SF小説・未来の出来事10 試し読み

 わたしは答えました。
「二人位ですわ。」
羽目太郎監督は納得した顔をすると、
「ようし、それではアンドロイドを入れてくれ。」
と指示する声に、助手は走るようにしてスタジオの一つの小屋のような場所に行ったの。
小屋から出て来たのは筋肉質の男だった。ボディビルダーのような体。その彼はノッシノッシと私の居るベッドまで歩いてくると、両腕を上げてガッツポーズをしたの。その動きは、でも、何か機械的だったし、彼の目を見るとアンドロイドだと分かったわ。
 彼は私の座っているベッドに腰かけると、
「こんにちわ。ビッグロッドって、いいます。?あなたは???」
「ローネって、いいます。」
「グーテンターク。ローネ。」
「ドイツ語で言わなくても、いいわよ。日本語も勉強したの。というより日本語のDVDROMを私の頭の中に入れるだけで日本語の辞書と文法がインストールされるから。それと会話の文例も可能な限り収録されたDVDROMだから、後は私の脳内で、それを活用できるように記憶するのね。そうしたら、すぐに高度な日本語の会話も展開できるわけ。」
ビッグロッドは驚かなかった。その辺がアンドロイドらしい。顔色一つ変えない彼にローネは、
「驚かないの?ああ、あなたの脳も同じなのかしら、わたしと?」
「いえ、違いますよ。でも簡単な会話なら世界の主要な言語は話せます。」
「あなたは、それでは完璧なアンドロイドなのね。」
「ええ、そうです。私は人間では、ありません。」
ローネは全裸なのだ。ビッグロッドの股間をローネは見たが、少しの変化もない。ビッグロッドの脳内は彼女の裸体に反応していないのだ。これでは『アンドロイドはセックスの時、腰を振るのか?』というタイトルどころか、セックスに移る行動もしないではないか。
 羽目太郎監督が出てくると、
「すまないね。ビッグロッドはセイフティモードなんだ。解除するよ。」
と語ると、ビッグロッドの眉間の部分を右手の人差し指で押した。途端にビッグロッドは「おおーっ。むおーっ。」
と叫ぶとローネに、むしゃぶりつき、彼女を抱いた。みるみるビッグロッドの股間は、膨れ上がっていく。
ビッグロッドはローネに挿入したが、それから動かない。ローネとしても快感が得られないので、
「羽目太郎監督!アンドロイドは腰を振りませんよっ。」
とビッグロッドを上に迎えて抗議した。
羽目太郎監督は、
「すみません、ローネさん。ビッグロッドの尻の上にボタンがありますので、それを押してください。」
ローネが右手でビッグロッドの、その辺りを探るとボタンらしいものがあった。それを指で押すとビッグロッドは腰を前後に振り始めた・・・
と、ここまで語るとローネは流太郎に、
「それで私は絶頂を得られたけどビッグロッドは射精しないタイプの奴だったわ。」
と感想を告げた。流太郎は、
「それでAVの撮影は終わりかい?」
「いいえ、まだあるの。次に撮影したのが『セックスミラー号でイクゥ、ヨーロッパの旅』だったわ。」
「セックスミラー号って、なんだ、それ?」
「マイクロバスの大きさで、そのバスの側面にはガラスが覆ってあるのね。」
「マジックミラーのような物か?」
「それは、そうだけど、常識の逆を行くものなのよ。」
「それは?どんなもの?」
「考えたら、わかるでしょ。それはね・・・
ビッグロッドとローネを乗せたマイクロバス『セックスミラー号』はベルギーの某地方の公園に到着した。羽目太郎監督はバスを降りると、公園にいる人達に、
「セックスミラー号が到着したよー。」
とドイツ語で話した。実はベルギー語は古くから存在しないのだ。公園にいた若い男女の数十人はセックスミラー号の周りに集まった。彼らがバスの中を覗くと、ローネとビッグロッドがセックスしているのが見えた。
「わお、すごいな。中が、丸見えだ!」
「これが噂のセックスミラー号ね。日本人って、大胆。グートなAVだわ。」
と彼らはドイツ語で感想を話す。
セックスミラー号の車内では。ローネは真っ暗な中にベッドに横たわり、ビッグロッドを正常位で受け入れていた。
(外からは誰からも見られないし、安心して快感を感じられる。)
そう思うと彼女は自ら進んで、体位変更していった。
ビッグロッドの男の象徴は二時間は屹立に耐えうる。それは電力により作動しているし、メーカーはより長時間、動作するように改良を続けているというのだが・・・。
いきなりビッグロッドの男の象徴は萎えてしまい、彼もグニャリとして動かなくなった。
「どうしたの?ビッグロッド!?」
