SF小説・未来の出来事31 試し読み

医師のセックスレス妻の丸代が指さす部分を見て、丸代と同じ全裸のヨガ講師、与儀は両手を腰に当てると、
「今は想像でなくて、現実に見ているし、少し前まで俺のモノを刺し込んでいたからな、そこに。君は、とても気持ちよさそうだったよ、丸代。」
と肌を重ねた男女の会話らしい遠慮のない響きで話した。丸代は頬を染めて「ええ、人生で一番、気持ちよかったわ。」
満足げな与儀は、
「次はガルーダーサナでセックスするのもいい。」
丸代は、そのポーズを思い出して、
「ワシのポーズね。片足で立って右手を上げる・・・。」
その時、広い室内の出入り口が開いて数名の男が這入り込んできた。
裸の与儀は彼らに、
「なんだ、君達は外からは入れないように鍵を掛けていたが。」
彼らは三人で横に並んでいる。肌の色は白いし金髪の男は真ん中で、
「鍵が役に立たない事を実証するために入ったんだ。強盗とかではないので安心されたし。」
と与儀と同じ180センチくらいの彼らは全員が灰色の背広の上下に身を包んでいる。
丸代は慌てて下着と服を着た。与儀は未だに全裸だ。謎の男たちの右にいる人物は与儀を見て、
「中々の股間じゃないか。そこの女性と楽しんでいたようで申し訳ない。でも、これから君達を連れていくのが俺たちの使命なんだ。」
と確信的に宣言する。与儀は混乱を余儀なくされてしまい、
「一体、何処に連れていくつもりだ?」
熊のように体格のいい左側の男は、
「屋上に上がれば分かる。服は着ないのか?」
「ああ、着るよ。どうせ抵抗しても、連れていくんだろう?」
真ん中の男は上着の内側からピストルに似たものを取り出すと、全裸の与儀に狙いを定めて、
「そうだ、抵抗すれば、この飛び道具でオタクを撃たないといけなくなるよ。」
と静かに云う。静かに脅される方が脅しは、より凄みを帯びるものだ。与儀はゾクゾクゾクッと背中の上を冷水が逆流していくような感覚がして急いで下着と服を身に着ける。真ん中の男はピストルを上着の中にしまうと、
「屋上へ案内しろ。オレ以外の二人もピストルを持っている。素手でもオタクを倒すことは容易な話だ。そこの奥さんも一緒に来るように。」
と少し震えて立っている月森丸代に誘いかける。三人の前を与儀と丸代は歩かされた。屋上に登る。平屋建ての住居なので二階はなく屋上だった。ドアノブを与儀が回すとロック解錠で、五人は屋上に出た。屋上の面積一杯に停車しているのは地球の乗り物ではなかったのだ。UFOを見るのは与儀も丸代も生まれて初めてだった。与儀と丸代は同じような事を考えている。(そうすると、この人たちは・・・)二人を見て真ん中の男は笑顔になると、
「俺たちを宇宙人だと思っているんだろう。アメリカ人だよ。NASA勤務の俺たちだ。月まで来てもらいたいんだ。」
と簡潔に話した。
与儀は幾分、落ち着いた。それは彼らが地球外生命体ではないと打ち明けたからだ。日本語も日本人と遜色を感じない明瞭な話し方なので、与儀は、
「おれだけ、ついて行こう。この女性は必要ないだろう?」
と丸代を指さして訊く。
リーダーらしい列の真ん中にいた男は、
「いや、その奥さんにも来てもらわないとイケナイよ。二人で来てもらわないと、な。目的を達成できない、俺たちのね。」
与儀は丸代に、
「という事らしいけど、どうだろう?丸代さん。」
丸代は躊躇せずに、
「行きますわ。夫は驚くだろうけど平気です、わたし。」

 円盤の内部に廊下があって、一つのドアをリーダーが開けると、そこはホテルのラウンジのような豪奢で贅沢な雰囲気のある部屋だった。リーダーは与儀に、
「腰かけたまえ。月まで揺れることなく飛んでいくよ。さあ、出発だ。Go to the moon!」
ゴートゥ、ザ・ムーンというリーダーの言葉通りに円盤は離陸したのだが、室内の与儀と丸代には円盤が垂直に飛翔したのには気が付かなかった。赤いソファが円形に並べてあって、アメリカ人と話した三人と与儀と丸代は並んで向かい合う。リーダーは、
