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sf小説・体験版・未来の出来事20

と、いう事で流太郎の脳の一部は人工知能と入れ替えられた。医者は、その場の助手達に、
「手術は成功だ。営業に必要な会話が数千万は組み込まれた会話を記憶する人工知能を移植したんだ。日本初、いや、世界初だ。これで彼も、仕事が上手くいくだろう。」
そう話すと医師達は手術室を出て行った。

 一か月後に退院した流太郎は会社に電話すると、社長の籾山は、
「一か月も休んで、何をしていたんだ?」
ガンガンと大声で聞いてきたので、
「人工知能を入れてもらっていたんですよ、ぼくの脳に。」
と流太郎が答えると、籾山は、
「ほおう、そういう手術があるのか。詳しい話は会社で聴こう。今から出てこい、な?」
「はい、只今から出社します。」
と答えてスマートフォンの時計を見ると、午前十一時だった。
楽しい出勤だった。地下鉄の中は人が少ないし、脳の中は何か変わったような気がする。地下鉄のアイランドシティ駅を出ると、歩いてすぐのビルに株式会社夢春はある。マザーズに上場しているが、有名ではないのはサイバーセキュリティの会社が広く一般に知れ渡ることも、ないからだろう。それでも上場企業は株主様のために進歩する必要がある。
そのために、営業は特に必要とされるのだ。いくら技術があっても、人に知られなければ、何の売り物にもならないからだ。
夢のような春を株式会社夢春は目指している、と、かつて社長の籾山は流太郎に話したことが、あった。
と、こうも、ああも思っていると、もう会社のビル。玄関を入り、エレベーターに乗ると、気が付けば流太郎は社長の籾山の方に歩いているのだった。
異次元感覚は脳の、せいか?籾山の声が、
「おはんにちわ。もう昼前だし、おはようと、こんにちわ、だ。脳の手術を受けたのか。どうだ?調子は。」
「すこぶる快調です。営業脳を移植してもらいましたよ。」
「それなら期待できるなあ。さっそく営業に出てもらいたいんだ。福岡市内の会社も、ようやくサイバーセキュリティの重要性に気づき始めたらしい。だから顧客は容易に獲得できる。そこでだ、今回の営業先だが、店舗を持たずに商品を販売している会社に行ってもらう。ネットショップだよ。行先は、ここ。」
と籾山は名刺を流太郎に手渡した。
株式会社 トイザマス 技術部長 
 尾茂茶瓜子
福岡市東区アイランドシティ・ハイランドタワービル

というのが、その名刺だった。流太郎は、
(おもちゃ・うりこ、と読むのだろうな、この名前は。)と
思いつつ、
「それでは、行ってきます、社長。結果は素晴らしいものに、なりますよ。まるでタヒチの空の海のように。」
と言葉を投げかけると出かけて行った。
それを聞いた籾山は、
(ほうう、少し語彙が豊富になったようだな、時は。手術の効果が出ている・・・みたいだなあ。)
と感心していた。

トイザマスという会社も、株式会社夢春と同じ人工島内にある。ハイランドタワービルの一階が一般的な玩具売り場で、地下一階が大人のおもちゃ売り場だった。地下一階の店の奥に、トイザマスの営業本部や業務部、総務部、そして社長室などがある。
 大人のおもちゃ売り場の入り口から入ると、店の奥に流太郎は進んだ。バイブレーター、オナホールなど、大人のおもちゃが行列のように並んでいる。実店舗の大人のおもちゃの店は無人店舗である場合もあるが、ここは有人のようだ。しかも、若い女性が店員として立っている。客も午前中というのに、かなりいる。大半は年金暮らしの老人だ。それも一人暮らしの男性老人が最先端の大人のおもちゃに目を光らせている。
まるで老人のおもちゃ、の店であるかのようだ。立体映像のDVDの売り場には、多くの老人が立っていた。その一角には大型スクリーンが実物大のアダルト映像を流している。それを数十人の男性老人が取り囲んで見物している。一人の老人が声を上げた。
「すごいなー。まるで目の前で、やっているようだよ、この男女。」
別の老男子が、
「女性器丸見え。でも海外ものには見えんなあ。」
その時、風のように飛んできたのが女子店員だ。映像機の横に立つと、
「みなさん、立体映像を御覧いただき有難うございます。この映像は立体に見えるものではなく、本当に立体化しているのです。実際に映像の画面は平坦では、ありません。スクリーンから映像が浮き出ています。横から御覧ください。」
と解説した。老人男性一同は、スクリーンの真横に移動して見ると、確かに映像は裸の男女を立体に映している。素晴らしい映像技術だ。美人の若い女子店員は続けて、
「これだけではなく、もっと凄い機器もありますよ。」
と話すと、老人男性たちは、
「どんなものだい。見せてくれよー。」
「もっと凄いって、どこが?」
「あんた、もしかしてアンドロイド?」
と口々に声を出した。
女子店員は、
「わたしはアンドロイドでは、ありませんよ。新製品はAVメーカーと提携して作られました。こちらです。」
と話して、スクリーンの隣にある大型映像機を細く白い右手で示した。
その機械の画面は高さ二メートル、幅も二メートルの巨大画面だ。これなら実物大の人間が映るだろう。
奇妙な事に、その画面の真ん中より少し下の辺りに何と!オナホールが、あるではないか!
それ以外は電源の入っていない暗い画面だ。流太郎もの老人たちの、すぐ近くで、その新製品の機器と美人店員を見た。美人店員は、その機器の電源ボタンを押して稼働させたのである。
映像は全裸で立っているAV女優を実物大で映した。彼女の股間は黒い茂みの下に女性器が男性器を受け入れたさそうに待ち構えている。
そのAV女優が画面の中央に移動すると彼女の股間の位置はオナホールが隠す形になる。そのオナホールは・・・女子美人店員が、
「このオナホールは、今、画面に映っているAV女優の女性器から形作られたものです。表面的なものではなく、このオナホールには奥行きがあります。画面の内部に埋め込まれているのです。」
老人達は、
「ほー。それは、いいな。」
「ほんとにな。このAV女優と本当に、やっている気分になれるぞ。」
と感心する。彼らの中にはズボンの股間を少し、膨らませた者もいた。美人店員は笑顔で、
「どうですか、みなさん。試してみませんか。実際に嵌められますよ。」
と勧める。老人たちは皆、照れて、
「そんな事、できるほど若くないよ。」
「若くたって、こんなに人が、いるじゃないか。やりかねるよ。」
美人店員は流太郎に気づくと、目をパチリとさせて、
「そこにいる若い男性の方、やってみませんか?」
と明るい声で誘いかける。
老人連中は自分たちの後ろにいる流太郎に気づくと、
「おー、若いの。もうチンコ立っているんじゃないか?」
「そうだ。若い兄ちゃん、やれよ。タダなんだろう、店員さん?」
と言うので紺色の制服を着た若美人は、
「ええ、もちろん無料ですよ。そこの方、AV出演の経験が、おありのようですが。」
図星、だった。でも、流太郎は、
「いえ、仕事で来たんです。御社の技術部長と、お話しするために、ですよ。」
と抗弁すると美人店員は、
「技術部長の尾茂茶で、ございますね。今、連絡を取りますわ。」
と話すとスマホを取り出して番号を押した。
「あ、尾茂茶部長。売り場の色毛です。今、新製品のモニターをしてもらいたい男性が現れまして。で、その方は今日は仕事で、ここへ来たそうです。尾茂茶部長と営業の話があるからと断られました。尾茂茶部長、構いませんよね?この方にモニターに、なっていただいても。」
尾茂茶部長の声は色毛という美人店員にのみ聞こえる。
ーわたしに社用で・・・と、時さんという人が来られる予定だわ。その方は、時さん、じゃないかしら。」
美人店員の色毛は流太郎を見ると、
「時さんという、お名前でしょうか。そちらの方。」
と訊いた。
流太郎は、うなずくと、
「ええ、時・流太郎といいます。」
色毛はスマホに、
「時さんだそうです。部長との時間は大丈夫ですか。」
「あ、大丈夫よ。サイバーセキュリティは我が社では急を要さない。そこでモニターをした後で来ていただいても、いいわよ。」
と明るい三十代の女性の声が答える。色毛はニンヤリとすると、
「時さん。大丈夫だそうです。モニターをした後での面談という事で。」
「そうですか。いや、でも、みなさん、いらっしゃいますから・・・。リオのカーニバルよりも熱い、この場で、なんて。」
老人たちは、
「恥ずかしがる事は、ないよ。」
「そうだ、そうだ、ここでモニターをやる方が、この会社の君に対する印象も、よくなるぞ。その後で営業をすれば、いい。」
と、もっともな意見に流太郎は、
「そうですね。営業前の別仕事、って感じですか。八月の太陽のもとで裸になる気分です。赤裸々なモニター、赤裸々お、って気分ですね。」
老人の一人は、
「前口上は、もういいから。さっさと脱ぎなさい。」
と重い一言に流太郎は、
「はい、脱ぎます、やります、モニターします。略して頭文字でNYM!」
と答えると手早く服を脱ぎ全裸になった。それを見た色毛は、ぱっ、と思わず両手で自分の目を隠したが、すぐに外すと、
「さあ、大画面の前に、どうぞ。」
と右手を前に出して勧める。
流太郎は大画面に接近していき、映像のav女優は立って両腕を抱いてほしいように差し出している。画面に静止したままだ。それに最接近した流太郎は激しく陰茎を屹立させた。両膝を曲げて、又、伸ばすと流太郎のモノはAV女優の股間にあるオナホールに入っていく。
するとAV女優は画面の中で、それを感じているかのような表情になった。観衆の老人たちは、
「おおーっ。」
と声を上げる。
「まるで若い男とセックスしているような顔をし始めたぞ。」
「兄ちゃん、腰を振れようっ。」
「激しく、腰を動かしてーっ、それえっ。」
老人の囃し立てる声を聴いて、流太郎は腰を振ってみた。その腰の動きにつれて締りに強弱をつけるav女優のオナホール。それと同時に画面のav女優も快楽を感じている顔になる。つまり画面のav女優は流太郎の腰の動きに反応しているから、過去に撮影された映像ではないのだ。現在の動きに反応して快感を顔に表す、などは凄い技術である。流太郎は何度か射精しかけたが、それを止めて十分間、腰を振って動きを止めて硬直したままの肉竿を抜いた。老人たちは、
「おーい、もう、やめか。」
「もっと、もっと、突きまくれよー。」
と声を上げたが、流太郎は観衆に尻を向けたまま、素早く下着と服と背広を着ると、くるりと姿勢を老人に向けて、
「それでは、みなさん。失礼しまーす。後は、みなさんでav女優と楽しんだら、どうですか。オナホールの締りの強弱感が絶妙ですよ。八月の太陽の光と五月の爽やかな微風のような体験が出来ます。」
と言うなり、鮮やかな足取りで、その場を去った。奥の部屋の壁に行きつくと、一つのドアが
社員以外の立ち入りは出来ません
と表示されていた。
そのインターフォンのボタンを押すと、
「はい、技術部です。」
と若い女性の声がしたので、流太郎は、
「こんにちわ。サイバーセキュリティの件で、お伺いしております、時と申します。」
答えると、
「ドアを開けますので、お通りください。」
スルーッとドアが開く。
中に入った流太郎は、そこに三十代の眼鏡を掛けた白い上着に灰色のスカートの女性が立っていて、
「ようこそ、時さん。技術部長の尾茂茶です。面談室に入りましょう。」
と話した。時は喫煙室よりも広い面談室に尾茂茶部長の後から、ついて入る。テーブルをはさんで二人は向かい合って座ると、尾茂茶部長の目がキラリと輝いた。彼女は微笑すると、
「うちも顧客が増えてきましたのでサイバーセキュリティが、とても必要になってきました。
それで、そちらのセキュリティー技術で、お願いしたいと思いますのよ、もう、そう決めましたので、話さなくても結構です。」
営業話術は要らないのか、と流太郎は思いつつも、
「なぜ、そう決断されたのでしょう?」
と小刀急入で聞いてみる。尾茂茶部長は、
「それはね。さっきの貴方の行動ですよ。うちの最新鋭のavオナホールに果敢に挑戦してくださった、その熱意を見ると、その会社が分かります。それに、しっかりと勃起されていたしね。銀行でも太古から『朝マラ立たぬ者には金を貸すな。』と言うくらいですし。
だから商談無用ですの。」
なるほど、そういう事か、と流太郎は思った。しかし、何か言わなければ。で、
「もう収穫の済んだ十月の空に残る強い日差しを感じる気がしますが、私として、これで貴社との契約を終え、帰社できます。後で社長の籾山がBDF(ビジネス・ドキュメント・フォーマット「註・株式会社・夢春で開発されたもの。」)ファイルを送りますので、それに記入してください。」
と今後の手続きを説明した。尾茂茶部長は生真面目な顔を緩めると、
「そのファイルは社長に社内のパソコンで転送しますよ。契約が早く終わったから、貴方には時間があるわね。開発中の我が社の商品を見て欲しいのよ。ぜひ、見ていってもらえませんか。」
「ええ、喜び勇んで見させてもらいます。今日は一日、契約の為に時間を取ってもいい、との社長の指示でしたので、十一月の太陽が姿を消すまで、でも構いません。」
「よかった。それでは、ついてきて下さいな。」
面談室を出ると、彼らは別の部屋に入った。その部屋は広くて複数の男女社員が商品の開発や点検をしているようだ。大人のおもちゃ、も大小取り混ぜて並んでいる。大きなモノとしては椅子やソファ、小さなものは小型ローターなどだ。
尾茂茶部長は流太郎を案内しつつ、説明する。円形の置物に人間の両腕のようなものが付いている機器が、あった。それを指さしつつ尾茂茶は、
「これはパイズリ・マシーンです。今は一番、その高さを縮めていますけど、上に伸ばせば高さは二メートルにもなります。やってみますわね。」
尾茂茶は、その機器の円形の部分にある一つのボタンを押した。すると、スーッと縦長の竿みたいなものが、それに付いた両腕と共に上に伸びていき、両腕の位置は一メートル五十センチほどの高さになる。
 尾茂茶部長は別のボタンを押した。すると、たちまち二本の手は女性を背後から抱くような形になると、次に乳房を揉むような手になると、実際に豊乳を揉むような動きを始めた。なるほど、パイズリ・マシーンだ。流太郎は感嘆の声で、
「すばらしい!これは、まだ研究開発中ですか?」
と尋ねると、尾茂茶部長は、
「そうね、今、色々な生身の女性を使って研究中ですけど、簡易版は安い価格でネット通販に出しています。BOPISで買う女性が多いのよ。」
「BOPIS・・?」
「バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストアの英語の頭文字を採ったものね。オンラインでネットで買って、コンビニのような店で受け取るという形の事。」
「ああ、日本でも店置きとかいうアレですね。あれなら女性にも買いやすいでしょう、大人のおもちゃは。」
「それで簡易版では満足されない御客様が増えてきたのよ。もっと性能のいい高級な、大人のおもちゃが欲しい、と。」
室内に若い女性の悶えるような声が響いた。
「あ、ああーっ、あん。」
流太郎は思わず声がした方を振り向くと、椅子に座った上半身全裸の若い女性が、パイズリ・マシーンに後ろから、ふくよかな白い乳房を揉まれているのだった。流太郎は慌てて顔を尾茂茶部長に戻す。尾茂茶部長は眼を細くして、
「ああやって、うちの研究員が自分の体でパイズリ・マシーンの性能向上を実験して研究しています。時さん、あなたはAVに出演した経験が、おありのようだけど。」
と話した。流太郎は耳に、さっきの女性が、
「ああん、ああん。」
と、すすり泣く様な声を出して感じているのを聞きながら、
「ええ、ありますよ。あくまでも副業として、ですけどね。」
尾茂茶部長は深く、うなずくと、
「副業が本業になる人もいますよ。」
と意味ありげな言葉を口にする。続けて尾茂茶部長は、
「うちでも男の研究員は必要です。」
「どういう意味で、ですか。もしかして、この私を・・・。」
「パイズリ・マシーンは機械ですわ。人間の男の貴方に研究員の若い女性の胸を揉んでもらって、その感覚をパイズリ・マシーンの手の感触と比較してもらうとか、必要になります。よろしかったら、時さん、どうですか。もちろん報酬は差し上げます。若い女性の乳房を揉んで、お金が貰えるなんてAV以外には、ないと思いますわ。うちの会社はAVよりも高い報酬にします。どう?」
なるほど、いい仕事だ。しかし、それに、のめり込むと本業が疎かになりは、しないだろうか。流太郎は、耳に時々、聞こえてくる若い女性の研究員がパイズリ・マシーンに乳房を揉まれて悩ましげな声を上げるのを聞きつつ、
「考えさせてください。お返事は、そのうちに、します。」
と返事をした。
尾茂茶部長はニッコリすると、
「ここ以外の場所でも他の製品の研究は進んでいます。少し歩きましょう。」
次の場所では机に座った女性研究員が小さな小指の先ほどの物体を、いじって調整などをしているようだった。
尾茂茶部長は、その女子研究員の傍らに立つと、
「静野(しずの)さん、開発商品名「JV」はテストで使われていますが、その結果は良好ですよ。」
と話しかけると、その研究員の静野は顔を上げて尾茂茶部長を見ると、
「よかった。こんなに小さいのですもの。わたし、自分でも試しましたし、気づかない位でした。」
と喜んで話す。流太郎は分からないので、
「尾茂茶部長、何の話か分かりません。よろしければ、説明してください。」
と云うと、尾茂茶は流太郎の方を向き、白い研究服の背を伸ばすと胸を張り、
「よろしい。話しましょう。実は我々は隠密な行動を取る仕事も依頼されます。その中には対立する企業を潰す、というものも、あるのです。具体的な会社名などは申し上げられませんが、こういう事です・・・・・

 某大企業のビルの一階には受付の女子社員だけが長い時間を、そこで待機している。
そこに対抗企業の依頼したカメラマンが、指定された時間に遠くから望遠レンズのカメラで、受付の女性(もちろん、若い美人)を動画撮影し始める。その会社は、あらかじめ訪問者の時間を受付の女子社員に知らせているから、いつ来訪者があるかを受付の女子社員は知っている。
その時間まで、二時間は誰も今日は来ないのだ。
受付の女子社員は座ったまま、ぽーっとした目で会社の壁を見つめていた。すると、いきなり彼女は、
「あっ、はあっ、」と、声を出してしまい、思わず口を手で押さえた。
彼女の股間には超小型のバイブレーターが白いパンティの上で振動を始めていた。それを指で確認した彼女は、
(なによ、これ?こんなもの、下着のアソコに着けたりしないのに。)と訝しがったが、心地よいバイブレーターの振動は彼女の淫部に伝わってくるので、又、思わぬ嬌声を上げないとも分からない。それで彼女は口に手を当てて、両脚をモジモジさせながら女子トイレに駆け込むと、個室に入り、股間を探った。ブーン、ブーンと心地よい振動がするので彼女は口を抑えて、快感の声を漏らさないようにした。すぐ外さなければ、このバイブレーターを、と思いながらも二十分は、それをつけたままにして彼女は快感を楽しんだ。それから、それを股間の下着から外すと、まだバイブレーターは動き続けている。
どうやって止めたらいいのか、彼女には分からない。スイッチも見当たらない。ゴミ箱もトイレの中にはないので、彼女は便器の中に、その動き続ける超小型のバイブレーターを捨てると、水で流してしまった。
何もなかったような顔をして受付に戻ると、彼女は椅子に座った。
会社内の誰にも彼女の行為は、ばれなかった。ほっとして帰宅した独身の彼女はワンルームマンションの部屋でパソコンを起動させる。YOUMANKOを帰宅後に第一に閲覧するのが習慣となっている。それを見て、彼女は驚いたのだ。腰を抜かした、というよりマンコがぬけそうだった。何故なら新着動画に自分が写っていて、しかも、それは会社の受付に居る時、今日のもので、あの超小型バイブレーターが振動を始め、彼女が思わず声をあげた姿が音声と共に動画に映し出される。それで終わりではなく、彼女が女子トイレに入り、しばらくバイブレーターを外さずに、つけたまま立って快感に溺れているのを女子トイレの天井からカメラは、その淫らな尻の動きなどを捉えていたのだ。
その映像は彼女の姿だけではなく、その大企業の玄関から写し始めているので会社名は最初に映される。それで視聴者は、その会社の受付という事が分かるのである。
 たちまちネットで評判になり、その大企業の顧客は減り、対抗企業の売り上げは増大した。この撮影を依頼したのが、その対抗企業なのは書くまでも、ないだろう。
 女子社員は懲戒免職になったが、その大企業の信頼の回復は遅いと思われる・・・・
という、その超小型のバイブレーターはウチの製品で、今、ここの部署で更に小型化にするのを進めているんです。」
と尾茂茶部長は話した。流太郎は、
「でも、どうやって、その小型バイブレーターは受付の女性の股間に取り付けられたのでしょうか。」
と質問すると尾茂茶部長は、
「それは企業秘密で言えませんわ。ただ、取り付けはウチでは、ありません。」
 では、実際は、どうだったのだろうか。それは痴漢の達人が受付の彼女に朝の通勤電車の中で巧みに彼女の股間の下着に取り付けてしまったのだ。
そして、ある時刻になると超小型のバイブレーターが始動するように設定されていた。これを流太郎に尾茂茶部長は話さずに、次のように言う。
「時限始動バイブレーターと我々は、この超小型のバイブレーターを呼んでいます。」
流太郎は、
「それでは時限爆弾よりも女性にとっては恐ろしい話ですね。」
と云うと尾茂茶部長は、
「そうかも、しれないわね。誰が取りつけたかも分からないし、その受付の女性は風俗で働いているらしいわ。AVにも出るかもしれないそうよ。」
恐るべし時限始動バイブレーター!尾茂茶部長は平然と、
「これを、いずれはアメリカに輸出する予定でもあるの。武器の輸出には、ならないと思うけど使い方によっては女性大統領の失脚にも成功すると思うし。」
と述べるのだった。おお、トイザマスは新たな日本の輸出産業になるのだろうか。流太郎は、
「日本でも女性議員の失脚にも使えますね。」
「フフフ。女性タレントにも使えるわよ。時さん、芸能事務所に売り込む営業をしてみませんか。」
「そういう営業は出来かねますよ。さすがに。」
尾茂茶部長はテーブルの上にあるスティックタイプの砂糖みたいなものを取り上げると、
「時さん、これ、何だか分かるかしら。」
「それ、なんですか?ぱっと見れば、コーヒーに入れる砂糖みたいですけど。」
尾茂茶部長は、その棒状のものの包みを破り中身を出した。それは粉ではなく固まった砂糖のようなものだ。
テーブルにある水の入ったコップを尾茂茶部長は取り寄せると、その砂糖の細長い棒状の塊のようなものを、そのコップの中に入れる。すると、どうだろう、それは膨らみ始めると十八センチの長さの男性の勃起した陰茎になった。まるで本物の陰茎のようだ。尾茂茶部長は、
「これもバイブレーターの機能を持っています。名付けて『インスタント・バイブレーター』です。もうすぐ売り出しますけど。ネット販売で億箱になりそうよ、これは。」
と嬉しそうに語った。感心した流太郎は、
「すごいですね。大流行しますよ、きっと。持ち運びにも便利だし。」
と称賛すると尾茂茶部長は、
「海外にも持って行けるわ。見かけはスティックタイプの砂糖にしか見えないから。ね?」
「ええ、そうですね。うちの新入女子社員に教えようかな。」
「そうしてくれると嬉しいわ。販売手数料は払いますから。」
株式会社夢春では今年、一人の女子社員を採用したのだ。川中志摩子という名前である。突如、女子研究員の快美感のある声が、
「あっあっ、いくーっ。」と聞こえたので流太郎は、そちらを見ると女子研究員は時限始動バイブレーターでアクメに達したらしく、気持ちよさそうに大きく白い足を開いて椅子に座ったまま脱力していた。
尾茂茶部長は、その女子研究員に、
「花見沢さん、次は『インスタント・バイブレーター』の方も、試してみてください。」
と指示する。花見沢研究員は、
「はい、部長。あまりにも気持ちいいので、少し休憩していいですか。」
「ええ、もちろんよ。インスタント・バイブレーターの方は戸外で試してほしいの。了解しましたか?」
「はい、部長。研究所の外に出て、試してきます。」
股間から時限始動バイブレーターを取り出した花見沢は元気よく立ち上がり、ステックタイプの包みを手に取ると部屋の出口に歩いていった。
 尾茂茶部長は、
「花見沢さんは喫茶店のトイレで試したりしているのです。」
 その花見沢は、すでに喫茶店のトイレで洗面台の水道の蛇口をひねり、インスタント・バイブレーターを流れる水に当てると、すぐに個室に駆け込む。
彼女は立ったまま、男性の陰茎そのものに見えるインスタント・バイブレーターを膝まで下着を降ろして露わになった陰部に当てた。音も出さずにバイブレーターは始動した。研究所で流太郎が見たものよりも高品質なバイブレーターは音も立てない。(あ!感じる、気持ちいいっ、声が出そう)そう思った彼女は左手でハンカチを取り出すと、口に当てた。(これで、いわ。消音ハンカチなのですもの。あっ、あっ、あーん!)彼女は思い切り声を出したが、消音ハンカチによって、その快楽に悶える媚声は誰にも聞こえないものとなった。
 この消音ハンカチはサイバーモーメント社の発明品だ。

