SF小説・未来の出来事26 試し読み

そこで水馬社長は聞いてみたのだ、カリスマンに。
「阿片と言うものは中毒性や何か人体によくないから世界各国で禁止されているようですが。」
「ああ、その事かい。いずれ問題になるような事は我々は最初からしないよ。その辺は安心していてくれて、いい。」
カリスマンは念を押すような顔をすると、
「せっかくだから外に出てパキナ星を見ていこうよ、水馬君。君とは永続的なビジネスパートナーシップを組みたい。パキナ星は地球の二分の一の大きさで、我々人類の他は植物だけ、とさっき話したね。それを見に行くのは植物園が、いいだろう。」
「それは是非、見せてください。地球の植物とは違うものが多いんでしょうね。」
と水馬宇摩士は関心を目に示す。
「それは違うよ。徹底的に違うものもある。自動車で行こうか。」

 オープンカーに乗ってカリスマンと水馬宇摩士は車道に出た。車輪が無くて地上より浮上し、前進する。それも半重力による推進だそうだ。だから!車道とはいっても地球のようにアスファルト舗装など、されていない。タイヤを必要としないせいだろう。水馬宇摩士は助手席で風を感じつつ、
「これでは車両税なんて要らないですね。路面も傷まないし。」
ハンドルを握っていなくて自動運転させているカリスマンは、
「ハハハ。この星には税金が、そもそも存在しないよ。」
と軽く答えた。水馬宇摩士は不思議そうに、
「では政府は、どうやって運営されるんですかねえ。」
「それがねえ、後払いになっているんだよ。」
「後払い?ですか、一体、それは・・・。」
「うん、政府は一年単位で行政を行なう。それで住民の満足度によって税金を納める額は国民で決めるのさ。」
「それでは税金を払わない人も、いるんでは?」
「いや、いないよ。税金を払わないと水道を止められる。水道代は税金の中に入っているから。」
屋根のない車の助手席での眺めは、郊外から街中に入ったらしい。建物の窓はカリスマンの家の部屋の窓のように上下の高さの幅が狭い。その代り、というか道路を走る車はオープンカーが多いようだ。地球と似た星だが植物が多いせいか酸素が多いらしい。自動車も化石燃料を燃やして走る原始的な車ではないため、二酸化炭素も出るわけがない。車道も歩道も同じような空気だ。
外に出た時は暑く感じた水馬宇摩士もオープンカーの助手席では涼しく感じる。吹いてくる風だけのせいではないようだが?水馬は、
「涼しいですね。エアコンもないのに。」
「うん、後部座席と前の座席を透明な壁で覆ったのさ。それで直射日光を、さえぎっている。ぼくらの頭の上に、その透明の防護シートみたいなものが出ているよ。それで雨が降っても上からは降らない。雨の場合には目の前まで透明な防護シートを降ろすから雨に濡れることはない。オープンカーには標準装備されているよ、この透明な防護シートはね。」
との事だった。
 飛ぶように走る、形容詞ではなく、そんな車だ。地球では考えられない車に水馬宇摩士は乗っているのだ。
 動物のいない星だから動物園はなく、植物園はあるというけれど、一般的には興味を持たれないのではないか、と水馬宇摩士は考えていた。それが植物園の前の駐車場にカリスマンの車が停まり、歩いて二分の場所に植物園の入り口があったが少し行列が出来ていた。入場料はカリスマンが水馬社長の分も払ってくれた。植物園の中に来ている人たちの肌の色は地球で言えば黄色人種のものが多い。カリスマンは室内に籠っていることが多いため、日焼けしないのだろう。パキナ星のあちこちに見られるような植物を植物園に置いていても入場料を払う価値はない。
 入り口を入ると屋根のない場所で、なんと!そこには見上げても見上げきれない高さの樹木が天を目指すかのように地に根を生やしていたのだ!高層建築物のような樹木である。表示板にはパキナ星の言語で説明しているため、水馬宇摩士には分からなかった。カリスマンは日本語で、
「この木は高さ1500メートルは、あるよ。」
と云う。地球の日本の山でも1500メートルは高い山だろう。パキナ星の植物の生命力には驚かされてしまう。カリスマンは続けて、
「この木の樹齢は千年に、なるらしい。」
パキナ星の人の寿命は五百歳らしい。水馬宇摩士にとっては晴天の驟雨だった。それから屋根付きの部屋に入っていくが、天井の高い植物園だ。
直径10メートルのスイカのようなものが展示されている。高さも十メートルは、ある。水馬社長は、それを見て、
「西瓜の和菓子が何人分作れるか分かりませんね、カリスマンさん。」
と右横のカリスマンに話す。ゆったりとした表情でカリスマンは、
「あの果物は、この植物園でだけ栽培しているんだ。いずれ市場に出るが、価格はね、普通のあれ、地球の名称は西瓜、と同じ値段だ。これを見るためにパキナ星の、あらゆる場所から見物に来るよ。
ぼくらパキナ星人が富裕なのも実は、ここにある。食べ物に不自由しないのさ。働かなくても生きていける。」
「本当ですか、夢みたいですね。」
「政府で生活費を支給してくれる。でも、それより働いた方が収入はいいから遊んでいる人間はパキナ星には、いないよ。所得税は払わなくて、いいし。」
「うわーを。それでは天国ですよ、ここは。」
「地球は地獄に近いだろ?太陽の恵みが乏しいから、それで地球には貧困が生まれるのさ。庶民から税金を取らないと政府が成り立たないものね。地球のどこででもなく確か産油国の何処かも無税だったんじゃないかな、地球の。」
「産油国は太陽の恵みが、あるんですねー。日本は石油は出ないし。」
「そうだ、だから働いて金を稼ぐしか、ない。」
小さな石油の貯蔵タンクのようにも見える緑色の巨大な果実。飽きずに眺めていたい水馬宇摩士だったが、ふと、聞いてみたいのが、
「もしかしてパキナ星の人には癌はないのでは、と思いまして。」
「ああ、いい質問だ。癌に限らずパキナ星人には病気が起こらない。千歳、いや二千歳まで生きられるのが普通だ。」
「それでは老人になって生き続けるという人生ですか。」
「いや違う。老化は死ぬ五十年前から始まる。千歳で死ぬ人もいる。」
その話に感銘を受けた水馬社長は口を閉ざした。カリスマンは歩き始めたので水馬宇摩士も随行する。
 高さ四メートルの樹木が向かい合うかのように立っている。その樹木の半分の高さ、二メートルほどの地点に一方の樹木に人間の陰茎のようなものが二十センチほどの長さで垂れ下がっていた。
もう一方の樹木の半分の高さには人間の女性の陰部に相当する割れた部分があったのだ。
だが何気なく見たのでは気づかないし、水馬宇摩士も通り過ぎようとしたのだが、カリスマンが立ち止まったので水馬も急停止して、
「カリスマンさん、どうしました?」
「あ、ああ。あの一対の樹木なんだが、夫婦木と言われているんだよ。」
「夫婦木?ですって?何でしょう、それ。」
「フウフキ、では分からないだろうね、メオトギ。と言えばいいかな。」
「めおとぎ、ですか。目を研ぐんですか?あの木に目があるんですかねえ。目を、どうやって研ぐんでしょう。」
「研磨ではないんだよ。カップルだ、男女のね、これで分かるだろう。」
「ああ夫と妻、ハズバンドとワイフですね。(水馬は目を凝らして二つの木を見ると)ああ、すごいなあ。あれは人間の男女の性器に似ていますねえ。でも、それだけでしょ?」
「いいや、違う。おい、始まるよ。」
と楽しそうに声を上げるカリスマン。
男性の陰茎のような垂れ下がったものを露出している樹木のそれが、まるで人間の男性の性器のように太くなり勃起するかのように屹立したのだ。その先端は亀頭のような形状をしているが、それは伸びに伸びて一方の向かい合わせて立っているような真ん中に女性の陰部の形状を持つ樹木の、その部分に伸びていく。すると!
その樹木の陰茎に呼応したかのように女性の陰部に似ている、その部分は少し開いたようだ。それに、そこが樹液で濡れたようになる。
男の樹木ともいえる、その陰茎に似た部分は女の樹木らしい、その陰部の穴に突入したのだ!
その瞬間、女の樹木は全身を震わせるような動きを見せた。上部にある枝葉を震わせて、それは快感を顕わしているような女性の樹木の姿だ。男の樹木の男性器は女の樹木の性器の中に出没、出る、入るを繰り返す。まるで向かい合わせて立った男女の性交のような動きだ。
来園者は少ないし、大人しかいない。木が交合するなとどは水馬宇摩士には考えたこともない現象だ。しかも、よく雌の樹木を見ると腰の辺りが横に広がって人間の女性のようなのだ。それにしても立っている樹木とは思えない程、柔軟な腰の動きを見せる夫婦木だ。男の樹木の性器のような部分は幹の方向に対して直角の角度で隆起している。やがて男木は腰を激しく連続して振り続けると、その動きを止めた。どうも人間で言えば射精したらしい。水馬は、
「果てましたね。ああいう樹木は精液のような樹液を放出するのですか。」
カリスマンは苦笑いすると、
「いや、大量の花粉を放出するんだ。その点は植物だね。女の木には、あの穴の中に雌しべが、あるんだよ。それで種子が結実したら、あの陰部が開いて夫婦木の種子がバラまかれる。この星で進化した植物として大昔より研究されてきた夫婦木だ。まるで人間のようだし、それに彼らの交わりは地球の動物のような春と秋ではない、一年中だ。神様が作ったような樹木だね。」
「そうですね、あっ!」
雌の木の股間に相当する部分の穴から雄の木の長く硬いものが柔らかく平常時の寸法に戻り、引き抜かれると以前のように男の木の股間にダラリと垂れ下がった。その亀頭に相当する部分には発射した花粉が大量に残っていた。
カリスマンは微笑むと、
「地球にはない植物は沢山、ある。あの若い美人の女性展示員に頼めば面白い事をしてくれるよ。」
と水馬に話すと、夫婦木から五メートルも離れて立っている赤い上着と赤色のスカートを履いて白いベレー帽をかぶって係員のように立っている美人にカリスマンは近づいた。カリスマンに気づいた女性展示員にパキナ星語で何かを話すカリスマン、彼女は少し頬を赤らめると、うなずき、夫婦木に近づいていった。男の木に接近すると彼女はダラリと下がっている陰茎のような部分を白い柔らかな右手で握った。すると!男の木のソレは固くなり、上に陰茎を向け始めたのだ!そして勃起角度は直角ではなく、自分の幹に近づくほど、そそり立った。美人展示員が握った手を巧みに動かして、男の木の陰茎部分を愛撫するように擦(こす)ると、二分で大量の花粉を放出した。それからダラリと垂れ下がる男の木の股間のモノだ。
展示員はパキナ星語で何かを説明した。カリスマンは、
「人間の若い女性の手で握られて、こすられて花粉を出すと男の木は次の日まで花粉を出したり勃起しないそうだよ。彼女は、この星の高等植物研究所の所員で、今は体験的に、ここで働いている。」
水馬は、その神秘的な瞳の若い美人と目が合ったので黙礼すると、彼女も少し金髪の頭を下げた。目は灰色がかった黒色の瞳の睫毛の長い美女で胸も勢いよく張り出している。
 彼女は地球人の水馬を見ても珍しい顔を見るような目をしなかった。その地点からカリスマンと水馬は先に進んで行った。パキナ星は、その星の太陽に、地球と地球の太陽との距離より短いという。その影響の成果として進化した(?)植物が生まれるのかもしれない。
 植物が展示されていない広い場所は円形のソファが、いくつもの場所にある休憩所のような所らしい。カリスマンは無人のソファに腰かけると、
「水馬君、座ってくれ。」
と話しかける。水馬宇摩士が言われた通りにカリスマンの横に座るとカリスマンは、
「こういう植物園にも展示できない危険な植物も、この星、パキナ星には、ある。吸血植物などが、そうだ。」
「吸血植物?ですか。信じられない植物ですね。」
「ああ。地球には、ないだろうからね。この星にも動物が誕生した時期は、あったらしい。四つ足の動物は化石として出土する地域もある。だが・・・。」
「どうなったんでしょうか、その動物たちは。絶滅?したんですか。」
「うん、絶滅している。それは吸血植物のカーキュラに、やられてしまったらしい。近くで寝ている動物に自分の蔓を巻き付けて、その動物の血を吸うのだ。しかも動物の首に蔓が巻き付けられて、まず、それで動物は窒息死するし、ほとんどの血を吸い取られてしまう。抵抗する暇もないまま、この星の動物は死んでいった。」
水馬は茫然として、
「そんな危険な植物は駆除されたんでしょう?この星では。」
カリスマンは首を横に振ると、
「それがね、駆除しきれていないんだよ。地球のライオンやトラでも絶滅させては、いないだろう?」
「ええ、そうですね。そういえば、そうです。」
「吸血植物カーキュラを絶滅させると、この星の生態系に良くない影響を与えると考えられている。野生の植物だし、動物みたいに移動するわけでは、ないからね。パキナ星の小学校で吸血植物カーキュラを危険なものとして図入りで教えているから、人が行かない野原に行ってもパキナ星の人間ならカーキュラを、すぐに分かるんだ。」
「教育されているほど危険な植物なんですね、カーキュラは。」
「そうだなー。だから、この星も行きたいところなら何処でも行けるわけではないんだ。ごく稀にではあるけれど幼児がカーキュラに殺されているという事も数年に一度は起こっている。その場合は、もしかしたら親が自分の子供をカーキュラのそばに置くというのも考えられるから、とはいえ、この星には警察が無いんだよ。」
「警察がないなら犯罪天国ではないですか。」
「それが犯罪なんて殆ど起こらない星だから警察はない。裁判所は、あるよ。検察庁もあるし弁護士もいる。ただ警察は、ないね。」
「それなら平和な星ですね。」
「そうだね、一つの国しかないし。それに一つの大陸しかないから過去に戦争をした事もないよ。」
「どういう大陸なんでしょうか、この星の大陸は。」
「ああ。この星も地球と似た球体なんだけれど、地球で言えば北極のあたりに広い大陸がある。その他は全て海だよ。」
「それでは魚とかは?いるんですか。」
「そうだ、魚類は動物では、ないからね。海産物は豊富すぎるよ。この星の人口は十億人程度。余った海産物は植物の、特に野菜の肥料にしている。それに魚介類も大きくてね。体長が一メートルの海老が一番小さなエビだ、というエビデンスがある。五メートルや十メートルの海老も採れる。地球の海老とは少し違うが、よく似ているし、おいしいよ。だから食べ物の値段は安いんだよ。
地球の経済格差の元は貧困な食料にあると思う。少ないから値段が上がる。宝石も、そうなんだけどね。鰻でも地球のウナギは数が少ないから、高価になるけどパキナ星のウナギは多い上に体長が五メートルはあるから、こちらの鰻丼はコメよりもウナギの方を分厚く載せているよ。地球の日本で鰻丼は、その逆と思うよ、ぼくはね。」
「その通りで、ございますよ、カリスマンさん。でもカリスマン様とは中国で、お会いしましたが。」
「ああ、そうだったね。中国のウナギ料理には、しゃぶしゃぶ、もあったな。日本では、うなぎの、しゃぶしゃぶ、は皆無だろうよ。」
「そうですな。私も知りません。それを日本で、やれば・・・。」
「成功しないだろう。君は中国に和菓子を出すのが望みなんだろ?

「ええ、ええ。左様で御座います、カリスマン様。秘密の成分を、よろしく御指導のほどを。」
「ああ。分かっているともさ。それはタダって訳には、いかない。しかしだ。地球の貨幣を貰っても仕方がない。金貨とかなら若干の価値は、あるけどパキナ星の金の埋蔵量は地球の十万倍は、あるし人口は地球の何十分の一だろう。金(かね)の価値は、それほどないし銀や銅も同じだね。それより創造的なものに価値があるからね、この星は。」
「はあ。わたくしどもの和菓子も創造的といえば創造的ですが。」
「いや、それも自然にあるものを加工しただけだからね。真に創造とはいえない。地球という星は大宇宙を作られた神様からすれば、恵の少ない星なんだよ。地球では金、すなわちゴールドが価値が高いのも埋蔵量が少ないからだ。キリストが何と叫ぼうと大宇宙を創造された創造主は地球を恵の少ないものとして作られた。我々の星、パキナ星は創造主の恵みは、もっとある。地球は寧ろ、ユダヤ人が信奉する宗教のようなものが生きるのに、ふさわしい。
すなわち、だね。物質の方が価値が高いのだよね。古い地球の世界では人が住める星は自分たちのいる所だけ、という発想だった。天動説だった。後は天国や地獄を考えた。神様は地球だけを、つまり人間が住める星として、作られたと考えたのだ。
なんという狭い発想だろうか。キリスト教は、その狭い発想の範囲内にあるのだ。大宇宙はキリストが考えたよりも遥かに、遥かに広大だ。我々の星にはキリスト教も仏教もない。地球の宗教は何もない。パキナ星は海には魚が多すぎて漁師は何時でも楽に大漁になる。雨の少ない年もないので米や小麦粉、その他の野菜が不足する事もない。野菜は例年、余っている。金(きん)が楽に取れる砂漠もある。金が豊富すぎると値段が高くならない。
ダイヤモンド。これもパキナ星には地球のガラス玉と同じくらい、ある。ルビー、サファイヤ、エメラルド、なども大量に採掘出来る星なので、それらの地球の宝石は、この星では珍しくないのだ。
では、われわれパキナ星人にとって珍しいものは、なにか。他の惑星の人間、地球人もそうだが、それも左程、珍しいものではなくなった。さっきの美人展示員が君を見ても平然としていたのを見たね。
 そういう訳で君、水馬宇摩士・君には或る所に行き、或る人に会って或る事をしてもらう。そうすれば対価が得られるので、それを私への謝礼にしてもらいたい。」
というカリスマンの話だ。
水馬宇摩士には良く分からなかったが、
「はい、そうします。それで御役に立てれば、と思います。」
と答えておいた。
カリスマンは立ち上がると、
「植物園は残りもあるけど、外に出よう。出口も入り口の近くだから。」
二人は最短の道で植物園を出た。車輪のない車でカリスマンが向かったのは企業のビルが立ち並んだようなオフィス街のような場所。
日本のオフィス街との違いはパキナ星の企業ビルには、それぞれ広い駐車場があり、そこには車輪のない車が停車している。地上に停車できない場合は地下にも駐車場がある。
カリスマンが停車させた駐車場の企業ビルは三階建てで、ガラス張りの入り口を入ると受付嬢が赤いベレー帽をかぶって受付の場所に座っていた。カリスマンは彼女の方に歩いていくと水馬も後を追った。パキナ星の言葉で話すカリスマンに対して受付嬢もパキナ星語で答える。彼女の肌の色は地球の白人より白い。氷のような肌の色だ。透明ではない氷の部分の白というべきだ。
カリスマンは後ろを振り向くと、
「最上階だ、エレベーターで昇ろう。」
エレベーターも反重力で動いているのか、瞬間的な移動だった。エレベーターを降りるとカリスマンは目の前にある部屋のドアへ行き、立ち止まった。そのドアの上部は広いパネルのような部分で、そこに何と部屋の中にいるらしい金髪で三十代らしき女性の顔が映った。その女性にはカリスマンが見えたようだ。ドアは右に移動して開いた。二人が入ると、その女性は近づいてきて、
「お待ちしていましたわ。カリスマンさん、と地球の方。ミズウマさんね?どうぞ、よろしく。」
地球の北欧の女性をさらに色白にしたような事務服を着たパキナ星の女性は右手を水馬に差し出した。握手をして感じられたのは暖かな手だ、という感触を水馬は感じた。ドアに自分の顔を映すのはパキナ星の独特の習慣だろうか。色々と不思議な思いの水馬の顔を見て、その女性は、
「アヌンと言います、私。日本に住んでいたこともあって、日本語は得意です。スウェーデン人という事でパスポートも持っていたし、コンビニでバイトをした事も、あります。地球に降りる前に日焼け機械で肌を焼いてから日本に降りたので、異星人には見られませんでした。東京に行って或る業界で仕事をしていましたけど、今は、それは言わない事にします。まずは先に水馬さんの和菓子が中国で成功してからの話です。成功しますよ、あなたは。水馬さん、又、会いましょう。」

