は料理、洗濯なんてやってはくれないばかりか、自分で歩行するのもままならない体だ。
それでも一昔前の彼のタイプの・・・
ピンポーンと、何十年と変化のないチャイムが鳴った。携帯電話の着信音なんて様々なものがあるのに、ドアのチャイムは何処も同じ、およそ建築関係の人間は発展性がないのだ。それが証拠とはいえるかどうか、日本の大手建設会社の起源は江戸時代の頃で、保守一点張りといえるのかもしれない。
玄関ドアを開けると、男子大学生アルバイトらしい青年が顔を出した。背も高く百八十センチはあり、フットボールでもやっていそうだ。響子は(ピザよりも、この青年の方がおいしそうだわ。)と思ったが、学生では面倒な事も多い。
「お待たせしました、ピザビッグです。」
ズボンと上着が繋がっている、いわゆるツナギの白い制服を着た大学生は
ピザビッグ!おいしさ二万倍。
と文字が印刷された白い箱を響子に手渡した。受け取って玄関脇の棚のところに置くと響子は、代金を払った。その宅配員の視線を胸に感じながら響子は、その男の股間を見ると白い制服に大きく張り出した格好になっている。(勃起しているのかしら)
「丁度、いただきました。ありがとうございます。」
深々と頭を下げた青年の股間を響子は注視していたが、ドアが閉まるまで張り出したものは、引っ込まなかった。

ピザビッグはSサイズも他の宅配ピザより、大きかった。響子の好きなメニューの一つがウインナーピザで、長さ二十センチのウインナーを先に手にとって、男性のペニスを頬張るように口に入れる。
このウインナーピザの注文は独身女性からが最も多かったので、ピザビッグの経営者は、含み笑いをしながら、
「裏メニューを開発しよう。簡単だ。ウインナーを男性器の形にするんだ。それをバイブ版、という形でメニューに載せる。メニューには、未成年のお客様は、このバイブ版は御注文できません、と但し書きは入れるようにする。さっそく、取り掛かってくれ。」
という発案に、開発スタッフが取り組み、できたものはバイブというより食べられるだけに松茸という感じの黒い大きなウインナーだった。
今、響子が口に入れたのは、この裏メニューのバイブ版だった。
(まるで、男の大きなアレみたい・・・。)
響子の舌は、その男性器と同じ形に作られた、というより勃起時の男性器と同じに作られたウインナーの亀頭の部分を舐め回していた。亀頭のカリも舐め回していく。
TANNERの第五段階、の男性器をモデルにしている。すなわち、最終的に成熟した男の性器である。
響子は上着を脱ぎ、シャツも脱いでブラジャーを外すと、TANNERの第五段階である自分の乳房を揉みながら、ウインナーをまるで男性の勃起したペニスにするように舌を這わせていった。
広い食卓に一人で座って、響子はウインナーにかぶりつく、のではなく、しゃぶりついている。
響子の白い大きな乳房はTANNERの第五段階のため、乳輪は後退して見えない。
世間的に見られるAVなどでの乳輪の大きな女性は、TANNERの第四段階であり、完全成熟とはなっていないのである。
空腹は、響子の想像を打ち破った。カリカリとウインナーは、響子の口の中で噛み裂かれる。胃袋から伝達される感覚が、彼女を現実に戻したのだ。
(彼は、寝室にいたわね。ダブルベッドで寝てるけど。わたしがピザのウインナーで、こんな事をしているのは知らないでしょう。)
そもそも、その彼との性生活に不満があるから、ウインナーもビッグサイズのものを求めるようになる。でも、それは彼のモノのサイズが小さいからではない。
ウインナーを食べ終わると、ベッドに寝ている彼のビッグなモノを想像して響子は笑顔を浮かべた。

ピザが入っていた紙の容器をゴミ箱に捨てると、響子は寝室に向った。ドアを開けると、ダブルベッドの片隅で全裸の彼が寝そべっている。響子は彼の股間に真っ先に、眼をやる。ビッグ!ただ、それはまだ固くなっていない。
その彼は、同じ不動産会社の同僚だった。年齢も同じで、三年前に結婚した。半年ほどは薔薇色の結婚生活だった。何が楽しいといって、仕事から帰って夕食を食べ、そのあとにすぐするセックス以外にあるだろうか。彼は大学時代、ラグビーをしていたのでタフだった。
響子を手早く全裸にしてくれて、先に全裸になっていた彼は、すでに怒髪天を衝くという言葉を変えて、怒棒天を向くという趣の姿態だ。
お互い立ったままの彼らは、響子が尻を向けて彼に寄り添う。彼は高く突き出した彼女の尻の間に見える大きな割れ目に、太く長いイチモツを突き入れると、響子の両脚を膝の後ろから両手で抱えて、空中に浮かせた。
駅弁体位の女性が、逆を向いた姿勢になる。駅弁体位の場合、女は男の肩に掴まったりするが、響子の今の体位は背中が彼の胸に密着して両手は空いている。
彼が響子の体を高く持ち上げるようにして、おろすという動作は騎上位を空中で行っている気になり、
「あっ、あっ、あっ。」
という悶え声を響子は止められなかった。空中に座ったまま、彼の雄大なペニ棒が出入りしている。それが、新婚生活で響子が最も好きな時間だった。