尾茂茶部長は流太郎に向き直ると、
「これから先は部外者の時さんには、お見せできないものも沢山、あります。我が社の営業員として働いてもららったり、モニターになってもらうなどの実績次第ではトイザマスの最新のおもちゃの研究開発も、もっと見れるように出来ますよ。今日は、これで終了です。時さんの携帯電話番号は分かっていますから、連絡をしますね。」
と話した。

 会社に帰るのは歩いてで、よかった。株式会社夢春があるビルまでは、すぐに戻れた。社長の籾山松之助は頼もしそうに、
「おう。契約は取れたようだな。時。」
「ええ、うまくいきましたよ。すごい大人のおもちゃの会社でしたね。」
「そんなに凄かったのか。東証一部上場も出来そうな会社だが、東証が認めてくれそうにないために未上場らしいよ。」
「そんな株の話は、分かりませんけど、裏社会とも繋がっているような部分もありました。」
「それは、あるだろう。そもそも上場企業というか東証一部の会社にはスパイが多く入社しているなんて話は百年前からあるよ。」
「百年前と云うと、えーと、2000年代か、その辺ですね。」
「うん、そうだ。うん、そう、運送もね、最近はペガサス運送計画なんて話を聞いた。」
「ペガサス運送計画。なんですか、それ。」
「今、宅急便はヘリコプターでも運んでいるがね。これを二頭立ての馬車みたいにして、二頭の羽の生えた馬、ペガサスに空中まで引かせる。というものさ。」
「そんな馬は伝説の話でしょう?どこかに、いるんですか、空を飛ぶ馬なんて。」
「いるかもしれないけどな、その二頭の羽の生えた馬は機械なんだよ。」
「なーるほど、ですね。ロボットも馬タイプのものがある、というのは知っていますが。」
「そうだ。よし、これから小倉競馬場に連れて行ってやるよ。」
「今から、いいんですか、社長。」
「もちろんだ、あ、川中志摩子君、我々の留守中は、よろしく頼むよ。」
と呼びかけられた女子社員は、視線をノートパソコンから社長と時に移すと、
「はい、行ってらっしゃいませ。」
と明るい笑顔で答えた。純朴な女性の二十歳なのが川中志摩子である。

 どのように人口が増えても競馬場が出来ないのが福岡市なのだ。競輪場も建設は、されない。モーターボートのみが海沿いにあるのみである。北九州市には小倉ボート、若松ボートなど複数あるのに、福岡市にはモーターボートは一か所のみである。
これは福岡市の方針で、そうなっているようだ。ギャンブル施設を多く置かない方針なのだろう。
 小倉競馬場までは社長の籾山が運転する車で向かっている。流太郎は助手席だ。小倉駅前には日本には数少ないカジノがある。籾山は車の操縦を自動に切り替えて、煙草を右手で吸いながら、
「光半導体で、この車のコンピューター部分は動いているから、電力は少しでよくなる。時、おまえは車を持っているか?」
「持っていませんよ。ドライブする趣味もないので。」
「そうだろうな。この百年で車を持たない若者が増え続けた。タクシーはロボット運転手を使い、運賃を激安にした。だから、だろう、車を買って持つよりタクシーの方が安い、という考えだな。そういえば、この前にサイバーモーメントの社長の黒川さんの邸宅に行ったら、運転手はロボットで自分の車を運転させていたよ。
はるかな昔には運転手という金持ちに付き物の職業もなくなりつつ、あるらしいね。」
車の内部にも八幡の淀んだ鉄のような匂いが入ってくる。流太郎は、
「女中というのも、そうですね。今はメイドロボットが普及していますし、一億円のメイドロボットや十億円のメイドロボットも、ありますよ。」
と製鉄所が醸し出す濁った空気を鼻で感じつつ答えると、籾山は笑って、
「それには、こういう話があるよ。・・・・
とある大富豪の家には四十代の妻と一人娘がいて、メイドロボットが一台ある。ある、というより、いるという方が適切かな。その大富豪はカジノ運営、もちろん日本のカジノで大儲けした。ま、日本もカジノの設置場所を増やすらしいが、とにかく、まだまだ独占的な事業が日本での、いや、世界の大抵の場所のカジノが、そうだけど。
それでね、その大富豪は七十代というんだ。妻との夜の活動も数年は行われていなかったらしい。

sf小説・体験版・未来の出来事19

 新製品のモニターに、なりたいです。独身の二十一歳、フリーターなので、いつでも参加できます。御社の日程に合わせられます。

 という応募のメールだった。美月美姫は楽しそうに、
「さっそく面接ですね、社長。」
と黒沢に問うと、
「ああ、そうしてくれたまえ。」
と満足そうだ。
美月は返信メールに、

本日、午後三時に当社まで面接に来てください。

それを送信すると、二分もすると返信メールが来て、

はい、お伺いします。

というものだった。

 午後三時になると、その女性は軽装でサイバーモーメントに、やってきた。背は百五十九センチ、細身の体に胸と尻は突き出ている体型だ。膝までのスカートから出ている白い足は美脚で、上着も半袖なのは涼し気で面接室の椅子に、おいしそうな尻を載せて座った。
ドアが開いて秘書室長の美月美姫が入ってくる。
面接を待つ彼女の前に座ると、
「こんにちわ。秘書室長の美月です。柳風さんですね。」
「はい、初めまして。柳風絵理乃と申します。」
と答えた彼女は健康的な白い肌の顔に笑顔を浮かべた。肩まで伸びた髪は闇夜のように漆黒だ。
美月美姫は柳風絵理乃を注視すると、
「健康そうで、いいわね。モニターの仕事というのは、眼鏡を試してもらう御仕事です。どうですか、こういうの。」
と問いかけると絵理乃は気軽に、
「やってみたいです。わたし、視力は良好ですけど眼鏡を掛けてみたいと思ったりする事も、ありました。」
と答えた。
美月美姫は満足げに、
「それなら合格よ。さっそくモニターしてみてください。これが、」
と云うと、黒縁の眼鏡を絵理乃に渡し、
「その眼鏡です。これを掛けて、この近くを散歩してきてください。」
絵理乃は、うなずくと、
「それでは行って参ります。」
と元気に面接室を出て行った。サイバーモーメントの社屋の近くも会社の敷地が立ち並んでいる。人通りは多くない。昼休みになったのか、会社員が多く出てきた。多くは男子社員だ。絵理乃の目には、彼らが誰でも魅力的に見えた。今まで、こんなことは無かったのに。
それにしても、それらの男性の魅力は等分に平均して同じだ。とはいえ、その魅力は女性が夫に感じるほどの魅力なのだ。誰もが夫に絵理乃には見えた。
 実際には、それらの男性は同じ顔ではなく、体型も違う。でも、これは・・・
絵理乃はサイバーモーメントでモニター用に貰った眼鏡を外した。たちまち、それらの男性は魅力を失ったのである。(この眼鏡の作用だったんだわ。)と絵理乃には現象が理解できた。でも、モニターになっているから、眼鏡を外してサイバーモーメントに戻るわけには、いかない。絵理乃は再び、その誰でもが夫に見える眼鏡を掛けると、サイバーモーメントの社屋に歩いて戻った。受付の女性が絵理乃に笑顔で、
「秘書室長の美月は七階に、います。エレベーターで、おあがりください。」
と話した。
 七階の窓から博多湾が見える部屋のドアの前に長身の美月美姫の細い体が絵理乃を待っていた。美月は、
「さあ、入って。驚くような体験をしたでしょ?」
「ええ、驚きました。まるで心臓に羽が生えて、体の外に抜け出たような衝撃でした。」
美月は右手の人差し指をドアのパネルに当てて、ドアを開けた。ドアノブというものは、そのドアには、ない。横に開いたドアから二人は部屋の中に入る。

 二人は対面して座る。美月は笑顔で絵理乃に聞く。
「どうでした、その眼鏡。」
眼鏡を掛けたまま絵理乃は答えた。
「不思議でした。男性が誰も魅力的で、だれもが夫に見えたんです。」
美月は驚きを感じつつ、
「そう、そんな風に見えたのね。それは凄いな。」
「わたし、怖くなって眼鏡を外しましたけど。」
「仕方ないわ。動揺してしまうわよね、そういう場合。でもモニターとしての役割は十分に果たしてくれたので謝礼は出します。暗号資産としての通貨にするか、現金にするか考えてね。どっちに、する?柳風さん。」
絵理乃は少し考えて、
「暗号資産の通貨で、もらいたいんですけど、どんな仮想通貨ですか?」
「サイバーモーメントで今度、仮想通貨を発行することに、なったの。キラリン、という名称なんだけど。」
「キラリン、ですか。面白い名前ですね。それを貰っておけば、やがて莫大な資産になるわけでしょう。キラリン、で下さい。」
「よし、決まりね。あなた、コールドウォレットを持っていますか。」
「ええ、スマホの中にも準備しています。まだ未使用です。」
「それなら、そのアカウントにキラリンを納付しますから楽しみに待っていてください。その眼鏡は、こちらに返してね。」
柳風絵理乃は、その「どこにでも夫」に見える眼鏡を美月に返却した。不思議な眼鏡だ。こんな眼鏡、商業化できるのだろうか、と絵理乃は思うのだった。

 美月美姫は黒沢に社長室で、
「社長、この眼鏡でモニターは男性なら誰でも夫に見えたそうです。」
と報告すると黒沢は快感の笑みを浮かべて、
「ふふふ。この眼鏡も又、我が社の万札箱になるだろう。」
「買い手は、どういう人を標的に、されるのですか。」
「あ、うん。美月君、社員には無料で貸与しても、いい。君が、まず初めに、どうかね?この眼鏡、「どこでも夫」を使用しては?」
「まあ、わたし、使いたいとは思いません。」
「彼氏が、いるのかね?今、現在にさ。」
「今は、いないんですけど。」
「それなら、使えよ。要らないかな、やっぱり。」
「はい、要りません、今のところ。」
「今のところ、ね。必要になったら、いつでも言いなさい。それでは、と。他に販売できる道は、もう考えているから。」

 アイランドシティという人口島にあるビルの一つ、その地下一階にあるUGジャパンという映像制作会社は表向きは、そのビルの一階にある普通の映像制作会社だが、地下一階では別の映像制作を行っている。

 若妻の都万代(つまよ)は新婚、一か月、夫との夜の営みは週に五日、と順調な滑り出しだった。インターネット関連会社に勤める夫は毎晩、遅くまで働いて帰宅するのは夜の十一時頃だ。2DKの木造のアパートの二階に住んでいる新婚の二人は、夜の十一時半ころよりセックスを始める。夫が帰って来た。玄関に行った都万代の目に玄関ドアが開くのが見えた。顔を出した夫に都万代は、
「あなた、お帰りなさい。早いわね、今日は。まだ八時だけど。」
「うん、今日は特別な日だな。お客さん、というより会社の上司と部下が来たからね。」
夫の後から禿げ頭の眼鏡を掛けた中年男性と、若くて痩せて長身の美男子が部屋に入って来た。
禿げ頭はニコニコして、
「奥さん、初めまして。木頭(きとう)君、の課の課長をしています。今仁(いまに)と、いいます。あなたの夫である木頭太志(きとう・ふとし)君は、我が社の希望、ホープであるんです。毎日、遅くまで残業してくれますし。社長も木頭君には期待しているようですよ。」
と話した。都万代は笑顔で、
「ありがとうございます。木頭を支えなければ、と懸命の毎日です。」
長身の若い美男子は口を開いて、
「初めまして、奥さん。木頭さんの部下の月見と申します。木頭さんには、いつも優しく指導していただいています。奥さん、お綺麗な方ですね。こういう奥さんが、いらっしゃるから木頭さんも頑張れるんですね。」
と絶賛の態だ。
都万代の顔は細面で目が大きく、髪は巻き上げたような形にしていて、珍しいことに都万代は薄緑色の着物を着ている。それで普通なら胸と尻の大きさは、見た目には曖昧となるのだが彼女の場合、着物の上からも膨らんだ胸と尻が想像できる体型だ。都万代は美青年の月見に、
「そんな事、ございませんわ。わたくしの力など微弱なものですもの。会社の皆様のおかげで主人は何とか、頑張っていると思います。」
夫の木頭太志は、それを聞いて、
「そうだな。特に今仁さんと月見君には、お世話になっているよ。宅配中華、頼んで食べよう。今仁さん、何が、いいですか。」
今仁は目を上向きにして、
「そうだなー。ラーメンと中華丼で、いいよ。」
木頭は月見を見ると、
「月見君、君は何にする?」
「ぼくは月見ラーメンと月見丼です。」
「よし、都万代。おれたちは新婚定食、にしようよ。電話、頼むよ。」
「はーい、注文しますわ。」
木頭都万代はスマホで宅配中華の毎度飯店に、今聞いたメニューを注文していた。
 2DKの六畳の部屋に四人の大人がテーブルを囲んだ。木頭太志と妻の都万代が並んで、その向かいに今仁と月見が並んで座る。和式のテーブルなので四人は尻を畳に、着けて座っている。
課長の今仁は眼鏡を右手の指で上にあげ、
「私の名前、今仁出流蔵(いまに・でるぞう)って、言うんですよ。変な名前でしょう、奥さん。」
と話した。呼びかけられた都万代は、
「そうですか。そう変な名前とも思えませんですけど。」
月見が割って入り、
「今に精液が、と出流蔵の前に、つけたら、どうですか。」
と意見する。
都万代は右手を口に当てて、
「まあ。それは、・・・。でも、そんな所まで考える人は、あまり、いないんでは、ありませんか。」
と答えた。
夫の木頭太志は苦笑いして、
「名前にも色色あるし、課長も姓名を一度に云う事は、あまりないでしょう、ねえ、課長。」
今仁は鼻の下に人差し指を当てると、
「まあ、そーだなー。女房とセックスしている時に、言ってしまう事もあるよな。いきそうな時に、さ。今に出るぞー、って。一か月前のセックスで言ってしまったよ。その後で、おれはイッたけどね。」
月見は神妙な顔で、
「その後は、一応、課長は、その・・・。」
と言葉を濁らせると、今仁は、
「ああ、ないな。おまんこ、あ、いや奥さん、すみません。美人の前で、こういう言葉使って。夜間交渉は途絶しておるのさ。ま、奥さんには関係ないです。よ。」
と弁明する。
その時、宅配中華が玄関のドアを叩いた。都万代が玄関に行き、四人分の中華料理を運んでくる。料理が重いので少し前かがみになる都万代の姿勢は彼女の乳房の熟れ具合を着物の形に反映させた。それと臀部も、である。
今仁と月見の視線は、その都万代の胸と尻を彷徨した。

 食事の後で都万代が、ほうじ茶を台所からテーブルに置く。今仁は、それを飲むと、
「うまいっ、なあ奥さん、ありがとう。ところで、奥さん。木頭君との夜の交渉は、うまくいっているんでしょう?」
都万代は頬を赤らめると目を伏せて、
「まあ、おかげ様、といいますか・・・。ね、あなた。」
と夫の木頭太志に話頭を振る。
木頭太志は、うなずくと、
「あ、ああ、そうだね。うまく、いっていますよ、課長、ご心配なく。」
今仁は、
「そうだろうね、でも、奥さん。少し近眼では、ありませんか。」
「いいえ、眼鏡は必要ありません。」
「度のない眼鏡ですよ。ここに、あります。」
と今仁は背広の上着のポケットから黒縁の眼鏡を取り出した。それを都万代に渡して、
「かけて御覧なさい、奥さん。」
と勧める。都万代は、
「それでは失礼して、かけますわ。」
と、その黒縁眼鏡を鼻にかけた。美人の眼鏡顔は、そっ気ないものだが、今仁は手を叩くと、
「奥さん、似合いますよ。どうですか、その眼鏡。」
と感想を都万代に聞いた。
都万代は目の前にいる二人、夫の上司の今仁と、部下の月見が丸で夫のように見えてきたのだ。
「どう、ですか。不思議な気分です。あっ。」
都万代は前に座っていた今仁と月見が立ち上がり、二人ともズボンのチャックを降ろすと、そこから野太いものを、それぞれ取り出したのを目にした。
それを見て都万代は嫌などころか、もう二人の夫の性器が逞しく自分に向けて屹立しているのを頼もしく、又、強い性的興奮を感じるのを覚えた。隣にいる夫の太志は平然として、
「都万代。奥の寝室で可愛がって貰え。僕も、行く。」
と妻に言うのだ。夫の股間に手を伸ばして、男性器の所在を確認した都万代は夫のソレが、まだ太くなっていないのを知った。都万代は立ち上がると着物を脱いだ。薄手のブラジャーとショーツだけになると、ショーツには食い込んだ女性器が二人の男のモノを咥えたがっているように見える。
今仁と月見は手早く全裸になると、下着姿の都万代に近づき、両側から都万代を抱え上げた。夫の太志も立ち上がると奥の襖を開けて、妻がダブルベッドに運び込まれるのを可能にした。
ベッドに仰向けに横たえられた都万代は今仁に唇を奪われ、ブラジャーを外されて白い大きな弾力のある乳房を揉まれた。月見は都万代の股間を覆っている薄い白のショーツを彼女の白い足首まで降ろすと、それを両脚から抜く。そして月見は美男な顔を月夜の黒い陰毛で覆われた股間に沈めると、舌を使い都万代の熟れた女性器を舐め始める。二人の男から上半身と下半身を愛撫して攻められ、月見の右手は都万代の肛門も攻め始めたのだ。都万代は二人の夫に愛撫されている感覚だった。
 その寝室の入り口には夫の太志が服を着たまま、ぼんやりとした顔で立っている。都万代は快感に痺れていく頭で夫の股間を凝視したが、そこは平時のままであるようだ。自分の上司と部下に妻が乳房を揉まれキスされて、おまんこを舐められているというのに!・・・。
 今仁は全裸の都万代をベッドに座った体勢にすると、背後から都万代の白い熟れた乳房を揉みしだき、細い彼女のくびすじを舐め回した。都万代の白い臀部に今仁の猛り狂ったような陰茎が当たると、
「奥さん、後ろから入れるよ。」
と今仁は都万代の耳元で囁くと、両手で都万代の尻を持ち上げて背後から竹筒のような陰茎を都万代の湿った洞窟に深々と挿入する。
「あ、はあっ、頭が変になりそう、あんっ!」
と都万代は可愛い声で悶える。座った姿勢の都万代の唇を今度は月見が奪う。美男の月見にキスされて都万代はオマンコを益々、濡らした。月見の接吻技術は今仁より巧みで、もう既に月見の舌は都万代の赤い舌と絡み合っている。
今仁は後ろから両手で都万代の両脚を大きく開く。そこへ月見が都万代に体を密着させると、月見の右手は都万代の肛門の穴に滑り込んだ。
女性器と肛門の二つの穴を攻められる都万代!月見の勃起したモノは都万代の臍の穴に当てられている。
激しく動く都万代の白い尻。
イソギンチャクのように締め付ける都万代のオマンコに今仁は、
「おおっ、たまらん!今に出るぞうっ。」
と自分の本名を叫ばせた。そして、すぐにドブン、ドクン、と今仁出流蔵は大量の白いスープを都万代の秘穴の中に炸裂させた。
不思議な眼鏡を掛けたままの都万代には唇を奪い、口中でネットリ、ジットリと自分の舌を奪っている月見の顔は夫に見えるのだ。それは太志の顔に見える、というのではなく美男の月見の顔のまま、夫に見えるというものだ。都万代のオマンコから陰茎を抜いた今仁は激しく都万代と舌を絡め合っている月見に、
「おい、月見君。今度は君の出番だ。奥さんのオマンコは空いたから。」
と話した。月見は都万代をキスしたまま立たせると、彼女を抱え上げ、勃起したモノをスッポリ、ズッポリと都万代の淫窟に奥の奥まで挿入する。
「あっ、いいっ、あっ、子宮の奥まで入ってくーっ、。」
と声を出す都万代。その白い大きくやわらかな尻は、むんずむずと月見の両手が掴んでいる。都万代は両脚を宙ぶらりんにすると、月見の両足に絡めつけた。
ゆっさ、ゆっさ、と都万代の尻は揺れ動き、それは突きまくる月見の腰の動きと連動したものだ。
まるで月見は自分の新妻と交わっているような雰囲気で、二人は夫婦のように見えた。再び、二人は唇を重ね新婚の夫婦のように交接を続ける。
「あうっ、いいっ。あうっ、いい。オマンコ、気持ちいいっ。」
と時々、唇を離すと都万代は甘い可愛い声で夫に語るような悶え声を放つ。
今仁はベッドに座って二人の交合を眺めていたが、
(こりゃ、本物の夫婦だな、まるで。ん?本当の夫の木頭太志君は、いずこ?)
と寝室の襖の方を見ると夫の木頭太志は、まだボンヤリと立っていた。股間に変化なし、で股間戦線、異常なし、ではあるが、妻のマンコに進路を取れ、ではないのか。だが太志は動かない。
今仁はニヤリ、とした。ここへ来る前に三人は喫茶店に寄った。そこで今仁は、
「今日は、おれのオゴリだ。コーヒー代は、おれが払うから。」
と話した。木頭太志は、
「ご馳走様です。課長、ちょっとトイレに。」
「ああ、行っておいでよ。」
その間、今仁は木頭のコーヒーカップに粉のようなものを混ぜたのだ。月見は、それを見て、
「なんですか、課長。それは。」
「ああ、これね。一週間は性的不能になる、という薬?でもなかろうが、知人の発明したものでね。新婚の木頭君に通じるか、と思って。」
「まさかー、効かないでしょう。」
と感想を述べた月見は、今、両腕で木頭太志の新妻の木頭都万代を抱きかかえ、彼女の淫洞窟の奥深くまで、反り返った自分の息子を挿入し、舌を絡め合っている。
若い美青年の月見の持続力は凄く、それから二時間は立ったまま、二人は交接を続けた・・・。

