sf小説・未来の出来事6 試し読み

 それで流太郎は、
「テスラ波で何の情報を送っているんだろう、地球から。」
と綸蘭に聞いてみた。
「バリノさんの話では、地球の全人口とかも送られているらしいわ。」
「そんな事まで!他には、どんなものを?」
「世界各地の気温とか、湿度とかなどもね。スフィンクスの目を通して世界各地を撮影しているらしいけど。」
「エジプトのスフィンクスは、そのために、あったのか!」
 なるほど古代に現れた宇宙人は粋なものだ。美術品的な建造物に実用的な目的を潜ませる。それでエジプト人は何ら怪しみもせず、又、現今までスフィンクスの本当の目的を人類は知らずにいた。綸蘭は続けて、
「その情報は火星にではなく、プレアデスに送られているとも言われています。プレアデス星人は大体において善なる存在だそうだから、地球は安全なのよ。そうでなければ地球人は奴隷以下の存在として扱われていたでしょう。」
流太郎は、善なる宇宙人だからこそ地球人は宇宙人に対して無知でいられたのだろうと思った。数限りなく多くの人達、特にメキシコやマレーシアで目撃されたUFOでさえ、他国のアカデミックなところでは黙視されてきた。それは自分達の拠り所とされる地球の幼稚な科学的根拠が崩壊するからである。そもそも地球の宇宙に対する科学の程度は群盲がゾウの体をあちこちと撫でているのと同じで、ある者はゾウの尻尾を象だと言ったりしている。いずれ天動説が崩れていったように地球人は自分達よりも数万年か数千年進歩した宇宙人の存在を認めなければ、ならなくなるが、天動説を当時の教会が固執したように現代においても地球オンリー説に固執するところが存在する。
一つは頭がいいと己惚れている大学教授らが断固として宇宙人の超科学を否定し、太陽は爆発し続ける星だという今の地球の科学で説明可能なものにしていなければ、更に無知なる大衆の失笑、非難を買うこと必至であるがため、新しい正しいものを否定し続ける。それを旧来のメディアは追随してきた。ところがガリレオ並みの勇気ある人たちが動画共有サイトで火星の真実なども暴露、リークし始めたのは随分前からだ。
博多湾の上に浮かぶ愛高島も世界第一の不思議と称えられても、その原理は今の地球の科学では解明できない。ヘリコプターや飛行機、さらに高度な地点での人工衛星などによって愛高島の島の上を実際に見ることができるのだが、それらのものが出来ていない時代には愛高島は地上からしか見ることが出来なかったのだ。
真上綸蘭は一息つくと、
「一つ下の階で映写室があります。そこで何か面白いものを放映しているみたいだから、行きましょう。」
と若い女性らしく流太郎を誘った。
下の階へ行くエスカレーターのところにいくと、綸蘭は、
「どちらかの手を手すりにかけると、体が浮くわ。見て。」
と説明し、エスカレーターに乗ると右手を手すりに掛けた。すると不思議!綸蘭の体は足の下が数センチは浮き、右手で支えた形になる。
昔、いたイギリスのマジシャン、ダイナモがロンドンを走るバスに片手で手のひらをバスの車体の側面につけ、空中に浮いたままの姿勢でバスが走っていく、という動画共有サイトで見られた光景を思い出してもらえば、分かりやすい。
綸蘭の場合はエスカレーターの手すりに右手で、それを行っている。流太郎は、
「すごいなあ、僕にもできるのかね、それ。」
と後ろ姿の綸蘭に訊くと、エスカレーターで下りゆく綸蘭は、
「誰でも、このエスカレーターでは出来るわ。やってみて。」
と返事をしてきた。
流太郎も右手を手すりにおくと、エスカレーターの上で流太郎の体は数センチ浮上した。
「うわああっ、浮いたよー。」