「これから月の地球から見て裏側に行くよ。おれの名前はカッター、アメリカのテキサス生まれでね。四十五歳だ。」
と両手を広げて自己紹介した。さっきヨガ教室で一列に横に並んだ時と同じ配置で他の二人はソファに座っている。リーダーのカッターは右手を与儀達から見て左の男を示すと、その熊のような大男は、
「俺の名前はキラミン。ニューヨーク生まれさ。四十歳だ。」
カッターは右手で自分の左にいる男を示す、その男は理知的な顔立ち、
「俺の名前はトムトム。カリフォルニア州ロサンゼルス生まれダヨ。日本にも何回か来たな。親日だから日本語も、うまくなった。」
カッターは身を乗り出すと、
「君達の自己紹介も、どうぞ。」
というので与儀は、
「福岡市生まれで父親はインド人の与儀です。よろしく36。」
トムトムは、
「36てのは君の年齢か?よくわからない。」
与儀は気軽に、
「しくイコール36でしょ?」
トムトム「あー、なるほどね。ダダダン、トだじゃれだね、あはは。」
丸代は細々と、
「月森といいます。東京生まれです。医師の妻です。」
カッターは面白そうに、
「そ。なら君は不倫をしていたんだな、ああ?」
与儀は横から割り込む様に、
「ぼくらは真面目な交際ですよ。結婚する予定ですから。」
アメリカ人三人は感心して、代表するようにカッターは、
「それは、いいな。オメデトウ。月に、これから行くのはツキがいい、なーんて本当さ。」
丸代は打ち解けたように、
「わたし月森という名前です。月に森なんて、ありませんよね?」
トムトムは首を右、左にスイングすると、
「いや、あるんだよ。それがねー、だって月には人が住んでいるんだから。」
与儀と丸代は一方ならず、四方八方驚いて丸代は、
「えええっー。月に森が、あるーんですか、信じられないですわ。」
熊のようなキラミンは髭もじゃもじゃの顔を丸代に向けると、
「森も林も湖も、池も小川も大河もあるさ。俺たちは、今は月に住んでいるんだから。」
と説明口調で解説してくれた。与儀は好奇心で、
「この円盤はアメリカのモノなのですか?知りたいなあ。」
トムトムが答えて、
「知りたいとは尻に鯛を載せる事だ、なんてのはサテ置き、アメリカのモノではないね、この円盤は月の富裕層から借りているよ。」
丸代は目玉焼きが出来そうな眼をして、
「月の富裕層ってアメリカの人は既に月に住んでいるんですか、凄いわ。」
カッターが説明する、
「アメリカ人は月では富裕ではなく、それに誰も住んでいない、月にはね。これは月人の所有するもので、それを借りているという訳さ。」
月まで、そう時間が掛かる訳がない。着陸したと思えないのに、円盤は月に着陸していたのだ。それも地球から見えない月の裏側に、である。月の一日は地球の一月程度もある。であるから半月が太陽が出ていて、半月は夜となる。ルナティックとは狂気の意味があるが地球で十五日間も太陽が出ていて、残りは夜などでは、どういう精神状態になるのだろう。
生物は太陽に依存する。月の人間は半月は起きていて、半月は寝ているのだろうか。カッターは壁にある何かを見て、
「月の裏側に着いたよ。降りよう、円盤を。」
と皆を促した。
そこはビルの屋上のような場所だった。月にビルディングがある。屋上から眺めると都市でビルだらけ。空にはUFOが、あちこちに飛んでいる。月の重力も地球と、ほぼ同じだった。だったらアポロの月面着陸で軽く飛んでいる宇宙飛行士は何故、あんなに軽々と月面を飛べるのだろうか。
しばらく五人は屋上にいた。明るい太陽の下に月の裏側が五人の目に見える。与儀は歩くと、
「地球と同じような重力ですね。月は重力が少ないと教えられていましたが。」
とカッターに尋ねる。カッターは両手を左右に広げて、両肩をすくめると、
