SF小説・未来の出来事14 試し読み

 金星の若い娼婦の美女、ワナン。今、彼女は1ピクセルの糸も身に纏わぬ姿となっている。それを眼から脳へ伝えられた流太郎は全勃起した。ワナンは彼のシンボルタワーを見て、
「すんごい逞しいわ。わたしも色んな金星人の男のチンコを見て来たけど、一番、太くて長いかもよ。とりあえず脇コキしてみるわ。してもらった事、ないでしょ?」
脇コキ?流太郎は、その語彙を知らなかったので、
「脇コキって何の事か、知らないけど。」
「こうするのよ。手コキより気持ち、いいかも。」
ワナンは身をかがめて、流太郎の全勃起した男のシンボルを自分の右の肩の下の腋に、はさんで前後に擦(こす)った。
手コキや脚コキよりも気持ちイイ、と流太郎は感じる。ワナンの左手は流太郎の右の乳首を、つまんだので2か所から来る感覚に流太郎は放出してしまった・・・という記憶が思い出せたが、これでは自分の職業は思い出せていないのだ。寝ていても思い出せないかも、と思い、彼はベッドから立ち上がった。服は着たまま寝ていたのだ。ララノは、
「焦らなくてもいいわよ。何か、思い出すものがあるかな?」
「うーん。そう急には頭が働かない・・・。」
「この部屋に、じっとしていても頭は働かないでしょう。今日は、この建物から外に出て気分転換をしましょう。金星では昼が続いている時期だから地球とは違った景色や、ものを感じると思うわ。」

 朝食はトウモロコシとパンとクジラの肉だった。部屋にメイド型女性ロボットが運んでくれた。外は明るいのだろう。昼が58日間も続く金星。そのためか地球上のトウモロコシよりも食べ応えがありすぎた。太陽の恵みが違うのだ。地球の日本でも鹿児島の大根は薩摩大根という普通の大根よりも大きなものが出来る。
金星のトウモロコシは地球のトウモロコシとは比べ物に、ならなかった。それでクジラの肉まで食べると朝から満腹になった流太郎、眠りたくなった時、ララノが入ってきて、
「さあ、出かけるわ。金星の太陽は地球の春位の光だから、眩しくもない、あ、あんたは日本人だったわね。サングラスは、いらないでしょ?」
「ええ、沖縄に海水浴に行った時もサングラスなし、で泳ぎました。」
ララノは、ドアを開けた。勝手口のような場所から外に出ると、いまだに太陽が輝いているという感じを流太郎は持った。4140万キロメートル、地球より太陽に近い惑星≪金星≫に流太郎は、今、いる。
地球を一周すると約4万キロなので、それより一千倍以上ある距離が金星と地球にはある。それなのに厚い雲が太陽の光を遮っているため、春の気候が続く。
地球では曇りの日は暗くなるが金星では、そんな暗くならない。空を見上げた流太郎は晴天が見えないのに気づく。前を歩いていたララノは、
「地球のように晴れ間が金星で広がったら灼熱地獄に、なってしまう。太陽系の惑星は、すべて人が住めるようになっているの。水星にも人類は、いるから、いつかは連れて行ってもらえるかもね。」
屋敷内にはヒマワリが一面に花を咲かせている区画があった。地球の菜の花畑のように向日葵が並んでいる林立した状態の風景を流太郎は初めて見たのだった。
