sf小説・未来の出来事5 試し読み

メレニは、
「パーティには他のクラスからも来るわ。流太郎が見た事もない人も来るから。楽しみね。」
と教唆した。

 そんな楽しさを想像したりと、流太郎が期待にも似た気持ちでいると時間が経つのは速いものだ。そのパーティ会場に流太郎は、いた。立食パーティみたいな会場であった。飲み放題、食べ放題。百人はいる大きな会場だ。流太郎は黒い背広を着たハンサムな若い男性に、
「こんにちわ。日本から来ましたね、あなたは?」
と声を掛けられた。
「はい、そうです。ぼくは講師の助手です。初めまして。」
「ぼくも初めまして、ですが、あなたは学校で見た事ありますよ。」
「そうですか。気が付きませんでした。」
「地球の日本にいるのですが、ちょっと二か月ほど、ここで日本語を更に学んだのです。」
「わざわざ火星へ?日本にいたのなら、日本語は学べませんか?」
「それがねえ。私本来の姿に戻れないでしょう、日本では。長い時間ね。」
「はあ、あなた本来の姿・・・それは人間誰しも、人前では幾分、取り繕った顔をするものですよ。そういうのがストレスが溜まる、って事もありますよね。分かります、分かります。」
その男は歯を見せて笑うと、
「ははははは。その程度のものなら火星に来るものですか。私本来の姿、とは、こうですよ。」
流太郎が見ているハンサム男の顔は、みるみるうちに蛇のような顔になった。歯は牙が尖って見えた。
流太郎は驚きと恐怖で、
「なななな、それが貴方の本当の姿・・・。」
「ええ、レプティリアンとも地球で呼ばれているタイプの宇宙人、正確には火星人なのでね。」
男の顔は蛇のような顔のまま、ニッ、と笑う。流太郎の背中はゾクゾクしたが、
「シェイプシフトとかいうアレですね。メレニさんや僕が会ったソリゲムさん、ダリモ部長やセロナさん、それに、ここの校長先生もみんな地球の北欧の人を神秘的にした感じの人間なのに、あなたは・・・。」
「国が違えば火星人も異なるのさ。僕は、この国に留学する事を認められている。地球で謂えばビザも持っている。それがねえ地球も、いずれそうなると思うけど、僕らのビザは君達のスマートフォンに類似した、それより進化した携帯の中にね、ビザを持っているんだ。だから入国審査官には、それを火星のスマートフォンで見せれば、いい。見せてあげよう。」
蛇男はズボンのポケットからスマートフォンらしきものを取り出して画面を操作すると、流太郎に見せた。
そこには火星のアルファベットと数字らしきものが表示されていて、ビザらしきデザインのものが見えた。流太郎は、
「これは初見です。ほー、すごいですね。カードのビザなんて紛失する事もありますよね。そしたら大変ですもん。」
「だから地球は遅れている。僕は月への入国ビザも、このスマートフォン、火星ではスマートフォンとは呼ばないけど、君への便宜上、そう呼ばせてもらうが、この中に収めてある。」
「月、というと月面の月ですか。アメリカのアポロが行かなくなって百年以上、経ってますけど。」
蛇男はスマートフォンらしきものをポケットにしまうと、
「月はね、地球に見えない裏側には億単位の宇宙人がいる。円盤の基地や建物、その他、文明を示すものは地球からは見えないんだ。」
その蛇男、レプティリアンの顔などは近くにいる火星人にも見えるはずだが、誰も驚いたりしないようだ。驚きの顔は流太郎だけで、流太郎は、
「それで月には何もない、と思われていたんですね。」
と相槌をカン、と打った。
「月の裏側を探査しようとしたアポロは、彼らの円盤に攻撃された。命からがらのアポロの乗組員達を知ったNASAは、二度と月への宇宙計画を行わなかったんだ。まあ、その方が身の為だね。インターネットの動画共有サイトでは、少しリークされているよ数十年前から。」
「そうなんですか、では竹取物語の、かぐや姫の話しも本当とか。」
「月に帰るとか、そうだろう。昔の人間が想像だけで、そんな事を想いつかない。それは、ともかく、僕は日本で株取引をしている。」