響子のマンコは締め付けが強く、セックスを終わった後、彼のペニスを観察するとその皮膚が締め付けられて赤くなっていた。
それ位の締め付けだから、彼も五分と持たないことが多かった。
不動産会社も多種あるのだが、響子の勤めているところは主に賃貸物件の仲介だ。福岡市の中心に近いところにあるので、家賃の高い部屋が多く、したがって仲介を頼みに来る人達も少ない。
平日の昼間など、午前中もだが、客は一人も来ないことが多い。高い家賃を払ってまで福岡市の中心に引っ越したい人達は、東は神戸まで見当たらない巨大商業地の天神でビジネスとか店を考えている人達なのだ。
響子は一人で店にいる事も、しばしばだったので、逆駅弁の夫とのセックスを思いながら指はスカートの中に入れて、パンティの上からマンスジを強くなぞって楽しむ事もある。
不動産の仲介店に行けば、どこでも座っている女性の下半身は見えないようになっている。だから、万一、客が入ってきても響子は指を素早くパンティから離せばよい。
大手建設会社の受付も暇なことが多いし、人も通らない時間が多いと受付の女性はオナニーに耽る事もあるらしいが、響子は店のドアが開く瞬間に手を離して来客用笑顔を向けるので、気づかれた事はない。
響子の夫は営業に回されていたので、部屋も違い、顔を会社で合わせる事もなかった。
それでも、二人が付き合っている事は社内では知れ渡っていた。それは狭い世間というところだろう。響子と彼が、会社の休日にラブホテルに入ったのを見た社員がいたらしい。
休みの少ない不動産会社の休日に、二人はホテルで朝から晩までセックスした。
昼の食事も、そこそこのホテルに泊まるようになってからは、部屋に持って来てもらうようにした。その昼食を受け取る時だけ、彼が衣服を身につけた。大抵は若いホテルマンが、台車で昼食の上に布をかけて持ってきた。その時には、一発は響子の尻の中に射精していたし、入り口から見えないベッドで響子は全裸で寝そべっていた。
不動産会社の休日だから、水曜日、響子の会社も水曜日が休みだ。昼食を食べ終わった二人は、再び全裸で抱き合う。窓のカーテンも締め切っているけど、その外の下の空間では忙しそうに白いカッターシャツを着たサラリーマンが、歩き回っていた。
正常位で挿入しようとした彼に響子は、
「昨日のお客さん、案内した部屋の中で、さりげなくだけど、わたしのお尻をむにゅーと掴んだのよ。」
と告白する。彼の勃起したイチモツは、響子の膣口の前で停止した。
「ええーっ、それだけか。」
「うん、それだけ。」
「よーし。おれがもっと、おまえの尻を愛してやる。」
彼は響子を、うつ伏せにした。大きな二つの乳房が、プルンと揺れる。尻を高く上げた響子の股間には、大きな淫裂の線が彼の眼にイヤラシく映った。潤んだその長い割れ目に、彼は長大なモノを根元まで突き入れた。響子は尻を震わせて、顔を横向けにすると、
「あああ、すっごく、いい。マンコ、気持ちいい。こすって!」
と淫らに悶えた。頬が紅色に染まっていた。不動産会社で働いている時の顔とは、別人のようだ。恐らく、AVに出ても分からないのではないかと、思われる。
この頃のAVはマンネリ化して売り上げも落ちてきていたのだが、テレビに出た、もしくは出ていた芸能人を出演させるという企画で、どうにか持ちこたえていた。狙い目は昔、大人数で歌っていたあの数十人単位のメンバーをどれか一人でもAVに出せば、昔のファンが必ず買うという現象がある。メンバーの二人を同時に出演させて、男優四人と絡ませる。そういう企画ものは、四十万枚もの大ヒットとなった。AVは昔からレンタルされるのが普通で、十万枚も売れれば大ヒットだった。
昔のファンには、たまらないシリーズだった。握手をしたファンは、一人で二枚は買った人もいる。
傑作なのが、この元アイドルグループのシリーズものを三十枚買うと、誰か好きなメンバーとホテルで、しかも高級ホテルで一泊できるというものだった。そのシリーズのDVDに付いている応募券を集めて郵送すれば、東京のホテルまでの往復の旅費まで旅行券がついて好きなアイドルとの夜が過ごせた。大抵は三十過ぎになっていたメンバーが多いけど、その高級ホテルの従業員の話では、そのアイドルと泊まっている客の部屋では一晩中、灯りがついていて、その元アイドルの悶え狂う下品な悶え声が四、五時間続いて聞こえた、とか、朝、その元アイドルが蟹股でヨタヨタとホテルの通路を歩く姿が見られるという。
やはり一晩中、大股開きにさせられて、熱くなったファンのモノを受け入れていると股ずれが起きる事もあるらしい。
元メンバーの中には、結婚しているものもいたけど、旦那公認でそのAVに出ている場合もある。その場合も、応募できるのでシリーズ累計二百万枚の売り上げを記録しつつあるAVのミリオンダラー箱である。
オンデマンドという言葉があるけれども、これ以上に客の要求に応えたシリーズは過去には、なかったろう。
これらのシリーズものの売り上げは、低迷しているCD業界などには垂涎の的ではあったが、彼女等の悶え声だけを収録したCDも大した売り上げには、ならなかった。
