ホモ系男子 体験版

 二十四歳の青年、菊川浩二は盆休みとして、郷里の福岡市へ帰ってきている。福岡県の福岡市で、人口は、もうすぐ百五十万人だ。中心から西の早良区西新が、彼の実家「菊川酒店」が、ある場所だ。小さな川から西が西新で、一丁目の商店街の、十階建てのビルの一階に菊川酒店は、ある。そのビルは、菊川ビルという名称で菊川浩二の父、有正(ありまさ)が、先祖代々の貯金で建てたものだ。有正は居間で浩二に向かい合って座り、
「東京は、大変そうやね。地震とか、あるし。」
と何気なく聞くと、缶ビールのプルトップを引いて自分の口に当てる。
「ああ、そうだね。地震は、よく揺れるよ。」
この前の東日本大震災の時に、菊川浩二はAVの撮影中だった。それも女優の中に、勃起したものを入れた瞬間、いきなり地震がグラグラと来たのだ。撮影しているカメラマンが倒れたので、そのシーンは撮り直しになったため、公開はされなかった。
「おまえ、俳優やりよるらしいけど(やっているらしいけど)、まだテレビには出とらんのか(出ていないのか)。」
「なかなか、ね。俳優も多いからなー、今は。」
「それじゃあ、生活は、どうする。」
「アルバイトを、しているよ。」
「ふーん。だめになったら、秀行の手伝いば、せえ(手伝いをしろ)。」
秀行とは浩二の兄で、九州大学法学部を出た後、有名なビール会社に入社して、三年の勤務の後に退社後は、菊川酒店を継ぐべく仕事をしている。
「うん。兄さんは?」
「今日はな、商店街の集まりで、帰りは夜遅くなるとよ(夜遅くなるらしいよ)。」

博多駅から地下鉄で、西新駅まで、そう時間は、かからないが、渡辺通りの近くを通過する時、浩二は昔、通った空手道場を思い出した。その道場の名前は、研心流・空手総本部という。貸しビルの一階に、五十畳ほどの道場がある。エイヤッ、エイヤッと掛け声が、道行く人の耳にも聞こえてくるほどだ。館長の石垣(いしがき)・(・)島(しま)男(お)は、沖縄県出身で、父親の転勤の関係から小学校の時に福岡市に移り住み、高校卒業後は、ボディビルジムのトレーナーをしていたが、空手の全日本選手権で優勝してからは、そのボディビルのジムのオーナーの出資で、中央区渡辺通りに道場を開いた。石垣・島男の空手は父親からの一子相伝のものであった。その道場は最初、あまりにも過酷な訓練を、させたため、三日と持たずに、やめる者が続出したため、今では、その方法は採らずに、各人各様の稽古をつけている。館長の秘儀の一つに
「天井落とし」
なるものが、ある。これは三角とびを発展させたもので、まず壁にジャンプして両脚をつけると、それを蹴って天井に飛ぶ。天井に足を当てると、そこから真下の対戦相手に飛び込んで、手刀か正拳で一撃を決める。
もちろん、天井が低い場合に有効な技だ。体育館のようなところでは、これは使えない。渡辺通りの道場は天井が低いため、高弟達を集めて、その技を披露した。その時、相手を務めたのが、菊川浩二だ。館長が壁に飛んだのは見えたが、それからは浩二には館長の姿は見えなくなった。
「ここだ!菊川っ。」
と頭上で声が、突然したので見上げると、館長の二本の指は、浩二の両眼の一ミリ前で止まっていた。くるり、と空中で回転すると、床に館長は鮮やかに着地した。
「ああ、館長・・・お見事・・・。」
浩二は、それからは言葉は続かなかった。居合わせた高弟も皆、息を呑んでいた。石垣館長は、
「これも、秘儀の一つに、すぎない。他にも、まだ、あるのだ。」
「それを、見せてください!館長!」
皆は、異口同音に懇願したが、
「そのうちに、見せよう。」
と、静かに言い、館長は石垣島の海のように微笑んだ。

そんな、ある日、菊川浩二は館長に、稽古が終わった後、一人だけ呼ばれた。
「菊川くん、今日は別の秘儀を君に教えよう。では、館長室に行くぞ。」
「はいっ。おっす。」
