SF小説・未来の出来事10 試し読み

 わたしは答えました。
「二人位ですわ。」
羽目太郎監督は納得した顔をすると、
「ようし、それではアンドロイドを入れてくれ。」
と指示する声に、助手は走るようにしてスタジオの一つの小屋のような場所に行ったの。
小屋から出て来たのは筋肉質の男だった。ボディビルダーのような体。その彼はノッシノッシと私の居るベッドまで歩いてくると、両腕を上げてガッツポーズをしたの。その動きは、でも、何か機械的だったし、彼の目を見るとアンドロイドだと分かったわ。
 彼は私の座っているベッドに腰かけると、
「こんにちわ。ビッグロッドって、いいます。?あなたは???」
「ローネって、いいます。」
「グーテンターク。ローネ。」
「ドイツ語で言わなくても、いいわよ。日本語も勉強したの。というより日本語のDVDROMを私の頭の中に入れるだけで日本語の辞書と文法がインストールされるから。それと会話の文例も可能な限り収録されたDVDROMだから、後は私の脳内で、それを活用できるように記憶するのね。そうしたら、すぐに高度な日本語の会話も展開できるわけ。」
ビッグロッドは驚かなかった。その辺がアンドロイドらしい。顔色一つ変えない彼にローネは、
「驚かないの?ああ、あなたの脳も同じなのかしら、わたしと?」
「いえ、違いますよ。でも簡単な会話なら世界の主要な言語は話せます。」
「あなたは、それでは完璧なアンドロイドなのね。」
「ええ、そうです。私は人間では、ありません。」
ローネは全裸なのだ。ビッグロッドの股間をローネは見たが、少しの変化もない。ビッグロッドの脳内は彼女の裸体に反応していないのだ。これでは『アンドロイドはセックスの時、腰を振るのか?』というタイトルどころか、セックスに移る行動もしないではないか。
 羽目太郎監督が出てくると、
「すまないね。ビッグロッドはセイフティモードなんだ。解除するよ。」
と語ると、ビッグロッドの眉間の部分を右手の人差し指で押した。途端にビッグロッドは「おおーっ。むおーっ。」
と叫ぶとローネに、むしゃぶりつき、彼女を抱いた。みるみるビッグロッドの股間は、膨れ上がっていく。
ビッグロッドはローネに挿入したが、それから動かない。ローネとしても快感が得られないので、
「羽目太郎監督!アンドロイドは腰を振りませんよっ。」
とビッグロッドを上に迎えて抗議した。
羽目太郎監督は、
「すみません、ローネさん。ビッグロッドの尻の上にボタンがありますので、それを押してください。」
ローネが右手でビッグロッドの、その辺りを探るとボタンらしいものがあった。それを指で押すとビッグロッドは腰を前後に振り始めた・・・
と、ここまで語るとローネは流太郎に、
「それで私は絶頂を得られたけどビッグロッドは射精しないタイプの奴だったわ。」
と感想を告げた。流太郎は、
「それでAVの撮影は終わりかい?」
「いいえ、まだあるの。次に撮影したのが『セックスミラー号でイクゥ、ヨーロッパの旅』だったわ。」
「セックスミラー号って、なんだ、それ?」
「マイクロバスの大きさで、そのバスの側面にはガラスが覆ってあるのね。」
「マジックミラーのような物か?」
「それは、そうだけど、常識の逆を行くものなのよ。」
「それは?どんなもの?」
「考えたら、わかるでしょ。それはね・・・
ビッグロッドとローネを乗せたマイクロバス『セックスミラー号』はベルギーの某地方の公園に到着した。羽目太郎監督はバスを降りると、公園にいる人達に、
「セックスミラー号が到着したよー。」
とドイツ語で話した。実はベルギー語は古くから存在しないのだ。公園にいた若い男女の数十人はセックスミラー号の周りに集まった。彼らがバスの中を覗くと、ローネとビッグロッドがセックスしているのが見えた。
「わお、すごいな。中が、丸見えだ!」
「これが噂のセックスミラー号ね。日本人って、大胆。グートなAVだわ。」
