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sf小説・体験版・未来の出来事7

 湖畔はヤシの木が並んでいる。黄金の湖面は波がない。太陽は何と空に二つ並んでいる。横並びの太陽だ。空を見上げた流太郎は鮫肌輝美子に、
「この星には太陽が二つ、あるんですね。」
「ええ、一つの太陽の光が弱くなると、もう一つの太陽の光が強くなる。それで地球みたいに四季は、ないのよ。つまり冬は、ないのね。」
「夏も、それほど暑くない訳ですか、この星は。」
「そうね、よく分かるわね、それが。」
「なんとなく、ですが、ハハハ。」
その黄金の湖は日本の琵琶湖より広いらしい。キアー、キアーと鳥の鳴き声が空から聴こえた。流太郎が見上げると、そこには金色のカラスが空を飛んでいた。二つの赤い太陽のもと、飛翔するカラスは椰子の木陰に姿を隠した。
 やがて二人はレストランのような建物の横に、ヨットのようなものが何艘か停泊している前に辿り着く。
ヨットに乗るための料金所みたいな場所は、自動券売機みたいなものが立っている。鮫肌輝美子はスマートフォンのようなものをミニスカートのポケットから取り出して券売機に、かざす。二人分のチケットを買ったようだ。券売機の横に警備員らしき男性が立っていた。流太郎が、その警備員をよく見ると彼はロボットらしい。波止場に似た湖畔のヨットに輝美子と乗り込む流太郎。輝美子がヨットを湖に出す。黄金の湖面の色は流太郎に異世界に来ている事を強く感じさせた。二人は並んで座っている。流太郎は口を開かずには、いられない。
「この湖からでも純金は取り出せるんでしょう、すごく多くを。」
輝美子の瞳には金色の湖面が映っている。彼女は答える。
「ええ、でも我が国の金は地球の砂みたいなものよ。地球の何処でも、こんなに恵まれている場所は、ないわ。わたし達から見れば、地球は貧しい国。南出裳部長の上の人は日本で株取引をしているけど、それは景気の流動性のない国で景気をよくするために取引をしているんだそうよ。」
「そうですか、この星では株取引は、ありますか。」
「もちろん、あるわよ。我々もUFOで地球に行くけれど、移動中に株取引をする場合もある。UFOの中の宇宙人って何をしているか、地球の人は考えないでしょう。じっとしていても、つまらないしね。地球の日本でも新幹線に乗って、あるいはリニアモーターカーに乗車中にスマートフォンで株取引は、できる。それと同じですよ、UFO内での株取引は。」
輝美子はヨットの船べりに両手をつくと、空を見上げるようにした。
湖ではヨットは他には見えない。それについて流太郎は、
「今日は、この星も日曜日なんでしょう。この辺は人もあんまり、来ないんですか。」
と質問する。ヨットの揺らぎが、彼には心地よかった。
「この辺は日本で言う田舎なのよ。もう少し暑く成れば人も来るわ。少し富裕な人達は他の惑星へ旅行しに行きます。地球にあるパスポートは、この星にはない。この星の国に軍隊はなくて、他の惑星からの攻撃を想定した軍備が、あるだけよ。だから国は、いくつかあるけど、この星にはパスポートは要らないし、他の惑星に行く際もパスポートは不要よ。いいでしょ、こういう国、星って。」
二つの太陽は均衡した輝きを見せていた。流太郎は夢のような国だ、と思い、
「地球も、いつか、そうあるべきだとは理想論として言われてきましたよ。でも、現実は・・・国の状態は二十世紀と同じですからね。救世主なんて結局、現れなかったし。」
輝美子は投げやりな微笑みを見せると、
「この星では地球は野蛮な星だという事に、なっているのよ。地球を指導している宇宙人なんて、いないわ。地球は観光に適しているとは思われていない。太陽は一つしかないし。むしろビジネス目的なら行ける。わたしも南出裳部長から沢山の報酬を出すから、と言われて地球に行ったわけ。宇宙なんて、とても広すぎるから地球人は、ほんの砂粒みたいな部分しか知らない。太陽が三つあって、夜のない星もあるわ。観光に適した星は、そこね。その星は人類は、何故か存在していなかった。核戦争で絶滅したのかしら。トウモロコシ畑みたいな所のそばにバナナが実っている。高い山に登れば林檎の木があるという素敵な星よ。」
流太郎は眼をギラッとさせ、
「食べ物には困らないんですね、鮫肌さん。」
と合の手を打つ。
「食べ物は、この星でも困る事はないわ。このヨットは水の中にも潜(もぐ)れる。」
鮫肌輝美子はヨットの側面にあるボタンを押した。するとヨットの両側から鉄の壁が突き出して、それは先端が斜めになり両方が接合した。つまり、その鉄の板はヨットの屋根になったのだ。
流太郎は驚いて、その鉄の壁を見ると潜水艦にあるような丸い小さな窓が両側の壁にあり、まだヨットは湖の中に潜っていないようだ。
 輝美子は別のボタンを押す。するとヨットは湖中に潜行し始めた。
丸い窓に見えていた湖上の風景は湖水に変わり、ずんずんと湖底に潜水艦へと変貌したヨットは降りて行っているらしい。
 流太郎は熱心にガラス窓を見ている。それは地球にあるガラスとは違う物質で出来ていて、地球のガラスより硬い。それはガラスにして鋼鉄のように硬いものなのだが、流太郎には透明度の高いガラスに見えた。そこに映ったのは湖中を泳ぐ大きなフグ、さらに深くなると巨大なサメのような生物。それも通り越すと潜水艦ヨットは湖底に着床したらしい、振動もなしに。輝美子は、さらに別のボタンを押すと次にヨットは自動車のように湖底を走り出した。ヨットにして潜水艦、次は自動車に変わる。なんという多性能な乗り物だろう。こんなものが、さりげなく湖に繋いであったなんて。
さぞや高価なレンタル料と思い、流太郎は訊いてみる。
「鮫肌さん、すごい乗り物ですね。随分、高いんでしょう、これ。」
「いいえ、そんなに高い物じゃないわ。地球の日本の煙草、ひと箱位かな。それで一日、乗り回せるわ。」
「そうそう、動力を聞いていなかったな。この乗り物の動力は何ですか。」
「最初は風で、次は調整重力よ。」
「調整重力。って何でしょう、それは。」
「この星にも重力がある。それを多方向に変えられるし、重力の強さも変えられる。はるかな太古に、この星で重力調整機が発明された時は、それはとても高価なものだった。でも生産が進めば価格は下落するもの、今では湖上のレンタルヨットにも使われているのね。」
「はあ、地球でも電化製品は似たような価格の変動ですね。」
「星の重力は下へ引っ張るけど、それを逆にしたり横にしたり出来るから、その力で、この乗り物は動く。UFOタイプは星間重力を応用しているものも、あるわ。」
「セイカン重力?精悍な男性とかの・・・。」
「星と星との重力ね。月と地球は引っ張り合うし、太陽は太陽系の惑星を引っ張っている。でも月や地球も太陽を引っ張るから、拮抗した力が惑星と恒星の距離を生み出して二つは衝突しない太陽系となっている重力を応用するのが、この星の一つの科学。地球人類には想像もできないものね。」
流太郎は沈黙してしまった。湖底を走っていたのが停車したらしい。流太郎は見た。ガラス窓に映っているのは金色の五重塔みたいな建物だ。湖水は金色とはいえ、薄い金色で湖中の中も見えるのである。だからフグもサメも、さっき流太郎は目撃した。
でも五重塔が湖の中に、あるなんて。しかも金色の五重塔だ。その五重の塔の一階の部分が左右に開いた。だが、その中に湖水は流入しない。流太郎が乗ったヨット型多性能乗り物は、その五重の塔の一階に入っていった。
 そこに入ると壁が閉まる。湖水は一滴も入り込まなかった。そこは地下駐車場みたいな場所で、常駐の男性の中年男の警備員がいた。
輝美子はボタンを押して鉄の屋根をヨットの両側に降ろす。
二人の姿を見た警備男性は、
「やあ、いらっしゃい。鮫肌さんでしょう?」
と日本語で聞いた。輝美子は、
「ええ、湖底日本人労働施設って、こちらですか。」
「はいはい、そうですよ。私も、ここで働くには地球の日本語を話せる方がいいと思って勉強しました。施設長から今日、鮫肌さんと日本人が来ると聞きましたから、二人が来たら中へ通すように言われています、施設長からね。さあ、入り口を開けますから。」
と話す、鼻の下に髭を生やした警備員だ。
鮫肌輝美子はヨットの座席を立ち上がると、
「さあ、時君、行くわよ。」
と声をかける。
日本人労働施設に入る?のだろうか、自分が?というより自分も?なのだろうか?