「ああ、デイトレーダーの方ですか。僕も株には興味があります。」
「今度、教えてやろう。日本では蕪山得男(かぶやま・とくお)と名乗っている。戸籍なんて上野に行けば失業者から、いくつでも買えるからね。」
流太郎は蕪山から名刺を貰った。そこには福岡市の蕪山の住所が載っていた。流太郎は嬉しそうに、
「福岡市に住んでいるんですね、蕪山さん。高宮・・鴻巣山の上の方みたいですね。」
「ああ、電話かけてから訪ねて来いよ。デイトレーダーだと外に出る時間も短いから人間の外観になっている時間も短くて、いいからな。」
蕪山の手は指は長くて爪も長く、肌は鮫肌でウロコがあった。
株をやっているから蕪山か、と流太郎は思った。本当は火星のレプティリアン、爬虫類型宇宙人なのだ、蕪山さんは、と流太郎は思うが火星人の株取引を知りたい、と思い、
「蕪山さんは、明日からでも日本へ、福岡市へ戻るんですか。」
「ああ、今日から戻るよ。君は、いつまでも火星にいるのか?」
「そういうつもりも、ないです。火星では日本語講師が関の山ですから。」
「だろう?だったらさ、早めに地球に帰って何かした方が、いい。」
「そうします。蕪山さん、マンゴープリンが、お好きのようですね。さっきから、そればかし食べてますよ。」
「うん、地球人にシェイプシフトすると暑いんだよ。それでマンゴーが、おいしいのさ。」
「ちょっと失礼します、蕪山さん。」
「ああ、いいよ。次は地球でな、会おう。」

 流太郎は少し離れた場所で立食しているメレニのところに行くと、
「メレニさん。ぼく、地球に帰りたいんです。」
と心境を打ち明けた。
「まあ、そうなの、いいわ、あなたは日本語講師助手として数年勤務しているから、国の円盤で地球に送ってもらえるわ。その代り、この火星での仕事は地球では秘密にしておいてね。」
「分かりました。というより、火星での体験を話したって誰も本当だとは思ってくれませんし、頭が狂っていると思われるに決まっていますから、話はしませんよ。」
「そうね、でも秘密を強いる訳ではないから、話していい、と思える人がいたら話してもいい。何故なら、火星に来ている地球人って結構、多いからね。」
なんだ、そうなのか、と流太郎は思った。

 翌日、メレニの話通り、時・流太郎は国のUFOで地球へ帰った。火星人とはいえ、公務員らしき態度の船員に、
「あれが君のマンションですか?」
と香椎駅前にあるマンションの上空から尋ねられたので、
「そうです。屋上で降ろしてもらえませんか。」
「ああ、そうするよ。火星での勤務、ご苦労さん。」
と、ねぎらわれて流太郎は自分のマンションの屋上に降りることが出来た。
(もう、二年にもなるのか。でも一応、分譲マンションだから家賃滞納の心配はなし、管理費と修繕積立金は安いから銀行口座の引き落としで、なんとかなっている筈だ。)
と回想した。
 屋上から自分の部屋に戻ると、電気もガスも止められないでいた。水道も、ちゃんと出た。それらも銀行引き落としだったのだ。パソコンはWINDOWS37が、まだ使えた。起動させてオンラインバンキングの自分の口座を見ると、まだ貯金があった。次にビットコインの口座を見る。
(やはり騰がったな。ビットコインは。火星ではビットコインに似たもので光熱費は払える、とメレニさんは話していたけど。)
日本株は、と見ると上がったのもあれば、下がったのも、ある。ほぼほぼ、同じ株価のものも多い。
ネットニュースを見れば、リニアモーターカーが鹿児島に向けて建設を計画中だそうだ。
リニアより揺れない、というより、全く揺れない火星の空飛ぶ円盤に乗った経験からすると、リニアなんて、と流太郎は考えてしまう。
鹿児島では桜島が爆発したらしく、それの被害に会わなかったところにリニアを通す計画らしい。
とにかく今は昼間だ。会社に電話しよう。携帯電話で流太郎は籾山に連絡を取る。籾山が出て、