彼女達が出るAVをAVB24と称していた。アダルトビデオ部隊24の略だった。

結婚が決まるまで部屋に入れてくれなかった響子の彼、だったが、結婚が決まって、
「おれも包み隠さず、部屋を見せる。」
と男らしく公言するように話すと、薬院という福岡市の中心に近い場所の二十階立ての十五階に住む、彼の部屋に響子は連れて行ってもらった。
神戸の人口を抜いて、名古屋に迫ろうという福岡市でも高層マンションの建築はボツボツだ。それは郊外にまだ、土地があるからである。神戸の人口より少ない頃も、高層マンションを多く作るという発想は福岡市内では、あまりなかった。東京のように完売できるかという心配もあったと思われるが、新築のマンションはすぐに満室になったり、分譲マンションは建築中でも完売御礼が出るのが福岡市である。

sf小説・体験版・未来の出来事4

 福岡市の東区にある人工島!、アイランドシティに野球場ほどの広さを持つゲームセンターが、ある。平日の午前中は人は少ないかというと、そうでもなく年金生活者の老人が、屯していた。このゲームセンターには未成年者立ち入り禁止のコーナーがある。
福岡市にプロ野球球団が無くなったのも、ただ野球を見るよりも、その成人向けゲームに人気が出たため、とも言われている。そこに、貴美はバリノを連れて行った。入り口でバリノの前に立った貴美は、
「クレジットカードで成人か、どうかは認証判断されます。バリノさんはクレジットカードを、お持ちですか。」
と聞く。バリノはズボンのポケットに手を入れ、
「ああ、持っているよ。世界共通のをね。ビットコインじゃ、ダメなのかね。」
「そう、ビットコインカードでも大丈夫ですわ。説明不足で、御免なさい。ビットコインは世界共通の通貨ですものね。」
仮想通貨は日本でも、相当数の種類が出ていたが、それらの大半はビットコインと連動している。
貴美とバリノはビットコインカードで、そのゲームセンターの成人向け入り口を通過した。
二人の目に留まったのは、ダッチワイフのような女性の姿だった。とても人形とは思えない。着ているものは下着だけ。目もダッチワイフや人形のそれとは違う。常に動いているのだ。瞬きもしている。肌の色は白く、両手はダラリと下がっている。透けた下着で乳首と陰毛は浮き出ている。これで入場料を払った甲斐がある、というものだ。身長は百六十センチほどの美女のダッチワイフ、又、ラブドールとも呼ばれるものが進化している。立札には、
この奥には部屋があります。そこに、わたしを連れて行って下さるとドアを閉めて、貴方の好きにしてください。その前に十万円はカード払いで、どうぞ。
と書いてあるではないか。バリノは日本語を読むことも出来るので、
「これは、すごいな。貴美さん、貴女も一緒においで。」
と貴美を誘う。
「ええ、行きます。バリノさん、何処まで、この人形と、されるのか、見たいですわ。」
と貴美は答えた。
バリノがビットコインカードで十万円を支払うと、なんと、そのラブドールは先に立って歩き、部屋のドアを開けたのだ!驚きつつ中に入る二人の後から、ラブドールは入ると部屋のドアを閉め、ウインクした。
その部屋はダブルベッドのあるラブホテル風の部屋だった。ツインの部屋の広さ。窓には赤いカーテンが、かかっている。ラブドールは臀部を左右に振りつつ歩いてくると、バリノの前で立ち止まる。バリノは、
「君はレズは好みでは、ないかね?」
と、そのラブドールに話した。すると、
「いえ、わたしは男の人を好きになるように作られました。女性には興味は、アアリマセン。」
という自動音声の女性のような声でラブドールは答えると、次に、
「わたし、キミ、といいます。」
と話したから貴美は、ビックリした。自分の名前も貴美だからだ。バリノは、
「ほう、貴美さん、同じ名前だね。でも、よく答えてくれるなあ、このラブドール。」
と感想を漏らすと、ラブドール・キミは、
「だってワタシ、大学まで出てますもの。」
と話したではないか!バリノは、
「何処の大学かね。」
「福岡で作られたから、九州大学に通いましたの。福岡市の西の方にあります。文学部でしたのよ。」
と、スラスラっと流れる水のように答えた。
ラブドールが大学に行く時代なのだ。只の夜の愛玩人形と思ってはいけない。でも・・・?バリノは、
「君は歩けるのかね?」と簡易な質問をする。微笑んだラブドール・キミは、
「フルマラソン、できます。福岡市で大昔から行われている福岡市民マラソンにも、毎年出ますから。」
「順位は、どれくらいかね。」
「真ん中より上くらいです。そんなに早くは、ありません。」
「そんな時は、燃料補給をする人が、いるんだろう?」
「いえ、朝、出る前に、わたしのオーナーが充電してくれます。電気自動車と同じ原理なんです。もしもの時は、道路沿いの電気自動車用スタンドに寄って、給電します。セルフなんです、大抵、利用するのは。」