「行かないと、いけないんですか?あそこに。」
「入ってみないとね、貴方も日本人だし。さあ、さあ、お代は要らないから。」
流太郎は動かずに居座っても、いずれは連れて行かれると考え、それなら仕方ないと立ち上がった。
 五重の塔の内部ではあるが、そこは古風なものではなく白い壁の、白い廊下に白いドアが、廊下の両側に並んでいた。ドアが地球のものと違うのはドアノブがない、というところか。どうやって開けるんだ?と流太郎は思ったが、その一つのドアは横に開いた。警備員が手にしたリモコンのようなものでドアを開けたらしい。
そのドアの内部の部屋は大きな図書館ほども広く、本棚みたいなものも並んでいた。図書館にあるような広い机があり、そこに十人ほどの日本人が椅子に座って大きなパソコンに向かっていた。
流太郎は(労働施設って図書館の中でパソコンで仕事をする事か)と、思う。見たところ労働という雰囲気でもない。図書館で司書が座るようなところにいた若い男性の人物が立ち上がると、鮫肌輝美子と流太郎と警備員に近づいてきて、
「ようこそ。施設長から聞いています。鮫肌さんと日本人が来る事は。」
と気軽に話した。流太郎は自分も労働させられるのか、と思い、
「どんな仕事をしているんでしょう?彼らは。」
と尋ねてみた。
若い男性はニッと笑い、
「マイニング(採掘)ですよ。」
と説明する。彼らのしている仕事はマイニングなのか。
「マイニングって仮想通貨のマイニングのような事ですか。」
「そうです。この星の仮想通貨のね。人手が足りないから地球から来てもらったんです。日本人で仕事にあぶれている人は多いから、喜んで来てくれましたよ。UFOから現れて、ハローワークに並んでいる人に声をかける。その時、UFOは人間の肉眼では見えない、それと監視カメラにも写らないように、ある光線で保護膜を掛けておきます。人間の目に見えなくても監視カメラに写っていた、となると後で大問題でしょう。ハローワークにUFOあらわる、なんてね。それは一大センセーションです。そうならないように、していますからマスメディアなどは、もちろん、誰も我々に気づく事はない。それから話しかけて手ごたえのある人には喫茶店に誘って、話をしてみる。
「お仕事を探していますか?いい仕事が、ありますよ。」
とね。そしたら、
「本当ですか。ハローワークでも中々、いい仕事が見つからなくって困っています。」
と中年の男性などは、言いますね。
「四十代、課長クラスの首切りが人件費の軽減には、とてもいいから会社は躊躇うことなく実行するんですよ。もしかして、貴方も、そうですか?」
そうしたら、その男性、首を前に曲げて、
「ええ、上場企業で働いていましたけど、首を切られました。会社で何十年も働いた末に、それです。ハローワークで仕事を見つけていますが、私の前職の会社が、それなりのもので給与面でも、それに該当するものが中々、ないというのもありますね。」
「なるほどね。四十で転職も難しいのは日本では当たり前ですね。ヘッドハンティングは、もう少し年齢が上の人達を狙うものです。四十代が一番、転職しにくいものかもしれませんね。」
「そうですかね、やっぱり。コンピューターエンジニアだったんですが、大昔に比べると人材も多くて、若い人ほど最近の技術に詳しく、ともすると私のような年配は負けてしまいます。それで課長のような仕事をしていたんですが、特に要らないからと肩叩き、で依願退職させられました。退職金は貰ったんですが。毎日、することもなく自分で企業を立ち上げる力もなく、週に三度はハローワークで職探し。しますが、大手企業はね、ハローワークに求人を出さなくてもいいわけですから。で、ネットで職探しも叶いません。
第一、大卒者の仕事がない時代に又、なっているでしょう。」
「ええ、そうみたいですね。」
「何処の企業も人手不足はないです。ベビーブームなんて日本には再び、なかった。だから、そういう世代が辞めて会社は人手不足になる、という、ずっと大昔のような、そう、あれは平成とかいう頃でしたかね、そんなのもなかったでしょう?今までの日本では。」
「ああ、そうですね。人口も減り続けてますよね。又。」
そう答えた私の顔を見て、彼は、
「あなた日本人では、ないんでしょう?やはりヨーロッパの人、ですか。」
と聞いてきたので、
「ええ、北欧ですよ。」
と答えておくと、
「へえー、そうですか。そしたら、あ、そうだ。北欧に仕事があるんですね、だから声を掛けてくれたんだ。」
と嬉しそうです。
「そう、そんなものに近いですかね、ええ、ええ。」
彼は両手を胸の前で組んで、
「お願いします。コンピューター関連なら、一通り出来ますから。」
と私に頼み込む。
「おお、それは、こちらも希望していたところですよ。ご家族は、いらっしゃいますか、貴方。」
「いや、それが独身です。女房はいたんですが、私の給与が彼女の思うように上がらないせいか、イケメンのホストと同棲しているらしいですよ。取り戻すつもりは、ないし。」
「お子さんは、いらっしゃいますか?」
「いえ、ちょっと女房が不妊症らしくてね、ええ。」
「それでは気軽なものじゃないですか。」
「でも北欧でしょう、あなたの会社。」
「ん、まあね、遠いですけど、すぐ行けますよ。心配ないです。」
「パスポートとか作らないと、いけません。それは、県庁に行けば、いいから。暇だから、いいけど、北欧の言葉は何も知りませんよ、私。」
「語学は心配いりませんよ。日本語の分かる人達の部署が、あります。それに、そこは他にも日本から来た人達が働いていますから。」
彼の目は暁の星のように輝きました。
「それは、いいなー。すぐにでも、行きますよ。お国は、どちらですか?」
「行けば分かります。すぐに乗り物を用意しますから。」
と喫茶店を出て、会計は私持ちで。
近くにある広い公園。平日の午前なんて誰も、いません。私は空に向かって指を鳴らす。即座にUFOが私達の目の前に着陸。四十代の元、課長の男性は、
「な、な、なんと空飛ぶ円盤では、ありませんか。あなたは、もしかして、宇宙人?」
と幾分、顔が青ざめています。
「そう、その通りです。でも、ご心配なく。大昔のSFみたいに侵略目的で来ているのでは、ありませんから。」
「そ、そうみたいに見えます、が・・・・。」
「どのみち日本にいたって仕事は、ありませんよ。いい思いの出来るのは一部の日本人だけです。又、そういう社会になっているんです。こんな国に未練が、ありますか。」
と諄々と私は説きました。
「そう言われれば、その通りです。いや、ありがとう。あなたは日本語が巧い。それで声だけ聞いていれば日本人と思ってしまう程です。国際社会というより宇宙社会の時代かもしれませんね。私は運が、いいのかもしれない。行きますよ、貴方の星へ。」
という事で、彼にも宇宙船に乗ってもらえました。」
と、その若い男性は揉み手をして話した。
流太郎は、
「マイニングって地球では電気代が、とても、かかるという事らしいですが。」
と質問すると、その若いレプティリアンは、
「この星ではフリーエネルギーです。電力は無料なんです。」
と即答しました。
流太郎は次に、
「それでは電力会社の給料は、どうやって調達しますか。」
と尋ねると、