春のような季節感の金星でヒマワリが咲いている。排他的な気持ち、現状を変えたくない気持ち、は地球上の誰もが持ってきた思いだ。それは中世ヨーロッパにも、あった。日本にもある。今のままでいい、UFOなんて認めたら変人扱い、いや、下手すると狂人扱いされる。それなら、そんなものは認めない方が、いい、と頭の中は何事も変わらない方を望む。だが、流太郎は金星にいるのだ。
 認めたくないと思う事は、もう、なかった。サイバーセキュリティの仕事を、していればいい、とも思わなかった。これから何があるにせよ、科学が昔より少し進歩しただけの地球、特に日本よりは遥かに面白いだろう。歩きながら流太郎は足取りが軽いのに気づいた。金星の重力は地球と、ほぼ同じなのだ。
大きな金属製の門の前に立つとララノは、右手の人差し指の先端を扉の中央にあるパネルのような場所に当てた。彼女の指紋を捉えた機械は門を左右に開いて開けた。指紋認証による門の開閉らしい。流太郎がララノに続いて門の外に出ると、大きな門扉はユックリと閉じた。
外は地球で謂えば郊外、といった趣の場所だった。自動車というものは走っていなくて、道路の上を円盤が低空飛行していた。それでも地上から五メートルは離れている空飛ぶ円盤だ。ララノは上向き加減で空を見て円盤を見ていたが、流太郎を振り返ると、
「地球ではヒッチハイクっていうものが、できるでしょう?ここ金星でも、それが出来るのよ。」
と明晰な日本語で話すと、空飛ぶ円盤の一つに向かって親指を立てて合図をした。すると、その円盤は急降下して二人の前の道路に着陸したのだ。円盤の側面が開くと中年の青い目をした筋肉質の男が現れた。彼は金星語で何かをララノに話す。ララノも金星語で答えると男は了承したように、うなずき、二人を円盤内へ導いた。
 円盤内は広々として洋式の居間にいるような雰囲気が、あった。運転手は運転席に戻らず、そこにあるソファを示して、
「座っていいよ。ぼくも座る。」
コの字型のソファだった。流太郎には彼の話している金星語は、もちろん分からない。壁にはポスターのような物に金星文字で何か書かれているが、それも流太郎は初めて視界に入れるものだったのだ。この後の若いハンサムな運転手とララノとの会話は金星語で続けられたので、流太郎には一語も理解できない。ララノは座ると、
「自動運転ナビで何処まで行くつまりなのですか?」
と訊く。
「どこに行くか決めていないんだ。だから、しばらくブラブラしているよ、おれの金玉みたいに。」
「きゃっ。あなたの金玉って大きいの?」
「大きい方だろうな。自分じゃ、あまり見ないものだからね、金玉は。」
流太郎には彼らの会話の意味が分からなかったが、性的な話題に移行していると察しては、いる。金星語は音楽的な響きで美しい。と流太郎は感じている。ハンサムな金星青年は流太郎の顔を見ると、
「や?君はAVに出ている役者だろう?昨日、見たよ、自分の部屋で窓のカーテンは開けたままでね。しばらく続く昼の連続の中で見るAVも、いいもんだ。ギャラは、いいんだろう?君の出演料は?」
流太郎は記憶を取り戻した。
そうだ!僕はAVにも時々、出ている。俳優業だけでは生活が苦しい。?頭の中で話している自分の言葉は金星語だ。それに今、自分よりハンサムな青年が話した言葉も金星語だったのに理解できたのは・・・?