とローネは叫声的質問を声にだしたが、返答はない。ビッグロッドは見かけは大きく筋肉隆々に見えるが、体重は、そんなにないのだ。ローネは片手でビッグロッドを自分の脇に追いやり、しぼんだ彼のモノを外した。
セックスミラー号の外で監視していた羽目太郎監督は、慌てて車内に入ってきて、
「電源切れだ。車を移動させるから。服を着て。」
と説明する。
ローネが下着と上着とスカートを身に着けると、セックスミラー号は移動を始めた。羽目太郎監督は少し困惑して、
「予想外に電力を消費したようだな。実はビッグロッドにも人工知能があり、眼で見た女との性の行動については様々にプログラミングされている。よって、だが我々には、その行動は推測がつかないものなんだよ。ローネさんが美人だからビッグロッドは頑張ったんだろう。」
「まあ、そうなのかしら。お世辞がうまいわ、監督。」
「いや、人間の男性もね、美人には早く射精したいという一般的な性行動があるというからな。人工知能と言っても結局、我々人間の思考の反映なんだね。」
ローネは、そういうものかな、と思った。ベルギーの何処ででもセックスミラー号の停車は認められていない。限られている場所でだけ停車でき、裸体から性行為までを認めているという。
その場所は大体、低所得者層の住んでいる場所でセックスミラー号の停車が認められているのだ。つまり低所得者は金銭で性衝動を解決できない場合、性犯罪に走りやすいというところから、無料で見れるセックスミラー号が日本から撮影に来たのを許可したらしい。
・・・
とローネは流太郎に語った。ローネに対して流太郎は性欲を感じなかった。彼は立ち上がると、
「楽しい話だった。それだけで君は僕の役に立ったよ。さようなら。又、会える日まで、ね。」
この流太郎の言葉にローネは何らの異を唱えない。流太郎は部屋を出てフロントでアイジのクレジットカードで会計を済ませた。この国では仮想通貨は消滅しているとアイジから流太郎は聞いていた。
銀行の素早い対応が仮想通貨を絶滅に追い込んだらしい。
外へ出ると流太郎は涼しい季節なのを感じた。ここが地球を遠く離れた場所とは思えない。街路樹も地球と違いは、あまりない緑だし、通行人はヨーロッパの人に見える。もっとも、ここは名称がヨーロッポで、スイツの国なのらしい。日本は陽本(ひほん)という国名なのだそうだ。
商店街のような所に入り、パンを店先で売っているところでホットドッグをクレジットカードで買って食べた。店員は陽気なスイツの若者で白い帽子に白い服なのは地球のパン屋と似ていたが、彼はホットドッグらしいものを包んで流太郎に渡すと、
「はい、メルシーボクー。あ、地球の日本の人かな、ありがとうございます。ここのホットドッグは、この星の犬の肉も入ってるんだー。ぼく少し地球の日本語、話せるよー。」
包みを受け取った流太郎は、
「ほんと、ですか。犬の肉なんて食べれますか。」
「あー、食用に飼育された犬ならね。ほら、あそこの写真。」
と彼は店内に飾ってある写真を指で示した。そこには豚のように太ったブルドッグが写真になっていた。
 ホテルに帰るとアイジは、いた。流太郎に優しく、
「ホットドッグを食べなさいよ。わたしはインスタント・ビフテキを食べたから、いいわ。」
「インスタント・ビフテキですか?豪勢ですね。」
「地球のカップ麺と同じく安いのよ。他の惑星に別荘を買いたいから、それとダイエットを兼ねて安いものを昼は食べてるのよね。」
「ホットドッグだと、よく分かりましたね。」
「それは犬の肉の匂いがしたからよ。」
「なるほど、そうですか。鼻が良いな。それでは、いただきます。」
流太郎は包みからホットドッグを取り出して食べた。
牛肉とも豚肉とも違う味で、さすがに犬の肉は、この味かと分かる。
ソファに座ったアイジは、
「まあ、座って食べたら、いいのに。でも、何か働きに行ってもらうわよ。そうしないと、あんた、わたしのヒモになってしまうわ。」
流太郎はアイジに向かい合ったソファに腰を降ろすと、
「もちろんです。でも犬が豚みたいに太れるなんて妙ですね。」
と質問する。
「それはね、豚のDNAを犬に注入すれば、いいの。遺伝子操作は、この星では地球の比ではないから。」
「うん、そうですか、おいしい。働きに行きますよ。でも、何処へ行けば、いいんです?」
「AVパラダイスに行けば、いいわ。そこの社長、わたし知ってるの。何度か仕事も、させてもらったしね。」
流太郎は、(AVパラダイスという会社の話はアンドロイド・ラブドールのローネから聞いている。自分が、そこに働きに行くなんて。でも、いいか、それも。)
