M男三二郎・体験版 ・鳥越敦司・著

M男三二郎

 背が小柄な三二郎(さんじろう)は、長身の女性が好きだった。友花三二郎は三十歳で、地方都市の公務員だ。身長は百五十八センチ、体重六十三キロの小太りな体型は、女にもてるわけがない。
きっちりと五時には終わる職場にも女性はいるが、必要以上に彼は見向きもされなかった。
だが、彼にも性欲はたまっていった。それに引きずられて行動したら、いつの間にか出会い系サイトに入ってしまっていた。
プロフィールに顔写真も載せられないし、職業も素直には書きにくい。それで、フリーの写真家と偽って職業を記入するとメールが来た。
 
撮られる事が好きなモデル、二十一歳です。ひまだから、遊んでください。
 
やったー、と三二郎は心の中で叫んだ。今まで、女からメールさえもらった事がないのだった。しかもモデル、背は高いのが普通だ。その女性のハンドルネームはリリ、だった。
三二郎のハンドルネームは撮太郎だ。
 
 さっそく返信する。
ぼくもひまだから、遊びましょう。どこで会いますか?
 
午後六時頃に出したが、夜の十一時、寝る前に携帯電話をチェックするとリリから返信が来ていた。
 
美術館前が、いいな。わたし、背は百六十五センチで、赤のハンドバッグを肩にさげています。
 
三二郎は寝るのを伸ばして、携帯電話に打ち込む。
 
わかりました。ぼくは茶色の上着に黒のズボン、背は百五十八です。
 
と書いて、送信した後で(身長は書かなかった方が、よかったかもしれない)と思ってしまった。
 
 翌朝、起きた時すぐに携帯電話をチェックしたが、画面には新着のメールは来ていなかった。
(もしかしたら、身長の低さに呆れてリリからの返信はなくなるのかも、しれない。)
と思いに沈みつつ、テーブルの上の置時計を見ると部屋を出る時間に近づきつつあった。三二郎は福岡市の中心部に近いところのマンションに入居している。1LDKで、一人暮らしなのも公務員なら先行きの心配もないから、入居の際も問題はなかった。近年、福岡市でも、_九州の福岡県福岡市_、家賃未納が続くために大家が困るという事態がかなりあるらしく部屋を借りる際も入居のための人物審査は厳しくなっていたりするのだ。
 
 リリは背が百六十五なので、それほど高くはないが痩せていて、しかも豊満な乳房と尻を持っていた。髪は長く、肩まで垂れて三二郎とシティホテルに入ってくれた。
モデルなので均整が取れていて、白い肌はすべすべとしていた。三二郎は立って抱き合っても、自分の眼は彼女の唇のところにくる。自分の唇はリリの首の辺りだから、彼は彼女の首筋を舐めまわした。
リリは眼を閉じて、頭をのけ反らせると長い髪が三二郎の肩にかかった。
膝を曲げて彼女の胸に顔を近づけると、巨乳の乳首はピンク色で硬直している。三二郎は左手でリリの尻を抱き、彼女の右の乳房の乳首をしゃぶり、右手は彼女の左の乳房の乳首を指でつまんで、いじった。
「いいわ。」
という彼女の色っぽい声が三二郎の頭の上で聞こえた・・・・
 
(今のは夢か。)
三二郎は通勤電車の中で立っていた。自分の息子も立っていたのだ。大勢降車する駅で人に押されて、眼を醒ましたのだった。彼が降りるのは、あと一駅先だ。ゆるゆると自分の息子が小さくなっていくのを三二郎は感じた。
それにしても鮮明な夢で、美人モデルの白い裸体、しかも巨乳と横幅のある尻には思い出しただけで勃起しそうだ。彼女の陰毛は濃かった。しかも逆毛のように波打って縮れていた。その陰毛を思い出すと彼の息子は硬直してしまった。
もうすぐ降りる駅だ。ズボンは膨らんでいる。だけど忙しいサラリーマンなど彼を見もしないだろう。ましてや背の低い彼の股間などは。
でも、元に戻さなくては、と三二郎は思い同僚の男性、丸目徳雄の四角い顔を思い出した。彼は、その顔の割には女にモテル。背は百六十五だが筋肉質で眼は細く、唇が厚い。髪は角刈りにしている。福岡市環境衛生課の主任だ。あまりに男臭い顔ともいえよう。
歳は同じだが、丸目徳雄は主任、三二郎はヒラだ。
時々、仕事で一緒に行動しなければいけない。丸目も独身では、あった。
(ほ、なんとかチンコが元に戻った。)
三二郎は、降りる駅で電車が停車して透明なガラスが開いた時に、そう思った。
(リリのマンコを早く見たい。)
とも思ったのだ。夢の中では濃い陰毛に隠れていたからである。
 
