sf小説・体験版・未来の出来事5

メレニは、
「パーティには他のクラスからも来るわ。流太郎が見た事もない人も来るから。楽しみね。」
と教唆した。

 そんな楽しさを想像したりと、流太郎が期待にも似た気持ちでいると時間が経つのは速いものだ。そのパーティ会場に流太郎は、いた。立食パーティみたいな会場であった。飲み放題、食べ放題。百人はいる大きな会場だ。流太郎は黒い背広を着たハンサムな若い男性に、
「こんにちわ。日本から来ましたね、あなたは?」
と声を掛けられた。
「はい、そうです。ぼくは講師の助手です。初めまして。」
「ぼくも初めまして、ですが、あなたは学校で見た事ありますよ。」
「そうですか。気が付きませんでした。」
「地球の日本にいるのですが、ちょっと二か月ほど、ここで日本語を更に学んだのです。」
「わざわざ火星へ?日本にいたのなら、日本語は学べませんか?」
「それがねえ。私本来の姿に戻れないでしょう、日本では。長い時間ね。」
「はあ、あなた本来の姿・・・それは人間誰しも、人前では幾分、取り繕った顔をするものですよ。そういうのがストレスが溜まる、って事もありますよね。分かります、分かります。」
その男は歯を見せて笑うと、
「ははははは。その程度のものなら火星に来るものですか。私本来の姿、とは、こうですよ。」
流太郎が見ているハンサム男の顔は、みるみるうちに蛇のような顔になった。歯は牙が尖って見えた。
流太郎は驚きと恐怖で、
「なななな、それが貴方の本当の姿・・・。」
「ええ、レプティリアンとも地球で呼ばれているタイプの宇宙人、正確には火星人なのでね。」
男の顔は蛇のような顔のまま、ニッ、と笑う。流太郎の背中はゾクゾクしたが、
「シェイプシフトとかいうアレですね。メレニさんや僕が会ったソリゲムさん、ダリモ部長やセロナさん、それに、ここの校長先生もみんな地球の北欧の人を神秘的にした感じの人間なのに、あなたは・・・。」
「国が違えば火星人も異なるのさ。僕は、この国に留学する事を認められている。地球で謂えばビザも持っている。それがねえ地球も、いずれそうなると思うけど、僕らのビザは君達のスマートフォンに類似した、それより進化した携帯の中にね、ビザを持っているんだ。だから入国審査官には、それを火星のスマートフォンで見せれば、いい。見せてあげよう。」
蛇男はズボンのポケットからスマートフォンらしきものを取り出して画面を操作すると、流太郎に見せた。
そこには火星のアルファベットと数字らしきものが表示されていて、ビザらしきデザインのものが見えた。流太郎は、
「これは初見です。ほー、すごいですね。カードのビザなんて紛失する事もありますよね。そしたら大変ですもん。」
「だから地球は遅れている。僕は月への入国ビザも、このスマートフォン、火星ではスマートフォンとは呼ばないけど、君への便宜上、そう呼ばせてもらうが、この中に収めてある。」
「月、というと月面の月ですか。アメリカのアポロが行かなくなって百年以上、経ってますけど。」
蛇男はスマートフォンらしきものをポケットにしまうと、
「月はね、地球に見えない裏側には億単位の宇宙人がいる。円盤の基地や建物、その他、文明を示すものは地球からは見えないんだ。」
その蛇男、レプティリアンの顔などは近くにいる火星人にも見えるはずだが、誰も驚いたりしないようだ。驚きの顔は流太郎だけで、流太郎は、
「それで月には何もない、と思われていたんですね。」
と相槌をカン、と打った。
「月の裏側を探査しようとしたアポロは、彼らの円盤に攻撃された。命からがらのアポロの乗組員達を知ったNASAは、二度と月への宇宙計画を行わなかったんだ。まあ、その方が身の為だね。インターネットの動画共有サイトでは、少しリークされているよ数十年前から。」
