sf小説・体験版・未来の出来事25

 徐福目が立っている部屋の中は背の高い本棚が左右の壁に並び、ドアから入ると真ん前に見える壁は大きな窓ガラスが庭の緑を見れるようにしている。庭が、とても広い。それを囲む壁も高く、壁の近くは樹木が建ち並んでいるのが兄目美瑠男の目に映った。
 中国語講師の徐福目の部屋らしい本で埋まった部屋だが何故か中央に応接のための横長のソファがガラスのテーブルを挟んで二つある。そのソファに徐福目は座ると、
「兄目さん、わたしの前に座ってね。」
と声を掛けた。兄目美瑠男は両足を少し動かし続けて、そのソファに腰かけ心地よさを感じた。その感想を、
「いい座り心地ですよ、徐さん。」
と笑顔で話した兄目美瑠男に徐福目は右手で何かを取り上げたのだ。なんと、それは拳銃だった!!
彼女は拳銃の筒先を兄目美瑠男の喉のあたりに向けて、
「気分は、どうですか?兄目さん。」
と、しかし真面目な顔で訊く。兄目美瑠男の額に冷や汗がツーっと流れると、
「どういう意味でしょう。冗談では、ないように見えます。でも、その拳銃は本物ですか?」
「本物ですよ。92式手槍QSZ-92-10です。私たちしか持てないものです現在ね。」
兄目はブルっと震えを感じた。
「もしかして僕を殺そうとしているのですか?」
「そうかもね。でも気分次第だから、分からないわ。」
「なぜ?ぼくを・・・・狙うのですか。」
拳銃を構えた徐福目の左目がキラリと光ると、
「あなたの、お兄さんが私の姉を、もてあそんで捨てたからかな?」
「そ、それは僕には兄はいますし、商社勤めで中国にも行っています。でも兄とは親しくないし、何年も電話さえしていないんだ。そんな理由で・・・銃を向けられるなんて・・。」
徐福目は右手で構えた拳銃を膝の上に降ろすと、
「それなら撃てないかな、貴方を。」
兄目の兄が原因だったとは・・・。美瑠男は、
「最初から僕を調べた上で・・・僕のラーメン店に来たのか・・・。」
「それは勿論よ。そうでなければ貴方のラーメンの店に来ていなかったかもね。結構、遠いでしょ?ここから、あのラーメンの店は。」
「ううむ、そうだね。でもラーメンを食べ歩きしている人もいる。僕も、そうだけど・・・。」
「あなたの兄さんも、そうなのよ。中国でラーメンを食べ歩いていたらしく、わたしの姉が働いているラーメン店に何度も来ては姉に声を掛けた。真剣な交際だと思った姉は数度のデートの後、ホテルで体を貴方の兄さんに捧げたのよ。それから二人は三十回はホテルで体を重ね続けた。その後の或る日、突然、貴方の兄さんは私の姉の前から姿を見えなくしてしまった。湖南省から、いなくなったの。調べようが、なかった姉は自殺してしまったのね。わたしが調べていくうちに貴方の兄さんは別の中国人女性と結婚した事が分かった。貴方の兄さんを憎んでも、相手の女性は私と同じ中国人女性。その女性を悲しませたくは、ない。その代り貴方、兄目美瑠男さん、あなたが死ねば姉も満足すると思う。」
「そ、そんな勝手な三段論法か演繹法か何かは僕には迷惑じゃないか。なぜ僕は死ななければ、ならないんだ。」
「貴方は兄さんと親しくは、ないのね。兄目槍蔵(やりぞう)と。」
「それは、さっき話しただろ。兄さんが中国で結婚していたのも知らなかった・・・。」
徐福目はフッ、と息を吐くと拳銃をソファに置き、
「それなら、やれないわね。実は本当は貴方の事を段々と好きになっていたのよ。それでも姉の敵討ちだという事は忘れられないから。それで貴方と貴方の兄さんとの関係を調べようと思って、ここまで誘ったのよ。」
兄目美瑠男はホッとした顔で、
「それなら、もう要件は終わったんだろ?帰っても、いいかなー。」
「いえ、まだ終わった事ではないの。貴方を連れていきたい場所が、あるから。」
それを聞いた兄目美瑠男は再び背筋にドライアイスを載せられた気がして、
「どこに行けば、いいのかな。そんな場所が、あるとはね。」