アイジのヒモになんか、なりたくない。そんな思いが彼の脳内でデモ行進していた。で、もって、
「行きます。ぼく、やります。AVDD!」
「AVDD!って何の略語?」
「AV出ます、出します、の略語です。」
「そうね、いっぱい出す事になると思うわ。ホットドッグでは精が、つかないわよ。あんたが一人前になるまでに、わたしのクレジットカードを貸してあげる。それで精のつく食べ物を食べなさいよ。」
という事になり、流太郎は昼からAVパラダイスのヨーロッポ支社に赴(おもむ)いた。受付のアンドロイドの若い女性が流太郎を見るなり、
「時さんですね。社長が、お待ちしています。エレベーターで最上階に行ってください。エレベーターは、あちらにあります。」
と右手の白い指を揃えて手のひらと共に、エレベーターの方角を示した。
 流太郎が乗ったエレベーターが開くと、社長室の扉は開いていた。流太郎が一歩、社長室に入ると、社長と羽目太郎監督が、いた。社長は目を輝かせて、
「いよう!時流太郎君だね。初めまして。うちにねー、スポンサーが、ついたんだ。インターネット動画の方でね。ヨーロッポの製薬会社、まあ、言ってみれば性薬会社というか、性の薬を作っているんだね。それ一本でヨーロッポの各国の株式市場に上場しているよ。それだけに固い会社なんだが、男のアソコを硬くするのが使命の会社さ。
AVにスポンサーが、つくなんて地球ではないだろう、え?時君。」
アイジに時の出身星まで聞かされたのだろう、社長は、と思いつつ流太郎は、
「スポンサーが、ついたのならAVは無料で動画配信される、という事ですね。」
「そうなんだよ。驚きだろ?AV生活三十年のオレだけど、こんな事が実現するなんて・・・もう、嬉しくって・・・。」
社長は顔を少し下に向けると感涙を眼に滲ませる。羽目太郎監督は、
「社長、いよいよ、これからですよ。カイザー社ですもんね、スポンサーは。」
と励ますように云うと、社長は、
「ああ。ドイツ語読みでカイゼルなんだ。地球でもドイツは、あるだろ?時君。」
流太郎は、うなずくと、
「ありますよ。地球ではヨーロッポ、いや、ヨーロッパの宗主国なんですが、ベルギーをEUの中心都市に置いて、自分達の国には置かない。ギリシアは永遠の貧困国で、それを巻き込んだユーロで通貨安を成り立たせている。これは計らずしてドイツに有利になったでしょう。」
社長は、
「そうだろうねえ。この星でもスイツ以外は、国名は地球のヨーロッパと同じでね。アフロディナ女王の指針らしいが、それは女神のような女王だから我々の自由に、させてくれる。
女王は君臨すれども統治せず、なんて地球の何処かの国に、あったよね。」
流太郎は、
「ありましたっけ?知りません、そういう事はサイバーセキュリティと関係ありませんから。」
社長は驚いて、
「サイバーセキュリティの仕事をしていたのか、地球では。」
「ええ、それが何だか分からないままに、この星に連れてこられてAV出演です。」
「なに、いいじゃないか。この国のね、いや、この星のAV男優の地位は高いよ。地球ではハリウッドスター並というかね。」
流太郎は、金玉を鷲掴みにされた気がして、
「そんなにも、すごいんですか?この星のAV男優は。」
羽目太郎監督が口を開くと、
「だって全世界配信されるんだよ、この星のAVはね。この星のハメリカは地球のアメリカだけど、かつてはハリウッドみたいな所もあったけど、衰退した自動車産業のデトロイトみたいになっている。それはAV動画に押されたんだ。」
と解説した。
社長は続けて、
「地球のハリウッドも映画を全世界に配給する事で巨万の富を得て来た。この星も似たようなものだったけど、ヨーロッポの逆襲としてAVに白羽の矢を立てたんだ。
そして遂に勝利したんだ、映画にね。陽本のAVもヨーロッポと提携して発展できた。わがAVパラダイスは陽本の最大のAVメーカーで、ヨーロッポ支社とハメリカ支社を持っている。ハメリカ支社では落ちぶれハリウッド、この星では今はハメウッドとよばれているが、そこの映画スターを高給でAVに出させている。彼らも結局のところは金だからね。
今度、カイザー社で、ドイツのね、CMではハメウッド男優のセックスシーン、もちろん演技なしにハメているところをテスト的に収録予定なんだよ。君も時君、ハメウッド男優を抜くくらいの覚悟でAVに出ないとな。」
確かに、この星にはハメリカという国があり、カナダとメキシコに挟まれている。オサンジェルスには丘があり、そこに
HAMEWOOD!
