SF小説・未来の出来事19 試し読み

 新製品のモニターに、なりたいです。独身の二十一歳、フリーターなので、いつでも参加できます。御社の日程に合わせられます。

 という応募のメールだった。美月美姫は楽しそうに、
「さっそく面接ですね、社長。」
と黒沢に問うと、
「ああ、そうしてくれたまえ。」
と満足そうだ。
美月は返信メールに、

本日、午後三時に当社まで面接に来てください。

それを送信すると、二分もすると返信メールが来て、

はい、お伺いします。

というものだった。

 午後三時になると、その女性は軽装でサイバーモーメントに、やってきた。背は百五十九センチ、細身の体に胸と尻は突き出ている体型だ。膝までのスカートから出ている白い足は美脚で、上着も半袖なのは涼し気で面接室の椅子に、おいしそうな尻を載せて座った。
ドアが開いて秘書室長の美月美姫が入ってくる。
面接を待つ彼女の前に座ると、
「こんにちわ。秘書室長の美月です。柳風さんですね。」
「はい、初めまして。柳風絵理乃と申します。」
と答えた彼女は健康的な白い肌の顔に笑顔を浮かべた。肩まで伸びた髪は闇夜のように漆黒だ。
美月美姫は柳風絵理乃を注視すると、
「健康そうで、いいわね。モニターの仕事というのは、眼鏡を試してもらう御仕事です。どうですか、こういうの。」
と問いかけると絵理乃は気軽に、
「やってみたいです。わたし、視力は良好ですけど眼鏡を掛けてみたいと思ったりする事も、ありました。」
と答えた。
美月美姫は満足げに、
「それなら合格よ。さっそくモニターしてみてください。これが、」
と云うと、黒縁の眼鏡を絵理乃に渡し、
「その眼鏡です。これを掛けて、この近くを散歩してきてください。」
絵理乃は、うなずくと、
「それでは行って参ります。」
と元気に面接室を出て行った。サイバーモーメントの社屋の近くも会社の敷地が立ち並んでいる。人通りは多くない。昼休みになったのか、会社員が多く出てきた。多くは男子社員だ。絵理乃の目には、彼らが誰でも魅力的に見えた。今まで、こんなことは無かったのに。
それにしても、それらの男性の魅力は等分に平均して同じだ。とはいえ、その魅力は女性が夫に感じるほどの魅力なのだ。誰もが夫に絵理乃には見えた。
 実際には、それらの男性は同じ顔ではなく、体型も違う。でも、これは・・・
絵理乃はサイバーモーメントでモニター用に貰った眼鏡を外した。たちまち、それらの男性は魅力を失ったのである。(この眼鏡の作用だったんだわ。)と絵理乃には現象が理解できた。でも、モニターになっているから、眼鏡を外してサイバーモーメントに戻るわけには、いかない。絵理乃は再び、その誰でもが夫に見える眼鏡を掛けると、サイバーモーメントの社屋に歩いて戻った。受付の女性が絵理乃に笑顔で、
「秘書室長の美月は七階に、います。エレベーターで、おあがりください。」
と話した。
 七階の窓から博多湾が見える部屋のドアの前に長身の美月美姫の細い体が絵理乃を待っていた。美月は、
「さあ、入って。驚くような体験をしたでしょ?」
「ええ、驚きました。まるで心臓に羽が生えて、体の外に抜け出たような衝撃でした。」
美月は右手の人差し指をドアのパネルに当てて、ドアを開けた。ドアノブというものは、そのドアには、ない。横に開いたドアから二人は部屋の中に入る。