すごいスタミナだ。むしろ、燃費というより電費のいいラブドールなのだろう。バリノは、これを作った日本の技師に感動して、
「火星にはラブドールは、ないんだよ。必要ないからね。」
と貴美に話す。貴美は、
「そうなんですの。ありそうで、ないのですね。火星には。女性が沢山いるから、とか。」
「そう、いう事かな。ラブドールは地球では女性に不足する場合のためにある。長期航海の船員とか、だけど火星では長旅は、ないといってもいいから。」
バリノはラブドール・キミの前に立つと、ブラジャーを外した。美形の、揺れ動く白い乳房が現れた。
貴美とバリノの目が、キミの桃のような胸部へ移動する。バリノは、それを揉んでみたかったが、貴美がいるので放擲した。キミはバリノの手が自分の乳房を掴まないので、
「あれ、私の胸、魅力ありませんか?」
と聞いてくる。驚くべき事は、キミの表情に悲しみの色が浮かんでいる事だ。つまり、このラブドールは表情筋を持っているかのように作られている。バリノは貴美に、
「驚いたよ。一体、この精巧な人形を誰が作っているのかね?輸入物なのか、貴美君。」
「これは黒沢のサイバーモーメントの子会社、『ラブドールメーカー』が作っています。そこは勿論、福岡市にありますわ。西区の森林地帯に、です。」
ラブドール・キミは返答しないバリノの前で、上半身を屈めると股間を覆う白いショーツを立ったまま、脱ぎ始めた。最も魅力的なのは彼女の表情よりも、その女性器が存在する部分、それを隠すかのような性毛の密生の分布状況、および縮れ具合、大陰唇の成熟したふくらみ、など二十歳の女性が持つものをキミは持っているのだ。
バリノは貴美が、いなければ勃起したかもしれない。貴美はバリノの反応を見ている。時々、バリノの股間に貴美は視線を走らせていた。だがズボンの中心は愛を叫ぼうとは、しない。それで貴美は(自制心が強いのかしら、それとも性的不能?)と思う。
バリノはキミに何もしようとは、しない。ただ、彼の視線はキミの股間を注視している。そして、
「見事なものだ。ラブドールは地球のものを色々と集めていたけど、これは最高級品だよ。顔の表情が動くものは、見た事がない。このラブドールは、小さなコンピューターを内部に持っている筈だ。私が反応しなかった場合も、それに対応するデータを打ち込まれている。今のショーツを脱ぐ行為もね。」
小さなスーパーコンピューターを、キミの頭部の内部に、入れてあるのかもしれない。
そのように説明するバリノを見て、貴美はバリノが自分の性欲を抑えようとしているのではないか、と思ったりもするが、
「ラブドールメーカーでも最高級品を、ここに納品しているのですわ。わたしは女性ですので、それほど興味が、ありませんけれども。」
受け答えする。そして大胆にも、
「バリノさん、ここで、このラブドールを抱かれては、いかがですか。」
と提案した。
「うん、いや、それほど性欲に飢えていないんだ。このラブドールの使用料は中洲のソープランド、よりも安いな。」
「まあ、そうなのですか。わたし、中洲のソープの相場は知りませんわ。それでなのですね、ここは平日の夜とか、休日には行列が出来ているって聞きましたけど。」
突然、それに、キミが答えたので、或る意味で気味が悪いわけだが、
「でも、わたくし、一日に五人までしか相手を勤めませんの。大陰唇の摩耗を防ぐためです。そのようにプログラムされています。機械は何でも、そうなのです。過度な負荷は故障に繋がります。バイクや自動車の制限速度も、そうです、ですので六人を相手にすると、わたくし、動作停止となり、ラブドール技師を呼んでもらわないと、いけなくなります。女性器と乳房の損傷を防ぐためです、一日、五人までの性交相手の人数制限は。二時間も、わたしの、おっぱいを吸い続けた人もいたわ。それで、わたしの乳首は立ちっぱなしでした。」
バリノは興味深そうに、
「一人につき二時間は相手をするのかね。」
と聞くと、ラブドール・キミは、
「そうです。だから十時間の性労働ですけど、わたしには処女膜は、ありませんでしたし、そう、最近、わたしを製作したラブドールメーカーは、処女膜付きのラブドールを開発中だとか。それで、その完成後の商売に於ける得失について検討中なんだそうです。それは人間の女性が処女膜を失う際に感じる苦痛、それが喜びに変ずるため、その現象を引き起こした相手の男性に対する心理的な従属意識を起こす、とはいえ、女性により、処女膜を捧げた男性に生涯の貞潔を誓う女性の圧倒的な減少が、かなり前の日本で起こっていた事なども研究課題となっています。要はヒーメン(処女膜)をラブドールに付帯させる事が、顧客サービスの向上になるか、という事らしいです。」
それを聞いてバリノは、
「なるほどね。昔、というより大昔の日本人女性が、大半、そうであったような処女性のラブドールなら、一人の顧客に従属してしまうという懼れだな。だが火星にはラブドールは、ないから、私には良く分からないな。君の体は十分に鑑賞した。それでは。貴美さん、行こうか。」
「はい、そうした方が、いいみたいですわ。」
