巨乳な女探偵・夏海静花の管理ファイル 試し読み

夏海静花は二十七歳の女探偵だ。身長百五十八センチ、バスト九十一、ヒップ九十二の体は夏になるほど、見えてくる。彼女は高校卒業後、すぐに探偵事務所に入社した。その頃でも、すでに巨乳になる兆候は出ていたのだ。成人になってからは、今の体型に到達した。探偵として、その体は不利になるかというと、それは違う。
世間的に巨乳の女性は頭が悪いと思われている。そこを使えば、捜査もやり易くなるのだ。
探偵社に入社してすぐ、夏海静花は浮気調査の助手をする事になった。男子所員、日名気弓雄(ひなげ・ゆみお)に同行する。日名気は三十歳、長身で痩せ型だが、顔は平凡でハンサムではない。眼は細く、鼻も低い。
夏海静花は丸顔で、目と唇が大きい。鼻は団子のようで、美人といえるかどうか微妙だ。クリクリと動く眼は知性的なので、知能の低いアイドルとは違った雰囲気だからだ。
それより男性なら彼女の胸と尻に視線が、いってしまうだろう。二十七歳の今の彼女の顔の雰囲気は女性検事の顔と同じだが、入社した当時はまだ、女子高生的雰囲気もあった。
日名気と同じ車でターゲットの男性を尾行する。この業界は女性からの依頼の方が多いのだ。夫の浮気を疑っている女性は、多い。しかし、探偵社に頼むとなると結構な費用がかかる。
福岡市のような百五十万人の都市では、月に数百の依頼はある。そこで静花の探偵社も毎日のように浮気調査をしている。
今回の依頼は福岡市会議員の妻からの依頼で、議員は四十五歳の男性で、一見、真面目そうだが、今回以前も疑わしい行動があったという。市会議員といえども、五時過ぎからの行動は自由だろう。とはいえ、その妻にはそうはいかない。

静花は車中でレポートを読み上げる。
「相手はキャバクラ嬢ですね。撮影されたものを見ると、美人に見えますか。」
日名気は冷静に、
「福岡のキャバクラ嬢は、大抵そうだよ。市会議員さんも、色好みだね。」
とハンドルを回しながら助手席の静花に答えた。
夜も十一時だ。福岡市には六十以上のラブホテルがある。東区の志賀島近くにあるラブホテルに市会議員の車は走っている。探偵社二人の尾行する車も、その後を追う。
静花のレポートに写っているキャバ嬢は色白で痩せた、笑顔の美しい女性だ。二十代前半だろう。全身が写っていて、前からだが尻の横に張っているのは、よくわかる。スカートはミニで、胸は上に向いた形のよい美乳だ。顔は真面目そうで、キャバ嬢とはいえ、乱れた感じはなかった。
二人がラブホテルに入るのを写真と動画で撮る。日名気と共に静花も撮った。静花は、
「成功ですね。帰りますか。」
と場を離れたいようだ。
「出てくるのを待つんだ。ぼくたちも入ろう。」
「えっ、まさか・・するんですか。」
「心配するなよ。彼らの隣の部屋が空いていれば、そこに入る。コンクリート・マイクで音も拾えるかもしれん。」
そのラブホテルは無人のフロントなので、気軽に静花たち二人も入れた。市会議員たちの入った部屋の隣の部屋は空いていた。日名気は、
「ラッキーだ。入ろう。」
無言でうなずく夏海静花だ。日名気が先にドアノブを回した。後からの静花がドアを閉める。コンクリートマイクといっても様々だが、探偵社の使うコンクリートマイクは九万円くらいはする高価なものだ。録音機能もある。日名気は、すぐにコンクリートマイクをセットした。耳にレシーバーを当てると、
ちゅっ、ちゅっという男女のキスをする音が聞こえた。それから女の声が、
「奥さんと別れるって、本当なの?」
「そのつもりだ。もう、子供は大学を出て社会人になった。新しい妻が必要なのかもしれない。」
「嬉しいわ。東区のはてまで来て、セックスする必要もなくなるのね。」
「そうだな。これが最後かもしれん。」
ばさばさ、と服を脱ぐ音がする。
「きれいだ。君の胸は白い美乳だよ。」
「恥ずかしい。」
聞いている日名気は、音から二人の場面を想像する。
 市会議員は全裸になったキャバ嬢の乳房を左から右に、それぞれ吸った。全裸の市会議員の股間のイチモツは巨大になっている。
「とても変わった体位で君としたいと考えていたんだ。」
二人は立っている。感じて身をくねらせたキャバ嬢は、
「どんなポーズで、するのかしら。」
「君は体が柔らかいだろう。ブリッジを、ベッドの上でしてくれ。」
「ええ、いいわよ。」
彼女はベッドに乗ると全裸で乳房を揺らせながら、両脚を開き、体を後ろにそらせて両手をベッドについた。豊かな陰毛の下の淫裂がピンクの口をパックリと開いた。
「これで、いいかしら?」
天井を見つめながら、彼女が聞く。議員は、
「上出来だ。すぐ、行く。」
議員は彼女の開いた白い足の間に膝をつくと、大きくなったモノをキャバ嬢の淫穴に挿入していった。
「ああん、こんな体勢だから、とても感じるわ、ああん。」
とブリッジの体勢のまま、彼女は声を上げた。二人は、その体勢のまま結合して三十分は過ぎた。
日名気は退屈そうに、
「長いな。」
と呟く。潮風が室内にも入り込んでくる。波の音がザバーン、ザバーンと窓の外からは小さく聞こえる。日名気は眼を静花に向けると、
「終わったよ。先に出るからな、おれたちは。」
と指示する。日名気の後から静花も部屋を出た。
後は二人がラブホテルから出てくるのを、写真撮影、ついでに動画撮影もすれば終了だ。日名気と車に潜んでいると、市会議員が出てきた。だが、彼ひとりだけだ。日名気は、
「そんなはずは・・・。もしかして、あのキャバ嬢を殺しているかもしれない。」
と口に出す。
「それは大変ですね。あとは警察の仕事でしょう。」
と静花も動揺する。
「とにかく君は、ここにいてくれ。おれは議員の後を追う。」
「はい、わかりました。」
日名気は市会議員の乗り込んだ車を追いかけて、車を発進させた。あとに残された静花は、近くの大木の陰からラブホテルの玄関口を見張った。しばらくすると、一人の尼僧が大きなバックを下げてラブホテルから出てきた。真っ黒な眼鏡をかけて、頭は剃られてツルツルだった。
その尼さんは、十メートルは歩くとタクシーが現われて、それに乗り込んだ。黄色いタクシーは海岸線の道路を福岡市に向って走っていった。
静花は、
「尼さんがラブホテルから出てくるなんて。」
と一人呟いた。
(そうだわ。あの尼さんは、キャバ嬢の変装に違いないわ。)そう思った静花は運よく近くに来たタクシーを停めて、
「あの黄色いタクシーを、追って頂戴。」
と指示する。急発進する静花の乗ったタクシーは、黄色いタクシーが山の中に入っていくのを追った。
キキーッ
と土の上に音を立てて黄色いタクシーは停まった。そこは山寺だったのだ。タクシーから降りた尼僧は寺の山門へ足を運ぶ。
発車した黄色いタクシーの跡に、静花の乗ったタクシーは停まった。降りた静花は石段を登っている尼僧の後を、静かに尾行する。石段の上に辿り着いた尼僧は振り返ると黒いサングラスを外して、
「珍しいわ。こんな夜中に、参詣してくれるなんてね。」
と静花に言葉を投げた。
顔を見るとキャバ嬢ではない。セクシーな尼僧で三十代前半か。静花は、ビクッとして階段を登る足を止めた。尾行は失敗だったのだ。くるりと尼僧に背を向けて降りようとする静花に、
「ちょっと。探偵さん。もう、あの女性はラブホテルを出ているわ。わたしの後ろの方を歩いているのを、振り返って見たから。男と同時にラブホテルを出ないようにしてたわね。あんた、証拠写真でも撮ろうとしてたのね。」
と尼僧は呼びかける。
静花は階段を降りる足を止め、尼僧に振り返ると、
「そうです。すみません。」
「まあ、もうあの女を追っても間に合わないから、今日はうちの山寺で泊まっていきなさいよ。」
「ええ。でも・・・。」
「わたし独りの寺だから、のんびりできるよ。」
静花は日名気に携帯電話する。
「失敗しました。」
「だろうな。今日は直帰で、いいから。」
「すみません。」
「議員は無事に、ご帰宅だ。奥さんは腹の虫がおさまらないだろうけど。」
「キャバ嬢は遅れて出たようですよ。」
「うん、それも考えてはみた。そうだったらしいな。明日になれば、又、やり方を考えるさ。」
ツー、と携帯電話は切れた。

 静花は先ほどの尼僧と同じ部屋にいる。寺の中だから和室の畳の部屋で、仏像が飾られている。その仏像の姿は座っていて、手が六本もあるのだ。顔は恐ろしげな表情である。静花は正座して、それを横目に見ると、
「変わった仏像ですね。」
と素直に感想を洩らした。尼僧は、
「愛染明王といってね。愛欲の仏さんなのよ。足は崩していいよ。この寺の住職は、わたしだから。」
静花は正座の足を崩すと、
「ラブホテルには、どうして・・・。」
と聞く。
「ああ、あれね。あれは檀家の若い男とやりまくるために行ったのよ。最近は、そこまでしないと護寺費を遅らせる檀家があるのね。一応、用心のためにサングラスをして、わたしが先にラブホテルを出ているけど。あんた、この辺の人じゃないみたいだから、教えてあげるけどね。」
「なるほど、分かりました。」
愛染明王の像の前には、赤い蝋燭が二本立てられて火が、ともされていた。ゆらゆらと動く蝋燭の炎が、薄暗い室内をほの明るくする。潮の打ち付けるザバー、という音も聞こえた。
目の大きな女住職は好色そうな顔で、
「AVも色んな分野の女性を出したけど、尼さんは一人も出てないみたいね。わたしが出てもいいけどさ。」
と話すと白い歯を見せた。