 二人は対面して座る。美月は笑顔で絵理乃に聞く。
「どうでした、その眼鏡。」
眼鏡を掛けたまま絵理乃は答えた。
「不思議でした。男性が誰も魅力的で、だれもが夫に見えたんです。」
美月は驚きを感じつつ、
「そう、そんな風に見えたのね。それは凄いな。」
「わたし、怖くなって眼鏡を外しましたけど。」
「仕方ないわ。動揺してしまうわよね、そういう場合。でもモニターとしての役割は十分に果たしてくれたので謝礼は出します。暗号資産としての通貨にするか、現金にするか考えてね。どっちに、する?柳風さん。」
絵理乃は少し考えて、
「暗号資産の通貨で、もらいたいんですけど、どんな仮想通貨ですか?」
「サイバーモーメントで今度、仮想通貨を発行することに、なったの。キラリン、という名称なんだけど。」
「キラリン、ですか。面白い名前ですね。それを貰っておけば、やがて莫大な資産になるわけでしょう。キラリン、で下さい。」
「よし、決まりね。あなた、コールドウォレットを持っていますか。」
「ええ、スマホの中にも準備しています。まだ未使用です。」
「それなら、そのアカウントにキラリンを納付しますから楽しみに待っていてください。その眼鏡は、こちらに返してね。」
柳風絵理乃は、その「どこにでも夫」に見える眼鏡を美月に返却した。不思議な眼鏡だ。こんな眼鏡、商業化できるのだろうか、と絵理乃は思うのだった。

 美月美姫は黒沢に社長室で、
「社長、この眼鏡でモニターは男性なら誰でも夫に見えたそうです。」
と報告すると黒沢は快感の笑みを浮かべて、
「ふふふ。この眼鏡も又、我が社の万札箱になるだろう。」
「買い手は、どういう人を標的に、されるのですか。」
「あ、うん。美月君、社員には無料で貸与しても、いい。君が、まず初めに、どうかね?この眼鏡、「どこでも夫」を使用しては?」
「まあ、わたし、使いたいとは思いません。」
「彼氏が、いるのかね?今、現在にさ。」
「今は、いないんですけど。」
「それなら、使えよ。要らないかな、やっぱり。」
「はい、要りません、今のところ。」
「今のところ、ね。必要になったら、いつでも言いなさい。それでは、と。他に販売できる道は、もう考えているから。」

 アイランドシティという人口島にあるビルの一つ、その地下一階にあるUGジャパンという映像制作会社は表向きは、そのビルの一階にある普通の映像制作会社だが、地下一階では別の映像制作を行っている。