と彼らはドイツ語で感想を話す。
セックスミラー号の車内では。ローネは真っ暗な中にベッドに横たわり、ビッグロッドを正常位で受け入れていた。
(外からは誰からも見られないし、安心して快感を感じられる。)
そう思うと彼女は自ら進んで、体位変更していった。
ビッグロッドの男の象徴は二時間は屹立に耐えうる。それは電力により作動しているし、メーカーはより長時間、動作するように改良を続けているというのだが・・・。
いきなりビッグロッドの男の象徴は萎えてしまい、彼もグニャリとして動かなくなった。
「どうしたの?ビッグロッド!?」
とローネは叫声的質問を声にだしたが、返答はない。ビッグロッドは見かけは大きく筋肉隆々に見えるが、体重は、そんなにないのだ。ローネは片手でビッグロッドを自分の脇に追いやり、しぼんだ彼のモノを外した。
セックスミラー号の外で監視していた羽目太郎監督は、慌てて車内に入ってきて、
「電源切れだ。車を移動させるから。服を着て。」
と説明する。
ローネが下着と上着とスカートを身に着けると、セックスミラー号は移動を始めた。羽目太郎監督は少し困惑して、
「予想外に電力を消費したようだな。実はビッグロッドにも人工知能があり、眼で見た女との性の行動については様々にプログラミングされている。よって、だが我々には、その行動は推測がつかないものなんだよ。ローネさんが美人だからビッグロッドは頑張ったんだろう。」
「まあ、そうなのかしら。お世辞がうまいわ、監督。」
「いや、人間の男性もね、美人には早く射精したいという一般的な性行動があるというからな。人工知能と言っても結局、我々人間の思考の反映なんだね。」
ローネは、そういうものかな、と思った。ベルギーの何処ででもセックスミラー号の停車は認められていない。限られている場所でだけ停車でき、裸体から性行為までを認めているという。
その場所は大体、低所得者層の住んでいる場所でセックスミラー号の停車が認められているのだ。つまり低所得者は金銭で性衝動を解決できない場合、性犯罪に走りやすいというところから、無料で見れるセックスミラー号が日本から撮影に来たのを許可したらしい。
・・・
とローネは流太郎に語った。ローネに対して流太郎は性欲を感じなかった。彼は立ち上がると、
「楽しい話だった。それだけで君は僕の役に立ったよ。さようなら。又、会える日まで、ね。」
この流太郎の言葉にローネは何らの異を唱えない。流太郎は部屋を出てフロントでアイジのクレジットカードで会計を済ませた。この国では仮想通貨は消滅しているとアイジから流太郎は聞いていた。
銀行の素早い対応が仮想通貨を絶滅に追い込んだらしい。
外へ出ると流太郎は涼しい季節なのを感じた。ここが地球を遠く離れた場所とは思えない。街路樹も地球と違いは、あまりない緑だし、通行人はヨーロッパの人に見える。もっとも、ここは名称がヨーロッポで、スイツの国なのらしい。日本は陽本(ひほん)という国名なのだそうだ。
商店街のような所に入り、パンを店先で売っているところでホットドッグをクレジットカードで買って食べた。店員は陽気なスイツの若者で白い帽子に白い服なのは地球のパン屋と似ていたが、彼はホットドッグらしいものを包んで流太郎に渡すと、
「はい、メルシーボクー。あ、地球の日本の人かな、ありがとうございます。ここのホットドッグは、この星の犬の肉も入ってるんだー。ぼく少し地球の日本語、話せるよー。」
包みを受け取った流太郎は、
「ほんと、ですか。犬の肉なんて食べれますか。」
「あー、食用に飼育された犬ならね。ほら、あそこの写真。」
と彼は店内に飾ってある写真を指で示した。そこには豚のように太ったブルドッグが写真になっていた。
 ホテルに帰るとアイジは、いた。流太郎に優しく、
「ホットドッグを食べなさいよ。わたしはインスタント・ビフテキを食べたから、いいわ。」
「インスタント・ビフテキですか?豪勢ですね。」
