魔法で性交したら4 お試し

竹島を知らない人が、いなくなるように
 その老人たちは、まだ喧々諤々というように話していたが、町田に着いたので、浜野と那美子は電車を降りた。竹島が日本の領土であるという事は、ネットでも最近盛んなので、二人はその事を知っていた、とはいえ、自分たちでは、どうしようもないと思うしかなかった。それで那美子は
「これからの若い人達に、しっかり竹島が日本のものであり、韓国に不法占拠されている事を伝えていくしか、ないのかしら。」
「うーむ。大きな人の波が日本を変えるんだろう。竹島なんて知らない人も、多かったわけだから。あー、絵にしても、いいかもしれんね。」
「わたしもヨガの生徒や、カレーの店の人達に伝えるわ。あ、もう、お別れの場所よ。」
JR町田駅前の立体歩道橋のところで、下りる場所は二人はそれぞれ、違っている。浜野は右手を上げて、
「じゃあ、また会おうよ。」
那美子も、同じように右手を上げて、
「またねぇ。携帯で、け、遺体が。なんて事は、もう、ないわよ。」
暗い青の夜空は、日本の悲しみを表しているようだ、竹島を取り戻したい、そう日本列島が思っているように。那美子はスイスイと人混みの中に見えなくなっていった。浜野は少し寂しさを感じた。そういえば異性の知り合いは最近、与我那美子だけ、みたいだからだ。あの写真を撮ってくれた女性とは、会っていないから縁もないのだろう。
 
ミンクレディ
部屋に帰った浜野の楽しみはパソコンで動画を見る事だった。動画共有サイトを、よく見ている。その他にも動画を無料で見れるところもあるが、動画共有サイトが、やはり一番いい。チャンネル数も一番多いし、プロ、アマが関係ないのも、いいのだった。そんな中、イギリスのスーザン・ボイルの日本版かといえる歌手が登場している。彼女達は二人でグループ名をミンクレディとしている。歳も五十近いが健康食品のバナーに出てくる女性のように若々しい。ミニスカートで踊りながら歌う、その二人は人気絶頂。最初に登場する時はミンクのコートを羽織っているが、歌う前に、それを脱ぐとビキニ風の衣装で、ミニスカートになる。そこで挨拶して、
「ユーです。」「カイです。」
「二人合わせてユー、」「カイ。」
彼女達は静岡の出身で信用組合に勤めているが、子供の頃に見たピンクレディが忘れられなくて、この度、結成したらしい。デビュー曲となったのが「けったいな警部」次が、信組の職員らしい「ユーオウ」だ。YOU OWEのOWEは金銭の借りがあるという意味がある。過去に借金の経験がある人に、特に受けているらしい。結構、反響が大きいので某インスタント食品メーカーも自社のCMにミンクレディを使おう、という話も進んでいるという。「ポスター」という曲も発表され、子供たちにも大人気だ。まさにパソコンの前が、お茶の間というものになりつつある、きっかけは、このミンクレディが最初だと、いってもいい。
 那美子の容貌を要望?
浜野はミンクレディの「ユーオウ」を聞きながら、そういえば、那美子にはアイスクリーム位では、返せていない借りが、あるような気も、しだした。頭の中に、ぼんやりと浮かぶ那美子の顔は、最近、次第にOL風でも、なくなっていた。
絵を学んでいるだけあって、浜野は明確に思い描けるが、彼女の顔は日本人離れしている。というのも、父親はインド人だからであるからだが、それが昔、子供の遊びであった「インド人の黒んぼ」というのではなく、色も白いし、では何故かというと、那美子の父親はカースト制度の中ではバラモンであり、祖先はゲルマン人、つまり外国人なのだ。それで那美子の顔も、外国人女性の血が半分入っているような顔立ちとなっている。最初に見たときよりも、次第に外国人女性のような顔になってきている、と浜野は思っていた。日本でも人気のあるタレントなどは、よく外国人の血が入っている事もある。四分の一位が人気が出やすいようだ。で、那美子はハーフだから、かなり日本人離れしてくる。そうなると、取り付きにくい雰囲気も出てきやすいのである。那美子の父親は、日本での金儲けの方をインドのバラモンより、いいものと思い日本に帰化も予定している。彼女のヨガへの傾倒は、父親という精神的背景が、あるのは、言うまでもないだろう。あの心霊写真の頃には、まだ、今より日本人女性らしい顔では、あったのだ。那美子の父親は北インドの出身で、北インドから来たインド人なのですよ。アーリヤ人ということに、なります。
ユナの白昼夢
 人生とは、夢のようなもの、かもしれない。もし、この人生から覚めることがあったら、その時、人は、この世には、いないのだろう。人生が夢だったら、あなたは真面目に生きる気が、するだろうか。出世したい、金儲けがしたい、そんな気持ちの中で生きている事が実は夢だったとしたら。醒めた時、それは多分死後の世界でだろうけど、なんたる茶番劇であったのかと思い出す事も、あるだろう。鳥越敦司の小説でも読んでいた方が、よかったと思う人もいるかも、しれないね。そんなわけで、思うように、ならない人生で人は夢を見る。それが悪夢だったりすると、どうしようもないわけだが、悪夢を見るという事は予知夢であるか、そうでないなら、その人は本当は、その悪夢のような人生を望んでいるのかもしれない。と、すると、ものすごいマゾヒストと思われるのだが、そういう人も少なくないのかもしれない。人生が夢なら預金通帳の残高も夢の又、夢だ。ユナも、お小遣いは、すごくもらっているけれど、思うようには、いかないのが浜野という男なのだ。それで、日曜の午後に自室でウトウトとしていると、白昼夢を見始めた。それが美少女ユナの章に描かれているものなのだが、浜野がユナの父親の田宮真一郎と、会えると希望に輝いた眼を、したところから先のところを見ようとすると、
「その人のねえ、父親は本当は田宮真一郎じゃないのよ。」
と浜野の後ろに立った若い女が言った。剣上エリだ。浜野は、後ろを振り向くと、
「誰ですか、あなたは。」
「わたし?剣上エリって、いうのです。田宮真一郎の本当の娘は、わ・た・し・なのです。」
ユナは思った。いやーーーーーーーーーーっ。と、そこで眼が覚めたのだ。ああ、そうか。まだ、わたし、あの青年に父の事も言っていなかったわね。
 
福岡へ出張
 銀座の画廊、「金月」は、ますます盛況と、なってきたので人手を必要としたが、それは、すぐに見つかった。早手三五郎という町田の美術大学の学生を、時々、金月に絵を出してくれる早手三四郎が紹介してくれたのだ。
「私の甥ですけど、使えると思いますよ。」
と三四郎は電話で話していた。とりあえず、土日祝日は長時間、平日は夕方から、というスケジュールで交通費支給、夕食費別途支給という待遇で時給二千円で、話は決まった。彼なりの知識を顧客に披露する事も条件ではある。
「ま、学生ですけど美大ですから、ある程度、説明は、できると思いますよ。」
早手三五郎はニヤニヤしながら、控え室で説明した。
「そうね、それで、お願いします。では、美野さん、福岡へ出張を、お願いしますわね。」
と画廊の女経営者、緑川鈴代に命じられて美野は、
「ええ、喜んで。何せ故郷ですから。全部、福岡は庭みたいなもんですよ。いい場所に店を出せるようにします。」
と請け負うとニンマリとした。それから、思い出したように、
「あ、私の留守中は、うちのセガレでも、よかったですよ、使ってもらえれば。」
鈴代は、ニコニコとして、
「今回は、もう、この早手三五郎君に、お願いしましたので、この次にでも、お願いしますわ。」
 
上福
 上京という言葉は、今では東京に行く言葉として知られているわけだが、本来は京都に行く場合を上京というのでは、ないだろうか。正確には上東京と言うべきなのではないかと思われるのだが、そうでないと京都に行く場合は上京という言葉は使えなくなるようにも思うのだが。美野一生は時折、福岡に帰る事もあったが、彼の実家は早良区なので、あまり長くいたくはない気持ちを感じて、いつもいた。早良区は埋立地が観光スポットとはいえ、そのかなり近くには拘置所も、あったりして、あまりよい場所とは、いえないのである。今回、美野は出張費を、たんまりと貰っているため、博多駅近くのビジネスホテルに泊まって、金月の福岡店選びに奔走しようと思っている。新幹線が関門海峡を越えた時、九州に入ったわけだが、何と言っても感じられるのは、水に囲まれた島、という感じを美野も感じつつ、北九州の小倉を過ぎて、いよいよ博多駅に到着しても、東京の人混みに比べれば少ない、と思うものだが、ホテルに泊まった、あくる日に天神に行くとドーンという人の多さを感じるのである。博多駅近辺はショッピング街では、ないので人はそんなに多くはいない。博多駅近辺はオフィス街なのだ。買い物は天神で、というのが相場となっているために、ここ天神一点に多くの買い物客は集まるのである。
(これは、やっぱり金月の福岡店は、天神周辺に、せな、いかんなあ。)
美野は天神駅から降りて、そう思った。さて、上福という言葉にしても、福井とか、福島などが、あるので、本当は上福岡とすべきかもしれないが、そうすると埼玉県にある上福岡という地名がクローズアップされるために、使いにくく、なるものなのだ。
 
 福岡市の埋め立て地、近辺
美野は福岡市の西の埋め立て地、近辺をタクシーで走ってみたのだ。運転手は、
「お客さん、東京の人ですねー。」
「ああ、でも出身は福岡市ですよ。」
道路からは韓国風の建築物が見えるのは韓国領事館であり、警察官が数人警備に立っている。
美野が見たのは、風雲、急を告げつつある国の領事館である。
「野球のドーム球場まで、行きますか。」
「いや、百道浜(ももちはま)へ、行ってくれないか。」
「ああ、わかりました。そんなに珍しいところじゃ、ありませんよ。」
タクシーは橋を渡り、百道浜へ走ったが、企業のビルと公団の団地ばかりで、美術館と図書館が、ある以外は福岡タワーが、そびえている。ドーム球場のあるところは、地行浜(じぎょうはま)というところで百道浜と同じく埋立地であるが、樋井川(ひいがわ)という、小さな川で別れている。
 暗号名「タケシマノキムチツブセ」
 美野一生が福岡に出張している時、日韓関係は厚い雲に覆われ始めたようだ。ついに韓国外相までが日本に侮蔑的な言辞を口にした。野田首相としては野田ラインを主張する気もなく、ただ報復外交を展開している有様だが、海上自衛隊では竹島を洋上から攻撃する際の暗号として「タケシマノキムチツブセ」というものを考えているという噂もあり、冗談であるらしいのだが、憲法改正しなければ動けないとしたら情けない話である。この暗号名はキムチが竹島にある韓国の施設を指すものであるだろう。大日本帝国なら、すぐに攻撃態勢に入れたはずなのに、現在は、である。それなりに緊張感も少しでてきた日韓関係で、福岡の韓国領事館も少しは緊張している中、美野は美術一辺倒で政治に興味が無い、ノー天気な人物である。福岡でも、キムチの不買運動が起こっているわけでもないようだが。こういう時に福岡のスーパーでビビンバ丼なるものを売っていたが、日韓情勢を知らないのか、非国民なのか、詳しい事は、そういうものを出しているスーパーの人間を問詰しなければ、わからないのではあろう。
又、陸上自衛隊の基地は福岡市にないために、美野に限らず、ノー天気なのが、福岡市の人間では、あるのだろう。海上自衛隊では、もしかしたら、竹島攻撃作戦の計画に余念が無いのかもしれないが、それは遠い福岡市には伝わらないものだろう。福岡市には海上自衛隊の基地も、ないのであるから。
 
反韓に反感はない
 結局、日韓は友好など持てる国では、ない事は歴史が既に証明している。そういう中で、在日韓国人が生きる道とは、ある特定の職業に限られたのだろう。福岡市在住の薔薇の星メンバー、文・学男も職業を転々とした。日本人の父親が母と離婚しても、彼ら母子は日本国籍だったにも関わらず、学男の中学の友人が家に遊びに来た時、母親が韓国の民族衣装チマ・チョゴリを来て、その友人に菓子とジュースを持って来た為、学校で「文は朝鮮人だ。」という言葉が伝播されていったのだった。その時、文は、いわれもない屈辱感を持ったのだが、それは、(朝鮮人の何が悪いのか)というものではあった。が、しかし。彼は歴史関係を知るにつれて、日本人が韓国人を忌み嫌う理由も、わかったのだ。それは、まず第一に日本の伊藤博文を暗殺した事である。しかも、その行為を国の英雄的な行為として式典まで現在にいたるも続けている事など、ハーフである彼にも許しておけなく感じられるものもある。それで文はマンションの居宅で母に、
「お母さん。ぼくは日本人として生きたいんだ。」
「ああ、そうだよ。おまえも母さんも、日本人さ。」
「じゃあ、ぼくが反韓でも、いいのか。」
「反韓で生きた方が、得のようだね。母さんもチマ・チョゴリは捨てて、しまったよ。キムチも食べるの、やめた。」
学男は笑うと、
「そういえば、最近は辛子明太だね、母さん。」
「そう。わたしたち親子は、福岡の人間に、ならんと、いかんとよ。」
「そうたい。ぼくも韓国は行った事、ないけん、ぼくは別に福岡の人間と、思いよーよ。」
「明太の他にも、「おきゅうと」も食べようね。」
「ああ、あれは、うまかー。」
 
最近は細菌兵器は作られていない
  インターネットにあまり接しなかった美野も、ホテルで退屈したから、何と、そのビジネスホテルは部屋にパソコンが備え付けてあったので、見てみると、ニュースでは尖閣問題が大きく取り上げられている。現在は個人所有の島では、あるけれど、日本人の所有なら日本の領土となるのだ。それを香港あたりの金の亡者が海底に眠っているかもしれない石油資源欲しさに、ワーワー騒ぎ始めているのだ。というのは、そういう事に疎い美野でも、わかった。が、大真面目に日中海上戦争など、アメリカの方でも考えているに到っては事、穏やかではない。そこでもし日中戦争が再び起こってもアメリカはベトナムで使ったであろう細菌兵器は使わないのでは、という事だ。
「最近は、細菌兵器の開発は、していません。」
とアメリカ国防省の話が、あったかもしれない。それにしても福岡の日没は遅い。七時頃まで明るい八月だ。動画共有サイトにアクセスすると、おすすめ動画として、ミンクレディの動画が並んでいた。(へえー、最近はミンクレディか。昔はピンクレディだったけど。)閲覧回数も、すでに50万回は突破している。「ユーオウ」の動画が、今のところ、一番見られているようだ。借金経験のある人も多いせい、かもしれない。
 イージス艦 「あたご」 舞鶴地方隊より出航
  竹島に向けてイージス艦 「あたご」が京都の舞鶴より竹島に出航した。この一隻で竹島の韓国人を追い払おう、というわけだ。インターネットのニュースでは憲法が改正されて、海上自衛隊の発動が可能となった、とアナウンサーが発言しているのを、美野は、ぼんやりと聴いていた。それで美野は海上自衛隊のホームページを検索して見ると、なんと・・・
日本の海上自衛隊の艦船の数は、韓国よりも少ないのだ。
韓国 190隻18.0万t
に対して
日本 149隻44.9万t
しか、ないのだ。これでは単純に考えると、勝てそうもない、という事になる。
戦闘用の航空機に、したところで
韓国 530機に対して
日本 430機しかない。これでは、もしかしたら・・・という事を、美野でも考えないでも、なかった。韓国の大統領の態度の理由は、ここにあるのではないか。日本の軍備が世界第三位というのは、いつの頃の話なのだろうか。これでは日本政府が、弱腰外交を続けるのも当たり前だ、と美野は思った。軍事大国日本は、もはや遠い夢のような昔の話ではないか。戦争放棄しているからといって、このお粗末さは、なんだ。そして日本人の多くは平和ボケ、海上自衛隊の事など考えもしない日々を送っている。
 
日本の海軍力は、数の上では韓国、中国より下 なめられるのは当たり前
  2012年8月24日、美野が見ている海上自衛隊のホームページには、日本とその周辺諸国の軍事力が、数の上だけではあるが載っている。それによると韓国、中国より艦船の数が少ないのは、もちろんの事だが、なんと台湾よりも少ないのには仰天した。こんな馬鹿な・・・おれは美術一筋に生きてきたけど、こんな情けない軍事力の国に、生きてきたなんて・・・安保反対なんて、そんな事が成立していれば、もっと早く日本は周辺諸国の、いずれかにやられたんだろうな。これは日米安保のアメリカの軍事力のおかげ、ではないんだろうか。ただ、おれは個人的にも強くなりたい。どうにかしたい。それは、あの画廊「金月」の経営者、緑川鈴代のためでもあるんだ。でも、どうすりゃいいのか。それにイージス艦 「あたご」だけで大丈夫なのか・・・・と思った時、美野一生は眼を醒ました。夢だったのだ、そもそも竹島問題から海上自衛隊のホームページを見ているうちに眠ってしまったようだ。現実は相変わらずの弱腰外交の日本政府の動きや口先だけのネットの掲示板への書き込みが続いていた。でも、海上自衛隊のホームページを見ると、夢で見たのと同じ軍事力が堂々と載っている。これを知ったら先手攻撃は、しかけられないと一般の人間なら考えるだろうな、おれでも、そうだけど、と美野は思う。
 
弱軍備、日本 ついに竹島から対馬に韓国の手が 平和憲法はそんなに大事なのか 
  美野にとっては、遠い、といっても九州の福岡からだが、竹島より対馬の方が心配になる。で竹島に味を占めた韓国は、次の標的として対馬を狙うんじゃないかと思った。それにしても今年あたり、つまり2012年8月24日あたりに、はっきりしてきた事だ、今までの日本は、この事を、ほとんど国民に知らせようとは、してこなかった。まさか数の上で軍備の力が韓国より劣っていたなんて・・・それは美術一筋の美野一生にとっても、とっても衝撃だったのだ。(学校教育も、なっとらん。今は、どうかしらんけど。)おれも知らんかった。こんなに弱い国だったとは・・・・。美野の頭の中に対馬に韓国旗を翻す若者の姿が思い描かれた。そう、ロンドン・オリンピックでもやった韓国人選手がいたが。それにしても最近の韓流ブームとは何だったのだろう。自国の領土を踏みにじられて、その無法三昧の国の俳優に血道をあげた日本の、ある人々には美野は腹が立って、しょうがなかった。そんなに韓国がいいなら、韓国に消えうせろ、日本の〇〇様ばばあ。そう、美野は思うと、握りこぶしを、ぐいぐいと握り締めた。韓流スターの名を連呼する、ばばあの顎の骨をへし折って、歯を全部、叩き落してくれる、そう思うと美野は博多の町に出て、韓流ばばあ狩り、をしたくなったのだ。
 国民の生活より国益が第一
  全く、と美野は考える。富国強兵は、いつの時代も大事では、ないか、と。自国の軍備力なしに国の発展など、ない。あの憲法など日本が独立国家として認められた時から、不用だったのだ。それを怠けて何十年、ついに隣国に見下されるように、なっていたとは。思うに、韓国のドラマも軍備を数の上では日本より持っている国のドラマだ。これに憧れを持った韓流ばばあ、も無知すぎた。とはいえ、力強いものに魅せられるのは人の常だろう。で、竹島を知った韓流ばばあ、は意見を変えないなら日本人ではない。その辺も知った上で、韓流ばばあ狩り、をしなければならないだろう。少なくとも、その上で韓流ばばあ狩りをするのなら愛国精神の発露である。日本女性なら男子の意見に従うべきだ。それが嫌なら韓国へ行け。まあ、美野の周りには韓流ファンもいないし、画廊「金月」も韓国人の絵はない。緑川鈴代店主も韓国に、ついては何も言った事は、なかった。行った事も、なかったのだろう。美野も韓国には行った事が、ないが、まずそうな韓国料理を食べたいとは思わないし、それも韓国に行かない理由かもしれない。
(おれも五十過ぎだが、日本のために何か、したい。そうしないと、戦没者の英霊は、泣きよるたい。)
美野一生は、日本の現状に男泣きに涙をにじませた。
 石原莞爾中将の霊を呼び出す
  オカルト団体であった「薔薇の星」も、今は宗教法人として認可され、町田市、原町田に拠点を構えているのだが、前と違ってエジプト人、ムハンマド・ガリガーリが入団して、ほどなく代表になるべく、活動中、というところだ。彼はデーモンという精霊を使って、故人の霊を呼びだす事に成功した。領土問題が取り沙汰される日本において、薔薇の星でも、こういう日本の事を探求しようという事になったが、絵山は、
「昔、日本には天才的ともいわれた、陸軍の英才がいました。彼の名前は石原莞爾です。第二次大戦中のサイパンを要塞化するなど、卓抜な見識を持ちながらも、上司である東條英機と折りが合わずに最終的には予備役に、させられた人ですが、この人は満州事変の当初、破竹の勢いで帝国陸軍を進撃させた素晴らしい方です。この石原莞爾中将の霊を、ムハンマド君に呼び出してもらいたいのですが。」
ムハンマド・ガリガーリはニヤリとした。それから、
「おー、やりますよ。簡単です。」
と気軽に、うなずくと、頭にターバンを巻いたエジプトの衣装で、胡坐をかいて床に座ると、手にした香料に火をつけて、小さな炉に投げ込んだ。エキゾチックな香りが漂う。シャンメルも好奇の眼差しで、それを見ている。
「おー、来ました。デーモンに連れられてミスター、いえ、ジェネラル石原が。」
ガリガーリは、白い歯を見せた。
 自衛隊の軍備拡大こそ内需の拡大だ
 目の前の空間を見上げるようにして、ガリガーリは絵山の方を向くと、
「今、いらっしゃっていますよ。質問は、ないですか。」
と片目を、つぶって尋ねる。絵山は、うなずくと、
「石原中将。今の日本の自衛隊は、どんなものでしょう。」
ガリガーリは何かを聞くように耳を傾けている。それから、
「すべてが中途半端だ、と仰っています。」
「やはり、そうでしたか。周辺諸国に比べれば、どうですか。」
「それは勝率五割から六割、だそうです。」
「あ、ガリガーリ君。中将の、お言葉だけで、いいけど。だそうです、は言わなくて、いい。」
「そうします。はい。」
「このまま行けば、日本は軍事的に危ないのでしょうか。」
「その可能性は、ある。なんとなれば、陸軍の数の不足である。いかに精鋭たる人間でも、数には負ける。」
下手な鉄砲も数打てば当たる、という事だろう。最短の結論は日本は軍備を極端に、していない。これは軍需産業の成長という事をも阻害しているのだ。アメリカが戦争に、ちょくちょく行くのは世界の平和のためではない。まあ、表向きは世界の警察のように主張するかもしれないが、実は自国の軍需産業を栄えさせるためなのだ。戦争の動機は、そういうものが、あるので、要は経済が関係している。今の日本の株価などアメリカに比べて、どうだ。アメリカの株には紛れもなく軍需産業の陰がチラついている。そこに全世界の投資家は魅力を感じるのである。
 日本の若者の失業率の霊的原因はこれだ
  なるほど、と絵山も思うのだった。既に日本は平和憲法を盾にしているつもりか、陸上の軍備など無いに等しいような気さえする。海上自衛隊が、もし負けたら・・・と思うと絵山は、背筋が粟立つ思いをした。どうにか、これまで他国の侵攻が第二次世界大戦後になかったから・・・いや、ある。それは竹島に、すでに侵攻されている状態だ。それでも、自衛隊は動かないのである。これをきっかけに、韓国と戦争するのが、いやだ、としか、いいようがない。韓国の大統領の最近のパフォーマンスは日本と戦争をしたいという意思表示なのだ。それを文書で抗議するなど物笑いの種であろう。絵山は、再び尋ねる。
「それでは、軍備増強が必要なのですね。」
「然り。それは最も急を要する。私は霊界にいるのだが、私と同じところに多数の帝国陸軍の軍人は、いて、日本に又、生まれ変わる予定なのだが、すでに今の時代にも元帝国陸軍の軍人は生まれ変わっておるのだ。彼らの望みは祖国を守る軍人になる事が、生きる第一の道だ。しかるに、現在の日本の陸上自衛隊の定員数は、それをはるかに下回るものである。今、平成24年8月27日現在でも、完全失業者の数は288万人である。この中の男子の、ほとんどは帝国陸軍の軍人の生まれ変わりであるから、他の職業を魂は望んでいないのだ。」
 自衛隊の軍備拡大こそ、雇用の創出だ
 その場の一同は、大いに共感した。こと日本の失業問題は、かような霊的背景が原因となっている。思えば明治より富国強兵に勤め、相当な数の帝国軍人を擁していた日本は、二次大戦後、経済一筋のセールスマンになるべく勤めてきたのであるが、そうはいかない霊的事情もある。又、明治以前は武士の時代、このような人達が、もっとも望む職業は軍人であろう。軍人たるべき人達に商業をやるように勧めるのは酷というものである。シャンメルは、
「なるほど、外国では日本の武士の時代は、なかったものね。日本は特殊ですね。石原さんは、外国は、お好きですか。」
「ああ、外国の戦法は役に立ちましたよ。日本は今も外国を手本にすべき事は、多々あるようですね。」
絵山は、
「そういえば、ドイツが世界一の経常黒字国となっていました。日本は最近、どうしようもないです。」
「どんなに不景気の時代でも、金持ちは、いるものだよ。だから高級車やBMWは売れるわけだな。」
「日本も見習わないと、いけませんね。」
「その通りだな。結局、わしは軍事の専門家だが経済は知らんので、この辺で、よいかな。」
「はい。ありがとうございました。」
ムハンマド・ガリガーリの表情も、厳しいものから穏やかな顔へ戻った。それから笑顔で、
「石原莞爾中将は、天国に戻られましたよ。」
 
外国の消費税は19パーセント
 シャンメルは、穏やかな顔で、
「わたしには、戦争の事など、わかりませんが、日本の経済不振は消費税の低さにあります、と思いますよ。」
と語った。絵山の顔は呆然とした後で、
「やはり、日本人は間違っているのは軍備だけではない、という事ですか。」
「エエ、そうですね。日本も、ちゃんと税金は取っていましたけど、それらの、もろもろの税を獲るのを、やめて消費税にしたのに、それは、いつまでも低いままでは税金は取れません。欧州危機というのはギリシャの破綻の予想ですが、ドイツのように収益の上げられる国に破綻は無いわけですからね。そのドイツは消費税は今の日本より高くても国民は誰も何も言わないのです。日本の人の中には、しつこく消費税を上げるのを反対している人達もいるようですが、国が滅んだら日本人も、いなくなります。つまり、亡国への道を進みたい人達が多い、というわけでしょう。」
「なるほど、軍備の弱さと税金の取れない国では、いつか簡単に滅びそうですね。」
シャンメルは、うなずくと、
「そう、ドイツ人は愛国精神が強く、今の日本人には、あまりない人が多い、という事に、なりますか。」
ムハンマド・ガリガーリが右手を上げると、
「エジプトにも消費税は、ありましたし、日本より高かったです。でも、消費税安いから、日本に来たのでは、ないですよ。」
 ドイツは戦争を放棄していない
 シャンメルは小さく笑うと、
「ガリガーリさんが、そういう人でない事は、わかっています。まあ、ジョークでしたでしょうけど。さっきの石原莞爾さんの、お話を聞いて思い出すのは、ドイツでは戦争を放棄していない、という事です。侵略は、しない、としていますが。」
絵山は、憤然として、
「それでは、日本は、いつまで、あの腰抜け第九条とかを持ち続けるつもりなのか、と思いますね。それは日本人の精神の弱体化にもつながり、ひいては経済力にも影響を及ぼすと思います。最近、はやりの言葉に草食系男子なるものが、ありますけど、ぼくは、むしろ草食系国家と言いたいくらいです。」
シャンメルは決然として、
「ホルス神の恩寵を受けるためにも、力強い国づくりが必要です。この国の背景には神道が、あるけれども、その神道が今の戦争放棄憲法を支持するものとするならば、それは、なんという情けないもの、なのでしょうかね。」
「そうですね。そういえば、エジプトも軍事力の無さで・・・。」
と絵山は言いながら、ガリガーリを見ると、彼は、
「ああ、そうです。クレオパトラで終わりです。情けないですが・・・。ホルス神への信仰も、なくなっていき、ローマとの共存だけを考えていたから。何か今の日本みたいですね・・・アメリカとの関係のためには・・というものですか。そのうち女帝なんかになったら日本もエジプトと同じですよ。」
シャンメルは毅然として、
「だから、まず軍備増強は必要なのです。消費税増税も、そのために行われるべきでしょう。二次大戦下の同盟国であったドイツ国の国民としては日本にも又、本当の復活を遂げて欲しいのではないか、と。いや、どうもドイツは日本を冷たい目で見ている、という感じがします。今は、イギリス、フランス、オーストラリア、そしてカナダの人たちの方が日本には暖かいようですけど。カナダに移住希望の日本の富裕な人たちも、います。無論、アメリカもね。ホルス神様は、ドイツより日本に注目されて、おられるのですから。」
 油山の山中で
  美野一生は天神西通りに一つの店舗の空室が、あったのを見つけて交渉したところ、話は決まり、そこに画廊「金月」の支店を出す事に決めようと携帯電話で緑川鈴代に連絡すると、
「美野さんの故郷ですもの。お任せするわ。」
と言われたので、契約金の一部を払って手付けとした。その日、時間が余ったので美野は又、タクシーで福岡市の西南にある油山の麓まで行き、そこで降りて山を登った。かなり登ると福岡市が一望できる。絵に描いたよう、というより写真に撮ったよう、とでもいいたくなる景色が、そこにはある。山道は舗装されていないものも、あり、滝の音が、したので、そちらの方へ足を踏み入れ、樹木の陰になって涼しいところに、何か塚のようなものが、あった。よく見ると、そこには猪神様と祭られている大石が置いてあり、文字は、その石に刻まれていた。その前には、猪の好物であろうと思われるものが並べてあった。美野は立ち止まると、その塚の前で手を合わせた。すると、
(わしは、この山の神じゃ。この猪は、わしの手先となった。眷属である。今、そなたの猪神に対する気持ちは通じた。そなたの思いは強くなりたいのであろう。そこでだ、何かの時にはこう、心の中で呼びなさい。油山の猪神様、とな。)
美野は、はっ、として辺りを見渡したが、誰も居ない。
(わしの姿は、そなたの目には見えんのだよ。今わしが言った事を、忘れるでないぞ。強くならねば、という時には、あの言葉を唱えるのだ。『油山の猪神様』。わかったな。)
(はい、わかりました。)と美野は心の中で答えた。それからは滝の涼しい響きしか、彼の耳には聞こえてこなかった。
 犬神とは違うのか
 
美野は犬神様というものは知っていたが、猪神様とは又、と思った。犬神様に祀るのには残酷な儀式が必要だ。
犬を首から上だけ出して、土の中に生き埋めにする。そして餓死する、一歩、手前のところで、ご馳走の載った皿を犬の前に出す。犬は喜んで、それを食べている時に、その犬の首を刎ねるのだ。
その犬の霊は神となって、ご馳走を差し出した人を守護する、とかいう一つの伝説かもしれないし、実話であったのかもしれない。
 だが、猪に対して、それが、できたか、どうかは疑問ではあるし、麻酔銃のようなものが必要ともいえるものだから、単なる猟師が、そういうものを持っているかは、何ともいえないところではある。  
 美野も福岡市の山中に、このようなものが、あるのは初めて知った。とにかく、さっき聞いた言葉を忘れないようにしよう、と彼は元来た道に戻りながら考えた。緑に覆われた油山には、かつて多くの僧房が、あったのだが、今は、ほとんど、なくなっている。これは一時期的に仏教が日本で流行した時代が、あったというもので、やはり、それは長続きは、しなかったという事である。しかし、場の空気というものは長く残るせいか、美野も出家したい気持ちに、とらわれたから、不思議だ。この近くでは油山観音というものがあり、寺としては、そこぐらいだろう。美野も子供の頃から遠足でもよく登った事のある山だけに、今日のさっきの出来事は、今までになかったものだったから、山道を降りながらも、心の中で、何度もあの時の山の神という声を思い出していた。
 
油山の麓近くのカレーショップ
 油山を降りて、しばらく歩き続けた美野一生は、大きな道路沿いに
カレーショップ 与我
と看板が出ていて、インド風な建物が、あるのを見たので信号を渡って、その店を見に行った。玄関前には、カレーのメニューが並べてある。ナン、ラッシー付きランチというのが、写真に、うまそうな料理が写っていたので、美野は、その店に入って見る事にした。木製のドアを開けると、そこにはインドの音楽が流れていて、
「いらっしゃいませー。ようこそー。」
と挨拶したのは、インドの衣装を着た日本人の若い美人女性だった。店内には、シバ神の肖像画やら、女神の彫刻が、置いてあったりする。美野は異国情緒に体の芯までタップリと包まれながら、まだ、人のいない午前中の空いた椅子に座った。て注文を聞きに来たのは痩せた美人のインド人女性だったが、彼女は学生アルバイトのようだ。美野は、
「ランチをお願いするよ、いいかな。」
「はい、わかりましたー。ありがと、ございまーす。」
と、その女性は答えて、すすすーっと調理場へ歩いていく。磁場の違う人間に感じられるのが、そのウェイトレスだが、インド人は磁場が日本と違った場所に住んでいるためかもしれない。椅子に座って店内を眺めていると、与我那美子のヨガ教室は講師を変えて、おこなっております、という張り紙が見える。(与我、那美子ね)と美野は思った。(この店の名前も、与我だけど)
 
福岡市は乱気流 カワイイ区だって?福お菓子のお菓子も、うまいのだ
 
「はあーい。お待たせ、しましたあ。」
 さっきのインド美人ウェイトレスが、美野のランチを手軽に持って来た。ナンとはパンに似たもので、ラッシーとはオレンジジュースみたいなものだった。美野は、このナンをカレーにつけて食べたが、なかなかに、うまい。ナンは砂糖を入れているのか、ほんのりと甘味がある。店内は音楽だけでなく、インド風だ。こういうところに来ると、美野はビジネスホテルで味わえなかった、福岡市の雰囲気を感じた。ビジネスホテルのフロントにせよ、標準語で話すから特に福岡市という感じでは、ないのだが、異国人の店と思われるここが、一つの福岡市なのである。大陸からの文化を受け入れやすいのかもしれない。日韓で、もめているが、アジア太平洋博覧会なんかもやった都市だ。その頃は、まだ竹島も一般の国民は知らなかったわけだが。東京は平穏無事な空気を持っている。何せ江戸ではあるからだ。それに比べれば、福岡市には東京の空気と違った乱気流のようなものがある。それを美野は感じた。東京の画廊の支店の店長もいいけど、どうするか。ま、取りあえずは帰京しようとするか。そう思いつつ、美野が食べ終わると、
「いらっしゃーい。福岡市にカワイイ区が、できたらしいよー。」
と言う声がしたので、すぐ近くを見上げると、背の高い中年の端正な顔立ちをした、白人のようなインド人が立って、白い整った歯を見せている。 
美野は興味を持って、
「カワイイ区って、それは何処に、あるのですか。」
「あー、それはねー、インターネットの中に、あるんだってね、パソコンでニュース見たし、区長は人気歌手グループの一人だよ。」
「なるほど。(やるな、福岡市。)」
「あなたも、区民になれるよ。」
「いや、ぼくは、今回は出張で福岡に来ていてね。ぼくの住所は、東京です。」
なーるほど、と、そのインド人は、うなずいた。そして、
「東京には娘が、行っているよ。カレーショップを町田で開いている。よかったら、そこにも、おねがいしまーす。」
「ああ、町田か。ぼくは亀有だから、遠いな。町田に行って見る事もあるか、と思うけど。」
「東京は特に今、反韓が、でてきているのでしょ?」
「そうだな、あなたは韓流ドラマとか見る?」
「うーん、私は、ぜーんぜん、みないけどねー。」
日本人の死因のトップは癌だ。これは自己の体内で自分を滅ぼす細胞を作り上げるものといえる、それが癌だろう。昨今の韓流ブームとやらも、この癌と同じなのである。何故なら韓国人は反日、それも随分古い世代は、そうではなかったが、今の韓国の若手などは特に反日教育を受けて育っている。そいつらに酔いしれる日本人の一部の人達は、お気の毒ながら自分の国を攻撃している相手を喜んで見ている事になるのである。これらの人達は日本国という大きな体にとっては、癌細胞といえるのかもしれない。やがて、それが増殖して、日本国自体が韓流癌に侵されないように、しなければいけないのだ。 
興味のなさそうなインド人の店主の顔を見て美野は、ほっとした。店主は続けて楽しそうに話す、
「今、日本のあちこちで、やってるねー。ペプシゴキブリマットを踏んだりとか動画共有サイトで、やってたよ。」
「それは、みなければ、いかんなー。」
と美野は答えると、そのペプシゴキブリマットという言葉を記憶した。それから、食べ終わった皿を見ると、
「まさか、韓国の、ものなんか、入っていないだろうなあ。」
「いやいや、全部日本のものよ。香辛料はインドのも、あるけどね。」
「あなたは、インド人よりもドイツ人みたいですね。」
「そうね。私、インドのカーストではバラモンだったんだ。娘にはヨガを習わせたけど。」
「じゃあ、そういう名門の出、ですね。」
「そうね。インドでも、上流階級は日本の電化製品を買うよ。韓国のは安いけど、買わない。」
「安物買いの銭失い、なんていうのは昔から日本にも、ある言葉だけど。」
「韓流なんて、日本人には癌かもさ。」
「韓流癌。初期で治さないと、治らなくなるとしたら大変だ。東京に帰って、まわりに言うよ。インドの事情とかね。」
「私の名刺、あげとくから、私の娘の店に行ったら、これを見せたら、いいよ。」
ドイツ的インド人の店主は、カウンターへ行って、名刺を取ってくると、美野にすっと渡した。
 
性こそ絵の源流
 
田宮真一郎は、もはや、可奈を妻とは思わないのだが、しがらみというものは、中々断ち切れない。それに彼には、コンプレックスが付きまとっていた。それは、あの魔女シャンメルが、渡してくれた魔法の筆や魔術儀式によって自分は有名になれたのだ、という気持ちだ。
 だが、彼は本役英子をハメ描きすることによって又、人気画家とは、なってきた。(おれは、やはりできた。でも、この先、おれがいつかインポになった時、その時が、画家生命の終わりなのだろうか。)と考えもするのだ。だから、それは本役英子との結婚に結びつかない理由だった。あるハメ描き行為の後、真一郎が絵を描き終わると、本役英子は下着をつけながら話しかけた。
「田宮先生、次はコンドームなしで、いいんです。わたし、田宮先生が結婚など、してくださらなくても、いいと思っていますから。」
「い、いや君が、よくても、ぼくとしてはね、子供が生まれたら責任が、あるよ。実を言うと、ぼくはね、今の妻の他にも、子供を産ませた女性がいる。」
「それは・・・偉大な画家としては、必要な条件かも、しれませんわね。ピカソだって、何人もの女性が、いましたわ。」
「あれほどの資産と技量は、ぼくには、ないから、君が妊娠すると、とても面倒は見きれない、ということだ。」
「あら、わたし田宮先生に、面倒を見て欲しいなんて、思っていませんわ。わたし、こう見えても翻訳も、しています。それで、ペンネームで翻訳したんですけど、その作品が日本でも結構、売れて、その印税が入ってきたんです。」
真一郎は感心した顔に、なった。感心は震撼の逆なのかもしれない。
 避妊具なしで
 その後で、真一郎の顔には、ためらいが戻った。しわが少し寄った額に、右手を当てると、
「でも、責任を取れないなんて、それは男らしくないし・・・。」
服をすべて身に纏っても、ふくよかな乳房は、彼女の服の上から見える英子は、
「そんな考え、明治時代の考えですわ。シングルマザーも結構、世の中には多いし、最近は、です。」
「ああ、本当に、いいのかい。それは君と生で、やると性交の感じは違うだろうし、はめ描きで出来た絵も、全く変わってくると思う。」
「そこですわよ、先生。今の絵は、本番といっても、コンドームをつけているアダルトDVDなのかもしれません。」
真一郎は、真昼の空から隕石が落ちたのを、感じたような顔をして、
「あ、それは、すごく的確な表現かも、しれないね。それに男性も歳を取ると、女性を妊娠させにくくなる、とも言えるんだろうけど、・・・。」
「それは、人によって、色々と違うと、わたしは思います。先生は経済の事は、心配なさらなくて、いいんです。わたし、今月中に、ひと財産できて、いますからね。それから、わたしの実家も宝くじが、一等前後賞含めて当たった、と携帯電話で連絡してきました。とても、こういうのって、不思議ですけど。」
真一郎は冥王星を、裸眼で見ようとするように、遠くを見ていたが、
「それじゃ、次回は、そうするよ。子供は娘二人なんだけど、実はこの家にいる娘は、私の子では、ない気もするんでね・・・。」
「あら、それじゃ男の子が、いりますわね。でも、疑惑って、気になっていけませんわ。それは本業にも影響します。」
「ううむ、でも、妻は、もちろん否定は、するけどな。」
 相続人は男の方が
 「もう一人の娘さんって、誰ですか。」
「それはね、・・・あるキャバクラ嬢に、産ませた子供なんだ。時々、会いに行っては、いるけど。」
英子の心の中に、夏の空の入道雲のような羨望が、ムクムクと生まれた。それは、海面に浮きあがった潜水艦の潜望鏡でも、はっきりと見えただろう、というような。
「わたしも、先生の子供が欲しいな。」
「それは次回に回そう。今日は、もう射精は、できないし、写生はできそうだけど、やめとこうかな。」
「デッサンは、できる、ということですのね。画家としては、射精すれば、写生できなく、なるのかしら。」
「語呂合わせとして、それは、とても、うまい!」
ポンと真一郎は感心して、手を打った。
「英子さん、あなたとの子供が、男の子だったら、自分の相続人にしたいよ。」
真一郎は、人差し指を鼻にピタと当てた。そして、英子を、にやにや、しながら眺める。
「それは。嬉しいです、先生。何か男の子が、できる方法が、あるとか、わたし、何処かで知ったような気もしますし。楽しみですね、これからのハメ描き、です。」
「ああ、張り切るとしようよ。張り形のように、張り切ろう。君との子供で、離婚の成立かもね。」
「嬉しいわ。こんな人生って、普通じゃないけど。」
英子は真一郎に飛びつくと、彼の両肩に両手をクロスして回した。最近大きく膨れてきた彼女の乳房が、真一郎の胸から下のところに押し当てられた。
 真一郎は英子のスカートを外し、降ろすと彼女のショーツは薄く、英子の陰毛が黒く鮮明に映っていて、それは真面目な翻訳者としての顔とは正反対の淫らな気持ちを男にそそるような形を見せ、英子のショーツは上に強く引っ張っていたので、彼女の膨らんだ淫唇が割れ目を見せて食い込んでいた。
その割れ目に沿って下から上に真一郎は、舌を這い回らせた。すると、彼女のクリトリスは隆起する。それを舌で感じた真一郎は上目で英子を見ると、彼女は目を閉じて赤い舌を少し出していた。
英子の淫唇は潤みを帯びてきたので、真一郎は彼女のとても薄いショーツを、それは真一郎とハメ描きする時だけに履いてくる、ネット通販で購入した特製のショーツなのだが、それを下にスッと降ろすと英子の淫美な黒い花園と、その下の彼女の性の果実が真一郎に、彼の男性器に突入してもらいたくて、たまらないような顔をして少し淫裂を開いているのだ。
真一郎も同じように自分のズボンとパンツを脱ぎ、下半身は裸となり、立ち上がる前に既に立っていたムスコと共に膝を伸ばすと、英子にキスをして舌を入れ、絡め、右手は英子のマンコを深く愛撫しつつ、少し指先を入れると彼女の熱い液が真一郎の指を濡らした。
細い肩と大きな尻、それを彼の指は、なぞって感じ取った。
英子は背中を撫でられても、
「はっ、あん。」
と声を出す。服の上から見たら英子の乳房はリンゴのような形で、右手で揉むと、
「あ、ふっ。ああん。」
と黒髪を乱して感じる。その時、真一郎の舌は英子の耳たぶを舐めていた。乳房を揉みつつ、耳たぶを舐めるという事が、彼女の息遣いを荒くしていき、英子自らが白い両方の脚を開いて、オマンコも更に開いて、
「真一郎さん、速くっ、英子のオマンコに生のチンポ、入れてっ。」
と耳たぶを赤らめながら恥ずかしそうに誘う。
真一郎は避妊具を、かぶせないナマチンポを野太い亀の頭から、竿の元まで、心地よく差し込んでいった。英子は、滑るような声を上げて、
「はぁぁぁぁっ、ああああん、真一郎さんの生のオチンポって、こんなに素敵なんですねっ、やっぱり、ああっ、生が一番ですっ、英子のオマンコ、突いてっ。一晩中、二十四時間オマンコ、して欲しいっ。はぁん、朝まで生チンポでツキまくられたいぃぃっ。
ああっ、英子のオマンコ宮殿の奥深くまで入ってっ。そう、そこがオマンコ、ナンデス、ああっ、は、あんっ。いくっ、いきはじめましたわん、やあん、いやあっ、いいっ、真一郎先生の愛の勃起チンコは英子を救うっ、二十四時間、朝まで昼でも、生チンポで貫いて、突き上げてぇっ。」
英子は、自分の大きな尻を真一郎の腰と同じ動きで、揺らされつつ、生のチンポをマンコに嵌められたまま、上着を脱ぎ、ブラジャーのホックを頬を赤くさせて外す。
チンコを嵌められた女がブラジャーを外すのを真一郎は、チンコを嵌めたまま見ていたが、ブラジャーを外した時、英子のオマンコに自分のチンコは吸い付かれるような感触がして、ぬくもりと締め付けを、それから感じた。
それから英子は、メロンのような乳房を真一郎に押し付けて、両手を彼の首の後ろに回して、自分から真一郎に唇を重ねると、両脚も彼に密着させ、立ったまま一つになった二人は、同じ生き物のように激しく尻を振らせていた。
  真一郎は、右手の指先で英子の尻の割れ目の上の方から、英子の背中まで、なぞると、そこは英子の性感帯で、彼女はオマンコ、乳房、乳首、唇の次が背中が感じると話していたからだ。
それと同時に、真一郎は突き上げのスピードを速める。英子は目を閉じて、唇を開くと、
「ぁ、ん。は、ん。ああっ、はあっ、」
と甘い性夢に耽るような表情をしているが、それは真一郎の肩の上で、彼には見えない痴女的な彼女の顔だ。
 真一郎は英子の顔が見たくて、姿見の大きな鏡の方に英子の顔が映るように向きを変えた。
それで真一郎は口を開けて、赤い舌を出している英子の顔を見てしまった。正常位のセックスの時も、部屋の照明は落としているので薄暗く、英子の顔はハッキリとは見えなかったが、今は明るいので明確な顔の表情が見える。画家の彼としては、この英子の性的な顔をこそ描きたいのだが、そのまま描くのは出来にくい。
それに今は、英子のオマンコの締め付けが心地よく、真一郎も陶然としてくるのは抑えられない。
英子は目を閉じているから、等身大で映る大きな鏡に投影された自分の顔を見ることは、今は、していないのだ。それで真一郎は、自分の尻の動きを停めた。すると英子は目を開くと、
「先生、止めないで。あっ、鏡に、私の顔が映っています。恥ずかしい・・・。」
鏡には真一郎の後ろ姿、その尻の割れ目と英子の細い両手、白い両脚も映っている。
 真一郎は、英子の尻を抱えると両膝を曲げていって、床に尻もちをつく。それから仰向けに寝そべると、二人の姿勢は英子が真一郎に跨っている姿となり、尻餅をついたときの衝撃が英子のオマンコの中に広がって、その快感も英子の全身に増幅された。
「はっあーん、今度は英子、先生の上に馬乗りになっていますわ。あ、先生の太いものが英子のマンコに入っているのが、ハッキリと鏡に見えるの。すごーい。すごーいわっ。
あっ、先生、いいっ、いいいっ、はーっん。」
英子は荒馬に跨っているように乱れた姿で動く、それは自分で動いているので、馬が飛び跳ねているのとは違うから、英子の性的自発行動としての尻の動かし方だ。
「先生、英子、自分で動いて、お尻を振ってしまいますぅ。淫らな英子。先生、こんな事、してもいいんですかぁ?うあん、はあっ、はあっ、はあっ。」
「いいとも、さ。むしろ、この方が英子君が自分で快感をコントロールできるし、オナニーのように自分で出来て、しかも今は生チンコが入っているし、本当のナマだからだよ。」
「そうですねぇ、英子、本生、好きです。それに何だかドライな、この気持ち、はっ、あっ、感じてます。」
「スーパーにドライな気持ちかね、うん?英子?」
「ええっ、ああっ、マンコ感じて、い、やーーーんっ。」
真一郎は両手で英子の硬くなった乳首を、つまんでムニュッと揉む。
「はぁん、あぁぁぁっ。英子、乳首、感じるぅぅぅ。やあだっ。」
英子の乳首は黒いラベルのように見える真一郎は、酔っているような感覚になっている。結局のところ、それでも愛撫している黒乳首、に見えても英子の乳首は、まだ、濃いピンク色だ。
さっぱりー、したいけど、つまり、射精して、でも、英子はまだ、欲しいのではないか、おれの硬直チンコを。で、聞く。
「英子、出そうだよ、精液。」
「待ってください、先生っ、」
「生徒は先生の言う事を、聞くものだ。」
「いやっ、英子、あんっ、反抗します。あぁぁぁぁっ。」
「鏡を見なさい、英子君。」
「え?あっ、い、や、んっっっっ。は、あーーーーーーーっ。」
その時、真一郎は英子の中に自分の分身液をしたのだ。
英子は、びくっ、びくっと美脚を大きく広げて真一郎に、跨った美裸身を、断続的に快感の波に耐えられないように震わせた。
それは全て、鏡は映しているが、英子は目を閉じ、真一郎は英子の顔を見ているから、二人とも鏡は見ていないのだ。