 若妻の都万代(つまよ)は新婚、一か月、夫との夜の営みは週に五日、と順調な滑り出しだった。インターネット関連会社に勤める夫は毎晩、遅くまで働いて帰宅するのは夜の十一時頃だ。2DKの木造のアパートの二階に住んでいる新婚の二人は、夜の十一時半ころよりセックスを始める。夫が帰って来た。玄関に行った都万代の目に玄関ドアが開くのが見えた。顔を出した夫に都万代は、
「あなた、お帰りなさい。早いわね、今日は。まだ八時だけど。」
「うん、今日は特別な日だな。お客さん、というより会社の上司と部下が来たからね。」
夫の後から禿げ頭の眼鏡を掛けた中年男性と、若くて痩せて長身の美男子が部屋に入って来た。
禿げ頭はニコニコして、
「奥さん、初めまして。木頭(きとう)君、の課の課長をしています。今仁(いまに)と、いいます。あなたの夫である木頭太志(きとう・ふとし)君は、我が社の希望、ホープであるんです。毎日、遅くまで残業してくれますし。社長も木頭君には期待しているようですよ。」
と話した。都万代は笑顔で、
「ありがとうございます。木頭を支えなければ、と懸命の毎日です。」
長身の若い美男子は口を開いて、
「初めまして、奥さん。木頭さんの部下の月見と申します。木頭さんには、いつも優しく指導していただいています。奥さん、お綺麗な方ですね。こういう奥さんが、いらっしゃるから木頭さんも頑張れるんですね。」
と絶賛の態だ。
都万代の顔は細面で目が大きく、髪は巻き上げたような形にしていて、珍しいことに都万代は薄緑色の着物を着ている。それで普通なら胸と尻の大きさは、見た目には曖昧となるのだが彼女の場合、着物の上からも膨らんだ胸と尻が想像できる体型だ。都万代は美青年の月見に、
「そんな事、ございませんわ。わたくしの力など微弱なものですもの。会社の皆様のおかげで主人は何とか、頑張っていると思います。」
夫の木頭太志は、それを聞いて、
「そうだな。特に今仁さんと月見君には、お世話になっているよ。宅配中華、頼んで食べよう。今仁さん、何が、いいですか。」
今仁は目を上向きにして、
「そうだなー。ラーメンと中華丼で、いいよ。」
木頭は月見を見ると、
「月見君、君は何にする?」
「ぼくは月見ラーメンと月見丼です。」
「よし、都万代。おれたちは新婚定食、にしようよ。電話、頼むよ。」
「はーい、注文しますわ。」
木頭都万代はスマホで宅配中華の毎度飯店に、今聞いたメニューを注文していた。
 2DKの六畳の部屋に四人の大人がテーブルを囲んだ。木頭太志と妻の都万代が並んで、その向かいに今仁と月見が並んで座る。和式のテーブルなので四人は尻を畳に、着けて座っている。
課長の今仁は眼鏡を右手の指で上にあげ、
「私の名前、今仁出流蔵(いまに・でるぞう)って、言うんですよ。変な名前でしょう、奥さん。」
と話した。呼びかけられた都万代は、
「そうですか。そう変な名前とも思えませんですけど。」
月見が割って入り、
「今に精液が、と出流蔵の前に、つけたら、どうですか。」
と意見する。
都万代は右手を口に当てて、
「まあ。それは、・・・。でも、そんな所まで考える人は、あまり、いないんでは、ありませんか。」
と答えた。
夫の木頭太志は苦笑いして、
「名前にも色色あるし、課長も姓名を一度に云う事は、あまりないでしょう、ねえ、課長。」
今仁は鼻の下に人差し指を当てると、
「まあ、そーだなー。女房とセックスしている時に、言ってしまう事もあるよな。いきそうな時に、さ。今に出るぞー、って。一か月前のセックスで言ってしまったよ。その後で、おれはイッたけどね。」
月見は神妙な顔で、
「その後は、一応、課長は、その・・・。」
と言葉を濁らせると、今仁は、
「ああ、ないな。おまんこ、あ、いや奥さん、すみません。美人の前で、こういう言葉使って。夜間交渉は途絶しておるのさ。ま、奥さんには関係ないです。よ。」
と弁明する。
その時、宅配中華が玄関のドアを叩いた。都万代が玄関に行き、四人分の中華料理を運んでくる。料理が重いので少し前かがみになる都万代の姿勢は彼女の乳房の熟れ具合を着物の形に反映させた。それと臀部も、である。
今仁と月見の視線は、その都万代の胸と尻を彷徨した。