と叫ぶ流太郎は先にエスカレーターで降りて、その近くに待って立っている綸蘭の睫毛を伏せている笑顔を、下降しながら見た。
 不思議な映写室とドアの上に表示されていた。そこへ入ると、まだ観客はいなかった。やがてブザーのような音がして館内は暗くなる。綸蘭と流太郎は最前列の中央で並んで、映写幕に映るものを見ていくことになる。
大きなスクリーンに石器時代の地球が映し出された。次に現れたのは古代人。簡単な服を着て、手に石の斧を持っている。
次にマンモスが現れる。その時、この古代人が巨人、である事に見ている二人は気づいた。
身長四メートル以上だ。彼はマンモスと戦い、石斧でマンモスを倒した。
ドスンッ!と倒れるマンモスの肉を石斧で切り刻み、巨人は、その肉を抱えられるだけ、抱えて森林の中の洞窟に持ち帰った。その洞窟は巨大なもので、そうでなければ巨人は暮らせないだろう。中には若い女性、おそらくは巨人の妻であろう、これも又、巨人の四メートルはあろうという体を洞窟の中で座って待っていた。
その巨人の女性は胸は、なにも纏わず、白い乳房を露出している。巨大な胸だし、乳首や乳輪も巨大だ。現代の普通の女性の二倍以上の乳房だ。顔や腕、足もその位の大きさで、巨人の女は腰の周りに白い布を巻いている為、陰毛や尻は見えない。
スクリーンに但し書きのような文字が現れ、
これから行われる会話は日本語で字幕として、画面下に現れます。
古代巨人夫妻は会話を始める。妻が、
「わあ、すごい!マンモスなの?今日は。」
と両手を叩いて乳房を揺らせた。
「ああ、簡単に倒せたよ。」
洞窟の中では小さな焚火が燃えている。妻は夫が置いたマンモスの肉の一部を手に取ると、焚火で焼き始めた。彼女は、
「炭も置いているから炭火焼きなのよ。おいしくなるわ、今日の焼肉。」
と古代人にしては知恵がある発言、それとも巨人として当たり前な文化の度合いを示す発言なのか、それを楽しそうに話した。横から見える彼女の姿は尻の膨らみも凄く、百八十センチはヒップサイズとして、あろう。バストも百八十センチほど、あるらしい。ただ洞窟の中では彼女の体と対比するものが、ない。スクリーンで見ていても、黒い長い髪の、白い肌の、目も黒色の成熟した女性としか見えない。
焼肉の二枚目を火にくべようとした時、美巨人女性の腰の布が落ちた。巨人の男は寝そべって、妻を正面から見ていたので、彼女の大きな股間の黒い恥毛と、その下の女の縦の溝を見てしまった。
「おうい、焼肉より、おまえのその足の付け根の穴の方が、おいしそうだなあ。」
と涎を垂らしながら巨人は立ち上がる。その時、巨人のペニスも隆々と勃起していた。勃起すると男の腰の布は落ちるようになっているらしい。巨人の男のペニスサイズは五十センチは、あるだろう。妻は、それを見ると、
「いつみても逞しいわ。早く、ほしい。」
と話すと、二メートル近い白い両脚を広げて寝そべった。
画面に
学術的に作成された映像ですので、真摯に観察しましょう
という但し書きが出た。
巨人の男は妻に、のしかかると五十センチを妻の細長い、現生人類の二倍強の女性器に挿入していった。
巨人であるから荒々しいセックスかというと、そうではなくてスローセックスともいわれるもので、映像は二時間も二人の巨人の性交を描いていた。流太郎は綸蘭の横顔を見たが、彼女は真剣に古代人の性行為を眺めていた。
文章での記述では会話は日本語で表記したが、映像の中では古代語と思しき言語が交わされ、性交中に美巨人女性が発する声も古代語らしく、
「ええあっ。」とか、「あうあうあうんっ。」と聴こえる快感の言語的表現もあった。
二人の身長が四メートル以上という事を頭に入れておかないと、ただの古代人の性交映像と見られてしまうだろう。
性交は終わった。巨人の男は焼けた肉を手に取って食べると、