二人はラブドールには見えない女性(!)を、そのままにして、部屋を出た。
火星人バリノとしても、ラブドールよりは目の横にいる城川貴美の方に興味がある。貴美も処女である気がする。さすれば、わが男根を貴美のヒーメンに貫通なさせしめば、彼女は我に従属せん、とは前時代的な発想であろうか。さは、さりながら、かなり昔の日本のAVですら処女喪失をAV男優と、という例はある。それはバリノも日本の歴史として火星の学校で、『日本AV史』の講座で受講した。
そうだっ!とバリノは考えつく。今まで日本のAVは火星に密輸という形が黙認されてきたが、関係各庁に連絡して許認可事業として始めよう、火星での日本のAV販売を始めるのだ。
だが餅は餅屋、AVはAV屋だ。それに火星には地球にはない、すごいものがある。それを輸出してみよう。それは、そのうち明らかにするが。
AV屋については、すぐに解決する。バリノの知り合いの若い医師は日本のAVを持ちうる限り、持っている。とはいえ、ほぼ、ほぼ、過去のものになってしまうのは致し方ない。貴美はバリノを見て、
「ぼんやりしていますわ、バリノさん。あそこの長椅子に腰かけると、無料で花火が見れますわ。」
「あっ?ああ、そうだね。ゲームセンター内に大きな池があるなあ。あの池の向こうに花火が見えるのか。」
二人は並んでソファのような長椅子に座って、疑似夜空を眺めた。バリノの思考は先ほどのAV好きの医師、ミタリーに戻っていく。
火星ではAVなどは作られていない。それは火星人男性が聖人君子だからではなく、火星人女性の数が多いのだ。それで一夫多妻を認めているが、それでも、そう何人でも妻には出来ない。そのような事情から火星では性産業は皆無に等しい。
そういう中で独身医師ミタリーは地球の医者と違って経済力もない。そのため、結婚もしてない、それが百五十年も続くとなると地球の、それも特に日本のAVに興味をエベレスト山のように持っても不思議な事では、なかろう。
そんな医師ミタリーをバリノは、自分の医院で働くように誘ったが、ミタリーは、
「独立開業医の方が自由だから。それに親の遺産で、あと百年は自分の食い扶持なんて持っていますよ。暇な時は日本のAVを見て右手を動かしていますし。」
とスッキリした顔で答えるのだった。ミタリーは美形の男性、日本の格言に「色男、金と力は、なかりけり」に該当するわけだが、火星には女性が多いため、プレイボーイでもある。それに飽き足りずに、余暇は日本のAVで、というわけだ。少々古いとはいえ、日本のアダルトビデオ、アダルト動画に該博な知見を所有する医師、ミタリーである。妹がミタリーにはいて、ミタリーナという。関西弁の「見たりーな。」とは発音が似ているとはいえ、英語と日本語の発音以上に相違はある。だから関西弁で「ミタリーナ」とミタリーの妹に云っても通じないであろう。
ミタリーナも独身の美女だ。西欧の美女を百倍位綺麗にすると、ミタリーナとなる、そういう形容で想像されたい。目の色は緑色、それは兄のミタリーも同じだ。
バリノはスクリーンに映る花火を見つつ、
(ミタリーにラブドール・キミの事を教えてやりたい。)と思うのだった。
 花火は立体的なものとはいえ、火星の映像技術に比べれば、つまらないもの、なのでバリノは、アレを日本に火星から輸入する事を考える。(ミタリーは妹も一度、使った事がある、と言ったな。それについてはミタリーに聞くことにしよう、帰星後に。)数分で火星に戻れるので帰星という表現も何かと思われるが。
 貴美に連れられて美少女ゲームの大型版など、あったがロリコン趣味のないバリノには興味が、なかった。それで、
「もう、いいから、出よう。」
と貴美にバリノは語った。
それでも時間というものは早く過ぎていた。外は冬空で雪が降りそうだ。バリノは空を見上げて、太陽の位置を見ると、
「貴美さん。昼食に行きなさい。私は、あの森林みたいな公園で待っているから。」
と自分の意思を伝える。貴美はバリノをチラリと見ると、
「寒くないですか、バリノさん。アイランドシティ地下街は暖房が強いですわ。それに食事・・・。」
「火星から携帯食を持ってきているよ。地球の食べ物は日本に限らず苦手だ。」
「栄養価が、あまりないからですねえ。」
「それは、そうだな、味覚の違いさ。火星の農作物も進んでいる、という事だ。地球では農業は何千年の昔から、あまり変わりがないだろう。それより、ひとまず君は食事へ行きなさい。」
「はい、一時には戻りますわ。」
 バリノは遠ざかる貴美の背中を見送ると、森林のような公園に入った。火星の樹木より生育の悪いものだ、とバリノは思う。火星では砂漠と森林と、はっきりと対比できる樹木の生息頒布なのだ。
バリノにとっては殺伐とした風景なので、木製ベンチに腰掛け、コートの中からタブレットパソコンのようなものを取り出し、操作する。画面にミタリーの顔が映る。ミタリーにもバリノの顔が見えるらしい。バリノは火星語で、もちろん火星語といっても複数の言語があるのは地球と同じだ。むしろ、地球の言語が火星と同じように複数ある、と言うべきかもしれない。周囲に人もいないので、