 食事の後で都万代が、ほうじ茶を台所からテーブルに置く。今仁は、それを飲むと、
「うまいっ、なあ奥さん、ありがとう。ところで、奥さん。木頭君との夜の交渉は、うまくいっているんでしょう?」
都万代は頬を赤らめると目を伏せて、
「まあ、おかげ様、といいますか・・・。ね、あなた。」
と夫の木頭太志に話頭を振る。
木頭太志は、うなずくと、
「あ、ああ、そうだね。うまく、いっていますよ、課長、ご心配なく。」
今仁は、
「そうだろうね、でも、奥さん。少し近眼では、ありませんか。」
「いいえ、眼鏡は必要ありません。」
「度のない眼鏡ですよ。ここに、あります。」
と今仁は背広の上着のポケットから黒縁の眼鏡を取り出した。それを都万代に渡して、
「かけて御覧なさい、奥さん。」
と勧める。都万代は、
「それでは失礼して、かけますわ。」
と、その黒縁眼鏡を鼻にかけた。美人の眼鏡顔は、そっ気ないものだが、今仁は手を叩くと、
「奥さん、似合いますよ。どうですか、その眼鏡。」
と感想を都万代に聞いた。
都万代は目の前にいる二人、夫の上司の今仁と、部下の月見が丸で夫のように見えてきたのだ。
「どう、ですか。不思議な気分です。あっ。」
都万代は前に座っていた今仁と月見が立ち上がり、二人ともズボンのチャックを降ろすと、そこから野太いものを、それぞれ取り出したのを目にした。
それを見て都万代は嫌などころか、もう二人の夫の性器が逞しく自分に向けて屹立しているのを頼もしく、又、強い性的興奮を感じるのを覚えた。隣にいる夫の太志は平然として、
「都万代。奥の寝室で可愛がって貰え。僕も、行く。」
と妻に言うのだ。夫の股間に手を伸ばして、男性器の所在を確認した都万代は夫のソレが、まだ太くなっていないのを知った。都万代は立ち上がると着物を脱いだ。薄手のブラジャーとショーツだけになると、ショーツには食い込んだ女性器が二人の男のモノを咥えたがっているように見える。
今仁と月見は手早く全裸になると、下着姿の都万代に近づき、両側から都万代を抱え上げた。夫の太志も立ち上がると奥の襖を開けて、妻がダブルベッドに運び込まれるのを可能にした。
ベッドに仰向けに横たえられた都万代は今仁に唇を奪われ、ブラジャーを外されて白い大きな弾力のある乳房を揉まれた。月見は都万代の股間を覆っている薄い白のショーツを彼女の白い足首まで降ろすと、それを両脚から抜く。そして月見は美男な顔を月夜の黒い陰毛で覆われた股間に沈めると、舌を使い都万代の熟れた女性器を舐め始める。二人の男から上半身と下半身を愛撫して攻められ、月見の右手は都万代の肛門も攻め始めたのだ。都万代は二人の夫に愛撫されている感覚だった。
 その寝室の入り口には夫の太志が服を着たまま、ぼんやりとした顔で立っている。都万代は快感に痺れていく頭で夫の股間を凝視したが、そこは平時のままであるようだ。自分の上司と部下に妻が乳房を揉まれキスされて、おまんこを舐められているというのに!・・・。
 今仁は全裸の都万代をベッドに座った体勢にすると、背後から都万代の白い熟れた乳房を揉みしだき、細い彼女のくびすじを舐め回した。都万代の白い臀部に今仁の猛り狂ったような陰茎が当たると、
「奥さん、後ろから入れるよ。」
と今仁は都万代の耳元で囁くと、両手で都万代の尻を持ち上げて背後から竹筒のような陰茎を都万代の湿った洞窟に深々と挿入する。