SF小説・未来の出来事25 試し読み

 徐福目が立っている部屋の中は背の高い本棚が左右の壁に並び、ドアから入ると真ん前に見える壁は大きな窓ガラスが庭の緑を見れるようにしている。庭が、とても広い。それを囲む壁も高く、壁の近くは樹木が建ち並んでいるのが兄目美瑠男の目に映った。
 中国語講師の徐福目の部屋らしい本で埋まった部屋だが何故か中央に応接のための横長のソファがガラスのテーブルを挟んで二つある。そのソファに徐福目は座ると、
「兄目さん、わたしの前に座ってね。」
と声を掛けた。兄目美瑠男は両足を少し動かし続けて、そのソファに腰かけ心地よさを感じた。その感想を、
「いい座り心地ですよ、徐さん。」
と笑顔で話した兄目美瑠男に徐福目は右手で何かを取り上げたのだ。なんと、それは拳銃だった!!
彼女は拳銃の筒先を兄目美瑠男の喉のあたりに向けて、
「気分は、どうですか?兄目さん。」
と、しかし真面目な顔で訊く。兄目美瑠男の額に冷や汗がツーっと流れると、
「どういう意味でしょう。冗談では、ないように見えます。でも、その拳銃は本物ですか?」
「本物ですよ。92式手槍QSZ-92-10です。私たちしか持てないものです現在ね。」
兄目はブルっと震えを感じた。
「もしかして僕を殺そうとしているのですか?」
「そうかもね。でも気分次第だから、分からないわ。」
「なぜ?ぼくを・・・・狙うのですか。」
拳銃を構えた徐福目の左目がキラリと光ると、
「あなたの、お兄さんが私の姉を、もてあそんで捨てたからかな?」
「そ、それは僕には兄はいますし、商社勤めで中国にも行っています。でも兄とは親しくないし、何年も電話さえしていないんだ。そんな理由で・・・銃を向けられるなんて・・。」
徐福目は右手で構えた拳銃を膝の上に降ろすと、
「それなら撃てないかな、貴方を。」
兄目の兄が原因だったとは・・・。美瑠男は、
「最初から僕を調べた上で・・・僕のラーメン店に来たのか・・・。」
「それは勿論よ。そうでなければ貴方のラーメンの店に来ていなかったかもね。結構、遠いでしょ?ここから、あのラーメンの店は。」
「ううむ、そうだね。でもラーメンを食べ歩きしている人もいる。僕も、そうだけど・・・。」
「あなたの兄さんも、そうなのよ。中国でラーメンを食べ歩いていたらしく、わたしの姉が働いているラーメン店に何度も来ては姉に声を掛けた。真剣な交際だと思った姉は数度のデートの後、ホテルで体を貴方の兄さんに捧げたのよ。それから二人は三十回はホテルで体を重ね続けた。その後の或る日、突然、貴方の兄さんは私の姉の前から姿を見えなくしてしまった。湖南省から、いなくなったの。調べようが、なかった姉は自殺してしまったのね。わたしが調べていくうちに貴方の兄さんは別の中国人女性と結婚した事が分かった。貴方の兄さんを憎んでも、相手の女性は私と同じ中国人女性。その女性を悲しませたくは、ない。その代り貴方、兄目美瑠男さん、あなたが死ねば姉も満足すると思う。」
「そ、そんな勝手な三段論法か演繹法か何かは僕には迷惑じゃないか。なぜ僕は死ななければ、ならないんだ。」
「貴方は兄さんと親しくは、ないのね。兄目槍蔵(やりぞう)と。」
「それは、さっき話しただろ。兄さんが中国で結婚していたのも知らなかった・・・。」
徐福目はフッ、と息を吐くと拳銃をソファに置き、
「それなら、やれないわね。実は本当は貴方の事を段々と好きになっていたのよ。それでも姉の敵討ちだという事は忘れられないから。それで貴方と貴方の兄さんとの関係を調べようと思って、ここまで誘ったのよ。」
兄目美瑠男はホッとした顔で、
「それなら、もう要件は終わったんだろ?帰っても、いいかなー。」
「いえ、まだ終わった事ではないの。貴方を連れていきたい場所が、あるから。」
それを聞いた兄目美瑠男は再び背筋にドライアイスを載せられた気がして、
「どこに行けば、いいのかな。そんな場所が、あるとはね。」
冷たく光っていた徐福目の目は優しさを帯びた元のまなざしに代わると、
「そこへ行く前にチョット、わたしの日本についての考えなんか話すわ。それと、あの拳銃には弾丸は入っていないの、実弾は実装されていないわけ。」
それを聞いた兄目は平常心に帰り、
「それなら単なる脅しだったわけだ。」
「いいえ、脅しじゃないわ。実は拳銃にはウイルスカプセルを装填できるの。コロナウイルスとかも、ね。」
再び兄目美瑠男は恐怖を覚えた。
「そ、それなら細菌兵器だ。でも、見かけは、その拳銃は・・・。」
徐福目は、ふ、と息を吐くと、
「警察が調べても、おもちゃの拳銃でしかないから銃の不法所持には、ならないわ。でもウイルスカプセルは十分な衝撃力で撃てる。人体に当たっても危険のないカプセル。でも、そのカプセルが割れると中からウイルスが飛び出すのよ。」
兄目美瑠男は恐れ入った、という顔をした。だが聞いてみる兄目、
「ウイルスなんて何処に保管しているのかな。」
「それは、この屋敷の中にある部屋で細菌を培養、保存が出来るから。ウイルスを氷点下で凍結しておけば人間の冷凍保存と同じように、いつでも蘇生できるの。」
「君は中国語講師にしては、そんな事まで関与している・・・。」
徐福目は豊満な胸を張ると、
「個人で、そんな事は出来ないわよ。それに、この家は私の祖父のもので祖父は先月、死んだわ。父は中国にいる。さっきの話は冗談よ。わたしに姉は、いないもの。昔の中国人らしく一人っ子だから。」
そうだ、そうだった一人っ子政策、と兄目は納得する。だが自分には本当に兄はいるし、音信不通といってもいい。仲が悪いというより兄は仕事熱心すぎてラーメン屋の弟には電話でさえ話をしないのだ。では、あれは・・・と兄目は、
「それなら、さっきのあれは演技だったのか。」
「そうね、貴方の反応を見てみたかったのよ。きっと驚くだろうと思ってね。」
「それでは日本人が憎い、という事もないわけだ。」
「そういう事よ。日本人が憎くて日本に来るわけないじゃない。」
それならウイルスカプセルも・・・。兄目は、
「ウイルスカプセルなんてのも冗談だ、ね?」
徐福目は軽くホ、ホ、と笑い、
「好きに考えてね。祖父は細菌学者だった。その前の私の先祖が旧日本軍の731部隊で実験に使われたことが、あったらしいわ。」
「731部隊・・・。」
「もう忘れられた事かも知れない。でも、それは日本で忘れられた存在で、わたしの祖父は731部隊の影響で細菌研究に一生を捧げたのよ。たった一人の孫娘の私は祖父に、とても寵愛された。だから私は幼い頃から色んなウイルスを・・・、その話は今は中断して私は日本の文化論を貴方に展開したいと思う。その前に飲茶(ヤムチャ)に、しましょう。」
と徐福目は話すとテーブルの上にある拳銃を手にした。あ、やはりオレを殺すつもりだ!と兄目美瑠男は即断即決してしまった。が徐福目は、その拳銃を耳に当てると「小小(シャンシャン)、ウチの定番飲茶を二人前、私の部屋にね。お客さんだから。」
と通話する。
話し終わると拳銃の何処かにある通話切断の箇所を押して通話を切った、そして拳銃を又、テーブルに置き、
「すぐ持ってくるわ。近い部屋で作らせているから。」
と温かみのある声で話した。
拳銃はスマートフォンにもなるらしい。兄目美瑠男は好奇心で、
「そのピストルはインターネットの動画も見れるのかな?」
と尋ねると徐福目は、
「もちろん見れるわよ。銃把の部分でね。スライド式に銃把のその部分を外せばいいだけ。そこに画面が現れるから。」
その拳銃の携帯電話が鳴る。徐福目は拳銃を取ると耳に当て、
「あ、小小(シャンシャン)、ドアを開けてお入り。」
ドアが開いた。ホテルの部屋に届けるような台車の上には飲茶が載せられていた。それを押してきたのは小学校高学年の男子の身長の男だった。小人の男、小小。
小小は二人前の飲茶をテーブルの上に並べた。小小は黒のチョッキに白いズボンの制服のようなものを着て、頭は耳の辺りを刈り上げた短髪の姿で懸命に働いた。飲茶を並べ終えた小小は気を付けの姿勢をして頭を下げると部屋を出ていく。
ドアが閉まってから兄目美瑠男は、
「あの人は成人なんでしょう?今来た給仕の人は。」
と烏龍茶のいい匂いを鼻で嗅ぎながら訪ねると徐福目は茶碗を取り上げて、
「そうですよ。四十歳かな、あの小人は。うん、おいしいな。小小はウチの料理人です。さあ飲茶を召し上がれ。」
ウーロン茶の他には餃子、焼き小籠包、焼売(シュウマイ)、胡麻団子、焼きリンゴなどが兄目美瑠男の口の中に入るべく待ち望んでいるようだ。
ラーメン店を出している男、兄目美瑠男の味覚は舌太鼓を連打したので、「いやあ、こういう飲茶は初めて食べました。とても、おいしい、ネット通販に出せば大嵐が吹くように売れますよ。」
と舌太鼓判を押す。徐福目は餃子を食べつつ、
「経済的に困っていないから、ネットで商売する必要は今のところ、ないわ。わたしの日本文学論、それは日本の明治の文学は江戸時代より貧相なもの、というものよ。兄目さんはアニメが好きなので退屈かしら?」
「いえ、どうぞ。是が非でも非が是でも、拝聴しますから。」
「そう?それでは飲茶を食べながらでいいので聞いてね。」
「はい、おいしい、食べます、聞きます、どうぞ続けて。」
「明治時代は文語体から口語体への文学の移行期だった。でも彼らの文学作品は大したものではなかった。それを長く日本の学校教育の国語の狂果書、教えるではない狂った成果の本に載せて只でさえ文盲の多い日本人を奈落の底へ落したのよ。ソーセキ、ダトカ、オーガイ、トイウ奴ラノ詰マラナイ作品ヲ立派ナモノニ、シタテタ。ソレデ日本人(リーベンレン)ハ、オモシロクナイモノヲ文学ダト思ウヨウニナッタ。森鴎外や幸田露伴も江戸時代の馬琴の「里見八犬伝」を激賞しています。つまり日本が軍事大国化していくのと反比例して文化は貧弱になったけども口語化や西洋画へ移ったので目新しく見えただけ。絵画も浮世絵の方が評価が高い。
つまり明治の日本の文学なんて漢字が多いだけで中身は取るに足らないものばかり。漢字なら私たち中国人の本は全て漢字だけ。幸田露伴も中国信者なのよ。彼の造詣は中国の本からが殆ど。
漢字に弱い日本人は操りやすいし、金の亡者の自民党も簡単に操作できたけど今の日本は共和党になって金で動かせなくなった感はあるわね。それと本を読まなくなった日本人は漢字を知らなくても平然としているし。日本のマスメディアというのは中国で簡単に操れる。だ、か、ら。アニメも中国は目を付けているのよ。」
徐福目の目は不気味な光を放っている。兄目美瑠男は、しかし酔いが全身に少し回るのを感じた。それでも言ってみたいことは、
「もしかして徐さんは中国の工作員か何かですか。」
「そうではないけど知り合いに、その方面の友人がいるから教えてもらう事はある。日本人なんて殆ど馬鹿ばかりに近くなってきているから、中国で操るのは簡単になりつつあるのよ。お笑い、これは馬鹿が見るものなのよ。それを見る奴らに日本の企業は投資している訳。この馬鹿日本企業を中国で操るのは簡単なのね。
中国では、お笑いなんて全然、はやらない。成長する国家が笑われるのかしら、豊かになっていく国民は可笑しくはないわけでしょう。でも日本は世界の笑われ者なのよ。だからバカ企業も笑われても商品を売りたいって事にまで、なっている。もう自衛隊が、どうであれ日本なんて簡単に沈没させられる。それは日本の陸地ではない形容詞的表現としての沈没の事。
もともと日本のテレビ局は日本の新聞社が出資した形で出来たもの。その日本の新聞には赤が多かったから、わたしたちが操るのは簡単。日本人は、お笑いでも、やっていなさいと命じれば、はい、やりますって我々のいう事を聞いたのよ。日本の大学、防衛大学を除けば、これも赤だらけだから毛主席に勧められて全て赤になる、貧乏大好き人間を日本で大学で教育していった。財務省の人間も全て東大を出た赤。税金を取りまくり国民を貧乏にして国家を強大にする、これは共産主義の考えだけど原始共産主義で、わたしたちの国では、もうそんな事は開放政策でやめてしまっているから中国は頑張る国民は豊かになれる。相続税も取らないの、中国は。日本は、どうですか?豊かな家の財産は相続税で巻き上げる。もっとも、日本のそのやり方は明治の西郷隆盛の「子孫に美田を残さず」という下級士族の思想が反映されているのかもしれないわ。
日本こそ共産主義なのよ、それも原始共産主義の。わたしたたちは修正共産主義だから日本を操れるんです。原始人をね、思想の原始人で国家のお金を預かる連中が日本では、その原始思想だからねー。
中国とアメリカは消費税を取らない、だから国家は逆に強大になっていくんです。その我々のチャイナマネーが欲しくてたまらない日本。それは可笑しくて笑えるんだわ。だって共産主義、正確に言えば修正共産主義の国のお金を資本主義、建前だけは資本主義、けれども官僚というか財務省が原始共産思想の国が欲しがる。インバウンド、中国さん来てくださーい、あなたがたのお金を待っています、ホテル、旅館、ソープもありますよーって呼んでくれ続けた。そんな国自体が、お笑いなのよ。
だから日本のテレビは必然的に、お笑い抜きでは存在できなくなり、われわれの足の下に踏みにじられても、我々の靴の底を喜んで舐めるようになるバカ国家日本なのよ、と知りなさい兄目さん。」
「そ、それならGHQが弱体化したのではない、と。」
「よく知っているわね、ラーメン屋にしては。GHQの財務方面、昔の日本の大蔵省を指導したのが崩壊して消えたソ連だった。その計画経済を死守しているのが日本の財務省。アメリカとかは関係ありません。日本は世界一の共産国家、一億総中流なんて昔に言っていたのは、まさにそれ。今は一億総貧乏、われわれは十三億総富裕の国家になるのよ。日本は大昔、武力で我が国を完全制圧寸前にまで出来たけど、今からは経済で日本を完全制圧するところまで行けると思う。兄目さん、中国にラーメン店を開きたいんだったわよね、わたし明日からでも動くから、そのために。」
「大学の方は、いいんですか?」
「コロナ再燃で、しばらく閉校だから。それでも給料はもらえる、九州大学、国立だからね。」
「それでは、御願いします。」と言うと、兄目美瑠男は両手を座っている両膝に置くと頭を下げた。
「頭を下げなくても、いいわよ。わたしの名義を使うし、経営者は私だから。」
「そうですねーえ、けれども徐さんなしではできない中国での会社設立です。」
「クイーンエリザベス号に乗った気持ちで、いたら、いいわ。」
「はい、そのつもりで、おります。徐福目様。」
「そんなに下に出なくても、いいのよ。わたしは女王様では、ないんだから。飲茶を食べ終わったら連れて行くところがあるから。」
「へ?そうなんですか。楽しみですねー。」
「お笑いが、はやる国は亡国への段階にあるわ。イギリスでチャップリンが流行った頃に大英帝国は多くの領土を失っていった。日本も似たようになる、経済で勃興した日本も、それを失っていく・・・。わたしたちの国が覇権を握れるのよ。中国もアメリカも、お笑いというのは流行らないから。それは二つの超大国の象徴だわ。
 われわれの国は経済で日本を制圧できる。白物家電は、その第一歩。松・・・なんとかいう家電メーカーは積極的に大昔に支援してくれた。低学歴で運が良かっただけの人物が社長の時だったから、すべて中国は漁夫の利を得られるのよ。それに、その人物は論語が好きだったそうだし。孔子という中国遺産でも日本人は、どうにでも出来る程度の低い奴らは多いのね。
ま、わたしは日本人を心配してやる必要はないのだけど、兄目さんが日本人だし、それで少し喋りすぎたのかな。食べ終わったわね、兄目さん。餃子、もっと食べてもいいわよ。」
「いえ、もう満腹です。」
「それなら今から庭に行きましょう。ね?」

 徐福目の外観は古い民家の庭は広い。南の方を向けば田園風景に連山が、それから先の視界を遮(さえぎ)っている。
縁側から降りると言っても二人は土足で降りた。先に降りるのは徐福目だ。そこからも見えるのは掘っ立て小屋のような小さな建物で、徐福目はズボンのポケットからカギを出して、その小屋の戸を開けた。このドアは顔認証や指紋認証のない昔からある鍵で開ける方式のもの、兄目が入ると徐福目は中からカギを掛ける。そんなに重要なものが、おんぼろにも見える小屋の中にあるのだろうか。中は十畳ほどの広さで、床は板張りでも畳でもない土だったのだ。つまり庭の土と同じものが小屋の床にもある。その土の床面の中央部に床柱にしては横幅の広いものが立っている。それは、入り口らしいところから見るとエレベーターではないか。徐福目は兄目の目が奇妙な色を宿しているのを見て、
「地下に行くためのエレベーターよ。乗りましょう。」
と話すと、そのエレベーターの開くボタンを押す。何処のビルにもあるようなエレベーターの内部で地下は何と五階まである。そのBF5、地下五階でエレベーターは停まった。そして何と、そこは地下鉄の駅のような場所だったのだ。駅のような、ではなく一車両のみの電車が停止していた。やはり地下鉄の駅であろう。ただ、これは福岡市営地下鉄とは違うはずだ。
この辺りには、まだ福岡市営地下鉄は開通していない。このような設備を作るのには物凄い費用と人の手が必要なはずだ。もちろん、その人の手が動かす機械も、なければならない。駅舎らしいものが見えた。ホームに降りたために切符を買う必要は、ないはずだ。徐福目が駅舎に歩み寄るので兄目美瑠男も徐福目の影のように、駅舎についていく。
駅舎の中には退屈そうな老駅員が一人、椅子に座っていたが駅舎内のガラス窓から徐福目を見ると、
「お久しぶりです。徐様。すぐに発車させますよ。」
と富裕な令嬢の御機嫌を取るような話し方で老駅員は迎えた。徐福目は老駅員を真っすぐに見ると、
「ご苦労様。燃料の方は、まだ大丈夫だね?」
「ええ、フルスピード、急発進、なんでも耐えられます、地下鉄としてね。」
「いや、おまえの燃料の方だよ、大丈夫かい?」
「ええ、原子力は随分、持つものです。おかげで今年、百歳になります。」
「ここへ来て、三十年だね?」
「ええ、その頃にサイボーグに改良していただいて、ここの仕事まで戴いたのは御嬢様のおじいさまの、おかげです、はい、日本語もなんとか話せるようになりました。」
「お前は湖南省の出身だったね?」
「はい、観光地が多い場所での駅員でした。新型のウイルスで全身が壊疽だったのを、おじいさまに助けてもらいました。」
「そうだった。祖父は医師でも、ありました。もう他界しましたよ。」
「へい、ご冥福は、いつも、お祈りしています。いつもの場所で、よろしいのですね?車両の目的地は?」
「ああ、いつもの場所へ出しておくれ。」
「はい、かしこまりました。乗車されてください。」
丁寧な老駅員は実はサイボーグらしい。
 二人が乗車すると扉が閉まり、車両は発車した。一体、どこへ行くのか、それが兄目美瑠男には気になって仕方がない。右に座っている徐福目に、
「これから何処へいくんですか?なんだか、とても不安になります。」
窓の外を楽し気に見るともなく見ている徐福目は、
「歴史的な場所ですよ。だけど日本人は意外と知らない所だけど。兄目さんは行ったことのある場所。」
「ええっ、こんな地下鉄は何処に行くんですか?」
「上海まで行くかもしれないわ。」
「上海まで行けたら楽しいな。上海のラーメンを食べたいですよ。」
「ここから地下鉄で上海なんて現実的ではない。糸島の港に漁船を装った中国船が停泊しています。それに乗れば上海まで行くのは簡単です。」
「あ、そうか。そういう方法も、ありますね。では、今回は糸島の港まで?」