「やあ、ミタリー、寝るところじゃなかったのかい?」
イタリア人みたいなミタリーの顔が答える。
「まだまだ、これからだよ。さっきまで急患を執刀していたからね。これから遊ぶんだ。」
「それは、この場合、よかった。地球まで来ないか?」
「空飛ぶ円盤は所有していないんだ。まだまだ富裕層とは言えないからね。」
「私のを貸すよ。私の家へ来て、私の執事に連絡してくれ。執事には私から電話しておくから。」
「そう?それなら、行くよ。バリノさんの地球位置情報は、今もぼくの携帯に出ているよ。日本、かな、それも福岡市東区のアイランドシティの公園だろう?」
「そうだ。日本時間の午後一時までに来れるかい?」
「やってみるよ、行けそうだ。それでは。」
バリノは携帯を切ると、火星の自宅の執事に電話した。
「ああ、ラソー君か。今から私の後輩のミタリーという男が来るから、円盤のカギを渡してくれ。」
「かしこまりました、旦那様。それだけで、よろしいので?」
「それだけだよ。よろしく、な。」
「夜食前の仕事、でございます。速やかにミタリー様、御到着後に実行いたします。」
バリノは携帯通話を止め、ズボンのポケットに入れると、ゆったりとしたコートの中から携帯食を取り出すと、乾燥マンゴーと牛肉、豚肉、鶏肉を混ぜ合わせた乾パンらしきものを食べる。火星にも牛や豚は、いるのだ。ただ、地下で飼育されている為、決して地球からの探査船では見つけられない。火星の地表から大量の水が無くなる前に、火星人は家畜を地下に移動させておいた。それにより、地上で生活する者は地下の家畜の肉を購入する事になる。
もっとも野生の牛、鶏に近い鳥、その他の動物は火星の少ない水と緑のある地帯で生息している。
一時前、五分になる頃、貴美が小走りに公園に戻ってくると、
「バリノさん、お待たせしましたか?」
とベンチに座ったバリノに聞いた。
「いや、待ったほどではないね。」
その時、空から白色の円形UFOが貴美の後ろに降り立つ。バリノには見えたが、貴美は気づかない。それほど音もなく着陸したのだ。
バリノは、にやつくと、
「火星から、後輩が来たよ。後ろを見てごらん。」
と貴美に呼びかける。
振り返った貴美の目に反映されたのは、イタリア人みたいな顔の若い男性と、その背後の着地した空飛ぶ円盤だった。その男、ミタリーは貴美を見て右手を挙げると、
「はーい、初めまして。僕も火星人なんだ。バリノさんと親しいのかい?」
と流暢な日本語で話しかけて来た。貴美は、
「え、ええ、割とですけど親しくさせてもらっています。でも、それはビジネスでの、お付き合いですわ。」
「それなら僕も、そのビジネスの仲間入りをさせて欲しい、いいかい?」
「ええ、もちろんですわ。わたしが力になれれば。」
それにしても、ミタリーの円盤は、あのまま公園に待機させておくのだろうか。ミタリーは、
「あの円盤を空中で待機させておこう。地球人の不可視の光線領域に円盤を置けば、いいから。」
と貴美に分かるように説明すると、ズボンのポケットからリモコンを出してボタンを押す。すると円盤は垂直に上昇して、貴美の目には見えなくなった。2017年頃だって日本の上空には沢山の空飛ぶ円盤が飛行していたはずだ。地球人には見えない形で。
軽やかに動くミタリーを見てバリノは、
「地球の重力は火星の三倍なのに、元気がいいね。」
と感心するから、
「時々、地球に来てますよ。日本は初めてだけど。アメリカでなら、何人もの女と一晩で肉体関係を持てたけど。ん?日本語のモテるっていう言葉、肉体関係を持てる、という意味なのかな。女にモテるというけど。まあ、それより、日本は楽しみだね。日本語は話せるように家庭教師に来てもらったから。日本人のね。」
ある日本語教師の話
 私、東京で外国人相手に日本語教師をしていました。三十代、独身、当たり前ですか、大学の文学部を出ましたけど仕事がなくて。それで日本への留学生やら、外国からの商社マンなどに語学教室で雇われて、日本語を教えていました。給料は高くなく、サイバーセキュリティとかの仕事が花形の世の中、文学部出なんて、せいぜい学校の国語の教師がオチとされています。
マンションの屋上に出て、私は夜空の星を眺めながら、
「どこかに、いい仕事が、ありませんか、神様。」
と懇願するように願ったのです。すると、私の頭の中で、
(いい仕事あるよ、私が連れて行こう。)
と声がするではありませんか。
「えっ、どこです?貴方は神様ですか。」
と尋ねると、
「ここだよ、目の前に現れるから。」
と声がしたと同時に、私の目の前に小型のUFOが出現して、マンションの屋上に着陸しました。
中から現れたのはイタリア人みたいな男性で、
「火星で私の日本語の先生になってくれ、そうしたら、うまいものを食べさせてやるし、いい女も抱かせてやる。」
と励ますように話してくれます。信じられないし、夢かなと思っていると、
