レズニスル夫人 体験版

 愛野珠代(あいの・たまよ)は、見てしまった。二十一歳の同僚、相賀好代(あいが・すきよ)が社長室で、社長夫人とキスしているのを。昼の休憩時間だった。社長室のドアは、少し開いていたのだ。
中から、チュッ、チュッという唇がくっついて離れる音がしたので、珠代は思わず足を止めて社長室の中を細い隙間から覗き込んだ。
すると、グラマーだが肩幅も広い背も高い社長夫人に小柄な好代は抱きすくめられ、上を向いて唇を社長夫人に任せていた。
社長夫人は三十代になろうという年齢で、紺の上下の服を着ている。
好代は不動産会社の制服を着ている。オレンジの上下で、スカートの丈は短い。
好代は肩までの髪の毛を揺らせながら、男にされるように社長夫人にキスされ続けていた。
社長夫人の顔は眉毛が太くて、目も大きい。髪の毛はショートカットにしている。胸も尻も張り出しているが、肩幅も広い体型だ。
社長夫人の名前は、レズニスル・丸三という。夫の名前が、丸三商次(まるさん・しょうじ)という会社名みたいな名前だが、そのためだ。
彼女は時々、レズニスル・マルサンと署名していたし、名刺にもそう印字していた。
レズニスル夫人は、母親がフランス人というハーフだ。だから、色は白い。背も高いのも白人らしい。フランス人女性は、背が低いというけれども。髪の毛の色は黒である。アンダーヘアも黒だ。
夫の丸三商次は、フランスに商用で滞在中に父親が日本人の、このレズニスルと出会った。
父親の名前は外国郁夫(そとくに・いくお)といって、フランスのパリでワインや日本酒を取り扱って大成功した億万長者だった。娘のレズニスルは、レズニスル・ソトクニと学校でも記名した。
パリのビジネス専門学校を卒業するとレズニスルは、父親の会社「ソトクニ・トレード」に入社して秘書として働いているところを夫になる丸三に見初められて、短期の交際の後、すぐに結婚して日本に来た。
丸三商次は福岡市で高級洋酒店を天神に持ち、不動産会社も持っていた。その不動産会社の経営を実質は、妻のレズニスルに任せていたのだ。

レズニスルは小柄な好代の体を軽々と抱きかかえると、社長の椅子まで運んで腰を下ろし、好代を自分の膝の上に乗せて今度は、紅い長い舌を出して自分の女子社員の首すじを舐め上げた。好代は、その柔らかく甘い感覚に眼をトロンとさせていた。愛野珠代は好代が自分に気づかないほど、快楽の世界に浸っているのが分かった。珠代は思わず自分の右手の人差し指と中指を自分の股間に持っていくと、制服の上からマンコを指圧してしまった。
(あうん)
珠代は心の中で、悶え声を出して股をキュッとすぼめた。(あ、誰か来る)
向こうから大きくなる靴音に、珠代は姿勢を正していた。社長室を覗くと、二人は社長と社員らしく離れていた。レズニスルは座り、相賀好代は少し離れて不動産会社の女子社員らしく立っている。

靴音の主は、若い女性とその母親らしき女性で、どちらも高級そうな身なりをしていた。どちらも肩からエルメスのバッグを下げている。下の方に点線の円の中にHのマークが入っている有名なブランドものだ。二十万円以上なのは間違いない。
足元を見ると靴はトリー・バーチのぺたんこな靴で、銀色に豹柄だ。四万円近くは、するものらしい。母娘揃って同じデザインの靴も珍しい。愛野珠代はブランド好きだから、それらを判別できた。
長い廊下を歩いて母娘は、社長室に近づいてくる。珠代は何気なく立って、二人を出迎える。娘は二十歳位で、明るくヒマワリのような感じがする。背も珠代より高くて細身だが、彼女の胸と腰は大きく膨らんでいた。その娘は立っている珠代を見ると、
「こんにちは。ビルの売却の件でお邪魔します。社長さんは、いらっしゃいますね?」
「はい、在室しております。どうぞ、こちらへ。」
珠代は社長室のドアを開いた。母親は四十位で、これも高身長で美貌の名残をとどめている。普通のOLだったとは、思えない。その母親の
静けさが壁に染み渡る その美貌
という俳句が浮かびそうだ。季語がないので俳句にはならないが、美貌は春という事にすればいい。
母娘の身長は、ほぼ同じで娘が先に社長室に入った。ドアを開けてから珠代は、小走りにその場を去っていた。

丸三不動産の社長室は、部屋の主となったレズニスル・マルサンの趣味でフランス風なデザイン、置物、内装となっていた。そこへ入った母娘はフランス人形みたいな女性が机を前に立っているのを眼にした。レズニスル夫人は立ったまま、西洋人らしい笑顔を浮かべて、
「ボン・ジュール。ようこそ、おいでくださいました。わたしどもに、ご相談いただき感謝しています。」
相賀好代が高価そうなフランス製のコーヒーカップを二つ、応接テーブルの上にコトン、カタンと並べた。レズニスルは六人がけ、テーブルを挟んで三人ずつが座れる応接ソファの前に行くと、長身美女母娘に、
「どうぞ、こちらへおかけください。」
長身の娘の方が、
「それでは、失礼します。」
と腰掛けたので、母親もその隣に身を沈めた。レズニスルはミニスカートを、ひるがえして二人の前に座った。レズニスルの白いパンティは二人の母娘にも、はっきりと見えた。

商談は長きに亘るものではなかった。破格な買値をレズニスル夫人が提示したのだ。レズニスルは、
「それに加えて、娘さんに当社のイメージガールになってほしいのですわ。それにつきましても、契約金をお支払いします。」
フランス人の眼でレズニスルに見られると娘は、
「それは、嬉しいな。わたし、大学を出ましてから就職もせずに父の私的なものを売り払う事をしていました。天神のモデル事務所にも登録はしたんですけど、仕事がこないんです。モデルって、やってみたかったから。」
レズニスルは笑顔で、
「それでは、そうしましょう。高根野花(たかね・のはな)さん、丸三不動産も今では福岡市で一番の不動産会社なんです。ローカルテレビにもCMを出してますわ。」
と優しく話しかけた。
丸三不動産は天神の西側にある自社ビルを本店として、福岡市内にいくつかの支店があるが、女子社員が多くて男子社員は一つの店に一人と決まっていた。紅一点の逆で黒一点というべきで、あろうか。
また女子社員のスカートはミニスカートである。賃貸物件で来た客に対して椅子を離れて又、戻ってくる時には顧客にパンティが見えるように座るという社内の規律がある。先ほどは社長のレズニスルが自ら実践したもので、そばにいた相賀好代もそれを見て
自分もしっかり顧客にパンティを見せよう
と心に思った事だった。社長が実践しないで社員にやらせる会社があるとすれば、そんな会社は伸びないはずだ。
丸三不動産で部屋を借りれば、その店で女子社員のパンティが見れると若い男性の間で評判となり、引越し好きな若者はみな丸三不動産で部屋を借りた。
契約が決まって書類作成の時にも女子社員は度々、椅子を立つので何回もパンティを見せる場合もある。
契約書に添えてポケットティッシュを渡すのも、丸三不動産の慣わしである。それで夜、自分の部屋で仲介、契約してくれた丸三不動産の女子社員のパンティを思い浮かべながらオナニーして、もらったティッシュで射精後に拭き取る男も多かった。
おまけに丸三不動産の女子社員はブラジャーをつけない事を義務付けられていたので、夏に白いカッターシャツの上からふくらんだ乳房と赤い乳首がうっすらと見えたりする。
だから夏の方が契約に来る男性客も多くなり、「にっぱち」という二月八月は客が減るという言葉の八月は、丸三不動産では男性客で賑わった状態となる。
特別サービスとして、丸三不動産では個室での接客もしていた。その場合、家賃の二ヶ月を契約の時に不動産手数料として払えば、それに応じたサービスを女子社員がやるというものだ。
女子社員を指名しての仲介となると指名料として一人につき一万円が、かかったが、それに伴って椅子を動く複数の女子社員のパンティが見られるので指名する男性客も多かった。
もちろん個室は完全防音で、中で大抵は上増し一か月分の家賃の手数料で女子社員とセックスしていた。それは手数料そのほか、敷金とか礼金すべて丸三不動産の口座に振り込まれて書類を手渡しする時に行われる。一日で三人くらい指名される女子社員もいるから、三万円の指名料をもらえる女性もいた。
指名料については丸三不動産の方では、そのまま女子社員に渡すのである。

レズニスル夫人は夫の丸三商次と会社の近くの高級マンションに住んでいるのだが、夫の商次は一年ほど前からそのマンションに帰ってくるのが月に一回ほどになった。
そんな珍しい晩は、レズニスルは夫に全裸でダブルベッドの上に乗って、むしゃぶりつくのだが夫は、
「気分が乗らないんだ、すまない。」
と断りを入れた。夫の商次はパジャマを着たままだ。レズニスルは唖然として、
「あなた、もう半年も私とセックスしてないじゃない。それで、なんともないの?」
「ああ、仕事が忙しくなって元気がないんだ。レズニスル、そこに立って、おまえの綺麗な体を見せてくれ。」
商次は、ダブルベッドの横の地点を指差しながら頼んだ。彼女は夫の言に従って、ベッドの横に立って両手を広げた。
白人のような白い裸身は、足もすらりと長い。胸もロケットのようにふくよかで、ヘアは黒い剛毛だ。実は商次は、この体型には飽きていた。彼は日本人女性の短い足で、尻が外人女性より低い位置にある体に性欲を覚えるようになっていた。だが、しかし、レズニスルの体は美しいので、
「レズニスル、お前の体は私だけのものにしておくのは、勿体無いんだと思うよ。他の男に抱かれてみては、どうかね。」
レズニスルは体を軽く震わせると、
「わたしの家は男女関係に厳しいんです。フランスは大抵、カトリックの家ですから、わたしも男は夫だけ、と教わりました。商次以外の男、だめなの。」
丸三商次は溜息をつくと、
「日本はキリスト教の国じゃないから、いいんだよ。」
「だめです、何処の国でも。」
とキッパリと夫の誘いを彼女は拒否した。
「わかった。やるだけ、やってみよう。」
商次はベッドからレズニスルを手招いた。彼女は爆乳を夫に押し付けて、マンコを夫の太ももに当てた。商次は彼女の大きな尻と、広い肩に両手をそれぞれ置いて、軽くキスをした。
しかし、眠気が強烈になったのか、彼は眠ってしまったのだった。

レズニスルが同僚の相賀好代とキスしていた日の晩、愛野珠代は福岡市近郊のラブホテルで丸三商次に抱かれていた。
珠代は足が短い方で、どっしりとした尻を持っている。胸は小さめだ。アンダーヘアは、トランプのダイヤ型で恥丘の土手は丸くこんもりとしている。
一年ほど前から丸三商次の性欲は、自社の社員の愛野珠代で発散していた。
滅多に行く事のない会社に久し振りに来てみると、女子社員の珠代がミニスカートで応対してくれた。
社長室で応接ソファに座った時、珠代がコーヒーを持って来てテーブルに置いたが、しっかりとパンティを見せてくれた。珠代はパンティを上に持ち上げた形にして履いているので、割れ目がパンティに食い込み、溝ができていた。いわゆるマンスジである。
オレンジの制服に純白のパンティに食い込んだ割れ目は、その場で丸三商次のイチモツを半分ほど奮い立たせた。その時は、レズニエルは不在だったので誘い話は珠代に直ぐに通じた。
その日の内に、丸三不動産の真のオーナーと愛野珠代はラブホテルに行き、濃厚な時間を過ごした。
小ぶりの珠代の乳首は、商次にたっぷりと十分も吸われて硬直していた。仰向けになった珠代は足を大きく広げて、商次にクリトリスを丹念にねぶられて、大きな尻を震わせて快感を覚えていた。珠代の顔は日本女性的で眼も普通の大きさで、唇も普通、髪の毛は肩より少し下の長さのストレートな髪で、クリトリスは少し大きめだろう。
「いやあああっん。」
膨らんだクリトリスを激しく商次に舐め回されて、珠代は大きな悶え声を上げた。彼女の割れ目が潤ってくる。

同じ時刻にレズニスルは市内の高級ホテルのスイートルームで、全裸で相賀好代の同じく全裸の体をすみずみまで舐め回していた。好代の体は百五十四センチでバスト84、ウエスト58、ヒップ85という尻の大きな女性だ。肌は色白で、眼はパッチリとしている。鼻筋も通って高く、白人女性並の鼻の高さだ。レズニスルが彼女に惹かれたのも、この白人のような顔立ちからだった。同種のものは惹きつけ合うというものだろう。
レズニスルは、乳房と乳首を好代の乳房と乳首に合わせた後、両脚を大きく広げて眼を閉じている好代の下半身の方に頭を移動させた。
陰毛の下に好代の若々しくピンクのマン裂が、小さな口を開いていた。レズニスルは、
「トレビエン(とてもいい、というフランス語)。今からあなたにレズのテクニックをするわ。」
と囁くと、右手の人差し指から小指の四本の指を好代のマン裂に挿入した。
「あはん、社長の指って・・感じます。」
好代は声を上げた。レズニスルは、
「秘儀、ピアノマンコ。」
と声を上げると、好代の中に入れた四本の指をピアノを奏でるように動かした。好代は気持ちよさそうに、
「ア、 アアア、アッアアアーアアー。」
と色艶かしく悶えた。ふふふ、とレズニスルは満足気に微笑むと、
「今のは、ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌの出だしを弾いたのよ。」
「そうだったのですね。わたしのマンコが感じるままに、声を出してしまいました。」
好代は眼を開いて答えていた。レズニスルは白い歯を見せながら、
「次はね、」
指を又、別の動き方で動かす。何を弾いたのだろうか。好代は、
「ア、ア、アアア、アアアアー。」
と身をくねらせながら悶えた。好代は眼を開けて、
「今のはエリック・サティのジムノペディ第一番でしょ、社長。」
と聞く。
「ええ、そうよ。メロディの最初のところね。よくわかったわね。」
「わたしも、子供の頃、ピアノを習っていましたから。」
「まあ、そうなの。わたしも、そうだったのよ。それで気が合うのね。体も、合っているし。」
レズニスルは好代の顔に身を屈めて、キスをした。半分、フランス人の舌を好代の唇の中に入れていく。好代の舌は自分より少し小さいようだ、とレズニスル夫人は感じた。
好代はレズニスル社長の舌を感じながら、一生懸命自分の舌をレズニスルの舌に絡ませていった。と同時に、家庭教師のように自分の部屋にピアノを教えに来た女教師の事を思い出した。

グランドピアノの前に座って、エリック・サティのあなたが欲しい、という曲を弾いていると、その東京の音楽大学を出た女教師は、
「いいわよ。とても、いい。弾き続けて・・」
と褒めながら、左手を座っている好代の開いた足の間に入れると、白いパンティの上からマンコを触った。
「あ、」
好代は声を小さくあげたが、ピアノを弾き続けた。サティの「あなたが欲しい」は五分半弱の曲だ。女教師の手が入ってきたのは、3分位のところで、彼女の手は滑らかに好代のパンティの上でピアノを弾くように動いた。それは、サティの「あなたが欲しい」を同時に奏でているらしかった。指の動きで好代は、それがわかったのである。(こんな指導法もあるんだわ。)と好代はマンコで感じながら、思っていた。男の人の手じゃないし、マンコの中にも突っ込まないからいいか、と好代は思うと曲を弾き終った。
女教師も自分の左手を好代のマンコの上のパンティから離すと、拍手して、
「よかったわ。わたしの左手の動き、わかったでしょ。ああいう風に弾いて。もう一度。」
それで好代は、エリック・サティのあなたが欲しい、をもう一度、弾いた。すると確かに、うまくなっていたので終わるとすぐ、
「先生、上手く弾けるようになりました。ありがとう。」
と礼を言うと、
「体で覚える。体で教える、とは、この事ね。女のマンコ、百までって言うじゃない。」
「え、三つ子の魂、百までじゃないんですか。」
「そうだったわね。でも、同じようなものよ。女はマンコで考える、というのが真説なのよ。それなのに世間では、女は子宮で考えるなんて言ってるでしょ。みんな、女はマンコで考えてるの。ピアノを弾くのもマンコで考えて弾きなさい。それが上達への早道です。」
きっぱりと女教師は宣言したが、好代はピアノの指導でマンコを触られるのに抵抗感があったため、ピアノをやめてしまった。

そういう過去があったので、レズニスル夫人の「秘儀、ピアノマンコ」は懐かしい感じもした。今度は指を入れられているけど、成人だから構わない、と好代は思いながら、いつのまにかレズニスル夫人の舌が自分のマンコを舐め始めたのに気づいた・・・。

ラブホテルで丸三商次は全裸の愛野珠代の両肩を掴んで、抱き起こすと、
「おれね、古流の柔術てのを叔父さんから習ったけどね。その中に、女とやる時の技っていうのが、あるんだ。そのひとつが、
巴マンコ
って、言うんだけど、いくよ。」
と話し、珠代の体を前に傾けて、寝転んで右足を珠代の腹部に当てた。柔道の巴投げの体勢だ。そこで柔道では右足を上げて、自分の頭の上方に相手を投げるのだが、丸三商次は珠代を自分の体の上方にに珠代を投げた。落ちてくる珠代を抱きとめると、
ずぶり、と荒々しく珠代のマンコに商次のビッグサイズが入ったのだ。自分の体重と落ちてくる重力で、珠代は激しい摩擦感をマンコに感じて失神しそうな快感を覚えた。商次は仰向けに横たわり、珠代はそこに跨った姿勢で、
「あああっ、すっごーい。」
彼女は両手で自分の乳房を揉みながら、大きな声を出した。商次はにやにやして、
「よかっただろう。戦国時代は敵の大名の奥方を、この巴マンコでものにした話もあるんだ。その奥方は、巴マンコの味が忘れられなくて、その藩を抜け出したほどだった。」
珠代は自分で激しく腰を振りながら、
「ああっ、あの巴マンコの感覚が欲しくて、激しく尻を振ってますぅ。いやん。」
と悶えると、揺れる黒髪を右手で搔き揚げた。