「あ、はあっ、頭が変になりそう、あんっ!」
と都万代は可愛い声で悶える。座った姿勢の都万代の唇を今度は月見が奪う。美男の月見にキスされて都万代はオマンコを益々、濡らした。月見の接吻技術は今仁より巧みで、もう既に月見の舌は都万代の赤い舌と絡み合っている。
今仁は後ろから両手で都万代の両脚を大きく開く。そこへ月見が都万代に体を密着させると、月見の右手は都万代の肛門の穴に滑り込んだ。
女性器と肛門の二つの穴を攻められる都万代!月見の勃起したモノは都万代の臍の穴に当てられている。
激しく動く都万代の白い尻。
イソギンチャクのように締め付ける都万代のオマンコに今仁は、
「おおっ、たまらん!今に出るぞうっ。」
と自分の本名を叫ばせた。そして、すぐにドブン、ドクン、と今仁出流蔵は大量の白いスープを都万代の秘穴の中に炸裂させた。
不思議な眼鏡を掛けたままの都万代には唇を奪い、口中でネットリ、ジットリと自分の舌を奪っている月見の顔は夫に見えるのだ。それは太志の顔に見える、というのではなく美男の月見の顔のまま、夫に見えるというものだ。都万代のオマンコから陰茎を抜いた今仁は激しく都万代と舌を絡め合っている月見に、
「おい、月見君。今度は君の出番だ。奥さんのオマンコは空いたから。」
と話した。月見は都万代をキスしたまま立たせると、彼女を抱え上げ、勃起したモノをスッポリ、ズッポリと都万代の淫窟に奥の奥まで挿入する。
「あっ、いいっ、あっ、子宮の奥まで入ってくーっ、。」
と声を出す都万代。その白い大きくやわらかな尻は、むんずむずと月見の両手が掴んでいる。都万代は両脚を宙ぶらりんにすると、月見の両足に絡めつけた。
ゆっさ、ゆっさ、と都万代の尻は揺れ動き、それは突きまくる月見の腰の動きと連動したものだ。
まるで月見は自分の新妻と交わっているような雰囲気で、二人は夫婦のように見えた。再び、二人は唇を重ね新婚の夫婦のように交接を続ける。
「あうっ、いいっ。あうっ、いい。オマンコ、気持ちいいっ。」
と時々、唇を離すと都万代は甘い可愛い声で夫に語るような悶え声を放つ。
今仁はベッドに座って二人の交合を眺めていたが、
(こりゃ、本物の夫婦だな、まるで。ん?本当の夫の木頭太志君は、いずこ?)
と寝室の襖の方を見ると夫の木頭太志は、まだボンヤリと立っていた。股間に変化なし、で股間戦線、異常なし、ではあるが、妻のマンコに進路を取れ、ではないのか。だが太志は動かない。
今仁はニヤリ、とした。ここへ来る前に三人は喫茶店に寄った。そこで今仁は、
「今日は、おれのオゴリだ。コーヒー代は、おれが払うから。」
と話した。木頭太志は、
「ご馳走様です。課長、ちょっとトイレに。」
「ああ、行っておいでよ。」
その間、今仁は木頭のコーヒーカップに粉のようなものを混ぜたのだ。月見は、それを見て、
「なんですか、課長。それは。」
「ああ、これね。一週間は性的不能になる、という薬?でもなかろうが、知人の発明したものでね。新婚の木頭君に通じるか、と思って。」
「まさかー、効かないでしょう。」
と感想を述べた月見は、今、両腕で木頭太志の新妻の木頭都万代を抱きかかえ、彼女の淫洞窟の奥深くまで、反り返った自分の息子を挿入し、舌を絡め合っている。
若い美青年の月見の持続力は凄く、それから二時間は立ったまま、二人は交接を続けた・・・。