融資を勧める彼の姿は勇士のよう
  美野が、いない時に、又南関東銀行の郷が来た。緑川鈴代は美野から電話で、福岡市の天神の西通りに、いい物件が見つかった、と連絡を受けて、彼に緊急に郵便局を通して、その資金を振り込む必要があったのだが、百万円ほど足りなかった。来月の末には入る予定だったが、来月を待つわけにも、いかない。渡りに船、とは、よく言ったもの、今なら乗るならタクシー、というところだろうか。郷冠太は、
「それは担保が必要に、なります。百万円とはいえ、無担保融資は、できかねます。ただし、・・・。」
融資を勧め始めた彼の姿は、勇士のような雄姿だった。
「個人的には、私が、なんとか都合を、つけても、よろしいのですが。」
鈴代の眼はキラッと輝いた。大きな胸も、その融資の希望で揺れ動いた。
「本当ですのかしら。それなら、今すぐにでも、融資して欲しく思います・・・。」
「わかりました、ありがとうございます。それでは、今から、さっそく、御融資の手続きは取らせていただきます。まずは、この書面に、ご記入、ご捺印ください。」
 郷は銀行の融資書面を拡げた。鈴代は、よく見もせずに、それにサインをし、印鑑を細い指で押した。、カーンと音を立てるくらいに強く押した。
「ありがとう、ございます。それでは、今から当行に戻りまして、それでは、さっそく、ご指定の口座に、お振込みをいたします。」
郷は、そう告げると深々と頭を下げた。それから一時間後に、希望の百万円は、鈴代の郵便局の口座に振り込まれた。
 担保は色々
鈴代は携帯電話して、
 「あ、美野さん?郵便局に行って、お金を確かめて。そして、おろして、不動産業者に、それを持っていって頂戴。」
鈴代は、パソコンで郵便局の口座の残高を見れる。画廊も一応、客人が、あまりいない時間に控えの部屋で、百万円の入金を確かめたのだ。
「わかりました。不動産は天神の業者です。ぼくが、急いで持っていきましょう。」
美野の自信に満ちた声が鈴代の耳に、ファンファーレのように響いた。
 その日は画廊の閉店まで、あっという間もなく、終わったと鈴代には感じられた。早手三五郎と本役英子は終わりまで、いてくれたが、田宮真一郎の絵は早々と売り切れたので、途中から客は画廊にに入っても、すぐ出て行く事が多かった。早手三五郎は、軽く手を上げると、
「それでは、緑川さん、これで失礼します。又、明日に。明日は、すぐに来る気が、しますけど。」
本役英子は静かに、控えめな感じで、
「お先に失礼します、店長。」
と店長の前のところで、黒髪の頭を下げた。二人が画廊から出て行って、二分程すると、がらっとドアが開き、
「こんにちわ。融資は、うまくいきましたね。」
と笑顔の声がした。それは、郷冠太、であるが彼は、私服だった。
「まあ、ありがとうございます。無担保なのに、どう、お礼をしたらいいかと、考えて思いますのよ。」
「お礼は、ですね、いいですけどね。これから、夜の街は、どうですか。夜の街へ郷とゴー、なんて、」
「いいですわねえ。それでは、高級レストランにでも、行きません?わたしのおごりですわ、もちろん。」
「ありがたく、ご馳走に、なりましょう。」
 利息は私が払います
 町田駅から歩いて、五分のところに「クイーン・メアリー」という高級ホテルがある。経営者は英国人なのだが、そのためイギリス人らしいサービスにれている。一階はホテルの受付と、誰でも入れるレストランがあるが、高級レストランだから、それなりの人達しか入らない。ランチは二千円、ディナーは三千円、である。このレストランに入ったら、時間帯によって、そのいずれかを選ばないといけない。外の入り口にも、そのような張り紙が、してある。ただ、経営者の母国の料理は世界一まずい、という評判のイギリス料理になるため、そこは他の日本の高級ホテルから高給で引き抜いた腕利きの料理人を揃えてはいる。郷のおすすめ、という事で、銀座よりも町田の、このレストランが、いいという話から鈴代も興味を持った。中に入ると、デラックスムードだ。テーブルに着くと真っ白なテーブルクロスが、かかっていて、若い男性ウェイターも上下、白の制服を着て現われる。鈴代は、ゆっくりと寛ぎながら、
「ディナーふたつね。」
「かしこまりました。ドン・ペリニオンも、ご用意いたして、おりますが。」
郷は、ごうごうと眼を輝かせて、
「緑川さん、代金は私のおごりですよ。君、ディナーを二つ持って来て。」
「はい、ありがとうございます。それでは、お待ちくださいませ。」
鈴代と郷は、向かい合って座っていた。郷は、
「ここは、時々、お客様と、ご一緒するんです。お医者様や、中小企業の経営者の方たちが多いですけど。」
「それは、とても羽振りのいい方たちね。わたしも、これから、そうなりたいな。」
「緑川さん、緑川さんなら、楽勝で、なれますよ。融資の利息は、ぼくが払ってもいい。」
「え、え、え?本当に、ですか。それは冗談でしょ、郷さん。」
「いえ、冗談なんて、銀行員のぼくには職務的にも言えません、今日、これからの展開仕第では、という事です。」
鈴代は郷の眼を、深く覗き込んだ。そこには、真面目な銀行員の眼しか存在しなかったが。
 お食事の後には
 日本式ディナーが整然と並べられると、鈴代は、
「全部、今日は、わたしのおごりです。わたし、別に人として驕った人間じゃないと思いますけど、この場は喜んで、おごりますわよ。」
「そうですか。お酒は、ぼくの振るまい酒ですよ。緑川さんは、もしかして、このお酒を毎日飲んでいるとか。」
「ドン・ペリニオンでしょ。まさか、反対からなら笠間。わたし笠間さんじゃありません。」
「そうでしょう、安心しました。まあ、私も融資の労を取れて、光栄です。」
「ええ、ええ、乾杯しましょう。我々の明日に対して。」
鈴代は右手で優美なグラスを高くかかげた。郷も無骨な右手で持ち上げると、
「乾杯です。我々の今夜に、そして、それから、に。」
そう語ると、鈴代のグラスに自分のグラスをチャンと音を立てて、乾杯した。それから鈴代は、とても、おいしそうにドンペリをゴクゴクと飲み続けた。そうすると、ふらりと彼女の体は左右に揺れた。郷は、四角な顔を丸くしたような表情で、
「緑川さん、なんだか、大丈夫じゃないようですね。深い酔いが、もうきてますか。」
「きてますわね。もちろん、わたし、服きてます、なんて。」
「あはははは。食事の方を続けて、されてください。これから夜は、ずっと長いんです。」
郷は中肉中背の四角い顔で、手は長くて足は短い。で、その手で鈴代の料理の皿を彼女に近づけた。
「ええ。食べ、ます、わっと。ワットって何かの発明をした人だったのかな。うん、うまいな。わたしも料理は、うまくなりたいんだけど。」
鈴代は、それから一気にディナーを食べ終わった。郷は一口、以上先に食べ終わって鈴代が食事を終えるのを待っていた。そう、ドン・ペリニオンは少しも飲まずに、自分の分は全て鈴代のグラスに注いでいた。
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 鈴代が意識を取り戻して、ハッと気がつくと、ここは?
 「あら。郷さん。遅れて、すみません。」
酔眼の鈴代は、それでも、自分の方が食べるのは遅かった事に気づいていた。郷は笑顔で、
「いえ、何、そんな事は、気にしないでください。私の方が空腹だったと思います。でも、空腹でも服は食べませんけど。食う服、なんて、あまり面白くないですね。」
「おほほほほ。面白いですわよ。今のわたしにはドン・ペリニオンが倒れたって、おかしいくらい。」
「ああ、ドン・ペリニオンが、まだ残っていますよ、緑川さん。」
「あら、ほんと、もったいないわ、高価な豪華な飲み物ですもの。」
鈴代は、それをに、まるで火星に行くように、堪能した顔で飲み干した。鈴代の目の前は、まるでメリーゴーランドに乗っているようにグルグル、クルクルと回り始めた。郷は、
「大丈夫ですか、安心して、立てますか、緑川さん。」
「ええ、ただね、頭の中が回っているだけ。」
と答えながら鈴代は、そろりと立ち上がったが、すこしフラリとした。郷は急いで、彼女の横に来ると、
「私に、どうか、つかまってください。」
「そうするわね。ちょっと肩を片方、失礼します。」
郷の左肩に、もたれかかりながら、鈴代はレジまでのように歩いた。そこで財布を出そうとすると、郷は、
「あ、いいえ。私が、これは、払います。緑川さん、手つきも危なっかしいですよ。後から、この代金は、いただいても、いいですし。」
そう申し出るが早く、ポケットから黒い財布を出して、大枚をレジに置いた。それから強く、胸を張ると、
「つり、は、いいよ。釣り、は、いい夜(よ)にすれば、最高の夜釣り、だってさ。今も夜。つりは、いいよーに、して。」
レジの若い女性は、じっと笑いを、こらえた顔で、
「今晩は、どうも、夜の、おつりも、ありがとうございます。又、是非、ご来店下さる事を、心の谷底の方から、お待ち、いたしております。」
と謝辞を述べると、深く頭を自分の膝のところまで下げた。千鳥足の鈴代と勇み足の郷は、銀ピカの高級レストラン店を出て行った。そこで、鈴代の意識は途切れていった。・・・・・気がつくと、郷の顔が、自分の目の前にあった。しかも、自分は何故か寝ている。その姿勢で、郷に唇を吸われているのだ、強く。
 性交と成功の法則
  だが、まだ鈴代の意識は、酔いが回ってきたりする。これは夢かもしれない。郷は裸だった。そして自分も全裸なのに気がついた。郷の男くさい匂いが鼻をつく。郷は舌を自分の唇の間に入れてきた。鈴代は、それに自分の舌を絡め合わせる。久し振りの男の感触。浜野貴三郎とは、いつ、性交しただろうか。わたしが成功していってから彼とは性交していない。それは女実業家の成功の法則なのかもしれない。逆援助していたのは、まだ暇が、あった時だ。ホテルに行く暇もない忙しさでは、逆援助遊びも空想の世界のようなものになっていた。それで鈴代は、しばらくぶりの男の感触を楽しんだが、自分の腹の上で郷のペンシルがマジックインキのように変化するのを感じたので、郷を横に組み伏せると、
「郷さん、これ、どういう事?」
「どういうも、こういうも、緑川さんに、『部屋に入って、無理やりのように強姦して』、と言われましたよ。」
「わたしが、そんな事、いつ、言ったのかしら?」
「ええ。部屋に入った途端、緑川さんは、ベッドに倒れこむと、そう言いましたから、だから、こうなったんです。担保は僕が百万円、個人で南関東銀行へ、入れています。ここで、あなたと性交できれば、利息は僕が払いますから。」
「それは、わたしの成功のためにも性交が必要なわけね。」
「ははは。うまい事、おっしゃいますね。ぼく、強姦願望が、あったんで、あなたに言われた時、すぐに勃起してしまいまして、それから、あなたの服を全部脱がせて自分も脱ぐと、一応収まってたんですが、今は又、チンコは元気です。」
郷は反り返ったものを、グイと鈴代に向けた。鈴代は右手で、それをと、
「わたしには被強姦願望が、あったのかも、しれないわね。引き寄せの法則かしら。好きにしていいわ。マンコ。」
「マンコなんて、興奮するなあ、マンコやります。いや、やるぜ、緑川。おとなしく、してろよ、おまえのマンコを貫いてやるぜ。」
と荒々しく口調を変えると、郷は鈴代の口を片手で塞いで、片手で彼女の両脚を大きく引き広げた。
「おう、たまんないな、おまえのマンコ。いくぜ、鈴代。」
彼女は声を立てられない。郷は極限までに膨張したものを、鈴代の足の間のマンコの入り口に突き込んだ。鈴代は酔いと違った快感に裸身を任せた。郷は力強く、立ちチンコの反復運動を続けていった。
 フォトン・ベルトと同じ
  鈴代は思えば、郷はコンドームを、つけていない。しかし、今更この快美感を中断したくもなかった。それで郷が激しく突きまくるのに自分の尻が協調して、大きく揺れ動いているのを楽しんでいたのだ。自分が、あえぎ声を上げると郷は腰の運動を早めた。それと同時に郷は、
「あっ、いきます。いや、いくぞっ!」
と叫ぶと鈴代の中に、たっぷりと白いシャワーを浴びせた。郷の張りつめた肉体の一部は、ゴム風船が、しぼむ様に縮んでいった。郷は、そこで、
「しまった。コンドームをつけて、いませんでしたね。」
と鈴代に冷や汗を浮かべたような顔で聞いた。鈴代は、まだ郷の小さくなったものを自分の中に感じながら、
「妊娠しても心配、ないわ。わたしは、お金は持っています。」
「それじゃあ、融資の件は、どうして・・・。」
「会社の資金と個人資産は違うでしょ。個人資産を新しいお店に注ぎ込まなかった、という事だわ。」
「なるほど。わかります。それは、無論、分かります。」
「その時が来ても、心配は、いらないわよ。フォトン・ベルトと同じ、じゃないかしら。」
「ああ、来てみれば分かる、という事ですね。あ、緑川さん、ぼくの体重は重くないですか。」
「平気だけど、全然、重くないわよ。ニュートンの法則なんて感じないわ。」
「ぼくが体勢的に、なんだか、疲れてきました。」
郷は鈴代からチンコを外して、離れて、仰向けになって、フォトン・ベルトを考えた。
 一晩明ければ
  鈴代は酔いが又、回ってきて眠ってしまい、郷も、よく知らないフォトン・ベルトを考えるうちに意識を失った。翌朝になれば、白い光が入り込んできて、二人は眼を醒ました。二人のいる部屋はホテルの最上階だったので、カーテンも閉めなかったのだ。町田の街並みが、よく見える高さだった。二人は黙って服を着ると、郷から、
「おはようございます。緑川さん。」
「おはようさま。何か、夕べの出来事が、絵に描いた嘘のようね。」
「いえ、利息は、きちんと僕が払いますので、その点は、ご心配なく。」
「そうだったわねー。又、おいで、くださいな。わたしの銀座の画廊の方へ。」
「ええ、もちろんです。又、ぜひ、なんとしても、お伺いします。」
「今日の朝食も、あのレストランで、する?」
「すみませんげと、ぼくは、急ぎますから、銀行の近くででも、早く出す店で、すませますよ。例えば、すき家の朝ごはんの、たまごかけ朝食とか、でも。」
「そしたら、わたしも銀座で食べる事に、するわね。ホテル代ぐらい出しますわよ、それくらい。」
「いえ、それも、全部、僕が持ちますよ。」
二人はピンクの扉のエレベーターで、一階に降りた。フロントで郷が会計を済ませると、レストランの扉が開いて、颯爽と西城秀一が出てきた。西城は郷に気づくと、
「おはよう、郷。この方が、あの、銀座の画廊の経営者の方?」
「あ、西城先輩。おはようございます。そうです。昨夜、商談が長引きましたので、こちらのホテルにお泊まり戴いて、会計は私持ちと、させていただきました。」
「それは、熱心だね。まあ、融資を、ご利用いただいたのだから、やれるだけ、やって。」
と、ここまでは郷の耳にだけ、聞こえるように話すと、緑川鈴代の方を向いて、
「はじめまして。わたくし、南関東銀行、町田支店の副支店長を勤めさせていただいております、西城と申します。この度は、どうも、ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。これから、お世話になりますわ。」
鈴代は雪が夏に振ったように、涼しげな顔だ。
 ラッシュアワーは
  町田駅で郷と別れてから、すぐに鈴代は電車に乗らなかった。今は、まだ通勤ラッシュだからだ。銀座と違った町田の雰囲気には学生が多い事も、醸し出されるのであろう。その代わり、東京の他の場所のように、芸能人や財界人が町田に住んでいる事は、ほとんどない。鈴代の画廊、「金月」にも芸能人が来たことは、なかったのだが。町田から銀座に行くには、新宿から地下鉄に乗ってもいいし、渋谷から地下鉄でもいい。ただ、それぞれ私鉄は小田急か東急という違いは出る。どちろもラッシュアワーでなくても、人はいつも多く乗っている。鈴代は、すき家では時間を潰しにくい事を知っていたし、牛丼専門店は、ほとんどが男性客のために入りにくくもあった。そこで、モーニングセットをやっている喫茶店を駅近くの通りで見つけたので、そこに入って時間を潰した。少しして、その店に一人の公務員風の若い男性が入ってくると、鈴代の席の近くに座ってモーニングセットを注文すると、手にした電子書籍を見始める。それはパチンコ関係の電子書籍だった。店のマスターは五十歳くらいの髭を生やした男性で、
「どう?あきさん、最近パチンコの方は。」
と右手で、サンドイッチを皿に載せながら、その男性に聞いた。
「ああ、釘さえ読めれば勝てるよ。ただ、駅前は渋いね。まあ、おれは、生活には困っていないから。マスターも、パチンコをマスターしたら?」
「そうだね。マスタード要る?」
「ああ、入れてよ。辛いのが、いいんだ。最大限に、よろしく今日も。」
「あいよ。ここがパチンコ店の近くで、よかったよ。知り合いやら友達の店は、この不況で結構、つぶれたね。ラーメン屋とかも、だけど。」
「おれたちパチプロに、不景気は、ない。万が一の時でも、女が、いるから。」
「伽場(きゃば)ちゃん、だろ、時々、来るよ。あきさんの話を、していくから。」  
情報商材で
「あ、彼女、おれが、ここに来る事を知っているなんて。」
「そうじゃないけどさ、市川朱夫っていえば、あきさんだろ。」
「ああ、名前をネ、出したんだ彼女は。」
「そう、元公務員の夫が、いるって。」
朱夫はニヤついた。彼らは町田市役所に入籍していた。でも、結婚式は挙げなかったのだ。お金が無いからというのではなく、誰かに見られたいわけでも、なかったからだ。その入籍の日に二人でお祝い事をした。宅配ピザの最上等のものを取り寄せて、ロマネ・コンティで乾杯した。伽場倉子(きゃばくらこ)は、その後で、
「あきちゃんが、パチンコで稼いでくるから、嬉しいな、最近。」
と眼を細めて、彼の顔を見る。
「何も、しないわけにもいかない、と思ってパチンコの電子書籍や、インターネットでパチンコの情報商材なんか買って研究したらさ、段々と大当たりになったんだ。」
「情報商材って高いんでしょ。何か、詐欺めいたものも、あるとかいうわよねえ。」
「それは昔の話らしい。ぼくは、運が、よかったんだろう。情報商材も、まともなものしか、残らないって事だ。」
「そうなの。あきちゃん、ネット始めたの、遅かったもんね。」
「そう。何事も、早ければいい、ってものでもないんだな。運がいいのは、君をつかまえたのも、そうだな。」
「うまいこと、言うわね。うん、運が、いい、か。なんて面白かった?」
「まずまず、さ。あのね、情報商材の中にはキャバ嬢でナンバーワンを取る方法、なんてのもあるよ。」
「それ、いいわね。わ・た・し・だってナンバーワンになりたいもの。」
 夫を愛せば
)))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))))
 「あきさん、ほら、モーニングだよ。ぼんやりとして、彼女の事を考えているのかい、今。」
はっ、と追想から元に戻った朱夫は、目の前のサンドイッチを見ると、手にとって口いっぱいに頬張って、トマトの味を感じると、あの日のパーティのピザのトマトの味を思い出す。
「なんか又、昔の事を思い出そうとしている顔だね、あきさん。」
「いや何、トマトの味が、うまくって印象に残る。これは入籍記念の味だ。」
「最愛の妻との結婚記念の味、でしょう、ね、あきさん。」
「妻を愛せば、妻愛だ。夫を愛せば夫愛(ふあい)なんてあまり言葉には、ならない。あ、夫に愛で。ふにあいだよ。つまり、夫に愛を持つ妻は、ふにあい、つまり不似合い、似合わないという事なのかな。」
マスターは微笑して、皿をタオルで磨きながら、
「そうだね。日本人女性は、夫に愛なんて、持っていないかもしれませんやね。やー、いえね、うちの家内も、私を愛しちゃいないようでさあ。」
緑川鈴代は、それを聞くと、飲んでいたコーヒーカップをカチャリンコン、チャンとソーサーに置いた。そーさー、彼女は反対の意思表明をしてみたわけだ。マスターは鈴代を見ると、
「いえ、お客さん。これは一般論、いや、特殊なケースの日本人女性の話です。うちの家内は、ボディビルを、やっていますから。」
そう弁明すると、店のマスターは、両手で筋肉を盛り上げるようなポーズをした。ボディビルダーが、するようなポーズを。
 日本人女性の特質 
 マスターのポーズを見て、鈴代は吹き出しそうになるのを、うじて、こらえると、
「いえ、今のお話、居間で、されました?」
マスターは顔を困惑の表情にすると、
「居間では、いまだ、かつて、なく、していないですよ。実は私、恐妻家なんですから。」
「わたし、独身だから、よくわかりませんの。日本女性が夫を愛しているか、どうかを個人的経験として言えませんから。」
「はあ。そのうちに、おわかりになると思いますよ。最近は晩婚型になっていますからね、日本女性の一般は。」
「うーん、そう。別にわたしは、結婚願望も全然、なかったんですよ。」
「願望は、なくても昔は結婚していましたね、早めに。日本人女性は、ですね。それは、させられていた、というべきか。」
「ああ、江戸時代なんかは、そうですわね。それが、続いていたのが長いから、日本人女性には自立というか、そういう意識も持ちにくいのかも、しれませんわね。」
「おっしゃる通り、だと思いますよ。それでも、お客さんは経営者のように、お見受けしますが。」
「ま、鋭いですわね、その観察。一応、わたくし、銀座で画廊を、やっておりますの。」
店のマスターは、好奇心を、ありありと、海のように顔に広げると、
「それは、いいですねえー。ウチの店にも、実は、何か絵を飾りたかったんですよ。それも複製じゃないのを、できれば、名作を、ですねー。」
鈴代は機敏な動作で、胸ポケットから名刺入れを取り出して、一枚、マスターに差し出すと、
「画廊は金月、といいます。住所と電話番号は、名刺に書いておりますわ。」
「いや、これは、どうも。だったら、そのうちに行きますよ。絵、一つで店の運も変わる。え、本当かい?なんて。」
淡い微笑を浮かべると、鈴代は、
「それでは、よろしく、お願いします。とりあえずは、お勘定を、お願いしますわ。」
 フリーターなんて
  そうこう、するうちには、日は流れていき、美野は帰ってきたので、又元通りの日々となった画廊「金月」で、あったのだが、やはり美野を福岡市店の店長にする事を鈴代は決めた。
 それで二人で福岡市を訪れ、店を開店させるつもりだ。今度は二人、画廊に穴が開く。それでも鈴代は、お客さんに接する事は外して、いきつつあったため、美野の代わりは今度は美野の息子に来てもらう事にした。美野は頭に手をやると、
「これは恐縮です。息子が卒業したら、こちらに就職するようにさせます、どうですか。」
すると鈴代は、
「それは、とても嬉しいですが、アートの方には進まないわけですか。」
「いやもう、私譲りの才能の無いやつです。画家になろうなんて、平安時代に戻っても、なれそうな、やつじゃありません。それは元学芸員の私には、よくわかります。無謀な夢を追って、苦労するより堅実な道を、行けばいい、と昨日、晩飯の後で説教すると本人は、
『それも、そうだね。学芸員より画廊の方が、金は稼げるんじゃない。』
なんて言いました。まあ、その通りなんですが。多少、むかつきましたけどね。それで、こちらの事を、あいつに昨日、話していたんです。」
「それは、ありがとうございます。早手って子は、まだアートに向かいたい意欲が、ありありでしたから、うちとしてはアルバイトのみ、という風に考えていたものですから。」
「最近の若者はフリーターなんて、やって得意がっているのもいますけど、将来きっと後悔しますよ。芸術家はもちろん、最近は俳優にもなれる人間なんて、わずかなものでしょう?その俳優でさえ、テレビの崩壊で、仕事は、ますます、なくなるわけですから、甘い夢より、しっかりとした生活が大事なはずだけど、そんな夢にしがみついて、俳優とか歌手を目指す若者も多いみたいですね。」

魔法で性交したら3 お試し

二人はすぐに外車に乗った。外車が発進すると、カーステレオから水川マキの新曲「ダンシング・ミッドナイト」が流れて来た。それを耳にした真一郎は、
 「いい曲ですね。いつ聞いても中々いい。声が可奈に、どこか似ているような気が、してくるんですが、気のせいかな。」
と言って、再び耳を傾けるのだった。
♪真夜中の二人 サンバとタンゴが二人の間を狂わせた・・・結末は、いいこと、いっぱい、ふたりで、おっぱい、たっぷりと♪
 「そうかしらねー。わたしは興味ないけどね。声も似た人って顔より多いんじゃないの。音楽は興味ないから、かしら。」
 と言って鈴華は左手の方を見ると、車を左手に寄せて、きいーっと止まらせた。
 「この店なのよ。待ちに待ったでしょう。奥さんを治せるんだもの。」
 そこには、救体漢方薬店と古びた看板があった。二人は店の中に入り、心臓病に効く薬を鈴華に教えてもらって、すぐに真一郎は、それを、購入した。その店を出て車内に急いで戻ると、真一郎は、
 「ぼく、ここなら分かりますよ。今度は自分で行きますから、緑川さんは、これからは来なくてもいいです。」
 「あっ、そうね。それが一番だわよ。だって、わたしは所詮、他人ですもの。」
 と明るく言うと、鈴華は外車を急発進させた。車内のスピードメーターが、ぐんぐんと上がって来る。真一郎は、
 「あれ、緑川さん、方向が違いますよ。僕の自宅へ行く道とは正反対だ。」
 「ええ、知っているわよ。実はね、もう一つ教えておきたいところがあってね。田宮さん、お時間、大丈夫ですか?」
 「ええ、まあ・・・・・・大丈夫ですけど。何か不安だなあ。て、気もします。」
 やがて外車は東京郊外へと抜けていった。小さな山が見えてきたが、鈴華の車は、その山を上に登り始めた。真一郎は、
 「ああ、緑川さん、景色の、いいところなんですか?そこは。」
 「ええ、もちろんですとも。あなたの芸術のためにも、いいと思ってね。前から考えて、いたの。」
 外車は山の中腹に、さしかかった。そこに城のような建物があった。真一郎は、
 「ホテル・マウンテンストップか。一体、こんな処に来るやつら、いるんですかねえ?」
と、ずけずけと聞いた。鈴華は、それには答えず、又、アクセルを踏むと、車は、そのホテルにすーっと入って行った。
 「緑川さん!そこ、ラブホテルですよ!入っちゃ、いけません。」
真一郎は大声を上げた。鈴華は優しく微笑んで、
 「いいじゃないの。ちょっと休んでいくのも。構わなくない?」
そう言いながら、鈴華は足を大きく開いて見せた。鈴華の真っ白な太ももの肌が真一郎を魅惑した。鈴華は外を飛び回っているせいか、顔などは陽に焼けている。いつも、そんな鈴華しか知らなかったので、鈴華の素肌を知った今、真一郎の眠れる性欲が頭を擡げてきた。(いや、だめだ!)鈴華はドアを開けて外へ出る時、真一郎の太股を触っていった。その時、電気のような感覚を真一郎は感じた。(行かなきゃな!)かつてない快美感を触れられるだけで、感じてしまうなんて!素速く助手席のドアを押し開けて、真一郎は鈴華の後に続いた。無人のモーテルだった。鈴華は鍵を取り、中に入る。モーテルの防犯カメラが上の方に見える。もしかしたら、部屋の中に盗撮用カメラが隠してあったりして。と、真一郎は、そんな事を思ったりしたが、どうでもいい気になった。部屋に入ると、十畳はあるケバケバしい例のような感じだが、水槽に金魚が泳いでいるのは、どういう事だろう。鈴華を見ると既にブラとパンティだけになっている。白い裸身に近い姿だ。鈴華は、
 「これから先は、あなたが脱がせてね。さあ、どうぞ。」
 そう言った時の彼女の顔は、二十三、四才に見えた。真一郎は思わず頷くと、近づいてブラジャーの後ろのホックを外して、パンティをおろした。胸の膨らみといい、眼を狂わすアンダーヘアといい、それも正しく二十三、四才の、しかも処女のようだった。真一郎は、手を鈴華の下着から外すと、
 「緑川さん、もしかして、まだ男とは・・・セックスしていないんじゃないですか?」
 「あら、そんな事、どうでもいいじゃない。早く来てペニスをはめて!」
 鈴華は両腕を大きく広げた。真一郎が彼女を抱くと、肌の感触も二十代そのものだ。口を重ねると、鈴華の舌が、にょろっと入ってくる。その柔らかさにイキそうになったが、彼女は、
 「まだ射精したらダメよ!後、三時間は二人で愛し合うのよ!まだ、ちんこも入れていないくせに。」
甘ったるい若い女の声で鈴華が言う。こんな彼女を今まで見た事が、なかった。こんなにも女性は変わるものだろうか。汀の近くの海面に浮かぶボートに乗っているような陶酔の中で、セックスの三時間は過ぎてしまった。それにしても、こんなにいいセックスをしたのは近頃なかった事だった。それはもちろん可奈のせいだが。ぐんぐん真一郎が腰を動かしていると、鈴華は部屋の時計を見て、
 「あら、時間が来たわ。おしまいにしてよ。おまんこは、おしまい。」
 「あ、ま、まだイっていないのに。じゃあ、おまんこ、やめます。」
真一郎は鈴華の上で残念そうに言うと、彼女は、
 「それは、この次にしてよ。い・く・のは。結構、持つのね、あなたって。タフだわ、ちんこも名筆って、ところだわ。」
 と、あっさりと言った。真一郎は、まるでイソギンチャクのような鈴華の膣と体から離れた。すると、すぐに彼のペニスは小さくなっていった。真一郎は、
 「あれ?もう終わるんですか。もう一回戦は、できますけど。」
 「そうね、今日のオマンコは、ここまでよ。次は四十六手に貴方のチンコでチャレンジしましょうよ。まず次のオマンコは、騎上位からね。」
 そう言った鈴華の声は再び、三十代の女性の声に戻っていた。急いで服を着ると鈴華は、
 「それでは、帰りましょう。あなたは、もう、わたしのものだわ。」
 そう言うと、彼女は真一郎の腕とチンコを両手でぐっと掴んだ。モーテルを出て、車は東京郊外から都心の青山へと走っていった。緑深い青山の自宅の高級マンションの前で、真一郎は車を降ろしてもらった。彼は、
 「今度は、いつ会えますか?楽しみですね、近い内に。」
と車の外で鈴華に聞いていた。ハンドルに手をかけて鈴華は、
 「そうね、来週ぐらいかしらね。それまで、ちんこも、もっと鍛えていてよ。」
と言って微笑むと、手を振って車を発車していった。エレベーターで上がってマンションの玄関のドアを開けると、妻の
 「もう、遅かったわね。一体、何処に行っていたの?」
 という難詰する声がして、玄関口で可奈は、じーっと真一郎を見つめていた。真一郎は平静を装って、
 「漢方薬の店に行ったついでに、仕事の事で、打ち合わせをしていてね。それで遅くなったのさ。」
と彼は、可奈から目を逸らせて答えた。可奈は不審そうに、
 「ふーん、そう。いつもと違ってあなたの顔の血色がいいから、どうしたのかなと思ってね。」
 「何、仕事が好調なんだよ。それは緑川さんに絵の売れ行きを聞いたから、わかったんだけどね。」
 「そうだったの。あたしが、あなたのためを思って、夜の生活を控えて・・・うっ。」
と可奈は突然、呻くと、左胸をしっかり押さえた。
 「可奈、おい大丈夫か?!買って来た薬で・・・・・すぐ出すからな。」
真一郎は、手にした紙包みの中から漢方薬を取り出すと、可奈の口に含ませ、台所からコップに水を入れて持って来た。それを可奈は、ゴクンゴクン、フーッと飲み干した。それから、彼女は、いくらか落ち着いた表情をした。真一郎は、
 「さあ、無理をしないで、今日は、もう寝ていろよ。心臓に負担がかかるぞ、色々、心配すると。」
 彼は可奈の両肩を軽く叩いた。可奈は、こくりとうなずくと、
 「ええ、そうね。じゃあ、そうするわ。あたし、何も考えない方が、いいのかもね。」
 と呟く様に言って、ベッド・ルームへ一人で歩いていった。それから真一郎は、深夜まで絵を描いていたが、ベッドに入った時、可奈は、もう寝ていた。眼を閉じてから、真一郎が考えたのは鈴華の魅惑的な裸身だった。あの体、日焼けしていない部分が真っ白で、可奈よりも脂肪が、ついていて柔らかくて、しかし、アンダーヘアーは、かなり濃い目だった。いきりたった自分のものを突き入れると、彼女のオマンコは、ぴったりと、くっついて、それは煽動したのだ。ああ又、早く入れたい・・・ちんこを入れたい・・・
と真一郎は思うと、パジャマの股間は既にテントを張っていた。何故か、寝ていた可奈が寝返って、右手で真一郎の勃起したものを上から触れたが、可奈は眠ったままだった。その時、却って真一郎のものは小さくなっていった。(え、逆効果か、可奈の手は・・・)
 
入会すれば
  翌日、可奈には病院に行かせる事にして、真一郎はブラりと街中に出た。折から風の強い日で、枯れ葉が彼の顔に何回も当たった。思い当たって、真一郎は友を訪ねる事にした。
 練馬の見慣れた街角も、今日は何処か違って見えた。店の前に立つと、
 本日閉店
 (何だ、休みか。せっかく来たのに。こんな日に限って。)
 真一郎は、店の裏口の方を見た。すると、絵山が出てくるではないか。何か急いでいるようで、彼は真一郎には気付かなかった。(後を追ってみよう)真一郎は、尾行の原則に法って絵山について行った。(あ!)タクシーに絵山は乗ったのだ。そのあと、うまい具合にタクシーは来なかった。十分程、真一郎は、その場に立ち竦んでいたが、バスさえ通らなかった。(しまったなあ)これじゃあ、どうしようもないから、気の向くままに歩く事にした。その時、タクシーが向こうからやって来たので、手を挙げて停めた。黄色のタクシー、注意しなくていいか?乗り込むと、
 「お客様、どちらまで参りましょうか?」
 「あ?ああ、乃木坂にあるヒルサイド・センターまで。」
 ヒルサイド・センターは、様々なイベントを行ったり、貸しホールで企業や団体が使用したりするが、喫茶店や映画館もある巨大ビルで、一九九八年六月に堂々と東京都内に落成したものである。タクシーの運転手のドライブ・テクニックは見事なもので、先行く車をスイスイと追い抜いていき、車の揺れも感じさせない。昼前だから、そう車列もないのでヒルサイド・センターには、程なく着いた。
 「ありがとうございました。又の、ご利用を、お待ちしております。」
と礼を言って、深々と頭を下げる運転手を尻目に真一郎は、ヒルサイド・センターの正面玄関から入って行った。広い吹き抜けのエントランス・ロビーだ。中央に噴水があるのは、何か南国を思わせる。(ちょっと、ここで座っていくか)真一郎は、たくさん並んだ椅子の一つに腰掛けた。クッションが快い。何故か、ウトウトしかけてハッと眼を開けると、パリッとした黒のズボンが目の前にあった。ズボンの上の方で、声が急に話した。
 「真一郎さん。眼を開けてくださいよ、私です。」
  「絵山さん!びっくりしたよ、ここに、いるなんて。」
 眼の前には、正装した絵山が立っていた。タキシードである。真一郎も立ち上がって、
 「どうして、ここにいるんですか?あなたとは無関係な建物だと思っていました。」
 「これから、我々の集まりが、ありましてね。それより真一郎さん、さっき私の店に来たでしょう?」
 「なんで、それを知っているんです?」
 「気づいていたんですよ。それでも知らないふりをして、タクシーに乗った。それから、タクシーの中で、あなたを呼んだんです。」
 「ぼくを呼んだ?どうやって、呼んだんですか。聞こえなかったけど。」
 「そうでしょう。ここに来るようにね、呼びました。何か知らないけど、ここに来たくなったでしょう、真一郎さん。」
 「そう言えば、そうみたいな・・・・・気もするけどね。」
 「じゃあ、成功でしたね、私の呼びかけは。それでは、いきましょうか。」
 「何処へ行くんですか、絵山さん?」
 「勿論、我々の集まりにですよ。司祭も、私たちを待っていますから。お楽しみに。」
 何か疑問と不安と好奇心が心の中で、ない混ぜになった真一郎は、とにかく絵山のあとをついて行った。絵山はサッサと歩いて行く。エレベーターに乗って、十三階で降りて、四つ目の右側の部屋が、そうだった。コンコン。と絵山がノックする。やがて、ドアが開いた。十二、三才位の髪の長い少女が、ドアノブを持っていた。少女は、
 「司祭、フラテル絵山と、お客さんです。」
 「おー、さあ、早く入りナサイ。中へ。」
 と、中で大きな声がした。絵山の後に真一郎が入ると、その少女がドアを閉めた。眼の大きな女の子だ。部屋にいる外国人女性を見ると、真一郎は、
 「あっ!あなたは・・・・・。」
と思わず、声を出してしまった。外人女性はにっこり笑って、
 「オー、来ましたか。湖の時、以来ですねー。でも、何かとニュースでは知っていますよ、有名になった事もね。」
その部屋の一番奥に座っているのは、シャンメル・フォンフォンだった。真一郎と性魔術を行い、魔法の絵筆を授けた若き美しい魔女、だったのだ。
 紫のマントに頭の上には、王冠が載っている。部屋の机の左右に五人ずつ座って向かい合っている。それは机をくっつけたもので、その上には何やら魔術の道具らしきものが置いてある。シャンメルは、威厳のある声で、
 「フラテル絵山と、一緒に座りなさい。田宮さん。」
 それを聞いた真一郎は、すぐ、絵山と向かい合って座った。シャンメルは立ち上がって、
 「それでは、今カラ儀式を行ナイマス。今日ハ天王星ノ日ダカラ、ソノ星ノ神二呼ビカケマショウ。」
 と呼びかけると、皆は机の上にある本を取って、朗誦し始めた。
 「ホック・マンス・スプレンド・ツーイ・ボール。」
 まごつきながらも、真一郎も皆の声に合わせた。
「スプレンド・ツーイ・・・・。」
それが延々と繰り返されていく。何か異様な雰囲気が部屋の中に漂っていった。
 「ホック・マンス・スプレンド・ツーイ・・・・・。」
 五分程、合唱するようにすると、パン!と机を叩く音がして、皆は一斉に止めた。シャンメルが合図したのだ。それから、彼女は、
 「ヨロシイ。ソレでは、今から新入会者の入会式を行ナイたいと思いマスが、皆サン、ドウデスカ?」
 「賛成!」「異議なし!」「やりましょう」といった声が、あちこちでした。シャンメルは、立ったままで、
 「ソレデハ、田宮サン、アナタハ、コノ会ニ、入会スル気ハ、アリマスカ?」
と真剣に問いかけた。
 「あります。お願いします。ぜひ、やってみたいです。」
真一郎も、すぐに立ち上がった。それを見て、絵山が満足そうに肯く。シャンメルは、
 「ソレデハ、コチラへ。来るのです。」
言われるまま真一郎は、シャンメルのところへ歩み寄った。シャンメルの後ろには祭壇みたいなものがあったが、アタッシュケースを広げたものであることが分かる。ここは貸しホールで、最近は宗教団体にホールを貸さないところも多い。表のプレートには、「中世外国の詩の研究会」とあった。アンク十字のようなものも見られるが、男神像らしきものが中央に立っている。それは、それだけのものであると真一郎は思ったのだが、次の瞬間、そこから磁力のようなものが流れて来るのを感じた。
 「頭ヲ下ゲテ!下げなければ駄目です。」
 真一郎は、頭を下げた。その時、物凄い圧迫感が頭にかかってくるのを感じた。
 「うわあ、いやだ!やりたくない、こんなの、いやだーっ。」
彼は元の姿勢に戻ると、ドアに向かって一目散に走り出した。
 「待チナサイ!田宮サン!何故、やめるのです。あなたには呪いが、かかっているのですよ。それを解くには、あのままの姿勢で・・・」
シャンメルの美声が、彼を追ってきたが、それを振り払うようにドアを開けて、真一郎は外へ出た。(あんな、あんな事、してもらって、どうなるんだ。)(俺は今、幸せじゃないか)(オカルトみたいなものには興味は、ないんだ)真一郎は、ヒルサイド・センターの中を走って出て行った。人々の視線が彼に集まったが、それにも気づかなかった。
 とても落胆した表情でシャンメルが、
「逃ゲテ行ッタワネ。もう、呪いは解けないかもしれない。妹の・・・」
と呟いた。さっきの少女が部屋のドアを閉めた。シャンメルは悲嘆にくれた表情で、
 「モット、ヨクシテ、アゲタカッタノニ・・・・・これから、地獄が始まるよ、彼に。」
 
何のDVD?
 
 一目散に青山のマンションに帰った真一郎は、先に可奈が帰って来ているのに気がついた。可奈がソファから立ち上がって、
 「あなた、一体どうしたの?青い顔しているわよ。こんな顔、見るのは初めてだわ。」
と驚くように指摘すると、真一郎の顔を、まじまじと覗き込んだ。真一郎は、ごほんと咳払いすると、
 「いや、何でもないよ。久し振りに、ちょっと走ったら、急に息切れが、してね。」
 「まあ、それは、いけないわ。慣れないことを、急にしないでね。あなただけの体じゃ、ないんですもの。」
 「ああ、そうだね。それより病院の方は、どうだったの?検査結果は良かったのか。」
 「ええ、別に心配は、ないっていう事ですって。ただ、激しい興奮は、しないようにすれば、だんだん良くなって、いくそうよ。」
 「そうか、それは良かったな。刺激や興奮が、ないようにしなきゃ、いけないね。」
 だが、これから一週間後に起こる出来事を、今の二人は今、知る由もないのだ。
 次の日も真一郎は、鈴華とホテル・マウンテンストップへ車で行った。その日は、とうとう、真一郎はイッてしまった。その後で鈴華は、
 「明日も来ない?もっといっぱい、射精できるわ。ちんこ、大丈夫でしょ。」
と二十代の笑顔で淫らに聞いた。
 「ええ、もちろん。ちんこ、オッケーですよ。鈴華さん。あなたの、あそこは、とても滑らかだ。」
湧き起こる活力を感じている真一郎は、すぐに即答した。鈴華は艶やかにベッドの上で笑って、
 「明日は、もう少しイクのを遅らせられるかなー。もっと、ちんこを味わいたいんですものね。いいかな。」
と聞くとすぐに、真一郎の小さくなったものを右手でさっと触った。
 「あっ、もちろんです。頑張ります。意志の力で射精は、伸ばせるはずです。」
 「うん、あなたのちんこ、少し硬くなっているわよ。射精を伸ばす事、それも画家の修行の一つだわ。」
 「そうですね。今日は、この辺かもしれません。ちんこの筋肉痛もあるんですよ。」
 「ええ、そうだわね。湿布薬でも貼れば、いいんじゃない?今度、持って来ておくわ、ちんこの湿布薬。」
右手を名残惜しそうに、真一郎のちんこから離すと、鈴華はショートカットの髪を、ささっと整えた。
 
 その時、一方、ウルフマン佐山は、キャンメルのマンションの部屋を訪れていた。
 「オヤ、マア、お変ワリなく。あなた、何か逞しくなったようね。」
椅子に座ったキャンメルは、動かしていた手を止めて、佐山を見上げた。佐山は笑うと、
 「いえね、もう、こうなっていまして。これを、ご覧下さい。」
と唐突に言うと、ズボンを、たくし上げて見せた。何と、そこは空間になっていた。アメリカのマジシャン、カッパフィールドのマジックみたいに、ズボン下の向こうの場所が見えたのだ。キャンメルは、もちろん、絶句した。佐山は、
 「もう、両足は、ないんですよ。段々、下腹部の方まで、来ましたね。そのうち僕の体は、全部、無くなるでしょう。」
 だが、佐山の顔は豪快に笑っていた。そして、
 「これで、いいんです。彼女も同じように、なってきているんですから。でも、その前に子供は産もう、と思っているみたいです。」
 
   その時、水川マキはマンションの自室で、赤ちゃんを突如、出産した。
   「オギャー!」
それは、女の子だった。自力で一人で出産したのだ。幽霊に難産はない。
 
キャンメルは、佐山に、
   「ソレハ、ソレハ。マキは私の娘ですから。これから霊界に行ッテモ、ヨロシクネ。二人で仲良く暮らすのですよ。」
   それからキャンメルは、静かな笑みを浮かべて佐山を見つめた。
 
   真一郎は、それから連日、鈴華とマウンテン・ストップに行っていた。セックスに励んで帰ってくると、可奈は日に日に元気になっているので、彼は良心の咎めは感じなくなっていった。可奈は見るからに元気そうに、
   「あなた。あの薬のおかげで、良くなっていってるみたいよ。とても、体の調子がいいの。」
   「それは、よかったな。緑川さんに感謝しなくちゃ、いけないよ。おれたち二人の恩人だな。」
   そう言って、真一郎は微妙な表情をしたが、可奈は、それに全く気づかず、
   「本当よねえ。今度、緑川さんが来たら、よーく、お礼を言っておくわ。あなたからも、よく言っといてね。会うんでしょ、又。」
   「ああ、言っとくよ。もちろんだとも、常識だ、そんな事は。」
   それは、マウンテン・ストップのベッドの上で、という事になるのかも知れない。そう思うと、真一郎は苦笑しそうになった。そういう風に一週間は流れた。もちろん、真一郎は鈴華にはお礼を言ったが、それはギャラリー銀月の店内で、であった。それを聞いた鈴華は、
   「それは、よかったわ。漢方薬でも、いろいろあるらしいけど、専門家が教えてくれたものだから、確かなのね。」
 と語ると、親切そのものの笑顔を見せたのだった。
その翌日、青山のマンションで、可奈が今日も薬を飲もうと思った時、玄関のチャイ
  ムが鳴った。可奈は、インターフォンのところへ行き、
   「どなたですか?」
   「あ、緑川です。いつも、お世話になっています。」
   「ああ、どうぞ。いらっしゃいませ、今、開けますわ。」
  可奈は、鈴華に直接、お礼を言える、何か料理でも作って出そうかしら、と楽しく考えていた。その時、真一郎は遠出していた。可奈は玄関を開けて、緑川鈴華を招じ入れた。鈴華は、大きな赤いバッグを手に持っている。リビングに二人で座ると、可奈は、
   「本当に、どうも、ありがとうございます。お陰様で、体の調子は、よくなっていっていますわ。」
  鈴華は笑顔で、うなずくと、
   「それは、よかったですね。今日はね、奥さん、ちょっと見せたいものが、ありましてね。」
   「何ですの?あたしちょっと、お茶を持ってきますわ・・・・・・。」
  と言って立ち上がりかけた可奈を鈴華は、両手で制止して、
   「いいんですのよ。DVDを見るのが、終わってからの方が、いいと思いますよ。」
   そう言って彼女は、バッグからDVDを取り出した。可奈は、
   「どんなDVDなんですか?もしかして健康にいい、とか。」
   「もちろん、そうですわよ。テープをデッキに入れてもよろしいかしら?」
   「あ、私が、やります。その位、させてください。楽しみですね。」
   可奈は鈴華からDVDテープを受け取ると、DVDデッキに入れた。黒い画面が、次には、とある一室を映し出した。そこに出てきた二人は全裸だ。やがて二人は抱き合って、ベッドに転がり込む。激しく動く、男の動きの中で、二人の顔が画面に映った。真一郎と鈴華だ!!!可奈の表情が、いきなり、暗黒の雲のように真っ暗になった。そして、
      「何よ、これ・・・・あなた達は、こんな事をして、そして、わたしに見せてくれるのね。」
   と苦しそうに言うと、可奈は心臓に両手をぴたっと当てた。それから、
   「うっ、苦しい。こんなもの見せて、あたしを・・・・許さない・・・・許さないわ・・・・緑川・・・。」
   ビクッと可奈の体が動くと、ドタン、とその場に倒れてしまった。鈴華は近寄って、可奈の左胸に右手を当てた。可奈の心臓は、すでに止まっていた。即死である。その時、チェロの陰鬱なメロディーが室内に流れてきた。(何処かで、チェロを弾いているわね)そう思うと、うなずいて赤いバッグを取り、DVDデッキからDVDを取り出してバッグの中に入れると、鈴華は、ゆっくりと歩いて外へ出て行った。
   それから三時間後、真一郎が青山のマンションに戻ってきた。リビングに入ると、
   「可奈、どうしたんだ?玄関、開いているじゃないか、おい・・・・。」
  最後まで言わずに、真一郎は、はっと息を呑んだ。悔しそうな苦悶の表情を浮かべて、可奈は、そこに倒れていた。
   「しっかりしろ、おい!生きているんだろう、死ぬんじゃないぞ!」
   真一郎は、可奈を、しっかり揺さぶったが、その体は既に冷たくなっていたのだ。
 
絵はどうなる?
 