 UGジャパンのAV監督は、
「今の話、実話なんだ。『実話ネット』で話題になっている。これをAV化するのに投稿者の了承を得た。眼鏡もサイバーモーメントから購入しているから。妻田さん、眼鏡は、これだよ。」
監督から「どこでも夫」の眼鏡を手渡されたAV女優の妻田君葉(つまだ・きみは)は、その眼鏡を掛けた。三人のAV男優も準備完了だ・・・。

サイバーモーメント社長の黒沢は、高額な眼鏡「どこでも夫」を手にして、社長室で秘書の美月に、
「AVでも使われているんだ、この眼鏡。」
と話すと美月は合点したように、
「あ、あの『あなた、見ていて!』のシリーズ物で使われていますね。AVって演技なし、なのが売りだから丁度、いいと思います、社長。」
「うん、視聴者は演技と思っているらしい。この眼鏡、『どこでも夫』は、まだ市販されていないからな。」
「それでは社長。さっきの実話、というのは・・・。」
「ああ、あれは本当さ。私の知人に頼んだ結果だよ。そのインターネット関連の社長と知り合いでね、木頭太志が勤めている会社のね。」
「そう、そうだったんですね。そういう事が、あった、とは。」
「美月君、君も、どうかね、この眼鏡。」
「要りませんよー。アルデラミン星では、うまくいっているようですよ。オークションで落札された白雪真理恵さん、ですけども。」
「ああ、それは、よかった。アルデラミン星と低岳歴充君を橋渡ししたのは、私だからな。」
黒沢は得意そうに胸を張る。続けて、
「そういえば、と。我が社のCSOが入社したよ、美月君。」
「CSOですか。それは、どういう意味でしょうか。」
美月は初めて聞く言葉に、戸惑っているようだ。黒沢は、
「最高セキュリティ責任者だよ。我が社のサイバーセキュリティの統括責任者だ。名前は火徳行男(ひとく・ゆくお)という。最先端の情報技術を習得した男で、日本サイバーセキュリティ大学博士課程を修了した二十八歳の新卒ホカホカ、の青年だ。サイバーセキュリティ部の部長に採用した。君にも会わせよう。」
そこで黒沢は社内電話を取り、サイバーセキュリティ部に電話した。
「あー、火徳君、社長室まで来てくれ。」

三分もしないで社長室に現れたのは、美月より十センチは背の低い小柄な男だった。でっぷりと太っている彼は、それでもエンジニアタイプの外貌だ。黒沢は社長の椅子から立ち上がると、
「美月君。サイバーセキュリティ部長の火徳君だ。火徳君、私の秘書の美月君。彼女は秘書室長を務めている。」
 小柄な火徳は作業着の体を美月に向けると、
「初めまして。火徳です。これからは、よろしく御願いします。」
と挨拶した。美月も、
「社長秘書の美月です。よろしく、お願いしますわ。」
黒沢は火徳に、
「火徳君。もう部署に戻っていい。」
「はい、社長。それでは戻ります。」
部屋を出ていく火徳を見送ると黒沢は、
「うちの会社もサイバーセキュリティは前から部署を作り、対策していたのだが、最近は巧妙なハッキングが増えていからね、用心しておこうと思ってな。」
「サイバーセキュリティは重要ですわ。わたしのスマホも狙われているかもしれませんね。」
「そう、ネット回線を通じて何処からでも襲い掛かってくるのがマルウェアだ。古典的なトロイの木馬もスマホに侵入できる。トロイの木馬のような愉快犯だけでなく実利を狙ったハッキングも、あるからな。」
「銀行口座とか、狙われますね。」
「そう、それだよ。仮想通貨は、しょっちゅう流出している。盗まれる前にセキュリティを、しっかりしなければ、いけない。うちも大手企業の仲間入りは、もうすぐだしね。」
美月は、その社長の言葉には異論はないので、口を閉ざした。午後の陽射しが眩しく社長室に入る。福岡市は雲がないと強烈な日光が降り注ぐ。福岡市の緯度はアメリカのアトランタと同じ、というと聞こえはいいが、北アフリカのモロッコとも同一の緯度だ。東京はテヘランと同じ緯度にある。鉄骨マンションを多く建てたため、東京の気温は上昇の一途で、中東からの人の流入も激しくなっている。中東街と呼ばれる地帯も出現した。横浜に中華街が、あるように中東街が自然と形成されていった。
 新宿や池袋は中国人が増大している。要するに東京都の人口のうち、百万人は中国人になっている、という状態は更に中国人の流入を招いている。それに伴い、中華料理店が増大し、太極拳教室が増えた。
 流太郎は社長の籾山に東京に出張へ、リニアで向かっている。新宿に株式会社夢春の支店を置くためにビルの空室を調べに行くのだ。
 十年前に起こった首都直下型地震は死者五万人を出し、多くの避難者を出した。それで東京都の人口は百万人は他県、それも関東から遠い地方への流出が続き、百万人は人口は減少した。その大地震と同時期に大型台風が関東に上陸して、多くの竜巻を発生させた。
しかも、それは月曜日の昼の一時に起こった。巨大地震と大型台風の同時到来に関東は大恐慌に陥ったのだ。
 当然のように起こる交通機関のマヒ、停電。ビルの倒壊は左程、多くはなかったとはいえ、マグニチュード8の大地震なのだから、民家の倒壊は日本史上最大の数に昇った。
 帰宅難民ともいうべき人の数は一千万人に到達した。首都圏の全ての交通機関は停止した。冠水、浸水は多く発生し、バスでさえ運航は難しくなった。
 避難した人々は学校の体育館や公民館、その他の体育館などの避難所に逃げ込むが、それだけでは収容人員に限りがある。そして、であるが家に帰っても、その家は倒壊か浸水している可能性は高い。
スマホは使えなくなり、阿鼻叫喚、に強姦、輪姦まで発生しても警察は出動できない。
エリートサラリーマンのAは二子玉川に新築の家を建てた三十代の男性だ。が、多摩川沿いにある、その新居は多摩川の氾濫で一階は全て水没した。妻のB子は昼の一時に間男を引き入れ、二階の部屋で全裸で性交に耽っていた。突然の激しい揺れにB子の上で腰を振っていた予備校講師、ー勤務は午後六時からー、の若い男性は、
「地震なんて気にすることは、ないよ。僕達の尻の揺れの方が大きいだろう。」
と話すとB子にキスをする。確かに、その家は地震の揺れを柳に風のように、そらす最新の耐震設計が、なされていた。それで倒壊は、しなかったのだが、セックスが終わった二人の耳に激しい雨の音が聞こえてくる。予備校講師は裸のまま、ちんこと金玉を揺らしつつ部屋を出て階段のところに行くと、
「おおーっ、一階は水浸しだーっ。」
と叫んだ。
B子も裸のまま、乳房と尻を揺らせつつ部屋の外に出ると、水は階段を登りそうな勢いで溢れてくる。B子は、
「今日は夫は残業は、ないわ。六時過ぎには帰ってくるの。とにかく服を着て、帰ってよ。」
と間男の裸の背中に声をかける。予備校講師は振り向くと困った顔で、
「泳いで帰れというのかい?ぼくのマンションは二子玉(にこたま・二子玉川の通称)には、ないんだ。」
「じゃあ、どうするの?わたしの夫に、あなたの、その裸体を見せるって事?」
「まさか、そんな・・・。ともかく服は着るから。」
予備校講師はパンツを履き、服を着た。そして考える顔をすると、
「押し入れの中に隠れるとかは、どうだい?」
「古典的な手法ね。でも、夫は帰ってこないかもよ、今夜は。」
「そうだなー。スマホで外の状況を確認するよ。」
予備校講師が開いたスマホは使えなかった。絶望的な顔をした男は、
「だめだ。スマホは使えない。」
「わたし、パソコンで見るから。」
と裸のままのB子は、机にあるノートパソコンを開くと、
「あ、出ている。首都圏直下型地震と大型台風の到来、ですって!」
と叫んだ。ガラス窓に吹き付ける強風は、ガラスが割れそうに感じるほどだ。B子は、
「多分、夫は今晩は帰れないと思う。電車も全面に運航休止だそうだから。」
そしてノートパソコンから予備校講師にB子は眼を向けると、
「ここに泊まっていっても大丈夫みたい。」
と話した。

 B子の夫Aは帰宅難民となった。妻のB子に連絡するにもスマホが使えない。(困ったな、今夜は帰れないぞ。でも貞淑な妻だ。一晩くらいでは、そんな不倫なんて・・・するわけもないな。)
と渋谷駅の地下街に緊急に設けられた避難場所に座りながらエリートサラリーマンのAは思った。

 東京湾は火柱が、いくつも森立していた。大地震で石油コンビナートが決壊し、重油が海に流れ込んだ。火力発電所も倒壊し、その火が東京湾に飛んだ時、ゴオオオオーッという物凄い音と共に、まるで鉄塔のように次々と大火炎の炎が東京湾に立ち上がった。それは火のような巨人が立ち上がったかのようだった。

 海抜ゼロメートルエリアである江東デルタは五メートルも水没してしまった。タワーマンションは倒壊しなかったが停電し、復旧には四か月もの時間を要した。当然のようにエレベーターは動かない。とあるタワーマンションの最上階に住む主婦C子さんはプロペラ宅急便で食料や水を買っている。C子さんの話では、
_–プロペラ宅急便なら、出来立ての弁当やピザをヘリコプターで運んでくれます。うちは五人家族ですし、食材を買いに行こうにもエレベーターが停止していますから、五十メートルも下の一階まで階段で降りて、また登るなんて、とても出来ませんもの。–
との事だ。
 東京都が過去に発表した大地震による断水率の23区で46%を今回の首都圏直下型地震では、それを上回る56%だった。葛飾区、江東区、江戸川区では80%の断水となった。
通電火災は起きたが大雨で消えていった。地震で傷つけられた電気コードに電力が流れると火が付く場合が、ある。断線のち通電で、火災となる。
 それらの恐ろしい被害にあわないためにも、流太郎は安全なビルを選ばなければ、ならないのだ。とはいえ首都圏直下型地震は十年前の事であり、今は何もなかったような感を呈している。取り敢えずは新宿のビルで一階が空室な物件があった。それを籾山社長にスマホで連絡した。
「社長、一件、ありました。新宿です。」
「そうか、それにしろよ。昔の副都心だったが、今は都心は新宿より渋谷だけど、うん、電車は新宿から幾つもの線が出ているからな。」
「では不動産会社の社員と今、そこに来ていますが契約してしまいますか。」
「お、不動産屋が、いるのかね。即、決まりだな。」
「はい、それでは、そうします。」
流太郎は若い女性の不動産会社社員と都内を車で回っていた。落ち着いた女性だが二十五歳という年齢で、空手の有段者らしい。
 スマホを切ると流太郎は、その不動産会社女子社員に、
「ここに決めます。契約したいんです。」
と話した。女子社員は落ち着いた表情で、
「それでは会社に戻りましょう。そこで契約書を書いてもらいます。」
と答え、近くに停めている不動産会社の自動車に歩いていく。流太郎は、その自動車の後部座席に乗り込んだ。その不動産会社は、そのビルの近くにある。車が発信すると、不動産会社があるビルを通過した。流太郎は、
「会社の前を通りこしたよ、今。」
と後部座席から注意する。女子社員はハンドルを握ったまま、
「こういう物件は別の場所で契約します。うちの本社になります。」
とバックミラーで流太郎をチラッと見ながら答えた。
 車は八王子から更に西に向かった。連山の見える道路を走る車から流太郎は、
「随分、田舎に来たねえ。本社って、こういう処に、あるわけかな。」
「ええ。もう少しですよ、本社は。」
車は八王子市から南へ向かい、町田市の繁華街に着く。大きなビルの一階が、その不動産会社『すぐに、お部屋探し』の看板が出ていた。その隣が駐車場で車は、そこに入り停車した。流太郎は、その女性から貰った名刺を又、見る。
すぐに、お部屋探し
営業主任
部家尾美瑠夜(へやお・みるよ)
変な名前だ。でも、こういう名前だからこそ、不動産の仕事をしているのだろうけど、と流太郎は思う。部家尾は、
「着きましたよ。中で契約書に記入と署名を、御願いします。」
ガラス張りのドアを開くと部家尾の尻の後ろから流太郎が続いた。廊下を通り、壁に突き当たりの近くの左の部屋に部家尾が入る。流太郎も入ると、そこは眩しい光に包まれた。目を開けていられない程の光に流太郎は無意識的に右手で両目を、かばう様にすると、
「眩しすぎるなー。部家尾さん、なんですか、この光は。」
と訊く。部家尾は平然とした顔で、
「今、光速でワープしたのよ。もう眩しくないでしょ。」
と驚くべき話だ。
 流太郎は眩しい光が消えたのに気付いた。
「なんのための光ですか、あれは。ワープするため、だったのか。」
と部家尾に聞くと、微笑顔の部家尾は、
「あの光で光速で移動できたんです。ここは、福岡市のアイランドシティにある[すぐに、お部屋探し]の本社です。」確かに窓の外には博多湾が見える。
 では、東京都町田市から福岡市の人口島まで光の速さで移動したことに、なる。流太郎は、
「光の速さで移動できても、壁とかは、どうやって潜り抜けられるのだろうか。」