ハンサムな青年は好奇に満ちた視線で流太郎を見ると、
「僕の名はロメオ・シーザル。百社は会社を持って、経営している。今は、それぞれの会社の社長に事業は任せているんだ。株の配当だけでも凄い収入だから、遊ぶのが国家のためだと思ってね。君の名はルンドリオ・ザーメントだろ?芸名なのか本名かは、知らないけど。」
ルンドリオ・ザーメント!そうだ、僕は本名で俳優やAV男優を、やっている。母はAV女優だった。その流れに逆らって俳優になったけど、結局は・・・。流太郎は金星語で答えていた。
「そうです。僕の出演作を見てくれて、ありがとう。最新作の【マンコよ永遠なれ】がヒットしたおかげで、印税的収入も入ってきましたよ。」
ロメオ・シーザルは注意深くルンドリオ・ザーメントを見ると、
「でも何だか地球人みたいにも見えるけど、役作りかね、その身振りは?」
「え?あ?何の事、ですか。そのうち地球人役をする事も、あるとは思いますよ。」
「そうだろうねえ。僕も本物の地球人を見た事は、ないけど・・・。立体映画で、よく出てくるね、地球人は。」
流太郎は段々と記憶が蘇ってきて、
「AVの方が待遇が、いいんですよ。毎日、二人のAV女優と絡んで週休三日で一流企業の社長より高い収入ですから。」
と記憶を開陳した。ロメオ・シーザルは少し驚いたようだ。
「そんなに、いいのか?AV男優の仕事は?」
流太郎、今は金星のルンドリオ・ザーメントは胸を張って、
「三日休まないと精が持ちません。その間は豪華な食事を取って休養します。週四日、働いても女とは八人とセックスしますからね。」
ロメオは、
「いーなー。僕は女とは縁がないよ。仕事に忙しいと、そんなものだ。金と女、なんて地球で謂われているが、金だけに特化集中すると女は、なくなるね。ヒッチハイクしている美女を見かけたのも、今回、初めてさ。」
とララノを見ながら話した。ララノは、
「自家用円盤を持つのも、かなりの資産家じゃないと無理ですものね。ヒッチハイクでは円盤トラック、とかに今まで乗せてもらっていましたわ。」
金星では物流も円盤によって、行われる。大型円盤には大量の物資が載せられている。ロメオ・シーザルは満足げな顔をして、
「おれも、この円盤を持つまでには随分と苦労をしたよ。円盤宅配便の仕事を若い頃に、やっていたし、長距離円盤の運転手もした。富裕層の人の金星外飛行のための円盤の運転士も、やった。
地球のような非常に遅れた星でも、月旅行に一般の金持ちが参加できるようになったね。それと似たようなもので、地球のUFO遭遇者は金星の国の政府系の円盤と搭乗員とに出会う事もあるし、見るだけでは国家の円盤なのか、個人所有の円盤なのかは区別は不可能だろう、地球人には。ああ、そう、君はルンドリオ・ザーメント。我が星のAV男優だったね。」
そう話をされて流太郎は、うなずくと、地球人であった流太郎の記憶がなくなっているのにも気づかずに、
「ええ。母は地球を訪問して、多くの地球人男性と性的関係を持ちました。ヨーロッパからアメリカへと渡り歩き、モデルの仕事をしながら二千人の男性とオマンコしたそうです。」
ロメオは目を夜の猫の目のように丸くして、
「ほおお、それは凄いね。金星人と気づかれずに、済んだんだね、君の母上は。」
「ええ。母は教養があり、地球の文明国の言語にも通暁していましたから。ヨーロッパの言語の殆どを知っていましたし、私にも教えてくれましたよ。そういう訳で地球人役をするのにヨーロッパ人の役柄は最適ですよ。」
金星のAVはロケ地が地球の事もあるのだ。地球のAVではロケ地が月になる事もない。もっとも地球上に月面らしき場所を作り、疑似として月に行ったように見せかける事は、出来るのだが。
 ヨーロッパからアメリカを旅しつつ、モデルで稼いで多くの男性とセックスした母、と流太郎の頭は記憶を呼び戻した。ん?本当か?