そういう過去のあった静花も、今は独立して事務所を構えている。女探偵が何故有利なのかと言うと、相談してくるのは大抵、女性だからだ。だが逆に男性が相談者として依頼もしてくる。それは調査相手が女性のため、男性の探偵より依頼しやすいという事になる。
おかげで夏海静花の事務所は仕事が舞い込んだ。
「忙しいわね。そうだ、助手も女性にしよう。」
静花は一人呟くと、インターネットに募集広告を出したのだ。それも何処かの広告代理店にではなく、自分のブログ、「女探偵の孤独なつぶやき」に
当探偵事務所では、助手を募集しています
とブログの右側面に書くだけでよかった。その日の内に事務所の電話が鳴った。
「はい。夏海探偵事務所です。」
「あの、わたし助手になりたいんです。ブログで見ましたよ。」
と若い女性の声がした。
「ありがとう。さっそくだけど、面接に来てくれないかしら。」
「ブログに載っている住所ですか。」
「そうよ、中央区の薬院ね。電車の駅を降りて、歩いて五分かな。」
「わかりました。今から、いいですか。」
夜の七時だ。外は暗くなっている。
「いいわよ。九時ごろから尾行だから、早く来てね。」
「ええ。風のように飛んできます。」
くす、と静花が笑うと電話は切れた。それから十分もすると、事務所のチャイムが鳴った。
「はい、どうぞ。」
と静花が大声で答えると、ドアが開いて清楚な若い女性が立っていた。髪は肩にかかる位、少し長身であるけど胸の膨らみもそれなりにある。スカートの横幅の広さは豊かな尻を想像させた。眼は、つぶっているように細いが、睫毛が長くて女らしい。茶色のスカートに白い上着で足はスニーカーを履いている。
「よく来てくれたわね。探偵助手って厳しいのよ。その代わり、給料はいいけど。そこに座ってよ。」
静花は応接テーブルのそばにある横長のソファを指差した。面接女性は、ふんわりと腰掛けた。静花も応接テーブルをはさんでソファに腰掛けると、
「履歴書を見せて。ありがとう。霞露子(かすみ・つゆこ)さんね。二十歳。若いわね。短大を出てアルバイト・・・今もしてるの?」
「ええ、深夜のコンビ二とかもしています。」
「それなら探偵の仕事には、入りやすいと思うわ。浮気調査は夜が多いのよ。今夜もわたし、行くけどね。」
「徹夜もできます。」
「それは、いいな。あと、女探偵は体を張る事もあるのよ。」
静花は立ち上がると霞露子の背後に回り、露子の上着の上に突き出した二つの乳房を両手で鷲摑みにした。露子は首をひねると、
「あはっ。感じますぅ。」
と悶えた。その露子の顔に自分の顔を静花は近づけてキスした。ヌル、と静花は自分の舌を露子の唇の間から差し込むと、露子の赤い舌と絡め合わせる。露子は眼を閉じて、じっとしている。静花は露子のスカートの中に手を入れて、ショーツの上から露子の割れているスジを指でなぞる。
「いゃぁん。」
露子は口で抵抗したが、両足は大きく広げた。ショーツの上からでも、露子の突起した淫核が静花の指には感じられる。それを捏ね回すと、
「ああん、ぁぁ、ぁぁーん。」
と露子は悶えて、唇を開いた。忘我の表情を静花は見ると、指を露子の淫核の突起にかふさったショーツから手を離して、
「感度、いいわね。合格よ。いざとなったら、自分の体も武器にするのよ。レズ好みの依頼者も、いるからさ。」
露子は眼を開くと、
「気持ちよかったです。深夜のコンビ二のバイトで暇な時間に、トイレでバイト仲間の女の子と一緒に入ってレズした事はあります。」
と自信を持って露子は告白した。
時々、コンビ二に入ってレジにも店内にも誰もいない時は、レズしていると露子は言う。
女子大生のバイトが多いため、相手を変えてレズしていたそうだ。コンビ二の制服のままトイレに入ると、お互いの唇を貪るように吸って、お互いのマンコを制服のズボンの上から触りあう。割れ目のスジに互いの指が当たると、それだけでも気持ちよくなるそうだ。それから乳首をくっつけあったりもする。露子はそうして二年を過ごしたので、レズテクニックは上達したそうだ。
「所長にもしてあげましょうか。」
いたずらっぽく露子は言う。静花は、
「今度、いつか、してもらうわ。」
「なんといっても、オマンコをくっつけあうのは気持ちいいですから。」
と露子は自信たっぷりに話すのだ。
それには静花の方が、たじろいだ。それでも貴重な助手の登場だ。就職難といっても探偵業界に女性が来るのは珍しい。
(あの依頼は、露子を教育してからにしよう。)静花は露子の全身を眺めて思う。顔は少し可愛いくらいだが、体が成熟して、はち切れそうな露子の身体は女の静花が見ても情欲が動きそうになる。

 福岡市近郊に工場を持つ製薬会社「ストップ」は世間的に知られていないが、抗癌剤「ケストミン」の製造で医学界に知られている。ご存知のように抗癌剤のこれまでのものは危険度も高いものだった。間違えば抗癌剤でなお悪化するケースも発生していたのだが、癌の治療には、やむを得ない療法だ。ケストミンは、その危険性をかなり減らしたものとして医療の現場では重宝され始めた。
ストップは福岡市東区箱崎に本社がある。JR線は博多駅から東に吉塚駅、箱崎駅と延びていって小倉駅や門司駅につながり、関門トンネルを通って本州へと進む。
新幹線は小倉の次は博多駅で停まり、吉塚駅と箱崎駅は通過する。吉塚駅と箱崎駅は小さいとはいえ、外観はモダンな建築になっている。人の出入りは博多駅に近いだけ吉塚駅の方が多い。が、箱崎駅は箱崎神社が駅前からすぐに道路を渡って行けるところにある。西暦921に創建という説が採られている。その他、諸説があるらしい。
でありながら箱崎というところは昔はビルも少なく、今は消えつつあるが銭湯などもあった。2000年以降はビル、マンションで埋まりつつある。この箱崎宮にプロ野球のホークスが祈願に訪れるのは有名だ。
箱崎駅近くに本社ビルのある製薬会社ストップでは、ウェブサイトを通じて人材を募集している。
年齢は二十三歳まで 経験不問
と、なっている。ただ、勤務時間が朝の七時から夕方の六時まで、となっているせいか中途採用でもあるため応募はなかった。
そんな或る日の午後、ストップ総務部の電話が勢いよく鳴った。若い男子社員が受け取ると、
「はい、ストップです。」
すると若い女性の声で、
「中途採用に応募したいのですが・・・。」
と男子社員の耳に聞こえた。
「ああ、募集しておりますよ。いつ、来られますか。」
「今からでは、どうですか。」
「いいですね。お越し下さい。どの位、時間がかかりますか。」
「二十分もあれば、行けると思います。」
「じゃあ、お待ちしています。」

 二十分後、ストップの応接室に現われたのは、二十歳の女性で黒縁の眼鏡をかけている。面接の男性は五十代の白衣を着た白髪交じりの人で、専務だ。応募してきた女性の履歴書を見ると、
「亀山つぐみ、さん。」
と彼女の名前を読み上げて、顔を彼女に向けた。二人とも椅子に座って、間に広い白のテーブルがある。
「はい。そうです。」
「真面目そうな方ですね。よろしい。短大卒業後、現在はアルバイト中・・ね。うちはアルバイトではありませんので、採用後はアルバイトは辞めてもらいますけど、よろしいですか。」
「はい、採用していただけたら、すぐにアルバイトはやめます。」
眼鏡の奥の彼女の目は細いが可愛い印象は、ある。専務はニヤリとして、
「それでは採用としましょう。明日から来てください。」
「はい。頑張って働きます。」
こうしてストップに入社した女子社員は、よく働いた。朝の七時二十分前には会社に来て、待機しているのだ。ストップでは専門の掃除会社に依頼して清掃はさせているため、社員が掃除をする事はない。
亀山つぐみは、白衣を着て雑用から倉庫作業まで言われたとおりに働いた。
 ストップには新薬開発部門がある。そこの責任者は寄手為三(よりて・ためぞう)という三十五歳の独身男子社員だ。もちろん新薬開発部長を務めている。ハンサムな容貌は女子社員の憧れの的だ。それよりも魅力的なのは、彼、寄手為三は株式会社ストップ製薬の創業者の一人息子という事なのである。
為三は薬剤師の免許も持っている。福岡市内の大学の薬学部を卒業後、ストップ製薬に入社。以来、時には土日も平日と同じ勤務もしてきた。あまりにも仕事に追われて、結婚もしてない状況だ。
背も高く、身は引き締まっている。顔は二枚目俳優のそれで、鼻も高い。古株の女子社員は仕事が終わった後、居酒屋などで、
「寄手部長って、まだ独身なんですって。」
とビールジョッキ片手に雑談する。
「聞いたわ。でも、隠している女性がいるんじゃないかしら。あんなハンサムで、女がいない訳はないもの。」
「それが、いないらしいわよ。わたしたち、結婚しても働きに来てるけど、女子社員で独身なのは亀山つぐみ、ぐらいじゃない。あの子、眼鏡外しても細い眼なのかしら。」
「どーだかね。まだ雑用だけど、そのうち新薬開発部に移動になったりするかも。真面目に働いてるから。それに、新薬開発部の小山さん、来週辞めるのよ。もう、五十で旦那の収入もいいからですって。総務部のわたし、知ってるんだ。」
「そーう。うちの旦那、他の製薬会社で働いているの。新薬開発なんか知りたいらしいわ。でも、わたし、業務部だからね。それに会社の秘密をもらせないわ、いくらなんでも。新薬開発部は誰でも入れないしね。」
「うちの会社が抗癌剤でトップなのは、秘密が漏れないからよ。トップを滑り落ちたら、わたしたちの給料も減ると思うわ。」
「こわいねー、それ。でも、わたしの旦那の給料が上がれば、いいわけだけど。」
「達子、裏切るの?会社を。」
「へへへ、心配しないでよ。」
達子と呼ばれた人妻社員は三十二のアダルトビデオの若妻シリーズに出てきそうな顔の女性だ。有池達子である。業務部で事務をしている。夫はストップ製薬のライバル会社、ラクナリン製薬で働いている。新薬開発部、課長で有池剛二という。
やはりラクナリン製薬も抗癌剤を開発しているが、売り上げは今ひとつだ。ストップ製薬と同じく箱崎に本社を構えている。何故、箱崎がいいのかというと、箱崎神社が近いからではなく、箱崎の近く馬出(まいだし)というところに九大病院があるからだ。自社の薬のセールスに真っ先に訪れる病院なのだ。
九大病院、正式には九州大学病院には、がんセンターがある。九大病院によれば、現代日本の男性は二人に一人、女性は三人に一人が癌になるといわれているらしい。
がん情報サイトとしては、
http://cancerinfo.tri-kobe.org/

が有名だ。九州大学病院にはARO次世代医療センター・データセンターなるものもある。平たく言えば、製薬会社にとっては抗癌剤は大いなる利益を生む。九大病院が認めれば、連携している診療病院にも採用されるであろうからだ。
九大病院には、癌の相談窓口もある。外来二階の外来化学療法室の横にあり、気軽に相談も受け付けているらしい。がん相談支援室の窓口へ。
高額療養費制度などで医療費が少し安くなるという。