「月への最初の月面着陸の映像はフェイクだ。つまり贋物、作りものさ。映画監督のスタンリー・キューブリックが特撮の関与を認めているだろう。月には宇宙からの訪問者で一杯なんだよ。地球と同じ環境どころか地球よりも生命が住むのに良い環境は宇宙には、いくつでもあって、そういう星がいくつもあったとしても不思議ではない。この考えられない程に広大な宇宙空間に生命が地球だけにあり、地球人だけが二足歩行して思考する生物だと考える方が狂気なのでは、ないだろうか。
これは我々、アメリカ人の中にも科学と称する妄想を正しいとする人々が多い。銀河には何百億人の人類がいると私は聞いた。それは真実だと思うよ。」
それに第一、酸素があるのだ。酸素ボンベなど不要の月面である。ビルの屋上にも植物を植えている鉢が見受けられる。とすれば雨が降り、成長するので鉢植えにされている緑が並んでいる。カッターは、
「太陽系の惑星には全て酸素がある。そうでないと生命は存在できないからね。地球以外の惑星には生命は存在できないと主張しておいた方が都合がいいんだ。なぜならアメリカ以外の国は他の惑星への興味を失う。そしたらアメリカが一番乗りで他の惑星に乗り込める。そして領土も取れる算段なんだよ。これに所謂、妄想の科学で生活している大学教授らが賛同して月どころか太陽系の惑星は地球以外には生命は、いないなどと、のたまわっているんだ。あめりかとしては一番いい宣伝工作に無料で活動してくれる日本の物理学者の教授たちだ。日本の政治家は全部がアメリカの飼い犬さ。餌を貰うために何でもやるんだぜ。でもなあ、」
そこでカッターは一息つくと、
「とんでもないのが現れたよ、日本の政治に。」
と話すと、与儀と丸代を見る。与儀は、
「誰なんですか、その政治家は?」
「日本紅党党首の桜見世子。過激派共産主義の女党首でね。でも、オレ達はアメリカがどうなろうと構わない、というのは月で生活しているからね。地球に行く時には誰かを、ここに連れてこないとイケナイ。これは随分前からの習慣みたいになっているよ。そして地球に返さない場合もある。」
と静かに話すカッターの口調だが、与儀と丸代はゾッゾクゥーと背筋が寒くなる。このビルの屋上は月の地面の上に建っているので二人が逃げ出しても、ビル内も月の土地も全くの不案内なのは二人とも分かっている。カッターたちに随行するしか方法は、ないのだ。不安に怯える二人を見るとカッターは獲物を捕らえた人の目をして、
「君達は返すかもしれない。月で性活したらいい。地球人の性の活動を観察したい人たちもいるし、ぼくらは実は公務員みたいなものでね、そういう月の政府の部門に連れていってホテル暮らしを君達にしてもらい、どこにあるのか分からないカメラで撮影されているだけで生活は保障されるよ。どうかな?」
とカッターは二人の目を覗き込んだ。与儀は不承不承の顔だが、
「それしか、ないでしょう。ぼくらは、そうすると月で新婚生活ですね。」
と答えると、カッターは快速な態度で、
「ようし、決定だ。今から地球対策省の地球人生活観察庁に行こう。このビル内に実はあるんだ。だから下に降りれば、いいだけさ。エレベーターに乗ろう。屋上の端にはエレベーターがあった。地球のエレベーターと、そんなに違いはない。かなり下に降りたが何階かは分からない与儀と丸代だった。階数は月の数字で表記されているためだ。エレベーターを出るとカッターはトムトムとキラミンに、
「ここまでで、いい。トムトム、キラミン。今日の仕事は終わりだ。」と告げた。
トムトムはヒューッ、と口笛を吹くとキラミンに英語で、
「地下のバーに行こう。地球対策省のバーだから安く、飲めるぜ。」
と誘うと理知的なキラミンも楽しそうに、
「ああ、昼から酒が飲めるな。どうせ半月は昼だけど。」
と英語で答えたので与儀と丸代には二人の対話の意味が分からなかった。
 カッターが地球人生活観察庁の部屋のドアを開けると、そこは受付のような場所で金髪の男性が座っていた。一般の受付口のようだ。カッターと受付の男性の会話は月の言語で行なわれているので与儀と丸代には理解不能だ。カッターとの話を了解した受付の男性は笑顔で先へ進む様に手で示す。受付の右横には廊下があり、それを三人は歩いていくと又、いくつものドアが廊下の左右に並んでいて、カッターを追いかけるように与儀と丸代は歩いた。