二人は、道場内にドアのある館長室に入った。そこは六畳ほどで、机と椅子くらいしかない。その机の上から、館長はロープを取り出すと、浩二に渡した。そして、
「今から、私が全裸になるから、それで体を縛りなさい。」
と命じた。浩二は戸惑ったが、館長は空手着を上下とも脱ぎ、ブリーフも外すと全裸になった。筋骨逞しい上半身で、腹筋は三段に線が入っている。だらりと下がった男根は、それほど大きくもなかったが。
浩二が、眼を、そらせていると、
「何を、しておるか。早く、縛るのだ。」
「はいっ。おっす。」
浩二は急いで、館長を縛り始めた。館長は、両手を背中に回して、手首を、くっつけている。
「後ろ手に縛ってくれ。」
「おす。」
浩二は館長の手首を、ぐるぐると縛る。
「両脚も、だ。」
「おす。」
浩二が縛り終わると、館長は手足を動かし、
「よく縛れている。さて、」
と呟くと、机の上にある木の板を流し目で見ると、
「菊川、あの板を取って。」
「おす。」
浩二が板を持って来ると、
「こういう状態にすると、敵は必ず近づいてくる。なぶりものに、したい心境でな。そこで。」
そのとたん、館長の、いちもつ、は、ぐぐーん、という感じで、力強く勃起して上を向いた。その膨張率が、すごいものだ。浩二は注視して、しまった。
「このように勃起させれば、敵は、これに近づくし、手に握る奴も、おろう。その時に、だ。だが、おぬしの手は傷物に、したくないので、その板を私のペニスのすぐ横に、立てよ。」
「おす。」
浩二は、館長の勃起したもの、の横に板を当てた。
「それで、よし。手を動かすなよ。きえーいっ!」
怪鳥のような叫び声と共に、館長のペニスは横に振れて、板に当たると、パキンッと音がして、その板は真っ二つに折れた。浩二は、
「おおおおお。」
と感嘆の声を、大きく、あげた。さらに館長は、上半身を前に倒すと、ロープに自分の勃起したペニスを強く当てる、すると、それは、ぶつん、と切れた。
「これで、両脚は自由となった。これだけでも、闘えなければ、いかん。が、手は、ね。」
手首のところのロープに、親指をかけると、ぶちっ、と、それも切ってしまった。館長が、
「ふーーむ。」
と呼吸を整えると、館長のペニスは小さくなっていった。ニヤリ、とすると石垣は、
「これを、ナイフペニスの技といい、我が家系に、代々、伝わったものである。鍛錬法は、そのうち教えようと思う。私の代から秘伝は、なるべく公開していくから、楽しみに、な。」
「おす!」
浩二は思わず、その場に片膝を着いて、いたのだった。

その時、浩二の年齢は二十歳だった。先生が、自分を前に勃起させた事について、立膝のままで、
「このような場合、自分は勃起できるか、心配です。」
と、師匠を見上げながら尋ねると、
「なに、女の裸を思い浮かべるのだよ。」
「なるほど。しかし・・・。」
「しかし?」
「自分は空手に強くなりたいために、女と、つきあいませんでした。」
石垣島男は、ブリーフを履くと、
「今の技は勃起しないと、できない。女と、つきあわなくても、アダルトビデオを見れば、よい。」
「は。パソコンは持っています。光ファイバーで、見れます。」
「ならば、ダウンロードも早く、できる。DVDならネット通販で買えば、送料無料で、送ってもらえるぞ。今のパソコンにはDVDプレーヤーは、ついておるからの。実は、私も見ておるのだ。最近では、絵色千佳が、お気に入りだ。さっきは、な、絵色千佳を思い浮かべたのだよ。」
浩二はアダルトは、ちらちら、と見るだけだった。無料サンプル動画だけで、それ以上は見ていない。
「おす。先生、ぼくも勃起のため、DVDを見ます。」
「よろしい。やりなさい。ペニスに自信が、ついたら、報告する事。」
「おす。」