有池達子は箱崎の2DKのマンションに帰宅すると、食事を作って夫を待った。達子ら既婚社員は朝十時からの出社を認められている。退社も五時半である。
夜九時になると、夫の剛二が帰ってきた。疲れた声で、
「ただいまー。帰ったよ。」
「あら、遅かったのね。ご飯は、どうしますか。」
「食べるよ。いやー新薬は中々できないね。」
達子は台所で、さばの煮付けの載った皿を電子レンジに入れて、
「うちの会社は、がんの新薬はトップよ。」
剛二は食卓の木製の椅子に座り、
「そうだな。できれば、アイディアをもらいたいけど。」
「そんなー。わたし、見つかったらクビになる。」
「おれの給料があがるけん、よかろうが。」
「そうねー。でも、それは犯罪になるのよ。」
「うーん。そうだな。それは、まずい。」
達子が若奥様に見えるのも、彼女の性交回数が少ないからだろう。
チン、と電子レンジが鳴った。達子は、皿を取り出し夫の前に置く。
「おう、さばの煮付けだね。今晩は、やろう。」
「昨日もそういったくせに。」
達子は柳眉をしかめた。さばを口に入れて噛みながら剛二は、
「新しいアイデアを得るには、今までとは違った環境に身を置くといい。と大学で習ったけど、自分への刺激として今晩。」
そこで剛二は息を止め、吐き出すと、
「うちの若いのが、今から来る。そいつとセックスしてくれないか。」
「えっ?何をいうんですか。冗談でしょ、あなた。」
「いや、冗談じゃないよ。三十八にもなって、おれがそんな冗談は言わないよ。部下は、やり手だけどまだ独身でね。おまえが彼に貫かれるのを見てみたいんだ。そうすれば、いいアイデアが湧くかもしれないからね。」
達子は、うつむいた。まるでアダルトビデオみたいだと思う。夫が自分の乳房に触れたのは四ヶ月前だ。その日、夫は勃起したけど一分もたたずに中折れして、縮んだ。一分未満の快楽だったのだ。
達子は食卓のテーブルの下でスカートの上から股間の秘丘、陰毛の生えている辺りを右手で触ると、
「公然の浮気みたいじゃないの。いいの?あなたは、それで。二十代の若い人に、わたしのオマンコが貫かれるのを。」
剛二は肥った腹をさすって、
「コンドームつけて、やらせるよ。妊娠の心配もないし。あいつの精液が、おまえのマンコの中に出されるわけでもない。だから、いいだろう。あいつの陰茎の根元までかぶるゴムをつけさせるし、あいつのきんたまは、おまえの膣の下あたりに当たるだろうけど、おれ以外のキンタマも味わってみろよ。
ミス福岡にも大学の時に、なったんだろう。おまえ。」
眼をぱっちりと開いて達子は、
「そうだけどさ。浮気なんて初めてなの、わたし。」
「え?おれ以外の男とセックスしたことないのか。」
「ええ。血が出たじゃない、初夜で。」
剛二は眼を宙に浮かせて思い出したように、
「そうだったね。あの時は、二発も発射したな。」
達子は白い歯を出して、
「でも、気持ちよかった。男性でも痒いところを指で掻くと、気持ちいいでしょ?あれよりずっと、気持ちいいの。オマンコがね。」
少し顔を赤らめた。
「そうか。大学ではミスコンテストで優勝だろう。自分でも気づいているように、おまえは美人だよ。」
「お世辞、いわないでよ。もう、おばさんだから。」
「そんな事ないよ。」
「だって、あなた立たないじゃないの。」
「それは、仕事疲れからだよ。新薬でいいのができたら、休暇をくれるらしいから。その時は温泉でも行こう。」
「露天風呂で、後ろから入れてよ。」
「ああ、そうするかな。」
ピンポーン、とチャイムが鳴った。剛二は立ち上がると、
「来たよ。おれは寝室の押入れに隠れているから、あいつとセックスするんだぞ。」
「うーん。」
しぶしぶと、しかし眼をパッチリさせて達子は答えた。スカートの尻の割れ目が鮮やかに浮き出た。巨乳でもある達子は玄関に行き、
「はーい。どなたさまですか。」
「こんばんは。ラクナリン製薬の田里(たさと)と申します。ご主人の部下です。」
「はいはい。」
達子がドアを開けると、背は中位で真面目そうな男性がいた。歳は、二十五位だろう。灰色の背広を着ている。ネクタイは紺色だ。眼は細い顔だ。
達子は、
「お上がりになってください。」
と招じる。
「失礼します。」
夫の部下は玄関を上がった。靴下は黒のようだ。居間の方へ達子は案内する。横長のソファがある。達子は、
「おかけになって。」
と勧めた。部下の男は、
「それでは、」
と腰掛ける。台所でコーヒーを注いで来ると、達子は夫の部下に勧める。と、部下は、
「いただきます。申し遅れました。わたし、新薬製造部の田里景一郎(たさと・けいいちろう)と言います。ご主人は、まだ、お帰りにならないのでしょうか。」
「ええ。まだ、ですわ。あまり遅いと外泊みたいですから。今夜も、そうかもしれませんわね。」
「それは、大変でしょう。奥さん。」
真面目な顔して田里はコーヒーを飲んだ。
「最初のうちは辛かったのだけど、今は、慣れましたわ。」
「お子さんは、いらっしゃらないのですか。」
「いません。欲しいとは思いますけど。」
横長のソファの左に達子が、右に少し間を開けて田里景一郎が座っている。田里が横目で達子を見ると、巨大な乳房の大きさが分かる。白いエプロンが前に掛かっているが、横から見たらそのエプロンは薄く見える。張り切った乳房はロケット型だ。
田里は黙り込んだ。達子は膝までのスカートを少し上に両手で上げる。達子の膝から上の十センチ位の太ももが出た。田里はそれをチラと見て、
「実は奥さん。ぼくは貴女のご主人に命じられている事があるんです。」
と話すと、唾をゴクリと飲む。
「なんですの、その命じられた事って。」
「それは、奥さん、ぼくが奥さんとセックスする事です。」
「まあ、そんな事を主人が。」
「本当なんですよ。で、長いコンドームまで貰って、持ってきたんですけど。やはり、実行していいのかな、と。」
達子は色っぽく微笑んだ。
「うふ、わたしも浮気は初めてだから。」
彼女は髪を搔き揚げた。白いうなじが、見える。大学のミスコンテストに優勝した時のような気分に達子は、なった。
田里の右手が達子の右の乳房を掴んだ。はっ、とする達子は髪を振り乱す。田里の右の人差し指は、上着の上から達子の右乳首を優しくいじる。快感の電流が達子の脳内に走った。
「はん。もっと、して。」
彼女は濡れた瞳で背広の田里を見つめた。
「奥さん、もう僕、あそこは破裂しそうです。」
達子の白い右手の指は、田里のズボンの股間に這った。二人は向き合うと顔を寄せてキスする。田里の股間のシンボルは一段と大きくなる。達子の方から滑らかな舌を田里の唇の間にすべり込ませてきた。同時に田里のシンボルを握って達子は上下に擦る。
「あっ、奥さん、そんなにされると出るかもしれない。」
田里は唇を離すと、そう言う。
「わかったわ。寝室に行きましょう。」
二人は立ち上がると、達子は田里に密着する。巨乳の乳房が田里の胸の下あたりで、ぶにゅ、とつぶれる。
「奥さん、マンコしたいです。」
「たっぷり、ハメて。」
恥ずかしそうに達子は田里の耳に小さく囁いた。顔を少し赤くした達子の尻と肩を抱くと田里景一郎は、お姫様だっこをして彼女を軽々と抱き上げた。三十路前半の女の甘い匂いが田里の鼻の穴から侵入してくる。それが彼の股間の突起を維持させた。達子の顔は人妻には見えない。それはセックスレスが続いているためなのだ。
田里はチンコを勃起させたまま、達子夫人を寝室に運ぶ。寝室のドアノブは達子が握って開いたのだ。そこは六畳でピンクのカーテンが下がっていた。ドアの内部付近に電燈のスイッチがあるのを達子は指で押し上げる。ピカッ、と部屋は明るくなった。部屋の明かりとは照明によっても変わる。オールドな日本文学では、その当時の照明器具によって照らし出された灯りを元に空想されている。さて、2014/03/15現在、そんなに古い電燈はすでにメーカーは作らないのだ。
達子たち夫婦の寝室の灯りは、パナソニックのパルックプレミア蛍光灯のナチュラル色のものである。自然に明るい感じで部屋の隅々まで見えるので、古い日本文学に記述される部屋の照明とは進化したものがある。もちろん、このパルックプレミア蛍光灯も、やがて古いものになるだろう。その時は、この時代を表した文献にもなればと思う。
もう昭和の文学でさえ辟易するのは、当時の電気器具などのレベルの低さにも、よるところがあるはずだ。江戸時代の灯りなど原始生活から少し進歩した程度であろう。
現代の我々は進化した電燈を使っている。その電燈で部屋の隅まで自然、というのは昼の光だが、それに近い光線が部屋の中と達子の体を照らした。
男に横抱きに抱かれている達子の体の曲線は、淫らなカーブである。寝室の押入れの中から少しの隙間どころか、ご丁寧にもマジックミラーを襖の上半分にした内部から有池剛二は悠々と二人を見つめた。が、思わず息を呑む剛二だ。
それは妻の体が新鮮に見えるのだ。自分に向けた姿態とは違ういやらしさを部下の田里景一郎に見せている。その妻の体を見て、夫の剛二は久し振りに股間に血が行き始めるのを感じた。
田里は眼を丸めて、
「奥さん、明るいですよ。」
「いいのよ。わたし、見られるのが好きなの。」
田里は達子をダブルベッドに下ろした。緑色の掛け布団が白いベッドシーツの上に掛かっている。田里が、その緑の掛け布団に手を掛けると、達子は、
「いや、布団はかぶらなくてもいいわ。部屋は暖かいでしょ。」
なるほど部屋は夫の剛二がエアコン暖房を入れていた。
「本当ですね。なんか暑いくらいです。脱いで、いいですか。」
「どうぞ。ズボンの股間が破れそうだわ。早く脱いだら?」
達子の目は大学のミスコンテストで優勝した時のものになっている。田里の股間をじっと見た後、彼と同じように服を脱ぎ始めた。形のいい巨乳を包んだブラジャーが見え、それを後ろ手で外すと大きな果実のような乳房が現われる。
若い田里は達子より早く、全裸になっていた。それも男の方が身につけている下着も少ないから当然だ。
上を向いている田里の野太い長いキノコは、達子にとっては夫の他の二本目のものになるわけだが、思わず達子が涎を少し垂らしそうなほどの形状だ。
男が女の性器を見たがるように、実は女も男の性器に興味があるのだが、男の裸体の写真集が少ないことからも、それほどではないと思われるだろう。でもそれは、女性がハーレムを作らないのと同じ心理で、女は本質的に多くの男を求めないようにできている。昨今のアダルトビデオに見られる女一人に男二人以上というプレイは男性の眼から見ても不快きわまりないものだが、実は女の眼から見ても気持ちはよくないものだ。
多くの人間に見られたいアイドルといった女性であれば、多数の男性を受け入れる変態的身体といえるのだが、普通の女性はそうではない。現に今でも中東では、女性は夫以外には顔さえまともに見せない国もある。
達子も美人とはいえ、普通の女性だ。だから夫に命じられて田里との不倫を実行に移しているわけだ。もし、夫の剛二に言われなければ、こんな大胆な、でも最近はありふれた情事を決行しようとは思わなかったに違いない。
そんな慎み深さも達子の顔の美点として現われていたのだ。それが今、田里景一郎の隆々としたペニスを見て、一人の女、それは独身の時のような女の心に彼女を戻らせた。達子もまた、下着を脱ぎ終わると白いふくよかな裸体が田里の眼に映る。田里は彼女に近づくと、
「奥さんの体は天女のように綺麗ですね。」
と低い声で囁くと、
「恥ずかしいなあ。主人以外に裸を見せたのは、これが初めてよ。」
と告白して、顔を両手で覆った。
田里は、その姿勢のままの達子を左手は背中、右手はボリュームのある尻を抱いてベッドに倒した。柔らかい達子の体を感じながら、大学のミスを犯しているような気分になる。達子の白い太ももを右手で左右に大きく開かせると、田里は彼女の秘境に顔を近づけた。密生した黒い陰毛の下に形のいいピンクの割れ目があり、舌を這わせるとプクンと割れ目は口を開いた。その形は男の剛棒を受け入れたくてしょうがないという淫欲を表している。
「あああっ、燃えてきちゃうわっ。」
達子は悶えると、まんこを震わせた。ぷるるんっ、と震える達子のまんこの動きに田里はたまらなくなり、両手で体を上にずらせて、野太いキノコを口を開けた達子の縦の赤い口にズブリと差し込んで腰を沈めた。
「ああん、夫以外は初めてよ、いいっ。」
悶えた達子は口を開くと、赤い舌を出す。二人の裸の上半身と下半身は、みだらにも妖しく絡み合った。それは昼の光の中の光景として二人とも、そして夫の剛二には映った。
十分間、きまじめに田里は腰を浮かして沈めた。達子の膣肉はヒクヒクと動き始め、ついには強く締め付けたのだ。田里は顔色を変えると、
「奥さん、イキますっ。ああー。」
と情けない声を出すと、薄いゴムの中にたっぷりと白い巨液を出した。
小さくなる田里のキノコを達子の縦の淫口はまだ、しっかりと咥えていた。達子の形のいい白い美脚は両方の足首を田里の尻に巻きつけたままだ。
達子は愛おしそうに田里に口づけた。達子に舌を絡められて田里は少しずつキノコにふくらみを感じていく。チュッ、と音を立てて達子が唇を外すと田里は、
「奥さん、代えのコンドームが今はないんです。」
と慨嘆した。
達子は上気して赤い頬の顔を田里の小さいキノコに向けたまま、
「夫のがベッドの、ほら、ここに。」
と白い右腕を伸ばして引き出しの位置を示し、
「入ってるの。それを、つけて。」
と指示する。田里は心配そうに、
「いいんですか。奥さん。ご主人には指定のコンドームで、するように言われています。」
「わたしが許可するのぉ。おちんこ様が大きくなったら、早く入れてね。」
と命令的に話すと自分で形のいい白い乳房を揉む。
マジックミラーの中の夫の剛二は、はらはらとした。さっきは田里のペニスの根元まであるコンドームだったのだ。だから妻の達子の女の一番大事な秘肉は、田里のシンボルの肉の味を本当には知らない。それだから本当の浮気ではないと、剛二は思っている。でも自分の薄い短いコンドームを田里に付けられると、妻は田里のペニスを存分に味わうのだ。そうしたら妻は、田里の淫棒にのめりこむのではないか、という思いが剛二の脳内で炸裂した。
さっきは、妻の思う存分に乱れて、エロ映像も顔負けの恥態を我を忘れて食い入るように見て完全に勃起した時に田里は射精した。次は、どうなるのか・・・。