「よく焼けすぎたな。まあ、ウェルダンだから、いい。」
と焼肉の焼け方の評価をした。
美巨人女も焼肉を食べ、
「おいしい、ね。お腹もいっぱいになると、又、セックスしたくなったわ。今度は外で、しましょう。」
と男の三十センチに戻ったペニスを右手で掴んで立ち上がる。
「おっとっととと。急いで立つと、ちんこ切れてしまうぜ。」
巨人男も慌てて立ち上がる。スクリーンに
野外セックスも学術的興味を持って御観覧ください

 二人は晴天の森の中で、長い木の枝の下で立ったまま結合すると、二人は両手を伸ばして木の枝に掴まり、ブランコで揺れるように性交時の結合のまま、空中を揺れた。
二人の巨人を同時に支える木も巨木で、枝も太い。巨人の女は両足の裏を巨人男の尻に絡めている。
サーカスで男女が揺れるものが、あるが、古代の巨人の男女は性交したまま、それも二人が向き合ったままでの結合状態で大きく揺れているのだ。
巨人の男は、
「おお、たまんねえ。次は位置を変えよう。一度、木の枝から降りるべえ。」
と妻に話すと、
「そうするわ、うええ、あうううっ。」
二人は木の枝から離れると、地面に着地し、体を離す。次に巨人の美女は背中を夫に向けて、両脚を大きく開く。夫の巨人は再び五十センチになった、巨大な男根を妻の巨大な女性器に深く挿入、そのまま二人は巨木の枝に手で掴まり、ぶらさがると前後に結合したまま体を揺らせていった。
ここで映像の一部は終了した。
流太郎は、
「続きは、あるんだろう、これ?」
と綸蘭に訊くと、頬を染めた綸蘭は、
「この映写室、まだ一般には公開されていないの。続きは製作中という話よ。」
「あれさー、俳優がやっているんだねー。」
「いいえ、CGによる古代人の再現映像です。」
「それにしては、よく出来ている、凄すぎる。」
「現存の人類の記憶には、ほぼないものをアカーシック・レコードから採取して火星の映像制作会社が作ったものなんです。」
「アカーシック・レコードって、なに、それは。」
「人類の発生から現在までの全ての出来事を記録しているのがアカーシック・レコード。」
「映画は終わったから、出ないといけないんじゃないか。」
「入場者は他に今日はない、というより、まだ一般的に未公開だし、わたしの権限で、いられるのよ。」
「それなら安心だ。僕のアカーシック・レコードも何処かにある、という事だね。」
「誰のも平等にある。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の分まで、あるかは、わからないけど。」
「神話の神様の伊弉諾尊だろう?神界は深い海の深海のように理解できない。」
「それよりも今日は何か動くって、バリノさんが言ってたわ。」
「何が動くんだろう?」
「さあね、それは、わたしにも分からないわ。出ましょう、ここから。」
綸蘭はスラリ、フワリと立ち上がった。映写室を出ると、例の片手で手すりに摑まると足が宙に浮くエスカレーターに乗って、二人は一階に降りた。そこにレストランがあった。
綸蘭はガラスの向こうに見えるメニューを見ると、
「食事にしましょう。時さん、お腹、空腹じゃないの?」
「そういえば、昼になったね。ここのレストラン、変わっているな。」
「最先端のレストランなのよ。牛鰻定食って、面白そう。高いけど、わたし、これにする。」
「僕も、それにするか。真上さん、中に入ろう。」
二人は、その店の前に立つとガラスの扉が開いた。のみならず、二人の立っていた床面が店の中に移動したのだ。それで、二人は歩かずに店内に入っていた。
店内は牛丼屋みたいで、チェーン店とかと違うのは座敷がある。店内は誰もいなかったのだ。店主らしき中年男が、