何か違うような気がするけど・・・それに自分は金星人じゃないような気もするが・・・それでも記憶に蘇るのは金星人としての記憶で、自分も多くの女とセックスして暮らしを立てている。
週休三日で・・・ルンドリオ・ザーメント、自分は人気急上昇中の金星のAV男優なんだ。これが本当なのに、なぜか自分は地球の日本人だったような気もする・・・しかし、記憶がないのだ、夢でも見たんだろう、自分が地球人だったらという希望でも潜在的な無意識の中に持っていたんだろうか・・・

 ララノから、
「うまくいきました。流太郎の脳内にルンドリオ・ザーメントの脳内思考を全て転送完了です。」
と金星のスマートフォンで報告を受けたベルリーナは、
「よし、最上等だわ。それで?ルンドリオ・ザーメントの方には流太郎の脳内思考を転送したわけね?」
「はい、閣下。ついでにルンドリオ・ザーメントを地球に送りました。」
ベルリーナはワクワクするような笑みを浮かべると、
「面白い事に、なりそうだわ。ルンドリオ・ザーメント。金星人は名乗りでもしないと地球人と変わらない外見だからね。もし名乗ったとしても信じてもらえないのが一般的だから、ルンドリオ・ザーメントは金星人と見破られることは、まずない、ない、ふふふ。」

 その頃、東京都町田市郊外の山中に小型の円盤が空から急降下して、広い野原に着陸した。円盤の中から出て来たのは金星人の姿だった。端正な容貌、深い彫りの顔立ち、青い瞳。の彼は背の高いハンサムな青年だ。だが、どこかしら淫蕩な表情もある。
彼の後から出て来たボディガードのような男は、
「ここにタクシーを呼んだ。それに乗って、町田市内へ行き、町田駅前で降りるんだ。君の名前は時・流太郎だ。そうだろ?君。」
と話した。
「え、ええ・・。そうです、僕の名前は時・流太郎・・。ん?ここは東京ですか?」
「そうだよ。何か思い出したかな?」
「僕は福岡市で働いていますよ。東京には出張で時々、来ますけど。出張で来ていたのかな?」
「そうさ。それを我々が円盤に乗せて金星に連れて行ったんだ。正確には我々の頭であるベルリーナ猊下の指示でね。」
「そう・・・だったようですね。それなら福岡に帰らないと。」
「そうだ。町田駅から新横浜駅まで行くと、新幹線に乗れる。君の財布の中を確認したまえ。」
と言われて流太郎になったルンドリオ・ザーメントはズボンのポケットの中に手を入れて財布を取り出すと、中を開いてビックリした。そこには百枚の一万円札が、ギシギシと詰め込まれている。流太郎、になったルンドリオ・ザーメントは、
「こんなに沢山・・財布の中に入れた事がありませんよ、一万円札を。」
と日本語で話す。ボディガード風の男も日本語で、
「それは我々の長のベルリーナ猊下からの下賜金だよ。全部、使っていい。」
季節は春らしいが、東京だけに少し寒い。ルンドリオ・ザーメントは記憶を取り戻して福岡市に戻りたくなった。それで、
「ありがとう。何か、よく分からないけど、これで福岡に帰れますね。」
「ああ、名古屋からリニアモーターカーに乗っても、ゆとりはあるだろう。女も何人も自由に出来るだろうさ、金でね。」
と話すと金星のボディーガードは、ニッ、ニッ、と笑った。

 ウオーんと音がして黄色いタクシーが来た。ルンドリオ・ザーメントは開いたタクシーの後部座席のドアから中に入った。ザーメントは柔らかなシートに背中を当てると、
「新横浜駅へ行ってくれ。」
ロボットのような男の運転手は、
「新横浜?わっしは、その辺の地理を知らないんですよ、だんな。ここは八王子に近いし、そんなとこまで・・。」
「ああ、そうだったな。町田駅の間違いだった。町田駅なら行けるだろう?」
「へい、へい。わっしは人工頭脳を少し入れてもらっているんでさー。でも人間ですよ。その人工頭脳の」
タクシーは走り出した。