一粒万倍日 8月

 今日は8月の一粒万倍日の日です。試し読みから電子書籍の購入には、
とても、いい日になっています。

迷信と思えば迷信になり、迷信ではないと思えば迷信ではなくなるという
事も、あります。

全く根拠がない、としたら、その根拠は何処にありますか。

SF小説・未来の出来事24 我是日本人 試し読み

 福岡市東公園のベンチで寝ていた浮浪者は飛行機で香港に運ばれていた。香港の空港で楽団員の楽器の箱の中から係員に別の場所に浮浪者の入った箱は移動させられて空港の関係者だけが出入りする通用口から外に出された。そこへトラックが到着。浮浪者の入った箱は、そのトラックで空港から別の場所へと移動を始めたのだった。
 トラックは医療施設のような建物の敷地に入っていくと、その大きな箱はトラックから降ろされ、箱ごと建物の中に数人の医療施設の男たちが運び入れる。病院のような廊下を通って浮浪者の入った箱は一番奥の部屋に入れられた。中国語で「関係者以外立ち入り禁止」と大きくドアに表示されている。その広いドアが開かれると、大形の箱は広い部屋の中央に運ばれて停止した。箱の下部には小さな車輪が幾つも、つけられているので押せば楽に動く。その部屋には白い服を着た医者らしき人物と公務に従事しているような背広の男性が立って、その停止した箱を見ると医者は箱を運んできた男たちに中国語で、
「ありがとう。お疲れ様。今晩は君達専用の女を好きにしていい。金での報酬とは別に高級ホテルに用意しているからね。このホテルに、今晩、行くといい。」
と声を掛けると、それぞれの男にホテルの名刺のようなものを渡した。男たちは、それを受け取ると、
「謝射(ありがとう)、謝謝。」
と口々に礼を云うと部屋を出ていく。白衣の医者は大きな楽器の箱を開けた。中には青いビニールに包まれたものが転がっていた。医者は深々と、その青のビニールに顔を近づけると二か所、ビニールに丸い穴が開いている。大きな青のビニールは少し動いている。
 医者がビニールを破り広げると中には日本人の浮浪者らしき男、四十代か、が深く眠っている。中国の公務員風の男、四十代に見える人物も箱に近づき中を見て、
「ほ!これは上物だ。健康そうだし生きたまま臓器を摘出できますな、先生。」
と不気味な笑みを浮かべる。黒縁眼鏡を掛けた医者は、
「一応レントゲン検査や、その他の検査をした後で、この日本人が健康なのを確かめますよ。ここ最近、世界各国の金持ち連中から臓器移植の手術の依頼が世界中に来ています。しかし、新鮮な臓器は簡単に手に入るものでは、ありません。」
と冷徹的確に話す。課長クラスの役人は左手で右手の肘を支え、右手を顎の下に当てると、
「うん、中国国家の独占市場ですよ。まだ、この事は何処の国にもバレてないから。日本は特に日中友好を柱として政治活動を、してくる。これは我々国家からすると、やりやすいのです。随分大昔にコロナウイルス感染が武漢で大流行した時に日本人はマスクを大量に送ってくれました。まさに日本でいうカモネギですよ。小日本人は中国人の心の中まで知らないのです。日本の田中という奴が日中友好を掲げて来た時に、こちら側はシメタ、と思ったんだから。」
医師は、うなずくと、
「それから日本の有名な電機メーカーが我が国を支援したりと、これも鴨葱ですよね、園さん。」
「そうですよ。こちらが有利になることを進んで、してくれた日本人。そもそも、ね、共産党軍が中国国民政府軍に勝てたのも日本の陸軍が国民政府軍を壊滅に近い所まで追い込んでくれたからだね。
今では公園で寝ていて我々の利益になってくれる日本の浮浪者に感謝しようよ。医師の貴方にも高額な手術料を提供できる。まずは腎臓、そして肺、これは片方は切り取っても生きていけるから、まずは、いつも通りに手術してください、シーフ(先生)。」
「トエ(はい)。これで又、フランスの高級ワインが買えるというものです。日本人て公園で寝るような貧乏人も多いでしょう。家電メーカーの奴らも公園のベンチで寝ているかもね、しれません。中国の方が日本人より金持ちが多いのに、うはは、マスクを大昔、送ってくれましたから小日本人達は。」
園と呼ばれた官吏は笑顔で、
「自分たちのマスクもない小日本人がね。欧州から美国、そして日本に感染が増えたのに。あの頃でも我々の方が金持ちだった。貧乏人が多い小日本人が我が国に寄付なんて驚きですよ。ふふ、今は浮浪者を大量に寄付してくれていますから。小日本人は。あ、この浮浪人は冷凍保存した方が、いいのなら先生、今すぐに。」
医師は落ち着いて、
「冷凍したら解凍しないと、いけませんから。目が覚めたら、この小日本人に・・・してやる事は、あるでしょう園さん。」
と話すとニヤリとした。園は思い出したように、
「ああ、そうでした。準備は、こっちでします。日本の浮浪者への小さな投資です。よっし、ちょっと行ってきます。」
「はい、どうぞ。待ってますから。」
園という官吏は部屋を出て行った。
 医師は注射器を持ってきて箱の中に寝そべった浮浪者の腕に静脈注射した。十秒もすると浮浪者は目を覚まし、天井を見ると、
「おお、天井がある。おれは公園に寝ていたのになあ。」
と口を開いて話した。
浮浪者は視界に医師の顔が自分を覗き込んでいるのを認めて、
「ん、おや?あんた医者だろう、ここは病院かな、ね?そうだろー、先生。」
中国の医師は優しく微笑み日本語で、
「そうです、ここは病院ですよ。あなたは救急車で運ばれたんです。軽い貧血を起こしていただけなので、今は大丈夫。ただ、すぐに動くのは、やめてください。」
「ああ、そうなんですか。ここは国立病院ですか?」
「国立病院です。」
中国の国立病院である。浮浪者は納得して、
「先生、おれ何ともないよ。動けそうだけど。」
「いえ、だめです。医者のいう事は聴いてください。それに貴方の財布では出来ない事も、ここでは出来るから。」
「ええっ?なんなんでしょう?それ。」
「もうすぐ分かるよ。ああ、園さん、いらっしゃい。」
ドアが開いて官吏の園が戻って来た。その後ろに可動式電動台車が誰も押していないのに園の後ろに、移動してきたらしい。園が室内に立ち止まると、その台車も停止した。その台車の上には一流ホテルのルームサービスのような豪華な食事とバナナ、りんごなどの果物が小山のように載っていた。
 園は浮浪者に日本語で、
「やあ、お目覚めですか。元気そうですね、腹は減りませんか?」
とニコニコとして聞く。浮浪者は上半身を起こすと、豪華な食べ物が並んでいる台車を見て、
「あ、腹減ったなー。実は三日も水だけで過ごして公園で寝ていたんです。あなた方が助けてくれたんですね?」
園と医師は、うなずく。浮浪者は安堵したように、
「助かりました。ここは九大病院ですか?」
官吏の園は日本語で、
「いえ違うのですよ。それと似たような場所ですけどね。それより、あそこのソファに座ってください。私が台車を運びます。」
浮浪者は立ち上がるとフラフラっ、とした。よろよろと示された白い長椅子に歩くと腰かける。ふかふかとした座り心地で浮浪者は気持ちよくなった。園が浮浪者の目の前に台車を運んだ。すぐに台車の上の食べ物、果物を手に取って浮浪者は食べられる。赤茶色の長い箸も据えてある。浮浪者は両手を合わせると、
「いただきます。」
それから彼は絶え間なく食べた。中華料理ばかり並んでいる。餃子、シューマイ、中華丼に麻婆豆腐、スーパイコ、ふかひれスープに烏龍茶、りんご、梨、みかん、杏仁豆腐・・・。三日間も空いていた彼の胃袋は貪欲に美味な料理を平らげた。浮浪者は満足げに、
「あー、食べた。食べた。満腹ですよ、うーん眠くなってきました・・。」
と話す。白衣の医師は浮浪者に近づくと、
「食後の眠りは価値が高いですよ。どうぞ眠ってください。」
「はい、それでは・・。」
浮浪者は再び眠る。後ろにいた官吏の園は、いつの間にか右手にハンカチを持っていて、それを浮浪者の鼻に当てる。医師は中国語で、
「それで一日は寝てしまいますよ。起こす時は私が、やります。」
園は満足そうに中国語で、
「それでは腎臓から切り取ろうよ。一つ取っても死なないんだろ。」
「ええ、大丈夫です。ここで手術しますから園さんも、こいつを手術代に乗せるのを手伝ってください。」
二人で話す時は日本語で話す必要はない。園は浮浪者の両肩を医師は浮浪者の両足を持つと、手術台に浮浪者を運んだ。
手慣れた手術で医師は浮浪者の腎臓の一つを切除した。部屋の奥のドアが開いて若い男の看護師が出てくると手袋をした手で医師から浮浪者の腎臓を受け取り、出て来た部屋に引っ込んだ。腎臓を冷凍保存するのだろう。医師は落ち着いて、
「世界には腎移植を希望する人達は数多くいます。日本でも一万人はいる。でも一番高く買ってくれるのは小日本人ではないから。」
官吏の園は、
「そうだね、日本人はケチなのだから仕方ない。欧米の富豪なら幾らでも出すからなあ。我が党の隠れ元箱なんだ、臓器提供は。」
と恐るべきことを平然と中国語で語った。
 白衣の医師は園の機嫌を伺うように、
「臓器関係だけでなく私はウイルスの方も詳しいんですが。」
園は苦く笑みを浮かべつつ、
「そっちの方は何十年に一度、という割合で検討されている。我が国は世界に安い労働を提供したのだから多くの人間が細菌で死んだって当たり前のことだ。君には即金が手に入る方で活躍してもらいたい。」
医師は少し心配そうに、
「世界にバレませんか、この臓器売買は。」
園は自信ありげに、
「なーに、マスバカを抑えておけば、いい。美国なんてのも金を掴ませれば何でもするよ。小日本のマスバカは勿論だけど。欧州も貧乏だから簡単。アヘン戦争を仕掛けたイギリスも薄のろ。コロナで大騒ぎした奴らだ。超後進国のイタリアは我々の言うなり。我が国の世界進出は続くよ。小日本は女工作員で、というところかな。」
医師は思い出すように、
「それにしてもコロナの頃の小日本は傑作でしたね。大量にマスクを送ってくれて。」
園は思い出し笑いして、
「我が党の幹部が『日本のみなさんに感謝します』という会見をするのに有名女優を呼んで演技の練習をしたそうだ。本当は小日本人を笑いたいのを演技で感謝するのは難しいらしいよ。その後、コロナは日本にも行っているからな。」
「ま、小日本人は扱いやすいですよ。軍部を解体された後は。自衛隊は侵攻してきませんからね。日本の陸軍は世界一だったが、海の方が弱かったんで我が国も助かったんですよ、ね?園さん。」
「私は軍部じゃないから詳しくは知らないが、神風特攻隊なんて精神異常者の末期症状のようなものだな。あれで終わったんだよ。大日本が小日本になったのさ。」
医師は満足げに、うなずくと、
「小日本人の腎臓の方は看護師が冷凍保存状態で業者に手渡しますよ。もう手渡しているでしょう。浮浪者だったんだから、これで人の為に働いたことになるし、我々が豪華な食事もさせていますから極めて人道的ですよ。」
「そうそう。小日本の電機メーカーにしたって古い昔に、ホテル住まいで運転手付きの生活と高給を与えて技術を教えてもらった。日本にいてもリストラされた人物だったからな。関西の電気メーカーだったと思う。日本のリストラブームも我が国の為になった。すべて小日本人は中国の為に働いてくれている。リストラ促進は日本政府主導でもあったそうだ。国会議員には中国美女を、あてがっておけばいい。中国の美女が間に合わない時は・・。」
そこで園は言葉を止めた。
医師は好奇心旺盛に、
「間に合わない時は?どうしますか。」
園は改めて医師の顔を見て、
「興味津々そうだな。考えてみれば分かると思うけど、日本の芸能プロダクションに手を回して若い美人タレントを議員に回す。芸能事務所に居るような女は百万円でも、すぐ寝てくれるのは多いんだ。
金で大抵の日本人は、どうにでもなる。私も一時期、日本の芸能事務所を担当していたからね。大体、日本の芸能人と言う奴らが欲しいものは、たった一つ、金だけだよ。それを小日本国民は憧れたり、好きだったりするからな。それをさ、そういう奴らを民間人だけなら、ともかく公務員とかなんかも、役所なんか他は警察でさえポスターに使っているんだから。」
医師は愉快そうに、
「はっははははは。程度の低い奴らですね。今や収入は、とうの昔に我が国の方が小日本より高いのに。相変わらず小日本の芸能とかいう、あの馬鹿どもを?」
「そうだ、使っている。一億は皆、白痴の小日本人。勉強だって我が国の方が若者も、しているし本も読んでいる。日本は年寄りまでが漫画。圧倒的に我が国の勝ちだよ。手ごわいのは、でも、やはり自衛隊だろう。」
「うーむ。そうですね。でも戦争の時代は終わっているのでは?」
「まあ、そうだろうけど。自衛隊とは過去に交流もしているから、いくらか盗み出せたのかもしれない。その辺は軍部の経験がないから分からないな。私はダークサイドの仕事が多いけど国家に奉仕しているのは変わりないよ。日本の方で過去に中国を親戚のように思ってなんて、あったろう?」
「ありましたねー、何党だったか忘れましたけど。マスクで、でしたか。」
「ああ、そうだ、マスク、マスクをねー。それで一帯一路でなくて、日本には親戚一路にしようかなんて笑い話でなく、実行可能だよ。」
「本当に小日本人なんて自衛官以外は危機意識を持ってないようですね。それだけに我が国としても、やりやすいんじゃないですか、園さん。」
「やりやすいなー。日中友好なんて我々の為に、あるようなものだ。田中なんて田舎出のオッサンは操りやすかった。あの当時の我が国の指導部は色紙にサインして日本から来た議員に手渡したんだよ。わたしたちのファンなんでしょ、という意味さ。」
「なーるほど。昔から日本人は孔子が好きですもんね。論語なんてものに敬意を払っていた。松下電器産業なんていう会社は朝礼で論語の一節を声を出して社員一同、唱えていたんだそうです。」
園は初耳とばかりに、
「そうか。まさに、それは中国の為に、その松下とやらいう会社が働きますと毎朝、宣言しているようなものだ。」
「しかも、その松下という会社は日本の電機メーカーとしてはエリートだったそうです。」
「おやおや、小日本の電機メーカーなんて、ちょろいわ。その松下の創業者は中国の崇拝者だったんだな、いや、これは、いい。他にも、あるんだろ?孔子のファン、孫子のファン、老子、孟子、荘子、墨子、荀子、色々、いるよ。あ、それでね、日本の大学の教員に中国の崇拝者が多い。老荘思想なんて我々でも知らなくていいものを一生懸命やっているのが、いる。それに日本人は漢字を書けるほど尊敬されやすいらしいな。漢字なんて我々には平仮名は、ないからな。小日本人と我々の、どっちが漢字を多く知っているか、だよ。」
医師は誇らしげに白衣の胸を張り、
「それは、もう我々ですよ。もともと小日本人は遣唐使、遣隋使などを我が国に送っていましたからね。」
園も誇らしそうに、
「日本の仏教は中国仏教さ。それに経文は全部、漢字だからな。」
「小日本の東京にも中国崇拝者は沢山いる。日本の大学の学長は全て中国崇拝者として我々が最も操りやすい連中だ。こいつらに共産思想、修正共産思想ではない古い共産思想を吹き込んだので、大学出の多数を古い共産思想の持ち主にした。それで小日本は失われた何十年もの経済停滞があり、我が国は修正共産思想により大躍進した。美国なんて問題にもならない程にな。」
医師は目を細めると、
「小日本の大学出が古い共産思想では金は要らない、て事になり経済発展なんて、ありえません。それで我が国は小日本より経済大国になったんです。ダッチワイフ、というかラブドールでさえ小日本のラブドールメーカーより先に人工知能AIをつけて販売しました。
もはや、そういう産業でさえ小日本を見下せます。」
園はニヤニヤすると、
「ラブドールも我が国の方が進歩し始めたね。小日本の国会議員はハニートラップか大金で簡単に操れるから、そうそう、私もマカオに別荘を建てられたのも小日本の国会議員を操作したからなんだよ。田舎者だし、そいつはね、でも小日本の国会議員なんて大抵は田舎者だろ。女と金をやれば、何でもするよ。中国崇拝者にも、すぐになる。もともと孔子様なんてのも多いしな、小日本人には。」
「水戸拷問でしたっけ?あれは・・・。」
園は、それを正して、
「水戸黄門だろう、それは。」
「ええ、印籠を出すと平伏するんです、あれは。我々なら孔子とか出せば平伏しますよね、一部の日本人は。」
「するよ、特に大学の学長あたりでも。小日本の大学のな。」
「小日本の大学出は御しやすし、ですか。」
「まあ、そうだろう。でも防衛大学は、そうではない。が、君は医師だし気にするな。」
「気に島専太郎、でしょう。小日本風に云うと。」
「そういう事だ。界深淵君、臓器摘出の医療に励みたまえ。」
「はい、園凱旋さん。励みます。」

 中国人留学生の李芽が女工作員であることは本池釣次郎によって明らかにされたが、彼女は本当に日本の学校に行っているのか。というのは気になるところだ。一日中、働いているかもしれない。釣次郎が中国人留学生・叛英果に変装して李芽と知り合ったコンビニでは李芽は一日中、働いてはいない。その時間帯以外では別の場所でも働けるだろう。そのコンビニの店主はアルバイトに来た李芽に、
「今日は叛君は休み、というか、しばらく休むそうだ。丁度、別の留学生がウチにアルバイト希望で志望して来てくれたよ。やっぱり、君と同じ中国からの留学生で上海から来た刻クンだ。おーい、刻クーン。」
広めの控室の奥の方に座っていた中国人男性が立ち上がると店主と李芽の近くに歩いてきた。良く日焼けした顔で、日本に初めて来たような顔をしている。店主は彼を右手で示すと、
「刻クンだ。刻クン、こちらは李芽さん。同じ国だから仲良く、やれるよね、うん、仲良くやってほしい。刻クンは別のコンビニで働いていたことがあるそうだけどウチと競合している他社のコンビニだから見習のやり直し、みたいになるけど李さん、よろしく頼むよ。」
と励ます。李芽は気軽に刻という留学生に近づくと、
「よろしくね、刻さん。」
と呼びかける。刻は浅黒い顔を李芽に向けて、
「よろしく、お願いをします。」
と変な日本語で答えた。店の裏側で飲料水を並べて入れたり、手書きで商品説明を書いたりする研修を李芽は刻にしながら、前に居た叛とどこか似たとこがあると感じていた。それで休憩時間に向かい合って座ると李芽は刻に、
「前に叛さんっていう留学生がいたけど、なんか雰囲気が、よく似ているわね。叛さんも中国からの留学生。わたしも、そうだけど。刻さん、叛さんっていう人、知りませんか?」
刻は首をかしげると、
「叛さん?知りませんよ。僕の言っている学校には叛という名前の人は、いない。」
李芽は、
「そうだろうね。わたしの学校にも叛さんは、いないもの。なんか貴方にはAV男優の雰囲気があるわ。気のせいかしら。」
「AVには東京で出た事、あります。顔に目線を入れてもらいましたから分からないと思っていましたけど、李さんAVとか見るんですか。」
「ええ、少しよ。それもパソコンから見るからレンタルの店に行かなくていい。女性で若くてAVなんて借りにくいもの。それにレンタルの店なんて少ないでしょ。大昔のコロナウイルスで店舗自粛とか、そうしなくても人が来ないとかで大半が潰れたそうよ、日本でも。スマホで見たりするほどマニアじゃないもの。でも・・・。」
刻は訝し気に李芽を見て、
「でも・・・?デモってデモストライキのデモですか。」
目を伏せた李芽は再び、目を上げると瞳を輝かせて、
「うちのオーナーさん、実は昔、AVの監督を東京で、していたんですって。だからメーカーとかレーベルとか、その業界のつながりを知っていて何処に出せば売れるかとか知っているそう。AVなんてスマホで撮影して編集して出来上がりに出来るらしいわ。それでオーナーさんもコンビニは人に任せて他の場所でAV作ってるそうよ。刻さんの雰囲気、AV向きだと思うのね。」
と話すと李芽は刻の顔から上半身、股間、足までジロジロと見た。

sf小説・未来の出来事23 陸上自衛隊・春日学校・虹一号作戦 試し読み

 中国からの女性客を優先して回してもらえるなんて、嬉しい限りだが、それでは工作員としての仕事は捗らない。だが社長の行為を断るわけにもいかずに珍光年は、
「ありがとうございます。がんばりますよ。」
と元気よく即答した。

 陸上自衛隊の春日駐屯地の地下で講義をする元海教官の話に戻ろう。
「・・・という事で防衛大臣の腰野カルコは辞任することに、なった。という事例は君達は小さい子供の頃の話だから知らないと思うが。その盗撮ビデオは情報第三部で鑑賞した後に、業者に出品させた。情報第三部の名前で出品することなど、ありえる話ではない。又、その業者も陸上自衛隊春日学校の情報心理戦対防護必須課程を修了した隊員が作っているアダルト専門の会社から出品する。
収益は陸自で取るわけでなく、春日学校出身の隊員が運営しているアダルト会社の収入になるよ。
防衛女大臣の腰野カルコは無料で出演、中国の工作員青年も無料出演だ。彼らは性器を露出させているしな。時君、何か質問があるか?」
と元海教官は流太郎に質問を振り向けた。流太郎は考えて、
「それにしても凄い話ですね。それでは僕らも、こういう事をしないといけないんですか。」
元海教官は静かな笑顔で、
「なーに。ここまで高度な事は、しなくてよい。盗撮機器の操作も実習の必要は、あるから。君達には、もっと簡単なことをしてもらう。国会議員の暗殺の手伝いとかも頼むかもしれんな。ま、冗談と今は受け取っておいてくれ。
腰野カルコが知りうる自衛隊の情報は大したものではないが、工作員に入手されていいというものでもない。国会議員の中にも他国へ情報を流す輩、それは男女を問わず、いる。愚民が選ぶ政治屋だ。金さえもらえば他国に国家の機密は、どんどん流しているのも、いるからな。
特に中国から大金を貰って、せっせと情報を流す政治屋は国会議員に限らず、都、府、道、県会議員、市会議員の中にも、いるのだ。
それらの輩を暗殺せねばならない、と思わんかね、本池クン。」
と今度は釣次郎に質問が飛ばされた。釣次郎は、
「ええ、まあ、思いますが。まるで小説か映画のような話ですね。」
と答えると元海教官は、
「うむ。そうだなー。でも実際に行ったとしても国防の為だ。売国議員は抹消する必要は、あるよ。これらの調査は情報本部第三部で、おこなっていると少し記憶しておいて外では話さないようにしてもらいたい。という事で、君達への指令は自衛隊情報本部第三部から来ることもあるし、参謀本部から来ることもある。ま、この陸上自衛隊参謀本部も自衛隊の組織図には載せられていないが、実は、この参謀本部が陸上自衛隊の最上部組織なのだ。統合幕僚監部の上に位置した自衛隊の最高機関なのだね。これは政治屋も国民も知る必要は、ないし自衛隊の機密の一つだからだ。
 君達も、この機密は守るように。外の人間に話さないように。
 まず君達に課せられた任務は女体一号作戦、と名付けられている。それと君達にはコードネームが与えられる予定だ。」
釣次郎は思わず、
「コードネームって、なんですか。」
と訊いてしまった。元海教官は、
「おほん。(と咳払いして)こちらが質問をしていいと時間を取らない限り、質問や意見は言わないように。」
と厳重な注意をした。釣次郎は、
「すみません。気を付けます。」
元海教官は、
「よろしい。君達には諜報活動の手伝いをしてもらうのだ。そこから考えても分かりそうな用語だな。時君のコードネームは海、本池クンのコードネームは空である。覚えられないと思うし、ノートに書いておくといい。で、だね。ノートにはコードネームなどと書かずに飲み屋のツケに使う名前と書いてくれ。
このコードネームを使う事に君達は、なる。軍事作戦には大なり小なり暗号は必要だ。昭和の日本の海軍は何故完敗したか。それは暗号をすべてアメリカに解読されたからだ。最後の方は薩摩弁を暗号にして、それもアメリカに解読され、昭和の海軍の行動は筒抜けで知られていたのだよ。
ぽっぽーや、海軍の哀れな最後は暗号にある。ぽっぽーや、とは薩摩っぽ、という軽蔑用語から取られている。薩摩が日本のどの地方かは知っていると思うが、知らなくても調べたまえ。」
 流太郎と釣次郎は電子ノートに自分たちのコードネームを書き付けた。この電子ノートは元海教官の授業に際して二人に手渡されたもので自衛隊特製のモノだ。自衛隊というより情報第三部で使われている。電子書籍を読むためのタブレット型の機器に似ているが、電源を入れて起動すると人差し指で字が書ける。人差し指の大きさで線を引くことにはならず、ボールペンで書く字の大きさになる。
ひらがなから漢字への文字変換機能もあり、漁師だった釣次郎には使い勝手が良かった。
 コードネームも貰って、いよいよ、これから諜報員として活動できるのだと思うと釣次郎と流太郎の胸は気球が空に昇るような期待で膨らんだ。
 休憩をはさんで、次の授業では中国の工作員の見分け方をスライド写真を黒板に投影しての解説を元海教官が、おこなう。
「いずれにしても、これという人相があるわけではない。しかし工作員の顔は一般中国人とは違うので見抜くのに早く慣れてもらいたい。」
元海教官は教卓から眼鏡を取り出して、二人に見せる。
「実はね、この眼鏡を掛けると中国の工作員は即座に見分けられるんだ。レンズに仕掛けがあることは、あるんだが何といってもマイクロコンピューターが内蔵されていて、そのコンピューターが対象人物を工作員かどうか、判断する。
 決定的な事には、この眼鏡から出るごく微弱な電波によって対象人物の脳内を検査し、調べて工作員であるという記憶も調べるんだ。だから間違いなく確定できるよ。」
流太郎と釣次郎は絶句した。
信じられない話だからだ。こんな凄いものを日本で開発したのだろうか。しばらく前に地円の陽元に住む霧沢金之介は異母弟の黒沢金雄に会うために地球に、やってきた。
黒沢の自宅で兄の霧沢は、
「日本の自衛隊にも新兵器は必要だが、大きな戦争もないから緊急の要件ではないと思う。しかし中国の工作員とかは要注意だね。スパイでなければ逮捕も出来ないが、だからこその警戒は必要だと思う。この中国の工作員を見分ける眼鏡を、この前、遊び半分で作ったが成功した。
おまえに上げるから自衛隊に提供して利益を上げろよ。」
と兄らしく語ったのだ。