「それは、もう、税金ですよ。ですから電力税は、ありますね。」
「電力を使った分の税金、ですね?」
「ええ、そうです。おっしゃる通り。」
「それでは、やはり電気代、ならぬ電力税を多く払うという事になりませんか。」
「それは、その、国家的プロジェクトですから。我々の給料も税金ですから。」
「ああ、なるほど。それなら分かります。」
「仮想通貨のマイニングは我が国の国家予算で支払われます。いずれ、地球の仮想通貨と連動させなければ、ならないと思います。」
壮大な計画だ、と流太郎は思った。
やはり、まずはビットコインとの連動か。でも、他の惑星、それも何万光年も離れた星と仮想通貨を連動させる、には?流太郎は、
「どうやって、連動させますか?」
と聞いてみた。
「あ、それは簡単です。取引所を開設して新規コインを発行する。大昔、月の土地を売買している会社がありましたが、あんな風にするのもいいでしょう。もっとも、月には先住者がいるから本当には月の土地は勝手に売買は、できませんけど。真実を知る国は月から撤退しているでしょう。中国の探査船は、しばらく泳がせておくらしいですが。」
日本が月面に宇宙探査船を着陸させなかったのは経済的にも、よかったのだろう。流太郎は、
「仮想通貨で地球でも大儲けですね。」
と言ってみる。
「ええ、そうですよ。ここでマイニングの仕事に従事しませんか?」
と流太郎は誘われた。
「労働時間は、どの位でしょうか。」
「一日、六時間ほどです。」
なんと短い。それでは労働とは、いえない。地球の感覚としては。
「そんなに短くて、いいんですか。」
と流太郎は訊き返す。
「わが国の平均労働時間は三時間ほどですよ。週休三日制ですね、それに祝日もあります。」
「そんなに休みが、あるんですか、へえー、。」
「ゴールデンウイークは希望する人には二十日休めますよ。」
「二十日も。そんなに休んで、収入の方は大丈夫なんですか。」
「もちろん。そうでなければ休めませんよ。ね、鮫肌さん。」
管理者らしい若い男は輝美子を見て云う。
「ええ、そうです。わたしも今度、十日休む予定ですから。」
それに対して管理者曰(いわ)く、
「鮫肌さん、働きすぎですよ。彼氏と別れたの、いつでしたか。」
「三十年位前かな、ふふふ。」
管理者は流太郎を一瞥すると、
「地球人と、付き合うのもいいかもしれませんね。その人も、でも仕事がないんでしょう?鮫肌さん。だから、ここへ連れて来た。」
と身を乗り出す。
流太郎は慌てて、
「ぼく、仕事はあります。今日は日曜日だから、休みでした。鮫肌さんも、この星が今日は日曜日だと言いましたけど。」
と遮るように口を出す。鮫肌輝美子は落ち着いて、
「この人にはマイニングを見学してもらいたかったのよ。働いてもらう気は、わたしには無いけど。」
と解説した。
若い管理者は両肩を落とすと、
「それは申し訳ありませんでした。ここのマイニングは労働者の自由意思で休日も働きたい人は、働いてもらっています。その分、貰える報酬が増えるからです。現金の他に仮想通貨も支給しますから、株のストックオプション制度に似ていますね。」
と、それでも、まだ流太郎にマイニングしてもらいたさそうだった。輝美子は流太郎の視線を追うと、彼はもうマイニングの作業を見ていなかった。それなので、
「そろそろ、ここを出ましょうか?時さん?」
「は、ええ、出たいですね。」
「それじゃ、若き管理者さん、さようなら。」
「お疲れさまでした、お気をつけて。又、よかったら、この日本人労働施設に、お越しください。」
残念そうな、その管理者の視線を振り払うように流太郎は身を翻して輝美子に続いた。
 潜水艦ヨットに戻った二人は、さっきの警備員に門を開けてもらう。扉というより、その階の壁の全てが開いても湖水は流入してこない。輝美子は右足を押してエンジン、それは重力調整装置だが、を発進させた。潜水艦ヨットは湖水に潜った時、すでにヨットの帆は鉄の屋根の中に降ろされている。流線型の船体を再び、黄金色の湖水の中に辷(すべ)らせていく。
 それにしても、と流太郎は思う。今日は地球では日曜の午後だった。だが、もう、だいぶ時間が経過したから日没へ向かっている筈だが、湖水の中とは言え明るすぎる。時差?なのか。それを聞いてみよう。
「鮫肌さん、今、午後なんでしょう、この星で。」
「いいえ、まだ午前中よ。もうすぐランチタイム。貴方は何を食べる?」
「ぼくとしては夕食になります。何があるか知りませんから、何を食べられるんですか。」
「あら、ごめんなさい。そうだったわね。地球人のあなたが知る由もないわよね、この星の食べ物を。あ、そうそう。お腹がまだ減っていないのなら、このキャンディーをあげるわ。」
潜水艦ヨットの中央にあるテーブルのようなものの中から、輝美子は丸い包みの小さなキャンディーを流太郎に差し出す。それを受け取り、流太郎は両手でキャンディーの包装を開けると、メロンの色をした丸いキャンディーだった。
口に入れると流太郎は、地球のメロンより更に甘い味覚を味わった。
 輝美子は大きな丼のようなものを手にしている。丼の中は空だ。彼女はヨットのパネルの一つのボタンを押すと、
「xqw88::::」
とでも聞こえる、その星の言語で何か話した。何かを注文しているようだ。その話しを終えると輝美子は流太郎に、
「今、食事の注文をしたのよ。」
と話す。
彼女が持つ銀色の丼の中にクリームシチューのようなものが底から湧いてきた。丼の上部に細長いフランスパンが二つ、並んだ。輝美子は流太郎にフランスパンの一つを手渡し、
「食べてみてよ、おいしいよ、これ。」
と勧める。流太郎は、
「ありがとう。いただきます。」と礼を言うと、それを口の中に頬張ると、そのパンの中に細長く切られたメロンが果実として入っていた。(これが本当のメロンパンだな)と流太郎は、舌先の心地よい食感を堪能した。輝美子はフランスパンを食べ終わって、ドンブリの容器を手に持つと右手で丼の側面にあるボタンを押す。すると丼の中のクリームシチューのようなものが噴水のように沸き上がり、彼女は、それを口の中に入れてしまった。
不思議な事に丼の底まで、綺麗にクリームシチューらしきものが無くなっていた。輝美子は、
「それでは、と。上昇するわ。」と宣言する。潜水艦ヨットは湖面に向かって急上昇した。黄金の水の上に現れたヨットは潜水艦の鉄の壁を降ろし、その代りにヨットの帆を広げた。爽やかな、そよかぜが二人の頬を心地よく撫でる。
輝美子は計器盤のようなものを見ると、
「地球の日本では日没のようよ。時さん、ここから帰りなさい。」
「えっ、ここから、どうやって帰るんですか?考えられない事です。」
「貴方を光線に分解して、瞬時に地球へ戻すから。」
輝美子は計器盤にある一つのボタンを押した。その近くから流太郎に投射された黄色い光は、彼を包むと小さなスピーカーのような物の中に吸収された。流太郎の姿は、もう、その星には見えなくなっていた。

 流太郎は気が付くと、地球の日本の自分の部屋にいた。(あれ、今までの体験は夢だったのか・・・)と思ってみる。が、しかし、口の中に残っていた地球のものより甘いメロンの小さな果肉が、舌先に触ると、(やはり、あれは本当にあった事だったんだ!)