「いらっしゃい。四人が座れる座敷にどうぞ。うちは高いのか、あまり、お客さんが来ないので貴方達は大歓迎です。」
と声をかけてきた。板前風の白い和服の上下を着た店主は、座敷に向かい合って座った綸蘭と流太郎に、おしぼりと、お茶を持ってきて、
「なんにしましょうか。とりあえず、ぎゅううな定食は、おすすめです。」
と話す。綸蘭は、
「鰻と牛肉が入った丼ものね。」
と訊く。店主は、
「そうだけど、これが御客さん、牛の体の一部が鰻になっている牛を使っているのですよっ。」
と説明する。綸蘭と流太郎は同時に笑うと、流太郎は、
「そんなー、また、また。」
と受け答える。店主は真顔で、
「本当なんですよ。この島の管理者はバリノさん、ていう火星人だけど、」店主は綸蘭を見て、
「話しても、いいのかな真上さん。」
と訊く、綸蘭は、
「ええ、この人になら、いいわよ。」
店主は、うなずき、
「火星で牛と鰻を合成したんだって。」
と言うではないか。流太郎には、よく理解できなかった。
「牛と鰻を、どう合成したんです?」
店主は、
「雄牛の精液に鰻のDNAを混入して、牝牛と交合させたら、できた子牛には腹から鰻のようなものが垂れ下がるそうですよ。それが牛の肉と鰻の肉の混じったモノらしく、おいしいんですよ、とっても。」
流太郎は、
「その鰻には頭は、あるのかなあ。」
店主「頭は、ないそうです。ぎゅううな定食に、しますか?」
二人は、うなずいた。
早くもないが遅くもない出来上がりで、二つの丼が二人の前に置かれた。
流太郎は丼に並んでいる肉に驚く。それは牛肉にウナギの蒲焼きが二つ、くっついたものだ。店主は自慢そうに、
「なるべく牛が生きている時の姿に、したくってね。鰻だけ蒲焼きにするのは面倒ですけど。」
と説明してくれた。
流太郎は食べてみて、鰻と牛肉のくっついた肉の味わいを感じた。
レストランを出て、ピラミッドも出た二人は空に浮かぶ雲を見た。雲の動きから流太郎は、もしかしたら、この浮かぶ島は今、動いているのではないか、思ったのだ。
「真上さん、愛高島は動いているんじゃないの?」
「そうね。東に向かって移動しているみたいよ。」
「浮かぶ島が動くなんて。」
「浮かんでいるだけじゃ物足りないわ。」
島が動く速度としては速いのか遅いのか、流太郎には分からなかった。
だが地上にいる人達は空を見上げて、島が動いているのを見た!
「おい、愛高島が飛行を始めたぞ!」
「ほんとだ!空を飛んでいる!」
博多湾の沿岸から愛高島を眺めていた人達は、東に向かって飛んでいく愛高島を驚嘆のまなこで見つめ続けた。
 愛高島は瀬戸内海を渡り、伊勢湾を通り過ぎ、駿河湾へ到達すると、そこで一時、停止した。
駿河湾は日本で一番深い湾で最深2500メートル、ある。日本一高い山の富士山と対照的だ。
雲を見つめていた綸蘭は、
「止まったわ。腕時計にある位置情報を見るわね。」
彼女は突風が吹くと折れそうな左腕を上げると、多機能腕時計のガラスの面を見る。
「今、愛高島は静岡県の駿河湾の上空よ。」
と笑顔で流太郎に告げる。流太郎は驚くと、
「そんなにも移動したのか。並みのジェット機より速いじゃないか。」
「推進力が反重力だそうだから、自由自在に燃料なしで速度を上げられるらしいわ。」
「反重力とは偉大だね。」
「あなたと、わたしの間にも重力は働いているけど体重の重さの方が勝っているから、自然にしていたら体がくっつく事は、ないの。」
綸蘭と抱き合えれば、それは幸せな重力だ。康美との間には反重力が働いたのだろうか、と流太郎は思った。
愛高島の他の人達は、この移動に気づいていないのかもしれない。地上にいる人々も日曜日に空を見る人は多くはない。釣りをしている人はウキを見ていて、空は見ないものだ。