好代が満足そうに眠ったのを見て、レズニスルは次はどんな秘儀を教えてやろうか、と思ったが、ふと、初恋の相手を思い出した。
それはパリでのビジネス専門学校一年の時、相手は長身で美男子のアサン・モロンという同級生だった。彼は栗色の眼をして、足が長く痩せていた。何人もの同級生の女の子とデートしていた。それも、パリは20の区があり、それぞれの区の女の子をものにしていっているという評判だ。1999年の頃、パリの人口は212万人と五千人ちょっとで名古屋より少し少ない位だ。
アサン・モロンは色が白く、髪を長くしていた。ちょっと見ると、大人になりかかった美少女という容貌だ。彼は二十の歳にパリの売春婦に声をかけられ、ただでセックスしてもらい童貞を捨てていた。
二十一の歳になると商売でセックスしている売春婦を何度も、天国にセックスで行かせたのだ。最初の売春婦の友人たちだから、タダでしていただけでなく、逆にお金まで貰うようになった。
そのうち、素人童貞である事に嫌気がさして、アサン・モロンは二十二の歳にビジネス専門学校の同級生の女の子を誘って夜の公園の樹木の陰でセックスした。
アサン・モロンは、その娘とは飽き足らずに次の女の同級生とセックスしたため、最初の娘は愛想をつかした。次の娘の次の娘に手を出したので、次の娘も愛想をつかしたのである。
彼は、多くの女を知りたくなっていた。高校生の女とは違う、たっぷりとした胸のふくらみを見るたびに、少しペニスが立ちかける。だから評判の美青年でありながらも、ヤリチンという噂もあり、次第にビジネス専門学校の女生徒は彼を警戒し始めた。
一度やったくらいでは妊娠も確率は低いために、アサン・モロンはコンドームなしでセックスをやりまくっていた。
レズニスルはクラスが違ったので、アサン・モロンを見た事がなかった。そんな或る日、学校の玄関で帰ろうとするレズニスルに、
「ハイ、元気かい?」
と若い男性の声がした。彼女が左横を振り向くと、そこには男性モデルのような背の高い色の白い男が立っていた。レズニスルは、
「元気よ。あなたのアソコも元気なの?」
と冗談を飛ばす。男はそれに少し微笑むと、
「元気さ。君の中で暴れまわりたいね。」
と気障っぽく言うと、近づいてきた。レズニスルは処女を失えると確信して、
「いいわ。やってほしい。」
「おお、オッケーなの。ただ、ぼくはすぐにセックスはしない。愛を育みたいんだ。早くても三日後にしている。それがナンパ野郎とは違うとこだね。」
学生が、ぞろぞろと帰っていく。その玄関からの階段の上で立ち止まっているのはアサン・モロンとレズニスルだけだ。それを見た一人の女生徒は二人に聞こえない距離まで階段を降りると、横の友達に、
「あーあ。あの娘も又、あいつの毒牙にひっかかるのだわ。わたしも、やられたけど。ただ、あいつのチンポって、意外と柔らかいのよ、大きくて太いけどね。それにすぐ、別の女に声かけるから、呆れるのね。」
「そうなの。チンポは太いだけじゃなく固くないとね。わたしも放課後は、チンポの固い男性を探してるわ。」
最初に語った女生徒は青い眼を輝かせて、
「いいわね。見つかったら、わたしにも紹介してね。」
「うん、三人で遊ぼう。」
その二人は、階段を降りるとパリの街へ歩いて行った。エッフェル塔が見える場所に、その学校はある。エッフェル塔とは、324メートルの高さで、エッフェルという人が設計した万国博覧会のためのものだ。近くには噴水のある公園もあり、ここで多くの女をアサン・モロンは口説きまくった。時には夜、エッフェル塔を見ながら公園で後背位セックスに浸ったアサンだった。

レズニスルはアサンから名刺をもらっていた。そこには彼の住所と電話番号が記載されている。アサンは、
「三日後に会おう。」
と両手を広げて肩をすくめて見せた。

レズニスルにとっては、その三日後までが楽しい期待の日々だった。パリには四百も緑地帯があるから、数本の大木の陰で処女を失うというのもいい。16区にあるブローニュの森でアサンとするのも、いい。レズニスルは、ブローニュの森を散策している時に、大木の上から女性の声が、
「アハッ、アハハン、シエル、シエル!」
泣き叫ぶのを聞いた。その声のあたりを見上げると、なんと、そこで若い男女のカップルが全裸で後背位で木の枝に跨ってセックスしていた。その樹の根元には、彼らの服が脱ぎ捨ててあったのだ。それは上着だけで、下着は木の枝にでも置いているに違いない。
ポタン、彼らの汗のしずくが落ちてきた。十八のレズニスルは、拳を握って早足で駆け去っていった。

三日後、は案外早く来た。待ち合わせの場所も決めていたのだ。カルチェ・ラタンのとあるブティックの前で、レズニスルが待っているとアサン・モロンが何だか厳しい顔をして近づいてきた。レズニスルは待ちわびた笑顔を浮かべて、
「ハーイ、アサン。これから二人で思いっきり・・・。」
「ノン。セッタンポシーブル(不可能だ。)ぼくはね、神への道を生きる事にしたんだ。」
レズニスルの顔から血の気が全部引いた。処女を捨てるというのは、それなりに大決心して来ていたのだった。だが、アサンは処刑宣告をするような口調で、
「ビジネスの勉強も、やめる。カトリックの神父は、結婚できない。女性とも付き合わない。だから美人の君とも、もうお別れだ。」
「そんな・・・じゃ、マリア様に捧げるの、あなたのペニスを。マリア像でオナニーするのかしら。」
「馬鹿な事を言うな。性欲なんて、肉の欲望だ。神様は、そんなものをお喜びにならないのだ。ぼくは主、イエス・キリストに仕えたいんだよ。」
きっぱりと求道者らしく彼は答えると、踵をめぐらせる前に、
「オーボアール。次に会った時は、信仰の事で話ができるようにね。」
と暖かく話しかけて矢のように彼女から離れて行った。
レズニスルはセーヌ川のほとりまで歩くと、暮れ行く空を見上げて、
(わたしより神様の方が、よかっただなんて。)
と嘆いたのだった。

アサン・モロンは神学校に入学した。校長のダニエル・レバシは校長室に彼を招いていた。半白の髪の毛をしたレバシは眼鏡を外すと、
「君は入学してくれると思っていたよ。わたしのモノは、君の女性への思いから解放する力があると信じていた。主は、いかなる方法を使ってでも神への道を良き僕(しもべ)に思い出させる。
二日前の君との行為は、素晴らしかっただろう。君の尻の穴は、君のペニスが女の膣で味わうよりいいものを感じたはずだ。」
と青い眼を光らせてアサンに優しく話しかけた。アサンは顔を朱に染めて、
「ええ、二日前の神父様との行為がなければ、私は神への道を忘れていたに違いありません。女性なんて股の穴で男を狂わせる邪淫な生き物です。私は、どうにか、それから逃れられました。校長神父様、どうか私を神の道に進ませてください。それから、時々でも神父様とのあの行為を、つまり私の尻の穴に神父様の固く大きくなった聖なるモノを入れてくださらん事を。」
アサンは椅子に座った校長の前にある机の前の床に跪くと、両手を組み、額に当てた。
レバシ校長は立ち上がると、跪くアサンの後ろに回り、彼のズボンの上から尻の穴のあたりを指でなぞると、
「時々、どころか、定期的にしよう。髪はもっと長くして構わん。私が許可するから。私の部屋には風呂もあるし、ワインをたくさん置いてある棚もある。ワインを飲みながら、風呂で君の尻の穴に入れると、天国を味わえるだろう。楽しみだな。」
「はい、ありがとうございます。校長神父様。」
アサンは、これからの修道生活に天国への期待をするのだった。

セーヌ河畔を、とぼとぼと歩いて行くうちレズニスルは古びた幅広の建物が眼の前に現れたのを知った。その壁に沿って歩いて行くと中から黒い修道服を着た三十歳ぐらいの修道女が出てきた。
控えめで目立たない彼女の姿は、いかにも神への従順な生活を送る女性にふさわしかった。レズニスルの悩みつかれた顔や姿を見ると、
「どうしました?とても悩んでいるようですね。」
と彼女は、慰めるように声をかけた。レズニスルは、
「ええ、シスター。わたし、とても悩んでいます。実は、心に思っていた男性が立ち去ったものですから。」
修道女は軽くうなずくと、
「よくある事です。あなただけでは、ありませんよ。実は、わたしも二十歳の頃には彼氏がいました。けれども、その彼は、お恥ずかしい話ですけども女たらしだったのです。それだけなら、なんとかできたかもしれません。ところが、或る日、彼は信仰に目覚めて神父になる事になりました。」
レズニスルは自分の場合との相似に驚いて、
「えっ、それは、わたしも・・・。」
シスターは十字を胸の前で切ると、
「こういう話は、外では、しにくいものですね。中に入りましょう。今、休憩時間ですから。」
そう言うと、右手で手招きした。レズニスルはシスターの後に従って、その女子修道院の門をくぐる。道の両脇には薔薇の花が咲いていた。玄関の両脇には白い百合の花が、我こそはと各々、咲き誇っている。玄関を入ってすぐの右側のドアの中が、応接室となっているらしく、レズニスルは古ぼけたソファに座るとシスターは差し向かいに座った。窓際には白い陶器のマリア像が飾ってあった。レースのカーテンの外は真っ黒になってきている。レズニスルは、そのシスターが救いのマリア様のように見えた。シスターは薄い唇を開くと、少し頬もこけている痩せた体を乗り出して青い眼で、
「神父様に、あなたの彼氏もなる事になったのですね。」
と、いたわるように話しかけた。
「ええ、そうです。よくある話ですか、こういうのって。」
身を反り返らせて、シスターは人差し指を右の頬に当てると、
「そうねえ。フランスはカトリックの国ですからね。男性は神父様になるのが一番だと思うのだろうし。」
レズニスルは、ほっ、とため息をついた。それから、うつむいて部屋の床を見つめていると、ススス、とその前に黒い影が動いた。見上げるとシスターが、左の隣に立っている。シスターは、右手をレズニスルの左肩に置いた。骨ばったその手は、しかし柔らかく感じられた。シスターの高い鼻の下の唇が動いて、
「彼が神の道を選び、独身を通すなら、自分たちも神に仕えて独身であらねばなりません。それでも、女の感覚器官は黙っていないけど、彼でなくても。」
シスターはレズニスルの両方の乳房を両手で素早く揉みながら、熱くキスしたのだ。キスを続けながら、シスターの手はレズニスルのスカートの中から黄色いパンティの中に入り、レズニスルのCON(おまんこ)を巧みな指使いで擦った。
ああ、レズニスルのCONは女性の手によって初めて開発されたのである。心の中でレズニスルは、(やめてください)と言おうとしたが、眼を上げるとマリア像が優しく微笑んでいるし、シスターも懸命に自分のCONを愛撫していた。その真剣さと、自分が感じる快感に彼女はソファに背を深くつけて、頭をのけ反らせてしまった。両脚は少し開いてしまう。それを見たシスターは、レズニスルの衣服を素早く剥がしてしまった。十九歳の彼女の白い全裸は、乳房も形よく突き出て股間の草むらは男性が見るとすぐに勃起するような形状をしている。縮れたcheveux pubiens(フランス語で陰毛。発音はシェボー プビエン)の下にはクッキリと割れ目が盛り高い淫丘の下部に顔を出していた。その割れ目にシスターは、すぐに口づけると割れ目の中に長いルージュ(赤)の舌を潜り込ませた。レズニスルは、
「a!han!bon!bon!」
と悶え声を上げたのだ。それは彼女の処女膜が破れた時でもあった。
シスターは少し流れた紅い血を見て、
「おーう、処女だったのですね。神の祝福です。」
と声を上げると、両手はレズニスルの両乳房を掴みながら両手の人差し指で両乳首を愛撫した。と同時に舌でレズニスルのCONを舐め続ける。
レズニスルは、天国に行くような快感を覚えていた。眼にチラチラと入るマリア像の微笑みは、処女懐胎したマリアがレズの喜びは知っていたのではなかろうか、と思わせるものに見えた。本当はマリアも処女で妊娠するものですか、とは心の片隅では思いつつ。
シスターは、ドアに行き鍵を掛けると着ていたものを脱いだ。修道女服の下は下着をつけていなかった。黒々としたシスターの陰毛がレズニスルの眼に鮮烈に焼き映る。シスターの胸は貧乳だった。
レズニスルの視線が自分の貧乳に注がれるのを感じたのか、シスターは、
「わたしの胸、乏しいけど。イエス様も貧しいものは幸いなるかな、天国はその人にあり。と仰ってるわよね。この胸、でも乳首は固く尖るのよ。あなた、吸ってくれないかしら。」
シスターは、レズニスルに覆いかぶさると、貧乳をレズニスルの口に当てた。乳首をレズニスルが吸うと、それはたちまち固く太くなった。口を開くと、
「本当ですね。あ、シスターのヘアが私のヘアにあたってます。」
「あなたも結構、剛毛ね。もう一つの乳首も吸って、A!HAN!セ、ボン。」
「プルクワ(何故)?シスターに、なられたのですか。」
尋ねるとレズニスルはシスターの赤い乳首を吸う。
「AA!HAN!男に、もてなかったからよ。貧乳って事もあると思う。あなたは大きなオッパイだから、これから男はできるわ。わたしの乳首、両方とも立ったから、これをあなたの乳首に当てて終わりにしましょう。」
シスターは、自分の乳首をレズニスルの乳首に当てると擦りつけた。微妙な感覚をレズニスルは感じると、いい気持ちになった。次にシスターに舌まで入れられるキスをされて、マンコをいじられてシスターは、立ち上がると修道女服を手早く身につけた。壁の大きな時計を見ていたらしい。その時、閉じたドアが外からドンドン、と叩かれて、
「シスター・メルネンコ、晩の祈りです。聖堂に来なさい。ついでに今の行いも懺悔するように。」
シスターは気をつけの姿勢で、
「はい、院長様、ただちに参ります。」
と答えると、レズニスルに向いて、
「帰りは、自分で帰ってね。アデメン、じゃなくてオーボワールかな?」
アデメンは又、明日という意味だ。日本語ではアドマと表記されたり聞こえたりする。シスターは、ドアの鍵を外して出て行った。

家に帰ると日本人の中年男性が応接間に来客していた。がっしりとした体格で、アレも太そうだ、と彼女は思ってしまった。父親の外国郁夫は、
「お帰り、レズニスル。私のビジネスの仲間の丸三商次君だ。」
と来客を紹介すると、その男は、
「はじめまして、丸三商次と言います。日本の福岡から来ました。私どもは、フランスのワインを取り扱っておりまして、こちらの「ソトクニ・トレード」さまとも末永く、お付き合いさせていただきたいと思っています。」
彼はレズニスルに頭を下げて、再び彼女を見ると、
「いや、これはお美しい。ビーナスのような美を持っていらっしゃいますね。」
と嘆賞すると父の郁夫が、
「いやなに、まだ学生ですよ。未成年者です。ビジネス専門学校を卒業したら、わしの会社で働かせようと思ってね。」
と先の計画を打ち明けると、丸三商次は眼を銀河系の星星のように輝かせて、
「それは楽しみです。ぜひ、お嬢さんが成人した姿を拝見したいものです。」
と意志を述べると、父親の郁夫は、
「ああ、もちろんです。福岡は私の曽祖父の出身地で、東京で事業を興しましたが、そのおかげで私もフランスに来て商売しとるのです。娘のレズニスルにも関係のない土地では、ないですからな。あははは、おい、レズニスル、丸三さんに挨拶しなさい。」
座っている二人のうち、丸三に顔を向けて、立ったまま彼女は、
「ボンソワール、ムッシュウ。レズニスル・ソトクニです。」
と乳首にむず痒さを感じながら自己紹介した。
こんな出会いで三年後、二人は結婚した。

新婚旅行は京都にした。福岡市で結婚式を挙げると新幹線で京都へ旅立った。三時間もしないで京都に着く。福岡市に比べれば古い建物も多いし、パリに比べれば街の美感も感じられない。
(古いだけが立派な事なのかしら、古都っていうけど。)
レズニスルは夫の丸三商次と京都を回りながらも、変な失望を覚えていた。どれも、これも古い。福岡市は、新しい。彼女は夫が福岡市の人間でよかったと思った。それに何かしら、
「・・・どす。」「・・・どすえ。」
って、人の話を聞いていると、最後はそう聞こえる。どすはDOSの事かしら、昔のマイクロソフトの製品にあったけど、今はWINDOWSのはずだわ。京都の人は古いのが好きだから、今でもWINDOWSを使わずにMS-DOSを使っているのかしら。それじゃ、
DOSえ、というのは何の意味だろうな、とレズニスルは思った。
そのうち、
「いいえ。」
という言葉が聞こえたが、これは日本語の「いいえ」なのだろうか。旅館の中年の女中が、
「明日は雨どすさかい、この部屋でゆっくりしてはったほうが、いいえ。」
と夫に話しているのを聞いてしまった。さかい、というのは大阪の堺だろうか、雨DOS堺、というのもよくわからないけど、
ゆっくりして這った方が、NON
というのもわからない。京都言葉はレズニスルには何のことやら、わからなかった。
博多駅で見送りの人が、
「ゆっくり京都ば、見てきんしゃい。」
とか言っていたが、あれもわからない。京都場って、どこにあるのだろう。見て金シャイ、ってシャイは英語なのは分かるけど。
窓の外は夕暮れだ。パリの夕暮れとは違うなあ。湿気っぽい日本の夕べ。夫と本格的に付き合うまで、あの修道院に時々行って、シスター・メルネンコとレズしてた。
シスターは外に出るときも、あの修道女服だから目立つし外ではレズはできなかったけど、女子修道院には長い歴史の中でレズのテクニックが開発されていったという誰も知らない事を教えてもらった。神に処女を捧げるといっても、やはり女の体。我慢できなくなる人達の方が多いらしい。もともと男性とつきあいのない人達ばかりだから、女のほうに興味をもってくる。先輩のシスターが後輩のシスターに対して、男役になるのが普通らしい。
シスター・メルネンコの話では、祭壇の蝋燭でオナニーしていた修道女もいた、とか。若いその修道女は、
「メルネンコ、祭壇の蝋燭は太いから、とてもいいよ。」
と感激していたらしい。
こういった修道院で、わたしは幾つかの秘儀も学んだけど。「ピアノマンコ」なんか使う時が来るかしら。