 勤めは面白くなくても、真面目に三二郎は、やった。帰りの満員の電車は井尻駅に着き、彼は人混みと共に駅を出ると五分位歩いて帰宅する。それまでにコンビ二に寄り道して弁当を買った。部屋でそれを食べると眠くなり、うとうととした。
いつの間にか、三二郎は風呂にいた。リリも、すぐ近くにいる。彼女も全裸だ。上から彼女の声がした。
「浴槽に腰掛けて。」
三二郎は、彼女の方を向いて腰掛ける。足はすぐに閉じてしまった。
「だめよ。足は開いて。おちんちんが見えるようにしてよ。」
叱るような甘えるような声で、リリは言う。
三二郎は恥ずかしながらも、足を広げて半分立っているモノを彼女に見せた。リリは、いきなり跪くと彼女の顔は三二郎の半立ちのペニスをじっと見る。三二郎は気恥ずかしくて上を向いていると、きゅっきゅっという感覚と共に自分のモノが縛られているのを感じた。
驚いて下を見ると、リリは自分の長い髪で三二郎の半立ちペニスを縛っていたのだ。
リリは、ふふふ、と含み笑いをすると上体を後ろにそらした。三二郎は、ああっ、と小さく叫んで浴槽から降りた。そうしないとチンコが引きちぎられそうだったからだ。
リリの裸の柔らかい両肩に三二郎は両手をつくと、
「ひどいなー。こんなことして。」
「だってあなたはM男なんでしょ?軽くいじめたのよ。嬉しくないかしら?」
そういえば、三二郎の身体の中に今までと違った刺激の感覚が芽生えているのに彼は気づいた。リリリリー、と携帯電話が鳴った。
気がつくと、眼が醒めた。白夜夢とでもいうべきもの、だったのだ。
テーブルの上の茶色の携帯電話を三二郎は手に取ると、
「もしもし。」
「よう、友花。」
丸目徳雄からだった。丸目は続ける。
「明日、日曜はひまなんだろう。」
「いや、明日ちょっと用事があるから、お付き合いはできないです。」
「ふうん。女か。」
「いやその、まだ会ったことない女性ですよ。」
「まあ、頑張れよ。」
「はい、それでは。」
三二郎は急いで携帯電話を切った。丸目は一緒にソープランドに行こう、とか過去に誘ってきた事がある。その時は、一緒につきあったのだが。福岡市の中心部に近いところに中洲という地名がある、そこにというか、その中洲の一部にソープランドは密集している。福岡市のソープランドは、そこだけしか許可されていない。福岡市へ出張、宿泊するビジネスマンも行っているかどうかは、わからないが参考までに。
 
 返信がないかと思ったリリからは、一日置いて、
 
遅くなってごめんなさい。東京に仕事に行ってたの。あなたを見つけるのは簡単なようだわ。わたし、男の人の背の高さは気にしません。
それでは、日曜日がいいわ。
 
三二郎は、トントントンと返信した。
 
日曜の午後一時に県立美術館前で。
 
すると、すぐ返信が来た。
 
県立美術館は、いいけど、お昼ご飯も一緒にしましょう。
 
三二郎は、それを見てニヤついた。携帯電話から返信するのは面倒なのでパソコンから出会い系サイトにログインして、返信した。
 
では、十二時にしましょう。待ってます。
 
すると、またすぐに返信が来た。
 
待ってますわ。わたし、派手だから目立ちます。すぐ、わかると思います。
 
 県立美術館の北側には福岡ボートがあるという環境だ。ただし、車道を渡る必要はある。隣接はしていない。
福岡ボートは、もちろんギャンブルのモーターボートのレース場だ。
三二郎は南側から来るので、ボート場の方は通らない。赤のハンドバッグを肩から下げた女性が一人だけ、美術館の前に立っていた。
 
