SF小説・未来の出来事35 試し読み

快音は探偵に同意の顔で
「行きますよ。何処へでも。」
と答えた。探偵の少し後ろから快音青年は追うように歩いていく。新宿駅から少し歩いた場所は酒場の多い通りになり、探偵と快音はアルコールの匂いを鼻に感じつつ停止することなく歩き続けた。日没が近い空の模様は闇の到来を感じさせる。
 スナックやバーと言った雰囲気の店が並ぶ通りの一軒の店の前にフロックコート姿の探偵は立ち止まると快音に顔を向けて、
「この店の中に貴方が探している女性が居ます。でも一見の男性はダメなので、ここで待っていて下さい。」
と言い残して、その店の中に入って行った。快音は眼で店の名を確認すると、百合の奇跡という店名だ。もしかして?もしかするのだろう。フロックコートの探偵は店内から一人の女性と共に現れたのだ。彼女は伴野喜須江の面影を残していた。伴野喜須江は派手な化粧をして、いかにもバーの店員らしい。伴野は快音を見ると驚かずに、
「勢君、お久しぶり。あなたホストの仕事を、しているんでしょう?」
と聞いてくる。フロックコートの探偵は右手を軽く上げると、
「では、私はこれで失礼します。」
と言い置いて、その場を立ち去った。快音は伴野喜須江に、
「ああ、そうだよ。ホスト稼業をしているよ。君はレズバーで働いているんじゃないのか?」
「ええ、働いているけどレズという訳でもないの。今、仕事中だから、これで。」
とレズバーの店内に戻ろうとする喜須江に快音は、
「せっかく会えたのに、それはないだろう。君のスマホの番号を教えて欲しい。」
と呼びかけると喜須江は、
「それより勢君の番号を教えてくれたら、こちらからスマホするわ。」
と意外と上機嫌な伴野喜須江だ。快音はズボンのポケットから財布を取り出すと、財布の中から名刺を取り出して喜須江に手渡した。
喜須江は感心して手にした名刺を見ると、
「名刺まで持っているのねー。うん、後から連絡するわ。」
と放言してレズバーに戻った。
男子禁制のレズバーらしい。探偵はコネを持っているのだろう。関係者以外の男は入れないレズバーだ。まるで尼寺では、ないか。
快音は入れない店だが店内には、どのような客が来ているか。小人数制らしく客単価を上げなければレズバーとしても経営は難しい店だという。
 その日は福岡市に帰る事を中止して快音は実家に帰った。都内のホテルに泊まる必要は、ない。住職の父親は葬式に出ていて不在だった。広めの自室の中で椅子に座り、快音は果たして伴野喜須江は連絡をくれるのだろうかと思いを馳せてみる。
 深夜0時に快音のスマホが鳴った。まだ寝ずに起きていた快音はスマホを取ると、
「もしもし。」
「伴野よ。まだ、起きていたのね、勢君。」
「ホスト稼業で見に着いた習慣さ。今、どうしている?」
通知設定で電話している伴野喜須江の電話番号は分かったのだ。
「今、終電でマンションの自分の部屋に戻るところよ。」
「ああ。仕事が終わったんだね、もう。」
「明日、休みになったの。何か勢さんとの縁を感じてね。彼氏もいない五年間だった。それで、ではないんだけどレズバーで働く事になって、実は、わたし・・・。」
そこで言葉をとぎらせる伴野喜須江に快音は、
「実は、どうしたんだあ?」
と声を大きく放つ。
「明日、話すわ。水天地公園にしましょう。朝、十時にベンチで待っているわ。丁度、私たちの実家から半分ずつの距離にある、あの公園で。」
水天地公園とは高い杉が林立した丘の麓にある大きな池の周囲の土地だが市の中心部からは遠くて人は滅多に来ない場所だ。明日は平日なので猶更、誰も来ない場所だ。快音は、
「ああ、あの公園の近くで分かれたんだったね。高校卒業前に。」
又、捨てられるのか、との絶腸の思いが快音の脳裏に光を伴って、よぎる。
