sf小説・未来の出来事3 試し読み

流太郎は康美と会えるのを忘れていた。服を全部脱いで、湖面に飛び込む。バシャーンと音がして、全身、流太郎は湖水に浸(つ)かった。
その音に気付いたのか、あの白人美女人魚が水中を進んで流太郎に近づいてきた。白い両手を伸ばして流太郎に抱きつき、キスをした。
三十秒も水中でキスをしていると、流太郎には息が苦しい。それを見た人魚は上へと進む。湖面の上に顔を出した二人は、まだキスをしていた。それを見たソリゲムとセロナは、ニコニコとする。
やがて人魚は唇を離し、くるっと背中を向けた。流太郎が右手を伸ばすと彼女の女性器に触れてしまったのだ。
美女人魚は右手を後ろに伸ばして、流太郎の上を向いた男性自身をつかむと、自分の肉厚の女性器へと引く。流太郎は後ろから彼女を抱く。二人は水中で結びついてしまったのだ。
流太郎が、ぎこちなく腰を動かすと美女人魚は背中と頭部を反らし、せつなげな声を洩らした。
流太郎が液体を放出するまで三十分は持った。
ソリゲムとセロナは黙って、それを見ていた。
流太郎の両手は湖水の下で彼女の乳房を、揉んだり、掴んだり、又、彼女の白い大きな尻を掴んだりもしたのだが、湖上のソリゲム達には、それは見えない。
人魚美女のピンクの乳首が硬く尖るのも、見えなかった。
流太郎の小さな分身が勤めを終えて、元の大きさになると美女人魚は彼を離れ、裸身を反転させて流太郎にキスをする。唇を離すと、
「アナタ、ステキデス。アナタノ、ジュニアモ、カタクテ、イイ。モシ、ヨケレバ、アナタモ、ニンギョニナッテ、ワタシト、クラシマセンカ。マイニチ、ココデ、イマイジョウニ、タノシメルカラ、ネ?」
と日本語で話した。流太郎は彼女の白い肩を抱いて、
「日本語が話せますね。アメリカの人でしょう?」
「そう、わたし、日本に留学したのよ。おじさんが日本からアメリカに帰化した人。」
流太郎は、でも、・・・と躊躇する。それは、そうだろう。人魚になるには勇気が、要(い)る。それで、
「人魚になるのは、できるか、どうか。でも、ぼくには今のが初体験でした。」
と告白すると、青い瞳で美女人魚は流太郎を見つめ、
「そうだったの。チェリーボーイを卒業させてあげられて、わたしも嬉しい。わたしの住むところ、洞窟の中にあります。来ない?」
「どうかな、」
と答えてソリゲムの方を向き、
「ソリゲムさん、まだ、時間、ありますかー?」
と聞くと、ソリゲムは、
「残念だけど、別の場所も君に見せたいんだ。男にも、なったし、又、ここに来ることもあるよ。美人さんには、そう言って、って、聞こえましたか?日本語、分かるでしょう。」
美女人魚は微笑むと、ソリゲムの方を向いて、
「それでは、しばしの、お別れです。又、会いたい。」
名残惜しげな顔をして、湖水の下に姿を消した。

 車に戻った流太郎は、服を着る。セロナは冷静に流太郎の股間のモノも眺めていた。
白鳥の車は湖面から飛び立った。今度は、何処へ行くのだろう。

 流太郎が連れられて来た火星の国は、広大な国土を持つようだ。それが、どうも地球からは見えない火星の裏側にあるらしい。白鳥の車は地球で謂えば赤道直下の地帯に飛行中となったらしく、熱気が漂う。山の中腹に温泉らしいものが見えた。ソリゲムは流太郎に、
「さっき、裸になったけど、今度は温泉だよ。又、脱いでいいから。」
と無責任そうに呼びかける。
眼下に見える温泉は直径二十五メートル程の、大きな温泉だが、誰もいないようだ。流太郎は、それを眼にして、
「誰もいないようですね。」
と声に出すと、ソリゲムは、
「だって、今日は平日だからね。それに交通は不便なところだし。というより最寄りの道路からでさえ、徒歩三時間だよ。乗り物なしに来る火星人は、いないよ。」
と事情を語った。
白鳥の車は、その温泉のすぐそばの野原に降りた。車を出れば一メートルで温泉に入れる。ソリゲムは流太郎に、