その日は、それで道場は終わりだった。確かに、浩二は中学、高校と空手に明け暮れていた。硬派な男性に女性は近づかない。特に武道関係は、そういえるだろう。最近、法廷で裁かれている柔道の男性も、相手は自分の近くにいる女子柔道部員のみを、相手にしている。浩二だけでなく、同じ空手部員も彼女が、いなかった。浩二の高校には女子空手部も、なかったし、女子柔道部も、なかった。おまけに男子校なので、女子高生を見ることすら、稀だったのだ。学校の空手の部活が終わると、研心流道場に地下鉄で通っていたのは、中学生からで、それで今では石垣館長の高弟の一人に、数えられるように、なっていたのだが、初恋の感情を覚える相手の女性とて、見回しても、いなかった。ただ、一年上の空手部の先輩に、憧れ、とも、つかぬ思いを持っていたのは、浩二は覚えている。その先輩は高校を卒業すると、東京のインターネット関連の会社に就職が決まって、福岡を去った。その先輩の名前を、見川毅(みかわ・つよし)という。その頃の、学校の春休みに、西新商店街で浩二は見川先輩と、ばったり出くわした。
「おす。見川先輩。」
と、挨拶して頭を下げる浩二に、鷹揚に、うなずくと見川は、
「おれ、東京にいくけん(行くから)、お別れかな。菊川。」
「えっ、そうでしたか。ぼく、その事を、知りませんでした。」
「うん。昨日、入社式から帰ってきたとよ(帰って来たんだ)。新宿で、あったったい(あったんだ)。」
「入社、おめでとう、ございます。」
「立ち話も、なんやけん(なんだから)、おれが、おごる。ラーメンを、食いに、いこう。」
「おす。ごちそうに、なります。」
すぐ近くの博多ラーメンの店に入ると、二人はテーブル席で、向かい合って座った。見川は店の主人に
「大盛りラーメンを、二つ。」
と注文すると、浩二の方に向き直り、
「それがくさ(それがね)、インターネット関連の会社よ。売り上げも急進中らしい。」
「すごいですね。ぼくも、その会社に入りたいな。」
「おまえは自分の店が、あるやないか(あるだろうが)。菊川酒店が。」
「でも、ぼくは次男だから、気にしなくても、いいんですよ。」
「そうか。まあ、おれ、メールするたい。おまえのメールアドレスば、教えれ(メールアドレスを教えろ)。」
浩二は携帯電話を取り出すと、メールアドレスを表示させ、見川先輩に見せた。見川は自分も、携帯電話を取り出し、
「なら、ここで送ろう。」
と言うと携帯を操作した。間もなく浩二の携帯に、着信メロディーが鳴った。見川は笑うと、
「見ろよ。メール。」
と促した。浩二がメールボックスを見ると、そこには見川のメールが入っていた。
「確かに、届きました。」
「うーん。便利たい。おれたちの小さい頃は、こげなもん(こんなもの)は、なかったもんね。」
「そうでしたね。」
その時、店主が大盛りラーメンを二つ両手に抱えて二人のテーブルに置いた。見川は、
「沢山、食べろよ、菊川。」
「はい。それでは、いただきます。」
二人は猛烈な勢いで、大盛りラーメンを食べると、見川は、
「替え玉しょうか?」
「はい。お願いします。」
見川は店主に向かって
「替え玉ふたつ。」
と注文した。それも軽く、たいらげると、見川から先に店を出た。外は道行く人も、まだ少なかった。買い物の時間帯では、なかったせいだ。見川は店を出て、少し歩くと立ち止まった。そして浩二の方に姿勢を向けると、右手を差し出して、
「しばし、の別れかな。」
浩二は無言で自分の右手で、見川の手を握った。見川は、握手している手を持ち上げて、自分の顔に近づけると、浩二の右手の甲に口づけた。浩二は、(あっ)と思った。先輩の舌まで、感じてしまったのだ。見川は手を離すと、
「なんか、連絡したい時に連絡くれよ。」
と話すと、浩二の歩いて行く方向とは逆の方へ、軽やかに歩いて行った。浩二より五センチ、背の高い先輩だった。