冷たく光っていた徐福目の目は優しさを帯びた元のまなざしに代わると、
「そこへ行く前にチョット、わたしの日本についての考えなんか話すわ。それと、あの拳銃には弾丸は入っていないの、実弾は実装されていないわけ。」
それを聞いた兄目は平常心に帰り、
「それなら単なる脅しだったわけだ。」
「いいえ、脅しじゃないわ。実は拳銃にはウイルスカプセルを装填できるの。コロナウイルスとかも、ね。」
再び兄目美瑠男は恐怖を覚えた。
「そ、それなら細菌兵器だ。でも、見かけは、その拳銃は・・・。」
徐福目は、ふ、と息を吐くと、
「警察が調べても、おもちゃの拳銃でしかないから銃の不法所持には、ならないわ。でもウイルスカプセルは十分な衝撃力で撃てる。人体に当たっても危険のないカプセル。でも、そのカプセルが割れると中からウイルスが飛び出すのよ。」
兄目美瑠男は恐れ入った、という顔をした。だが聞いてみる兄目、
「ウイルスなんて何処に保管しているのかな。」
「それは、この屋敷の中にある部屋で細菌を培養、保存が出来るから。ウイルスを氷点下で凍結しておけば人間の冷凍保存と同じように、いつでも蘇生できるの。」
「君は中国語講師にしては、そんな事まで関与している・・・。」
徐福目は豊満な胸を張ると、
「個人で、そんな事は出来ないわよ。それに、この家は私の祖父のもので祖父は先月、死んだわ。父は中国にいる。さっきの話は冗談よ。わたしに姉は、いないもの。昔の中国人らしく一人っ子だから。」
そうだ、そうだった一人っ子政策、と兄目は納得する。だが自分には本当に兄はいるし、音信不通といってもいい。仲が悪いというより兄は仕事熱心すぎてラーメン屋の弟には電話でさえ話をしないのだ。では、あれは・・・と兄目は、
「それなら、さっきのあれは演技だったのか。」
「そうね、貴方の反応を見てみたかったのよ。きっと驚くだろうと思ってね。」
「それでは日本人が憎い、という事もないわけだ。」
「そういう事よ。日本人が憎くて日本に来るわけないじゃない。」
それならウイルスカプセルも・・・。兄目は、
「ウイルスカプセルなんてのも冗談だ、ね?」
徐福目は軽くホ、ホ、と笑い、
「好きに考えてね。祖父は細菌学者だった。その前の私の先祖が旧日本軍の731部隊で実験に使われたことが、あったらしいわ。」
「731部隊・・・。」
「もう忘れられた事かも知れない。でも、それは日本で忘れられた存在で、わたしの祖父は731部隊の影響で細菌研究に一生を捧げたのよ。たった一人の孫娘の私は祖父に、とても寵愛された。だから私は幼い頃から色んなウイルスを・・・、その話は今は中断して私は日本の文化論を貴方に展開したいと思う。その前に飲茶(ヤムチャ)に、しましょう。」
と徐福目は話すとテーブルの上にある拳銃を手にした。あ、やはりオレを殺すつもりだ!と兄目美瑠男は即断即決してしまった。が徐福目は、その拳銃を耳に当てると「小小(シャンシャン)、ウチの定番飲茶を二人前、私の部屋にね。お客さんだから。」
と通話する。
話し終わると拳銃の何処かにある通話切断の箇所を押して通話を切った、そして拳銃を又、テーブルに置き、
「すぐ持ってくるわ。近い部屋で作らせているから。」
と温かみのある声で話した。
拳銃はスマートフォンにもなるらしい。兄目美瑠男は好奇心で、
「そのピストルはインターネットの動画も見れるのかな?」
と尋ねると徐福目は、
「もちろん見れるわよ。銃把の部分でね。スライド式に銃把のその部分を外せばいいだけ。そこに画面が現れるから。」
その拳銃の携帯電話が鳴る。徐福目は拳銃を取ると耳に当て、
「あ、小小(シャンシャン)、ドアを開けてお入り。」
ドアが開いた。ホテルの部屋に届けるような台車の上には飲茶が載せられていた。それを押してきたのは小学校高学年の男子の身長の男だった。小人の男、小小。
