SF小説・未来の出来事18 試し読み

 次の部屋は密教の部屋では、なかった。アトランティスの部屋と呼ぶべきか。巨大な水晶が地上では見られない角度で切られて設置されていた。ピラミッド型の水晶もある。ロギンソンは、
「水晶は研磨する断面が重要だ。太陽光線を反射する角度によって巨大なエネルギーを生み出させる事ができる。我々の地下世界は電力を使わずに水晶による光の動力を使っている。それで電力会社というものは、ここには存在しない。」
と驚くべき事象を話した。ロギンソンは水晶が散乱したような場所を右手で示すと、
「あれはサンプルで実際の動力を水晶から生み出している場所は地下の一般人にも公開されていない。私にしても、その一部しか見せてもらえないくらいだ。アトランティスの科学は今でも生きている。過去、アトランティス大陸は、その水晶から生み出された巨大なエネルギーによって地殻に変動をきたして、大西洋に水没する事になったのだ。」

 そこを通り過ぎると博物館の出口が見えた。地下世界とは思えない明るさの場所だ。

 流太郎は、一度、帰国する事になった。博物館を出た時、神官ロギンソンは流太郎の顔を見て、
「だいぶ疲労が、たまっているようだ、時君。一度、日本に帰り給え。地下世界は刺激が多すぎて、慣れるのには、まだまだ時間がかかる。このままでは過労で倒れるだろう、そうならないうちに日本に戻りなさい。」
と諭旨した。
 帰りは勿論、あの長い地下鉄でチベットに戻ると北九州市の平尾台まで直帰したのだ。プロキシマbの女、サミアドネも了解してくれた。何しろ地上では文明というものが始まって数千年、というのが常識だ。アトランティス大陸は一万年ほど前に海中に没した。それだけでなくアトランティスには現代世界にもない超高度な文明が、あったというのだ。そして、それは地底世界の中に温存されているという・・・。
それだけでなくチベット密教の尼僧、チェリネ・リンポチェが見せてくれたゾクチェンの忘我の境に至るための尼僧の性の秘儀・・・。すべては地上では考えることもない展開の数々、それらのために流太郎は過度の疲労に陥っていた。それをアトランティスの神官だったロギンソンは見ぬき、流太郎を一時、帰国させたのだ。

 その日は平日で時刻は昼になっていた。流太郎はスマートフォンで社長の籾山に電話すると、籾山は、
「おう、今、戻ったのか。今日は休みで、いい。ゆっくりと休養していてくれよ。」
と流太郎の労を、ねぎらった。
香椎駅前のマンションに戻るとノートパソコンを立ち上げ、日経平均が50000円を超え、ニューヨーク・ダウも50000ドルを超えたあたり、という平凡な経済指標を見てドル円が一ドル50円という、ごく当たり前の数値に流太郎は(´▽`) ホッ、としたのだ。
貨幣は、あるのか、ないのか分からない地下世界。神官ロギンソンが導く異常な世界は今も流太郎の頭の中で夢よりも鮮明に記憶されている。地上世界は中東は平和でトルコリラは2円という、これまた円高の力を見せている。
21世紀初頭よりも更に円高、第三次世界大戦もなく、在日米軍はグアムに移動して久しい。福岡市の人口は210万人となり、名古屋を抜いた。新しい経済圏を期待しての関西からの人口流入も増大している。
 世界一の謎の観光スポットである愛高山は今も東区の上空に浮かんでいる。愛高山は実は巨大なUFOで、あるのだが。
 女子大生の白岬・丸実はアイランドシティの大学に通っているが、実家は宗像市の田舎にある。それで香椎駅前のマンションに一人暮らしを始めたのだが、たいていの女子大生と同じくスマートフォンからネットを閲覧するのが好きで、その引っ越したマンションはIOTに対応する設備があり、設定一つで色々なものを動かすことが可能だった。