窓の外の夕闇を見ながら回想に耽っていたレズニスルに夫の丸三は、
「これから、ご馳走を食べて舞妓さんに踊ってもらうから楽しいよ。」
と彼女の肩に手を置いて告げると、
「それが終わったら、・・・でしょ?」
とレズニスルは夫を振り向いて聞く。丸三商次は逞しい自分の胸を叩くと、
「ああ、そうだよ。初めての夜だね。」
と自信ありげに返答した。

豪勢な京都料理が二人の前に並べられた。十二皿の小鉢にお吸い物、茶碗蒸し、それから白味噌雑煮というもの。
二人は、せかせかと料理を食べたが、レズニスルはどうも白味噌雑煮の餅が苦手なようだった。箸で餅をつまんだが、どうも上手く食べられない。夫の商次は、それを見て取ると、
「京都名物の白味噌雑煮はね、こうやって食べるんだ。」
と言いながら妻の傍に来ると、キスをして妻の大きな白い乳房を揉んだ。
「A!A!」
レズニスルは声を出して眼をつぶると、夫は
「眼を開けてご覧。」
と言うのだ。彼女が眼を開けると、丁度口の前に夫の巨大なモノの亀頭の上に白味噌雑煮の餅が乗っているではないか。彼女は、
「セ、ボン。」
と発音すると、夫のモノと餅を同時に口に頬張った。秘伝のだしが、フランス育ちの彼女にも、おいしいものとして口の中に感じられた。夫の亀頭の上の餅を口の中で滑らせて、彼女は口の中に入れた。夫は、
「おお、いいフェラチオテクニックだよ。気持ちよかった。」
と話すと、イチモツを浴衣の中にしまった。レズニスル浴衣なのだ。紫色のお揃いの浴衣を彼らは身にまとい、京料理を堪能した。舌太鼓をドンドンと、鳴らしたのだ。

しばらくすると障子の外から、
「踊り子はん、入れてもよろしおすか?」
という若い女中の声に、丸三商次は大声で、
「いいよー、食べ終わったけん。」
と答えた。レズニスルには、食べ終わった件、と聞こえた。
ガラリと障子が開くと、白い着物に紅い帯をして、顔には白粉を塗り髪は結い上げて、鼈甲のかんざしをつけた若い舞妓と三味線を抱えた着物姿の五十路の女が部屋に入ってきて、二人とも丸三夫婦の前の畳に三つ指をついて、舞妓が
「佳つ百合いいます。よろしゅう、お願い申し上げます。」
と細々と挨拶した。
舞妓は二つの扇子を手に持って三味線の響きに合わせて、踊り始めた。どうもフランスのバレーのような動的なところは、ないようだ。二つの扇子を広げてヒラヒラさせたり、横に少し移動したりと動く空間も狭い。それに、おしろいをつけた舞妓の顔は、どれも同じようなものだ。おしろいをつける事で、表情が均一化されるのだろう。

バレリーナの踊りなどでは、片足を高く上げたり、くるくると体を回転させたりする。それに比べれば舞妓の踊りは消費カロリーも少ないものだ。
佳つ百合の踊りもレズニスルには、物足りないものだった。

舞妓の佳つ百合と三味線五十路が部屋を出たら、レズニスルは夫にしなだれかかった。丸三商次は彼女の浴衣を剥がしにかかる。その時彼は、
「お、コンドームしないといけないな。」
と慌てて呟くと妻は、
「そんなのなしで、いいわよ。」
「いや、だめだ。子供はもう少し、あとにしよう。君の体が崩れるのはもう少し、先がいい。外に出て、買ってくるから。」
と言い残すと、夫は部屋を出て行った。
旅館の中にはコンドームの自動販売機など、あるわけもないので、滑りそうな廊下を歩いて玄関から商次は京都の町へ出てみた。
平日なので、人もそう多くはない。足早にコンドームの自販機を探す商次に近づいてくる男がいた。背は高く、ひょろひょろとした感じの男で歳は三十代後半か。頭は角刈りにしている。男は、
「旦那さん、おんな探してはるのと違いますか?」
と商次に柔らかな調子で話しかけてきた。商次は無視して通り過ぎようとするとガバと商次の腕を取り、
「なんの用か知りまへんけど、旅のお方でっしゃろ。そしたら、二度とない機会かもしれへん。ええ女、おりますのや。へへへ。ホテルで、できまっせ。」
商次は興味を惹かれた。自分の精力には自信がある。その女と一発やってからでも、妻のレズニスルとはセックスできるだろう。商次は顔をその男に向けると、
「いいねえ。いくらで、できる?」
「あ、そら、もう。十万円ですわ。」
「一般的には高いな。でも、おれも社長してるんだ。最近は風俗もデフレだねえ。政府は風俗のインフレを目指すとは、言えないんだろうな。京都て安いものだけが売りかと思っていた。ふーん、そんな女がいるのか。京美人なんだろう。」
伊達な角刈り男は揉み手をしながら関西弁で、
「そらーもう。最近は舞妓では、贅沢な暮らしがでけへんもんやさかい、夜はアルバイトしてますんや。そやけど夜のアルバイトの方が稼ぎ、ええらしいですわ。昨日は三人と寝て、三十万。手取りは七割やから二十一万、稼いだ子です。」
「淫乱じゃないのか。」
「いえいえ、まるで静かな湖のような、ええ女だっせ。みんなに長いコンドームさせますからな、ちんこの肉は彼女のオソソの中に当たらんのです。そやから、処女のような美さえあるんですわ。」
角刈り男は、商次の腕を取って歩き始めた。平安時代か、と思うような建物をいくつも過ぎると、高級めいたホテルについた。パリにあるような白の外観の様相は商次にフランスを思い出させた。
角刈りは、
「ここだんがな。待ってますわ、あの娘。あ、宿泊代はタダにさせてもらいます。」
それは手数料の三万円から負担するのだろう、と商次は思いながら角刈りと中に入ると、フロントは京美人が和服で立っていた。彼女は、えくぼを浮かべて、
「ようこそ、おこしやす。あちらに待ってはりますよ、彼女。」
と右手で待合場所のような空間を示した。ホテルもグルかと思いつつ商次が、そこを見ると、なんとレズニスルが・・・と思ったが、よく見ると日本的な面立ちは妻とは違った。彼女は明るく笑うと、黒の洋装で立ち上がった。舞妓には見えない感じだ。商次の方に淑やかに近づいてくると、
「行きましょ。」
鈴を振ると出るような音声で話しかけた。美声というのも、引っ張られるものだ。レズニスルの声と似ているから不思議で、自分のタイプは決まっているのかと彼は思った。逆三角形の体格で、外に出るときは黒縁の眼鏡をかけている商次は彼女の揺れる尻を見ながら、ついていった。
突き当たりの部屋に商次が後から入ると、彼女はドアを閉めて、
「先にお金の方をお願いします。」
と右手を出した。はいはい、十万円ね、と商次は三十万円入れている財布から十枚抜き出して彼女に渡した。それを受け取ると嬉しそうに、
「おおきに。うち、金持ちの方としかしませんの、あれ。」
と語り、自分のブランド物らしい白の財布にしまうと、肩にかけていたバッグに入れて、ベッドの頭の板に置いた。しかし、よくレズニスルに似ているものだと商次が思っていると、いきなり元気よく彼女は服を脱ぎ始めた。肌もレズニスルほどではないが、白い。彼女は黒のパンティとブラジャーだったが、それも外すと商次に駆け寄って彼の股間の膨らんだものをズボンの上から握り締めて、関西弁で、
「元気ええな。もう、こんなに立ってはるわ。特製のコンドーム渡しますよって、それしてね。薄いのやから、コンドームの感じしないと思いますよ。」
商次も脱いでいると、細長いコンドームを手渡された。彼女は、うふと笑うと、
「ちんちんの根元まで嵌めてくださいね。うちの純潔、守るため、しもらってます。」
とスラスラと説明する。十万で客とって何が純潔だ、と商次は思ったが、
「わかったよ。君のような美しい女性は、そうでないと。」
「あら、嬉しいこと言わはるのね。そんなら、コンドームせんといてもいいですよ。」
半立ちのチンコに長いコンドームを、かぶせかけていた彼は驚いて、
「本当か。」
「うちと結婚してくれはりますか?」
真顔になって彼女は、聞いた。
「いや、それはね。実は今日、結婚式して京都に新婚旅行で来てるんだ。重婚なんて犯罪になるしな。」
ふん、という顔を彼女はすると、
「そうなのやね。よく奥さん残して出てきはったわ。」
ぐい、とコンドームで覆われた商次のロングサイズを握り締めて柔らかな指でツーと根元から亀頭までをなぞった。気持ちよさに商次は、
「あー、柔らかいね。それに君は、ぼくの妻に似てるんだ。」
「そうやの。そしたら、奥さん思うて私を抱いて。」
「よし、そうしよう。」
ベッドに寝そべった彼女は、両脚を彼女の体に対して逆Tの字になるまで開くと両手を前に出した。黒いヘアは逆立っていた。ぱっくりと開いた彼女の膨らんだ切れ目に商次は完全包装されたロングなモノをズーンと埋め込んでいった。彼女は静かにゆらめくと、
「ええわー、ええですぅ、ちんこ最高。」
と透き通るような声を出した。商次は腰を振りながら、
「そうか、いいか、最高か。」
と彼女に顔を近づけて聞くと、
「うち、ミス京都なったんやけど、ああん、つきあってた五人の彼が選考委員にうちのセックス写真送ってしもて。あん、もっと擦ってええよー。」
と昔の事情を語ってくれた。彼女の大事な部分意外は、商次は自分の舌で舐め回った。一度抜いてから、彼女の足を片方ずつ持ち上げて足も指まで、しゃぶってみた。その粘着するような肌は二回目の勃起を彼にさせてしまったので、
「もう一発、いいかな、入れてしても。」
と彼女のオソソを舐め狂いながら聞くと、
「ええよ。夜の十二時までなら、何度やっても、かましません。そのための十万円どす。五回出した人もいたけど、あんさんのチンコが最高な気がする。」
商次は感激して、柔らかな彼女を抱くと二回目の挿入に腰を動かした。キスをしてやると、うっとりとした眼で、
「体の相性が、ええみたいや。あん、ええわっ。」
悶えると自分でも彼女は腰を振り始めて、
「ああーん、あん。」
とそれから連続的に悶えの美声を商次が二回目に果てるまで、あげつづけた。眼までレズニスルに似ていた。
(本当は、おれはレズニスルを抱きたいから、この女まで彼女にみえるんだろうか。)彼はそう思いながら腰の辺りが、こらえきれなくなって、大量に発射していくのを感じていた。

待っても待っても夫は帰ってこない。レズニスルは外に出てみようと思い、旅館の部屋を出た。廊下を歩くと、ばったりと突然先ほどの舞妓と出会ってしまった。佳つ百合は、おしろいを落としていたがレズニスルには彼女だとすぐに分かったので、
「佳つ百合さんですね。」
と彼女に声をかけると、着物を着た細い肩の彼女は嬉しそうに、
「ええ、そうどす。今日は、ここのお呼びが多いから、ここに泊まってますの。」
おしろいを落とした彼女は、矢張り白い肌で眉毛は細くて眼はパッチリとしていて、胸のふくらみは着物だから特に見えない。脱げば、わかるだろうけど。背は百五十六ぐらいで、レズニスルより小さい。レズニスルは百六十八センチは、ある。
「そうだったんですか。わたし、夫が今、いないから探しに行こうとしてたの。よかったら、部屋に来ない。わたし、フランスから来たばかりで不安なのよ。」
佳つ百合は可愛そうに、という顔をするとスススススと流れ滑るようにレズニスルに近づいて、
「よろしおすえ。」
「?」
よろし、オスえ、なのか、よろし、お酢え、なのか。そこで、
「お酢は、あまり好きじゃないのね。ノン、ノン。」
と言ってみると佳つ百合は、ぽかんとして、
「お酢なんて言ってませんよ。あなたの部屋に行っても、いいわ、と言ったんですけど。」
レズニスルは喜悦満面になると、
「アロール、行くわよ。佳つ百合サン。」
「ウイ、マドモワゼル、いや、マダーム。やってんかな、わからしませんけど。」
フランス人と日本人のハーフ、レズニスルについて佳つ百合は、しずしずと歩くのだった。

夫が帰ってこない部屋に男を連れ込むならともかくも、女の舞妓なら構うものかとレズニスルは思っていた。が、しかし女らしい佳つ百合は夫の代役にはならない。障子の外から女中の声が関西のイントネーションで、
「こんばんは。」
と聞こえた。
「ハーイ。ドウゾ。」
とレズニスルは気軽に応答すると、ガラリと障子が開いて着物を着た若い女中が現れると、
「お布団敷きます、ごめんやっしゃ。」
と断って押入れの中からフカフカそうな布団を二組、手際よく敷くと、
「高級な羽毛布団ですよって、気持ちええですよ。」
にっこりと白すぎる歯を見せて笑い、
「ほな、失礼します。」
部屋の中にいる佳つ百合をチラと眺めて、若女中は部屋を出る時に、
「もう朝まで来ませんさかい、部屋の鍵、閉めてください。」
と注意した。レズニスルは、
「ジュ、コンプラン(わかりました)。」
と答えて、女中が出てからドアに鍵を掛けた。

部屋に戻ってきたレズニスルに佳つ百合は、
「旦那さん、この中にいらはるんですか?」
と真顔で聞くと、いらはる、ってなんなのかわからないけど、ああ、夫ね、
「夫は出て帰ってこないの。遅すぎるし、どうなったのか分からないけど、でも、これからの時間は鍵をかけないと不用心でしょ。彼が帰ってくれば、わかるわよ。」
「そうどすなあ。それなら、心配あらしませんね。」
レズニスルには、佳つ百合のその言葉もよくわからなかったが、佳つ百合の膨らんだ胸を分かるのに言語は不要だった。レズニスルは立っている佳つ百合に近づくと抱きしめた。佳つ百合は驚いて、
「あっ、なにされますのん。」
と声を出したが、その言葉もレズニスルには分からないし、無視して構わないものだから、慌てる佳つ百合の赤い唇に自分の薄型の唇を重ねた。それで佳つ百合は眼を閉じた。佳つ百合の薄緑の上着はレズニスルの白い上着と密着した。
レズニスルは舌を佳つ百合の唇の中に差し入れながら、佳つ百合の長い髪を右手でもてあそぶ。髪から、乳房、オマンコへとレズニスルの右手は動いた。マンコをいじられると佳つ百合は眉根を寄せた。レズニスルは右手で佳つ百合の膝の裏あたりを抱き上げ、左手で佳つ百合の肩を抱いて寝室の羽毛布団に持ち込んだ。ゆっくりと佳つ百合をフワフワとした感触の布団に寝かせると、彼女の服を脱がせていった。佳つ百合は抵抗せずに眼を閉じている。やがて、中背の彼女の白い裸体がレズニスルの眼に映った。

熟女に優しい管理人 体験版

 いきなり玄関に入ってきた見慣れた顔に、主婦の美貴子は驚いた。美貴子は三十歳の福岡市の分譲マンションに住む、美人妻だ。口を尖らせると、
「チャイムくらい押してもらえませんか。」
と抗議すると、
「うっかりしてすみません。だけど防犯上、玄関に鍵を掛けておくのは当たり前ですよ。マンションの玄関はオートロックですけどね。それを確認する意味でも突然ですが、開けさせてもらいました。」
とその四十代のだらしなさそうな男は発言した。美貴子は納得して、
「そうでしたね。わたしが不用心でしたわ。でも、お向かいの北山さんも玄関に鍵をかけないとか言ってましたけど。」
フンフンと鼻を鳴らしながらその男は聞いていたが、背が高く肥満体の中年男性だ。
「北山さんにも注意しておきましょう。ただ、北山さんにではなく藤村さんに言わなければならないことがあります。おわかりでしょう。」
藤村美貴子は、そしらぬ顔をすると、
「なんですか。わたしには何の事か・・・。」
「ふん、わかっているくせに。先月の管理費を振り込んで欲しいんですがね。」
美貴子はあわてて、
「あと十日、待ってください。必ず振り込みます。」
そう言い訳をしながら、藤村美貴子は腰を動かした。主婦にしては短いスカートが揺れた。足を開いて立っているのでパンティの下のほうが中年男の眼に入った。男はごくりと生唾を飲み込むと、
「十日もすれば来月の分を振り込む日になります。オーナーの方から今日取り立てるように言われましてね。」
パンティの色は黄色だった、と男は思い返していた。美貴子は愛想笑いを浮かべると、
「まあ、上がってお茶でも飲んでいってくださいな。コーヒーを出しますから。」
「あまり時間はありません。この後、巡回にも回りますからね。」
「お手間は取らせません。お上がりください。」
美貴子は後ろをその男に見せると、屈んで豊かな尻を突き出すと台所に入ったようだ。男は、しぶしぶと玄関を上がった。台所からトレイにのせてコーヒーカップを運んできた美貴子はカーデガンを脱いで白の上着になっていた。メロンが二つ付いている様に胸は大きく膨らんで、ゆさゆさと揺れていた。豪華な応接セットのガラスのテーブルに美貴子はマイセンのコーヒーカップを置いた。立っている男に、
「どうぞ、お座りください。お粗末なソファですけど。」
男はそれに腰掛けた。すわり心地はとてもいい。マイセンはドイツの陶器で古い歴史を持ち、コーヒーカップには剣のマークがついている。二本の剣を交えた形が青色で描かれている。高価な代物で、ドイツのものは大抵なんでも高い。ベンツにしてもそうだ。カップ一個なら一万円と消費税といったところだ。これは2013年一月現在の値段で、アベノミクスという政策では値上がりするのかどうかは誰も何ともいえない。男はマイセンのカップを手に取ると、ぐいとコーヒーを飲んだ。カチャ、とカップを置いて、
「コーヒーぐらいでは待って一日ですね。奥さんが外出して、いなかった事にしておきましょうか。」
美貴子は喜びで眼を輝かせると、
「明日までには何とかします。」
男はマイセンのコーヒーカップの受け皿にも剣のマークが付いているのを見て、
「なんか高級そうなカップですね。管理費なんて一万千円ですよ。こんなものを買えるのだったら・・・。」
「いえ、これは結婚した時に友人に貰ったものなんです。」
そう言いながら美貴子は男に見えるように両脚を大きく開いた。世界最大の下着のメーカー、トリンプのパンティが大きく現われた。トリンプも又、ドイツの会社だ。美貴子はパンティを上に引き上げているのか、割れ目がくっきりと写っている。美貴子が素早く足を広げたので男は釣られてその部分を見てしまった。美貴子は足を広げたままである。そこから眼を外すと男は、
「そういえば奥さん。奥さんを前にぼく、昔だけどテレビで見た事ありますよ。アイドルグループだったかなー、たしかアフタヌーン少女とかいうグループ名だと思いますけど・・・。」
藤村美貴子は照れたように微笑むと、両脚を心持ち少し更に広げた。割れ目の形も左右に広がる。
「そう、でしたけど。結婚して夫の転勤で福岡市に来たんです。もう5年も前になるかしら。今では福岡市の街を歩いても誰もわたしに気づかないんですよ。」
男はニヤリとして、
「それなら貯金もたくさんあるんじゃありませんか。管理費くらいまとめて払ってもいいと思うけどな。ぼく、アフタヌーン少女のCDは結構、買ったんだけどね。」
「それは、ありがとうございます。でも、わたしの貯金も主人と一つにしてまして、主人が管理してますから。」
そう言いながら美貴子は両脚を開いて元に戻す動作を数回した。その度に割れ目のあたりがピクンピクンと動く。中年男はそこを見ると眼をそらせた。思わず見てしまったのだ、元アイドル歌手の股の付け根を。その価値は一万千円なのか、と男は考えたが、
「それでは、ご主人に連絡させていただきます。私の勤務時間は五時半までなので、ご主人の会社の方に電話しますが・・・。」
美貴子は狼狽すると、
「それは困りますわ。このマンションの管理費はわたしが毎月振り込んでいますから。修繕積立金もですけど。」
「修繕積立金は問題なく振り込まれています。実際の問題として、わたしの給料は修繕積立金からは出ないのですけどね。会社の方からは今月の私の給料から減額するつもりらしいですが、奥さんのとこだけなんですよ。」
男の顔は真剣味を帯びた。美貴子は関心なさそうに、
「それなら少し遅れても会社の方はいいという事なのですね。」
「そうではないと思いますけど。私としても安い給料の少しでも減ると大変なんですよ。」
美貴子は頭を深く下げて、
「すみません。明日までになんとかしますから。」
と言い訳した時に上着の上から胸の谷間が見えた。ブラジャーはしている。意識的に見せてくれたようにも見えた。男は立ち上がると、
「それでは明日、又来ますよ。」
と苦々しく吐き捨てると長身の肥満体を玄関まで移動させた。