  練馬の絵山の店で
   「絵山さん、もう妻は死んでしまったよ。やっぱり心臓だった、原因はね。」
  ぽつんと、真一郎は語った。絵山は本当に驚いて、
   「え、何ですって!?奥さんが、ですか。まだ、お若いのに・・・・・それは残念です。」
   「心臓が、とても弱かったんだ。それで、今日の午後に・・・・死にました。明日、妻の葬式を、やるんです。よかったら、来て下さい。」
   「じゃあ、今晩は、お通夜じゃありませんか。よかったら、今から参加させて下さいよ。」
   「そうですか。それは有難いです。では、お待ちしています、絵山さん。」
   「ええ、それは、参りますとも。もしかしたら、いえ、お気を強くしていてください。」
   それを聞くと真一郎は、軽くうなずいて店を出て行った。それから真一郎は、銀座のギャラリー銀月へ行った。自社ビル内にある豪華な応接室で、緑川鈴華は真一郎に楽しげに話した。
   「まあ、田宮さん。お顔色が悪いわよ。どうしました?」
   「実は妻が死にましてね・・・・それで、だと思います。」
   「まあ、そうだったの。それは・・・。今日、お会いした時は、でもまだ、お元気そうだったわ。ほんとに、わからないものね。」
   「そうですか。妻と、会っていたんですね。でも、とうとう心臓で・・・・妻は冷たくなってしまって。」
   真一郎は、しゃくりあげそうになった。鈴華は無表情な顔で、
   「それは、お気の毒にね。あたしの漢方薬も無駄だったみたいね。医学も、あてには、ならないし。」
   「緑川さん、明日、妻の葬式をします。よかったら・・・・是非、おいでください。」
   「ああ、明日はねえ、あたし、パリに発つのよ。それで二、三日、帰って来ないわ。だから、あなたとベッドに入るのも・・・。」
   悲しみと性欲の入り混じった表情で、真一郎は、
「パリ、そうですか。では、今晩のお通夜だけでも・・・・少しだけで、いいですから。」
   「ごめんなさいね、ほんとに。今日の夜、乗るのですもの。だから、また、そのうち・・・・・に。お悔みは、いたしますわ。」
   「そうですか、わかりました。折角、色々と、お世話していただいたのに・・・・こんな事に妻が、なってしまって。」
   「いいのよ、そんな事、気にしなくても。わたしこそ、何のお役にも、立てなかったわね。真一郎さん。」
   そこで、鈴華は急に明るい顔で、
   「元気と精力を出してね。可奈さんが、いなくなっても、あたしが、いるじゃない。激しいセックスには、不自由しないわよ。」
   「う、うん。そ、そうですね。そういえば、可奈は、もう、セックスは、だめでしたから・・・」
   曖昧に頷くと、真一郎は、その部屋を出て行った。
 
その夜、7時になると、青山の真一郎のマンションのインターフォンが突然、鳴った。
   「はい、どなたですか?」
   「ああ、こんばんわ、ぼくは絵山です。」
   「ああ、どうぞ。絵山さん、お待ちしていました。」
  玄関のドアを開けると、絵山と、その後ろにシャンメルが立っていた。二人とも黒い喪服を着ている。真一郎は、ぎょっとしたが、話す、
   「どうぞ、どうぞ。この前は・・・・・お世話になりましたね。おかげて有名には、なれましたが。」
   「気ニシナイデ、いいのです。魔術は効くのですよ。当然なのです。」
   それから真一郎は、二人を可奈の死体のところへ導いた。棺に入ったその顔は、まだ苦い苦悶の表情を浮かべていた。それを見た途端、シャンメルは、
   「マア!コレハ・・・妹ガ、ヤッタンダワ・・・・・なんて、ひどいことを、したのかしら。」
   と、ため息をつくと、白い両手を天に向けて上げた。真一郎は顔色を急激に青色に変えた。そして、
   「妹ですって? それは、どういうこと、ですか?」
   「それは、話セバ長クナルのよ。デモ、大丈夫です。わたしが、可奈ヲ、救ウのですから。」
   何故、この美若魔女は、可奈の名前を知っているのだろうと、その時、真一郎は不思議に思ったが、多分、絵山からでも聞いたのだろうと思い直した。その時、黙っていた電話が、急に呼びかけた。ルルルルル・・・・・・・。
   「はい。もしもし。今、忙しいんですけどね。」
   「あー、田宮さんかね?すまん、まあ、少し時間をワシに、くれないか。」
   「はい、僕は田宮ですが。あなたは、どなたですか。」
   「ワシは宮谷ですよ。美術評論家のね。」
   「ああ、これは、どうも先生。とても、ご無沙汰しております。」
   「どうもじゃなくて、大変だよ。あなたから最初に買った絵ね、奥さんの。あの肖像画の顔が変わっているんだよ。前は微笑んでいたろう?それがねえ、今は、とても苦しげな表情になっているんだ。どうしたんだろうねえ。寒気のする怪奇な話だ。」
   真一郎は、又、ぎょっとしながら、
   「妻は今日、突然、死にましたのですが。」
   「それだ!それで、こんなになったんじゃ、ないのかね。こんなオカルトみたいな事は、今までワシは信じなかったが、どうもそれ以外、考えられんからさ。」
   「それは、何とも言いかねます。わたしは、オカルトは、わかりません。」
   「でも、気味が悪いから、あんた、引き取ってくれんか。肖像画の代金は、返すから。」
   「いえ、私は、もう、その絵は、持ちたくないのですが・・・・それは亡き妻を思い出しますので・・・・。」
   「そうか。それじゃあ、緑川さんに、引き取ってもらおう。ちょっと、今、電話を、かけてみるよ。待っていてくれ。」
   カタリと受話器を置く音がした。別の部屋にでも行ったらしい。やがて、戻ってくる足音がして、
   「やあ、お待たせしたね。彼女が絵を引き取ってくれるそうだ。明日、来るってね。」
   「それは、よかったですね。安心しました。」
   「あんたも銀月に行ったら、見せてもらいなさいよ。凄い顔なんだ。今にも血が出てきそうな・・・・・うっ、うっ、ぐえっ!!!」
  その時、バタンと受話器が落ちる音がした。
   「宮谷さん!どうなさいました?宮谷さん!!」
  そのまま三十秒程、真一郎は電話の応答を待っていた。だが、さっぱり電話は応答がない。
   「これは大変だ!よし、電話するぞ。」
  真一郎は一旦、受話器を置くと、また取り上げて電話番号を素早く押した。
「もしもし、鈴・・緑川さんですか?こちらは田宮です。宮谷さんが、大変らしいですよ。今からすぐ、宮谷さんのところへ、行ってもらえませんか?」
   「もう、これから出るところなのよ。その事は、警察に言っておくわ。」
  ガチャン、といきなり電話は切れた。二人の方に眼をやると、魔女シャンメルが可奈の額に手を当てて、何やら呟いていた。
   「何をしているんですか?そんな事をして一体・・・」
  仁王立ちになって、真一郎は聞いた。
   「・・・・・ヨッテ、汝ノ眠リハ、モウスグ解カレン事ヲ。」
  そこでシャンメルは手を離し、すらりと立ち上がった。そう厳かに言い終わると、彼女はコックリと頷いて、
   「サア、フラテル絵山、行キマショウ。これでいいのです。」
  二人は、軽い足取りで出て行った。真一郎は、声をかける間もなく、茫然としていた。
 苦悶の肖像画
   鈴華から連絡を受けた警察が、宮谷氏の自邸に来ていた。明かりは点いているのに、ベルを押しても全く応答がない。
   「宮谷さん!いないのですか。警察です、入りますよ!」
   見るからに屈強そうな若い警察官三人が、宮谷家の玄関ドアに思いっきり体当たりした。すると、すぐにドアは呆気なく開いた。そこに血の匂いが、ぷーんと漂ってきた。その匂いのする方へ、警察官全員は急いだ。これは寝室からだ!中に入ると宮谷老人は、どたりと倒れていた。口のところから何かが、飛び出ている。
   「ウッ!これは。あれでは。」
  最初に近づいた警官が、吐きそうになった口を押さえた。宮谷老人の口から出ていたもの、それは心臓だったのだ。血がどくどくと、その心臓から流れ出ていた。
 
   可奈の葬式も形どおり終わり、時は、すぐに流れていった。真一郎は、依然、人気画家だった。ギャラリー銀月も、ビルをもう一つ、持つようになった。
  真一郎と鈴華の肉体関係は、山の上のラブ・ホテルから都内の高級ホテルに移った。マスコミは芸能人は追うが、画家などは、あまり追わない。ただ、真一郎のマンションの前には記者らしいのが、ウロウロしている事もあった。それで、なかなか鈴華も真一郎のマンションに入れなかったのだ。そんな或る日、リビングでパソコンを広げた真一郎はネットニュースの社会面に次のような記事を見た。
   エリートサラリーマンと人気歌手が蒸発?
       さる二十三日、人気歌手水川マキさん(21)と夫、佐山志郎さんのマンションに近所の人の通報を受けて、警察官数人がマンションのオーナーから鍵を借りて入ったところ、明かりが昼というのに点いたままで、寝室のベッドの上にはペアルックのパジャマが並んで置いてあった。二人には一才にもならない女児がいたが、二十日の日、都内のある施設に預けられていた事が判明した。警察では二人の行方を捜しているが、今のところ手がかりはない。
   パソコンを閉じた真一郎は、(何処かで聞いたことのある名だな、佐山って。水川マキは、知っているけど)とボンヤリと思った。
   可奈がショックで死んでから、一年経過した日に、緑川鈴華と真一郎は結婚した。魔法の筆で描いた可奈の肖像画は、宮谷氏の遺族が、ギャラリー銀月に売った。鈴華が中々、購買に応じなかったので、絵の値段は捨て値同然だった。宮谷氏が死んだ日、氏から来てくれ、と電話があった時に、鈴華は行くと言った後でパリ行きを思い出したのだが、その時、電話は既に切れていた。         あの絵は、可奈の顔の表情が、あまりにも凄い顔になっているので、画廊にも置けず、鈴華は自宅マンションの押入れの中に入れていた。
  真一郎との新婚旅行はヨーロッパ周遊で一ヶ月ほど行っていたが、帰って来てから真一郎のマンションに、鈴華は荷物を運ぶ事になった。無事、荷物を運び終わった鈴華に真一郎は、
   「おい、あの絵は、どうした?亡くなった可奈の肖像画だよ。何処にも見えないんだ。」
   と聞いた。鈴華は新妻の表情で、
   「ああ、可奈さんの、あの絵ね?」
   「うん。そうさ、何処か知っているかい。」
   「ええ、それはね、ここよ。ここに、あるの。」
   そう、どうでもいいように言うと鈴華は、一つのダンボール箱を開けた。そして、
   「これよ。気味が悪いので、ここに、しまっておいたのよ。あなたも見たくないはずだわ。こんな顔は。」
   「うーん、凄いなあ。初めて見たよ。こんな顔をして死んだんだろうなあ。可哀想に。」
   「さあね、どうかしら。あたしが、知るはずは、ないじゃないのよ。もう、あなたも、忘れた方が、いいわよ。」
   「でもねえ、これ、おれのアトリエに置いておくよ。だって、いつでも初心に帰りたいから、そのためにね。」
   「そうね、そうか。そういうんならね、そうしても、いいわよ。」
   (捨てて、しまえば、よかった)と鈴華は苦々しく思った。その晩、いつものように二人はベッドを共にした。
   二人のマンションの寝室の窓ガラスに掛かったカーテンを開けて、そこで二人は、おまんこする。部屋は高い階で、窓の外には森が見えて、起業のビルが見えるが、そのビルの照明は落ちていて暗く、誰もいないらしい。
  鈴華は、その窓ガラスの前に立って、丸い大きな白い尻と背中を真一郎に向けて、ぐっと尻を突き出すと、肛門の下の長い淫裂が少し開いて真一郎の太い肉欲棒を咥えたがっているように見える。すでに彼女は全裸で、夫の真一郎は遅ればせながら服を脱ぎ、パンツを捨てて立つと同時にムスコも立たせた。
  鈴華の尻から見える柔らかなピンクの裂け目に、見た途端、彼は全身の血をムスコに与えたらしい。
  真一郎は鈴華に後ろから密着すると、彼女の背中にキスして、乳房を両手で揉み、揉みとリズムをつけてモミながら妻になった彼女の淫膣に男のシンボルマークを突き入れた。
 鈴華は頭と背中をのけ反らせると、
「ああっ、ああっ、はぁっ、すごいいっ。」
と息を乱す。信一郎のシンボルマークは彼女のオマンコの中の奥の細道を激しく行ったり、来り、しているのだ。その擦られる感覚、柔らかい自分の膣内を固いもので擦られるという、処女だった真面目な彼女には、これが今までのどんな感覚よりも快感で、しかも、新婚旅行でパリの森の中で真一郎と野外セックスをした時に、夫に背中を向けて、樹木に両手をつくと、お尻を高く上げ、自分のオマンコを差し向けた時、その時はスカートを履いていたけど、夫は、それを、たくし上げて、ズボンの中から自分の太くなったモノを入れてくれた、その快感を思い出して、今、夫婦の寝室で再び、鈴華は行っているのだ。
がしがしっ、と真一郎からマンコを突かれながら彼女は、
「はぁん、はぁん、はぁん、いい、いい、いい。」
と鼻にかかった悶え声を出し続ける。自分で顔を後ろに捻って、キスをおねだりするようにするから、夫は口づけて舌を入れ、絡み合わせて、彼女の両手首を自分の両手で抑える。
鈴華は真一郎の、ものになった気がした。可奈に勝ったのだ。唇を彼が離すと、鈴華は聞く。
「ねえ、あ、はんっ。可奈さんのオマンコと、わたしのオマンコ、どっちが、気持ちいいの?」
「それは、鈴華のオマンコの方かな。みみず万匹っとこだ。それに、そうめんの感覚がして気持ちいい。」
夫のその言葉に鈴華はオマンコを連続的に締め付けた。すると真一郎は、
「ああっ、駄目だ、でるう。」
 愛の交歓が終わった後で、鈴華は真一郎に、もたれかかると、
「ねえ、幽霊なんて信じる?あなた。わたしは、信じないけどね。」
「さあ、分からないなあ。今まで、ぼくも見た事もないし、見たら信じるかも。」
「そう、あたしが死んだら、全裸で幽霊になって出てきて、あげようかなあ。それで、あなた、信じたら、どうなの。」
「よせよ、変な話。そんなの、まだ、ずーっと先のことだろう。全裸で幽霊なんて、ヘアヌードの女幽霊か。それは興奮できそうもない事を言うものじゃないよ。」
   「あは、そうね。いや、うふん、そうよ。それより、もう一回、ちんこ入れて、これから、セックスできるの?」
   「ああ、やれるさ。すぐに、びんびん立ちだよ。ちんこ、見てくれないか。」
   「うふふ、どれなの?どんなに、なっているのかしら、あなたのちんこ。」
   そう淫らに言うと、鈴華は真一郎の股間に右手を当てた。その途端、それは、みるみる硬くなっていった。鈴華は、ぺろりと舌なめずりして、
   「すごーいわ。とっても、元気いいのね。天井に向かって反り返っているわ。あたしのオマンコの中に、早く入れて。」
   「よし、いくぞお。たっぷりと、マンコで味わってくれよ。」
   真一郎は元気な自分のものを、鈴華の濃い目のヘアーにあてた。
   「あっ、感じるわっ。もう、早く入れてよー。そこはヘアーよ。」
   可奈の肖像画は、二人が激しくセックスを始めたベッドの上端の台の上に立てかけてあった。
   「あっ、オマンコ、あはん、に入ったわ。すごーい、いいっ。」
   そう叫ぶように声を上げると、鈴華は炭のような黒髪を振り乱して、淫美に、のけぞった。その時、肖像画の可奈の表情は苦悶の表情から悲しみで溢れた表情になったが、我を忘れてセックスに励む二人は、その奇怪な変化に気づかなかった。
 抜け出して
  翌日、鈴華の乳房を目の前に見て起き上がった真一郎は、湘南海岸の方まで絵の写生に行った。
   海の絵を描くつもりである。鈴華は今日が画廊の休日だったので、マンションの部屋の中を掃除しようと思い立って、まずアトリエに行った。二人のマンションは新宿にある。そこで、まず彼女の眼が、いったのは、あの可奈の絵だった。
   「あああああ・・・・・。」
   鈴華は思わず声を挙げていた。絵の可奈の顔が苦悶の表情から、穏やかな顔に変わっている。(あなたも、ここに来たら落ち着いたのね)鈴華はそう思った。と鈴華の耳の中で声がした。(そうじゃないわよ)えっ!?鈴華が、きょろきょろしていると、(こっちよ)
  突然、絵の方から声がした。鈴華が見ると、何と絵の中の可奈は微笑んでいるではないか。これは一体・・・・・・・・。
   (今、わたしが笑っているのはね、あなたを殺せるからなの。驚いた?)
  そう言うと、可奈の口唇の両端は、もっと上の方に曲がった。
   「いやあっ!こんなのって、あり得ない話だわ。こわいいっ。」
  鈴華は大声を出すと、その部屋を出ようとした。
   (待って。逃げられると思うの?あなたは罪を償うのよ。私が刑罰をあげるわ。)
   その声がすると同時に、鈴華の身動きが、ぴくり、と停まった。
   (ね、わたしから逃げられると思うの?それは無理よ。さあ、楽しんでね。)
   その声が聞こえると同時に、鈴華の体は金縛りにあったように、びくとも動けなくなっていた。
   「く、苦しい。苦しくって死にそうだわ。助けて・・・」
   と叫びながら、鈴華は左胸に手を当てた。
   「あああ、し、心・・・・・・臓が。破裂しそうだわ。」
   (ふふふ、あなたは、わたしを、そんな目にあわせたのよ。一緒じゃないの、これで、おあいこ。)
   「う、うぐっ、ぐわっ!!ぐえっ。何かが喉を上がってくるみたいな、あああっ。」
  という凄まじい呻き声と共に、鈴華は口から自分の心臓を吐き出して、その場にどしんと倒れた。フーッという風のようなものが、可奈の肖像画から巻き起こった。何か薄青い幽体のようなものが、絵から出て来ると鈴華の体の中に入った。すると、ピクピクッと彼女の体が動いたかと思うと、手を伸ばして自分の血まみれの心臓を掴み、口の中へ入れた。そして、ゆっくりと立ち上がった。それから鈴華は、おほほ、と笑った。すると、その顔が、だんだんと変わっていったのだ。そして、ついに、その顔は元気な可奈の顔になった。と、同時に鈴華の体型も可奈のものになっていた。その時、玄関の方から、
   「ただ今。帰ったよ。海の絵は上出来だ、やっほーい。」
   と声がして、真一郎が帰って来た。鈴華の返事が、なかったからだろう、鍵を開ける音がした。ドアが開いて、
   「何だ、出かけたのか。おーい、鈴華、絵を見てくれよ、今すぐに。」
  と真一郎は甘い声で言うと、彼の足は、アトリエへと向かった。見るとアトリエの扉は開いていた。突如、声がした。
   「お帰りなさい。あなた。あたし、可奈よ。」
  その声を聞いた真一郎は、その場で飛び上がりそうになった。そして、すっくと立っている可奈を見ると、真一郎は自分の眼を疑った。しばし、呆然とすると、それから、
   「幽、幽霊なのか、おまえ。この世に未練が、あるのはわかるが・・・」
  彼が、やっと、発した言葉がそれだった。
   「馬鹿ね、触ってみてよ。あたしの肉体を。胸を揉んでみて。わかるはずだわ。」
  その声は、いまだに忘れない、あの明るい可奈の声だ。真一郎は、可奈をぐいと抱き寄せた。ほんのりとした体温を感じた。幽霊ではない。そのまま、
   「あの女は何処へ行った?鈴華、いや、旧姓、緑川は。」
   「さあ、何処かに出て行ったみたいよ。あたしも、見なかったわ。結婚してたのね。」
   そう言うと可奈は、いたずらっぽく笑った。真一郎は、
   「もう、戻って来ない方が、いいな。あの女より、可奈の方がいい。」
   「ええ、戻って来ないわよ。そんな気がする。」
   真一郎は、そこで可奈を、ゆっくりと離した。
   「でも、どうやって?・・・・・生き返れたんだ。信じられない、夢なのかな、これは。」
   「幽界にね、シャンメルさんが来てくれたのよ。それで、生き返りの術を教えてもらったわ。だから、こうして・・・・・。」
   「そうだったのか。もう、心臓は大丈夫だろうね?また、漢方薬が必要になるんじゃないか。」
   「ええ、大丈夫よ。全く別人のようになったの。自分の体も変わったから。」
   「それは、良かった。では、心置きなくセックスが出来る。楽しみだね。」
   その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。真一郎は、忌々しそうに玄関に行って、ドアを開けた。絵山の顔が見えると、
   「やあ、もう、お戻りですね。可奈さんは。わかって、いますよ。」
  と、にこやかに言った。その後ろには、シャンメルが神秘的に立っていた。真一郎の後ろには、可奈が、ぴったりと寄り添っていた。シャンメルは、
   「お帰り、可奈。魔術の成功です。わたしも、これを確信していたよ。」
   そう言うと、手を振った。可奈は、にっこり笑うと、
   「ただ今。シャンメルさん。これで、二度も助けてもらいましたわね。何とお礼をすればいいか、今、考えています。」
   真一郎は、絵山に、
   「魔術ですか、これは。ぼくは、とても信じられませんけれど。」
  と聞いた。絵山は爽快な顔をして、
   「ええ、そうなんです。死人を生き返らせる方法は、あるのですよ。バビロニアの魔術です。」
 
転落と復活
  真一郎と可奈はそれから、新宿のマンションを引き払い、郊外の町田市へと引っ越した。何故なら、新宿のマンションは、可奈がとても嫌がったからだ。
  町田市とは、具体的には町田市高ヶ坂である。近くに芹ケ谷公園があって、国際版画美術館がある。可奈の実家がある森野にも一キロほどのところである。真一郎は、これからは楽しい生活になると信じていた。が、しかし、折からの世界的大不況のせいか、真一郎の絵は売れなくなっていった。又、美術評論家の宮谷氏の死去も彼の絵を強く推薦する人がいなくなった原因だ。それでも、過去の蓄えで二人は生活していたが、何分にも可奈は大富豪の娘、浪費する事は何とも思っていないし、それに彼女は真一郎の才能を信じていたため、浪費する事も彼の創作のためだと信じてもいたからである。不思議な事に、可奈が生き返ってから、真一郎の絵には前にあった癒しの力が、なくなっていた。それを所有していた人達も、それを実感したのだ。ギャラリー銀月の女主人、緑川鈴華が死んでしまったのも、真一郎の絵が売れなくなった理由の一つである。可奈の浪費癖と真一郎も、これから先も絵は売れるだろうという予測からの一緒になっての浪費は、十億円あった貯金を五千万円にまでしてしまった。そんなある日、真一郎は貯金通帳を見て、
   「もう、これだけか。後は、あんまりないな。可奈、贅沢はやめようよ。」
  と、相変わらず、高価な買い物をする可奈に忠告して言った。
   「そうねえ、でも、あなたの絵、又、売れるわよ。だから楽天的で、いてよ。」
   そう言って、可奈は携帯電話を取り出すと、
   「いい方法が、あるわ。魔女のシャンメルさんに、頼めば、いいじゃない。あたし、電話をするから。」
   「そんな事したってな・・・・・。」
   そういう真一郎の声を聞かずに可奈は、シャンメルに携帯電話をかけた。
   「もしもし、シャンメルさん?お久し振りです。可奈です。実は、真一郎さんの絵が売れなくなって・・・えっ?本当ですか?やっぱり魔術で!・・・・はい、行きます。は?真一郎さん一人で?わかりました。じゃあ、伝えます。よろしく。」
   可奈は、携帯電話を切ると、真一郎を希望に満ちた目で見た。
   「シャンメルさんが魔術で、又、絵を売れるように、してくださるんですって!」
   「本当かな、でも・・・もう、それしか、ないかもな。もともと、あの魔法の筆のおかげだと思うよ、おれの絵が売れたのは。」
   真一郎は、そのアトリエの部屋で、そう呟くと二、三回うなずいた。
  
  町田駅は、JR横浜線と小田急線が一緒になったところだ。駅は二階の高さの通路を通って、乗り換えられる。そこを行きかう人々の数は、新宿駅を思わせるほどだ。シャンメルの屋敷は東小金井にあるため、新宿駅から中央線に乗って、真一郎は電車に乗っていた。車中で、少し遠くにいた、若者達が、真一郎に気づくと、一人の青年が、ひそひそ声で、
   「おい、田宮真一郎じゃないか。あいつも、結局は詐欺師だったのかな。」
  すると、もう一人の青年が、
   「最近、そんなのばっかだよ。もう、売れないさ、あいつの絵。何の面白みも、ないもの。」
  真一郎は、それにも気づかず、髭も、かなり生やして、呆然とした感じで座席に座っていた。
  やがて東小金井の駅を降りて、真一郎はシャンメルに携帯電話で屋敷の場所を聞きながら、歩いていき、やがて、その玄関についた。彼がベルをリンリンと鳴らすと、しばらくして、シャンメルがぬっと現れた。真一郎は、希望の光を彼女の背後に感じていた。シャンメルは、にこやかに、
  「前に、もっと売れたければ、連絡しなさいと言ったでしょ。早くすれば、よかったのにね。もう結構、落ちぶれたようね。」
  シャンメルは、また、とても日本語が、うまくなっていた。彼女は優しく手招きをして、
  「さあ、お入りよ。魔術で復活させてあげるからさ、あんたの絵を、ね。楽しみだろ。」
  それから、二人は祭壇室へ行った。シャンメルは、真一郎を見ると、
  「あなた、ここ初めてね。緊張しなくてもいいよ。」
  そこには、香の煙が、もうもうと立ち込めていた。真一郎は、ゴホンと咳払いすると、
  「ええ。特にぼくは、怖いとも思いません。」
  「そう。あなたを前よりも、もっと、有名にしてあげますよ。ただし、あなたは、何らかのものをビフロウス様に捧げる事になりますが、それは大丈夫ですね?」
  「何らかのですか?もしかして、それは魂とか、ですか?」
  シャンメルは首を、すぐに横に振って、
  「いえいえ、それは、ありません。あなたも寿命どおり生きられます。魂なんて悪魔が欲しがるものです。」
  「では、ぼくは何を捧げれば、よいのですか?もしかして、ぼくの性的能力とか?インポになればいい、とかですか。」
  「それは、私にも、わからないのです。ビフロウス様が、お決めになる事ですから。私には、何とも言えません、今のところは。」
  というと、シャンメルは、背筋をしゃんと伸ばした。真一郎は、少し迷っていた。でも、どーせ、おれには絵の才能なんか、なかったんだ、なら、毒も食らわば皿までだ、と思うと、
  「もちろん、ぼくは、かまいません。何だって、いいです。捧げられるものなら何だって、差し上げます。だから、よろしくお願いします。」
  とシャンメルの神秘的な眼を見て、決然と言った。
  「おー、よろしい答えです。では、それでは始めます。まず、あの祭壇に礼拝するのでーす。」
  真一郎は、その祭壇に向かって深々と頭を下げた。シャンメルは、近くにあった模造の西洋の刀を取ると、
  「ビフロウス様、どうか、この青年に、お力をおあたーえ下さい。」
  と懇請して、真一郎の両肩を剣で一度ずつ、叩いた。その時、祭壇にあった二本の蝋燭の炎が、ぱっ、
  と上に十センチ程、伸びた。シャンメルは、それを見ると、
  「ビフロウス様は、了承されました。これで、よろしい。これで又、あなたの絵は売れますよ。」
  と確信的に言って、深く、うなずいた。いささか、拍子抜けした顔で真一郎は、
  「え、これだけで、いいのですか?もう、終わりなんですか。なんだか、短すぎて。」
  「ええ、あなたが来る前に、長い儀式は、すませていましたからねー。」
  「そうだったのですか。あ、あのー、お礼は、いくらすれば・・・よろしいんでしょう。」
  「おー、よろしいのです。これで、あの時、湖で、おぼれかかった、わたっしを助けてくれた御礼が出来ましたからね。」
  「そうですか。それでは、ありがたく、お礼なしという事で。」
  シャンメルは、にやっと笑うと、
  「ガンバッテネ。お礼はビフロウス様に差し上げてください。私は神様の召使です。」
  と言った。
  真一郎が向きを変えようとすると、シャンメルが、
「お礼はいいけど、二人で楽しみましょう。」
と色気のある声で誘った。
真一郎が彼女を見ると、すでにシャンメルは白いブラジャーとショーツだけに、なっていた。二十五歳のような、その魅惑する体に、とても真一郎は抵抗できなかった。
「シャンメルさん。ぼく、体で、お礼します。」
というが早く、彼は服を全部脱ぎ、パンツも降ろしてしまった。
彼のものは既に硬直していた。それはシャンメルも同時に全裸になっていたからだ。彼女のアンダーヘアは黒、目は茶色がかって、
乳首の色はピンクだ。彼らの身長は同じくらいで、立ったまま祭壇の前で固く抱き合って密着すると、キスを長く続けた。
彼女の乳首が真一郎の胸板に当たる。それが柔らかくて気持ちよく、シャンメルは大きく足を開くので、真一郎は彼女の、ぷりんとした豊満な尻を抱きつつ突き上げるように挿入する。
「オー!イイワッ、アフッ、オマンコ、キモチイイ。」
どこか神秘的な彼女が今は性的な女、そのもので、真一郎と彼女は膝を屈伸させて立ちセックスを堪能する。その両膝の屈伸は深くて、先導するのはシャンメルだ。真一郎は美若魔女の彼女に合わせて膝を屈伸する。
「アン、アンッ、ハ、アアアーンッ。ヤアン、アン、ハァ、ハァ、イイッ。」
二人は二十分、その体位で結合して、動いていたが、
白い美若魔女は唇を開けると、
「アッ、アッ、アッ、アッ、イクワァ、イクノー、シンイチロウ!イッショニ、イクワヨー。」
彼女は柔らかく締めていた自分の美マンコをグイグイグイと徐々に強く締め付けて信一郎の男肉棒を耐えられなくした。
「あっ、シャンメルさん、出ます、出ますー。」
ぴっ、ぴっ、と真一郎は目を閉じて快感の高みにいる美若魔女シャンメルに持てる限りの男の液体を捧げて行った。
その日は、それからすぐに、真一郎は町田市高ヶ坂のマンションに帰った。部屋に戻ると可奈が嬉しそうに、
  「さっきね、美術ジャーナルの編集長さんから電話があって、絵を一枚描いて欲しいって。」
  「ほんとか、でもやっぱり、創作意欲が、ないんだけどなー。どうしよう。」
  「わたし、を又、描いたら、どうなのかしら?そしたら、きっと、売れるわよ。やってみてよ。お願い。」
  「よし、そうだな。そうしようか。それで、おれが復活できるのなら。」
  すぐに真一郎は、可奈に色々とポーズを取らせると、
  「よし、そのまま、じっとして。今のポーズが、いいよ。セクシーだね、何だか。」
  と話して近づくと、電燈を薄暗い方に切り替えて、デッサンを始めたのである。
 
成功とキャバ嬢
 
 一週間後に完成した、その絵は、それは鬼気迫るようなものだった。それも、そのはず、何故なら、緑川鈴華の肉体が変化して今の可奈が、あるのだから。携帯電話一本で、美術ジャーナルの編集長は、真一郎のマンションに飛んできた。そして、出来上がった絵を見て、
  「これは、凄いっ。田宮さんっ、あなたは、やはり天才だ!少しのスランプが、あっただけですよ。」
  と感嘆するように言ったのである。最新号の美術ジャーナルに載った田宮真一郎の絵は、一つのブームを巻き起こし、インターネットでも話題となった。某掲示板でも、スレッドが立てられたほどだった。
   天才画家、田宮真一郎 復活
  というスレッドには、多くの書き込みが寄せられた。その絵はなんと一億円で、某IT企業が買い取り、自社のウェブサイトのトップページに飾った。成功と勝利感に酔う真一郎には絵の注文が、たくさん来た。練馬の絵山文房堂も今は、インターネットで画材を販売している。ある日、真一郎の携帯電話に絵山から祝福の電話があった。
  「もしもし、真一郎さんですか、わたし見ましたよ、新作の絵を。あれは、すごいですね。やはり天才だ、あなたは。見事な出来栄えですね。」
  「いえ、何ね。やっぱり、シャンメルさんの、おかげですよ。魔術を、かけてもらいましたよ、又。」
  「ああ、祭司長ですか。今度、うちの教団も新宿に自前の施設を建てるんですよ。教団の規模も、大きくなってきていますから。」
  「それは、素晴らしい。あの魔女も相当な人、なんでしょうね。お金を集めるくらい、なんて事は、ないんでしょう。」
  「それはね、信徒数が十万人に、なりましたんでね。よかったら、来ませんか。真一郎さん。」
  「えー、考えておきます。そのうち、是非とも伺いますよ。ぼくも、信者になろうかな、と思っていますよ。」
  真一郎は再び、仕事が忙しくなっていたので、教団の事など、どうでもよかったのだ。世間では、不況風が相変わらず吹いていたが、シャンメルの教団に入った人達は、みんな成功していた。それが、口コミとなって、シャンメルの魔術結社「薔薇の星」は、その勢力を広げていた。薔薇の星の信徒の中には、大企業のトップや政治家の名前まで、見られるようになったほどであった。
  一方、田宮真一郎の絵は、前と違って癒しではなく、持った人が開運する、成功するという現象が起きた。それを聞きつけたネット通販も、やっている開運グッズ会社が、真一郎に絵を依頼し、その仕事も真一郎は、引き受けて、やはり同じ様な結果が出たのである。
  やがて、日本の社会の広い範囲で真一郎の絵と、魔術結社、薔薇の星のブームが起こった。政府も予想しなかった事ではあるが、好景気が訪れようとしていた。新宿の都庁に用がある場合、そこから、そう遠くはない、薔薇の星の教団本部へ訪れてから帰る人達も増えてきた。真一郎は、時代の寵児となり、貯金も百二十億円となっていた。可奈は再び、贅沢三昧の生活を送っていた。美食の毎日で、可奈は次第に太っていき、ついには二重顎の顔となった。そんな可奈を見て、次第に真一郎は可奈に対する性欲を失っていったのである。それで、夜の営みが週三回から、一回、そして二週間に一度、ついには月に一度、という一説によれば平均的日本人(?)の回数とは、なっていた。それでも可奈は、真一郎を愛していたし、セックスだけが夫婦の愛ではない、とも思っていた。真一郎も、絵の制作に打ち込んでいたので、性欲は、しばらく感じなかったのだが、開運グッズ会社の社長の接待を新宿のキャバクラで受けているうちに、店に出てきたナンバーワンのキャバ嬢、エミに眠っていたものを呼び起こされたのだ。それでも、真一郎は可奈に悪いと思い、それを抑えたのである。
   そのキャバクラのエミは店の入り口から出て、
  「じゃあ、先生、又、いらっしゃってね。お待ちしていますわ。」
  「あ、ああ。又、近い内に来るよ。きっと。」
  大酒に酔った真一郎が、そう返事をすると、開運グッズ会社社長の吉内三太は、
  「ああ、又、来るよ、おれが連れてくる。田宮先生、そうしますよ。いいですね?」
  と、どら声で答えた。それを聞いたエミは、にっこりとした。
  キャバクラが終わって深夜、エミは相模大野の自宅まで小田急線で帰る。駅近くのマンションには、よくある話だが、エミのヒモが待っていた。玄関をエミが開けて、
  「ただいま。帰ったわよ、ちゃんと掃除したの?」
  と言うと、
  「ああ、しましたよ。早かったね、エミさん。」
  と、ヒモの市川明夫が答えた。彼の年齢は二十五歳、エミは二十一歳だ。エミは片エクボを作ると、
  「そうかな。今日ね、画家の田宮真一郎先生が、うちの店に来たのよ。すごいじゃないの、ねえ。」
  と誇らしげに話すと、明夫は興味深そうに、
  「あ、あの。有名な人ね。実際に会ったわけですね、もちろん、すごいなあ。」
  と、いい加減そうに応えて、台所に行きながら、
  「今から電子レンジで暖めてくるね、今日の料理。とっても、おいしいよ。」
  エミはハンドバッグを、いつもの場所に置いた。明夫が、自分で作った料理をお盆に載せて持ってくると、
  「さあ、食べてね。ぼくの自慢の手料理だよー。」
  と言った。エミは黙って食べながら、心の中で田宮真一郎の事を考えていた。(あの人、奥さん、いるのかしら・・・?)
  二人は食事を終えると、明夫が後片付けして、すぐに先にベッドに入ったエミの横に、服を脱いで、もぐった。パジャマになっていたエミを見ると明夫は、
  「エミちゃん、脱がせてもいい?いいんでしょ?」
  エミは答えなかったが、明夫はエミのパジャマを脱がせ、ブラジャーとパンティも外した。形のいいエミの乳房が現れると、明夫は、ゆっくりと吸った。エミは少し感じながらも、(田宮真一郎さんに抱かれたいな・・・)
  と思っていた。そのうち明夫はエミを全裸にすると、自分もパンツを脱ぎ捨てて、
  「エミちゃん、いくよ?いいかな。」
  と自分とペニスの両方とも、ベッドの上に立たせていた。エミは綺麗な両脚を大きく広げると、
  「早く来なさいよ。エミが、いい、って言うまで突き続けてね。」
  「はーい。」
  明夫が、ちんこを挿入した時、エミは田宮のペニスを想像していた。そう想像すると、今までの明夫とのセックスと違った快感を感じ始めた。
「あ、あん、いいっ。」
 明夫の逸物はヒモをしているだけあって、野太くて、エミのマンコには十分なものではあったが、明夫そのものに何か、飽き足らないものを感じつつも母性本能とでもいうべきものが、彼との生活を実現したのだろう。
久しぶりにセックス開始から可愛い悶え声を出したエミを、上から明夫は見つめて、
「感じた、エミさん、ぼくも、いいよ。」
と受け答えつつ、プロのヒモの腰の使いに入る。と同時にエミの乳首を吸い、首筋を舌でなぞり、耳たぶを軽くしゃぶる。彼女のまぶたも舌を這わせ、ちんこの毛をエミのマンコの毛と密着させて、腰を回転させるようにする。激しく腰を明夫が動かすと、エミの美巨乳は、大きなプリンのように、おいしそうに揺れ動く。
エミは画家の田宮に、今の明夫のセックスをして欲しいと思うと、明夫が何だか田宮真一郎に見えてきて、自分でも尻を上下に振り、
「はあっ、あーん、あっ、気持ち、いいっ。」
と美乳房を乳首を立てて揺らせながら、キャバクラでの礼儀正しさとは全く違った淫なる乱れをして、口を開けて赤い舌を長く出した。
 
美術学生
 
   高ヶ坂のマンションに帰った真一郎は、二重顎の可奈を見て、心の中でエミと比べて、なんだか、ものすごく幻滅した。可奈も少し前までは、エミと同じ痩せ型の体型だった。キャバクラで見たエミは、やせていても胸は、しっかりと、ふくらんでいた。帰りに見た腰のくびれのラインを思い出して、真一郎は勃起しそうになった。可奈は不満げに、
  「何で、ぼんやりと、しているの?何か女性の事を考えているみたいだわ。もしかして、あたし以外の女の事かしら、ねえ?」
  と詰め寄りながら、聞いてきた。真一郎は、意志の力で勃起を自制すると、
  「あ、いや、次の絵の事を考えていてね。そのモデルを想像の世界で見ていたんだよ。君以外を、この僕が考えるわけは、ないじゃないか。」
  と説明すると、パジャマに着替えてベッドに入った。可奈は、
  (又、今晩も駄目なのかしら。この人、性欲減退なのでは。全然、勃起しないし。)
  と思って、パジャマに着替えてベッドに入り、真一郎の股間に手をやったが、それは小さくなったままだった。それどころか、真一郎はもう、スヤスヤ、と寝ていたのである。
  その晩、ベットでエミを突きまくりながらも、市川明夫はエミの様子が、いつもと違う事に気がついた。しかし、
  (気のせいかな?)と思いながら、フィニッシュしたのだった。その瞬間にエミは田宮真一郎の精液を想像していた。
 
 それから、ひと月が過ぎた。真一郎は相変わらず、絵の制作に、とても忙しくて、ついに可奈との夜の営みは二ヶ月もなく過ぎていた。その頃、真一郎は、請われるまま、本町田にある美術大学で非常勤講師をしていた。そのクラスの中に、一人、傑出した才能の若者がいた。今年、二十二歳になる小島政治という名の青年で、九州は熊本から出てきていたのである。真一郎は、自分に才能が、ない事は分っていたが、人の才能は素直に認める方で、小島政治の絵を教室のみんなの前で褒めた事もある。何か神秘的な絵を描くので、ある日、真一郎は授業が終わった後で、小島に、
  「君、魔術結社に興味ないかい?君の絵は神秘的だ。結社に興味が、あれば紹介したいのだがね。」
  と興味深げに聞くと、
  「ありますたい、先生。ぼくは、なんでん興味の、あっけど、魔術とか特に、ありますとです。」
  と方言交じりに答えた。背は大柄で丸い顔をして、眼鏡をかけているその姿は、見た目は田舎者そのもので、
  クラスの女性は誰も彼を見向きもしなかった。真一郎は笑顔で、
  「じゃあ、連れて行ってあげよう。絵の進歩にもきっと、役立つと思うよ。」
  と言うと、携帯電話で絵山に連絡を取った。それから、放課後、真一郎と小島政治は新宿のシャンメルの魔術結社「薔薇の星」に行き、小島は、すぐに入会式を受けた。一人の青年の才能を伸ばして上げられれば、と真一郎は思っていた。そうやったりする事で、キャバ嬢エミを忘れたかったのだ。立ったままの帰りの小田急線の電車の中で小島は、 
  「先生、よか団体ば紹介してもらって、うれしかです。ほんとに、ぼくは、幸運です。」
  と、とても感激していた。真一郎も嬉しそうに、
  「そうか。よかったな。君の成功は、ぼくの喜びだからね。頑張りたまえ。」
  と言うと、満足げにうなずいた。窓外の景色は、町田へと変わった。二人は、JR横浜線に通じる道の前で、
  別れた。朴訥な感じそのもので、原町田の街のほうに歩いていく小島の後姿を見ながら、真一郎はエミの事は忘れていた。
 
 姉の魔女シャンメルとは全く違って、キャンメルは、魔術結社に人も大して集められずにいたし、入会しても、やがて全員やめていった。失意の中、キャンメルは銀座を引き払い、町田へ移り、町田駅の小田急デパートのあるところで占い師として何とか生計を立てていた。ある日曜日、相模大野から町田にショッピングに来たエミは、小田急デパートで占いのコーナーに謎めいた中年の外人女性を認めた。それは、キャンメルだったのである。エミは立ち止まると、
  「あの、見てもらえません?あたし、自分の運命を知りたいんです。」
  と、キャンメルに聞いた。キャンメルは、うなずくと、
  「ああ、どうぞ、座ってください。わたし、透視も、できるのですよ。」
  と、上手な日本語で答えた。エミが前に座ると、
  「ははーん。あなた、男の人の悩み、ありまーすねー。最近ですかね、今の男性とは別に。」
  「えっ?わかりますか?そうなんです、どうしたら、いいんでしょう?最近、ずっと悩んでいたんですけど。」
  若美魔女キャンメルの心の眼は、エミの心の中を見ていた。そこにキャンメルは真一郎の姿を見た。
  (田宮真一郎!おおお、田宮が見える。いるのだ、田宮は。)
    キャンメルは、ウルフマン佐山が死んでしまったので、右腕を失った感じだった。田宮真一郎は、わたしの呪いが、かかったはずなのに、未だ名声を保っている。おかしい・・・・、姉が?助けたのか?と思いに耽っていると、
  「どうなんでしょう?もう、おわかりなのでは、ないですか。」
  と、待ちきれずにエミが問いかけた。
  「あ、あー、あなたの思いのままに。したほうがいい、よ。」
  「思いのままに、ですって?じゃあ、あたしが今、思っている人の方へ行ったほうが、いいって事ですか?」
  キャンメルは、にやりと笑って、
  「そーよ。その通りです。その人も、あなたの事を思っていますから。」
  エミは晴れ晴れとした顔で、
  「ありがとう。よかったわ、そうします。とても嬉しいです。」
  と言うと、お金を置いて立ち上がった。キャンメルは、慌てて、
  「ちょと、待ってよ。まだ・・・言う事が、あるのに。」
  と言いかけた時は、エミの姿は、もう、人混みの中で見えなくなっていた。
 
キャバクラで
   開運グッズ会社社長の吉内三太は、真一郎が最近、自社の仕事に、あまりすぐ応じてくれない事に気づいた。
(何やってんだか、ったくもう・・・全然、絵を描いてくれないんだから。)
  それから、社長室のデスクを軽く叩くと、
  (よし、あの手でいくか、あれしか、ないかな、へへへ。)
  それから携帯電話を取り出すと、真一郎に、かけた。やがて通じると、
  「もしもし、田宮先生ですか、「きらめく開運」の吉内です。今晩、どうです、キャバクラなんて、え?今日は先約が?それは残念です。」
  その頃、真一郎は美術学生の小島政治と夜の新宿にいた。小島が魔術結社「薔薇の星」の金星の儀式に真一郎を誘ったので、それに参加した後の事だ。その儀式は壮麗なものだったが、真一郎は、あまり関心がなかった。儀式が終わると絵山が、
  「真一郎さん、どうです、これから夜の街は?」
  と笑顔で聞くと、横から小島が、
  「今日は、ぼくが田宮先生を案内しますので、残念ですが。」
  と、真一郎の腕を取った。絵山はうなずいて、
  「そうですか。それでは、又。新宿は眠らぬ街ですしね。」
  それから結社の建物を出て、真一郎と小島は、ぶらぶら歩いていくうちに、飲み屋街へと来てしまっていた。真一郎は、小島を見ると、
  「小島君、変なとこに来たね。引き返そうか。君は、こんなところは興味ないだろ。」
  と言うと、小島は真面目な顔をして、
  「よかとです。先生、ぼくはキャバクラというものが見たくて、それでアルバイトしていました。先生には、いつもお世話になっているので、今日は、ぼくに、おごらせてください。」
  「いいよ、いいよ。気にしなくても。そんな事より、君が、もし堕落してしまったら、申し訳ないものな。帰ろうよ。」
  「いや、ぼくは絵のためです、キャバクラを見たいのは。それに、ぼくみたいな顔じゃ、おんなんこは相手に、してくれんけん、問題なか。」
  そういうと、小島は真一郎の手を引いた。真一郎は仕方ないという顔をした。二人は少し歩くと、小島が、
  「愛の花束、て書いてありますね、ここに入りましょう。先生。」
  と誘うと、真一郎の手を引いて、その店に入った。店のマダムが、歓迎の両手を広げて、
  「まあ、いらっしゃいませ、ようこそ。お二人様ですわよ。」
  と出迎えたが、店内に客の姿は、まばらだった。小島は、まごまごしながら、
  「この先生のために、店で一番の女の子を呼んでください。」
  と、マダムに頼んだ。マダムは、にっこりうなずくと、
  「一番奥に行って、座って待っていて、くださいませね。あとから、すぐに来ますから、失礼。」
  真一郎と小島は、マダムに言われたとおりの所へ、行って座った。真一郎は、
  「大丈夫か、小島君。ここは高いのだぞ、こんなところは、どこでも。」
  「何、大丈夫ですよ、先生、まかせんですか。」
  と言って、眼鏡を上に持ち上げた。やがて来たのは、エミとナンバーツーの女、マリだった。エミは田宮を見ると、
  「まあ、田宮先生、お久しぶりです。次は、いつ来て下さるのかと思っていましたわ。」
  と喜びを隠さずに言った。それを見て、小島は、
  「なんだ、先生、お知り合いだったんですか。それなら、教えてくれれば、いいのに。」
  真一郎は、右手を髪に当てると、
  「まあね。仕事の関係で来たことが、あったんだ。自分じゃ、来ないもの。」
  バーテンが酒を持って来た。それを並々とエミはグラスに注ぐと、真一郎に渡した。実は真一郎はエミの姿態に、ぐらぐらしていたのだが、(酔えば忘れる、これも可奈のためだ)と、思って、一気に飲み干した。エミは、
  「わあ、先生、お強いんですね。じゃあ、もう一杯どうぞ。」
  と又、なみなみとついだ高級酒を真一郎に渡した。それも真一郎は一気飲みした。すぐに、くるくると酔いが回り始めた。最初はエミは真一郎に、マリは小島に対面していたが、そのうち、エミが、
  「ね、席変わりましょうよ。」
  と言うと、真一郎の横に来た。小島は、酔っ払って立ち上がって、
  「いや、気がつかんやった、変わりましょう。先生のためですたい。」
  と言って、席をマリの横に移動すると、それまで、いかにも仕事らしく酒を小島に注いでいたマリが、
  「え、小島さん、九州の人?なのねー。」
  「あー、熊本ですたい、酔って、すまんです、言葉が・・・出て、しもうてから。」
  と小島が、だらしなく言うと、マリは笑って、
  「実はね、わたしもね、熊本なのよ。だから、わかるから、心配しないでね。」
  と言うと、小島にウインクした。小島は少し驚いて、
  「そーね。そしたら気ば、つかわんで、よかたい。あんた、どこな。」
  「山鹿なのよ。あなたは、どこね。」
  「あー、おれ、熊本市内たい。」
  「そう、何してるの?今は。」
  「おれ、今、美術大学に、いっとーもんね。」
  「へー、偉かね。今度、あたしんち、来る?」
  「おー、よかよ。来て、ゆっくり話しば、しよーか。」
  マリは、携帯電話を出すと、小島に見せた。それから、自分の電話番号を携帯電話の画面に出すと、
  「はい、電話番号よ。ここに、かけて、いーけんね。」
  小島は照れくさそうに、
  「おれ、携帯ば持っとらんとよ。どけんも、ならんたいね(どうにも、ならない)。」
  「そう、じゃあ、こうするかな。」
  マリは、ポケットからメモ帳とペンを出すと、走り書きして小島に渡した。それを受け取った小島は、
  「わー、初めてたい。おなごから、こげん、してもらうとは(おんなから、こんなことを、してもらうのは)。どきどき、してきた。」
  それから、盛んに真一郎に酒を注いでいるエミに、
  「あ、先生に、この店で一番よか、いや、いい酒を持ってきてくれんですか。」
  と、酔眼で言った。エミは、うなずくと、
  「わかった。じゃあ、ロマネコンティ持ってくるわね。」
  と言って、立ち上がった。マリと小島は仲睦まじく話し合っていて、エミを見ていない。エミは、ふらふらしている真一郎のズボンのポケットに手を入れると、彼の携帯電話を抜き取った。それから小走りに化粧室に行くと、ドアを閉めて、真一郎の携帯番号を画面に出して、洗面台に置き、それから自分の携帯電話を取り出して、その番号をメモに入力した。
  エミがロマネコンティ、通称、ロマコンを片手に、席に戻って来ると、
  「お待ちどおさま。とっておきのお酒よ。とっても高いのよ。」
  と言って、真一郎の横に座り、ロマコンを真一郎のグラスに注ぐと、
  「どうぞ。飲んでくださいね、先生。」
  それから、小島に向き直ると、
  「小島さんも、いかがですか?高級酒を体験して見たら。」
  「いや、ぼくは、いーとです。先生のための、お酒やけん。」
  と、ふらふらとしながら断って、手を横に振った。真一郎がロマコンを飲み干して、さらに、ふらふらになった時、エミは素早くスカートのポケットの中から真一郎の携帯電話を彼のズボンのポケットに入れた。真一郎は、ふいと腕時計を見ると、
  「あー、もう十一時だよ、帰ろうか、小島君。今日は、気持ちよく酔っ払ったよ。」
  と、へべれけ、になって喋って、立ち上がった。小島は、
  「そうします。先生。結構、時間のたつの、の早かですね。」
  と素直な態度で真一郎に同行した。帰りのレジで、マダムが、
  「それでは、お会計は十万円になります。」
  と、にこやかに言うと、小島はズボンのポケットから財布を出して払った。真一郎は、
  「いいのかい?君、こんな大金を出しても。」
  「いやー、大丈夫ですよ、先生。さあ、行きましょう。」
  二人は、キャバクラ【愛の花束】を出た。出掛けに、
  「また、いらっしゃってね、きっとー。」
  「ぜひ、お待ちしていますわー。」
  と、いう呼びかけの声を朦朧として聞きながら。

 

魔法で性交したら2 お試し

彼女は
  芹が谷公園を出た佐山牙は、ばったりと若い女性に出くわしたが、そのまま行過ぎようとすると、
「佐山君。久し振りね。」
と、その女性は、弾むような声で話しかけてきた。佐山は、その女性を見ると、
「丘さん。また、こんなところで、お会いするとは。」
丘サレナは嬉しそうに、
「わたしの初体験の場所だから。又、いい?佐山君。」
「えっ、公園に入るんですか。まだ明るいですよ。」
「立ち木の陰じゃ、誰も来ないでしょ。そこで、思いっきり。」
「そ、そうですね。」
佐山は、ためらったが、うなずくと、丘サレナに右手を取られて芹が谷公園に入って行った。
 しばらく歩くと、さっきのサングラス二人組みが、もう血のほとんどを出して死んでいたのだが、陽が落ちてきたので丘サレナは気が付かず、そのすぐ近くの立ち木の陰に牙を引っ張った。
 なるほど、通行人には見えない位置だ。
そこで丘は素早くパンティを降ろすと、佐山のズボンのチャックを降ろした。そしてパンツの上から佐山のものを撫で回すと、それはすぐに大きくなって、芋虫のような感覚がした。
それからそれは、パンツの切れ目から突き出てきた。サレナは両脚を開くと、牙のものを自分のジャングルの下に誘い込んだ。牙のものは二回目なので、すんなりと入ったのだ。牙はサレナの柔らかい肉ひだを感じると勢いよく、こすりつけていった。その時、夜空に満月が見えた。佐山牙は、
「丘さん、狼男に変身しますけど、いいですか。」
「いいわ。変身しても、そのまま膣の中で動き回ってね。あっ、いいい。」
サレナは、頭を後ろに、のけぞらせた。牙は満月の明りを浴びて、たちまち狼男になっていった。 サレナはエキゾチックな美女である。佐山との初めての性交の後、その美貌に磨きがかかっていた。
 今、公園の立ち木の陰で、本当に美女と野獣がセックスしている。周りには日も暮れたためか、誰もそこには、いなかった。サレナは、快感の声を噛み殺すのに懸命だ。なにせ牙が狼男に変身した時、牙のペニスにも毛が生えてきたからだ。
 同時に
  狼の剛毛がサレナには感じられた。(わたし、狼とやってるみたい・・・)そう思いながら、サレナは何度も昇りつめた。そのまま十分ほど牙は狼のまま腰を振り続けたが、快感の声をあげるのをこらえる為に、サレナが力を入れた時、同時に彼女は自分の膣を締め付けていた。牙は、それですぐに、
「あっ。丘さん、出ます。」
と言うと、サレナの中に勢いよく精液を、ほとばしらせたのである。その時、近くで倒れていたサングラスの男たちの血の流れもピタリと止まったのである。
 満月に雲が懸かったので、牙は元の、少年から青年に向かう時期の姿に戻り、サレナから離れた。二人は、ゆっくりと下着を元に戻した。暗いけれども真の闇ではないので二人は公園の外へ歩いて行った。サレナは今から、もう一度、牙とセックスしたかったが、彼には一日に二回は無理かな、と思って黙って歩いていると、
「そうだ、丘さん。これからレストランへ行きましょう。フランス料理でもイタリア料理でも大丈夫ですよ。なにせ、今日は臨時収入が入りましたから。」
佐山牙はホクホク顔になった。サレナも嬉しそうに、
「それじゃ、ご馳走になろうかな。町田駅近くには、いい店が、たくさんあるわよ。フルコースでもいいの?」
「ええ、構いません。お好きなところへ。ただ、五万円までに、して欲しいんですけど。」
「五万円も食べないわよ。一万円でも、いいかなっ、てとこ。」
「じゃあ、連れて行ってください。」
「うん、案内するわ。」
二人は仲よさそうに、原町田の商店街へ歩き始めた。芹が谷公園では、さっきの場所でサングラスの男、二人の流した大量の血をカラスが数羽、集まって来て、ぴちゃぴちゃと舐めていた。
 夫は
  田宮可奈は六百坪の邸宅に八王子から帰ってくると、夫は外出からまだ戻っていなかった。
小田急デパートで見かけた、あの女と、まだ一緒なのかもしれない。自分は夫の学校の生徒と関係を持ってしまったのだが、遠い昔に思いを馳せると、こんな自分になるとは思っていなかったなあ。
 普通に一人の男性を愛して生きていくと思っていたのに。わたしには母がいなかった。それでだろうか。
姉は、いたらしいけど。富豪の娘だから、幸せになれると単純に思っていた。芸術家の、あの人をつかまえられたのは、よかったけど、どうも他の女に入れ込んでいる、と気づいても娘のためには、と思っていたのに又、他の女に走ったりすると我慢できない。
 ユナはあの時の・・・だし、又、この前の八王子のラブホテルでも中に出してもらったから又、妊娠したら夫は、なんという顔をするだろう。「この子の顔を見な。」と真一郎に言ってみる。
そう、子供の名は、ミナがいい。でも男の子なら、ミロ・・・って漢字を当てたら・・・実路かな。でも、簡単に妊娠はしないだろう、わたしも歳を取ったし。死んだ姉は子供も、いなかったろう。
「それがいるのよ。」
と、居間のソファに座っていた可奈の耳に声がした。周りを見たが、誰も、もちろんいなかった。(空耳なのね)そう思い直そうとすると、
「佐山牙っていうの。もう青年になるわ。姉のマキよ。天国からの通信、この放送は冠婚葬祭の・・・って、スポンサーは、いないけど、あなたが、わたしの事を考えているのをキャッチしたから、ね。それじゃ、」
記憶にある姉の声だった。
 