「地球のカップ麺と同じく安いのよ。他の惑星に別荘を買いたいから、それとダイエットを兼ねて安いものを昼は食べてるのよね。」
「ホットドッグだと、よく分かりましたね。」
「それは犬の肉の匂いがしたからよ。」
「なるほど、そうですか。鼻が良いな。それでは、いただきます。」
流太郎は包みからホットドッグを取り出して食べた。
牛肉とも豚肉とも違う味で、さすがに犬の肉は、この味かと分かる。
ソファに座ったアイジは、
「まあ、座って食べたら、いいのに。でも、何か働きに行ってもらうわよ。そうしないと、あんた、わたしのヒモになってしまうわ。」
流太郎はアイジに向かい合ったソファに腰を降ろすと、
「もちろんです。でも犬が豚みたいに太れるなんて妙ですね。」
と質問する。
「それはね、豚のDNAを犬に注入すれば、いいの。遺伝子操作は、この星では地球の比ではないから。」
「うん、そうですか、おいしい。働きに行きますよ。でも、何処へ行けば、いいんです?」
「AVパラダイスに行けば、いいわ。そこの社長、わたし知ってるの。何度か仕事も、させてもらったしね。」
流太郎は、(AVパラダイスという会社の話はアンドロイド・ラブドールのローネから聞いている。自分が、そこに働きに行くなんて。でも、いいか、それも。)
アイジのヒモになんか、なりたくない。そんな思いが彼の脳内でデモ行進していた。で、もって、
「行きます。ぼく、やります。AVDD!」
「AVDD!って何の略語?」
「AV出ます、出します、の略語です。」
「そうね、いっぱい出す事になると思うわ。ホットドッグでは精が、つかないわよ。あんたが一人前になるまでに、わたしのクレジットカードを貸してあげる。それで精のつく食べ物を食べなさいよ。」
という事になり、流太郎は昼からAVパラダイスのヨーロッポ支社に赴(おもむ)いた。受付のアンドロイドの若い女性が流太郎を見るなり、
「時さんですね。社長が、お待ちしています。エレベーターで最上階に行ってください。エレベーターは、あちらにあります。」
と右手の白い指を揃えて手のひらと共に、エレベーターの方角を示した。
 流太郎が乗ったエレベーターが開くと、社長室の扉は開いていた。流太郎が一歩、社長室に入ると、社長と羽目太郎監督が、いた。社長は目を輝かせて、
「いよう!時流太郎君だね。初めまして。うちにねー、スポンサーが、ついたんだ。インターネット動画の方でね。ヨーロッポの製薬会社、まあ、言ってみれば性薬会社というか、性の薬を作っているんだね。それ一本でヨーロッポの各国の株式市場に上場しているよ。それだけに固い会社なんだが、男のアソコを硬くするのが使命の会社さ。
AVにスポンサーが、つくなんて地球ではないだろう、え?時君。」
アイジに時の出身星まで聞かされたのだろう、社長は、と思いつつ流太郎は、
「スポンサーが、ついたのならAVは無料で動画配信される、という事ですね。」
「そうなんだよ。驚きだろ?AV生活三十年のオレだけど、こんな事が実現するなんて・・・もう、嬉しくって・・・。」
社長は顔を少し下に向けると感涙を眼に滲ませる。羽目太郎監督は、
「社長、いよいよ、これからですよ。カイザー社ですもんね、スポンサーは。」
と励ますように云うと、社長は、
「ああ。ドイツ語読みでカイゼルなんだ。地球でもドイツは、あるだろ?時君。」
流太郎は、うなずくと、
「ありますよ。地球ではヨーロッポ、いや、ヨーロッパの宗主国なんですが、ベルギーをEUの中心都市に置いて、自分達の国には置かない。ギリシアは永遠の貧困国で、それを巻き込んだユーロで通貨安を成り立たせている。これは計らずしてドイツに有利になったでしょう。」
社長は、
「そうだろうねえ。この星でもスイツ以外は、国名は地球のヨーロッパと同じでね。アフロディナ女王の指針らしいが、それは女神のような女王だから我々の自由に、させてくれる。