「そうなんですか、では竹取物語の、かぐや姫の話しも本当とか。」
「月に帰るとか、そうだろう。昔の人間が想像だけで、そんな事を想いつかない。それは、ともかく、僕は日本で株取引をしている。」
「ああ、デイトレーダーの方ですか。僕も株には興味があります。」
「今度、教えてやろう。日本では蕪山得男(かぶやま・とくお)と名乗っている。戸籍なんて上野に行けば失業者から、いくつでも買えるからね。」
流太郎は蕪山から名刺を貰った。そこには福岡市の蕪山の住所が載っていた。流太郎は嬉しそうに、
「福岡市に住んでいるんですね、蕪山さん。高宮・・鴻巣山の上の方みたいですね。」
「ああ、電話かけてから訪ねて来いよ。デイトレーダーだと外に出る時間も短いから人間の外観になっている時間も短くて、いいからな。」
蕪山の手は指は長くて爪も長く、肌は鮫肌でウロコがあった。
株をやっているから蕪山か、と流太郎は思った。本当は火星のレプティリアン、爬虫類型宇宙人なのだ、蕪山さんは、と流太郎は思うが火星人の株取引を知りたい、と思い、
「蕪山さんは、明日からでも日本へ、福岡市へ戻るんですか。」
「ああ、今日から戻るよ。君は、いつまでも火星にいるのか?」
「そういうつもりも、ないです。火星では日本語講師が関の山ですから。」
「だろう?だったらさ、早めに地球に帰って何かした方が、いい。」
「そうします。蕪山さん、マンゴープリンが、お好きのようですね。さっきから、そればかし食べてますよ。」
「うん、地球人にシェイプシフトすると暑いんだよ。それでマンゴーが、おいしいのさ。」
「ちょっと失礼します、蕪山さん。」
「ああ、いいよ。次は地球でな、会おう。」

 流太郎は少し離れた場所で立食しているメレニのところに行くと、
「メレニさん。ぼく、地球に帰りたいんです。」
と心境を打ち明けた。
「まあ、そうなの、いいわ、あなたは日本語講師助手として数年勤務しているから、国の円盤で地球に送ってもらえるわ。その代り、この火星での仕事は地球では秘密にしておいてね。」
「分かりました。というより、火星での体験を話したって誰も本当だとは思ってくれませんし、頭が狂っていると思われるに決まっていますから、話はしませんよ。」
「そうね、でも秘密を強いる訳ではないから、話していい、と思える人がいたら話してもいい。何故なら、火星に来ている地球人って結構、多いからね。」
なんだ、そうなのか、と流太郎は思った。

 翌日、メレニの話通り、時・流太郎は国のUFOで地球へ帰った。火星人とはいえ、公務員らしき態度の船員に、
「あれが君のマンションですか?」
と香椎駅前にあるマンションの上空から尋ねられたので、
「そうです。屋上で降ろしてもらえませんか。」
「ああ、そうするよ。火星での勤務、ご苦労さん。」
と、ねぎらわれて流太郎は自分のマンションの屋上に降りることが出来た。
(もう、二年にもなるのか。でも一応、分譲マンションだから家賃滞納の心配はなし、管理費と修繕積立金は安いから銀行口座の引き落としで、なんとかなっている筈だ。)
と回想した。
 屋上から自分の部屋に戻ると、電気もガスも止められないでいた。水道も、ちゃんと出た。それらも銀行引き落としだったのだ。パソコンはWINDOWS37が、まだ使えた。起動させてオンラインバンキングの自分の口座を見ると、まだ貯金があった。次にビットコインの口座を見る。
(やはり騰がったな。ビットコインは。火星ではビットコインに似たもので光熱費は払える、とメレニさんは話していたけど。)