「疲れただろう、この温泉は体に、いいよ。」
と運転席から振り返って言う。
「さっき、湖に入ったばかりだし・・・。」
と、ためらう流太郎。温泉というよりプールみたいだ。セロナが勇気づけるように、
「誰もいないし、わたし達の目は気にしなくていいから。」
と云うので、流太郎は、
「それでは失礼しまして、裸になります。」
と答えると車を降りて服を脱ぎ、温泉に浸かった。
ザポーン、と音を立てて湯の中に入ると、膝を曲げて尻が湯の底の土に届く。
地球の温泉より、ぬるめの湯加減だろう。硫黄の匂いみたいなものは鼻に感じられた。火星で温泉に入るなんて・・・と空を見上げた流太郎の目に小さな円盤が見え、それはグングングーンと大きくなると白鳥の車の横に急降下して着地した。
ソリゲムとセロナは少し驚いた風だったが、円盤内から初老の老人の火星人が出てくると、口を並べて、
「ダリモ部長!」と呼びかけた。その人物の後ろから、地球の日本の京都の舞妓の衣装を着た若い女性が、日傘をさして降りてくる。
ダリモ部長はセロナとソリゲムに、
「おはよう、もうすぐ昼だがね。ああ、ロケハンか。あの青年だろ、今回のドキュメンタリーの主役は。」
とニヤニヤっとしながら、流太郎を見る。流太郎はドギマギビクリ、とした。ソリゲムは、
「そうです。今日は部長は、お休みと聞きましたが。」
「ああ、休みさ。だから君達に指示は、しない。日本の芸者を連れて来ている。」
それは流太郎には見るだけで、分かる。京都の舞妓に見られるような髪型、に簪、白粉に口紅、で彼女の目は黒目が大きく人形のように均整が取れて、紫の着物を着ている。彼らも温泉から一メートルの距離だ。流太郎は湯の中とはいえ、透けて見えるかもと股間を両手で隠す。ダリモ部長は、それを見ると、
「霧乃、おまえも温泉に入りなさい。」
と舞妓に話す。霧乃と呼ばれた、その舞妓は嬉しそうに、
「はーい。脱ぎますわ、全部。」
と答えて、シャン、シャン、サラサラ、と着物をすべて外した。雪景色のように白い裸身に、簪も外して長く垂れている黒髪、それと同じ色で少し縮れた足の付け根の陰毛、丸く、横から見たら上を向いたような乳房と乳首、が印象的で彼女は全身、どこも隠さないままで流太郎の近くに、パシャ、パシャ、と湯の跳ねる音をさせて近づく。
流太郎は舞妓の全裸など見た事もなく、彼女の体から、ほんのりと甘い香りもしてきて陶然となるのだが、霧乃は流太郎の正面に脚を横にして座ったのだ。透明な湯なだけに、霧乃の乳房は透けて見える。流太郎は勢いよく自分の股間の分身が立ち上がるのを感じた。それを見る霧乃は微笑むと、
「手で隠さなくても、いいでしょ。わたしも何も隠さなかったんだから。わたしの下の毛まで見たくせに。」
と、甘く詰(なじ)る。
流太郎は観念したように両手を離した。雄々しい竿が湯の中に立つ。霧乃は眼を更に大きくして、
「太くて長いわ。早く頂戴。」
霧乃は両目を閉じて、両手を流太郎の方に差し伸べた。流太郎は彼女に、にじり寄り抱き寄せて接吻を開始した。霧乃の柔らかい手の指が流太郎の背中に回される。
霧乃の白い太ももは、湯の中で大きく開かれていた。流太郎は霧乃の大きな白い尻を抱えると持ち上げて、胡坐(あぐら)をかいた自分の太ももの上に降ろす。二人の性器は湯水のなかで結びつく。
口を開いた霧乃は自分で腰を動かしている。ぴったりと抱き合った二人は、流太郎が自分の胸の上で霧乃の大きな乳房が乳首と共に、形を崩すまで押し付けられているのを感じるほど密着している。
太陽は灼熱の光を二人に注いだ。それをエネルギー源としたのか、二人は一時間も結合していたのだ。
セロナは火星語でソリゲムに、
「すごいね、あの二人。」
と話す。ソリゲムは、
「カメラは、もう回し始めているから大丈夫だよ。」
「この部分もノーカットでいくのね。」
「そうしないと面白くないだろ。さっきの美女人魚との性交もカメラに入れているから。」