丸実は玄関のカギを無くして、自分の部屋に入れなくなり香椎駅前のシティホテルで一晩を過ごした事も、あった。
 その時、そのホテルのラウンジに居た三十代前半らしい若いビジネスマンの男性が丸実がホテルのフロントに部屋を見つけに近づいたのを見ると、立ち上がり速歩で滑らかに丸実に近寄ると、
「失礼ですが、お嬢さん。部屋を探していますか?」
と尋ねてきた。丸実が、その男に振り返って顔を見ると眉目秀麗な好男子で肩幅の広い背は中背の紳士だ。その外見に安心した丸実は、
「ええ、探していますが、それが何か?」
と立ち止まる。紳士は、
「それだったら僕の部屋に来ませんか。いやね、ツインの部屋を借りてしまったんだが、広くて持て余しますよ。それにダブルベッドでは、ありませんから安心していいです。」
という同宿の誘いだった。こんな申し出をされるとは丸実は思っていなかった。でも、彼女は色白で、ぽっちゃりとした体形で尻の大きな割には胸は程よい大きさに、とどまっている。目をキョトンとさせて紳士を見つめる丸実は、
「せっかくですけど、こんな場合、お断りするのが・・・。」
普通では、ありませんか、と言おうと思う丸実では、あったが紳士の目を見ていると、その黒目が大きくなったり小さくなったりしたのだ。それでいて紳士の唇は微笑を浮かべている。その拡大して縮小する紳士の黒目は、まるで、ちらつくライターの炎のように丸実の脳内を眠くさせて、催眠に導く力が、あった。紳士は、
「断るのは部屋に入ってからでも、いいでしょう?部屋代をワリカンで請求など、しません。あなは無料で部屋に泊まれますよ。マンションの部屋の鍵を無くした、とか、そういう事態では、ありませんか。」
と話してくる。それは、その通りだった。鋭い観察眼だ。丸実は紳士のズボンの股間を見てしまう。そこには太くて隠し切れない男の欲棒が盛り上がりを見せている。丸実はマンコが疼くのを感じた。この紳士に抱かれて股間をベッドで大きく開き、深くマンコに挿入されたい、と思ってしまった。自分の形のいい美乳の乳首もベロベロに舐めて欲しい、と思ったので、
「ええ、実はマンションの部屋の鍵を無くしてしまったんです。それで今夜は、ここに泊まろうと思って来ましたけど、そういう、お話なら乗ってもいいいかな、」
と答えると、紳士は目の黒目を普通の形に戻して、
「さっそく行きましょう。最上階ですよ、お嬢さん。」
エレベーターの中では二人きりになったが、紳士は丸実の手に触れようとも、しなかった。
ツインの部屋に入ると本当に広くてベッドは離れていて、十メートルは距離が開いていた。紳士は丸実をツインの部屋に入れても態度を変えなかった。丸実に向かって、
「ベッドは好きな方を選んで、いいですよ。浴室も二つありますから、どちらかを使ってください。ぼくは貴女とは違う方を使うから・・・。」
と言ってくれた。ええ?こんな事って、あるのかしら?男はオオカミになるのが普通と思っていたけど・・・。
紳士は丸実に背中を向けて円形ソファの上のアタッシュケースを広げて、手を動かしていたが、その姿勢のまま丸実に、
「お嬢さん、今、あなたは男はオオカミに変身する、と思いませんでしたか?」
と言葉を投げかけてきた。丸実は驚いて、
「ええ、そうなんです。性欲のオオカミに変わっても普通ですもの。あら、ごめんなさい。貴方は紳士ですわ。」
と答えたら、紳士は丸実の方を向いた。
丸実はキャアッ、と悲鳴を大きく上げた。紳士の顔は狼に変わっていたのだ。彼の顔は毛で覆われ、口は狼のように尖り、少し開けた口からは牙が出ていた。紳士はニヤリと笑うと、