「そうそう、それでは明日。」
と喜須江の声が告げるとスマホは通話切れとなる。

 翌日の目覚めは早く、快音は本堂で父と共に朝のお勤めをすると食事をして外出する。破天荒な息子の行動にも口を挟まない密教僧の父だ。これから息子の快音が初恋の女性と会いに行く事も知らぬ父である。
 父に行く先を断らずに実家を飛び出した快音の足は水天地公園へと向かった。約束の十時前に公園に入るとベンチに座っていた伴野喜須江は、うつむいていた顔を上げて、
「おはよう、勢君。早く来たね。」
と声を快音の耳に届けた。快音は彼女の前で立ち止まると、
「体の方が勝手に動いて、ここに来たんだ。自分でも、よく分からないよ。」
と話すと喜須江はベンチから立ち上がり、空を見上げて、
「あ、来たわよ。あれ。」
と空中を右手の人差し指で指し示したのだ。
薄い白の円形のUFOが出現している。青の光がUFOから発射されて、二人は青色の光と共にUFOに吸い上げられて行った。
 UFO内に取り込まれた二人は私服を着た二人の背の低い男性に対面する。その異星人らしい一人の男性は二人に、
「ようこそ、船内へ。我々はプロキシマbから来た者です。地球人は我々を簡単には信じません。そこでネット新聞記者の伴野喜須江さんに連絡を取り、今日、下にある公園の上空に来たんですよ。」
と説明した。
ネット新聞記者の伴野喜須江?レズバーで働いているのでは?と快音は思う。喜須江は戸惑っている快音を見ると、
「レズバーは潜入取材のために入店して働いているのよ。本職はネット新聞の記者です。高校を卒業して会社で働きながら、ネット通信大学を受講して卒業した後でネット新聞に入ったの。」
と詳しく伴野喜須江は話してくれた。
それは納得しても今は異空間ともいえる空飛ぶ円盤の内部にいるし、小柄な二人は明らかに地球の人間ではない。快音は一応、
「分かった。だけど、この宇宙から来た方々とは伴野さん、あなたは、どういう関係があるんだ?」
それには小柄な宇宙人の一人が快音に歩み出て、
「伴野さんが我々の地球への活動を手伝ってくれるのには最適の女性だと判断したんです、日本ではね。そのために我々は日本の上空から良い波動を出している人々を、この円盤内の機器から検出しました。無線電波を探り出すのと同じなんですが、地球の科学では数千年先に発見できるかどうか、でしょう。
とにかく、それで伴野喜須江さんを見つけ出したので、遅からず彼女に交信をしたんです。最初は夢の中に交信しました・・・」
・・・・・・・************************************
レズバーでの勤務から近くのマンションの部屋に戻った喜須江はシャワーを浴びて寝るだけの生活を続けている。喜須江の体はシャワーを浴びている姿からも豊満である事が分かるのだが、着やせする体型なのかレズバーでも喜須江は攻められたい願望を持つ女子から話しかけられる事も多い。
喜須江はネット新聞記者としての仕事のために潜入取材でレズバーで働いているので本物のレズではないから彼女の体も豊かな体でも不思議はない。
 誰もいない部屋でもあるし喜須江は全裸でシャワーを浴びた浴室から出てくると洗面所に吊るしてあるバスタオルで白い体を拭く。その際に彼女の胸や尻は悩ましく振動する。彼女の体は胸部と臀部以外は寧ろ痩身とも言えるほど細い体型だ。彼女の陰部の上は黒い逆三角形の密毛地帯で、それは彼女が気に入った男を即勃起させる形状であるのは間違いなく言える事だ。
快音は十八歳の喜須江の姿しか知らないし、彼女の全裸は見た事もない。それで、その魅力は未だに知らない快音なのだ。バスタオルで全身を拭くといっても喜須江は自分の手を使って拭いているのではなく、全自動バスタオルで自分のシャワーで濡れた裸体を拭かせている。この全自動バスタオルはマイクロコンピューターを内蔵している。それで、まず始めは全自動バスタオルに喜須江の体を学習させる必要がある。