女王は君臨すれども統治せず、なんて地球の何処かの国に、あったよね。」
流太郎は、
「ありましたっけ?知りません、そういう事はサイバーセキュリティと関係ありませんから。」
社長は驚いて、
「サイバーセキュリティの仕事をしていたのか、地球では。」
「ええ、それが何だか分からないままに、この星に連れてこられてAV出演です。」
「なに、いいじゃないか。この国のね、いや、この星のAV男優の地位は高いよ。地球ではハリウッドスター並というかね。」
流太郎は、金玉を鷲掴みにされた気がして、
「そんなにも、すごいんですか?この星のAV男優は。」
羽目太郎監督が口を開くと、
「だって全世界配信されるんだよ、この星のAVはね。この星のハメリカは地球のアメリカだけど、かつてはハリウッドみたいな所もあったけど、衰退した自動車産業のデトロイトみたいになっている。それはAV動画に押されたんだ。」
と解説した。
社長は続けて、
「地球のハリウッドも映画を全世界に配給する事で巨万の富を得て来た。この星も似たようなものだったけど、ヨーロッポの逆襲としてAVに白羽の矢を立てたんだ。
そして遂に勝利したんだ、映画にね。陽本のAVもヨーロッポと提携して発展できた。わがAVパラダイスは陽本の最大のAVメーカーで、ヨーロッポ支社とハメリカ支社を持っている。ハメリカ支社では落ちぶれハリウッド、この星では今はハメウッドとよばれているが、そこの映画スターを高給でAVに出させている。彼らも結局のところは金だからね。
今度、カイザー社で、ドイツのね、CMではハメウッド男優のセックスシーン、もちろん演技なしにハメているところをテスト的に収録予定なんだよ。君も時君、ハメウッド男優を抜くくらいの覚悟でAVに出ないとな。」
確かに、この星にはハメリカという国があり、カナダとメキシコに挟まれている。オサンジェルスには丘があり、そこに
HAMEWOOD!
という大きな文字が並んでいるのだ。流太郎は胸を張り、
「ぼくも日本男児、ハメウッド男優を抜きたいです。」
と感慨を洩らした。社長は、
「よくぞ言った。時君、陽本の輸出産業の基幹はAVなんだよ。自動車メーカーより税金を払っているんだから。」
流太郎の目が満月になって、
「素晴らしいですね。高額納税者も、もしかして・・。」
「もしかしなくても陽本の場合、AV男優が十位以内に入る事もある。」
「えっえっ、AV女優じゃないんですか?」
「いや、この星ではね、男優の地位が向上したんだよ。古い時代の地球の日本では肉体労働者の給料は安かった。それが後には、少しマシになったという、あれと同じかなあ。AV男優のストライキがあるところもあるんだ。うちではAV男優の労働組合は、ないんだが。それは高額に出演料を払っているからだね。立ててナンボ、ハメてナンボの世界だろ?」
「そうですねー、ぼくは関西言葉は分かりますけど・・。」
「立てて、いくら、ハメて、いくらだよな?」
「そう!です。それは、それなしにはAV女優も動けませんし。」
「いいAV男優のチンコが世界を救うんだよ。いわば、オレ達は救世の仕事をしているんだ。」
「パートナーの居ない男性をですか。」
「いやいや、女性も、そうさ。裕福な女性はラブボーイを購入して、それで遊べるけど、そんな金のない女性はAVを見て楽しむんだよ。だからカイザー社もCMを出すから女性向けのAVを作れ、と要求してきている。わがAVパラダイスでは、それも製作予定にしているし、時君にも頑張って欲しい。いつの日か、ハメウッド男優を抜けるよ、その位ならスグにでも。今、世界の高額納税者はヨーロッポのAV男優も入るね。地球でもヨーロッパのサッカーが世界的人気でワールドカップをやっているようなものだな。
ヨーロッポのAV男優ってイケメンにしてイクメンなんだ。育児する男子の事じゃなくてな。・・・」