「私は神様ではないよ。火星にはね、人間の思考を拾い上げる機械がある。それでUFOの中から、マンションの屋上に一人でいる君を見た。そこでだ、その思考解読機の照準を君に合わせたら、君が(どこかに、いい仕事が、ありませんか、)と願っている事が分かったのさ。」
明快な答えです。それで、
「それなら、どうか、私を火星に連れて行ってください。日本語を教えます。」
と頼むと、
「よし、決まりだよ、円盤に乗ろう。」
と誘われ、火星に行きました。そこで豪華な食事を食べさせられ、いい女、といっても地球の日本人でした、と毎晩、夜の楽しみを満喫して、朝と昼、その火星人が仕事がない時に日本語を教えました。
何か月もかからず、その人は日本語を覚えてしまい、私が教える事は、なくなりました。国語の辞書も八割は暗記していました。
ですから私は、
「ミタリーさん。もう、日本語で貴方に教える事は、もうありません。」
と結論づけると、
「ありがとう。私も礼を言いたい。報酬はビットコインが、いいと思うので、そうしたいんだが。」
と優しく話します。
「ええ、ぜひ、そうしてください。ビットコインが一番、いいです。」
と私は答えました。
だってビットコインが世界の貨幣の時価総額の中で一番なのは、文学部出身の私でも知っていますから。
日本も動物園や植物園の入場料も、ビットコインで払えるようになっています。こんなの小学生でも知っている事で、私は、これを歴史的な文献として残すために書いています。
もう少ししたら税金もビットコインで払えるように、なるかもしれないのです。今、国会で審議中らしいですよ。日本銀行が株をすべて売り払い、ビットコインを買い始めたのも日本経済新聞の電子版に出ていました。アクセスランキングの一位、は日銀のビットコイン買い、だったんです。
何故、文学部を出た私が日経電子版を読んでいるかというと、ある商社に面接に行ったら、
「うちは文学部を出た人は採用しない方針だが、日経電子版を一年読んだ後で、もう一度、面接する。」
と、そこの社長さんに言われたからです。で、それから半年して、火星での家庭教師でしょう。ミタリーさんもビットコインは、相当持っているし、アルトコインも集めているらしいですね。
その会社で採用されたら、火星との貿易も可能になるんですがねー、ミタリーさんを通して。
今度の面接で社長さんに話してみようかな。気が狂っている、と普通なら思われるでしょう。なので、どうしようか迷っています。
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貴美はミタリーに、
「その家庭教師の人、今は地球にいるんでしょう?」
と聞く。
「ああ、いるだろう。月には、いないだろうね。東京に帰しておいた。その間の電気料金、水道料金、その他の家賃とかも、火星から納付しておいたから。彼の授業料の中から天引きしてね。それもビットコインだった。彼が授業を始める前に、『生活の心配が、あります。公共料金は銀行引き落としなんです。』と言うから、
「それは心配しなくて、いいよ。こちらで、何とかする。」
と答えた。私一人では難しくても、地球との金融取引、銀行取引をしている友人は多くいるから、私にはね。」
とのミタリーの答えに貴美は、
「すごいですわ。何か月も家賃滞納なら強制退去ですもの。」
と称賛した。
バリノは貴美に、
「ミタリー君は独身だから、独身者が好むところを案内してくれないかね。」
と話す。貴美は思案顔を三秒したが、
「それでは行きましょう。タクシー!」
彼らは公園を出て車道に面した歩道にいたので、貴美が右手を挙げると桃色のタクシーが三人の横に停まったのだ。

 貴美がタクシーに指示して火星人を連れて行ったのは、福岡市博多区中洲一丁目。大昔からソープランドの密集している場所だった。バリノは、
「地球用シューズを履いてきているよな、ミタリー君。」
と足を自分で動かしながら、聞く。ミタリーも足踏みをして見せて、
「勿論ですよ。地球の重力は火星の三倍、でも、筋肉を鍛えるには、いいですから。」
それだから火星人は地球上に姿を現しにくいのかもしれない。逆に地球人が火星に行けば、地球の三分の一の重力なので、スキップしながら歩く事も簡単だ。バリノは歩きながら、
「それで地球は太陽系の刑務所的存在なのだよ。重い、というのは労役だからね。地球の女を抱けば、三倍の重さというところ。」
ミタリーは笑顔を夏の太陽みたいに浮かべた。そして、
「重力は左程の問題ではありませんよ。固体の質量は重力とは別のものです。我々の身長と体重は地球人とは変わりませんから。それに重力とは、そもそも天道説的地球人の頑迷固陋な妄念ですよ。鉄下駄でさえ地球人は履くと、そのうち慣れます。靴と鉄下駄の質量の違いは、どの位、あるか。それでも、重い、というのは、やはり天国とは正反対の概念にあるようですね。」
バリノは歩きつつ、
「私は地球上では女は抱きたくないなー。」
