SF小説・未来の出来事38 試し読み

市民党員の岩山岩蔵は彼女が、いない。それは何故だか彼にも分からなかった。国立大学の法学部を卒業して一流商社の角紫(かどむらさき)で百貨店向けの営業を見習いとして先輩社員に同行中だ。研修中だが給与は、いい。それでも何故か女性との縁がない、(政治家になれば女を抱けるはずだ)と彼は思ったのだ。それで保守政党の市民党に入党したら事務局で茶色の封筒を渡され、今開けて見ると
ソープとファッションヘルスの利用回数券だった。(やはり、な!市民党の国会議員になるためには多くの女を知らなければ、いけない、抱かなければ、いけない。その手始めにソープ・・・福岡市では愛高島にしかソープはない。北九州に行けば地上にソープは、ある。どんな利用券だろう?)岩山岩蔵が眼を近づけて見ると、
全国共通ソープ・ファッションヘルス利用券
全国の加盟ソープ・ファッションヘルスの各店舗で、ご利用になれます
と説明書きがあり、北海道から沖縄までの加盟風俗店の店名と住所が載っていた。(これが市民党の力だ!女を抱くために国会議員になる、その願望を叶えてくれるのが保守政党の市民党だ。翼賛政治の伝統を復活してアメリカの子分で、在り続けるという世間には公表しない市民党の政策も教えてもらったけど、そんなのは女を抱ければ、どうでもいいんだな。北九州のソープ・・・)岩蔵はスマートフォンのネット検索で早くも北九州市小倉北区の船頭町にあるソープ店舗を見つけた。
知られているようで知られていないかもしれないが小倉のソープは福岡市の愛高島のソープより安い料金なのだ。市民党の福岡県本部は東区にあるために小倉はタクシーで行き、ソープを利用している古参の市民党員もいるという。福岡から小倉へタクシーとは運賃も跳ね上がるが、岩山岩蔵も、その手を使い小倉北区の船頭町へ行き、
降り際に余計に料金を払って、
「お釣りは、いいよ。ぼくは市民党員です。」
と先輩に指導された通りの遣り方を踏襲した。タクシーの中年男性運転手は驚きの目で、
「これは、どうも有難うございます。選挙では市民党に入れますよ。これだけのチップ・・・女房にも市民党に投票させますから、はい。」
と礼を言う。
岩山はソープの入り口で、
「やあ。可愛い娘は、いるかい?」
と気軽に尋ねた。黒服は揉み手をすると、
「これは、ようこそ、おいでくださいました。可愛い娘は、沢山いますよ。十代も続々入店。パンデミックで仕事のない女性、客室乗務員も入店です!」
これは異な話。客室乗務員は福岡市に住んでいるはずだが?店内に入ると岩山は、
「客室乗務員は福岡市の空港の近くに住んでいるんだろう?北九州市小倉北区のここまで来るか。」
黒服は鼻の下の黒ひげを人差し指で撫でると、
「ええ。福岡市のソープは愛高島に移動しました。そこへ行く面倒さと福岡市内では客室乗務員だと知られていたりするので、もし、お客さんが自分を知っていた場合、というのもあるらしいですね。愛高島に行くより小倉北区の船頭町の方が来やすいんです。」
岩山はウムと、うなずき、
「回数券を使っていいんだね?ここは。」
と念を押すと、
「はい、勿論でございます。と、いたしますと、お客様は市民党の党員の方ですね?」
「ああ、そうだよ。入党祝いに貰ったんだ、利用券をね」
黒服は腰を低くすると、
「ありがとうございます。全国ソープ・ファッションヘルス共通利用券は市民党党員の皆様にだけ発行されているのです。」
と、うやうやしく話した。
 岩山にしても初めてのソープでは、なかった。まだ愛高島に移動していなかった中洲のソープには月に一度は通っていたのだ。大学生時代の話で、その金を稼ぐために家庭教師もしていた岩山岩蔵である。国立大学の現役学生という事で家庭教師の需要は、福岡に幾らでもあった。中洲のソープでマットプレイをソープ嬢に、してもらっていた岩山岩蔵は即立ちした竿を握られて、
「国立大学の学生さんじゃないかしら?お客さんは。」