 UGジャパンのAV監督は、
「今の話、実話なんだ。『実話ネット』で話題になっている。これをAV化するのに投稿者の了承を得た。眼鏡もサイバーモーメントから購入しているから。妻田さん、眼鏡は、これだよ。」
監督から「どこでも夫」の眼鏡を手渡されたAV女優の妻田君葉(つまだ・きみは)は、その眼鏡を掛けた。三人のAV男優も準備完了だ・・・。

サイバーモーメント社長の黒沢は、高額な眼鏡「どこでも夫」を手にして、社長室で秘書の美月に、
「AVでも使われているんだ、この眼鏡。」
と話すと美月は合点したように、
「あ、あの『あなた、見ていて!』のシリーズ物で使われていますね。AVって演技なし、なのが売りだから丁度、いいと思います、社長。」
「うん、視聴者は演技と思っているらしい。この眼鏡、『どこでも夫』は、まだ市販されていないからな。」
「それでは社長。さっきの実話、というのは・・・。」
「ああ、あれは本当さ。私の知人に頼んだ結果だよ。そのインターネット関連の社長と知り合いでね、木頭太志が勤めている会社のね。」
「そう、そうだったんですね。そういう事が、あった、とは。」
「美月君、君も、どうかね、この眼鏡。」
「要りませんよー。アルデラミン星では、うまくいっているようですよ。オークションで落札された白雪真理恵さん、ですけども。」
「ああ、それは、よかった。アルデラミン星と低岳歴充君を橋渡ししたのは、私だからな。」
黒沢は得意そうに胸を張る。続けて、
「そういえば、と。我が社のCSOが入社したよ、美月君。」
「CSOですか。それは、どういう意味でしょうか。」
美月は初めて聞く言葉に、戸惑っているようだ。黒沢は、
「最高セキュリティ責任者だよ。我が社のサイバーセキュリティの統括責任者だ。名前は火徳行男(ひとく・ゆくお)という。最先端の情報技術を習得した男で、日本サイバーセキュリティ大学博士課程を修了した二十八歳の新卒ホカホカ、の青年だ。サイバーセキュリティ部の部長に採用した。君にも会わせよう。」
そこで黒沢は社内電話を取り、サイバーセキュリティ部に電話した。
「あー、火徳君、社長室まで来てくれ。」