 イク時の顔を競い合う「イクメン・ワールドカップ」だのもあるらしい。というのも日本語のイク、という言葉が「フジヤマ」「ゲイシャ」以上に広まったヨーロッポでは、フランスのAV男優も絶頂時に「イク」と叫ぶのが流行らしい。
もちろん「ブッカケ」「ナカダシ」という言葉は、それなりにヨーロッポでも認識されつつあるという。
社長は講義を続ける。
「まあ、そこのソファに座って、時君。」
流太郎はピンク色の横長のソファに座った。社長と羽目太郎監督は流太郎の前に立っている。社長は、
「イケメンとイクメンでAV男優のランキングがある。イクメン男優の方が女性の投票も多いから、驚きさ。投票に際してプロフィールに年齢・性別・職業を記載の方には、わがAVパラダイスのAVの一割引きネット・クーポンをプレゼント、とかで情報が手に入るんだけどね。
イクメン男優ランキングでは、イク時の男優の顔がズラリとウェブに並ぶから、これを見るのは、おおまか女性だろうと我々は見ているけどね。」
流太郎は自分もイクメン男優ランキングに入るかな、と想像して(おいおいおい、おれは元サイバーセキュリティ対策の・・・)
社長は流太郎の顔を見て、
「ん、君が地球でやっていた仕事の男性という設定でも、いいぞ。」
と言うから流太郎は、
「はい、では、それで、お願いします。」
「おーし、それなら、そうするか。この星のスイツにもレマン湖というのがある。それに対して陽本の女性団体が「湖の名称を変更して欲しい。」と抗議したら、スイツは、どう対応したと思う、時君。」
「ヒマン湖なんて、どうですか。」
「いや、違うね。ハメマン湖に名称を変えたんだ。ワッハッハッハ。」
「ナルホド、粋な対応ですね、スイツも。」
「そうだろう?で、君の第一作目はハメマン湖で採る予定だ。」

 AVパラダイスのヨーロッポ支社はベルギーのブリュッセルにある。ブリュッセルはヨーロッポの首都的存在だ。ベルギーからスイツまでは493キロ程だから、地球の東京と福岡は1000キロ程なので、約半分。とすると、その中間の大阪辺りが500キロ。スイツへの旅は、その程度の距離なのだ。
 ハメマン湖はスイツとフランスの国境にあり、スイツでは湖として最大である。Lac leman が、Lac hamemanとなったのである。陽本の観光客も多く行く。現地で手に入れられる観光パンフレットにはLac hamemanと印刷されている。
現地でタクシーの運転手に、
“Wo Lac hameman?”(日本語での発音としては、ヴォー、ラック、ハメマン?日本語の意味は「ハメマン湖は何処ですか。」)と訊くと、
「ja(ヤー、意味は、はい。)」
と答えて連れて行ってもらえる。ドイツ語ではjaがヤーなので、japanはヤーパン、なのだ。
 ハメマン湖近くの駅で降りた流太郎、AVパラダイス社長、羽目太郎監督はタクシーに乗った。車中で社長は、
「あの列車に載っていた時に思いついたのが、『世界の射精から』というタイトルなんだねー。スポンサーがカイザーだけにヨーロッポロケは簡単さ。列車で旅しつつ、ヨーロッポの美しい風景を映し、列車の便所内でAV男優に女優と絡んで射精してもらうという企画。どうだね、羽目太郎監督。」
羽目太郎監督は両手をポンと叩いて、
「いいじゃないですかー、社長。カイザーがくれる予算は凄いんでしょ?」
「軽音楽を流して『世界の射精から』提供はカイザーです、とやろう、な?時君、どうかね、あん?」
流太郎はハメマン湖に近づく美しすぎる景色に見とれていたが、
「ぼくが絡むんですか、社長。」
「すべてに出なくても、いい。お、ハメマン湖が見えて来たぞー。」
豪華なクルーズ船も湖上に見える。又、湖上に古城らしき建物があるのもハメマン湖の特色だろう。クルーズ船でフランスに行ってもシェンゲン加盟国のため、国境審査はない。
 シェンゲン協定による加盟国は
アイスランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スイツ、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、
である。
地球のヨーロッパでは、この星のスイツがスイスであるだけで、地球のスイスはレマン湖という湖はある。今のところ、日本の女性団体による湖の呼称についての抗議は、行われていない。
つまり、この星の陽本の女性は日本女性と少し違い、行動力があるという事だろう。
シェンゲン協定により三人は、ベルギーからスイツまでパスポートを見せずに辿り着いたのだ。
上記のシェンゲン加盟国はスイツをスイスに変えれば、ヨーロッパ旅行にも役立つだろう。ビルドゥング(教養・ドイツ語)な展開もあるので期待されたし。

 社長以外の二人の目にもハメマン湖は見えた。タクシーを降りると社長は歩きながら、
「クルーズ内でロケの予定だよ。時君の初仕事だ。」
と語りかけた。
流太郎は緊張して、
「はい、精いっぱい頑張ります。」
と歩きながら答えた。
 湖畔に巨大な船が停泊していた。豪華クルーズ客船だ。快晴の空の下、船体は黒一色。流太郎は、(この船の中で仕事をするのか。楽しそうだ。)と思いつつ、社長と羽目太郎監督の後を歩いて、そのクルーズ船に乗る。
湖の周りを見渡すと、白い雪化粧のヨーロッポ一の山、モンブラン(因みにドイツの高級ボールペン、モンブランは、この山の名前から名付けられている。)が、その姿を見せていた。ただ、ここはヨーロッポなので、地球のドイツのボールペンメーカーは地球のヨーロッパのモンブランから、名前をつけたので、この星のモンブランではない、というのは書くまでもない事だが。
湖畔には古城が湖上から見えた。この星は地球のパラレルワールドともいえるのだが、SF的パラレルワールドは概念のものとしての世界にとどまる筈だ。全く同じ人や物が別の世界にある、という詭弁的世界など存在しないだろう。
この星は地球と全く同じではない。それでヨーロッポのハメマン湖なのだ。
地球のレマン湖が観光地であるように、この星のハメマン湖も観光地らしい。ただ地球と違うのは空飛ぶ自家用車が湖上の空高く飛んでいる風景だ。十台ほどだろうか。
それは湖の景観保護のため、一時間に飛べる自家用車は台数が限られているのだ。
ハメマン湖の周辺には観光ホテルが立ち並んでいる。駐車場の広いレストランもある。ラブホテルらしきものも散見された。高級ホテルだろうと思われる外観の最上階はバルコニー付きで、スロップシンクつきという念の入りようだ。スロップシンクとは汚水を流すためのものだ。その最上階はスイートルームらしく、キッチンにはディスポーザーも設置されている。ディスポーザーとは生ごみを流しても、下にある部分で分解されて下水処理される。スロップシンクやディスポーザーは2018年頃にも日本にあった。
なのであるからして、この星の高級ホテルにあるのは当たり前で、もっと凄い設備も当然、ある。
が、それは後述される機会も、あるだろう。クルーズ船の甲板で景色を舐め回すように見ている流太郎に、社長は、
「もっと、よく見たいだろう。これで、見てみたまえ。」
とオペラグラスのようなものを手渡してくれた。
そこで流太郎は陽本製のオペラグラスで再度、湖畔の風景を眺望すると、
さっきの高級ホテルの最上階のバルコニーで全裸の白人らしい男女が立ってセックスしていた。若い女がバルコニーの手すりに両手を揃えて、つかまり後ろに高く豊満な尻を突き出している。でっぷりと太った資産家らしい禿げ頭の五十代の男性が愛人らしい、その若い美女の尻をムンズと掴み、腰を振っている。それに合わせて動く若い美女の尻、黒髪。白い乳房も揺れている。