三二郎は近づいて、
「リリさんですか?」
「ええ、そうよ。撮太郎さん、よね。」
「そうです。」
彼女の顔は夢で見たものとは違っていた。当然かもしれない。肌の色は薄い黄色で、眼は丸くて睫毛は長い。眉毛も濃い。顔の中で目の面積が広い。
いかにもモデルの顔だ。
髪の毛が長いのは夢で見たとおりだった。すらりとした姿態はコートを着ているので、胸と尻の厚みは分からなかった。
紅色の唇を開いてリリが話しかけた。
「お食事に連れて行って、くださいませんか。」
「いいですよ。どんな所がいいですか。」
「三風蘭(さんぷうらん)に行ってみたいと、思ってました。」
「三風蘭って、聞いた事あるけど行った事ないな。」
リリは微笑むと、人差し指で方向を示した。
「この近くなんです。ラーメン屋ですけど、個室があるのね。」
「個室が、いいですか。」
三二郎は、喜ぶ気持ちを抑えて聞いた。
「個室に入ると、したい放題何でもできるのよ。」
リリは髪をなびかせて、答えた。
「じゃあ、連れて行ってください。当然、ぼくのおごりでいいですから。」
美しきモデル、リリはうなずくと、
「いらっしゃいよ。連れて行くわ。」
と鈴を振る音の声で誘うと、三二郎の先に歩き出した。目立つリリは通行人が見て行く位だ。
意外にも歩いて五分、福岡税務署の近くに三風蘭は、あった。赤の下地に紫の文字で「三風蘭」と店の入り口の上に看板が出ている。リリが自動扉の触れて開くところを軽く触ると、スーと店の入り口は開いた。
若い男女の声が、
「いらっしゃいませ。」
と出迎える。紫の服を着た男女の若い店員だ。
 
 リリは、
「個室にしたいの。ある?」
と、さりげなく聞くと、ねじり鉢巻をした男子店員が、
「ありますよ。ご案内します。」
と答えて、二階に上りだした。鉄筋の建物だ。床も壁も白い。ドアを開けて通された部屋も壁は防音されているようだ。
椅子も二つずつ、テーブルをはさんで全部で四つある。窓はない。
窓があるべき場所の下側に広めの長いソファがあった。そこが、男女が腰掛けられるし、寝れる広さ。しかも色はピンクときている。二人が椅子に座ると、男子店員は、
「ご注文は、インターホンで、どうぞ。」
と言うが早いか、部屋の外に出て防音扉を閉めていった。
 
なるほどテーブルの端にインターホンがあった。リリは分厚いメニュー表を取り上げると、パラパラとめくり、
「ジャンボラーメンにしましょう。いいわね。」
「ああ、それにしよう。」
三二郎は、もじもじしながら答えた。女性と食事するなど、三二郎は生まれて初めてだ。天井を見上げると巨大な扇風機みたいな羽がゆっくりと回っていた。
リリは細長い指でインターホンを押すと、
「ジャンボラーメン、ふたつ。」
と注文した。
 
リリは、まじまじと三二郎を見た。二分ほど無言の状態で丸い大きな眼で三二郎を観察していたが、
「撮太郎さんって、お固そうね。職業は真面目な仕事?」
と柔らかな声で尋ねた。
「ええ、そうですね。」
公務員とは、言いにくい。
「だけど、そんな人に限って裏の顔があるのよね。マゾだったりとかね。」
三二郎はドキリとした。そういえば、そう思われるところもあるのかもしれない。
 
 三二郎は初恋が小学校六年生で、同じ組の泉森武子(いずみもり・たけこ)という自分より背の高い快活な女の子を好きになった。
思い切って三二郎は学校が終わって、校門を出る時に武子に告白した。
「泉森さん、一緒に帰ろう。好きなんだ。」
三二郎より五センチは背が高い武子は顔を赤らめながらも、
「いいよ。帰りましょ。」
と答えた。