親子丼
  岡志大は美術大学を出て、散歩するのを常としている。
町田駅周辺の商店街も彼なりに、美術の参考となった。道行く人々は、そんなに派手な格好をしているわけではない。博多ラーメンの店がオープンしていた。
 福岡市からの出店だ。大学は午前中までだったので、そろそろ空腹を覚えていた。学生向けの食堂など、ないのも町田駅周辺の特徴である。カウンターに座って外の通行人が見える食堂に彼は入った。
券売機で親子丼の券を買い、席に座って外を眺める。すると、この前、関係を持った、出会い系サイトで知り合った、あのルナさんに似た女性が歩いているではないか。
「はい、親子どん、お待たせしました。」
と若いアルバイト女性が、器を彼の前に置いた。
 親子どんぶり、うーん、あれはルナさんの娘さんではないか?あの子とも関係を持てれば、これは親子どんぶりだ。
これは単なる偶然か?はたまた、天の啓示なのだろうか。
 最近知った秘密結社、薔薇の星ではホルス神を礼拝する事を勧めていた。彼は真似事は、してみたが、まだ入会していない。
 スタイルもよく、細身の割には尻が大きいその女性は、その尻を少し、ぷるぷる揺らせながら歩道を歩いて行った。岡は、その歩き方もルナさんに、よく似ていると思ったのだ。
親子どんぶり食べたいな、目の前にある親子丼に自分の眼を戻すと、岡は歩き去った女性の裸の尻を想像しながら、箸で鶏肉を、つまみあげた。
 足の不自由な美しい娘
 手にしたヌードグラビアを机の上に置くと、外へ出て(おれは何か想い出に残るような、そんな一枚の素晴らしい絵を、描かなければなあ・・・)
と、田宮真一郎は、半分まだ勃起したまま、つくづくと思った。
折りしも時刻は夕暮れ時で、空は真っ赤な夕焼け空、女のいない季節は秋へ変わろうとしていたのだ。
(おれの青春も、あの夕焼けと同じように終わろうとしているのか・・・ううん。ちんこだけが、虚しく勃起する)
そう思うと、彼は、下唇をぐっと噛み締めた。彼は未だに絵の世界で成功していないのだが、就職もせずに、もう二十九歳にもなるのだ。
信州の田舎から出てきて、すでに十一年の年月が虚しく流れていた。
その間、細々とアルバイトなどで身を立ててきたが、それは絵の世界とは何の関係もないものばかりで、今は土木関係のアルバイトをやっているのである。
だから収入は割りといいはずなのだが、そう多く働きに出て来ないので、そこそこの収入になってしまうというわけだった。
肝心の絵の方は応募しても、ただ落選だけが待っていた。そんな彼は、昔、信州の赤いりんごを見て絵描きになりたいと思ったのだ。自分のきんたまも、りんごみたいに、なればいいとも思った。
「おれ、画家になるよ。おやじ、おふくろ、いいだろ。何と言ってもおれは行く。」
と、高校を卒業した時、両親にそう宣言すると、すぐに上京して行った。
 だが、有名な美術大学には入れなかったので、誰でも入れるデザインの専門学校へ入学してしまった。
そこを出ても就職口はなく、結局ぶらぶらするはめになった。世間的にも、就職難の時代だったのだ。そして、彼は今に到っているわけ。今では、りんごより女の胸が、いいわけなのだが。
 同じ日、別の場所で、白山吾郎は、赤々とした夕陽をじっと見つめていた。
とても広壮な屋敷の中にいる彼は、夕陽と自分の興した事業を同一視していたのだ。
彼は一代で、とてつもない財産を築いたのだが、現在五十九歳で妻にはすでに先立たれ、一人娘と一人の執事、二人の召使い、と古めかしくいえば、そういう人々と静かな私生活を送っている。
 朝は、執事がボタンを押すと門が開き、国産だが超高級車に乗った彼は自分の会社へと向かうのである。
そして、夕方の4時には屋敷に戻ってくるという毎日を送っている。
 彼はもう自分の事業を拡げていく事に、興味を失っていた。何故かというと、彼には、後継者がいなかったからである。
親族にも後継者として、彼の眼にかなう人間は一人もいない。
 白山吾郎の一人娘の名前は加奈という。二十四歳の彼女は今、仕事もせずに、ぶらぶらしている。彼女は、とある写真の専門学校を出て、就職は、せずに方々を歩き回って撮影に忙しいという日々だ。
 大富豪の娘だからできる生活だが、その写真は、あまり良いものではなく、写真関係の会社は面接に行っても、皆落ちてしまったのも仕方のない事で、それは働く気がないのと理由は他にもある。
 彼女は、とても美しい顔をしていて、それでいて、可愛いいのだが、残念な事に足が、びっこで不自由なのである。
右足を少し引きずるように、してでないと歩けない。これは、生まれつきのものだった。だけど彼女は不自由は感じなかった。何故なら、学校まで歩いたことが、ないのだから。
 召使の若い女性が高級外車で学校へ送り迎えした。
校内では、彼女の顔立ちの際立ったものと、ひねくれていない性格から誰も彼女を悪く扱う者はいなかった。とはいえ、しかし、やはり加奈に彼氏はできなかった。
 今も、まだ彼はいない。父の白山吾郎は、これまでも五回も加奈にお見合いをさせたのだが、すべて二人だけの時間にさせた後で、先方に断られてしまった。
同じ日の別の場所で、夕焼けの見える丘の上に立っている若い女の子がいる。
白山可奈だ。彼女は今日も被写体を探して街を歩いていた。自分の青春をカメラに託す事で、すべての、いやな気持ちを吹き飛ばそうと彼女は思っているのである。
(なんて綺麗な夕焼けなのかしら!あたしの青春って、きっとこれからね。)
彼女は、そう思うと不自由な足を引きずりながら丘を降りた。
しばらく歩くと、可奈は、にぎやかな街中にいた。愛用のカメラは左手に持っている。人通りの少ない道に入った時、向こうから一人の見知らぬ青年が歩いて来た。
彼の髪は、ぼさぼさで、ひげも少し生やしているようだ。だが、可奈は何か光るものをその青年にすぐに感じた。彼女は近づいてくる、その青年を、すかさず撮った。カシャーとカメラは声を出した。
「あ!なにを・・」
その男は小さく声を挙げたが、黙って通り過ぎようとする。それを、加奈は、
「すみません!ちょっと待ってください!ちょっとでいいんです。」
と彼女は、青年を呼び止めると近くに歩み寄った。不自由な右足をひきずりながら。
「ごめんなさい。いきなり写してしまって。失礼ね、わたしって。」
「ああ、ああ、いいですよ。私のような顔でよかったら、いくらでも撮ってもらって。」
その男は、つまらなさそうに可奈を見ると、すぐ立ち去ろうとした。加奈は、
「あの、待って下さい。出来上がったら、あなたに差し上げますわ、このお写真。ですから、ご住所とお名前を、教えていただけませんか?」
すると、その男は、少し笑みを浮かべた。
「へえ、そうですか。それじゃ・・・書きますよ。」
男は、可奈の差し出した高級感の溢れるメモ帳に、ペンでサラサラと書いた。そして、おもむろに言った。
「これでいいですか?これで満足?」
「ええ、ええ、とっても、ありがとうございます。」
加奈は心から、満足げな表情を美しい顔に浮かべた。
「それでは・・・ごきげんよう。」
と挨拶して青年が歩き去っていく姿を可奈は見送っていたが、人にまぎれて見えなくなると彼が書いてくれたメモ帳を見た。(田宮真一郎。練馬区・・・なのね。練馬区なら、昔、お父様と遊びに来たわ。豊島園だったかなー、遊園地。)
一方、田宮真一郎は、加奈と別れて練馬の街を歩きながら思っていた。
(さっきの女、綺麗な顔だったが、あの足じゃな。可哀想に一生独身だろうな。それにしても、おれのアパートに来るのかな・・・そうしたら、やってやるか。
意外と、膣の締め付けはグッドなものがあるかもしれないな。寝転んでしまえば、誰でも一緒さ。)
などと考えていると、眼の前に絵山文房堂の看板が突然見えた。
(画材でも買っとくか。どうもあの女、来そうだし、ただセックスをするだけじゃ能がない。たっぷりはめる前に、絵筆もたっぷり絵の具で濡らして、それからあの女を濡らして、綺麗な顔を悶えさせて・・・)
そう思って、真一郎は店に入っていった。
「いらっしゃいませ。これは、お若い方。」
と、若い男の声がした。見たところ歳は三十才位だが、この店の主人らしい。真一郎は店内を一通り見ると、筆を三本持ってレジに行った。中々広い店ではある。何処か暗めな感じはする。店の主人は、
「ありがとうございます。お客さん、絵を専門に、やってらっしゃるんでしょ?私も色々な方を見てますし。」
「うん、まあそうだけど、売れなくてね。全然、売れなくて、どうしようもないんですね。」
と説明しながら、真一郎が苦笑いすると、
「なーに、これからですよ。あなたはきっと、有名になりますとも。」
と励まして、絵山文房堂の店主は神秘的な微笑を浮かべた。真一郎は、首を傾げながら、
「そうかなあ。そんな事言って、無責任じゃないの。おれが有名に?」
「そうですとも。私が保証しますよ。信じてくださいね。」
その店の主人は胸を張った。店の外に出ると真一郎は、
(おれが有名になる、だとさ。なんて事、言いやがる。お世辞なんて言わなくていいのに。)
と思って、ハハハと笑ったが、何か虚しい気もした。(もしかして、本当に?)
 新入社員
 その次の日、白山吾郎は自社の社長室に一人の若者を呼んでいた。吾郎は手元の履歴書を見ると、
「佐山志郎君、だね。」
と、向かい側に座っている若者に気軽に声をかけた。
「はい、そうです!」
という気合の入った声を佐山志郎は出した。吾郎は、うなずくと、
「朝八時から会社の前で、待っていたそうだね。早朝出勤のやつに聞いたよ。転職が今まで、えーと五回。うちは六回目だね。」
佐山志郎は意を決した顔で、
「御社で骨を埋めるつもりです。もうこれが最後の転職です。」
と答えた。
「そうか。それは嬉しいな。普通と違って君はコンピューター技師として転職していたのだから、余り気にしなくていい。今回のうちの募集は、たった一人だ。君に決めたいんだが、二番目に来た絵森という男とコンピューターの腕比べをしてもらう。それで決めたいのだ。君は不服じゃないだろうね。」
「もちろん、ありません!」
「わかった。十時から早速行う。それまで待っていてくれたまえ、ショールームで。」
「はい、失礼します!」
佐山は元気よく部屋を出て行った。吾郎は深々とうなずくと、秘書に命じた。
「次の人を呼んでくれたまえ。」
 
可奈は、JR池袋駅から不自由な足で歩いて、西武池袋線の普通電車に乗った。
彼女の綺麗な眼は、流れる窓外の風景を見つめている。じっと見ていると、段々と景色が田舎じみてくるのだった。
彼女は富士見台の駅で降りると、西へ二百メートル程歩いて行った。すると、畑も見える中に木造モルタルの三階建てアパートが見えた。田宮真一郎の部屋は、一番西の一階みたいだ。ドアに表札はないから、
トントン!
と、手で可奈はノックした。ベルもない玄関である。時刻は朝八時半になっていた。中から、
「はい、誰?こんな朝早くに、もう。」
と声がすると、ドアが開き真一郎が顔を出した。まだ寝呆けた顔だ。加奈は、
「お早うございます。昨日の写真が出来ましたので、持って来たんですよ。」
と言って、にっこりした。それなのに真一郎は無関心そうに、
「あー、あれね。え、もう出来たの。」
「ええ、現像は自分でやりました。自慢じゃないですけど。」
「そう、それは。すごい、です・・・ね。」
真一郎は、又、興味のなさそうな顔をするのだ。だが、可奈は、
(この人は芸術家なんだわ、きっと。だから変わってるのよ。)
と思っていた。彼女は、
「どうぞ。受け取ってくださいね。」
と言って、できた写真を真一郎に手渡した。真一郎は、めんどくさそうに受け取ると、
「ああ、すいませんね。もらっておきましょう。それでは。」
と言いながらドアを閉めかけた。彼女は、慌てて、
「あ、待って下さい。私、こういう者です。」
洒落た名刺を取り出すと、渡した。金色の名刺に
写真家 白山可奈
と印刷してあるのを真一郎は見た。加奈は、
「よろしかったら、又、撮らせてもらえませんか?」
「ええ、まあ・・・、でも、ぼくも忙しいので、わざわざポーズなどは、できませんよ。それじゃ。」
彼は、バタンとドアを閉めた。可奈は所在無げに立っていたが、やがて富士見台駅への道を歩き始めた。
真一郎は、部屋の中で可奈から、もらった写真を見ながら、
(チェッ、それにしてもまあ、下手な写真だ、これは。あ、中にあの娘を入れて彼女を抱いてしまえばよかったんだ。まあ、朝っぱらから、それもなんだけどな。)
と思っていた。一方、可奈は小さな舗道を歩きながら、(今度はあの人を何処で撮ろうかしら?でも、もう会うの、よそうかな、いやがってた、みたいだし・・・)と思って眼を上げると、富士見台駅が見えた。可奈は、駅前で個人タクシーを拾った。乗り込むと、運転手が丁寧に聞いた。
「どちらまで、お越しですか?」
 
真一郎、魔女を助ける
 アパートの六畳の部屋の中で、真一郎は立ち上がると、
「さあ、出かけるか。することないけど。」
と独り言を呟いた。
 今日は仕事は、ないというより、出ないのだ。アパートを出て富士見台の駅まで歩き、西武電車に乗った。
もう9時半なのでラッシュではないが、都心には行く気がしなかった。それで西の方へ行く切符を買った。電車が動き出すと、窓の外は次第に田園風景へと変わっていく。ショルダーバッグの中には、画材が入っている。とある駅に電車が停まると、真一郎はホームへ降りた。遠くに緑の連山が見え、駅の周辺も小山で囲まれている。
 改札口を出ると人影は、余りなかった。眼の前に見える小山を登っていくと、やがて湖が見えた。広い湖だ。ほとりの土手を登ると、風が強く吹いた。ドボーン!と音がした。何だろうと思って、音のした方を見ると、若い西洋の女性の顔が見え隠れしている。
 「HELP!」
大声が聞こえた。外人なのか?と思った真一郎は、急いで近くに駆け寄った。そして、
 「大丈夫ですか?アーユーOK?これにつかまって!」
 急いで真一郎は、右腕を伸ばすと、その女性は、すかさず彼の腕につかまった。真一郎に引かれながら、女は言った。
 「ああ、ありがとう。タスカリマシタ。」
 「いえ、どういたしまして。」
 「私、どういうお礼したら、いいでしょ?」
 「いえ、お礼なんて。いいですよ。」
 「そういうわけには、いかなーいですけど、そうですか。私何か買って来ます。ここで待ってて下さい。」
 眼の青い白人女性は、その場から全身をびっしょりと濡らせたまま、巨乳を揺らせて、小走りに立ち去った。真一郎は、
 「やれやれ、おれも少し濡れてしまった。」
 と呟くと、土手の上でショルダーバッグから画材を取り出した。湖は大きく広がり、まるで大海のようだ。さて、どう描こうかと筆を構えると、真一郎は湖を描くのに迷った。遠くには舟に乗った人々が見える。あれを描けば・・・あれは!二人とも小船の上に立って、男が女の後ろから立ったまま、勃起したモノを入れて腰を前後に振っている。
と、その時、後ろで声がした。
 「おう、あなた、絵を描いているのですね!」
真一郎が振り向くと、さっきの外人女性が白い細い手に缶ジュースを持って立っていた。
 「いや、全然うまく描けないんですよ・・・。」
と、真一郎が、あの子船を見ないようにして、心細そうな声を出すと、
 「そうですか。まあ、これでも飲んで、元気出して。」
外人女性は、買ってきたジュースを真一郎に手渡した。そして、自信タップリに言った。
 「わたしが、うまくなるように、してあげましょう。」
 外人女性は、謎めいて微笑んだ。真一郎は、
 「あなた、絵のプロの方か、何かですか・・・。」
 「いえ、そうではありませんけど・・・ちょっと筆を、かしてください。」
 「どうぞ。」
 真一郎は、その女性に絵筆を渡した。それを受け取ると、その女性は、筆を眼の高さまで上げた。そして、それを不思議な眼で見つめながら、
 「バリスー・リウス・・・。」
と、彼には分からない呪文のような言葉を唱えた。そして、周りを見回すと、誰もいないので、真一郎に近づくと、抱き着いてキスをした。彼女は生暖かい舌を真一郎の唇の中に入れ、彼の舌と、自分の舌をネットリと絡ませ、巨乳を真一郎の胸部に押しつけた。彼女の硬くなった乳首が真一郎に感じられて、かれも直ぐに勃起した。
そのペニスは美人のその西洋女性の濡れたスカートの股間のところにピッタリと当たり、そこが彼女の割れ目の上のあたりで、クリトリスが既に隆起していて、真一郎の鬼頭を愛撫するように纏わりつく。彼女は自分で濡れたスカートをたくし上げて、白い細いショーツ、昔の名称はパンティを右手で膝よりも下に降ろすと、右足を抜き出して、真一郎のズボンのベルトを外し、かれのズボンとパンツを驚くべき速さで彼の膝下まで下げ、股を広げて彼女のピンクの縦長の穴の中に真一郎の肉欲の剛棒を迎え入れていく。
「ハ、アンッ。イイッ、あなたの立ってるちんぽ、いいっ。ううん、イイッ。」
彼女は右手に絵筆を持ち、それの筆先を濡れてピッタリと彼女の肌に、くっついた洋服の上からでもわかる自分の硬く尖っている乳首に当てて、快感を楽しむように、なぞり回した。
真一郎のモノはタコに吸い付かれたような吸引力で、西洋の美若魔女のマンコにクイ、クイ、クイ、と締め付けられるのを感じて、今まで、やった風俗の女とはまるで違ったものを感じ、均整が取れて巨乳で巨尻の美若魔女は、そのマンコも形が可愛らしく、真一郎のモノを咥えて放そうとしない。湖岸より下の木陰でのセックスは初めてだったし、西洋美女との立ったままのマンコも初めてで、湖上の男女も結合しているだろうし、おれも白肌の花の高い美女に抱かれ、美マンコに包まれて、それは何ともいいようのない快感を真一郎の脳内に送り込み、彼女は又、唇を少し開けて舌を出しながら、真一郎の唇に彼女の唇を強く密着させると同時に美巨尻を激しく振った。その電光のような快感に真一郎は西洋の白い美魔女のマンコの中に大容量の精液を今までにない位、強く発射した。
「アッ、ア、ウーーンッ。腰が、とろけそうよっ、ワッタシノ、オマンコ、耐えられなく、いいわーっ。」
と声を抑えて絶叫した。彼女の絵筆を持った右手は少し震えていたが、二人でまだ立って結合したまま、
 「はい、これでいいです。これを使うと、あなた有名になります。あ、はん。あなたのモノ、小さくなるのねー。でも、そのチンポの感触も、いいっ。」
 彼女は自分の乳首のあたりを、もう一度、その絵筆で、なぞってから、それを真一郎に渡すと、ニヤッと色っぽく笑った。それは、そうだ、まだ真一郎の小さくなったチンコは美若魔女のマンコの中だから。
 「そうですか。そうなると、いいんだけど・・・気持ちいいー。」
 そう答えて、真一郎は、苦笑した。その女性は、歳は二十代に見えた。美人コンテストに出てくるような、顔が、それより神秘的な女性だ。真一郎が小さいチンコを抜き取ると、彼女は名残り惜し気に、
 「それでは、頑張って下さいね。さよなら。と言いたいですが。」
と、下を向いて下着をマンコの方に上げて元に戻し、彼女は真一郎に近づくと、
「もちろん、これだけでは、大した事は、ないです。もし、本当に有名になって、お金がたくさん欲しいのなら、ここではなく他の場所で、というよりワタシノ家で他の、儀式してあげるよ。見たところ、とても困っているようですけど、それに、あなたには・・素質ある。」
「何の素質ですか。絵の方?」
「うん、そうだけど、でもあなた一人の力は大した事ないよ。それで他の力は必要。」
「他の力?」
「そうそう、霊の力ね、それと、わたしのマンコ。どう、どちらも興味ある?」
「ええ、まあ・・・あります。あなたのマンコの方に、より多く。」
といっても、真一郎はオカルト的な事に興味はなかった。でも、その女性は、にやっとすると、
「じゃ、私に電話してね。それと、住所の名刺」
と話すと、湖水で濡れた服の中から、プラスティックの名刺を真一郎に渡した。それから、
「あなたとチンコ、待ってるよ。」
と笑顔で、くるりとまっすぐで、腰のあたりは大きくクビレた背仲を向けて彼女は、真一郎から離れていった。
真一郎は、
 (何だか、知らないが・・・)と思いながら、外人女性が性の魔術で扱った絵筆をびっくりとして見て、(これは、今日は、もう、使わないんだがなあ・・・)
 その性魔術の筆は、道具箱の中にしまい、もう片方の手にある名刺は胸のポケットにしまった。(あんな事を言っていたけど、こんなもので有名になるなんて、あーあ、映画やTVじゃあるまいし・・・)と思いながら、真一郎は、持ってきたイーゼルを立てた。さっき、遠くに見えたボートが一隻、彼の方に近づいて来た。(や、あれを描いてみるか)と思って彼は、筆を構えた。すると、ボートに乗っていた人影が立ち上がった。向こうも両手に何かを持って、構えている。若い女性だ。
 「撮ったわよ!田宮さん!」
 と、声が聞こえた。ボートに乗っていたのは、白山可奈だったのだ。彼女のボートは、真一郎の近くまで来た。そこから、彼女は、
 「あなたは芸術家だって思っていましたけど、画家だったんですね。」
 と叫ぶと、ボートの上に立ったまま微笑んだ。
 「いや、画家なんて言われるようなものじゃないよ。」
 と、真一郎は、つまらなさそうな態度を取った。加奈は、
 「でも、こんな処で、お会いするなんて不思議ですよね。」
 「そうかなあ。ぼくは偶然だと思うよ。」
 「よかったら、あたしを描いて下さいませんか?」
 「君を?そうだな、この前、写真を撮ってもらったし、じゃあ一枚描いてみようか。どうなるかな。」
 と応じると、真一郎は、あの性魔術の絵筆を取った。それを使う事で十分後、彼女の湖上の絵は素晴らしく出来上がった。実は、真一郎は、それを、いい加減に描いたのである。
 「はい、出来たよ。ほら、こんなものかな。」
 真一郎は、間近に見に来ている可奈に声をかけた。彼女は、
 「え、もう?そんなに早く、できたのですか。それでは、わたしに見せて下さい。」
 と嬉しそうに言うと、ボートを岸につけて、彼のところへ走って来た。そして、
「まあ、すごく、うまいわ。とても、うまいです。でも、あたし、こんなに綺麗じゃないと思うけどな。」
 「いや、これで、いいと思うよ。とっても君に、似ているのさ。」
 と、彼が説明すると、可奈は低い声で笑った。それから加奈は真一郎を見つめて、
「これから、いつまで、ここで、絵を描くのですか?」
「それは、わからないな。気が済むまで、だろう。」
「あたし、終わるまで待っていても、いいかしら?いいわよ、ね。」
「え、夜になるかもしれないぜ。真っ暗な夜に。」
「いいのよ、構わないわ。深夜になっても。カラスが見えなくなっても。」
というと、加奈は、その場にすらりと尻を地面について、座り込んだ。
彼女の返答を聞いた、真一郎は、(しょうがないな、この女、あの湖上のボートの上の男女は立ったままセックスしていたけど、女は、この女性じゃないのか、)とも思った。それから魔法の筆で三十分位、彼は湖周辺の絵を描いていたが、
「もう、今日はやめだ。終わりにするよ。」
と魔法の筆を措いた。加奈は、
 「あら、もう、こんなに早く帰るのですか?」
 「うん。そうだねー。帰りますよ。カエルが、この辺にいなくても、帰る。」
 というと、彼は、ソソクサと帰り支度を始めた。加奈は尻を揺らせて立ち上がって、
 「じゃあ、あたし、この、ボートを返してこなくっちゃ、いけませんよね。」
 と呟くように言うと、びっこを引きながら湖上の貸しボートの処へ戻った。彼女は尻を見せたが、振り返ると
 「ここで、待っていて、くれますか?」
と彼女は大声で聞いてきた。だが、真一郎は首を横に振って、
 「いや、お先に失礼するよ。さようなら、だね。」
 と即答すると、画材を入れたショルダーバッグをよいしょ、と肩にかけた。
 「そうなのですね。あたし、残念ですわ。」
と聞こえる可奈の声を背中に聞きながら、真一郎は土手を登った。
 登り切って振り向くと、可奈とボートはまだ同じ処にある。彼女と視線が合いそうになるのを避けると、彼は土手を降りた。そして、(あの女と、ここで会うなんて、思わなかったな。しかし、湖上で立ちバックしていた男の姿がボートには見えなかった。他にも湖にボートは出ていたのかもな。)
又、彼は、駅への道をトホトホと徒歩で歩きながら思う。(あの女に写真を撮られたけど、又、おれのアパートに、自分で持ってくるんだろうな・・・まあ、いいか。湖で絵を描いてあげたし・・・今度は、彼女とセックスできるかも。アパートの部屋の中で立ちバックだ。?あのボートに乗せてもらって、おれも立ちバックセックスすればよかったのに、しまった。)
 お見合い
 太陽は、まだ落ちていない夕暮れ時、食堂に座った白山吾郎は娘に優しく話しかけた。
「可奈。あのな、いい話があるんだよ。明日、ある人と会ってみないかね?」
三十畳はあろうか、という広い豪華な食堂である。中世ヨーロッパの貴族のものを思わせるものだ。
父の話を可奈は大きく眼を開けて聞いた。
 「お見合いなのね?あたし、お見合いは、もういい。」
 「いや、そうじゃないけど、レストランで昼にちょっとな。会うだけだよ。」
 「ふうん、それならいいわよ。ダディ。」
 「おや、なんだか乗り気じゃないみたいだな。」
 「そうでもないけどね・・・ね、ちょっと見せたいものがあるのよ。」
 そういうと、可奈は豪華な椅子から立ち上がった。白山吾郎は、
 「ほう、何をだね?」
 「今、持ってくるわね。ちょっと待っててよー。」
と言い残して、彼女は、広いダイニングを出て行った。
吾郎は、給仕をしている若いセクシーな女性に聞いた。
「何なのかな?娘が見せたいものって。」
「さて、なんでございましょうか?わかりませんわ、わたくしには。」
「そりゃ、そうだな。君は知らなくても、いいし。」
と吾郎が、うなずいた時、可奈が何かを手にして入って来た。
「これよ、見てね!お父さん。はいっ。」
可奈は、手に持っているものを父に渡した。
「ほう、どれどれ。なんだい、これは。」
彼は、それを受け取ると、
「何だ、これは絵だね・・・可奈ということは、わかるが、それにしても下手クソな絵だな。」心の中で(これはっ、凄い絵だ。可奈もまた、股までセクシーに描かれて。色っぽいのなんのと、いやあ、素晴らしいっ、)
と答えると、吾郎は、その絵をツッケンドンと娘に返した。加奈は小さく口を尖らせて、
「そんなこと、ないわ、よく描けてるじゃないの。とても芸術的だわ。これはね、ある人に描いてもらったのよ。」
それから可奈は豪華な椅子にとん、と座った。吾郎は、訝しげに聞いた。
「誰だね?そのある人っていうのは。」
「それはね、街で知り合った人なのよ。若手の画家なのよ。すごいでしょ。」
「そうか。それはよかったな。男性か?」
「そうよ。男性です。」
「おまえ、その人を好きになったのか?」
「いいえ。だって、彼は私に興味ないみたいだけど。」
吾郎は、ニヤッと笑って、(安心した。絵などに興味を持ってもらいたくない)
「そうか、そうだね。さあさあ、食事に、しようじゃないか。」
「ええ。そうね。そうするう。」
二人は、キラキラ光る銀のフォークとナイフを手に取ると、豪華なディナーを食べ始めた。
翌日。東京都町田市の朝は、いつものようにやってきた。
吾郎は、いつもの超高級車で外出した。可奈は遅れて朝食を済ますと、自邸を出て行った。昼の十二時に、さる超高級レストランに予約が入れてあるらしい。
それまでに、そこへ行けばいいから。白山可奈は、新たな被写体を求めて街へ出ている。だけど・・・。今日も又、原山町へ行ってみよう。
真一郎と初めて出会った場所へ。と、彼女は心の中でそう言っていた。
原山の駅前でタクシーを降りると、人影はまばらだった。彼女は、真一郎がいた道に入った。今日も彼に会えるかな?
ふと眼を横に向けると、画家のような青年がいる。(真一郎さん!)そう思った彼女は、その青年に駆け寄った。
その青年が顔を向けると、それは全く別人の顔だった。(何だ・・・)可奈は、軽く右足をひきずりながら、そこを通り過ぎた。
何処を歩いても今日は真一郎は、いない。(今日は、いないのね)諦めた彼女は、JR原山駅に入りホームに上がった。
周りの視線を強く感じる。自分の足のせいだと思う。いつもの事で気にしない事ではあるが。実は、彼女の美貌も注目の的なのだけども。
加奈は、すぐに顔を見せた電車に乗った。ドアが閉まっても彼女は座らずに、立って外を見ていた。ホームの人の顔が流れていくその中に、一人の女性の姿が彼女の眼に停まった。
若い魅力的な肉感的な、白い外国人女性・・・何か異彩を放っている人だ。(あ、写真に撮らなきゃ!)と加奈が電光のように思った時、眼の前に田宮真一郎の顔が現れて、流れて行った。
バッグの中のカメラに、可奈が手を触れた時、その二人の姿は、もう、見えなくなってしまった。
 
少し前、JR原山駅のホームを歩いている、真一郎の耳に突然、外国訛りの声がした。
「お早う、ございまーす。魔法の筆と、あなたの筆は元気ですか。」
素っ頓狂な声がした横を見ると、彼にぴったりの距離に、この前の美人外人女性が立っていた。真一郎は、
「ああ、どうも、こんにちわ。お元気そうですね。」
「ええ、あなたのおかげですよ。どう?絵はうまくなりましたか?」
「いえ全然、変わりないですけども。」
「そう?そうですか。あなた、まだ、ほら、あの筆を使っていませんね。」
「あの筆ですか?」
「そう、この前、わたしが祝福してあげた性魔術の筆です。一種のセックス・マジックを、たーっぷり、かけた筆です。」
「そんな、本当ですか。でもセックス・マジックなんて・・・」
真一郎が顔を赤らめると同時に、胡散臭そうな顔をすると、
「いいえ、とにかく、あれを使って下さいよ。特に若い女性を描く時にいいんですよ。今、あなた、誰か女の人、描いています?」
「いや、特に・・・描いていないです。」
「そうですか、残念。まあ、そういう時があったら、ね、使うのよ、性魔術のあの筆を。」
そういって、その外人女性は、右目でウインクした。真一郎が、
 「それでは、あなたは、もしかしたら、魔女・・・」
と言いかけた眼の前から、その女性は、ふいに消えていた。周囲を見渡したが、美人魔女は、もう何処にも見えなかった。もっとも、そのあたりに割と人が多くなってきていたせいもあった。真一郎は、(若い女を描く時に性魔術の筆、ねえ・・・)そう思って眼を斜め前にやると、こっちに歩いて来る若い女性に、あ、と気がついた。
(あれは!白山可奈・・・?だったな。)だが、しかし・・・。その歩き方は実に、まともなものなのだ。スイスイと滑るようにこっちへ、やって来る。そうか、彼女、足が治ったんだろうか?あれは現代医学の勝利だな。とするうち、すぐ近くに彼女が来たので、
 「お早う、白山さん。お久しぶりに、お会いしますね。」
と、張り切って声をかけてみた。しかし、彼女はムッと黙って通り過ぎて行く。なんだ、人違いか?でも、こんなに似た人間が、いるものか・・・。
 「ちょっと!ちょっと待って下さい!白山さん。」
 真一郎は、その女を追って、タタタッと駆け出した。そして、すぐに追いつくと、
 「あの、初めまして、ぼく、絵を描いているんです。モデルになってもらえませんか?」
と声を元気よく、かけた。その女は立ち止ると、真一郎をジロッと見た。そして、
 「失礼だけど、いくら出してもらえるの、そのモデルの件で?」
と、真一郎を見下すように聞いた。
 「いくらって、その・・・、それは、まだ・・・決められませんが。」
 「あたし、プロのモデルなのよ。だからね、わたし、お金なしじゃ、動かないわ、そんなものには。」
と冷たく彼女は答えを投げると、又、歩き出そうとした。
 「待って下さい、よ。あなた、白山可奈と言う人を知っているでしょう?」
 と、真一郎は聞いた。
 「白山可奈ですって?知らないわ、そんな人。あたしの名前は水川マキよ。あんた、知ってる?わたしの名前。」
 「いえ、知りません全然。あっ・・・ちょっと、いや、ちょっとじゃなくて、たくさん待って!!」
 真一郎は、必死で彼女を引き止めようと思ったが、その女は素早く走って行ってしまった。
 
白山可奈が超高級レストランに、定刻より十分早く着くと、そこには父と一人の青年が、悠々と座って待っていた。
白山吾郎は、可奈に目の前の席を目線で示すと、
 「おう、早かったじゃないか、可奈。まあ、そこに座れよ。」
その青年は、ぬっくと立ち上がって、一礼した。そして、
 「わたくし、佐山と申します。初めまして。」
と歯切れよく自己紹介したので、彼女は、
 「あ、わたし、白山可奈です。初めまして、こちらこそ、どうぞ。」
 と挨拶すると、軽く黒髪の頭を下げた。吾郎は、
 「まあ、まあ、可奈、座りなさい。」
 可奈は、二人が座る席の前に、ゆっくりと座った。吾郎は、
 「彼が、今、自己紹介するよ。さあ、佐山君、自己紹介しようかい。」
 とニコニコと促した。青年は姿勢を正して、話し始めた。
 「わたくし、コンピューターの方を専門に、やっております。佐山志郎です。入社して、まだ間もないのですが、これから一生懸命、頑張らせてもらいます。」
 その青年の眼は、らんらんと輝いている。可奈が静かに黙っているので、吾郎は、
 「どうしたんだ、可奈?お前も、さあ、自己紹介をしなさい。」
 と話すと、少し不服そうな顔をした。可奈は、
 「はい。私、写真の方を少しやっています・・・白山可奈と言います。」
 「え、写真ですか。ぼくも写真には、とても興味がありますよ。」
 佐山は、にんやりと微笑んだ。吾郎は、うむうむ、と、うなずくと、
 「おう、そうかね。そいつは、よかったじゃないか、可奈。今度、何処かに、だなー、この佐山君と一緒に、写真を撮りに行ったら、どうだね?」
 「ええ、そうですね・・・。」
 「佐山君は、どうだ、どうだね?」
 「ええ、はい、喜んで、わたくし、お供いたします。」
 佐山は、にんまりと嬉しそうにする。その時、三人のテーブルに、とっても豪勢な料理が運ばれて来た。吾郎は、
 「まあ、まあ、まずは、食事にしようじゃないか。」
と眼を、とても細めた。それから三人は、シーンと無言で食事をした。アフターコーヒーを飲んでから、吾郎は、
 「おっと、もう時間がないな。こんな時間だって、どんな時間かって、ところだけどな」
とモソモソと呟くと、シャンっと立ち上がった。可奈と佐山も、それに続いて立ち上がる。外に出ると、吾郎と佐山は待っていたタクシーに乗った。
 車内で手を挙げた吾郎の姿が、見る見る、見なくても遠ざかっていく。可奈は、一人で歩き出した。ここは若者の街、吉祥寺だが通り過ぎる誰にも、可奈は興味を感じないのだ。その時、向こうから若い白い外人女性が歩いて来た。
 
尻の穴を
 
(これは!あの人。)JR原山駅のホームに見たあの白人外人女性だ。
(あら、しまったわ!今、わたし、カメラを持ってないのに・・・出たのね、白人さん。)
見合いの席にカメラを持っていける訳もないだろう。どうしようもない思いで可奈が立っていると、
 「これは、これは、おー。お嬢さん、いいタイミングでした。すみませんが、あのお寺を、バックにして、あなた、シャッターを押してくれませんか?」
と、その若い外人白人女性の方からニコヤカに可奈に話しかけてきたのだ。20代に見える白人美人女性で、手には高価そうなカメラを持って、それを可奈の方に、はい、どうぞ、と差し出している。
 「え、ええ、喜んで、わたし。今から撮らせていただきます。」
 可奈は、嬉しそうに、そのカメラを受け取ると、ファインダーをじっと覗いた。その女性の背景には古い寺が見える。観光のために日本に来たらしい外国人女性らしく見える。前に見た時の、あの不思議な感じは何処にも、なかった。それで、(この前は、どうして、あんな風に不思議に見えたのかしらね?)と思っていると、
 「お嬢さん!おじょーさん、もう、撮っても、とっても、いいんじゃありませんか?そして、写真の出来栄えは、とってもいい、にしましょう。」
 「はい、それでは、いきますー。ニッコリと笑って!はい、チーズとパン。あれ?パンは、いらないか。」
 カシャーッ、とカメラのシャッターが機械音を立てる。キチンと美白人女性の図柄は、綺麗に背景に、おさまっただろうか?可奈が、じっとカメラを持っていると、美若の外人女性が近づいて来た。そして、にこにこして、こう言った。
 「そのカメラ、ポラロイドですから、すぐ、できまーす。」
 「えっ! ?本当に、みたいですね。」
 ジーッと突如のように音がして、カメラから現像された写真が出て来た。美外人女性は可奈から自分のカメラを受け取ると、
 「さて、出来ました、よ。一体、どんなものに、なったですかね、たのしみ。」
と話すと、綺麗に現像された写真をカメラから抜いた。そして、
 「いや、まあ、何とも、これはユニークですね。お嬢さん。」
 と話して、美外人女性は楽しそうに微笑むと、可奈に、その、できた写真を手渡した。それを手に取って見た可奈は、
 (しまったなあ・・・もう、失敗!!)と思わず思って、それを考えた。その写真は、何と下の方に美外人女性の顔だけが小さく写り、その後ろ中心に大きく寺が入り、その上は、青い空が大きく場を占めている。加奈は、頭を下げて、
 「どうも、すみませんでした。こんな、つまらないものを撮ってしまって。どうも、ごめんなさい。」
と急いで謝ると、その美外人女性は、白い手を左右に大きく振って、
 「いえいえ、どうもありがとうね。わたっしの国に持って帰って、とても大事にしますよ。あなたのようにね、チャーミングな人には、日本で初めて会いました、わたし。わたっしに記念に写真を一枚、あなたを撮らせて下さい。」
と、なごやかに提案した。
 「ええ、い、いいですわ。どうぞ、なんでも、お願いします。」
 「それじゃ、あなたも同じ処で撮りましょう、ね。さっき、私がいた処に今から行って下さい。」
可奈は、右足を引きずりながら、そこへ行く。美外国人女性は、微笑むと、
 「じゃあ、じゃあ、撮りますよー。はい、スライスチーズ。」
 可奈は、それを聞いて、思わず笑った。心地よく撮影されて、それから可奈は、美外人女性の処へ近づいて行った。美白人女性は、出て来たポラロイド写真を取ると、可奈に優しく手渡して、
 「どう?どうですか?これは、写真は、出来栄えは。」
 「ええ、ほんとに、とてもよく撮れてるのですね。何だか、かんだか、私じゃない、みたいです。」
 出来たその写真は、遠近感、構図とも、申し分のないものだった。美白人女性は、にっこりして、
 「では、これは、どうぞ、あなたに差し上げますよ。」
 「うわあ、とっても、ありがとうございます。わたし、大事にしますわ、記念に取っておきますから、いつまでも。」
 「アリガトウ。お嬢さん、でもー、アナタノ、お名前はナント、イイマスカ?」
 「私、白山可奈と、と、いいますの。」
 「私は、シャンメル・フォンフォンと、いいます。どうですかー、今から、私の家に来ませんか、よかったらネ。」
 「ええ、よろしかったら、わたし、ご一緒に行きたいですわ。」
 「それじゃあ、行きましょうね。ご一緒に。」
 シャンメル・フォンフォンは、可奈を見て又、ニッコリした。二人は、それから吉祥寺の駅へ歩いて行った。可奈は、雲のような疑問を聞いた。
 「あなたの、おうちって、ここから、とても遠いところなのですか?」
すると、シャンメルは、美肩をすくめて、
 「いえいえ、二つか三つ先ですよ。東小金井の田舎に、ありますですよ。」
電車の切符はシャンメルが二枚、買ってきた。二人が吉祥寺のホームに出ると、すぐに電車が走って来た。シャンメルは、
 「さあ、乗りましょうか。わたしたち、行くのでーす。」
 と誘われて、可奈も駆けて来た電車に乗った。電車が、いつものように走り出すと、窓の外は次第に夢見るような田園風景に変わっていった。電車が三つ目の駅で停まると、シャンメルは可奈に突然、言った。
 「ここですよ、もう、着いた。さあ、降りましょう。」
 二人が電車を降りると、東小金井駅のホームは、いい花の香りがした。可奈は、
 「とても、いいところですね、この辺は。」
 「そうねー。でも、少し不便ですねー。いなか、ですねー。」
シャンメルは困ったという、ゼスチュアをした。それから、二十分も歩いただろうか。大きな家が立ち並ぶところに、二人は来た。その中に周りの大きな家より、少し大きな洋館が見えた。シャンメルは、
 「あれですよ。あれが、わたしのウチですよ。」
 と、その宏大な洋館を、白い指で指差して言った。茶色のレンガの家だ。青銅の鉄門の中に入ると、家よりも、その中庭の方が広かった。シャンメルは、
 「どうして、日本の家は、庭の方が狭いんでしょうねえ。だから、ウサギ小屋?」
 と言ってニヤッと笑った。その訳は、知っているみたいだが。シャンメルは玄関のカギを開け、靴のまま二人は中に入った。シャンメルは、
 「私は靴を脱ぐのが面倒臭くて。ここでは、その必要は、ありません。」
 と説明しながら両手を拡げた。日本の習慣に慣れていないということであるが、あちらでは、靴のままが一般的な風習である。玄関を入って、すぐ右の部屋が応接ルームだった。シャンメルは、
 「そこに座って、待っててね。今に、いいもの、持ってくるから。」
 と、応接部屋にある黒いソファを指して、出て行った。何という鳥なのだろう、多分、ダチョウの剥製が壁際に置いてあった。白い壁に古いランプも掛かっている。中世ヨーロッパ、そういう感じに可奈は、もんわりと包まれた。もっとも、可奈の広壮な屋敷も中世ヨーロッパ風とはいえ、そこには日本的なものも残っているのだが、ここは美外国人女性の持ち物だから、日本的なものは、何もなかった。やがて、シャンメルが閉まっていたドアを開けた。そして、
 「お待たせー、しましたー。」
 と軽く言うと、両手に高級紅茶と高級お菓子の乗った盆を持っていた。それをテーブルに置くと、
 「さあ、どうぞ、どうぞー。さあ、召し上がれ。これ、おいしいよー。」
 「それでは、少しも遠慮なく、いただきます。」
 可奈は小皿のクッキーを、つまんで、美しい口の中に入れた。ああ、ヨーロッパの味と香りだ。シャンメルが、真に同情に堪えない顔で話した。
 「お嬢さんは、とてもチャーミングなのに、でも、足が悪いのね。」
 「ええ、いいんです、それ。もう、生まれた時からだから、あきらめているんです。わたし、別に困りもしないから、何ともありません。」
 「そおう、かしら?あなた、まだ、独身でしょ?」
 「そうですけど、わたし。それが何か、どうして、いけませんの。」
 「いえいえ、その足じゃ、難しいんじゃないかなって、わたし、思って、ね。あなたが結婚するのは。」
 「わたし、結婚しなくても、生きていけますわよ。現代って、男女、雇用均等なんですから。」
 「そりゃ、そうだけどさ、他にも色々ね、困るでしょ、あなた。でも、あなた、安心してよ。私が、その足を治してあげるから。」
 「えっ! は?治すって、もしかして、あなたは、お医者さんなのですか。」
 可奈はシャンメルの顔を、まじまじ、まじまじ、と見つめた。シャンメルは、とても気楽な顔をしている。可奈は、
 「やっぱり、シャンメルさんは、お医者さんだったんですか、しら?」
 「そうねえ、別にわたし医療を職業にしていないけど、人は治せるのよ。まあ、何でもって訳には、それは、いかないけどね。」
 「それは・・・現代のお医者さんも、専門が色々あって、ですか・・・それは、治せる分野も治せない分野も、あると思います。」
 「私はね、わたしが治したい人しか、治さないのよ。勝手なようだけどね。」
 それから、シャンメルは自分で、うなずいて見せた。可奈は、
 「でも、治すって、どういう方法で、ですか?私、たくさんのお医者さんに見てもらったわ。超一流の人達ばかりにです。でも、治りませんでした、私の右足は不治なのだと思うの。」
 「そんな、やり方じゃないのよ。ところでさ、あんた、代償を払う事は、できる?」
 「え?代償って、どんなものを、ですか?」
 「それはね、恥じらいを捨ててもらわなきゃ、駄目なのよ。」
 「恥じらい?あたし、恥知らず、じゃないんですけども。」
 「そう。それは、そうね。でも、あなた、まだ、処女でしょ?何となく、わたし、そんな気がしてね。」
 「ええ。それは仰るとおりだわ。あたし、まだ、男性の方と、お付き合いした事もないのです。」
 可奈は、少し顔を赤らめると、うつむいた。シャンメルは励ますように、
 「でもね、処女を捨てるって事じゃないのよ。それは、これから、あなたの彼氏がしてくれる事だからね。そうじゃなくて、アヌスを貸すのよ。」
 「アヌス?なんですか、それは。もしかして、膣の事ですか、何語なのかしら。」
 「そう、あなた知らないのね。ふふふ、それは、お尻の穴ね。あなたの、お尻の門よ。」
 「えっ、きゃー、お尻の穴?ですか。でも、一体、誰に貸すんですか?」
 「それは、これから分かるわよ。どう?やって見る?難しい事じゃないのよ。考えるより、実行ね。」
 「でも、あたし、そんな事、した事ないからなあ・・・。できるかしら。何だか、怖いな、とっても。」
 「大抵の人は、そうね。でも、それをしないと、あなたの足は治らないわよ。いつまでも。」
 「ええー、信じられない気がします。そんな事で治るなんて。それでは、医学って何なのでしょう。」
 「そうでしょうね、それはね。いいわ、見ていて。これから、不思議なものを見せるわね。」
 シャンメルは、立ち上がると、ダチョウの剥製の方を向いた。そして、何か呪文のようなものを唱えると、手招きするような手振りをした。すると、どうだろう!ダチョウの剥製が歩いたのだ。一歩、二歩、三歩、ゆっくりと。
 「とまれ!」
 シャンメルは、剥製に性急に命令した。そのとたんに、ダチョウはピタと停まった。可奈は、
 「! ?・・・何ですか?これは。何か、ダチョウに仕かけでもあるんですか?」
と、驚いて叫んだ。彼女は全く、度肝を抜かれたようだ。シャンメルは、
 「これは、魔術よ。ダチョウは、ただの剥製です。剥製は、歩かないわよねー。」
 「・・・・・・。」
 「見た通りよ。私は魔術によって、あなたの足を治してあげるわ。」
 「それは、どんな魔術ですか?あたし、どきどき、してきたわ。」
 「それは、これから、あなた、わかる。どう?あなた、やる?やるわよねー、あなた。」
 可奈は、ためらった様子を、しばらく見せていたが、テーブルを挟んだシャンメルの美顔を見て、
 「ええ、やってみますわ。あたし、それ。」
と固い決意を表した。シャンメルは満足げに、うなずいて、
 「よろしい。それでは、魔術を始めましょう。」
 と高らかに宣言すると、彼女は、ツツツ、と、部屋の入り口のところまで行った。そして、手招きして、
「さあ、おいで。あちらの、魔術の部屋へ。」
 魔術儀式で
  それから、二人は長い廊下を歩くと、別の部屋へ入った。そこは、キリスト教の礼拝堂のように見えるが、十字架を背負ったキリスト像は、ない。シャンメルは、部屋の中央にある祭壇に向かうと、立ててある二本の蝋燭に静かに火をつけた。
次に、お香のようなものを、手につまむと、置いてある儀式の受け皿に入れて、変わったライターで火をつけた。とてもいい香りが、部屋にフワフワと漂う。シャンメルは、可奈の方を厳かに振り返った。その顔は、今までとは違った、とても神秘的な顔だ。そして、シャンメルは厳かに言った。
「これから、マルバス様の力を借ります。貴女の脚は、マルバス様が、治してくださるのです。」
シャンメルに、おいで、と手招きされて、可奈は祭壇に恐る恐る、近寄った。シャンメルは両手を合わせると、
「おお、偉大なるマルバス様。どうか、彼女の不自由な右足を治してください。」
と請い願って、深々と美黒髪の頭を下げた。可奈も思わず、同じように頭を下げてしまったのだ。その時、不気味な祭壇の蝋燭の炎が上方に、三十センチ位も伸びたように見えた。可奈は、
「!!!!!!!!!」
と、声にならない声を上げてしまった。シャンメルは確信的に、
「マルバス様は、私の願いを、こころよく聞き入れてくださいました。これから、裏の小屋で、その儀式を行います。さあ、わたしに、ついてきて。」
 先に優雅に歩き始めたシャンメルに、可奈は、トコトコとついていく。その祭壇室を出て、再び長い廊下を歩き、勝手口のようなところから、広い裏庭に出た。緑の大樹が庭を取り囲むように豊かに、おい茂っている。外からは、ここはまず、見えないだろう。その庭の真中に小屋があった。それは、山小屋ともいえるものだった。シャンメルは、
 「ここですよ。ここで治るのですよ、貴女の足は。」
 と、優しく話すと、その小屋のピカピカ光るドアノブをグイと握った。
彼女の後に入った可奈は、そこに色々な動物が、いるのを見た。猫や烏、鶏など。その中に一匹の大きな山羊が、いた。可奈は感嘆したように、
 「ずい分と色々、様々な動物を飼っていらっしゃるんですねえ。」
 「まあね。日本じゃ、あまり多くは飼えないけどね。」
 「今流行の、アニマルヒーリングとか、なんですか?」
 「そう言えば、そうかもね。うん、使い方は色々よ。」
 「ふーん、興味深いなあ、と、わたし思いますわ。」
 シャンメルはフフフと笑うと、いきなり、山羊に向かって来るように手招きした。すると、どうだろう、その山羊はダチョウの剥製みたいに、こっちへ、ゆっくりと、やって来るのだ。
 「よし、そこで。とまりなさい。」
 彼女は、山羊を身振りでも制止して、その山羊の動きを止めた。それから、おもむろに可奈の方を向くと、
 「あなた、ここで服を脱ぐのよ。」
と厳かに命じた。
 「えっ!服を脱ぐの!?ここで、ですか。」
 「そうです。それからでないと、儀式は始められませんからね。」
 「・・・・・・。だって・・・。」
 「誰にも見られる訳じゃありませんよ。私だけ、ですからね。私は女ですから。安心して脱ぐ。」
 可奈はシャンメルの顔を見ると、うなずいて上着のボタンに手をかけた。シャツとスカートを脱ぐと、白いブラジャーとパンティだけになった。
 「さあ、それも脱ぎなさい。早く、降ろしてしまいなさい。」
 シャンメルは、白い顎を、威丈高に、しゃっくった。可奈は、しぶしぶ白いブラジャーを外していった。小ぶりだが形の良い彼女の乳房が現れてくる。ピンクの乳首が見える。それから彼女は、白いパンティに手をかけるとスーッと下に降ろしていった。それほど濃くないデルタだった。
 「それで、よろしい。とても綺麗な体ですね、やはり。」
 シャンメルは、満足げに、うなずいた。可奈は女同士という事からか、二つの秘所を隠しもしないでいる。シャンメルは大山羊にススと歩み寄ると、山羊の股間に、彼女の手を伸ばした。その手は、すでに山羊の巨大なペニスをグっと掴んでいる。やがて、その手は左右に激しく動き始めた。
 「・・・・・・?」
 可奈は、そのシャンメルの手の動きを、じっと見つめている。
 「よし、これで、よし。おー、いい子ちゃん、山羊ちゃん。」
 シャンメルは、手を山羊のペニスから外すと、立ち上がった。
 「さあ、あなた、この山羊のペニスを見て下さい。」
 シャンメルは、可奈に手で、その場所を教えた。
 「まっ!あっ・・・・・・」
 可奈は、すぐに絶句した。巨大な山羊のペニスが、そこにあったからだ。黒々と、それは、いきり立っている。
 「これを、あなたのアヌスに捧げるのです。覚悟は決めていますね?!」
 「でも、・・でも、こんなものを・・・・・・私の・・・お尻の穴に入れるなんて、それは・・・!」
 「なに、大丈夫ですよ。何とも、ないです。あなたは、大便は、しますでしょう?」
 「え、ええ・・・・・・。」
 「ではね、その時の感じを思ってもらえば、いいのですよ。それは、そう長くは、ありませんから。」
 「でも、だって、山羊の・・・・・・ちんぽ、いえ、ペニスなんて、ねえ。」
 「あなたは、その足を治したいとは思わないのですか?」
 「それは、ぜひ、治したいと思いますけど・・・。」
 「じゃあ、すぐ四つん這いになってね。」
 「ええっ!?えっ。」
 「さあ、早く。四つん這いに、なるのでーす。」
 可奈は、もちろん、ためらってしまった。しかし、何十年と、味わった足の不自由な苦い思いを、色々と思い出していた。それが、これから消えるとしたら、どんなものだろう、と思った。
 「さあ、早くしなさい。四つん這いに、なりなさい。」
 シャンメルの言葉は、可奈を自在に操った。彼女は、無意識のうちに、その場に両手をついていた。シャンメルは、誇らかに宣言するように指示した。
 「あなたの、お尻を空高く、高く上げて!!」
 その言葉のままに、可奈の腰は空の方を向いた。その時だっ!彼女は、自分の背中に動物の重みをグワーンと感じると、彼女の肛門に、びりびりびり、と鈍痛が走っていった。
 「ああ、痛っ!わーっ、痛いわー。」
山羊のペニスが、彼女の尻の穴に入ったのだ。それは熱を帯びていて、可奈の尻の中を自由に動いた。それは、いちじく浣腸より、大きな感じがする。
 「うっ、ううう。痛いなあーっ。」
 可奈は、ますます呻いていった。段々、山羊のペニスの、その動きは小刻みに、リズミカルになっていく。可奈は、生まれて初めて感じる感覚に陶酔して、我を忘れそうになってしまう。グングングンと、速くなった山羊のペニスの動きが一瞬、停まった。
 「あっ!いやんっ。」
 可奈の肛門の中に、山羊の精液がドっと放出されたのだ。その時、ガサッと大きな音がした。不審そうに横を見た可奈は、その山羊の頭が床に落ちているのに気づいた。後ろを振り向くと、シャンメルが、大なたを構えていた。光る刃物から山羊の血が、ポトポトと、したたり落ちている。
 「山羊の首を・・・シャンメルさん、切り落としたんですね。」
 うつろな眼で、可奈がシャンメルに聞くと、その山羊が横倒れに、どう、と倒れた。シャンメルは、ニッコリと、うなずくと、
 「シェール・ペーテル・ポー・シェッグ・ポー・パーラ。」
と、とても大きな声で叫んだ。それから地面に落ちた山羊の頭を両手で持つと、可奈の足の上に持って行き、その生暖かい鮮血を、たらした。シャンメルは、山羊の頭から血が落ちて、血がなくなるまで持っていなければ、ならなかった。最後の一滴が、ポトンと可奈の足の上に落ちると、シャンメルは、
 「さあ、立ちなさい。そして、歩くのです。」
と冷静に促した。すっと立ち上がった可奈は、両足を動かしてみた。可奈は衝撃的に思った。
 (歩ける!歩けるんだわ。うわあ、あたし、自由に歩けるのー。)
 何とも軽やかに、彼女の両足は身軽なステップを踏んだのだ。
 「シャンメルさん!あたし、信じられないです、こんなのって!」
可奈は、ワクワクとした喜びに満ち満ちて、そう大きな声で叫んだ。
 「はい、魔術は成功しましたよー。とっても、よかったですねー。」
 と朗らかに答えると、シャンメルは、彼女の白い顔に、ふふと快心の笑みを浮かべた。
 