とマットの上で横に寝ているところを顔を近づけられて
聞かれる。岩蔵は亀頭が破裂しそうなほど膨らむのを感じて、
「いいや、私立大学ですよ。親父から貰った小遣いで来たんだ。」
ソープ嬢は意外な顔で岩蔵の肉竿を、しごきながら、
「そーなの。わたし、人を見る目は鋭いと思っていたのよ。意外だわね、お客さん、頭も良さそうなのに。」
早めに岩蔵はイキそうになるのをコラえると、
「ああ。そとづらは当てにならないよ。もうハメさせてくれ。」
ソープ嬢は右手の動きを止めて、
「それなら騎乗位でイク?」
「ああ、お願いします。」
マットの上で性器を交合させる二人。ソープ嬢の鮮やかな腰の振り方に岩蔵は一分で射精したのだった。

 次の日、岩蔵(国立大学の学生の頃の)は大学の講義を終えて、家庭教師の仕事をしに東区の豪邸へ向かった。父親は実業家として成功しているが古くから続く豪商一族であるという。
そこの一人娘の家庭教師を岩蔵は頼まれている。父親は岩蔵に古めかしくて畳敷きではあるが洋風の椅子に腰かけて、
「あなたも、さあ、どうぞ。腰かけてください。ブランド物のヨーロッパの直輸入のソファです。いやあ、なんというか一度ね、今、はやりのAI家庭教師をレンタルしましたけど、娘も成績が上がらないし、このままでは大学には入れなくなりそうかなという状況でした。三か月前に貴君が来てからは娘の成績も上がり始めましたよ。予備校には行かせないでウチの仕事をやらせていますが、フルタイムで働かせるわけには、いかない。岩山さんが来る前には仕事を終わらせています。きのう十九になった娘の愛夢(あいむ)です。おう、愛夢、岩山さんが来たヨ。自分の部屋に行って、教えてもらいなさい。」
応接間に姿を見せた振り袖姿の愛夢だ。愛夢は両腕を組むと着物の袂が揺れて、
「はーい。岩山さん、行きましょう、私の部屋へ。」
岩山岩蔵は立ち上がると後ろ姿の愛夢の尻を見ながら、ついていく。着物を着ていても尻の大きなことが隠せない愛夢だ。左右に揺れる愛夢の尻。長い廊下を歩くから岩蔵はタップリと男を誘うかのような愛夢の尻を着物の上からでも眺めて彼女の部屋に入る。
豪邸なだけに娘の部屋も十畳はある。大きな机の上に大きなノートパソコンが開いていた。
愛夢が椅子に座ると着物の上からでも分かる大きな胸の盛り上がりが岩山岩蔵の視界に入る。岩蔵は立ったまま、
「この調子だと、どの国立大学でも合格しますよ。僕としては教えることは、もうないのでね。明日は試験だね。頑張って受けに行こうよ。何か質問は、ありますか?」
愛夢は上目遣いで岩蔵を見上げると、
「市民党について教えてください。」
と聞いた。岩蔵は、
「ん?市民党?知らないな。大学入試には出ませんよ。」
部屋の中にはドアがあり、それが開くと愛夢とそっくりの女の子が洋服姿で出て来た。彼女は岩蔵に、
「こんにちわ。わたしが本物の愛夢よ。最初の授業を受ける時から、そこにいるロボットのわたしと入れ替わったの。」
とズボンを履いて立ったまま告げた。
岩蔵は信じられない顔で、
「それでは。ココに座っているのはロボット?」
ロボットの愛夢はニコニコして、
「そうです。わたしは御嬢様そっくりに作られたアンドロイド。今度、御嬢様の代わりに大学の入学試験を受けに行くし、合格したら大学にも行きます。」
岩蔵は、
「それにしても・・・どこの会社が君を作ったんだい?」
ロボットの愛夢は、
「わたし、半分以上は人間です。脳内は人工がほとんど、ですけど。会社はサイバーモーメントですわ。わたし、御嬢様と同年同月同日に生まれました。」
岩蔵は半分納得した顔で、
「双子って訳ですね。よく似ているものな、あなた方は。」
半アンドロイドの愛夢は、
「ただし母は違うんです。わたしの母は愛人ですの。だから日陰の身で、わたしも母と同じ境遇ですけど贅沢もさせてもらっています。それに本名も御嬢様と同じ名前の愛夢で戸籍に届け出ています。」
岩蔵は理解した顔で、