日本株は、と見ると上がったのもあれば、下がったのも、ある。ほぼほぼ、同じ株価のものも多い。
ネットニュースを見れば、リニアモーターカーが鹿児島に向けて建設を計画中だそうだ。
リニアより揺れない、というより、全く揺れない火星の空飛ぶ円盤に乗った経験からすると、リニアなんて、と流太郎は考えてしまう。
鹿児島では桜島が爆発したらしく、それの被害に会わなかったところにリニアを通す計画らしい。
とにかく今は昼間だ。会社に電話しよう。携帯電話で流太郎は籾山に連絡を取る。籾山が出て、
「もしもし?おう、時じゃないか。どこに行っていたんだ。」
「ちょっとした事情がありまして、その訳は追い追い、話しますから、今日から出社します。」
「ああ、いいけど君の席は、もうないから、明日までに机とか椅子は何とか、しよう。今日は、そんな状態だけど、来るなら来いよ。」
「はい、行きます、今すぐ。」
という事で、今はマザーズ上場企業の株式会社夢春に流太郎は出社する事になった。

 籾山も今は社長室を使っている。そこに入った流太郎は元気そうな籾山を見て、
「お早うございます。お元気そうで何よりも素晴らしい。」
と挨拶した。籾山は鷹揚に頷くと、
「君も元気で何よりさ。一体、何処に蒸発していたのかい。」
「蒸発だなんて液体ではないんですから、僕は。火星に連れていかれたんです。信じてもらえないと思いますけど。」
籾山は好奇の目を光らせると、
「信じるも何もだね、僕も火星には行ったよ。それどころか、-これは内緒の話だがね、うちの大株主の一人は火星人なんだ。」
流太郎は、そういう時代なんだと思ってみた。だから納得顔で、
「そうでしょう、うちも、そこまでいかないと発展しませんですものね。」
「ああ、技術屋の会社としてはね。火星人からの技術供与は、我が社の向上には必要欠くべからざるものだな。パリノさん、彼が大株主だけど、その人は火星の医師で、エレクトロニクスの方面は得意じゃないらしい。」
「医学でもコンピューターを使う事は、あるのではないですか?」
「あるらしいけど、パリノさんはプログラムを作ったりできる人じゃないから、直接的にはパリノさんからの技術協力は無理だけど。十歳若返るマンゴーが火星にあるらしいよ。」
それを聞いた流太郎は、
「それを輸入販売すれば、絶大な販売業績が出ますよ、籾山さん!!」
「でも、それはパリノさんの兄さんの領域らしいけどね。」
と籾山は嘆息した。

 パリノ・ユーワクの兄、パリノ・ユーワクは、十歳若返るマンゴーの果実を地球に輸出する事に決めた。
販売場所は何と、博多湾上空に浮かぶ巨大な島、で行われる。この巨大な空中に浮かぶ島は、巨大な反重力によって支えられている。そもそも重力などは地球が消滅しない限り、永久にあるものだから、反重力も同じく存在し続ける。太陽光発電でさえ、太陽が沈んだ後にはエネルギーを採れないが、反重力は夜にも、その力を保ち続けるのだ。
 パリノは城川康美に、
「この若返るマンゴーは高価な値段で売りたい。あの浮かぶ島、それは愛高島(あいたかしま)と福岡市からの愛称募集で決まった名称だがね、そこで一個、百万円辺りで売ろうと思うよ。」
康美は、もはや自営業者となっていた。その愛高島にはヘリコプターで時々、訪れた事もある。観光ヘリコプターが空に浮かぶ島へ飛んでいる。島の大体は火星で作られたものだが、そこに宿泊施設などは地球側、というより日本の企業側で作らなければ、ならない。
パリノは康美の事務所で、マンゴー販売を持ち掛けた。康美は社長の椅子に腰かけて、
「それは賛成です。妹の貴美は行方不明になりましたし、何か有意義な事をしたいんです。妹が、いなくなって張り合いがないところもありました。若返りは実証されているのですか、そのマンゴーで?」