生まれ変わった彼女
 田宮真一郎は、広い公園のベンチで頭を上げると、
「おっと、つい居眠りしてしまった。今日も快晴、いい天気。」
と、独り言を呟いた。(そうそう、あの性魔術の筆を、使ってみるか・・・)彼は、あの美外人女性が、とても奇妙な、性的な事をした絵筆をズボンのポケットから取り出して、握った。(でもなー、今日は、描く物がないなー。若い女だったっけ。又、今度、と・・・・・・)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 
 場所が変わって、時刻は午後六時に、なっていた。白山吾郎と佐山は、それぞれ社長室にいる。吾郎は、
 「どうかね、うちの娘は・・・いいと思うだろう?」
 と佐山に聞いた。
 「はい、お嬢さんは、とても素晴しい方だと思います。」
 佐山は、かしこまって両手を膝の上に載せて答えた。吾郎はニコリとして、
 「素晴しい、か。うちの娘はね、君も見た通り、右足が不自由なんだ。それは、生まれた時からでね。今まで何度も、お見合いをさせたが、すべて全部断られてしまったよ。
あの子の足のせいだろう、ね、多分。」
佐山は、真面目な表情を変えずに、
 「そんな、そんな事は、ちっとも問題じゃありません。それは、確かにマイナスですが、でも、お嬢さんは、それ以外が全部プラスだから、合計すると非常にプラスですよ。」
 「ははは、その表現は、とても面白いなあ。そんな事を、言ってくれたのは、ただ君だけだよ。では、それではウチの娘と、つき合ってもらえるかね?」
 「それは、私は喜んで、お付き合いさせていただきますが、お嬢さまの方は・・・。」
 「それは、おれの方から聞いとくよ。うん、ところで佐山君。今から、一杯やりに行かないか?」
と誘うと、吾郎は、コップをグイとあおる仕草をした。佐山は、即座に、
 「はい、お供します。何処へでも。」
 と即、答えた。それを聞くと、満足した吾郎は立ち上がった。佐山も遅れずに続いて、立ち上がる。二人は自社ビルを出ると、近くにあるバーへ入っていった。その店内は、さ程広くはない。その店の一番奥のテーブルに、二人は向かい合って座った。やって来たコンパニオンに、高級ウイスキーとイカの塩辛を注文した吾郎は、佐山に、
 「まあ、娘をよろしく頼むよ。お願い、この通り。」
と頼み、片手を自分の顔の前に出して、佐山を拝むようにした。佐山は少し驚いた顔で、
 「それでは、もう、まるで私が、お嬢さまと結婚するみたいですね。」
 「おれは、そう願っておるのだ。そういうのは、いけないかな。」
 「それは、でも、それは、お嬢さまの気持ち次第ですよ。」
 「うん、うん、そうだな。そうだとも。そういうことだ。」
 「あの、社長、すみません、あの、ちょっとトイレに行きたいのですが。」
 「ああ。行ってきたまえ。まあ、のんびりと放尿をな。」
 少し慌て気味に佐山は、化粧室へ行った。その時、女性用のドアが開いて、いきなり若い女性が現れた。彼女を見て、佐山はアアっと、声を挙げた。
 「あっ、お嬢さん!」
 だが、その女性は佐山をチラリと見ると、スッとその場を通り過ぎて行った。佐山は、その女を振り返ったが、尿意を我慢しきれず化粧室に入った。三分後、出て来た佐山は店内を見渡すと、さっきの女を捜した。だが、あの女は全然、店の中には、いない。席に戻ると、佐山は吾郎に聞いた。
 「社長、お嬢さんに似た人が、トイレから出て来ましたけど、ご覧になりました?」
 「ああ、見たよ。よく似ていたけど、可奈とは違ったな。」
そう答えると、吾郎は、何故か苦いコーヒーのような顔をした。佐山は、
 「そうでしょう。私は、すっかりお嬢さまと間違えてしまいました。」
 「気をつけないと、いかんな。そういうことに、これからは、ね。可奈は君の嫁さんになる人だよ、自分の嫁さんを間違えては、困るから。」
 吾郎は、又、苦いコーヒーを味わったような笑いを浮かべた。
それから自邸に車で帰ると、吾郎は若い女中から、
 「あの、まだ、お嬢さまが、お帰りになって、おりませんけれども。」
と慌ただしく言われた。
 「何、まだ帰っていない、と?あいつ、何処へ行くか、君に言っていなかったのか?」
「はい、お嬢様は、わたしに何も言われませんでした。」
「困ったな。まさか、あいつ、危険な目に会っているわけじゃないだろうが・・・・・・。」
 吾郎は、ぐっと強く腕組みをした。高級そうな柱時計の長針は、夜の十一時をピタッと指していた。彼は、玄関脇の居間に入って、
 「ちょっと、コーヒーを持って来てくれ。」
と、付いてきた若女中に命じた。
「はい、かしこまりました、急いで。今すぐに、苦くないコーヒーを作らせて、いただきます。」
すぐに高価なコーヒー豆を液体にして、女中がカップに作って持ってきてから、そのままダラダラと一時間が過ぎた。だが、可奈はまだ、帰って来ないのである。
 「おかしいな、おかしな話、お菓子な話?いや、どうしたのだ?一体全体、これは。何か、何処かにある。」
 と独り言を洩らすと吾郎は、娘を待つのを、ようやく、あきらめて自分の寝室へ帰った。
 
 こちらは、魔女シャンメル宅だ。可奈は、広い庭で、そこら中をステッフ゜しながら、 
「魔術って、とても素晴らしいですね。とーっても、素晴らしい。」
とシャンメルに、すごく嬉しそうに話しかけた。シャンメルも又、上機嫌で、
 「ええ、その通りですね。でもね、魔術は、これだけでは、ありません。あなたが毎週一回でも、ここへ来てくれれば、ワタシ色々教えますよ。」
 「本当ですか!それは、うれしいなー、わたし、毎日でも、ここに来たいくらいですわよ。」
そう答えて、可奈は上へ高く高く、ジャンプした。スカートがめくれて、可奈の白いパンティが見えた。
 
 翌朝八時頃、吾郎がダイニングに入って来た時、玄関の方で、
 「ただ今。今、帰りましたわ。」
と声がした。あれは可奈の声だ。若女中は、それを聞いて、慌てて玄関へ走った。そして可奈を出迎えると、
 「お嬢さま、お帰りなさいま、あれっ!」
と大声で叫んだ。それを聞いた吾郎は、籐の椅子から立ち上がると、
 「何だ!?一体全体、どうしたのかね。」
と尋ねる声を出した。と、その時、ダイニングルームに可奈が、元気よく入って来た。吾郎は、
 「おう、お帰、あっ、おまえ・・・その、足は、よくなったのか。それとも、おまえは可奈では、ないのかな?」
 「もちろん、わたし、可奈よ。まいダディ、どうです、びっくりした?」
 「ああ、もちろんだよ、だが一体、どうして、どうやって・・・・・・・おまえの足が、こんなに綺麗に、すっきりと、晴れ渡った富士山の雄姿のように、治ったのだ。」
 「それはねー、それは、これからホイホイ話すわ。ねえ、立水さん、紅茶とトーストを持ってきてよ、お願い。」
 「はい、お嬢様、かしこまりまして御座います。」
 若い女中の立水は、驚いた顔のまま、キッチンへ行った。吾郎は、もう落ち着きを取り戻した顔で、
 「びっくりしたよ、とても。おれは、まさか、あいつが・・・いや、何でもない。」
 それから、不自然に取り繕った顔をした。そして、身を乗り出すと、
 「まあ、この訳を、話してくれないか、可奈?おまえが、知っているのならね。」
 「ええ、ええ、話すわ。だけどね、紅茶が先ですわよ。」
 可奈は、豪華な椅子に綺麗に座ると、父に向かって、にっこりと微笑んだ。その場の空気は今までとは、ドキャーンと変わった。
 
彼女の絵が出来た
  その時、田宮真一郎は、東京、練馬の絵山文房堂にいた。店の主人、絵山好三は、
 「いらっしゃい、おや、田宮さん。珍しいですね。お元気そうで、何よりです。」
と親切な感じで声をかけたのだった。
 「やあ、久しぶり。今日は見せたいものがあるんだ、これだよ。」
 真一郎は、ポケットの中から一本の奇妙な絵筆を取り出した。絵山は、
 「何だ、うちの筆ですね?この前、田宮さんが買っていったものだ。」
 「そうだよ。だけど、この筆は、ぼくが有名になる筆になったんだ。」
 絵山は、白い歯を見せて笑って真一郎を見た。頭がおかしくなったんでは、という眼をしている。
 「それは、それは。ちょっと貸して下さい。あっ、本当だ。これはね、何かの力が入っていますよ。」
 「そうだろう。いやいや、調子を合わせてくれなくてもいいよ。どれ。」
と、渡した魔法の筆を絵山から、もぎ取ると、
 「それじゃ、又ね。今度は、ぼく、有名になっているかなー。」
 と冗談のように言って真一郎は、その店を出て行った。それから街を歩きながら、(今日は何処へ行こうかな?風景なんて描いたって面白くないな。そうだ、人物を描こう。モデルさえ良ければ・・・)と、都合のいい事を考えながら人と、すれ違っている。するとその時、真一郎の眼に一人の女性が映った。(あれだ!あれこそ、おれが描きたかったものなんだ!)と心の中で、真一郎は大きく叫んだ。その女が近くに来た時、(なあんだ、)と、真一郎は溜め息をついていた。(水川マキじゃないか)だが、その女は真一郎を見ると、
 「田宮さん!わたしです。」
と彼を呼んで、立ち停まった。(えっ!?)真一郎は、ぎょっとした顔をした。
 「田宮さんでしょ?あなたは田宮真一郎さんですねー。」
 その女は、美しい声で真一郎に聞いてきた。真一郎は、まごついた顔で、
 「そ、そうだけど、あなたは水川マキさんじゃ・・・・・。」
 「いいえ、違うわ。私は、白山可奈ですよ。」
 「ええっ!!!あの、足が不自由な、いや、不自由だった・・・。」
 思わず真一郎は、とても大きな声を上げてしまった。通り過ぎた通行人が全員、彼を振り向いて行った。真一郎は、
 「だって、前とは全然・・・、あなたが、あの写真の可奈さん?本当かなあ。」
可奈は、微笑んで、うなずくと、
 「そうなのよ。あたし、変わったでしょう。わたしの父だって、びっくり、していたわ。わたしの足が、こんなに自由に、なったんですもの。」
 「一体、どうしてなのか・・・?こんな事が、どうして起きたんだろう。」
 「それはね、これから、お話しするわね。でも、こんな処じゃ、なんだから、ですよ。他へ行きませんか。」
 「そうだねー。よかったらさあ、ぼくのアパートに来ませんか?ここから、歩いて、すぐだから。」
 「そうしましょうよ。それが一番いいこと、です。」
二人は並んで、とっても仲良さそうに、歩き始めた。だが、可奈は以前のように、びっこを引いてはいない。それどころか、どうして!とても流麗な歩き方だ。真一郎の方が、ともすると遅れそうになる。道行く人は、いちいち、可奈を見て通り過ぎて行く。それ程、彼女は美しいのだ。十分ほど歩くと真一郎が、
 「ここだよ。むさ苦しいけど。君、覚えているかな。」
 と指差すと、木造モルタルのアパートが、二人の眼前にあった。可奈は嬉しそうに、
 「覚えていますよ。さあ、中に入りましょうよ。」
 「あ、そうだね。そうそう、その通り。」
 と答えると、真一郎は自分の部屋の玄関に行き、鍵を開けた。そして、ゆっくり可奈を振り返ると、
 「さあ、どうぞ。お入りください。」
 「まあ、ありがとう。お邪魔します。」
 「別に誰もいないよ。気にせずに入ってよ。」
 と軽く言って真一郎が笑った時、ビューッと音がして、背中に羽のついた小さな子供みたいなものが、二人の間を通り過ぎて行った。可奈は、
 「あれっ、何なのかしら、あれ?真一郎さん見えました?、いまの?なんか、羽の生えた小さな子供が飛んで行ったけど。」
 と、とても不思議そうに聞いた。二人が周りを見渡すと、さっきのあれは、もう何処にも見えなかった。真一郎は、
 「うん、何なんだろう?キューピットみたいだったけど、もちろん、あんなものは、ぼくの部屋には置いていないし・・・・・。」
 と言いながら、ドアを開けた。彼は、
 「中で、何かしてたのかなあ・・・。」
と言いつつ、可奈と二人で部屋に入った。彼の部屋に入った可奈は、部屋を見渡すと、
 「まあ、さすがに芸術家の部屋だわ。何かこう、違いますね、普通とは。」
 「何、きたないだけさ。でも、何も変わっていないなあ。さっきのやつは、何も、ここでは、していないみたいだよ。あのキューピット。」
 と話しながら真一郎は、部屋の床に散らばった絵の具を片づける。そして、
 「その辺に座っていいよ、今、何か食べ物と飲み物を持ってくる。」
 「あ、待って。それは、今じゃなくて、いいのよ。あたし、のどは渇いていないから、田宮さん、気にしないでよ。」
 「そうかあ、よし、じゃあ、ぼく、君の絵を描いてみたいんだけどなー。」
 「ええ、いいわよ。もちろん、わたし、喜んでポーズを取ります。どんなポーズでも。」
 「でも、どうやって、君は足を治したの?是非、それを知りたいねー。」
 「それはね、或る外人の女性に、魔術で治してもらったの。とても、とても、とてもそれは、信じてもらえないと思うけど。」
 「ああ、とても、信じられないね。そんなの、ただの偶然かも知れないよ。それは、よくわからないけど、あっ、そうだ!ぼくもね、何やら変な外人の女性に、奇妙な事をしてもらったんだ。」(フフフ)
 「奇妙な事なの?何ですか、それは、どう、奇妙な事なのかしら。」
 「えっとねー、湖に落ちた、その人を助けたらね、ぼくの絵筆に何か奇妙な呪文を唱えて、これで、あなたは有名になります、って言ったんだ。」
 「え?え?え?、どの筆なの?、わたしに、見せてもらえるかしら?」
 「ああ、いいよ。これだよ。この筆さ。これが、その魔法の筆。」
 真一郎は、机の上から一本の奇妙な筆を取って、可奈に手渡した。
 「これが、その魔法の筆なのね?。ねえ、これで、あたしを描いてくださらないかしら?」
 「おう、そうしてみるかあ。やってみるよう。」
 真一郎は、可奈から魔法の筆を受け取ると、そばにあるイーゼルを抱えて持って来た。それから、
 「白山さん、両手を頭の上に、組んでくれないかな?」
 「こうかしら?これでいいですかぁ?」
 「そうそう、そうだ。その感じで、動かないでねー。」

魔法で性交したら 体験版 鳥越敦司

 普通の場合、男性は、太った女性には、関心を持たないものだろう。それで、ダイエット関連の商品は飛ぶように売れるのだろうか。関心を持たない、と控えめに表現したが、性欲を、持たない、という表現の方が、もっと的確なのだろう。
 日本の有名画家、田宮真一郎の妻、可奈は、かなり肥満気味であるが、彼女は、ついに、妊娠したのだった。だが・・・しかし、
「それは、おれの子供では、ないだろう。これは・・・。」
と妻を激しく難詰する事は、彼には、とても、できなかった。何故なら、彼は、肥満した妻と夜の生活を送ろうとせずにいて、すでに他の女と夜の関係を持って、いたからだ。
(だから、といって、こんな事に、なるなんて、思っては、いなかった。)そう真一郎は、とても苦悩した。それに、生まれてくる子が女の子なら、名前は、ユナとつけたい、と可奈は、ズバッと宣言するように言った。(それは、それでいいとして、それでも、ユナって、なんか全く、変な名前だな。)生まれてくる子供が、自分の子では、ない、と知りながら、どうする事も、できないとは、それが当たり前とはいえ・・・これから、おれは、はたして、どういう気持ちで、生きていくのだろう。いっそ・・・、と真一郎は、思うと妻を、ちらり、と見て、殺そうか?と、思ったりも、したのだが、では、どうするのか?という具体的な案になると、なかなか、彼には思い浮かばない。
(今は、思いつかなくても、そのうち、きっと、きっと、思いつくかもしれない・・・)そう真剣に思う著名画家、真一郎は、自分の右手を固く、固く、握りしめていった。
 
 美青年の浜野貴三郎は、透明のテーブルを、はさんで向き合っている、美少女ユナに、こう問いかけた。
「君のお父さんって、とても有名な画家なんだって?」
「ええ、とても有名で、とても、お金持ちなの。あなたも、きっと、知っているはずよ、わたしの父の名前は。」
「一体、それは、なんていうのかな。」
「その名は、田宮真一郎、うふ。」
「ああ、あの怪奇な主題の絵の作品が多い人だね。インターネットでも、とても話題になっているし、某巨大掲示板にはスレッドが沢山、立っているよ。」
「うふ、じゃあ、知っているのね、浜野さん。とっても、わたし、嬉しいなー。」
ユナは、細い首を、少しかしげて、浜野に魅惑的にウインクした。
「そうだったんだね。何か君は裕福な家庭のお嬢さんだと、思っていたけど・・・。ぼくが、田宮さんを知っているのは、ごく、ごく、当たり前だよ。だって、ぼくはね、これでも絵描きの、はしくれなんだから、だよ。」
ユナは、丸い大きな眼をピカリと、輝かせた。
「そうなのね。わたし、あなたが、なんだか芸術家じゃないか、って思っていたのよ。だから、こうして、こんなに素敵なデートがデートできて、とても、わたし、幸せな一日、だわ。」
ユナは黄色のコーヒーカップを、ゆっくり手に取ると、口びるを柔らかく、つけた。彼女の赤いくちびるは、浜野の眼にガッシと、焼きついた。
「浜野さん、どうしたの、わたしの顔に、何か、何か、ついてる?」
「いやあ、あまりにもね、君のくちびるが、ただ、ただ美しくて。」
「まあ。とても、とても、お上手ね。でも、あなたも、とっても美青年よ。そう言われない?」
「まあ、時々はね、なんて。それよりさ、一度、ぼく、有名な田宮画伯に本当に会えないかな。」
「それは、簡単、パッと、すぐに会えるわよ。だって、田宮は、なんといっても、わたしの父ですもの、父です。」
 浜野の両方の眼は、夜明けの太陽のように希望でキラキラと輝いた。
 
 浜野貴三郎は熊本県、熊本市の出身である。
美術に才能を秘めた血は、彼の一族の中に流れているようで、叔父に東京都町田市で美術大学に通っていた男がいた。
 彼の名前は、小島政治という。叔父さんのようには、なりたくない、と浜野は常々思うのだったが、やはり、東京都町田市の美術大学の学生となり、それで田宮ユナと知り合ったのだった。
 叔父の小島政治が失敗したのは、女性問題であったという。だから、浜野は気をつけなくちゃと思っているのだ。
 熊本のバスセンターから高速バスに乗り、福岡市の博多駅のすぐ隣のバスセンターへ行き、そこから新幹線で上京したのは、一年前だった。水島マリという浜野の友人の姉が、町田のキャバクラ、「愛の花束」というところで働いているという。
叔父の小島政治とも、かつて、その店で、話をした事がある、とか、いうらしい。
「いっぺん、遊びに行ってみよう。おれが話しを、しておくから。」
彼の友人は、熊本のバスセンターに見送りにきた時、に、そう話した。
「おー、そーしよー。東京から、おれ、携帯で電話するよ。」
 浜野は、笑顔で答えながら、高速バスに乗り込んだ。(マリさんか。でもな、女には、気をつけないと、いかんなー)
 
 浜野はJR町田駅で降りた時、今は亡き歌手の坂井泉水を思い出した。
浜野は坂井のファンだったのである。インターネットでも坂井の画像を探しているうち、ヌード画像を見つけて、すぐにパソコンに保存しておいた。
 その位のファンであるために、当然坂井泉水の住所はネットの情報から知っていた。その情報では、東武線の一つの駅の近くとなっていた。
 浜野はもちろん、坂井の家に花束を持って訪ねるつもりだったのだが、彼が町田に着いたときには坂井泉水は入院中だったのである。
 浜野がアパートに入った翌日、ネットのニュースで坂井泉水の事故死を知った。彼は悄然と、うなだれた。できれば、坂井泉水と結婚したかったのだ。彼女が四十歳でも、構わないと思っていたのに。
 
 真一郎は娘のユナが連れてきた彼氏を見ると、昔、どこかで見たことのある顔に似ていると思った。世の中、似た人なんて、山ほど、いるものだ。が、
「僕は、熊本出身です。」
と、その青年が自己紹介するのを聞いて、ハッ、とした。思い出した、思い出した、あの男だ。そう、小島政治、という、あの自分の生徒だった青年に、実によく似ている。ならば、もしかすると、親戚なのではないか。が、そうだとすると、ユナは多分・・・この関係は、しかし・・・。
「そうかね。ぼくは長野の出身でね。東京なんて、地方出身者の集まりみたいなもんだよ。熊本といえば、古くは柔道の木村政彦さんなど、いっぱい有名な人がいるよねー。うーん、では、君の絵には、とても、期待して、いいんだろう。」
「いえ、そんなに、期待されるほどでは、ないかも、しれませんよ。」
浜野はユナの母、可奈が置いていった高級そうなコーヒーカップを手にして
「これは、どうも、いただきます。」
可奈は魅惑的な笑顔で、
「ああ、どうぞ。たくさん、飲んでね。」
ユナは、
「お父さん、浜野さんには、よく指導してあげてね。お願いっ。」
「ああ、もしかしたら、来年当たり、彼に授業をするかもしれんなあ。」
真一郎は心の中で、(浜野か。この男に妻を殺させては、どうだろう、なんて安易な考えだな。それは。)と思っていたのだ。
 現在の、この邸宅は町田市、高ヶ坂にある六百坪の中古住宅を買い取ったものだ。時価、一億六千万円だったので、都内二十三区の六億だの何だのの家よりは、ずっと安い。
 前の持ち主は田園調布に移りたいという事で、その資金の一部に真一郎が、支払った代金は使われたらしい。この高ヶ坂近辺では、仲むつまじい親子関係である、と真一郎達、親子は思われていた。高ヶ坂というところは、文字通り、坂になっているところで、原町田という鉄道の町田駅がある場所に向かって上っていくようになっている。さて、町田市は、町田駅近辺以外の土地では、あまりマンションのない住宅地なのである。
 農地もあり、農民も住んでいる。遺跡も発見されたところで、古くから人は、住んでいた場所なのだ。
 
 日本には魔術というものが、中々、根付かないものだ。
そもそも日本は、仏教に、おおわれている。それは京都のみに限らないのだ。新興宗教も、仏教系が多いのである。
 そんな宗教の中で、東京都町田市には、西洋の神秘団体と関係のある団体もある。町田の賢者、と呼ばれる人物もいるらしいが、この人物は人間ではなく、物質化している霊体だといわれている。
 それとは全く関係なく、シャンメルという若い外国人女性が作った魔術結社、「薔薇の星」も、その本部を町田に、ついに移したのだ。
 絵山という男が、その団体の副首領格だが、彼は画材商でもある。「薔薇の星」は、インターネットを通して布教していったので、ウェブサイトから申し込めるようになっている。
 中でも開運という魔術が、大人気だ。もちろん恋愛系魔術を、おこなってくれてもいる。こういう団体も収益が上がると必然的に同じ道へ行く、つまりは、宗教法人化である。
 薔薇の星は、町田市役所に宗教法人の申請をして、見事、すぐに認可された。宗教法人というものは、ご本尊が、何かないといけないのだが、薔薇の星では、主宰神はホルスとなっている。ホルスとは、エジプトの神であるのだが、これはアレイスター・クロウリーの影響もあるというのだ。
 よって、薔薇の星では、合法ドラッグの吸引も行う事がある。これも人気の一つで、町田にある大学の学生も、かなり入信したのだった。
 なんといっても、ホルスの永劫と呼ばれる時代を、これから迎えるということで、教団では、ホルス賛歌も、歌われる事となった。
 外国人女性シャンメルは、OTOというクロウリー系の魔術結社に入っていた事も、あるのだ。OTOはクロウリーが入る事によって、クロウリー色が強くなった魔術団体である。
 
 さて、日本に西洋魔術が根付かない理由を考えてみると、できる日本人がいなかった。
 ということに、つきる。魔術修行のために、アメリカやイギリスに渡って学ぶほど暇な人は、いないわけだ。それで、大抵は書籍や、よくて、通信教育という事になるのだが、その程度のものでは本物とはいえないだろう。ひるがえって、仏教などは、昔の中国に渡って学ぶ事を日本国が奨励していた。二十五歳の若き美女、シャンメルは絵山に、こう語るのだ。
「日本で、ホルス神を祭るためには、いくつかの、霊的ラインを破壊する必要が、あるようですネ。」
「と、いいますと、やはり、それは京都なのですか。」
「いえ、京都というより、むしろ関西でしょう。ここに強い、日本の霊的結界が張られています。弘法大師が意図して造った、と思われるものも、ありますしね。」
「なるほど、それでエジプト魔術も、日本では、はやらなかった、というわけですね。」
「そうだわ。ホサム・モハメド・サディーク・イブラヒムも、ついに、あきらめたようですね。」
「あの絶版になった、エジプト赤魔術の秘法、の著者ですね。」
「ええ、そう。でもね、今の東京の霊的結界も、なかなかの、ものですよ。何せ、マッカーサーが何もできなかった、のですから。彼は、フリーメーソンの大幹部だったのにも、かかわらずにね。」
「それは、霊的結界は、ホルス様も、お嫌いなのでしょうか。」
「もともと、エジプトを拠点とされる神様なのですが、そこは、これからの時代の神様ですから、本当の神様がいない日本なんて、ホルス様にとって、何のことはない、ですけどね。ただ、最低限の破壊工作は、われわれが、する必要があるようです。」
「神社が、とても邪魔である、ということなのでしょうか。」
「いえ、むしろ寺でしょう。日本は意外にも仏教の国なのですよ、絵山君。知りませんでした?」
「知りませんでしたね。何故でしょう。」
「活動している霊は、仏教系の霊の方が多いんです。神社の霊は、いないか、いても、弱いものだからね。」
「なるほど、思い当たりますよ。明治以来、日本は国家神道などといって、国で推し進めてきたものの、見事に第二次大戦で無意味、だと立証されたようなものですから。」
「神風も、ふん、吹かなかったそうでは、ありませんか。」
そこでシャンメルは、にやりと軽蔑的に笑った。それから、
「けどもね、わたしは、そうでもないと思います。日本こそ世界一に、なりえた国なのです。だから、ホルス様の使者、エイワスは、私に日本で布教を始めよ、と宣告したのでした。」
「まさに、日本からホルスの永劫が、ついに始まる、ということですね。」
「そう。我々の教団名は、そうだわ、ホルス・ジャパンに、変えようか、と思っています。」
教団の部屋の外の太陽が、一段と輝いたように、絵山には感じられた。
 
 町田で貿易商を営む白山吾郎は、田宮の妻、可奈の父親である。
 妻を、とうになくした彼の最近の趣味は、パソコンインターネットからの出会い系で、若い娘と出会うことだった。出会い系で、会える会えないは、本人の運によるものである。
 可奈の娘、ユナも大きくなったし、おじいさん、とユナに呼ばれて久しいが、吾郎は効率よく女子大生やOLと出会っては、幾人もの愛人を作っていた。
 町田駅前のデパートの一区画に店を持っているが、そこは店長にやらせて、通販で全国に販売していた。それもインターネットの普及により、ホームページでの販売を開始してからは、以前の通販より注文が殺到していた。それもネットの店長に任せて、会社には昼の十二時ごろ来て、午後三時には退社していたのだ。
 出会い系の待ち合わせの場所としては、JR町田駅前から出て、右に曲がって数分のところである。そこは大変、大きな陸橋となっている。そこから小田急の町田駅へ向かう人の数は、まるで小さな新宿のようだ。通り過ぎていく人達は、立って誰かを待っている人など、気にしないのだ。
 吾郎は何故、女に出会えるのだろう。それはプロフィールに、社長業としていて、年齢も誤魔化さないためだ。就職難の今日、吾郎は出会い系で出会った女子大生が卒業してからは、自社に入社させてやった事もある。
 
 浜野貴三郎も、上京して大学に通えるという、それなりの家柄であったが、折からリーマンショックなどの不景気で、実家からは小遣いの分の金は、ほとんど送られて、こなくなっていた。そこで浜野はアパートの部屋で、ノートパソコンから様々な情報を探しているうちに、女から小遣いをもらえるという逆援助の方法を出会い系サイトで行える事が、分かった。
(売春男(ばいしゅんだん)なのか・・・)と浜野は思ったが、すでにネットの掲示板には、成功した男性の体験談なども載っていた。
 裕福な女性の男買い、というものも、密かにおこなわれていたのだが、逆援助サイトなどで一気に幕開けとは、なったのだ。
 それで、浜野も逆援助を謳っているサイトに登録したのだが、すでに競争率は、高いものとなっていた。女が少ないのだ。それもそのはず、そのサイトでは、女性の入会には二万円、という、きまりを作っていた。おまけに一回の交際の報酬としては、十万円を最低でも払える人、という条件があったのだ。これでは不景気になると富裕な女性とても、そこには厳しいものがある。そこで、浜野は一般の無料サイトに登録して、金持ちの女性を狙った。まだユナと出会う前の話である。
 
 そうすると、やはり金持ちの女性といえども、入会金なしの出会い系サイトを選ぶ人は多いというもので、浜野も、お誘いを受ける事とはなった。相手は世田谷の独身女性で、会社の経営者、三十八歳だ。結婚歴は、なし。町田には輸入雑貨を安く売っている店があるというので時々、来る事があるという。
件名 そのうちお会いしましょう
 わたしは日曜日は、ひまなのですよ。お食事をしてから、映画でも、と、いきたいところですけれど、町田には映画館は、なかったのでしたわね。お食事代も、わたしが持ちますから、気になさらなくていいのですわ。小田急デパートの上で、よく食事をしますし、あなたのお好きなところでも、よろしいわよ。
 というメールを金曜の夜に受け取った浜野は、興奮した。三十八では、それほど歳でもないし、第一、お小遣いをもらえるのだから、しかもそれは並みのAV男優よりは、もっと多いはず。
件名 了解しました
 もちろん、あなた様の、お選びになるところなら、何処へでも、お供します。
返信メールは割りと、すぐに来た。それは、二十分以内だった。
件名 待ち合わせ場所
 それでは、日曜の朝、十一時にJR町田駅前の陸橋の出口のあたりで。わたしは、小田急線で来ますけど、小田急の出口って、人が、ごちゃごちゃ、していますから、歩いていきますわ。
 浜野も、それには、すぐに返信した。
件名 了解です
 お待ちしています。
 さて、ポイントだが、浜野は最初のメールで、自分の携帯番号を載せて送信している。
 白山社長の出会い系の女性も、彼が自分の携帯番号を載せて送信する、返信が来た。これが、ひとつのコツなのだ。熊本出身の浜野は、とても純朴である。何の用心もなしにやったのだが、これが、出会い系で、うまくいった原因である。
 昨今、出会い系で会えないと嘆く人は、随分多いのだが、直メールを知らずに会うのは難しいし、直メールの後は電話番号を知らないと、すんなりと、会いにくくなる。
 男性が自分の直メールを教えずに、相手から聞き出すのは困難だ。できれば、これはと思う相手には先に自分から携帯番号を教えれば、うまくいくという方法がある。都会の人間は用心しやすい。そうすれば、相手も用心して、ずるずると、メールのやり取りで時間も、お金も消費していくのだ。そこが、出会い系業者が儲かる要因の一つ、となっているのだが。最低でも自分の直メールは教えよう。そこに返信してこない女、か何か知らないが、その相手は、決して貴方には会う気などないよ。といっても、これを読んでいる人が出会い系を使う人、かどうかは、こちらには分かりませんが。
 
 日曜の朝十時ごろは、町田駅近辺の人通りは、すでにかなりなものとなっている。
 JR町田駅から小田急線の町田駅までは、屋根つきの歩道となっている。地上二階という感じだ。幅も広いのに両駅に向かう人達は、左側通行で歩いていく。浜野が指定された場所に行くと、そこには周りの人間とは違った、中肉中背の女性が帽子をかぶって立っていた。浜野は、その女性に、
「もしかして、緑山さんですか?」
「ええ、お待ちして、いましたわよ。」
「えっ、そんなに早くからですか。」
「五分ほど前に来ていたのですわ。気になさらないでね。」
ハンドルネーム緑山、であった、その女性はニッコリ微笑むと、
「小田急デパートの上へ、行きません事?」
「ええ、参ります。喜んで。」
 二人はそれから、小田急の駅の方へ歩き出した。
 小田急駅に入ると、デパートへ行くエスカレーターがある。そこから、最上階のレストラン街へと着いた。緑山は高価な香水の匂いを漂わせていた。時間としては店内には、どの店も人は、まだあまり入っていない。ガラス張りに町田の景色が見えるレストランへ、緑山の後を浜野は店に入った。席に着くと、
「浜野さんですね。」
「はい。ぼく、町田の美術大学に通っています。」
「わたしね、本当の名前は、緑川っていうの。まあ、美術って、すばらしいわね、うん。わたしの叔母が銀座で画廊を、していたわ。わたしも、将来やりたいなっ、て思っているのよ。」
「それは、素晴らしい。でも、ぼくは、イラストレーターにでも、なろうかって思っているんです。画廊に出展できるものを、描けるようになれるなんて、ぼくは、思っては、いないんです。」
「そうかしら、そう?才能っていうのは、磨けば光るものでしょ。叔母はね、一人の画家を有名にしたことが、あったわよ。最初は、でもね無名の青年だったけども。」
「え、誰なんですか、その人の名前は?」
「うん、名前は言わなかったなぁ。画廊の名は銀月だったと思うけど、ね。」
 
 町田にも、やはり親のいない子供たちが入る施設がある。
 義務教育は受けられるけど、それが終わると就職するしかないのだ。折からの不景気で、引き取って養おうとする人も、今は中々いないのだ。
 そんな孤児たちの一人、佐山牙は、その名前も少し変っているが、そもそも、母親と思われる人物が、ある雪の日に施設を訪れ、赤子同然の、その子を預けていった時に、書類に、その名前を書いたというのだ。
 受付の中年の男性事務員は、
「牙だけで、いいのですか。」
「はい。」
「牙男とかでは、ないのですね。」
「いえ、一文字です。」
何か、ゆらりと、その若い女性は揺れた。
「わかりました。それで、そちらの、ご住所も書いてもらわないと、いけないんですがね。」
「住所は霊界です。」
事務員は、それを聞いて失笑した。
「漫才を、あなたと、やっているほど、ひまでは、ないんですよ。書きたくない気持ちは、わかりますけど、いずれこの子も働ける歳になりますしね。そうしたら、もう養育どころか逆に、あなたに、お金をあげるように、なるかもしれないのですから。」
ホホホ、と、その女性は笑った。
「冗談では、ないのですよ。今から、わたしは、帰らなければ、いけないので、これで失礼します。」
と言うが早く、その場で、その女性の姿は、いきなり、消滅した。
「ひえっ!」
 事務員は、その場でドスンと腰を抜かした。
 後からこの話は、現代の怪談としてネット上にも広まったが、事務員の精神状態の方が疑われて、精神分析を受ける事となった。
 彼は定年も近かったので早期退職してからは、しばらく精神病院に通院しているという。その事務員の話では、その女性の顔は、少し有名だった歌手の顔に似ていた、と話したので、ますます怪しまれる事とは、なったのだが、とにかくも連れてこられた赤ちゃんは幽霊ではなく、普通に育っていった。
 
 町田駅近くのシティホテルに向かって、浜野と緑川は歩いて行った。日曜だけに、人通りは普段の二倍は、ある。商店街の外れにあるホテル「町田ストップ」へ二人は入った。受付でダブルの部屋を借りる。エレベーターで六階の部屋へ行く途中、彼らは誰の姿も見なかった。昼の休憩に使う客は少ないためだ。ドアを開けると消毒剤の匂いが、かすかにした。
「わたしの本名は、緑川鈴代っていうのよ。」
「ぼくは、浜野貴三郎といいます。」
「さっそくだけど、いいかな?」
「え、何を・・・。」
「決まってるじゃない。セックス。」
「あ、ああ、そうですね。」
 浜野は緑川鈴代が服を脱ぐのを手伝い、自分も素早く下着姿になった。鈴代は脱ぐと意外と豊満な体だった。浜野は、それを見るだけで彼の下半身は、とても充実した。
「ま、元気いいわね、あなたの息子さん。」
「あ、ほめてくださって、ありがとう。さっそく、いきますけど、いいですか。」
「もちろんよ。さあ、来て。」
 浜野は鈴代を抱きかかえるとベッドへ下ろした。
 レースのカーテンの外の光は眩しいくらいだ。二人は全裸になると、素早くキスをした。それから浜野は鈴代に突入したのだ。(おっ、いい・・・)浜野は、鈴代のものが、なめくじのように感じられた。(こんな事して、おれの方が、お金を出さないと、いけないんじゃないのかな)
 浜野の方が先にいきそうになるのを、我慢して、こらえたのは何回もあった。その都度、歯を食いしばり、天井を見るなどして耐えられない射精を防いだのだ。だが、三十分後、艶かしく悶える鈴代の姿態を見ると
「もうっ、我慢できない。あっ。」
 浜野は一物に装着した薄型のコンドームの中に出した。何度も出してしまったのだ。
『すみません。こんなに早く。』
「いえ、とてもよかったわよ。」
 鈴代は裸のまま、ベッドの近くのテーブルに置いたハンドバッグの中から、シャネルの財布を取り出すと、
「はい、これ。少ないけどね。」
と無造作に一万円札を束にして渡した。浜野は、それを受け取ると指で数えてみた。
「うわあ、十万円も、あります。いいんですか、緑川さん、こーんなに。」
「いいのよ、もちろん。これからは、私の事を鈴代、と呼んでね。」
 
 小田急町田駅の改札口前で緑川鈴代と別れてから浜野は、近くにある版画美術館へ行こうと思った。十万円も身につけて、うろうろするのも何だが、日曜日なのでATMで入金もできないため、何か成金にでもなった気持ちで町田駅前商店街を歩いていると、若い女性の声がして、
「ねえ、遊ばない?おにいさーん。」
と茶髪の二十代の女が彼に言い寄ってきた。(さっき遊んだばかりだ。射精もしたよ、何回も。)とは言えないので、
「今度にしようよ。ねー。」
 と言い捨てて、早足にその場を通り過ぎた。 
 西の歌舞伎町ともいわれる町田駅周辺では、援助交際目当ての女子高生も少なからずいるわけだが、東京都の条例違反などしては人生の破滅である。
 町田駅を東の方に歩いていくと、やがて下り坂になるのだが、そこを少し降りて行ったところに町田市の版画美術館がある。芹が谷公園という広い公園の中にあるのだが、日曜は、やはり人が多かった。
「なんだー、これは!これは、女の下半身じゃないかっ。」
 版画美術館の入り口の近くのベンチの前に、多くの人が雲のように集まりつつあった。
 そのベンチには、胴から下の下半身が両足を揃えて座っていたのである。ふくよかな腰といい、黒々としたアンダーヘアといい、何か若い女性のものを思わせる。
 足も裸足である。切断された箇所から血は流れていない。よく見ると、薄いビニール袋が腰に縫い付けられていた。それが止血していたのだろう。
 浜野はそれを見て気味が悪くなると同時に、美術学生として、この構図は役に立つかもしれないと思って、携帯電話で写真撮影すると、その場を立ち去った。
 
 小田急町田駅の改札口から構内に入った緑川鈴代は、エスカレーターから降りた女性を見てハッとした。
 (叔母さん!)肥満はしているが、行方不明になった叔母の緑川鈴華に、そっくりの体つきだった。近づいてきた、その女性を見ると、顔は、しかし全くの別人なのだった。ただ、歩き方まで叔母にそっくりだ。もしかして整形手術をしたのかもしれない。鈴代は、その女性に近づいて、
「叔母さんでしょう?鈴代ですよ。」
「え?人違いですよ。わたしは、全然、貴女を知りませんし、」
「どうも大変、すみませんでした。」
 にこりともせずに、その女性は行き過ぎた。
その女性は、田宮可奈である。可奈は(緑川鈴華に似てるわね。親戚か何かなのかしら。)と思っていたのだ。そうなら少しまずい、いや大いに、まずいとはいえ、あれが、ばれる事など、
ある訳が、ないのだ。でも事実を言ってみた所で、それは誰も信じはしないだろう。又、そんな事を言えば、自分は狂人かと思われるに決まっているし・・・。実際の話、あの女性は今日始めて見たのだ。もうかなり前の出来事、ユナが生まれる前の話なのだ。
 緑川鈴華の行方を可奈は知っているわけだが、それは誰にも、いう必要など、ないのだ。
 
 浜野貴三郎は、原町田のアパートで独り暮らしをしているのだが、洗濯物が、なかなか乾かないため、コインランドリーの乾燥機に入れる事にした。(町田って、なんで、こんなに洗濯もんが乾かんのだろうか。熊本なら、すぐ乾くのに。)
 東京都町田市は、まるで盆地のようなところである。
 北に多摩川が東西に流れているため、というのもあるかもしれない。そこで何となく、陰鬱な感じが、しないでもないのだ。
 東には神奈川県の、こどもの国があり、西側には相模原市がある。
 JR町田駅を西側に下りて少し行くと小さな川があり、それを渡ると相模原市だが、かなりな勾配の坂道が上へ登っていく形だ。それでJR町田駅には神奈川県相模原市からも人は、電車に乗りに来るし、町田駅近辺でショッピングもしていく。
 浜野は緑川鈴代というセレブと会えたわけだが、鈴代は世田谷の女性で、町田にはセレブな女性は、あまりいないというのが実情だ。
(今度、世田谷に行って鈴代さんと会いたいなー。)
 と浜野は、乾燥機から洗濯物を取り出しながら思った。
(でも、会ってくれん、のじゃなかろうか。)
 町田は独身女性は小中高生ぐらいで、女子大生もいるとはいえ、浜野には、もっと大人の女性が魅力的だったが、町田は既婚者が多いのである。町田の人妻といえば、知る人には有名で、つまりデリヘルの事なのである。デートクラブ的なところの人妻なども、待ち合わせに町田駅前を使っているようだ。
 
 死んで又、この世に生まれ変わる。
 それは人によって時間は、違うのだろう。死んで、いくらも経たないうちに生まれ変わる例もあるのだろう。田宮真一郎は妻とは、ユナが生まれて以来、セックスレスとなっていた。今、ユナは十九歳なのだから、それは、かなり長い期間となる。
 専門学校の帰りにユナは、制服姿の女子高生に呼び止められた。暗い小道で一人歩いていたので、物陰からその少女が飛び出してきたのには彼女は、ハッとした。
「あなた、田宮ユナさんでしょ?」
「ええ、はい、そうですよ。」
「あなたのお父さんは、てとも有名な画家ですね。」
そう問いかける少女、といっても豊満な体に発育している彼女が、にこりとした。
「ええ、あなたは父のファンの方?」
「それは違うのよねー。だって田宮真一郎とは、私の父なのです。」
「ええっ?ほんとうに!」
「でもねー、あなたはですね、私の姉では、ないのです。」
「それは、どういう事ですか?」
「え?どういう事って、あなたには、もうおわかりの、お歳ではありませんか。」
ユナは頭の中に、何か人の手を入れられたような感覚がした。
「だから、だから何なの?あなたは、何が言いたいのよ。」
「あなたも真実を知った方が、いいのでは、ないかしら、うふふ。」
腐女子、という言葉が、ユナの頭の中にポカンと浮かんだ。
「何だか、面白い冗談ね。でも、私、忙しいのよ。そこをどいて、くださらない。」
「いいえ、どかないわ。あなたが、私を認めるまでは、ね。」
「え、認めるって何を?」
「私が真実の田宮真一郎の娘で、あなたは、そうでは、ない事をよ。」
「一体、あなたは、何を言っているのかしら。わたしは、わたしの父の家で育てられたのよ。あなたこそ、何よ、一体。」
「それでは、あなたには、まだ何も知らされて、いなかったって事ですね。」
「何を知るも何も、あるもんですか。そういう遊びが今、あんたたち、女子高生で流行っているのね。」
「いいえ。わたしの母は、キャバクラに勤めていたの。その時、お客さんとして父が来て、それで深い関係になり、母は私生児として、わたしを産んだのよ。ふん。」
 ドーンと、銀河系の最も近くのところの恒星が、突如として、爆発したような衝撃をユナは受けた。
「だ、だからといって、ね。それじゃあ、あなたの苗字は、なんなのよ。」
「わたし、剣上(けんじょう)エリ、っていいます。以後、お見知りおきを。なーんてね。」
「わかったわ。本当は、よくわからないけど、でも父は、わたしを娘として育ててくれたわ。」
「そうですね。でも、もういい加減、うんざりしているのかも、しれないですね。わたしを認知しようか、って話も、あるくらいですから。」
「そうするかどうかは、それは父の問題だわ。」
「ええ、ええ。ただ、わたしは、これを伝えたくって、ここで待っていたのです。」
「わかりました。ええ。」
「あなた、認める?」
「ええ、認めるわ。それで、いい?」
「そう、いいわ。よかったわ、義理のお姉さん。」
 剣上エリは道路の端に寄ると、にこりとした。
 その容貌は、よく見ると何処か父に似ているところがある。大体、娘というのは父に似るものなのである。ユナは呆然としながら歩き始めた。
 
 高ヶ坂の六百坪の自宅に帰る坂道の中で、ユナの頭の中は、かつてないほど目まぐるしく回転していった。
 わたしが父の子じゃないとしたら、わたしは誰の子なのかしら、母は、わたしの本当の母なのかしら、わたし父には似てない気もしてたし、母には似てる気もしたことがあったけど、今まで一度も、そんな事、考えた事なかったから、わたし、こんなに不幸せな気持ちになった事なかったわ
 あの女が言ってる事は、やっぱり嘘なのかな、
 でも、やっぱり父とは母は仲が、よさそうに見えた事は、なかったし、そういえば、父が、わたしを本当に可愛がってくれた事も、ないような気がして、なにか、わたしが間違った時も母の方が、わたしをかばってくれたよう気がしてたし、父親って、あまり愛情を示してくれないのかなと思って、納得していた事もあったんだけど、うちには、お手伝いさんもいたりするから、他の普通の家庭のように孤独になる事はないし、お手伝いさんも、わたしを可愛いって言ってくれて、母と同じように可愛がってくれたから、父親なんて、あんなものと思っていたのだけど
 もしかして?そう、なんとか父に聞いてみよう。って、本当の父って誰なのかしら。今までの自分は、あれが世の中の父親の姿だと思っていた。ユナは気がつくと自宅の門の中に入っていた。右手にある大きな樹木が、何か彼女を蔑むように見つめている気がした。
 
 娘というものは、母親と同じ運命を辿る場合が実に多いものだ。剣上エリも十八歳なのに母と同じ業界で働きたいと思っている。
 母は今はキャバクラの経営者だけど、昔はキャバクラでナンバーワンを取っていたらしい。静岡から東京に出てきて、赤坂や銀座で働いて、今は町田で店を開いている。
「お母さん、月収って、いくらなの?」
「うん、多い時で、そう、三百万円かな。」
「すごーい。それ、それ、年収じゃないのねっ?」
「もちろんよ、でもね、少ない時は、二百万円だけど。」
「だって今、いまー、年収、三百万時代とか、日本では、言われているのでしょ?」
「そうみたいね。でもね、エリ。お母さんは大丈夫よ、あなた、アメリカに留学したって、いいわ。いいお客様が、たくさん付いてくれているし、町田って既婚者が多いから、うちは結構繁盛してるのよ。」
「うん、アメリカか。エリね、インターネットの勉強したいな、アメリカに行って。」
「それは、とっても、いいわね。お母さんにも、ぜひ、教えてね、エリは、でも他に、絵を描くのが、うまいんだから、それでネットで、有名になれるかもしれないわね。」
「お母さん、わたしの絵の才能って、お父さん譲り?」
「そうなのだわ、きっとね。エリは、すごい天才かも、しれないのよ。」
「お父さん、ねえ、次は、いつ来てくれるの?」
「来月よー、きっと。きっと、そうなのよ。」
「エリのところに、いつも帰ってきて、ほしいな。」
「無理を言っちゃ、駄目よ。お父さんには、お父さんの、事情があるの。」
「うん。それ、わかるー。」
 居間の大きな窓からは、小田急とJRの町田駅近辺の風景が見える。人影は小さく動いている。
 
 夜遅く、浜野は版画美術館の近くのベンチに置かれていた、女の下半身の写真を携帯で見てみた。すると何と、そこには上半身も裸の女性が、右手を頬に当てて微笑んでいるではないか。若い二十代の女性でOL風の感じがする。ぞっ、と浜野は背筋が寒くなった。
(これはー、なんなー、写っとる、上も。幽霊かいな、これ。)
 そう思って、目の錯覚か、どうか確かめるために、あちこちに手で携帯電話を持っていって見たが、やはり消えないで写っている。
(こげなことがー、やっぱ、ある、とたい。)
 あの事件は、ネットでも有名になったが、何と動画に撮って動画共有サイトにアップロードした、つわものもいた。
 その動画は最近の一番人気とは、なっていたのだが、しかし、浜野も見たその動画では上半身は写っていなかった。
(おれの携帯にだけ、写っとるのだろか。)
 警察も捜査中だが犯人の目星もつかず、女性の上半身も発見されていなかった。(警察に持っていってやろーか。でも、取り合って、もらえんかもしれん。いや、それより、おれが疑われる。かもしれん。だけん、持っていくのは、やめとこー。)
 浜野も純朴ではあるが、過去に財布の落し物を警察に届けた時に、変に思われた過去を持っていたのだ。(うん、上半身は、おれが撮影したと、思われるけんなー。)
 それにしても、その女性の胸は、キレイな巨乳なのだ。見ていると浜野は、少し勃起しそうになった。(よか、おなご(標準語・訳 おんな)、たい。)
 
 浜野は隔週日曜日に緑川鈴代と会って、いつも十万円は貰っていたので、月二十万円の収入になった。
 最近は大手企業でも副業を認めているところもあり、こういう出会いを利用している社員も、いるかもしれない。相手の女性は三十代後半から四十代が多いだろう。浜野には美食の趣味があったので都内の高級レストランへ行っては鈴代からの報酬を使っていた。
 それから、ネット通販で、ペニス増大法やサプリメントを買ってみた。やってみると、(やっぱり太くなったなー)と部屋の鏡にも写っている自分の硬直したものを見て、物差しでも計ってみた。三センチ伸びたし、直径も大きくなった。それも、顧客と言うべき鈴代を喜ばせるためで、やはり鈴代は喜んだ。
(やっぱ、AV男優より、よかぼう。男優になったら、みんなの前で、ちんこ出さな、いかんし恥ずかしか、もんなー)AV男優は、一本の仕事につき出演料は一万円とも言われている。浜野は一回で十本のAVに出た男優と同じ額を受け取るのだ。
 そんな浜野だが、隔週一回では、物足りなくなっても当然だ。彼は出会い系で、別の女性を探したりもしている。すると、
ユナという女性が、プロフィールに
 ある有名画家の妻なんですけど、お金はあっても、あちらは主人と、ないから遊びませんか?もちろん、お礼は、タップリ、しますよ。
と書いていた。(こりゃ、よかぼう。おれのためにも、なるしたい。)浜野は好奇心と金への欲望にわくわくしていた。
 