小小は二人前の飲茶をテーブルの上に並べた。小小は黒のチョッキに白いズボンの制服のようなものを着て、頭は耳の辺りを刈り上げた短髪の姿で懸命に働いた。飲茶を並べ終えた小小は気を付けの姿勢をして頭を下げると部屋を出ていく。
ドアが閉まってから兄目美瑠男は、
「あの人は成人なんでしょう?今来た給仕の人は。」
と烏龍茶のいい匂いを鼻で嗅ぎながら訪ねると徐福目は茶碗を取り上げて、
「そうですよ。四十歳かな、あの小人は。うん、おいしいな。小小はウチの料理人です。さあ飲茶を召し上がれ。」
ウーロン茶の他には餃子、焼き小籠包、焼売(シュウマイ)、胡麻団子、焼きリンゴなどが兄目美瑠男の口の中に入るべく待ち望んでいるようだ。
ラーメン店を出している男、兄目美瑠男の味覚は舌太鼓を連打したので、「いやあ、こういう飲茶は初めて食べました。とても、おいしい、ネット通販に出せば大嵐が吹くように売れますよ。」
と舌太鼓判を押す。徐福目は餃子を食べつつ、
「経済的に困っていないから、ネットで商売する必要は今のところ、ないわ。わたしの日本文学論、それは日本の明治の文学は江戸時代より貧相なもの、というものよ。兄目さんはアニメが好きなので退屈かしら?」
「いえ、どうぞ。是が非でも非が是でも、拝聴しますから。」
「そう?それでは飲茶を食べながらでいいので聞いてね。」
「はい、おいしい、食べます、聞きます、どうぞ続けて。」
「明治時代は文語体から口語体への文学の移行期だった。でも彼らの文学作品は大したものではなかった。それを長く日本の学校教育の国語の狂果書、教えるではない狂った成果の本に載せて只でさえ文盲の多い日本人を奈落の底へ落したのよ。ソーセキ、ダトカ、オーガイ、トイウ奴ラノ詰マラナイ作品ヲ立派ナモノニ、シタテタ。ソレデ日本人(リーベンレン)ハ、オモシロクナイモノヲ文学ダト思ウヨウニナッタ。森鴎外や幸田露伴も江戸時代の馬琴の「里見八犬伝」を激賞しています。つまり日本が軍事大国化していくのと反比例して文化は貧弱になったけども口語化や西洋画へ移ったので目新しく見えただけ。絵画も浮世絵の方が評価が高い。
つまり明治の日本の文学なんて漢字が多いだけで中身は取るに足らないものばかり。漢字なら私たち中国人の本は全て漢字だけ。幸田露伴も中国信者なのよ。彼の造詣は中国の本からが殆ど。
漢字に弱い日本人は操りやすいし、金の亡者の自民党も簡単に操作できたけど今の日本は共和党になって金で動かせなくなった感はあるわね。それと本を読まなくなった日本人は漢字を知らなくても平然としているし。日本のマスメディアというのは中国で簡単に操れる。だ、か、ら。アニメも中国は目を付けているのよ。」
徐福目の目は不気味な光を放っている。兄目美瑠男は、しかし酔いが全身に少し回るのを感じた。それでも言ってみたいことは、
「もしかして徐さんは中国の工作員か何かですか。」
「そうではないけど知り合いに、その方面の友人がいるから教えてもらう事はある。日本人なんて殆ど馬鹿ばかりに近くなってきているから、中国で操るのは簡単になりつつあるのよ。お笑い、これは馬鹿が見るものなのよ。それを見る奴らに日本の企業は投資している訳。この馬鹿日本企業を中国で操るのは簡単なのね。
中国では、お笑いなんて全然、はやらない。成長する国家が笑われるのかしら、豊かになっていく国民は可笑しくはないわけでしょう。でも日本は世界の笑われ者なのよ。だからバカ企業も笑われても商品を売りたいって事にまで、なっている。もう自衛隊が、どうであれ日本なんて簡単に沈没させられる。それは日本の陸地ではない形容詞的表現としての沈没の事。