田里は、あっさりと、
「だめです、奥さん。」
と否定すると、パンツを履き始めた。達子は不満一杯に、
「わたしの体、つまらないかしら?」
ベッドから半身を起こして、聞く。
「いいえ、でも有池課長の指示通りに動かないと、熊本に飛ばされるんです。」
田里は手早く服を着ていった。マジックミラーの中の剛二課長は大満悦である。
ネクタイまで丁寧に締めた田里景一郎は、
「それでは奥さん、失礼します。玄関の鍵を閉めなくて大丈夫ですか?」
「閉じたら自動で閉まるから、気にしないで。」
「はい、さようなら。」
後ろを振り返らずに田里は出て行った。やがてガチャン、と鉄のドアの閉まる音が達子の耳に聞こえた。夫の剛二がマジックミラーの内側から出てくると、
「忠実な奴だな。おまえの乱れ方も、相当なものだ。満足したか?」
「しないわ。まだマンコが求めてるもの。」
剛二は歪んだ顔で笑うと、
「あいつは冷静だったが、おまえの会社の上司は、そうじゃないだろうよ。新薬開発部の部長は、まだ独身だそうだな。」
「何が言いたいのよ。」
「おまえの体なら、その部長を誘惑できるし、新薬の秘密のファイルも見せてくれるだろう。」
「そんな事・・・。」
「できるさ。自信を持てよ、今でも美人なんだよ、おまえは。」
その事は、同僚や後から入って来た新入女子社員も認める事だった。ストップ製薬には真面目な女子が多く、容貌も硬い感じの女性が多い。
「でも、新薬開発部になんて入った事ないんだもの。」
「自分の会社の中だろう。昼休みにでも探してみろよ。」
「そうね、そうする。」
その後にする事は、達子には分かっていた。

sf小説・未来の出来事45 試し読み

台湾はバイクに乗る人が多い。そのせいかバイクのレースが盛んだ。小さなレースではレースクイーン達もいないが大きなレースでは若いレースクイーン達が会場を賑わせる。はちきれんばかりの胸を、かろうじて隠しているという台湾レースクイーン美女も多くいるものだ。近年はロボット美女にレースクイーンを登場させた会場もあった。
 レーサーはレースクイーン達にとって憧れとなる場合は、あまりない。バイクに乗っているとはいえ通り過ぎる速度が速すぎて顔も、よく見えないので見えない人には関心を持ちにくい。
それにレース中はフルフェイスのヘルメットをレーサーは装着しているので顔は全く見えないのだ。
 レースクイーンの命天天(めい・てんてん 広東語の読みはメン・ティンティン)はモデルが本業だ。それ以上の収入を得るためにレースクイーンに出ているのだ。
彼女の身長は170センチでモデルらしい細身の体で、いつも普通はズボンを履いて外に出ている。
 レースの時はレースクイーンの定番の服装であるビキニ姿でレースを応援する。レーサーより命天天のファンも出来つつある現状だ。
台北の大きなバイクレースに時々、出ている命天天なのだ。彼女はSF小説の愛読者で電子書籍でSFを読んでいる。外出した時は図書館で一日を過ごす事もある。台湾の図書館は日本の図書館と違って優雅な所もある。本を読むテーブルが、それぞれ離れていて日本のように密着していない。
 平日を休みにしている命天天は図書館に行くと寛げるのだった。九月になっても日本より暑い台湾なので図書館も冷房を続けていた。
台湾の図書館は上下に長い建物があり、それは日本の図書館とは違った建築構造だ。命天天は今、九階の図書室にいるのだが窓の外には台北市が一望できる風景が広がっている。
 本から目を離す度に命天天は窓の外から下を見てはドキドキ感を味わうのだった。遠くに台北130という超高層ビルが見える。世界有数の高さで、130階もある商業ビルではあり、一時は世界一の高さを誇った。
屋上まで行けるエレベーターは日本の福岡のメーカーであるサイバーモーメント社製のもので、そのエレベーターの速度は現在でも世界一である。
それらの風景で目を楽しませた後、命天天が視線を図書館内に戻すと、テーブルの向こうに一人の男が座っていた。若いし独身そうな人物で真面目に図書館内の本を読んでいた。そのテーブルには命天天と、その若い男の二人だけで、隣のテーブルは随分と離れている。それで小さな声なら問題なく、隣のテーブルの人達には聞こえないように話が出来る。
じっと見ている命天天の視線を感じた若い男は読んでいる本から眼をあげて、命天天を見るとニッコリと微笑み、小さな声で、
「お邪魔でしたか?御嬢さん。」
と訊いてきた。命天天は同じく微笑むと、やはり小さな声で、
「いいえ、そんな事は、ありませんよ。何を読んでいるのですか?今は?」
若い男は本に視線を下げて見ると、又、目線を上げて、
「これはバイクについての本です。面白くて眼が離せません。」
と語る。命天天は自分が借りている本を見て、
「SFを読んでいるんです。私も面白くて眼が離せないですよ。」
男は興味あり、の顔をして、
「なるほど。いや僕もバイクの次にSFが好きなんですよ。空飛ぶバイクなんて出現したら面白いなーと思いますよ。」
と話した。命天天は、
「貴方の読書の邪魔をする気は、ありません。どうぞ、続きを読んでください。」
男は本を閉じると、
「この本は借りて行けば、いいんです。もし、よかったら喫茶室が、この図書館にありますから、そこで話しましょう。お茶代は僕が出しますから。」
と意外な申し出をした。
命天天は戸惑いながらも喉が渇いていたので、
「ええ、ご相伴に預かります。冷房されていても喉が乾きました。」
「それは大変だ。我慢すると熱中症だ。行きましょう、喫茶室へ。」
と男は言うと本を手にして立ちあがった。命天天も立ち上がる。二人とも図書借りだしの場所で借りる手続きをすると、男の足は喫茶室へ向かう。命天天も男と並んで歩いた。
エレベーターで屋上へ。そこに喫茶店の建物があり、中に入ると客は少なくても居た。壁は殆どガラス張りで屋上からの景色が眺められる。
 屋上は高い場所での直射日光により地上より暑さを感じる命天天だ。若い男は急いで喫茶室に入る。続いて命天天も。
 メロンスカッシュを二人分、注文した男であった。レモンスカッシュならぬメロンスカッシュは五分と待たずに二人のテーブルへ。男は右手を命天天の方に差し出して、
「さあ、飲みましょう。本物のメロンを使っていますよ、このジュースは。」
と言うので命天天は、
「ありがとう、いただきます。」
と返答してストローを使い、飲んでみた。笑顔で命天天は、
「美味しいですね。初めて飲んだんです、メロンスカッシュを。」
その時、壁全体がガラス窓なので室内が少し暗くなった。何だろうと命天天が窓の外、というか壁窓の外を見ると定番型のUFOが喫茶室の近くまで来て空中に静止していた。
命天天はワッと驚いた顔で、
「窓の外に!UFOが!見て、見て、見て!」
と指さす。
若い男は壁窓の外を見て、左程驚かず、
「ああ、最近、よくありますよ。別に攻撃してくる訳でもないから、安心していて、いいんじゃないかな。あ、そうだ、僕の名前は車輪輪(広東語の発音でセ・ロンロン)と、いいますよ。貴女の御名前は?聞きたいな、僕。」
UFOは窓の外の空間に静止しているが命天天は車輪輪を振り向くと、
「そうでしたね、自己紹介していませんでしたわ。わたし、命天天(メン・ティンティン)と申します。あっ!」
UFOから怪光線が発せられて命天天に命中した。それで彼女は意識を失ったのだ。車輪輪は素早く立ち上がるとソファに崩れた命天天の方へ駆け寄り、彼女を横抱きに抱いてレジでスマートフォンで会計を済ませると喫茶室の外へ出た。
UFOは二人に近づいてくると薄い黄色の光線を二人に照射した。命天天を横抱きにしている車輪輪は、そのままUFOの内部に吸い上げられて行った。