「おかげで、普通の運転手より近道を通っていけます。それで、お客さんに評判がいいからって給料は上がりましたし、指名料まで貰ってます、はい。」
森林のような左右の景色が、ぽつぽつと看板が見える風景に変わり、ビルが見え始めた。ルンドリオ・ザーメントは運転手などには興味がなかった。それより福岡市には昔の恋人が、いるはずだ。名前は・・うーん、思い出せない。そのうちに思い出すだろう。株式会社・夢春の社名は思い出せる。籾山松之助という社長の名前も。
 町田の公園から地下道を通って何かの工場のような場所へ行った記憶が・・・一乗院花蓮という名前の令嬢・・・。
流太郎、外見はルンドリオ・ザーメントは外の景色を見ていなかった。運転手が、
「はい、町田駅前です。」
と呼びかけたのでハッとなると窓の外には町田駅が見えた。
 百万円は入っている財布から料金を払う。
「お客さん、おつり・・、あ、お客さん。」
「いいよ。つりは、いらないから。」
とルンドリオ・ザーメントはタクシーを出た。歩いて、すぐの町田駅から新横浜駅までの切符を買うと、すぐに来た電車に乗って横浜の方へと移動する。
横長の椅子に座って前を見たザーメントは、前方に座っている男の目がオレンジなのに気づいた。その他の部分は普通の人間だ。人工の目が手術で埋め込み可能となったのだ。彼は失明したか先天的に盲目だったのだろう。
隣に座った若い女性が、もたれかかるようにザーメントに体を寄せると、彼の股間に右手を伸ばし何気なく触った。彼女は、
「あ、ごめんなさい。」
と謝って右手を引っ込めたが、ザーメントは少し勃起してしまった。停車する駅が増えるにつれて、乗ってくる乗客も増えた。
若い女性も多く乗り込んでくる。丁度、ザーメントの目の前に若い女性の尻が停止した。つまり、背中を向けて、その女性が豊かな尻をピッチリとスカートに包んで立っている。そこへ!
驚くほど長い手が左から伸びて来た。その手はザーメントの目の前の女のスカートの尻を触り、撫でまわす。女は右手で吊革に掴まったまま、少し頭を前に向ける。尻を触られているのに気づいたらしい。その手が人造の手なのはザーメントには分かった。
サイバーモーメントの黒沢社長と福岡市博多区東那珂の社屋で話をしている時に、黒沢は、
「もうすぐ人造ハンド、痴漢もオーケー、が完成するよ。この手は手袋をするように手に付けられる。それが横に三メートルは伸びるんだ。しかも、だよ。若い女の感度のよさそうな尻をマイクロレーダーで探し出し、そこに吸盤のように吸いつくと、その美尻を愛撫する。どうだね、会員制サイトで販売するから一般公開は、されないよ。時君、買わないかね?社員割引で買えるようにするから。」
と、もちかけられた事があった。
その時、社長室で人造ハンド、痴漢もオーケーを見せてもらったのだが、今、電車の中で美しい後ろ姿の若い女性の美尻を撫でまわしているのは人造ハンド、痴漢もオーケーに違いない。流太郎?そう、僕の名前は時・流太郎だ。ルンドリオ・ザーメントという固有名詞が頭の中に時々、浮かぶが・・・人称代名詞なのだろうか、何の名前か分からない。兎も角、流太郎は左の方に視線を向けると、やはり背中を向けた背広の紳士の右手が伸びていた。
流太郎は黒沢社長の解説を思い出す。
「この商品は少し高いけど、高度な機能として、触られた女は『痴漢です』とか声を出せないように、その女性の脳に小さな電流を流し、声帯を抑制させる事ができるんだ。したがって触られている女は快感しか覚えない。」
流太郎は、それに対して、
「確証は、あるのですか。大変な事に、なりそうですけど。」
「いや、既に我が社の女子社員で実験済みだ。秘書の美月美姫にもテストした。彼女ですら声を出せなかったのだからね。」
「それで、とても気になる価格は・・いくらでしょう。」