「時って童貞じゃ、なかったのかしら?」
「その分、エネルギーがあるね。」
ダリモ部長も感心して二人の結合後の動きを見ている。ダリモ部長、ソリゲムとセロナ、と横並びで温泉の中の二人の愛交を見ているのだ。霧乃の方が積極的に動き、自分で赤い舌を出して流太郎の唇の中に挿し込んだり、流太郎の両手を導いて自分の大きな柔らかい乳房を揉ませたりしている。
流太郎も火星人三人に近くで見られている事も、忘れてしまった。霧乃の方は見られても平気なようだ。それは・・・

 ダリモ部長が京都の舞妓、霧乃を身請けして火星に連れてきて半年になる。その間、ダリモ部長は霧子に指の爪先すら触れない。広い邸宅内から霧乃を出さない。娯楽の映像ですら男性の写っていないものを見せる。
京都で毎日のように男性に接していた霧乃は、性的に臨界点に到達していた。年齢は二十二歳、経験した男性は三人ほどだが、その男性は、それぞれ霧乃の旦那の時、毎日、朝と晩、霧乃と性交していた。
一人の旦那と終わっても、三日もすれば次の旦那が出来る。舞妓として座敷に出て、家に帰る、そこは旦那が購入した2LDKの高級マンションだ。だから十九の歳から、盆も正月も休みなく旦那が霧乃と愛交するほど彼女の裸身は素晴らしかった。
三人の旦那から、あらゆる体位で交わられ、時には二時間も続く事もあったのだ。二十二歳になった時、旦那の事業が不振になった為、霧乃は妾というか愛人をやめた。そこに現れたのが火星人のダリモ部長だったのだ。
愛人契約と云っても二人の間で決める事で、斡旋者が、いるわけではない。
古風な日本建築の広い座敷で、ダリモ部長は傍にいる霧乃に、
「君を不思議なところに連れていきたいんだがね。」
と持ち掛けた。
「不思議なとこって、どこどすの?」
「日本じゃないとこさ。」
とダリモ部長の日本語はセロナやソリゲムより巧い。
「ほな、アメリカどすか?」
「さあねえ、眼をつぶって、ご覧。」
「はいな。」
霧乃には既に一億円ほど渡してある。座ったまま眼を閉じた霧乃の横を抜け、ダリモ部長は座敷の庭園に面した廊下に立つと、携帯電話のようなものをズボンのポケットから出すと、
「準備完了。来てくれ。」
と命じた。すると三秒後には庭園の真上、十メートルの高さに空飛ぶ円盤が現れ、青い光がダリモ部長と霧乃を包むと上空の円盤内に引き上げた。見る人がいたとしても、青い光だけだろう。現れた円盤といっても人間の目やレーダーには映らない防護波で守られている。おまけに青い光ですら人間の目には透明に見える。
かくして円盤内に移動したダリモ部長と霧乃だが、ダリモ部長が、
「もう、眼を開けて、いいよ。」
と云うのでパッチリと眼を開いた霧乃は、
「ま。宇宙船みたいやわ。もしかして、空飛ぶ円盤どすか、ここ。」
思ったまま、を云う。ダリモ部長は、
「ああ、鋭いね。そうさ、私は実は火星人なのだよ。」
霧乃はクス、と笑うと、
「そんなの冗談ですねー。でも、誰も、うちの体、触らんのに不思議やわ。」
と真顔になる。ダリモ部長は笑顔で、
「火星に着けば、信じるよ、霧乃。」
と話すのだった。

 火星に着いて、あちこちに連れていかれれば、霧乃も信ぜざるを得なかった。夜になっても空には地球は見えないのでは、あったが、それは地球からは見えない裏側の火星だからだ。
三人の旦那に愛撫され続けた霧乃の体は、どうしても男性を求めてしまうのだが、ダリモ部長の気を引こうとしても通じなかった。
そんな時、温泉に連れていかれて裸の流太郎を見た時、彼に抱かれたいと思い、行動したのは不思議ではない。
三人の旦那は避妊具を着けていたが、流太郎は、そんなものは着けていない。それだけに強烈な快感を霧乃は覚え、(ここが火星の温泉だなんて)、と思いつつ、流太郎が終わった後でも、両脚を流太郎の腰に挟んで、しばらく離さなかった。そして流太郎に自分から接吻した。