 命天天は意識を回復した。自分のアパートの部屋のベットの上で寝ていたのだ。それでも洋服のまま寝ている。いつもは夏は全裸で寝ているのだ。その方が冷房代の節約となるから。窓の外を見たら暗黒なので夜なのが分かる。あれ?涼しいな、と思ったらエアコンが動いている。とすると、夢だったのだろうか?自分は図書館で本を読んでいると若い男、車輪輪と後で名乗ったが、その男が向かいの席に現れて窓の外にUFOが出現した。薄いピンク色の光が自分に発射されると私は意識を失った・・・。という記憶がある。
 壁には電子カレンダーを設置している。今日は9月12日、この電子カレンダーは月が替わっても紙のようにカレンダーを破らなくてもいい。月が替わると自動的に画面が変わる。日本のサイバーモーメント社で作られたものだ。それに十年分のカレンダー表示が可能なのと、画面タッチで日にちに予定を書き込めたりもする。更に百年分のカレンダー表示も可能だが価格としては高額になる。買いやすいのが十年表示できるものだ。
そのうちにサイバーモーメント社の台湾工場も始まるらしいが、取り敢えずは日本からの輸入ものを命天天は購入したのだ。カレンダーだけでなく時刻も表示されるために時計を買う必要もない。
今日は仕事のない日で命天天は図書館に行った筈だ。それが何故、今、自分は自宅にいるのか?しかも全裸で。という問いの答えを見つけるためにベッドの下を見ると自分の服が畳んで綺麗に重ねられていた。ショーツとブラジャーは、その上に並んでいる。
図書館に行った夢でも見たのかな、と命天天は思った。
 そのまま寝入って次の日の朝が来た。今日は仕事だ。大きなオートレースが台北市で開かれる。レースクイーンとして命天天はモデル事務所から派遣されている。オートレースは朝から開かれる事は、ない。午後から開催される。それでも早めに会場に行っておく方が、いい。
 アパートを出て、それほど歩かない場所に地下鉄の駅がある。命天天は地下へのエスカレーターに乗った時から冷房の涼しさを感じた。ズボンを履いている命天天だが暑いので下着は着けずにノーショーツ、ノーブラジャーだ。男の地下鉄の乗客の視線は命天天の胸や股間に向いている人数が多い。
 それに彼女はモデルでレースクイーンだと知っている男性乗客も、いるようだ。今日のオートレースに行く乗客も少なくないようだ。
 地下鉄の駅を出て地上に出ると、少し歩けばオートレースの会場だ。一般の人が入るのとは違う入り口から命天天はレース場に入り、ロッカールームでレースクイーンの露出の高い服を身に着ける。同僚の数人も皆、下着姿になりレースクイーンのビキニのような姿になるのだ。
 命天天はブラジャーも外して着替えた。ノーブラでのレースクイーンも珍しいものだ。
 レースは快晴の空の元、行なわれて大盛況だった。車輪輪という新人のレーサーが優勝した。それを近くで見ていた命天天は(車輪輪て聞いた事がある気がする・・・)と思った。
 優勝者へのインタビューが始まった。フルフェイスのヘルメットを脱いで顔を見せた新人の車輪輪は、お立ち台で会場に向かって右手を振ると、
「今日は、どうも、有難う御座いました。」
と淀みない広東語で笑顔で話した。その顔を見た時に命天天は(あ、図書館で見た私の前の席に居た人だわ!だけど、あれは夢だと思っていたけど・・・)と考えあぐねてしまう。
それからはレースについて淡々と語った車輪輪だった。そして全て終了となり、命天天はロッカールームへ戻ると私服に着替えて外へ出る。
 少し歩くと目の前に男が現れた。何と今日のレースの優勝者、車輪輪では、ないか。立ち止まった命天天に車輪輪は私服姿で、
「お久しぶり。といっても、そんなに前の出会いでは、なかったね。」
と彼も立ち止まって語る。命天天は、
「え?あの図書館で、お会いしたのが貴方ですか?」
「そう、僕の名は車輪輪。今日は優勝出来て良かった。何処かにドライブにでも行きませんか?」
「いいですわね。でも・・図書館の屋上でUFOに怪光線で引き上げられて、それから次は自宅で寝ていたという記憶の欠如があるんですけど。」
「ああ、その事ですか。それについて話せる事を話しますから車の中で聞きませんか?」
「ええ、是非、聞かせてください。車輪輪さん。」
「それでは僕の車を持ってくるから、ここで待っていてね。」
と言い置いて車輪輪は駐車場の方に行ったらしい。その駐車場は、その場からは見えなかった。三分以内に白のスポーツカーに乗った車輪輪が命天天の前に現れた。車は助手席側のドアをボタン一つで開くと、
「さあ乗って。最新設備の車ですよ。」
と話しかけた。
命天天が乗り込むと車輪輪が又もボタン一つで助手席のドアを閉める。
車輪輪はカーナビで運転経路を決めると車は自動的に発進した。車輪輪は横目で、といっても右目で右横に居る助手席の命天天の横顔と横乳を見ると躍動感のある勢いを感じた。それに彼女の乳房は横から見ると服で曖昧になっているとはいえ、突出感が凄い。運転席の車輪輪は知らないが彼女はノーブラジャーだ。車内はエアコンが運転を開始したが外よりも暑い状態である。
自動運転なだけに安全運転で進んでいくスポーツカーだ。台北市の華やかな通りを流れていく窓の外の眺めに命天天が楽しそうなので車輪輪は暫く無言でいる。台湾の車の走行位置は右側なので日本とは正反対である。世界の車の走る車道の位置に就いては右側走行が国別としても圧倒的に多いのだから台湾の車の走る位置が右側と言うのも世界の主流に沿っているものと言えるだろう。であるからして命天天は歩道に近い位置にあるのだ。車道近くを歩いている人も、たまにはいる。台湾は昔から交通事故が多い国である。それは歩行事情にも一因があると言えなくもないのかも知れない。
それでもカーナビによる安全運転の自動運転中のスポーツカーだ。
 車輪輪は突然のように、
「もし今、車の内部が全く違ったものになったとしたら、どうしますか?」
と提案するかの如く命天天に尋ねた。いきなり問われて戸惑う命天天は、
「えっ?そんな事を言われても・・・違ったものに、というのは、どんな風に違うんでしょうか?」
「男と女にとって、やりたい事を、やれる空間ですよ。」
「ふーん、何でしょうか?」
「男性の運転する車に女性が一人で乗るというのは同意したも同然の了解ですからね?」
命天天は無言で頷いた。車輪輪は何処か日本人の男性の雰囲気が感じられるが広東語は外国訛りも感じられない。何人もの女性を抱いてきた男、という雰囲気を持っている。命天天は了解の印に少し股間を開いた。その彼女の両脚の動きを見逃さなかった車輪輪は、
「よし、と。それでは変えますよ、車内を。」
と話すと運転席前部のパネルにあるボタンの一つを右手の人差し指で押した。すると!!
車の窓ガラスは元々、マジックミラーで外から中は見えないものだった。だから、そこは変わらないのだが窓ガラスの内部側に、もう一つの窓ガラスが下から上に出て来て、車内は真っ暗になった。その瞬間に自動点灯で照明が照らされたので再び車内は明るくなったけれどもフロントガラスも真っ黒になってしまったのには命天天は驚いたのだ。
更に車輪輪は、
「それでは次を行くよー。」
と話して又、別のボタンを押す。すると、二人の座席は後部に移動して背もたれが後ろに倒れて後部座席と合体し、ダブルベッドの広さになったのだ。車輪輪は左の方で、
「これでラブホテルみたいになったね。走るラブホテルだ。完全防音でもあるから君は好きなだけ声を上げていいよ。
外からも見えないし、車は自動運転で走り続ける。」
そう話すと、更に別のボタンを押した。
命天天は驚いてしまった。二人は乗り心地のいい広い座席で向き合うと車輪輪は命天天を抱き寄せて深接吻をした。二分も二人の唇は重なったままで、そのうちに車輪輪の舌が命天天の唇を割って入って行き、二人の舌は、もつれ合うかのように絡み合う。車輪輪は彼女の上着を脱がせる。ノーブラなので、すぐに命天天の桃のような白い乳房が弾力で揺れて尖った乳首も見せた。車輪輪も自分の上着を脱ぐ。彼の上半身はボディビルダーにも似て大胸筋は逞しく、腹部は数段に割れている。それを見た命天天は自分で座席シートに寝そべった。運転席のハンドルは誰も触らないのに左右に回転している。アクセルやブレーキも動いていて、少しは揺れがあるとはいえ車の中とは思えない程だ。命天天は自分のズボンと下着のショーツが優しく脱がされるのを感じた。それで彼女は白い裸身を車内に曝け出した。
そのモデルでレースクイーンの命天天の白の裸身とは対照的に漆黒の股間が車輪輪の性欲の中枢神経を刺激して既に自分のズボンとパンツを外した彼の股間は肉欲の代理棒が天井に達せんとばかりに突き上がっている。
それを寝そべったまま目線を下に向けた命天天は車輪輪の男根肉を見て(すっごい。早く、入れて。)と思い、自分から大きく股間を広げた。車輪輪の肉欲代理棒は命天天の陰裂部に躊躇する事なく這入り込むと、走っていた車は停車した。信号待ちなのだろう。車外は台北市の大きな交差点で信号が変わり、歩行者は車道を横切っている。スポーツカーの内部では全裸のレーサーとレースクイーンが性器を結合させて正常位で交わっているなどとは歩行者は想像も、しないだろう。車輪輪の滑らかな腰の振りに命天天は可愛い声を、すすり泣くように上げて自分の西瓜のような尻を振る。その彼女の声は、かなり大きいのだが完全防音の車内のために外に漏れる事は、なかった。
信号が変わったらしくスポーツカーは又、安全速度で走行を開始した。腰を振りつつ車輪輪は、
「車が走っている時に性交するのも格別だろ?命天天。」
と聞く、命天天は髪を少し振り乱して、
「カーセックスは初めてなの、ああっ、ああっ気持ちいい。」
と答える。
車内は昼間のような明るさだ。外の方が曇り空で少し暗い位な天候である。二十分で車輪輪は射精する事無く勃起したままの肉欲代理分身を引き抜いた。そして、
「もう少しで出そうになったから、一旦、外した。少し休めば、あと二十分は持続できる。」
と自信綽綽と話したのである。
 スポーツカーは自動安全運転を続けている。車輪輪は運転席のカーナビを覗くと、
「そのうち海岸線に走りつくんだ。君は海は好きかい?」
裸身で寝そべったままの命天天は、
「ええ、海は好きだわ。でも台北市からは近くないわね。」
「北西に行けば一番早く海岸に到達できる。」
と同じく全裸で肉砲身を立てたままの車輪輪は答えた。命天天は思い出すように、
「そうだったわね。何年も海を見に行っていないもの、わたし。」
「そうだったのか。それなら、これから海に行けるよ。」
と嬉しそうに話す車輪輪だ。
 カーナビでは既に海岸に行く設定になっている。車輪輪は一旦、肉砲身を平時の肉長に戻すと運転席に行き、パネルにあるボタンを押した。すると全ての窓ガラスがマジックミラーに戻り、外の光景は見えるようになり眩しい太陽光線が車内を照らした。命天天は裸身で起き上がると、
「この窓ガラスは外から車の中は見られないの?」
と車輪輪に聞くと運転席から車輪輪は、
「ああ、マジックミラーだから外から中は見えない。だから安心していい。海までは近いからね。」
と解説した。
という内に海が見えてきた。台湾の海岸には珍しい風景もあり、岩の形が奇妙なものが並んでいたりする。命天天は、
「あっ、あそこにいる人達は全裸だわ。ヌーディスト・キャンプなのかしら。」
と窓の外を指さして叫んだ。
車輪輪はカーナビを操作して、
「予想していなかった景色だね。僕らも裸のまま参加できる。」
と話した。
スポーツカーは海岸の近くまで走って停車した。三人の女性が全裸で砂浜を歩いたり、波打ち際で海水を浴びていた。それは台湾の女性では、ないようだった。色白で足も長い。三人の白い女性たちは胸も尻も完熟している。
命天天と車輪輪が全裸で砂浜に歩いて行き、彼女達に近づくとフッというように三人の全裸美女は消えてしまった。
車輪輪は海岸を見回して、
「おや?いなくなったな。あの人たちは何処に消えたんだろう?」
命天天も裸姿のまま周辺を見渡して、
「何処にも、いないわね、あの人達。」
と全裸のレースクイーンは声を出す。
その時、上空に円盤型のUFOが出現した。車輪輪と命天天は、その円盤の基底部から発せられた物体捕獲移動光線によって円盤内部へ引きあけられたのだ。
 裸の二人を待っていたのは円盤内部には似つかわしくない道教の道士らしい男で、
「やあ、車輪輪君。日本人名は成頭友見なのだが、全裸の御嬢さんの御名前は命天天さん、ですね?」
と明るい笑顔で話したのだ。
命天天は裸身を見られるのが恥ずかしくて右手で乳房を、左手で自分の股間を隠していたが、自分の名前をズバリン!と言われて、
「どうして私の名前を・・御存知ですか?それに貴方は道士さんでしょ?」
と二つの質問を投げていた。道士は深く頷くと、
「左様です。私は錬倫平というのです。そうだね、成頭友見君。」
と男なので股間も隠していない成頭友見に親しげに話した。
 嗚呼、カーレーサーの車輪輪は成頭友見だったのだ。もちろん顔は台湾人らしい顔の特殊化粧を施している。全裸の成頭友見は、
「そうです。錬倫平さん。命天天さん、僕も道教の道士になり、カーレーサーにも、なりました。日本でも車の運転のA級ライセンスを持っていたし、特殊な機器をオートバイに取り付けて速度を加速させましたから、カーレースでも簡単に優勝出来たんです。でも、それは命天天さん、貴女と近づくための手段でした。」
と明白的な告白を縷々、述べたのだ。命天天は裸身を隠したまま、稲妻を見たように仰天して、

SF小説・未来の出来事44 試し読み

北九州市の小倉北区には海に面した場所が多く、夏になれば人も押し寄せる。六月の28日というのに気温は上昇して成頭友見とアメレント・アーベルシュタインの乗っているレンタカーの中もサウナ風呂の熱が出て来たので、すかさずカーエアコンの冷房を成頭は運転させた。アメレントの白い額にも汗が浮かんでいる。
 冷却していく車内温にアメレントは、
「涼しいわ。あ、海が見える。ドイツ人の私としては海は珍しいものだわ。」
と話すので成頭は、
「よし、それでは海を見に行こう。」
とカーナビの目的地を変更する。ビルも多い、その場所から成頭とアメレントの車は海岸へ向かう。そのビルの中の一つに市民党北九市本部があり、今日は福岡県本部から利権田・福岡県本部長が訪れていた。窓の下に見える道路を見下ろして六十路の利権田は、
「ふーん、外国車のレンタカーらしい。車の窓から若い男女が見えるな。平日にデートか。いや羨ましいな。ワシの若い頃は無論、今でも平日に女と遊ぶなどワシには出来ん。」
と、その近くの北九州本部長、も六十路、に話しかける。北九州本部長は座ったまま、
「だからこそ五十代以下の市民党員の男性議員には格別の女手当をするのが党是だと利権田先生が言われているのを北九州本部でも実行しています。北九州というか小倉での風俗店の申し出もあって、衆参両院の市民党の議員には風俗半額券を寄贈してもらっていますし、東京出張の折には新橋や神楽坂、赤坂、銀座などの芸者と無料で遊べるように手配しています。」
と話すと利権田は窓の外から室内の強浴(ごうよく)北九州本部長に視線と体の向きを移して、
「そうか、それは熱心だね。なにせ女を抱きたい、との一心から国選に立候補する男性議員が市民党には多い。それは福岡市でも、そうだ。いかに東京の女をタダで抱けるか、という事に熱心な人間であるか、が選挙戦での勝利につながる。それで衆院は福岡2区で市民党が独占だ。馬鹿な市民は議員立候補の動機も知らずになー、郷土の星だとかで入れてくれるし、熱心な人ねーなどと感心しているが、それでコッチは笑いが止まらんのだ。奴は女を抱きたいだけだからなー。国立大学を出ても男は、男。大学を出るまで我慢した分、反動も大きい。人並みに結婚しても子供が出来てからは女房にも飽きるし、さりとて浮気も出来んしな。
それで市民党に入れば女の世話もしてやるぞ、とワシは持ちかける。ワシも国立大学を出ているから、それは気持ちが分かるんだ。ワシも女を抱けるから市民党に入党した。
表面的活動では市民の皆様のため、と演説していればいい。公園の掃除までパフォーマンスとして、した事もある。ワシの入った頃には、まだ女の手配は少ないものだった。それでも当選した夜は深夜にだが中洲の高級ソープ嬢を抱けた。二発は、してしまったな、ワシは。」
そこで強浴・北九州本部長は笑顔になり、
「利権田先生も、そうでしたか。いえ私も小倉の船頭町で当選の祝いをしましたよ。妻が寝た後で家を出ると市民党の車が待っていて、風俗街まで乗せてもらって。女を抱き終わるのに二時間は使いましたが、終わったらスマートフォンで市民党まで連絡するように言われていましたのでね。それで帰りも市民党の車で自宅へ帰りました。部屋に入ると妻は熟睡していましたよ。私が当選したので、よく眠れたらしくてですね。」
と懐かしそうに回想する。利権田は胸を張り、
「ワシが更に女の手当てを増やした。レンタル・ラブドールも、これからは活用したい。芸者以外の素人に手を出す若手も出て来たからな。話は変わるんだが風俗と言ってもホストクラブとの折り合いは、あまりよくなくてな。奴らは市民党に政治献金も、せんのだよ。それで若手議員の中にはホストクラブを何とかしたいとワシに言うてくるのも、おる。ワシは、ほっといたらいいとは言うておるんだがね。」