sf小説・体験版・未来の出来事18

 何処まで降りて行くんだろう、と流太郎は思った。階数表示のボタンを見ると、何と、地下三十階まで、ある。しかし高速のエレベーターなのか、そして途中の階でボタンを押した人がいないらしく、素早く岩石のエレベーターは地下三十階に到達した。
チェリネ・リンポチェが右手の人差し指で優雅にエレベーターの「開く」ボタンを押した。岩石の扉は、横滑りに開いた。地下三十階にしては、明るい部屋が見えた。地下三十階に至るまで、部屋があるから誰かがいる。住んでいる場合も、あるだろう。
仰天したのは、その部屋は五メートル先は壁となっていて、その前に銃を構えた兵士が二人立っていた。彼らはチェリネを見ると敬礼した後、銃を地面に置く。
その兵士の一人が進み出てチェリネに、何かチベット語で話す。流太郎を見て話しているようだ。それについてチェリネがチベット語で答えると、兵士は部屋の奥の壁にあるボタンを押した。壁はスーッと左右に開いた。その先にあるのは地下鉄の駅のような、たたずまいだった。チェリネは流太郎に日本語で、
「さあ、これから電車に乗って更に地下へ下ります。行きましょう。」
と声をかけ、先導して歩く。そのプラットフォームには既に一台だけの電車が二人を待つかのように姿を見せている。
 電車の扉は開いていて、二人が乗ると自動で閉まった。そして電車は動き出す。電車の内部は日本に走っている地下鉄と同じだが、座席のクッションは日本のものより、もっと心地よかった。なだらかな斜面を降りるように電車は走っていく。不思議な事に地下にあるのに電灯など何処にも見えない。それでいて薄明るいのだ。
そして地下に降りて行けば行くほど、明るくなってきた。地中に深く行けば行くほど暗くなるはずだが・・・。
 チェリネの左横に座っている流太郎には次第に明るくなっていく窓の外は驚異そのものだ。もしかして地上に戻っているのでは?と思ってしまうのだ。でも電車が下降して走っているのは実感できる。
窓の外は昼間の明るさになった。電車は遂に並行に走り始めた。山を下りた時のような風景が広がり始める。随分、田舎のようだ。田畑が見えるのだ。農家らしい家が、近くや遠くに散在している。
広い水田の向こうには山が見える。もはや地下鉄ではなく地上を走っている電車だ。流太郎は電車内の天井をフト、見てみた。すると!なんと電車の天井は今までの3倍の高さに、なっているではないか!天井まで6メートルは、あるだろう。何故、天井が高くなったのだろうか。それとも今までに見た社内の天井が低いと錯覚していたのかもしれない。流太郎は横にいるチェリネに、
「いきなり天井が高くなったみたいですが、こんな事は、あるのですか。」
と訊くと、チェリネは平然と、
「これからの対応に必要なのよ。すぐに、分かるわ。」
と答えてくれた。
電車は田園風景の無人駅のような所に着いた。これが地下にある世界だろうか。地上に出ているとしか思えないが、その駅に待っていた人達を見て、流太郎は、ここが紛れもなく地下の世界である事を確信したのだ。
二人連れの男が車内に乗り込んできたが、彼らの身長は三メートルは、ある。巨人二人で一人は肥満体、もう一人は痩せている。流太郎には分からない地下世界の言葉で二人座席に着くと話し始めた。それを日本語にすると、
肥満体の男 「おれたち背が低いから職が見つからないのかもな。」
痩せた男 「それは、そうだ。俺たちは小人なのさ。この世界の平均身長は四メートルだからな。それよりも俺たちは一メートルは低い。」
肥満体の男「ああ、それで精いっぱい食べたが、俺の背は伸びなかったよ。そのかわり、ブクブクと太ってしまった。」
痩せた男「でもよう、この身長だから雇ってくれる仕事も、あるんだ。それで俺たち、コンビを組める。町に着いたら面接だぜ。」
肥満体の男「サーカスには入れれば生活は何とか、なるな。」
痩せた男「面接前から採用は確定している。俺たちの写真をメールで添付して送っただろ?おれのメールボックスにはサーカスの団長から採用内定の返信が届いたよ。」
肥満体の男「おい、俺たちの前にいる、あの男女の二人。奴らは俺たちより背が低いぜ。二メートルもない。奴らもサーカスに面接に行くのか?」
痩せた男「さあ、な。もうサーカスで働いているのかも、しれんぞ。どうやら地上人のようだな。服装で分かるよ、彼らの。」
チェリネには彼らの会話が分かった。彼女は、もう長い間、地下世界へ行っている。十歳になった時から地下世界へチベット密教の指導者に連れられて、この地下鉄に乗り、地下世界の指導者に会っている。その指導者の上に更なる指導者が、いるのだが。その指導者の身長は四メートルは、あった。指導者だけではなく、彼の信者も身長は四メートル位だった。その頃からチェリネは地下世界の言語を学んだ。その地下世界こそシャンバラと呼ばれる理想郷だったのだ。
チベット密教の、とある高僧だけがシャンバラとの交流を保ち続けている。チェリネは幸いにも、その高僧と出会えたのだ。シャンバラというのも一つの広大な世界だ。地上の日本でさえ狭いと言われながら北海道から九州、沖縄と割と広い。北海道と沖縄では気候も全く違う。シャンバラの広さは日本どころではなく、世界一広い国土のロシアより広いのだ。
 これまで地上に伝えられてきたシャンバラの情報は、その、ごく一部に過ぎない。ロシアやアメリカを足で歩いて回るとなると大変な労力を要する。シャンバラとなるとアメリカとロシアとヨーロッパを足したより広い世界だ。
これまでシャンバラに行ったという人達は、そのほんの一部を見たに過ぎない。
地上から、すぐ行ける場所にシャンバラの聖者が住んでいることは、ない。電車に乗って来た巨人を見て驚いている流太郎にチェリネは、
「あの人たちより、もっと大きな人がいるわ。あの人たちはシャンバラの人達の平均身長には及ばないから。」
と解説した。流太郎は、
「電車の天井が高くなった理由が分かりましたよ。僕は最初に、この車両に乗った時に天井を見上げました。その時は地上にある普通の電車の天井の高さだったんです。シャンバラに入ったら天井を高くしないと、いけないわけですね。」
と納得する。チェリネは、
「シャンバラは、とても広いのよ。シャンバラにも海があるし山もある。でも一つの大陸しかシャンバラには、ない。」
と窓の外の悠然とした景色を眺めつつ話す。電車は時速五十キロ程度で走っているようだ。流太郎は、
「それでは大陸の端から端までの移動は大変ですね。この電車だと一年くらい、かかりそうですが。」
と訊いてみると、チェリネは、
「交通機関は他にも、あるのよ。でも、それは、そのうち分かるから。私たちが知りうるシャンバラは、ごく一部だけ。わたしの知っている長老様の上には又、長老様がいる。地上の人間が入れない場所もあるし、仏陀が許可された場所も限られていた。わたしたちチベットにはボン教という仏教伝来以前からの宗教があるけど、これは地下帝国シャンバラとの繋がりがあるわ。そこでボン教はシャンバラの秘法も、いくらか伝えられているの。」
「なるほど、ボン教ですか。知りませんでした。チェリネ・リンポチェのチベット密教にはボン教のものも、あるわけですね。」
「そうです、それでウチは代々、シャンバラと繋がりがある。それで、年に数回はシャンバラに行きます。父は月に一回くらいかな。この可変天井型電車も、わたしたちのために作ってもらったんです。」
「それは、すごい。チェリネ・リンポチェに会わなければ、僕はシャンバラに来る事は、なかったでしょう。」
と感心する事ばかりの流太郎である。
次の無人駅に着くとチェリネは立ち上がり、流太郎に、
「降りますよ。」
と短く言う。
自動扉が開き、二人の斜めの右先からは、さっきとは別の巨人が二人入って来た。彼らの身長は四メートルは、あるだろう。
横目で、その平均身長の巨人を見やりつつ流太郎はチェリネの後から電車を降りる。改札口も駅員も、いなかった。駅舎は石造りでベンチはあるが誰も座っていない。切符も必要では、ないのだろう。先を歩くチェリネに流太郎は、
「この電車はタダだったんですね。」
と訊くとチェリネは振り返らず、
「なにしろ、ここでは電気はフリーエネルギーだから、お金を取る必要ないの。」
と説明してくれた。
流太郎は空を見渡した。明るいが太陽らしきものは見えない。それで、
「太陽は、ないようですね。なぜ、明るいのでしょう。」
と歩きながら聞くと、チェリネは、
「光源は、あるけど地下に太陽は必要ないわ。ここの空は行きつくところが地球の地下の部分になる。人工的な光を、この世界の幾つかの場所で作り出しているの。それで、ここは充分に明るい場所になる。詳しい事は、ここの神官の人に聞くといい。」
と話すと、立ち止まった。道路は車道らしきものも通っているが、自動車やバイクは見ない。歩道にも人は、いなかった。夢幻の世界のようだが風が、そよ風程度で吹いている。見渡すばかりの小麦畑だ。驚くことに小山の斜面にも小麦が連なっている。タクシーは走っていないだろうに、これからチェリネは、どうするのだ?チェリネはスカートのポケットからスマートフォンを取り出すと、何か流太郎には分からない言葉で話した。それから一分経つか、という時に、突如、地平線の向こうから丸い物体が現れて、それは瞬間移動したかのように二人の前に飛んできた。円盤型UFOだ。
それは二人の前で車道に着陸した。中から出てきたのは赤い僧服のチベット僧だ。彼は歩道にいる二人の前に立つと、
「チェリネ。久しぶりだな。さあ、乗れよ。」
チェリネは無言で、うなずくとUFOの中に入ったのだ。流太郎も、そそくさ、と付き従う。天井の高い部屋だった。三人がいる部屋に、運転席らしい部屋のドアが開き身長四メートルの巨人の中年男性が現れ、何か喋った。歓迎の意を感じる言葉だ。
 これから何処か他の惑星に連れ去られるのだろうか?巨人は地球人ではなく宇宙人だとしたら、うなずける話である。
巨人の言葉を日本語で紹介しよう。その巨人はチェリネに、
「あの男は日本人か。」
と訊いた。チェリネは地下世界語で、
「はい、そうです。プロキシマbの女性であるサミアドネさんが連れてきたのです。」
「ほほう、それは興味深いな。何しろ、この地下帝国に日本人が来た事は、まだ、ないのだ。日本人は冒険精神に乏しい。江戸時代は特に、それが顕著だった島国だな。」
「よく、ご存じですわ。マスター、ロギンソン。」
「いや、それほどでもないさ。彼は、なんという名前だね?」
「時・流太郎と、いうそうです。」
「ふむ。地下帝国に初めて来た日本人だ。歓迎してやらねば、な。もちろん、我々だって日本に行く事は、できないのだ。このままではね。さあ、着いたぞ、我らの宮殿へ。」
と巨人のマスター・ロギンソンは快活に話した。五メートルの高さがある円盤の扉が開いた。マスター・ロギンソンの後に続いて円盤に乗っていたチベット僧、チェリネ、流太郎の順に円盤の外へ出る。
 そこは小高い丘の上だった。地上の宮殿に比べて四倍の高さは、ある。白色の壁には太陽光パネルに似たものが取り付けられている。四メートルの巨人のマスター・ロギンソンは入り口の扉の右の壁にあるパネルに右手の人差し指を当てた。指紋認証のドアらしく、すぐに扉が開いた。その扉も高さ五メートルは、ある。ロギンソンは皆を振り返り、
「さあ、中へ入ろう。寛いで、もらいたい。」
とニコヤカに誘う。
中に入って応接ホールのような場所に、すぐ行きついた。そこにあるテーブルやソファは巨大で、四メートルの身長の巨人用の家具だ。
三人がソファに座っても、背中がソファの背もたれに届かない。ロギンソンは、
「背中をつけるために両足は投げ出していいから。」
と背中をソファに着ける事を、すすめる。
三人はロギンソンに言われた通りにした。召使風の男が現れた。彼も巨人で四メートルの身長だ。地下世界語で、
「ロギンソン様。ミルクティーで、ございます。」
ロギンソンは鷹揚に、うなずくと、
「テーブルに置いてくれ。三人には、私のミルクティーの半分のものを。」
巨人の召使が届けてくれたミルクティーを流太郎は、濃度が、とても濃いように感じた。地上のミルクより数倍は濃くて、うまい。チェリネは地下世界語で、
「いつも、おいしく思います。こちらの食べ物や飲み物は地上のものより、どれも美味ですから、もう、地上に帰らなくてもいい気がしますわ。」
とロギンソンに話した。ロギンソンは、
「それは地上に比べて我々の牛の育て方や農作物の作り方が数層倍、進化しているからなのだ。人工太陽も我々の作成したものだからな。そもそも、本物の太陽が地球内部にある、という事などは普通に考えても、ありえない話だろう。そこで、だが実は地上に降り注ぐ太陽光線には有害なものも含まれている。それが地上の人間の寿命を縮める一因でも、あるんだ。それに比べて我々の作った人工太陽には有害な光線は含まれていない。
そのため、我々地下の巨人族は数千年は生きられる。」
と話してくれた。
 人工太陽!それが地下世界を照らしていたのだ。もちろん、その言葉は流太郎には一語も分からなかった。
チェリネは流太郎にコッソリと、
「あの男のチベット僧は二百歳なのよ、あまり地上に出てこないせいと思うけど。」
と日本語で教えてくれた。マスター・ロギンソンは立ち上がると部屋の隅にある箪笥のような家具のあるところへ行った。驚くべきなのは、その箪笥はガラスのように透明で中が見えるのだ。まさかガラスのような壊れやすい素材で作られた箪笥では、ないと思われるが。
そこからヘッドフォンのようなものを取り出すとロギンソンは流太郎の前に来て、そのヘッドフォンを渡すとチェリネに「日本語で説明してあげなさい。」
と示唆する。チェリネは、
「そのヘッドフォンを耳に装着すると、ここの言語が日本語に自動変換されるから、耳に当てるように。」
と流太郎に指示した。
流太郎が耳にヘッドフォンを付けると、マスター・ロギンソンは、
「日本語に変換するヘッドフォンは最近、作られたものだ。チベット語に変換されるものは一番初めに造られている。日本人というのは後発人種で後発国家のようだな。チベットは国家としては貧しいが、豊かな人は精神的にも豊かで我々と交流もある。日本は経済国家として大成して金は、あるようだが、それだけでは・・・。でも君は金持ちそうにも見えないので、しばらく、ここにいてもいい。」
流太郎は思わず、
「はい、ありがとうございます。」
と日本語で話したが、それはマスター・ロギンソンには理解できなかったらしく、
「私もヘッドフォンを耳に付けよう。」
と話し、さっきの透明な箪笥へ行き、ヘッドフォンを耳にして戻って来た。四メートルの身長の人用のヘッドフォンだ。この地下世界では、その寸法のヘッドフォンが標準なのだろう。
ソファに座ると善良そうなロギンソンは、
「これで日本語が分かる。チェリネやライツォン(男のチベット僧)には日本語が分かるからヘッドフォンは必要ない。」
そのヘッドフォンの左と右をつなぐ部分の中央に、小さな集音器みたいなものがあり、そこで日本語を地下世界語に翻訳してマスター・ロギンソンの左右の耳に伝えるらしい。ロギンソンは面白そうに流太郎を見ると、
「日本には仏教があるが、あれは釈迦が本来、教えていたものではないのだよ。」
と話した。それを聞いた流太郎は、
「では贋の仏教だと、いう事ですか??」
「ああ、そうだ。日本の仏教は、すべて中国を経由して伝えられた。それが全部、釈迦が本来、教えていたものではないのだ。真伝の仏教はチベットとタイにある。」
なんという衝撃、それが、でも事実だろう。ロギンソンは続けて、
「真伝の仏教を中国には伝えない、という事を初期の仏教僧は決議した。それで例の達磨の事が気になると思うが。」
と流太郎の返答を待つ顔にロギンソンは、なる。流太郎は、
「達磨って選挙に当選したりしたら両眼を書き入れる、あれですか。」
「そうだ、その達磨だが。これはインチキ・インド人だった。奴はインドの王子だったが真伝の仏教を自分は知っていると公言して中国に、やってくる。面壁九年、悟ることが出来ずに両脚は腐った。この面壁という座法こそ本来の仏教の観想法ではない事は分かるだろう。」
流太郎はチベット密教のゾクチェンの秘法を思い出した。高台から空中を見て座る、という座法だったのだ。それで、
「ええ、そうみたいですね。禅宗の座法は違うようです。それでは釈迦の教えたものとは違うという事、ですか。」
「ああ、日本にある仏教は総て釈迦本来の仏教ではない。故に日本人は宗教に興味を持たないのだ。葬式仏教と割り切られておる。君はチベット密教のゾクチェンで本物に出会え、今、地下世界のシャンバラに来ている。これは日本人としては初めての事だ。本物の釈迦も随分前に我々が地下世界に来させたのだ。私は今、九千歳だから、もちろん、その時の釈迦に会っているよ。」
流太郎は、もう一人の宗教人について聞いてみたくなり、
「キリストは来たのでしょうか。」
マスター・ロギンソンは首を否定的に振ると、
「いや、彼は来ないよ。彼は金星由来の人間だ。地球のものを軽蔑し、ユダヤ教の神殿も荒らした。それは、もちろん、よくない事だ。様々な理由からユダヤ社会で死刑となった。我々は金星由来の人間では、ない。我々はアトランティス大陸からの人間だ。元々の我々の祖先はUFOに乗って他の惑星から地球へ来たのだ。それでUFO製造の方法も代々、アトランティスでは伝えられていた。
金星人は千歳まで生きる人間は、ほぼ、いない。私は九千歳だし、この事実からも金星人が全てに於いて地球人より、優れているとは言えない事が分かるだろう。
金星人ですら知らない生命維持の方法を我々は知っている。」
と話すとロギンソンは流太郎を見る。流太郎は思い出したように、
「インドのババジも不死の人と呼ばれています。」
「彼は二千歳にも、なっていない。インド人のババジは神に助けられている。だが、我々は神に助けてもらったわけではない。いずれにせよ、地上の文明はヨガも含めて、それほど発達しているわけではない。我々のアトランティス、そしてレムリアの文明は超絶的なものだ。それは地下世界に生かされている。」
「アトランティス大陸は沈んだのでは、ありませんか。」
「そうだよ。レムリアも沈没した。が、これは自然現象では、ない。アトランティスとレムリアで戦争を行った際に地殻変動を起こしてしまったのだ。どちらも相手の国を沈没させようと、目論んだ訳だ。それは、両方の国で成功したわけだが・・・。
 私はアトランティス大陸で神官であると同時に科学者でもあった。現代地上文明からすると我々の科学は超科学と呼べるものだ。」
 地底世界の巨人はアトランティス大陸の人だったのだ。ロギンソンは話を続ける。
「アトランティスが沈没する事を事前に予測できた我々はUFOで脱出した。神官と、その家族の数千人はチベットの或る地点から地下へ潜ったのだ。そこには最初から地下太陽が燦燦と優しい光を我々に投げかけて、くれていたのだ。牛や馬も、いた。我々は地下世界の動物をアトランティスから持ち込んだ様々な生物のDNAを使って品種改良していったのだ。
それで我々の食糧は確保されていった。何か聞きたい事が、あるかな?日本人の…君、名前は何というんだね。」
「時・流太郎といいます。」
「ああ、時君ね。私の名前はロギンソン・パウモアという。それでだな、何か聞きたいかね?」
「はい、パウモアさん。アトランティスのUFOは、どこまで飛べるのですか。」
「いい質問だね。地球外にも、行けるよ。プロキシマbまでは簡単さ。地球に似た惑星で、地球から最も近くにあるのがプロキシマbだからだよ。」
プロキシマb!プロキシマ・ケンタウリを回る惑星である。プロキシマ・ケンタウリは太陽系の太陽から4.24光年ほどの距離にある。4.24光年は遠くない距離なのだろうか。流太郎は、
「四年の時間は、それなりの旅行時間と思います。」
と意見を言ってみる。ロギンソンは不敵な微笑みを顔に浮かべ、地上の人間の二倍の大きさの顔だ、
「四年も宇宙空間を旅していられるものかね。四十時間は、かかるがね、プロキシマbへの地球からの到達時間は。」
「四十時間ですか。光速でも四年かかるのに。」
「それは君、光が一番早い速度で移動するという愚かな地上の物理学で考えるからさ。アトランティスの科学は、物理学は、そんな幼稚なものではないのだよ。」
流太郎は光より早いものを想像さえできなかった。しかし、光より早い動力でなければ、プロキシマbに四十時間で辿り着くことは不可能だ。ロギンソンは語る。
「要するに光より早く動くものを空間から取り出して、それをエネルギー源とする。そういうものは、いくらでも取り出せるよ。電気も実は空気中に含まれている。
詳しく教えることは、できないがね。」
ピタリと制止するような語調で話を止めたロギンソンは、
「話ばかりでは面白くないだろう。何度か地下世界に来た地上人は、我々の世界のホンの一部を見たに過ぎない。時君、君はチェリネと同行しているから、もう少し色々なものを見ていけるよ。」
ロギンソン、チェリネ、流太郎は宮殿の庭にあったオープンカーに乗った。ロギンソンが助手席、後部座席にチェリネと流太郎だ。運転は誰が、するのか?
なにせ、四メートルの巨人が、ゆったりと座れる助手席だ。車自体が地上にある車の2.5倍の大きさなのだ。後部座席のチェリネと流太郎は、ゆったりと離れて座っている。あと二人は後部座席に座れそうだ。
 巨大なオープンカーは急発進した。運転席には誰もいない。ハンドルも何処にも見えない。後部座席左側の流太郎は身を乗り出して運転席を見る。運転席の足元を見るとアクセルやブレーキも見当たらない。
ヘッドフォンをしたままの流太郎は同じくヘッドフォンをしたままのロギンソンに聞いてみる。
「ハンドルがないどころか、この車はアクセルやブレーキも見当たりませんね。どうやって動くのですか。」
ロギンソンは悠々と助手席で前方を見ながら、
「ここにリモコンがある。」
と右手を高く上げて、手に握っているリモコンを流太郎に見せる。ロギンソンは続けて、
「スタートを押した。あとは自動運転だ。万一の場合、それは通常には、ありえない事だけれど、リモコンにはブレーキもアクセルもある。ハンドル操作もできる。ハンドル操作は地上のパソコンに指で操作できるものがあるけど、あれと同じだね。右回りと左回りの二通りだよ。それで右へハンドルを切るのと、左へハンドルを切るのと同じになる。」
なんとも便利すぎる自動車だ。走り始めたオープンカーから見える景色は郊外のものだが、爽やかな快晴の空は地底のものとは思われない。しばらく対向車線に車も見えなかった。
海岸線が見えてきた。海水客が、いるらしい。十人ほどの男女の塊が見える。彼らは地底世界の住人らしい。四メートルほどの身長で、しかも彼らはオールヌードだったのだ!
 ロギンソンのオープンカーが通り過ぎるのに気付いた彼らは、車に向かって手を振ってくれた。
四メートルの身長の巨人美女の裸体を流太郎はジックリと眺めてしまった。肌の色は白く日焼けしていない。乳房や尻は白人女性の二倍以上、ある。股間の陰毛地帯も地上の白人女性の二倍の広さで、その下に見える陰スジも二倍は、あるのだろう。
男性のモノも地上の男性の二倍は、ある。まるで小さなバナナが股間に垂れ下がっているようなのだ。だが流太郎は、それらをジックリとは観察しなかった。オープンカーは、そこを低速で通り過ぎて行った。
あれらの人達もアトランティスの末裔なのだろうか。地下世界でのヌーディスト・ビーチ、裸天国海岸なのだ。
助手席のロギンソンは海から吹く風に、大きな長い髪の毛を靡(なび)かせつつ、
「この辺は人口の少ない所なんだが、意外に裸体讃美者が多かったな。だけど法に触れるという事は、ないんだよ。彼らが海岸でセックスをする事も認められている。大抵は海中で性交する場合が多いが、露出趣味のある人達は海岸線を走る自動車に乗っている人達に見えるように性行為を行っているよ。」
その話に流太郎が目の色を変えたのに対して、チェリネは平然としていた。チェリネは、
「公然猥褻罪という法律が、ないらしいわ。むしろ奨励されているのかしら、そうですね、マスター・ロギンソン。」
と話した。ロギンソンは、
「うん、そうだよ。地上での公然わいせつというものは風紀を乱す、とか他の人の性欲を惹起せしめる事への怖れから罪として取り締まるものだろう。我々のようなアトランティス人は他人の性行為で自分の性欲を亢進させられる事は、ないからな。それに第一、地下世界は人口が少ないんだ。我々はキリスト教でも、ないし、原罪思想もない。アダムがイブを知った訳でもない。地上の西洋社会はキリスト教に覆われている。日本も、少なからず影響があるようだね。クリスマスイブにホテルを予約するカップルはイブ・まんこするつもりだろう、キリストでも生むつもりかね。我々にとって、そもそもキリストなんて、どーでも、いーのさ。キリスト教なんてペテンか詐欺の宗教と地下世界では捉えている。そもそも処女懐胎などという事は生物学的にも不可能だ。それを公然と掲げてキリストとやらの神性をゴリ押ししたキリスト教は免罪符などというインチキなものを発行し、ガリレオの地動説を否定したのだ。
ローマ帝国と結びついたキリスト教は権力志向に走る。それはヨーロッパでユダヤ人弾圧へと向かった。
 とにかく、だ。我々はキリストとやら馬小屋で生まれた貧乏人の宗教なんて蚊のうんこ程にも思っていない。時君は、まさかキリスト教じゃ、ないよな?」
「うちは禅宗だったようですが、僕は長男ではないので・・無宗教みたいなものです。」
「それは、いい。アトランティスの神官だったのだよ、わたしは。神を崇める仕事だ。今も続けておるんだ。それでだね、神秘学、オカルトの方でマイトレーヤというのがいるが、あれもアトランティスの神官だったのだよ。キリストは、このマイトレーヤの弟分に、なっておる。あんなの相手にしなくても、いいじゃないか、とマイトレーヤには言ったさ、わたしはね。でも聖者として慕われると無碍にも出来ないのがマイトレーヤの気持ちらしい。
何年に一度かはマイトレーヤも私の宮殿を訪問する。そしてアトランティス時代の神を礼拝して帰るのだ。」
 アトランティス時代の神!それは、今でも実在するのか?!
流太郎は、それに就いて、
「エジプトの神様とは違っているのですか?アトランティス時代の神様は。」
と尋ねる。神官ロギンソンは、
「実在し、我々に教えをくれる有難い神様だ。なお、一神教ではない。当たり前の話だが神は複数、存在する。」
さっきのヌーディストの人達は既に見えなくなって久しかった。
トウモロコシ畑が見えてきた。それは余りにも広くて地平線の遥か彼方にまで続いているかのようだった。ロギンソンは、
「この地底世界では盗みという事が起こらない。あのトウモロコシ畑にある玉蜀黍は誰が取ってもいいのだ。つまり、あの畑は誰のものでもない。みんなの、ものだからだ。この地底世界には農家というものが存在しない。農作物は勝手に豊作となる。害虫も、いない。
長雨や日照りも起きないので不作は一年たりとも起こらない。農作物は余りにも豊富なので農業をやる地底人は、いないのだ。」
流太郎は自動翻訳機のヘッドフォンに両手を当てて、耳の位置を調整すると、
「農業をやる人は、いなくても土地は誰かのものでは、ないのですか?」
と尋ねた。ロギンソンは笑いたくなるのを、こらえた様子で、
「そもそも農地というのは地底世界では誰のものでも、ない。」
と断じた。だから誰でも農作物は取り放題なのだ。それでいて農作物は、なくならないのだろうか?その疑問を流太郎は口から発して、
「限りある農作物では、ないでしょうか。」
「もちろん、有限なものだよ。しかし地底の人間には溢れて余る量なのだ。実際のところだね、誰も取らなかった農作物は、そのまま枯れていく。つまりタダでも余っているんだよ。人間が誰も取らないからといって農作物が嘆き悲しむ訳ではないんだ。地上で農作物が余ると悲しむのは農家の人間なんだ。地上は豊かに実らないものだ。りんご、にしてもそうだし、メロンともなると実りが少なすぎるものだ。それでメロンの価格は高騰する。それでも買う人がいるから、ある価格で一定になる。
それを買えるのが富裕な人間で、買えないのが貧乏人という事になる。貧富というのは地上では、こういうところかも発生する。単に農作物を手に入れられるか、手に入れられないか、という事だけで、だ。
問題なのは地上が貧しい、不足している農作物しか生み出さないからなんだ。アトランティス大陸にも豊かな農作物が存在した。アトランティス大陸は海底に没したが、地下世界に逃げ込んだ我々は又しても豊かな農作物に巡り合えたのだ。」
長い間、道の両端はトウモロコシ畑であったのだが、それが今度はメロン畑になり、それも広大な面積の中にメロンが連なって実っている。あのメロンも、この地下世界では取り放題なのだ。どこまでも続くメロン畑の次はブドウ畑だ。それらの果物は地上のものとは違うのが大きさで、その体積は地上のメロンやブドウの三倍の大きさだ!
スイカのようなメロンもある。
流太郎は訊く。
「あの大きな果物は何と呼ばれていますか。」