「なーに、そんなに高くはない。福岡市で小さな新築の家を買える位だよ。」
「それなら高級外車の十倍ですね。高いなあ。」
「と、思うだろう。でもね、会員制サイトの顧客は、いずれも大金持ちばかりなのさ。それに科学で一財産、気づいた人が多いね。何故なら最初に登録してくれたのが、ぼくの古くからの友人で成月(なりつき)博士という某科学系の上場企業の創業者の男でね。この人造ハンド、痴漢もオーケーも一番最初に買ってくれた人だ。」
というのを思い出した流太郎は、今、目の前にある女の美尻を撫でまわしているのも、その先の紳士は成月博士、なのだろうかと思うが、その手は、やがて音もなく凄いスピードで縮むと、三メートルは左に離れた紳士の右腕の中に消えた。
列車は新横浜駅に着いた。流太郎は、さっきの人造の手による痴漢の紳士も新横浜駅で降りたので、紳士を見失わないように後をつけた。紳士は新横浜駅の改札出口を降りると、流太郎とは違って、新幹線乗り場には向かわずに新横浜駅の正面玄関に歩いていく。
流太郎は、その紳士の背中に、
「成月博士!」
と呼びかけてみた。すると、その紳士はピタと足を止めると、後ろを振り返る。黒沢社長と同年代の五十代半ばの男性で、知性に満ちた、その目は真っすぐに流太郎を見ていた。流太郎は成月博士に追いつくと、
「やはり成月博士でしたね。呼び止めてすみません。」
と挨拶した。成月博士の目には青い目をしたハンサムな西洋人が、正確な日本語で自分に話しかけているという状況に、
「いかにも自分は成月だが、君は一体、誰なのだ。私は君を知らんのだが。」
と落ち着いた口調で話した。流太郎は、
「申し遅れて済みません。僕は時・流太郎といいます。福岡市の株式会社夢春でサイバーセキュリティの仕事をしています。仕事の関係でサイバーモーメントの黒沢社長とは懇意にして、いただいています。成月博士の事は黒沢さんから聞いていましたので・・・。」
まさか人造ハンド、痴漢もオーケーの最初の購入者だと聞いたとは流太郎は、いえない。
成月博士は、おお、という顔をして、
「君も福岡なのかい。僕も福岡市出身だ。黒沢君とは同期でね。九州科学技術大学でも同じ組だったんだ。黒沢君は修士号を取得すると就職したが、私は博士号を取得するまで在学したよ。東京の企業に副社長で招聘されたから、そこに就職して、その会社の社長をしていたが、今は会長になっている。立ち話も疲れるだろう。駅ビルの最上階にレストランがある。そこへ行こうか。」
「ええ、お供しますよ、喜び勇んで。」
と答えた流太郎は成月博士に連れられて透明なガラスのエレベーターに乗り、新横浜駅の周辺の景色をエレベーター内で楽しみながら、最上階に到着して開いたドアも透明だった。
 目の前にある中華レストランに成月博士は入っていく。赤いチャイナドレスの女性が二人を案内したが、股間の上辺りまでスカートが切れているので彼女の白い下着、ショーツはチラホラと、よく見えた。赤いスカートに白のパンツである。チャイナドレスだが、若い日本女性だ。
窓際の席のガラスからは横浜港が遠くに見えた。
 成月博士は二人分のランチを注文すると、流太郎に
「なんでも好きな追加注文を、していいよ。しかし、なんだ、君は丸で西洋人だね。」
「ええ、鏡を見ても自分で、そう思います。最近、整形手術をしたのかもしれません。でも、記憶にないんですね。老人でもないのに、おかしいな、とは思いますけど。」
成月博士は威厳のある、うなずき方をすると、
「でも私が黒沢の友人という事は、覚えていた。でも、何故、分かったのかな。私の後ろ姿だけで。」
流太郎は言葉を喉に詰まらせると、
「それは・・ああ、確か黒沢社長に成月博士の写真を見せてもらった記憶が、あるような気がします。」
「後姿の、かね?私の。」