「もしもし?おう、時じゃないか。どこに行っていたんだ。」
「ちょっとした事情がありまして、その訳は追い追い、話しますから、今日から出社します。」
「ああ、いいけど君の席は、もうないから、明日までに机とか椅子は何とか、しよう。今日は、そんな状態だけど、来るなら来いよ。」
「はい、行きます、今すぐ。」
という事で、今はマザーズ上場企業の株式会社夢春に流太郎は出社する事になった。

 籾山も今は社長室を使っている。そこに入った流太郎は元気そうな籾山を見て、
「お早うございます。お元気そうで何よりも素晴らしい。」
と挨拶した。籾山は鷹揚に頷くと、
「君も元気で何よりさ。一体、何処に蒸発していたのかい。」
「蒸発だなんて液体ではないんですから、僕は。火星に連れていかれたんです。信じてもらえないと思いますけど。」
籾山は好奇の目を光らせると、
「信じるも何もだね、僕も火星には行ったよ。それどころか、-これは内緒の話だがね、うちの大株主の一人は火星人なんだ。」
流太郎は、そういう時代なんだと思ってみた。だから納得顔で、
「そうでしょう、うちも、そこまでいかないと発展しませんですものね。」
「ああ、技術屋の会社としてはね。火星人からの技術供与は、我が社の向上には必要欠くべからざるものだな。パリノさん、彼が大株主だけど、その人は火星の医師で、エレクトロニクスの方面は得意じゃないらしい。」
「医学でもコンピューターを使う事は、あるのではないですか?」
「あるらしいけど、パリノさんはプログラムを作ったりできる人じゃないから、直接的にはパリノさんからの技術協力は無理だけど。十歳若返るマンゴーが火星にあるらしいよ。」
それを聞いた流太郎は、
「それを輸入販売すれば、絶大な販売業績が出ますよ、籾山さん!!」
「でも、それはパリノさんの兄さんの領域らしいけどね。」
と籾山は嘆息した。

 パリノ・ユーワクの兄、パリノ・ユーワクは、十歳若返るマンゴーの果実を地球に輸出する事に決めた。
販売場所は何と、博多湾上空に浮かぶ巨大な島、で行われる。この巨大な空中に浮かぶ島は、巨大な反重力によって支えられている。そもそも重力などは地球が消滅しない限り、永久にあるものだから、反重力も同じく存在し続ける。太陽光発電でさえ、太陽が沈んだ後にはエネルギーを採れないが、反重力は夜にも、その力を保ち続けるのだ。
 パリノは城川康美に、
「この若返るマンゴーは高価な値段で売りたい。あの浮かぶ島、それは愛高島(あいたかしま)と福岡市からの愛称募集で決まった名称だがね、そこで一個、百万円辺りで売ろうと思うよ。」
康美は、もはや自営業者となっていた。その愛高島にはヘリコプターで時々、訪れた事もある。観光ヘリコプターが空に浮かぶ島へ飛んでいる。島の大体は火星で作られたものだが、そこに宿泊施設などは地球側、というより日本の企業側で作らなければ、ならない。
パリノは康美の事務所で、マンゴー販売を持ち掛けた。康美は社長の椅子に腰かけて、
「それは賛成です。妹の貴美は行方不明になりましたし、何か有意義な事をしたいんです。妹が、いなくなって張り合いがないところもありました。若返りは実証されているのですか、そのマンゴーで?」
パリノは部屋で康美の前に立ったまま、
「もちろんさ。火星人に効くものは地球人にも効く。まず、君に試してほしいね。」
康美は期待で胸がワクワクと雲が湧く思いになって、
「やりますわ!わたしも二十六、若返りたいな。」
と心境を吐露した。
 パリノは上着のポケットの中からマンゴーを取り出すと、
「これが、その十歳若返るマンゴーだ。果実のままだから、皮をむいて食べてごらんよ。」
康美は立ち上がると手渡されたマンゴーを受け取り、事務所の片隅の調理の出来る場所に行って、ナイフでマンゴーの皮を剥き、食べられるように切り分けた。そのひと切れを口にすると、ビタミン剤の強力な味がして、全身に電流が走ったような感覚がした。何か体が軽い。五歳、若返った感じ。鏡のある所に歩いて、自分を鏡で見ると確かに自分は二十一に戻ったようだ。康美はパリノを振り返ると、