パリノは部屋で康美の前に立ったまま、
「もちろんさ。火星人に効くものは地球人にも効く。まず、君に試してほしいね。」
康美は期待で胸がワクワクと雲が湧く思いになって、
「やりますわ!わたしも二十六、若返りたいな。」
と心境を吐露した。
 パリノは上着のポケットの中からマンゴーを取り出すと、
「これが、その十歳若返るマンゴーだ。果実のままだから、皮をむいて食べてごらんよ。」
康美は立ち上がると手渡されたマンゴーを受け取り、事務所の片隅の調理の出来る場所に行って、ナイフでマンゴーの皮を剥き、食べられるように切り分けた。そのひと切れを口にすると、ビタミン剤の強力な味がして、全身に電流が走ったような感覚がした。何か体が軽い。五歳、若返った感じ。鏡のある所に歩いて、自分を鏡で見ると確かに自分は二十一に戻ったようだ。康美はパリノを振り返ると、
「若返りましたわ、パリノさん。でも、五歳だけみたいですよ。」
と嬉しそうな声を出す。パリノも喜ばしい顔で、
「それで、いいんだ。君が十歳若返ると十六になる。それでは未成年者に逆戻りだからね。君はもう自営業、会社に行かなくていいから、会社の人達に見られて奇妙がられることもないよ。」
「そうですわ。でも、父には時々、会います。だから、びっくりしますわ、父は。」
「彼は科学者だし、その火星のマンゴーの事も話していい。だが、他の地球人には秘密にしておいてくれ。若返るマンゴーはネットショップで売り出す。だけど取りに来る場所は浮かぶ島に来てもらうんだ。」
こうして若返るマンゴーは日本初、発売となった。
十歳、若返るマンゴー
なんてインターネットで見ても、すぐ信じる人は、いない。お試しサンプル、無料というので試しに送ってもらった人が、
「確かに少し若返った。よし、買いたい。でも百万円じゃあ・・・。」
とネットで呟いたので大反響を竜巻のように巻き起こし、その噂は旋回して日本中を駆け巡ったのであった。
 購入場所は博多湾に浮かぶ海抜五百メートルの浮かぶ島。観光ヘリで訪れる事が、できる。一日に浮かぶ島に飛ぶヘリコプターも限られている為、日曜祭日には予約が殺到している。
康美はパリノがUFOで浮かぶ島まで朝晩、康美のマンションから送迎した。人間の目には見えないUFOにすれば、誰にも気づかれない訳なのだ。そのUFOでは香椎駅前の康美のマンションから浮かぶ島「愛高島」まで一秒以内に到達できる。標高五百メートルの愛高島は、冬の今、とても寒い。
観光客が来る前の販売所の室内で、パリノは康美に、こう話した。
「今日は寒いね。太陽の表面温度は実は、たったの26℃なんだから。」
何の冗談かと康美は思い、聞き返す。
「なんですか、その話。太陽の表面温度は6000℃だと習いましたが。」
「ワハハハハ。それが天動説と同じで、科学的という間違った迷信、いや迷推測によるものなんだ。太陽が高温を発しているのなら地表から五百メートルも離れて高い、この愛高島が何故、こんなに寒いのだね?」
「それは寒気団が来るからではないですか?」
「それは、あるだろうけど富士山やエベレスト山は頂上付近は、いつも雪で覆われている。実は、かなり昔、アメリカのNASAは太陽の表面温度を計測し、それが26℃である事を突き止めたが発表しなかった。だがインターネットでは漏れ伝わっている。」
「では、太陽熱とは一体何でしょう?」
「T線と呼ばれるものが太陽から出ていて、それが惑星の大気に触れて気温が上昇するのだ。だから太陽に地球より近い金星にも高度な文明を持つ人達が、存在する。」
「金星!??金星って、とても高温で・・・でもないんですね、太陽は平穏な平温としたら。」