sf小説・体験版・未来の出来事17

 何処まで降りて行くんだろう、と流太郎は思った。階数表示のボタンを見ると、何と、地下三十階まで、ある。しかし高速のエレベーターなのか、そして途中の階でボタンを押した人がいないらしく、素早く岩石のエレベーターは地下三十階に到達した。
チェリネ・リンポチェが右手の人差し指で優雅にエレベーターの「開く」ボタンを押した。岩石の扉は、横滑りに開いた。地下三十階にしては、明るい部屋が見えた。地下三十階に至るまで、部屋があるから誰かがいる。住んでいる場合も、あるだろう。
仰天したのは、その部屋は五メートル先は壁となっていて、その前に銃を構えた兵士が二人立っていた。彼らはチェリネを見ると敬礼した後、銃を地面に置く。
その兵士の一人が進み出てチェリネに、何かチベット語で話す。流太郎を見て話しているようだ。それについてチェリネがチベット語で答えると、兵士は部屋の奥の壁にあるボタンを押した。壁はスーッと左右に開いた。その先にあるのは地下鉄の駅のような、たたずまいだった。チェリネは流太郎に日本語で、
「さあ、これから電車に乗って更に地下へ下ります。行きましょう。」
と声をかけ、先導して歩く。そのプラットフォームには既に一台だけの電車が二人を待つかのように姿を見せている。
 電車の扉は開いていて、二人が乗ると自動で閉まった。そして電車は動き出す。電車の内部は日本に走っている地下鉄と同じだが、座席のクッションは日本のものより、もっと心地よかった。なだらかな斜面を降りるように電車は走っていく。不思議な事に地下にあるのに電灯など何処にも見えない。それでいて薄明るいのだ。
そして地下に降りて行けば行くほど、明るくなってきた。地中に深く行けば行くほど暗くなるはずだが・・・。
 チェリネの左横に座っている流太郎には次第に明るくなっていく窓の外は驚異そのものだ。もしかして地上に戻っているのでは?と思ってしまうのだ。でも電車が下降して走っているのは実感できる。
窓の外は昼間の明るさになった。電車は遂に並行に走り始めた。山を下りた時のような風景が広がり始める。随分、田舎のようだ。田畑が見えるのだ。農家らしい家が、近くや遠くに散在している。
広い水田の向こうには山が見える。もはや地下鉄ではなく地上を走っている電車だ。流太郎は電車内の天井をフト、見てみた。すると!なんと電車の天井は今までの3倍の高さに、なっているではないか!天井まで6メートルは、あるだろう。何故、天井が高くなったのだろうか。それとも今までに見た社内の天井が低いと錯覚していたのかもしれない。流太郎は横にいるチェリネに、
「いきなり天井が高くなったみたいですが、こんな事は、あるのですか。」
と訊くと、チェリネは平然と、
「これからの対応に必要なのよ。すぐに、分かるわ。」
と答えてくれた。
電車は田園風景の無人駅のような所に着いた。これが地下にある世界だろうか。地上に出ているとしか思えないが、その駅に待っていた人達を見て、流太郎は、ここが紛れもなく地下の世界である事を確信したのだ。
二人連れの男が車内に乗り込んできたが、彼らの身長は三メートルは、ある。巨人二人で一人は肥満体、もう一人は痩せている。流太郎には分からない地下世界の言葉で二人座席に着くと話し始めた。それを日本語にすると、
肥満体の男 「おれたち背が低いから職が見つからないのかもな。」
痩せた男 「それは、そうだ。俺たちは小人なのさ。この世界の平均身長は四メートルだからな。それよりも俺たちは一メートルは低い。」
肥満体の男「ああ、それで精いっぱい食べたが、俺の背は伸びなかったよ。そのかわり、ブクブクと太ってしまった。」
痩せた男「でもよう、この身長だから雇ってくれる仕事も、あるんだ。それで俺たち、コンビを組める。町に着いたら面接だぜ。」
肥満体の男「サーカスには入れれば生活は何とか、なるな。」
痩せた男「面接前から採用は確定している。俺たちの写真をメールで添付して送っただろ?おれのメールボックスにはサーカスの団長から採用内定の返信が届いたよ。」
肥満体の男「おい、俺たちの前にいる、あの男女の二人。奴らは俺たちより背が低いぜ。二メートルもない。奴らもサーカスに面接に行くのか?」
痩せた男「さあ、な。もうサーカスで働いているのかも、しれんぞ。どうやら地上人のようだな。服装で分かるよ、彼らの。」
チェリネには彼らの会話が分かった。彼女は、もう長い間、地下世界へ行っている。十歳になった時から地下世界へチベット密教の指導者に連れられて、この地下鉄に乗り、地下世界の指導者に会っている。その指導者の上に更なる指導者が、いるのだが。その指導者の身長は四メートルは、あった。指導者だけではなく、彼の信者も身長は四メートル位だった。その頃からチェリネは地下世界の言語を学んだ。その地下世界こそシャンバラと呼ばれる理想郷だったのだ。
チベット密教の、とある高僧だけがシャンバラとの交流を保ち続けている。チェリネは幸いにも、その高僧と出会えたのだ。シャンバラというのも一つの広大な世界だ。地上の日本でさえ狭いと言われながら北海道から九州、沖縄と割と広い。北海道と沖縄では気候も全く違う。シャンバラの広さは日本どころではなく、世界一広い国土のロシアより広いのだ。
 これまで地上に伝えられてきたシャンバラの情報は、その、ごく一部に過ぎない。ロシアやアメリカを足で歩いて回るとなると大変な労力を要する。シャンバラとなるとアメリカとロシアとヨーロッパを足したより広い世界だ。
これまでシャンバラに行ったという人達は、そのほんの一部を見たに過ぎない。
地上から、すぐ行ける場所にシャンバラの聖者が住んでいることは、ない。電車に乗って来た巨人を見て驚いている流太郎にチェリネは、
「あの人たちより、もっと大きな人がいるわ。あの人たちはシャンバラの人達の平均身長には及ばないから。」
と解説した。流太郎は、
「電車の天井が高くなった理由が分かりましたよ。僕は最初に、この車両に乗った時に天井を見上げました。その時は地上にある普通の電車の天井の高さだったんです。シャンバラに入ったら天井を高くしないと、いけないわけですね。」
と納得する。チェリネは、
「シャンバラは、とても広いのよ。シャンバラにも海があるし山もある。でも一つの大陸しかシャンバラには、ない。」
と窓の外の悠然とした景色を眺めつつ話す。電車は時速五十キロ程度で走っているようだ。流太郎は、
「それでは大陸の端から端までの移動は大変ですね。この電車だと一年くらい、かかりそうですが。」
と訊いてみると、チェリネは、
「交通機関は他にも、あるのよ。でも、それは、そのうち分かるから。私たちが知りうるシャンバラは、ごく一部だけ。わたしの知っている長老様の上には又、長老様がいる。地上の人間が入れない場所もあるし、仏陀が許可された場所も限られていた。わたしたちチベットにはボン教という仏教伝来以前からの宗教があるけど、これは地下帝国シャンバラとの繋がりがあるわ。そこでボン教はシャンバラの秘法も、いくらか伝えられているの。」
「なるほど、ボン教ですか。知りませんでした。チェリネ・リンポチェのチベット密教にはボン教のものも、あるわけですね。」
「そうです、それでウチは代々、シャンバラと繋がりがある。それで、年に数回はシャンバラに行きます。父は月に一回くらいかな。この可変天井型電車も、わたしたちのために作ってもらったんです。」
「それは、すごい。チェリネ・リンポチェに会わなければ、僕はシャンバラに来る事は、なかったでしょう。」
と感心する事ばかりの流太郎である。
次の無人駅に着くとチェリネは立ち上がり、流太郎に、
「降りますよ。」
と短く言う。
自動扉が開き、二人の斜めの右先からは、さっきとは別の巨人が二人入って来た。彼らの身長は四メートルは、あるだろう。
横目で、その平均身長の巨人を見やりつつ流太郎はチェリネの後から電車を降りる。改札口も駅員も、いなかった。駅舎は石造りでベンチはあるが誰も座っていない。切符も必要では、ないのだろう。先を歩くチェリネに流太郎は、
「この電車はタダだったんですね。」
と訊くとチェリネは振り返らず、
「なにしろ、ここでは電気はフリーエネルギーだから、お金を取る必要ないの。」
と説明してくれた。
流太郎は空を見渡した。明るいが太陽らしきものは見えない。それで、
「太陽は、ないようですね。なぜ、明るいのでしょう。」
と歩きながら聞くと、チェリネは、
「光源は、あるけど地下に太陽は必要ないわ。ここの空は行きつくところが地球の地下の部分になる。人工的な光を、この世界の幾つかの場所で作り出しているの。それで、ここは充分に明るい場所になる。詳しい事は、ここの神官の人に聞くといい。」
と話すと、立ち止まった。道路は車道らしきものも通っているが、自動車やバイクは見ない。歩道にも人は、いなかった。夢幻の世界のようだが風が、そよ風程度で吹いている。見渡すばかりの小麦畑だ。驚くことに小山の斜面にも小麦が連なっている。タクシーは走っていないだろうに、これからチェリネは、どうするのだ?チェリネはスカートのポケットからスマートフォンを取り出すと、何か流太郎には分からない言葉で話した。それから一分経つか、という時に、突如、地平線の向こうから丸い物体が現れて、それは瞬間移動したかのように二人の前に飛んできた。円盤型UFOだ。
それは二人の前で車道に着陸した。中から出てきたのは赤い僧服のチベット僧だ。彼は歩道にいる二人の前に立つと、
「チェリネ。久しぶりだな。さあ、乗れよ。」
チェリネは無言で、うなずくとUFOの中に入ったのだ。流太郎も、そそくさ、と付き従う。天井の高い部屋だった。三人がいる部屋に、運転席らしい部屋のドアが開き身長四メートルの巨人の中年男性が現れ、何か喋った。歓迎の意を感じる言葉だ。
 これから何処か他の惑星に連れ去られるのだろうか?巨人は地球人ではなく宇宙人だとしたら、うなずける話である。
巨人の言葉を日本語で紹介しよう。その巨人はチェリネに、
「あの男は日本人か。」
と訊いた。チェリネは地下世界語で、
「はい、そうです。プロキシマbの女性であるサミアドネさんが連れてきたのです。」
「ほほう、それは興味深いな。何しろ、この地下帝国に日本人が来た事は、まだ、ないのだ。日本人は冒険精神に乏しい。江戸時代は特に、それが顕著だった島国だな。」
「よく、ご存じですわ。マスター、ロギンソン。」
「いや、それほどでもないさ。彼は、なんという名前だね?」
「時・流太郎と、いうそうです。」
「ふむ。地下帝国に初めて来た日本人だ。歓迎してやらねば、な。もちろん、我々だって日本に行く事は、できないのだ。このままではね。さあ、着いたぞ、我らの宮殿へ。」
と巨人のマスター・ロギンソンは快活に話した。五メートルの高さがある円盤の扉が開いた。マスター・ロギンソンの後に続いて円盤に乗っていたチベット僧、チェリネ、流太郎の順に円盤の外へ出る。
 そこは小高い丘の上だった。地上の宮殿に比べて四倍の高さは、ある。白色の壁には太陽光パネルに似たものが取り付けられている。四メートルの巨人のマスター・ロギンソンは入り口の扉の右の壁にあるパネルに右手の人差し指を当てた。指紋認証のドアらしく、すぐに扉が開いた。その扉も高さ五メートルは、ある。ロギンソンは皆を振り返り、
「さあ、中へ入ろう。寛いで、もらいたい。」
とニコヤカに誘う。
中に入って応接ホールのような場所に、すぐ行きついた。そこにあるテーブルやソファは巨大で、四メートルの身長の巨人用の家具だ。
三人がソファに座っても、背中がソファの背もたれに届かない。ロギンソンは、
「背中をつけるために両足は投げ出していいから。」
と背中をソファに着ける事を、すすめる。
三人はロギンソンに言われた通りにした。召使風の男が現れた。彼も巨人で四メートルの身長だ。地下世界語で、
「ロギンソン様。ミルクティーで、ございます。」
ロギンソンは鷹揚に、うなずくと、
「テーブルに置いてくれ。三人には、私のミルクティーの半分のものを。」
巨人の召使が届けてくれたミルクティーを流太郎は、濃度が、とても濃いように感じた。地上のミルクより数倍は濃くて、うまい。チェリネは地下世界語で、
「いつも、おいしく思います。こちらの食べ物や飲み物は地上のものより、どれも美味ですから、もう、地上に帰らなくてもいい気がしますわ。」
とロギンソンに話した。ロギンソンは、
「それは地上に比べて我々の牛の育て方や農作物の作り方が数層倍、進化しているからなのだ。人工太陽も我々の作成したものだからな。そもそも、本物の太陽が地球内部にある、という事などは普通に考えても、ありえない話だろう。そこで、だが実は地上に降り注ぐ太陽光線には有害なものも含まれている。それが地上の人間の寿命を縮める一因でも、あるんだ。それに比べて我々の作った人工太陽には有害な光線は含まれていない。
そのため、我々地下の巨人族は数千年は生きられる。」
と話してくれた。
 人工太陽!それが地下世界を照らしていたのだ。もちろん、その言葉は流太郎には一語も分からなかった。
チェリネは流太郎にコッソリと、
「あの男のチベット僧は二百歳なのよ、あまり地上に出てこないせいと思うけど。」
と日本語で教えてくれた。マスター・ロギンソンは立ち上がると部屋の隅にある箪笥のような家具のあるところへ行った。驚くべきなのは、その箪笥はガラスのように透明で中が見えるのだ。まさかガラスのような壊れやすい素材で作られた箪笥では、ないと思われるが。
そこからヘッドフォンのようなものを取り出すとロギンソンは流太郎の前に来て、そのヘッドフォンを渡すとチェリネに「日本語で説明してあげなさい。」
と示唆する。チェリネは、
「そのヘッドフォンを耳に装着すると、ここの言語が日本語に自動変換されるから、耳に当てるように。」
と流太郎に指示した。
流太郎が耳にヘッドフォンを付けると、マスター・ロギンソンは、
「日本語に変換するヘッドフォンは最近、作られたものだ。チベット語に変換されるものは一番初めに造られている。日本人というのは後発人種で後発国家のようだな。チベットは国家としては貧しいが、豊かな人は精神的にも豊かで我々と交流もある。日本は経済国家として大成して金は、あるようだが、それだけでは・・・。でも君は金持ちそうにも見えないので、しばらく、ここにいてもいい。」
流太郎は思わず、
「はい、ありがとうございます。」
と日本語で話したが、それはマスター・ロギンソンには理解できなかったらしく、
「私もヘッドフォンを耳に付けよう。」
と話し、さっきの透明な箪笥へ行き、ヘッドフォンを耳にして戻って来た。四メートルの身長の人用のヘッドフォンだ。この地下世界では、その寸法のヘッドフォンが標準なのだろう。
ソファに座ると善良そうなロギンソンは、
「これで日本語が分かる。チェリネやライツォン(男のチベット僧)には日本語が分かるからヘッドフォンは必要ない。」
そのヘッドフォンの左と右をつなぐ部分の中央に、小さな集音器みたいなものがあり、そこで日本語を地下世界語に翻訳してマスター・ロギンソンの左右の耳に伝えるらしい。ロギンソンは面白そうに流太郎を見ると、
「日本には仏教があるが、あれは釈迦が本来、教えていたものではないのだよ。」
と話した。それを聞いた流太郎は、
「では贋の仏教だと、いう事ですか??」
「ああ、そうだ。日本の仏教は、すべて中国を経由して伝えられた。それが全部、釈迦が本来、教えていたものではないのだ。真伝の仏教はチベットとタイにある。」
なんという衝撃、それが、でも事実だろう。ロギンソンは続けて、
「真伝の仏教を中国には伝えない、という事を初期の仏教僧は決議した。それで例の達磨の事が気になると思うが。」
と流太郎の返答を待つ顔にロギンソンは、なる。流太郎は、
「達磨って選挙に当選したりしたら両眼を書き入れる、あれですか。」
「そうだ、その達磨だが。これはインチキ・インド人だった。奴はインドの王子だったが真伝の仏教を自分は知っていると公言して中国に、やってくる。面壁九年、悟ることが出来ずに両脚は腐った。この面壁という座法こそ本来の仏教の観想法ではない事は分かるだろう。」
流太郎はチベット密教のゾクチェンの秘法を思い出した。高台から空中を見て座る、という座法だったのだ。それで、
「ええ、そうみたいですね。禅宗の座法は違うようです。それでは釈迦の教えたものとは違うという事、ですか。」
「ああ、日本にある仏教は総て釈迦本来の仏教ではない。故に日本人は宗教に興味を持たないのだ。葬式仏教と割り切られておる。君はチベット密教のゾクチェンで本物に出会え、今、地下世界のシャンバラに来ている。これは日本人としては初めての事だ。本物の釈迦も随分前に我々が地下世界に来させたのだ。私は今、九千歳だから、もちろん、その時の釈迦に会っているよ。」
流太郎は、もう一人の宗教人について聞いてみたくなり、
「キリストは来たのでしょうか。」
マスター・ロギンソンは首を否定的に振ると、
「いや、彼は来ないよ。彼は金星由来の人間だ。地球のものを軽蔑し、ユダヤ教の神殿も荒らした。それは、もちろん、よくない事だ。様々な理由からユダヤ社会で死刑となった。我々は金星由来の人間では、ない。我々はアトランティス大陸からの人間だ。元々の我々の祖先はUFOに乗って他の惑星から地球へ来たのだ。それでUFO製造の方法も代々、アトランティスでは伝えられていた。
金星人は千歳まで生きる人間は、ほぼ、いない。私は九千歳だし、この事実からも金星人が全てに於いて地球人より、優れているとは言えない事が分かるだろう。
金星人ですら知らない生命維持の方法を我々は知っている。」
と話すとロギンソンは流太郎を見る。流太郎は思い出したように、
「インドのババジも不死の人と呼ばれています。」
「彼は二千歳にも、なっていない。インド人のババジは神に助けられている。だが、我々は神に助けてもらったわけではない。いずれにせよ、地上の文明はヨガも含めて、それほど発達しているわけではない。我々のアトランティス、そしてレムリアの文明は超絶的なものだ。それは地下世界に生かされている。」
「アトランティス大陸は沈んだのでは、ありませんか。」
「そうだよ。レムリアも沈没した。が、これは自然現象では、ない。アトランティスとレムリアで戦争を行った際に地殻変動を起こしてしまったのだ。どちらも相手の国を沈没させようと、目論んだ訳だ。それは、両方の国で成功したわけだが・・・。
 私はアトランティス大陸で神官であると同時に科学者でもあった。現代地上文明からすると我々の科学は超科学と呼べるものだ。」
 地底世界の巨人はアトランティス大陸の人だったのだ。ロギンソンは話を続ける。
「アトランティスが沈没する事を事前に予測できた我々はUFOで脱出した。神官と、その家族の数千人はチベットの或る地点から地下へ潜ったのだ。そこには最初から地下太陽が燦燦と優しい光を我々に投げかけて、くれていたのだ。牛や馬も、いた。我々は地下世界の動物をアトランティスから持ち込んだ様々な生物のDNAを使って品種改良していったのだ。
それで我々の食糧は確保されていった。何か聞きたい事が、あるかな?日本人の…君、名前は何というんだね。」
「時・流太郎といいます。」
「ああ、時君ね。私の名前はロギンソン・パウモアという。それでだな、何か聞きたいかね?」
「はい、パウモアさん。アトランティスのUFOは、どこまで飛べるのですか。」
「いい質問だね。地球外にも、行けるよ。プロキシマbまでは簡単さ。地球に似た惑星で、地球から最も近くにあるのがプロキシマbだからだよ。」
プロキシマb!プロキシマ・ケンタウリを回る惑星である。プロキシマ・ケンタウリは太陽系の太陽から4.24光年ほどの距離にある。4.24光年は遠くない距離なのだろうか。流太郎は、
「四年の時間は、それなりの旅行時間と思います。」
と意見を言ってみる。ロギンソンは不敵な微笑みを顔に浮かべ、地上の人間の二倍の大きさの顔だ、
「四年も宇宙空間を旅していられるものかね。四十時間は、かかるがね、プロキシマbへの地球からの到達時間は。」
「四十時間ですか。光速でも四年かかるのに。」
「それは君、光が一番早い速度で移動するという愚かな地上の物理学で考えるからさ。アトランティスの科学は、物理学は、そんな幼稚なものではないのだよ。」
流太郎は光より早いものを想像さえできなかった。しかし、光より早い動力でなければ、プロキシマbに四十時間で辿り着くことは不可能だ。ロギンソンは語る。
「要するに光より早く動くものを空間から取り出して、それをエネルギー源とする。そういうものは、いくらでも取り出せるよ。電気も実は空気中に含まれている。
詳しく教えることは、できないがね。」
ピタリと制止するような語調で話を止めたロギンソンは、
「話ばかりでは面白くないだろう。何度か地下世界に来た地上人は、我々の世界のホンの一部を見たに過ぎない。時君、君はチェリネと同行しているから、もう少し色々なものを見ていけるよ。」
ロギンソン、チェリネ、流太郎は宮殿の庭にあったオープンカーに乗った。ロギンソンが助手席、後部座席にチェリネと流太郎だ。運転は誰が、するのか?
なにせ、四メートルの巨人が、ゆったりと座れる助手席だ。車自体が地上にある車の2.5倍の大きさなのだ。後部座席のチェリネと流太郎は、ゆったりと離れて座っている。あと二人は後部座席に座れそうだ。
 巨大なオープンカーは急発進した。運転席には誰もいない。ハンドルも何処にも見えない。後部座席左側の流太郎は身を乗り出して運転席を見る。運転席の足元を見るとアクセルやブレーキも見当たらない。
ヘッドフォンをしたままの流太郎は同じくヘッドフォンをしたままのロギンソンに聞いてみる。
「ハンドルがないどころか、この車はアクセルやブレーキも見当たりませんね。どうやって動くのですか。」
ロギンソンは悠々と助手席で前方を見ながら、
「ここにリモコンがある。」
と右手を高く上げて、手に握っているリモコンを流太郎に見せる。ロギンソンは続けて、
「スタートを押した。あとは自動運転だ。万一の場合、それは通常には、ありえない事だけれど、リモコンにはブレーキもアクセルもある。ハンドル操作もできる。ハンドル操作は地上のパソコンに指で操作できるものがあるけど、あれと同じだね。右回りと左回りの二通りだよ。それで右へハンドルを切るのと、左へハンドルを切るのと同じになる。」
なんとも便利すぎる自動車だ。走り始めたオープンカーから見える景色は郊外のものだが、爽やかな快晴の空は地底のものとは思われない。しばらく対向車線に車も見えなかった。
海岸線が見えてきた。海水客が、いるらしい。十人ほどの男女の塊が見える。彼らは地底世界の住人らしい。四メートルほどの身長で、しかも彼らはオールヌードだったのだ!
 ロギンソンのオープンカーが通り過ぎるのに気付いた彼らは、車に向かって手を振ってくれた。
四メートルの身長の巨人美女の裸体を流太郎はジックリと眺めてしまった。肌の色は白く日焼けしていない。乳房や尻は白人女性の二倍以上、ある。股間の陰毛地帯も地上の白人女性の二倍の広さで、その下に見える陰スジも二倍は、あるのだろう。
男性のモノも地上の男性の二倍は、ある。まるで小さなバナナが股間に垂れ下がっているようなのだ。だが流太郎は、それらをジックリとは観察しなかった。オープンカーは、そこを低速で通り過ぎて行った。
あれらの人達もアトランティスの末裔なのだろうか。地下世界でのヌーディスト・ビーチ、裸天国海岸なのだ。
助手席のロギンソンは海から吹く風に、大きな長い髪の毛を靡(なび)かせつつ、
「この辺は人口の少ない所なんだが、意外に裸体讃美者が多かったな。だけど法に触れるという事は、ないんだよ。彼らが海岸でセックスをする事も認められている。大抵は海中で性交する場合が多いが、露出趣味のある人達は海岸線を走る自動車に乗っている人達に見えるように性行為を行っているよ。」
その話に流太郎が目の色を変えたのに対して、チェリネは平然としていた。チェリネは、
「公然猥褻罪という法律が、ないらしいわ。むしろ奨励されているのかしら、そうですね、マスター・ロギンソン。」
と話した。ロギンソンは、
「うん、そうだよ。地上での公然わいせつというものは風紀を乱す、とか他の人の性欲を惹起せしめる事への怖れから罪として取り締まるものだろう。我々のようなアトランティス人は他人の性行為で自分の性欲を亢進させられる事は、ないからな。それに第一、地下世界は人口が少ないんだ。我々はキリスト教でも、ないし、原罪思想もない。アダムがイブを知った訳でもない。地上の西洋社会はキリスト教に覆われている。日本も、少なからず影響があるようだね。クリスマスイブにホテルを予約するカップルはイブ・まんこするつもりだろう、キリストでも生むつもりかね。我々にとって、そもそもキリストなんて、どーでも、いーのさ。キリスト教なんてペテンか詐欺の宗教と地下世界では捉えている。そもそも処女懐胎などという事は生物学的にも不可能だ。それを公然と掲げてキリストとやらの神性をゴリ押ししたキリスト教は免罪符などというインチキなものを発行し、ガリレオの地動説を否定したのだ。
ローマ帝国と結びついたキリスト教は権力志向に走る。それはヨーロッパでユダヤ人弾圧へと向かった。
 とにかく、だ。我々はキリストとやら馬小屋で生まれた貧乏人の宗教なんて蚊のうんこ程にも思っていない。時君は、まさかキリスト教じゃ、ないよな?」
「うちは禅宗だったようですが、僕は長男ではないので・・無宗教みたいなものです。」
「それは、いい。アトランティスの神官だったのだよ、わたしは。神を崇める仕事だ。今も続けておるんだ。それでだね、神秘学、オカルトの方でマイトレーヤというのがいるが、あれもアトランティスの神官だったのだよ。キリストは、このマイトレーヤの弟分に、なっておる。あんなの相手にしなくても、いいじゃないか、とマイトレーヤには言ったさ、わたしはね。でも聖者として慕われると無碍にも出来ないのがマイトレーヤの気持ちらしい。
何年に一度かはマイトレーヤも私の宮殿を訪問する。そしてアトランティス時代の神を礼拝して帰るのだ。」
 アトランティス時代の神!それは、今でも実在するのか?!
流太郎は、それに就いて、
「エジプトの神様とは違っているのですか?アトランティス時代の神様は。」
と尋ねる。神官ロギンソンは、
「実在し、我々に教えをくれる有難い神様だ。なお、一神教ではない。当たり前の話だが神は複数、存在する。」
さっきのヌーディストの人達は既に見えなくなって久しかった。
トウモロコシ畑が見えてきた。それは余りにも広くて地平線の遥か彼方にまで続いているかのようだった。ロギンソンは、
「この地底世界では盗みという事が起こらない。あのトウモロコシ畑にある玉蜀黍は誰が取ってもいいのだ。つまり、あの畑は誰のものでもない。みんなの、ものだからだ。この地底世界には農家というものが存在しない。農作物は勝手に豊作となる。害虫も、いない。
長雨や日照りも起きないので不作は一年たりとも起こらない。農作物は余りにも豊富なので農業をやる地底人は、いないのだ。」
流太郎は自動翻訳機のヘッドフォンに両手を当てて、耳の位置を調整すると、
「農業をやる人は、いなくても土地は誰かのものでは、ないのですか?」
と尋ねた。ロギンソンは笑いたくなるのを、こらえた様子で、
「そもそも農地というのは地底世界では誰のものでも、ない。」
と断じた。だから誰でも農作物は取り放題なのだ。それでいて農作物は、なくならないのだろうか?その疑問を流太郎は口から発して、
「限りある農作物では、ないでしょうか。」
「もちろん、有限なものだよ。しかし地底の人間には溢れて余る量なのだ。実際のところだね、誰も取らなかった農作物は、そのまま枯れていく。つまりタダでも余っているんだよ。人間が誰も取らないからといって農作物が嘆き悲しむ訳ではないんだ。地上で農作物が余ると悲しむのは農家の人間なんだ。地上は豊かに実らないものだ。りんご、にしてもそうだし、メロンともなると実りが少なすぎるものだ。それでメロンの価格は高騰する。それでも買う人がいるから、ある価格で一定になる。
それを買えるのが富裕な人間で、買えないのが貧乏人という事になる。貧富というのは地上では、こういうところかも発生する。単に農作物を手に入れられるか、手に入れられないか、という事だけで、だ。
問題なのは地上が貧しい、不足している農作物しか生み出さないからなんだ。アトランティス大陸にも豊かな農作物が存在した。アトランティス大陸は海底に没したが、地下世界に逃げ込んだ我々は又しても豊かな農作物に巡り合えたのだ。」
長い間、道の両端はトウモロコシ畑であったのだが、それが今度はメロン畑になり、それも広大な面積の中にメロンが連なって実っている。あのメロンも、この地下世界では取り放題なのだ。どこまでも続くメロン畑の次はブドウ畑だ。それらの果物は地上のものとは違うのが大きさで、その体積は地上のメロンやブドウの三倍の大きさだ!
スイカのようなメロンもある。
流太郎は訊く。
「あの大きな果物は何と呼ばれていますか。」