部屋は薄暗かった。太陽が沈んでも、しばらくは闇にはならないものだ。それでも部屋には照明が必要だ。流太郎は携帯電話で照明をつけた。これは部屋の外からでも、できる。インターネット接続で可能なもので、別に不思議なものではない。
不思議なのは鮫肌輝美子に連れていかれたレプティリアンの星だ。黄金の湖に、その中にあった五重の塔のマイニング施設。この事を誰かに話したい。今はまだ19:00PMだ。よし、電話を掛けよう。
流太郎はノートパソコンから通話する。パソコンの画面に株式会社夢春の籾山社長の顔が現れた。籾山も自分のパソコンを見ているようだ。籾山は口を開くと、
「日曜の今頃、どうしたんだ?時。」
と聞く、流太郎は、
「社長、今日は、とても不思議な体験をしました。五万光年先のレプティリアンの星に連れていかれたんです。」
「ほ、お。有り得るかもしれんな、そういう話。」
「潜水艦ヨットにも乗せてもらったんです。我が社でも開発できたら、いいと思います、潜水艦ヨットを。」
「そんなものは無理だな。資金なし、技術力なしだ。それより時、営業に行ってもらいたいんだ。明日、会社で話そうと思っていたが、丁度いい、今、話そう。」
「は、どこへ行けば、いいので。」
「あるUFO関係の団体が福岡市内にある。そこのホームページのサイバーセキュリティの依頼が、今さっき突然来た。会社に誰もいない時は、おれの携帯に転送される。日曜だけどな。だから、時。おまえも働いてくれ、とはいっても、そこに訪問するのは明日でいいよ。」
社長の籾山はパソコンの画面の中でニヤッと笑った。流太郎は、
「分かりました。明日、朝一番に行きます。」
「ああ、頼んだぜ。楽しみにしているよ。」
パソコンの画面から籾山社長の顔は消えた。向こうの方で電話を切ったのだ。
 翌朝、流太郎は早朝に出勤した。社長の籾山は、それより早く出社していた。さすがは社長か。籾山は社長の椅子から立ち上がると、
「やあ!早く来てくれると思っていたよ。先週より今週の我が社の株価に期待していい。それよりなによりも、まずサイバーセキュリティの営業に行ってもらいたい。出先は昨日パソコン電話で君に話した福岡市内のUFO関連団体だねー。中央区薬院にあるのさ。とあるビルの一室らしい。私はまだ行った事が、ないビルだ。ビルの名前はパインアップル・ビルらしいよ。地図も渡して置く。君の机の上に置いてあるから。」
籾山は貫禄の出て来た体格になっている。少し、腹も出て来た。流太郎は未だに線のように痩せた体だ。
「分かりました。行ってきます。」
「がんばってくれよ、ね。」
流太郎が部屋を出ていく時、籾山は右手を振った。

 福岡市中央区薬院は福岡市の中心部の天神より南にあり、私鉄の駅としては天神駅の南にある。この天神という名称は、小さな天満宮が祀られているところがあるところから、だ。今ではビルの谷間の中に、ひっそりと存在する。高度なテクノロジーの時代になっても、日本には、このような社が存在し続ける。
それは、かつて羽田空港を建設した際にも起こった、社を取り除けようとすると怪事が起こるからでもあろう。
私鉄の薬院駅を降りると、ビルが乱立している。国道から南へ五分も歩くとタワーマンションが、いくつも見えた。流太郎の小学校の同級生も、あのタワーマンションの中に妻子と住んでいると彼は聞いている。
この薬院ではタワーマンションが増えすぎて、小学校の教室に生徒が入りきれなくなった。それで、どうしたかというと小学校の建物も上に増築していったのだ。タワー小学校みたいに見える建物が流太郎の瞳に反映した。彼は歩道の区分のない道を、のんびりと歩いていく。UFO関係の団体か。福岡市では珍しい組織。いや、組織では、ないのかも。会社でも、ない団体だろう。流太郎にとってUFOとは見慣れて、乗りなれたものなのだが。だが、二十二世紀の今日でも一般的な日本人は空飛ぶ円盤に接触する人は少ない。そもそも明治の前の江戸時代は、もちろん、大正、昭和の初めまでUFOなどというものは誰の口の片隅にも上る話題ではなかった。それは世界的にも、そうではなかろうか。世界で最初にジョージ・アダムスキーがUFOを目撃したのみならず、中から現れた金星人と会話をしたのが1952年で、その会話は、もちろんテレパシーだったそうだ。流太郎の場合、異星人は日本語を知っていた。どころか流暢に話してくれたのだ。地球では外国に行く場合には外国語を知らなければ、いけない。日本に来る外国人は、おぼつかない人もいるけど大抵、日本語は勉強して、来る。地球に来る異星人は地球の言語を学習しているのだろう。それよりも、これから会う団体の主催者は日本人ではないらしい。
メールド・ヨハンシュタインという名前らしい。長年の活動で会員名簿も増え、クレジットカード決済もホームページ上に載せているためサイバーセキュリティが必要だ、そうだ。というのは電話で聞いた話。と頭の中で流太郎は思い出しつつ、目の前に見えたのはキリスト教の教会のような建物だ。
UFOアプローチ・ジャパンと横書きの表札があった。鉄条門のため庭らしきところも見えるが、入れない。と思ったら、スルスルと鉄条門は横に開き、流太郎が通れるくらいの隙間は空いた。(どうしようかな)と流太郎が思っていると、門のところにあるインターフォンのスピーカーから、「時さん、お入りください。」と若い女性の声がした。メールド・ヨハンシュタインは女性だったのか。流太郎は遠慮なく門内に入る。西洋風の庭園を横切ると玄関があり、そこでもチャイムを鳴らす前に玄関のドアは開いたのだ。
 玄関のドアの中にいたのは若い女性で、透明のような白さの肌の若い女性だった。緑色の瞳で、黒く長い髪は彼女の肩の下まで伸びている。流太郎は会釈すると、
「株式会社夢春の時と申します。サイバーセキュリティの件で今日は、お伺いしました。」
その女性はニコリともせず、
「ヨハンシュタインは不在ですが、わたしが応対します。さあ、中へ。」
と明瞭な日本語で話した。
西洋館らしく、靴は脱がなくてもいい。その女性がドアを開けた部屋は事務所らしかった。机は二つあって、ノートパソコンが置かれている。サイバーセキュリティが必要らしい。流太郎は、それらのパソコンを見ながら、
「ハッカーが欲しいのは、お金よりもUFO情報じゃありませんか?」
と尋ねると、その女性は、
「ええ、何度か狙われました。情報の一部はファイルごと持ち去られたものもあります。幸い、それらのファイルは、それ程、機密の高いものではなかったのですが。申し遅れました、わたし、ジェノア・フランシスといいます。」
彼女の瞳は深い湖のような静けさを漂わせている。流太郎は、
「こちらこそ、申し遅れまして、すみません。先ほどは苗字だけでした。時流太郎と申します。」