「そうだ。金星には厚い雲もある。そもそも太陽は燃える塊ではない。なのだから金星には快適に住める空間は、あるんだ。NASAも太陽の温度を知っていながら、探査船を金星に飛ばさないのは科学的常識、それは大昔の天動説と同じだが、太陽は爆発している燃える星、というものに敬意(笑)を表してだろう。」
康美は新たに金星の謎の一つを少し知った気がした。随分昔、金星に行った、と主張した人々は世間から冷笑されていったものだ。地動説と違ってガリレオ裁判みたいなものは、ないけれど世の中の人間は自分で体験しないものは、世論に動かされる。それで大衆操作は可能だ。百パーセント近くの人間は月にさえ行けないのだ。どうして金星に行けるだろう。
その自分が体験不可能な事に就いては、マスコミュニケーション、マスメディアの打ち出す説を正当なものとする、というのが大衆心理なのだ。康美はパリノに、
「若返るマンゴーも火星からの輸入、という事は知らせない方が、いいんですね?」
「無論の論だよ。愛高島にしたって科学者共は隕石の巨大なもの、と結論付けた。山や川もあるのにだ。(笑)、我々が愛高島を地球へ運んでくるスピードは、巨大な隕石が地球に向かう速度と同じにした。停止も我々がしたのであって、自然現象ではない。
若返るマンゴーは火星の赤道直下で栽培された、品種改良のものだ。これも自然発生のものではない。自然は偉大だ、と思われるところもあっても、人工的手段がなければ快適な生活は望めないのは火星も地球も同じだよ。」
「冬は服を多く着ますものね、人間は。」
康美は首に巻いたマフラーに手を当てつつ、そう言う。
パリノは、うなずくと、
「医学も又、人工的な手段そのものだな。ところで若返った康美君、君は恋人に何か言われなかったかね?若くなったね、とか。」
「いいえ、恋人はいませんし、付き合っている人もいませんから。」
パリノの目に希望の光が滲み出ると、
「おお、そうかね。では私の第三夫人になるかい?」
「それは今少し、考えさせてください。火星で生きていくかどうか、もう少し考えたいんです。」
「ふうむ、いいだろう。君は、いつまでも二十一歳で、いられるよ。」
「え?え?え?どういう事ですか、それは。」
「又、二十六になったら、若返るマンゴーを食べれば、いい。」
「それなら二十五歳になったら食べると、二十歳に?」
「いや、それは無理だろう。最初に若返った年齢までしか戻れないみたいだ。火星での人体の治験で分かっている。だから君は二十一歳までしか戻れない。それでも、いつまでも二十一歳に戻りつつづけられるかと言うと、それは無理なのも火星の治験で分かっている。とはいえ、何回かは戻れるからね。」

 時・流太郎は、博多湾に面した少し高い山、愛宕山から浮かぶ島、愛高島を一人で眺めると、
(すごいなあ、あれは。大きな島が海の上に浮いているようだ。)と思う。ジャンパーのポケットから精度のいい双眼鏡を取り出すと、目に当てて、愛高島を見る。
なにか販売所のような所があって、おや?康美が、いるではないか!!何で、あんなところにいるんだろう。それに若返ったような康美ではあるみたいで。二十一歳ぐらいに見えるぞ。おれが教えていた専門学校を卒業して、すぐの頃の康美に似ている。それなら妹なのだろうか、康美の。
康美には双子の妹、貴美がいたが。その貴美の行方が分からなくなっている。もしかしたら、あそこにいるのは貴美?なのだろうか。それに彼女の隣には北欧の白人男性らしき人もいる。彼は何者、だろう。
愛宕神社の境内の北側から双眼鏡で愛高島を眺める流太郎の両肩に鳩が二羽、飛び乗ってきて一緒の方向を鳩たちも眺めている。

 愛高島のパリノに携帯電話が鳴る。店先にいたパリノは店の奥に引っ込むと、