「いえ、電車を降りる時の博士の横顔を見て、そうではないか、と・・。」
「ああ、横顔でか。それなら判断も可能だな。本当は私の痴漢現場も見ているだろ?君。」
正面から心臓に矢を射抜かれた気持ちが流太郎には、して、
「え、ええ。確かに、それは拝見しましたが、でも、あれは人造の手ですから。」
「そうだよ。それでも痴漢に、ほぼ近い。私としては科学的研究の一環としてて、おこなっているのだが、本当はスケベごころも、あるがね。女性も、いい気持ちになれるし、人の手が触っているわけではない。穢される訳ではないからな。」
そう話すと成月博士はモカのコーヒーを、うまそうに飲んだ。流太郎も目の前のテーブルに置かれたモカのコーヒーを飲む。博士は、
「君は東京に住んでいるのかね?」
「いえ、福岡市に住んでいますよ。出張で来ました、東京には。」
「ああ、そうかい。ぼくは横浜に住んでいる。会長だから毎日、会社に行かなくて、いいし。」
「羨ましい御身分ですね。」
「いや、なーに、一つの発明が大金を齎(もたら)す事もある。私の場合、超極薄のコンドームを開発したので、それで社長になれたんだ。ゴムから作るのではなしに、蜘蛛の糸から作ったんだよ。それでゴムより丈夫なんだ。ゴムよりも肌触りが、いいらしいよ。女性の膣内の肌触りの話だがね。」
流太郎の心は関心で高まった。
「それは知りませんでした。僕は地球外の惑星でセックスしている事が多かったものですから。」
成月博士はジッと流太郎の目を見ると、
「地球外の生命体については黒沢君にも聞いているが、私には経験がないから何とも、いえない。ただ、一般人には、その話しは辞めた方が、いい。」
「それは・・誰にも話していないです。もしからしたら・・・。」
と流太郎になったルンドリオ・ザーメントは眼を上の方に向けて、
「ぼくは金星人のような気もしますから。」
と云うと、成月博士は眼を細めて、
「その方が正解な気もするな、君の外見は日本人離れしているからね。黒沢君の発明意欲には感心するよ。僕はコンドーム、一つで財をなしたから、後は遊んでいるんだけどね。黒沢君は修士で卒業、僕は博士だ。実家が裕福だったから博士に、なれたんだけど、人間として、やる気は黒沢君よりもないのかもしれない。黒沢君は父親の会社が倒産したため、修士で卒業しなければ、いけなかった。
貧困は時として人間の、やる気を高めるものさ。ぼくは大富豪でもないのに遊んでいるのは、そこそこの金で満足しているためかな。君は。どんな仕事をしているんだね?」
「サイバーセキュリティの仕事、を主に営業で、やっています。銀行を回ると契約が、結構、取れますよ。」
「銀行は一番、サイバーセキュリティは大事だな。そうだ。私の会社でも検討しても、いい。今度、その話で私の会社に来てもらおう。」
意外なところで仕事の話に繋がった流太郎で、ある。

食事も終わると流太郎の中身のルンドリオ・ザーメントは成月博士の自宅へ連れていかれた。博士の家は横浜の港が見える高台の丘の上に立つ豪邸だった。若い女性が玄関に出迎えたので、流太郎は、
「娘さんですか?大学にでも、通っているとか?」
と聞くと博士は、
「いや、妻だよ。彼女は二十一だ。去年、結婚したんだ。」
博士の奥さんは薔薇のような微笑みを浮かべると、
「いらっしゃい、ようこそ。お上がりください。」
と流太郎に話しかけた。
 日本風の広い居間に博士と流太郎は歩いて入った。黒塗りの艶のいい木肌のテーブルに向かい合って四つの椅子がある。博士と流太郎は向かい合って座る。成月博士は、
「君は時流太郎には見えない。僕は日本人の時君を知っているからだ。ただ、時君の頭脳は持っているようだね。」
と看破したように指摘した。
ルンドリオ・ザーメントは平然と、
「それは、そうかもしれないけど。なんだか僕も分からないんです。しかし、記憶は蘇ります。自分は福岡市の時流太郎だという記憶です。それに日本語しか話せませんし。」