 そのため喜須江は全自動バスタオルの隅にある作動スイッチを押して、手動で全裸の自分の体を従来のように拭いていく。二、三分もすると彼女は魅惑的な白い裸身を拭き終わるのだ。それは女性に限らず男性でもバスタオルで濡れた体を拭く行為に変わりはないのだが、この一回の動作で全自動バスタオルは喜須江の体を拭く距離と時間を学習してしまう。
次回からは喜須江は全自動バスタオルの作動スイッチを押すだけで、自分の手を使うことなく全自動バスタオルが自発的に彼女の体を全身隈なく拭いていく。
喜須江は最初に全自動バスタオルを自分の左乳房に掛ける。すると、そこから初めて全自動バスタオルは彼女の裸身を拭きつつ移動していく。喜須江の左乳房が終わると右の豊満な乳房をユサユサと拭き、それが終わると下に降りて彼女の臍や下腹部を拭き、それから黒の逆三角形地帯を拭くと、喜須江の股間も丁寧に拭いていく。彼女の女性器も丹念に拭く。それは全自動バスタオルが喜須江のバスタオルで全身を拭く動作を学習した通りの動きなのだ。
つまり喜須江はバスタオルで最初に自分の左乳房、そして次に右の乳房、みぞおちから臍のあたり、下腹部から股間、女性器の順に拭いてくのが日常の無意識的な動作だった。
それから全自動バスタオルは彼女の大きな尻、それからナダラカナ背中、細い首回り、左手、右手、それから急降下して彼女の左足、そして右足の表側、それから彼女の右足の裏側と左足の裏側を拭くと白い柔らかな喜須江の皮膚を上昇して最初の左の乳房に戻ると全自動バスタオルは停止する。
 喜須江は左乳房に戻った全自動バスタオルを右手で取るとハンガーに掛けて(全く便利だわ、この全自動バスタオルは。サイバーモーメントの製品って信じられないほど素晴らしい。他にも買いたいものがあるけど結構な価格だわ。でも貯金して買おうっと、ね。)
それから全裸のまま彼女はベッドへ行き、時には布団もかぶらず全裸のまま仰向けになって寝る。両脚を大きく開いて寝る事もある喜須江だ。
その日も喜須江は、すぐに入眠した。夢の中で地平線が見えそうな草原に彼女は立っている事に気づいた。しかも全裸で大草原にいる喜須江だ。初夏の季節らしく全裸でいる事は彼女には心地よい気温だった。彼女の肩の高さまで伸びている草に囲まれているため、その外からは彼女の全裸は見えないはずだ。
草の生えていない空間は広い公園位の面積があるが、そこには誰も見えないので取り敢えず喜須江はホットした。
 それも束の間、上の空に気配を感じた喜須江は上空を見上げた。そこには白い円形のUFOが空中に難なく制止していた。そのUFOは目に見えない速さで急降下して喜須江の前、五メートルの距離に着陸した。そのUFOの前面が開くと中から一人の小柄な男性が出て来た。肌は黄色で日本人の肌色の、その男は私服を着ている。黒い目なので宇宙人には見えない男は喜須江に歩み寄ると、喜須江は自分の全裸に気づき、右手で陰部を左手で乳房を隠した。
男は平静な微笑みを浮かべると、右手に持ったものを喜須江に差し出して日本語で、
「心配しないでください。この布を貴女の体に当ててみて貰えますか。」
と薦めるのだ。喜須江は左手で、その布を宇宙人らしき男から受け取った。ポロリンと彼女の乳房は魅惑的に揺れて男に見られたが、宇宙人は冷静に動じない。
喜須江は貰った布を乳房に当てて男に見えないようにした。すると!その布は伸びていき、彼女の乳房を両方とも覆うと、更に下へ行き彼女の下腹部から太ももの上まで伸びてミニスカートの位置で停止した。そして彼女の後ろの方も、その布は伸びて薄茶色の布は喜須江のツナギの衣服のようになったのだ!