「もしもし、どうしたんだ。」
「ダレダカ、ワカリマセンガ、ソウガンキョウデ、ソコヲミテイル青年が、います。」
「ああ、人工ロボット、カンシー君、お勤め、ご苦労さん。そのロボット風の話し方も、やめたらどうだ、もう。」
「分かりました。でも、プログラムされたワタシです。最初の喋り方は、この方が、いいのかも、と。」
カンシーはパリノが愛高島の近くに停止させているUFOに乗せているロボットだ。そのUFOは人間の目やレーダーにすら!映らない透明な保護光線で円盤の船体を包んでいる。
パリノの身辺警護をカンシーは受け持っている。
パリノは気になって、
「話し方は君に任せよう、カンシー君。双眼鏡で島を見ている人々は多くいるだろう。私に危害を加える地球人は、いない筈だが。」
「ソウデハ、アリマセンガ、パリノさん、あなたより城川康美さんに、その青年は双眼鏡の焦点を当てているみたいデス。」
「ふうむ、そうか。でも、いいじゃないか。康美は美人だし、双眼鏡で見ていて美人が見えたら、そう、眼鏡をかけても見たい時もあるさ。」
「ソウデスネ。で、ワタシは、その青年に向けて探査光線を発しました。帰って来た光線波を分析装置の画面で見ると、
『元、恋人』と、なっています。」
「康美の元・恋人だって?それは、ありうるだろう。何人も、いるかもしれない。ご苦労さん、それだけかね?」
「ソソレダケデス、閣下。」
「閣下は、言わなくてもいい。」
「ハイ、ワカリマシタ。サー、パリノ。」
「サーも、どうでもいいけどサー。では、引き続き頼むよ。」
「リョウカイ、リョウカイ。日本の領海内に於いて監視を続けます。」
携帯電話は通話を停止した。パリノは康美の元、恋人を知りたいとも思ったけど、どうでも、いい気はする。何せ、康美は今、つきあっている彼氏は、いないと云ったのだ。おれの第三夫人にする日も近いだろう。二十一歳の彼女の肉体、横から見ていても大きな彼女の乳房は服の下で揺れていた。ああ、あれこそ、おいしそうなマンゴープリンだ、とパリノは思うと店先の康美の横に歩いて行った。

 双眼鏡で見ていた流太郎は、康美の横に北欧の白人らしき男性が立ったので、康美が見えなくなる。
(ちぇっ、ああ、そうだ。観光ヘリで愛高島に行けば、いいんだ。まだ店舗施設も少ないから、すぐに康美は見つけられる。というか、あれは康美ではないかも知れない、というより若返りでもしないと、もう二十六のはずだから。)
 携帯電話で「愛高島 観光ヘリ」と文字を打ち、検索して電話番号が出たので、そこへ指を置いて通話する。若い女が出て応答した。
「はい、愛高島観光ヘリです。」
「来週の日曜日、予約が取れますか?一人なんですけど。」
「ええ、午後からでしたら、大丈夫です。お名前と御住所、電話番号をお願いします。」
流太郎は、そのオペレーターに個人情報を伝えて、
「福岡空港から飛行機でも愛高島に行けるんでしょう?」
と訊いてみた。
「ええ、来月から開通予定です。観光ヘリの方が、いくらか安くて、お得ですよ。」
と女性オペレーターは答えてくれた。
流太郎が今いる愛宕神社境内は小さな山の頂上で、そこから東北の方を見ると博多湾の上に巨大な浮かぶ島の愛高島が見える。世界第一の奇妙な景色としてギネスにも登録認定されたし、日本観光の一番の名所になった。それだけに観光ヘリは愛高島へ飛ぶ回数を増やし、一機だけでなく五機は常に飛んでいる。日本に観光に来た外国人は必ず、愛高島を訪れる。流太郎は地元の人間なのに、まだ愛高島には昇っていない。観光客で、いっぱい、というニュースをネットで見ると、少し人出が少なくなって行こう、と流太郎は思っていたのだ。