 成頭とアメレントのレンタカーは人気のない海岸に停車した。ドアから出た成頭は潮風を胸一杯に吸う。トキューーーンという軽い音がした。成頭の長髪の髪の毛を狙ったかのような銃撃だった。少し頭皮に接したかと思われる狙撃だったので、成頭も頭部に少しの衝撃を感じた。咄嗟に車内に戻り、車を発進させる。ドアを開けようとしていたアメレントに
「外に出ないでっ!又、銃撃された!」
と緊急的な警告をしていた。アメレントは心配そうに、
「こんな場所でも撃たれたのね?オバケ屋敷の悪戯とは違うんじゃないかしら。」
と憂いの瞳を運転席の成頭に向ける。成頭は車が市街地に向かっているのを確認しつつ、
「人気のない海岸、というのも狙い眼だったんだろうね。それなら尾行されていた事になるよ。」
「そうねー。人気のない場所には行けないわね、これからは。」
 大きな車道を通り、慌てて福岡市に戻ると福岡空港近くのレンタカーの店に外国車を返した成頭で、あった。
 丁度、正午となった。成頭はアメレントを連れて地下鉄に乗っている。天神という福岡市中心部の駅までの切符を二人分、買って一枚をアメレントに手渡している。成頭は横に座っているアメレントに、
「天神地下街にはドイツ料理の店があるよ。そこへ行こう。」
「ええ、それなら、そこがいい。」
と同意するアメレントだ。
 そこはドイツ人が経営するドイツ料理店だった。成頭とアメレントが座った席の近くに市民党の党員が男二人でドイツ料理を食べていた。そのうちの一人が成頭に気づき、声を潜めて、
「おい、あいつは人気ホストだぜ。」
と同席している市民党員にヒソヒソと話した。それを聞いた党員はスマートフォンを取り出して成頭を撮影した後、
「ホストにも市民党に入れてもらいたいもんだ。でも過激な人達も市民党内には、いるみたいだな。」
「あー、イノシシ狩りのライフフル射撃の名人が、この前、福岡県本部に入党したんだってねえ。その人はホストを憎んでいる。」
「そーか?だからといって極端な行動は・・・。」
「奥さんがホストに入れ込んだらしい。なにせ旦那はイノシシ狩りの季節は長期的に山小屋で過ごす。自宅には戻らないから、奥さんは中洲のホストクラブに通うんだそうだ。」
「それでも離婚は、していないんだろう?」
「していないらしい。市民党に入った事で、何らかの行動は取りたいのかもしれないね。」
彼らは四十代の若手市民党員の男性だ。彼らに気づかずに、成頭とアメレントは食事を続けていた。食べ終わった成頭は、
「人気のない所に行くのが難しいから、君の最終目的地に送ってあげたい。何処かに泊まる予定は、あるはずだね。」
アメレントも食べ終わり、フォークを置くと、
「そこにはスマートフォンで連絡すれば迎えに来てくれる。わたしのドイツの修道院は日本に、いくつかの支部を持っています。福岡市にもあるから、そこに連絡しますわ。夕方でも、いいので半日は時間がある。どこか面白い所、ありませんか?」
と好奇心を露わにした眼で問いかけた。
成頭は考え込む顔になると、
「僕は狙われている訳だから君に被害が及ぶかもしれない。残念だけど今日は、ここまでで。僕のスマートフォンの番号は、これです。」
と話すとズボンのポケットから黄色のスマートフォンを取り出して自分の番号を画面に出してアメレントに見せた。アメレントは自分もスマートフォンを取り出すと成頭のスマホ番号に掛けると、つながり、そして通話を切った。彼女は、
「これで履歴が残ったわ。銃撃には気を付けてね。」
と話すと立ち上がった。
成頭も立ち上がり、レジへ行くと会計を済ませて二人は店の外の天神地下街へ出る。成頭は右手を挙げると、
「それでは、ここで一旦、お別れだ。では。」
「では、では、ね。」
とアメレントも右手を挙げて手を振った。
 成頭友見は天神地下街を真っすぐ北に向かって歩いて行った。新しい埋め立て地のフレッシュアイランドの地下街まで天神地下街は延伸していたのだ。地上を歩けば人気の少ない場所もある。又しても狙撃されるのではないかと成頭は危惧したのである。
 フレッシュアイランドの地下街から地上に出ると流太郎の会社が近くにある。成頭にとっては休みの日だが、社長の流太郎に相談したくて出社した。午後ではあるが成頭はドアを開けて、
「おはようございます。」
と挨拶した。流太郎は社長の椅子に座ったまま、
「おう、成頭君、今日は休みだろう?」
と話して怪訝な顔をする。成頭は立ったまま、
「二度も狙撃されたんです。それで、どうしたらいいかと思いまして。」
流太郎は驚き、
「狙撃って、撃たれたのか?僕には経験のない事だからね。おい、本池専務。対策は、あるかい?狙撃への・・・。」
釣次郎はノートパソコンから眼を上げると、
「防弾チョッキを着てヘルメットを、かぶる。位しか思いつかないですよ。」
と率直な意見を言った。流太郎は腕組みをした後、それを解いて、
「ヘルメットをかぶって街を歩くわけにも行かないしな。よし、ちょっと出かけてくる。ある会社を訪ねてくるから。早ければ一時間もせずに戻れる。それまで成頭君、待っていてくれ。ここなら安全なはずだ。」
と話すと流星のように会社を出て行った。
 フレッシュアイランドを歩いて二十分もしない場所に建っている、企業のビル。何の変哲もない外観だが新しさは充分に感じられた。そのビルは企業の雑居ビルではなく、一つの会社だけのビルだった。サイバーモーメントとオレンジ色の社名がビルの玄関口に表示されている。受付で流太郎は、
「時と申します。社長には、さっきスマートフォンで話をしています。」
と申し出ると受付の美女はニコヤカに、社長室に通じるインターフォンを押して、
「時さんが来社されています。」
と話すと社長室から女性秘書の声で、
「最上階まで直通のエレベーターで、お越しください。」
と案内が聞こえた。
受付美女は流太郎に、
「あちらにあるエレベーターの右側が社長室に直通で行きます。」
と案内した。急いでエレベーターに歩いて、その直通の方で最上階に出ると黒沢がニコニコして立ち上がり、
「時君、久しぶりだな。狙撃対応の製品は、あるよ。まだ未発売なのでモニターに、なってもらうよ、その・・成頭氏にね。」
と話したのだ。
流太郎もニコニコ顔で、
「それは有難い事です、黒沢社長。モニターって事は代金は払わなくていい、という事ですね?」
「そうだよ、その代り使用の報告を出してもらうさ。文章にしなくても録音して提出してもいい。それは成頭君に、してもらう。」
「分かりました。成頭に伝えて置きます。」
黒沢はヘッドフォンのようなものを右手で流太郎に差し出した。それを受け取った流太郎は、
「こういうもので狙撃対策になりますか?」
と聞くと黒沢は自信に満ちた顔で、
「既に社内でテスト済みだ。社外でのモニターを考えていたところだから、こちらにとっても期待できる。」
流太郎は手にしたヘッドフォン型の機械を見て、
「軽そうだし、頼りないですねー、これは。」
「スイッチオンで身に着けた者の体の周囲に電磁波が取り囲む、それで弾丸などは弾き返すのだ。それだけでない機能もあるけど、それは返却時に説明しよう。」
「分かりました。それでは有難く、お借りします。」
「うむ。返却が早くなる事を期待しているぞ。」
と話すサイバーモーメントの黒沢社長だった。

 流太郎が自分の会社の部屋に戻るまで一時間も、かからなかった。社内では成頭友見と専務の釣次郎が懇談していた。流太郎は座っている成頭に近づくと、
「最強の防護品を手に入れた。知り合いの社長の会社は凄いものを作っている。ほら、これだよ。」
とサイバーモーメントで黒沢から送られた銀色のヘッドフォンの形状のものを成頭に渡す。それを受け取り、成頭は、
「ありがとうございます。でも、これはヘッドフォンでは、ありませんか。音楽を聴く趣味は・・・。」
流太郎は苦笑いして、
「勘違いしても仕方ないな。でも、それは狙撃された弾丸を、はじけるらしい。スイッチをオンにすると強力な電磁波が発生する。それで銃撃されても安心なのだそうだ。」
成頭友見は銀色のヘッドフォンを凝視して、
「これを頭に装着して街を歩けば、いいんですね。防弾チョッキも不要になるわけですし。早速、使用して街を歩いて見ます。人気のない場所で狙われて撃たれました。犯人を誘うようにしてみますよ。でも一日中、自分は狙われているかどうか分からないんです。」
と話した。流太郎は、
「油断大敵であり油断強敵だ。君に死なれては我が社も困る。今日は君の休暇日なのだから、これから好きに行動していい。明日、それを持って出社したまえよ、な?成頭友見君。」
と呼びかけたので成頭は椅子を立ち、流太郎に一礼して、
「そうさせてもらいます。それでは失礼します。」
と部屋を出て行った。
 フレッシュアイランドは福岡市の人口島で、北側の博多湾に面した埋め立て地の場所は建物が建っておらず、広大な空き地のようになっている。砂浜もあるのだが海水浴場にならないのは、その辺りの海が汚染の度合いが高いためだ。季節は七月の初頭で曇り空の日も多く、その空き地の近くの場所からは海が水平線まで見えて見晴らしもいいのだが平日は来る人もないために人の気配もしない地帯となっている。そこへ成頭友見は銀色のヘッドフォンを頭に装着して、ブラリユラリと歩いて行ったのだ。狙撃されるのを期待して、での行動だった。
(本当にオレを殺すつもりなのだろうか)という疑念があったのだ。それは過去の二回の狙撃は間一髪の距離で当たらなかったからだ。それに外したのなら二度目の狙撃も行なわれるはずなのに一度だけだった。(単なる警告の意味での発射かもしれない)との推測は成頭友見には殺される事は、ないのではないかと大胆な自信へと繋がっている。
潮風が強く吹いた。その時、スキューン!と低い音がして成頭友見の尻の部分に弾丸が命中した、と見えたのだが銀色のヘッドフォンが放っている強力な電磁波は的中予定の弾丸を見事に、はじいた。
 成頭は驚いて後ろを振り返った。黒色の車が数十メートル先で走り始めた。あの車から弾を撃ったはずだ。黒の車は成頭から疾風の如くに遠ざかって行った。なんという尾行と狙撃だろう。
しかも今回は命に別状もない尻を狙われたのだ。仮に命中しても死ぬ事はなく、スマートフォンで救急車を呼べば助かる筈だ。
 それにしても・・・と、もう目視出来なくなった車の方を茫然と見ながら成頭は思う、しつこいな、と。と同時に彼の不安感は一気に増大した。会社に戻ろう、速歩で歩いて帰社した成頭を見て流太郎は笑顔で、
「お帰り。早いな。もしかして狙撃されたとか?」
と椅子から立ちあがって聞いた。成頭は、
「そうなんです。尻を狙われました。さすがは電磁波ですね。見事に跳ね返しましたよ。でも何だか不安です。それで報告しに帰って来ました。」
専務の釣次郎もノートパソコンから成頭友見に視線を移して心配げな顔つきだ。流太郎は自分の背広を整えると、
「一度でも狙撃されたら、そのヘッドフォンをサイバーモーメントに持っていく約束だ。ヘッドフォンは頭に載せたままでいい。おれの自家用車で連れていくから狙撃もされないと思う。それでは出発といくか。」
と話すと会社のドアに向かった。
 ビルの駐車場にあった流太郎の車は流線形の白の軽自動車で目立たない外観だった。尾行に使うのには最適な車だろう。助手席に成頭友見を乗せて走ったら、数分でサイバーモーメントに到着した。運転席からスマートフォンで流太郎は、
「黒沢社長。時です。成頭が狙撃されましたので・・・。」
「おう、やはりだな。それでは来社してくれたまえ。受付は通さなくて、いい。直通のエレベーターでな。」
「はい、そうします。それでは。」
とスマートフォンを切る。
 車の外に出た二人は焼けつくような七月の太陽光線の熱射を浴びて辟易した。サイバーモーメント社の駐車場とは言え、熱かった。二人は受付嬢の場所に行かずにエレベーターで黒沢の待つ社長室へと上昇した。ドアが開くと唇の上に髭を蓄えた黒沢社長が笑顔で、
「おー君。君が成頭君だね、まあ、その銀色のヘッドフォンを渡しなさい。」
と話して成頭友見に向けて右手を出す。成頭は銀色のヘッドフォンを頭から外して黒沢社長の右手に置いた。それを左手に持ち変えると黒沢は右手でヘッドフォンの胴体から装着されていたらしい一部の部分を取り出した。それを抜いたままのヘッドフォンを黒沢は成頭に返すと、
「ヘッドフォンだけで電磁波は流れるから、狙撃への防御は出来るよ。それとは別に今抜いたもので解析をする。」
と話した。
成頭は右手にヘッドフォンを握って、
「カイセキ?懐石料理の事ですか?」
「馬鹿な事を言っちゃ、いかん。分析の事だ。」
「分析して、どうしますか?」
黒沢は満足げに、
「それは、しばらく待って欲しい。なにせ初めて作った装置なので分析には数日は、かかるのだ。分かり次第、時君に連絡する。成頭君、君は外出時には必ずヘッドフォンを付けていた方がいい。もちろん無理にとは言わん。ただし狙撃されて君が死亡しても、当社は君がヘッドフォンを装着していない場合は責任を取りかねるからな、いいかね?成頭君。」
と丁寧に念を押した。成頭友見は銀色のヘッドフォンを頭に載せて、
「必ず外では頭に付けますよ、黒沢社長。」
と元気よく応答した。
 流太郎と成頭友見は社長室を出て駐車場に戻った。雨雲らしき黒い雲が空に浮かび始めたので、さっきの熱気は遮られている。それで社内の室温は、それほど上がっていなかった。
同じ人工島のフレッシュアイランドの敷地にある流太郎の会社に車で戻るのに時間は僅かだ。企業の雑居ビルでも何とか最上階を借りている流太郎の会社だ。
二人が部屋に戻ると専務の釣次郎が立ち上がり、
「お帰りなさい。ネット経由で依頼がありました。単純的に要約すると男と女の問題でして。別れさせる、という工作をして欲しいというものです。」
入り口付近で立ち止まった二人、流太郎はネクタイを、ゆるめて、
「それなら成頭君にピッタリのものだな。成頭友見君、さっそく又、仕事だよ。」
と少し後ろで立っている成頭を振り返って話すと成頭友見は、
「え。そうですか。狙撃されるかも知れないのでヘッドフォンを頭に、つけたまま仕事をしないといけないんです。」
と返答する。流太郎は、
「それで、やってもらうよ。相手には何とでも答えられるね。いつも音楽を聞いていたいから、とか誤魔化すんだ。」
成頭の緊張した顔が弛緩して、
「そうしますよ。」と答えて本池釣次郎専務の方を向き、
「本池さん、どういう依頼ですか?」
「詳しくこれから話すよ。政治が絡んでいるね。」
それから三人は、それぞれの席に座ると、釣次郎が依頼された内容を詳しく話した。
成頭友見は興味深げに、
「そういう事情なんですね。今回は、といっても二度目になる”別れさせ屋”の仕事ですが報酬も高いし、やりがいは充分にあります。」
社長の流太郎は笑顔で、
「それでは元気よく行ってくるように。あ、これ。」
と言いつつ、立ち上がり社長の机の上にある、十二本入りの精力ドリンクのケースを手に取ると座っている成頭友見に近づいて手渡した。成頭友見はケースを見て、
「すっぽまドリンク!ですね。すっぽんとマムシの混ぜ合わされた飲み物みたいですね。」
と話すと流太郎は頷いて、
「ああ、そうさ。体が資本だ。頑張って来い。」
と激励した。