偶然にも空を見て、駿河湾の上に巨大な島が静止しているのを目撃した人は、UFOを見るよりも驚いた。
やがて愛高島は相模湾へと移動を開始した。相模湾も水深が深く、駿河湾に次いで日本で二番目の深さだ。水深1500メートルの深さのある場所がある。
この相模湾の上でも愛高島は停止した。相模湾の深い場所は小田原より西であるのだが、愛高島は更に江の島の真上に飛行を続け、そこで飛翔を突如、停止した。
日曜日だけに観光客も多く来ていた江の島が、いきなり曇り空のように暗くなった。空を見上げた観光客の若い男が、
「うわあっ、あれは何だっ!!」
と大声を上げたので、周りの人々も一斉に空を見上げる。そこには、江の島よりも大きな円形の巨大な白い物体が浮かんでいるのだ。巨大なUFOに見える。愛高島の底部は火星の白金で作られている。
「UFOか?あれはー。」
「いきなり現れたぞー。」
多くの人は携帯電話でカメラに撮影し始める。へたへた、と座り込む女性も見られた。そこから逃げようにも浮かぶ物体は江の島より大きいのだ。走っても、その白い円から抜けられない。それに過去、大きなUFOはメキシコやマレーシアで多くの人々に目撃された。その時、その人たちは逃げもせず現れた円盤を見ているのだ。
それらの事実から今、江の島にいる観光客も逃げ出そうとする人は、いない。
ただ、あの巨大な江の島より大きな物体が真っ逆さまに落下すれば、そこにいる観光客は全員、圧死するだろうし、江の島神社も全壊する。
とはいえUFO落下事件は、滅多に起こらない。それもあってか人々は冷静でいられた。
学者風の中年男性が口を開き、
「もしかして、あれは福岡市の博多湾に浮かんでいた愛高島ではないか、と思う。」
と右手を自分の顔の眉のあたりに翳(かざ)しつつ、意見した。周りの人達も、
「そういえば、そうだな。あれ位の大きさだった。」
「でも博多湾の上に静止していたんだろう。」
「最初は何処からか、飛んできたはずだよ。」
「何処から、飛んできたんだろう。」
「もしかして地球外から、か。」
「そんな事は、ないさー。あれ位、大きな物体が地球外から飛んで来ればNASAなら気づく。」
「そういえば、そんなニュースもなかったなあ。」
それで愛高島は世界中から注目されている。日本の方からも愛高島の出現をうまく説明できる人物は出てこない。
カメラに撮影しない人達は真っ先に携帯電話で誰かに話していた。
十分もすると愛高島は移動を始める。その速度は一瞬にして江の島を離れ、下にいた観光客らは次の瞬間、愛高島を見失ってしまった。
次に現れた愛高島は東京湾上だ。それから皇居の真上、そしてJRの山手線に沿って東京都区部を一周する。
愛高島のピラミッドの近くの野原にいる真上綸蘭と時流太郎は、携帯電話でバリノの説明を受けた綸蘭が、
「今、東京の山手線に沿って、右回りで動いているそうよ、この愛高島が、ね。」
と話すと、流太郎は、
「信じられないな。動いているのが感じられない。」
「愛高島の周囲に目に見えないバリアを作っているんですよ。それで風も吹かないし、揺れも感じないの。」
「ジェット機よりもリニアよりも揺れないね。」
「この島自体が巨大なUFOなんです。これでも小さな方で、木星の大きさのUFOも火星のものではないけど、存在するんだそうよ。」
「木星と同じサイズのUFOか。それも信じられない話だ。それじゃあ木星もUFOか、という話になるね。」
綸蘭は、それに対して生真面目に、
「月は人工物でUFOのようなもの、という事らしいわよ。」
「またー、そんな事は、ないだろうー。」