「これは覆面を今、つけたんですよ。最近の覆面は精巧に出来ているから宴会とかで、大うけします。なんなら、このまま貴女に襲い掛かりたい、ですが、どうしますか?」
と飽くまで紳士風に尋ねて来た。
丸実は戸惑い、
「本当ですか?それなら、襲って欲しい気もします。」
「では、いきますよ。あ、僕の名前はね、野狼・玉金具(やろう・たまきんぐ)と、いいます、本名なんですよ。」
と紳士らしく自己紹介した。丸実は、
「わたし、白岬・丸実(しろみさき・まるみ)と言います。少し変わった名前と思いますけど。」
紳士の野狼は、
「そう、ですね。でも、僕の名前程は変わっていませんよ。では、いきますよ、いや、いくぞ、丸実。」
「はい、来て。」
丸実は立ったまま目を閉じた。彼女は野狼に抱きかかえられる前に、たっぷりと唇を吸われ舌を入れられた。その舌は人間の舌ではなくて狼の舌のようだった。覆面、では舌まで変わるものかしら、と舌を絡め合いながら丸実は思うが、心地よい男の接吻の遣り方に目を閉じている。
丸実は男の手が自分のズボンに伸びるとジッパーを降ろされ、ズボンを足元まで脱がされるのを感じた。次に男の手が白い薄い自分の股間を覆う下着に触れた時、毛むくじゃらなのを感じ取った。すぐに、その手は丸実の薄手のショーツを剥ぎ取り、二本の指、人差し指と中指で丸実のマンコのスジを下から上に、なぞる。その指も毛むくじゃらであるのを丸実はマンコで感じた。じんわりと丸実のマンコが濡れてきたのを野狼は感じたのか、全裸の丸実を横抱きに抱えると、近い方のベッドに降ろし、自分も背広を脱いだ。そして男の下着も。丸実は仰向けに横たわり、自分で両膝を立てて大きく白い形のいい両脚を開いていた。彼女は眼を開くと男が全裸になったのを見た。なんと!野狼玉金具の前身は毛で覆われていたのだ!丸実は、
「玉金具さん、本当の狼みたいですよっ。」
と思ったままを口に出した。野狼は、
「後で説明するよ。狼に抱かれた感じが、するだろう。でも本物の狼のチンコのサイズより大きいから。日本では絶滅した狼のチンコの長さは10センチちょっと、から11センチぐらいだ。いくよ、丸実。」
野狼玉金具は丸実に覆いかぶさると、勃起した十九センチの肉欲の道具を少し開いている丸実のオマンコに深く突き入れて行った。丸実は目を閉じて体を、のけ反らせると、
「ああーん。狼に犯されているみたいっ、あんっあんっっ。」
と可愛い姿態で悶えた。野狼は狼の舌で丸実の美乳を吸い、その尖った乳首を舐める。結局、紳士の野狼玉金具は狼に変貌して三時間は丸実の新鮮な女子大生の全裸を貪ったのだ。丸実は一時間ずつ、硬直して揺るぎない野狼の勃起肉棒で連続的にマンコの奥深くまで突き抜かれ、三十回は絶頂に達した。
三時間連続で結合した二人は行為が終わると朝まで眠りに落ちた。朝、起きた時に丸実は隣の野狼の顔を見ると既に、狼の顔ではない、あの紳士の顔に戻っているのに気付いた。丸実に見つめられて気づいたのか、野狼玉金具は目を開けると、
「お、おはよう。丸実ちゃん。昨日の夜の君のオマンコは最高だった。」
と声をかける。丸実は顔を赤らめて、
「いやん。又、思い出して感じてしまいそうよ。でも野狼さん。あれだけ狼らしい顔だったのに、今は全く、それが見られないのは何故?」
と疑問を口走る。野狼は丸実の赤い唇を右手で触れて少し持ち上げると、口づけて離し、
「それはね、あの狼男の覆面は、それを顔に着けると全身が狼に変わるという生態学的な変化を引き起こせる驚くべき発明品なんだよ。」
「ええっ?それは凄いな。わたしが、その覆面をしても狼になれるのかしら。」