男の名前は三船敏行という。福岡市の県立高校を卒業後、上京して不動産会社に就職した。バブルの時は羽振りがよかったが、バブルが弾けてその会社は倒産。別の不動産会社も採用してくれなかった。アルバイトから派遣に登録して働いたが政権交代で派遣の禁止により、仕事を失う。都営住宅も五十歳以上でなければ入居できず、都の住宅補助金を受けようかとも考えたが仕事に目途がつかないので故郷に帰ったのだ。そんな故郷でなんとか分譲マンションの管理人の仕事にありついた。福岡市の中央区大名に本社を構える繁売住宅という会社は主に分譲マンションの販売管理を行う大きな会社だ。元は早良区(さわらく)で賃貸住宅の仲介をしていたが、小さな分譲マンションから始めて成功すると、福岡市のあちこちにお城のような巨大な分譲マンションを建設していった。福岡市はかなり前から一戸建て住宅を建てる土地は中心に近い場所はなくなっていた。近郊の筑紫野市などが建売住宅が販売されてはいるものの、通勤には時間がかかるため、市内の中心になるべく近いところに住みたい人が多いために分譲マンションがすぐに完売する現況で、繁売住宅も大いに儲かっている。他には東京からの分譲マンション会社のものも少なくはない。ライオンズマンションやダイアパレス、東急、三井パークホームなどが眼につく分譲マンションだ。
三船敏行も四十歳になる。管理人になるには早い年齢だが、他に仕事は見つからなかった。彼の担当している博多区の博多駅から南の巨大な分譲マンションは建築されて新しい。とはいえ分譲マンションなので主婦の年齢は三十代後半が主で、藤村美貴子は若い方だ。三船は美貴子の部屋を出てからも彼女の黄色いパンティが目の前にチラつくのを意志の力で振り切りつつ、管理人室に戻った。
 藤村美貴子はエリート会社員の男性と結婚して芸能界をやめた。結婚生活は五年になるが子供はまだいない。そのせいもあってか、貯蓄するより浪費する事がなかなかやめられないでいた。歌手だった頃より少し太ったので、博多駅近くのエステサロンに行ったりアマゾンでダイエットサプリメントを購入したりしていた。その購入も一時にかなりのものを買ってしまう。芸能人の多い無料ブログでブログも作ってみたが、文章を書くのが面倒になって閉鎖した。ひとつはアクセス数が少なかったのも原因で、今は彼女が属していたグループより別の四十人以上いるグループに注目がいっているためのようだ。ステルスマーケティングを頼まれる事もなかったので幸いだとは言えるのだが。
 夫の拓郎は深夜に帰宅する。エリートな彼には仕事が山ほど押し付けられる。
「ただいまあー。」
疲れきった夫の声を玄関で聞いた美貴子は、
「お帰りなさい。今日も晩御飯は外でだったのね。」
「ああ、取引先との接待でご馳走を食べたよ。」
「そーお。なら、ベッドの中でのご馳走はまだ食べれるわよね?」
美貴子は豊乳を拓郎の背中に擦り付ける。
「今日はいいよ。土曜の夜ならできるかもな。」
美貴子は失望をあらわにすると、
「はやく食べないと腐っちゃうわよー。」
と投げかける。ハンサムな拓郎はにこりともせずに、
「風呂に入ってくるよ。」
と言うなり美貴子から遠ざかった。先にベッドで寝ていた美貴子の隣に拓郎がパジャマ姿で入ってくると、
「おやすみ。」
と言うが早いか眠ってしまった。美貴子は夫のモノにパジャマの上から触ってみたが、そちらもすぐに眠ってしまったらしい。

安い家賃の木造アパートに帰った三船敏行は万年雪のような布団に入ると眠ろうとしたが、昼間見た藤村美貴子の黄色いパンティを思い出すと股間に血液が集まってくるのを感じた。少しの時間で、敏行のモノはカチンカチンになった。
(今頃、藤村のやつ、旦那とセックスに励んでるんだろうな。あの時見えた割れ目に突っ込んでなー。)美貴子の上で腰を激しく振っている男の姿を敏行はボンヤリと想像してみた。

次の日、三船は藤村の部屋へ朝から集金に行った。ドアノブを回したが、鍵が掛かっていた。チャイムを鳴らすと、
「はーい。」
「管理人です、おはようございます。藤村さん。」
「今あけますね。ちょっと待ってください。」
昨日より若やいだ声がした。ガチャと音がしてドアが開く。取っ手を握って中に入った三船は、下着姿の美貴子を見てしまった。思わず股間にエネルギーが集まりかけるのを制して、
「奥さん。着替えの最中なら開けなくてもいいですよ。待ちますから。」
扉の外に出かかる三船に美貴子は近づくと、管理人の制服に右手をかけた。
「ドアを閉めてくださいな。通りかかった人に見られますから。」
三船は慌ててドアを閉めた。美貴子は三船の肩を引くと、
「あがってください。」
と言いながら左手で軽く三船の股間に触れた。美貴子は嬉しそうに、
「元気がいいですね。朝から。」
三船は答えようがなかった。美貴子の甘い匂いが鼻にかかってきた。ボンヤリする頭を左右に軽く振ると、
「すみません。あの管理料をお願いします。」
美貴子は今度は右手でぐうっと三船の股間を握ると、それはますます膨らんだ。
「奥さん、やめてください。これ以上、触られたらぼくは、もう・・・。」
「うふふ。主人はとっくに出勤しているわ。わたしたち最近、セックスレスなの。だから、管理人さんにストレスを解消してほしいのよ。」
美貴子は三船の腰に左手を回す。右手は三船のモノを握ったまま、
「靴を脱いであがってよ。管理人さん。」
三船はそのままの姿勢で靴を脱ぐと、部屋に上がった。美貴子の右手にペニスを握られたまま三船は歩かされた。美貴子は止まると、左手でドアを開けた。そこは夫婦の寝室だった。甘酸っぱい香水の匂いが三船の鼻の穴から入ってくる。三船の股間は管理人の制服のズボンを破りそうだった。美貴子は、
「ズボンを脱がせてあげる。」
両手でベルトを掴むと外して、フックも外し、チャックを下げた。三船の黒いパンツが出てきた。小さなバナナが中に入っているようだ。美貴子はそのパンツも降ろすと、ついに管理人の天空に向かった肉根を眺める。
「まあ、主人のより大きいわ。食べたくなっちゃった。」
彼女は三船のフランクフルトソーセージに、しゃぶりついたのだ。管理人は、
「あっ、だめです。奥さん、イキそうです。」
と声を出すと、腰を震わせた。美貴子の甘い舌を自分のモノに感じて三船は、
(これが藤村美貴子の舌なのか。なんという滑らかな動きだろう。ああっ、おれはこんな事をしていいのだろうか。)窓の方を見るとカーテンが、かかったままだ。部屋には灯りがついている。あまりに明るいため、朝の太陽光と思っていたのだ。美貴子は舌を這わせながら、三船のきんたまを右手で撫でた。その瞬間、三船は、
「あああっ、奥さん!藤村さん!」
と小さく叫ぶと、生ぬるい液体を勢いよく美貴子の口の中に発射していた。それは美貴子の口の中にビシャッとかかった。美貴子はだらんとした顔で、その液体を飲み干している。
「おいしいな。管理人さんも気持ちよかったでしょ。」
「はい。あ、あの藤村さんの舌って滑らかですね。」
「歌手だったからじゃないかな。ボイストレーニングの時、男の先生のペニスをよく口に含まされたわ。そのまま、メロディを口ずさんだ事もあるの。女性歌手って結構、そんな訓練してるみたいよ。アフタヌーン少女のメンバーもみんな作曲家の先生のちんこをしゃぶってるし。そうしないと曲を提供してやらないぞ、なんて言われたりしてね。わたしたちも若かったし、作曲家の先生のアソコにも興味があったから、進んでしゃぶってみたんだ。なかなかの味がしたわ。そうするうちに、アフタヌーンも売れ出したっていう事なのよ。」
美貴子はその頃を回想する。

初老のその作曲家は自宅のマンションの防音設備が整った部屋でピアノを弾きながら美貴子を指導していた。美貴子が誤った音を歌うと、
「だめだめ。そんなノドじゃ、素人だ。今から、プロの歌手としてデビューする。そのためにはな、特訓が必要だ。」
部屋の中には美貴子とその作曲家だけだ。白髪が少し混じったその男は、
「特訓についてくる勇気はあるか。」
と美貴子に聞いた。美貴子は有名な歌手になれるのなら、と思い、
「はい、がんばりますのでお願いしますっ。」
と元気よく答えた。男はうなずくと、ピアノの椅子に座ったまま美貴子に姿勢を向けると、右手でズボンのチャックを引き下げ中からダラリとしたモノを出した。それはまだちいさなソーセージのようなものだった。美貴子はハッとしたが、平静を顔に装った。作曲家は美貴子の眼を見ると、
「どうしてるんだ。咥えなさい、私のちんこを。」
と促してくる。美貴子は、きゃっ、恥ずかしいなどという反応はせずに思い切りよくそのソーセージを跪いて口に入れた。アンモニアの匂いが少ししたが、ソレは少しずつ大きくなってくる。やがてそれは美貴子の口の中に広がった。男は満足そうに、
「君は舌の動かし方がうまいようだね。いい歌手になれるよ。そのまま続けていい。そうだな、今練習している曲をハミングしてみなさい。」
美貴子は新曲を作曲家のモノを咥えたまま、ハミングした。男は、
「よーし。なかなかいいよ。こういった訓練はいずれ役に立つ。テレビ局のプロデューサーやディレクター、それから業界の大物に求められた時もためらってはいかんよ。スターダムにのし上がるには、こういった接待が必要なのだからね。それを知らん若造はアイドルになればキャーキャーと騒いでくれるが、それが君たちのビジネスだ。うっ、おおー、もう久し振りだなー。出すよ、出る出る、打ち出の小槌。」
作曲家は身をのけ反らせると美貴子の口の中に緩やかに放出した。美貴子は吐き出すとまずいかな、と考えて全部それを飲み込んだ。それを見た作曲家は大満足のようだった。後年、その作曲家は美貴子のソロアルバムの曲を全部作ってくれた。

ハッと我に返った美貴子の前で、管理人がズボンのベルトを締めているのが見えた。三船は、
「藤村さん。今月の管理費はいいですよ。ぼくが出しておきますから。」
と提案すると、美貴子はしめしめという顔をして、
「そうしてもらえると助かります。これ位でいいのかしら。」
「もちろんですよ。デリヘルはもう少しするし、て、それと比較してはいけないと思います。ただ、風俗の女性は中洲でも三十歳未満が常識です。」
「あら、それならわたしは失格ね。もう三十だもの。」
「普通の三十歳とは違いますよ、藤村さんは。」
「嬉しいな。ああ、カーテン開けますね。どこからも見えないし。」
「失礼します。藤村さん。」
そそくさと、三船は玄関に移動した。その日は五時半にいつものように管理業務は終了したが、それから中央区大名にある繁売住宅の本社に藤村家の管理費を三船は届けに行った。というより、近くのゆうちょのATMで自分の口座から一万千円を卸して持っていったのだ。
本社一階の業務部で三船は、
「サンパール博多駅南の藤村さんの管理費ですが、奥さんに直接預かってきました。奥さんが忙しくて振り込めないとの事でしたので。」
業務部の若い女性が三船に近づいてくると、三船が差し出したお札を受け取り、
「社長が三船さんが来たら、社長室に来るようにとの事です。」
と事務的に話す。三船が戸惑うとその女性は続けて、
「社長室は最上階の十階です。エレベーターで行けます。」
三船は踵を返すと、エレベーターで社長室に駆けつけた。社長室のドアの横にパナソニックのテレビドアフォンがあった。それを押すと、
「三船さんですね。お入りください。」
秘書らしい女性の声がする。管理人服の三船の姿は社長室の秘書の机の上にあるテレビパネルに写っていた。三船が中に入ると、秘書の席のすぐ後ろにある大きなデスクに座った人物が社長だった。六十代に見えるその姿は、でっぷりと太って血色がいい。まん丸顔の社長は立ち上がると、
「やあ、三船君。集金、ご苦労さん。君に話しておく事がある。応接室に行こう。」
社長は部屋を出ると、三船を手招きして隣の応接室に入った。三船もその部屋に入ると、ドアを閉める。自動的に外のドアの上のほうにあるランプがついて、
「来客中」
の表示が出た。社長は背広姿にネクタイでソファに座ると、
「まあ、かけたまえ。」
「はい。」
三船が社長の真向かいに座ると、社長は上着のポケットからハバナの葉巻を出して火をつけた。一本を三船に手渡し、
「ライターは持っているか。」
「はい、百円ライターを持っています。」
社長はにや、と笑うと、
「私がつけてやろう。ダンヒルの金だ。」
テーブルの上に置いた豪華なライターで三船に葉巻の火をつけてやった。三船は恐縮して、
「恐れ入ります。こんなライターは初めて見ました。」
社長は得意そうに、
「そうだろう。65400円もする。君もいつか持ちたまえ、な。」
「わたしなど、とても・・・。」
「まあ、まあ。夢は持つものだよ。私もね、小さな場所でやっていた不動産の仲介業者だったけど、倹約して分譲マンションを建てていった。最初のうちはただ、次のマンションを建てるために資金を残すので精一杯だったし、ダンヒルどころか、もらいもののマッチで「わかば」を吸っていた事もある。何十年も経つと、どうにかここまできたのさ。君が自分の金で藤村さんの管理料を持ってきたのも分っているよ。」
三船は驚愕の顔つきで、
「どうして、ご存知なのですか。」
「いやね、藤村さんから電話があったんだ。十日もすれば返すという事だった。それからね、藤村さんのたっての希望で、藤村さんの修繕積立金は半額になったからね。」
「はあ、それは了解しましたが、でもお得ですね。」
「そう。あるプランを提案したんだよ。管理量も払うのに困っているのなら、と思ってね。」
三船は好奇心がムクムクと起こり、
「そのプランってどんなものなんですか。」
「今のところは、まだ君には秘密だ。そのうち話す事もあると思うよ。ご主人も了解済みだそうでね。」
謎のプラン、なんなのだろうと三船は思ったが、他人事でもあり社内秘でもあるのなら自分のような一管理人が知るべき事ではないだろうと思い、
「その件も覚えておきます。ただ、入金チェックは私がする事ではありませんし。」
「そうだな。本社でやっている。今日は、君の管理人としては稀な行為に私から礼を言おうと思ってね。」
柔和な笑みを浮かべた社長の顔は、いい人柄が滲み出ていると三船は思った。社長は葉巻を吸うと、オニックスの灰皿に置き、-そのオニックスの灰皿は縞目模様の天然石だ、
「今日はゆっくりと葉巻を吸って帰りなさい。」
「はい、有難く頂戴いたします。」
「ふむ。君は管理人には勿体無いな。私は管理人さんをすべて知っているわけではないから。」
「いえ、私などは人生の落ちこぼれですから。」
「なにを悲観的な事を。君はまだ四十歳なのだろう。これからだよ、本社の仕事もやってもらうように考えておく。」
三船は葉巻を吸うのを止めて、
「本当ですか、社長。そんなにいい話、夢みたいです。」
「私がウソをついて、どうなるかね。しばらくはもう少し管理人業務に励んでくれたまえよ。」
「はいっ、社長。」
その日はアパートのぼろい部屋も気品が現れたような気に三船敏行は思ったのであった。