「月だって地球より遠くから飛来してきて、地球の軌道と一つになって回っているけど、月の内部は宇宙人が住んでいます。それに月は地球に多大な影響を古来から与えているわ。女性の月経にも月は影響を与えているし、満月に事故がおおいとか、月の重力が海の波を起こすし、これらは宇宙人が人類を実験するために月を送り込んだそうです。火星では小学生でも知っているんですって。」
「月には女神じゃなく、人類をモルモットのように調べる知的生命体がいるのか・・・。」
「神隠しって日本でも古くからあるけど、あれの一部は月に連れられて行っているんです。アポロの乗組員も月の裏側で幽閉されている地球人を見たそうよ。木星や土星の衛星も人工物があるらしいってバリノさんの話ですわ。」
綸蘭の携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし、真上です。あ、バリノさん。こんにちわ。え?今、東京都庁の建物の上に、愛高島は停まっているんですか・ええっ?島の底部から、いくらかの下水を出して都庁のビルにかける・・・おしっこ、とか・・アハハッ、面白いわっ、本当ですか?」
「本当だとも。火星から遠隔操作しているんだ。今、都庁のビルの屋上に愛高島の下水を十リットル放出しておいた。」
と愉快に話すバリノの声は綸蘭の横にいる流太郎にも聞こえた。
都庁のビルの屋上には人は誰もいなかったが、第一本庁舎の45階展望室のガラスの窓には愛高島からの下水が流れ落ちて行った。そこの展望室、地上から202メートルの高さにいた人達は、それを見て、
「雨が降って来たよ。」
「それにしては黄色いなー。」
「黄砂の影響だろう、きっと。」
「黄色の雨降る新宿都庁、か。」
と楽しそうに話した。

 自衛隊は愛高島の飛行に気づいていたが、敵機でもないので出動はできない。東京都民は空を見上げる人も少ない、というより、いなかったので愛高島は都民の誰にも気づかれずに新宿から池袋へと飛ぶ。
 池袋ハイスカイトウキョウという八十階建ての高層ビルの真上を愛高島は目指す。そこの展望室は全面のガラス張りだ。
停止した愛高島は底部より下水の放出を開始した。
若いアベックの男女が、その展望室のガラスに流れる黄色い液体に気づいた。女が、
「黄色い雨、かしら。」
「黄色い雨、だろう。」
「幸せの黄色い雨よね、きっと!」
「幸せの黄色いなんとか、とかいう今は太古のような昔の映画に、そういうタイトルあったさ。」
「幸運の前触れっ。わたしたちの、これからの幸福を祝福してくれているのね、神様が、きっと。空から降らせてくださっているのよ、黄色い雨を。」
「ああ、シャワーのように浴びてみたい雨だね。」
若いカップルは愛高島からの下水を飽きる事もなく、眺め続けていた。

 その時、ハイスカイトウキョウの真上にいる綸蘭と流太郎は、携帯電話で綸蘭がバリノの話を聞く。
「えっ!?池袋のハイスカイトウキョウの真上から、又、あれを・・・・。」
「ああ、今度は多めに20リットルのサービスで。よし、終わった。」
「東京の今日の天気は一部、雨だわ・・・ふふふっ。」
と綸蘭は小さな声で呟いた。

 東京都では今、百階建てのビルが建築中だが完成した暁には愛高島の下水放射をバリノ氏は計画中であるという。
 赤羽を過ぎ、上野から東京駅の真上に到着、停止すると、バリノは携帯電話で綸蘭に、
「今から光速で運転して地球を一秒で七回り半してもいいが、別に面白くないから福岡に帰ろう。」
それは光速で行われた。
一秒未満の時間で愛高島は福岡市の博多湾上空の定位置に戻ったのだ。

 城川康美は愛高島に住んでいるわけでは、なかった。マンゴーは売り切れるのが早く、三時には在庫がなくなる。店で置いておける量には限界がある。次の日の早朝に火星から新たにマンゴーを運んでくるのだ。