という大きな文字が並んでいるのだ。流太郎は胸を張り、
「ぼくも日本男児、ハメウッド男優を抜きたいです。」
と感慨を洩らした。社長は、
「よくぞ言った。時君、陽本の輸出産業の基幹はAVなんだよ。自動車メーカーより税金を払っているんだから。」
流太郎の目が満月になって、
「素晴らしいですね。高額納税者も、もしかして・・。」
「もしかしなくても陽本の場合、AV男優が十位以内に入る事もある。」
「えっえっ、AV女優じゃないんですか?」
「いや、この星ではね、男優の地位が向上したんだよ。古い時代の地球の日本では肉体労働者の給料は安かった。それが後には、少しマシになったという、あれと同じかなあ。AV男優のストライキがあるところもあるんだ。うちではAV男優の労働組合は、ないんだが。それは高額に出演料を払っているからだね。立ててナンボ、ハメてナンボの世界だろ?」
「そうですねー、ぼくは関西言葉は分かりますけど・・。」
「立てて、いくら、ハメて、いくらだよな?」
「そう!です。それは、それなしにはAV女優も動けませんし。」
「いいAV男優のチンコが世界を救うんだよ。いわば、オレ達は救世の仕事をしているんだ。」
「パートナーの居ない男性をですか。」
「いやいや、女性も、そうさ。裕福な女性はラブボーイを購入して、それで遊べるけど、そんな金のない女性はAVを見て楽しむんだよ。だからカイザー社もCMを出すから女性向けのAVを作れ、と要求してきている。わがAVパラダイスでは、それも製作予定にしているし、時君にも頑張って欲しい。いつの日か、ハメウッド男優を抜けるよ、その位ならスグにでも。今、世界の高額納税者はヨーロッポのAV男優も入るね。地球でもヨーロッパのサッカーが世界的人気でワールドカップをやっているようなものだな。
ヨーロッポのAV男優ってイケメンにしてイクメンなんだ。育児する男子の事じゃなくてな。・・・」
 イク時の顔を競い合う「イクメン・ワールドカップ」だのもあるらしい。というのも日本語のイク、という言葉が「フジヤマ」「ゲイシャ」以上に広まったヨーロッポでは、フランスのAV男優も絶頂時に「イク」と叫ぶのが流行らしい。
もちろん「ブッカケ」「ナカダシ」という言葉は、それなりにヨーロッポでも認識されつつあるという。
社長は講義を続ける。
「まあ、そこのソファに座って、時君。」
流太郎はピンク色の横長のソファに座った。社長と羽目太郎監督は流太郎の前に立っている。社長は、
「イケメンとイクメンでAV男優のランキングがある。イクメン男優の方が女性の投票も多いから、驚きさ。投票に際してプロフィールに年齢・性別・職業を記載の方には、わがAVパラダイスのAVの一割引きネット・クーポンをプレゼント、とかで情報が手に入るんだけどね。
イクメン男優ランキングでは、イク時の男優の顔がズラリとウェブに並ぶから、これを見るのは、おおまか女性だろうと我々は見ているけどね。」
流太郎は自分もイクメン男優ランキングに入るかな、と想像して(おいおいおい、おれは元サイバーセキュリティ対策の・・・)
社長は流太郎の顔を見て、
「ん、君が地球でやっていた仕事の男性という設定でも、いいぞ。」
と言うから流太郎は、
「はい、では、それで、お願いします。」
「おーし、それなら、そうするか。この星のスイツにもレマン湖というのがある。それに対して陽本の女性団体が「湖の名称を変更して欲しい。」と抗議したら、スイツは、どう対応したと思う、時君。」
「ヒマン湖なんて、どうですか。」
「いや、違うね。ハメマン湖に名称を変えたんだ。ワッハッハッハ。」
「ナルホド、粋な対応ですね、スイツも。」
「そうだろう?で、君の第一作目はハメマン湖で採る予定だ。」