「いや、これは男性用でね、女性用の覆面はまだ開発されていないんだ。申し遅れたけど、僕はサイバーモーメントの新製品営業部の社員なんだ。サイバーモーメントの本社は福岡市博多区東那珂だけど東区のアイランドシティにも社屋はあるよ。実は昨夜、ホテルのラウンジで女を引っかけようと思っていたら、君に出会えた。おかげで新商品も試せたし。大学に行きながらサイバーモーメントでアルバイトしないか。時給二十万円の場合もあるよ、うちは。」
「時給が二十万円ですって!ぜひ、やりたいな、そのアルバイト。」
「よし、分かったよ。社長に連絡しておくから、又、会おう。」

 インターネットの世界は平穏無事では、なかった。IOTというものは便利よりも犯罪をもたらすものとなったのだ。スマートフォンで部屋の鍵を開けられるのだから、部屋の主でない他者によっても操作可能となる。そのためのサイバーセキュリティは更に必要とされた。流太郎が勤める会社である株式会社夢春は元々がサイバーセキュリティを主業務としていたので注文も、日々、増えつつある。
長らく会社を離れて他の惑星でAV男優なども、やってきた流太郎は技術的なところでのサイバーセキュリティには、ついていけなくなっていた。それを分かっている社長の籾山松之助は流太郎に、
「プロキシマbで最新のサイバーセキュリティ情報を教えてもらう予定だったが、まだ行っていないよな、プロキシマbには。」
と訊いた。流太郎は、
「ええ、それどころでは、ありませんでした。何故か地下世界に、連れていかれて・・・。」
「ふうむ。いっそ、時、君は技術者であるより営業社員として働いてもらう方が我が社の為になるようだな。丁度、サイバーモーメントに行く営業の男性を考えていた。時、おまえに、やってもらいたい。」
若干のためらいは感じたにせよ、流太郎は社長の辞令には逆らえなかった。
「はい、社長。そう、させていただきます。」
流太郎が籾山に服従的なのも実は籾山のサイバーセキュリティに対する技術や造詣の深さに対する尊敬の念からだったが、とうとう技術職を外され営業職を命じられてしまった。籾山は流太郎の営業職への承諾に満足そうな顔をすると、
「では、今から行ってもらおう、サイバーモーメントへ。黒沢社長には電話しておくから。」
流太郎が社長室を出ていくと籾山は最新型スマートフォンを背広の上着のポケットから取り出すと、
映像通話のボタンを押した。これにより相手先が、その映像通話を承認すれば籾山の顔がカラーで相手のスマートフォンに映る。相手も映像通話したいと思えば、自分の映像通話用ボタンを押す。実は、これはスマートフォンではなく、テレムービーフォンという世界で初めてサイバーモーメントが開発した機種なのだ。サイバーモーメントは格高携帯電話会社を作り、総務省に承認された。
いわばセレブの携帯通話を目的としているもので、そのためにSGという5Gより特殊な回線を用いて大容量な通信を可能とする。テレ・ムービーフォンのような動画を音声と共に配信するには相当な高速通信回線が必要となる。
 そのために格高・携帯電話会社のサイバーモーメントの通信料金は高額でセレブな人間でないと使えないものとなっている。テレ・ムービーフォンの機種は従来のスマートフォンの折り畳み式のものだが、スマートフォンを開いた時の上部の画面に通話している相手の顔が現在進行形、リアルタイムで映し出されるし、自分の顔も相手のテレ・ムービーフォンに映し出されるというものだ。
 このテレ・ムービーフォンと携帯電話会社「サイバーモーメント」により、黒沢社長とサイバーモーメント社は有名になったのではあるけれど、利用者数は五十万人という現在で、将来は百万人の利用者を黒沢氏は見込んでいるという。株式会社・夢春の籾山は黒沢の勧めで即・テレ・ムービーフォンの機種を購入した。