その時から、浩二は二十歳になるまで、見川先輩にメールを出した事は、なかった。又、先輩からメールが来る事も、なかった。浩二は見川先輩の事をホモではないか、と思ってしまったのだ。先輩の事を思い出す日もあったが、自分としては同性愛には興味は、なかったのだ。空手家として、それは、よくない事だ、とも思う。今日、石垣先生は研心流空手の秘儀を教えてくださった。あれを身につけるためには、勃起力が必要だ。そのためには、女の裸が必要なのであって、男の裸ではない。とは、いうものの、自分は石垣館長のヌードを見てしまった。が、やはり特に何も感じるものはなかった。それは自分が全く、正常な証拠だ。先生は絵色千佳が好きだそうだけど、自分は誰にしようかな。前から気になっていた「つぼみ」のDVDをネットで買うことにした。レンタルビデオなど、利用した事がない。借りて返すのが、面倒なのだ。二、三日すると、「つぼみ」のDVDが届いたので、自分の部屋でノートパソコンに入れて見た。つぼみがヌードになっただけで、浩二は、すぐに勃起した。頭の中が、ぼーっ、と、してきて、自分の右手で、ぐいぐい握ってみた。ノートの紙を引きちぎって、自分の勃起したペニスの横に当てて、それに反動をつけて、勃起したもので叩いてみたが、軽い音を、たてるだけで紙は破れなかった。その代わり、パソコンの画面から、つぼみの喘ぎ声が聞こえると浩二は、それに向かって射精してしまったのである。すぐに、浩二のペニスは萎えていった。
 高校を卒業して浩二は、薬局でアルバイトを募集していたので、そこで働く事にした。就職へ面接にも行ったが、面接で、
「君の、お父さんの職業は?」
と聞かれたので、
「酒屋を、やっています。」
と答えると、面接官は顔を顰(しか)めて、
「お店は、繁盛していますか。」
「ええ、西新にあるのですが、最近、店の周りに大型マンションが多くできまして、店に注文が増えています。」
「それは、とても結構です。採用の場合は、ご連絡します。今日は、どうも、お疲れ様でした。」
面接官は、興味のない眼を浩二に向けた。薄々、だめか、と浩二が予想していたように、その会社から連絡は、なかった。その会社、一社しか応募していなかったので、他の会社に応募する事も、できないまま三月の終わりになった。浩二はネットで、「福岡高額アルバイト」で検索すると、渡辺通りにある薬局で、募集していたのを見つけた。携帯で電話して、問い合わせると、
「ええ、まだ募集していますよ。」
との答えが、耳に返ってきた。
「ぼく、やってみたいんです、そちらのアルバイトを。」
「それじゃあ、面接に来てください。場所は渡辺通り・・・・。」
その店は、空手の研心流本部にも近かった。ただ、地下鉄の入り口とは反対のところに、あったため、気が、つかなかったのだ。浩二はその日の午後、西新から地下鉄で渡辺通りに向かった。地上に出てからは、電話で言われた通りに歩いて行くと、その薬局はあった。
漢方・黒光り
と看板には、ある。ピカピカのガラス扉を開けて入ると、五十歳くらいの、でっぷりと太った中背の男性が、
「いらっしゃい。面接に来た人ですね。」
「はい。菊川浩二と申します。」
「それじゃあ、こちらへ、どうぞ。」
店の奥にあるドアを開けて、店主は浩二を手招きした。その中は、接客用の部屋で、丸いガラスのテーブルに、ふかふかのクッションの白い椅子が四つあった。店主が右手で椅子を指して、
「そこに、気楽に腰掛けてね。」
「はい。」
二人は、正面から向き合う形で座った。履歴書をバッグの中から浩二が取り出すと、店主は、
「さあさあ、それを見せてください。」
と、声をかけると受け取り、
「ほう。特技は空手ですか。それは結構。うちはね、薬局といっても、主に精力剤の店なんですよ。貴方みたいな、逞しい男性は店に必要ですから、即、採用という事で。そうしましょう。」
「がんばります。なにも、わかりませんが、どうか、よろしくお願いします。」
「うん。アルバイトといっても、うちでは月に、三十万は出します。そのかわり、夜遅くまでの時も、ありますが、いいですか。」
「かまいません。何時まででも。」
「うん。夜遅くまでの時は、次の日は昼からで、いいからね。」