「なるほど。それにしても脳内は人工ですか。どうして又、そんな事に?なったんですか?」
「あ、それは。・・・・。」
アンドロイド愛夢は少女の頃、崖から転落して脳を全て損傷した。脳死の状態なのを全て人工知能に移し替えることで生きて行けるようになったのだ。岩蔵は興味深い顔で、
「そうですか。ほんじゃあ、これから大学生活ですね。確かに貴女は頭が良すぎると思いましたよ。記憶力が特にねえ。」
アンドロイド愛夢は表情を変えずに、
「褒められて喜ばなければ、と考えますけど。それは巧くプログラムされていないですね。ですので私、感情表現が稚拙なのだと思います。土台、人工知能は完璧では、ありません。」
それにしても和服姿のアンドロイド愛夢の胸は大きく、時折、魅惑的に揺れる。身体は生身の女性なのだ。岩蔵は、
「通学は和服では目立ちすぎますよ、念のためにね。」
と忠告するとアンドロイド愛夢は、
「それは分かります。近代国家日本の成立と共に日本人女性の服装が暫時、着物から洋服に変遷していくのは歴史的事実として厳然と残っているのは欧米諸国との明確なる違いであるという事が出来ますね?先生。」
「そうですね。服は気を付けましょう。貴女は魅力的ですから。」
と岩蔵は言うと立っている本物の愛夢を見た。
すると、いつの間にか本物のというか、百パーセント人間の愛夢は、いなくなっていたのだ。ドアの向こうに行ったのだろう。

 アンドロイド愛夢が着物を着ているのは自宅の中だけだ。国立大学の試験を合格して快晴となって通学する事になる。岩山岩蔵の家庭教師の仕事は終わった。と同時に岩山は総合商社の角紫に就職して市民党に入党する。福岡市議会の半数を占める市民党、日本紅党は、これから一議席を狙う。
 岩山岩蔵は会社が終わると市民党の手伝いに走り、又しても女との出会いは無くなっていく。老舗の一流商社の角紫(かどむらさき)では新入社員には残業も長時間、させる事がある。そんな時は岩山はスマートフォンで、
「すみません、今日も会社の残業で市民党に来られなくなりました。」
と市民党の福岡県本部(福岡市東区馬出)に電話する。岩山の電話は県本部長に繋がり、
「いいよ。仕事が一番だから。岩山君にも、いずれ市民党公認の立候補者に、なってもらうけど、それまでは仕事を頑張ってください。」
との返事だった。本部長は固定電話を置くと、
「福岡一区から当選した女性議員の妻駄伊井代は旦那とのアレは、しばらくないらしいな。」
と目の前の男性秘書に話す。五十代の男性秘書は好色そうに、
「妻駄は清楚に見えて男好きなんですよ。旦那は七十の市会議員、市民党ですよね。」
本部長は六十代らしく、
「ああ、そうだ。時々、女性秘書に手淫を、してもらっていると本人から聞いたよ。それで妻の伊井代には立たないんだろうな。」
「秘書は二十代の美人。伊井代は三十五、でしたっけね?本部長?」
本部長は、うなずくと、
「伊井代という妻が清楚でも三十路だからな。衆議院議員選挙で当選したのは伊井代の美貌のせいだと言われている。ま、市民党公認の妻駄伊井代だから最初から当選確実だった。昔の腐敗した保守政党のように金で自滅しては、いけない。その辺は君も覚えて置け。新たな資金源はビットコインもあるからな。」
と示唆する市民党福岡県本部長だ。
男性秘書は、
「分かっております。カジノを福岡市に誘致できれば市民党の利権になりますよね?本部長?」
「ああ、もちろんだとも。カジノ経営者には市民党の、うま味を知ってもらう。」
「金と女、ですね?本部長?」
「あー、そーだ。いつの世にも、その二つで政権は取れるし、市民党は日本の政権を取っている。東京本部は、おとなしくしているけど裏ではカジノや国策企業と癒着して東京の芸者は意のままに動かせるし、タレントのバカ女は全部、市民党の金を渡してある。」
「潰れていないテレビ局の馬鹿どもにもでしょ?本部長?」