籾山のテレ・ムービーフォンの上部の場所に黒沢の快心の笑みを浮かべた顔が映った。黒沢のテレ・ムービーフォンには籾山の顔が映る。黒沢は籾山の顔を見て、
「好調そうだな、籾山君。いい事でも、あったのかい。」
と話しかける。籾山は、
「ええ、時流太郎が、そちらへ今から向かいますよ。営業職に回したので、よろしく御願いします。」
「ああ、あの時君ね。随分、久しぶりだな。」
「我が社としても、時は久しぶりだったんですよ。放浪していましてね。」
「そうか。それじゃ営業職が最適だな。うちの方で、時君を借りたいほどだよ。」
「そうですか。それでは、お使いください。」
「どの位、彼を借りていいのかね、籾山君。」
「それは、もう。期限なしでも構いません。」
「よし、そうしよう。その代り、うまくいったら君の会社との関係を今まで通り、最優先する。」
「はあ、どうも、有難き稀に見る幸せです。」

と二人の社長がテレ・ムービーフォンで会話しているうちに流太郎は東那珂のサイバーモーメント本社へロボット運転手のタクシーで向かっていた。
 乗車した流太郎は、
「おや?ロボット運転手のタクシーじゃ、なかったのかな。」
と黒髪の若い女性を見て話しかけた。
「いえ、わたくし、ロボットです。若い女性の体と間違われますわ。」
「ああ、やはり、ね。東那珂のサイバーモーメント社って、わかるかな。」
「ええ、よく行きますから。ここのアイランドシティからも、よく行きますわ。」
窓が少し開いているタクシー内に海からの風が優しく吹き込んだ。アイランドシティは人口島なのだ。アイランドシティは福岡市東区だが福岡市の野菜の卸売市場は、このアイランドシティにある。以前は野菜の卸売市場は博多区那珂という場所に、あった。東区が福岡市で一番、人口が多いというのも移転の理由の一つかも知れない。
 ロボット運転手タクシーは軽快に走り出した。流太郎はネットニュース、そもそも紙によるニュースなど見る事もないが、で見た話題を美女ロボット運転手に振り向ける。
「ニュースで見たけど、ロボット同士の結婚を自治体で認めるように運動を始めたのも日本で初めてなのが、福岡市なんだそうだね。チベットやら地下・・・いや、地下資源を探索しに日本を離れていたけど、昨日、帰ってきて、そのニュースを見て、びっくりしたな。」
美女運転手は、
「ええ。ロボット同士の入籍の問題ですわね。市役所では、その必要はない、との見解だそうですけど。わたしには、まだ、そういう経験、恋愛の経験も、ありませんから、あまり興味ないな。」
と海沿いに見える景色の中をタクシーを走らせつつ、答えた。流太郎は、
「でも、君みたいな美人なら声をかける男性ロボットも、いるだろう。」
「え?職場恋愛は禁止されていますし。それより、お金持ちのタクシーの御客さんから、声をかけられます。」
「ははん、なるほど。それで、どうするの、そういう場合は。」
「もちろん、お金次第で、ついて行きますわ。タクシーだからラブホテルも入りやすいし、ラブホテルも無人が主流ですし、ね。」
なるほどロボット美女なら、それも問題ないらしい。これが生身の美女タクシー運転手なら道義的な会社としての問題として問われもしたであろうが。
 ま、仮に女性タクシー運転手であったとしても応じられない事かもしれない。しかし、流太郎の頭の中は空想に走る。アイランドシティで呼び止めたタクシーには若い美女タクシー運転手がハンドルを握っていた。流太郎はタクシーに乗り込むと、
「や。美人の姉さん。ハンドルだけじゃなくて、僕のチンコも握ってくれないかな。」
