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2098年のキス
 2013年の現在、首都・東京などでは特に気軽な男女のキスが一目も憚らずに行われる事が少なからずあるらしい。これは今からもう少し前から見られる現象で、欧米の影響だといえるのだろう。
それと並行するように日本では、少子化が進んでいった。
2098年の現在、日本でそのような行為、すなわち、人前でキスをする事は公然わいせつ罪として逮捕されるようになった。その理由は、おいおい述べていく事とする。
他の現象としては、映画やテレビドラマなどは見る人も極めて稀となっているのだが、キスシーンはアダルトなものとして取り扱われ、テレビからはキスシーンが姿を消すなどしている。
ここまで取り締まられるようになったなどは、2013年に生きているあなたがたには時代の逆行のように思われるに違いない。
さてさて、そういう時代となっているから2098年現在、女性は外出時にはマスク着用が一般となっている。日本政府としても、マスク着用を義務付けようかという検討もしたが、中東の女性とは違う伝統のためにそこまではやらない方がいい、ということになり、法的に規制はされない。
それでも、大抵の女性は外出時、のみならず勤務時間帯もマスクを取らない。
ある平凡なサラリーマン家庭を見てみよう。女性は、その辺を歩いているような、よくみかけて顔も覚えられないようなありきたりの三十代の主婦、凡子は帰宅した夫、沙羅男(さらお)にマスクをしたまま、
「会社の方は、どうなの?」
と聞く。
「ああ、なかなか出世できそうもないよ。」
「じゃあ、わたし、まだパートに出た方がいいのね。」
「うん、すまない。でも、キスぐらい、おまえ・・。」
凡子は目で抵抗して、
「簡単に、させてあげられるもんですか。2000年初期の頃とは、違うんだから。」
沙羅男は、ふーっ、とため息をついた。それから独り言のように、
「あーあ。おれも2013年頃に生まれていればなー。そうしたら、もっと簡単にキスもできたし。」
「そんな、いやらしい事、夫婦だからって気楽に話さないでくださいな。その頃のキス映像は、すべて成人指定のアダルトになってるでしょ。今は。」
「そうだけどね。昔の人達は、気楽だね。」
「ずいぶんと昔だわ。公務員も勤めていれば、給料が上がったそうじゃない。」
「そうだったらしいね。役人天国だったんだろうな。でも、今はそれも違うね。おれの同級生も地方公務員になったけど、リストラされてね。」
「大変ねー。」
「風俗産業に入って、今は安定した生活を送っている。」
凡子は眼をきらめかせると、
「そうだ、あなた。風俗関係の仕事に転職なさいよ。自動車の会社なんているから、だめなのよ。何十社もあるでしょう、車の会社。」

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