 元海教官は流太郎に、
「なにか質問があるか。」
と面白そうに聞いたので、流太郎は、
「その眼鏡はサイバーモーメントの発明じゃないかと思いますが。」
と答えると元海教官は、ほお、という顔をして、
「よく知っているな。その通りだよ。つい最近、完成したらしい。サイバーモーメントの製品は、これからも自衛隊で採用予定のものが多数ある。なんとも超科学というか、こんなものを地球人が作れるのかというものが多いらしいなー。て、君はサイバーモーメントと関係した事があるのか。」
「ええ、サイバーモーメントの社長は知っていますよ。」
「そうか。それなら・・・君を通じて自衛隊もサイバーモーメントに要望を出せるだろう。ま、この驚愕的な眼鏡は君達に支給されるし、それでも自分の目で中国の工作員を見抜けるように、なって欲しい。」
三月になって暖かく、暖房もしていない教室だが、時折、少し寒い空気が地下とはいえ窓から入ってくる。
 驚異で脅威の眼鏡の存在を知った二人は心強い気持ちになった。
 情報心理戦防護必須課程に準じた教育が元海一佐によって、時と本池に続けて、おこなわれていった。
元海教官曰く、
「情報戦は実戦よりも多大な影響を対峙した国に与えることが出来る。攻撃は最大の防御とは広く知られた言葉だ。武力による攻撃を上回れる場合がある。これは「ペンは剣よりも強し」としても知られている。陸上自衛隊春日学校では情報心理戦攻撃過程も加えられている。防御の後に攻撃か、攻撃の後に防御か、というのは、それで一つの論題ともなるわけだが、専守防衛というオカマじみた見せかけを取らなければいけなかった日本の自衛隊としては防御の後に攻撃の路線ではあるが、それは実戦部隊の話で、我々情報三部、そして参謀本部からの指令では攻撃が先になることもある。要は武器による攻撃ではないからな。
それで情報心理戦における攻撃を君達にも学んでもらう。ボクシングでも防御しかしていないと、どうなると思う、本池クン。」
「いつかノックアウトされますよ、間違いなく。」
「その通りだ。日本の自衛隊は同盟国アメリカ軍の後方から、ついていく行動となっていた。だが情報第三部は違う。攻撃のための攻撃も、おこなう。
参謀本部も原則的に統合幕僚監部には口出しを平時では、しない。
日本は古い過去に軍隊の経営を間違った。直接的には頭の悪い人間しか海軍に行かなくなった。それが第二次世界大戦の日本の結果となった。それは、そのころにあった制度にも問題がある。御前会議というやつだな。実はね、帝国陸軍でも、これは御荷物というか必要ないものであるばかりか御前が意見もしたし、命令もしたりしたので皇道派以外は、ため息が出るものだったのだ。
 それでだね、英才ではあったが皇道派に近い石原莞爾を二二六事件の反乱部隊の鎮圧に派遣させている。石原が反乱部隊に殺される可能性もあることを分かった上でだ。
 最終的には石原は左遷、そして予備役へと引退していく。これも当時の陸軍に反発したためである。
そして中国への戦争を長引かせることは陸軍の意思では、なかった。公家上がりの近衛首相ら政治屋の意志である。
 文民統制を廃絶した今の日本は昔よりも、戦争のプロである我々に国民は任せて安心、という事なのだよ。
それでも一応、先に攻撃しないのは自衛隊の実戦部隊であるから、先手必勝なのは情報第三部と、さらに上の参謀本部の領域となる。
 君達の授業の態度もいいので参謀本部も期待しているから、大いに頑張ってもらう。机上の空論に終わらないためにも街に出て実践の足慣らし、手慣らしに行こう。」

 元海一佐に伴われて地下から上がり、春日駐屯地を出た二人。正門前に見えるUR、公団団地を見て、右に直角に歩道を曲がって歩いていく。JR南福岡駅から電車に乗り、博多駅という福岡市で一番大きな駅に着く。ここから新幹線も出ている。その新幹線で中国の工作員が福岡市に、やってくる場合もある。それで元海教官は二人を新幹線乗り場の近くまで導いた。元海教官は、
「この新幹線の出入り口も要注意な場所だ。そもそも工作員が最も多い場所は東京だ。福岡市に乗り込んでくる中国の工作員は少ない。それだけに見分けは、つけやすいよ。」
と話す。
 確かに新幹線の降り口から出てくる乗客に中国人らしき人影も見えない。元海教官は、
「次は地下鉄で移動する。行くぞ。」
福岡市営地下鉄は博多駅から乗れる。もちろん地下に降りて切符を買い、列車を待つ。明るい構内には中国語の案内文も見える。工作員を歓迎しているかのようで馬鹿馬鹿しい。通勤時でもないので人は少ない。元海教官は、
「KCIAという韓国の諜報機関員も福岡市に、いるはずだが、中国ほど活動はしていない。福岡市だからだろう。」
 福岡市はアジア人を歓迎している。それだけに工作員天国なのだ。中国人の店は料理店に限らない。それには風俗業も含まれる。福岡市の風俗業は中洲という場所に大体、限定されている。これは何と江戸時代の黒田藩で決めた事だ。黒田五十二万石、筑前・黒田藩以来の伝統なのだ。
そもそも日本全国的に戦国大名の拠点地が、そのまま発展を続けている。福岡市の風俗店は、ポツンと他の場所にもあるが、広がらないで消えていく場合が多い。中州にはビルが立ち並び、その中の大半は飲食店で、それも主に酒を提供する店でスナック、パブと呼び名は色々ある。会員制のスナックもある。
 これらの店も全ては生き残れず、空室も出てくる。元海教官と流太郎、釣次郎は今、中洲の飲み屋ビル街を歩いている。随分と大昔には呼び込みの連中もいたが市の条例で禁止されてからは、呼び込みは消えている。
 飲み屋のビルは高くても六階程度、数十階のビルなどは昔からない。そのうちの一つのビルの一階にある店に元海教官が、
「ここに入るぞ。」
と先導した。「ぃらっしゃいません。」と中国語訛りの女性の声が聞こえた。中国風スナックで風水的飾り物が店内には多い。福とか赤色の配色が多数、見られる。大きな水槽に赤い金魚が数匹泳いでいた。女性店員は赤や紺色、黄色のチャイナドレスで三人が並んで立っていた。中国的美女、キャバクラのようだ。厨房に近いカウンター席の向こうに店の女主人が元海ら三人に気づくと、声をかけたのは、この三十代後半に見える髪の長い中国美女で、もっと若いころはキャバ嬢だったのだろう。この女店主は、
「カウンターの席に、ひと席ずつ間を開けて座ってくださいませんか。そこに、あの子たち三人を座らせます。」
と元海教官に話す。元海は、
「諸君。そのように座りなさい。」
右から元海、流太郎、釣次郎と、それぞれ一席ずつ開けて腰かける。まもなく三人の左席に、赤、紺、黄色のチャイナドレスの女性が座った。香水の甘い香りが元海ら三人の鼻を、くすぐる。元海は左に座った女性の左肩に左手を回すと、
「とりあえずビールを三人分、頼む。」
と注文すると、左の女性の肩から尻に左手を降ろし、その女性の丸い大きな臀部を、ゆったりと触る。元海は機嫌良さそうに、
「時と本池、ここは、おさわりOKなのだ。尻と胸は触っていいんだ。」
と教えた。香港から来たという店の女性たち。マダムは笑顔で、
「お二人さんも、触って大丈夫よ。この三人は彼氏も、まだ、いないし。」
流太郎と釣次郎は、しかし、手を動かさない。元海は、
「香港はアメリカの原爆は落ちないんだろう。」
とマダムに聞く。マダムは、
「ええ、ダイジョブです。北京には落ちましたね。わたしたち、北京から逃げた、あるよ。にじゅ、まん死んだね。でもロサンゼルスに中国のICBM(大陸間弾道ミサイル)に積んだ原爆、おちたよ。ハリウッドの大きな文字は、消滅したのある。」
元海は目の前に出された大ジョッキの生ビールを右手の取ると、左横にいる流太郎たちに、
「さあ、乾杯だ。(グイ、グイと一息に飲んで)、ああ。うまいな。なにせ中国から核弾頭搭載ミサイルを数百発は飛ばしたらしいね。」
「人民解放軍がシュミレーションでアメリカを攻撃する訓練をしていたら、実際の発射ボタンを押してしまったあるの。アメリカも百五十発は撃ち落としたらしいけど五十は爆発、大惨事よ。その大惨事から第三次世界大戦、始まったアルネ。」
「もう三十年も前の話だな。日本は戦争放棄国だから、よかった。今は核攻撃なしにズルズルと続いているな、中国各地にアメリカの軍隊は入っているらしいが。」
「小さな駐留しか出来ていないわ、アメリカは。ベトナムでも結局、引き揚げたしアメリカはね、だからワタシタチ中国人、漢民族負けないのあるよ。モア一杯、ビール飲む?モトウミ、サン。」
「アア、もう一杯、頼む。時君と本池クンも、お代わりで飲めよ、生ビールをね。」
流太郎と釣次郎の隣に座っている中国人キャバ嬢も、
「ママ、わたしもビール飲みたい。」
「わたしもね、ママ。」
と声を上げた。店のママは、
「ああ、あんたたちの分は店で持つわ。はい、ジョッキで飲むあるよ。」
と二人の前に生ビールの大ジョッキを一つずつ置いた。店のママは元海の顔を覗き込むように、
「自衛隊はアメリカに協力していないあるけど、いいの?」
それに対して、胸を反りかえらせた元海は、
「日米安保条約は日本はアメリカ軍を助けなくて、いい、となっているよ。戦争に手助けすることは、戦争に参加していることになる。戦争放棄国は戦争を、しないもんだ。楽なものさ。」
 中国大陸に上陸しているアメリカ軍は五十万人ほど、だ。この大部分は在韓国米軍が移動し、その後にアメリカは韓国に新しい五十万人を上陸させた。ベトナム戦争と同じく、他の国、イギリスやフランスなどは不参戦の戦いなので第三次世界大戦とは呼称しにくい戦いなのだ。
 日本にとっては随分昔の朝鮮戦争と同じような雰囲気が漂い、朝鮮特需があったように中国特需が発生している。なので好景気な世の中、アメリカからに限らず中国からも日本への医薬品などの需要が出ているため、空前の好景気が日本に出現している。
日経平均も十万円を突破している。中国とアメリカの戦争は十五年を経過した。どちらの国も過去のコロナ・ウイルスで一億人以上の死者を出している国だ。コロナウイルスでは全世界の人間は十億人以上の死者が出ている。
中国としてはコロナウイルスはアメリカが持ち込んだ、と信じている人たちもいるために、手違いの核ミサイル発射も無意識的なヤリタイ事をしてしまったのが本当なのかもしれない。
謂わばアメリカのコロナウイルス持ち込みの行為に対する核攻撃と見てもよいのかもしれない。
HOLLYWOOD
の文字を吹き飛ばされた恨みのせいか映画関係者の志願兵が相次いだという話が日本にも伝えられた。
 流太郎の隣に座っているのが赤のチャイナドレスを着た、レンレンという北京出身の中国女性だ。彼女は流太郎に、ビールのおつまみを差し出しながら、
「わたし、レンレンいうね。あなたも兵隊サン?」
と尋ねた。流太郎は、
「いや、ぼくは兵隊じゃないよ。ただの民間人だ。」
「そうなの?あのモトウミさんは陸上自衛隊なんでしょ。」
「そうだよ。でも僕は自衛隊員じゃないんだ。」
「そうなの?じゃあ、自衛隊さんより自由なのね。」
「だろうねえ。朝からビールも飲めるし。」
「モトウミさんも飲んでる。モトウミさんは自衛隊。」
「うん、自衛隊でも特別な部隊さ。だから、いいんだろう。」
「時サン、お酒強いのね。顔も変わっていないし、あたし少し酔ってきたわ。」
レンレンは顔色を赤くしている。釣次郎の隣にいるのは黄色の服のマンマンだ。二十歳くらいで髪は肩よりも下に長い。黄色のチャイナドレスの胸は大きく、肉まんの大きなものが服の中に二つ、おいしそうに入っている感じだ。
釣次郎も大ジョッキのビールを飲んで顔色は、それほど変わらない。マンマンは、するめを釣次郎に差し出すと、
「わたし香港から北京にいた時、この店のママに誘われて日本に来ました。北京でもママは飲食店で主に飲酒する人のための店を、やってたの。福岡は、あったかくて、いいわ。香港みたい、雪は降らないし、降っても積もらないし。お金貯めて、店、出したいです。」
と話すので釣次郎は、
「日本に店を出すの、それとも中国に?」
「中国はアメリカと戦争しているから日本に店、出したい。」
「店を出すのには、お金が、たくさん要るよ。」
「わたし、ここ以外でも働いているから。」
とマンマンは髪を、かきあげながら話す。

 酔いが回ってくると何の話か、いい加減になるものだ。元海教官は、
「そろそろ退店しよう。」
と二人を急(せ)き立てた。地下鉄で博多駅まで行き、地上に出て博多駅から南福岡駅へ、そこから歩いて春日駐屯地に戻ると、又、地下に降りる。そして昼食後、授業が再開された。
 教壇に立った元海一佐は、
「諜報員としては外国語の習得、それも複数の言語は知らなければ、ならない。君達は正規の諜報員ではないので、深く知らなくてもいい。主に中国語は知っておこう。君達の調査する対象は中国人から、となる。女性に限らない。珍光年という中国青年がいる。日本ではホストクラブで働いているが、奴は中国の工作員だ。過去に女性防衛大臣と肉体関係を持ち、日本の国防機密を盗み出そうとした。それは随分過去の話だが、今は女性法務大臣と肉体関係に進んでいるようなんだ。日本の法律事情を手に入れたいのだろう。まだババアとはいえない女性法務大臣だ。ホストクラブに遊びにも行くだろうし、写真週刊誌も大臣を追うほど暇でもないから世間に知られることも、ない。情報第三部では今の女性法務大臣が珍光年と少なくとも三回はホストクラブで酒を飲んでいるのを調べている。防衛大臣ではないために法務大臣の行動は、深くは調べていないようだ。法務大臣だけでなく他の大臣も防衛機密を知ることは出来ないので、女性法務大臣の夜のホストクラブ遊びに立ち入りすぎることは、しないのだが珍光年が、いつ矛先を防衛省に向けるかが重要ではあるから情報第三部も気が抜けないのだよ。
 それで女性法務大臣も追尾している。女性法務大臣の財布の中には情報第三部が仕掛けた特殊なGPSが入っている。それにラブホテルに入ると撮影が始まるという特殊カメラも、そのGPSには付属している。これが秘密兵器の、ゆえんたるものだ。つまりGPSでラブホテルに入ったと認識されるとカメラが回り始めるのだ。赤外線により財布を透かして撮影が始まる。
時君、質問があるかね。」
「はい、元海一佐。法務大臣の財布の中に、どうやって、そのGPSを入れるのですか。」
「いい質問では、ないな。それは君、大臣秘書を通して、やってもらったりと色々だ。具体的詳細は国防機密だな。君達には教えられない事だ。君達が実行することも、ない事だ。で、そのカメラは女性法務大臣がラブホテルに入ったのを捉えて撮影を始めている。」

 五十歳になったばかりの女性法務大臣、しかし彼女は独身だ。大学の法学部を出て、すぐに司法試験に合格し弁護士となり弁護士事務所で働く事、十年、そこから独立開業して多数の法廷に立つこととなった。少子化、そして人口減少という日本の流れの中で悪い人間も減少したので弁護士の仕事は減っていく。四十にして惑わずなどというのは一人の変哲もない中国人の幻想を、かなり昔の日本人さえ理想の人生としていたが、人の一生に理屈を当てはめようとするのはバカ中国人の思考傾向である。四十にして立つ、でもいいではないか。三十にして立つ、のは男として当たり前なのだが、それは閑話休題(さておき)、この弁護士の桜・摩見子は四十にして立った、立候補したのである、いきなり衆議院議員に。
そして初当選後、東京に出て事務所を構える。彼女のビルの部屋の窓からはスカイツリーが見えた。仕事が終わって男性秘書と事務所内にある彼女のベッドで性交する、というわけにもいかず、かといって外出も好まない彼女、桜摩見子(さくら・まみこ)であるからして男性とは縁のない性活とはなる始末。
 五十になる少し前に桜摩見子は法務大臣に選ばれた。そうなると公設秘書は三人、私設秘書を七人置いて丁度いいほどになる。摩見子の場合は公設、私設の秘書すべてを男にした。
これで男日照りの時代は過ぎたのだ。男でも身近に十人の女を置くのは難しい時代に桜摩見子は十人の異性に取り囲まれて仕事をしているのだ。何度も書くことだが大臣の私生活なんて写真週刊誌も相手にしないものなので桜摩見子はヤリタイ放題、文字通りのヤリタイ放題の私性活となった。このうちの二人の秘書は地元に置いておく。だから摩見子は地元に帰っても最低、二人の自分の言いなりになる男を持っている。これに加えて年収・数千万円という給与の支給でホストも何十人でも買えるのである。が万が一、写真週刊誌に狙われたら、その際は私設秘書が上手く処理するのだ。だから一般人には大臣の夜遊びは知られることは、ない。
これは男子大臣も同じこと。ところが、である。自衛隊情報三部は確実に各大臣を追っている。中国の工作員は日本の大臣すべてに近づくことが彼らの任務だ。ハニートラップ、つまり甘い罠をしかければよい、という訳で男性大臣には美女工作員、女性大臣には美男工作員を近づけていく。
それ以外にも、労働者として日本に入国してきた中国人は工作員といってもよい。それを知らない大手コンビニなどは、ありがたやとばかりに店員として働かせてきた。大量の中国人労働者を認めた時点で中国の工作は成功していたのだ。おそらく売国議員によって提案されたものであろう。その辺りを元海一佐は話す。
「中国から来た人間は基本的に全て工作員と思ってよい。彼らは日本を破壊しに来ている。どこかの田舎者が提案した日中友好など、中国人が喜んでいるだけだ。中国に技術支援した大手電機メーカーは、のちに電化製品、特に白物家電で市場を奪われていった。松の名前がついた電機メーカーだ。ここの創業者は、ある国会議員の要請で中国支援を決めたという。これが数十年後の日本の家電メーカーの没落へと繋がっていく。
それだけではなく日本の大学は防衛大学以外は東京大学でさえ共産思想を植え付けられている。それが日本の貧困を招いている、何故なら大学卒の増大が民間企業の年収低下、大企業さえ収入低下を喜ぶ風潮、そして週休二日制、休日の増大と正に中国にとって笑顔の絶えない日本になっていったのだ。
君達は大学には行っていなかったな?」
と元海教官は流太郎と釣次郎を見る。流太郎と釣次郎は、ほぼ同時に、
「はい、行っていません。」
「よろしい。それで、いい。東京の共産汚染は日本で一番、ひどいものだ。コロナウイルスも日本で一番多く感染した場所だ。それで陸上自衛隊としては春日駐屯地の地下に陸上自衛隊・春日学校を創設、運用している。ここには自衛隊の幹部学校を出た尉官のみを入校させているから、現在の君達は入校できない。
五万とあるという言葉があるが、2020の頃でも中国の工作員、別名スパイは日本に五万人はいた、とされている。
さて簡単な中国工作員の仕事を教えよう。彼らは外食産業で働き始める。目的は収入を得るためではなく日本の外食産業を破壊するためだ。信じられないと思うが福岡市でも安いうどん屋などは閉店してしまった。中国人は安く雇用できると浅はかな考えの経営者は大手電機メーカーにも、いた。彼らは安く働く代わりに日本の企業を壊滅に追い込むのが目的だ。
それで奴らの収入も無くなる、と思うだろうが中国の工作員だから例え働いている日本の会社、店が倒産しても金に困ることはない。奴らは収入を得るための労働を、しにきたのではない。たとえ彼らが工作員でなくても大陸の中国人は、みな共産主義だ。彼らは資本主義を悪だと教えられている。それで資本主義国家は悪だと考えている。実際は、どちらが悪なのかは歴史を見れば分かる。
ソ連共産党の崩壊などでだ。
 少し早いとは思うが明日からは二人で街に出てもらう。諜報活動は机上の御話ではないから。
さっき行った店も工作員の店の可能性がある。週に一度は君達二人の、いずれかに行ってもらう。飲み代は、あらかじめ必要以上の額を渡しておく。
映像でも見よう。情報第三部が手にしている女性法務大臣の桜摩見子のラブホテル盗撮編の映像だ。」
教室の黒板に映像が投射され始める。東京都郊外のラブホテル内が映された。桜摩見子の歩調に合わせて映像は揺れている。
カメラは桜摩見子の財布の中に入っているのだ。
無人のラブホテルで男が金を入れると部屋の鍵が出てくる。
8号室の鍵を手にした男は摩見子の腕を取って部屋に連れ込んでいく。部屋に入るとシャワーを浴びに男は行った。シャワーのある部屋から出て来た男は全裸で、棍棒のような肉茎を天井に向けていた。もちろんは皮は向けている。
 摩見子は男の立派な道具を見ると、
「すばらしく太くて逞しい。わたしも裸になるわ。」
と話すと手早く衣服を脱ぎ、下着姿になる。全裸の珍光年は反りかえって固定したかのような勃起棒とユラユラと揺れる陰嚢を見せながら、速歩で摩見子に近づくと彼女を抱え上げてキスをする。
真面目な彼女は男の秘書と肉体関係を持てなかった。ただ精神的に満足していた。それだけに肉体的に満足させてくれる男が現れて、今、摩見子の下着を剥ぎ取り、荒々しく肉の棍棒を自分の中心に、ねじ込んできた、その快感は彼女の予想以上だった。
快感で朦朧となった摩見子はベッドに仰向けに横たわり、両脚を大きく広げて珍光年を迎え入れている。突如、珍光年は腰の動きを止め、摩見子に聞く。
「コロナウイルスが東京で再び拡大した時に、検察官は逃げたのですね?」
「そう、逃げたわ。拘束されていた人たちを釈放して・・・。ん、腰を動かしてよぅー、はさんだだけでも気持ちいいけど。」
珍光年は摩見子の両手と自分の両手を絡み合わせて、
「やります、やります、その前に逃げた検察官の数を教えてください。」
「数?十人以上かな。東京地検特捜部の検事も逃げたわよ。」
と国会で答弁しなかった内容を今、珍光年に貫かれている桜摩見子は洩らした。珍光年は腰を大きく動かして、一度、摩見子の女の洞窟を深く突くと、彼女は目を閉じて、
「気持ちいいっ。あら、一度だけ?」
「検察庁の庁舎からですか?」
「そうよ。庁舎に救急車が来て、倒れた職員を運んでいったけど、救急隊員はマスクと目にはゴーグルをしていたの。その事が庁内に広まると検察官は庁舎から逃げたのよ。」
「ありがとう。摩見子さんの体は素晴らしい。」
と珍光年は摩見子の耳元で囁くように話すと、彼女の耳にハアーッ、と息を吹きかけ、彼女が両脚をすぼめるようにしたので彼は電撃的に腰を前後にメロディカルに動かし始め、何度も摩見子を絶頂に導いた。
 そこで一旦、映像は停止した。明るくなった教室の教壇で元海一佐は、
「こんな具合に女大臣は日本の報道各社も知らない内容の事実を中国の工作員にベッドの上で話している。それにしても財布の中から盗撮しているのに鮮明な映像だった。これはパソコンで見られる映像ファイルで記録されているので、ここにはコピーされたものが送られている。春日学校の授業でも使われているのを今、君達に見せたわけだ。感想は、どうかね、時君。」
と名指された流太郎は、
「ネットニュースで見たことのある大臣だけに、裸で男に激しく突かれている姿には驚きました。国会での冷静な姿勢からは想像も出来ない乱れた姿でした。」
と興奮気味に答える。元海教官は軽く、うなずくと、
「本池クンの感想は、どうだ?」
「法律の大臣のベッドでの姿には驚きました。大臣の女性器もバッチリと写っていましたね。独身だけに若い体なのかと思いました。」

今日は

 今日は巳の日です。巳の日にして、いい事は幾つもありますが、
芸術のようなものを始めるのもいいらしいし、小説を読み始めるのも
いいと思われます。
それで試し読みをアップロードしましょう。

SF小説・未来の出来事22 軍事小説 おすすめ 試し読み

YP33号はロボットらしく、頭をかしげて、
「御嬢様、なんの事でしょう?私には分かりません。」
と言うのだった。
ソープ嬢の赤鳥女子は、
「わたしの名前は赤鳥華子(あかとり・はなこ)っていうの。あなた、わたしを何処で知ったのかしら。」
「ええっ、赤鳥華江さんでは、ないのですか。」
「それは、わたしの姉の名前。姉さんは一人娘だから家に、いつもいて外には働きに行かないわ。わたしは、あの大邸宅を抜けて町に住んでいるの。そうしないとソープで働けないから。」
「ああ、姉妹だったのですね。仕舞いには姉妹と分かる、ですか。」
「おほほ。ロボットにして語呂合わせができるなんて、あなた、中々ね。」
「いえ、それは自由意志を与えられています、少しだけですが。」「そうなの。プレイは、あと一つ体位を変更して出来るけど、する?」
YP33号は最早、愚息が↓縮んでしまい、伸び↑上がらないのを自覚した。あの令嬢の妹というだけで、勃起不能✖となってしまったのだ。ロボットの頭には、そこまでのプログラミング‰がされている。YP33号は、
「もう、できないみたいです。あの御嬢様の妹様と、あれだけの行為を出来たのも、あなたが他人の空似と私の脳が認識したからこそ、できた性行為でした。」
過去を懐かしむような語調で話したYP33号は浴槽を出ると服を身に着け部屋を出ていく。そこで動画は終わった。
 霧沢は釣次郎に、
「面白かったろう、どうかね?」
「ええ、地球ではロボットは、あそこまで進化していないようですよ。」
「もう地球の大気圏内だよ。私の弟の邸宅の屋上に着くと分かる。」
その時、機械音でアナウンスが流れた。
「目的地ニ到着シマシタ。」
UFOの窓の外は郊外の風景を映している。切れ目のない壁が開いた。霧沢は立ち上がると、
「さあ、外へ出よう。地球に着いたのだから。私の弟の屋敷の屋上にね。」
と釣次郎を誘う。霧沢を先頭に外へ出た二人を冬の寒気が歓喜の声を上げるように迎えた。二人とも冬の服を着ているから、寒くはない。!