三分もしないで社長室に現れたのは、美月より十センチは背の低い小柄な男だった。でっぷりと太っている彼は、それでもエンジニアタイプの外貌だ。黒沢は社長の椅子から立ち上がると、
「美月君。サイバーセキュリティ部長の火徳君だ。火徳君、私の秘書の美月君。彼女は秘書室長を務めている。」
 小柄な火徳は作業着の体を美月に向けると、
「初めまして。火徳です。これからは、よろしく御願いします。」
と挨拶した。美月も、
「社長秘書の美月です。よろしく、お願いしますわ。」
黒沢は火徳に、
「火徳君。もう部署に戻っていい。」
「はい、社長。それでは戻ります。」
部屋を出ていく火徳を見送ると黒沢は、
「うちの会社もサイバーセキュリティは前から部署を作り、対策していたのだが、最近は巧妙なハッキングが増えていからね、用心しておこうと思ってな。」
「サイバーセキュリティは重要ですわ。わたしのスマホも狙われているかもしれませんね。」
「そう、ネット回線を通じて何処からでも襲い掛かってくるのがマルウェアだ。古典的なトロイの木馬もスマホに侵入できる。トロイの木馬のような愉快犯だけでなく実利を狙ったハッキングも、あるからな。」
「銀行口座とか、狙われますね。」
「そう、それだよ。仮想通貨は、しょっちゅう流出している。盗まれる前にセキュリティを、しっかりしなければ、いけない。うちも大手企業の仲間入りは、もうすぐだしね。」
美月は、その社長の言葉には異論はないので、口を閉ざした。午後の陽射しが眩しく社長室に入る。福岡市は雲がないと強烈な日光が降り注ぐ。福岡市の緯度はアメリカのアトランタと同じ、というと聞こえはいいが、北アフリカのモロッコとも同一の緯度だ。東京はテヘランと同じ緯度にある。鉄骨マンションを多く建てたため、東京の気温は上昇の一途で、中東からの人の流入も激しくなっている。中東街と呼ばれる地帯も出現した。横浜に中華街が、あるように中東街が自然と形成されていった。
 新宿や池袋は中国人が増大している。要するに東京都の人口のうち、百万人は中国人になっている、という状態は更に中国人の流入を招いている。それに伴い、中華料理店が増大し、太極拳教室が増えた。
 流太郎は社長の籾山に東京に出張へ、リニアで向かっている。新宿に株式会社夢春の支店を置くためにビルの空室を調べに行くのだ。
 十年前に起こった首都直下型地震は死者五万人を出し、多くの避難者を出した。それで東京都の人口は百万人は他県、それも関東から遠い地方への流出が続き、百万人は人口は減少した。その大地震と同時期に大型台風が関東に上陸して、多くの竜巻を発生させた。
しかも、それは月曜日の昼の一時に起こった。巨大地震と大型台風の同時到来に関東は大恐慌に陥ったのだ。
 当然のように起こる交通機関のマヒ、停電。ビルの倒壊は左程、多くはなかったとはいえ、マグニチュード8の大地震なのだから、民家の倒壊は日本史上最大の数に昇った。
 帰宅難民ともいうべき人の数は一千万人に到達した。首都圏の全ての交通機関は停止した。冠水、浸水は多く発生し、バスでさえ運航は難しくなった。
 避難した人々は学校の体育館や公民館、その他の体育館などの避難所に逃げ込むが、それだけでは収容人員に限りがある。そして、であるが家に帰っても、その家は倒壊か浸水している可能性は高い。
スマホは使えなくなり、阿鼻叫喚、に強姦、輪姦まで発生しても警察は出動できない。
エリートサラリーマンのAは二子玉川に新築の家を建てた三十代の男性だ。が、多摩川沿いにある、その新居は多摩川の氾濫で一階は全て水没した。妻のB子は昼の一時に間男を引き入れ、二階の部屋で全裸で性交に耽っていた。突然の激しい揺れにB子の上で腰を振っていた予備校講師、ー勤務は午後六時からー、の若い男性は、
「地震なんて気にすることは、ないよ。僕達の尻の揺れの方が大きいだろう。」
と話すとB子にキスをする。確かに、その家は地震の揺れを柳に風のように、そらす最新の耐震設計が、なされていた。それで倒壊は、しなかったのだが、セックスが終わった二人の耳に激しい雨の音が聞こえてくる。予備校講師は裸のまま、ちんこと金玉を揺らしつつ部屋を出て階段のところに行くと、
「おおーっ、一階は水浸しだーっ。」
と叫んだ。
B子も裸のまま、乳房と尻を揺らせつつ部屋の外に出ると、水は階段を登りそうな勢いで溢れてくる。B子は、
「今日は夫は残業は、ないわ。六時過ぎには帰ってくるの。とにかく服を着て、帰ってよ。」
と間男の裸の背中に声をかける。予備校講師は振り向くと困った顔で、
「泳いで帰れというのかい?ぼくのマンションは二子玉(にこたま・二子玉川の通称)には、ないんだ。」
「じゃあ、どうするの?わたしの夫に、あなたの、その裸体を見せるって事?」
「まさか、そんな・・・。ともかく服は着るから。」
予備校講師はパンツを履き、服を着た。そして考える顔をすると、
「押し入れの中に隠れるとかは、どうだい?」
「古典的な手法ね。でも、夫は帰ってこないかもよ、今夜は。」
「そうだなー。スマホで外の状況を確認するよ。」
予備校講師が開いたスマホは使えなかった。絶望的な顔をした男は、
「だめだ。スマホは使えない。」
「わたし、パソコンで見るから。」
と裸のままのB子は、机にあるノートパソコンを開くと、
「あ、出ている。首都圏直下型地震と大型台風の到来、ですって!」
と叫んだ。ガラス窓に吹き付ける強風は、ガラスが割れそうに感じるほどだ。B子は、
「多分、夫は今晩は帰れないと思う。電車も全面に運航休止だそうだから。」
そしてノートパソコンから予備校講師にB子は眼を向けると、
「ここに泊まっていっても大丈夫みたい。」
と話した。