空手道場は、その時は朝、行けばいい。道場は朝早くから、あいている。という事で、浩二は、その店でアルバイトとして働き、かなり貯金も、してきたのだ。 
 その精力剤の薬局、「黒光り」で、平日の夜十一時頃に来た客は、ひょろりと痩せた老人だった。店内に一人立っていた浩二に、
「何か新しいものは、ないかね?精力剤だがね。」
と、穏やかに聞いた。
「これは、どうでしょう。」
浩二が、新入荷した精力剤の箱を出すと、その老人は、
「いいな。これを貰おうか。今までのものは、最近、効かなくってね。」
浩二は、(いい加減、歳だし、普通は、もう盆栽でも、いじって楽しむ歳だろう)と思いながらも、
「ありがとうございます。」
と礼を言って、白いビニールの袋に、それを入れて老人に手渡した。
「これは、いくらかな?」
「丁度、五万円です。」
驚くか、と思って浩二は、その客を見たが、老人は、些かも動じた所はなく、
「ほう、安いもんだな。はい、五万円。」
と、ポケットから蛇皮の財布を取り出して、ぎっしりと詰まっている一万円札を、五枚抜いて浩二に渡した。
「君は、ここでアルバイトかね。」
「ええ。就職が見つからなかったものですから、でも、ここのバイト料は、なかなか、いいですから。」
「そうだろうな。ここは今日、何時に終わる?」
「十二時までです。」
店の時計は、深夜十二時、五分前だった。老人は、それを見て
「あと五分だ。どうだ、これから、わしが、おごりでね、中洲のバーでも行こう。」
「はあ、・・・しかし・・・。」
「なに、つきあってもらうのだから、いくらか君に、小遣いをあげよう。」
金を貰えると知って、浩二の顔つきは、全く一変した。
「もう、あと二分ですけど、五分前には、帰る準備をしていいんです。あ、白根さん。」
店の奥から白衣を着た、三十代の薬剤師らしい男が出てきて、
「これは、舌川さん、いつも、大変お世話になっております。菊川君、帰っていいよ。」
「はい。お疲れ様です。このお客さんに、今から、おつきあいしますので、着替えたら店にもう一度、来ます。」
「ああ、そうかい。大事な、うちのお客様だから、粗相の、ないようにな。」
店の奥に消えて、少しして浩二は普段着に着替えて出てきた。舌川という老人は、
「それでは行くか。菊川君。」
「はい。喜んで、お供します。」
舌川を先頭に、黒光りを出た二人は、人通りの少ない道を歩き始める。九州最大の歓楽街、中洲は、そこから東へ百メートルほどだ。中洲に着くと、まだ人は大勢歩いていた。スナックなど飲み屋が、ほとんどの雑居ビルが立ち並ぶ、その中の一つのビルの最上階、といっても五階だが、そこに舌川は浩二を連れて行く。エレベーターで到着すると、
「いらっしゃいませ。舌川様。今日は、まあ、若いお客様ですか。」
「ああ、いつもの店の奥は、あいとるかね。(あいているかね)」
「はい。今日当たり、舌川様が、お見えになるのでは、と思い、空けておきました。さあ、どうぞ。」
ちょび髭を生やした、長身の黒服の男が店内に案内する。その店の中は、薄暗い光に照明は、されている。一番奥の、四人掛けのテーブルに舌川と浩二は座った。舌川老人は、
「ジンを持って来てくれ、君は?」
と浩二を見る。
「コーラで、いいですけど。」
「遠慮するなよ。ビールでも飲みなさい。おつまみは、適当にね。」
うやうやしく、バーテンの男は頭を下げた。その男がカウンターへ戻ると、舌川は話し始めた。その席は、周りには声が聞こえない作りになっている。
「君は服の上から見ても、いい体をしているな。何か武道でも、やっているようだが。」
「御目が高いですね。空手を少々やっています。」
「そうだろう、と思ったよ。わしの妻がね、空手をやっとるんだ。目付きが似ているし。その妻との夜の交渉が、最近、うまくいかんのだ。」
舌川は苦笑いした。浩二も苦笑いを浮かべそうになったが、こらえた。この老人の奥さんって・・・。
「三十なんだ、今年ね、うちのやつは。」
えっ、それで、と浩二は思う。