れは福岡市東区ではないか、釣次郎には予測できる自信がある。何故なら屋上から見える風景は彼が、かつて見た事のあるものだからだ。
 みならず、彼、釣次郎は来たことがある、この辺に、そうだ、まだ幼いころに・・。だから思い出したのだ。

驚きだが、とても愉快な気がする。UFOに乗せられて地球のどこに行くかと思ったら、なんと福岡市ではないか。釣次郎の不安は完全に消去された。
 屋上に一人の中年紳士が現れた。どこか霧沢と似ている。もしかしたら、この人が・・・、彼は霧沢を見ると、
「兄さん!よく来てくれたね。もう少し遅いかと思っていたよ。」
と霧沢に向かって両腕を広げた。霧沢は、
「金雄。元気そうだな。発明を頑張っているか。」
と楽しそうに云う。金雄と呼ばれた紳士は、
「もちろんさ。下に行こうよ。」
「ああ、連れて行ってくれ。」
「そこの貴方も一緒に、どうぞ。」
と釣次郎に手招きした金雄氏であった。
 エレベーターで降りた場所が金雄氏の部屋らしい。社長用の部屋らしい雰囲気を持っている。金雄氏は社長のイスを霧沢に手で示すと、
「兄さん、座ってくれよ。ぼくの椅子に。」
「ああ、いいよ。うん、いつもながらイイ座り心地だ。」
金雄氏と釣次郎は社長のいすに座った霧沢の前の横長のソファに座る。大きな窓の外には鷹が悠然と大空を飛んでいる。
社長の机の上にはパソコン、小山のように積んである書類、何かの試作品のような機器類、コーヒーカップなどがある。霧沢は右手で金雄氏の横に座っている本池釣次郎を示すと、
「地球から来ていた漁師の本池クンだ。本池クン、私の兄の黒沢金雄、株式会社サイバーモーメントの社長だ。」
と自分の兄を紹介した。
 黒沢は釣次郎を横目で見て、
「おお。漁師なのかい、君は?」
と好奇心を示す。釣次郎は右横の黒沢に、
「はい。漁師ですけど、小説を読みます。SFが好きなんですよ、ぼく。」
とハキハキ・テキパキと答える。黒沢は即座に、
「それなら漁師などやっているより、ウチに来て働かないか。自衛隊からの注文が多くてね。馬の足でも借りたいくらいなんだよ。」
と釣次郎に申し出る。
釣次郎は最近、福岡市の湾内では漁獲高が減っていたので、
「漁師を廃業する予定でした。仕事をさせてください。」
と即応したのだった。二人を見ていた霧沢は満足げに、
「金雄。そちらだけでは新兵器の開発プランですら間に合わないだろう。こちらからも提案してやるよ。」
と激励する。
「ありがとう。兄さん。母は先週、死んだ。」
霧沢の顔は、それを聞くと少し哀愁を漂わせて、
「それは悲しいだろう。しかし、私の母ではないし・・・。」
と言葉を濁すと黒沢は、
「そうだね。僕らは父さんが同じで母親は違うものね。兄さんの母は地円の陽元人だろう。」
「そうだよ。まだ生きている。地球人より地円人の方が長生きだね。三倍は生きれるよ。おれたちの共通の父も、まだ現役で働いているからな。」
「そうだったね。父さんは時々、地球に来て僕に会いに来るよ。でも母さんが生きていた頃も、そんな具合に時々しか地球に来なかったから母子家庭となっていたんだ、うちは。」
「ふむ。それを申し訳なく思っていたらしいから、金雄の母さんには兆単位の資産を送っているはずだ。スイスをはじめにして世界各国に資産を分散させ、仮想通貨もあるはずだよ。そうだろ。」
「そうなんだ。それで僕はね、大学院を出てから働いたこともなくアルバイトさえ、したことが無い。有り余る研究費を母さんから貰い、パソコン関係の特許を取った後は会社を作ることが出来た。恵まれた生き方をしてこれたよ。」
「それは、よかった。おれも働いたことは、ない。自分の趣味を仕事にしているし、だれにも雇われたことはないな。」
ここで霧沢は本池釣次郎の方を向くと、
「漁師だそうだけど、君は親の仕事を継いだのだろうね。」
と尋ねたので釣次郎は、
「ええ、父からの仕事をやっています。漁船一つで漁をしていますよ。」
と答えると霧沢は、
「ふーむ、それならロボット漁業も、していないだろうね。」
釣次郎は初耳の話に、
「ロボット漁業ですか?ええ、第一にロボットなど持っていませんし。」
霧沢は、
「地円の漁業はロボットが行っているものが多いよ。人魚型ロボットが海中に飛び込んで、海水中に網を張る。魚の多い場所までは網を広げないけど。漁獲を見込める領域まで海中を泳いでいく。
人魚の形で足は無く、尾ひれがあるから魚も安心して逃げないようだ。彼女の目は暗い海中でも光って見えるのだよ。地球の漁業は古来と、あまり違いはないだろう。」
と話す。釣次郎は、
「ええ。そういえば、そうなります。それでサイバーモーメントでモニターとして働ければ、と思っていますから、今は。」
と自分の胸中を語った。
黒沢は自信に満ちた表情で、
「防衛費は国家予算の30%になったから、うちに送られてくる仕事も豊富にある。兄さん、貴重な人材を有難う。」
「いや、おれの功績じゃないよ。知り合いの若い女性が連れて来たんだ。」
「そうか。不思議な巡り合わせだな。丁度、うちに若い人材が欲しいと思っていたんだ。兄さん、この件についての御礼は必ず、する。」
「そうかい?それじゃ、期待しておくよ。私は地円に帰るから。」
と話すと霧沢金之助はサイバーモーメントの社長のイスから立ち上がった。
 霧沢金之助が乗り込んだUFOは瞬時にして黒沢と本池釣次郎の視界から消えた。地円の陽元に帰っていったのだ、サイバーモーメントの社長の黒沢金雄の父は地円の陽元人だった事が判明したのだ。道理で頭のいい黒沢である。
黒沢の母、金子(かねこ)は新興財閥の一人娘で過去の時代的な表現では深窓の令嬢という形容が成り立つかもしれない。その財閥はインターネット関連の会社を複数×複数と増大させていった時代の先駆け的な会社だった。金子には自分用のパソコンを与えていた両親だ。彼女は幼いころからパソコンを触り、インターネットに接していた。小学校のころから通学は黒色の車で運転手が送り迎えしてくれた金子だった。その広い車内の後部座席で金子は、ゆったりとシートに背中をもたせて窓の外は見ずに左手に持ったスマートフォンでネットサーフィンを楽しむ。福岡市の中心に近い場所の小学校から大学まで一貫して進学できる教育機関に金子は通っていた。その通学手段は運転手付き自家用車だ。男女共学だが私立の小学校で入学者も少ないのは九州の福岡県福岡市なので珍しい話ではない、やはり富裕層の世帯が少ないのが一番の原因で教育熱心な親も少ないせいだ。福岡市には中学、高校と進める私立の学校は女子専用というものも二校あるし、中、高、大と進学できるキリスト教系の学校もあるが、小学校から大学までという教育施設は21世紀になってから創設された。
 そこから金子の自宅までは片道で自動車でも三十分は要する。所要時間三十分は窓の外に見える同じ風景よりもスマートフォンで好きなサイトを見て回るのが金子には面白い。
そういう通学を続けて今は大学に入り、二年目になって成人式を迎えた。この十三年間というもの運転手は同一人物で金子には必要な言葉しか喋らない。深く帽子をかぶっていて、顔は良く見えないが運転手の声は若い男性の声だ。金子は運転手は気にならなかったのだ。それは運転が凄くうまくて文句のつけようのないものだからだ。交通規則に違反することも一度もない模範的な運転手。だから金子は運転手に何か言ったことは実は、ない。それでも成人になる前から女性としては発育してくるし、運転手が男性らしいのは少し気にはなる金子では、あった。自分の胸は大きくなってきたし、乳首の感度も鋭いものを感じる。股間の黒の茂みは中学三年生で生えそろったし、その頃、生理も始まったが、運転手は気にならなかった。自宅に到着すると運転手は、
「御嬢様、着きましたよ。」
と簡潔に声を後部座席の金子に送ってくれる。そして、その声は金子が何か言いたくなるような声音でもなく、
「ありがとう。」
と一言、話すと後部座席の横のドアは金子が手を触れなくても横に開いた。
金子は理系の学部で生物学を学んでいた。同級生の男子は皆、眼鏡を掛けた真面目な青年ばかりで、金子には好意は持っても恋愛対象にはならなかったらしい。それで私的な会話を同級生の男子と小学一年生の時から交わしたことのない金子だった。
金子の母はインターネット関連の会社で働いていて金子の父と出会ったのだが男性と気軽に交流することの多い女性で、金子が十歳になるまでは父以外の男性とも交流を持っていた。それが、どの程度であったのか金子には知る由もない。そういう母は金子が成人した時は四十歳で、父は四十五歳だ。和服を着た金子の母は日本風の居間で金子に、
「金子。あなた男の人と交際したことないでしょ?」
と彫りの深い笑顔で訊いたので金子は、
「ええ。ないわよ。なんで、そんな事を聞くの?」
二人とも立ったまま、会話をしている。母は、
「わたしが十九歳のころには父さんと知り合って付き合い始めたのよ。その前に、ネット通販でバイブレーターを買って試していたのよ。そしたら或る日、電車の中で父さんと知り合いになり、休日には父さんの車で福岡市郊外にドライブしてね。色々な場所で夕陽を見ながらキスをしたものだわ。」
「ふーん。そうなの。それで十九で私を身ごもったのね。」
「そうなるわ。できちゃったわ、どーしよー結婚よ。私も父さんも会社員だったけど違う会社だったから、社内恋愛では、ないのね。」
「そーかー、それで?」
「だから、あんたもさ、わたしを見習って早く結婚したら?どうなのよ、って話なの。」
「そういう事ね。でも、大学の勉強は私には面白いものなの。周りの男子も勉強好きな真面目な人ばかりで。」
「母娘って似ているのよ。勉強より男を捕まえなさい。母さんがバイブレーターを買ってあげようか。」
「そうね、買ってもらってもいいけど。でも、ふつーさー、そんな話をするの?母が娘に。」
「普通、しているかもよ。わたし、あんたの子供、つまり私の孫の顔が早く見たいのよ。あんた私の一人娘だもの。わたしたち夫婦で働いて大金持ちになったけど、わたし大金には余り興味がないから孫に全部上げたいから。あんたも早く相手を見つけなさい。」
「って、命令するの?わたしに。」
「命令は、しないけど。勧めているだけ、だけど。あなたは私より美人だし、胸もお尻も大きくなったわ。そっか。」
と話すと金子の母は右手の人差し指と親指を合わせてパチン、と弾いて音を立てると、
「美人は敬遠される昔からの日本の風土。あんたを美人に産んだ私が悪いのだわ。ごめん、金子。」
「何も謝らなくてもいいわよ、母さん。それに別に異性で悩んでいる訳でもないもの。」
「異星で異性に悩んだら?」
「え、何のこと、それ。」
「地球外の星を異星というわね。その星の異性、つまり自分と別の性別の男性に恋をするの。」
「そんなのー、SFじゃないの、母さん。」
「いえ、いえ。その位の気持ちを持ってほしいの、母さんは心配でね、金子が一生独身でいたら、どうしようかって悩んでいる事もあるから。」
「独身だとしてもウチは、お金あるでしょ。わたし、一生困らないはずよ。」
「それは、そうだけど。一般的には晩婚の日本だから焦らなくても、いいわよ、金子。」
「ええ、もちろん、そうするわ。でも、頑張ってみようかな?」
母の琴音は娘の頑張る発言に同意した顔で無言になり、金子は自由奔放な身動きで自分の部屋へ行く。窓の外には小さな山が見え、紅葉の季節だ。山の麓の林が秋を主張していた。母には、あのような強気の発言をしたが、金子は実は男性との出会いを熱望していた。一人で自分の部屋にいる時は頭の中に、その出会う男性像を思い、見えない絵筆で理想の男の姿を描いてみる。いっそ日本人離れした男性がいい、と思うと彫りの深い顔に目は青で…、いや、行き過ぎかな、そうだ瞳の色は茶色がいい、鼻筋が真っすぐで高く、髪は短くなくてもいいし・・・
 幼いころから親しんだノートパソコンはテレビのない部屋で何でも娯楽を提供してくれる。理想の男性の顔を画像を組み合わせて作ってみるのも金子の最近の楽しみの一つだ。金子はプログラミングも出来るので写真画像のソフトを作って自分で楽しんでいる。が、写真は現実的すぎて、どうも自分の理想の顔は作れない。幻想の方が理想の男性像を作りやすいのだ。それで金子は目を閉じて、その理想の男性を思い描くこともあるし、目を開けたまま白昼夢のように、その男性を見ることもある。どちらにしても若い男性で知的で容貌の整った白おもての顔の人。(日本人には中々、いなさそうだけど。)と金子は思う。それが段々とハッキリ、金子の心の目に見えてきた。
バイブレーターって、母さんが言っていたわ、よし検索しよう。金子は心の目を閉じてノートパソコンで検索する。
一番上に出てきたのは、
最新バイブレーターを御紹介
というサイトだ。それを金子はクリックする。
何人かの人気AV男優の顔が掲載されていて、その男優の男根から製作したバイブレーターを売っていた。金子の理想の男性の顔には程遠すぎるAV男優の顔だが、無理にも一人を選ぶと、そのバイブレーターを買い物かごに入れる。そして清算した。注文完了!即日配達で、つまり今日、届く!東京ではないのに地方都市の福岡市でも今日、届くのだ。ネット通販も進化したものだ。
 その日の夕方に金子が大学から帰ると母が玄関に立って右手に小包みを持っていた。母の琴音はニヤリとすると右手を肩の高さまで上げて、
「これは大人のおもちゃでしょ。」
と訊いてくる。金子は、
「ええ、そうよ。母さんがバイブレーターの話をしていたから。」
「それじゃ、バイブレーターなのね?」
「ええ、そうです。御明察のとおりよ、母さん。」
「それなら、中を見ていいかしら?どうせ、あんたの御小遣いは私が出しているんだから。」
「ええ、でもスグに持ってきてよ。」
「はい、はい。すぐに二階のあんたの部屋に持ってきますよ。」
二人の母娘は玄関から、それぞれの部屋へ散開した。
 二階の部屋に入ると金子は椅子に座り、(もう届いたわ。AV男優、今唐達蔵(いまから・たつぞう)のペニスのバイブレーターを見て母さんは何を思うのかしら?)
母の琴音は自分の部屋の和室で(富裕な家らしく、夫人の部屋もある)娘の金子に送られてきた大人のおもちゃの小包みを開いた。中から出てきたのは茶色の男性器の平常時の長さのモノ。白い紙には、
この度は弊社の製品をお買い上げいただき誠に有難うございました。
AV男優の今唐達蔵の男性器を再現したシリコン製のバイブレーターです。このバイブレーターの特質は勃起する事。女性の肌を感知すると勃起を始めます。お客様が女性の場合は手の指で触っただけでも勃起し始めるでしょう。その他のもっと女性らしい部分で接触した場合は完全勃起までの時間は短くなるように設定してあります。
唇、乳房、乳首、そして女性器そのもの、などなど色々な部位で、お試ししてみては、いかがでしょうか。
 という説明文だった。もちろん、それ以外にも、その会社の住所やサイトおよびメールアドレスなども記載されている。琴音はビニール袋に入っているバイブレーターを取り出した。が、何の変化もない。(あれ?勃起しないわよ。あ、そうか。電源を入れていなかった。ん、充電すれば、いいのね。)ACアダプターでバイブレーターを充電する琴音。充電は十分と短い時間で済んだ。再びバイブレーターを細い指で握る琴音は手の中に膨張してくるバイブレーターのバイブレーションを感じた。(大きくなってきた。硬いわ・・主人のよりも、すごくなりそう。)
完全勃起したバイブレーターは亀頭の張りも十分だ。琴音は椅子に座ると足を大きく開き、熱さえある、そのバイブレーターを自分の中心に持っていく。

 二階にいる金子は母の琴音が中々、階段を上がってこないので、
ノートパソコンを起動するとメールが届いている。
 貴女を探していました
という件名で、本文は、
生物学者の会合で日本に来ています。貴女の大学の先生から生物学に熱心な人がいるという事で、紹介してもらったのです。ひまな時にでもメールください。星頼北男(ほしより・きたお)と言います。
(ほしより・きたお、って変な名前だけど、日本人みたい。海外に住んでいるのかな。)と思うと俄然、好奇心が沸点に到達する勢いで跳ね上がる。それと同時に条件反射のように金子の両手の指は、返信メールを打っていた。
こんにちわ
メールをありがとうございます。今、ひまなんです。ぜひ、お会いしたいと思います。
 それを送信すると五分もしないうちに返信が来た。
迎えに行きますよ
貴女の自宅の住所も教えてもらっています。今から車で行きますので、自宅にいるなら待っていてもらえませんか。
 それを見て金子は返信した。
待っています
自宅にいますから。
 一分後に門の外に車が停まる音がした。金子は下に降りると、母の部屋から、
「ああ、すごいー。」という甘えるような声がした。多分。バイブレーターを使っているんだ、と金子は思ったが玄関を開けて外に出ると門の外に白い大きな車が停車していた。玄関の鍵を掛けると身をひるがえして金子は門の外に出る。白い車の運転席が開くと、中から背の高い好男子が現れた。金子は思わずア!と叫んでいた。その好男子の顔は、自分がパソコンの画像ソフトで作成した理想の男性の顔、そのものなのだ。神秘学でいうところの引き寄せの法則が働いたのだろうか。驚いている金子を見ると、その男性は笑顔で、
「星頼です。メールしたんですよ。ドライブしましょう。乗りませんか。」
と優しい声で誘う。金子は逆らう意志など爪のかけらほども持っていず、
「乗りますわ。どこへでも連れて行ってください。」
と答えると白い車の開いたドアから助手席に乗り込んだ。
 運転席に星頼も戻ると助手席の金子に、
「行きたいところ、ありますか?」
「え?海でも見たいです。」
「それなら第二アイランドシティに行きましょう。」
「アイランドシティの隣の新しい人口島ですね。うわあ、行きたかったんですよ。」
星頼北男は運転席の前にあるタブレット型のようなパソコンに似た画面に出ている地図のある地点を指で押す。そこが福岡市の第二の人口島、第二アイランドシティだ。それから自動運転のボタンを押した。アクセルが自動で下に下がると車は快適に発進した。自動運転の開始、人間の目と違って自動運転の車の目であるカメラは前後左右についている。それを同時に捉えられるのが人間の目よりも優れている点だ。車の自動運転より二つの目で判断して運転する人間の自動車操縦の方が、より危険性があるのは核爆発を見るより明らかだ。
シートベルトも発車前に自動で運転席と助手席の二人に絡みつき、嵌め込まれた。助手席の窓から金子が見る風景は車の窓も大きいので、街路樹の緑が印象的だ。第二アイランドシティの隣に浮かぶ福岡市最初の人工島のアイランドシティの上空に浮かぶ愛高島は今でも世界最大の謎とされているが、これは火星人によって作られた巨大なUFOであるのだ。その事実は知られてはいないが、地円の陽元人などは知っている。
 金子の目に人工島の上に浮かぶ不思議な島の愛高島が映った。金子は、
「わたし、まだ一度しか愛高島に行ってないんです。子供のころ、両親に連れられてヘリコプターで行きました。」
と言葉を運転席の星頼に投げる。
それを聞いた星頼北男は気軽に、
「あの島には着陸許可が要ります。この車では行けませんよ。」
「えええっ?この車は空を飛べるんですか?」
「ええ、もちろん。だから、あの島の近くまで飛んで空中で停止しましょう。そこからの眺めは超絶景ですよ。大絶景かな。」
「でも、とても目立つのでは?空に浮かんだ車なんて。」
「あ、いや。ある電磁波を車の周りに張り巡らせれば、人間の目には見えなくなります。スイッチを押すだけで。」
と云うと星頼は右手の人差し指で運転席の一つのボタンを押した。突兀として二人が乗っている白い自動車は空に躍り上がったのだ。後ろを運転していた車の運転手は、
「なんだ、前の車は!消えてしまったぞ!」
と大声を上げた。後部座席の会社の同僚は、それを聞いて、
「消える車なんて、ないだろう。頭は大丈夫か。」
「大丈夫だよ。やはり見えなくなって、戻ってこない。」
「何かの錯覚だろう。気にするな。これから重要な商談だぞ。取引先に今のような話は絶対にするなよ。」
「ああ、わかったよ。黙っておこう。」
その時、星頼北男と黒沢金子を載せている車は愛高島の近くで空中に停車していた。星頼北男は、
「金子さん、窓の外から下を見てください。」
金子は大きな窓ガラスを通して見える博多湾と、二つの人口島が見えるのを信じられない気持ちで、
「夢を見ているのかしら、わたし。車がこんなにも高い空中に浮いているなんて。」
「これこそ最高のデートスポットです。今、後部を変えるから。」
と話すと星頼北男はハンドル近くのボタンを押す。すると後部座席が広がり、それは縦にも横にも広がったのだ。後部座席は折りたたまれて床からダブルベッドが、せりあがってきて止まった。両側と後ろの窓には赤いカーテンが現れ、ベッドの横には小型の冷蔵庫まで出てくる。それで、まるで後部座席はラブホテルのように変貌したのだ。星頼北男は、
「金子さん。後ろの座席を見てください。」
金子は後部座席を振り向き、あっと息をのむような顔をした。そして、
「いつの間に、こんなに変わったのかしら。最初は、こんなものは、ベッドなんてなかったのに・・・。」
「今、変えたんですよ。金子さん、ぼくは貴女の理想の容姿と思うのだけど、そうかな。」
「そうなのよ。わたし驚いています。自分で画像ソフトで描いた男性像と貴方が生き写しなくらい似ているんですもの。」
星頼北男は勝者の自信を見せて、
「金子さん、後ろに行きましょう。そして僕らは好きなことが出来る。」
「椅子があるわ。窓の外に出るの?」
「いや、椅子は今から引っ込めます。」
星頼北男の指がボタン一つで、二人の座席の背もたれを下部にしまいこんだ。
星頼北男は金子を横抱きに抱くと、後部にある広い部屋へ運び、ダブルベッドに金子を横たえた。
金子は手早く全裸にされ、星頼北男は自分も全裸になる。金子は、さっき見たバイブレーターよりも星頼北男の股間に、ぶらさがったものが勢いよく立ち上がるのを見て、次に北男の美顔が自分の顔に近づくと自分の唇と北男の唇が重なり、自分の柔らかな太ももは広げられて北男の、そそり立つものが自分の洞窟の中に入るのを感じ、その甘美な感覚に忘我の状態となっていった・・・。