「あー、そーだ。東京のテレビ局は日本一の馬鹿がやっているから金と女で、どうにでもなるさ。選挙の時は市民党に有利になるように番組を作らせ、金を渡す。馬鹿プロデュサーには神楽坂の美人芸者でオマンコ攻めすれば市民党の思いのままだ。」
「東京の芸者のオマンコは市民党が抑えていますからね、本部長。」
「それに国立大出と商工会議所、経団連もな。日本の庶民なんて表を入れさせるのは簡単だよ。テレビで煽ればいいし。」
「落ちぶれたテレビ局が欲しいのは金ですよね?本部長。」
「そうだ。それにプロデューサーは女で、どうにでもなる。日本のテレビ局は、その程度のものだからな、大昔からな。」
「市民党の前に長く続いた保守政党も、そうしていたんですかね?本部長?」
本部長は煙草を取り出すと口に咥えて、電子ライターで火を点けると、スパー、ふーっと紫煙を吐き出し、
「だろうかな?どの程度かは知らないが、金と女の政治の世界。男とセックスレスの女性議員には当て馬を、つけてやってオマンコさせては、いただろう。男欲しさに保守政党に入るなんて昔の常識だろう。」
中年秘書は淫猥な笑みを浮かべて、
「女性議員も議員宿舎で男とヤリタイ放題でしょ。男と遊べるから国会議員になる、なんて例もあるそうですね。」
本部長は深く煙草を吸うと、
「市民党の女性議員は特に、そういう例も多い。そのために選挙戦は必死で戦う。それで今は妻駄伊井代が福岡一区では当選しても旦那との夜の政治がねー、不満だとさ。」
「なーるほど、ですねー。妻駄議員の性欲を満たしてあげないと爆発するかもですよね?本部長。」
市民党福岡県本部長は煙草を右手に挟んで、身を乗り出すと、
「おまえ、どうだ?妻駄とハメまくっては?」
「えっへっへっへ。でも、遠慮しておきます。なんかネット記者が、うろついているみたいですからね、近頃。」
と答えると中年男性秘書は頭をゴリゴリと掻いた。福岡県本部長は再び煙草を深く吸うと遠くを見る目で何かを考えていた。
 
 総合商社・角紫の仕事で岩山岩蔵は背広を着てアンドロイド愛夢のいる豪邸に営業に行く事になった。接客の為の広い応接間から出てきたのは清楚な女性だ。三十路では、あるが仄かな色気も感じられる。礼儀正しく部屋の中に御辞儀をすると、扉を閉める。応接間の隣の部屋が待合室で、今、岩山岩蔵は待合室のソファに座っていた。出て来た清楚な三十路女性は白の上着に白のスカートで、白いハンドバッグを持っていた。座っている岩山を見ると、
「次の方ですね。どうぞ。入れますよ。」
と国会議員の風格で話した。
岩山は会釈して、
「ありがとうございます。もしかして貴女は市民党の方ですか?」
清楚三十路は目をパチリンとして、
「ええ、そうです。国会議員の妻駄伊井代です。よろしく、お願いしますね。」
と深く頭を下げると黒髪を揺らせて部屋を出ていった。僕も市民党に入りました、と言おうとした矢先に妻駄伊井代に通り過ぎられたのだ。(やはり市民党の党員、しかも国会議員か。おれにも見る目が出来て来たな。ん、応接室に入ろう。)扉を開けて中に入るとアンドロイド愛夢、それに愛夢の父親である唐竹割太郎(からたけ・わりたろう)が鼻髭を伸ばして座っていた。彼は岩山を見ると、
「やあ、お待たせ。さっきの女性の話が長くてね。まあ、ソファにかけなさい。」
焦げ茶色のソファに座ると岩山は、
「あの人、国会議員なんですよ。妻駄伊井代議員。」
と話を持ち掛けると唐竹割太郎は豪快に、
「ワハハハ。知っているさ。市民党への献金を依頼しに来たんだ。ま、いくらか献金するさ。政治資金規正法内の献金だから鼻紙程度だけどね。」
と話すと膝に乗って来た白猫を抱えて猫の頭を撫ぜてやる。岩山は身を乗り出して、
「僕も市民党に入党しました。唐竹さん、よろしくお願いします。」
「そうか。それは、いいな。市民党に頼めば官公庁の仕事も楽に手に入る。妻駄伊井代議員にも少し頼んでみた。もちろん献金をスマホ決済した後でね。」
 唐竹割太郎も市民党議員に献金していた。それは驚く事では、ない事実だ。唐竹は白猫の背中を撫ぜて、