 夫の浮気には、妻は敏感だが、妻の浮気には夫は鈍感だといえるのかもしれない。
 が、そもそも妻の浮気は夫の浮気が原因なので、浮気相手に夢中な夫は、そもそも妻の事など気にしていないからとも、いえるのではないか。
 画家の田宮真一郎は、妻が性的にも魅力をなくしていたので、憂さ晴らしに画商の絵山とキャバクラへ行ったのだ。そこで昔、関係していたキャバクラ嬢に、とてもよく似た女性に夢中になった。
 妻の可奈は、育児にいそしんでいたので、何となく夫は外で女を作ったらしいと気が付いても、口に出して言わなかった。特に娘のユナが、昔の自分と同じく、右足をよく動かせない事に愛情を感じていたからかもしれない。
 妻子ある男は、自分と同じような境遇の女、つまり人妻に興味を持ちやすいものだが、田宮はそうではなく、手軽につきあえる水商売系の女性に興味を持つ方だったのだ。
 キャバクラ嬢も仕事として接しているので、お客さんとして来るのを捨てるには、それなりの相手で、自分と本当につきあってくれる男性を選ぶのだ。
 それは、もともと長野県出身の田宮には都会の人間の冷たさはなく、女を軽く捨てる事は、できないたちなので、それで妻も捨てられないのだが、キャバ嬢にも同じようになる。それを目ざとく見抜けるのもキャバ嬢の眼力なのだ。高級グラスに一杯、ドンペリを注いでもらった田宮は、
「へえ、剣上さんっていうのか。変った名前だね。」
「みなさん、そうおっしゃいますわ。わたし、静岡の出身なんです。」
「静岡に多い名前ですか?」
「いえ、うちぐらいかな、と思いますわ。実は、わたしのご先祖さんは、徳川幕府のお侍さんだったので、それで、こういう名前なのでは、と思うのです。」
「ははーん。それは、それは。剣上なにさん、ですか。」
「由梨(ゆり)と申します。」
「明治になってから静岡へ移動されたんですね。」
「そうなのです。勝海舟に命じられて。」
「そういう時代だったんですね。ぼくも長野から来たんですよ。」
「まあ、そういえば、何か、東京の人ではないと感じたりしましたもの。」
「結構、ぼくも東京は長いんですけど、やあ、生まれは隠せないね。」
絵画商の絵山は、
「さっそく、意気投合ですね。真一郎さん、代償なんてあったとしても、こんなに美しい女性が現れるようになっている。というのが、魔術の意気なところ、ではありませんか?」
「ああ、そうかもしれないね。いや、もうあの事は・・・。」
由梨は眼を少し大きく開いて、
「魔術って、それは手品の事ですの?」
絵山は、
「あ、いえ違いますよ。西洋魔術です。オカルトですよ。真一郎さんは、成功と引き換えに代償を払ったんですが、あなたのような方に巡り会えるとは、我々の神も、なかなか、親切なものです。」
「えっ、そういうものは、わたくし、全くわからないのですけど。」
「大抵の人は知らないし、気にする事はないですよ。でも、もし興味が沸いたら、ぜひ、連絡をもらえませんか。」
絵山は、上着のポケットから名刺を出して由梨に渡した。
「ホルス・ジャパン・・・アシスタント・ディレクター・・・ですのね。」
「ええ、わたしは北海道出身なんですけど、元々は千葉の方からの開拓民でしてね。」
「そうなのですね。お名刺は、ありがたく、いただいておきます。」
 絵山は、これで、真一郎も本当の愛を知る事になるだろうと思った。
真一郎の妻は、本当は彼には、ふさわしくないのではないか、と前から思っていたのだ。
 
 由梨と会ったその夜、真一郎はオークションに昔、妻になる前の、可奈の裸を描いた絵を出品した。翌日、五千万円で落札されていた。
(うん、やっぱり、おれには才能があったんだ。あれは魔法の筆なんて使ってないぞ。)
 真一郎は、あまりインターネットには興味がなかった。が、オークションだけはやっていたのだ。彼の絵は昔ながらに画商が取り扱っているが、不景気もあって、売れなくは、なっているため絵の値段は、どんどん下げて売っていた。それが五千万円なんて、ああ、久々の快挙だったのだ。
 オークションでは様々な長者が生まれていて、パワーセラーなる人達もいる。
 彼の絵も画商は、ネットオークションなどで売りさばく事もあるのだ。今回もちろん、真一郎はデジタルカメラで絵を撮影してから、出品したのだが、落札したのは、ある画商で、それをインド人の富豪に転売したらしい。
 それで真一郎の妻のエロい絵は、もう、すでに、なくなってしまった。
(由梨。そう、由梨の絵を描こう。それが、これからのおれの生き甲斐だ。)
 彼は隣の部屋で、妻が出会い系サイトを見ているのにも気づかずに、絵筆を取ると、キャンバスに向かい、やる気を見せた顔をした。
 
 浜野は絵を描くための、女性モデルには不自由しなかった。学校から帰ってすぐにネットサーフィンを始める。そのうちにライブチャットなるものに出会ったのである。
 最初に見たのは、ノンアダルトのライブチャットだったが、そのうちアダルトライブチャットを見るようになった。浜野はタイピングが遅い方だったが、そこは緑川鈴代から貰った金を注ぎ込んで何とかヌードになってもらう事に成功してからというもの、日々、その裸身をスケッチする毎日だったのだ。
 チャットでは、浜野は女性に、キーボードを打つ指で、こう問う。
浜野 よかったら脱いでくれないかな
相手の女性 えっ、今すぐ?
浜野 うん、いますぐ、脱いで
 と、いった感じでチャットすると、相手の女性は快く、脱いでくれる。
 町田にはストリップ劇場もないので、浜野には有難かったのだ。結局、逆援助で得た収入の半分はアダルトチャットで費やしたりしている。
 学校では、浜野のヌードデッサンが上達した、と教師に誉められる事となった。最近ではアダルトライブチャットでも、地域別にパフォーマーが、わかるので関東というより東京に絞り込んでチャットしている。
 美術としては、女性器そのものを描く事は、発表もできないので単なるヘアヌードでも満足だ。様々なヘアを眺めては、インターネットの恩恵を感じる浜野なのである。
(よか時代たいなー、ほんと。)
 
 浜野の実家は、浜野電器という家電の店をやっていたため、東京に来る前からパソコンには親しんでいたのだ。
 
 浜野は、高校時代すでに自分の部屋にパソコンを持たせてもらっていた。ネット接続もしていたので一年生頃から見ていたのだが、三年にもなると、
「おい、貴三郎。おまえ、アダルトば見ているだろうが。」
と居間で父に厳しく、問われた。
「あ、うん。でも、金は、払っとらんよ。」
「ああ、でも、危ないサイトの、あるそうや、ないか。」
「今の所は大丈夫ばい、ばい。」
「そうか、ほう。。よかとの(よいものが)あったら、おれにも教えい。」
「あー、そうすったい(そうするよ)。父さん。」
 その時は、すでに志望する大学も町田の美術大学と決めて、推薦も通っていたので、父親もあまり何も言わなかった。それで、続けて貴三郎は、
「美術の勉強のために見るとだけん(見るのだから)、ためになると。」
「ほう。そりゃ、よかたい。」
・・・、と最近電話で、父がアメリカからの日本の無修正サイトに入った、というのを聞いて浜野は思い出したのだ。熊本には風俗らしきものも少なく、火の国の女は行動も早いので、やらせてくれる女性は結構いたりする。それで、浜野は浜野電器に買い物に来た、二十歳くらいの女性に誘われて、公園の立ち木のかげで、初挿入したが、十秒でイッてしまったので、その女性に笑われた。
「すまんです。」浜野は頭を下げて、謝った。
「よかと(いいわ)。初めては、そんなもんたい(そんなものよ)。よく、せんずりして、鍛えんね(きたえてね)。」
「はあ。はい・・・。」
 その女性は笑いながら、白いパンティを上に上げた。(東京に行ったら、何人とやれると、だろうか。)
浜野は背中を向けた、その女性の尻を見ながら、ぼんやりと思っていた。
 
  浜野は小田急線で箱根の方へ旅をした。
 神奈川県は北西の方は、山ばかりである。箱根は西南の方になるのであるが、常に観光バスが行き来している。
 観光目的ではなく、某神社でお祓いをしてもらうためだ。携帯電話に撮った下半身の女性の画像は上半身が写ったり、消えたりしていたのだ。
 そして、なによりも、その画像を消そうとしても、消えないのだった。携帯ショップに持ち込んで消してもらうように頼んだのだが、その店員にはできなかったし、店長に来てもらったが、やはり無理だったのだ。店長は、
「これ、あの殺人事件の被害者の写真でしょう。町田の版画美術館の。」
「ああ、そう、そうですよ。その時、ぼく、居合わせたものですから。」
「でもねー、画像を消せない、なんて依頼は、今までうちの店で、一度もなかったので、よろしければ、携帯電話会社の方に送ってみますけど。」
「いえ、こわれたとしても、これだけだし、この携帯電話は今でも、使っていますんで。」
「それでは、このままで、いいんですか?」
「ええ、今日はこれで、いいですよ、それでは、さようなら。」
 浜野は脱兎のように店を出て行った。それからネット検索で、お祓いをする神社を見つけ出したのだ。急いで携帯電話すると、
「ああ、いいですよ。持ってきてください。何でも、うちは、お祓いしていますから。」
と、ノリノリの答えだった。
 
 小田急線の電車内でカタカタと揺られていると浜野の耳に、
「次は南輪姦、南輪姦。」
という車内アナウンスが聞こえた。駅に着くと、そこの駅名は南林間だったわけだが。
 
「中央輪姦。中央輪姦。」
というアナウンスも聞こえたのだが、それはすぐに中央林間であると認識した。
 下車する目的の駅に着いたので、浜野は、ひらり、とホームへ降りた。
 改札口を降りて、広がる神奈川の、のんびりした風景は時間が、まるで止まっているかのようだ。今日は、のんびりとした日曜日だが、その神社に向かう人は少ない。朝早い、というせいもある。やがて林に囲まれた、その神社が見えてきた。受付に辿りつくと、そこにいた巫女の顔を見て浜野は、
 あっと思った。この前、いつもの出会い系サイトで見たことのある顔だ。神奈川は昔、相州といい、相州女は藁とも寝るといわれていたらしいのだが、AV女優にも神奈川県出身の女性や、普通の女優にも男好きの神奈川出身者がいるのだ。巫女といえどもただの女性、今時、処女は、いないのかもしれない。その巫女は、プロフィールに自分の写メを堂々と載せていた。驚いた浜野の顔を見て、その巫女は、
「何かお探し物でも、ございますか、え?」
と、尋ねてきた。その巫女は、どうも二十代前半に見える。
「あ、いえ。今日は、ですね、お祓いの予約をしていたのですが。ぼく、浜野といいます。」
「それでは、お待ちくださいませ。」
と答えると和服姿の、その女性は背中を向けて立ち上がった。着物の上からでも尻の辺りがなまめかしい。浜野はゴクリと生唾を飲んだ。
 すぐに烏帽子姿の中年の神主が来ると、
「さあ、祭殿の方へ行きましょうか。」
浜野は神主の後をついていった。普通の神社より、そこは、きらびやかに飾ってある感じだった。
「どれを、あなたは、お祓いしたいのですか。」
 神主は、おもむろに聞いた。浜野はポケットを、がさごそ、とやって、あの携帯電話を出した。それはガラパゴス携帯と今では呼ばれるものである。スマートフォンは、まだ出ていなかったのだ。
「ほう、携帯電話ですね。これに何かあるのですか。」
「はい。心霊写真が写っていまして。」
「ふむ、どれ、見せてもらえますか。」
浜野は、携帯電話の中で、その怪奇写真を出して見せた。神主は、それを見て、
「ふむ、何も写っていないようですが、ま、一応お祓いしておきましょう。」
 それから太鼓をどんどんどんどんと叩き始めた。おーーーーーーーーーー。と声を上げたのは降神の掛け声である。
「かけまくもかしこき・・・・・。」
と大祓の祝詞が朗々と、そこで読み上げられる。
 
 神主は浜野の携帯電話を左手で受け取ると、幣帛(へいはく)を右手で二、三度左右に振り
「いえーいっ!」
と気合を込めた。それから浜野に携帯電話を返すと、
「もう、お祓いは、これですみました。以降は、これで何の問題もないと思います。」
 浜野は封筒に入れてきた初穂料五千円を神主に渡した。祭殿を出て帰る時に受付を見ると、まだ、あの女はいた。今度、あの出会い系サイトで、あの巫女にメールを出してみようか、と浜野は思った。その時、携帯電話が突然、鳴った。
「はい、もしもし。」
「ありがとう。」
「は?どちらさま、ですか。」
「いえね、わざわざ、わたしのために,お祓いまでしてくれるとは、思っていなかったわ。」
「えっ。だれ、あんた。」
それは、若い女性の声である。浜野の歯は、かちかちと鳴った。
「お礼に何か、しようと思うのだけど、何がいいかしら。」
「な、なにもいりませんよ、べ、別に。」
 浜野は、その携帯電話を急いで切った。少し小便が出そうになるのを、こらえつつ彼は駅へと向かった。受付の女は不審な面持ちで彼を見ているのが感じられた。(そんな馬鹿な話が・・・あったわけだが、でもお祓いは、されたって事だろうし・・・)
 小田急電車に乗ると日曜の東京方面に向かう人達は明るく感じられたが、浜野は冷たいものを背中に感じていた。満員に近かったので立っていたら、隣の男の若者が、
「町田の版画美術館に行った帰りでも、近くの公園のベンチで記念撮影しようじゃん。」
と連れの男性に言う。
「あー。何か写るかもしんねえぜ。楽しみだなー。」
「写ったらネットに公開しよう。」
「ああ。DAYLYMOTIONかYOUTUBEで。」
「ニコニコ動画でもいい。」
「ユーストリームでも。」
(なんでもいいけど、やめとけよ。)浜野は思っても口には出さなかった。
 原町田のアパートに帰った浜野は、ネットサーフィンをしているうちに夜になったので、近くのローソンに行って弁当を買ってきた。ローソンカードを使ってポイントを貯めているのだ。
 食事をし終わると携帯電話が又、鳴った。
「はい。もしもし。」
「あ、さっきの、わたしよ。電話を勝手に切らないでね。」
「一体何の用、というか、あなたは本当は誰ですか。」
「もちろん、あなたの携帯に写った幽霊ですよ。」
「そんな。では、どこから電話してるんです。」
「霊界だけど、あなたの世界にわたし、未練が、まだあるの。それで特別に霊界から電話をかけていいって、許しをもらったのよ。こっちには、やはり携帯電話みたいのが、あるんだけど、そっちに電話するには特別の許可が、いるわけ。」
「ばかばか、しいなー。そんな話を、ぼくが信じるとでも思っているんですか。」
「霊界にも携帯電話会社みたいなものが、あるのね。で、そちらの世界にかけるのは、特別な場合だけよ。未練が残っている場合とかね。よく、あの世から電話が、かかってきたなんていう怪談話があるけど、みんな、そうやって電話しているのよ。こっちにも最近、スマートフォンみたいなものが、できたんだけどね。」
浜野は番号通知を見たが、非通知だった。
「お祓いしてもらったから、もうあなたは、出てこなくていいんです。」
「それがね、別にあなたを呪うとか、そういうのじゃなくて、別の楽しみでもあげようかなっ、てわけだから。いいんじゃないの。」
「特に、お礼はいりませんけど。」
「そんなに遠慮しなくって、いいわよ。あなたさー、あの緑川鈴代って女の人だけじゃ、あなたのちんぽは、物足りないんでしょ。」
「なんて事を。そ、それは、そうかもしれませんが。しかし・・・。」
「だったら、わたしがオマンコの相手に、なってあげる。」
そこで、いきなり、ソノ電話はプツーと切れた。
 
 恐怖もあったが、浜野には、あの女性への期待もあった。(あのヌードで、でてきたら、よかなー。情けは人のためならず、っていうけど、この場合、おれのためにも、なっとったしなー。)
 そこで浜野はガラケー(今までの普通の携帯電話)の写真を見てみた。すると、今度は、あの写真の女性が服を着て写っているではないか。
(なんな、服ば着とるよ。)夜は更けていったが、あの女性が出てくるわけではなかった。ガラケー片手に浜野は寝入ってしまった。夢も見ずに浜野は、次の朝、起きてから昨夜の事は幻想だったのかと思ってみるのだった。自分自身の期待が幻でも見させたのかもしれない。白昼夢というものがある。あれがそうだったのか、と考えながらアパートを出た。百メートルほど歩くと、
「よっ、浜野。元気そうだね、息子ともども。」
と同級生の早手三五郎が、突然、現れた。彼は細身で長身、甘いマスクで、とても女に、もてるやつだ。
「おう、お早う、早手。」
「今日は、おまえ、何か冴えない顔をしているね。どうしたんだあ?」
「いや、別にな。そんな、なんでもないよ。」
「またー、嘘を、いうなっ。それは女の事じゃないのかい。女なら、おれにまかせろよ。」
「ああ、任せたい。聞くけど、早手は逆援助交際とか、したことあるのか。」
「逆援助?ああ。おれはね、いつも逆援さ。女が、とっても、おれに貢いでくれるし。」
「それは、おばさん、ばかりだろ。」
「なーに違うよ、女子大生でバイトにキャバクラ、行ってるやつからね、万札をおれ、相当もらったよ。」
「それで、そういうのって、どのくらいになる?」
「月、八十から百万だね。」
「へえええっ、そんなにぃっ、なるのかああ。」
交差点の信号が赤になったので、二人は立ち止まった。
 
出会い系を使って
 「別に、それは驚く事じゃないんだよ。それは、そんなにね。」
早手は、ニヤニヤしながら言う。
「でも、それは君が、いい男だから、そんなに成功するんだよな。」
浜野は横目で早手を見た。
「あ、それは違うんだ。まず、おれは出会い系しか使わない。それで、自分の写真も載せないんだ。」
「では、メールだけで?」
「ああ、そうさ。男と違って女は言葉に弱いんだ。男は女を外見だけで、ほとんど判断するし、女が何を言うかはあまり気にしない。この逆が女なんだよ。」
「なーるほど、ね。」
「ある香港だったと思うが、そこの女優がだね。ベッドシーンは絶対に嫌だということだったんだけど、監督に四時間位、説得されてオーケーしたっていう話がある。これなんかも、女が言葉に弱い事を示しているだろう?」
「ああ、そうだね。」
「だから出会い系を使えない人達っていうのは、そこのところがわかっていないんだ。メールだけで会い、ホテルへ誘導する。これもすべて言葉なんだよ。」
「そういえば、そんな気もするなー。」
「出会い系を使えなかった人達は、女を言葉で攻めるやり方をしらない。ネットでよく出会い系は会えないなんて書いてあるけども、口説き方を覚えればいい。又、女が使う言葉も知っておかないとネカマにやられる、っていうか浜野は、出会い系は、やってんの?」
「ああ、少しね。少しだけど。」
「うまくいった?」
「ちょっとはな、でも、今の話、参考にするよ。」
信号が青になった。歩きながら早手は、
「おれのおじさんも出会い系を使っている。町田のおれたちの美術大学を出たんだよ。今、ウェブデザイナーに、なっているけど給料は安いらしい。唯一の楽しみは、出会い系だそうだぜ。」
「そうか。おれたちも、なろうか、ウェブデザイナーに。」
「考えておこうよ。叔父さんの名前は、早手三四郎って、いうんだけどね。」
蔦が絡まった大学の校舎が、二人の視界には見えてきた。
 
魔術なんでも屋
 最近はネットで呪い代行、などというものもあるわけだが、その女性は外国から町田に来た二十五歳の魔女で、原町田のビルの一室で注文を受けていた。
 といっても大抵は、インターネットからのメールでの依頼になる。呪い、略奪愛など黒い魔術を得意としているようなのだ。
 キャンメルという名前なのだが、本国では彼女の親戚の女性も、やはり黒魔術で生計を立てていた。悪魔を呼び出し依頼するという、その方法で、もう百人ばかり呪殺しているのだ。
 キャンメルも同じやり方だが、日本では、まだ呪殺の依頼はなく、略奪愛の依頼が多いという。特にOLの上司との不倫の関係を成功させたい、というのがよくあるらしい。
キャンメル様、わたしは二十三歳になる大手企業の事務員ですが、もう一年も上司の課長との不倫が続いています。課長はもちろん結婚していてお子さんもいるのですが、育児に専念する奥さんには魅力がなくなったと話しています。
 セックスは、もっぱら昼休みに会社の会議室の物置でしていますが、わたしも声をあげないように我慢はしてます。
 一度、おもいっきり大声で叫びたいんです。そのためには、この不倫を成功させて、課長が奥さんと離婚するようにして欲しいと願います。
 略奪愛の魔術を、お願いします。東京の丸の内のオフィスで勤務しています。
 キャンメルは返信した。
 その課長の名前と、できれば住所をおくってください。
 
送られてきたものを、もとにして魔術をかけるのだ、というより悪魔に依頼するのである。
 
依頼したい
 
 そんなキャンメルをユナは知る事になった。
 自分の部屋にあるパソコンでネットサーフィン中に見つけたのだ。あの剣上エリとかいう女子高生は週に一度位、待ち伏せしているのか、高ヶ坂でよく会う。
 いつも絡んでくるが、何とか振り切っていたのだ。(縁切りっていうのもできるのね。あの腐女子、うるさいものね。頼んでみようかな。え、町田じゃない。直接行ってみようかな。)
 思い立った次の日の学校帰りに、原町田の魔女のいる部屋へユナは行って見た。
 十階位のオフィスビルの最上階にある。一階が花屋で、近くに飲食店が多い。この花というものも魔術では、よく使われるため選んだ場所なのだろうと思われる。
 十階にエレベーターで昇ったユナは、目の前すぐに大きな銀色の五角形の星が描いてある部屋を眼にした。近づいてインターフォンを押すと、
「どうぞ。お客さん。」
という外国語訛りの声がした。
 扉を開けると、そこは紫煙のたちこめる十畳ほどの部屋で、デスクの上には人間の頭蓋骨の形の水晶があった。
「いらっしゃいませ。さあ、そこに尻を、かけてください。」
勧められる通りにユナは、そこの黒いクッションの椅子に座った。
「それで、あなたは、どんな悩みですか。」
そう問いかけると、キャンメルは自信のある笑みを浮かべた。
「はい。それが今、わたし、ストーカーに会っていまして。」
「は・あ・そう。それで、どういう人なのですか。」
「はい、相手は女子高生ですけど、あいつ、わたしが私生児だと言うんです。その子が、わたしの父の本当の娘だと言うんですけど。」
「それは、そうかも、しれないではありませんか。真実では、とも。」
「そんな事、ありませんよ、だって、わたし、父に、ちゃんと育てられてきたんですよ。」
 
真実は
 
キャンメルは左手の祭壇らしきものにスイ、と向き直った。
「それでは、このことを、尋ねてみましょう。精霊は、すぐに、お答えくださいます。」
 彼女は両手を組み、首を少し傾けて静かに瞑目する。それから、しばらくして眼を開くと、
「やはり、あなたは、あなたの父親の実の子供ではありません。」
「そうですか。そんな事、わたし、信じていいものか・・・。」
「で、そのストーカーという高校生が、本当の子供である、とも精霊は、お答えくださいました。」
「えええ。では、その子を、わたしから追い払う事は、お願いできないのですか。」
「できません。悪魔、と日本では呼ばれていますが、キリスト教で勝手に悪魔にした古代の神々なのです。理にかなわない事は、神々には、お願いできません。」
「わかりましたわ。料金は、いくらですか。」
「ああ、何も、わたしが、できない場合は、お金は、お金はねー、いりませんよ。え?」
キャンメルは、大きく眼を見開いてユナを見た。そして、
「あなたの母親は、もしかして、田宮可奈さんではありませんか。」
「ええ、でも、何故それを、あなたは知っているのですか。」
「それはね、あなたが、あなたの母親に、よく、よく似ているからですよ。実は、あなたは私の・・・。」
キャンメルは、ピタリと口を閉じた。そして優しく微笑むと、
「精霊には頼めないが、何かしてあげよう。そのうち思いついたら電話するから、携帯電話の番号でも教えておくれ。」
と、とても優しい口調で問いかけたのだ。
「はい。ガラパゴスですけど090・・・。」
 
銀行員
 人は自分の名前には、当然興味を持つ。自分の名前から進路を決めてしまった人もいるほどだ。それで町田市の地方銀行に勤めるその男は、ある衝動にとりつかれる事があった。彼は、いたって銀行員らしく温厚で物腰も柔らかいのだが、その名前故に営業の方には回されなかった経歴で、今年三十歳になるのだが、未だに独身である。
 知人には、
「郷さん。もう結婚してもいいんじゃない?」
と度々のように言われるのだが、
「いや、まだまだ、ですね。」
と、はにかんだように受け答える。五時で勤めを終えると、すぐ近くの鉄筋のマンションに帰宅してはアダルトDVDを見る毎日である。
 大抵の銀行員は、お堅いといってもいいのだが、昔、アダルトDVDに出た元銀行員の女性もいるので、彼の場合も不思議とはいえない。大手電機メーカーに勤めていた人が、風俗店に転職した例もあるのだ。その大手電機メーカーは今、大赤字となっているのだが。
 さて、彼の名前は郷冠太という。そのまま読んで、ごうかんた、である。小中学校の時は何も言われなかったが高校、大学と、からかいのタネにされた。何か強姦事件があると、
「郷、おまえじゃないのか?犯人は。」
などと、からかわれたりしていたものだ。
 
銀行員2
 
 そもそも町田市役所に母親が名前を届出に行った時にも、受付の係員は苦笑を抑えた顔になったが、受理はした。
 大学を卒業して今の地方銀行に就職した時も問題はなかったのだ。だが、名前による影響は、着実に彼の頭の中を掻き回し始めていたのである。
 一定期間の研修を経て窓口に座った時、若い女性が来て用件が終わり、くるりと背中を向けた時に、郷は、その女性の尻のところを見るのを常としていた。
 そして、(あの女を強姦できれば・・・)などと思ったりしているのだが、表情は努めて、にこやかな笑顔を見せている。
 これは夜に鏡の前で、自分の顔の表情を見て、自分でコントロールできるようにしてきた、からできるのだ。銀行員という手前、レンタルショップに行ってアダルトDVDを借りるわけにもいかず、便利な時代なのでネット通販でアダルトDVDを購入している。やはり最近は強姦もののAVが多くなるのである。
ピンポーンと玄関のチャイムが鳴ると、
「郷さん、日本郵便です。」
 受け取った郵便物には、宛名は郷冠太、とあるわけなのは当たり前だが、中にあるのは強姦もののDVDだから少し笑みが浮かぶのだ。
 それをパソコンで鑑賞しながら、実行したくなるのだが、彼は銀行に採用される位の人物ではあるので、衝動的に動く事は考えはしない。
(何か見つからない方法ってないものか)
と思っている。町田市は繁華街は駅周辺だけなので、少し行くと人通りも少ないところが多くある。夜は街灯も暗いものだ。そして公園が多い。樹木が植えられていて、物陰になるところも多いのである。最大の問題は、人に自分の顔を見られる事だ。
 
引き寄せの法則
  最近何かと話題の、この引き寄せの法則が郷冠太の願望を実現するのに力を貸してくれたのだ。
 毎日毎日強姦への願望、しかも、ばれずにという思いはそれなりの人物を引き寄せる。彼はネットでキャンメルのサイトを見た。(なんでも望みをかなえます、ってか。)
 郷は結婚する前に、強姦の楽しみを味わいたいと願っている。独身の今だからこそ、できるのであって、奥さんがいると難しいのはいうまでもない。
 無論、彼は一日おきには勃起しているのだが、銀行員は風俗にも行きにくいのである。行っては行けないという事はないのだが、やはり風俗嬢とて銀行の口座を持つわけだし、先輩にはデリヘル嬢に絡まれた人もいたため警戒しているのだ。
 その先輩は窓口で、昨晩シティホテルに呼んだデリヘル嬢と顔を合わせた。用件が終わると、そのデリヘル嬢は何かメモを書いてその先輩に渡したのだ。それには、
 昨日の晩のことで、お話したいな。電話してね。しないなら・・・それなりに考えます
と書いてあり、その女性の携帯電話の電話番号が書いてあった。
 
引き寄せの法則2
 
という事で、その先輩行員は夜になってデリヘル嬢に電話した。
「もしもし。電話したけど、あの銀行員です。」
「あ。あの銀行員さんね。わたし、口止め料が欲しいな。」
「いくら、いるんですか。」
「そうね。二百万円ほど、かな。」
「それは、それ、ちょっと高くないかな。」
「あら、あなた、銀行員の職を失いたいの?今時、職って、ないわよね。それで、よければ、そうしましょ。」
「ああ、もちろん、すぐ工面しますよ。でも、これで、この事は終わりに、してもらわないとね。」
「しますよ、多分ね。わたしの口座番号はね、・・・・。」
 それは、郷の勤める支店の口座だった。翌日の昼休みに、郷の先輩は、即、振り込んだという。
「という事で、郷。おまえには、そうなって欲しくないわけだ。」
町田のスナックで飲みながら先輩は、その話を話してくれた。
「ええ、気をつけますよ、ご心配なく。」
「まあ、お前の場合はね、強姦じゃないか、と思うんだけど、いや、これは冗談だよ。」
 郷冠太は冗談でもないんだけど、と思っていた。彼は頭の中で、(林間学校で輪姦したい)などという冗談を思いつくのだが誰にも言えず悩む事もあった。
 彼は銀行員らしく、せっせと貯金に励んでいたので先輩の話は身につまされた。それでデリヘルも呼ばない事に決めていたし、出会い系サイトも入らないようにしたため、性欲の発散の場が見つからない。
 職場は、というとその支店では若い女性を採用するのを見送ってかなりになるため、三十代後半のしかも既婚の女子行員がいるだけだ。
 その女性達は当然お堅くて隙など見せず、余計な話も、した事はない。郷の風采は、といえば中肉中背で眼は細くて平凡そのもの、三枚目というのがぴったりくる。それもあってか、周りの女性からは好意的な目で見られた事はないのだ。そんなある日、ネットでバシャールの事を知った。
あなたがワクワクする事をしなさい
 そうその宇宙的存在は言う。郷冠太は思った。自分にとってワクワクする事は、それは強姦だ、と。
 四次元へ
 ワクワクする事をする事が人間には一番必要であり、それは人間を四次元の存在へと高めていく事になるらしい。
(なんと素晴らしい教えではないか。自分は今まで強姦という行為にためらいを持っていた。が、バシャールの教えによって吹っ切れた。)
 郷は、そう思うとハラハラと涙を流した。イエス・キリストよりも救い主だ。バシャールという宇宙的存在は、日本人でもチャネリングできる人がいる。
(四次元に移行した自分は、地球上の存在とは違うものになる。例えばそう、銀行の金庫の中にも入れるかも。)
 何事にも愛が必要なのです、だから強姦も愛だ、と郷冠太は思った。愛さえあれば、この世は強姦し放題、かなと思いつつ、でも、方法を確立する必要はある、と銀行マンらしく考えてみる。どうすれば?思いついても自分では、どうしようもないので町田の魔女のところに行かなければならない。
 愛こそ人の動機のすべてになれば、戦争もなくなるけど強姦はなくならないさ、と郷冠太は思いつつ、倹約のために変えないガラケーでキャンメルに電話で予約した。
♪愛がすべてだ、もちろん、だから強姦は愛♪と勝手に節をつけて歌いながら郷冠太は踊っている。
 西洋人は愛が好き、だから、きっと強姦も好きに決まっているとも踊りながら考えた。キャンメルも強姦されたい願望が昔はあったのかもよー・・・なるべく多くの女を強姦できれば五次元に行けるかもしれない、と希望を持つ郷冠太であった、なんて古い表現はもう時代遅れのもの、ゴーゴー、ゴウカンタ!
魔女の教え
「・・・というわけで、なんとしても女をものにしたいんです。」
原町田の魔女の部屋で、銀行員、郷冠太は語った。
「ほほほ、あなた、強姦したいのね。」
「え、何故、おわかりになりますか?」
「いえ、精霊が、あなたが入ってきた時に、わたしに教えてくれたからよ。」
「ううん、オカルト的で神秘的ですね。ただ、わたしも、社会的な責任のある職業ですから、ばれたら、まずいし、抑圧できる方法が、あればとも思っているんですが。」
「そんなに深刻に考える必要は、ないわよ。あなたが強姦したいと思っているように、強姦されたいと思っている女性を探し出せば、いいじゃないの。」
「ああ、なるほど。それは素晴らしいと思います。でも、わたし、どうしたら、いいんでしょう。」
「それは、わたしが精霊に頼んでみるわ。うまくいったら、あなたに報酬を要求します。」
「金額としては、いくらですか。」
「まあ最低、五十万円ね。」
「へ、意外と安いですね。そのために、っていうか、ぼく、貯金もしてますし、銀行員だから。その支払いは、大丈夫ですよ。それで四次元に行けたら・・・。」
「は?四次元に?」
「いえ、なんでも、ありません。今日は、引き寄せの法則ですかね。」
「そうね、そうだわ。それは、精霊である神様が引き寄せますよ。」
「それなら、M女かな・・・。」
「え?なにが。」
「いえ、強姦できれば誰でもいい、それならM女・・・なんてところです。」
「よろしい。しばらく、待って。」
若い魔女は、白い両手を組み、頭を少し下げて瞑目した。
 
精霊のお告げ
 「あなたに強姦される女性は、現れます。」
眼を開けると、美人魔女は、そう宣告した。嬉しい限りです、と郷は思ったが、
「では、やってもいい、と。」
「そうです。そのために精霊は、あなたを導くのです。安心して。それから、もう一度、ここに、きてください。その時、ある人と引き合わせますから。」
「はい。それなら、次の日曜日では、どうでしょうか。」
「そうしましょう、それで、よし。」
 部屋を辞してエレベーターで一階に降り、原町田の商店街に出た郷冠太は、あの先輩と、ばったり出くわした。
「西城先輩、これは、どうも。」
「やあ、郷じゃないか。よかったら喫茶店にでも行こう。おごるぜ。」
「ええ、喜んで、お供します。」
すぐ近くの喫茶店に入ると、銀行の先輩、西城秀一は、
「ここがいいな、座ろうよ。」
「ええ。突然だけど、先輩はバシャールって、どう思いますか。」
「ああ、あのニューエイジのやつね。アメリカ人らしい冗談だろう。」
「でも、ワクワクする事を、やる事が大事だっていうのには共感しますけど。」
「そんなー、おれなら・・・あ、コーヒーね。二つ。郷、いいだろう?」
「ええ、いただきます。」
「あ、向こうへ行ったな。おれなら近くの独身女性の下着を見るとワクワクするし、それも手が届きそうなところにあるから、もらったらワクワクするだろう。そんな事、できないじゃないか。」
「西城先輩は女性にもてそうだし、そんな事しなくても、いいんじゃないですか。」
「いや、もてる男ってのは、案外、一人になってしまうんだよ、なんて、そうもてないけどさ。だからデリヘル呼んでみたんだけど、原宿屋っていうビジネスホテルでね。」
「銀行員って、結局お見合いですかね。」
「そうだな。おれは支店長の野口さんから、そのうち見合い話、持ってくるって、いわれていてね。」
「野口二郎さん、ですねえ。ぼくも、かなり勤めれば西城先輩みたいになれますか。」
「なれるよ。銀行員は、まじめだけが取り柄だ。なんか腹が減ったな、カレーでも取るか。」
「どうぞ、ぼくは、いいですよ。」
 入金
 浜野は逆援助交際で得たお金を、アパートの部屋の押入れの中に入れていたが、大分溜まってきたので銀行に預ける事にした。
 近くの地方銀行に口座を作りに行くと、
「いらっしゃいませ。」
窓口で郷、と名札の付いた男に接した。
「口座を作りたいんですけど、普通預金のね。」
「かしこまりました。それでは、こちらの方に記入をお願いします。」
差し出された用紙に、浜野は必要な所を書いて
「これだけですけど、ね。」
と言うと、一万円札を八十枚、添えた。
「こんなにも、たくさんお預けいただき、誠に、ありがとうございます。」
「いえ、何、こんなの、それほどの事では、ないでしょう。」
「職業は学生さんでも、起業か何かされているのでしょうか。ネット関連とか。」
「いえ、そういう事は別に、してませんけど。」
「もし、これから起業などされて、資金がお入用でしたら、ぜひ、当行の融資をお受けください。」
「そうですね。考えてみます。」
 浜野は、くるりと背中を向けて銀行の玄関へ向かう途中、西城、と名札の付いた男から、
「どうも、ありがとうございました。」
と深々と礼を言われた。(逆援助以外でも、金を稼ぎたいのになー。ネット起業か、あ。)
 情報で起業
  郷という銀行員に言われた事が、気になって浜野はネットで起業なるものを調べてみたが、情報起業という言葉もあるという事を知った。だが、自分には大した情報などない。犬のしつけ方をDVD化して億単位の金を稼いだという人の話もあったが、自分にはそのような技術はなかった。人は誰でも情報は持っている、とはいえ実は大した情報を持っているわけではない。会社勤めなら社外秘の情報を知りえる立場にある人もいるとはいえ、それは公開不可能である。
(ネットで起業なんかできんなー。・・・そうたい、逆援助交際の実績が・・・でも、特にテクニックが、あるわけやないし。それに、よく考えたら、あんまり逆援助に挑戦する男が、おらんから、うまくいくと、だもね。それを、ばらせんたい(公開できない)。みんなが、知ったら困る。)
 
若い夢
 
 次の日の学校帰りに、浜野は早手三五郎に出会った。早手は、
「よっ、浜野。浮かない顔しているけど。」
「ああ、なんか、ネットで起業しようと思ったけど、考えつかないから。」
「ふーん。おれたちには、美術があるじゃないか。それを捨てるのか。」
「いや、ちょっと、考えてみてた、だけだよ。」 
 校内の大木の陰に立ち止まった浜野は続けて、
「何か情報起業って、長続きしないようにも思うね。」
早手は、うなずくと、
「もって数年だろう。そのうち他の誰かが、自分はネットでこう稼いだ、なんて現れて、みんな、そっちに行ってしまったりする。そういうものより、美術も電子書籍化されつつあるし、それでもやろうよ。」
そこへ一人の若い女子学生が、ふいに通りかかった。早手は右手を軽く挙げると、
「よう、丘。」
「あら、早手君、お友達と一緒ね。」
「ああ、浜野っていうんだ。」
「あ、浜野です。よろしく。」
「丘サレナっていいます。よろしくね。」
早手は、にやにやしながら、
「ああ、浜野。いいネット起業がある。丘さんのヌードでもDVDに撮ってみたらいいかな。」
「まあ、いやね。そんなの、わたしに、できるわけが、ないじゃない。」
「でも、考えておいてくれよ。」
「さよなら。」
 丘は足早に立ち去った。黒のロングスカートが浜野の眼に残った。痩せていながら彼女の尻の肉は、おおいにある。胸は見忘れたが、やはりあるのだろう。
浜野は、
「今度、もう一度頼んでみるか。」
早手は胸を張って、
「そうしようぜ。なんせ、丘サレナだ。そのまま読んで、犯されな、とも読めるよ。」
「ああ犯すの意味のね。ハーフかな彼女。」
「父親が北欧の人らしいよ。」
 
その時、 
「やあ、お二人さん。お久しぶりー。」
と声を、かけてきたのは同級生の岡だ。早手は、
「なんだ、岡。今日は学校に来てたのか、珍しいね。」
「ああ、なんかAV男優のアルバイトにも、飽きてきたしね。」
浜野は眼を見張って、口にする言葉は、
「なにー、おれにも紹介してくれないか。」
「いいよ。でも、一本で一万円だけど。」
「安いなー、考えておく。」
「あのなー、最近は、ゲイのDVDの方が出演料が高くて一本、五万円らしいよ。」
「岡は出たのか、ゲイDVDに。」
「いや、まだ出てない。それに、それほど金に困った生活でもないし。趣味でやってたんだ。それで、この前、あるAV女優から真剣味が足りないと言われてね。」
早手は、ふむふむ、という顔をしていたが、
「なあ、岡。今度、丘サレナとのDVDを、おれたちで作ってみようか、なんて今、考えていたんだけどね。」
「ああ、あのハーフの女の子だろ。やってみたいねー。」
「だろ?だって君の名前は岡志大(おかしたい)だし、彼女は丘サレナだものね。」
岡志大は大声を出して笑って、
「そりゃそうだな。おれも親が何で、こんな名前をつけたのかって随分悩んだし、名づけてくれた父親に聞いたら、
『志を大きく持つ人間になって欲しかった。』
って言うんだ。でも音読みの影響のせいか、高校在学中に十八歳でアダルトDVDに顔を隠して出れたんだよ。体は大きいしね。」
なるほど、岡志大の体格はプロレスラーみたいだ。浜野は聞く、
「AVって勃起するまで待つ、勃ち待ちってあるんだろう。」
「ああ、でも、おれの場合、それは、なくって、いつもすぐにという意味でのたちまち、でさ。勃起も早いんだよ。」
早手はニヤついて、
「それじゃあ、期待しよう。考えてくれ。」
「ああ、でも君たちに、ちんこを見せるのは少し恥ずかしいな。」
早手は右手の親指と人差し指で丸を作り、
「これに、なればいいだろ。」
「うん、そうだな。君たちも、ちんこ出せば、いいのに。」
早手と浜野は顔を見合わせて拒否の表情をした。岡は、
「ああ、おれだけ出せば、いいもの、できるかもね。それじゃ、課題の裸婦デッサンを家でするから、今日はさよなら。」
岡志大は、ひょこひょこと歩き去った。浜野と早手も、ゆっくりと、その場から歩き始めたのである。
外国と共に
 美魔女・シャンメルに結社のビルの部屋の中で、アシスタント・ディレクターの絵山は疑問を口にした。絵山は東京・練馬区の画材商だったが、今は田宮真一郎の絵の画商もやっている男である。
「ホルス神を日本にお招きするのは、福岡の方が、いいのですね。」
「ああ、日本の魔術本の翻訳なども、福岡在住の人達が多かったですね。今度の金環日食も、福岡では部分ですし、ホルス様は太陽の神ですから、太陽が隠れるところはお嫌いなのです。又、」
そこで、シャンメルは青い眼を輝かせて、
「占星術でも日食は、それまでの権威者、昔なら王の失墜を意味します。2009年の皆既日食の後ですが、リビアの指導者が、あっけなく殺されましたね。」
「ねずみと呼んだ民兵に、でしたね。革命軍はカダフィを捕まえた時に、尻の穴にズボンの上から棒を突き刺したらしいです。」
「それも日食というものが、そういう事を巻き起こせるものね。日本でも、与党は終わったり、しています。で、東京電力もガタガタの現在でしょう。金環日食の後にも、様々な現象は起こりますよ。今まで権威があったものの失墜、と覚えておくんです。」
「はい。では、福岡に行ってみるほうが、いいのでしょうか。」
「行ってみますよ、近い内に。ドイツも当の昔に東西が一つになったのですが、日本の場合は首都を移動させない限り又、ポツダム宣言になりかねませんね。今度は経済の方でかな。すでに中国の家電メーカーの勢いは強いしね。」
絵山も、さすがに、それには暗い顔になった。
 
ひとつのサイクル
 
 シャンメルはラピスラズリを嵌めた左手の人差し指を、自分の鼻の頭にもっていった。ラピスラズリというパワーストーンには、精神の安定、その他の効用が、あるとされている。絵山は、うつむいた顔をあげると、
「確かに江戸という地名では二百六十年にも及ぶ安泰があったんですが、明治元年の1868年から終戦の1945年までは、77年しかありません。1945年から77年経つと2022年ですが、この時にも又、何かの終わりがあるとも、予想できなくは、ないですね。」
「歴史は繰り返す、とヴィーコは言っていますね。」
「では、経済大国としての、一つの終わりが来る、といえるのかもしれませんが、私のような単なる画商には、考えられない問題では、と。」
「東京を中心のサイクルは、いずれ又、破綻するのでしょうね。だから、東京に向かう日本の気の流れを、他のところに移すべきではあるのですよ。とはいっても、すでに世界最大の自動車メーカーは愛知県に本社を置いて変えないし、製薬会社の首位は大阪が本社です。食肉も大阪に首位の会社があるのですから、経済一流と呼ばれた日本の会社は、東京にない事が多いものでしょう?これも第二次大戦に東京で一手に力を握っていた図式とは、異なるために第二のポツダム受諾にはなりにくいとは思いますが。」
絵山は感嘆の表情で、
「グランドマスターは日本語がお上手ですね。それに、その知識は・・・」
「あ、いえ。わたしは母が、日本人だったのですよ。だから、幼い頃から日本語を聞いて、話していたのですよ。日本語の本も読めますしね。」
そういえば、シャンメルの脚は、そんなに長くない気が絵山にはしていたので、これには納得させられたのである。
 
中心の分散
 
 黒髪をポンと左で掻き分けると、シャンメルは、
「そう、福岡に新たなパワーポイントを作るのも、日本の経済発展のためにもなるし、わたしの母は、まだ外国にいますが、とても喜ぶと思います。」
絵山は窓の外を見た。彼には、町田の風景も力なく見えた。自分も先祖の土地に帰った方が、いいのかもしれない、と思ったりした。
あの女
 学校帰りに浜野と岡志大は町田の芹が谷公園に、いた。あまり人はいないし、ベンチに座って、近くの樹木を眺めながら話をするのが楽しかったのだ。岡は白の携帯電話を取り出すと、
「まだスマートフォンじゃないけどさ、いい出会い系を見つけたんだ。で、教えたいと思って。」
浜野は興味で、にやつきながら、
「どんなものなんだ。教えてもらうよ。」
「これだ。写メでOKっていうんだけどね。とにかく登録している女性のすべてが、自分の写メを、のせているという事で話題なんだ。」
「顔を載せない方が、出会い系は多いのが普通だなー。それに変な奴も多いし。」
「うん。大抵の出会い系って、女性登録は甘いだろ。それに無料だしな。ここは、女性もクレジットカードで認証しないと登録できない事になっているから、おかしなやつは、いないみたいだよ。」
浜野は、急に、生き生きとした表情になり、
「そこに、おれも登録するよ。これは、面白そうだな。」
「ああ、そうしろよ。それに、ここはね、自前のメールアドレスが持てるんだ。男性には自慰メール、というものをくれる。10ギガの容量を使えるんだ。もちろんフリーアドレスだし、その自慰メールの画面にはヌードの女性の画像が、ついていて、それを見ながら送信できるよ。」
「自慰を、しながらメールしても、いいって事か。」
「そうかもな、おれは少し、しごいてから送信するし、その画像は毎回変る、という楽しみが、あってね。」
「なんか、イクシーという、セックスでイキたい女性のSNSも、とうとう、できたらしいけど。」
「SNSじゃ、出会うのは難しいよ。おれは、使ってないし、そこは女性だけの、たまり場みたいだってさ。」
 浜野は岡に、その出会い系サイトを教えてもらって、その場で登録してみた。彼らの目の前に、突然、若い男性二人が通り過ぎて、近くのベンチに座った。 
 そのベンチに座った若い男性二人は、やはり大学生らしかったが、座ると、いきなりあろうことか、抱き合ってキスをし始めたのだ。  浜野と岡が唖然として、それを見ていると、顔を離した一人が、
「おまえら、何見てんだよ。おまえらだって、ゲイなんだろ。おれたちと同じ事しろよ。見たいなら、もっと見せてやる。」
抗議すると今度は、ディープキスをして、二人が舌を絡めあうのが見えた。浜野と岡は、すぐにベンチを立ち上がって、その場を早足で駆け抜けて行った。
 最近のゲイの人口は急増中、であるという。なにせ結婚しない男性が昔に比べて、ものすごく増えている。三十年くらい前の八倍、ともいうらしい。これらの男性の中には、もう女性には関与しないと決めてしまった人達もいるらしく、ゲイのブームは2012/05/01現在でも、ひそかに進行中なのである。なにせ、大手アダルトDVDメーカーでも、男子社員をゲイもの、に出させつつあるようなので、少し前にも体育大学関係の学生のゲイDVD出演問題、よりもっと進みつつある感じだ。また、レンタルなどでも、ゲイものが、はやりつつあるのかもしれない。AV関係者も、これからは両刀使いであらねば、ならないのだろう。ただ、浜野と岡は、そういう気は毛頭なかった。
 アパートに帰った浜野は、先ほど登録した出会い系にログインし、自分の住んでいる地域を検索した。すると、やはり登録した女性の写メが、ずらりと並んでいる。その中の一人の顔を見て、浜野はアッと声を上げた。 
 それは、あの心霊写真として写っていたOL風の女だったのだ。(もしかしたら、死ぬ前に、このサイトに登録していたのかもしれない。)そう思った浜野は、取得した自慰メールでメール送信画面を呼び出した。すると、若い女性の上半身のヌード画像がメールを書くところの下の方に現れていた。
件名 お久し振り
 何か、この前、電話をくれましたね。死ぬ前に、ここに入っていたのですか。
 すると、一分以内にメールが返信されてきた。
件名 死んでも生きてます
 死ぬ前に入っていたけど、こうやってメールの返信は、できるのよ。よかったら、お会いしないですか。
 浜野は返信されたメールを見て、ぞっとした。やっぱり、あの女は、おれに電話してきたんだ。そう思うと、ピクピク震える手で返信した。
件名 お会いしましょう
 でも、ぼくに霊眼なんてないから、あなたが見えるかなー、と思いますけど。
 今度は二十分くらいして返信が来た。
件名 ご心配なく
 もちろん、霊眼がないと心霊は見えないんですけど、わたし、なんとかするし、今度の日曜日に町田駅前で会いましょう。時間は午前十一時が、いいな。
(なんとかするって、どうするのかな)そう思いながら、浜野は返信した。
件名 了解です
 それでは、待ってます。
 実際に幽霊は来るのかと、浜野はいぶかしく思いつつも、携帯電話のネット画面を終了させた。
 
福岡へ行く
 魔術結社の「薔薇の星」福岡支部は、博多駅近くのビルの一室であったが、シャンメルと絵山は本部の移転を計画して福岡に向かう事にした。福岡は、いろいろと知られているところだが、何と強姦の発生率が日本一、という年が連続していた事も、あるところである。犯されたいという願望のある女性は、福岡にくればいいという冗談のような本当の話というか、実際のところ、福岡といっても東京より面積も広いので、何処で行われているのかは発表もないようだ。筑豊地方に多いのかもしれないし、犯されるために福岡県を周遊したいというのであれば、それも一興だろう。ただ、そういう女性が、いるのかは、わからないところ、ではある。
 旅行代理店のツアーに福岡強姦体験ツアーなるものが、あるわけもないのである。こういう強姦発生率は、福岡の女性が誘発している事かもしれない、というより、そういう願望の女性が多いといえない事もない。不謹慎だと思われるかもしれないが、引き寄せの法則だの、ワクワクする事を実践しなさいだのという最近のスピリチュアル・ムーブメントに忠実な人間が、実は福岡には多かったりするのかもしれない。閑話九大、いや閑話休題、それはさておき、である。その九大、国立大学の九州大学が移転中なのである。それでシャンメルと絵山は福岡支部を博多駅近くよりも、九大の移転先の近くに移してはどうか、と思っている。2012年現在、残っている九州大学のある箱崎の土地は、かなり近くの飛行機の離着陸でうるさい、というのも移転の一つの理由らしい。
 