 それから二時間は二人は快楽の世界にいたが、北男とて二時間連続して立たせていたものも、ゆっくりと平時の状態に戻った。その間、三回は放出させて持続させていたから見事なものだ。四回目の金子の中への放散により、満足したように萎えていったのだ。北男は自分の横に寝そべっている金子に、
「驚いたかな?こんな展開に。」
と訊くと目を閉じていた金子はパチと両目を開き、
「いえ、理想的な成り行きです。もしかしたら、すぐ妊娠するかも。」
「ああ、それは私の望みでもあるよ。実は私の顔は、本当は今の顔ではない。」
と告白するように話した星頼北男だ。金子は困惑して、
「本当の顔?って、なに、それ、どんな顔?」
「こういう顔なんだ。そら。」
北男は自分の顔に両手を掛けると、顔の皮を剥ぐような動作をした。するとマスクが剥がれたように、北男の顔は別人の顔が現れた。その顔は科学者の顔、というべき顔で、さっきまで金子に見せていた甘い美男の顔では、なかった。
金子の心臓はギクリ、とした。別人の顔とは言え、悪い顔でもない。金子は、
「びっくりしたけど、なぜ、そういうマスクを着けていたの?」
「それはね、君の理想の顔を変顔マスクに作ったんだ。私は地球人ではない。地円という星の陽元という島国から来た。本当の名前は霧沢という姓だ。霧沢無次郎と(きりさわ・むじろう)いうのが本名さ。地球の日本人の名前みたいだが、そもそも地円から太古の昔に地球に来た我々の先祖が日本の女性と性交して産ませた子供は今の日本人に多数いる。君の理想の男性像についてはUFOから君のパソコンにハッキングして、その顔を見ていたから、それをスキャンして変顔マスク生成機に送れば、地球のパソコンの印刷みたいに変顔マスクが出来上がる。それを自分の顔に装着すれば、君には君の理想の男性の顔が見えた、というものだよ。」
金子は成る程、と思った。すごい科学的な機械だ。UFO?やっぱりだわ、地球の科学じゃないもの。星頼北男、本当の名前は霧沢無次郎の男は、
「金子さん、これからの生き方は貴女の自由だ。他の男と結婚するのもよい。ただね、わたし霧沢無次郎は貴女の生涯を地球の誰よりも裕福に暮らせる資産を送り続けることを約束しよう。どれどれ、ちょっと確認させてくれ。」
と彼はベッドの脇の台にある体温計のようなものを手にすると、金子の陰毛のあたりに接触させた。すぐに外すと、その体温計のようなものをジッと見た霧沢は、
「よし。妊娠している。男の子が生まれるだろう。その子には金雄と名付けたらいい。でも、これは提案だから金子さんが名付けてもいい。」
「金雄にしますわ。私の名前と似ているし。」

 服を着た二人は前部の座席に戻ると、霧沢無次郎は下界に車を降ろし、金子の自宅まで送った。

 サイバーモーメントの社長黒沢金雄は社長室で本池釣次郎に、
「わたしの母は数か月前に死んだ。私の名前の金雄は異星人である父が提案したものである、と母には聞いていたが・・・そして兄もいることも。さっき君と来た霧沢さんが僕の異母兄なんだ。サイバーモーメントの発明品の多くは、あの兄の発案が多いのさ。とても優しい兄さんだ。母は結婚せず、独身をとおした。それは男性の稼ぎなしに、母も働く必要がなく生きていけたからだ。その資産は私の実の父である地円から送られてきていた。」
本池釣次郎は、
「すごすぎる話ですね。僕も地円に連れ去られて、それから、ここに来たんです。」
黒沢は社長のイスから身を乗り出すと、
「そうだったのか。それまでは一漁師としての生活を送っていたわけだ。」
と語りかける。釣次郎は、
「そうなりますが、でもSF小説を読むのが好きで、漁師なんて退屈な毎日と思っていたんですよ。」
「そうだろう、そうだろう。漁業は少しも進歩しなかったからな。海に囲まれた国としては変な話だ。それではサイバーモーメントに入社、という事で、いいな?」
「それは・・・僕も完全に漁業を捨てられません。家が代々、引き継いできた職業なので・・・。」
「それでは、まずはアルバイトみたいなものでもいい、か。」
「そうです、それなら出来ますよ。」

 陸上自衛隊の第四師団がある春日市は福岡市の南にある。外から見ても、その地下に広大な敷地があることは分からないだろう。その敷地は地上の三倍とも言われるが、今なお造営中だ。ジープで荒堀二尉に連れられて本池釣次郎は正門から陸上自衛隊春日駐屯地に入った。荒堀二尉はジープを降りると、
「まずは、やらなければならない事がある。それを、まず、やりに行こう。」
と話した。釣次郎は訳も分からずに、
「はい、お願いします。」
と答えると、颯爽と制服を着て歩いている荒堀二尉に遅れじと、ついていく。建物は多く、何が何やら分からない釣次郎は、その中の一つの兵舎に入った。荒堀二尉がドアを開けると、その中は白い服を着た隊員がいて釣次郎を見ると、
「今から調べるから、こっちに来るように。」
と話した。そこは医務室のような部屋だった。白衣を着た、その隊員は、
「その椅子に座って。上着とシャツを脱ぐ。」
と指示し、上半身を露呈した釣次郎の胸に聴診器を当てた。
「うん、異状ないよ。あとは体重と身長を計る。」

SF小説・未来の出来事21 未来の自衛隊 試し読み

童貞では、ないだろうと聞かれた積立金策は、
「実は風俗の女以外には童貞なんだ。君の言う事は正しいのかもしれない。」
と苦笑いをしながら、その美女に答える。美女はホ、ホ、ホと笑うと、
「わたしの体で風俗以外の女性にも童貞で、なくなれるわ。」
と言われた積立金策は、好奇心で目を光らせ、
「君の職業は一体、何なんだ?」
「婦人自衛官です。」
おい、積立、仮眠時間は終わったぞ!起きろーっ!
と耳元で声が大音響・ハイレゾ音源で鳴り響いた。積立金策は(そうか、夢を見ていたんだ・・)と気づいた。・・・・・
 という僕の友人の話です。」
と流太郎は荒堀二尉に話し終わった。荒堀二尉は、
「うん。その女性はロボット女兵士だと思う。積立さんは又、出会うだろう、その女性に。」
と話すと続けて、
「ここでは他にも様々な新兵器を実証実験しているんだ。共和党になってから国防予算を飛躍的に増やせてもらえたからね。文官が我が世の春を謳歌した時代は終わった。共和党には幕僚長だった人も多い。今の防衛大臣は、そして、これからも退官した幕僚長が就任していく。それ以外の防衛体制は、ありえないよ。体験入隊さえしたことのない奴らが長らく、日本の防衛大臣とか古くは防衛庁長官だったからね。
 そんな奴らに軍事の何が分かるというんだ。」
ここで荒堀二尉は激怒を、こらえる表情になると右手の拳を握りしめた。
流太郎は賛同して、
「それで素晴らしい新兵器が大型台風のように開発して行けるのだとしたら、古い時代の日本、2020年代のとかの日本より遥かに進歩して行けますね。」
荒堀二尉は満足げに、うなずくと、
「2020年ころまでは特に日本国民自体が自分たちに都合のいい政治屋しか選んでいなかった。老人福祉を優先してくれるとか、そういうのをね。野党も大したのは、いなかったから同じだけど。朝鮮半島からミサイルが飛んできたから日本国民も目を覚ましたんだよ。それで共和党に支持が集まり、新しい時代を日本が迎えた。」
「朝鮮は一つの国に、なったのに何故、ミサイルを日本に飛ばしたのでしょうか。」
「ああ、あれは操作ミスだったらしい。が、どちらにしても東京の上空まで到達する前に撃ち落とし、日本海に沈められたから大事には至らなかったが。
そこで大朝鮮民国に対しても新兵器を開発している我が自衛隊なのだよ。」
「そうなのですか。教えてもらえませんか。無理ですか?」
「いいや、大丈夫だ。でも、くれぐれも口外は、しないように。」
「公害になるから、ですか。」
「いや、他の誰にも喋って貰いたくない、という事だ。その点は、心に置いておくように。」
「分かりました。重々、焼き肉ジュージュー心がけます。」
荒堀二尉はロボット女兵士たちに、
「君達は隊舎に戻るように。今日の私の指揮は終わりだ。」
横並びに一直線のロボット女兵士は、それを聞いて迷彩服を着ると不動の姿勢で、それぞれが敬礼して足早に巨大な演習場を出て行った。荒堀二尉はスマートフォンのような無線機をズボンから取り出すと、
「矢線三尉、BW砲を搭載したもので、やってくるように。」
と命令した。
演習場内の一角から戦車が現れた。荒堀二尉と流太郎のいる場所から百メートルは離れている。その戦車は時速70kmは、あろうかという速度で流太郎の目の前に出現して急ブレーキで急停止した。
戦車の中から迷彩服を着た男性が現れ、荒堀二尉に直立不動の姿勢で立つと敬礼して、
「BW砲、発射準備完了です。」
荒堀二尉も敬礼すると、
「矢線三尉。それではBW砲の試射を行う。この演習場の中央に向けて発射するように。」
「はい、ただちに試射を行いますっ!!」
矢線三尉は戦車に乗り込んだ。巨大な砲門が左右についている大型の戦車だ。時速100kmは出して走行可能なのだそうだ。
茶色の戦車は右側の砲門の角度を上に向けていく。四十五度の角度で停まると、
バシッと光が炸裂したように砲口から光線が発射された。その光は演習場の中央の空間で停止すると、次第に若い女性の姿に変わっていく。
巨大な十メートルは、あろうかと思われる下着姿の若い女性が現れたのだ!
 その姿は流太郎や荒堀二尉の位置からは後姿しか見えない。盛り上がった尻とブラージャーの後ろの紐、どちらも白の下着。立体的にも見える若い女性の下着姿。
 荒堀二尉は無線機で、
「彼女を反転させて、我々の方に姿を向けさせろ。」
と命令した。たちまち、その巨大な美女は体を優雅に旋回させると自分の全身を正面から見えるようにした。
 その顔は白く眼は大きく、鼻筋は通って細い眉毛に長い睫毛。巨大な胸は形がよく、ピンクの乳首は透けて見える。股間を覆っている下着も透けていて、巨大な黒の縮れた陰毛が見えるのだ。
細い肩の両側に垂らした両腕の手の平を前面に向けている彼女は、まるで抱かれるのを待っているかのようだ。
 身長十メートルもある巨人すぎる下着姿の美女が流太郎と荒堀二尉の前に立っている。荒堀二尉は流太郎の股間を観察した。そこは少し盛り上がったようだ。荒堀二尉は(よし、これは上出来だ)と内心思った。何故ならば、ここまで巨大な女性に反応する男性も少ないと思われるからだ。
 無線機が鳴り始めたので荒堀二尉は、それを耳に当てて、
「どうした?矢線三尉。」
「大変なことが福岡市内で起こっているそうです、荒堀二尉。」
「大変な事、とは?」
「福岡市内に巨大なUFOが出現しています。」
「それで、どうした。」
福岡市内の中心にある天神という場所はデパートやビルが立ち並ぶ人口密集地だ。天神中央公園という広い緑の公園があり、そこにはブレイクダンスやギターを片手に歌う若者なども集まってくる。
数百人は、つどえる場所なのだが平日でもクリエイティブ志向の若者や、外回りの営業社員の憩いの場だ。そこへ午前中の今でも数十人の人々がいる。突如、天神中央公園の上空に巨大なUFOが現れたのだ。
いきなり黒い影で公園は覆われた。空を見上げた人々は、
「あっ、UFOだ。どでかいぞっ。」
「ここに降りてくるんじゃないのかー!」
「逃げよー。何が起こるか、分からない。」
と叫びだした。
クリーム色の円盤は徐々に降下し始めた。その円盤の直径は天神中央公園の直径の半分は、ある。
急降下した円盤は急停止した、その高さは公園から十メートルの高さだ。
円盤の底部から黄色の光が放出され、その光は公園に届くと消えた。その光の中に三人の女性の宇宙人が立っていたのだ。身長三メートルの全裸の女性宇宙人。黒髪が二人、金髪が一人で、股間の陰毛も、その髪の毛の色のままだ。公園にいた人々は走って逃げだしたが、三メートルの全裸の女性宇宙人も走り始め、背広を着た男性や、私服の若い男らを、つかまえると地面に軽く押し倒した。
凄い力らしい、その全裸美女たちは巨大で形のいい乳房を揺らせつつ、押し倒して馬乗りになった男のズボンを脱がせ始める。女性とは言え宇宙人で力も強く、また彼女達に見つめられると、その甘い瞳に男たちの下半身は、とろけそうになり勢いよく勃起した。ズボンをおろされパンツから勃起した肉棒を出されても、抵抗できない公園にいる男たち。
 三人の巨大な全裸の宇宙人に男三人は、同時に逆強姦された。騎乗位で彼女達を貫かされたのだ。その女性たちの膣自体も三メートルの身長に、ふさわしいものだったが、締りがよく、搗き立ての餅のように柔らかで、すべすべっとして、なめらかに男たちの勃起肉棒に絡みつく。その気持ちのよさは地球の女の三倍は気持ちよかったそうだ。
・・・・という事態が発生しているそうであります。」
と矢線三尉の興奮気味の声が荒堀二尉の耳に報告した。
 荒堀二尉は(・∀・)ニヤニヤすると、
「それから、どうなっている?その裸の女子宇宙人と男たちは。」
「三人の男は円盤の中に黄色い光線で裸の女性宇宙人と共に吸い上げられたそうであります。」
と矢線三尉は無線機で答えた。荒堀二尉は、
「その円盤は?何処にいる。」
「上昇して見えなくなったそうです。」
「ふーむ。宇宙人に福岡市の男が三人、連れ去られたか。」
荒堀二尉の無線機に赤いランプが光る。緊急連絡の印である。荒堀二尉は、
「緊急連絡が来ている。切るよ、矢線三尉。」
それから赤いボタンを押すと、
「はい。藤丘一尉、こちらはBW砲の実証中です。。」
と答えると藤丘一位の声が、
「他の部隊は緊急体制に入っている。が、君達は新兵器の実証、実験を続けてよろしい。」
「はい、藤丘一尉、続けます。」
「もっとも、これから君達の出動もないとは限らん。その点は心に留めておいてくれ。」
「UFOに男性三人が連れ去られたそうですね。天神中央公園から。」
「そうだ。大勢の目撃者がいる。ネットニュースには、すぐに配信された。戒厳令などは出ないが、福岡市民、特に男性は又、狙われるかもしれん。昼にスマートフォンでニュースなどを見る人たちは驚くだろう。」
「自分も驚きました。」
「そのUFOの目的は男子を連れ去る事らしい。侵略攻撃などは行わないと幕僚の方では判断されている。
で、だ。君らも帰宅途中は気を付けた方が、いいよ。」
「とはいえ藤丘一尉。相手は我々より遥かに、すぐれた方法を持っているはずです。防御手段など思いつきません。」
「そうだろうな。その時は、その時だ。種馬みたいな男が欲しいだけかも知れんからなー。まあ、連れ去られてみるのも一つの方法だ。帰れることがあったら、その時には報告してほしい。」
「そんなー・・、でも、そうするしかありません。」
「では、勤務を続けるように。」
「はい、続行します。」
無線機を切ると荒堀二尉は、
「UFOからの宇宙人女性による逆レイプ事件が発生したらしい。三メートルの身長の宇宙人女性の美女三人が全裸で現れて、天神中央公園の男性三人を公園内で逆レイプして宇宙船で連れ去ったそうだ。
ここは地下施設のため、UFOが現れることもない。まずは安心だよ。しばらく、ここに泊まっていってもらってもいいよ、時君。どうかね。」
「社長に話してみて了解が取れたら、そうしたいです。でも、僕は今まで色々な星にも行っていますし。」
「そう、かね。宇宙人には抵抗がない気持ちか。」
「そう言えるかもしれません。」
「昼に、なったよ。めしに、しよう。ここの地下にも食堂は、あるから。ついて、きなさい。」
そう話すと荒堀二尉は無線機を再び手に取ると、
「矢線三尉、昼めしの時間だ。一緒に行くぞ。」
と話した。

 地下食堂で昼食を終えた三人だった。主に新兵器開発室で使う食堂なので、それほど広くはない。壁にはビキニ女性のポスターが数多く張り付けてある。荒堀二尉は静かな口調で、
「宇宙人の襲来は今、始まったわけだ。しかも、それは裸の美女たちによる逆レイプなわけだ。何処の星から来たのかも分からないのだからな。」
矢線三尉は、お茶を片手に、
「あのような場合、これから自衛隊が出動するんでしょうか。男たちを連れ去っただけなら、軍隊が攻撃してきた訳でもないです。」
と荒堀二尉に尋ねるように話す。荒堀二尉は、
「そうだな。一種の性犯罪・・・にも、ならないな。男を逆レイプしても女の罪には、ならない。円盤で連れ去ったのは誘拐だから自衛隊の出る幕では、なかろう。われわれは待機的状態に置かれると思う。」
流太郎は訊く、
「宇宙的防衛の能力は日本どころか世界中に、ないですよね、今現在も。」
荒堀二尉は、
「そうだな。」
とポツンと答えた。

 この福岡市中央公園の男子の円盤誘拐から防衛省内に宇宙防衛庁が発足した。とはいうものの、宇宙防衛装備は貧弱なものである。空飛ぶ円盤を発見しても攻撃を開始しない限り、静観していなければ、ならない。それに空飛ぶ円盤は視界から消えてしまうものもある。
 今のところ男子三人が円盤に連れ去られただけだ。それ以降、一週間たっても例の円盤は現れてこない。大規模な被害が出ない限り真剣に行動する事もないのが防衛関係の仕事だろう。
 この事件は世界的に有名となっていった。円盤の出現と逆レイプ、そしてレイプされた三人の男性が黄色い光で円盤に吸い上げられるのをスマートフォンで撮影していた人たちも、その場にいたからだ。
その動画を動画共有サイトやSNSに投稿したりしたため、土砂降りの雨のように世界中に拡散された。
Fukuoka ufo
という言葉は全世界で知られることになった。

 午後からの巨大地下演習場では空からの護衛機による作戦が展開された。
荒堀二尉は、これをABD作戦と呼ぶ。グオオーンという凄まじいエンジン音と共に巨大演習場の上空に三機の護衛機が現れた。三機とも急降下すると何かの物体を次々に演習場の中央地帯に落としていく。その後、三機は演習場の外へと飛び去った。
 ネット裏ではなくネット前に立っていた荒堀二尉、矢線三尉、流太郎の三人である。その爆撃を見た流太郎は、
「爆弾では、ないみたいですね。爆発しません。」
と声を上げた。荒堀二尉は微笑して、
「爆発物では、ない。あそこまで行くぞ。」
と二人に声を掛ける。
少し駆け足で荒堀二尉が走り出したので、残ってはならないと二人も走り出す。
爆弾ではない何物かが落ちた場所に三人は辿り着いた。流太郎は落下しているものを見て、
「あっ、これは・・・。」
と声を出してしまった。なんと、そこに落ちていたのはカラーのアダルト雑誌で、表紙は全裸ヌードで美女が椅子に座って大開脚している。その股間には黒の陰毛と、その下の開いた女性器が無修正で写し出されている。
荒堀二尉は両手を腰に当てると、
「ABD作戦とはAはアダルト、Bはブック、Dはドロップの略語で、つまり、これらのアダルト雑誌を敵陣地の最前線に落とす作戦だ。」
と声も高らかに宣言した。
矢線三尉もエロ雑誌の前に立つと、
「これは凄いな。ヨーロッパの女性、から朝鮮、中国、日本の女性も写っていますね。十種類の雑誌みたいですが、日本の女性のオールヌードは日本国内に落下させるのですか。」
と質問した。荒堀二尉は得意げに、
「これらは、その一部でね。全世界各国の若い美女のフルヌード、大開脚して女性器丸見えの雑誌を新兵器開発室で製作している。日本国内に落下させるのは、ありえない話だけど、敵が日本に上陸してきた場合、それは第一に沖縄である。その場合、これらのエロ雑誌を沖縄の海浜に落下させる計画なんだ。」
矢線三尉は感心して、
「マンコは剣よりも強し、ですか。驚いたなあ。」
と発言した。荒堀二尉は、
「これを開発しているのは世界でも我が国だけだ。最前線の兵士たちは性欲が頂点にまで抑えられているから、これを見たとたんに勃起する奴も多いだろう。それから日本の自衛隊は軍事作戦を展開する。」
と話す。矢線三尉は荒堀二尉の顔色を覗うように、
「この雑誌のどれか一つを貰ってもいいですか。」
「ああ、いいよ。これはサンプルだから写真も鮮明度が落ちる。ただし、古本屋には売らないでくれ。」
と荒堀二尉は念を押した。矢線三尉は腰を屈めつつ、
「ありがとうございます。どれに、しようかな。」
と声を出した。荒堀二尉は、
「どれか一冊にしておけ。珍しいのは中国の美女のマンコでは、ないか。」
「そうですねー、あ、これか。」
矢線三尉は表紙が中国美女の大開脚、オマンコ丸出しのものを拾い上げた。そして、
「中国はポルノ禁止だから撮影は困難だったでしょう。うわあ、中国の女のオマンコを見るのは初めてです。」
と感想を漏らしたので、荒堀二尉は、
「香港の女性を採用したよ。香港映画にも出ているそうだ。」
「中国人向けには最高ですね、これ。」
と矢線三尉。荒堀二尉は、
「その通りだ。時君には申し訳ないが、これらの雑誌を差し上げられない。なにせ、武器だからね。」
と流太郎にダメを押した。