と言ってみる。当然、答えは、
「まあ、そんな事、できませんわ。」
だろう、と予測していると、
「本当に、いいんですか。お客さんのチンコ、握っても。」
と丸い目をランランと輝かせて後ろを振り向く美人運転手に、むしろ驚かされた流太郎は、
「え?いいのか。握るだけじゃなくて、しゃぶるとか入れるとかも、していいのかなー。」
「大歓迎ですわ。その代り、別料金ですし、前払いで御願いします。」
「ああ、いいともさ。ラブホテルに入るよりカーセックスの方が最高だよねえ。」
「そうですわね、カーセックスの場合、わたし、サングラスを掛けますから大丈夫です。お客さん、どちらへ?」
「うん、取り敢えず志賀島まで行って、人のいない場所でタクシーを止めてカーセックスしたい。」
「タクシーは停車中も時間割で料金が発生します、よろしいですか。」
「もちろんさ、セックスの方は、いくらで?」
「わたしの場合、五十万円、となっております。クレジットカードでも大丈夫です。」
「予想していたよりも高いけど、・・・はい、クレジットカード。」
手に取った美女運転手は、
「ブラックカードですね。さすがわ、です。会社には一割のタクシー利用代を払っています。他の人には言わないでくださいね。」
「ああ、言わないよ、というより言えないから心配ない。」
そこから志賀島は距離も短い。海の中道と呼ばれている細い道が博多湾の中に突き出ている。細い道のため両側は、すぐ海になっている。それでも数車線は片側の道路にも、あるし、高波が来ても浸水はしない道路の高さだ。
樹木が並んだ道を走るとタクシーは志賀島に着いた。あまり人のいない場所に移動すると、美女運転手は、
「カーセックスならではの体位を楽しんでみませんか。」
と笑顔で流太郎に話す。流太郎は、
「え、一体、どんな体位なのかな。」
美女タクシー運転手は運転席に靴を脱いで上がると、スカートを降ろして運転席の上に美尻を突き出した。まだ下着は履いているが豊満な尻の下にある股間の細道の部分は陰裂がクッキリと浮き出ている。
美女運転手は両膝に両手を置いて、その姿勢を保っている。流太郎は運転席の後ろの後部座席に移動して、その座席の上に靴を脱いで上がると、美女運転手の股間が、よく見えた。下着は薄いし、彼女の黒い恥毛は両側にハミ出している。流太郎は、
「白の君の下着、脱がしてもいいかい。」
と訊くと、顔を下に向けている美女運転手は、
「ええ、そうして下さらないとハメられませんよ。」
と大胆な事を云った。
流太郎は彼女の白のショーツを彼女の膝のあたりまで降ろすと、彼女の女陰裂が流太郎の男性器を咥えたがっているように姿を見せた。流太郎はズボンを降ろしパンツを脱ぐと、最大限になった息子棒を美女運転手の柔らかな肉の溝の中に入れていく。美女運転手は、
「ああんっ、運転席で後ろから入れられるのが好きなんですぅっ。」
と美声を上げた。流太郎も彼女の柔らかな女肉が締め付けてくるのを感じて気持ち良くなって・・・
「お客さん、到着しましたよ。サイバーモーメント社の玄関です。」
と別の女性運転手が話しかけたので流太郎の空想は破られた。こちらの運転手は美女だがロボットだったのだ。あのまま空想していたら、夢精していたかもしれない。それほど現実感のある性夢だった。流太郎は運転手にスマートフォン決済を告げると、正確にはムービーフォン決済だが、ロボット美女はニコリとして、
「ありがとうございます。又の御乗車を、お待ちしております。」
と礼を言うのだ。ロボット美女は流太郎を冷静にしてくれた。技術は進歩したが、やはりロボットで、美女ではあるが流太郎としては性欲が昂進する訳ではない。