 AVパラダイスのヨーロッポ支社はベルギーのブリュッセルにある。ブリュッセルはヨーロッポの首都的存在だ。ベルギーからスイツまでは493キロ程だから、地球の東京と福岡は1000キロ程なので、約半分。とすると、その中間の大阪辺りが500キロ。スイツへの旅は、その程度の距離なのだ。
 ハメマン湖はスイツとフランスの国境にあり、スイツでは湖として最大である。Lac leman が、Lac hamemanとなったのである。陽本の観光客も多く行く。現地で手に入れられる観光パンフレットにはLac hamemanと印刷されている。
現地でタクシーの運転手に、
“Wo Lac hameman?”(日本語での発音としては、ヴォー、ラック、ハメマン?日本語の意味は「ハメマン湖は何処ですか。」)と訊くと、
「ja(ヤー、意味は、はい。)」
と答えて連れて行ってもらえる。ドイツ語ではjaがヤーなので、japanはヤーパン、なのだ。
 ハメマン湖近くの駅で降りた流太郎、AVパラダイス社長、羽目太郎監督はタクシーに乗った。車中で社長は、
「あの列車に載っていた時に思いついたのが、『世界の射精から』というタイトルなんだねー。スポンサーがカイザーだけにヨーロッポロケは簡単さ。列車で旅しつつ、ヨーロッポの美しい風景を映し、列車の便所内でAV男優に女優と絡んで射精してもらうという企画。どうだね、羽目太郎監督。」
羽目太郎監督は両手をポンと叩いて、
「いいじゃないですかー、社長。カイザーがくれる予算は凄いんでしょ?」
「軽音楽を流して『世界の射精から』提供はカイザーです、とやろう、な?時君、どうかね、あん?」
流太郎はハメマン湖に近づく美しすぎる景色に見とれていたが、
「ぼくが絡むんですか、社長。」
「すべてに出なくても、いい。お、ハメマン湖が見えて来たぞー。」
豪華なクルーズ船も湖上に見える。又、湖上に古城らしき建物があるのもハメマン湖の特色だろう。クルーズ船でフランスに行ってもシェンゲン加盟国のため、国境審査はない。
 シェンゲン協定による加盟国は
アイスランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スイツ、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、
である。
地球のヨーロッパでは、この星のスイツがスイスであるだけで、地球のスイスはレマン湖という湖はある。今のところ、日本の女性団体による湖の呼称についての抗議は、行われていない。
つまり、この星の陽本の女性は日本女性と少し違い、行動力があるという事だろう。
シェンゲン協定により三人は、ベルギーからスイツまでパスポートを見せずに辿り着いたのだ。
上記のシェンゲン加盟国はスイツをスイスに変えれば、ヨーロッパ旅行にも役立つだろう。ビルドゥング(教養・ドイツ語)な展開もあるので期待されたし。

 社長以外の二人の目にもハメマン湖は見えた。タクシーを降りると社長は歩きながら、
「クルーズ内でロケの予定だよ。時君の初仕事だ。」
と語りかけた。
流太郎は緊張して、
「はい、精いっぱい頑張ります。」
と歩きながら答えた。
 湖畔に巨大な船が停泊していた。豪華クルーズ客船だ。快晴の空の下、船体は黒一色。流太郎は、(この船の中で仕事をするのか。楽しそうだ。)と思いつつ、社長と羽目太郎監督の後を歩いて、そのクルーズ船に乗る。
湖の周りを見渡すと、白い雪化粧のヨーロッポ一の山、モンブラン(因みにドイツの高級ボールペン、モンブランは、この山の名前から名付けられている。)が、その姿を見せていた。ただ、ここはヨーロッポなので、地球のドイツのボールペンメーカーは地球のヨーロッパのモンブランから、名前をつけたので、この星のモンブランではない、というのは書くまでもない事だが。