とスラスラと話した。
成月博士はフム、という顔をすると、
「まあ、いい。黒沢と電話で話したけど、時流太郎は行方不明だそうだ。宇宙人に連れ去られたのではないか、と我々は推測していた。でも、君は、もしかしたら改造された時・流太郎かもしれんな。」
と話すと、つくづくと流太郎の顔、というよりルンドリオ・ザーメントの顔を見た。続けて成月博士は、
「前に見た時クンも中々の男前だったが、君には妖しい性的魅力がある。AVに出れば人気男優になれるだろう。」
「そういえば、色々な惑星でAVに出ていた記憶があります。」
「そうなのか。ただ、しかし、地球ではAVに出た事は、ないだろう?」
「ない・・・と思います。どうですか、それは・・・ない気がします。」
「ともかく、福岡市に帰った方が、いい。黒沢も楽しみにしている。私は君を、どうこうする力はない。隠居した老人みたいな身分でね。新幹線で帰ると、いい。いや、今日は泊まりなさい、うちに。明日ね、リニアモーターカーが新横浜から乗れるんだ。」
時流太郎は目を輝かせると、
「お金は、いっぱい持っています。リニアって運賃は高いのでしょう?」
「そうだろうね。格安航空機より高いかもな。ただ、旅客機は空高く飛ぶから周りに何もなくて、どの位の速度で移動しているのかが実感できない。リニアも地下を走るから、その辺は旅客機と同じようなモノだろうけど、地を走っているという実感は、あるよ。」
その居間の壁には大きな風景画が飾ってあったが、湖水に浮かぶ小舟が動いている。湖面も、さざ波が立って、まるで動画のように動いているのに流太郎は気づいた。流太郎の視線に気づいた成月博士は、
「動く油絵だよ。人が見ると動き出す、という優れた代物なんだ。」
「人の視線を捉える?油絵ですか?」
「そうだ。実は人間の視線は、ある波動を出している。もっと、面白い商品を開発中だ。出して、君に見せよう。」
成月博士は立ち上がると、部屋の隅に行き、そこに床に立てかけてある大きな油絵を持つと、風景画の上に設置した。
その絵は十二単(ひとえ)を身にまとった女性の全身像が描かれていた。流太郎は目を凝らすようにして、その着物の着膨れしたような女性を眺めると、なんと!その若い美女の衣服は壱枚、一枚と脱げていくでは、ないか!
とうとう最後の一枚になり、それが落ちると全裸になった。絵だけに人物は動かない。表情も変わらない、微笑の長い黒髪の美女。全裸になると、彼女の股間は黒い陰毛が密生していた。
成月博士は、その絵の横に立ったまま、
「どうだね?これには相当な開発時間が必要だった。十二単のように絵の上に重ね塗りをしていくんだ。それが人間の視線によって、一枚、一枚溶けていくようにした。そういうものだから、この絵は黒いパッケージに入れて販売しなければ、いけない。
ある有名な画伯の絵のために、販売価格も高額なものになるが、既に十人の顧客に予約を、もらっている。これが我が社の新商品だ。」
自信ありげに語る成月博士だった。
 あくる日、流太郎は新横浜駅まで成月博士に連れて行ってもらうと、確かにリニアモーターカーの開通で、今日から乗れるという。ホームで成月博士は、リニアに乗る前の中身だけは流太郎のルンドリオ・ザーメントに、
「黒沢君に、よろしく伝えてくれたまえ。マジックハンド、痴漢もオーケーは時々、使っていると。」
北欧人のような流太郎は、
「お伝えします。それでは成月博士、ごきげんよう。」
と応えると、リニアに乗り込む。
そこから京都までは、今までにない移動感覚を味わった流太郎である。京都駅で新幹線に乗り換えるために、一旦、改札を出て新幹線の切符売り場へ行くと、
あと一週間で博多までリニアは開通します
という看板を流太郎は目にした。