 タクシーを降りたらサイバーモーメント社のロボット警備員、身長は二メートルはある、が流太郎を見ると既に認識済みらしく、
「ようこそ、おいでくださいました。」
と話すと入り口を通してくれた。
大きな樹木が立ち並ぶ通路を歩くと建物の玄関に流太郎は辿り着く。中に入ると受付の女性が、
「時さん、社長が、お待ちしています。エレベーターで最上階へ、どうぞ。」
と婉然と微笑む。銀色のエレベーターで最上階に着くと、扉が開けば社長室だ。幅広の机に社長の黒沢の姿が見え、エレベーターを出た流太郎に、
「おう、時君。随分、久しぶりだ。まあ、そこのソファに腰かけなさい。私も、そっちへ行く。」
と声を掛けつつ、立ち上がる。
社長秘書の美月美姫が何処からか煙のように現れた。黒沢と流太郎が座っている前にある丸いテーブルにコーヒーカップを二つ置いていったが中身は紅茶だった。黒沢は、
「紅茶だ。北インドで最高級の茶葉を手に入れた。砂糖は十分、入っている。糖分カットなど、しては、いかんよ、時君。我々は大いに活動しなきゃならん。さあ、飲みたまえ。」
「はい、いただきます。」
流太郎の口の中に広がる紅茶の葉の香りは今まで味わった事のない極上の味で市販の紅茶が、どれだけ凡庸なものかを思い知らされたのだ。黒沢も、その紅茶を賞味して、
「いや実は、これも宇宙人がらみの話でね。地球外の茶葉を少し加えてもらっている。小さな飲料水会社を買収して完全子会社化してから売りに出す予定だ。もちろん一般的なスーパーやコンビニには卸さず、高級料理店などに卸させるつもりだ。」
ふーむ、そういう事か、と流太郎は思った。黒沢は広い窓の外に見える福岡市の街並みを見ながら、
「完成の段階にあるものとしてね、今のような高価なものでないものも作った。とはいっても、安価ではない。インスタント・ダッチワイフというものでね。カップラーメンの大きさの丼の中に使い捨てのダッチワイフが入っている。それにホテルの中のお湯を入れると三分でダッチワイフが出来る、というものだ。」
「・・・・・(絶句)。」
「見せてあげよう。おい、美月君、インスタント・ダッチワイフと給湯器を持ってきてくれ。」
座っていた秘書の美月美姫は立ち上がりつつ、
「はい、ただいま持って参ります。」
と返答すると素早く動いて黒沢と流太郎が座っているソファの前の丸いテーブルに、カップラーメンの形をしたものと電気ポットを持ってきて置いた。黒沢はカップラーメンの覆いを半分外し、電気ポットを手に取るとカップラーメンの中に、お湯を注ぐ。もちろん、その中身はインスタントラーメンでは、ないはずだ。
黒沢はカップラーメンの形のものに蓋をした。三分後、ラーメンの蓋が外れると、中からダッチワイフが飛び出したのだ!身長は155センチ、全裸で豊満な乳房にスイカのような尻を持っている。彼女の足の幅はカップラーメンより大きいので、既に両脚ともテーブルの上だ。
黒沢は流太郎に、
「インスタント・ダッチワイフに触ってごらん。」
と促す。
流太郎の右手はインスタント・ダッチワイフの足に触れたが、熱湯を注がれたせいか、あったかい。人間の女並みの体温は、あるだろう。流太郎は、
「体熱が、あるみたいですね。」
「それもインスタントのために段々と熱は下がってくる。(笑)それでも破格の安さで、売りに出そうと思っているんだ。旅行用に海外にも持っていけるし、な。」
国際空港で税関を通過する際に、手荷物検査でダッチワイフが出てくるのは、まずいだろう。でも、このインスタント・ダッチワイフなら見咎められる事も、あるまい。黒沢は、
「海外旅行用にはカップ麺の表紙にラーメンのように印刷したものを製造する。ネット通販で爆発的に売れるだろう。」