 コンピューターグラフィックスのような眺めの浮かぶ愛高島だが、海からの潮風を頬に流太郎は感じると、あれは現実だ、と我に返る。
愛高島 画像、で検索すると島の外側は松林になっている。一番外側はコンクリートの壁が三メートルほどの高さで、愛高島を囲んでいるようだ。画像を見て三メートルと分かるわけもないが、紹介しているブログを読むと愛高島の最も外側の壁の高さについて説明してあった。
愛高島にある大きな山は、愛高山だそうだ。滝も流れているらしい。そんな島が博多湾の上に浮かんで静止している。
 ともあれ、流太郎は来週の日曜日に愛高島へ行くヘリコプターを携帯電話で予約した。
 先週の日曜日に発売された*若返るマンゴー*も、たちまち評判となった。愛高島でのみでの販売なので、康美のいるマンゴー販売所には立ち並ぶ人たちで、三時間待ちもある。ただ、*若返るマンゴー*は高価なため、最初の爆発的な売れ行きは幾分、おさまっていた。
もちろん、その他の美味なマンゴーも販売されている。♪地球には、ない美味しさ♪まるで火星のマンゴーみたい、というキャッチフレーズで売り出されているが、それは、その言葉通りの事実で、火星から直輸入されている。でも、本当だと思う人は誰も、いなかった。
そもそも愛高島に行くヘリに乗るだけで、かなりの出費なのだ。流太郎は持っているビットコインの一部を売って、愛高島へ向かうヘリに乗っている。
博多湾に浮かぶ島、そこにヘリでは、すぐに到着した。島の中央近くに着陸すると、地平線が見える訳もなく、かなり遠くは松林が小さく見えた。
それで海抜五百メートルという感覚は流太郎には、掴めそうにない。空港も建設中らしいが、小型の飛行機の離発着のみに限られるような小さなものらしい。
この島にしたって積載重量は無限ではないのだ。それでパリノ氏の国で愛高島の反重力による浮揚を調節、維持している。
 福岡市では、この愛高島の正体をパリノからの申し出で理解していて、浮かぶ島に着陸するヘリの重量、人の数などを毎日、パリノに報告する。火星で作られた人口島である事は世間に公表しない、日本政府や福岡県にも公表しない事をパリノ氏に厳密に約束させられた。もし、その約束を破った場合、パリノ氏は福岡市役所の市長室で福岡市長と助役に、
「愛高島を福岡市役所の上に移動させた上で、反重力をゼロにして落下させる。」
と宣言したのだ。震え上がった福岡市長と助役だった。市長は、
「どうか、それだけは、しないでください。福岡市役所は天神という福岡市の一番の繁華街の東南にあるんですよ。我々だけでなく多くの人が・・・。」
「死ぬだろう。そのためにも愛高島が火星で作られ、運ばれてきた事を秘密にするんだ。」
市長と助役は姿勢を同時に正すと、口を合わせたように、
「はい、パリノ様。」
と同時に服従の意を表明した。

 流太郎はヘリから降りて、そこはヘリポートみたいに小さい場所だが、そこから見える市場のような場所に歩いて行った。島の直径は十キロメートルらしい。北の方には百メートルの高さの山が見えた。ヘリポート周辺にはビルが立ち並び、車道と歩道が同じ幅で続いている。車は観光タクシーらしいものが時々、走る程度で、歩道には多くの人達が歩いていた。
世界中から観光や若返るマンゴーを買う目的で訪れた人々。その多くは富裕層らしい、と外見でも分かる。
世界各国の航空会社は愛高島に空港を建設して欲しい、と要請しているが福岡市としては、
「只今の所、旅客機は受け入れておりません。」
と断る一方通行だった。
 流太郎は火星から帰る時にメレニから貰った携帯電話で、それは火星にいるメレニに通じるというもの!しかもメレニが通話に出れるか、出れないかを示す表示まである、それをポケットから取り出して見ると、メレニは通話に出れるようだ。ホットラインを使ってみよう。ルルルルルル、メレニが出た。