sf小説・体験版・未来の出来事6

 それで流太郎は、
「テスラ波で何の情報を送っているんだろう、地球から。」
と綸蘭に聞いてみた。
「バリノさんの話では、地球の全人口とかも送られているらしいわ。」
「そんな事まで!他には、どんなものを?」
「世界各地の気温とか、湿度とかなどもね。スフィンクスの目を通して世界各地を撮影しているらしいけど。」
「エジプトのスフィンクスは、そのために、あったのか!」
 なるほど古代に現れた宇宙人は粋なものだ。美術品的な建造物に実用的な目的を潜ませる。それでエジプト人は何ら怪しみもせず、又、現今までスフィンクスの本当の目的を人類は知らずにいた。綸蘭は続けて、
「その情報は火星にではなく、プレアデスに送られているとも言われています。プレアデス星人は大体において善なる存在だそうだから、地球は安全なのよ。そうでなければ地球人は奴隷以下の存在として扱われていたでしょう。」
流太郎は、善なる宇宙人だからこそ地球人は宇宙人に対して無知でいられたのだろうと思った。数限りなく多くの人達、特にメキシコやマレーシアで目撃されたUFOでさえ、他国のアカデミックなところでは黙視されてきた。それは自分達の拠り所とされる地球の幼稚な科学的根拠が崩壊するからである。そもそも地球の宇宙に対する科学の程度は群盲がゾウの体をあちこちと撫でているのと同じで、ある者はゾウの尻尾を象だと言ったりしている。いずれ天動説が崩れていったように地球人は自分達よりも数万年か数千年進歩した宇宙人の存在を認めなければ、ならなくなるが、天動説を当時の教会が固執したように現代においても地球オンリー説に固執するところが存在する。
一つは頭がいいと己惚れている大学教授らが断固として宇宙人の超科学を否定し、太陽は爆発し続ける星だという今の地球の科学で説明可能なものにしていなければ、更に無知なる大衆の失笑、非難を買うこと必至であるがため、新しい正しいものを否定し続ける。それを旧来のメディアは追随してきた。ところがガリレオ並みの勇気ある人たちが動画共有サイトで火星の真実なども暴露、リークし始めたのは随分前からだ。
博多湾の上に浮かぶ愛高島も世界第一の不思議と称えられても、その原理は今の地球の科学では解明できない。ヘリコプターや飛行機、さらに高度な地点での人工衛星などによって愛高島の島の上を実際に見ることができるのだが、それらのものが出来ていない時代には愛高島は地上からしか見ることが出来なかったのだ。
真上綸蘭は一息つくと、
「一つ下の階で映写室があります。そこで何か面白いものを放映しているみたいだから、行きましょう。」
と若い女性らしく流太郎を誘った。
下の階へ行くエスカレーターのところにいくと、綸蘭は、
「どちらかの手を手すりにかけると、体が浮くわ。見て。」
と説明し、エスカレーターに乗ると右手を手すりに掛けた。すると不思議!綸蘭の体は足の下が数センチは浮き、右手で支えた形になる。
昔、いたイギリスのマジシャン、ダイナモがロンドンを走るバスに片手で手のひらをバスの車体の側面につけ、空中に浮いたままの姿勢でバスが走っていく、という動画共有サイトで見られた光景を思い出してもらえば、分かりやすい。
綸蘭の場合はエスカレーターの手すりに右手で、それを行っている。流太郎は、
「すごいなあ、僕にもできるのかね、それ。」
と後ろ姿の綸蘭に訊くと、エスカレーターで下りゆく綸蘭は、
「誰でも、このエスカレーターでは出来るわ。やってみて。」
と返事をしてきた。
流太郎も右手を手すりにおくと、エスカレーターの上で流太郎の体は数センチ浮上した。
「うわああっ、浮いたよー。」
と叫ぶ流太郎は先にエスカレーターで降りて、その近くに待って立っている綸蘭の睫毛を伏せている笑顔を、下降しながら見た。
 不思議な映写室とドアの上に表示されていた。そこへ入ると、まだ観客はいなかった。やがてブザーのような音がして館内は暗くなる。綸蘭と流太郎は最前列の中央で並んで、映写幕に映るものを見ていくことになる。
大きなスクリーンに石器時代の地球が映し出された。次に現れたのは古代人。簡単な服を着て、手に石の斧を持っている。
次にマンモスが現れる。その時、この古代人が巨人、である事に見ている二人は気づいた。
身長四メートル以上だ。彼はマンモスと戦い、石斧でマンモスを倒した。
ドスンッ!と倒れるマンモスの肉を石斧で切り刻み、巨人は、その肉を抱えられるだけ、抱えて森林の中の洞窟に持ち帰った。その洞窟は巨大なもので、そうでなければ巨人は暮らせないだろう。中には若い女性、おそらくは巨人の妻であろう、これも又、巨人の四メートルはあろうという体を洞窟の中で座って待っていた。
その巨人の女性は胸は、なにも纏わず、白い乳房を露出している。巨大な胸だし、乳首や乳輪も巨大だ。現代の普通の女性の二倍以上の乳房だ。顔や腕、足もその位の大きさで、巨人の女は腰の周りに白い布を巻いている為、陰毛や尻は見えない。
スクリーンに但し書きのような文字が現れ、
これから行われる会話は日本語で字幕として、画面下に現れます。
古代巨人夫妻は会話を始める。妻が、
「わあ、すごい!マンモスなの?今日は。」
と両手を叩いて乳房を揺らせた。
「ああ、簡単に倒せたよ。」
洞窟の中では小さな焚火が燃えている。妻は夫が置いたマンモスの肉の一部を手に取ると、焚火で焼き始めた。彼女は、
「炭も置いているから炭火焼きなのよ。おいしくなるわ、今日の焼肉。」
と古代人にしては知恵がある発言、それとも巨人として当たり前な文化の度合いを示す発言なのか、それを楽しそうに話した。横から見える彼女の姿は尻の膨らみも凄く、百八十センチはヒップサイズとして、あろう。バストも百八十センチほど、あるらしい。ただ洞窟の中では彼女の体と対比するものが、ない。スクリーンで見ていても、黒い長い髪の、白い肌の、目も黒色の成熟した女性としか見えない。
焼肉の二枚目を火にくべようとした時、美巨人女性の腰の布が落ちた。巨人の男は寝そべって、妻を正面から見ていたので、彼女の大きな股間の黒い恥毛と、その下の女の縦の溝を見てしまった。
「おうい、焼肉より、おまえのその足の付け根の穴の方が、おいしそうだなあ。」
と涎を垂らしながら巨人は立ち上がる。その時、巨人のペニスも隆々と勃起していた。勃起すると男の腰の布は落ちるようになっているらしい。巨人の男のペニスサイズは五十センチは、あるだろう。妻は、それを見ると、
「いつみても逞しいわ。早く、ほしい。」
と話すと、二メートル近い白い両脚を広げて寝そべった。
画面に
学術的に作成された映像ですので、真摯に観察しましょう
という但し書きが出た。
巨人の男は妻に、のしかかると五十センチを妻の細長い、現生人類の二倍強の女性器に挿入していった。