康美は午後三時過ぎに店を閉めて帰宅する。ヘリコプターで福岡市の地上に戻るのだ。その代り、朝は早い。午前八時には火星から来るマンゴーを受け取りに愛高島には昇っている。
 今は午後三時、康美は愛高島が東京まで移動したのも知らないまま、店を閉めてヘリコプターで地上へ降りて行った。

 康美は自宅へ直行する。暇だからネットサーフィンをする。元々、康美はインターネット関連会社に勤めていた。マンゴーの販売は接客であり、聊(いささ)か疲れたのだ。
誰かに任せたい。そうすれば三時で終わることもなく、若返るマンゴーは販売される。
求人など自分のブログに書けば、いい。
マンゴー販売責任者募集します
 福岡市の愛高島でマンゴーを販売してくれる方、資格、経験は問いません。二十五歳までの女性の方を募集しています。
そうキーボードでパソコンを打つと、康美のブログは更新された。
(これで、誰か来るわ。)康美は「株 投資顧問 福岡」で検索した。すると一番目に出たのが、株カイヤスカーという福岡市にある顧問会社だ。
そのサイトで無料会員登録を康美は、したのだ。彼女は貯金ばかり、しても、しょうがないと思った。それで株式投資を始めようと思ったのだ。すぐに返信が来た。

 ご登録、ありがとうございます。株カイヤスカー代表取締役の蕪山で、ございます。弊社では南区高宮にて株式セミナーなども開催しております。お時間が、ございましたら是非、お立ち寄りください。
明日の午後、四時もセミナー開催の予定です。

 そのメールには、その他に無料推薦銘柄としてマザーズの株式会社夢春も取り上げられていた。
康美は、それを見ると、
「明日の午後四時なら愛高島の仕事が終わって、すぐ行けるわ、よし、決めた!」
と独り言を呟く。
その時、康美の携帯電話が鳴り出した。
「はい、城川です。」
「初めまして、こんにちわ。相出(そうで)澄香(すみか)と申します。」
「ええ、初めまして。それで、ご用件は何でしょう。」
「社長のブログ、拝見しました。わたし、ぜひ、働きたいんです。マンゴー販売の仕事です。」
「ああ、見てくれました。もちろん、募集中ですし、あなたが第一番目に応募してくれましたわ、相出さん。」
「そうですか。わたし、曾曾祖母の名前は相出スネといいます。余計な事だと思いますけど。」
「まあ、面白いわ。フルネームを名乗ると同意した事になりますね。」
「ええ、そうです。わたしも社長の仕事の募集に同意します。」
「ありがとう。面接には、いつ、来ますか。」
「今からでは、どうでしょう。」
「いいわよ。会社は愛高島にあるけど面接場所は、わたしの自宅に来てね。」
そこで相出澄香は康美の香椎のマンションに面接に来る事になった。
十分もすると、康美の部屋に玄関チャイムが鳴る。玄関前が映像で見れるので康美は玄関の中にある小さなパネルに映った相出澄香の可愛い顔を見ることが出来た。十代のような美少女、未成年なら雇用するのは難しいな、と康美は思いつつ玄関を開けた。
相出澄香は笑窪を浮かべて、
「こんにちわ。相出です。」
「待ってたわ。上がって、中に。」
「はい、お邪魔しまーす。」
元気な相出の明るい声は康美の心も明るくした。
 少しでもマンゴーを置けるように康美は住居を変えて、3DKのマンションを借りている。その一室は事務室のような役目にしていた。応接テーブルと椅子も揃えていた。人を雇いたくなったのでネット通販で購入していた。康美は澄香に、
「そこに座って。面接を始めます。」
澄香は着席、康美は彼女に相対して座ると、
「履歴書もPDFファイルで送ってもらったもので、いいです。あれで貴女の履歴は見ましたよ。ですから、それについては合格ね。」
澄香は嬉しさ満面になり、