 B子の夫Aは帰宅難民となった。妻のB子に連絡するにもスマホが使えない。(困ったな、今夜は帰れないぞ。でも貞淑な妻だ。一晩くらいでは、そんな不倫なんて・・・するわけもないな。)
と渋谷駅の地下街に緊急に設けられた避難場所に座りながらエリートサラリーマンのAは思った。

 東京湾は火柱が、いくつも森立していた。大地震で石油コンビナートが決壊し、重油が海に流れ込んだ。火力発電所も倒壊し、その火が東京湾に飛んだ時、ゴオオオオーッという物凄い音と共に、まるで鉄塔のように次々と大火炎の炎が東京湾に立ち上がった。それは火のような巨人が立ち上がったかのようだった。

 海抜ゼロメートルエリアである江東デルタは五メートルも水没してしまった。タワーマンションは倒壊しなかったが停電し、復旧には四か月もの時間を要した。当然のようにエレベーターは動かない。とあるタワーマンションの最上階に住む主婦C子さんはプロペラ宅急便で食料や水を買っている。C子さんの話では、
_–プロペラ宅急便なら、出来立ての弁当やピザをヘリコプターで運んでくれます。うちは五人家族ですし、食材を買いに行こうにもエレベーターが停止していますから、五十メートルも下の一階まで階段で降りて、また登るなんて、とても出来ませんもの。–
との事だ。
 東京都が過去に発表した大地震による断水率の23区で46%を今回の首都圏直下型地震では、それを上回る56%だった。葛飾区、江東区、江戸川区では80%の断水となった。
通電火災は起きたが大雨で消えていった。地震で傷つけられた電気コードに電力が流れると火が付く場合が、ある。断線のち通電で、火災となる。
 それらの恐ろしい被害にあわないためにも、流太郎は安全なビルを選ばなければ、ならないのだ。とはいえ首都圏直下型地震は十年前の事であり、今は何もなかったような感を呈している。取り敢えずは新宿のビルで一階が空室な物件があった。それを籾山社長にスマホで連絡した。
「社長、一件、ありました。新宿です。」
「そうか、それにしろよ。昔の副都心だったが、今は都心は新宿より渋谷だけど、うん、電車は新宿から幾つもの線が出ているからな。」
「では不動産会社の社員と今、そこに来ていますが契約してしまいますか。」
「お、不動産屋が、いるのかね。即、決まりだな。」
「はい、それでは、そうします。」
流太郎は若い女性の不動産会社社員と都内を車で回っていた。落ち着いた女性だが二十五歳という年齢で、空手の有段者らしい。
 スマホを切ると流太郎は、その不動産会社女子社員に、
「ここに決めます。契約したいんです。」
と話した。女子社員は落ち着いた表情で、
「それでは会社に戻りましょう。そこで契約書を書いてもらいます。」
と答え、近くに停めている不動産会社の自動車に歩いていく。流太郎は、その自動車の後部座席に乗り込んだ。その不動産会社は、そのビルの近くにある。車が発信すると、不動産会社があるビルを通過した。流太郎は、
「会社の前を通りこしたよ、今。」
と後部座席から注意する。女子社員はハンドルを握ったまま、
「こういう物件は別の場所で契約します。うちの本社になります。」
とバックミラーで流太郎をチラッと見ながら答えた。
 車は八王子から更に西に向かった。連山の見える道路を走る車から流太郎は、
「随分、田舎に来たねえ。本社って、こういう処に、あるわけかな。」
「ええ。もう少しですよ、本社は。」
車は八王子市から南へ向かい、町田市の繁華街に着く。大きなビルの一階が、その不動産会社『すぐに、お部屋探し』の看板が出ていた。その隣が駐車場で車は、そこに入り停車した。流太郎は、その女性から貰った名刺を又、見る。
すぐに、お部屋探し
営業主任
部家尾美瑠夜(へやお・みるよ)
変な名前だ。でも、こういう名前だからこそ、不動産の仕事をしているのだろうけど、と流太郎は思う。部家尾は、
「着きましたよ。中で契約書に記入と署名を、御願いします。」
ガラス張りのドアを開くと部家尾の尻の後ろから流太郎が続いた。廊下を通り、壁に突き当たりの近くの左の部屋に部家尾が入る。流太郎も入ると、そこは眩しい光に包まれた。目を開けていられない程の光に流太郎は無意識的に右手で両目を、かばう様にすると、
「眩しすぎるなー。部家尾さん、なんですか、この光は。」
と訊く。部家尾は平然とした顔で、
「今、光速でワープしたのよ。もう眩しくないでしょ。」
と驚くべき話だ。
 流太郎は眩しい光が消えたのに気付いた。
「なんのための光ですか、あれは。ワープするため、だったのか。」
と部家尾に聞くと、微笑顔の部家尾は、
「あの光で光速で移動できたんです。ここは、福岡市のアイランドシティにある[すぐに、お部屋探し]の本社です。」確かに窓の外には博多湾が見える。
 では、東京都町田市から福岡市の人口島まで光の速さで移動したことに、なる。流太郎は、
「光の速さで移動できても、壁とかは、どうやって潜り抜けられるのだろうか。」