「わたしはね、今七十歳です。五年前に今の妻と結婚しましたけど、ここ何ヶ月か、夜の方は、大変、ご無沙汰となっている。君は、ガチムチ系だなあ。」
舌川は、感嘆の眼差しで浩二を見ている。
「ガチムチって、なんでしょうか。」
「いや、筋肉質という事ですよ。それで、精力剤を黒光りで、ここ最近、買っては試して妻と、その・・・ですけど、どれも、すぐ効かなくなってしまう、のですな。そこで、実はね、私はゲイの方も、いけるたちで・・昔、白人男性に、尻にペニスを入れられた時に、自分も勃起していた事が、あったのですよ。」
浩二は呆れた顔をした。舌川は、浩二の顔を舐めるように見ると、
「いや、呆れるのも、もっともです。でもね、今のわたしには、妻を満足させたい、という思いが、ありますから。どんな事でも、やってみたいという気持ちですよ。妻はフラストレーションを空手で発散していますが、乳首は立っているし、私は立たないし、で情けない思いをしていますな。」
「それで、ぼくに、そのう、何が、できるのですか?」
「まあ、一杯。やりたまえ。」
注文した酒類が、盆に載せられてきたので、舌川は浩二にビールを勧めた。大きな皿に、ピーナッツや枝豆、アーモンドが山盛りになっている。
「それでは、いただきます。」
浩二はジョッキに注がれたビールを、ごくごく、と飲み干す。舌川は手を打って、
「いい飲みっぷりだね、君。おつまみも、やってくださいよ。全部、今日は、私のおごりだから遠慮せずに、ね。」
「それでは、こちらも、いただきます。」
枝豆を、浩二が口に入れると、
「この後ね。私と一緒に春吉(はるよし)のラブホテルに、行ってもらいたい。」
「ええっ!」

体験版・sf小説・未来の出来事50

ご機嫌よう。カーラル・ゴリオンだ。ビル前のロータリーに車を停めている。すぐに来て欲しいのは現役モデルだけで、空野星男君、君は来なくていいよ。
空野星男はスマートフォンを耳に当てたまま、
「はい、そのように致します。谷底喪出那(たにそこ・もでな)さんが、すぐに駆け付けますので、お待ち下さい。」
―ああ、待っている。
空野は通話を切ると、
「谷底さん、このビルのロータリーに車が来ているよ。カーラル・ゴリオンさんが、お待ちかねです。」
と話す。
谷底喪出那はモデルらしく立ち上がると、
「ありがとう、ございます。それでは。」
と部屋を出てエレベーターで一階に降りると玄関を出た。白い外国車が優雅に停車していた。左の運転席に座っているのはハンサムな三十代の外国人男性で、彼がカーラル・ゴリオンであろう。谷底に気づいたゴリオンは運転席から右手を振ると助手席のドアを開けた。膝より短いミニスカートの谷底喪出那はスカートの裾を揺らめかせて助手席に座る。ドアが閉まると車は発車した。喪出那の白い肌の膝から下は艶めかしい。白の上着に白のミニスカートの喪出那である。彼女の胸はロケットが発射しそうな態勢を取っているかのように突き出ている。カーラル・ゴリオンは運転席から右目で谷底喪出那の胸と股間の辺りを確認するとアクセルを踏んだ。
 ういういしい谷底喪出那の若い香気がカーラル・ゴリオンに振りかかって来る。ゴリオンは自動運転に切り替えたのでハンドルは握らない。右手で喪出那の左乳房を服の上から触って揉む。柔らかい弾力がして喪出那は、
「はっ、あん。」
と色気が充満した声を出した。喪出那は(運転中なのに)と思って運転席のハンドルを見た。するとゴリオンが握っていないのにハンドルは少しずつ動いていた。(自動運転なのね)自分の乳首が少し硬くなったのを覚えた喪出那は次にミニスカートの中へゴリオンの右手の指が入り、自分の股間に辿り着くと女のスジの上から下へ優しくスーッと撫でおろされたので、
「あうん!いいっ。」
と声を出してしまった。ゴリオンは右手を喪出那のミニスカートから抜き取ると、
「とてもいい体だ。この辺にしておいて別の場所で、もっと楽しもう。」
と話しかけた。喪出那は顔を赤くすると、黙って頷く。