 福岡市東区の喫茶店の入り口付近の椅子に座り、スマートフォンでネット検索してSNSで該当の人物を探し当てた成頭友見である。
 (この女性か。市民党福岡県本部の女性職員だな。27歳、独身。その交際相手は時社長に聞いたけど。その男性のSNSも、ここにある。ここで知り合ったのかどうかは分からない。だけど市民党の女性職員とはプロフィール欄にも、ないし。そこそこには色っぽい女性だな。胸が、とても大きいし、尻も高く突き出ている。

SF小説・未来の出来事43

僕たちの先祖は男女ともに全員が注射を受けた。男性の宇宙人は、
「これで君達は自分の身長を伸び縮みさせることが出来る。というより縮む方が先で、今より伸ばす事は出来ないけどね。洞窟や、その他の場所で今の背丈なら不自由するだろう。試しに【縮め 身長】と念じるんだ。さあ、みなさん、やってみて。」
と皆に呼びかけた。
 それで僕たちの先祖は全員、頭の中で【縮め 身長】と念じたんだ。すると全員の身長が縮み始めて百五十センチの身長になった。
皆は小さい体になった事に驚いたらしい。僕の先祖も大いに驚いた。
・・・・・・と言うことで今日は仕事があるから服を着るよ。外出もするしね。」
とランルングは話して下着と服を急速に身に着けた。真理裳も全裸でベッドから出ると、
「わたしも服を着るわ。」
と白いショーツとピンク色のブラジャーを身に纏った。ランルングは小さな体で真理裳を見上げると、
「台所に行こう。食堂でもある場所へ、さあ。」
と話しかけ、真理裳に背を向けると応接室のドアを開けた。
 食堂は広くて十人は座れそうなテーブルに椅子が並んでいた。巨大な冷蔵庫からオレンジ色の液体が入ったコップとクロワッサン風のパンを真理裳が座る予定のテーブルの上に置き、
「そこに座って食べてね。飲み物は地下世界の果物のジュースだよ。マンゴーとメロンとオレンジの味がする、そういう果物が地下世界にあるんだ。僕は事務室で仕事を、してくるから。」
と言い置いてランルングは食堂を出て行った。
 事務室の天井の高い部屋でランルングはパソコンを起動させると、メールボックスを見る。求人に応募してくれた人が、いる。八王子の主婦で四十代、眼鏡を掛けた、おとなしい容貌だ。ランルングは(お手伝いさんの募集なんて応募してくれる人が、いるとは思わなかったのに早いな、決断が。)と思い、(面接に来たら即決しよう。)そう判断して、その主婦のスマートフォンに自分のスマートフォンで電話した。
「・・・、あ、有西さんですか?有西風世(ありにし・かぜよ)さんですね。ネットグッドサイエンスのランルングと申します。早速ですが面接に来ていただきたいのです。いつが、よろしいですか?え、今から?いいですよ、大歓迎です。時間は、どの位かかりますか?三十分くらい・・・分かりました。お待ちしております。」
と百五十センチの身長のランルングは話すと通話を切る。
(雑用の用事とか牛の世話とか色々と、してもらう事は小山程ある)そう思うランルングだ。
これで三十分後には有西風世が来る。それまでにインターネットで酪農の営業メールをランルングは関係する会社に送信していった。地底の貴金属も莫大な富となる。彼は、その一部を換金したが中東の石油並みに存在する地底の貴金属である。その所有権をランルングの一族は持っている。そして、それらは日本の地下にある。ムー大陸が沈没する前にランルングの一族は日本に渡り、それから地下へと潜っていった。地上にいると巨人だと騒がれたりするので地下へ潜ると更なる道が、そこにはあったのだ。
やがて地底の太陽に照らされた年中が春のような場所が現れた。花は一年中咲き誇る地底の極楽、桃源郷を上回る世界だ。
ダイヤモンドやルビーが顔を出している場所を更に掘り進めると簡単に地上で高価な宝石の原石が手に入る。
 貴金属の卸商としてもランニングは活躍を始めていた。何せ原石は地底で採掘し放題なのだ。地底の資源富豪、ランルングである。
そんな、こんな、あんな、で忙しいランニングは丹真理裳との性接触すら時間を取るのが難しい、ゆえに家政婦は絶対的に必要となっている。三十分など超特急的に吹き飛んでしまい、玄関チャイムが鳴ったのでランニングは有西風世(ありにし・かぜよ)が来訪したと思い、部屋にある玄関前のモニターカメラ画像を見ると、中年女性がピンクのスカートで立っていて眼鏡を掛けて真面目そうな顔立ちだ。(よしっ、採用即決だ!)とランルングは決断して玄関に向かった。
 玄関にも玄関前が映るモニターカメラの映像が見える。指タッチでランルングは玄関ドアを自動で横に開くと、有西風世が生真面目に一礼して、
「面接に上がりました、有西です。」
ランルングは歓待的に、
「どうぞ、お上がりください。私の事務室に行きましょう。」
と話し、先導的に歩き始める。
有西風世が玄関に入ると同時にドアは自動で閉じられていた。
さすがに会社兼用の邸宅だ。有西は廊下を歩きながら天井の高さに驚いていた。事務室の中も高い天井だ。
ソファの素材も地底からのもので座り心地は格段に、いい。ランルングは有西に向かい合って座ると、
「履歴書などは不要ですよ。もう採用を決めましたので、明日から、いや今からでも働いてもらいたい。」
と話は早かった。有西は喜びを控えた顔で、
「頑張りますので御期待下さい。」
ランルングは立ち上がった。身長は百五十センチなので有西より背が低い。座ったままの有西に
「これから各部屋を案内しますから、ボクについて来てくださいね。」
と呼びかけたので有西は元気よく、
「はい、お願いします。」
と答えると立ち上がった。有西、即ち探偵の丹廷臣であるから身長は160センチ程なのでランルングを見下ろす形になるが、有西は勤めて視線でランルングを見下ろさないように勤めた。その態度にもランルングは好感を持ったようだ。事務室を出た二人はランルングが先頭に立ち、長い廊下を歩いて行く。
 応接室の前に来るとランルングは歩みを止めて有西を振り返った。有西も立ち止まる。ランルングは、
「ここは訪問者が訪れる部屋だ。今日ではないけど、ここの清掃もしてもらうよ、中に入ろう。」
と語り、応接室のドアを開ける。中に入るランルングと有西。
部屋の中では丹廷臣の妻、丹真理裳が元モデルらしく優雅にソファに座っていた。丹廷臣が変装している有西風世は内心、少しは動揺したが、それを顔に出さずに女の声で、
「こんにちわ。家政婦の有西です。」
と挨拶して頭を下げる。
丹真理裳は家政婦が自分の夫とは気づかずに、
「こんにちわ。ここには、これから数多く来る予定ですのよ、うふふ。」
と応答した。有西風世、即ち探偵の丹廷臣は(数多く浮気に来る訳か)と今後の妻の行動予定も分かったが、そういう気持ちも顔には出さずに、
「素敵な場所ですものね、こちらは。」
と相槌を打った。ランルングは満足げな顔で、
「それでは、奥さん。僕らは家の中を回るので。」
と話しドアを開けて廊下に出る。
有西風世も応接室を出た。ドアが閉まるとランルングは、
「月時亜理子という最初に見た名前はハンドルネームですか?」
と有西に尋ねた。
「あ、あれはネット上で使っている名前です。本名は有西風世です、間違えて御免なさい。」
と丹廷臣が変装している有西は答えた。ランルングは即納得して、
「ああ、なるほどですね。SNSとかで使っているんでしょう?月時亜理子という名前を。」
「そうなんですの。そうしないと夫にもバレますから。」
「そうですね、それでは他を案内します。」
と話しランルングは廊下を歩きだした。
 様々な部屋に入ったランルングと有西風世だった。宝石の原石の部屋。恐竜の化石の部屋。世界中の骨董品が集められた部屋。
これ等の部屋を紹介し終わるとランルングは、
「仕事を手伝ってもらう時に入る部屋です。さーて、僕は仕事があります。今日からの貴女の賃金は出します。応接室の女性客を相手に話でもしていて下さい。その人もボクが一日中、仕事だと聞くと帰ると思いますのでね。」