と話すが、彼らはソープランドの看板ばかり目にしている。背広を着た男性が入り口で待っている。或いは店の玄関を開けて待っているソープの、お店も昔からだが、違うのは五階建てのソープビルディングも、ちらほらと見受けられることだ。中洲は一丁目だけにソープランドがあり、他は飲み屋が占める事が多い。五丁目ともなるとワンルームマンションも見られ、会社のビルもある。しかし、ソープは中洲一丁目のみ、という暗黙の規制があるようなので、しかも、それは福岡市全体でソープは中洲一丁目だけが許可されている為か、上へと伸ばさないと、いけなくなったのだ。
それと併設される、お泊りソープもある。ホテルとソープランドを同時に機能させるという建築物。大変好評で福岡市の観光名所になっている。ミタリーは好色な目をギラッ、ギラさせて、
「ほほうー、こんなに女を抱ける場所があるなんて、知りませんでしたよ。夜のために、今、入るのは遠慮して。中洲って、ソープランドばかりなの?」
と歩きながら話すミタリーに、貴美は、
「大通りの信号を渡れば、中洲一丁目では、なくなりますわ。そしたらファッションヘルスの店以外は、酒場か食堂です。」
と答えるから、バリノは、
「私は中洲以外の別の場所に行きたい。何処かあるかい?」
貴美は車の流れを見つめつつ、
「観光タクシーが時々、通りますわ。それに乗れば福岡市の観光が出来ます。あっ、来ましたわ。タクシー!」
その観光タクシーは車の上に山笠の山車の小さなものを置物のように乗せて走っているので、すぐわかる。
バリノは、それに乗ると貴美たちの視点から遠ざかって行った。

 ミタリーは、しめた、と思う。貴美は中々の美女で胸も大きめ、冬服の上からでも見える胸部の曲線は、火星の男性の性的発動を促すような様々な変数となる曲線を展開するからだ。歩く彼女を横目で見ても、胸だけでなく、臀部の容積の魅惑的な事、および、その左右に揺れる女性の尻的なゆらぎの曲線の変数の変化にミタリーは、強い性的な痺れも感じる。おまけに、これは、と医師であるミタリーは思う。(処女のモノだ)と。
 貴美を誘おうか、とミタリーが思った時、貴美の携帯電話が鳴った。「はい、え?バリノさんは観光タクシーに・・・帰社?ええ、それでは、今すぐに。」
貴美はミタリーに向くと、
「ミタリーさん、さようなら。わたし会社に戻らなければ、なりませんのよ。」
貴美はタクシーを止めて、乗り込み、ミタリーの可視範囲から消失する。
一人になったミタリーは、さっきの中洲一丁目に戻る。一人で歩くミタリーは、すぐに声を掛けられ、とあるソープランドに入っていった。

 福岡市観光をタクシーで終えたバリノは、宿泊料の安い地下(!)ホテルに泊まった。それは福岡市中央区にあり、天神地下街から直結している。地上が建物で埋まっている天神地区の再開発として地下街を広げるという計画と共に、宿泊施設を建設しようという構想ができて、いくつかのビジネスホテルが出来ている。
その地下ホテルも観光タクシーの運転手からバリノは、
「お客さん、ヨーロッパからでしょう?」
と聞かれたので、
「ああ、そうだよ。(火星からとは、いえるものではない。と思いつつ)。」
「だったら安いホテルあるよ。天神地下街の南の方にね、地下ホテルだけど。朝起きた時、太陽が見えないだけさー。すぐ、ホテルを出れば、いい訳でしょ。」
と教えてもらった。
「それは、いいね。知らなかった、ありがとう。ホテル名は?」
「いくつか、あるから。南の果てまでいけば、ある。」
それで、天神地下街を歩いているバリノだ。二百メートルも歩いたら、両腕のない女神のブロンズ像が見えて、その後ろにホテルの玄関らしきものがある。ドアボーイらしき背広の男性が中からドアを開けてくれた。「ホテル・チカフクオカ」という表札が見える。
若いドアボーイはバリノをフロントへ導き、白の背広のフロントの男は、
「地下五階のツインは、お風呂が天然温泉です。そちらが、おすすめですよ。」
と揉み手をして笑顔で勧める。バリノは軽く頷くと、
「それに、してくれたまえよ、それが、いいね。」
カギを貰ったバリノはエレベーターで地下五階へ。部屋に入るとツインでも六畳の広さ、だからビジネスホテルらしい。部屋には、備え付けのノートパソコンがあった。起動してみると、ブラウザが出てくる。ネットタッチなる新しいブラウザらしい。操作は簡単で、最初に出てくるページが動画共有サイト、それでバリノは火星で検索してみると、色々出てきたが、
「やはり日本人は、いまだにUFOトンデモ論を信じているらしい。おめでたい民族だ。だから私も西洋人と思われて、ホテルに泊まる事ができるわけだがね。」
と一人呟く。
旧式の卓上電話機が呼び出し音を鳴らす。バリノは受話器を取ると、
「フロントです。お休みの所、すみません。お客様が見えられたようです。お部屋に向かっておられます。」
「分かった。どうも。」
と答えたバリノ。でも、訪ねてくる人など、いないはずだ。貴美もミタリーも、ここに自分がいる事など、知らないはずだからだ。誰にも教えていないのに、誰かが来るなんて。そんなのミステリーだ。
トントン!バリノの部屋のドアはノックされた。
バリノは息を呑むと、「空いてますよ、どうぞ。」と答える。