 宇宙人のような男は柔らかな印象で、
「さあ!UFOの中へ行きましょう。お話しする事が、あります。」
と誘いかけた。
喜須江は言われた通りに着陸した円盤の中に入ると、そこで聞いた話は、
「これは貴女の夢の中なんです。明日、貴女が働いているレズバーの前にいますよ。貴女の仕事が終わった頃にね。」
そこで喜須江は目が覚めた。
今の夢を鮮明に覚えていた喜須江は夕方になるとレズバーへ出向き、仕事が終わった夜の十二時にレズバーの外に出ると夢の中で見たUFOの中で話していた一人の小柄な男性が店の前に立っているのに気付いた。小柄な男は明瞭な日本語で、
「伴野さん、こんばんわ。御機嫌、いかがですか?」
喜須江はビックリして立ち止まると、
「あなたは、もしかして・・・?」
「ええ、貴女が夢の中で見たUFOの男です。二十四時間喫茶が、そこにありますね?」
とレズバーの斜め前を指さす小柄な宇宙人。喜須江は、うなずくと、
「ええ、ありますわ。」
宇宙人は確信的に、
「話は、あの中でします。もちろん、会計は私が払いますからね。」
と話し、二十四時間喫茶店に喜須江を連れて行った。そこで男は様々な事情を話し、伴野喜須江は協力する事を確約した。//////////****************************************
 円盤内の小柄な男は、
「そういう訳で伴野さんは我々に様々な情報を提供してくれる事になりました。」
と快音に話すと、続けて、
「勢さん、貴方にも情報の提供を願いたいのです。」
と懇請するので、快音は、
「そうですか、いや、ありますよ。つい最近、経験した事だけども・・・。」
快音は総務省の審議官のキャラリンの話をした。それにはネット新聞記者の伴野喜須江も双眼を光らせたのだ。喜須江は、
「それは新しい接待の、やり方だわ。極東映像からは誰も宴会に出ずにホストに接待させたのだからね。」
と一刀に断じた。
小柄な宇宙人は興味深そうに、
「なるほど。日本の役人は接待で、どうにでもなるようですね。ハハハ、これは面白い。うん、我々も日本の官僚と言う連中を動かしてみたくなりましたよ。極東映像より以上の接待が出来ると思うけど、考えてみましょう。」
と話を開陳した。
その後は美女の宇宙人が出て宇宙ドリンクとでも称すべき飲み物を三人に手渡した。円形のソファを指さして小柄な宇宙人は、
「座って飲みましょう。この飲み物は容器も食べられますよ。」
と話すとソファに座り、一気飲みする。
そして容器も軽々と食べてしまった黒髪、黒い眼の宇宙人だ。
伴野喜須江と勢快音も同じように飲んだ後、容器も食べてみると軽く噛めば崩壊する菓子で出来ているようだ。
 小柄な宇宙人は容器を食べ終わると、
「プロキシマbの科学を使えば日本にとって喜ばしい現象を起こせますよ。ただ今の政府に喜ばしい事を起こしてもね・・・。」
と話した。
伴野喜須江は期待に満ちた目で、
「それでは政権が変わったら、実行してくれるのですね。エリマリンさん。」
と宇宙人に呼びかけた。彼の名はエリマリンだったのだ。エリマリンも希望に満ちた目で、
「ほう、そうですか。変わる前でも、やりましょう。その政党を我々が支持できると評価したならね。」
伴野喜須江は胸を張り、
「連絡してみます。心当たりがありますから。」
と即答した。
エリマリンは期待している顔で、
「それでは地上に戻って活動してください、伴野さん。」
と話した。
円盤は水天地公園に着陸して快音と伴野喜須江は円盤から降りた。円盤は急浮上して二人の見上げた空には晴天以外の何物も見えなかった。喜須江は快音に、
「わたし、福岡に行くわ。九州の福岡に。」
と告げた。快音は、
「そうなのかい。いや実は僕も福岡に戻らないとね。出張で東京に来ていたんだ。」
喜須江は眼を円形にすると、
「そうなの。今は福岡市で働いてるの、勢君。」
「福岡で働いていますよ、だから戻るんだ。」
「それでは一緒に行かない?リニアで、すぐだわ。」
「行こう。しかし、何故、福岡へ?」
「それは、そのうちに分かるわ。ともかく水天地公園を出たらタクシーで東京駅へ。」
と喜須江に言われて二人は公園を出ると車道には空飛ぶタクシーが地上を走っていたので喜須江が右手を上げて呼び止めた。