sf小説・体験版・未来の出来事16

 雲飛は自分の坊主頭をツルリと右手で撫でると、次に、きな子の爆弾のような胸を左右、それぞれを揉む。それから両手で彼女の両胸を同時に揉みしだく。きな子は服の上からとはいえ乳房を揉まれる心地よさに、
「あっ、はっ。気持ちイイ。」
と声を出すと、顔をのけ反らせた。雲飛は立ち上がると自分のズボンとパンツを外した。彼の巨大な肉砲身が全部、きな子の目に映った。(すんごく、太いのね。)と、きな子は思う。僧侶の勃起ペニスを自分の目で見たのは初めてだ。他人の目で見る事は、そもそも、出来るのだろうか?この坊さん、自分とセックスするつもり、だろう。独身の僧侶ならキャバクラにも来るだろうし。それにしても坊さんがチンコ立てて上着だけ着て自分の前に立っているなんて構図は今まで考えた事も、なかったわ。
雲飛は、きな子に、
「おれのモノを見て、セックスする気になっただろう。」
とダメ押しをするように訊く。きな子は、
「ええ、そうみたいですね。」
と投げやりな返事を返した。雲飛は、きな子を抱きかかえるようにして立たせた。それから自分の両手を雲飛は激しく動かして、きな子の上着とスカートを脱がせた。白いブラジャーとショーツだけの全身になった、キャバ嬢の、きな子。どちらも薄い下着なので彼女の赤い乳首と黒の陰毛、それに股間の食い込んだ縦筋は雲飛の目にも明らかに見えた。雲飛は自分の上着とシャツを脱ぐ。全裸になった彼は下着姿のきな子を抱きしめると、分厚い唇を彼女の赤い小さな唇に押し付けて濃厚に口づけを続ける。
 その部屋にも寺らしく仏像があり、その前には経机とリン、など本格的な仏具が並んでいる。
 雲飛は右手を、きな子の股間に入れるとジンワリとショーツは濡れていた。そのショーツを勢いよく雲飛は下に下げると、膝の辺りで、きな子は交互に足を上げてショーツを外した。黒く濃い林のような陰毛が、きな子の淫唇の上に繁茂している。
 雲飛は、きな子を抱きかかえると仏像の前に二人で移動すると、雲飛は自分の両膝を開いて正座した。その上に豊満尻を抱かれた、きな子が両脚を開いて座ると雲飛の股間からニョキリと屹立した肉欲棒、肉欲如意棒が彼女の股間の中心を貫く。二人は仏像の前で合体した。雲飛は彼女の尻を抱いていた両手を、きな子の背中の上に持って来ると合掌した。そして、きな子にも、
「合掌しなさい。きな子。」
と促す。きな子は素直に合掌した。雲飛は合掌した両手を外すと、きな子に、
「合掌を、やめていい。今から動くから、しっかりと私につかまっていなさい。」
と話した。きな子の両手は雲飛の裸の背中に回され、そこをしっかりと抱く。その途端、正座した雲飛は裸の腰を動かし始めた。結構な揺れが、きな子の全身に来た。それは彼女の淫洞窟内を刺激し、快楽を与える。仏像の前でのセックスは、きな子にとっても初めてだったのだ。前後左右に揺れる、きな子の白い裸身は彼女の黒い長い髪と同じく乱れ始める。彼女は赤い唇を開くと、
「あああっ。浄土に行きそうっ。」
と切なげに声を上げる。
雲飛はリンをチーン、と鳴らすと木魚を叩き始めた。右手で木魚を叩き、ポク、ポク、ポク、左手で経文を手に取ると読経を始める。と同時に雲飛は自分の腰を動かすのだ。
『愛欲自在経』
を雲飛は読み上げている・・・。

 所は変わってチベットの流太郎とトントンプー村長は会話を続けている。流太郎は聞きなれない言葉に、それを聞き返した。
「愛欲自在経、ですか。聞い事もない、お経ですよ。」
トントンプー村長は得たり、賢しと、うなずき、
「日本人の、ほとんどは知らんのじゃけどのう。チベット仏教のゾクチェンに、それがあるよ。愛欲自在経を読経しながら女人と交われば生きながら極楽を悉知する、と。」
「はー、極楽三昧ですね。それは、いい。」
「チベット仏教の一つの神髄かと思う。日本の坊主は哀れ、と、わしらは思うとるのじゃが。昔の日本で吉祥天の木像に夢精しよった坊主が、いるという。実際の話でな。それよりもチベット仏教のゾクチェンでは愛欲自在経を読経する際の相手の女は美女を第一義とする、あるのじゃ。」
流太郎は感心して、
「トントンプー村長はゾクチェンを学ばれたのですか。」
と訊いてみると村長は、
「ああ、少しな。だが実践は、しておらん。日本の坊主で愛欲自在経を読経するものも、福岡市郊外の寺におる、という話は聞いているがな、雲・・・なんとかいう坊さんらしい。チベット仏教のゾクチェンを修行して日本に帰ったという。時さん、時に、あんたは福岡市に住んでいるそうじゃな。」
「ええ、福岡市東区香椎ですけど。」
「その坊さんは西の方の郊外にいるらしいな。帰国したら会ってみるのも、いいかも知れん。」
「ええ、そうしてみますよ。」

 福岡市郊外の雲上山、栄海寺での雲飛の、きな子との坐位セックスは頂点に達しようとしていた。射精をこらえるために雲飛は、きな子を抱きかかえて立ち上がり、なおも左手と右手には愛欲自在経と木魚を叩く棒を持っている。この棒はバイというバチが正式名称だ。それらの仏具も、ここの栄海寺にあるものはチベットのものらしい色彩がある。雲飛は射精を、こらえられなくなったのか急速に座り込むと、バイでリンをチーン、と鳴らし、
「愛欲成就、快楽即極楽。」
と愛欲自在経を唱え終わると、正座したまま、きな子の豊満尻の中に連続で二回、射精した。
 二人は快感の渦に巻き込まれたように、しばらく陶然としていたが雲飛の如意肉欲棒も次第に縮小したので、二人は合体から離れた。
 雲飛は裸体で正面からもたれている、きな子に、
「もし貴方が妊娠したら、それは当寺にとっても喜ばしい事ですから、連絡をください。決して堕胎など、せぬように。」
と念を押す。きな子は、
「出産したら、引き取ってくれるのですか。ここへ。」
と真顔で聞く。雲飛は余裕綽々と、
「無論ですよ。貴女が育てますか?」
「いいえ、引き取ってください。その方が、いいと思います。」
雲飛は満足した。もっと、きな子に射精したかったが、妻の快念とのセックスの場合は、これで終わりなので続ける精力も出ない気が雲飛には、した。雲飛は立ち上がると部屋の隅にあるタンスのなかから僧衣を取り出すと下着を着ずに、僧衣を身にまとい眼鏡を取る。
そこには普通の僧侶らしい姿が、あるだけだった。きな子はショーツを履き、ブラジャーをつけて、衣服を着たけれども。

 再びチベットに戻って、トントンプー村長と流太郎は話を続けている。村長は、
「キミには自由行動も必要かも知れん。どうだい、外に出てみないかね?」
と予想外の提案をした。流太郎は、
「外に出るって、いっても僕はチベット語を知りませんから、何かの際には困りますよ。」
と抵抗する。村長は、
「いや、なに。そこが面白い処でな。私が渡す眼鏡とイヤフォンを身に着けて外出すれば、いいのさ。」
と自信ありげな様子だ。流太郎は、
「なぜ、そんなものを身に着けるんですか。伊達眼鏡と何のためのイヤフォンでしょう?」
「君がチベット語を知らないと云うからさ。ついでにマスクも、していくんだ。」
「眼鏡にイヤフォンに、マスク。それでは病人に見られます。」
「そう見られてもチベット語が分かれば、いいだろ?お金も多く渡して置こう。キャバクラも街には、あるよ。入って見るように。」
そういう訳で流太郎はトントンプー村長の渡した眼鏡、イヤフォン、マスクをして街に出た。不思議や不思議、なんと不思議にも街の看板の字が眼鏡を通すと日本語に見えるのだ!信じられない、というか、このあたりの看板は日本語のものもあるのかと思い、流太郎は眼鏡を外した。すると看板の文字はチベット文字で、一語も理解できない言葉が看板にあった。又、眼鏡を掛けると、そのチベット文字が日本語になるという何とも不思議なメガネだ。
(こりゃ不思議、というより便利だな。)と流太郎は思いつつ街を歩く。露天商から荷台に乗ったトマトを一個買うと、それを食べる。うまい、そう思いつつ歩き始めた流太郎は、やがて繁華街の中にキャバクラらしき店を見つけたのだ。
 チベット一のキャバクラ、ルナルナ、と、ある。眼鏡を外せばチベット語で書いてあるのだろうが、外したら読めない文字になるから今度は眼鏡は外さない。
 店のドアを開けると、すかさず、その店のチベット人のマダムが呼びかける。
「いらっしゃいませ!ようこそ、あら、日本の方のようね、チベット語、分かりますか。」
流太郎はチベット語など一語も解さない。すると、今のは日本語ではなかったのか。もしや?と思い、日本語で話してみた。
「分かりますよ。今、あなたが話したのはチベット語でしたでしょ。」
それが流太郎の耳には分からないチベット語で相手に通じたらしい。彼の耳には日本語で聞こえているけど。
マダムは目を丸くして、
「まあ、上手なチベット語を話しますね。もちろん、私は日本語は話せません。」
と話す言葉は流太郎の耳には、すべて日本語で聞こえる。トントンプー村長から貰ったイヤフォンは言語を自動変換して耳に伝えるらしい。そしてマスクは喋る日本語をチベット語にする。流太郎は、
「あなたのチベット語も解りますよ。出来ればナンバーワンの女の子を呼んで欲しいな。」
と要望すると、マダムは、
「はい。まだ時間も早いから、ナンバーワンのチェリネを行かせます。一番奥の席に、どうぞ。」
と右手で奥まった上等な場所を指し示した。
 その場所の、ゆったりとしたソファに座ると、チベット美女のチェリネが自分で盆にグラスを二つ乗せて、やってきた。彼女は流太郎の横に座り、グラスに酒を注ぐ。チベットビールだ。
男性のボーイが「トゥクパ」という日本のラーメンみたいで麺が細いうどんのような料理を持ってきた。チェリネは、
「あなた日本人みたいだけど、チベット語うまいらしいですね。」
と話しかけてきたので、流太郎は、
「そうかな?自分でも、よく分からないよ。」
と日本語で話すと、それはマスクを通してチベット語に同時に変換されるから流太郎の耳にもチベット語でしかない。チェリネは、その言葉を聞いて、
「とてもチベット語が、うまいよ。おにいさん。」
と手放しで褒める。
「そうかい?それは嬉しいな。」
兎に角、話してみるしかない。
「くだけたチベット語も素敵。日本から何故、チベットに来たの?」
プロキシマb星人と地下鉄で来た、などとは答えられない。
「ん?社用だよ。ぼくはサイバーセキュリティの会社に勤めているんだ。」
「サイバーセキュリティって、何のことか、分からないわ。」
「インターネット関連さ。」
「ああ、インターネットね。わたしも、お客さんとインターネットで、やりとりしてる。」
チェリネの肌は白く、髪は波だって目は漆黒より少し灰色がかっていて神秘的だ。胸の膨らみが目立つ服を着ている。流太郎は、
「何人も、お得意さんが、いるんだろうね。」
と訊いてみると、
「十人は、いるのよ。対応に大変よ。」
「今日は、僕が一番乗りだね。」
「そう、なりますけど。マスクを外して、お酒を飲みませんか?」
「ああ、そうするよ。」
流太郎は白いマスクを口から外して、チベットビールを飲む。うまい、と思ったらチェリネが、
「日本のビールと比べて、どうですか?」
と訊くので、
「とても、うまいよ。」
と日本語で話した。チェリネは、それを聞いてキョトン、とした顔になる。日本語が分からないのだ。慌ててマスクをすると流太郎は、
「とても、うまい。日本のビールは日本で飲むためのものだね。比較は、難しい。」
と日本語で話しても、その不思議なマスクはチベット語に変換してチェリネの耳に届くのだ。彼女は、それを聞いて、
「よかった。さっきの言葉は、日本語ですか。わたし、少しも分からなかったけど。」
「ああ、そう日本語だった。つい、うっかりして話してしまったね。これからは気を着けよう。」
「いつまでもマスクをしているのは変だわ。料理も食べて欲しいのに。」
「あ、そうだね。食べる時は外すよ。」
「病気なのですか?風邪とか、そういう状態にあるの?」
「そ、そーだね。マスクなしでは、いられないんだ。」
「えー、そうなの。お大事に、してね。」
と云う風に、何とか流太郎は逃げ切った。マスクなしではチェリネとの会話は成り立たないのだ。マスクを外して流太郎は急いで料理を食べた。そして又、マスクをする。
 チェリネは喜んでいるようだ。自分の腕を横にいる流太郎の腕に当てると、
「今日は早く帰れる日なの。わたしの家に、一緒に来ない?泊まって行っても、いいから。」
と意外な話を始めた。

 チェリネの家まで彼女と歩いている流太郎である。午後二時くらいか。キャバクラで働いている彼女は高級マンションで一人暮らしをしているのだろう、と流太郎は思いを巡らせつつ歩く。街に見える看板の文字は総て日本語に見えるのでチベットにいる事を忘れるようだ。こんな凄いメガネを村長のトントンプーは持っていたのだ。それからマスク、イヤフォン。これらも日本語に自動変換する機器なのである。
チベットには一万歳を超える人が何処かにいるという話がある。超絶した文化があるのだろうか。トントンプー村長は、それで、そういうものを所持しているのか。地底王国シャンバラの入り口はチベットにある、という噂もある。
 美人のチェリネは人目を惹く。それで彼女の隣を歩く流太郎も注目されるが素顔でないから幾分、(´▽`) ホッとする。ポタラ宮殿に似た寺院が見えた。チェリネは、その寺院を指さすと、
「チベット密教の寺だけど、興味あるかしら。」
と流太郎に歩きながら質問した。流太郎は、
「ああ、ありますよ。日本の密教とは違うんでしょう。というか、そもそも密教って何だか知らないけど。」
「興味があれば、それでいいの。あそこに入れば分かるわ。」
「観光では入れるのかい。拝観料が、いるんじゃないのかな。」
「あの寺が、わたしの実家よ。」
その一言に流太郎はガツンと脳に一撃を食らった。それで黙ってチェリネに、ついて行く。大きな寺だった。中に入ると参詣客も多い。その人たちを横目に見ながら僧院の中に入るチェリネを流太郎は追う。
 僧院の中は誰もいなかった。チェリネは自分の部屋らしき広い部屋のドアの前に立つと流太郎に、
「わたしの部屋に入りましょう。」
と誘う。流太郎は、うなずく。
靴を履いたまま、二人はチェリネの部屋に入る。ベッドや机は部屋の隅にある。奥に仏像が、あった。チェリネは衣装ダンスの前に歩くと、私服を脱ぎ始めた。すぐに下着姿になり、形のいい乳房が薄いブラジャーに覆われているのが見えた。横幅の広い大きな彼女の尻はスカートを脱ぐと、プルンプルンと揺れる。
一旦、下着姿になるとチェリネは流太郎の方を向いて立った。股間のショーツには陰唇のスジがクッキリと浮き立っている。流太郎との距離は二メートルほど。彼女の乳首も浮き立って見える。
流太郎は少しずつ自分の股間に前進の血液が集まるのを感じつつあった。チェリネは衣装ダンスの中から僧服を取り出すと、それを着る。さっきの下着姿は見えなくななり、女僧とでもいうべき雰囲気のチェリネになった。流太郎の股間の充血は分散した。チェリネは、
「わたしは、この寺院の院長の娘なの。キャバクラには週に何回しか、行かないわ。それ以外は、この僧院で修行か仕事をしています。」
彼女は黒髪に手をやると、右手でスッと髪全体を引いた。パカッと取れたのは彼女のカツラだった。日本の尼僧のように剃毛していず、スポーツ刈りのようなチェリネの頭部である。流太郎は、
「ぼくは、このままでいいですか?マスクとか取った方が、いいかな、と。」
と云ってみる。そうすると言語による意思疎通は出来なくなるのだろうけれど。チェリネは両肩を西洋人のように、すくめて、
「そのマスクをしているから、チベット語を喋れるんでしょ?」
と指摘した。なんだ、知っているのか、と流太郎は思った。
「そう、そうなんですよ。これが、ないと僕はチベット語が話せません。」
と言い、右手の人差し指で自分の白いマスクを指さした。それを見るとチェリネは婉然と微笑み、
「チベット語を話さなくてもいい世界に連れて行ってあげられるわ。そのためにもチベット密教、ゾクチェンの修行をしましょう、今から。」
と流太郎を、いざなうのだ。