カッターは一つのドアの前で立ち止まると、
「ここが日本人研究課なんだ。入ろう。」
とドアを開ける。
中に入ると数人の職員が見えたが、対応してくれたのはカウンターに座っている中年男性で、
「ようこそ。お待ちしていました。」
と浅黒い顔の男は日本語で話した。
カッターは二人を紹介する。
「日本から来た与儀さんと月森さんだ。月での性活がしたいらしい。」
受付の男は座ったまま、
「ここでは職員全てが日本語を習得しています。お気軽に話してください。右に進んで最初のドアが日本人応対室となっています。」
又しても右手に進む三人だ。
最初のドアの前に立ち、カッターが待っていると自動でドアが開いた。三人が入った部屋は広くて応接室のような場所に男の職員が歩いてきて、
「ようこそ。そこのソファに腰かけてください。」
と明確な日本語で話し、自分も三人に対面する形で座る。北欧人に似た容貌の男性だ。白さは北欧人より白い肌の色、顔の色である。職員は笑顔で、
「わたくしたち職員は全員が地球の日本に行き、語学も学びました。」
と話す。与儀は疑問に感じた事を聞く。
「どのように日本に滞在したのですか。ホテル?民泊、それとも・・?」
職員は悠然と、
「日本の東京郊外の高尾山の地下に我々が宿泊できる施設があります。自家発電の装置を据え付けていてオール電化で風呂も沸かせます。電子レンジや冷蔵庫はネット通販で買って入り口から少し離れた場所で受け取り、車で施設に運び込みます。その離れた場所のマンションは一階を借りていますけどね。水道は地下水を導き入れているので天然のものです。水道代を払う事も、ありません。
その施設は三十人は泊まれます。施設の管理者は常駐していますし、日本の紙幣や硬貨も持っているので時々、地下から出て東京だけでなく北海道から沖縄まで旅行もしますよ。パスポートは要りませんから(笑)。」
と懇切丁寧、次節は不明に説明してくれた。その室内の温度は20度くらいだろうか。
与儀は納得して、
「語学学校に行くわけですか、日本語習得のために。」
と再度、質問すると職員は、
「それでは色々と面倒ですね。近くに借りているマンションまで個人教師として来てもらうのです。朝から夕方まで教えてもらえますし、入学手続きも要りません。ネットで募集したら、すぐに面接に来ますよ。その教師も学校で教えるよりも高額な報酬を貰えるのでね。」
と即答した。なるほど彼ら月の人達は既に日本にも来ているだけでなく宿泊施設も東京郊外に持っているらしい。でも与儀には、まだ疑問がある。それで与儀は、
「そのー、語学教師を雇える資金は何処から来るのですか?」
と訊くと職員は、
「当然なる疑問ですね。実は月にはダイアモンドが豊富に採れる場所があります。月政府で管理している場所もありますから、そのダイアモンドを地球に持ち込んで換金するのですよ。この活動のための施設は地球の全世界的な場所に置いていますから、日本には逆に云うと月のダイアモンドの換金施設は、ないわけですが海外から日本の施設に送金してもらいます。タックスフリーな島とかにも拠点がありますし、日本に税金なんか払わなくていいようにね。」
と魅力的に職員は話してくれた。
与儀は理解して、
「分かりました、話は別ですがヨガとか興味ありますか?」
職員は、
「うーん、それはインドのものでしょう。我々は日本にしか興味を持ちませんので。」
と答えた。与儀は小落胆して、
「私はインド人の父親を持つハーフです。純粋な日本人では、ないんですよ。」
職員は顔色を変更せずに、
「日本に住んでいれば大丈夫です。日本国籍ですか?」
与儀は、
「日本国籍で日本生まれです。インドには修行のために五年は滞在しました。」
職員は楽しそうに、