 博多湾の海岸線は、かなり長い。その沿道でマラソン大会が行われたりしている。国際的なマラソンの歴史は福岡市では古くからある。その沿道は大きな道路で、もっと北に行くと博多湾の海に面した場所がある。小さな漁船が並んで停泊している場所も一個所ではなく、博多湾を北に取り囲むような地形の、あちこちに見られる。
 漁業に携わる人達も少なくなり、一人で船に乗り漁をしている若者も多い。本池釣次郎も、そんな若者の一人だ。年齢は二十歳、高校を出て最初は親に連れられて漁に出ていたが、二年たつ今、一人で船に乗って海産物を採集している。
 漁師の朝は、とびきり早い。午前四時には船に乗る。本池釣次郎は福岡市西区の小戸という海に面した場所に住み、午前三時半に起きて船に乗るのだ。
イカの墨みたいに黒い闇の中を明るいライトをつけた小さな漁船が博多湾に出ていく。本池釣次郎の乗った船だ。二年も漁をして逞しい体の釣次郎は身長は180センチはある。
 彼は沖に出て投げ網をした。遠くの灯台に明かりが灯(とも)っている。それで真の闇ではないし、釣次郎の乗っている漁船は強い光を発しているので、彼の手元は昼のように明るかった。
 投げ網だけではなく、釣り竿で針に餌を付けて暗い海に投げる。トッポーン!という音を立てて餌の付いた釣り針は醤油のような海面を潜(もぐ)った。
 しばらく待ったが、今日は魚が餌に掛かってこない。いつもなら、もうウキが動くのに。
手ごたえの無さにボンヤリとして沖を見る釣次郎の目に驚くべき光景が見えたのだ。
 暗い海上の上を一人の美女が全裸で歩いてくる。それだけでも釣次郎は腰が抜けるように驚いたが、その美女の髪の毛は膝まである長さで、その白い裸体を薄い黄色の光が覆っているのだ。幽霊か?幽霊に違いない、と釣次郎は思った。もう、その裸女は目の前、五メートルに近づいてきていた。
 幽霊ではない、と釣次郎は思いなおした。何故なら彼女の裸体は白いが透明ではないし、おいしそうな果実のような二つの乳房はプルプルと蠱惑的に揺れている。それにしても彼女は女神のように海の上を歩いてきたのだ。だから人間とは思えない。
 口を開く事も出来ない釣次郎の目前、二メートルに迫った海の上を歩く美女はス~っと空中に浮き上がると、釣次郎の船の上に着地した。釣次郎の右横だ。動けないでいる釣次郎に全裸の美女は、
「驚いても無理は、ないわね。でも、わたしは妖怪でも超能力者でもない。今、あなたが見た海上の歩行は貴方にも出来るのよ。訳は後で話すから、とりあえずはセックスしましょう。」
と話して釣次郎に近づく。
 釣次郎は、その女性の身の回りに輝いていた黄色い光が消えて今は船の明かりで見える姿となっているのに気付く。釣次郎は座ったまま、彼女の方を向き、
「一体、あなたは人間なのですか。」
と訊いた。
「人間だから安心して。」
彼女の手は釣次郎の股間に伸びた。柔らかな手が釣次郎の少し張ったズボンの上から彼の肉息子を掴み、それから、それをパンツの中から引き出すと、釣次郎を仰向けに倒して、海上を歩いてきた美女は釣次郎と裸体を重ねた。
 船の出すポンポンポンポンという音を聞きながら、釣次郎は自分の上で裸体を動かす女神のような女性の性技に圧倒されて、何度も男の精を解き放たれてしまった。
 太陽が水平線に頭の上部を、そのうち出すであろうと思われる薄明かりが海面を照らし出した時、釣次郎の上に乗っていた女神のような裸女は体を離して立ち上がった。
彼らの上空に丸い巨大なUFOが現れていた。そのUFOの底部から黄色い光が、まっすぐに下降して寝たままの釣次郎と立っている女神的美女を包括すると、彼らを円盤内に引き上げていった。

 本池釣次郎が消出した漁船は、やがて海上保安庁に発見された。人の乗っていない漁船が博多湾に漂流していたのだ。数百年前に起こったマリーセレスト号事件のように、この話は世界的に有名になっていくのだが、真相を解明した人物は誰も出なかった。
 本池釣次郎は遠い別の太陽の太陽系内にある地球と、同じような環境の惑星にUFOで連れ去られたのだった。
 円盤内では釣次郎を逆レイプした美女は宇宙服のようなものを身に着けた。縫い目のない服だ、そういうのをシームレスというのは割と知られている言葉で、服を着た美女は全裸の時とは別人のような知性溢れる眼差しで、
「あなたもチンコをパンツの中に、しまいなさい。」
と釣次郎の股間に注意した。
 服装を正した釣次郎は好奇の目で、
「あなたは日本語が、うまいので宇宙人には見えませんよ。顔も日本的美人だし。」
と云うと、
「日本語は勉強しやすい環境にあったの。」
「どういう事ですか。」
「円盤は着陸するわ。私の星に。着いた後で又、話すから。」
その星の大気圏に突入したらしい。空から眺めた、その星は地球と双子のように、よく似ていた。
 しかも日本列島に似た島が見える。違う点は、といえば朝鮮半島が大陸と切り離されていて、福岡県と接続しているところだろう。
長靴の形に似ている朝鮮半島は地球の場合、九州と朝鮮半島の間に対馬が、ある。しかし、その星では対馬はなくて、朝鮮半島の一部が福岡県と地続きになっている。
朝鮮半島の下部の横の広がりは福岡県の幅よりも広いので、そのまま接続は、そもそも出来ないのだ。
 その星の朝鮮半島の上部は海になっている。地球の場合は朝鮮半島の上部は中国とロシアに接している。中国に接している部分が地球の朝鮮半島の大部分で、ロシアとは、ほんの一部が接しているにすぎない。では、その星の朝鮮半島の上部の中国とロシアに接している場所は、どうなっているのか、というと、海になっている。
 それが見えたので釣次郎は、
「朝鮮が日本に、くっついた地形ですね。地球とは違うな。」
と話すと、その星の女性は、
「あれも元々は地球の朝鮮半島と同じように日本とは海で離れていたのよ。それを地形変動兵器で強引に我が国に接続させたの。その前に我が国は地球の朝鮮半島に、あたる国を武力制圧していました。それでも海で離れているため、統治が上手くいかないので、地形変動兵器で朝鮮半島を大陸から切り離し、わが国に接続させたんです。これには、この星の全ての国々は驚きました。
地球にも、ないでしょ?そんな兵器は?」
「ええ、ありえないです。貴女の国の名前も日本ですか。」
「いいえ、陽元(ようげん)といいます。意味の似た名前だけどね。それでさ、我が国の言葉も地球の日本と同じ言葉だよ。ほぼ、同じ。国の名前だけが少し違うのよ。びっくりした?」
「びっくり、しゃっくり、ぼったくり、ですー。」
「はい、わたしの家の屋上に着いたわ。降りようか。その前に、あなたの名前は、釣りをしていたから釣次郎とかじゃないの?」
「ええ、ええ、当たりです。本池釣次郎と、いいます。」
「わたし、銀河無量子(ぎんが・むりょうこ)よ。この星は陽元語で地円、といいます。さ、わたしに、ついてきて。」
銀河無量子が円盤の壁の前に立つとドアが開いた。彼女の尻の後ろから本池釣次郎が外へ出ると、太陽の光が注いだが、地球に降り注ぐ光とは微妙に違うものを釣次郎は感じていた。そらを見上げた釣次郎は、太陽が二つ並んでいるのに気付いた。地球でも同じように、太陽を直接見ることは無理なのだ。それでボンヤリと二つの輝きを釣次郎は見たのだ。
 地円という星に来るなんて、夢でも幻でも考えることも平凡な漁師の釣次郎には、なかった事だ。
プルン♪プルンと大きな尻を左右に振りながら歩き、色気を発しつつ歩く銀河無量子は二十代前半に見える美女。宇宙服はピッタリと彼女の体に装着されているので、尻の割れ目までが浮き出ている。
 ビルの屋上のような場所が彼女の自宅の屋上らしい。その片隅に下へ降りていく階段があった。階段を降りて、すぐ白色のドアがある。それを開けると銀河無量子は、
「中に入るわよ。」
と釣次郎を振り向いて話した。
 その部屋の中は円形の壁と窓を持っていた。四つの角があるのが普通の部屋だ。その角が無くて円で囲まれていて、窓もすべて繋がっていて円形で部屋を取り囲んでいる。体を一回転させれば360度の全ての窓の外から外の景色が見える。
 白い椅子が釣次郎の方に移動してきた。立っている釣次郎の背後に回ると、その椅子は停止した。銀河無量子は、
「客を探知すると自動的に移動する椅子よ。客人が座れる位置まで来ると自動的に停まるの。私は、しばらく立って話すから、あなたは、その椅子に座りなさい、釣次郎君。」
と話して右手の中指と親指でパチン、と音を立てた。催眠術にかかったように釣次郎は後ろも見ずに座ってみると、丁度の位置に自動客人探知椅子は、あった。尻もちを床につくのでは、という懸念も幾分あった釣次郎は、
「いやあ、ピッタリと座れる位置に来ていましたよ。驚きです、これ。」
と正に異星人を見る目で銀河無量子に話すと、
「機械だから間違いないわ。それは、この陽元という国でも高価だから一部の人達しか買っていない椅子。太陽光で充電されるから電気やら、その他のエネルギーは必要ないの。地球の日本も陽元のように発展して欲しいわ。でも、それは無理な話かもね。」
太陽光は、その部屋の全方位的に差し込んできている。銀河無量子は豊かな胸を張ると、
「ここは地球の朝鮮半島のソウルなのよ。私の父は朝鮮県知事をしているわ。父は今は県知事としての仕事で出ているから、この部屋も使えるのね。
父は陽元陸軍大将で、朝鮮方面軍司令官だったけど退官後は県知事になっているわ。」
と話した。
釣次郎は快適な椅子の座り心地を感じつつ、
「選挙で選ばれたんですか、県知事に。」
「いいえ。選挙なんて、ありません。朝鮮方面軍の司令官が退官後になる役職が陽元の朝鮮県知事なのです。朝鮮方面軍は陸軍の兵士だけで二百万人も、います。そのほとんどは陽元人です。朝鮮人は志願しても徹底的に調べ上げ、陽元に絶対服従の人間だと証明されない限り朝鮮方面軍には入隊させません。
 陽元国陸軍は陽元国内に四百万人。中国の満州に二百万人。」
なにか古い時代の地球の日本に似ているようだ。釣次郎は歴史は詳しくない。それで彼は、
「中国の満州?中華人民共和国に、そんな場所は・・・て、それは地球の話ですね。地円にも中国があり、満州があるんですか。満州って、どの辺にあるんですか。」
「それは地球の古い時代の中国と同じ場所ですよ。中国の東北地方です。陽中戦争で陽元が勝利を収めたので、台湾と朝鮮半島と満州が陽元の領土になりました。」
「陽元帝国ですね。天皇は?いますか?」
「陽元には地球の日本のように天皇は、いません。痔民党という愚かな政党が天皇らしき人物を祭り上げようとしましたが、共和党の多数反対により否決されました。陽元も地球の日本と同じ共和党という名前の政党が与党です。」
「痔民党って・・・自由民主党ですか。」
「そうです痔有眠主党ですよ。」
「うわあ、日本の野党の名前ですね。議席は三ぐらいしかない、という。」
「こっちの痔民党は二議席ですよ。笑いで受けたくて政党の名前も痔有眠主党と、つけたらしいわ。」
「自由民主党という名前が笑えるんですかね。」
「だって痔が有る眠りを主にする党なのよ、おかしくないかしら?」
「痔がある?眠り?」
困惑する釣次郎を見て銀河無量子は白板に電子ペンで大きく、
痔有眠主党
と書いた。それを見た本池釣次郎は笑い出し、腹を抑えて、
「その漢字の党だったんですね。おかしいや、それは。受けますよ、笑える。」
銀河無量子は、咳をオホンとして、
「陽元には天皇も歴史上に居ませんから、帝国という名は、どうかというわけ。地球の日本史を勉強した痔有眠主党の議員が発議したらしいのよ。笑いは取っても否決されました。天皇なんて陽元には要りませんから。」
なるほど、と釣次郎は、うなずき、
「日本でも今度、共和党で天皇制を廃止する発議が、ようやく出ましたよ。賛成多数で国会を通過すると思います。宮内庁と神社庁を、まず廃止しました、天皇の給料も昔の四分の一に、してましたが、それで税金で天皇の給料を払わなくても、よくするらしいです。」
銀河無量子は微笑みを浮かべ、
「地球の日本には私、詳しくないのよ。でもね、そもそも地球の日本には五千年前にも人々は、いましたし、国に似たものも、あったと思う。アラハバキの神様を信仰していたのが古代の日本です。
神武天皇は存在したか、どうかは不明ですよ。陽元では、そのようなものは存在していなくて天皇家もありません。それでも釜穴幕府や下戸時代は、あったのね。」
「釜穴幕府?下戸時代?」
「そう、です。釜穴幕府はオカマが開いた政府で、下戸幕府は酒を飲めない人たちが下戸という土地に開いた政府ですよ。でも日本と違って下戸幕府は二十年で討幕されました。
下戸城に大量の酒を放って大政奉還したのよ。その時から陽元の歴史は共和党が開いてきた。日本とはずいぶん違うけどね。
アメリカからベリーという人が来て鎖国を解き、陽元も共和党で国造りしてきました。
釜穴幕府が存在した釜穴は地球の鎌倉と同じ場所にあります。新宿のオカマが別荘とか引退した後の家を持つのが釜穴らしいのね。」
へえええっ、と釣次郎は驚きの表情だ。日本史よりも面白い。銀河無量子は興に乗った様子で続ける、
「アラハバキの神様あたりの話に戻りましょう。これは地球の日本の歴史の話。朝鮮半島は、そもそも日本人が移り住んで支配していたのです。三国史記という朝鮮の歴史書にチャンと記されているのですよ。そもそも神武天皇が日本を統一したとされる年は小さい国が日本には、あちこちにあったとか。で、怪しげな話になりますから。それと天照大神も怪しげな話では、ありますわ。太陽を神様だと信仰していたものが天照大神なのよ。それや、これや、あれやと日本の歴史はオカシナものばかり、我が星の陽元には神話は、ありません。
地球の世界各国でも王権神授説とかファラオは太陽神の子孫とか色々と権威付けを、おこなっています。
 陽元は地球の日本と似ていてパラレルワールドと誤解されそうだけど、実は結構な範囲内で違いがありすぎるみたいね。

SF小説・未来の出来事20 試し読み

と、いう事で流太郎の脳の一部は人工知能と入れ替えられた。医者は、その場の助手達に、
「手術は成功だ。営業に必要な会話が数千万は組み込まれた会話を記憶する人工知能を移植したんだ。日本初、いや、世界初だ。これで彼も、仕事が上手くいくだろう。」
そう話すと医師達は手術室を出て行った。

 一か月後に退院した流太郎は会社に電話すると、社長の籾山は、
「一か月も休んで、何をしていたんだ?」
ガンガンと大声で聞いてきたので、
「人工知能を入れてもらっていたんですよ、ぼくの脳に。」
と流太郎が答えると、籾山は、
「ほおう、そういう手術があるのか。詳しい話は会社で聴こう。今から出てこい、な?」
「はい、只今から出社します。」
と答えてスマートフォンの時計を見ると、午前十一時だった。
楽しい出勤だった。地下鉄の中は人が少ないし、脳の中は何か変わったような気がする。地下鉄のアイランドシティ駅を出ると、歩いてすぐのビルに株式会社夢春はある。マザーズに上場しているが、有名ではないのはサイバーセキュリティの会社が広く一般に知れ渡ることも、ないからだろう。それでも上場企業は株主様のために進歩する必要がある。
そのために、営業は特に必要とされるのだ。いくら技術があっても、人に知られなければ、何の売り物にもならないからだ。
夢のような春を株式会社夢春は目指している、と、かつて社長の籾山は流太郎に話したことが、あった。
と、こうも、ああも思っていると、もう会社のビル。玄関を入り、エレベーターに乗ると、気が付けば流太郎は社長の籾山の方に歩いているのだった。
異次元感覚は脳の、せいか?籾山の声が、
「おはんにちわ。もう昼前だし、おはようと、こんにちわ、だ。脳の手術を受けたのか。どうだ?調子は。」
「すこぶる快調です。営業脳を移植してもらいましたよ。」
「それなら期待できるなあ。さっそく営業に出てもらいたいんだ。福岡市内の会社も、ようやくサイバーセキュリティの重要性に気づき始めたらしい。だから顧客は容易に獲得できる。そこでだ、今回の営業先だが、店舗を持たずに商品を販売している会社に行ってもらう。ネットショップだよ。行先は、ここ。」
と籾山は名刺を流太郎に手渡した。
株式会社 トイザマス 技術部長 
 尾茂茶瓜子
福岡市東区アイランドシティ・ハイランドタワービル

というのが、その名刺だった。流太郎は、
(おもちゃ・うりこ、と読むのだろうな、この名前は。)と
思いつつ、
「それでは、行ってきます、社長。結果は素晴らしいものに、なりますよ。まるでタヒチの空の海のように。」
と言葉を投げかけると出かけて行った。
それを聞いた籾山は、
(ほうう、少し語彙が豊富になったようだな、時は。手術の効果が出ている・・・みたいだなあ。)
と感心していた。