その後、黒沢の見込んだ通り、このインスタント・ダッチワイフは莫大に売れた。それだけでなく、福岡市郊外のラブホテルの大きな看板に「インスタント・ダッチワイフを、ご用意しております。」
なるものを見かけるようになった。これで彼女なしの男性にもラブホテル利用者が現れ始めた。これは福岡市郊外だけでなく、やがて全国的に普及していった現象だ。
 その事でサイバーモーメント社は又、膨大な利益を上げるのだった。でも、それは少し先の事で、今はまだ発売前の段階のインスタント・ダッチワイフである。黒沢は、
「ある中古製品販売会社と話を進めているのだが、ね。」
と話し始める。流太郎は身を乗り出すと、
「ええ、それは、どういう話でしょう。」
「うん、それは双方の同意がいるが、妻を売り飛ばす、というものだ。」
「ええっ!?人身売買みたいですね。」
「だから、双方の同意が、あればいい。大昔の日本の法律とは違って、今は離婚後、一か月で再婚可能だ。その間、中古製品販売所で、その離婚した女性に磨きをかければいい。」
「古本のクリーニングみたいですね。」
「そーさ。処女膜再生手術も受ければ、男を知らない処女として売り物になる。」
「五十歳を過ぎた女性の処女膜再生なんて、意味がありますか。」
「あ、それはね。その販売所では三十歳未満の女性しか取り扱わない。」
「それで女性を取り扱うとなると売春斡旋みたいに、なりませんか。」
「性交のみを目的として女性を買うのではないから大丈夫だ。」
「でも自分を売り物にする女性が、いますかね。」
「それは大丈夫だ。インターネットで事前調査をした。アンケートに答える形でね。すると離婚して自分を売りたい、高く買ってくれる男性の所に行きたい、と答えた女性が何と九割もいたんだよ。」
これは、その後に現実となった。中古品販売は盛んな今日だ。消費税増税は、つまるところ安物を求めて中古品へと向かう事に、なったのだ。それで2020年ころまで勢いのあったコンビニは徐々に、その猛威をなくしつつある。その代りにリサイクルの店が雨後のマツタケのように現れ始める。
 新品は高いので中古を、という人達が増える。貧富の差は日本でも以前より顕著となった。服に限ってみると金持ちは、服を一か月で中古品販売店に売り、新品を又、買う。
清潔好きな人間の多い金持ちの服なので、新品と見た目は変わらない。
セレブな奥様は一週間ごとに下着を変えて古いものは捨てていたのだが、ある日、思いついて下着をリユース店に持っていくと、
「まだ売り物に、なるのかしら、この下着。」
と店員に聞くと、若い男性店員は、
「もちろんですよ、奥様。ブランド物の下着では、ありませんか。高く買い取らせて、もらいます。」
と即答した。そして二十代後半のセレブな人妻が売ったブランド下着が店頭に並ぶや、その店の常連女性客が飛びつき、スーパーの特売より早く売り切れてしまった。
格差社会は実現されたのだ。派遣社員の夫婦は共働きは必須である。子供を大学まで、という、たわけた発想は消えて義務教育だけで、いいと思う人達が増えたのだ。
それで中卒者が増えた世の中だが、経済戦国時代というか下克上の時代である。リユースショップの全国展開はもちろん、海外にまで進出し、ニューヨークにも店を構えた中学卒業の立志伝中の男も現れた。
イン・マテというのが、その中古品販売の会社の名前だ。インターナショナル・マテリアル、の略がイン・マテなのだ。社長が中卒なので社員も中卒から採用するが、の会社は大卒で入社するよりも中卒で入社する方が待遇もよく、将来の幹部候補も中卒で入社して働き続けた社員の方が確実に幹部になるという。