「それなら猶、興味深いですね。我々は純粋な日本人ばかりを研究していないのですよ。そもそも純粋な日本人なんて、いないんです。縄文人と弥生人の混血ですからね、古い日本人も。四国には古くからユダヤ人が住んでいますよ。キリストの墓も青森県にあります。これはキリストの遺体を埋めた墓と考えるよりも、キリストを慕うユダヤ人が建立したと思われます。とすると青森県にもユダヤ人が辿り着いているという事実がありますね。だから青森県の人の中にはユダヤ人の血が混じっている人も、いるはずですよ。」
 月の人間が、このような事実を知っていて一般の日本人が知らないというのも変な話ではあるが、大体に於いて日本の学者というものは常識と言われる範疇の外には出たがらないし学説も発表しない。
一般の日本人は読書をしない程度は隣国の中国よりも遥かに下なのだ。士農工商の時代が長く続いたので、仕方のない事ではあるだろう。だって士族以外は読書をしないのも自由だったからだ。
 インド人の血を持つ与儀も興味の中心はヨガであったので、キリストの墓が青森にあるのは知らなかった。それで与儀は、
「キリストの墓が青森に、ですか。知りませんでした。私にはキリストより、ババジやヨガナンダの方が救世主なのです。」
というと月の職員は、
「ババジ?ヨガナンダ?知りません、私は。ここは月政府の日本人研究課で、わたしは課長のドミリンダ・ケネフと言います。申し遅れましたが、ここでの会話は録音されていますし、映像として記録されています。」
与儀と丸代は無言で、うなずいた。いつの間にかカッターは、その場から姿を消していた。横にいる人間には注意を払わないものだ。しかもソファを距離を置いて座っていたカッターだった。与儀が横を見るとカッターがいないのでドミリンダ・ケネフに顔を向け、
「カッターさんが居なくなりました。」
ケネフは動ぜずに、
「あの人の役目は終わったのです。貴方方を、ここに連れてくるのが目的でしたから。」
丸代は唐突に、
「アメリカ人なんですか、あの人は?」
と質疑するとケネフは含み笑いをして、
「どうして、どうして。あの人たちも月の住民です。」
と話したのだ。
カッターはアメリカ人ではなかった。とするとトムトムやキラミンも、そうなのだろう。二人は騙されていたのだ。与儀は、
「でも何故、アメリカ人なんて言ったんでしょう、カッターさんは。」
ケネフは、
「あなた方を不安がらせないためですよ、きっとね。」
と話すと両手を前に出して組み、テーブルの上に置くと、
「月の生活では昼が半月くらいで夜が半月ほど、ですが、我々も地球人と同じ人間ですから半月、起きて、半月、寝続ける事なんてありません。我々の先祖は地球に似た環境の星から月に飛来して住み続けています。一晩中、太陽が出ていても部屋の中を暗くする工夫や、一日中、夜の場合も通勤、通学が出来る環境づくりをしています。だから貴方方も半月起きて、半月寝なくてもいいんです。その点は安心していてください。」
と念を押すようにケネフは話した。続けてケネフは、
「何か聞いておきたい事があれば、遠慮なく聞いて下さい。」
と両手を組んだまま云った。
与儀は少し身を乗り出して、
「僕らは地球に帰れるのですか?」
ケネフは思念顔で、
「うーん、どうでしょうか、それについては今は何とも言えない。ただし地球の日本よりは住みよいのが月です。というか月の裏側ですね、地球から見たら。完全なる共産主義ですからね、月の裏側は。あなた方は性の活動を我々に見せてくれれば、いい。なにも我々の目の前で、やってもらわなくていい。それだけで月で暮らせる月の貨幣、紙幣を報酬として上げるだけでなく生涯年金も積み立てられます。老後は地球の日本よりも高額な年金を受けられます。それでも地球の日本に帰りたいですか?」
という驚きの話をした。
月の裏側は共産主義の国で年金は地球の日本よりも高いという。それなら、あんなに貧富の差、それは過去の政治が作り出してきたものだが、そんな環境で生きていかなくてもいいのだ。