 応接室に入った有西風世に丹真理裳は、
「おや、こんにちわ。ではなくて、おはようございます。」
と呼びかけた。有西は、
「おはようございます。この家に今日から雇われました家政婦です。有西と申します。」
と自己紹介して、真理裳が座っている場所から少し離れて腰かける。
真理裳は、
「仕事は大丈夫ですか?有西さん。」
有西は眼鏡を少し上に、ずらすと、
「今は休憩だと思います。応接室にいる人と話でも、していて下さいとランルングさんに言われました。」
その後で有西は右隣にいる真理裳との間に手提げバッグを置いた。そのバッグには隠し撮りが出来るカメラが内蔵されていて、有西は、さりげなく動画開始のボタンを押している。音声も記録されていく。
 それに全く気付かない丹真理裳は、
「そうなんですのね。それでは御話でも、しませんか?有西さん。」
「ええ、構いませんよ、奥さん。」
真理裳は少し微苦笑して、
「ええ、一応、奥さんなんですけど。ダメな主人で・・・。」
それは自分の事だと丹廷臣が変装中の有西は思い、
「まあ。失礼ですけど、どんな方なんですか?御主人様は。」
「うん、探偵をしているのだけど、それは腕のいい探偵なんです。ただ夜の活動がダメなのね。いきなり、こんな事を有西さんに話して、よかったのかしら?」
有西は平然とした顔で、
「ええ、わたしも主婦ですし、旦那はダメ人間ですの、わたしも。同じ女性同士だから遠慮せずに話してくださいね。」
と語りつつ、右肩をすぼめた。真理裳は、
「ああ、有西さんも勿論、旦那様は、いらっしゃるのですし、・・有西さんの旦那様は、どういう御職業ですか?」
「それは・・会社を転々と変わっているんです。四十過ぎてからですから、給料は上がらないし。幸い、わたし達には子供がいないので手間は要りません。それでもギリギリの生活では仕方ないので、わたしが働きに出ているんです。ここの家政婦の給料も、とても、いいですよ。一般の仕事よりも。」
真理裳は目を満月のようにして、
「それは、いい仕事なんですね、それでは。」
と同意して、
「それでは夜の方は?」
と好奇心を隠さない顔で聞くと有西は、
「もう一年も夜の生活は、ありませんわ。他で浮気している事は考えられます。」
と話すと有西は自分の妻である真理裳の顔をジロッと見る。真理裳は少しギクリとした顔をしたが、すぐに元の顔に戻ると、
「浮気が原因・・・なのは有り得ますわね。でもウチの主人は平凡な顔だし小柄なのでモテませんから浮気はしてないと思います。」
有西は突如、切り出すように、
「奥さん、ランルングさんと関係を持った・・・という事なのですか?もしかしなくても。」
と問いかけた。真理裳は微笑み、
「そう、御賢察の通りですわ。朝から、してしまいました。それは、もう、凄かったです。それにランルングさんの身長は・・・あ、これは話せません。秘密らしくて。」
丹廷臣である変装した有西は、
「そうでは、ないかと思いました。家政婦の私が、そんな事を聞いて失礼しました。」
と話すと少し頭を下げる。真理裳は右手を胸の前で左右に振ると、
「いえいえ、気になさらないでください。この部屋にはダブルベッドも、あるんです。」
と言うので有西は部屋を見回すと、奥の方にダブルベッドが見えた。有西は努めて平静に、
「成る程、分かりました。奥さんみたいに綺麗な方なら自然な流れですわよ。元モデルさんみたいな人ですね、奥さんは。」
「あら、そうかしら。ある企業の社長秘書でしたわ。モデルだなんて、できませんもの、わたし。」
と嘘をついた真理裳。おそらく元モデルと告白すると調べられるのでは、ないかと思ったのだろう。有西になっている丹廷臣は、その嘘は分かった。妻の真理裳はモデルという仕事しか、していない。丹廷臣が真理裳と交際していた時もモデルだったし、その頃に丹廷臣は真理裳の職業歴を調べた事が、あるからだ。有西は(嘘をついたな、真理裳)と思いながら顔色も変えずに、
「これは失礼しました。秘書の仕事をしている人も綺麗な方が多いです、と私は思いますわ。」
「ありがとう。それで探偵さんと交際することになって。」
(これは本当の話だ)と有西は思い、
「探偵さんが御主人なのですね、奥さん。」
「ええ、まあ、そうです。お金には困らないけど、一晩中、主人は帰らない事もあります。今週、一週間は主人は出張です。」
「一週間は帰らないんですね、ご主人は。」
「ええ、その予定ですわ。」
「それで一週間は毎日、ここへ来られるんですか?」
「ええ。と言うより、この部屋にベッドもあるから泊まろうかな、と思っていますのよ。」
・・・・・・・・
と語った丹廷臣は中洲ビックタワーのゲームセンターの休憩室で板丸という若い女性と、いるのだ。丹廷臣は続けて、
「それからの一週間というもの、妻の真理裳はランルングの邸宅に泊まり続けで居ましたし、私は家政婦だったので夕方の四時には仕事が終わりました。帰る前に私は応接室に入り、隠し撮りカメラを設置して置いたのです。もう、それは透明な針くらいの大きさなので見つけられない場所に置くと気づかれない代物なんですよ。録音も出来る優れたものでナノテクノロジーのカメラです。サイバーモーメント社が開発したカメラで高価な事も、この上もないですが妻の真理裳の浮気を立証するためには手痛い出費も、する必要がありました。家が一軒、買える位の価格ですからね、そのナノテク・カメラは。
その代り、一週間は録画、録音できるヨッタ・バイトの容量を持つカメラなんです。」
板丸という女性は静かに頷いた。
 丹廷臣は遠い場所を見る目で、
「一週間も録画録音させたカメラを回収して自分の部屋で再生すると、やはり妻とランルングの浮気の光景、情事が全て記録されていました。二人は全裸で・・・当たり前ですが、その前にランルングの体が二メートル五十センチにも伸び上がり、彼の股間のモノも二十センチ位になる。その彼の股間のモノが勃起すると二十五センチ位にも・・・あ、板丸さん、こういう話は大丈夫ですか?」
板丸は美微笑して、
「いいですよ。わたしも未成年ではないし、カマトトみたいに性に無知な真似などしませんから、続けてください。」
それを聞いた丹廷臣はホッと安堵の態で、
「で、その巨人になったランルングの体と妻の百八十センチの体が結合して、体位も様々に変化させて一日に五時間も交わっていました。休憩は、していましたけどね。それを詳細に私の口からは話せませんし、長くなりますから、これまでとして。
 一週間後に私は妻に証拠映像を見せて、
「探偵に頼んでキミの行動を記録させた。これが、それだ。」
とランルングとの情事を精密に記録した映像と音声を突きつけると、妻の真理裳はアッサリとアサリ貝のように口を開き、
「この通りだわ。凄い探偵さんね。」
と認めました。
それで妻と離婚して九州の福岡に流れ付き、今の会社で探偵として雇ってもらったのです。」
と話し終わると丹廷臣は右手に持った缶ジュースを一気に飲み干した。板丸もジュースを少し飲むと、
「衝撃的な話でしたね。巨人がいるというのは。今の時代にも。」
と感想を言う。丹廷臣は、
「東京にも巨人伝説は、ありますし。ダイダラボッチというそうですが。」
「わたし知らないわ。民俗学みたいなものでしょ?それ。」
「ええ、そうらしいですね。だけどランルングは今でもいるでしょうし、どうなったかは知らないけど私の元妻も生きているはずです。そういう事より今を生きたい、私は。」
と力強く宣言する丹廷臣だ。
板丸は悪戯っぽく、
「ここは成人向けゲームセンターですよ。どれで遊びますか?」
「そうでしたね。どれで遊ぼうかな、と迷います。初めて入りましたし、取り敢えずは見て回りましょう、板丸さん。」
「ええ、それが一番の早道ですわ。」
二人は申し合わせたように立ち上がると、成人向けのゲーム機を見て回った。普通のゲーム機にUFOキャッチャーというものがあるが、それと似たようなゲーム機がある。機械の手で掴み取ることが出来るのは丸いカプセルばかりではなく、アダルトDVDとかオールヌード写真集とかがゲーム機の底に並んでいた。
プレイする料金は普通のゲーム機の十倍だ。丸いカプセルは中身が見えないようにピンクの紙で包まれていたりするものもある。丹廷臣は面白そうな顔をして、
「これを、やってみますよ。クレジット払いが出来る機械ですね。」
と板丸に話すと財布からクレジットカードを取り出して機械に挿入した。アダルトキャッチャーという名称がゲーム機に張り付けてある。それがゲーム可能の青ランプが点灯したので、丹廷臣は機械の手を作動させる。中身の見えない赤色の紙で包まれた丸い円形の容器を掴んだ機械の手を上に持ち上げると、その手は移動して外に出てくる部分に丸い球を落とした。丹廷臣は、
「やりましたよ!板丸さん。」
と喜びの声を上げた。機械の外に出てきた赤い大きな丸いものを丹廷臣が取り上げて、中身を出すと何とコンドームだった。勿論、箱に入ったコンドームで薄さは世界一らしい。板丸は失笑して、
「いいものを拾いましたね。独身貴族には必須の製品ですよ。」
「いや、当面は必要ないですよ。貴女に差し上げましょうか、板丸さん。」
「いえいえ御辞退しますわ。まだまだ、面白いものがありますから行きましょう、他へ。」
と勧める板丸に丹廷臣は眼を開くと、
「えっ、そうなんですか、それでは行きましょう。」
と答えると板丸は歩き始めたので丹廷臣は、彼女に随歩した。
いきなりのように通路の右側は江戸自体の遊郭のような建物があり、着物を着て、顔と首に白粉をつけた若い女性が座ったままの姿で客を誘っていた。丹廷臣を見ると一人の女性が、
「お兄さん、今日は一番目になるから早く来て。」
と右手で、おいで、おいでの動かし方で誘う。板丸は、
「みんなロボットなんですよ。人間と間違えそうですねえ。」
と解説した。丹廷臣は、
「いや、これは驚きました。江戸時代に時間遡行したのかと思いましたよ。」
「タイムスリップね。丹さん、いかがですか、遊郭に入った事は、ないはずですよ、現代の男性は。」
丹廷臣は歩行を止めずに、
「うーん、高くつきそうですねー、遊郭に入るのは。」
と話すのだった。
次に見えたのが第二次世界大戦後の焼け跡の残るような場所の街角に、たたずんでいる若い女性たちが立っていて、口紅の色が鮮烈に赤い。そのうちの一人が丹廷臣に右手を振り、
「ねえねえ、お兄さん。安くしておくわ。あのトイレに入れば立ったまま、できるから。」
と近くにある公衆便所みたいなものを指さして言う。彼女たちも、よく見ればアンドロイドなのだ。隣には板丸がいるし、何とも、やりにくい丹廷臣は、
「いや、遠慮しておきたいね、お姉さん。」
と答える。
すると、その女性は右手に持っていた煙草を吸うと、フーッと息を吐いて「わたしのアソコは有名なAV女優のものと同じに作ってあるし、わたしはアンドロイドだから妊娠もしないよ。ゴムなしOKさ。あんたが立たないのならスペシャル精力ドリンクも、おまけで付けてあげる。それを飲んで勃起しなかった男は、いないんだ。わたしは電動だし、女性器も電動で動く。その動きが、いいね、って言ってくれる男性客ばかりなんだよ。試さないと損、損さ。どう?お客さん。」
と熱烈に呼びかけた。
丹廷臣は言葉も返さずに通り過ぎた。板丸は慌てて附いて来て、
「やってみたら、よかったのに。公衆便所に入れば誰からも見られないでしょ。」
と話すと丹廷臣は、
「売春婦と行為するのに気が引けるんです。ただ、それだけの理由なんですよ。」
と弁解した。
 巨大なスロットマシンが設置されている。数字が回る部分も巨大なパネルなのだが、それは数字ではなく全裸のヘアヌードの女性が一人ずつ、横並びに三人並んでいた。三人とも違うので、三つのパネルのヘアヌード女性の等身大の写真を一人のヘアヌードに揃えれば、いいというゲーム機らしいのだ。丹廷臣は立ち止まると、
「これは面白そうだ。私より背の高い女性が等身大の写真で並んでいるのですからね。やってみる価値のあるゲームでしょう。」
と板丸に話すとゲーム機の前の椅子に座った。
丹廷臣は支払いの出来るパネルを見ると現金、クレジットカード、仮想通貨でも支払いが出来る。ようし、それならと丹廷臣は、
「ビットコインで払ってみます。」
と話すとスマートフォンを取り出し送金した。パネルからビットコインを送るより簡単な決済方法だ。プレイする料金は高価な値段だが、パネルは大きいし、それを回すのには電気代も掛かるので妥当なものであるのだろう。
丹廷臣は巨大なスロットマシンとも言えるゲーム機を開始させた。