湖畔には古城が湖上から見えた。この星は地球のパラレルワールドともいえるのだが、SF的パラレルワールドは概念のものとしての世界にとどまる筈だ。全く同じ人や物が別の世界にある、という詭弁的世界など存在しないだろう。
この星は地球と全く同じではない。それでヨーロッポのハメマン湖なのだ。
地球のレマン湖が観光地であるように、この星のハメマン湖も観光地らしい。ただ地球と違うのは空飛ぶ自家用車が湖上の空高く飛んでいる風景だ。十台ほどだろうか。
それは湖の景観保護のため、一時間に飛べる自家用車は台数が限られているのだ。
ハメマン湖の周辺には観光ホテルが立ち並んでいる。駐車場の広いレストランもある。ラブホテルらしきものも散見された。高級ホテルだろうと思われる外観の最上階はバルコニー付きで、スロップシンクつきという念の入りようだ。スロップシンクとは汚水を流すためのものだ。その最上階はスイートルームらしく、キッチンにはディスポーザーも設置されている。ディスポーザーとは生ごみを流しても、下にある部分で分解されて下水処理される。スロップシンクやディスポーザーは2018年頃にも日本にあった。
なのであるからして、この星の高級ホテルにあるのは当たり前で、もっと凄い設備も当然、ある。
が、それは後述される機会も、あるだろう。クルーズ船の甲板で景色を舐め回すように見ている流太郎に、社長は、
「もっと、よく見たいだろう。これで、見てみたまえ。」
とオペラグラスのようなものを手渡してくれた。
そこで流太郎は陽本製のオペラグラスで再度、湖畔の風景を眺望すると、
さっきの高級ホテルの最上階のバルコニーで全裸の白人らしい男女が立ってセックスしていた。若い女がバルコニーの手すりに両手を揃えて、つかまり後ろに高く豊満な尻を突き出している。でっぷりと太った資産家らしい禿げ頭の五十代の男性が愛人らしい、その若い美女の尻をムンズと掴み、腰を振っている。それに合わせて動く若い美女の尻、黒髪。白い乳房も揺れている。
流太郎はオペラグラスの位置を変えてみた。自分で、グルリと回転してみたのだ。すると又しても、高級ホテルの最上階で全裸の男女のセックス。体位は前のカップルと同じだが、男女は逆転して、五十代の資産家らしい女性と、若い男との立ちバックである。これも白人男女で、若い男は金髪で痩せているが筋肉質の甘い顔をした色男。資産家の女性は長い黒髪を振り乱して、五十路とは思えない乳房を後ろから若い男に掴まれて、乱れた尻を振りまくる。
オペラグラスは精度が良く、若い男の肉棒が抜き差しされるのさえ流太郎には見えたのだ。
 社長は流太郎のの顔色を見ると微笑み、
「それは今までの機能で地球にもあるよね。オペラグラスの横にある赤色のボタンを押してごらん。」
と誘うように促した。
流太郎は目からオペラグラスを外すと、オペラグラスの右側に赤いボタンがあるのに気づき、それを押した。社長が、
「よし、それでいい。又、見てみなさいよ、オペラグラスで。」
流太郎が再び目に当ててオペラグラスを見る。立ち位置を変えたため、最初の資産家の男と若い美女のセックスが見えた。彼らは、まだ性交を続けていた。だが、しかし・・・
流太郎の脳内は先ほどとは全く違った反応が起きたのだ。それは感情移入というより、もっと激しい、まるで自分が若い美女を突きまくっているような感覚を自分の脳とペニスに感じたのだ。しかも自分の男性器は、まだ屹立していないのにも拘わらず、雄々しく勃起した感覚で若い美女の肉の洞窟を貫いている、そして突きまくっている、その快美感まで伝わってくのだ。
これはバーチャルリアリティを超越したものなのだ!
資産家は頑張りすぎて息をゼイゼイ、言わせているが、それまで流太郎の呼吸器官には同じ感覚を覚えさせる。
(なんだ?これは!これでは自分が、あの太った金持ちと一体になったのと同じだ!)