 次の日も三船はサンパール博多駅南の管理人室で掃除の後の午前中をボンヤリと管理人室に座って、過ごしていた。目の前を住人の一人が通り過ぎるかと思うと、三船に気づいて、その三十代前半の女性は声をかけてきた。中背だが肉感的なスタイルの二重まぶたの色気漂う雰囲気で、
「管理人さん、今日仕事が終わったらヒマですか?」
「ええ、ヒマではありますがね。」
「五時半に終わるの?ここの仕事。」
「ええ、大抵はそうですよ。」
「じゃあ、迎えに来るから待っててよ。」
「え?ええ?」
三船が何か言おうとすると、その女性はオートロックを開けてマンション内に入った。(どういう事だろう。でも、待ってないといけないかな。)三船の頭の中に社長の-業務に励むように、という声が聞こえた。(これも業務かあ)と思ってみたのだ。それから集合ポストの前に行き、大きなゴミ箱に捨ててあるチラシを更に大きな収納箱に入れる。たまったら廃品回収業者を呼んでトイレットペーパーに交換してもらう。そのトイレットペーパーは管理人室の便所で使う。この集合ポストのチラシを住民が捨てるのを嫌って、つまり何もしたくないからだが、チラシを禁止している分譲マンションが多いのはご存知だろうか。こういった事もしないマンション管理会社や管理人は究極の怠け者である。が、かなりあるのは事実。こんな分譲マンションに入居している住民はチラシを拒否しているために情報弱者となっていくのは必定なのだ。三船の勤める繁売住宅では、サンパールマンションのすべてにこのゴミ箱を設置している。こういった良心的な分譲マンションは実は少ない。であるからして、チラシ禁止の分譲マンションに入居したら出世は望めないものと思ってよいだろう。チラシ一枚も情報なのだ。今の社会で何が流行っているのか、売れているのかさえ掴めない様では、この社会で成功することなどあり得るはずもない。
それが終わると、マンション前の緑地に水をやって、マンション内に入ると全部の通路を歩いて行くのだ。
「今日も異常はなかった。」
管理室に戻って三船敏行は呟く。それからズボンのポケットに手を入れて、さっきゴミ箱の中から見つけた一つのチラシが入っているのを確かめた。それは、風俗のチラシだ。実はこれは、福岡市の条例で配るために持つ事さえ不法であるとされている。デリヘルのチラシである。三十分、一万二千円からある。そのコースはフェラチオして終わりだが、オプションもついている。ディープキスだのアナルセックスとか追加を頼めば料金も上がる。敏行はこのマンションの近くの古い木造アパートに住んでいるので持ってかえって、ジックリと眺めるつもりだ。彼は独身なので風俗には精通している。アフター5:30にはマンションの住民は敏行を見る事もない。が、今日の五時半にはあの女性が迎えに来るという。で、五時半になった。敏行は管理人室のカーテンを閉める。マンションの玄関外で待っていると、
「お待ちになったかしら。」
と問いかけるのは、あの女性だ。
「いえ、待ちません。」
「そう、それなら大通りに出ましょう。」
二人は車が常に通る四車線の道路に歩いて行った。その女性は、車道に近づくとタクシーを止めた。黄色いタクシーは、すぐに止まった。その女性は後部座席に先に乗ると、
「乗ってくださいよ。」
と笑顔で誘うので、敏行も乗り込んだ。女性は、
「宗像のホテルまでね。」
運転手は、
「宗像のホテルって、いっぱいありますよ。」
「宗像に着いたら、わたしが道を言うわよ。発進してね。」
「わかりました。」
宗像とは福岡市の北東にある人口九万六千人ほどのベッドタウンだ。住宅がある以外は水田ばかりの所と言えば分りやすい。タクシーはまずは福岡市東区へ向かう。敏行の右に座った女性は、
「自己紹介もしてなかったわね。神具瑠真子(しんぐ・るまこ)って言います。シングルマザーなのよ。中洲でキャバ嬢してるからー、あのマンションもパトロンにキャッシュで買ってもらったのね。福岡市の財界のおじいさんだけど、月に二回訪ねてきてセックスして帰っていくのよ。」
敏行は前の運転手が聞いていたら、と思ってバックミラーに映る運転手の顔を見たが表情を変えない。それならと答えて、
「月に二回って・・・そんなもんでしょうね。」
「他に二回は別の女のところに行ってるみたいよ。だから、毎週一回はイタシテイルのよ。」
「へええ。なかなかの方ですね。管理人室からはお見かけしませんが。」
「六時過ぎに来るから、見ないでしょうね。奥さんはもう、おばあさんらしいわ。奥さん公認だから、気楽みたいよ。」
敏行は自分の股間に瑠真子の左手が置かれるのを感じた。爪にはマニキュアで、色は黄緑色だ。ネイルサロンで手入れしているのだろう。瑠真子は左手に力を入れると、
「でも、わたしも月に二回じゃあ物足りなくってさ。管理人さんは普通の管理人より若いようだけど、と思って。独身なんでしょ?」
「そうです、よくわかりましたねー。あうっ。」
瑠真子の左手が敏行のモノを掴んで左右に動かしたのだ。
「水商売ならそれくらい見抜かないと、やっていけないわよ。わたしナンバーワンなのよ、指名でね。あら、もう硬くなってるのね。たまりに溜まった山奥のダムってところなのかなー。」
敏行は半年前に中洲のピンサロで連続三回抜いてもらってから、射精していなかった。それを答えるわけにもいかないので黙っていると、
「わたしも、この前じいさんが来てから十日たってるし、中年のあなたの方が魅力的だわ。おっぱい触ってよ。」
「い、いや、こんな場所では・・・。」
瑠真子は左手で敏行の右手を掴むと、自分の左胸に当てた。見た目より豊満な感触だ。特につかまずに当てていると、
「握ってみてよ、あ、はーん。もっと強く。あなたのモノも力強くなってる。ホテルまで我慢してね。」
外は箱崎から名島に向かう道路で歩道の人は多くはない。国道に沿って歩く人はそういないのだ。敏行はゴムマリを掴んで遊ぶように瑠真子の左の乳房を揉んでみた。はあはあ、と瑠真子の息遣いが荒くなる。彼女は敏行のズボンのチャックを降ろすと巨根を取り出した。そのコーラの瓶のようなものを見て、
「すっごいなー。これなら、ホテルに着く前に一発出しても大丈夫だわね。」
瑠真子はポンっと飛び上がると、敏行の膝の上に乗った。それから足をタクシーの床につけてスカートの中からパンティをずり下げると素早く自分の秘密の部分に敏行の瓶を当てると自分で腰を沈めて貫通させた。
「あああん、いいっ、すごい、すごーい。」
瑠真子は大声で悶えまくった。運転手の耳に届かないはずはない。しかし、運転手は安全運転を続けている。敏行の左の目には窓ガラスを通して流れる香椎の町が見える。香椎神宮は右手に数百メートルのあたりにある。古く大きな有名神社だ。瑠真子の左目はそちらの方を向いていた。
「ああ、香椎神社の近くねえっ、おまんこいいわっ、まんこ、いい。もっと突いていいのようっ!神社で、ああ・・・わたしのマンコ、締まってる?」
敏行は右目で窓ガラスの外を思わず見ながら、
「はいっ、締まってます。香椎神社も閉まってますよ、もう。ううーん。」
瑠真子が激しく腰を振り始めたのだ。敏行はすぐにイキそうになるのをこらえていると、タクシーの車内は瑠真子の愛液の匂いが充満した。バックミラーに見える運転手の顔の唇は笑っているように歪んでいる。信号が赤になってタクシーが停止すると、歩道の人は車内の様子には気づかないようだ。瑠真子は動きを止めている。青になって発車すると彼女は腰を動かし始めた。瑠真子は断片的に喘ぎ声を洩らしている。今まで黙っていた運転手が口を開いた。
「白バイが走ってきてますよ。捕まっても知りませんからね。」
瑠真子の耳には聞こえなかったようだが、敏行の耳には聞こえた。それで、
「瑠真子さん、一旦、ああ、やめませんか?」
「いい、時にやめられないわよ。公然な行為じゃないでしょ、だから白バイも気づかないわっ。」
白バイはタクシーの左側を通過していった。前方のバイクのスピード違反を追いかけていたらしい。そのバイクが白バイに呼び止められ停車したところをタクシーは楽に通過していった。それを左眼で見て安堵した敏行は熱い液体を瑠真子の体内に放出してしまった。ビクッと体を震わせると瑠真子は腰の動きを止めて、敏行にキスをすると体を離して後部右側の座席に戻る。パンティを元に戻すと、
「運転手さん、すみませんでしたね。わたし、欲求不満で場所も弁えずに。」
「あはは。いいんですよ。最近はよくある事です。昨日なんか、三人のお客さんが乗ったんですが、後ろに男女一名ずつと、助手席に女のお客さんです。やっぱり長距離だったんですけど、後ろの方達がやりはじめたのは気にしなかったんですが、私の隣の女性のお客さんが私の・・・その、股間に手を伸ばしたんで、びっくりしました。それだけは、やめてもらいましたけどね。短大生とかいう長髪のおとなしそうな人だったから、人は見かけによりませんね。私は熊本出身ですけど、福岡市の乗客って・・と熊本の同業者に携帯電話で話したんですけど、そしたら来月に私のタクシー会社に転職するって言うんです。」
後部座席の二人は黙って聞いていた。
「そういう事って、最近よくありますよ。初めてじゃないからもう動転はしないとですよ。熊本でタクシーを運転していた時は流石に、いませんでしたけど。そういうお客さん。福岡ってすごいなあ、と思いますたい。」
敏行は質問してみた。
「その後ろの方も学生さんでしたか。」
「いや、その二人の人達は若い会社員の男女でしたね。男性は背広にネクタイだったし。あ、福岡市を出ましたよ。」
古賀市に入ったのだ、突然に田舎めいた雰囲気の景色となる。田畑が見えるわけではないし、町らしい建物は続いているのだけども何処となく福岡市とは違う感じがある。この古賀市に山崎パンの工場がある。国道から見えるような所にはないのだが。宗像市に入ってからは瑠真子が道を運転手に指示して一軒のラブホテルに到着した。瑠真子はラブホテルの入り口で、
「休憩にしておきましょう。」
と話しかけると敏行の右肩を叩いた。首を素直に振って敏行は同意した。宗像のような小人口の場所でもラブホテルは四、五軒はある。宗像市内にも不倫カップルはいるだろうし、それ以外の場合にも使われるために存続しているという状況である。今の社会は不景気であると言われる。が、しかし宗像にラブホテルがあるという事は本当の意味で不景気なのか、と問いたいものではあろう。というのも休憩だけでも三千円から四千円位はするものだからだ。不景気を嘆くのは職業の選択を誤っているのではないだろうか。滅び行く産業というのはいつの時代にもあるものである。
 宗像のそのラブホテルは広々とした部屋であった。潰れないのもサービスの良さなのか、フロントでドリンクを二本、二人はもらったが部屋に入って瑠真子が、
「これ、精力ドリンクよ。さすがにいいサービスしてるわねっ。」
と笑顔の波を漂わせる。敏行もうなずくと、それの栓を開けて一気に飲む。途端にムズムズと股間の辺りがしてきた。瑠真子もうまそうに飲んでいる。顔を紅潮させると、
「女のわたしには、こういうの効くのかな。初めて飲んだけど。」
ベットサイドのテーブルには小型の機械がある。それに気づいた瑠真子は、
「これ、美顔器だわ。使ってみるか。」
手にとって顔にローラーを当てて、
「なかなか、いい感じだわ。もう一つあるけど、これは・・・。」
「バイブですね。中々大きいものです。」
敏行が続けて発言した。彼は瑠真子の隣に立っている。瑠真子はクスっと笑うと、
「あなたのモノの方がこれより大きいわ。これを使う必要はないでしょ?」
「えへへへへ。」
ベッドに座ると目の前に大きなビデオ再生の画面がある。瑠真子は、それに近づくと、
「お金入れなくてもいいみたいよ。見放題だって。有名メーカー目白押し、SODクリエイト、プレステージ、ベイビーエンターテイメント、h.m.p、ラハイナ東海、Waap、桃太郎映像出版、オフィスケイズ、MAX-Aらしいわよ。」
「AVのメーカーは三百社以上ありますよ。もっとあるはずですが。」
「ここのは表示されてるのは、これだけだけど。一度アダルトビデオ見ながらやりたかったんだあ。パトロンは嫌がって、してくれなかったけどね。」
「ぼくは、構いませんよ。新鮮味はあると思いますよ。」
「よかった。つけてみるから。」
瑠真子はSODクリエイトのチャンネルを選んだ。素人ものが映し出される。出演している女性が裸になるのと合わせて瑠真子も裸になり、セックスを始めると瑠真子も敏行にしがみついてくる。映像の中の体位と同じ体位で敏行と瑠真子もセックスして、男優が顔射の体勢に入ると瑠真子は、
「あなたは中に出していいわようっ!」
と声を上げたので敏行は、
「ああっ。」
と抜かずに二発、中出ししてしまった。それでもチンコは中々小さくなるのには時間が、かかった。