北東に向かって車は走っている。福岡市東区を抜けると途端に侘しい風景となるものだ。そこから、しばらく行くとラブホテルなども見えてくる。車道から、すぐに入れるラブモーテルともいうべき建物が喪出那の目にも入り始めた。
喪出那は、どのラブホテルに連れ込まるのか期待で大きな胸を更に膨らませた。
カーラル・ゴリオンは、そもそも運転していないのでカーナビゲーションシステムがラブホテルへの入館まで決定しているはずだ。大きな車道を外れてゴリオンの車は海へ向かう小さな道へ進路変更した。
舗装されていない道に入る。そこから砂浜が見えて海が見える。十一月でも暑い日が続いているとはいえ平日であるし海岸には人は誰も居ない。晴天の空に雲が集まり始めて曇り空となった。車は砂浜に入り込むと停車したのである。ここがカーナビの目的地なのか。
雨が降りそうなほど暗い。と、その時、空に球形の物体が見え始めた。それは二人が乗った車に近づいてくる。あっという間に車から十メートルの高さに来ると、その空間に停止したUFOだ。銀色の外観で基底部から黄色の光線を車に発すると、その光はガッチリと車を捉えて上へ引き上げた。十秒以内に車は、そのUFO内に捕獲されたのである。
喪出那は広い空間に車が移動したのを知り、(ここは何処なのかしら?上空に異動していったのは分かるけど。)
ゴリオンは平然とした顔をしていたが、
「降りようか。谷底さん。」
と呼び掛けると自分は運転席を降りる。喪出那も助手席から降りた。ゴリオンは喪出那の方を向くと、
「ここは、いわゆる円盤内だ。地球の乗り物ではない。」
と説明した。
喪出那は驚いたが、
「それで、これから、どうなるのですか。ゴリオンさん、あなたは・・・。」
「そうだよ。もちろん私は地球外生命体だ。地球の人間の恰好をしているが本来の私の姿を見せよう。」
と話すとゴリオンの顔は蛇の顔になり、両手は左右に三本ずつになって合計六本の手になった。喪出那は気を失いそうになったが、爬虫類のゴリオンとは三メートルの距離がある。逃げ出そうと思っても床に瞬間強力接着剤で足が固定されたように動けなかった。
蛇の頭のゴリオンは二本の右手を伸ばして行くと、三メートルの距離を問題なく縮めて、三メートルも伸びた二本の手で喪出那の両胸を掴み、揉み始めたのだ。
「いやあんっ!ああっ、はああああっ。」
喪出那の動けない体の乳房をゴリオンの右手二本が巧みに揉むと、硬くなった喪出那の乳首を転がすように愛撫した。次にゴリオンは左手の二本を伸ばして行き、彼女の上着を掴むとスルリと脱がせていく。すぐに上着は剥ぎ取られて喪出那の白いブラジャー姿が露わになる。
そのブラジャーも薄手のモノで乳首などは透けて見えるのだ。少しの間、離れたゴリオンの右手二本は喪出那の白い透けたブラジャーの上から、こぼれそうな彼女の甘い果実のような大乳房を揉みまくった。
「あああああっ。気持ちいいですっ。わたし愛人なのですね。」
と目を薄く開けて喪出那は声を上げた。ゴリオンは蛇の頭で、
「ああ、そうだよ。お手当はタップリと上げるからな。私はドイツ人に、なりすませていたし、これから先も成りすます期間は短くないと思う。ドイツの対日工作課は私が大部分、動かしている。」
乳房を揉みしだかれてメロメロになっている喪出那は、少し股間も濡らしていた。その変異を見て取ったゴリオンは、
「オマンコも待っているようだな。よし、今すぐ行く。」
と声を掛けると二本の左手で彼女のミニスカートを剥ぎ取る。喪出那のショーツは薄いというより透明に近くて、桃色のスジと、その上の濃くて広い面積の黒毛恥毛がハッキリと見えたし、桃色スジの周りが薄く濡れている。
「やんっ、恥ずかしいわっ。」
と云いつつ顔を隠す喪出那の下着露出姿の乳房と股間を蛇頭のゴリオンの左手二本は股間の恥部、右手二本は豊乳二つを愛撫した。喪出那は立ったまま、両脚を広げて、
「早く来て。ゴリオンさん!」