やがて資産家は中出して射精した。その感覚も流太郎は味わう。ゴムなしのセックスだったのだ。愛人が孕んでも、ゆとりのある男なのだろう。やがて資産家が、しぼんだチンコを抜き取るところまで流太郎は感じていた。
部屋に二人は全裸のまま戻っていった。その時、流太郎は資産家の精神的、肉体的状態とは縁が切れたのだった。
オペラグラスを眼から外すと流太郎は、
「すごい機能ですね。まるで自分が、あの太った男になってしまったのを感じましたよ。」
と感想を述べると、社長は、
「驚いただろう。そろそろ甲板の下に行こう。ロケが待っている。撮りを押し始めようかな。」
 船上の甲板から広い階段を降りていくと、社交場のような場所があった。が、まだ誰もいない。驚くべきものは社交場の部屋の窓が大きい事で、部屋の床から天井までがガラス張りなのである。この豪華クルーズ客船は、黒い外見だが、それは何と全てマジックミラーだったのだ。
社交場を通りながら流太郎は、部屋いっぱいの壁の窓を右に見て、湖の中が見えるのに驚いた。先を行く社長は立ち止まり流太郎を振り返ると、
「自己紹介をしていなかったね。私は栄部伊・売雄(えいぶい・うるお)という。本名だよ。」
と話すとニカと白い歯を見せた。先を歩きつつ栄部伊社長は、
「珍しい名前だと思うだろうが、時君。栄部伊と言う姓は代々、続いている。私の父親がAVファンだったのでね、それでAVを売る人間になって欲しかったのさ。
父の部屋には数万のAVの地球で謂うDVDみたいなものがあった。十八歳になって大学に入った私は、家に帰ると父の部屋から、その膨大なavdvdを借りて自分の部屋で見ていたんだよ。勿論、それ程のコレクターだから、父は、あるav制作会社の専務だった。社長より暇を持たせてもらっていたらしい。大学では私はAV学部のAV学科で、AV学博士号を取得したよ。二十八歳だった。勿論、論文も出版した。「陽本の基幹産業であるAV業界の今後の発展の基盤となる重要な社会的要因と、その変化に対応した撮影手法の多様化についての段階的方法論」
という少し、ややこしいかもしれないけどね。」
廊下の片側は床から天井までガラス張りだ。廊下のカーペットの色は真紅で、ガラス越しに見える湖の中は地球の十倍の大きさの鯉が泳いでいるのが見える。
流太郎は、それを左目で見つつ、栄部伊社長の学歴に驚嘆したのだ。
撮影場所らしい部屋のドアを開けると、そこには人妻らしき女性がソファに座っていた。部屋の広さは狭く、四畳半しかない。栄部伊社長は、
「こちらは梅村性子さん、仮名だけどね。性子さん、地球の日本から来た時流太郎君だよ。」
しっとりとした人妻の性子は立ち上がると、
「初めまして、時さん。」
と話しかけて微笑む。流太郎も、
「初めまして、性子さん。あ、いきなり名前を呼んでしまって。でも、仮名だから、いいでしょ?」
「もちろん、いいわよ。わたし二十五歳なの。歳は誤魔化さないわ。」
流太郎は性子の美乳らしき胸の盛り上がりを見下ろしてしまった。彼女は背は中くらいで、ミニスカートを履いていたのだ。人妻にして人妻らしからぬ雰囲気は、ある。そうでなければAVには出ないだろう。
羽目太郎監督が進み出るとインタビューする。
「奥さんは御主人と、どのくらいセックスレスなんですか?」
「一年くらいかしら。主人は一流企業の部長を勤めています。まだ四十歳ですけどね。」
「ははあ、それでは豊かな暮らしが出来ますね。それにしても四十歳位の男性が奥さんみたいな、お綺麗な人と性交渉がないなんて、本当ですか。」
「本当です。主人は浮気しているんですよ。探偵を雇って調べたんですよ。ラブホテルに入っていくところ、出ていくところを撮影しています、探偵は。」
「それで当社に応募されたんですね。有り難い。」
「ええ。ネットから応募しました。一流企業の会社の部長の妻ですもの。最大手の貴社でなきゃ、いやなんです。」
「ありがとうございます。さっそくですが、奥さん。脱いでもらえますか。」
「ええ、承知しました。」
上品なる若い奥さんは、その場でスグ、全裸になった。一年も夫と性交渉していない、その体は二十五歳の女の色香を発散している。
流太郎としては戸惑いもある。栄部伊社長は四畳半の部屋の窓のカーテンを開けた。四畳半にしては、かなり広い窓だ。湖の中は純粋に透明とはいえない。その中を淡水魚が泳いでいる。
地球のレマン湖の湖岸にはヨーロッパ最大の淡水魚水族館があるが、ここはハメマン湖で、湖岸に水族館はない。その代り、この星の世界の淡水魚を集めてハメマン湖に入れているという。それで種々雑多な淡水魚が見られる。