「では、わたし採用ですね?」
「あなたの明るい笑顔と声も、いいわね。明日から働いてもらいます。」
康美は印刷した澄香の履歴書を自分の机から持ってきて手に取ると、
「えーっと、短大卒業後、サイバーモーメントの子会社である中国料理レストラングループ『食べチャイナ』に入社。そこでは、どんな仕事を経験したの?」
「レストラン業務全般と、主に接客です。マンゴーのデザートも客席に、よく運びました。」
「ああ、それでは慣れたものですね。お客さんにマンゴーを売るのは。」
「わたしサイバーモーメントの黒沢社長が接待する貴賓室にも、よく料理とマンゴーを運びました。」
「貴賓室って、レストラン内にあるの?」
「サイバーモーメントの本社にあります。」
「『食べチャイナ』にも個室は、あるわよね?」
「それは、ほとんどの店にあります。わたしが研修を受けたのは、『食べチャイナ』高宮店です。ちょっと高めの価格設定でも、お客さんが来店してくれます。」
「若返るマンゴーも高いけど、買ってもらえるから、あなたには適人適所だわ。」
「わたし、まだ若いから若返っても、しょうがないですけど(笑)。」
「いずれ貴女も歳は取るわ。二十五歳より上に行っても、若返るとしたら・・・いいと思わない?」
澄香は両眼を斜め上に向けて宙を見るような顔をして、
「いい、と思います。社長も若く見えます。それはマンゴーの影響ですか。」
「そうなのよ。若返ってしまったの。実は、このマンゴーはね・・・。」
康美は思いとどまり、
「秘密があるけど、いずれ教えてもらえるかと思う。」
「へえ、そうなんですか。知りたいです、社長。」
「許可がいると思うから、その話は、ここまでで。面接は終わりですよ。明日、朝八時前五分までに、ここへ出社よ。」
「はい、社長。それでは失礼します。」
相出澄香は積極的に立ち上がると部屋を出る。康美も玄関まで見送った。

 翌朝、指定された時間に澄香は出社してきた。
「おはようございます。」と挨拶する彼女の上着は黄色でスカートは赤。黄色と赤で、よく目立つ。スカートは膝まである長さ。昨日と違って澄香は胸のふくらみが良く分かる上着を着ている。康美は、
「相出さん、お早う。貴女の胸、大きくて、いい形よ。」
「うふ。接客には必要ですもの、女なら。」
と可愛い声で澄香は答えた。
康美は、
「屋上に行くわよ。このマンションに。」
と指示して二人はエレベーターに乗る。屋上に着いた二人はエレベーターを出ると、すぐにヘリコプターの爆音がして降下してきた。
後部座席に二人が乗ると、運転手は若い男性でパイロット風な外見だ。彼は何も言わずに、二人が着席するとヘリを上昇させた。
愛高島まで十分も、かからなかっただろう。ヘリコプターを降りた澄香は、
「うわあ、すごいな。これが浮かぶ島、愛高島なんですね。社長。ヘリコプターは専用ですか。」
「毎日乗るから、私のマンションの屋上に来てくれるの。」
深緑色のヘリコプターは爆音を立てて、上昇して島を出ていく。又、そこから下降して二人には見えなくなった。
康美は続けて、
「今から、あのヘリは他の人達を載せて又、愛高島に来るわ。さあ、店に行くわよ。」
康美の歩調に合わせて澄香も歩く。澄香は康美より少し身長は低いが、胸の大きさは同じくらいだ。 
 シャッターの降りた店舗の前に立つ康美は、ハンドバックからリモコンを取り出してシャッターを上げた。
康美は澄香にマンゴーの在庫の場所や、レジスターの扱い方などを教え、その他の業務も習得させた。十時の開店時には接客を任せた。九時には今までも来ているアルバイトの女性に澄香を紹介した。
新人ながら店舗の責任は澄香に康美は一任して、その日は後ろで見ているだけで、店舗業務は滑らかに流動した。