巨人であるから荒々しいセックスかというと、そうではなくてスローセックスともいわれるもので、映像は二時間も二人の巨人の性交を描いていた。流太郎は綸蘭の横顔を見たが、彼女は真剣に古代人の性行為を眺めていた。
文章での記述では会話は日本語で表記したが、映像の中では古代語と思しき言語が交わされ、性交中に美巨人女性が発する声も古代語らしく、
「ええあっ。」とか、「あうあうあうんっ。」と聴こえる快感の言語的表現もあった。
二人の身長が四メートル以上という事を頭に入れておかないと、ただの古代人の性交映像と見られてしまうだろう。
性交は終わった。巨人の男は焼けた肉を手に取って食べると、
「よく焼けすぎたな。まあ、ウェルダンだから、いい。」
と焼肉の焼け方の評価をした。
美巨人女も焼肉を食べ、
「おいしい、ね。お腹もいっぱいになると、又、セックスしたくなったわ。今度は外で、しましょう。」
と男の三十センチに戻ったペニスを右手で掴んで立ち上がる。
「おっとっととと。急いで立つと、ちんこ切れてしまうぜ。」
巨人男も慌てて立ち上がる。スクリーンに
野外セックスも学術的興味を持って御観覧ください

 二人は晴天の森の中で、長い木の枝の下で立ったまま結合すると、二人は両手を伸ばして木の枝に掴まり、ブランコで揺れるように性交時の結合のまま、空中を揺れた。
二人の巨人を同時に支える木も巨木で、枝も太い。巨人の女は両足の裏を巨人男の尻に絡めている。
サーカスで男女が揺れるものが、あるが、古代の巨人の男女は性交したまま、それも二人が向き合ったままでの結合状態で大きく揺れているのだ。
巨人の男は、
「おお、たまんねえ。次は位置を変えよう。一度、木の枝から降りるべえ。」
と妻に話すと、
「そうするわ、うええ、あうううっ。」
二人は木の枝から離れると、地面に着地し、体を離す。次に巨人の美女は背中を夫に向けて、両脚を大きく開く。夫の巨人は再び五十センチになった、巨大な男根を妻の巨大な女性器に深く挿入、そのまま二人は巨木の枝に手で掴まり、ぶらさがると前後に結合したまま体を揺らせていった。
ここで映像の一部は終了した。
流太郎は、
「続きは、あるんだろう、これ?」
と綸蘭に訊くと、頬を染めた綸蘭は、
「この映写室、まだ一般には公開されていないの。続きは製作中という話よ。」
「あれさー、俳優がやっているんだねー。」
「いいえ、CGによる古代人の再現映像です。」
「それにしては、よく出来ている、凄すぎる。」
「現存の人類の記憶には、ほぼないものをアカーシック・レコードから採取して火星の映像制作会社が作ったものなんです。」
「アカーシック・レコードって、なに、それは。」
「人類の発生から現在までの全ての出来事を記録しているのがアカーシック・レコード。」
「映画は終わったから、出ないといけないんじゃないか。」
「入場者は他に今日はない、というより、まだ一般的に未公開だし、わたしの権限で、いられるのよ。」
「それなら安心だ。僕のアカーシック・レコードも何処かにある、という事だね。」
「誰のも平等にある。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の分まで、あるかは、わからないけど。」
「神話の神様の伊弉諾尊だろう?神界は深い海の深海のように理解できない。」
「それよりも今日は何か動くって、バリノさんが言ってたわ。」
「何が動くんだろう?」
「さあね、それは、わたしにも分からないわ。出ましょう、ここから。」
綸蘭はスラリ、フワリと立ち上がった。映写室を出ると、例の片手で手すりに摑まると足が宙に浮くエスカレーターに乗って、二人は一階に降りた。そこにレストランがあった。
綸蘭はガラスの向こうに見えるメニューを見ると、
「食事にしましょう。時さん、お腹、空腹じゃないの?」
「そういえば、昼になったね。ここのレストラン、変わっているな。」
「最先端のレストランなのよ。牛鰻定食って、面白そう。高いけど、わたし、これにする。」
「僕も、それにするか。真上さん、中に入ろう。」
二人は、その店の前に立つとガラスの扉が開いた。のみならず、二人の立っていた床面が店の中に移動したのだ。それで、二人は歩かずに店内に入っていた。
店内は牛丼屋みたいで、チェーン店とかと違うのは座敷がある。店内は誰もいなかったのだ。店主らしき中年男が、
「いらっしゃい。四人が座れる座敷にどうぞ。うちは高いのか、あまり、お客さんが来ないので貴方達は大歓迎です。」
と声をかけてきた。板前風の白い和服の上下を着た店主は、座敷に向かい合って座った綸蘭と流太郎に、おしぼりと、お茶を持ってきて、
「なんにしましょうか。とりあえず、ぎゅううな定食は、おすすめです。」
と話す。綸蘭は、
「鰻と牛肉が入った丼ものね。」
と訊く。店主は、
「そうだけど、これが御客さん、牛の体の一部が鰻になっている牛を使っているのですよっ。」
と説明する。綸蘭と流太郎は同時に笑うと、流太郎は、
「そんなー、また、また。」
と受け答える。店主は真顔で、
「本当なんですよ。この島の管理者はバリノさん、ていう火星人だけど、」店主は綸蘭を見て、
「話しても、いいのかな真上さん。」
と訊く、綸蘭は、
「ええ、この人になら、いいわよ。」
店主は、うなずき、
「火星で牛と鰻を合成したんだって。」
と言うではないか。流太郎には、よく理解できなかった。
「牛と鰻を、どう合成したんです?」
店主は、
「雄牛の精液に鰻のDNAを混入して、牝牛と交合させたら、できた子牛には腹から鰻のようなものが垂れ下がるそうですよ。それが牛の肉と鰻の肉の混じったモノらしく、おいしいんですよ、とっても。」
流太郎は、
「その鰻には頭は、あるのかなあ。」
店主「頭は、ないそうです。ぎゅううな定食に、しますか?」
二人は、うなずいた。
早くもないが遅くもない出来上がりで、二つの丼が二人の前に置かれた。
流太郎は丼に並んでいる肉に驚く。それは牛肉にウナギの蒲焼きが二つ、くっついたものだ。店主は自慢そうに、
「なるべく牛が生きている時の姿に、したくってね。鰻だけ蒲焼きにするのは面倒ですけど。」
と説明してくれた。
流太郎は食べてみて、鰻と牛肉のくっついた肉の味わいを感じた。
レストランを出て、ピラミッドも出た二人は空に浮かぶ雲を見た。雲の動きから流太郎は、もしかしたら、この浮かぶ島は今、動いているのではないか、思ったのだ。
「真上さん、愛高島は動いているんじゃないの?」
「そうね。東に向かって移動しているみたいよ。」
「浮かぶ島が動くなんて。」
「浮かんでいるだけじゃ物足りないわ。」
島が動く速度としては速いのか遅いのか、流太郎には分からなかった。
だが地上にいる人達は空を見上げて、島が動いているのを見た!