「岩山君も市会議員になればワシも君に献金するよ。福岡市役所の奴らを動かすためにもな。政治家というより日本の政治家の旨味は利権と女だ。福岡ソープランド連合会も市民党に政治献金しようと働きかけている。それだけは腐敗と堕落の市民党でも拒否しているという話だ。風俗を見下さなければ自分たちが、いい恰好できないしな。それに市民党ではソープに行かなくても女性議員に手を付ければ、いい。とワシは聞いたよ。妻駄伊井代議員も市民党の福岡県本部長が味見する予定だそうだが、広島でマスコミに知られているから福岡では、というところらしいね。妻駄伊井代議員のセックスレス性活は一年になるらしい。旦那が七十だし、立つものも立たなくても老人として看過されてもいいからな。」
と詳しく話してくれた。
無言だった岩山は、
「愛夢さんはアンドロイドでしたね。アンドロイドでない愛夢さんは大学に行くのですか?」
白猫の目が光った。カメラのレンズのようだ。唐竹割太郎は、
「アンドロイド愛夢の役割は終わった。異母の愛夢は大学に行かせる。アンドロイド愛夢にはウチの仕事を覚えてもらう。最近一年間は逆の態勢だった。という事で、どちらの愛夢も今、ここには居ないよ。角紫の社員として来たのなら何か勧誘でも、してみるといい。」
初めての営業だけに岩山岩蔵は話を切り出すのに苦労した。クラウドファンディング、そう、それを話すのだ。
「実は弊社ではクラウドファンディングを始めました。出資していただける方を募集しております。」
白猫は主人の膝から降りてテーブルの下に行き、岩蔵の脚の近くに来て座る。彼の股間を見上げる白猫。唐竹割太郎は、
「ほお。クラウドファンディングねえ。いい企画だな。で、それは、内容は、どんなものかな?」
「博多湾に大型船を常時停泊させてホテルにするというものがあります。出資者様にはホテルオーナーと、なっていただき安定した宿泊収入を得ていただくというものです。」
唐竹割太郎は両眼を大きくして、
「面白いけどパンデミックで旅行客は制限される時があるよなー。」
「それは、そうですが宿泊だけでなく賃貸としても貸し出せば、いいわけです。」
「なるほど。家賃収入だね。それは面白い。船の上での生活だ、安く貸してあげたいね。」
博多港と呼ぶべき場所は特に決まっていない。人工島のアイランドシティも北側は海に面している。岩山岩蔵は営業車でアイランドシティの新たに出来た船着き場に案内した。
韓国へ行くクルーザー船も、ここから出港する。そこに巨大な船が停泊していた。豪華客船だが役目を終えた船舶のようだ。その船に岩山と唐竹割太郎は乗り込む。船室も多数、あるらしい。廊下を歩きつつ岩山は、
「この船室の何室かを所有出来ます。既に何人かのオーナーさんが現れました。民泊施設として使っていますよ。」
確かに船室の何室かは民泊の表示がドアに張り付けてある。唐竹は船内のあちこちを貪欲に見渡して、
「外国人に貸せば儲かりそうだ。すぐ近くの船着き場には韓国からの旅行者も来るんだろう?」
「ええ、大人数で訪日してきますよ。彼らの悩みは宿泊場所ですね。ホテルにすれば、儲かります。」

 数日内に唐竹割太郎は豪華客船の数室を買い占めた。そのうちの一つにパーティ会場のような大広間もある。さっそくの祝日、そこでパーティが開かれている。
 市民党・衆議院議員・妻駄伊井代議員を囲む夕べ
という垂れ幕が会場に掛かり、立食形式での会場となっている。三十人ほどの入場者がいて、背広を着た男性が手に手にワイングラスを持っている。会場の中央に白服の妻駄伊井代議員が立って、白い手袋をして激励に来て握手する入場者に応えていた。建設会社の社長らしき男性は右手に麦酒の大ジョッキ、左手に焼き玉蜀黍(とうもろこし)を持ち、妻駄の前に立つと左手の焼き玉蜀黍を口に咥えて左手で妻駄伊井代議員と握手した。その手を外すと口に咥えた焼き玉蜀黍を持ち、
「妻駄さんの別荘建築はウチに、お任せください。」
と、だみ声で話しかける。