長い二十分の口づけが終わると流太郎は三人の火星人に気づき、霧乃から離れて立ち上がると、ソリゲムに、
「このまま、いたら、お湯で府焼けてしまいそうです。」
と少し恥ずかし気な顔を見せる。両手で股間は隠しては、いるが。ソリゲムは、
「もう昼だから食事にしよう。日本風に弁当を持ってきている。ダリモ部長!部長は、どうされますか。」
ダリモは、
「わしらは円盤内で食べるよ。霧乃、着物を着なさい。」
と娘に話すように湯の中に座っている全裸の彼女に話しかけた。
彼女の顔は性の陶酔を味わった後の顔だが、
「はい、ただいま。」
と舞妓らしく答えると、ザブンと音を立てて白い裸身で立ち上がって、温泉を出ると着物を着ていった。

 白鳥の車の中で弁当箱を貰った流太郎は、その弁当が日本の四倍もある大きさなのに驚いた。開けてみて、更にびっくりしたのは、蓋のあるカップの中で小さい魚が泳いでいた。流太郎は、
「この魚、生きていますよ。食べられますか。」
と声を発した。セロナは、
「その液体にも味付けがしてあるし、魚は生きたまま食べるのが一番栄養があるのだからね。」
と説明すると、彼女はスプーンみたいなもので、その小魚を掬(すく)い、食べてしまった。流太郎も、それに倣(なら)う。うまい、喉の中を生きた魚が下っていくのは、白魚を想起させた。
流太郎は何とか食べ終わり、
「ご馳走様です。四食食べた気がします。」
と謝意を発言したら、ソリゲムは、
「よーし。少し休んで、これからゲームセンターに行くよ。」
と話した。流太郎は、
「屋根なしの車だと、いきなり雨が降ったら困りませんか。」
と訊いてみる。ソリゲムは、
「火星のこの地方は、滅多に雨が降らない。降ってきたら屋根は出せるよ。そうでない時は日光浴にもなるし、車の屋根は出さないね。そろそろ、行くか。」
セロナは、うなずき、
「行きましょうよ、ゲームセンターに。」
白鳥は羽根を羽ばたかせ、車は上へと上昇した。

 やがて郊外のゲームセンターみたいな所の駐車場らしき場所に、白鳥の車は降り立った。平日のゲームセンターらしく、人、というより火星人の客は、何処にも見えない。
入場する時もセロナが会社から貰っているというクレジットカードのようなものを改札口みたいなところに通して、三人が入った。もちろん、改札口で三人分とボタンを押す。では、五人でも三人分を押せば、と考える人間は火星には、いないが万一、というより億一、そんな場合のために入り口にはセンサーがあり、地球の自動ドアが開くように、三人分は三人しか通れないようになっている。
ゲームセンターの中は、華やかな照明で地球の野球場の広さはあるゲームセンターとしては、広大なものだ。
何と宿泊施設まである。火星の連休ともなると、泊りがけでゲームをしに来るらしい。
セロナは流太郎にクレジットカードのようなものを手渡し、
「これをゲーム機の前で改札口のように入れれば、いいから。一人で遊んでいて、いいわよ。」
と日本語で話した。
流太郎はキラキラとした照明で気分が高揚していたので、ボーリング場のようなところへ入る。一人ずつ入る広さのもので個室ボーリング場らしい。そこに入ると、地球のボーリング場そっくりだが、レーンの先に立っているのは美女人魚が十人、もちろん人形だが並んでいる。しかも上半身は全裸なので乳房も顕わだ。
流太郎はボールを取って、人魚ピンに向かって転がした。よく見ると金髪の陰毛まで見える。当たった!ストライクだ。全部の美女人魚が仰向けに倒れた。スコアを点ける人が、いない?そんなものは、デジタル画面に記録されて表示されている。
火星のボウリング場は、その点でも地球とは比べ物にならない。因みに、であるが流太郎は男性専用ボーリング場に入った。女性専用のボウリング場は、どうなっているのか、というと、全裸の金髪男性の人形がピンで並んでいる。しかして、その美男男性の股間のモノは堂々と、ぶらさがっているではないか!