「若返りましたわ、パリノさん。でも、五歳だけみたいですよ。」
と嬉しそうな声を出す。パリノも喜ばしい顔で、
「それで、いいんだ。君が十歳若返ると十六になる。それでは未成年者に逆戻りだからね。君はもう自営業、会社に行かなくていいから、会社の人達に見られて奇妙がられることもないよ。」
「そうですわ。でも、父には時々、会います。だから、びっくりしますわ、父は。」
「彼は科学者だし、その火星のマンゴーの事も話していい。だが、他の地球人には秘密にしておいてくれ。若返るマンゴーはネットショップで売り出す。だけど取りに来る場所は浮かぶ島に来てもらうんだ。」
こうして若返るマンゴーは日本初、発売となった。
十歳、若返るマンゴー
なんてインターネットで見ても、すぐ信じる人は、いない。お試しサンプル、無料というので試しに送ってもらった人が、
「確かに少し若返った。よし、買いたい。でも百万円じゃあ・・・。」
とネットで呟いたので大反響を竜巻のように巻き起こし、その噂は旋回して日本中を駆け巡ったのであった。
 購入場所は博多湾に浮かぶ海抜五百メートルの浮かぶ島。観光ヘリで訪れる事が、できる。一日に浮かぶ島に飛ぶヘリコプターも限られている為、日曜祭日には予約が殺到している。
康美はパリノがUFOで浮かぶ島まで朝晩、康美のマンションから送迎した。人間の目には見えないUFOにすれば、誰にも気づかれない訳なのだ。そのUFOでは香椎駅前の康美のマンションから浮かぶ島「愛高島」まで一秒以内に到達できる。標高五百メートルの愛高島は、冬の今、とても寒い。
観光客が来る前の販売所の室内で、パリノは康美に、こう話した。
「今日は寒いね。太陽の表面温度は実は、たったの26℃なんだから。」
何の冗談かと康美は思い、聞き返す。
「なんですか、その話。太陽の表面温度は6000℃だと習いましたが。」
「ワハハハハ。それが天動説と同じで、科学的という間違った迷信、いや迷推測によるものなんだ。太陽が高温を発しているのなら地表から五百メートルも離れて高い、この愛高島が何故、こんなに寒いのだね?」
「それは寒気団が来るからではないですか?」
「それは、あるだろうけど富士山やエベレスト山は頂上付近は、いつも雪で覆われている。実は、かなり昔、アメリカのNASAは太陽の表面温度を計測し、それが26℃である事を突き止めたが発表しなかった。だがインターネットでは漏れ伝わっている。」
「では、太陽熱とは一体何でしょう?」
「T線と呼ばれるものが太陽から出ていて、それが惑星の大気に触れて気温が上昇するのだ。だから太陽に地球より近い金星にも高度な文明を持つ人達が、存在する。」
「金星!??金星って、とても高温で・・・でもないんですね、太陽は平穏な平温としたら。」
「そうだ。金星には厚い雲もある。そもそも太陽は燃える塊ではない。なのだから金星には快適に住める空間は、あるんだ。NASAも太陽の温度を知っていながら、探査船を金星に飛ばさないのは科学的常識、それは大昔の天動説と同じだが、太陽は爆発している燃える星、というものに敬意(笑)を表してだろう。」
康美は新たに金星の謎の一つを少し知った気がした。随分昔、金星に行った、と主張した人々は世間から冷笑されていったものだ。地動説と違ってガリレオ裁判みたいなものは、ないけれど世の中の人間は自分で体験しないものは、世論に動かされる。それで大衆操作は可能だ。百パーセント近くの人間は月にさえ行けないのだ。どうして金星に行けるだろう。
その自分が体験不可能な事に就いては、マスコミュニケーション、マスメディアの打ち出す説を正当なものとする、というのが大衆心理なのだ。康美はパリノに、
「若返るマンゴーも火星からの輸入、という事は知らせない方が、いいんですね?」