もともと日本のテレビ局は日本の新聞社が出資した形で出来たもの。その日本の新聞には赤が多かったから、わたしたちが操るのは簡単。日本人は、お笑いでも、やっていなさいと命じれば、はい、やりますって我々のいう事を聞いたのよ。日本の大学、防衛大学を除けば、これも赤だらけだから毛主席に勧められて全て赤になる、貧乏大好き人間を日本で大学で教育していった。財務省の人間も全て東大を出た赤。税金を取りまくり国民を貧乏にして国家を強大にする、これは共産主義の考えだけど原始共産主義で、わたしたちの国では、もうそんな事は開放政策でやめてしまっているから中国は頑張る国民は豊かになれる。相続税も取らないの、中国は。日本は、どうですか?豊かな家の財産は相続税で巻き上げる。もっとも、日本のそのやり方は明治の西郷隆盛の「子孫に美田を残さず」という下級士族の思想が反映されているのかもしれないわ。
日本こそ共産主義なのよ、それも原始共産主義の。わたしたたちは修正共産主義だから日本を操れるんです。原始人をね、思想の原始人で国家のお金を預かる連中が日本では、その原始思想だからねー。
中国とアメリカは消費税を取らない、だから国家は逆に強大になっていくんです。その我々のチャイナマネーが欲しくてたまらない日本。それは可笑しくて笑えるんだわ。だって共産主義、正確に言えば修正共産主義の国のお金を資本主義、建前だけは資本主義、けれども官僚というか財務省が原始共産思想の国が欲しがる。インバウンド、中国さん来てくださーい、あなたがたのお金を待っています、ホテル、旅館、ソープもありますよーって呼んでくれ続けた。そんな国自体が、お笑いなのよ。
だから日本のテレビは必然的に、お笑い抜きでは存在できなくなり、われわれの足の下に踏みにじられても、我々の靴の底を喜んで舐めるようになるバカ国家日本なのよ、と知りなさい兄目さん。」
「そ、それならGHQが弱体化したのではない、と。」
「よく知っているわね、ラーメン屋にしては。GHQの財務方面、昔の日本の大蔵省を指導したのが崩壊して消えたソ連だった。その計画経済を死守しているのが日本の財務省。アメリカとかは関係ありません。日本は世界一の共産国家、一億総中流なんて昔に言っていたのは、まさにそれ。今は一億総貧乏、われわれは十三億総富裕の国家になるのよ。日本は大昔、武力で我が国を完全制圧寸前にまで出来たけど、今からは経済で日本を完全制圧するところまで行けると思う。兄目さん、中国にラーメン店を開きたいんだったわよね、わたし明日からでも動くから、そのために。」
「大学の方は、いいんですか?」
「コロナ再燃で、しばらく閉校だから。それでも給料はもらえる、九州大学、国立だからね。」
「それでは、御願いします。」と言うと、兄目美瑠男は両手を座っている両膝に置くと頭を下げた。
「頭を下げなくても、いいわよ。わたしの名義を使うし、経営者は私だから。」
「そうですねーえ、けれども徐さんなしではできない中国での会社設立です。」
「クイーンエリザベス号に乗った気持ちで、いたら、いいわ。」
「はい、そのつもりで、おります。徐福目様。」
「そんなに下に出なくても、いいのよ。わたしは女王様では、ないんだから。飲茶を食べ終わったら連れて行くところがあるから。」
「へ?そうなんですか。楽しみですねー。」
「お笑いが、はやる国は亡国への段階にあるわ。イギリスでチャップリンが流行った頃に大英帝国は多くの領土を失っていった。日本も似たようになる、経済で勃興した日本も、それを失っていく・・・。わたしたちの国が覇権を握れるのよ。中国もアメリカも、お笑いというのは流行らないから。それは二つの超大国の象徴だわ。
 われわれの国は経済で日本を制圧できる。白物家電は、その第一歩。松・・・なんとかいう家電メーカーは積極的に大昔に支援してくれた。低学歴で運が良かっただけの人物が社長の時だったから、すべて中国は漁夫の利を得られるのよ。それに、その人物は論語が好きだったそうだし。孔子という中国遺産でも日本人は、どうにでも出来る程度の低い奴らは多いのね。
ま、わたしは日本人を心配してやる必要はないのだけど、兄目さんが日本人だし、それで少し喋りすぎたのかな。食べ終わったわね、兄目さん。餃子、もっと食べてもいいわよ。」
「いえ、もう満腹です。」
「それなら今から庭に行きましょう。ね?」