帰りのタクシーでは瑠真子は前の助手席に座り、十分位して運転手の股間に右手を当てたが運転手は何も言わない。瑠真子はズボンの上から運転手のナニをこすり始めると、
「海に突っ込みかけた事がありましてね。彼女とドライブしていると、海ノ中道海浜公園に行ってたんですけど。彼女がズボンのチャック開けて、ぼくのパンツの上から握ったんです。止めさせたから、海に落ちなかったんですけど。」
と静かに語ったので、瑠真子も手を離したのだった。タクシーは静かに走行して、博多駅を通過した。帰りは早く感じられるのは、夜になったので夜景のために眼が追う対象が少ないせいかもしれない。瑠真子は自宅のマンションの少し前にタクシーが来ると、
「ここで停めて。管理人さんも、ここでいいでしょ。」
そこは三船敏行のアパートの近くだったので好都合だ、
「あ、この辺が助かります。」
タクシーは停まり、瑠真子は料金を払った。二人が降りるとタクシーの運転手は笑顔を浮かべて、ハンドルの近くの冷蔵庫らしきボックスからキリンの一番搾りを取り出すと窓ガラスを開けて、
「お客さん、ビールでも飲んでください。おつりもらったのが多すぎるから。」
瑠真子に呼びかけて、彼女はその冷えた缶ビールを受け取ると、
「これは結構なものね。わたしいつも仕事で飲んでるから、管理人さんにあげる。」
敏行に渡した。のどが渇いていた敏行は、その缶ビールを開けて飲み始めた。瑠真子は敏行に、
「これから時々行きましょうよ、長距離ドライブに。今日みたいに費用はすべてわたし持ちでいいから。泊まりはできないの、わたしシングルマザーだから。じゃあ。」
そういえば、そんな感じだと酔いが回り始めた敏行は瑠真子の黒い服を後ろから見ながら思っていた。部屋に帰ると六畳の部屋でポケットからマンションのゴミ箱の中にあった風俗のチラシを見ると、(今日はもちろん、一週間は持ちそうだな、性欲は。)と思い、それを部屋の片隅に放り投げた。敏行は福岡に帰ってから未だデリヘルを呼んだ事がない。自宅に来られるのも何かと都合がいいとは思えない。2005年頃に風俗のチラシ、主にデリヘルだが福岡市は市の条例でこれを禁止してからというものデリヘル業者はインターネットでホームページを作って宣伝するしか手がなくなったのである。敏行のアパートは木造ではあるがインターネットは光ファイバーを無料で見れるタイプなので、福岡 デリヘルで検索すれば四百十六万件も出てくる。もちろん四百十六万もデリヘル業者がいるわけはないので、いかに多く紹介されているかという事になる。
 ネット上でも福岡のデリヘルは評判がよく、出張で福岡に来たビジネスマンも利用しているらしい。だが、これからの敏行にデリヘルが必要かというと、もしかしたら瑠真子の誘いの回数によっては不要となるに違いない。勤務時間外にマンションの住民とナニをしようが問題ないではないか。何をしようが、というのが普通の場合ではあるが。敏行はナニを瑠真子とするわけである。そういえば、あの元アフタヌーン少女の藤村美貴子とも今後又、何かあるのかもしれないし。思えば金に恵まれない敏行ではあるが、サンパールマンション博多駅南に勤め始めてから女に不自由しなくなるみたいだ。確かに自分は仕事に恵まれないから金にも恵まれない。だけども・・・敏行はパソコンを立ち上げてポータルサイトのニュースを見ると、資産家の夫婦が惨殺された事件が出ていた。五十代の夫と年下の妻で高級車を二台も乗り回していたお金持ちだったが、首を絞められて埼玉に埋められていたという。それを見て敏行はお金持ちでも、こうなったら一巻の終わりだと思った。自分は東京で派遣の仕事を失ったが命までは失ってはいない。分譲マンションの管理人の仕事も一般サラリーマンよりは、性的に欲求不満の女性、熟女と関係を持つことができるし遣り甲斐のある仕事だと思った。ヤリ甲斐のある仕事である。
 さすれば、自分もそうであったが夢か幻のような大金など考えずにこれから生きていけばいいではないかと敏行は思う。先の事件を考えるにあの資産家は犯人にとっては唯の札束に過ぎなかったのだ。殺せば使える大金が、という思いしかなかったから犯行に及んだ。金持ちにまつわる犯罪はよくある話だから、敏行は自分の金欠は幸運ではないかとも思う。だから管理人になって、熟女と色々な性の関係を持てる状況になったのだ。これを天に感謝せずにおれようか。自分は独身だが、先の資産家夫婦みたいに殺される事はまずない。ビールの酔いが回ってきた。がビールだから軽いものだ。すぐに醒めていく。(えーい。もっと飲んでやれい。)敏行は西鉄バスで中洲に行った。福岡市にはこの西鉄バスというバスしかない。バス会社としてはバスの保有台数が日本一で、東京のバス会社が日本一ではない。西鉄は日本一どころか世界一のバスの保有台数を誇るらしい。
 中洲のとあるバーに入ると、一人の女性がカウンターに座っていた。敏行の小学校の頃の同級生で福岡市のローカルテレビ局のアナウンサーになった福美伸子(ふくみのぶこ)だ。彼女の姿はネットの動画でも見れる。一時期の女子アナブームの時は三十代だったが、どうも独身を通したらしい。というのはローカルなフリーペーパーに福美伸子のインタビューをしている記事が載っていて、彼女の経歴が書いてあったからだ。小さい頃の顔の感じはやはり残っている。(あのおとなしかった福美がアナウンサーなんて。)敏行は東京に就職していたから知らなかったのだ。敏行は思い切って彼女に近づき、声をかけてみた。
「福美さん。実に久し振り。おれを覚えているか。」
福美伸子は三船敏行を振り仰ぐと、
「まあ、三船君やろ。覚えとーよ。」
とアナウンサーらしき声で答えた。この声が職業的に鍛えられて子供の頃とは違ったものになっている。三船は自分を覚えてくれていた嬉しさに、
「となりに座ってもいい?」
「いいよー、もちろん。」
三船は巨体を福美のとなりの席に乗せると、伸子は顔を敏行に向けて聞いてくる。
「三船君は仕事は何をしてるのかなあ。」
吐く息が酒臭い。照れたように敏行は、
「分譲マンションの管理人をやってるよ。」
「あら、そういうのはもっと歳を取った人の仕事じゃないかな。」
「うーん、でも他に仕事がなくてね。東京で仕事がなくなったから戻ってきたけど。」
「ふーん。わたしもね、フリーのアナウンサーになったけど、今、テレビって予算がないからギャラは減ったわ。結婚しとけばよかったなあ、て思う。」
「そうねえ、福美はおとなしかったから、まさかアナウンサーになるとは思わなかったよ、ほんと。」
「大学の先輩に好きな人がいて、その人が入社したテレビ局に後を追って入社試験を受けたら合格できたんだけど。その先輩はわたしの事は好きではなかったらしくて、わたしの同期のアナウンサーと結婚してしまったのよ。」
福美は少し涙目になった。敏行は哀れに思って、
「そういう事は結構あるかもしれないし、気にしなくてもいいよ。」
「うん。もう気にはしてない。その同期とは親友だったからショックはあったけど。彼女のだんなさんとは話はしないけど、彼女とは携帯電話で話をすることもあるのね。」
「それは、そんなものかな。」
「彼女の住んでいるマンションは分譲マンションで博多駅の南にあるのよ。確かサンパール博多駅南とかいったかしら。」
(そこのマンションの管理人をしている)と敏行は言おうかと思ったが、何か間に立つような感じがして言わない方がいいと黙っていると、
「三船君の勤めている分譲マンションって何処?」
と鋭く福美は聞いてきた。
「そのサンパール博多駅南だよ。」
福実は大きく眼を開くと、
「まあ。奇遇ってこういう時に使う言葉だわね。そしたら、わたしの同期のアナウンサーと顔を合わせてるかもよ。」
「うーん。どうかな、住民の人の名前までは全部知らないからね。」
「矢張(やはり)っていうのよ、彼女の姓は。旧姓は一時(いちとき)って言うんだけど。」
一時アナウンサーは福美伸子より遥かに美人だった。福美はおとなしくて目立たないアナウンサーだったが、一時美歌(いちときみか)が寿退社してから少しずつ頭角を現していったのだ。
「矢張さんなら、やはり知らないよ。管理人と親しく話をする人はあまりいないから。」
「そういうものなのね。美歌もわたしと同い年だから四十歳。三船君も同じでしょ。昔若い頃は美人でも、今は歳相応の顔になってるわ。」
「元美人アナウンサーらしき人は、記憶にもないよ。普通はよく見ても横顔だからね。」
そういえば福美の横顔も、もう若くはなかった。三船は、さっきシングルマザーとセックスプレイに励んでいたのが夢のように思われた。福美は三船の頭の上を見ると驚いて、
「矢張さん、でしょう?お久し振りです。」
と声を出した。敏行がそちらを見ると、背広姿の中年男性がゆったりと立っている。その男は形式的に微笑むと、
「お久し振り。福美君、いやもう退社したから福美さん、かな。酒は控えめにした方がいいよ。肝臓を悪くするのは知ってるだろうけどね。」
矢張の顔は普通だが苦味のあるのが魅力的だ。彼はテレビの画面には顔を出さない部署で働いている。福美は少し頬を膨らますと、
「もう上司でもない矢張さんの意見なんか聞きませんよ。奥さんは、お元気ですか。」
「元気ですよ。たまには家内もいるし、うちのマンションに遊びに来たらいい。家内は、お茶とか習ってますから。」
敏行は、この男性の顔も今まで見た事はなかった。苦味はあるが、平凡な妻帯者って感じで別に女性にもモテはしなさそうだ。いかにも愛する妻がいます、という顔であるから。こんな男性を福美伸子は好きになったのか。そういえば福美伸子の人相は幸薄いような気もする。福美は矢張の提案には答えないでいると、矢張は店の奥に立ち去ってしまった。福美は下を向くと、
「どうでもいいや、あんなやつ。」
と呟いた。敏行は福美のグラスを見ると、
「確かにすごいペースだなあ。女性の深酒なんて様にならない、かもね。」
福美伸子は、それに逆らうようにグラスの残りを飲み干すと、
「マスター。おかわり、注いでねー。」
店主はうなずくと、カクテルをシェイクし始める。福美は酔いが回ってきた顔で敏行を見ると、
「矢張に失恋したあと、わたしにも何人か彼氏はできたんだけどね、みんな深酒で逃げられたのよ。それというのもね、矢張に去られた日、いや一時美歌の結婚式の後で深酒をしたけど、それが習慣になっていったんだわ。それからの彼とデートをして飲みに行くと、わたしの方が余計に飲んでしまって呆れられて、連絡が絶えるのよ。」
福美は右耳に掛かった髪の毛を掻きあげると、
「それでも酔いが醒めるのは早いのよ。四十って女としては女でなくなっていく歳だと思っていたけど、今のわたしがその歳になったから。」
「ぼくも四十になった自分なんて考えられなかったけど、マンションの管理人をしているなんてもっと考えられなかった。」
福美伸子は、あはは、と笑うと、
「ニュースをやることもあるけど、最近市内の分譲マンションで六十歳の男性管理人がマンションの敷地内の立ち木に立小便をしているところを住民に見られてクビになった原稿が来たけど、その時、緊急で他のニュースが入ってきたから読まなかったことがあったけどな。三船君は大丈夫よねえ、そういうのは、ね。」
「ああ、でも福美さんがアナウンサーでよかったよ。芸能人なら、こんなところでも写真に撮られる可能性もあるでしょ。」
「そうねー、わたしが芸能人?アナウンサーになるのも迷ったのよ。人気のある職業ではない頃に入社して、他になり手がいなかったから仕方なくやってたら女子アナブームとかになって、結構わたしも祭り上げられたわよ。なんでブームになったのかは、あの頃、いいニュースが多かったからと思うのよ。」
「あー、ベルリンの壁を崩すとか、ソ連の終わりとか、かなー。」
「そうね。最近はいいニュースはないし。ここ三年は沈んだものばかり。東北の大震災はそれの最たるものだわ。でも、政権も本来のものになったから、これからは明るいニュースも増えるのかな、って。」
敏行は、そうあって欲しいと思った。いや、自身については明るい話題は女性とのセックスがすでにある。だから、
「福美さん。男ヒデリは長いのかな。ぼくでよかったら、ぼくも独身だから。」
福美伸子は流し目で小学校の同級生を見ると笑顔で、
「小学校の同級生って、いつまでも子供の時のままみたいな気持ちがするのよ。わたしたち、今日会ってしまったけど普通は顔も見なくなる場合が多いと思うな。三船君も巨体で顔も大人だけど、なぜかわたしには小学校の時の三船君に思っていた感情しか湧かないのね。小学生の時って、性的なものって男女間にも感じないでしょ。三船君は、わたしにとってはいつまでも小学校の同級生なのかもね。」
敏行は酔ってはいたが、意識はあった。そのまま福美の意見を受け入れていいのだろうか。自分には魅力がないのを福美は遠まわしにそんな言い方で、諭しているのではないだろうか。
「福美さん、ぼくに魅力がないって事かな。それならそう言ってもいいよ。同級生じゃないか、遠慮しないで言ってくれないか。」
福美はいたずらっぽい顔をすると、
「逆にわたしに魅力があるの?四十になった女なのよ。」
そう言われて三船敏行は福美の顔から下をゆっくりと酔いながら眺めてみた。胸は膨らんでいるし、ヒップも大きい。敏行は一息つくと、
「福美さん。いい体しているよ。四十なんてもんじゃない。三十だなー、この体は。」
「あら、ありがとう。そう言われれば、三船君の体も素敵に見えてくる・・・。」
「アナウンサーで、しかも福岡地方だからゴシップにもなんにもならないよ。今からでも、ホテルへ行こう。」
「ええ、いいわよ。」
二人は店を出て歩いて近くのシティホテルに入った。部屋に入ると、三船敏行は福美伸子をお互い服を着たままで抱いた。福美は眼を閉じた。それと同時に敏行も眼を閉じると、ドウと後ろのベッドに倒れこんだ。そして、そのまま眠ってしまったのだった。
翌朝、三船が起きるとベッドの枕元にメモが置いてあった。

楽しい思い出をありがとう 何もしなかった三船君はステキです 

わたしは泊まらずに帰ります

福美伸子

(そういえば、あのシングルマザーで出し尽くしていたのかもなあ)

翌日は日曜日で三船敏行は管理人の仕事は休みだ。他に祭日も休みだし、盆と年末年始も休みがある。休みの日が来ると、実にホッとする気がした。管理人の仕事は気が楽そうに見えるが、じっと座っているのも年寄りならいざ知らず、四十歳の敏行には退屈に感じられるのも苦痛だ。それで休みの日は昼近くまで寝ている事になる。休みの前日はアダルトビデオをパソコンで見る。DVDのディスクはビデオテープより小さいとはいえ、ある程度買うと積み重ねた上下の高さも高くなってくる。人は滅多に来ないが、万が一のために眼につくところには置けないものである。それで最近はHDDの容量が150GBのノートパソコンを買って、アダルトビデオをダウンロードして見るのだ。一本の作品が1GB前後なので旧型のパソコンではすぐにHDDは一杯になる。フリーズしてしまう事も多かったのだ。又、早くダウンロードするために光ファイバーにする必要があった。こういった動画を見るためには光ファイバーで見なければスムーズに画面が流れなくなる事もある。
が、しかし、だ。アダルトビデオに出ている女性はほとんどは東京か、その近くの女性が多いので福岡市で見る女とは少し違う気がした。それに画面の中の女は取り出してみるわけにもいかない。素人の女性も簡単に出演してしまうけど、あれは画面に交渉のところを大抵写さないが、一万円札を何枚も見せて出演交渉をするのは敏行も知っていた。それなら自分にはできない事だと敏行は思う。休日の町を歩いても、女性は敏行をろくに見もせずに通り過ぎる。
昼前に起きた敏行は、菓子パンをコーヒーで胃に流し込むとネットサーフィンで福岡市の風俗店を見てみた。その数何と驚くなかれ、福岡市全部で2700以上もあるのだ。各区ごとに数百単位である。それだけ需要がある、という事は敏行みたいな彼女のいない男性は多いのだ。(彼女がなかなかできない人は多いなあ。福美伸子は彼氏が、というより旦那を見つけられなかったが、おれもキスもできずに終わってしまった。あいつには何か男を寄せ付けない何かがあるのかもしれん。)
ついでに敏行は北九州市の風俗店も調べてみた。すると、全部で500程度だ。福岡市となんという差だろう!北九州市の男性は真面目なのか、すぐに彼女を見つけるかのどちらかではないか。
敏行は出会い系にも入っているが、風俗店はこんなに多いのに女性からメールが来る事は、ほとんどない。年齢も正直に分類しているせいもあるのかもしれない。
考えてみると福岡市には出張でビジネスマンが来る事が北九州市より多いために、風俗店の数も多いという事も考えられる。福岡市に出張というビジネスマンはネット検索で簡単に風俗店やデリヘルを見つけ出せる。そんな事も数多くある都市であるとは、町を歩いても感じられない敏行ではあった。昼過ぎに自宅近くを散歩してみる。性的なものを感じられないのは当たり前だ、博多駅南という土地にはラブホテルもないのだ。博多駅前に一軒のラブホテルはある。
その事を敏行は知らないが、南に向かって歩いていると竹下というアサヒビールの工場がある土地に来た。そのビール工場の手前辺りにあるラブホテルの近くに敏行は歩いて来てしまっていた。駐車場完備らしい。紺色のベンツが悠々と出てきたではないか。敏行は思わず運転席を見てしまった。あっ、あれは・・・
矢張だ。この前、中洲のバーで会ったから覚えている。助手席には若い女性が乗っていた。奥さんか?そんな事はないだろう。福美伸子と同い年なら四十のはず、第一奥さんとラブホテルに入る男性はまず、いないぞ。と思っていると、その大型のベンツは次第にスピードを上げて走り去った。浮気、不倫、男性の・・・敏行の頭に言葉が浮かぶ。福美は、あんな男と結婚しなくてよかったのだ。福美伸子は幸せには、なってないかもしれないが不幸にもならないですんだ。三船敏行は小学校の頃の福美を思い出していた。(よかったな、福美。おれは同級生として安心した。この事は、福美に伝えてやろう。)

ホモ系男子 体験版

 二十四歳の青年、菊川浩二は盆休みとして、郷里の福岡市へ帰ってきている。福岡県の福岡市で、人口は、もうすぐ百五十万人だ。中心から西の早良区西新が、彼の実家「菊川酒店」が、ある場所だ。小さな川から西が西新で、一丁目の商店街の、十階建てのビルの一階に菊川酒店は、ある。そのビルは、菊川ビルという名称で菊川浩二の父、有正(ありまさ)が、先祖代々の貯金で建てたものだ。有正は居間で浩二に向かい合って座り、
「東京は、大変そうやね。地震とか、あるし。」
と何気なく聞くと、缶ビールのプルトップを引いて自分の口に当てる。
「ああ、そうだね。地震は、よく揺れるよ。」
この前の東日本大震災の時に、菊川浩二はAVの撮影中だった。それも女優の中に、勃起したものを入れた瞬間、いきなり地震がグラグラと来たのだ。撮影しているカメラマンが倒れたので、そのシーンは撮り直しになったため、公開はされなかった。
「おまえ、俳優やりよるらしいけど(やっているらしいけど)、まだテレビには出とらんのか(出ていないのか)。」
「なかなか、ね。俳優も多いからなー、今は。」
「それじゃあ、生活は、どうする。」
「アルバイトを、しているよ。」
「ふーん。だめになったら、秀行の手伝いば、せえ(手伝いをしろ)。」
秀行とは浩二の兄で、九州大学法学部を出た後、有名なビール会社に入社して、三年の勤務の後に退社後は、菊川酒店を継ぐべく仕事をしている。
「うん。兄さんは?」
「今日はな、商店街の集まりで、帰りは夜遅くなるとよ(夜遅くなるらしいよ)。」

博多駅から地下鉄で、西新駅まで、そう時間は、かからないが、渡辺通りの近くを通過する時、浩二は昔、通った空手道場を思い出した。その道場の名前は、研心流・空手総本部という。貸しビルの一階に、五十畳ほどの道場がある。エイヤッ、エイヤッと掛け声が、道行く人の耳にも聞こえてくるほどだ。館長の石垣(いしがき)・(・)島(しま)男(お)は、沖縄県出身で、父親の転勤の関係から小学校の時に福岡市に移り住み、高校卒業後は、ボディビルジムのトレーナーをしていたが、空手の全日本選手権で優勝してからは、そのボディビルのジムのオーナーの出資で、中央区渡辺通りに道場を開いた。石垣・島男の空手は父親からの一子相伝のものであった。その道場は最初、あまりにも過酷な訓練を、させたため、三日と持たずに、やめる者が続出したため、今では、その方法は採らずに、各人各様の稽古をつけている。館長の秘儀の一つに
「天井落とし」
なるものが、ある。これは三角とびを発展させたもので、まず壁にジャンプして両脚をつけると、それを蹴って天井に飛ぶ。天井に足を当てると、そこから真下の対戦相手に飛び込んで、手刀か正拳で一撃を決める。
もちろん、天井が低い場合に有効な技だ。体育館のようなところでは、これは使えない。渡辺通りの道場は天井が低いため、高弟達を集めて、その技を披露した。その時、相手を務めたのが、菊川浩二だ。館長が壁に飛んだのは見えたが、それからは浩二には館長の姿は見えなくなった。
「ここだ!菊川っ。」
と頭上で声が、突然したので見上げると、館長の二本の指は、浩二の両眼の一ミリ前で止まっていた。くるり、と空中で回転すると、床に館長は鮮やかに着地した。
「ああ、館長・・・お見事・・・。」
浩二は、それからは言葉は続かなかった。居合わせた高弟も皆、息を呑んでいた。石垣館長は、
「これも、秘儀の一つに、すぎない。他にも、まだ、あるのだ。」
「それを、見せてください!館長!」
皆は、異口同音に懇願したが、
「そのうちに、見せよう。」
と、静かに言い、館長は石垣島の海のように微笑んだ。

そんな、ある日、菊川浩二は館長に、稽古が終わった後、一人だけ呼ばれた。
「菊川くん、今日は別の秘儀を君に教えよう。では、館長室に行くぞ。」
「はいっ。おっす。」
二人は、道場内にドアのある館長室に入った。そこは六畳ほどで、机と椅子くらいしかない。その机の上から、館長はロープを取り出すと、浩二に渡した。そして、
「今から、私が全裸になるから、それで体を縛りなさい。」
と命じた。浩二は戸惑ったが、館長は空手着を上下とも脱ぎ、ブリーフも外すと全裸になった。筋骨逞しい上半身で、腹筋は三段に線が入っている。だらりと下がった男根は、それほど大きくもなかったが。
浩二が、眼を、そらせていると、
「何を、しておるか。早く、縛るのだ。」
「はいっ。おっす。」
浩二は急いで、館長を縛り始めた。館長は、両手を背中に回して、手首を、くっつけている。
「後ろ手に縛ってくれ。」
「おす。」
浩二は館長の手首を、ぐるぐると縛る。
「両脚も、だ。」
「おす。」
浩二が縛り終わると、館長は手足を動かし、
「よく縛れている。さて、」
と呟くと、机の上にある木の板を流し目で見ると、
「菊川、あの板を取って。」
「おす。」
浩二が板を持って来ると、
「こういう状態にすると、敵は必ず近づいてくる。なぶりものに、したい心境でな。そこで。」
そのとたん、館長の、いちもつ、は、ぐぐーん、という感じで、力強く勃起して上を向いた。その膨張率が、すごいものだ。浩二は注視して、しまった。
「このように勃起させれば、敵は、これに近づくし、手に握る奴も、おろう。その時に、だ。だが、おぬしの手は傷物に、したくないので、その板を私のペニスのすぐ横に、立てよ。」
「おす。」
浩二は、館長の勃起したもの、の横に板を当てた。
「それで、よし。手を動かすなよ。きえーいっ!」
怪鳥のような叫び声と共に、館長のペニスは横に振れて、板に当たると、パキンッと音がして、その板は真っ二つに折れた。浩二は、
「おおおおお。」
と感嘆の声を、大きく、あげた。さらに館長は、上半身を前に倒すと、ロープに自分の勃起したペニスを強く当てる、すると、それは、ぶつん、と切れた。
「これで、両脚は自由となった。これだけでも、闘えなければ、いかん。が、手は、ね。」
手首のところのロープに、親指をかけると、ぶちっ、と、それも切ってしまった。館長が、
「ふーーむ。」
と呼吸を整えると、館長のペニスは小さくなっていった。ニヤリ、とすると石垣は、
「これを、ナイフペニスの技といい、我が家系に、代々、伝わったものである。鍛錬法は、そのうち教えようと思う。私の代から秘伝は、なるべく公開していくから、楽しみに、な。」
「おす!」
浩二は思わず、その場に片膝を着いて、いたのだった。