 その部屋で流太郎はチベット密教の僧服をもらい、身に着けた。プロキシマbに行くはずでは、なかったのか、と思い出すが、こういう展開も悪くはないのかもしれない。
 結跏趺坐という胡坐(あぐら)に似た姿勢で座り、両手の指を組んで瞑想をする事を流太郎は習った。曼陀羅を指で作るやり方がある。それをチェリネが自分の手で、やるのを真似て流太郎も組めるようになった。
 チェリネは大きな窓を開けた。流太郎の視線は窓の外に出た。丘の上に立っている僧院は、下の方にある街並みを見下ろせた。チェリネは、言う。
「空を見るように。そして何も考えないで。もしも何か、思いが浮かんでも、そのままにしているように。それが、ゾクチェンの瞑想です。」
流太郎は、なるほど、そういうものか、と思った。窓の外に見える赤い建物がチベットの僧院だ。ここの他に、いくつも見える。日本と違って僧の衣服も赤色なのがチベットの特色だろう。真紅というより、えんじ色の赤だ。チェリネも今は、その赤の僧服を着ている。流太郎も身に、まとっているのは赤色の僧服だ。
空を見ていると、ぼーっとしてきた。何も考えが浮かばない。それで、いいのだろう。これがゾクチェンの瞑想なのだ。おや?
流太郎は股間に手を感じた。柔らかい手の感触。その手は流太郎の、おとなしくしている男性器を撫で始め、柔らかに掴む。そして軽く、しごく。チェリネが後ろから流太郎の股間に手を伸ばしているらしい。やがてムクムクと起き始める流太郎のイチモツ、それをグン、と柔らかな手は握ると、次に流太郎の僧服の股間の切れ目から隆起してき始めた肉砲を僧服から出した。マスクをしている流太郎は、
「チェリネさん。何をしているんだ。」
と声を出すと、後ろのチェリネは、
「声を出すと思考が乱れるでしょ。何も考えないで、と言ったわよね。この位で瞑想を止めては、いけない。」
と、たしなめる口調である。
チェリネの右手は柔らかく、気持ちいい。何も考えるな、というのは無理だ。チェリネの手の皮膚は彼女の膣の感触を連想させた。何も考えずにいるとチェリネの全裸を想像した。全勃起しても射精を耐え続けるとチェリネの右手の動きは止まった。彼女は、その場を離れると仏像の祭壇の前から絵のような物を持ってきて、
「これはタピリツァというものです。」
と話すと、その宗教画を流太郎に見せた。仏らしい人物が結跏趺坐を組んでいる。その姿の周りは虹色で囲まれている。驚くべき事に、その仏は全裸であり開かれた股間からは勃起した男根が屹立しているのだ。巨根の仏の男根、こういうものは流太郎は初めて見る。チェリネは、もう一枚の宗教画を持っていた。それを次に流太郎に見せる。
そこには結跏趺坐して勃起した仏に両脚を広げて跨っている若い美女が描かれている。彼らは互いに見つめ合い、座ったまま結合しているのだ!チェリネは、
「チベット密教では肉食を認め、性交も否定しません。むしろセックスは悟りへの一番の近道だと、します。だから私達も、そのうちセックスしなければ、なりませんね。でも、今少しの時間は要します。何故なら、貴方もチベット密教のゾクチェンに習熟しなければ、ならないからです。」
と教え諭した。チェリネの豊満な胸は赤い僧服の上からも、ハッキリと見て取れる。流太郎は、(自分は勿論、チベット密教の初心者だ、やれやれ、これから、どうなるのか)と慨嘆する。僧服の股間から自分もチンコを出しているままで、このままで、いいのか、とは思うのだが。チェリネは、
「今日は、この辺で、いいでしょう。チンコも服の中に、しまってね。」
と云うから流太郎は、そうした。その前に威厳を持って立ったチェリネは、
「わたしの名前はラマ・チェリネ・リンポチェ、と言います。」
と正式な自分の名前を開陳したのだった。
 その日からチベット密教の僧侶としての生活を始めさせられた流太郎である。その日の晩の食事の豪華な事、日本人なら坊主の食事は質素なものだと一般的に思われる。でも、それは日本の話。ここチベットでは僧侶の食事は近くの住民が寄付してくれる。裕福な家程、寄進も多く高価な食べ物が寄付される。チェリネの僧院は特に周辺に富裕な邸宅が多いため、その寄進される食べ物は豪勢なもの、ばかりだ。食卓にはチェリネの父、ラマ・アルビン・リンポチェも現れた。チェリネが連れて来た流太郎を見ると、
「おや、日本の方かな?体験としてチベット密教を修行するのも、よろしい。」
と鼻髭を揺らせてアルビン師は云う。流太郎が本気ではないのは見て取ったようだ。それから、
「風邪でも引いているのかな?お大事ね。」
とアルビン師は云う。さすがに、そのマスクは日本語を自動的にチベット語に変換するものとは気づかない。流太郎は、
「風邪は引いていません。このマスクは日本語をチベット語に変換翻訳してくれる不思議なものです。僕はチベット語を知りません。」
と話すとアルビン師は云う。
「そうなのかね。日本は技術の国だとは知っているが、そんな便利なものも出来たんだねえ。」
流太郎は、
「いえ、日本のモノでは、ありません。トントンプー村長に、もらったのです。」
アルビン師は云う。
「そうか、村長も不思議なものを持っているのう。あ、一人娘のチェリネだよ。わたしも君を指導したいが、中々、忙しくてね。チェリネが指導するから。」
それからテーブルの上に山のように積まれた御馳走の数々を三人で平らげていく事に、なった。

 個室といっても四畳半の部屋を与えられた流太郎。仏像が林立する部屋ではあるが、その仏像の股間は総て勃起した道具を表している。中に結跏趺坐で若い美女と交合する仏像もある。
なんという展開か。籾山に命じられたのはプロキシマbへの出張だったはずが、チベット密教の僧侶として修業するようになるとは。
 次の日の朝、又、豪華な朝食を三人で食べた後、チェリネは、「今日は午前中に葬式があるの。わたしは、そこで読経しなければ、ならない。あなたも、ついてきなさい。」
と流太郎に話した。チェリネの父、アルビン師は静かに微笑んでいる。
 
 チベットの高地平原での葬式は死体を解体してのものだ。赤い広い布で遺体を隠して解体するが、その死体の匂いにハゲワシ達は集まって来た。少し離れたところで待機する鳥たち。
チェリネと流太郎は解体される遺体の近くにいた。赤い布を取り払うとハゲワシが一斉に遺体に集まり、それを食べ始める。チェリネは読経を始めた。流太郎も眼鏡を掛けているからチベット語の経文は日本語に見える。それをマスクをしたまま日本語で話すと、チベット語の読経になる。
死臭は、ものすごく、流太郎は懸命に耐えるのだった。
日本の坊主の葬式は、はるかに遣り易い環境にある。そもそも日本の仏教は葬式が一番の収入源だ。それを楽々、行い高収入であるから、それをチベットの鳥葬と比べれば極楽かもしれない。
 流太郎は日本でも葬式には出た事がないので初体験だった。鳥が食べられるように骨まで細かく砕くため、遺体は何も残らなかった。

 葬式の後は信者の家に呼ばれていたらしく、街から少し離れた場所の大きな民家にチェリネと流太郎は入った。葬儀の死者の親戚の家だった。三十路の女主人のような女性が、
「ようこそ。おいでくださいました。今日は私の夫も仕事を休んで、今朝の葬式に出たものですから家に居ります。あなたっ。」
と広い応接室の外に声を掛ける。すると応接室に入って来たのは三人の男性だ。三人の男の顔は、よく似ている。チベット人らしく陽に焼けた顔ばかりだ。女主人は、
「大した、おもてなしは出来ませんが、少しは出来ます。チェリネ・リンポチェに見せたいものがあります。隣の若い、お坊様にも。」
と打ち明けるように話す。チェリネは座ったまま、目を輝かせて、
「ええ。是非、見せてください。」
と促した。
女主人は三人の男性に目配せした。すると三人の兄弟のような男は長男らしい男が女主人の後ろに立つ。続いて、次男、三男らしき男が並んだ。それを後ろを向いて確認した女主人はスカートを降ろしたのだ。その下には何も彼女は履いていなかった。豊満な尻と、その前の濃い草むらが現れる。チェリネと流太郎は彼らの横姿を見ている。
 女主人の後ろの男がズボンを脱ぐ。パンツの股間は膨らんだ彼は、女主人の尻の穴に自分の陽肉を入れた。彼は腰を振り始め、三分ほどで射精する。そうすると彼の後ろの男と入れ替わり、次男のような、その男もズボンとパンツを脱いで女主人に挿入する。二人の尻は連携して動き、又して三分で射精。
その男も後ろにいる三男らしい男と交代して、同じように尻を振り始める。女主人は流太郎を横目で見ると、
「男の御坊様。わたしに前から入れてください。」
と懇願した。
余りの展開に流太郎はチェリネを横目で見ると、チェリネは、うなずき、行け、という顔をした。後ろから尻の穴に入れられている女主人の前に立ちあがって行った流太郎は、彼女の淫芯が男を誘うように口を少し開けているのを見た。その途端に自分の男根が隆起したのだ。それで彼はズボンとパンツを脱ぎ、女主人と立ったまま結合する。彼女の後ろでは男がグングンと尻の穴を攻めているので、その律動に流太郎も腰の動きを合わせた。女主人は尻の穴と膣の穴を同時に攻められて、快感が彼女の全身を走り巡っているらしい。
チェリネは座ったまま興味深そうに三人の尻の動くのを眺めている。突然、チェリネは言葉を発した。
「オム・マニ・ペメ・フム。性の法悦に至りなさい。オム・ターレー・トゥッターレー・トゥレー・スヴァハー。」
観音菩薩からターラー菩薩の真言がチェリネの口から唱えられると、三人の尻の動きが次第に早くなり、女主人は赤い口を開くと赤い舌を出した。後ろの男が彼女の乳房を服の上から揉みしだき、流太郎は舌を出して女主人の舌と絡め合わせた。絶頂に達した女主人は自分の陰唇と尻の穴を強く締め付ける。前後の二人の男は、その刺激に同時発射して果てるのだった。

 館を後にしたチェリネの銀行口座には、あの女主人からの多額の寄付金が振り込まれている。あの三人の男は兄弟で、しかも、あの女主人の夫なのだ。晩になると、長男、次男、三男の順でベッドに全裸で寝ている女主人に彼らも全裸で体を重ねていく。それで兄弟の性欲が一致する日には一晩、最低三人の男と、その肉棒を女主人は味わっている。チベットでは、こういう多夫一妻制が、あるわけではないが、地方によっては多く存在するのだ。
 チェリネは軽快に歩いていくので、流太郎は追いつくのに懸命だった。あの女主人も裕福な家らしい。多数の信者が、いなくても少数の富裕な信者がいれば宗教家としての生活は、成り立つ。流太郎は、さっきの女主人との交合でチェリネがマントラを唱えた時には至福の性感を覚えたのだった。(チベット密教のマントラは、凄い)と速足で歩きながら流太郎は思っていた。
 その辺りは広壮な民家が並ぶ高級住宅街だ。チベットに対する日本人のイメージは貧しい遅れた国、だろう。それは、かなりの部分、当たっているが、すべてのチベット国民が貧しいと考えるのは早漏、いや、早計である。日本にしても没落の道を歩み始めている。流太郎は日本にいる時に見たものを思い出す。

 福岡市長選挙が始まった。候補者は二人。一人は五十代の男性で元、有名証券会社勤務、重役にまでなった人物だ。東京にある、その会社を退社後、福岡市長選挙に立候補したのだ。当初、誰もいない福岡市長の立候補者だった。その唯一人の立候補者の名前は兜山円太郎という証券界に、ふさわしい本名だが街の噂にも唯、一人の立候補者である兜山の当選確実の声が挙がっていた。
しかし、だ。次に立候補してきたのは何と、ナント、驚きの・・・人工知能ロボット『福岡君』だったのだ!
彼は、といっても外見が男性なだけで、股間にイチモツがあるわけではない。下半身がないタイプのロボットだ。街の選挙ポスター掲示板には、古くからあるやり方だが兜山候補と福岡君のカラー写真が貼られる。それを見る福岡市民も驚きの反応だ。流太郎がチベットに来る前に二人(?)の選挙運動は始まっていた。
これまた昔からある遣り方の選挙運動で街宣車に乗り、スピーカーで自己紹介するというものだ。兜山は証券の営業で鍛えた声を使い、
「兜山で、ございます。どうか、わたしという銘柄に投資してください。お金は、いりません(笑)。選挙用紙に私の名前を書くだけで、よろしいのです。」
と福岡市中を車で回る。一方の福岡君は青い背広に赤色のネクタイで街宣車の助手席に座り、運転手は当然のようにロボット運転手だ。
「福岡市の皆さま、人工知能の福岡君、で御座います。この度、福岡市長選に立候補しました。皆様の力強い一票を是非、わたくしに入れてくださいますよう、お願いします。」
と四十代男性の声で話す。
それを見た市民はスマホで写真や動画を撮影して、SNSに投稿する者も、いる。そのため全世界的に福岡市長選に熱い視線が向けられるようになった。

sf小説・体験版・未来の出来事15

 スタジオのドアが開いて、一人の金星人女性が優雅に入って来ると、
「ルンドリオ・ザーメントは、行方不明じゃないわ。」
と、その場にいるAVの監督に向かって云った。監督は、
「え?え?え?あなたは一体、全体、誰ですか?」
と、その女性に問いかける。謎の女性は魅惑的に微笑むと、
「名乗る必要は、ない。それより、あなた、」
と流太郎ザーメントに呼びかけて、
「一緒に来なさい。」
流太郎は抵抗した。身動きせずに彼は、
「なんだか分からない人に、ついて行かないのは子供だけじゃ、ないですよ。」
謎の若き美女は、スカートのポケットからピストルを取り出すと流太郎ザーメントの顔に向けて発砲した。ピストルから飛び出したのは弾丸ではなくて、レーザー光線のような青い光だ。その青い光が彼の顔に命中するとともに、スタジオの窓ガラスを通り抜けて流太郎ザーメントは外へ飛び出していった。室内の皆は呆然として動けない。動くと謎の美女にピストルで狙われるかもしれない。
謎の若い美女は凄然と窓ガラスの前に歩いていき、ピタリと立ち止まって窓の外を見た。外から突然、青い光が稲妻のように彼女に降り注ぐと、謎の美女は窓ガラスを通り抜けて窓の外に出て行ったのだ。

 窓の外には小型の円盤が空中に待機していた。謎の美女は円盤内に現れると、そこには流太郎ザーメントが意識を失ったように立っている。
室内には若い女性が謎の美女の指示を待つかのように、身を正して立っている。その女性も端正な顔で長身だ。謎の美女は、その部下らしき若い女性に、
「あの男を連れてくるように。」
と命じた。部下らしき女性は、
「はい、すぐに連れてまいります。」
と快活に応答して室外へと立ち去ると、ほどなく一人の男性を連れて戻った。西洋人風の男が入って来た。ルンドリオ・ザーメントだ。しかし脳の中身は時流太郎。彼を見た時・流太郎の外見のルンドリオ・ザーメントは、
「君は私の姿を持っているのでは、ないか?」
と声を掛ける。
流太郎の外見を持つ男を見たルンドリオ・ザーメントは、
「キミこそ、ぼくの姿を持っているみたいだ。そういう気がする。」
謎の美女は、対面している二人の間に進むと、
「フフフ。どちらも完全に脳内記憶が入れ替わっていないみたいだわ。何処かの悪戯ずきな人が、やったようね。この情報は、わたし達、金星情報局に入ったから、あなた方を連れ出して元に戻すのが私の仕事。」
と話した。それは金星語だったので、傍らにいる女性がザーメント流太郎に日本語訳して話した。先ほどの二人の発言も金星語と日本語で行われたのだ。だから、それを聞いた二人は、それぞれの言語が理解できなかった。
謎の美女は静かに、
「わたしの名前はサニン・ケルメル。金星情報局の惑星間調整課次長なのね。だから瞬間転移ピストルの所持、および使用も認められています。この部屋の隣に手術室があるわ。カリネ、連れて行きなさい。ドクター・メスキリーノが待機しています。」
と助手らしき背の高い女性に命じる。カリネは、
「はい、今、すぐに。それでは、行きましょう。」
と二人に行きましょう、と金星語と日本語で伝えた。

 ドクター・メスキリーノの手術着は右半分が白、左半分が緑色だった。黒いメガネをかけて、鼻の下に、ちょびっと髭を生やした中年の医者だ。椅子に座っていた彼は立ち上がると、
「さあ、そのベッドに二人で並んで寝なさい。」
と金星語で促す。それをカリネは日本語でザーメント流太郎に伝える。
二人は服を着たままダブルベッドの大きさの手術台に寝そべった。二人の頭にヘッドフォンのような物をドクター・メスキリーノは装着させると、手術台の横にある縦長のパネルのスイッチの一つを押す。
強い電流のような刺激が二人の頭に伝わると、二人の顔つきが電撃的に変わった。
「ん?」と流太郎ザーメント。
「おおお。」とザーメント流太郎。
二人の頭の中は外見と同じに戻ったのだ。

 カリネに連れられてサニン・ケルメルのいる部屋に戻った二人に、サニンは、
「正常になったようね。地球人のあなた。お名前は?」
と明晰な日本語で話した。
流太郎は、その発音の見事さに驚くと、
「時・流太郎といいます。」
サニンは楽しそうに、
「あなたの居た地球の一地方に戻してあげますよ。」
と流太郎に日本語で伝えたのだ。

 無事、地球に戻った流太郎は自宅のマンションに帰る。もう日没後だった。会社は明日、行けばいい。ノートパソコンでネットニュースを見る。
最後の証券会社アナリスト辞職
という文字が流太郎の目に入る。人工知能で株式市場を解説するのが常識になった証券会社。対面営業は、かなり大昔になくなり、ほぼほぼ、ネット証券だけになっている。
 碁や将棋も人間同士で対局し、同時に人工知能も何種もあるから、それぞれ競い合い、最後には人間と人工知能との勝負に、なる。その人工知能は電機メーカーで製作して、自社の宣伝にもなるので出場させている。
この人工知能との対局が面白いため、将棋や囲碁は前より盛んになっているほど、だ。
 流太郎の高校の同級生に証券会社に勤めている者がいる。ネット証券で福岡市に本社を持つ会社だ。この会社も福岡市の人工島アイランドシティ2にある。最初の人工島アイランドシティは建物で一杯になったため、二番目の人工島であるアイランドシティ2が埋め立て竣工された。アイランドシティ2は、アイランドシティとは五十メートル程しか離れていないで、二つの人工島は橋で繋がっている。
ネット証券でありながら一部の顧客には対面営業も行っている。丘洲証券という会社名で、読みはオカス証券という。犯す証券と頭の中で読んでしまう人も、いるらしい。その会社に電話すると若い男子社員が、
「はい、おかす証券です。」
と電話に出る。それを聞いた女性客はハッとする場合もあるという。もちろん社名は「犯す」という意図を含めたものでは、ない。人工島は砂洲のような場所にあり、その上の丘の上に会社があるので丘洲証券と社名をつけたのだ。
重役の中には、
「丘洲だと、読みが女を犯すのオカスに聞こえますよ。」
と反対した者がいたが、社長の御貸(おかし)は、
「なに、気にする事は、ないよ。会社の法規登録も終わっているからな。」
と気軽に答えた。この社長も社長としては若い方で四十一歳だが、御貸照男というのが本名だ。おかし・てるお、と読む。犯してるオ、と読み取られる事もあるのだ。
この丘洲証券の自社ビルはアイランドシティ2の南側にあり、ラブホテルのような外観であるのだが、実際に一階は入り口が二つあり、一つは丘洲証券のもので、もう一つはラブホテルの入り口なのだ。つまり丘洲証券の自社ビルの半分はラブホテルなのである。
証券業界は、いつの時代になっても倒産の危機を、まぬがれないもので、その危険を最初から予測して備えているのが丘洲証券ビルなのだ。
 丘洲証券の朝礼で御貸照男社長は、
「我が社も創立十周年を迎えるが、証券業界は依然として厳しい状態にある。だが諸君、心配は要らない。うちのラブホテル経営は順調だ。最近は益々の外国人観光客で賑わっている。中にはアフリカからの宿泊客もいる。その人達は福岡市内に宿泊施設が不足しているために、当社のラブホテルをご利用になるのだ。そのついでに、それらの外国人の御客さんに弊社のネット株取引の英語で書かれたパンフレットも、お渡ししている。手数料の安さのため、海外の顧客も増えている。日本株を欲しい外国人も増大しているからだ。であるから、自社ビルの半分がラブホテルなんて、と嘆かないように。」
そう熱弁を振るうと御貸社長は社員一同を見渡した。全部で十人ほどの正社員で、女子社員は二人だ。女子社員は二人共、アイランドシティ経済専門学校を卒業して、すぐに入社してくれた若い才媛だが、朝礼で紺色の制服を着た二人は並んで立って御貸社長の話を熱心に聞いていた。
アイランドシティ経済専門学校も丘洲証券の経営する学校法人なので、丘洲証券の資金源は、いくつもあるのだ。
この丘洲証券に時・流太郎の高校以来の友人が入社している。彼の名前は玉二義郎(たまに・ぎろう)という。玉握ぎろう、と読んでしまいがちだ。高校時代の呼び名が金玉にぎろう、だったのも仕方ない。玉二は流太郎にアイランドシティ2の喫茶店で、
「社長室に入った事もあるよ。」
と話した。流太郎は、
「御貸社長の?丘洲証券の社長室に?」
と聞き返すと、玉二は、
「ああ、そうだ。机の上の固定電話が鳴ると御貸社長は、受話器を取り、
『はい、丘洲証券です。あ、小星山様、いつも御世話になります。今日の推奨銘柄、で御座いますか?少々、お待ちくださいませ。』
その電話保留にすると社長は、机上のスマートフォンを取り上げた。それを耳に当てると、
「今日の推奨銘柄を教えてくれ。」
と質問した。すると若い男性の声が機械的な口調で、
「はい、今日は新興企業のヤングアゲインがストップ高すると思われます。」
「そうか、あれだな。若返り薬を開発しているという、アザース上場の。」
「ええ、厚生労働省も、そろそろ薬として若返り薬を承認する模様です。」
「上出来だ。すぐ、お客様に知らせる。おう、」
と御貸社長は玉二義郎(たまに・ぎろう)を見ると、
「今、人工知能カブカブ君と話をしていたんだ。人間と話をしていたんではない。」
「サイバーモーメント社製の人工知能ですね?」
「そうだ。」
と答えると御貸社長は固定電話を保留から解除して、
「もしもし、お待たせしました。本日の推奨銘柄はアザースのヤングアゲインです。」
・・・と玉二は流太郎に回顧するように話した。その話を流太郎は、ちょっと思い出したのだ。