しかも、それは女性が投げたボウルに当たると、ブラブラと睾丸及び陰茎が揺れるのだ。倒れないピンも美男金髪の性器の揺れを眺めて、女性ボウラーは満足する。
倒れてしまっては性器も横倒れになるので、すべての金髪全裸男性のピンを倒さず揺らすように試みる女性まで、出てきている。このようなボウリング場ではあるが、地球とは違って未成年者も出入りできる。
流太郎は、それほどの結果は出せなかったが、全部のピンが毎回倒れるより、全裸の金髪美女人魚の人形が残っている方が、面白かったのだ。
ボウリング場内には案内の火星人女性が、受付にいるが、それ以外は無人の施設だった。
そこを出ると、ゲームセンター内に戻る。歩いていると、地球のプリクラ撮影機のようなものに気づいたので、流太郎はクレジットカードらしきものを入れて料金を払い、中に入った。中はプリクラ撮影機の倍は広い。火星語は分からないので、緑色のボタンを押すと、流太郎の頭にシャワーのように光線が降った。すると!
座っている流太郎の横に幽霊よりは鮮明に、亡き父親が現れたのだ!
横にいる気配に流太郎は、横目で見て、
「父さん、父さんじゃないかっ。」
と横を向く。
三年前に死んだ父親の流一が、そこに立っていた。
時・流一は機械工学を専門とする技術者で、コンピューターを専門領域としていた。流一は息子の流太郎を見下ろすと、
「ああ、そうだよ。霊界から来たんだ。その機械はね、今、会いたい人、それも死んだ人を呼び出せる機械なんだ。今のところ火星と金星にあるんだが、地球には勿論、ない。そこで、我々地球人には無縁だった。霊界にいてもね。今回、私が初めてだろう、火星に呼ばれた日本人の霊界からの登場は。」
と語る。
流太郎は、かねてから訊いてみたかった事を尋ねる。
「父さんの死は謎めいていた、と母さんから聞いたけど、本当は、どうなんだろう。」
流一は回顧する。
「ああ、私は殺されたのさ。それも私の友人に。」
「ええっ、それは一体、誰なんだよ。僕は知らないと思うけど。」
「そうかもな、ただ、名前は言うよ。城川康一という会社の社長だ。」
電撃が流太郎の脳内を駆け巡る。
「城川・・・康一。もしかして娘の名前が康美とか・・・。」
「そうだよ。知っているのか、彼を。そして、彼の娘を。」
「ああ、もしかして同一名で違う人達かも、しれないけど。」
「北九州の人間だよ、彼は。」
「それなら、間違いなさそうだ。でも、どうして・・・。」
「それは城川康一の妻である女性はね、元は、私の恋人だったのだよ。城川は、それを自分の彼女にしたがった。が、なびかない彼女を諦めさせるために、私を殺した。」
そんな事・・なら城川康美は殺人者の娘、なのか。
「ひどい話だけど、父さん、城川を恨んでいないか。」
と流太郎は聞く。
父の流一は穏やかな顔で、
「いいや、もう、どうでもいい話だよ。父さんはね、あの世で豊かな暮らしをしているんだ。それに送ってくれたのが友人だった城川さ。だから、もう、いいんだ。」
「うーん、そんなものかね。」
「そんなものさ、他に何か聞きたい事は、あるか。」
「そうだなあ、何もないわけではないけど、聞けばショックを受けそうだし。」
「そうだなあ、霊界の事は知らない方が、いいよ。では元気で頑張れよ。」
「ああ、そうするよ。では、又、いつか。」
父の流一の霊体は消えた。
 流太郎は座席を立って外へ出る。ソリゲムとセロナが並んで立っていた。ソリゲムは、
「君に渡したクレジットカードには、位置特定機能がある。地球のGPSより優れたものだけど、このように広い場所では役に立つね。時刻は夕方になった。もうすぐ日没だから、ここを出よう。」
と話す。
ゲームセンターを出て、白鳥の車に乗ると再び空に舞い上がった。
 
 空から見てもホテルのような建物の屋上に、白鳥の車は降りる。屋上駐車場、という外観だ。ソリゲムを先頭にセロナ、流太郎の順でエレベーターのようなもので階下に降りる。階数表示は火星の数字のため、流太郎には見当がつかなかった。
直ぐに開いた扉から出たら、そこが、そのホテルのラウンジだ。受付のホテルマンも二人、背広に似たものを着て立っている。ピンク色の背広だ。地球の白人より色白の肌で、身長は二メートルほどだろうか。流太郎は自分が小さく感じられた。ソリゲムとセロナも二メートルはある背丈だ。