その時、浩二の年齢は二十歳だった。先生が、自分を前に勃起させた事について、立膝のままで、
「このような場合、自分は勃起できるか、心配です。」
と、師匠を見上げながら尋ねると、
「なに、女の裸を思い浮かべるのだよ。」
「なるほど。しかし・・・。」
「しかし?」
「自分は空手に強くなりたいために、女と、つきあいませんでした。」
石垣島男は、ブリーフを履くと、
「今の技は勃起しないと、できない。女と、つきあわなくても、アダルトビデオを見れば、よい。」
「は。パソコンは持っています。光ファイバーで、見れます。」
「ならば、ダウンロードも早く、できる。DVDならネット通販で買えば、送料無料で、送ってもらえるぞ。今のパソコンにはDVDプレーヤーは、ついておるからの。実は、私も見ておるのだ。最近では、絵色千佳が、お気に入りだ。さっきは、な、絵色千佳を思い浮かべたのだよ。」
浩二はアダルトは、ちらちら、と見るだけだった。無料サンプル動画だけで、それ以上は見ていない。
「おす。先生、ぼくも勃起のため、DVDを見ます。」
「よろしい。やりなさい。ペニスに自信が、ついたら、報告する事。」
「おす。」
その日は、それで道場は終わりだった。確かに、浩二は中学、高校と空手に明け暮れていた。硬派な男性に女性は近づかない。特に武道関係は、そういえるだろう。最近、法廷で裁かれている柔道の男性も、相手は自分の近くにいる女子柔道部員のみを、相手にしている。浩二だけでなく、同じ空手部員も彼女が、いなかった。浩二の高校には女子空手部も、なかったし、女子柔道部も、なかった。おまけに男子校なので、女子高生を見ることすら、稀だったのだ。学校の空手の部活が終わると、研心流道場に地下鉄で通っていたのは、中学生からで、それで今では石垣館長の高弟の一人に、数えられるように、なっていたのだが、初恋の感情を覚える相手の女性とて、見回しても、いなかった。ただ、一年上の空手部の先輩に、憧れ、とも、つかぬ思いを持っていたのは、浩二は覚えている。その先輩は高校を卒業すると、東京のインターネット関連の会社に就職が決まって、福岡を去った。その先輩の名前を、見川毅(みかわ・つよし)という。その頃の、学校の春休みに、西新商店街で浩二は見川先輩と、ばったり出くわした。
「おす。見川先輩。」
と、挨拶して頭を下げる浩二に、鷹揚に、うなずくと見川は、
「おれ、東京にいくけん(行くから)、お別れかな。菊川。」
「えっ、そうでしたか。ぼく、その事を、知りませんでした。」
「うん。昨日、入社式から帰ってきたとよ(帰って来たんだ)。新宿で、あったったい(あったんだ)。」
「入社、おめでとう、ございます。」
「立ち話も、なんやけん(なんだから)、おれが、おごる。ラーメンを、食いに、いこう。」
「おす。ごちそうに、なります。」
すぐ近くの博多ラーメンの店に入ると、二人はテーブル席で、向かい合って座った。見川は店の主人に
「大盛りラーメンを、二つ。」
と注文すると、浩二の方に向き直り、
「それがくさ(それがね)、インターネット関連の会社よ。売り上げも急進中らしい。」
「すごいですね。ぼくも、その会社に入りたいな。」
「おまえは自分の店が、あるやないか(あるだろうが)。菊川酒店が。」
「でも、ぼくは次男だから、気にしなくても、いいんですよ。」
「そうか。まあ、おれ、メールするたい。おまえのメールアドレスば、教えれ(メールアドレスを教えろ)。」
浩二は携帯電話を取り出すと、メールアドレスを表示させ、見川先輩に見せた。見川は自分も、携帯電話を取り出し、
「なら、ここで送ろう。」
と言うと携帯を操作した。間もなく浩二の携帯に、着信メロディーが鳴った。見川は笑うと、
「見ろよ。メール。」
と促した。浩二がメールボックスを見ると、そこには見川のメールが入っていた。
「確かに、届きました。」
「うーん。便利たい。おれたちの小さい頃は、こげなもん(こんなもの)は、なかったもんね。」
「そうでしたね。」
その時、店主が大盛りラーメンを二つ両手に抱えて二人のテーブルに置いた。見川は、
「沢山、食べろよ、菊川。」
「はい。それでは、いただきます。」
二人は猛烈な勢いで、大盛りラーメンを食べると、見川は、
「替え玉しょうか?」
「はい。お願いします。」
見川は店主に向かって
「替え玉ふたつ。」
と注文した。それも軽く、たいらげると、見川から先に店を出た。外は道行く人も、まだ少なかった。買い物の時間帯では、なかったせいだ。見川は店を出て、少し歩くと立ち止まった。そして浩二の方に姿勢を向けると、右手を差し出して、
「しばし、の別れかな。」
浩二は無言で自分の右手で、見川の手を握った。見川は、握手している手を持ち上げて、自分の顔に近づけると、浩二の右手の甲に口づけた。浩二は、(あっ)と思った。先輩の舌まで、感じてしまったのだ。見川は手を離すと、
「なんか、連絡したい時に連絡くれよ。」
と話すと、浩二の歩いて行く方向とは逆の方へ、軽やかに歩いて行った。浩二より五センチ、背の高い先輩だった。

その時から、浩二は二十歳になるまで、見川先輩にメールを出した事は、なかった。又、先輩からメールが来る事も、なかった。浩二は見川先輩の事をホモではないか、と思ってしまったのだ。先輩の事を思い出す日もあったが、自分としては同性愛には興味は、なかったのだ。空手家として、それは、よくない事だ、とも思う。今日、石垣先生は研心流空手の秘儀を教えてくださった。あれを身につけるためには、勃起力が必要だ。そのためには、女の裸が必要なのであって、男の裸ではない。とは、いうものの、自分は石垣館長のヌードを見てしまった。が、やはり特に何も感じるものはなかった。それは自分が全く、正常な証拠だ。先生は絵色千佳が好きだそうだけど、自分は誰にしようかな。前から気になっていた「つぼみ」のDVDをネットで買うことにした。レンタルビデオなど、利用した事がない。借りて返すのが、面倒なのだ。二、三日すると、「つぼみ」のDVDが届いたので、自分の部屋でノートパソコンに入れて見た。つぼみがヌードになっただけで、浩二は、すぐに勃起した。頭の中が、ぼーっ、と、してきて、自分の右手で、ぐいぐい握ってみた。ノートの紙を引きちぎって、自分の勃起したペニスの横に当てて、それに反動をつけて、勃起したもので叩いてみたが、軽い音を、たてるだけで紙は破れなかった。その代わり、パソコンの画面から、つぼみの喘ぎ声が聞こえると浩二は、それに向かって射精してしまったのである。すぐに、浩二のペニスは萎えていった。
 高校を卒業して浩二は、薬局でアルバイトを募集していたので、そこで働く事にした。就職へ面接にも行ったが、面接で、
「君の、お父さんの職業は?」
と聞かれたので、
「酒屋を、やっています。」
と答えると、面接官は顔を顰(しか)めて、
「お店は、繁盛していますか。」
「ええ、西新にあるのですが、最近、店の周りに大型マンションが多くできまして、店に注文が増えています。」
「それは、とても結構です。採用の場合は、ご連絡します。今日は、どうも、お疲れ様でした。」
面接官は、興味のない眼を浩二に向けた。薄々、だめか、と浩二が予想していたように、その会社から連絡は、なかった。その会社、一社しか応募していなかったので、他の会社に応募する事も、できないまま三月の終わりになった。浩二はネットで、「福岡高額アルバイト」で検索すると、渡辺通りにある薬局で、募集していたのを見つけた。携帯で電話して、問い合わせると、
「ええ、まだ募集していますよ。」
との答えが、耳に返ってきた。
「ぼく、やってみたいんです、そちらのアルバイトを。」
「それじゃあ、面接に来てください。場所は渡辺通り・・・・。」
その店は、空手の研心流本部にも近かった。ただ、地下鉄の入り口とは反対のところに、あったため、気が、つかなかったのだ。浩二はその日の午後、西新から地下鉄で渡辺通りに向かった。地上に出てからは、電話で言われた通りに歩いて行くと、その薬局はあった。
漢方・黒光り
と看板には、ある。ピカピカのガラス扉を開けて入ると、五十歳くらいの、でっぷりと太った中背の男性が、
「いらっしゃい。面接に来た人ですね。」
「はい。菊川浩二と申します。」
「それじゃあ、こちらへ、どうぞ。」
店の奥にあるドアを開けて、店主は浩二を手招きした。その中は、接客用の部屋で、丸いガラスのテーブルに、ふかふかのクッションの白い椅子が四つあった。店主が右手で椅子を指して、
「そこに、気楽に腰掛けてね。」
「はい。」
二人は、正面から向き合う形で座った。履歴書をバッグの中から浩二が取り出すと、店主は、
「さあさあ、それを見せてください。」
と、声をかけると受け取り、
「ほう。特技は空手ですか。それは結構。うちはね、薬局といっても、主に精力剤の店なんですよ。貴方みたいな、逞しい男性は店に必要ですから、即、採用という事で。そうしましょう。」
「がんばります。なにも、わかりませんが、どうか、よろしくお願いします。」
「うん。アルバイトといっても、うちでは月に、三十万は出します。そのかわり、夜遅くまでの時も、ありますが、いいですか。」
「かまいません。何時まででも。」
「うん。夜遅くまでの時は、次の日は昼からで、いいからね。」
空手道場は、その時は朝、行けばいい。道場は朝早くから、あいている。という事で、浩二は、その店でアルバイトとして働き、かなり貯金も、してきたのだ。 
 その精力剤の薬局、「黒光り」で、平日の夜十一時頃に来た客は、ひょろりと痩せた老人だった。店内に一人立っていた浩二に、
「何か新しいものは、ないかね?精力剤だがね。」
と、穏やかに聞いた。
「これは、どうでしょう。」
浩二が、新入荷した精力剤の箱を出すと、その老人は、
「いいな。これを貰おうか。今までのものは、最近、効かなくってね。」
浩二は、(いい加減、歳だし、普通は、もう盆栽でも、いじって楽しむ歳だろう)と思いながらも、
「ありがとうございます。」
と礼を言って、白いビニールの袋に、それを入れて老人に手渡した。
「これは、いくらかな?」
「丁度、五万円です。」
驚くか、と思って浩二は、その客を見たが、老人は、些かも動じた所はなく、
「ほう、安いもんだな。はい、五万円。」
と、ポケットから蛇皮の財布を取り出して、ぎっしりと詰まっている一万円札を、五枚抜いて浩二に渡した。
「君は、ここでアルバイトかね。」
「ええ。就職が見つからなかったものですから、でも、ここのバイト料は、なかなか、いいですから。」
「そうだろうな。ここは今日、何時に終わる?」
「十二時までです。」
店の時計は、深夜十二時、五分前だった。老人は、それを見て
「あと五分だ。どうだ、これから、わしが、おごりでね、中洲のバーでも行こう。」
「はあ、・・・しかし・・・。」
「なに、つきあってもらうのだから、いくらか君に、小遣いをあげよう。」
金を貰えると知って、浩二の顔つきは、全く一変した。
「もう、あと二分ですけど、五分前には、帰る準備をしていいんです。あ、白根さん。」
店の奥から白衣を着た、三十代の薬剤師らしい男が出てきて、
「これは、舌川さん、いつも、大変お世話になっております。菊川君、帰っていいよ。」
「はい。お疲れ様です。このお客さんに、今から、おつきあいしますので、着替えたら店にもう一度、来ます。」
「ああ、そうかい。大事な、うちのお客様だから、粗相の、ないようにな。」
店の奥に消えて、少しして浩二は普段着に着替えて出てきた。舌川という老人は、
「それでは行くか。菊川君。」
「はい。喜んで、お供します。」
舌川を先頭に、黒光りを出た二人は、人通りの少ない道を歩き始める。九州最大の歓楽街、中洲は、そこから東へ百メートルほどだ。中洲に着くと、まだ人は大勢歩いていた。スナックなど飲み屋が、ほとんどの雑居ビルが立ち並ぶ、その中の一つのビルの最上階、といっても五階だが、そこに舌川は浩二を連れて行く。エレベーターで到着すると、
「いらっしゃいませ。舌川様。今日は、まあ、若いお客様ですか。」
「ああ、いつもの店の奥は、あいとるかね。(あいているかね)」
「はい。今日当たり、舌川様が、お見えになるのでは、と思い、空けておきました。さあ、どうぞ。」
ちょび髭を生やした、長身の黒服の男が店内に案内する。その店の中は、薄暗い光に照明は、されている。一番奥の、四人掛けのテーブルに舌川と浩二は座った。舌川老人は、
「ジンを持って来てくれ、君は?」
と浩二を見る。
「コーラで、いいですけど。」
「遠慮するなよ。ビールでも飲みなさい。おつまみは、適当にね。」
うやうやしく、バーテンの男は頭を下げた。その男がカウンターへ戻ると、舌川は話し始めた。その席は、周りには声が聞こえない作りになっている。
「君は服の上から見ても、いい体をしているな。何か武道でも、やっているようだが。」
「御目が高いですね。空手を少々やっています。」
「そうだろう、と思ったよ。わしの妻がね、空手をやっとるんだ。目付きが似ているし。その妻との夜の交渉が、最近、うまくいかんのだ。」
舌川は苦笑いした。浩二も苦笑いを浮かべそうになったが、こらえた。この老人の奥さんって・・・。
「三十なんだ、今年ね、うちのやつは。」
えっ、それで、と浩二は思う。
「わたしはね、今七十歳です。五年前に今の妻と結婚しましたけど、ここ何ヶ月か、夜の方は、大変、ご無沙汰となっている。君は、ガチムチ系だなあ。」
舌川は、感嘆の眼差しで浩二を見ている。
「ガチムチって、なんでしょうか。」
「いや、筋肉質という事ですよ。それで、精力剤を黒光りで、ここ最近、買っては試して妻と、その・・・ですけど、どれも、すぐ効かなくなってしまう、のですな。そこで、実はね、私はゲイの方も、いけるたちで・・昔、白人男性に、尻にペニスを入れられた時に、自分も勃起していた事が、あったのですよ。」
浩二は呆れた顔をした。舌川は、浩二の顔を舐めるように見ると、
「いや、呆れるのも、もっともです。でもね、今のわたしには、妻を満足させたい、という思いが、ありますから。どんな事でも、やってみたいという気持ちですよ。妻はフラストレーションを空手で発散していますが、乳首は立っているし、私は立たないし、で情けない思いをしていますな。」
「それで、ぼくに、そのう、何が、できるのですか?」
「まあ、一杯。やりたまえ。」
注文した酒類が、盆に載せられてきたので、舌川は浩二にビールを勧めた。大きな皿に、ピーナッツや枝豆、アーモンドが山盛りになっている。
「それでは、いただきます。」
浩二はジョッキに注がれたビールを、ごくごく、と飲み干す。舌川は手を打って、
「いい飲みっぷりだね、君。おつまみも、やってくださいよ。全部、今日は、私のおごりだから遠慮せずに、ね。」
「それでは、こちらも、いただきます。」
枝豆を、浩二が口に入れると、
「この後ね。私と一緒に春吉(はるよし)のラブホテルに、行ってもらいたい。」
「ええっ!」