 翌日、早く出勤すると社長の籾山が、
「おう、本物の時だな。この前、変な白人が来て自分を時・流太郎だというんだ。やっぱり、あれはニセモノだったのか。」
と考え込む。流太郎は、
「え?何の事ですか、そんな白人が、いたんですか。」
「ああ、いたよ。北九州に仕事を頼んだけど、帰ってこなかった。仕事の方は、してくれていたけどね・・、まあ、いい。よくわからないけど、それが人生さ。て、ことかな?君は整形手術でも、していたのか?白人の外見に。」
「いえ、していませんよ、一度も、そんな事、していませんね。」
「そうだろう。あれは君が白人に変装していた、と解釈する。しばらく出張は、ないから。内勤で頑張ってくれ。」
と籾山は流太郎に指示した。
こうして、又、サイバーセキュリティの仕事が始まった。ノートパソコンに向かいながら、流太郎は今までのAV男優としての仕事を思い出す。退屈な今の仕事より、AVの仕事の方が、やりがいが、あるように思えた。でも、福岡市にはAVの制作会社は、ない。ぼんやりしていると、新入社員の時野・未漸理(ときの・みざり)が、
「時さん、お電話です。」
と声を掛けて来た。保留中の電話を取ると流太郎は、
「はい、お電話代わりました。時です。」
と応対する。電話の声は中年男性の声で、
「お仕事中ですか?」
と聞いてきたので、
「はい、そうですが。セールスなら只今は、受け付けておりません。」
と流太郎は電話を切ろうとした。が、電話の男は、
「セールスじゃないんですよ。こちらも、仕事の話です。」
「ああ、それなら承りますよ。どうぞ。」
「ああ、ありがとう。あなたは時・流太郎さんですね?」
「ええ、そうです。」
「いやあ、あなたの、やりがいのある仕事を御紹介しますよ。」
「やりがいのある?仕事、ですか?ハッキングされやすいサイトなのですか。」
「いやあ、そうじゃないです。ま、それも、お願いしようとは思っていますけどね。」
「ええ、ええ。で、それも、ではない仕事とは、いったい・・?」
「AVの仕事ですよ。AV男優の仕事!です。」
がつーん、と流太郎の頭に電波のようなものが流れた。今さっき、それを考えていたからだろう。流太郎は迷った。こんな電話に応答していて、いいものだろうか。でも、サイバーセキュリティの仕事の事も少し話していたな。それなら続けても、いい。
「うちはサイバーセキュリティの会社ですから、そちらをまず最初に御願いします。」
「分かりました。取り敢えず、まずは我が社へ来てください。」
「場所は、どちらですか。」
「いや、なに、そんなに遠い場所では、ありませんよ。」
「どこですか、御社は。」
「おたくの会社のビルの隣です。アイランドタワーの地下一階にUGジャパンという社名で入っていますよ。地下一階は全部、我が社で入居していますから、すぐに分かる。受付の女の子に連絡しておきますから、まずはエレベーターで降りてすぐの受付の女子に御名前を伝えてもらえれば、いい。」
「それでは、さっそく御伺いします。」

 アイランドタワーというビル名からも分かるように超高層ビルでは、あった。流太郎も毎日、自社に通勤の際に眺めていた隣のビルだ。エレベーターは三台、稼働していた。それに乗って地下へ降りると、扉が開いて目の前に受付があり、女子社員が座っていたが、なんと水着で受付に座っていた。若いし美貌で受付にピッタリの女性は赤いビキニとTバックの薄いもので股間を隠している。が、彼女の陰唇の形が浮き出るほど、そこに食い込ませていた。その受付のカウンターは透明のプラスチックで出来ているため、その受付の女子社員の下半身まで流太郎には見えてしまったのだ。
長髪の黒髪の彼女は流太郎を見て微笑む。赤いブラの左右には乳首もクッキリと浮き出ている。訪問客に対するサービス度も日本一らしい。これこそAV会社、というものだ。
 流太郎は半勃起してしまい、ズボンが膨らみをみせないように調整したが、受付の女性は黒い瞳で流太郎の小高く膨らんだ部分を見つめると、
「時・流太郎様ですね。」
と尋ねた。
「ええ、そうです。初めまして。」
「ようこそ、UGジャパンへ。あちらが入り口となっています。と彼女は右手を水平に右の方に差し出して、入るべき場所を示した。そこが社長室らしい。彼女は指で自分の目の前にあるボタンを押すと、
「時様がご来社されました。」
と伝える。流太郎が歩いて数歩すると社長室のドアが開き、中年太りの色の白い男性が現れると、笑顔で、
「やあ、時さん。社長の映・部位太郎(えい・ぶいたろう)と、いいます。よろしく。」
と自己紹介した。時も、
「時・流太郎です。よろしく御願いします。」
と言いつつ身をかがめる。
映社長は、
「さあ、中へどうぞ。」
社長室の窓は広く、そこは博多湾の海中が見えている。このビルの地下一階は、そういうものなのだろう。
映社長と向かい合わせにソファに座った流太郎は博多湾の海中には様々な魚が泳いでいるのが口に咥えるように、よく分かった。熱帯魚も見えたのだ。流太郎は、
「あれは熱帯魚ですね。」
と、その見えた魚を指さして云うと、映社長は、
「ああ、あれね。熱帯魚を飼っていた人達が博多湾に捨てているらしいね。ぼくはクジラも見た事が、ある。」
「そうなんですか?クジラが博多湾に。・・・(絶句)」
「クジラは、まだ捕獲制限がありますからね。世界の海を泳ぎ放題だよ。この窓ガラスを背景にAVを撮る事もある。そんな時は何故かクジラは、いないけどね。(笑)。」
「ここがスタジオにも、なるんですね。」
と流太郎は感心する。
「ああ、そうさ。どこでもAVだよ。社長室までスタジオに出来るのはウチだけだろう。今日は見学だけでも、していって欲しい。超能力青年を呼んでいるから。」
と社長が発言すると、社長室のドアが開いて精悍な青年が入って来た。映社長は、
「超能力者、真下琉望(まげ・るぼう)君だ。」
と彼を流太郎に紹介する。真下はスポーツ刈りの頭を流太郎に向けると、
「真下です。なんでも曲げられますよ、ボクは。」
と豪語した。続けて彼は、
「曲げられるだけじゃなくて、変えられるというのかな。それも、できるよ。」
と云うので流太郎は、
「ぜひ、この目で見たいですね。その力を。」
「ああ、いいともさ。やりますか?監督、いや、社長。」
と問われて、映社長は、
「よし、やろう。ここを撮影現場にする。秋花冬桜を呼ぶか。」
そこで人気AV女優の秋花冬桜が呼ばれて全裸で社長室に入って来た。彼女の下腹部の、なだらかな丘の最下端には惑乱させる黒い毛の密集が、ある。横幅のある丸いバナナのような彼女の乳房だ。秋花は赤い唇を開くと、
「お呼びですか、社長。」
「ああ、君に超能力の実験台に、なってもらおうと思う。」
秋花に続いて撮影スタッフも社長室に入って来た。三脚のついたカメラを持ったカメラマン、光を反射する板を持った照明係、マイクを持った録音係、メガホンを持った監督、助監督、などなど、がゾロゾロ、ガラガラと集合する。
緑色のソファに全裸で座らされた秋花冬桜は映社長に、
「大きく股を開いて。そう。あまり大きく開くと、おまんこが口を開けるから、そうならない程度にね。」
両膝を立てた冬桜の縦のスジは、まだ閉じていた。映社長は、
「真下(まげ)君、始めなさい。」
「はい、いきますよー。」
真下琉望は両足を開いた全裸の秋花に近づいた。彼の視線は秋花の密淫の草丘の下にあるピンク色の窪みを捉えると、
「淫空間を捉えます。」
と宣言して、両手を自分の胸のあたりに上げて、催眠術に掛けるような動きをした。
すると!それに合わせて冬桜の閉じていたオマンコが開き始めたのだ!すすすすすーと全開になる女陰を自分で感じた冬桜は、
「いやんっ!オマンコが勝手に開くぅーっ。」
と叫んだ。
これが超能力者、真下琉望の超魔術力なのだ。もちろん撮影は始まっていた。
冬桜の女陰は満月のように最大限にまで広がる。冬桜は自分の両手は膝の上なので、自然には、そこので陰唇は開かない。まさに真下琉望の超能力の力によって、冬桜の閉じていた陰芯は開かれている。
それを操った真下だが、映社長は彼の股間を見ると、ズシッとズボンが膨らんでいる。映社長は、
「真下君。君の肉欲棒も上に曲がっているよ。ズボンとパンツを脱いで、冬桜のマンコに入れたらいい。いいだろう冬桜?」
とマンコと両膝を開いたソファに座った全裸のAV女優に打診すると、彼女は両手で両眼を覆うと、
「はい、いいです。オマンコに入れてください。」
と答えた。
真下は照れたようにズボンを脱ぎながら、
「冬桜ちゃんにハメる前に面白いものを見せますよ。」
と発言し、パンツを脱いだ。
スタジオにいる人々は、
「おおーっ!」
と歓声を上げる。真下の男棒は超能力者らしく?立派な道具だったのだ。スコーンと上に向かっている真下のモノだが、それをカメラに正面から写るように真下は態勢を変えた。
 カメラは、それをズームアップで捉える。真下は、
「今から、やります。スプーン曲げ、ならぬ勃起チンコ曲げを。」
真下は念を送るように自分の全勃起チンコに両手のひらでサッ、サッ風を送るような動作をした。すると!真下のフル・スタンドアップ・チンコは陰茎の中心部から先が右に曲がったのだ。ぐにゃり、と四十五度は曲がっただろう。
室内は騒然となった。中折れというのはペニスが二つに折れる現象ではなく、立ってもスグ萎える事を言うが、今、真下が見せているチン魔術はペニスが文字通り、右に曲がっている。真下琉望はカメラに向かって、
「これがチンコ・パワーです。」
と大胆に宣言する。
 真下琉望は、
「まだまだ、これから先に、これより凄いものを見せますよ。お楽しみに。ひとまずチンコを元に戻します。えいっ!」
真下は自分の勃起チンコを見つめると気合を掛けた。するとタチマチ、曲がったチンコは元の態勢に戻る。ソファの冬桜のマンコは全開のままだ。真下は、
「冬桜ちゃんと合体します。」
と宣言してソファの秋花冬桜に重なり、勃起肉を彼女に入れていく。ずっぽりと真下の肉棒が冬桜に入ると、二人は尻を振り始める。冬桜は乳房も揺らせつつ、乱れた息を吐き始めた。真下は、
「これから冬桜ちゃんの膣内でボクの勃起チンコを右に左に曲げますよ。」
と発言すると、実際、そのように超能力で肉棒を曲げた。
「ああっ、マンコの中のチンチンが右に左に曲がっていくぅー、こんなの初めて、すっごーい、わ。あふ、あふっ、ああん。」
と激しく乱れる秋花冬桜だった。映社長は、
「レントゲン・ビデオカメラで撮影開始。」
と指示する。
カメラマンの一人はレントゲン・ビデオカメラで秋花冬桜の尻のあたりを撮影する。それには膣内で右に左に曲折する真下琉望の勃起チンコが写っていた。琉望は、
「中折れ立ちフィニッシュ!」
と叫ぶと、勃起チンコの半分から先を上に向けて曲げ、射出し終わった。
 秋花冬桜から離れて立った琉望は、みんなの方に向き直った。彼のモノは元のサイズになり、ダランとしていた。映社長は納得顔で、
「一度の射精で勃起は終わるとは普通の男性だな、君も。」
と云うと琉望は、
「もう、しばらく。三分で大丈夫です。」
と自信ありげな琉望は監督を一瞥する。映社長は、キッチンタイマーをポケットから取り出し、
「三分計るぞ、・・・押した。」
キッチンタイマーが三分経ち、ピピピピ、と鳴り始める。琉望は再びソファに座った秋花冬桜の熟れた乳房の両方の乳首を交互に舐め回した。冬桜は、「あっ、あんっ。あっ、あんっ。」と濃いピンク色の乳首を舐められる度に顔を激しく、のけ反らせて両手を自分の乳房に持っていった。
真下琉望は上半身は服を着たまま、みんなを向いて立つと、彼の下半身の股間のモノは勢いよく直立に近い角度で反り返っていた。琉望は右手の人差し指を立てて、みんなに示すと、
「今から見るものは、みなさんが一度も見た事のないものです。それでは。」
と説明し、身をかがめ床に両膝を着く。それから、うつ伏せに寝そべると、両手と両脚を、うつ伏せのまま高く持ち上げた。その時!同時に真下琉望の肉体は床から持ち上がったのだ!
 うつ伏せのまま、空中に浮揚したのか?いや、そうでは、ない。彼は自分の逸物で全身を支えて、自分を持ち上げたのだ!勃起したチンコ一本で全身を支えている真下琉望!
室内のみんなは驚嘆して、彼と床に着いている一本の肉棒を熱視線で凝視する。カメラは二台で、それを追う。
琉望の金玉は重力に抗せずに床に向けて垂れ下がっているのだが、肉欲棒は二つの金玉が床に届かないように、まるで瞬間接着剤で接着したように亀頭が床に接しているのだ。
 その姿勢のまま、琉望は、
「今から、もっと凄い事になりますよ。では、」
と話すと、そこから信じられない光景が展開した。
ぴょん、ぴょん、ぴょん、と真下琉望はうつ伏せの姿勢で両手と両脚、そして頭や胴体の、いずれもを床に接することなく跳躍して前に移動していく。それは股間の勃起したイチモツが力を加えて床をジャンプしていく姿だった。
おそるべき真下琉望のチン勃起力である。
唖然とする一同が見守る中、琉望は室内を飛び回ると膝を着き、立ちあがってオリンピックの金メダリストがするような勝利のポーズをとる。
それに対して一同は手の空いた人だけ大拍手して大喝采となった。琉望の股間のシンボルは、まだ屹立している。
 映社長は得意げに、
「よかった、最高だ、真下君。これは売れるぞ。今のも撮影したからな。全世界に売れるだろう。手の指で逆立ちする人は、いるが勃起チンコで全身を支えて跳べる人間は、君しか、いないだろう。でかした、ました。じゃなくて、まげ、だったな、君の名前は。」
と真下琉望を絶賛すると、真下は、
「そうです。まげ、るぼう、ですよ。今日は調子が、いいです。秋花冬桜ちゃんの、おっぱいと乳首で、今でもビンと立ち続けているんです、ここが。」
と話して自分の股間を右手の人差し指で示す。続いて彼は出入り口のドアを指さして、
「この地下一階にはUGジャパン所有のプールが、あるんでしょう?社長。」
と尋ねる。映社長はウムと、うなずくと、
「そこで撮影を続行するか?真下君。秋花との水中セックスとか。どうだ?秋花。」
と全裸で座っている秋花冬桜に打診した。秋花は微笑むと、
「いいわよ。監督。真下さんとは初めて絡むし、気持ちよさそう。」
涼し気に応えたので、映社長は、
「よし、それでは室内プールに移行か。」
と行こう、という意味で移行と発音したのだった。

 室内プールは歩いて五分くらいの場所にあった。二十五メートルのプールだ。四季対応の温水プールである。今の季節は春先で少し冷たい日もあるからプールの水温は温泉並みの熱がある。そこまでの廊下を真下は勃起チンコのまま、秋花冬桜はオールヌードで乳房と豊満尻をプルン、プリンと色っぽく淫靡に揺らせつつ歩いてきた。
プール際に集まった皆に映社長は、
「これからプールでの撮影だ。水中カメラも使う。真下君は上着を取るように。」
真下は、それを聞いて、
「はい、脱ぎます。」
と同意すると、ほい、さっ、と上着とシャッを脱ぎ捨てて全裸になったが、胸や腕に筋肉がモリモリで逞しい上半身だ。勃起し続けている股間身も素敵だけど。
 プールの水面は少し湯気が出ている。このプールは夏以外は温泉を引いている。ビルの地下を更に掘り進めて温泉を引き当てた。人工的に温めた水よりも安上がりに使えるし、人間の体にも、いい。映社長は全裸の真下琉望と秋花冬桜に、
「二人並んでプールのそばに立って。」
と指示する。二人は温泉プールを背中にして、並んで立った。まだ真下琉望の股間の砲身は四十五度、上を向いている。映社長は、
「立ったまま結合してプールに飛び込みなさい。」
とメガホンで指示した。真下と秋花はキスをして真下の股間砲は秋花の肉ビラの中に突き進み、ズッポリと収まる。二人は息を合わせてプールに飛び込んだ。
ジャッポーン!!と勢いのいい音がして二人はプールに沈む。水面下に沈んでも、足がプールの底に着くので二人は水の上に顔を出した。カメラマンも水中撮影できるカメラを持ってプールに飛び込む。
・・・・という事で、彼らの水中セックスは二十分ほど続いた。水中に飛び込んだカメラマンも酸素ボンベを背中に背負い、水中の色々な位置、角度から撮影した。その水中カメラは望遠レンズつき、なのでズームアップも多数、駆使された。
真下琉望は射精せずに秋花冬桜から離れたので、映社長は、
「どうした?真下君、最後まで、やらずに?」
とプールサイドに高く立っている監督の椅子から声を掛ける。真下はキリッと顔を引き締めて、
「これから皆さんに人類の誰もが見た事のないものを見てもらいたいのです。」
と言い放ったのだ。映社長は首をひねると、
「人類の誰も見た事がないもの、とは・・・何だね、それ?」
真下はプールの真ん中から全裸の秋花冬桜の隣から、いつの間にかプールサイドに泳いで移動して、プールから上がっている。彼の股間のイチモツは凛凛と急角度のそり身を維持している。プール内のみんなの視線は、真下のイチモツに注がれる。真下は、
「それでは皆さん、始めますよ。カメラさん、撮影してください。それでは!」
真下琉望はプールに飛び込んだ。両手を頭の上に伸ばして飛び込む体勢だった。ドプンッ!!と音がして真下の裸身は水中に消えた。でも一分もしないうちに真下の裸体の後ろの部分がプールに浮かび上がってきた。真下の背中も尻も丸見えだ。と、ここまでは不思議でも何でもない。裸体の男のプールへの飛び込みと、水面への上昇、は見る人は少ないだろうが人類の誰も見た事のないものだろうか。
 AVの撮影現場で見た事がある人は、いるだろう。では、それではない人類初の見せ場とは?
おお!真下琉望は、まだ勃起していた。それだけでは不思議手はなく、なんと!彼はプールの水面に万歳をした格好で浮いているのだ。しかも、彼の裸体の前面は水に接していない。空中浮揚なのか?
いや、そうではない。彼は自分の全体重を勃起チンコで支えていたのだ!不思議な事に彼の勃起亀頭は水面に沈まず、水面上で静止している。物理法則に反して。男子体操選手のように両脚を揃えて、両手は頭の上に万歳三唱のように上げている。
プールスタジオは騒然となった。
「おおー、チンコで水面に浮いているぞ。」
「きゃー、チンコで体を支えているわーっ。沈まないのかしら?」
「確かに人類史上初だ!水中に沈まないチンコ!それで水の上に浮いているーっ。」
と撮影スタッフから色々な声が飛び出した。
両手の親指で逆立ちできる人も、いるだろう。でも、それは固定された床に対して行うものだ。水面に両足で立つ事も通常は不可能だが、超魔術師のような人達で水面に立ち、歩くことは行われた。かのイエス・キリストも水面を歩いた伝説は、ある。が真下琉望は水面に勃起チンコで全身を支えているのだ。映社長は、
「凄いぞ、真下君。トリックは、あり得ないだろう?今の君の体勢には?」
と問いかける。琉望は右手の人差し指でオーケーサインを作ると、
「どういうトリックをプールに作るんですか。今のところ、これが精一杯ですけど、環境が変われば、又、別の事も出来ます。」
と反論した。映社長は考え込んで、
「それなら別のスタジオに移行すれば、いいんだな。」
「そうです。それなら他に展開するものは、ありましょう。」
「よし!次のスタジオに、うつろう。」
という社長の鷲の一声で全員、別の撮影スタジオに移動した。

 次のスタジオはアイススケートの出来る凍った床の場所だった。驚異的にも真下琉望は、そこに入っても勃起していたが、さすがに二分後には寒さのせいか彼のイチモツは萎えてしまう。映社長は、
「真下君に上着だけでも着せてやれ。」
と指示する。スタッフは真下にカイロ付きの赤い分厚いシャツを着せる。臍までの長さのシャツなので真下の股間は丸見えだが、そのシャツでは回復しないらしい。秋花冬桜はアイススケートの女子選手の服装に着替えていた。ただ彼女のパンツの部分は女陰が隠されているのではなく、露出されている。そこが切り取られたパンツを冬桜は履いている。映社長は秋花冬桜に、
「秋花君はアイススケートの選手でも、あったそうだね。」
と聞くと、秋花は自分の股間を両手で隠し、
「ええ、トリプルアクセルが得意技です。」
と答えた。