福岡支部
 福岡に着いたシャンメルと絵山は、博多駅を降りると筑紫口、すなわち南側の方から出た。
 出てすぐに大型画面の映像が流れているのは、信号を渡ったところのビルにある。人と車の流れは、いつもぎっしりという感じだ。 
 こちら側から出てもあまり、福岡市の観光には役立たない。観光目的なら博多口という北の方から出ると、いいのである。だが、二人の目的は観光にはないので、南から出て歩いて二百メートルほどの場所にある、雑居ビルの一室へ向かった。このあたりは、博多スターレーンというボウリング場以外、遊びの場所はない。
 すべて、会社のビルかマンションで、分譲マンションもあるのだが、小さな木造アパートというものは、すでに消えていて、東京にもまだある銭湯などは一切ないのだ。福岡市内からも銭湯は姿を消しつつある。ほんの数箇所にとどまるほど、銭湯は消えている2012年現在である。
二人の前に一人の若者が現れた。やせて長身の二十代前半、白いカッターシャツに黒のズボンという服装は、その辺のビジネスマンと変らない。右手を挙げると、
「お待ちしていました。福岡支部の文です。」
絵山は「こんにちは。」シャンメルは「元気そうね。」と、それぞれに話した。「こんにちは。ええ、元気そうに見えて、なによりです。」と笑顔を見せて、「支部に、ご案内します。」と言うとトコトコと歩き始めた。
 大宰府へ
 絵山は、「ちょっと、待ちたまえよ。ぼくがタクシーを拾うから、大宰府へ行こうよ。いいですね、グランドマスター?」
「ええ、もちろんですよ。わたしも、興味あります。」
文という青年は振り返ると、二人の近くにすぐ来た。近くを通ってきた個人タクシーを、手をあげて絵山は止めた。絵山が助手席で、シャンメルと文は後部座席に乗った。絵山は快活な声で、
「運転手さん、大宰府まで。」
「はい、わかりました。」
博多駅から大宰府まで車で、そんなに遠くはない。ずっと南に行くとシャープの福岡の大きなビルが見えてくる。それを過ぎて、大野城市に入り、さらに南に行くと大宰府だ。赤い橋が見えたら、そちらには行かずに、左折すると大宰府政庁跡、という緑地帯に出るのだ。大宰府は古い歴史を持ち、太宰府天満宮が有名だ。日曜日は特に太宰府天満宮の方は人が多いが、政庁跡の方は緑地帯だけなので人通りも少ない。その通りの一つの地点で、絵山は車を停めた。
観世音寺
という寺の前だった。大きな木が、いくつも並び、小さな道は寺へと続いている。そこには、人も、ほとんどいなかった。又、その寺の建物の古さは、異様なほど古いのだ。何せ、千二百年以上も前に出来た寺なのだ。国宝の鐘も、ぼろぼろという感じである。
ここは真言宗の開祖、空海が、しばらく滞在しなければならなかったところである。三人は本堂に行った。やはり人は少なかった。それから絵山が先頭に立って、そこを出て右折して、少し歩くともう少し小さな寺が右手にあった。ここも見た感じは、相当に古いものである。
戒壇院
という寺で、三人は中に入った。ここには、誰もいなかった。本堂の前には、お守りなどが置いてある。一つ三百円程度のものだ。絵山は、
「ここは鑑真が最初に来たところだそうですよ。」
 日本史上最大の
 シャンメルは戸惑った顔で、
「仏教の僧ですか。」
「そうです。」
文は、
「そうですか。」
「ああ、ここで戒律を彼は、授けたのだけどね。まだ最澄や空海以前の話だろう。この鑑真という人だけど、盲目になったという話があるけど、実際は、そうではなかったらしい。それは、ある実話からわかるんだ。」
文は、
「何の実話ですか?」
絵山は星の瞬きのように微笑むと、
「この鑑真に人相を見てもらった姫がいるんだ。その姫の名は東子(あずまこ)というんだけど、藤原仲麻呂の娘でね。大変な美人で、水鏡という歴史書には、彼女は世の中に比較するものは、いないという意味の事が書いてあるらしい。鑑真も、ここから当時の都である京都に行った。その時に当代一の美人を彼は観ることになった。鑑真は彼女を見て、
「千人の男と、やる人相だ。」
という意味の事を予言した。その事が、きっかけとなって鑑真は、めくらだ、という噂が広まったのかもしれない。盲目になった事にすれば、この姫の人相など見れないからね。しかし、鑑真は目は悪くなっていたかもしれないけど、人相は見れたんだ。藤原仲麻呂はこれから後に、反乱を起こして捕らえられ、彼も家族も死刑になる。その時に、この東子は・・・今で言えばAKB総選挙なんてやっているようだけど、その当時の京都では一番の美人、と投票されたに違いないこの東子だが・・・官軍側の兵士千人に犯されたんだ。何日か、かけてね。」
文は眼を、ゆで卵のように丸くして、
「へえ、韓国も強姦は多いけど、これは又、すごいですね。」
「そうだね。日本史上にも類例は、ないみたいだ。しかも公開の輪姦だったらしい。東子は次から次へと勃起した官軍の兵士を多分、正常位で受け入れたんだと思う。当然、中出しだったんだろうね。兵士は列を作って待っていたんだろう。前の男が果てると、次に入れ替わる。そして又、果てて、次へ。そこには観衆も、いたわけだし。」
文は苦笑いして、
「よくやれましたね。群衆の見守る中だったら、アダルトDVDどころじゃないですよ。」 
絵山は全くね、という顔をして、
「今のアダルトDVDでも、というか2012年5月5日現在でもさ、いっぺんに千人の男性とやったAV女優って、いないものね。いるのかな、文君。」
「いや、よく知りませんけど。」
「とにかく今のAV女優でも、この藤原東子には、かなわないんだよ。760年頃の話だからね。当時は公開処刑も、あったらしいんだが。正確には764年10月の話らしいけどね。まあ、秋だし兵士も元気いっぱいだったんだろう。それに、かねてからお相手したかった東子と、できるなんて夢のような気分だったんだろうね。」
シャンメルは、「・・・。」文も「・・・。」
「人相って、あたるらしくて、うん、美人って、そんなものなのかな。やっぱり男性なら美人とお相手願いたい、と思うわけだもんね。それで美人も複数の男性と関係を持つ、なんてよくある話だけど、この東子こそ、最強の美人なのかもしれないね、日本史上。またさ、いや脚の間の股じゃなくて、千人の兵士を群衆の見守る中で勃起させる力、っていうのもすごいな。」
文は素直に、
「ええ、すごいです。」
「次から次へと、中出ししていくから、凄い事なんだ。当時はコンドームもないだろうし、AVみたいに顔に、かけたりする事もないはずだからね。東子は超絶的美人だから、みんな三分も、持たなかったのでは、なかろうかと。」
「・・・・。」「・・・・。」
「今のAV女優にせよ、美人タレントにせよ女優にせよ、こんな女性は全く、一人もいない。」
文は感嘆した顔で、
「世界の何処にも、いないでしょうね。数日で、というのは、いるのかな、どこかの国では。しかし、知りませんでしたよ、そんな話。まず学校教育では、教えないでしょうし。」
「ああ、教えないね。八世紀の話だけど、ほとんど知らない人も多いだろうな、日本人でも。あー、それから東子が絶頂を迎えるより前に、どんどん早漏みたいにイってしまってた、みたいな気もするね。美人の方が、すぐ出るらしいし。」
文は疑問を顔にして、
「何が出るんですか。」
「いやー、射精の事さ。だから美人って性的には不満なのかなー。とにかく東子は、それだけの男性を拒否は、しなかった。優しい超美人だな。」
文は、もっとも、という顔をして、
「今のAVなんて、比較になりませんね。」
 偽りの日本史
 絵山は少し考えていたが、やがて
「誰もが知っている日本の美女は、小野小町だね。ただ小町は歌を詠んでいるため、有名なだけで才女とはいえても、美人とはいえるかどうか。第一、絵にも正面から顔が描かれていなかったし、東子のように世の中に比較する者がいない、と言われていたわけでもない。小町は9世紀の女性だから、東子より四十数年後だけど、東子の千人を相手にした話を打ち消すために、小町を大いにもてはやした、という事も考えられなくはない。それに、今、小野小町の方が藤原東子より、はるかに知られているのは、今までの日本の歴史家の努力の賜物ではないか、と思うんだ。日本一の絶世の美女が最後に千人斬りをしたなんて事実は、お子様には教えたくないだろうし、一般向けにも、まずいんじゃないか、と思ってきたんだろう。」
 文はニヤリっと笑うと、
「日本の歴史家って、きんたまが小さいんですね。いや、睾丸が矮小と言ったほうが、いいんでしょうか。」
「そうだね、真の日本一の美女を隠したいがための、小町先生の噂作りに、いそしんだのだろう。だが、小町には穴なし小町、という言葉まであって、有名だけど、つまりは、知的美しさというものだっただけだろう、と思うよ。でもそんなのじゃ、日本一の美女なんて大嘘で、やっぱり藤原東子を、消し去りたい歴史家の意図もみえてくるな。」
文は深く納得した顔で、
「では、やはり藤原東子が、日本一の美女だということですね。」
「そうだな、世界に誇れるくらい、かもしれない。」
その間も寺の境内には誰も来なかった。黄色い蝶が三人の近くを飛び過ぎていった。シャンメルは、
「あら、てふてふが、とんでいくやうですわ。」
絵山は感心して、
「グランドマスターも教養ありますね、大変に。」
「そろそろ、でませうか、ここを。」
絵山も、
「そうしませう。」
 文の話
 境内を出た三人は、絵山を先頭にして歩いていたが、文は、
「この辺は、何もないじゃないですか。」
「ああ、大宰府は、都市としての発展には、取り残されているね。」
 絵山がいうとおり、大宰府政庁跡の近くには特に高いビルもマンションもなく、店も小さなものが、ぽつんぽつんとある程度だ。
 福岡市のベッドタウンのような市が、大宰府である。太宰府天満宮で、もってきたようなところもある。こういう場所に左遷されて、菅原道真が悲嘆にくれた、という史実も本当かと疑いたくなるような、のんきな田舎的な市ではある。太宰府天満宮の近くに、店も、ぎっしりと立ち並んでいる。パワーストーンの店まで、あったりもする。文は、
「今度は、ぼくがおごりますから、喫茶店にでも入りましょう。福岡市の方が、落ち着けますよ。広い店も、ありますし。」
絵山は軽くうなずいて、
「天満宮は、今日は人も多いし、帰ろうか。」
近くを通ってきたタクシーを、文が呼び止めた。今度は、助手席に文が乗って、二人は後ろへ乗ると、文は景気よく
「福岡市の博多駅近くまで。」
「はい。どの辺ですか。」
「近づいたら言うから、スタートしてよ。」
帰りは早く感じるもので、えっ、という間に博多駅の南側に着いた。 博多駅近くは、駅ビルと、その近くをのぞけば、遊べるところは少ないので、日曜は天神と、その周辺に大勢の人は集まる。だから、博多駅の南側なら、のんびりとできるというわけである。
 
文の文学論
 人通りもそんなに多くないビルの地下の喫茶店に、文に導かれて、二人は入った。客は、いなかったのだが、奥の方へ三人は進んだ。腰掛けて絵山は、
「なるほど、静かなものだね。君の名前は、文学男(ぶんまなお)という字だけ見ると、あまりにも、出来すぎた名前のように思うんだけど。」
文は、店主が置いていった水を一口飲むと、
「そう思われます。でも、僕の名前は近末学男だったんです。親父は日本人で、母は韓国人なんですね。ぼくが小さい頃、親父は他に女を作って、家を出て行った。それで、母の姓である文を戸籍名にしました。そのせいか、それから、ぼくは文学に興味を持ったんですよ。」
「ではオカルトには、あまり興味がないのかな。」
「そんな事ないです。薔薇の星の福岡支部長に、させてもらってますから。三十歳ですけど。」
「うん、熱心なので昇格させたんだ。」
「そう。ノーベル賞の詩人、イェイツも魔術団体「黄金の暁」のロンドン支部長だったと思います。ぼくはイェイツのような有名人ではないけど、ぽつぽつと電子書籍で小説を書いたりしてるんです。薔薇の星も宣伝したいし。」
「それには期待したいね。」
「それで、ぼくは日本文学の暗さというか、そういうのを感じるんですけど、なんか自殺した人が多いし、そういう人達の書いたものこそ日本文学だなんて、それは、いやになるんです。で、最近自殺した日本の文学者の死因を考えていたんですけど、わかった気がして。自殺した人、本当に多くて名前あげたら芥川龍之介、有島武郎、太宰治、川端康成と、いますが、川端をのぞけば、自殺した理由は才能のなさを苦にしてのものだったと思うです。」
「そっかー、そうだね。それは、そうだろう。」
「でしょう?才能のある人が、自殺はしないと思います。先に作品を書くものが頭の中にあったら、どうしても、それを書きたいと思うはずだし、そのためにも、より生きて文章にするはずだ、と思うんね。三島由紀夫も同じだと思いますよ、彼は、それを派手にやった、それも日本人として、すべきでない行動をとって。」 
 その時、店の主人が注文を聞きに来た。他に人は、いないらしい。文は、
「キリマンジャロ・コーヒー三つ、にしてください。」
「かしこまりました。」
文は笑顔で、
「ぼくのおごりです。それで三島由紀夫って国賊なのに、今でも本は出てますね。あれ、よくないですよ。反社会的行動をとる人が出たらいけないんじゃないかと、ぼくも文だけど国籍は母もぼくも日本だし、愛国者とはいえないかもしれないけど、文学って、そんなものじゃないと思うんね。芥川は長編書いてないから、そう、長編を書く才能が、ないのを苦にしての自殺とも考えられます。それは太宰も同じで、やはり長編といえるものは、ないみたいですよ。」
「最近、映画監督が、よく自殺するのとは違っていたわけだ。映画監督は仕事が、なくなる事を苦にしてだと思えるね。」
「ああ、当時の日本て、文学おおはやりで活字読む人いっぱいいたのに、書けなくて自殺した人の作品を、ぼくたちの教科書にまでのせてたですよ。ぼく日本人の学校ですから。川端康成も老人になってからだけど、死んだのは書けないというのが原因だと思います。」
絵山は少し考える顔をしたが、
「そういえば東京は自殺する人が多いね。最近でもタレント、女子アナウンサー、映画監督、いくらでもいる。これは東京の暗さもあるのでは、と思っているんだけど。」
「ああ、東京って暗いですね。ぼくは母と、はとバスに乗って見物したくらいだけど、母は福岡の方が、いいって言って。それで福岡に母と二人暮らしです。で、だもんですから、ぼくは明るいものが読みたいんですよ。日本の文学には暗いものが多くあって、それが正統みたいな。いやだなーと思います。それもこれも作者には自分には才能ない、と思いながらも書いているって感じ。私小説なんて想像力がないから、自分の体験談に色つけて出してるだけ。全く、こんなもの読みたくもないの多いです。それで薔薇の星の教団の文書は明るかったし、母も幸せにしてあげたいから、今も続けてます。」
 母子家庭
  絵山はコーヒーを一口啜ると、
「君は日本の教育を受けた割には、韓国訛りが強いね。」
「いえー、ぼくは正しく日本語を話せますよ。ただ、親しい人には母のような韓国訛りで話してみるんです。そしたら日本人は、どう反応するかと見てるんです。そしてぼくを韓国人として扱うかという、その感じを味わいたいんです。ぼくは母と同じ気持ちを味わいたくて。」
「まあ、ぼくらは君が韓国人でも別にかまわないよ、そうですね、グランドマスター?」
「ええ、気にしないのですよ、文君。」
文は、ほっとしたような、がっかりしたような気がした。文もコーヒーに口をつけて、
「今、韓流ってネットで嫌っている人もいるけども、実は電機メーカーはテレビをアメリカで売るのは韓国に負けているんですよ。何故、韓国ドラマとかが勢いがあるかというと、韓国企業が資本をテレビとかに、入れてるからと思います。逆に日本のテレビは今、電機メーカーは大半は赤字だから広告費も出せないでしょう。それで日本のテレビドラマなんて面白くなくなるんでは、とね。ぼくはテレビは見ませんけど。」
「そうだね。テレビでは韓国に負け、電子レンジとか、なんとかでは中国に押され、ってとこだよなあ。」
シャンメルが、いきなり割り込んで、
「今のままでは、日本の電機メーカーは赤字を続けるでしょう。これら日本の状況を一変させるためにも、ホルス神の力が必要です。」
文は納得して、
「あ、ぼくも日本国籍だから、日本には勢いを取り戻してほしいです。母も日本国籍は、とってます。」
日本の現状
 絵山は遠くを見たり近くを見たりして、
「それはそうだけど、日本人でもハイアールとか買うんだから。それで国も別に何もするわけでもないよ。安ければいいんだろうな。で、日本が家電を撤退する日は遠くないとか、ハイアールの方では言ってるらしい。日本人は、あぐらをかきすぎたんじゃないのかな。自分たちが、いつまでも世界一だなんて、特に電機メーカーの人間は思ってたんじゃないかと思うね。やれ、韓国ドラマが、どうとかいうより日本の産業の一面が斜陽なのに気づくべきだと思う。やっぱり金がかかっているものが面白いし、俳優にしたってギャラが高い方が元気も出る。今の韓国は電機メーカーだけでも少し前の日本みたいに沸いているんだ。ぼくも大宰府では古い日本の歴史を話したけど、現代から眼を背けてはいけないと思う。で、少し明るい話も出てきてるんだ。それは、アメリカが中国の工場をやめるという話だ。それでアメリカ国内で数百万人の人を雇う計画らしい。中国人の人件費が高くなったらしくて、手をひくそうだけど、日本も、すでに、いくつかの会社は中国を引き払っているらしい。アメリカの失業問題は実は中国にあったわけなんだ。」
文は微笑んで明るくなると、
「日本の景気が、よくならないと母の仕事もよくなりません。中洲で韓国女性のキャバクラを、やってるんです。最近は日本の家電メーカーの人達が来なくなったよ、と言ってましたしね。」
「ふーん。結構いるんだね、福岡市に韓国の女性が。」
「ええ、みんな若いんです。もちろん、韓国生まれ育ちの美人が来ます。そして福岡の男性と、よく結婚しますよ。」
 襲われて
 町田の美術大学の日本画学科二年生の丘サレナは、北欧人の父、日本人の母との結婚で日本に帰化したという家庭を持っている。
 彼女は小学校三年生までスエーデンで育ったが、以後は日本の学校だった。それで自分の名前を続けて読むのが苦痛に感じる年頃になったのが、高校三年の頃で、でも、その事を親に言うのは何となく気まずい思いがした。彼女は父親譲りの白い肌と彫りの深い顔立ちで、背は170センチはあったが、豊満な胸と尻を持つように育ってきた。それでJRで調布の私立高校に通っている時によく、満員電車で痴漢された。ひどく込み合ってくると誰も他人の動作など見ていないために、彼女のスカート前面の上からパンティの部分を指で強く、さすられたり、後ろから豊満な両胸を思いっきりつかまれたりした。その時、サレナは驚きと共に快美感を覚えたため、痴漢ですと言う事もできないまま、それらの男性の手は引っ込んだのである。又、後ろのスカートの上から硬いものを、こすりつけられている感覚をよく感じていたが、それが男性の硬直したものであると知ったのは、高校三年の夏に同級生の男性に、男子トイレの前で会った時に、自分の手を無理やりその男子生徒の股間に当てられた時に感じたもの、と同じだと思ってからだった。その生徒はラグビー部のキャプテンをしていた。サレナが自分の手を振り切って戻すとその生徒は、
「丘、おれとどうだ?芹が谷公園のあるところなら誰にも見られないから。」
と言うとにやっとした。彼女は何も答えずに自分の教室にミサイルのようなスピードで走って帰った。
 放課後
 その日の学校が終わって、丘サレナが原町田から芹が谷公園の近くを歩いていると、
「おい、丘。おれひとりじゃあ、物足りなかったんだろ。」
という声がして、目の前にあのラグビー部のキャプテンを真ん中に、その両脇には、おそらくラグビー部の男子生徒二人が、ぬわっと現れた。サレナは何か処女の危険を感じて駆け出したが、
「待てよ。」
とラグビー部のキャプテンに軽くディフェンスを体ごとされた。彼女はキャプテンに、ぶつかると、彼にがっしりと両肩を抑えられて、
「公園内に行こう。」
と耳元で言われた。抵抗しようにも強い力でサレナは公園内に連れ込まれた。奥の森のようなところには、誰もいなかった。サレナは又右手をラグビー部キャプテンの股間に当てられた。それは学校のトイレの前の時よりも大きくなっているという感じがした。キャプテンは他の二人に目配せして、
「おまえらも触ってもらえ。」
と告げた。二人はサレナの両隣で彼女の右手と左手をそれぞれ自分の股間にあてがった。(あっ)彼女は自分が、ちくわの大きなものを両手で感じていると思った。少し手を動かすと、それはシイタケか松茸のような気もした。
「おっ、手を動かしてくれたよ。いいぜー。」
「おれのも、いじってくれ、あっ、いきそー。」
二人は首を、少し傾けていた。
 月夜
 
「おい、おれの続きが、あるんだ。それが終わったら、おまえらも一人ずつ、この女を味わえよ。まずは、おれが味見するからよー。」
キャプテンはサレナの両手を、二人の股間から引き離すと思い切り彼女を抱きしめた。
「おー、たまんねえ。この前行った吉原のソープの姉ちゃんより成熟してんなー。」
と上ずった声を出しながら、ふくれあがった自分のものを、サレナのスカートの上から彼女のVゾーンに押し当てた。
「おい、おまえら、向こう向いて誰か来ないか見張っててくれ。」
「はい、キャプテン。」「わかりました。」
二人は背を向けて、公園の噴水の方を見ている。が、誰も居なかった。もう夕陽は消えかかっていたので、黒炭のような闇が来るかとおもいきや、雲の間から満月が見えた。しかし、すぐ雲が覆うと公園のいくつかの街灯以外灯りはなかった。キャプテンは学生服のサレナの胸を揉みほぐした。彼女はいくらかの快感を感じたが、このままではいけないと思いもした。逃げようと思いつつも、キャプテンの荒々しい指は彼女の脚の間に触れた。その時、サレナは少し脚を開いてしまったのだ。彼は彼女を草の上に寝かせると覆いかぶさって、彼女のスカートを下に下げ始めた。すぐに純白のパンティが露わとなった、その時、
「おいおい、坊や、こっちに来たら駄目だよ。」
と見張りの一人が声を上げていた。サレナが横目で見ると、そこには中学生くらいの少年が立って見ていた。少年と眼が合ったサレナは、
「助けて!警察を呼んで!」
と叫んだ。キャプテンは、かまわず彼女のパンティをずり下ろしたので、サレナの濃い目のアンダーヘアが現われた。
 丸い月
 少年は冷静な顔で、
「やめろよ、まるたんぼうの脳なし野郎。」
と今はサレナのセーラー服の上を脱がせたキャプテンに言った。彼女のふっくらとした大きなブラジャーに口をもっていきかけたキャプテンは、少年を振り返った。そして、
「馬鹿野郎、何ぼんやりしてるんだ、このがきを殴って外へ放り投げてこい!!」
二人は慌てて少年に詰め寄った。その時、雲は消えた。明るい満月が、その場を照らすと、少年は、
「がるるるる。」
と獣の叫びをあげた。そして、詰め寄った二人を飛び越えて、今は立ち上がっていたキャプテンに飛びかかった。
「うあっ、。」
少年に飛びつかれたキャプテンは、どしんとその場に尻餅をついた。そして少年の顔を見ると、信じられない表情になって、
「狼だっ、こいつ!」
少年の顔は全くの狼に変貌していた。キャプテンに回していた両手も狼の毛むくじゃらな前足になっていた。その前足の爪を、キャプテンの喉に当てた。ぐっ、と狼になった少年が爪を立てると、たらたらたらと赤い血が流れ始めた。
「わおおおおおん。」
少年は吼えると、キャプテンの両眼を二つとも両手で抉り取り出した。
「うわああああああ。」
絶叫のような悲鳴をキャプテンは、あげた。その両眼は、ころころと草の上を転がった。
 闇夜に
 見張りの二人は眼を見交わすと、一目散にダッシュをかけて、その場から逃げ出して行った。サレナはパンティを降ろされたままの姿で少年に、
「ありがとう。こっちに来て。」
と誘った。もちろん彼女の眼には、驚きは隠せない。何故なら、その少年の顔は、まだ狼だからだ。両手も狼の前足である。
その頭部で人の言葉が、わかるのだろうか、が、狼の少年は、キャプテンから離れて二メートルほどのところに座っているサレナに近づいてきて、彼女の前に立った。キャプテンは、うううと呻きながら、
「眼が見えない。闇夜なのか、痛いいいいい。」
と口走っている。少年は振り返って飛びかかろうとした時、サレナは、
「待って。あなたにお礼をしたいの。その男はほっておいて、もっと近くに、来てちょうだい。」
その時、満月に黒い大きな雲がかかった。すると、みるみるうちに狼の顔と両手は、少年の顔と両手のあり様に戻っていった。
「まあ、不思議ね。わたし、夢を見ているのかしら。」
彼女は口にしたが、ごそごそと苦痛にうごめく二メートル離れたところの男の気配で、
「夢じゃないわね。よかった。ねえ、あなた、歳はいくつなの?」
「十八になったばかり。今日が誕生日だ。」
照れ臭そうに少年は答えて、彼女の半裸身をまぶしそうに見つめた。サレナは微笑むと、
「それなら大丈夫ね。わたしの方が、少し早生まれ。ね、抱いて。」
と、両手を少年に差し出した。
「あ、いいの?こんなところで。」
「もちろん、一番感じそうだわ。わたし処女だけど。」
「ぼくも実は童貞だけど、抱いていいのかな。」
 初めて
  サレナは黙ってブラジャーを外した。下着と同じ色の白い巨乳がゆらゆらと揺れた。少年はひざまずくと、彼女の西洋人の両胸の谷間に顔をうずめた。そして右から左へと乳首を吸うと、それは尖って、ふくらんだ。サレナは長い真っ直ぐな白い両足を大きく広げたので、大きな陰唇が、ぱくりと開いた。少年は、ぎこちなくズボンを脱ぎパンツをおろすと、もう闇夜の薄い月に向かって、ペニスは伸びていた。右手で、それを握りつつ、彼女の迎える入り口へ挿しこんでいった。サレナは経験した事のない快感に、頭の中も肌と同じく白くなった。少年も、ぎこちなく、心地よくペニスを出し入れし始めた。少し離れたところで、キャプテンは寝転がって身をよじっている。草が、かさかさと音を立てた。サレナも快感で身をくねらせ、腰を少し動かしているので、ガサガサ、と草がこすれる音を出した。やがて、少年の腰の動きが早くなり、あっ、と小さく叫んだ。少年の射精を自分の中で感じたサレナも、
「ああーん。は、あああんっ。」
と美声で、尻を浮かせて身悶えた。その時、月が、ますます、まん丸くなったように現われると、少年の顔は次第に狼の顔に変っていった。
 サレナは、子宮の快感と目の前にある狼の顔を、見ている頭の中の混乱とで、気は変になりそうだったが、狼少年は、
「大丈夫。今、顔を元に戻すから。」
と、サレナの膣の中で小さくなっていく、彼のペニスと同じスピードで、自分の顔を狼の顔から少年の顔に戻した。それから彼は、サレナから出た。
 紅潮した顔で彼女は、
「よかったわ。初めてだったけど痛くもなくて、とても気持ちいい。」
「ぼくも、そうだったな。あ、ぼく佐山牙っていいます。孤児だから中学出て働いてるけど、君は学生みたいだね。」
「ええ、もうすぐ卒業だわ。」
と色っぽく言いながら、足首から外れた白いパンティを引き上げた。佐山もパンツを履いて、ズボンを履く。彼は、セーラー服を身につけたサレナに、
「又、危ないかもしれないから家まで送っていこうか。」
「ええ、そうして。あなたの携帯番号を、それまでに教えてね。」
「教えるよ。行こう。」
「そうね。行きましょう。まんこ、感じたわ。」
二人は、近くに転がったまま、両眼に手を当てて、ずるずる動いているキャプテンの横を冷たく通り過ぎた。
 西の海岸で
  シャンメルと絵山と文は、福岡市の西の方の海岸にいた。まだ海水浴客の来る季節、ではないため閑散としている。その浜辺の向こうには島が見えるし、半島も見える。絵山は、
「日本の海底には、大変な資源が眠っているらしいですね。国連に申請した日本の海底の領土が認められたそうです。」
シャンメルはうなずいて、
「数十年先には、世界一の海底の資源国になるし、今の劣勢の経済も、再び取り戻せると思います。そのためにも、ホルス神をお迎えし、特に、その守護を仰がなければなりません。」
絵山は、
「ホルスの永劫は日本から始まる、という事ですか?」
「そう、もともとエジプトを守っておられましたが、エジプトの民の不信仰さに呆れられて、太陽にお戻りになったのです。」
「アレイスター・クロウリーのところへ、使者を送ったのは何故ですか。」
「それは、当時、イギリスは太陽の沈まない国、といわれるほど広大な領土を持っていたからです。今は、ありませんけどね。現在は日本にホルスの栄光を、現そうとされているのですよ。何故なら日章旗の赤丸は太陽を表し、日の本、つまり太陽の国である、と宣言しているからです。ホルス様は、地球を整備された時、日本の海底に資源を集められたのです。それで、その資源に気づかない時は懸命に働いてきたし、中近東のように石油だけで生活するようにもならないできました。」
「勤労してきた癖は抜けない、という時になって、豊かな資源が現われたわけですね。これを実用化するためには労働力もいるし、国策として、やってほしいものですが、又、外国人労働者でも使ったりするのか、どうか。」
「さあ、とにかく、ここから見える海の底にも資源があるし、かつてのエジプトのように何でもある国となるでしょう。エジプトにはないとクレオパトラが嘆いた雪も、日本には降りますしね。」
 天啓
 シャンメルは博多湾を指差した。すると、その海面からぬう、と人の顔に体はイルカのような生き物が跳ね上がった。絵山と文には一瞬で、よく見えなかったらしい。文は、
「今の、半魚人ですか。」
シャンメルは首を横に振ると、
「河童なのですよ。実は博多にも、カッパ伝説は、ありますが、岡に上がると、いじめられるので、海の中に潜んでいるうちに体はイルカみたいになった、とテレパシーでわたしに交信してきたんですよ。」
二人は半信半疑の顔つきだが、絵山は、
「もう、出てきませんね。イルカもテレパシーを出しているとは、いいますけど。」
「そう。あのカッパは、最近の日本の出来事は天啓だと、言ってます。」
絵山と文は、考えこむ顔になった。白い雲が、するすると流れていく。
「それは中国からの人間を、雇う事の愚。あるいは観光目当てで、古都に行く事の愚かさみたいなものを、天の戒めだとカッパは言いたいのですね。」
シャンメルは右手を高く上げて左右に振ると、
「あのカッパは能古島に帰るそうです。時々、宝当神社まで遊びに行くそうですよ。あ、それから自分はイルカのコスプレをしているし、体は、もちろんカッパのままだと言ってました。」
絵山は楽しそうな顔をして、
「では、伝説は本当だったんですね。時々、若い女性を、さらっては、自分たちのすみかに連れて行ったセックスしまくった、とかいうのも。」
 画廊
 緑川鈴代は二十代に、叔母の銀座の画廊、「銀月」で働いた事があった。
 アシスタントとして仕事を覚えた後、急に伸びてきたインターネットの美術ショップに社員として入社した。業績は右肩上がりだったので、法外な報酬を貰えた。ネットショップ、とはいっても彼女は都内のあちこちに営業に回っていた。主に学校、特に大学や医院それも、大きな病院を回って、絵画の注文を受けるというものだった。
 叔母の緑川鈴華は、行方不明となってしまったが、鈴代は叔母と同じく、自分の画廊を銀座に持ちたいと思っていた。最近の彼女は、そのネットショップでは店長みたいな感じで責任者として、管理を任されていて、それで高収入なのだが、動く事は、なくなっていた。
 そんな時、町田の美術大学生、浜野貴三郎との性的交遊は、彼女にとって、何よりのストレス解消ではあった。仕事人間の鈴代は、叔母の鈴華と同じように独身を長く続けている。
 さて、その銀座であるが、昔の銀座と何が違うかといって2010年あたりには、中国人を多く見かけるようになった、という事だろう。数十人位の中国人が固まって、銀座の歩道のわきのところに座り込んでいる姿も見られる。現に鈴代も、金を持った中国人に絵を売った事もあった。そんな彼女も、ついに銀座に画廊、「金月」を開店させた。
 彼女は、ネットショップの営業の頃に知り合った得意先に、案内状を送った。電子メールなどというものでは、やはり、誠意が伝わらないと考えたからだが、何でもネットで売れる、と思ったら大間違いなのである。特に美術関係は、あまり売れないものなのだ。
 一つは高額であるという事もあるし、画像では、絵のよさが伝えきれない、というのもあるだろう。 
 金月を開店させる前に、鈴代は浜野に絵の制作を依頼してみた。場所は、ホテルに行く前の、小田急デパートの最上階のレストランで、
「今度、銀座にね、画廊を出すから、何か絵を描いてみない?」
浜野は、パフェを口にする手の動きを止めて、
「それは、すごいですね。よかです、やってみますよ。」
と答えて、にこやかな顔をした。
「買い手が、つくまでは、お金を払えないけど、それでもいいかな。」
「もちろんです、ま、もしかして売れんのじゃないか、と思うですけど。」
「それは、やってみないと、わからないわよ。わたしも浜野君の絵って、まだ見た事なかったわね、そういえば。」
「ああ、学校で描く分しか、まだ描いてないですから、何とかしてみます、緑川さんの店のためにも、がんばりますよ。」
「そう、がんばってね。この後のホテルで頑張った分には、すぐにお礼を払うけど。」
 鈴代は二十代の女性のような眼をして、ウインクした。浜野は、ごくりと生唾を飲んだ。鈴代は浜野には、避妊具なしで終わりまで、セックスを、させているのだ。妊娠したら、という浜野の問いにも、
「その時は、その時だけど、わたしも三十も半ば過ぎだし、大丈夫だと思うけどね。」
と呆気羅漢とした表情で答えたものである。
 絵の制作
 それから浜野は、町田駅近くのビジネスホテルで、緑川鈴代と逆援助をして報酬を貰い、自分のアパートまで歩いて帰った。
 町田駅前の商店街には女子高生が、よくうろうろしているが、実際、いけない事を求めて、パパを探している場合もあるのだろう。さっきも浜野は、女子高の制服を着た茶髪の女の子に、物欲しげな視線で見られた。が、浜野の頭は頼まれた絵の製作で、ぐるぐると土星の輪のように回っていたのである。浜野は、なんとなく美術の道を選んだだけで、有名な画家になろうという気持ちもなかった。それが、振って沸いたようなこの話。
 部屋に帰って一時半の画面をパソコンで見た時、ハッと浜野は思った。そういえば、あの女と会う約束だった。でも、もう大分、時間もすぎているから、いいや、と思い絵筆を手にして、机の上の画用紙に描き始めようと構えると、スススススと細かい筆は、黒い線を描き始めた。
(なんだ、これは)
 それは、まさに、自動筆記みたいな感じで、絵が描かれていくのだ。浜野の右手は、自分の意思で動かしてはいない。手が勝手に動くという感じである。三十分にも渡って動いた右手は、最後の線をえがくとピッタリ、ピタッと止まり、上に絵筆を持ち上げて、右に動いて筆をおろした。
 さっきは緑川鈴代で、何回目かの筆おろしをしたのだが。できた絵を見て、浜野は天地がひっくり返るような感覚を感じた。
 
絵に現われたのは
  それは、あの女が裸体となって描かれていた。
 今日の午前十一時に、町田駅前で会う約束をしたあの女である。幽霊だと思っていたのに、その裸身は、あまりに、なまめかしい。 アンダーヘアも、濃い色で描かれている。
 浜野は即座に勃起したが、気を落ち着けて、眺めているうち自分も全裸になっていた。その時、携帯の着信音が鳴ったので、見てみると新着メールだった。それはあの写メでOK、という出会い系サイトからのメールで、あの女からのものだった。
件名 遅いわね。
 もう来ない、と思って帰ったけど、あなたの残留思念が町田駅の小田急デパートの近くにあったから、それを追っていくと、あなたのアパートの部屋が、わかったわけ。で、今あなたの頭の中をコントロールして、あの絵を描いてもらったのね。どう、そんなに驚かなくても、こんなのオカルト的な事の、ほんの初歩のものだわ。
浜野は全裸で、それを読むと急いで返信した。
件名 ごめん
 ちょっと大事な用が、できたもんだから、ぼくの将来にも関わるものでねえ、今からでも会いに行くよ。Iは会いに行く、なんて。
それを送って、五分もせずに返信が来た。
 現われた女
 件名 玄関前に
いるわ。ノックしても、いいかしら。
 浜野は蒼ざめていったが、少し震え始めた指で、
 件名 もちろん
できれば、ノックして。
  トントン、と木造の玄関扉が叩かれた。浜野は心臓がペタンコになりそうな感覚を覚えつつ、玄関へ駆け寄ると急いでドアを開けた。
(あっ)そこには、あの携帯電話に写っていた、そして出会い系サイトに載ってもいた、あのOL風の女性が立っていたのだ。その女は、
「はじめまして、ね。そんなに、こわがらなくても、いいのよ、だってわたし、幽霊じゃないのだから。」
「えっ?じゃあ、あの下半身だけの死体は・・・。」
「こんな場所では、そんなこと、話せないわよ。よかったら、あがってもいい?」
「あ、いいよ、あがれよ。」
浜野の六畳一間の部屋に、その女は上がってきた。浜野、今見ているのは夢かと思いつつ、
「まあ、狭いけど、座ってよ。幽霊じゃなければ、君は一体・・・。」
女は座ると、
「生身の人間よ。わたし、名前は与我那美子(よがなみこ)、っていうの。」
「ああ、ぼくは、浜野貴三郎(はまのきさぶろう)って、いうんだけど。」
「そう、覚えておくわ。でね、わたし、自分の名前の姓だと思うんだけど、あ、せいは、かばねの姓ね、それで姓のせい、なんてね。うまいと思わない、それ、どうでもいいけど、名前の影響だったのかな、ヨガを始めたのが六歳の頃で、場所は福岡市中央区のヨガスタジオに父に連れられていったのね。わたしの父はインド人なのよ。カレーの店を福岡市に、いくつも持ってて、今度、町田にも出すんだけどね。それでさ、名前は那美子、だから、ヨガ並み子、みたいで、いやなのね。だって、長い事、ヨガをやってきたから、与我最優子(もゆこ)、に改名したいって父に言ったら、いいよ、っていってくれて。今、改名中なんだけど。」
 あれは秘法
 与我那美子は、ほっと、そして、もう一回、ほっと息をつくと、
「父の店のために、町田を調べまわってたんだけど、わたしさー、いたずら心が湧いてきて、やったんだー。」
「なにを、したんだ、あ、ぼくは熊本出身だけど。」
「そう、熊本なら行った事あるわよ。それでね、上半身と下半身を切断して、下半身を芹が谷公園のベンチに置いたわけ。」
「いえええええ。そんな事、出来るのかあ。うそ、ついたら、いかんよ。」
「それがねー、ヨガの秘儀なのね、これは。もっと上達すれば、手とか、頭も切り離せるのよ。」
「そういえば、警察は、あれから下半身が行方不明になったと発表してたねー。」
「でしょ、わたしが引き寄せて、自分の上半身とくっつけて、元通りにしたんだから。これはインドっていうか、ヒマラヤで修行して身につけたのよ。幸いわたしの父の友人が、インドでヨギだから、そのつてで、行けたんだけど。」
「そうは聞いても、信じられないなー。本当に生身の女性ですか、あなたは。」
与我那美子は、にこっとすると、
「わたしの手に、触ってみてよ。」
と言いつつ、右手を浜野に差し出した。浜野は、それを右手で握ると生暖かった。離すと、名残惜しい気がした。
 出会えて
 与我那美子は明るい表情で、
「とにかく会えて、よかったわ。今日の待ち合わせには、すっぽかされるし、会えないかとも思ったんだけど、でも、あなたは町田駅の小田急に来てたわね。」
「そうだったなー。でも、あれから、ぼくの携帯に写した写真に起こった変化は、心霊現象だったのかな。」
「いえ、あれもね。わたしが念を送って、あなたの写した、わたしの画像を変化させたのよ。」
「それもヨガの秘儀か、何かなのかな。」
「それは、ヨガにはないけど、わたしがヨガの修行を通じて得た能力なのだわ、きっと。やれるとは、思ったのよ。自分の携帯に撮った写真の画像は、変化させられたから。」
「それは、超能力だなー、全く。」
 浜野は感心したように、右手を顎に当てた。与我那美子は結跏趺坐の姿勢を取ると、何やら印を結んだ。すると、彼女のシャツは、するり、と取れてしまい、赤いブラジャーと白い肌が、浜野の眼についた。
「ええー。とても、いいけど、これは、意図してやったのかい。」
美那子は又、印を結ぶと、服をつけた姿に戻った。
「そうよ。意図してね。あなたが版画美術館のところで、わたしの下半身を写真に撮ったのは、わたしが意識体を下半身に置いていたから、わかったわ。それで、その日は、わたしの意識体が、あなたの後を追っていったわけ。」
「それで、不思議な現象が起こったわけだ。」
「わかってみれば、不思議じゃないかもね。どう、あなたもヨガをやってみる気、あるかしら。」
「ぼくは、ちょっと・・・考えてみます。」
 身の上話
 浜野は、続けて聞いてみたい事を問いかけた。
「与我さんってOLなのかなーと思って、あの、顔が、なにか、そんな感じだから。」
美那子は、ふふふ、と小さく笑うと、
「いいえ、OLは、した事がないのよ。高校を出てインドに行って、ヨガの修行をしてから帰国して、それから父のカレーの店を手伝ったりしていたのが長くて、それは、お勤めって感じだったからOLみたいな顔に、なったんじゃないかとね。」
「ああ、それでね。インドで、できるようになった凄いことって、何かある?」
「それはね、多分実行しないけど、自分で死ねるようになったというか、そういう技法も身につけたのよ。これはヨガナンダという人が、自分が死ぬ時に、やったものなの。つまり、脳のある部分を意図的に停止させるのよ。途中までやったけど、だんだん意識が遠のいていくから、これ以上やると死ぬんだ、と思って、やめたの。これは、結構高いヨガのテクニックだわ。」
「なんか、色々できるんなら、動画でも撮って、動画共有サイトにアップロードした方がいいような・・・。」
「あれは、疑いの目で見る人も多く出そうね。でも、版画美術館のベンチで発見された死体の謎は、迷宮入りね。」
「ぼくが、話しても、誰も信じないだろうな。」
「わたしが話しても、同じと思う。ヨガって、美容と健康の体操みたいに思っている人も多いしね。」
 美那子は、そこでウーン、と背伸びした。ふっくらとした両胸が、形よく、シャツに浮かび上がる。
 
今は
 ふくらんだ、その胸に浜野の視線は流れたが、美那子が両手を下ろすと、すぐに丸みは消えた。彼女は浜野に顔を向けると、
「出会い系も、ただ入ってみただけだったし、浜野さんを追ってみたのも、ただ、自分の能力を試したかっただけなのよ。悪いけど、男女関係なんて、考えていないから、今日は、この辺でね。失礼。」
 すっ、と浮き上がるように立ち上がった美那子は、滑るように玄関まで歩いていくと、ドアを開けて出て行った。中から鍵をかけた浜野は虚脱感に襲われたが、
「あの絵、あれを緑川さんに持っていこう。いい加減だけど、何か面白いことに、なるかもしれないなー。」
と一人で話してみた。机に戻って、その絵を見ると、やはり人間離れのしたタッチがある。色も数種類でしかないが、カラフルだ。その絵の左に名刺が置いてあった。
カレーショップ ヨギ 東京都町田市原町田三丁目・・・
(042)623-xxxx 
与我那美子
 ざっと見たので細かなところは読まなかったが、住所も電話番号も載っている。(ちゃっかりしてるよ、あの女)
 
電話した女は
  ただ、と浜野は思い出した。あの携帯に写った幽霊ですよ、と電話してきた女の声とは、与我那美子の声は違う気がする。それに緑川鈴代のことまで話していたが、それに、わたしが相手にしてあげる、とも言ったのに、美那子は、さっさと帰ってしまった。何故・・・その時、携帯電話が鳴った。
「はい。浜野です。」
「あ、わたしよ。今さ、私の事を考えていたでしょ。」
あの女だ。声は、やはり美那子と違う。
「そうだけど、あんた一体、誰?」
「あはははは。わたしね、美那子の死んだ姉、なのよ。それで、あの事件で、美那子から通信してきたから、色々調べて電話してみたの。面白かった?」
「そ、そんなー。なんか、怖いです。本当に、あなた、幽霊なんですかあ。」
「それは、美那子に聞いたらわかるよ。でも、わたしこれで、いたずらは、やめるから。あんたと美那子が、どうなるか楽しみだわ。」
浜野の感覚は、ますます、混乱していた。
「でも、美那子さんは、ぼくとは、男女関係・・・。」
プチ、と携帯電話が切れた。ひゅーうううう、と窓の外に、つむじ風がした。浜野がレースのカーテンを開けて、外を見ると窓の外に与我那美子の姉らしき顔が、笑って映っている、と思った瞬間、それは、すでに消えていた。
 回春
  ひまな大金持ちの白山吾郎にとって、目下の趣味は若い女性だ。
 孫の田宮ユナも、いい年頃だが、まさか孫娘に手を出すわけにはいかない。ユナは母の可奈には、あまり似ていないためか、愛情もそれほど湧かないのも事実だ。そんな平日のある日、原町田の商店街を夕方、散歩していると、向こうからやってきたのは、セーラー服を着た女子高生だ。彼女と眼が合った吾郎は(いい顔しているな、キャバ嬢にでも、なれそうだ。)
「おじさん、わたしを遊びに連れていってよ。」
と女子高生の方から、声をかけてきた。
「ああ、ゲームセンターにでも、行くか。」
「そうねー。どこでも、いいけど。」
「それでは、行こうよ。もう目の前にあるよ、ほら。」
 吾郎が指差したところが、町田のゲームセンターだった。
 二人で入ると、中は老人ばかりが眼につく。ひまで金を持っているのは、年寄りばかりなのが今の日本だ。吾郎のように若い女性に興味を持つ老人など日本には、そんなにいない。これが中国ともなると事情は少し違う。香港でも、七十代の男性が二十代の女性と、つきあうなどという事もある。極めつけは、モンゴルの九十九の男性と十八歳の女性との結婚という話だ。おまけに、その女性は妊娠したというから驚きだろう。イギリスでも、百歳を越えて女性を強姦した罪に問われた男性もいる。かなり昔の話だが。
「UFOキャッチャーを、やりたい、わたし。」
と、その女子高生は言うと、ゲーム機の前に行った。透明なガラスの中に景品が入っている。吾郎は追いつくと、
「こんなもので、いいのかい。何回でもやりなさい。」
と話すと、ブランドらしい財布の中から、一万円を取り出して女子高生に渡した。
 満足
 一時間も、そのUFOキャッチャーで遊んだ二人は、かなりな景品を手にしていた。開けてみると、実用性のあるものばかりだった。カラーコンタクトレンズも、あった。吾郎は自分が当てたものを、
「あげようか、君に。」
「いいえ、いいんです。わたしのバッグには、もう入らないし。」
ふーん、感心な娘だ、と吾郎は思った。それに言葉遣いも、最近の若い女のような口調ではないのが又、吾郎の気に入った。近頃の若い女は、だよねー、だの、そうですよね、など、うっとうしいにもほどがある、と吾郎は思っていた。いつの頃から女言葉が日本で、なくなって、いっているのだろう。中には、ぼく、や、おれ、という、つわものの女もいる。
 これこそ学校教育の成果か、いや狂育だ、と吾郎は思っていた。草食系男子とは、いうけど、
「ぼくさー、近頃SNSに、はまってて。」
なんて言う女に性欲を感じるものか、どうか、と吾郎は思う。ゆとり狂育は男を女に、女を男にしたのか、と吾郎は考えていると、
「おじさん、外に出ましょうよ。もう、ゲームは飽きましたもの。」
と、その女子高生は言って、爽やかに微笑んだ。
「そうだね。では、喫茶店でも行こうか。」
「ええ、喜んで。お供します。」
 喫茶店で
 ゲームセンターを出た吾郎は、目の前を指差すと、
「そこに、喫茶店があるよ。アルマンっ、て書いてあるね。入ろうかな。」
 女子高生を見た吾郎に彼女は、こくり、と華奢な首を傾けて、うなずいた。店内は中世ヨーロッパ風だった。バロック音楽が流れている、落ち着いた雰囲気である。二人が向かい合って座って、黒の衣装に身を包んだ若い女性のウェイトレスが、コップの水を置きに来た。吾郎は気さくに、
「レモンティー二つ、頼むよ。」
「レモンティーを、おふたつですね。かしこまりまして、ございます。」
軽く会釈をして、ウェイトレスが立ち去ると吾郎は、
「名前を名乗らないと、お互い変な感じだな。私は白山吾郎といいますけど、君は。」
「わたし剣上エリ、といいます。覚えていて、くださいね。」
「ああー、覚えておくともさ。変った名前なら、特に覚えておける。高校三年生なのかな。」
「そうです。毎日、退屈しているんです。高校出たら、すぐに働こうかなっ、て思っています。大学なんて退屈で、行けそうもないし。」
「それは、いい。私ね、会社を経営してるんだよ。よかったら、うちにおいで。」
「ええっ。わたし、母と同じように、キャバクラで働きたいんですけど。」
吾郎は、両手で制止するような動きをすると、
「いや、それは、やめようよ。私の見たところでは、君には霊感というか、もしかしたら超能力みたいなものが、あるのかもしれないと思う。酒は、それを駄目にするしね。貿易の仕事だけど、難しいことは、しなくていい。少しすれば、私の秘書にしてあげても、いいかな。」
吾郎は、穏やかに微笑んだ。
 決意
  先ほどのウェイトレスが、
「失礼いたします。レモンティーで、ございます。ゆっくりと、おくつろぎ下さいませ。」
注文の品と、真っ黒な、おしぼりをガラスのテーブルに置いた。
剣上エリは、
「それは、うれしいな。母も喜ぶと思います。わたし、私生児なんです。」
「ほお、そうかね。ま、お茶を飲みなさい。おしぼりは、冷たくていいね。そんな身の上だから、うちに入れないなんて事は、ないから安心しなさい。自分を不幸だなんて、思ってはいけないよ。」
「ええ、時々、父は、うちに来てくれるので、本当に不幸とは、いえないんじゃないか、と思います。」
「なんだか、事情は、わからないけど、君のお父さんも、その相手と離婚して、君のお母さんと一緒になればいいのにな。」
「ええ、でも父は有名な画家ですから、そうは、いかないらしくって。」
「ふーん。画家なら、自由に生きたらいいのにな。」
「今度、父に会ったら、そう言っておきます。社長に、そう言われたって、言いますわ。」
吾郎は苦いコーヒーを飲みながら、笑いを浮かべているような表情になった。
「父はいつも、いないけど、わたし母に愛情を、いっぱい受けて育ったんです。高校を卒業したら自動車免許を取って、それから高級車を買ってくれる、って言われたんです、わたし。」
「あ、免許は、うちでも費用は出すつもりだ。そうか、それじゃ運転手も、やってもらおうかな、そうなったら、給料もすごく払えるね。」
吾郎は、いたわりの笑顔を浮かべていた。
 ヒモ稼業
 親戚の誰かに影響を受ける、という事は誰にでも、あることだろう。
 町田市在住の市川朱夫(いちかわあきお)は町田市役所に勤めていたが、叔父の市川明夫に感化されて、専業ヒモ職への道を歩んでいた。
 市川明夫は、町田市の隣の神奈川県相模原市に住んでいるが、新宿のキャバ嬢を、次から次に手玉にとっては自分に貢がせていた。この不景気でも金のある人間は、いなくなるわけではない。東日本大震災で、てんやわんやの電力会社の重役なども、遊びの一つはキャバクラだったりするのだ。市川明夫は町田のキャバ嬢、デリヘル嬢にも手を出していた。どうせ彼女達の職業は長続きしないのだ。そうなったら、次の女を物色する。
「おじさんは、すごいけど、ぼくはヒモは、できないと思うよ。」
原町田のパチンコ店で、となりの台に向かっている明夫に、おなじく朱夫は話しかけた。明夫はパチンコの台を見ながら笑うと、
「馬鹿だな。ヒモは真面目な人間の方が向いているんだ。考えても見ろ。不真面目な男に女が貢ぐか?」
ルルルルルルー♪と店内で音がしている。
「あっ、そうだね。大当たりは・・・ああ、逃した。じゃあ、ぼくも挑戦してみるかな。」
「やれよ。しけた公務員なんて、やってんじゃねー。ヒモなんて働く必要は、ないのさ。おれは、一日の半分はパチンコで、後は図書館に行ったりしてるよ。」
「へーえ。真面目なんだね、図書館って。」
「いや、仕事のうちさ。最近は活字離れの馬鹿どもばっかりだから、読書して知識をひけらかすと女は惚れ込むんだ。いい時代だろ?特に最近の若い奴は本も読まないから、そんなやつらには楽勝だよ。簡単に女なんて手に入る。朱夫も読書に励めよ。そうしないと、その辺の本を読まない若いのと同等に見られて、金なんか貢いでもらえないから。」
 ヒモ稼業2
 朱夫は、なるほどと思った。そういえば、おれも最近本を読んでいないな、パソコンばっかり見てるけど、ひとつ電子書籍でも買ってみようかな、と考えつつ、
「知性で女を縛る、ってわけだね、おじさん。」
「そうさ。空手や何か、やって強くなっても逆に女は逃げ出していく。だからというか、もちろん武道なんてやる人はヒモなんてしないけど、武道をやるのはヒモになるのにマイナスだね。恐怖じゃ女を縛れないんだ。後は、自分の、いちもつ、だね。」
「ああ、結局は、それが一番なのかなー。」
朱夫は、にやにや、した。公務員でも仕事中にアダルトサイトを見て処分された人達もいるのだ。
「一番かもしれないけど、最初に持ってくるものでもない。まあ自分のものを東京タワーからスカイツリーに変えたほうが、いいとは思うね。努力次第では、なんとでもなるけど、最近の草食系男子とやらは、むしろゲイに走りつつあるし、ハーレムも夢じゃないよ。」
「スカイツリーも開業したし、新たな人生は、自分のもの次第っていうことだね、おじさん。」
「そうだ。おお、出た、出た。パチンコも極めれば、女からの上がり以外にも収入があるし、恥にすることは何もないよ。ライオンなんて餌を持ってくるのは、メスライオンだそうじゃないか。なんで人間様の男が女とやらに、せっせと稼いで貢がなければいけないんだい。朱夫もパソコンやってるみたいだが、ネットビジネスよりヒモのほうがライバルは圧倒的に少ないし、金になるよ。ヒモなんてあんまり誰もやらないから、おれは成功しているのかもしれないし、チャンスを逃さないようにな、朱夫。」
 