「おい、愛高島が飛行を始めたぞ!」
「ほんとだ!空を飛んでいる!」
博多湾の沿岸から愛高島を眺めていた人達は、東に向かって飛んでいく愛高島を驚嘆のまなこで見つめ続けた。
 愛高島は瀬戸内海を渡り、伊勢湾を通り過ぎ、駿河湾へ到達すると、そこで一時、停止した。
駿河湾は日本で一番深い湾で最深2500メートル、ある。日本一高い山の富士山と対照的だ。
雲を見つめていた綸蘭は、
「止まったわ。腕時計にある位置情報を見るわね。」
彼女は突風が吹くと折れそうな左腕を上げると、多機能腕時計のガラスの面を見る。
「今、愛高島は静岡県の駿河湾の上空よ。」
と笑顔で流太郎に告げる。流太郎は驚くと、
「そんなにも移動したのか。並みのジェット機より速いじゃないか。」
「推進力が反重力だそうだから、自由自在に燃料なしで速度を上げられるらしいわ。」
「反重力とは偉大だね。」
「あなたと、わたしの間にも重力は働いているけど体重の重さの方が勝っているから、自然にしていたら体がくっつく事は、ないの。」
綸蘭と抱き合えれば、それは幸せな重力だ。康美との間には反重力が働いたのだろうか、と流太郎は思った。
愛高島の他の人達は、この移動に気づいていないのかもしれない。地上にいる人々も日曜日に空を見る人は多くはない。釣りをしている人はウキを見ていて、空は見ないものだ。
偶然にも空を見て、駿河湾の上に巨大な島が静止しているのを目撃した人は、UFOを見るよりも驚いた。
やがて愛高島は相模湾へと移動を開始した。相模湾も水深が深く、駿河湾に次いで日本で二番目の深さだ。水深1500メートルの深さのある場所がある。
この相模湾の上でも愛高島は停止した。相模湾の深い場所は小田原より西であるのだが、愛高島は更に江の島の真上に飛行を続け、そこで飛翔を突如、停止した。
日曜日だけに観光客も多く来ていた江の島が、いきなり曇り空のように暗くなった。空を見上げた観光客の若い男が、
「うわあっ、あれは何だっ!!」
と大声を上げたので、周りの人々も一斉に空を見上げる。そこには、江の島よりも大きな円形の巨大な白い物体が浮かんでいるのだ。巨大なUFOに見える。愛高島の底部は火星の白金で作られている。
「UFOか?あれはー。」
「いきなり現れたぞー。」
多くの人は携帯電話でカメラに撮影し始める。へたへた、と座り込む女性も見られた。そこから逃げようにも浮かぶ物体は江の島より大きいのだ。走っても、その白い円から抜けられない。それに過去、大きなUFOはメキシコやマレーシアで多くの人々に目撃された。その時、その人たちは逃げもせず現れた円盤を見ているのだ。
それらの事実から今、江の島にいる観光客も逃げ出そうとする人は、いない。
ただ、あの巨大な江の島より大きな物体が真っ逆さまに落下すれば、そこにいる観光客は全員、圧死するだろうし、江の島神社も全壊する。
とはいえUFO落下事件は、滅多に起こらない。それもあってか人々は冷静でいられた。
学者風の中年男性が口を開き、
「もしかして、あれは福岡市の博多湾に浮かんでいた愛高島ではないか、と思う。」
と右手を自分の顔の眉のあたりに翳(かざ)しつつ、意見した。周りの人達も、
「そういえば、そうだな。あれ位の大きさだった。」
「でも博多湾の上に静止していたんだろう。」
「最初は何処からか、飛んできたはずだよ。」
「何処から、飛んできたんだろう。」
「もしかして地球外から、か。」
「そんな事は、ないさー。あれ位、大きな物体が地球外から飛んで来ればNASAなら気づく。」
「そういえば、そんなニュースもなかったなあ。」
それで愛高島は世界中から注目されている。日本の方からも愛高島の出現をうまく説明できる人物は出てこない。
カメラに撮影しない人達は真っ先に携帯電話で誰かに話していた。
十分もすると愛高島は移動を始める。その速度は一瞬にして江の島を離れ、下にいた観光客らは次の瞬間、愛高島を見失ってしまった。
次に現れた愛高島は東京湾上だ。それから皇居の真上、そしてJRの山手線に沿って東京都区部を一周する。
愛高島のピラミッドの近くの野原にいる真上綸蘭と時流太郎は、携帯電話でバリノの説明を受けた綸蘭が、
「今、東京の山手線に沿って、右回りで動いているそうよ、この愛高島が、ね。」
と話すと、流太郎は、
「信じられないな。動いているのが感じられない。」
「愛高島の周囲に目に見えないバリアを作っているんですよ。それで風も吹かないし、揺れも感じないの。」
「ジェット機よりもリニアよりも揺れないね。」
「この島自体が巨大なUFOなんです。これでも小さな方で、木星の大きさのUFOも火星のものではないけど、存在するんだそうよ。」
「木星と同じサイズのUFOか。それも信じられない話だ。それじゃあ木星もUFOか、という話になるね。」
綸蘭は、それに対して生真面目に、
「月は人工物でUFOのようなもの、という事らしいわよ。」
「またー、そんな事は、ないだろうー。」
「月だって地球より遠くから飛来してきて、地球の軌道と一つになって回っているけど、月の内部は宇宙人が住んでいます。それに月は地球に多大な影響を古来から与えているわ。女性の月経にも月は影響を与えているし、満月に事故がおおいとか、月の重力が海の波を起こすし、これらは宇宙人が人類を実験するために月を送り込んだそうです。火星では小学生でも知っているんですって。」
「月には女神じゃなく、人類をモルモットのように調べる知的生命体がいるのか・・・。」
「神隠しって日本でも古くからあるけど、あれの一部は月に連れられて行っているんです。アポロの乗組員も月の裏側で幽閉されている地球人を見たそうよ。木星や土星の衛星も人工物があるらしいってバリノさんの話ですわ。」
綸蘭の携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし、真上です。あ、バリノさん。こんにちわ。え?今、東京都庁の建物の上に、愛高島は停まっているんですか・ええっ?島の底部から、いくらかの下水を出して都庁のビルにかける・・・おしっこ、とか・・アハハッ、面白いわっ、本当ですか?」
「本当だとも。火星から遠隔操作しているんだ。今、都庁のビルの屋上に愛高島の下水を十リットル放出しておいた。」
と愉快に話すバリノの声は綸蘭の横にいる流太郎にも聞こえた。
都庁のビルの屋上には人は誰もいなかったが、第一本庁舎の45階展望室のガラスの窓には愛高島からの下水が流れ落ちて行った。そこの展望室、地上から202メートルの高さにいた人達は、それを見て、
「雨が降って来たよ。」
「それにしては黄色いなー。」
「黄砂の影響だろう、きっと。」
「黄色の雨降る新宿都庁、か。」
と楽しそうに話した。

 自衛隊は愛高島の飛行に気づいていたが、敵機でもないので出動はできない。東京都民は空を見上げる人も少ない、というより、いなかったので愛高島は都民の誰にも気づかれずに新宿から池袋へと飛ぶ。
 池袋ハイスカイトウキョウという八十階建ての高層ビルの真上を愛高島は目指す。そこの展望室は全面のガラス張りだ。
停止した愛高島は底部より下水の放出を開始した。
若いアベックの男女が、その展望室のガラスに流れる黄色い液体に気づいた。女が、
「黄色い雨、かしら。」
「黄色い雨、だろう。」
「幸せの黄色い雨よね、きっと!」
「幸せの黄色いなんとか、とかいう今は太古のような昔の映画に、そういうタイトルあったさ。」
「幸運の前触れっ。わたしたちの、これからの幸福を祝福してくれているのね、神様が、きっと。空から降らせてくださっているのよ、黄色い雨を。」
「ああ、シャワーのように浴びてみたい雨だね。」
若いカップルは愛高島からの下水を飽きる事もなく、眺め続けていた。

 その時、ハイスカイトウキョウの真上にいる綸蘭と流太郎は、携帯電話で綸蘭がバリノの話を聞く。
「えっ!?池袋のハイスカイトウキョウの真上から、又、あれを・・・・。」
「ああ、今度は多めに20リットルのサービスで。よし、終わった。」
「東京の今日の天気は一部、雨だわ・・・ふふふっ。」
と綸蘭は小さな声で呟いた。