トイザマスという会社も、株式会社夢春と同じ人工島内にある。ハイランドタワービルの一階が一般的な玩具売り場で、地下一階が大人のおもちゃ売り場だった。地下一階の店の奥に、トイザマスの営業本部や業務部、総務部、そして社長室などがある。
 大人のおもちゃ売り場の入り口から入ると、店の奥に流太郎は進んだ。バイブレーター、オナホールなど、大人のおもちゃが行列のように並んでいる。実店舗の大人のおもちゃの店は無人店舗である場合もあるが、ここは有人のようだ。しかも、若い女性が店員として立っている。客も午前中というのに、かなりいる。大半は年金暮らしの老人だ。それも一人暮らしの男性老人が最先端の大人のおもちゃに目を光らせている。
まるで老人のおもちゃ、の店であるかのようだ。立体映像のDVDの売り場には、多くの老人が立っていた。その一角には大型スクリーンが実物大のアダルト映像を流している。それを数十人の男性老人が取り囲んで見物している。一人の老人が声を上げた。
「すごいなー。まるで目の前で、やっているようだよ、この男女。」
別の老男子が、
「女性器丸見え。でも海外ものには見えんなあ。」
その時、風のように飛んできたのが女子店員だ。映像機の横に立つと、
「みなさん、立体映像を御覧いただき有難うございます。この映像は立体に見えるものではなく、本当に立体化しているのです。実際に映像の画面は平坦では、ありません。スクリーンから映像が浮き出ています。横から御覧ください。」
と解説した。老人男性一同は、スクリーンの真横に移動して見ると、確かに映像は裸の男女を立体に映している。素晴らしい映像技術だ。美人の若い女子店員は続けて、
「これだけではなく、もっと凄い機器もありますよ。」
と話すと、老人男性たちは、
「どんなものだい。見せてくれよー。」
「もっと凄いって、どこが?」
「あんた、もしかしてアンドロイド?」
と口々に声を出した。
女子店員は、
「わたしはアンドロイドでは、ありませんよ。新製品はAVメーカーと提携して作られました。こちらです。」
と話して、スクリーンの隣にある大型映像機を細く白い右手で示した。
その機械の画面は高さ二メートル、幅も二メートルの巨大画面だ。これなら実物大の人間が映るだろう。
奇妙な事に、その画面の真ん中より少し下の辺りに何と!オナホールが、あるではないか!
それ以外は電源の入っていない暗い画面だ。流太郎もの老人たちの、すぐ近くで、その新製品の機器と美人店員を見た。美人店員は、その機器の電源ボタンを押して稼働させたのである。
映像は全裸で立っているAV女優を実物大で映した。彼女の股間は黒い茂みの下に女性器が男性器を受け入れたさそうに待ち構えている。
そのAV女優が画面の中央に移動すると彼女の股間の位置はオナホールが隠す形になる。そのオナホールは・・・女子美人店員が、
「このオナホールは、今、画面に映っているAV女優の女性器から形作られたものです。表面的なものではなく、このオナホールには奥行きがあります。画面の内部に埋め込まれているのです。」
老人達は、
「ほー。それは、いいな。」
「ほんとにな。このAV女優と本当に、やっている気分になれるぞ。」
と感心する。彼らの中にはズボンの股間を少し、膨らませた者もいた。美人店員は笑顔で、
「どうですか、みなさん。試してみませんか。実際に嵌められますよ。」
と勧める。老人たちは皆、照れて、
「そんな事、できるほど若くないよ。」
「若くたって、こんなに人が、いるじゃないか。やりかねるよ。」
美人店員は流太郎に気づくと、目をパチリとさせて、
「そこにいる若い男性の方、やってみませんか?」
と明るい声で誘いかける。
老人連中は自分たちの後ろにいる流太郎に気づくと、
「おー、若いの。もうチンコ立っているんじゃないか?」
「そうだ。若い兄ちゃん、やれよ。タダなんだろう、店員さん?」
と言うので紺色の制服を着た若美人は、
「ええ、もちろん無料ですよ。そこの方、AV出演の経験が、おありのようですが。」
図星、だった。でも、流太郎は、
「いえ、仕事で来たんです。御社の技術部長と、お話しするために、ですよ。」
と抗弁すると美人店員は、
「技術部長の尾茂茶で、ございますね。今、連絡を取りますわ。」
と話すとスマホを取り出して番号を押した。
「あ、尾茂茶部長。売り場の色毛です。今、新製品のモニターをしてもらいたい男性が現れまして。で、その方は今日は仕事で、ここへ来たそうです。尾茂茶部長と営業の話があるからと断られました。尾茂茶部長、構いませんよね?この方にモニターに、なっていただいても。」
尾茂茶部長の声は色毛という美人店員にのみ聞こえる。
ーわたしに社用で・・・と、時さんという人が来られる予定だわ。その方は、時さん、じゃないかしら。」
美人店員の色毛は流太郎を見ると、
「時さんという、お名前でしょうか。そちらの方。」
と訊いた。
流太郎は、うなずくと、
「ええ、時・流太郎といいます。」
色毛はスマホに、
「時さんだそうです。部長との時間は大丈夫ですか。」
「あ、大丈夫よ。サイバーセキュリティは我が社では急を要さない。そこでモニターをした後で来ていただいても、いいわよ。」
と明るい三十代の女性の声が答える。色毛はニンヤリとすると、
「時さん。大丈夫だそうです。モニターをした後での面談という事で。」
「そうですか。いや、でも、みなさん、いらっしゃいますから・・・。リオのカーニバルよりも熱い、この場で、なんて。」
老人たちは、
「恥ずかしがる事は、ないよ。」
「そうだ、そうだ、ここでモニターをやる方が、この会社の君に対する印象も、よくなるぞ。その後で営業をすれば、いい。」
と、もっともな意見に流太郎は、
「そうですね。営業前の別仕事、って感じですか。八月の太陽のもとで裸になる気分です。赤裸々なモニター、赤裸々お、って気分ですね。」
老人の一人は、
「前口上は、もういいから。さっさと脱ぎなさい。」
と重い一言に流太郎は、
「はい、脱ぎます、やります、モニターします。略して頭文字でNYM!」
と答えると手早く服を脱ぎ全裸になった。それを見た色毛は、ぱっ、と思わず両手で自分の目を隠したが、すぐに外すと、
「さあ、大画面の前に、どうぞ。」
と右手を前に出して勧める。
流太郎は大画面に接近していき、映像のav女優は立って両腕を抱いてほしいように差し出している。画面に静止したままだ。それに最接近した流太郎は激しく陰茎を屹立させた。両膝を曲げて、又、伸ばすと流太郎のモノはAV女優の股間にあるオナホールに入っていく。
するとAV女優は画面の中で、それを感じているかのような表情になった。観衆の老人たちは、
「おおーっ。」
と声を上げる。
「まるで若い男とセックスしているような顔をし始めたぞ。」
「兄ちゃん、腰を振れようっ。」
「激しく、腰を動かしてーっ、それえっ。」
老人の囃し立てる声を聴いて、流太郎は腰を振ってみた。その腰の動きにつれて締りに強弱をつけるav女優のオナホール。それと同時に画面のav女優も快楽を感じている顔になる。つまり画面のav女優は流太郎の腰の動きに反応しているから、過去に撮影された映像ではないのだ。現在の動きに反応して快感を顔に表す、などは凄い技術である。流太郎は何度か射精しかけたが、それを止めて十分間、腰を振って動きを止めて硬直したままの肉竿を抜いた。老人たちは、
「おーい、もう、やめか。」
「もっと、もっと、突きまくれよー。」
と声を上げたが、流太郎は観衆に尻を向けたまま、素早く下着と服と背広を着ると、くるりと姿勢を老人に向けて、
「それでは、みなさん。失礼しまーす。後は、みなさんでav女優と楽しんだら、どうですか。オナホールの締りの強弱感が絶妙ですよ。八月の太陽の光と五月の爽やかな微風のような体験が出来ます。」
と言うなり、鮮やかな足取りで、その場を去った。奥の部屋の壁に行きつくと、一つのドアが
社員以外の立ち入りは出来ません
と表示されていた。
そのインターフォンのボタンを押すと、
「はい、技術部です。」
と若い女性の声がしたので、流太郎は、
「こんにちわ。サイバーセキュリティの件で、お伺いしております、時と申します。」
答えると、
「ドアを開けますので、お通りください。」
スルーッとドアが開く。
中に入った流太郎は、そこに三十代の眼鏡を掛けた白い上着に灰色のスカートの女性が立っていて、
「ようこそ、時さん。技術部長の尾茂茶です。面談室に入りましょう。」
と話した。時は喫煙室よりも広い面談室に尾茂茶部長の後から、ついて入る。テーブルをはさんで二人は向かい合って座ると、尾茂茶部長の目がキラリと輝いた。彼女は微笑すると、
「うちも顧客が増えてきましたのでサイバーセキュリティが、とても必要になってきました。
それで、そちらのセキュリティー技術で、お願いしたいと思いますのよ、もう、そう決めましたので、話さなくても結構です。」
営業話術は要らないのか、と流太郎は思いつつも、
「なぜ、そう決断されたのでしょう?」
と小刀急入で聞いてみる。尾茂茶部長は、
「それはね。さっきの貴方の行動ですよ。うちの最新鋭のavオナホールに果敢に挑戦してくださった、その熱意を見ると、その会社が分かります。それに、しっかりと勃起されていたしね。銀行でも太古から『朝マラ立たぬ者には金を貸すな。』と言うくらいですし。
だから商談無用ですの。」
なるほど、そういう事か、と流太郎は思った。しかし、何か言わなければ。で、
「もう収穫の済んだ十月の空に残る強い日差しを感じる気がしますが、私として、これで貴社との契約を終え、帰社できます。後で社長の籾山がBDF(ビジネス・ドキュメント・フォーマット「註・株式会社・夢春で開発されたもの。」)ファイルを送りますので、それに記入してください。」
と今後の手続きを説明した。尾茂茶部長は生真面目な顔を緩めると、
「そのファイルは社長に社内のパソコンで転送しますよ。契約が早く終わったから、貴方には時間があるわね。開発中の我が社の商品を見て欲しいのよ。ぜひ、見ていってもらえませんか。」
「ええ、喜び勇んで見させてもらいます。今日は一日、契約の為に時間を取ってもいい、との社長の指示でしたので、十一月の太陽が姿を消すまで、でも構いません。」
「よかった。それでは、ついてきて下さいな。」
面談室を出ると、彼らは別の部屋に入った。その部屋は広くて複数の男女社員が商品の開発や点検をしているようだ。大人のおもちゃ、も大小取り混ぜて並んでいる。大きなモノとしては椅子やソファ、小さなものは小型ローターなどだ。
尾茂茶部長は流太郎を案内しつつ、説明する。円形の置物に人間の両腕のようなものが付いている機器が、あった。それを指さしつつ尾茂茶は、
「これはパイズリ・マシーンです。今は一番、その高さを縮めていますけど、上に伸ばせば高さは二メートルにもなります。やってみますわね。」
尾茂茶は、その機器の円形の部分にある一つのボタンを押した。すると、スーッと縦長の竿みたいなものが、それに付いた両腕と共に上に伸びていき、両腕の位置は一メートル五十センチほどの高さになる。
 尾茂茶部長は別のボタンを押した。すると、たちまち二本の手は女性を背後から抱くような形になると、次に乳房を揉むような手になると、実際に豊乳を揉むような動きを始めた。なるほど、パイズリ・マシーンだ。流太郎は感嘆の声で、
「すばらしい!これは、まだ研究開発中ですか?」
と尋ねると、尾茂茶部長は、
「そうね、今、色々な生身の女性を使って研究中ですけど、簡易版は安い価格でネット通販に出しています。BOPISで買う女性が多いのよ。」
「BOPIS・・?」
「バイ・オンライン・ピックアップ・イン・ストアの英語の頭文字を採ったものね。オンラインでネットで買って、コンビニのような店で受け取るという形の事。」
「ああ、日本でも店置きとかいうアレですね。あれなら女性にも買いやすいでしょう、大人のおもちゃは。」
「それで簡易版では満足されない御客様が増えてきたのよ。もっと性能のいい高級な、大人のおもちゃが欲しい、と。」
室内に若い女性の悶えるような声が響いた。
「あ、ああーっ、あん。」
流太郎は思わず声がした方を振り向くと、椅子に座った上半身全裸の若い女性が、パイズリ・マシーンに後ろから、ふくよかな白い乳房を揉まれているのだった。流太郎は慌てて顔を尾茂茶部長に戻す。尾茂茶部長は眼を細くして、
「ああやって、うちの研究員が自分の体でパイズリ・マシーンの性能向上を実験して研究しています。時さん、あなたはAVに出演した経験が、おありのようだけど。」
と話した。流太郎は耳に、さっきの女性が、
「ああん、ああん。」
と、すすり泣く様な声を出して感じているのを聞きながら、
「ええ、ありますよ。あくまでも副業として、ですけどね。」
尾茂茶部長は深く、うなずくと、
「副業が本業になる人もいますよ。」
と意味ありげな言葉を口にする。続けて尾茂茶部長は、
「うちでも男の研究員は必要です。」
「どういう意味で、ですか。もしかして、この私を・・・。」
「パイズリ・マシーンは機械ですわ。人間の男の貴方に研究員の若い女性の胸を揉んでもらって、その感覚をパイズリ・マシーンの手の感触と比較してもらうとか、必要になります。よろしかったら、時さん、どうですか。もちろん報酬は差し上げます。若い女性の乳房を揉んで、お金が貰えるなんてAV以外には、ないと思いますわ。うちの会社はAVよりも高い報酬にします。どう?」
なるほど、いい仕事だ。しかし、それに、のめり込むと本業が疎かになりは、しないだろうか。流太郎は、耳に時々、聞こえてくる若い女性の研究員がパイズリ・マシーンに乳房を揉まれて悩ましげな声を上げるのを聞きつつ、
「考えさせてください。お返事は、そのうちに、します。」
と返事をした。
尾茂茶部長はニッコリすると、
「ここ以外の場所でも他の製品の研究は進んでいます。少し歩きましょう。」
次の場所では机に座った女性研究員が小さな小指の先ほどの物体を、いじって調整などをしているようだった。
尾茂茶部長は、その女子研究員の傍らに立つと、
「静野(しずの)さん、開発商品名「JV」はテストで使われていますが、その結果は良好ですよ。」
と話しかけると、その研究員の静野は顔を上げて尾茂茶部長を見ると、
「よかった。こんなに小さいのですもの。わたし、自分でも試しましたし、気づかない位でした。」
と喜んで話す。流太郎は分からないので、
「尾茂茶部長、何の話か分かりません。よろしければ、説明してください。」
と云うと、尾茂茶は流太郎の方を向き、白い研究服の背を伸ばすと胸を張り、
「よろしい。話しましょう。実は我々は隠密な行動を取る仕事も依頼されます。その中には対立する企業を潰す、というものも、あるのです。具体的な会社名などは申し上げられませんが、こういう事です・・・・・

 某大企業のビルの一階には受付の女子社員だけが長い時間を、そこで待機している。
そこに対抗企業の依頼したカメラマンが、指定された時間に遠くから望遠レンズのカメラで、受付の女性(もちろん、若い美人)を動画撮影し始める。その会社は、あらかじめ訪問者の時間を受付の女子社員に知らせているから、いつ来訪者があるかを受付の女子社員は知っている。
その時間まで、二時間は誰も今日は来ないのだ。
受付の女子社員は座ったまま、ぽーっとした目で会社の壁を見つめていた。すると、いきなり彼女は、
「あっ、はあっ、」と、声を出してしまい、思わず口を手で押さえた。
彼女の股間には超小型のバイブレーターが白いパンティの上で振動を始めていた。それを指で確認した彼女は、
(なによ、これ?こんなもの、下着のアソコに着けたりしないのに。)と訝しがったが、心地よいバイブレーターの振動は彼女の淫部に伝わってくるので、又、思わぬ嬌声を上げないとも分からない。それで彼女は口に手を当てて、両脚をモジモジさせながら女子トイレに駆け込むと、個室に入り、股間を探った。ブーン、ブーンと心地よい振動がするので彼女は口を抑えて、快感の声を漏らさないようにした。すぐ外さなければ、このバイブレーターを、と思いながらも二十分は、それをつけたままにして彼女は快感を楽しんだ。それから、それを股間の下着から外すと、まだバイブレーターは動き続けている。
どうやって止めたらいいのか、彼女には分からない。スイッチも見当たらない。ゴミ箱もトイレの中にはないので、彼女は便器の中に、その動き続ける超小型のバイブレーターを捨てると、水で流してしまった。
何もなかったような顔をして受付に戻ると、彼女は椅子に座った。
会社内の誰にも彼女の行為は、ばれなかった。ほっとして帰宅した独身の彼女はワンルームマンションの部屋でパソコンを起動させる。YOUMANKOを帰宅後に第一に閲覧するのが習慣となっている。それを見て、彼女は驚いたのだ。腰を抜かした、というよりマンコがぬけそうだった。何故なら新着動画に自分が写っていて、しかも、それは会社の受付に居る時、今日のもので、あの超小型バイブレーターが振動を始め、彼女が思わず声をあげた姿が音声と共に動画に映し出される。それで終わりではなく、彼女が女子トイレに入り、しばらくバイブレーターを外さずに、つけたまま立って快感に溺れているのを女子トイレの天井からカメラは、その淫らな尻の動きなどを捉えていたのだ。
その映像は彼女の姿だけではなく、その大企業の玄関から写し始めているので会社名は最初に映される。それで視聴者は、その会社の受付という事が分かるのである。
 たちまちネットで評判になり、その大企業の顧客は減り、対抗企業の売り上げは増大した。この撮影を依頼したのが、その対抗企業なのは書くまでも、ないだろう。
 女子社員は懲戒免職になったが、その大企業の信頼の回復は遅いと思われる・・・・
という、その超小型のバイブレーターはウチの製品で、今、ここの部署で更に小型化にするのを進めているんです。」
と尾茂茶部長は話した。流太郎は、
「でも、どうやって、その小型バイブレーターは受付の女性の股間に取り付けられたのでしょうか。」
と質問すると尾茂茶部長は、
「それは企業秘密で言えませんわ。ただ、取り付けはウチでは、ありません。」
 では、実際は、どうだったのだろうか。それは痴漢の達人が受付の彼女に朝の通勤電車の中で巧みに彼女の股間の下着に取り付けてしまったのだ。
そして、ある時刻になると超小型のバイブレーターが始動するように設定されていた。これを流太郎に尾茂茶部長は話さずに、次のように言う。
「時限始動バイブレーターと我々は、この超小型のバイブレーターを呼んでいます。」
流太郎は、
「それでは時限爆弾よりも女性にとっては恐ろしい話ですね。」
と云うと尾茂茶部長は、
「そうかも、しれないわね。誰が取りつけたかも分からないし、その受付の女性は風俗で働いているらしいわ。AVにも出るかもしれないそうよ。」
恐るべし時限始動バイブレーター!尾茂茶部長は平然と、
「これを、いずれはアメリカに輸出する予定でもあるの。武器の輸出には、ならないと思うけど使い方によっては女性大統領の失脚にも成功すると思うし。」
と述べるのだった。おお、トイザマスは新たな日本の輸出産業になるのだろうか。流太郎は、
「日本でも女性議員の失脚にも使えますね。」
「フフフ。女性タレントにも使えるわよ。時さん、芸能事務所に売り込む営業をしてみませんか。」
「そういう営業は出来かねますよ。さすがに。」
尾茂茶部長はテーブルの上にあるスティックタイプの砂糖みたいなものを取り上げると、
「時さん、これ、何だか分かるかしら。」
「それ、なんですか?ぱっと見れば、コーヒーに入れる砂糖みたいですけど。」
尾茂茶部長は、その棒状のものの包みを破り中身を出した。それは粉ではなく固まった砂糖のようなものだ。
テーブルにある水の入ったコップを尾茂茶部長は取り寄せると、その砂糖の細長い棒状の塊のようなものを、そのコップの中に入れる。すると、どうだろう、それは膨らみ始めると十八センチの長さの男性の勃起した陰茎になった。まるで本物の陰茎のようだ。尾茂茶部長は、
「これもバイブレーターの機能を持っています。名付けて『インスタント・バイブレーター』です。もうすぐ売り出しますけど。ネット販売で億箱になりそうよ、これは。」
と嬉しそうに語った。感心した流太郎は、
「すごいですね。大流行しますよ、きっと。持ち運びにも便利だし。」
と称賛すると尾茂茶部長は、
「海外にも持って行けるわ。見かけはスティックタイプの砂糖にしか見えないから。ね?」
「ええ、そうですね。うちの新入女子社員に教えようかな。」
「そうしてくれると嬉しいわ。販売手数料は払いますから。」
株式会社夢春では今年、一人の女子社員を採用したのだ。川中志摩子という名前である。突如、女子研究員の快美感のある声が、
「あっあっ、いくーっ。」と聞こえたので流太郎は、そちらを見ると女子研究員は時限始動バイブレーターでアクメに達したらしく、気持ちよさそうに大きく白い足を開いて椅子に座ったまま脱力していた。
尾茂茶部長は、その女子研究員に、
「花見沢さん、次は『インスタント・バイブレーター』の方も、試してみてください。」
と指示する。花見沢研究員は、
「はい、部長。あまりにも気持ちいいので、少し休憩していいですか。」
「ええ、もちろんよ。インスタント・バイブレーターの方は戸外で試してほしいの。了解しましたか?」
「はい、部長。研究所の外に出て、試してきます。」
股間から時限始動バイブレーターを取り出した花見沢は元気よく立ち上がり、ステックタイプの包みを手に取ると部屋の出口に歩いていった。
 尾茂茶部長は、
「花見沢さんは喫茶店のトイレで試したりしているのです。」
 その花見沢は、すでに喫茶店のトイレで洗面台の水道の蛇口をひねり、インスタント・バイブレーターを流れる水に当てると、すぐに個室に駆け込む。
彼女は立ったまま、男性の陰茎そのものに見えるインスタント・バイブレーターを膝まで下着を降ろして露わになった陰部に当てた。音も出さずにバイブレーターは始動した。研究所で流太郎が見たものよりも高品質なバイブレーターは音も立てない。(あ!感じる、気持ちいいっ、声が出そう)そう思った彼女は左手でハンカチを取り出すと、口に当てた。(これで、いわ。消音ハンカチなのですもの。あっ、あっ、あーん!)彼女は思い切り声を出したが、消音ハンカチによって、その快楽に悶える媚声は誰にも聞こえないものとなった。
 この消音ハンカチはサイバーモーメント社の発明品だ。

尾茂茶部長は流太郎に向き直ると、
「これから先は部外者の時さんには、お見せできないものも沢山、あります。我が社の営業員として働いてもららったり、モニターになってもらうなどの実績次第ではトイザマスの最新のおもちゃの研究開発も、もっと見れるように出来ますよ。今日は、これで終了です。時さんの携帯電話番号は分かっていますから、連絡をしますね。」
と話した。

 会社に帰るのは歩いてで、よかった。株式会社夢春があるビルまでは、すぐに戻れた。社長の籾山松之助は頼もしそうに、
「おう。契約は取れたようだな。時。」
「ええ、うまくいきましたよ。すごい大人のおもちゃの会社でしたね。」
「そんなに凄かったのか。東証一部上場も出来そうな会社だが、東証が認めてくれそうにないために未上場らしいよ。」
「そんな株の話は、分かりませんけど、裏社会とも繋がっているような部分もありました。」
「それは、あるだろう。そもそも上場企業というか東証一部の会社にはスパイが多く入社しているなんて話は百年前からあるよ。」
「百年前と云うと、えーと、2000年代か、その辺ですね。」
「うん、そうだ。うん、そう、運送もね、最近はペガサス運送計画なんて話を聞いた。」
「ペガサス運送計画。なんですか、それ。」
「今、宅急便はヘリコプターでも運んでいるがね。これを二頭立ての馬車みたいにして、二頭の羽の生えた馬、ペガサスに空中まで引かせる。というものさ。」
「そんな馬は伝説の話でしょう?どこかに、いるんですか、空を飛ぶ馬なんて。」
「いるかもしれないけどな、その二頭の羽の生えた馬は機械なんだよ。」
「なーるほど、ですね。ロボットも馬タイプのものがある、というのは知っていますが。」
「そうだ。よし、これから小倉競馬場に連れて行ってやるよ。」
「今から、いいんですか、社長。」
「もちろんだ、あ、川中志摩子君、我々の留守中は、よろしく頼むよ。」
と呼びかけられた女子社員は、視線をノートパソコンから社長と時に移すと、
「はい、行ってらっしゃいませ。」
と明るい笑顔で答えた。純朴な女性の二十歳なのが川中志摩子である。

 どのように人口が増えても競馬場が出来ないのが福岡市なのだ。競輪場も建設は、されない。モーターボートのみが海沿いにあるのみである。北九州市には小倉ボート、若松ボートなど複数あるのに、福岡市にはモーターボートは一か所のみである。
これは福岡市の方針で、そうなっているようだ。ギャンブル施設を多く置かない方針なのだろう。
 小倉競馬場までは社長の籾山が運転する車で向かっている。流太郎は助手席だ。小倉駅前には日本には数少ないカジノがある。籾山は車の操縦を自動に切り替えて、煙草を右手で吸いながら、
「光半導体で、この車のコンピューター部分は動いているから、電力は少しでよくなる。時、おまえは車を持っているか?」
「持っていませんよ。ドライブする趣味もないので。」
「そうだろうな。この百年で車を持たない若者が増え続けた。タクシーはロボット運転手を使い、運賃を激安にした。だから、だろう、車を買って持つよりタクシーの方が安い、という考えだな。そういえば、この前にサイバーモーメントの社長の黒川さんの邸宅に行ったら、運転手はロボットで自分の車を運転させていたよ。
はるかな昔には運転手という金持ちに付き物の職業もなくなりつつ、あるらしいね。」
車の内部にも八幡の淀んだ鉄のような匂いが入ってくる。流太郎は、
「女中というのも、そうですね。今はメイドロボットが普及していますし、一億円のメイドロボットや十億円のメイドロボットも、ありますよ。」
と製鉄所が醸し出す濁った空気を鼻で感じつつ答えると、籾山は笑って、
「それには、こういう話があるよ。・・・・
とある大富豪の家には四十代の妻と一人娘がいて、メイドロボットが一台ある。ある、というより、いるという方が適切かな。その大富豪はカジノ運営、もちろん日本のカジノで大儲けした。ま、日本もカジノの設置場所を増やすらしいが、とにかく、まだまだ独占的な事業が日本での、いや、世界の大抵の場所のカジノが、そうだけど。
それでね、その大富豪は七十代というんだ。妻との夜の活動も数年は行われていなかったらしい。