「無論の論だよ。愛高島にしたって科学者共は隕石の巨大なもの、と結論付けた。山や川もあるのにだ。(笑)、我々が愛高島を地球へ運んでくるスピードは、巨大な隕石が地球に向かう速度と同じにした。停止も我々がしたのであって、自然現象ではない。
若返るマンゴーは火星の赤道直下で栽培された、品種改良のものだ。これも自然発生のものではない。自然は偉大だ、と思われるところもあっても、人工的手段がなければ快適な生活は望めないのは火星も地球も同じだよ。」
「冬は服を多く着ますものね、人間は。」
康美は首に巻いたマフラーに手を当てつつ、そう言う。
パリノは、うなずくと、
「医学も又、人工的な手段そのものだな。ところで若返った康美君、君は恋人に何か言われなかったかね?若くなったね、とか。」
「いいえ、恋人はいませんし、付き合っている人もいませんから。」
パリノの目に希望の光が滲み出ると、
「おお、そうかね。では私の第三夫人になるかい?」
「それは今少し、考えさせてください。火星で生きていくかどうか、もう少し考えたいんです。」
「ふうむ、いいだろう。君は、いつまでも二十一歳で、いられるよ。」
「え?え?え?どういう事ですか、それは。」
「又、二十六になったら、若返るマンゴーを食べれば、いい。」
「それなら二十五歳になったら食べると、二十歳に?」
「いや、それは無理だろう。最初に若返った年齢までしか戻れないみたいだ。火星での人体の治験で分かっている。だから君は二十一歳までしか戻れない。それでも、いつまでも二十一歳に戻りつつづけられるかと言うと、それは無理なのも火星の治験で分かっている。とはいえ、何回かは戻れるからね。」

 時・流太郎は、博多湾に面した少し高い山、愛宕山から浮かぶ島、愛高島を一人で眺めると、
(すごいなあ、あれは。大きな島が海の上に浮いているようだ。)と思う。ジャンパーのポケットから精度のいい双眼鏡を取り出すと、目に当てて、愛高島を見る。
なにか販売所のような所があって、おや?康美が、いるではないか!!何で、あんなところにいるんだろう。それに若返ったような康美ではあるみたいで。二十一歳ぐらいに見えるぞ。おれが教えていた専門学校を卒業して、すぐの頃の康美に似ている。それなら妹なのだろうか、康美の。
康美には双子の妹、貴美がいたが。その貴美の行方が分からなくなっている。もしかしたら、あそこにいるのは貴美?なのだろうか。それに彼女の隣には北欧の白人男性らしき人もいる。彼は何者、だろう。
愛宕神社の境内の北側から双眼鏡で愛高島を眺める流太郎の両肩に鳩が二羽、飛び乗ってきて一緒の方向を鳩たちも眺めている。

 愛高島のパリノに携帯電話が鳴る。店先にいたパリノは店の奥に引っ込むと、
「もしもし、どうしたんだ。」
「ダレダカ、ワカリマセンガ、ソウガンキョウデ、ソコヲミテイル青年が、います。」
「ああ、人工ロボット、カンシー君、お勤め、ご苦労さん。そのロボット風の話し方も、やめたらどうだ、もう。」
「分かりました。でも、プログラムされたワタシです。最初の喋り方は、この方が、いいのかも、と。」
カンシーはパリノが愛高島の近くに停止させているUFOに乗せているロボットだ。そのUFOは人間の目やレーダーにすら!映らない透明な保護光線で円盤の船体を包んでいる。
パリノの身辺警護をカンシーは受け持っている。
パリノは気になって、
「話し方は君に任せよう、カンシー君。双眼鏡で島を見ている人々は多くいるだろう。私に危害を加える地球人は、いない筈だが。」
「ソウデハ、アリマセンガ、パリノさん、あなたより城川康美さんに、その青年は双眼鏡の焦点を当てているみたいデス。」
「ふうむ、そうか。でも、いいじゃないか。康美は美人だし、双眼鏡で見ていて美人が見えたら、そう、眼鏡をかけても見たい時もあるさ。」
「ソウデスネ。で、ワタシは、その青年に向けて探査光線を発しました。帰って来た光線波を分析装置の画面で見ると、
『元、恋人』と、なっています。」