 二人は空飛ぶタクシーの後部座席に乗る。ほどなく回転翼を車の真上に出したタクシーはヘリコプターに変わり空へ上昇した。
 東京駅前に空飛ぶタクシーが停車できる空間がある。ビルの屋上に作られた駐車場に快音と喜須江の乗った空飛ぶタクシーは着陸した。そこからエレベーターで地下に降りて地下道から東京駅に着くとリニアモーターカーの乗り場へ切符を買って二人は急いだ。
 博多への時間は長く暗い地下を走るのだ。新幹線より早いとはいえ退屈な旅。だが一人ではなく二人なので話は幾らでも出来る。快音が窓際で喜須江は通路側に座る。リニアは動き始めた。快音は前を向いたまま、
「心当たりのある政治家って誰なんだい。」
と喜須江に聞いてみる。
「それは福岡に着いてからの楽しみにしていてよ。」
福岡市に、そんな期待の政治家がいるのだろうか。外の景色は漆黒で、それは不安や期待のない世界を暗示しているようでもあった。初恋の女性とリニアで同席している快音、それは予期せぬ出来事であったが、福岡で王家富富(おうけ・ふふ)という若き女社長との出会いから喜須江との再会に繋がったのであった。人生は何が契機となるかは分からない。もう諦めていた伴野喜須江が今、自分の隣に座っている。化粧品など身に着けていない喜須江は若い女性の持つ芳香やフェロモンを発散している。快音には、それが感じられて心地よく何かを話しかける気も出てこない。福岡の政治家よりも隣にいる喜須江の方が快音にとっては大事だ。ネット新聞・・・そうだ!喜須江はネット新聞記者なのだ。それを話の芽にして・・・と快音は口を開くと、
「伴野さん、ネット新聞って収入源は広告だろう?」
とチラと横目で喜須江を見て話しを向けると、喜須江は、
「それが主かも知れないけど他にも、あるらしいわね。書いて欲しい記事を書くというサービスも、あるのが昔から続いている新聞社とは違う所かな。他にも、あるらしいけど入社して数年では私には教えてもらえないし。」
と答えたのだ。快音は、
「そうか、書いて欲しい記事とは依頼される事だなあ。」
と持ちかけると喜須江は、
「そうみたいね。詳しくは分からない。」
と答え、そこで会話は再び途切れる。快音は、
「福岡で働くのはネット新聞の為なのか?」
喜須江は軽く、うなずくと、
「福岡のレズバー取材も、しているわ。その他の取材もあるから・・今回は、そちらの方が重要ね。」
「その他の取材・・・何なんだ、それは?」
「ひまなら勢君、わたしに同行してみる?」
「ああ、そうしたいね。暇を取れそうだな。」
伴野喜須江は今は社会人なのだ。
快音は稀に実家の寺院の法事を手伝う事を除けば、ホスト、性感マッサージ、などを働いてきた。それも社会に必要な仕事なのだが世間的には冷ややかな目で見られる職業ではあるのだ。
喜須江は当然の事ながら、それに話を向ける。
「勢君、勢君の仕事を知りたいな。何をしているの?」
「デリバリーホストを今は、しているよ。」
「デリバリーホストって?実家の御寺では何も言われない?」
「ああ。密教は性欲を肯定するしオヤジも『どんな職業でも、やり方では菩薩の修行になる』と言うので風俗業で働くのも認めてくれる。それが、この前に福岡の機械製造メーカーで社員的に働く事になったんだ。」
「おめでとう!勢君。立派な社会人ね。」
「風俗で働いていても立派な社会人だろう?」
「そうね、わたしも取材とは言えレズバーで働いているし。」
二人は座席の手もたれに載せている手を近づけて触れあった。初めて触る喜須江の左手は滑らかでスベサラとした感じがある。
大胆にも快音は、しっかりと喜須江の左手を自分の右手で握りしめると喜須江は頬を赤くした。
 前の席の座席の背面はスマホによるクレジット決済でスクリーンが現れる。快音は喜須江の左手を握ったまま、
「前の座席で映像を見よう。君の前の席の背面をスクリーンに出来る。」
と話すと喜須江の手を放して快音はスマホを取り出して、リニアのサイトにアクセスし、喜須江の前の座席の背後にスクリーンを出して映像を見る課金をクレジット決済した。
これで映像が見れる。快音は喜須江に、
「ヘッドフォンも出て来ているから、それを耳に付けた方がいい。」
と進言した。確かに黒色のヘッドフォンを取り出せる。喜須江は、それを手に取ると耳に当てた。スクリーンの下にタッチパネルのようなものがあり、それを喜須江が指で操作すると映像が流れ始めた。