「はい、おや、流太郎、お久しぶりね。」
「福岡市の海の上に浮かぶ島が出来ているんですが、こんな不思議なものを見るのは初めてです。メレニさん、何か御存じでは、ありませんか?こんな現象を。」
「それねー、我が国で関わっている国家的プロジェクトだそうよ。地球へ話を持ち込んだのはパリノっていう実業家ですけど、いくら火星で金持ちと云っても、あの大きさの島を浮かばせるには、それなりのお金が必要だわ。国の予算で作られています。パリノは使い走りのようなものね。」
流太郎は(ああ、そうだったのか、不無(ふむ)。)と大納得した。
「なるほど、よく分かりました。メレニさんも見物に来ませんか?愛高島、という愛称でよばれていますよ、この浮かぶ島は。」
「そうね、いつか行くでしょうけど。火星にも浮かぶ島は、あるの。スウィフトのガリバー旅行記に飛行島が出てくるけど、あれは火星にある浮かぶ島の事よ。なお馬の顔をした火星人も昔いたし、巨人も小人もいたの。それをスウィフトは体験しただけ。彼の想像ではないのよ。」
「スウィフト・・・ガリバー・・ああ、あの子供向けにもある本ですね。」
「そうです。では、又ね。」
忙しいらしいメレニは通話を切った。流太郎は物産展が開かれているような市場らしき場所へ足を運び始める。もしかしたら、あそこに康美がいるかもしれない。
 行列が立ち並ぶ店先に顔が見えるのは、確かに!康美だ。その隣にも若い女性が立っているが、彼女は*若返るマンゴー*は販売していないらしい。高価な若返るマンゴーは康美が売っている。噂に聞く、その高額なものは流太郎が買えるものでは、なかった。
康美と顔を合わせるために百万円ものマンゴーを買うなんて。なんか方法は、ないのだろうか。なさそうだ。
康美は遠くにいる流太郎に気づいていない。気づいても康美にとって流太郎は過去の人物なのだ。もはや康美はネット関連会社の仕事ではなく、マンゴーの販売で巨万の富を得ていると流太郎は聞いた。
自分とは違った人生を歩いているようだ。それが分かっただけでも、いいではないか、と流太郎は思い、せっかく来た愛高島、観光をしていこうと歩き始める。観光を敢行するのだ。

 歩道を歩いていると、やがて橋が見え、大きな川が流れていた。空に浮かぶ島に流れている川。地上の川は海へ、やがて流れていく。この川は、何処に?その橋のところに若い観光ガイドのような女性が、紺色の制服で立っている。流太郎は聞いてみずには、いられない。
「こんにちわ。この川は何処に流れ着くんでしょう。」
「こんにちわ、観光者さん!この川は島の外縁に流れて、そこから霧のように博多湾に落ちていきます。」
なるほど、そうだったのか、と流太郎は納得する。観光ガイドは両眼の大きな黒い瞳で、二重瞼、頬はふっくらとして、背は女性にしては高身長で、制服の上からでも胸と腰の張りは隠せない。しかもミニスカートで、強い風が吹くと彼女はスカートの端を抑えなければならなかった。流太郎が次の質問をする前にも突風が彼女のスカートを捉えたので、彼女が両手で抑える前に捲れ上がり、それで黄色い彼女のショーツが半分ほど流太郎の視線に入った。それはショーツの下半分であったので、女性器に食い込んだ形も見えたのだ。
流太郎は唾を飲み込むと、
「スカートを気にしないといけないなんて、大変ですね。」
と話すと、彼女は、
「でもミニスカートは制服なので、長いスカートは履けないんです。」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です