体験版・SF小説・未来の出来事49

ソフトランディング、玉金玉男はプレミアム・ファーストクラスの客も服を身に着けただろうと想像していたら旅客機は停止した。国内線のゲートを出ると玉金玉男は息子の硬一郎の顔と、他には見知らぬ若い男女の顔が見えた。
玉金玉男は彼らに近づくと、
「やあ、歓迎してくれて有難う。硬一郎、あの人たちは新進民主党の福岡支部の人達だね?」
「ああ、そうだよ。支部長の砂下桃代さんと、新党員の成頭友見君。」
砂下桃代と成頭友見は玉金玉男に頭を下げた。玉金玉男は、
「よろしくね。玉金玉男です。ビデオの仕事をしています。成人向けですけどね。」
と話すと白い歯を見せた。玉金硬一郎は、
「父さん、フレッシュアイランドまでは市営地下鉄しかないんだ。」
「ああ、それなら地下鉄で行こう。」
四人は地下へ降りて地下鉄に乗った。車中で四人とも座席に座れたが玉金玉男は、
「福岡の地下鉄って清潔感があるね。なかなかな乗り心地だ。」
と感想を言う。ほどなくフレッシュアイランドの地下鉄の駅に到着した。四人は降りるとエスカレーターで地上に出て改札口を通ると八月の太陽が四人を眩しく迎えた。そこから歩いて遠くないのが新進民主党の福岡支部だ。そこへ四人は入る。玉金玉男は既に新進民主党の党員だ。四人が車座に座れるソファでアイスマンゴーティーを飲んだ玉金玉男は、
「AV出演特例法を国会に出してくれるよな、硬一郎。」
と話しかけた。玉金硬一郎は、
「うん、それでAVの撮影、公開が早くなるというものですね。法律の専門家に相談している所ですよ。デジタル署名だけで本人が希望すれば撮影の即配信も可能になるという。」
玉金玉男は苦笑いして、
「四か月も撮影の公開を遅らせられたんじゃ、手に入る出演料も先延ばしだからな。生活困窮者の支援ためにもAV出演特例法は必要だ。」
「民民党の平空党首も賛成しています。市民党も賛成多数らしいので、いけるみたいですよ。」
「そうか、市民党も賛成か。そいつは、いい。AV業界活性化のためにも、いい法案だから。」
と話すと又、玉金玉男はマンゴーアイスティーを、うまそうに飲む。格差社会は益々広がり生活困窮者も増えている日本だ。OLの風俗副業も増えている。玉金硬一郎は、
「困窮している人を救うのが優先です。AVで救われる人達がいるんですからね。」
と党首らしく宣言した。玉金玉男は、
「いや全く、その通りだ。それでだ、成頭友見君というのは君か?」
と成頭友見の方を向いて話しかけた。成頭は、
「ええ、そうです。」
と答える。玉金玉男は成頭友見をジックリと見ると、
「うん、合格だ。」
成頭は訳が分からずに、
「何の事でしょうか?」
「いや、私ともなればね、どの位の女性経験があるのかは一目見て分かるんだよ。それは、それとして硬一郎、私のプロダクションの福岡支社を借りるまで成頭君に研修とか、したいんだが、ここを使ってもいいか?」
「ええ、構いません。会議室など今のところ、使っていませんから、そこを使ってください。」
「おお、いいな。そこにしよう。案内してくれ、硬一郎。」
という事で玉金党首は会議室に父親の玉男と成頭を連れていった。
コの字型のテーブルの並びに座椅子が並んでいる。玉金党首は、「それでは。」と話すとドアを閉めた。
玉金玉男は中央に座ると、近くの席に成頭を座らせて、
「いや、ご苦労さんだ。私はAVプロダクションの社長をしている玉金玉男と言います。」
「新進民主党に入党したばかりの成頭と申します。」
「仕事は、なにをやってるの君。」
「市場調査の仕事とかです。」
「それでは金になるのかな。」
「まあ、満足しています。」
「副収入が欲しくはないかな。」
「それは欲しいですよ。」
「それではウチの仕事がある。それはAV男優の仕事なんて安いものだ。目線を隠せば、いいとはいえ・・・。もちろんAV女優より遥かに目立たないとはいえ画面の中には他にはAV男優しかいないからAV男優の体を見ずに済ませる事はできない。それなのに安い報酬で働いているのはAV女優の体を楽しんでいるからだよ。ぼくも、そうだったんだがね。AV制作会社は他にも仕事は、ある。だから君は男優以外の仕事をしてもらう。いいかな。」
「ええ、できる範囲で、やらせてもらいます。」
「よし、決まったよ。これ以上は、ここを使う訳には、いかない。外に出よう。」
会議室を出て玉金硬一郎や白俵金二郎、砂下桃代らの視線を浴びると玉金玉男は、
「成頭君を連れて外に出てくるよ。それでは。」
と右手を敬礼するように挙げると新進民主党の福岡支部を出て行った。玉金玉男は成頭友見と並んで歩きながら、
「福岡市の繁華街は天神と中洲なんだな?実は福岡には初めて来たんだけど。」
「ええ、買い物には天神、遊びは中洲ですよ。中州には酒を飲む店、風俗の店、ソープランドがありますからね。」
「そうなのか。中州、とか、すすき野とか聞いただけでね。歓楽街って処だね。」
夏も盆過ぎとなると少し涼しい風が二人を包む。成頭は、
「ええ。どんな不況でも中洲は消えません。それだけ風俗は強いって事ですね。」
タタタタタタタタ、上空に音がした。自衛隊のヘリタクシーだ。何しろフレッシュアイランドには陸、海、空の自衛隊の基地があるのでヘリコプターだけでなく護衛機も離着陸を繰り返している。F-2A/B支援戦闘機という古くからあるものも使われている。名称変更せずに改良は続けられたものである。玉金玉男は上空を見上げると、
「ここには自衛隊の基地まであるのか。」
「陸、海、空と基地があります。」
「珍しいね。何かの時には安心だ。まっすぐ歩くと何処へ出るの?」
「北天神の北ですね。北天神という地名はないですけど。そこから少し南へ行くと天神の北の方ですよ。」
二人は倉庫街のような所に来た。船からの荷物を一事的に保管するのに適した場所だ。博多港は少し東にあるが第二博多港が出来たので急速に発展している地域らしい。
少し南へ行くと巨大な商業ビルが立ち並んでいて、人の行き来も煩雑になった。若い女性も多く歩いている。玉金玉男は若い女性に視線を向けると、
「スカウトできそうな女性も見られるぞ。成頭君、スカウトしてきてくれ。」
「えっ、AV女優候補をですか?僕は、そんな事、した事ありませんから・・・。」
と弱気で固辞する成頭に玉金玉男はズボンのポケットから細長い機器を取り出すと成頭に手渡して、
「これはAV女優探知機だ。今はまだAV女優でなくても、そうなる可能性の女性を探り出す。探り当てると振動するので、すぐに分かるよ。さあ、行きなさい。これは仕事で報酬も出すからね。」
と玉金社長に励まされて成頭は一歩先へ出た。日傘を差して和服を着て歩く若い女性と成頭が擦れ違った時、手にした機器が振動した。その女性こそAV女優になる可能性のある事を機器が教えてくれた。日傘で顔は見えなかったが、首から下の動きは若い女性のものだったので、成頭は態勢を変えると日傘をさした女を追い始めた。着物を着た女性など滅多にいないのは昔からなだけに追うのは簡単だった。デパートの中に入った彼女は日傘を外した。日本髪に結っていない長髪の肩より下まである黒髪、横顔は清楚な美人。エスカレーターで上に行くので成頭は、そのすぐ後ろのエスカレーターに乗った。彼女が降りたのは食堂街。すべてのフロアは和食、洋食、中華、インド、メキシコ、イタリア、フランス料理店などだ。ゆっくりと歩いて飲食店を見ていった彼女は、あんみつなどを出す日本和菓子の店に入った。
服装だけでなく食べ物の好みも和風らしい。成頭も何気なく、その店に入る。和服美女は四人が座れるテーブルに一人で座った。成頭は彼女の席の斜め前に立ち、
「ご一緒しても、よろしいですか?よろしければ代金は僕が払います。」
と申し出たのだ。若妻風の顔の美女は、
「ええ、構いませんわ。わたしの食事代など気にしないでください。」
と爽やかに答えた。成頭は彼女の前の座椅子に座ると、
「初めまして。わたくし、市場調査の仕事をしております。この度は女性が使用する下着についてのアンケートです。簡単な質問ですが、お答えいただけた場合、少なからぬ謝礼を差し上げます。」
「というと、どの位の謝礼ですか?」
と答えつつ彼女はタブレットで黄金あんみつを注文していた。成頭は、
「大学新卒者の初任給ほどです。」
「いいわね。時間が、かかっても大丈夫そうよ。」
「有難うございます。時間は、そんなに、かかりません。この店の中ではアンケートをしにくいので、食事に専念されてください。私は抹茶など注文します。」
それから二人の注文したものがテーブルに運ばれてきた。
細長く盛り上がった黄金あんみつを美妻は半分ほど食べて、
「ここで出来るだけ、アンケートしてみてよ。」
と挑発するように話す。成頭は、
「それでは。下着を付けない方が、いいと思う時は、いつでしょうか?」
若美妻は微笑むと、
「暑い夏の日ね。外出すると日傘をさしても暑いし。という事で今日は下着を、つけていないのよ。着物だと分からないものよ。」
と大胆な発言をした。成頭の視線は若美妻の胸の辺りを彷徨った。彼女の股間はテーブルの下だ。成頭は右手を軽く上げると、
「ちょっと失礼します。」
と席を立つとトイレに向かう。誰も居ないトイレでスマートフォンを取り出すと電話を掛けた。
「あ、成頭です。アンケート調査に応じてくれました。アンケートをする場所を用意して貰えますか。」
―あ、いいよ。うまくいったね。場所を決めたら連絡するよ。
と玉金玉男は落ち着いて回答してくれた。
席に成頭が戻ると美若妻は黄金あんみつを全部、綺麗に平らげて消滅させていた。成頭は座ると、
「ここでのアンケートは限られたものになりますので、別の場所に移動しましょう。」
「そうね。もっと落ち着ける場所が、いいわ。」
二人は店を出てデパートを出た。
少し歩くと車道にマイクロバスが現れて、二人の横に停車した。最前部の席のドアが開いて、顔を出したのは玉金玉男、
「おーい、成頭君と御婦人さん。乗りなさいよ、この車に。」
と呼び掛けた。
黄色のマイクロバスの後部のドアが開いた。美若妻は成頭に、
「乗ってもいいのかしら?」
と日傘をさしたまま聞く。成頭は頷くと、
「ああ、あの人は社長さんですよ。乗りましょう。」
と促すと美若妻は日傘を畳んで車内に進んだ。成頭も乗り込むとマイクロバスのドアは閉じられた。玉金玉男は二人の方を向いて立ち、手招きして、
「近くに来て座ってね。若奥さん、初めまして。」
と声を掛ける。
美若妻と成頭は玉金玉男の近くの席に来て座る。美若妻は斜め前の玉金に、
「初めまして。よろしく、お願いします。」
と和服姿で応えた。玉金玉男は、
「こちらこそ、よろしく。」
と話すと前を向いて座る。玉金は運転手に、
「では例の場所に向かうんだ。」
若い男の運転手は、
「了解です。スタートします。」
と答えると運転ナビを操作して、マイクロバスは自動運転に切り替わって発車した。北九州市に向かって走り出したのだ。箱崎、香椎を通り過ぎ、和白を抜けて福岡市外に出ると段々と田舎の風景へと変貌するが高層マンションが並び立っているのは大昔と違い、福岡市に接する糟屋郡に郊外型建築物が現れている。それでも北九州市への国道を走っていくと開発の遅れたノンビリとした田舎の展望が目に見えてきた。若美妻は、
「随分と田舎に来ましたね。わたしは福岡市を出る事は、ほとんど無いですから。」
と感想を発言した。玉金玉男は、
「これからが楽しみですよ。」
若美妻は、
「北九州市に行くからですか?」
玉金玉男、
「いえいえ、そうではなくて・・・なあ、運転手君。」
運転手はハンドルを握らず、
「そうですね。楽しみです。」
マイクロバスの走行は突如、北へと向かった。国道よりも田舎の道を北へ進むと松林、それは古い大昔の元寇防塁の跡でもある横に長い松の景勝地が見えてきた。人影どころか幽霊さえ見当たらない砂浜へマイクロバスは突入した。美若妻は、
「海水浴地でも、ないみたいですけど。」
と自分の思いを口に出す。玉金玉男は、
「だから誰も居ないので、いいんですよ。運転手君、車を停めて。」
「はい、合点でサー。」
波打ち際近くで停車したマイクロバス。玉金は、
「奥さん、下着のアンケートです。よろしいですか?」
と助手席のような位置から顔を美若妻に向けて聞く。美若妻は、
「はい、いいですよ。わたし着物を着る時は下着をつけてない事が多いし、今も下着なしですわ。」
玉金玉男は両眼に炎を燃え上がらせ、
「それは、いい習慣です。暑い日には、特にその方がいいですよねー。」
と話しかけると美若妻は黙って、うなずく。「奥さん、撮影したいな。外に出ませんか?」と玉金が誘うと、
「ええ、」
と日傘を持った美若妻、運転手を残して三人はマイクロバスを降りた。
暑い日差しの中、日傘をさす美若妻に玉金玉男は、
「奥さん、ここで着物を脱いで全裸になったら、新卒大手銀行員のボーナス位だしますよ。」
美若妻は少し驚いて、
「えっ、撮影って・・・。もしかして貴方はAVの・・・。」
玉金玉男は優雅に身を屈めると、
「そうなんです。わたしAVプロダクションの社長をしています。貴女に声を掛けたのは私の会社の新人社員でスカウトマンを、させたんです。」
美若妻は不思議に微笑み、
「いいでしょう。前払いで貰いたいな。」
玉金玉男は砂浜を踏みしめて美若妻に近づくと、
「いいですよ。スマホ払いで送金します。」
美若妻は日傘をさしたままスマートフォンを取り出すと自分の銀行口座情報を玉金玉男に見せた。玉金は喜びの顔で、
「それじゃ、そこに振り込みますよ。」
と話すと自分のスマートフォンを取り出してネットバンキングで美若妻の口座に振り込んだ。
美若妻は即座に振り込まれた大金に大喜びで、
日傘をさしたまま着物を脱いでいく。はらり、はらりと和服が落ちると白い裸身は胸の果実と股間の黒闇を隠さずに露見した。腰のクビレと尻の大きさを前から見ても感じさせる。
玉金はスマートフォンのカメラで美若妻を動画撮影している。立って動かない全裸身の美若妻の周囲を動いて撮影する玉金玉男の視界に彼女の白い裸身の後ろ姿、尻の割れ目がクッキリと見えた。後ろから抱きしめて挿入したい思いにかられた玉金玉男だったが、やがて元の位置に戻ると正面から美若妻の裸身を撮影して彼女の乳房と股間をそれぞれズームアップして撮影すると、
「はい、大成功です。一度、着物を着てください。」
と声を投げた。
近くで成頭友見は美若妻の裸身を正面から見続けて股間の男棒は半立ちとなっている。美若妻は和服を着ながら成頭の膨らんだ股間をチラチラと見ていた。玉金玉男は、
「よし、マイクロバスに戻りましょう。半立ちの成頭君も。」
成頭としては股間の肉身を統禦できないままバスの座席に戻った。玉金玉男は二人が自分の後ろの席に戻ったのを見て
「それでは運転手君、出発だ。」
運転手はアクセルを踏んだ。マイクロバスは前進して海水に入って行く。すぐに海の中を走り出したマイクロバスに成頭と美若妻は驚きの声を上げる。成頭は、
「玉金さん、水中も走れるバスなんですね。」
玉金は得意げに、
「ああ、自社のバスなんだ。メーカーに特注した。海中セックスの撮影が出来るからね。」
と答える。
博多湾の海底を潜行するマイクロバスの窓の外に河豚のような小魚が泳いでいる。沖合一キロの海底でマイクロバスは停車した。玉金玉男は立ち上がって後ろを向くと、
「奥さん、ここで成頭と絡んでくれたら、さっきの十倍は払います。貴女の横の男が成頭です。」
美若妻は、
「それなら絡ませて下さい。わたし、彩代(あやよ)と言います。名前も知らない女性と交わるのも何ですわよね。ソープとかなら、それでもいいかもしれないけど。」
と話すと右隣の成頭を見てニッコリとした。女の色香が成頭に振りかけられた。それだけで成頭友見は少し勃起したほどだ。玉金玉男は満足げに、
「とりあえず脱いでくださいな、彩代さん。」
と呼び掛ける。
彩代は素直に和服を脱いでいった。ほどなく立ち姿の彩代の全裸が現れる。玉金玉男は彩代に近づいて本格的なカメラを始動させた。スマートフォンのカメラでは限界があるのだ。裸身の彩代の背景には海中が映った構図となっている。玉金は、
「よし、成頭君も脱いで。」
と気楽に指示、成頭が全裸になる時間は速かった。成頭の肉筒は全勃起に近い。彩代が片手で肉筒を握ると全勃起となった。玉金玉男は、
「後ろに移動しよう。」
三人でマイクロバスの後部に移動すると真っ赤なシーツのダブルベッドが据え付けてあった。玉金玉男は、
「それではダブルベッドに二人で入って、好きなようにしていい。カメラは私が撮る。」
と開始の支持をした。成頭と彩代は全裸で向き合うと抱き合い、口づけた。そのまま成頭は彩代を横抱きに抱いてダブルベッドに優しく寝かせる。
正常位→騎乗位⇒後背位と十分ごとに体位変換した。それも成頭の誘導ではなく、彩代が裸身を動かしての体位変更だった。熟れた乳房を震わせながら彩代はセックスに貪欲だった。物静かな和服姿とは違い、二十代前半の女性の動きに後背位で遂に成頭は耐えられなくなり装着したコントドームの中に欲望液を射出してしまった。彩代は頂点に昇り詰める途中だったので、
「ああっ・・・もう少し我慢してくれたらいいのに・・・。」
と不満を漏らした。
二人は接合を外してダブルベッドに仰向けに横たわる。
玉金玉男はニヤリと笑うと撮影を停めて、
「いい動きだったね。奥さん、三十路と思うけどセックスとなると二十代前半だ。旦那が年下とか?ですか?」
両脚を広げて横たわっている彩代の股間は未開地の緑地のような恥毛の密集で彼女は陰唇を震わせて、
「いやん、主人は八十歳で、もう八年はセックスしていません。」
と恥じらった。玉金玉男はニヤニヤして、
「八十歳でなくとも旦那とセックスレスな女性は、いますよ。御主人は財産家なのでしょうね?」
「ええ、世界中に別荘を持っています。今は暑いからカナダの別荘に行っていますわ。」
「奥さんを同伴せずに、ですか。」
「ええ。会社は専務に任せていますけど、何か非常事態が起こった場合は私が対処します。専務が私に電話かメールしますので。」
「ほう。それでは代理社長みたいですね。」
「そうなんですの。主人はカナダにも若い女を連れていっています。」
玉金玉男は好奇心のある目を全裸の彩代に向けて、
「奥さん以外の若い女には勃起するのですかね。」
「現場を見ていないから分かりませんけど、もしかしたら勃起しているのかもですわね。でも立たなくても女と遊べますわよね?」
「ええ、それは、そうです。はい。」
「十八歳の高校中退のモデルの女の子をカナダのモントリオールの別荘に連れていっているのですわ。福岡市天神にあるモデルの派遣会社は主人が経営しています。それも今、私が面倒を見てあげているのですけど。」
「ふうん、モデルクラブですね。若くて綺麗な子が一杯いるはずですねえ。」
「十八歳の女子高生を二十人位連れて貸し切りにした温泉の大浴場で一緒に入るんです。プールみたいな温泉で主人を取り囲んだ裸の若い女子高生の股間の陰唇を温泉に潜ってキスして回ったりします。私は、それを物陰から撮影させられましたものですわ。二十人位の温泉水の中に立っている女の子の股間にキスするには一人一人、もぐっては顔を上げないと息が持ちません。社長からオマンコにキスされると、いい仕事を貰えるからって、みんな楽しそうに全裸で温泉大浴場の大浴槽内で臍から上は温泉から出して形のいい乳房を揺らせて待っています。」