と両手を前に突き出す。彼女の顔はピンク色になり、好色な目をして赤い唇を少し開けて赤い舌を少し出した。ゴリオンは伸ばしていない残った左右の二本の手で自分のズボンを降ろすと、パンツも下に下げた。すると、おお、見よ!ゴリオンの陰茎は太く長く伸びて、それが上下に一本ずつ、二本の勃起した陰茎があり、睾丸は四つの玉を内包している。
「いくぞっ、喪出那―っ。」
と叫ぶように声を出すと、ゴリオンの勃起竿は上下二本とも喪出那に向かって伸びていき、彼女の股間の近くで待ち構えるように静止した。
ゴリオンの四本の手は彼女の乳房を覆うブラジャーと透明に近いショーツを剥ぎ取り、白い肌の全裸を喪出那は露わにした。すぐに伸びてきたゴリオンの二本の怒勃起陰茎は、それぞれ彼女の女体桃色スジと肛門に同時に没入したのだ!三メートルも伸びた二本の怒勃起竿は充分に喪出那の二つの穴に埋没して緩やかに、そして段々と早く前後運動を開始した。喪出那は顔を後ろに反らせて、長い黒髪を揺らせながら、
「ああ。二つ同時に入ってるーっ、二か所同時の快感、気持ちいいーっ。あんあんあんっ。」
と快楽に溺れる声を出した。三メートルも離れて繋がっている男女。蛇頭のゴリオンは上着だけ着ているが、全裸の喪出那は隠すところもない。弓のように曲がったゴリオンの怒勃起陰茎に股間の両方の穴に挿入されているのだ。
これが愛人生活の初めなんて、と喪出那は思いながら、あまりの気持ちよさに失神しないようにしていた。それはゴリオンも同じで三十分は耐えていたが、たまらなくなって二本の怒勃起陰茎の先端の亀頭から同時に白い巨液を吐き出していた。萎えたモノを二本、喪出那の二女穴から引き出すと魔法の杖のように自分の股間に戻していったゴリオンは歩いて喪出那に近づくと抱きしめて唇を重ねた。ゴリオンの二本の手は喪出那の狭い細い両肩を、更に二本の手は喪出那の両方の乳房を、最後の二本は彼女の股間に伸びていた。
接吻をしながら舌を絡める二人、喪出那は肩、乳房、股間を同時に触られて、又しても味わったことのない極快感を覚えるのだった。
喪出那は横に抱きかかえられて廊下のような所を移動していき、ドアのある部屋の中に入ると、そこにはトリプルベッドとも呼べる大きな寝台があった。喪出那は、そこへ全裸のまま降ろされ仰向けになると自分で大きく両脚を広げた。
蛇の頭のゴリオンは赤い舌が二枚もあるのだ。その二枚舌で喪出那はクンニリングスされて又しても極快感を覚える。
こんな鮮烈な愛人生活が地球上にあるだろうか。
喪出那は気持ち良くなりすぎて遂に失神した。

次に目覚めた喪出那は寝室の窓から外の風景が見えた。地地球ではない!どこか知らぬ星に来ているのだ。なにせカーラル・ゴリオンは地球外生命体だ。このUFOは地球を飛び立っていったのだ。喪出那が目を覚ましたのに気付いたカーラル・ゴリオンは彼女の裸身の背中に舌を這わせると、
「おはよう。君の体に触れるとオレの二本の息子は元気づいているよ。朝から、するのなら、しよう。」
と喪出那の後ろから手を伸ばして彼女のおいしそうな乳房を軽く掴んだ。それだけで喪出那は股間を少し濡らしたのだ。まるで新婚夫婦のような二人で、愛人と呼べないような喪出那の裸身なのだ。喪出那は背中と乳房に快感を感じつつ、
「ここは何処なのですか?」
単純に聞いてみた。ゴリオンは、
「ここは私の星だ、と言いたいけれどもね。まだ途中の星なんだ。宇宙空間は信じられない程、広大で地球人は、それを実感できないだろう。今、いる星は動物がいない星で植物だけだから酸素が充満している。それを円盤内に補充しているんだよ。それだけでなく円盤内には観葉植物を植えているからね、長い旅も酸素は欠乏しない。それと、この星では野菜と果物は取り放題だ。君が目を覚ますまで私は、円盤から降りて背中に担ぐリュックと六本の手で持ったバッグの中に果物と野菜を詰めるだけ積み込んで持ってきたよ。」
と話して彼女の乳房から手を離した。