 徐福目の外観は古い民家の庭は広い。南の方を向けば田園風景に連山が、それから先の視界を遮(さえぎ)っている。
縁側から降りると言っても二人は土足で降りた。先に降りるのは徐福目だ。そこからも見えるのは掘っ立て小屋のような小さな建物で、徐福目はズボンのポケットからカギを出して、その小屋の戸を開けた。このドアは顔認証や指紋認証のない昔からある鍵で開ける方式のもの、兄目が入ると徐福目は中からカギを掛ける。そんなに重要なものが、おんぼろにも見える小屋の中にあるのだろうか。中は十畳ほどの広さで、床は板張りでも畳でもない土だったのだ。つまり庭の土と同じものが小屋の床にもある。その土の床面の中央部に床柱にしては横幅の広いものが立っている。それは、入り口らしいところから見るとエレベーターではないか。徐福目は兄目の目が奇妙な色を宿しているのを見て、
「地下に行くためのエレベーターよ。乗りましょう。」
と話すと、そのエレベーターの開くボタンを押す。何処のビルにもあるようなエレベーターの内部で地下は何と五階まである。そのBF5、地下五階でエレベーターは停まった。そして何と、そこは地下鉄の駅のような場所だったのだ。駅のような、ではなく一車両のみの電車が停止していた。やはり地下鉄の駅であろう。ただ、これは福岡市営地下鉄とは違うはずだ。
この辺りには、まだ福岡市営地下鉄は開通していない。このような設備を作るのには物凄い費用と人の手が必要なはずだ。もちろん、その人の手が動かす機械も、なければならない。駅舎らしいものが見えた。ホームに降りたために切符を買う必要は、ないはずだ。徐福目が駅舎に歩み寄るので兄目美瑠男も徐福目の影のように、駅舎についていく。
駅舎の中には退屈そうな老駅員が一人、椅子に座っていたが駅舎内のガラス窓から徐福目を見ると、
「お久しぶりです。徐様。すぐに発車させますよ。」
と富裕な令嬢の御機嫌を取るような話し方で老駅員は迎えた。徐福目は老駅員を真っすぐに見ると、
「ご苦労様。燃料の方は、まだ大丈夫だね?」
「ええ、フルスピード、急発進、なんでも耐えられます、地下鉄としてね。」
「いや、おまえの燃料の方だよ、大丈夫かい?」
「ええ、原子力は随分、持つものです。おかげで今年、百歳になります。」
「ここへ来て、三十年だね?」
「ええ、その頃にサイボーグに改良していただいて、ここの仕事まで戴いたのは御嬢様のおじいさまの、おかげです、はい、日本語もなんとか話せるようになりました。」
「お前は湖南省の出身だったね?」
「はい、観光地が多い場所での駅員でした。新型のウイルスで全身が壊疽だったのを、おじいさまに助けてもらいました。」
「そうだった。祖父は医師でも、ありました。もう他界しましたよ。」
「へい、ご冥福は、いつも、お祈りしています。いつもの場所で、よろしいのですね?車両の目的地は?」
「ああ、いつもの場所へ出しておくれ。」
「はい、かしこまりました。乗車されてください。」
丁寧な老駅員は実はサイボーグらしい。
 二人が乗車すると扉が閉まり、車両は発車した。一体、どこへ行くのか、それが兄目美瑠男には気になって仕方がない。右に座っている徐福目に、
「これから何処へいくんですか?なんだか、とても不安になります。」
窓の外を楽し気に見るともなく見ている徐福目は、
「歴史的な場所ですよ。だけど日本人は意外と知らない所だけど。兄目さんは行ったことのある場所。」
「ええっ、こんな地下鉄は何処に行くんですか?」
「上海まで行くかもしれないわ。」
「上海まで行けたら楽しいな。上海のラーメンを食べたいですよ。」
「ここから地下鉄で上海なんて現実的ではない。糸島の港に漁船を装った中国船が停泊しています。それに乗れば上海まで行くのは簡単です。」
「あ、そうか。そういう方法も、ありますね。では、今回は糸島の港まで?」

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