主夫
  ドル箱を又、一つ下に置いた市川明夫は、右にいる甥に、
「それにお前の名前さ、音読みしたらシュフだ。今までシュフといえば、家庭の主婦って事だったけど、今の時代、主夫とは男の仕事だ。今は亡きビートルズのジョン・レノンも主夫をやっていた。つまりそれ相当な女なら、働いて収入も高いから、男が家事をやればいいんだ。財布のひもは、ヒモが握る、なんて、うまいだろう?洒落じゃなくて、うまい話だ。海外でも、結構、はやり始めたらしいし、日本でも、すでに主夫は出始めたようだな。」
「そのうち「主夫と生活」なんて雑誌が出たりなんかして。」
「ああ、昔ならな。でも、今は雑誌は、どんどん廃刊になっていっているから電子版で「主夫と生活」を朱夫、おまえが、やればいいのさ。」
「主夫と生活社の社長になるのも、悪くないな。それで風水の本、あっ!」
 朱夫は自分の右に座った中年の男を見て驚いたのだ。その男はテレビで風水師として有名になった過去があったが、今はすでに風水のインチキさを見抜かれて支持する人もいなくなり、そういえば「パチンコ風水」なるものを唱えだしたのは、インターネットのその男のサイトで見たことがあった。その男は弟子らしき若者を、そのとなりに座らせている。風水先生は口を切った。
「いや、ぼくは知らなかったんだよ。ただテレビ番組に出て下さいって言うから、出て風水指導をした。自分は風水の古本は、いっぱい持ってるし。その中から適当に選んで指示すると、大当たりした。けど。」
弟子は暗い顔をして、右手はパチンコのレバーを押さえたまま、
「それが、すべて番組制作会社のヤラセ、だったんだそうですね。はやらない店には、モニター募集と称して裏で人集めして、エキストラとして店に行かせて、あとで謝礼をする。もちろん飲食代も後から伝票を提出させて、その製作会社が経費で落としたらしいですよ。」
「ていうのが、ネットで、ばらされて。パチンコにも風水は効くかなと思って始めてるんだけど、郊外の町田じゃないと、ばれそうだし、マスコミに。」
その男はパチンコ店内が騒々しいので、声をひそめもせずに話していた。朱夫は耳がいいので、逐一聞きだすのに成功していたのだ。
 努力もせずに
 過去有名だった風水師は続けた。
「そもそも、おれもね、占いは、やってたけど風水なんて興味なかった。でも、世の中風水ブームとか、だったからやってみたら、風水の古本を集めているのは自分が一番だったんで、何かと権威のように振舞ったが、製作会社がヤラセをしてたなんて、ね。」
弟子は狡猾な笑みを浮かべると、
「でも、手はありますよ。特に主婦なんて何もせずにラッキーなことが起こる風水なんてやつに、すぐにひっかかりますからね。」
「ああ、馬鹿主婦だろ。おれたちのいいカモだよ。パチンコ風水は二人で作り出そう。」
「ええ、世界初のパチンコ風水です。どうせ最初に寄ってくるのは主婦とかですから、適当にやっても・・・。」
「いや、それなりの風格を出すためにも、少しは取材に時間を取ろう。番組制作会社のものには出られないから、こちらで作るんだ。そうしないと、今度はもう、終わりだろうな。」
「そもそも風水なんて・・・。」
「あるようでないみたいだけど、主婦の夢と希望を輝かせてあげるんだから、化粧品みたいなものだ、と思えばいい。」
「なるほど、占いなんて、そんなもんですね。ぼくたちは精神の化粧品を作り出す仕事をしてるんだ、と。」
「うまいこと言うじゃないか。おれの古本を今度たくさん貸すから、それで勉強しろよ。」
「はい、風水先生。」
二人はパチンコ機種を、じろじろ眺め回しながら打ち続けていた。
開店準備
 画廊を開店させるにあたって、緑川鈴代は画家の田宮真一郎に接触を図った。
 叔母の緑川鈴華の銀座の画廊、「銀月」は田宮の絵の力で有名になった。自分も、そうならないかな、と鈴代は考えてみたのだ。そううまくいく世の中でもない、と思いはするのだが、有名画家である田宮の絵なら売れるはず。
 しかし、このところ田宮は絵の制作をやめているらしい。叔母の銀月で会ったこともある田宮の電話番号は、メモに記録していたので、携帯電話で交渉してみた。
♪♪♪「もしもし、田宮です。」
「ご無沙汰、しております、わたし、以前、銀座の画廊「銀月」で働いておりました、緑川と申します。」
 田宮真一郎は蒼ざめたが、電話の向こうの鈴代に伝わるわけもない。緑川といえば真一郎が、ああいう関係で絵が売れて、しかし行方不明になって久しいし、もう死んだと思っていたから、もしかして霊界から電話を、かけてきてるのでは、と思ったりしたのだ。
「・・・・・。」
答えない田宮に、鈴代は、
「いえ、わたしは、叔母の緑川鈴華では、ありません。姪の緑川鈴代と申します。今度、叔母と同じように、銀座に画廊を開く予定ですので、なんとか、お力添えを、いただけないかと思いまして。」
真一郎の顔は、平常に戻った。ふ、と息をつくと、
「ああ、絵の依頼ですね。ここのところ、絵は描いていないんですよ。だから、いつになるか、わからないなあ。そういえば、あなたの声、銀月で社員にいた女性の声と同じですね。姪御さんとは知りませんでしたよ。」
 どうすれば
 やはり、田宮真一郎は絵の制作を、やめていた。鈴代は、どうしたらいいものか、と頭を悩ませたが、
「お話だけでも、させていただけませんか。今度の土曜など、いかがですか。」
「ああ、いいですよ。大学の授業は午前中までだし、最近の生活にも退屈していましてね。ぼくは金はあるから、そのために描くという必要もないんで、それで、やる気がないのかもしれませんね。」
「なにか、ご不満なことでも、ありますか、今の生活で。」
「ううん。プライベートな話を女性の貴女にするわけにもいかないし、不満はあるんだけど、それが妻の事だなんて、とても言えませんよ、って言ってしまったかな。」
「ははー、それは、あまり口外できるものでは、ありませんね。やはり、芸術の創作の源は女性にある、という事なのですね。」
「そうかも、しれません。ピカソでも、女が変るたびに作風も変ったとかいう話ですし、ぼくなんか、大したことない画家のはしくれでも、それは言えるかもしれませんけど。」
鈴代は内心、満面の笑顔を浮かべていた。(なんとか、するわ。ちょうどいい、なんとか、できそう。タイミングよく・・・)
「緑川さん?こんな話をして、引いてしまわれたのでは?どうしました?」
「いえいえ、少し考え事をしてしまいまして、申し訳ありませんでした。土曜の午後に、JR町田駅前の西側出口辺りで、待ち合わせませんか。」
「そうしましょう。あなたの叔母さんも、私に創作意欲を湧かせてくれることもあったし、不思議なことも、あるもんですね、世の中って、だから、生きていてよかったのかな。」
「叔母とわたしは、少しだけ似てますのよ。わたしも画廊を成功させたいんです。日本一の画家は田宮先生だと思いたいし。それでは土曜に詳しいお話を。♪」
 捌け口は
 田宮可奈は夫、真一郎が浮気を、している事は、わかっていたのだ。
が、歳も三十代後半ともなると、どうでもいい気もしていた。夫は結構な資産を絵で作ってくれたので、離婚となっても半分は請求できるし、娘は、もうすぐ社会人になる歳だ。
 あの時の遊び相手には、あの自殺した人には、悪い事をしたと思う気もするけど、男なら女ほど悩む必要もないのに。と今、考えても、そんな気がする。
 だけど、ずいぶん長い間、男と遊んでいない。もし、真一郎に気づかれても最悪の場合、離婚があるだけで、本当は夫だってわたしと離婚したいのではないか、と思えてくる事もある。行く先不明な外出などは、女のところに決まっているし、日曜と相場が決まっていたが。もしかして、隠し子でもいるのでは???そういえば、娘のユナは最近、何だか浮かない顔をしている。
「どうしたの、ユナ。なんか、暗い顔をしてるわよ。」
日曜日の夫のいない昼食時に娘に、たずねてみると、
「なんでもないけど、ストーカーみたいな女子高生が、いて。ちょっとね。」
「ええ?女子高生にストーカーされるなんて、あなた何か悪い事でも、したの?」
「い・い・え。嘘とは思うけど、わたしが、お父さんの本当の娘ではない、とか言うのよ。」
「まあ、・・・・・。」
「本当なの?お母さん。」
「それは・・・そうでないかどうか、市役所に行って調べたらいいわ。」
「そんな事しても、わかるわけ、ないじゃないのよ。」
「う、うん。あなたはね、でも、ちゃんと遺産も相続できるし、心配ないわよ。」
「お金の問題では、ないでしょう。愛情の問題だわ。」
「そう。ちゃんと育ててくれた事が、その証明なの。だからそんな変な話、忘れなさい。」
「うん。そうする(?)」 
銀の食器は、新しく来た、お手伝いさんが片付ける。可奈はリビングルームに行って、葉巻を吹かしながら、
(ふうん、そのストーカーの女子高生こそ、真一郎の隠し子なんだわ。なんか、吹っ切れたな。)
 ユナは昼食後、すぐに台所の外へ出て行った。リビングには、自分だけなので大胆にも携帯電話を出して、最近登録した出会い系サイト、写メでOKにアクセスしてログインした。すると、メールが来ていた。
件名 初めまして
 ぼくは町田市の美術大学に通う男子学生です。ルナさんは美術に興味が、おありのようだと思いましたのでメールしました。逆援助も、していただけるとなると、相当なセレブですね。ご住所は世田谷ですか。
可奈は、すぐ返信する。
件名 どうも
 わたしの住所は町田です。夫のある身ですけど心配要りません。夫とは長い事、夜の生活はありません。婚活なんて、はやっているようですけど、わたしは性活しないと、いけない状況です。よかったら、お会いしませんか。
 その日の夜には真一郎も帰ってきて、親子三人で晩餐とはなったが、寝室は、すでに別々の部屋に夫婦二人は寝ていたので、可奈は自分の寝室で、携帯電話を見てみると、あの大学生から返信が来ていた。
件名 お会いしたいです
 奥さんが町田なら、ぼくも駅の近くに住んでいるので、いつでも会えます。とはいっても、学生の身なので平日の昼間には会えません。その辺をお考えいただき、待ち合わせ場所なども、ご連絡下さい。
 ユナの思い
  夕食を終えて、十五畳の自分の部屋に戻ったユナは、先ほどの母の口ぶりからしても、自分の父は、やはり田宮真一郎ではない、という思いが確信となって、こみ上げてきた。
 父の自分に対する、よそよそしさは、今までは、どこの家庭でも娘に対する父親の態度だろうと思っていたのだ。
 何か自分にとって父とは雲をつかむような、時には氷を素手で掴んでいるような気持ちも、持ったことがある。でも、それは父が画家だからで、普通の人間ではないからだ、とユナは思って自分を納得させていた。
 本当の父は行方不明なのか、それとも、もう死んでいるのだろうか。母は身持ちの悪い女性には見えなかった。むしろ良家の子女で、お嬢様だった、と祖父から聞かされた。
 祖父は、かなりのお金持ちで貿易商をやっているけど、自分が遊びに行った時には、いつも優しく応じてくれて、祖父と父とでは同じ男性とは思えないくらいだった。
 孫は又、格別に思ってくれるのだろう、ともユナは考えていたのである。それが、もし、父が自分の本当の父でないとしたら、今までの父と祖父の違いも十分に理解できる。
では、あの女子高生、剣上エリは父の本当の子という事か。考えすぎたのか、ユナは空腹を感じて台所へスナック菓子でも食べようと思い、部屋を出て廊下を歩いていると、母が楽しそうな顔をして風呂に行っているのが見えた。
(男と会うんじゃないかしら?)そんな予感がユナにはした。
 廊下の窓から外を見ると、庭には薔薇が咲いていた。
(もしかして母は薔薇みたいな存在なのかしら。男が母を掴もうとすると、鋭いとげが突き刺さる。じゃあ、わたしも?)
庭には、ひまわりも成長している。
(わたしは、ひまわりになりたいな。複数の男性と付き合うのなんて、ごめんだわ。薔薇の花言葉、 愛と裏切りー ではないと思うけど、わたしの中では、そう思う。)
 
 白山吾郎は剣上エリが、まだ在学中ではあったけど、ちょっとした仕事をやらせてみると、よく働く真面目な娘である事に気づいた。
「うん、ありがとう。よく働いてくれた。孫娘にも、ちょっと仕事をやらせた事があったけど、君の方がよく働く位だよ。高校を卒業したら、すぐに入社して、やってもらいたい。」
「はい、そうします。社長にはお孫さんが、いらっしゃるのですね。わたし、お会いしたいとも、思います。」
「そうだな。いつか、会わせよう。ただ、孫はね、貿易の仕事はしないと言ってるし、写真の専門学校を出たら、そっち方面の仕事に、つきたいそうだ。」
吾郎は、砂糖を入れないコーヒーを飲んだような、苦い顔をした。剣上エリは、ふふ、と笑うと、
「わたしも写真は好きですけど、働かないとお金になりませんから。母にいつまでも世話をして欲しくないんです。逆に母に何か買ってあげたくって。」
「おお、感心な話だね。母子家庭なら、そうだと思うけど、君のお父さんが来た時に、お父さんにもプレゼントしてあげたらどうだろう。」
エリは、物思いに沈んだ顔をしてから、
「本当は、そうしたいんですけど、父は母には辛い思いをさせているんですから、今は、そんな事したくありません。」
 
歌手志望の少年
  孤児院育ちの佐山牙の夢は、歌手になる事だった。だが、それは甘い夢かもしれない。孤児院で用務のおばさんに、
「あんたの母親は有名な歌手だったんだよ。」
と言われたのが、志望の動機だったのだ。牙は、
「おばさん、ぼくの母は誰なの?」
「水川マキっていう、日本人離れのした顔の女性だよ。もう死んでるけどね。」
「死んだの?やっぱり、っていうか、ここ孤児院だから当たり前だね。ぼくも歌ってみようか?」
その時、佐山牙は十歳だった。マイクを持った振りをして歌い始めたが、なんとも調子外れで、声もいいとは言えない。
近くで聞いていた他の中年の女性事務員達は、
「あんたさー、狼少年の歌でも、歌ったらいいんじゃないかな。何か声が狼みたいだねー。とても人間の声とは、いえないような気がした。」
「そうねー。狼の遠吠えって感じがしたわよー。あ、そうだ。狼の声の真似、してみてよ。」
佐山牙は、とまどった。このときの彼は、まだ自分が狼男に変身するとは気が付いていなかったのだ。それで、
「ああ、でも、狼の声って、どんな感じなのかな。」
「ワオーン、って感じよ。」
牙は深呼吸して、
「ワオーン。」
その場の事務室の一同は、これに感心した。とても狼の吼え声に似ていたからだ。
「もう一度、やってみてー。」
牙は、うなずいた。今日は孤児院のクリスマス会で、先ほど六時過ぎに終わった。ここの町田の孤児院で、一番年少だった牙には特別に事務室に呼んで、クリスマスプレゼントを渡してあげたのだ。
 佐山牙は自分の声真似が褒められて、うれしかった。少年とは、そういうものだ。大人になったら、多少は疑うようになる。気分もよく、牙は、
「ワオーン。ワオーン。ウウウ、ワオーッ。」
と吼えている時、事務員の一人が、窓のカーテンを開けて外を見て、
「今日は満月だったわねー。」
と隣の同僚に話しかけた、その時!佐山牙の顔は、みるみるうちに狼の顔に変貌していった。それに気づいた人々は、
「きゃあああっ。」
と声を上げたが、年長の事務長は牙に近づくと、
「おい佐山君、とても、うまい手品だね。いつ、狼のマスクを、つけたんだい。」
と、にこにこしながら、少年の頬に手を当てた。
「おお、なんか本物の狼の頭みたいだね。どうすれば、はずれるのかな。」
「ががががが。」
「もういいよ。手で外せるだろう。手を出しなさい。」
少年の出した手、それは狼の両手だった。事務長は、にやにや笑って、
「念が入ってるね。でも、作り物だろうから、どんなかな。その手で、私の顔を引っ掻いてごらん。」
牙は右手を、さっ、と事務長の顔に当てた。うっ、と呻いた事務長は、顔に手を当てると、そこからタラリーと血が流れ落ちてきた。
窓際の事務員は(もしかして!)と思い、窓のカーテンを引いて外からの月光を遮断した。すると、みるみるうちに少年の顔と手は、元に戻ったのだった。
「こら、佐山君、こんな危ないものを、身につけたらだめだよ。」
怒る事務長に、窓際の女性事務員は、
「事務長、ちょっとお話が・・・あります。」
 
事務員と事務長は、窓の近くに寄っていくと、
「あの・・佐山君は、狼少年なのではないかと思います。笑わないで下さい。わたしが、カーテンを閉めると佐山君は元の状態に戻ったのですよ。満月の光が佐山君を狼に変身させたんだ、と思います。」
事務長は、きゅうり、のように苦い顔をすると、
「そうか。それなら私が実験しよう。」
くるり、と佐山牙の方を振り向くと、
「佐山君、ちょっと今から外へ出よう。」
佐山牙は、素直に、
「ええ、でも今日は、なんだか変な気分です。さっきぼく、何もわからなくなって、ぼんやりしていました。手も勝手に動いたんです。自分が狼になったっていう気持ちは覚えているけど、そんなこと、あると思えない。夢でも見ていたのかな。」
「そうだね。外へ行けば、はっきりするよ。」
事務長と佐山少年は、孤児院の庭に出た。外で満月は、白い光を送り出している。
少年の顔は、みるみるうちに狼の顔になり、カッと口を開くと、そこには鋭く光る牙が見えた。事務長は、その場に腰を抜かして、どしん、と座り込んだ。狼の顔になった少年が、不気味な顔で事務長をヌッと、覗き込んだ。
「あ、今度は、もう手は出さなくていいんだ。君は、やはり変身しているよ・・。」
そう言いながら、事務長のズボンの股間のあたりは、液体で、びしょびしょに湿り出した。少年は気味の悪い狼の顔で、事務長の股間に、その顔を近づけた。
「あ、のぞかなくていいよ。小便もらしてしまった。君は狼になったら、正義の味方になるんだ。私の股間に、手を伸ばさなくていい。触らなければ、君は私の性器の味方、となる。」
事務長は、相手が十歳の少年である事を忘れていた。少年がニコリともしないのを見ると、
「佐山君、眼を閉じてごらん。」
佐山は、言われたとおり不気味な狼の眼を閉じた。すると、みるみるうちに、少年の顔と手は元に戻っていった。
 事務長は立ち上がると、佐山少年の肩を抱いて、
「そのまま、眼を、つぶっていなさい。部屋に連れて行くからね。」
「しょんべん、くさいなあ。」
「少しの辛抱だよ。性器の、う、世紀の誕生日だったなあ。」
二人は孤児院の建物の中に、ゆっくりと戻った。
「もう眼を開けていいよ。牙君。自分の部屋に帰りなさい。」
そう言うと、急いで事務長は更衣室に行った。そこでズボンに消臭スプレーをかけてから、ベルトを外して脱ぐと、パンツは、ぐっしょりなので、ゴミ箱に捨てた。そこにも消臭スプレーをかけて、パンツの替えもないので、ノーパンでズボンを履くと又、スプレーをかけた。それから事務室へ戻って行く時は、パンツをはいていないので新鮮な気分だった。
 事務室に入ると、若い女子事務員が、
「お帰りなさい。佐山君は、どうなったんですか。」
「部屋に帰したよ。驚いたね。満月の光で彼は又、オオカミに変身した。そこで、私は狼になったら正義の味方になるように、言って置いたよ。まあ、私には、その場では性器の味方、いや、何でもないけど。それで眼を、つぶらせたら元に戻ったんだ。」
中年の女子事務員が、ほっとしたように、
「まあ。それなら、対策は、その方法ですね。佐山君が見えなければ、いいんですか、月の光を。」
事務長は、
「他にもあると思うけど、色々とやってみなければ、いけないようだねー。」
いっそ、サーカスが来たら交渉してみるか、とも事務長は考えていた。それ以上に、有名にもなれるとは思うが、とも考えてみていたのだった。
 
高祖山(たかすやま)
 シャンメル、絵山、文の一行は、福岡市の西区から糸島市の高祖山に来ていた。
小さな山だが、その周辺は見渡す限りの水田である。ここは、福岡市西区の周船寺から南へ行ったところで、人の姿は、ほとんど見られず、車も通ってない。少し登ると、一面の林になって、昼でも少し暗めだ。絵山は、
「全く福岡の東側にある、糟屋郡だったかなあ、の犬鳴峠あたりは、ひどいもんでしたね。心霊スポットなんて、行くもんじゃない。やっぱり、犬鳴峠付近は、浮かばれない霊が、うようよいる感じでした。」
シャンメルは、ッ、と肩をすくめると、
「あんな環境の悪いところは、日本でも少ないんじゃ、ないかな。犬鳴峠には、悪霊が住み着いていると思います。」
 犬鳴峠は、心霊スポットとして少し有名だが、行かない方がいいだろう。
ものすごい辺鄙な、ところの割には交番があって、パトカーが停まっている。駅前交番でも、パトカーのないところは多くあるのに。つまり、何らかの事件がある、というのは、現在でもそうなのだろう。文は、
「昔の話ですけど、違法で、日本に渡って死んだ韓国人を犬鳴峠に埋めに行った、という話を母から聞いた事があります。」
絵山は、
「携帯電話の電波も、届きにくいようだね。何かあった時、百十番も出来ないって事だ。」
シャンメルは、
「富士の樹海を思わせる感じも、あったね。あ、私の妹が、外国の悪霊は、日本観光で犬鳴峠に行くっていうのを、霊との交信で聞いたんだそうよ。」
文は、
「何故でしょうか。理由でもあるのですかねー。」
シャンメルは、
「そうねー。悪霊は、人の念を食べているのよ。というより、吸収するといった方がいいかな。で、犬鳴峠周辺にある悪の想念が、彼らの、ごちそうなんだって。」
絵山と文は、二人で、とても感心したように、彼らの眼を大きく開いていた。
 
 シャンメルは、二重瞼の青い眼を、チラチラ、まばたかせて、
「それで、そういうところは、ホルス神は、お嫌いなのですよ。神様にとっては、吐いたもののような匂いがするらしい。それでホルス神の使者エイワスは、わたしに福岡市の西に行くように言った。具体的には糸島市にある雷山(らいざん)こそ、ピラミッドを建てるにふさわしいのだ、とね。」
絵山と文は驚いた顔をした。涼しい風が吹いていく。
「ピラミッドといっても、エジプトにあるような巨大なものでなくても、いいのですよ。高さ三十センチぐらいでいい、というお話だった。エジプトのピラミッドは、世界の七不思議とか言われているけど、本当はイシス、オシリス、ホルスという神々をお祭りして、交信するためのもの、だったのですね。それを、いつのまにか、特にクレオパトラの時代に、エジプトの人達は怠けてしまった。それで神々は、エジプトに恩寵を与えなくなったので、ローマにやられたわけ。」
文は、なるほどという顔をして、
「日本では、風水ブームとかで、人々が、まじめに働かなくなって、しばらくして産業は衰退して、特に電機メーカーは、韓国に負けたのと似てるのかな。」
絵山は、苦りきった表情をすると、
「だから、我々の活動は、日本のためで、あるのだよ。勤労の美徳を忘れた日本人は、エジプト末期に似ているのかもしれない。日本人から勤労を取ったら、何が残るのか。不景気だけだね(笑)。風水で、いい思いをしようとした日本人は、君の母の国の人達に笑われているのかな。」
「さあ。ただ、韓国は風水とか、あまりやらないし、母も知らなかったですよ。どっちかというと、風水って詐欺のイメージが、ありますよ。だから日本人は、詐欺に引っかかったんじゃないか、って母は、あちこちで風水のものを見るたびに言ってました。」
絵山は、うんうん、とうなずくと、
「戦後がむしゃらに働いて、日本を復興させた人達に申し訳ない、と思わないのかね。楽していい思いできます風水なんて。腹が立つよ、堕落した世代には。」
絵山は、立ち木に、ぼんと手を当てた。
 金環日食その後
 シャンメルは、そういう絵山を、あやすように、
「今の日本のリーダーシップを取っている人に駄目な人間が多いのは、外国人のわたしでも、わかりますがね、絵山君、あなたは、もっと若いのだから、気にする事はないですね。ああ、そういえば日本の電機メーカーの、パナソニックが本社でのリストラをするという話ですが、これは金環日食後に出てきたものだと言えますよ。」
絵山は、
「それ以外にも、変革は必要だと思います。2012年6月1日に、ぼくたちは、どうすればいいのでしょう。」
シャンメルは、白い歯を見せると、
「ホルス神に祈りましょう。世界は勤勉な民族が変えていけば、いいのですよ。」
文は、にこやか、になると、
「最近東京の方で、世界拝金教なるものが、できたらしいですね。」
絵山は両手をポンと打つと、
「なんでも神社をやっていけなくなった神主が、神がかり状態になって、我は宇宙発生以来の神である、とか、のたまったやつだね。」
「ご神体は新品の一万円札だそうです。東京の、ぼくの友人、韓国人なのですが、教祖がその宇宙発生の神に祈ると、エネルギーを一万円札に、そそいでくれるらしいです。宇宙根本金(うちゅうこんぽんきん)の神というのが、正式な、ご神名だそうです。その友人は、そのうち入信するつもりだ、と言ってました。韓国支部長に、ならないか、とも言われているそうですから。」
「はあー、それは、いいね、って皮肉だよ。なんか政治家にも参拝者が出たとか、ネットで話題だね。なんでも二万円寄付すると、一万円をその宇宙根本金の神のエネルギーを入れて、返してくれるらしい。それをお札のように神棚に祭るのが、信者の勤めらしいよ。神棚が、よく売れているのは、そのせいだ、というけどね。」
「友人の話では、一人入会させたら五万円もらえるらしくて、ぼくも勧誘されましたが、薔薇の星の方が大事だ、と言って断りました。」
「ネットビジネスの大物達は、続々と入信しているらしいよ。勧誘も始めたらしい。東京都文京区に本部神殿を建立中だそうだ。」
 キーボード先
 シャンメルは笑いながら、
「わたしもネットで見たよ。教祖に憑いた神は、パソコンのキーボードに向かって教祖の指を操り、お筆先ならぬキーボード先、ともいう文書をワードにしてしまった。それをPDFファイルにして、有名アフィリエイターのいるところに出すと、よく売れたらしくて、それが教典だそうね。」
これがキーボード先の文書
 世も末と思えばこそ、天地発生以来より存在せし我が、汝に与えし教え、よく頭に入れるがよいぞ。世の貧乏人など相手にせず、ただひたすら金持ちへの道を歩むことこそ、神の望みしもの。今の日本人の切望せしものは、ただひたすら金、これなり。よって国家の休日、休まずに、ただひたすら金のために働けよ、さすれば汝、本懐をとげん。そもそも今の日本、世も終わらんかとの趣きある故、汝が日の本の民を救うべく立ち上がるのじゃ。
という一節から始まる、神界勅諭なるものが結構売れて、信者数も増えつつあるというが・・・絵山は、
「ま、我々はあくまで、ホルス神の使徒として働かなければいけないですね、グランドマスター。」
「そう、雷山の頂上にピラミッドを置く事です。このピラミッドに流れ込むエネルギーが日本再生ともなり、経済再生ともなるでしょう。太陽の神、ホルス様に比べる神など、どこにもいないのです。アレイスター・クロウリーは、ただホルス神に使われていただけの存在でした。」
 雷山から流れてくる風は六月とはいえ、涼しいものであった。又、そのあたりは、ヒートアイランドとは無縁の土地であるせいもある。
 雷山(らいざん)
 糸島市の南にある雷山は標高955メートルの山である。
 その麓は一面の田園地帯で農家の人は、一人で日曜日にも農作業をする姿も見られる。この雷山を少し登ったところに真言宗の大覚寺派、別格本山、千如寺、大悲王院がある。
 境内の中に入るのは、お金はかからないが、本殿に入るのには四百円の拝観料が必要だ。これは2012年6月現在の話。この寺の凄さは、その古さにあるだろう。
 なんと148年にインドの僧、清賀上人によって、つくられたというものだ。今をさかのぼる事、1864年前となるから、その古さは有数だろう。ここに福岡地方の誇る歴史のようなものを感じるのだが、どうだろうか。これに比べれば、京都も、それほど古くはないのだ。いわんや江戸に、おいておや。
 本殿では薄暗いので常時、電灯が灯りをもたらしているのだが、それでも少し薄暗い。僧侶に案内されないと、巨大な観音像のある部屋には入れないのである。
 そこを出て上に行くと又建物があり、その中に実物大のような大きさの清賀上人の坐像がある。左手の斜面には五百羅漢が並んでいたりする。いいしれぬ古さ、歴史を感じたい人には、おすすめだ。もちろん、シャンメルら一行もタクシーに乗ってこの寺を訪れた。拝観料を払って見物して回り、境内の外に出た時、文は、
「雷山には、こんな寺があるのに、ホルス神を祭るためのピラミッドなんか、おいてもいいんですかねー。」
と納得が、いかない顔で聞いた。
 
シャンメルは坂道を悠々と降りながら、
「もちろん、この密教寺院があるからこそ又、ホルス様の御心に叶うものなのです。何故なら密教の教主、大日如来とは実はホルス神の事なのです。」
「ぎょえっ。」
と、絵山は声をあげた。眼下に見えるのは田園地帯だ。山からの少し涼しすぎるような風が三人を包み、冷房感を与えた。絵山は額に右手を当てると、
「そうだったのですか。それでは日本にも古くからホルス様は信仰されていたのですね、形を変えて。」
「そう。もともと密教がインドを出て行く原因となったのも、インド人が崇拝するシヴァやヴィシュヌより大日如来を根本に持っていたからなのです。大日如来の原型はホルス神で、これはエジプトから持ち込まれたものだったのです。龍樹菩薩が密教を作る時に取り上げたということは、ホルス神の使者エイワスが、わたしに教えてくれました。」
絵山は胸を叩いて、
「それでは、密教信者は実はホルス神を崇めていたわけですね。密教に限らず、日本の仏教は大乗仏教だから、すべて大日如来を根本としていると思うのですが。」
「そう、その通りですね。」
 シャンメルは涼しげな顔をした。
付け加えるようにシャンメルは、
「インド人もカーストの最上位にいるのはインド・ゲルマンで、外国人なのですから。密教も外国人が作ったようなものですね。
 話しは変わりますが、今でも東日本大震災の復興支援の寄付金は、お寺でも集められているようですね。困った人達を助けるのは、もちろんよい事なのですが。絵山さん、海でもいいですけど水面に石を投げると、どうなりますか。」
「それは、しばらく水面を、跳ね返りながら飛んでいきます。」
「そう、ですね。実は人間の思念も何処かへ飛んでいるのですよ。それは、自分のところに、もどれば世話はないのだけど、海の中に潜ることもあるでしょう。一人ひとりの思念は、そう強くなくても何百万人、何千万人の人の思念が結集すると恐ろしい事になります。その巨大なエネルギーが海の底の地底に潜り込み、地殻を変動させたとしたら?」
絵山と文は、すぐに地震や津波を思い浮かべた。でも、まさかと二人は顔を見合わせていると、
「硬いようでいて、振動する地殻は、巨大な人々の思念で動かされるのです。問題は、その力になった元は何処かわからない、という事ですね。それは神のみぞ・・ホルス神のみぞ知る事だとは思うのですが、東北の人達の思念だけで、あれが起きたかどうか。関東は四千万人もの人がいますから、果たしてあの災害の原因は誰にもわからないとはいえ、地震学者などは地球のせいばかりにしていますが、そんなに地球は気まぐれなものかどうか。」
 雷山から降りた三人は、糸島の水田の稲の匂いを感じた。
 素朴なる風景の中、絵山は自分もそうだったが、東京では金儲けのことで頭がいっぱいだったのを思い起こした。それでも、又、東京に戻って画商と画材屋の仕事を、やらなければならない。みはるかす何万坪もの土地は水田だが、東京では百坪の家屋でも六億円のものもある。それを思うと絵山は、
「狂った思念というものは、消えてしまわないとすれば大変な事になりますね。金儲けキチガイの東京都民、まあ、すべてとは思いたくないですが、彼らの、といっても、ぼくも今はというか昔も東京都民ですけど、の発しているエネルギーは中には、ねじまがったものがあるとは思えます。それは、ブーメランのように自分たちに戻ってきたとしたら、いやもう、逃げ出したい気もしますね。魔術で、なんとかなりませんか。」
 とびが空を舞っている。白い蝶がひらひらと三人の近くを華やかに舞って行った。自然とは人間に残酷なものだろうか。人工的な不自然なエネルギーをただ、送り返しているだけなのではないのか。
「わたし達が東京にいる時は、ホルス様の守護があるから大丈夫だ、とエイワスは伝えました。巨大な人の思念の行き先は、わたし達少数の人の力では、どうしようもないものでしょう。」
文は悩んだ顔で、
「芥川龍之介は巨根だったそうですけど、自殺しましたね。女遊びは、もうどうでもよくなったのかなあ。それとも不能になってしまったせいかなー、とかも思ったんですけど。バイアグラがあったら自殺しなかったのか、というと下半身より頭の方の問題なら、そういう強精剤じゃ効かないし。巨根なら人生に自信がつくみたいな事が言われていますけど、芥川が、そうじゃなかったから、ペニス増大の通販を買うのは、やめようかな、と思ってます。」
と、絵山にだけ聞こえるように、ヒソヒソと話した。
「そうだね。太宰は女と心中だったのかな。下半身が活動的だったんで文学もいける、とか勘違いしたんじゃないの。」
「あはははは。昔の日本の作家なんて、そんなのばっかり、ですね。」
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 土曜日の町田は、いつもと違って休みの日を満喫する人達もいるため、駅周辺も違う雰囲気が漂っている。
 町田市の高所から見ると西に山が見えるが、それは神奈川県の大山だろう。標高1251.7メートル、この山には古くから大山神社というものがあって、勝海舟も父親と参拝に来たという話があるのだが、勝海舟の社も小さいながら建てられている。
 明治維新の荒波を乗り切ったのは、この大山神社参拝のためかどうかは誰にもわからないだろう。とにかく勝海舟は明治政府になっても旧幕臣としては、なかなかの出世をして伯爵の位まで、もらっているのである。
 古くから大山神社は参拝客が絶えないといえるのだが、今はケーブルカーは、あるとはいえ大山の山頂ちかくにある大山神社は登るのに大変な坂道がある。女坂と男坂に分かれていて、文字通り、男坂の方が険しい登り道とはなっているのだ。
 昔の人は豆腐を食べながら大山を登ったとも言われている。この大山に浜野貴三郎も、しばらくして登る事になるのだが、今は町田で友人の岡志大とともに町田駅前に来ていた。浜野は遠くに見える女性を見て、
「あの人じゃないのか、あの赤い帽子をかぶっている、少し太った女性。」
「みたいだな。君は、もうここまでで、いいよ。」
「もちろんさ。でも。」
「なんだ、浜野。」
「あの女性は3Pしたいのかもしれないぜ。」
「かもな、ってわからないけど。話ではノーマルそうだったからな。」
「何、冗談だよ。それじゃ、お楽しみに。」
浜野は、くるりと背中を向けた。
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 田宮可奈の眼は<町田駅前で夫の真一郎が<三十メートルほど先に立っているのを見つけていた。声をかけに行こうか、と思ったその時、夫に近づいてくる一人の女性を認めた。  その女性は、真一郎の前で深くお辞儀をすると、談笑して、それから二人は小田急デパートの方に仲良く並んで歩き始めた。 (あの女性、画商じゃないかしら。忘れもしないあの女性、と何かよく似ているわね。といっても、あの女性のわけはないもの。だって、あの女性は・・・。 そう、それは、わたししか知らない秘密だけど。 世の中、似た人は、いるものだから気にしない方がいいのかしら。何か絵の商談っていう感じだから、別に気にもならないけど。  それに比べて、わたしは浮気。何年目の浮気かしら。夫が先だから、わたしも負けないように、やろうっと。  出会い系サイトって便利ね。近所の岸山さんにも聞いてみようかな、出会い系、使った事ありますか、って。あの奥さんは真面目そうだし、そんな事、しないのかもしれないけど、 でも・・・この前、岸山さんに会った時、うちは今、幸せですわ、って言ったから、 もしかしたら、出会い系を、やっているかもしれないわね。 そうそう、深夜にタクシーで、岸山さんのご主人が帰ってくるのをわたし、部屋の窓から見てしまったから。  だいたいね、妻の浮気なんて、夫が先にするからいけないのよ。 妻の方が先に浮気する事ってあるのかしら。積極的な北海道の女性なら、するのかしらね。お向かいの家に越してきたのが、横村さんっていう北海道からのご夫婦で、どうもそんな感じがするし。  わたしの専門学校の同級生にも北海道から来た女性がいたけど、男の子五人位と遊んでいたなあ。冬でも薄着なんかして、スカートも超ミニだったわ。一日に一回は、パンティをお気に入りの男の子に見せてたもんね。)その時、目の前で 「ルナさん、ですね。お待たせしました。岡です。ぼく、本名なんですけど。」 と話しかけた男が立っている。   「ええ、ルナです。わたし、本名じゃなくて、ごめんなさい。夫子(ふし)ある身ですもの。」 可奈は赤い帽子を深々と、かぶり直した。 「あ、それは、そうでしょう。ぼくは独身だから、構わないのですよ。」 「そうね。ここでは何ですから、小田急デパートでも行きましょうか。」 「ええ、喜んで。もうすぐお昼だし、ぼくが何か・・・。」 「いいえ。わたしが、お金は出しますわよ。そんな事は、学生のあなたが気遣う事では、ないのよ。それじゃ、」 可奈は、一歩を踏み出した。その一歩は小さな一歩だが、田宮家にとっては大きな一歩となるだろう、なんて。  可奈は真一郎が多分、小田急デパートのレストラン街に行ったのでは、と思い、自分も行こうと思った。  もしかして同じ店で鉢合わせなんて事になったら、どうなるのかしら、と思ったりもした。 小田急デパートは小田急新宿線の町田駅の上にあり、駅の改札口前からエレベーターに乗れる。ともかく多い人の流れではあるが、左側通行のような形で人は歩いている。  何故右側ではないのか、ということを考えると、JR町田駅の西口を出て左折すると、小田急町田駅に向かう方向になるので、自然に左側を歩く事になるからだと思われる。 東京と神奈川のクロスロードみたいなところが町田駅だ。可奈の後ろをついていく岡志大に、立ってビラ配りをしていた若い女性が、 「古本のブックタフです。」 と言ってチラシを渡そうとしたが、岡は軽く手を振って受け取らなかった。  可奈は自分の横に並んで岡が歩かないので、ちらちらと振り返りつつ、小田急デパートのエスカレーターへと歩みを進めていった。 エレベーターに比べれば、のんびりとだが、途中のフロアも見れるし、何処の階も買い物客で賑わっていた。  ネットショッピングに、びくともしない町田のデパートは、やはり老人が多いせいもあるらしい。 ネットショッピングといっても、結局通販なのであるけど、老人はこの通販というもの、例えばカタログ通販などにも、なじめない場合が多い。  やはり眼で直接見て買うという昔ながらのやり方がいいのだろう。町田には老人ホームも多いし、一人暮らしの老人もそれなりにいる。 というわけで老人女性の買い物客を、かなり見かける。  最上階のレストラン街に着いた二人は、可奈の先導で、ゆっくりと通路を歩いていた。 両側に店が並ぶのだが、店によってはガラス張りで通路から見える店もある。  田宮真一郎は画廊の経営を始める緑川鈴代と、ラーメンの店にいたが、その店は、カウンターなどなく最低でも二人がけのテーブルと椅子だ。 真一郎は通路の方を何気なく見ると、妻の可奈と少し遅れて、自分の美術大学の学生が歩いているのを見た。どうも、可奈の後をその学生は歩いていたようだ。あの学生、何といったかな・・・ 「岡志大(おかしたい)。」 ぽつんと、真一郎は呟いた。 「えっ?」 と聞き返すと、緑川鈴代は、顔を真っ赤にした。真一郎は我に帰ると、 「いや、今、そこの通路を歩いていた学生が僕の生徒でして、名前を岡志大と言うんです。まぎらわしい名前で、ちょっとわいせつな感じなんだけど、あの男の本名なんですよ。」 真一郎は、頭をポリポリと掻いて説明した。 「まあ、そうなんですの。珍しいですわ。」 鈴代は、こほんと小さく咳払いした。    ガラス張りの店を右に見ながら通り過ぎた時、可奈は右目で真一郎と、あの女性が座っているのを見た。 女性は背中を向けているが、いかにもビジネスの話という姿勢である、と可奈は見て取っていた。真一郎は自分を見たようだが、可奈は立ち止まらなかったので、夫との間に人が通過したりもした。  それで、ほんの少しの間だったろう、真一郎が妻を見れたのは。 しかも、連れの男は後ろから、ついて来ている。後から聞かれても知らないと押し通す事もできるはずだ。 もっとも、認めてもいいのだろう。夫は、その時、どんな顔をするのだろうか。  そういえば、前の浮気相手も・・・だが、今は、それを思い出すまい。あの頃の快楽とは又、違った快楽を自分は求めているのだ。 男子学生の勢い、つまりはペニスの勢いを、可奈は考えつつレストラン街を歩いている。(夫のペニスは、あの何とかいう女性に訪問して、自分のとこには、もう長い間、来ないのだから。わたしは、空き家でいるのは、もう、うんざりよ。まだまだ、女盛りだと自覚してる。) 中華の店が眼についた。可奈は立ち止まると、 「ここに、しましょう。」 と、岡に振り向いて優しく誘うと、 「ええ、いいですよ、もちろん。」 と答えながら岡は、揉み手をするようにした。 その店の中に入ると、客人は、そう多くは、なかった。表のメニューのサンプルを見ても、値段が高そうなので、人は、あまり入らないのだろう。可奈は密かに男性の精力を、つけるのには中華料理がいい、と考えていた。  それで、真一郎にも作ってあげていたのだけど、結果は何処かの若い女に持っていかれたというわけだった。席に着くと、可奈は身を乗り出すようにして、 「岡君の本名って、フルネームで、なんて言うのかしら。」 「おかしたい、です。」 「えっ、何言ってるの。ここは、ホテルでは、ないのよ。今すぐ、そう言われたって、ここで、できるわけないじゃないの。」 可奈は、年甲斐もなく、顔が赤くなるのを感じていた。岡は笑うと、 「いえ。ぼくの本名は、おか。したい。と言います。岡が姓で、志大が名前です。」 可奈は、納得してうなづくと、 「そうだったのね。わたし、何か、勘違いしてしまったみたいだわ。ふふふ、でも。二人きりになったら、あなたの本名、フルネームで言ってくれると楽しいわね。」    岡は可奈が、そういうのを聞くと、どぎまぎした。太っているとはいえ、魅力的な女性だ。特に胸のふくらみと、尻の大きさには悩殺されそうになる。口紅を赤くつけているのが、岡の座った距離からでも見えた。 「そう、ですね。それは。言ってみますか。ルナさんのご希望なら。」 「とても楽しみだわ。あ、ご馳走が、きたわよ。たくさん食べて頂戴ね。」  春巻き、えびのチリソース、ふかひれのスープ、ホイコーロー、餃子、シュウマイ、八宝菜、スーラータンメン、中華丼。岡は、なるべく食べてみたが、可奈の方が倍くらい食べた。デザートに杏仁豆腐とプリンとメロン。  可奈は赤い帽子を、かぶったまま食事をした。  真一郎のいる店では、緑川鈴代が携帯電話で話をしていた。 「今、小田急デパートのレストラン街にいるわ。ラーメンのお店よ。ガラス張りだから、後姿のわたしが見えるし。今は、まだ人も少ないから、早くいらっしゃいよ。」 携帯電話を切ると、鈴代は、にこりとした。そして、 「うちの画廊の、社員で雇うつもりの人物と、話をしたんです。今、ここに来ますから、田宮さん、よろしくお願いします。」 「え。えー、まあーね。」 「あら、田宮先生、ラーメンが、のびてますわ。」 「あ、そうだ。ラーメンが五倍くらい伸びたら、ラーメン五麺、ラーメンごめん、なんて謝ろうか、なって。」 「そうですわね。ウフ。謝るよりも、そのラーメンを絵に描いてくだされば、いいのに。」  真一郎は鈴代の言葉を聞いて、シュールレアリズムのようなラーメンの絵を描こうかと思ってみた。  結局、日本人画家に大した人間は、いないし、葛飾北斎のような古い時代の人の絵の方がヨーロッパでも注目されている。 当時の江戸は、のどかなものだったのだろう。家賃も現代と比べると、はるかに安かったといわれている。  画狂人北斎のように転々と引っ越しても、絵に専念できる環境があったわけだ。都心の、どえらい家賃では、もう北斎のような人は出ない事は確実だろう。真一郎も町田だから、ある程度のゆとりをもてるのだ。 ネット時代のいいところで、真一郎の絵はアメリカ人にも、なかなかの評判だった。それで、緑川鈴代はアメリカ人の顧客のために、英語に堪能な女性をインターネットから募集したところ、ひとりの若い女性が採用された。  彼女の名前は本役英子という。鈴代も、電子メールで添付されてきた履歴書の名前を見て、 「本役英子(ほんやくえいこ)だって。こに濁点があれば、ほんやくえいご、じゃないの。ふざけているのかな。」 と呟いたが、面接して、後日、住民票を持ってきてもらって、やはり本名だとわかった。ラーメンを食べ始めた真一郎に 「田宮先生に、担当の女性を、つけようと思いまして、さっき電話したのは、その女性ですよ。」 「ええ、それは。どうも。」ズルズルズル。 「ああ、どうぞ、ラーメンをお食べください、先生。今は、わたくし、返答は求めておりませんので、聞いていてくださるだけで、よろしいんですのよ。それでですね、先生、やはり田宮先生が国際的になれば、もっと顧客も増えて、大いに売れるといいますか、そのためにも、英語の得意な女性を見つけましたの。きっと、先生の気に入るはずだと思いましたから。」 ズルズル、ゴクゴク、ふーっ、 「ああ、おいしかった。と、その話も、おいしいですね。ぼくも、そうだな、海外の人に認められてこそ、本望というかですね。アメリカの方から、ちょくちょく、直にメールが来るんですけど、読めないから削除してます。」 緑川鈴代は勿体無い、という顔をして、 「その中には、商談も、あったかもしれませんのに。でも、今度の新人に、それを送ってもらえば、先生に読んでいただけますし。」 「ええ、そうしますよ、楽しみだ。私の絵は、海外の方が受けるのかもしれません。明治以降、文明開化とかで洋画も取り入れられましたが、浮世絵よりも認められていない、みたいですね。それは不思議だと思います。  江戸時代は身分制のような窮屈なところもあった時代なのに、浮世絵という西洋人も注目するものが生まれたんです。 江戸幕府はそういう文化の誕生に貢献したんですね。それに比べれば、明治以降、新政府とやらは富国強兵の一点張りだったのでしょう。  それはポツダム宣言受諾で終わったのだけども、今に至るも地価狂乱とか、その他にも理由はあると思うけど、住みにくいところでは文化も生まれないと思いますよ。 それで、せわしなく通勤電車に乗っている人達以外も芸術を理解、鑑賞する、ゆとりのある人達は今の日本では、もう、稀だと思います。  ヒルズ族という人達も芸術の理解者であるかというと、ただ資産が多いのを自慢するだけの嫌味な人間が多いのではないでしょうか。  彼らは芸術より高級車とか別荘とかにしか興味がないようだし、より自分が金を人より持っている事を見せびらかす事しか考えていないように思えます。それで、北斎、歌麿のような人達は、もう東京の中心辺りからは、出る事はないだろうと思います。」 「そうですね。わたしが、ネットで絵の売買をしていた頃にも、確かヒルズ族の人達からの注文はありませんでしたわ。意外にも東京都の顧客は少なかったのです。それは、今からも続くと思っていますわ。」 真一郎は、デザートのアイスクリームを食べながら、 「ヒルズもそうだけど、明治というのも大した時代では、なかったというか、絵の世界に限っての話ですが。 元禄文化のようなものも、なかったわけだし。かね、にしか眼が行ってない人間というのは札束の奴隷だと思うんです。  今の東京には、そういうのが多いんでしょうね。世界拝金教が膨れていっているのも、それもネットの企業家を中心にして、という事らしいですが、東京ならでは、という気がします。この前、長野に帰ってみたんですが、自然を感じましたね。やはり、懐かしいのは故郷だな、と思いました。」   真一郎は、通路の方を、ちら、と見た。すると、オレンジ色のセーターに、青のスカートを身につけた二十代の女性が、彼らがいる店内に入って来た。 「いらっしゃいませ。」 「あら、本役英子さん、ここよ!!」  緑川鈴代は座席に座ったまま、華奢な右手を、大きく挙げた。本役英子という女性の顔は、彫りが深いわけでは、ないけれど西洋人的な容貌だった。眼は大きな栗色の瞳。 「お待たせしました、社長。」 二人の近くに来た英子に、鈴代は、 「席を移りましょう。窓際のあそこは、町田市の駅近くの景色が見えるから。田宮先生、もう一度何か注文しますから、あちらに移動を、お願いします。」  真一郎は、うなずいた。  自分の近くに立っていた本役英子は、いい匂いがした。  身長は百六十センチ位で、真一郎より少し背が低い。髪は長く、肩に垂らしている。 三人で窓際の席に移ると、大きなガラス張りの窓から、町田駅周辺の建物や道路が見えた。 真一郎からすれば左の方から、緑川と本役の二人からは、右の方から、店の窓の外の景色は見える。鈴代は本役に、真一郎の前に座らせた。右に景色が見える方の座席に。鈴代は、おしるこを、三人前注文して、 「本役さん。この方が、あの画家の田宮真一郎さんです。」 「初めまして。わたくし、本役英子と申します。」 その声は、英語的なアクセントを持っているようにも、真一郎には聞こえた。 「初めまして。田宮真一郎です。」 本役は、疑問があるような顔をして、 「いきなり、こんな事を、お聞きしていいのか、とは思いますが、田宮先生の画風は、怪奇的ともいえる、といわれますね。四谷怪談のお岩さんの姓が、田宮だったと思うのですけど、何か関係が、あるのでしょうか。」 真一郎は、少し驚きの表情をした。そして、 「今まで東京に来てから、誰もそういう質問をした人はいませんでしたよ、実はね。あのお岩さんの家と、うちは親類でもあるんです。 今まで誰にも話さなかったんですけどね。ぼくも東京に来て四谷にも行きましたが。四谷の近くに親戚がいるもんですから。  子供の頃、夏の怪談話のついでに、あのお岩さんと親戚だって父に教えられましたよ。そのせいか、怪奇とか神秘とか幽霊、心霊ものが気になって、色々と、のめり込んだりしていると、画風も、そんな感じになるんでしょうかな。」 「まあ本役さん、よく気が付いたわね。わたしも、今まで、その事は考えた事が、なかったわ。」 感心したように、緑川鈴代は本役英子の顔をジッと見る。 「わたしも、ここに着いて、田宮先生のお顔を拝見して、初めて、そういう考えが湧いたものですから、不思議な感じです。そう、わたし今日、田宮神社にお参りして来ましたの。それで、なのかもしれません。」 ふと鈴代が、田宮の隣の席を見ると、水を入れたコップが置いてある。近くを通ったウェイトレスに鈴代は聞いて、 「ここには、三人しかいないのに、何故コップを四つ、持ってきたの?」 「え?こちらのお方と一緒に、着物を来た品のいいおばあさんが、いらっしゃって、席につかれたから、おしるこ三人前なら、あと何か注文されるかな、と思ったんですけど。あのおばあさんは、今、いらっしゃいませんね???」 その四つ目のコップの水を真一郎が見てみると、それは、三分の一くらいの量になっていた。それでウェイトレスに、 「ねえ、君は、このコップだけ少なめに、注いだのかな。」 「いいえ、四つとも、同じくらいですよ。あのおばあさんが、この水を飲んだんじゃないですか。!!!???」   三人はゾっとした寒気を覚えた。ただ、真一郎は、お岩さんも自分の血縁者だと知っているので、そんなに恐怖感は、起こらなかった。本役英子は、四つめのコップを手に取ると、生暖かいものをそのコップに感じた。少し、べっとりと湿っているのを感じると、 「何か少し、濡れている感じです。やはり、これは。」 緑川鈴代は、落ち着いた表情を無理に作って、 「やはり、田宮先生の血のつながりのある人だから、来たのかもしれないですね。」 真一郎は、軽くうなずくと、 「本役さんが参拝した時に、彼女の心の中というか、これからの行動というか、僕の名前を、お岩さんは読んだのかも知れませんね。」 本役はアッと驚くと、 「田宮真一郎画伯に、会いに行きます、よろしくお願いします、と、その時、わたし、思ったんです。」 鈴代は、 「それでは、田宮先生の守護霊は、もしかしたら、お岩様かも、しれませんわね。それで、もう、とうの昔に、怨霊では、なくなられたのではないか、と思います。」 真一郎と英子は二人とも、黙って、うなずいた。鈴代は、明るい顔をして、 「田宮先生、本役さんの出身は、長野なんですのよ。」 真一郎は大きく、その眼を見開くと、 「それは、それは。ぼくも出身は、長野なんですよ。」 本役は、とても嬉しそうに、 「同郷という事は、心強いですね。東京って、色々なところから来た人達の集まりですから、わたし時々、アスファルトの砂漠にいるような気がしていました。この前も、わたしのマンションで殺人事件が、あったりしたもんですから、東京って何があるか、わかりません。」