 東京都では今、百階建てのビルが建築中だが完成した暁には愛高島の下水放射をバリノ氏は計画中であるという。
 赤羽を過ぎ、上野から東京駅の真上に到着、停止すると、バリノは携帯電話で綸蘭に、
「今から光速で運転して地球を一秒で七回り半してもいいが、別に面白くないから福岡に帰ろう。」
それは光速で行われた。
一秒未満の時間で愛高島は福岡市の博多湾上空の定位置に戻ったのだ。

 城川康美は愛高島に住んでいるわけでは、なかった。マンゴーは売り切れるのが早く、三時には在庫がなくなる。店で置いておける量には限界がある。次の日の早朝に火星から新たにマンゴーを運んでくるのだ。
康美は午後三時過ぎに店を閉めて帰宅する。ヘリコプターで福岡市の地上に戻るのだ。その代り、朝は早い。午前八時には火星から来るマンゴーを受け取りに愛高島には昇っている。
 今は午後三時、康美は愛高島が東京まで移動したのも知らないまま、店を閉めてヘリコプターで地上へ降りて行った。

 康美は自宅へ直行する。暇だからネットサーフィンをする。元々、康美はインターネット関連会社に勤めていた。マンゴーの販売は接客であり、聊(いささ)か疲れたのだ。
誰かに任せたい。そうすれば三時で終わることもなく、若返るマンゴーは販売される。
求人など自分のブログに書けば、いい。
マンゴー販売責任者募集します
 福岡市の愛高島でマンゴーを販売してくれる方、資格、経験は問いません。二十五歳までの女性の方を募集しています。
そうキーボードでパソコンを打つと、康美のブログは更新された。
(これで、誰か来るわ。)康美は「株 投資顧問 福岡」で検索した。すると一番目に出たのが、株カイヤスカーという福岡市にある顧問会社だ。
そのサイトで無料会員登録を康美は、したのだ。彼女は貯金ばかり、しても、しょうがないと思った。それで株式投資を始めようと思ったのだ。すぐに返信が来た。

 ご登録、ありがとうございます。株カイヤスカー代表取締役の蕪山で、ございます。弊社では南区高宮にて株式セミナーなども開催しております。お時間が、ございましたら是非、お立ち寄りください。
明日の午後、四時もセミナー開催の予定です。

 そのメールには、その他に無料推薦銘柄としてマザーズの株式会社夢春も取り上げられていた。
康美は、それを見ると、
「明日の午後四時なら愛高島の仕事が終わって、すぐ行けるわ、よし、決めた!」
と独り言を呟く。
その時、康美の携帯電話が鳴り出した。
「はい、城川です。」
「初めまして、こんにちわ。相出(そうで)澄香(すみか)と申します。」
「ええ、初めまして。それで、ご用件は何でしょう。」
「社長のブログ、拝見しました。わたし、ぜひ、働きたいんです。マンゴー販売の仕事です。」
「ああ、見てくれました。もちろん、募集中ですし、あなたが第一番目に応募してくれましたわ、相出さん。」
「そうですか。わたし、曾曾祖母の名前は相出スネといいます。余計な事だと思いますけど。」
「まあ、面白いわ。フルネームを名乗ると同意した事になりますね。」
「ええ、そうです。わたしも社長の仕事の募集に同意します。」
「ありがとう。面接には、いつ、来ますか。」
「今からでは、どうでしょう。」
「いいわよ。会社は愛高島にあるけど面接場所は、わたしの自宅に来てね。」
そこで相出澄香は康美の香椎のマンションに面接に来る事になった。
十分もすると、康美の部屋に玄関チャイムが鳴る。玄関前が映像で見れるので康美は玄関の中にある小さなパネルに映った相出澄香の可愛い顔を見ることが出来た。十代のような美少女、未成年なら雇用するのは難しいな、と康美は思いつつ玄関を開けた。
相出澄香は笑窪を浮かべて、
「こんにちわ。相出です。」
「待ってたわ。上がって、中に。」
「はい、お邪魔しまーす。」
元気な相出の明るい声は康美の心も明るくした。
 少しでもマンゴーを置けるように康美は住居を変えて、3DKのマンションを借りている。その一室は事務室のような役目にしていた。応接テーブルと椅子も揃えていた。人を雇いたくなったのでネット通販で購入していた。康美は澄香に、
「そこに座って。面接を始めます。」
澄香は着席、康美は彼女に相対して座ると、
「履歴書もPDFファイルで送ってもらったもので、いいです。あれで貴女の履歴は見ましたよ。ですから、それについては合格ね。」
澄香は嬉しさ満面になり、
「では、わたし採用ですね?」
「あなたの明るい笑顔と声も、いいわね。明日から働いてもらいます。」
康美は印刷した澄香の履歴書を自分の机から持ってきて手に取ると、
「えーっと、短大卒業後、サイバーモーメントの子会社である中国料理レストラングループ『食べチャイナ』に入社。そこでは、どんな仕事を経験したの?」
「レストラン業務全般と、主に接客です。マンゴーのデザートも客席に、よく運びました。」
「ああ、それでは慣れたものですね。お客さんにマンゴーを売るのは。」
「わたしサイバーモーメントの黒沢社長が接待する貴賓室にも、よく料理とマンゴーを運びました。」
「貴賓室って、レストラン内にあるの?」
「サイバーモーメントの本社にあります。」
「『食べチャイナ』にも個室は、あるわよね?」
「それは、ほとんどの店にあります。わたしが研修を受けたのは、『食べチャイナ』高宮店です。ちょっと高めの価格設定でも、お客さんが来店してくれます。」
「若返るマンゴーも高いけど、買ってもらえるから、あなたには適人適所だわ。」
「わたし、まだ若いから若返っても、しょうがないですけど(笑)。」
「いずれ貴女も歳は取るわ。二十五歳より上に行っても、若返るとしたら・・・いいと思わない?」
澄香は両眼を斜め上に向けて宙を見るような顔をして、
「いい、と思います。社長も若く見えます。それはマンゴーの影響ですか。」
「そうなのよ。若返ってしまったの。実は、このマンゴーはね・・・。」
康美は思いとどまり、
「秘密があるけど、いずれ教えてもらえるかと思う。」
「へえ、そうなんですか。知りたいです、社長。」
「許可がいると思うから、その話は、ここまでで。面接は終わりですよ。明日、朝八時前五分までに、ここへ出社よ。」
「はい、社長。それでは失礼します。」
相出澄香は積極的に立ち上がると部屋を出る。康美も玄関まで見送った。

 翌朝、指定された時間に澄香は出社してきた。
「おはようございます。」と挨拶する彼女の上着は黄色でスカートは赤。黄色と赤で、よく目立つ。スカートは膝まである長さ。昨日と違って澄香は胸のふくらみが良く分かる上着を着ている。康美は、
「相出さん、お早う。貴女の胸、大きくて、いい形よ。」
「うふ。接客には必要ですもの、女なら。」
と可愛い声で澄香は答えた。
康美は、
「屋上に行くわよ。このマンションに。」
と指示して二人はエレベーターに乗る。屋上に着いた二人はエレベーターを出ると、すぐにヘリコプターの爆音がして降下してきた。
後部座席に二人が乗ると、運転手は若い男性でパイロット風な外見だ。彼は何も言わずに、二人が着席するとヘリを上昇させた。
愛高島まで十分も、かからなかっただろう。ヘリコプターを降りた澄香は、
「うわあ、すごいな。これが浮かぶ島、愛高島なんですね。社長。ヘリコプターは専用ですか。」
「毎日乗るから、私のマンションの屋上に来てくれるの。」
深緑色のヘリコプターは爆音を立てて、上昇して島を出ていく。又、そこから下降して二人には見えなくなった。
康美は続けて、
「今から、あのヘリは他の人達を載せて又、愛高島に来るわ。さあ、店に行くわよ。」
康美の歩調に合わせて澄香も歩く。澄香は康美より少し身長は低いが、胸の大きさは同じくらいだ。 
 シャッターの降りた店舗の前に立つ康美は、ハンドバックからリモコンを取り出してシャッターを上げた。
康美は澄香にマンゴーの在庫の場所や、レジスターの扱い方などを教え、その他の業務も習得させた。十時の開店時には接客を任せた。九時には今までも来ているアルバイトの女性に澄香を紹介した。
新人ながら店舗の責任は澄香に康美は一任して、その日は後ろで見ているだけで、店舗業務は滑らかに流動した。