流太郎はオペラグラスの位置を変えてみた。自分で、グルリと回転してみたのだ。すると又しても、高級ホテルの最上階で全裸の男女のセックス。体位は前のカップルと同じだが、男女は逆転して、五十代の資産家らしい女性と、若い男との立ちバックである。これも白人男女で、若い男は金髪で痩せているが筋肉質の甘い顔をした色男。資産家の女性は長い黒髪を振り乱して、五十路とは思えない乳房を後ろから若い男に掴まれて、乱れた尻を振りまくる。
オペラグラスは精度が良く、若い男の肉棒が抜き差しされるのさえ流太郎には見えたのだ。
 社長は流太郎のの顔色を見ると微笑み、
「それは今までの機能で地球にもあるよね。オペラグラスの横にある赤色のボタンを押してごらん。」
と誘うように促した。
流太郎は目からオペラグラスを外すと、オペラグラスの右側に赤いボタンがあるのに気づき、それを押した。社長が、
「よし、それでいい。又、見てみなさいよ、オペラグラスで。」
流太郎が再び目に当ててオペラグラスを見る。立ち位置を変えたため、最初の資産家の男と若い美女のセックスが見えた。彼らは、まだ性交を続けていた。だが、しかし・・・
流太郎の脳内は先ほどとは全く違った反応が起きたのだ。それは感情移入というより、もっと激しい、まるで自分が若い美女を突きまくっているような感覚を自分の脳とペニスに感じたのだ。しかも自分の男性器は、まだ屹立していないのにも拘わらず、雄々しく勃起した感覚で若い美女の肉の洞窟を貫いている、そして突きまくっている、その快美感まで伝わってくのだ。
これはバーチャルリアリティを超越したものなのだ!
資産家は頑張りすぎて息をゼイゼイ、言わせているが、それまで流太郎の呼吸器官には同じ感覚を覚えさせる。
(なんだ?これは!これでは自分が、あの太った金持ちと一体になったのと同じだ!)
やがて資産家は中出して射精した。その感覚も流太郎は味わう。ゴムなしのセックスだったのだ。愛人が孕んでも、ゆとりのある男なのだろう。やがて資産家が、しぼんだチンコを抜き取るところまで流太郎は感じていた。
部屋に二人は全裸のまま戻っていった。その時、流太郎は資産家の精神的、肉体的状態とは縁が切れたのだった。
オペラグラスを眼から外すと流太郎は、
「すごい機能ですね。まるで自分が、あの太った男になってしまったのを感じましたよ。」
と感想を述べると、社長は、
「驚いただろう。そろそろ甲板の下に行こう。ロケが待っている。撮りを押し始めようかな。」
 船上の甲板から広い階段を降りていくと、社交場のような場所があった。が、まだ誰もいない。驚くべきものは社交場の部屋の窓が大きい事で、部屋の床から天井までがガラス張りなのである。この豪華クルーズ客船は、黒い外見だが、それは何と全てマジックミラーだったのだ。
社交場を通りながら流太郎は、部屋いっぱいの壁の窓を右に見て、湖の中が見えるのに驚いた。先を行く社長は立ち止まり流太郎を振り返ると、
「自己紹介をしていなかったね。私は栄部伊・売雄(えいぶい・うるお)という。本名だよ。」
と話すとニカと白い歯を見せた。先を歩きつつ栄部伊社長は、
「珍しい名前だと思うだろうが、時君。栄部伊と言う姓は代々、続いている。私の父親がAVファンだったのでね、それでAVを売る人間になって欲しかったのさ。
父の部屋には数万のAVの地球で謂うDVDみたいなものがあった。十八歳になって大学に入った私は、家に帰ると父の部屋から、その膨大なavdvdを借りて自分の部屋で見ていたんだよ。勿論、それ程のコレクターだから、父は、あるav制作会社の専務だった。社長より暇を持たせてもらっていたらしい。大学では私はAV学部のAV学科で、AV学博士号を取得したよ。二十八歳だった。勿論、論文も出版した。「陽本の基幹産業であるAV業界の今後の発展の基盤となる重要な社会的要因と、その変化に対応した撮影手法の多様化についての段階的方法論」
という少し、ややこしいかもしれないけどね。」
廊下の片側は床から天井までガラス張りだ。廊下のカーペットの色は真紅で、ガラス越しに見える湖の中は地球の十倍の大きさの鯉が泳いでいるのが見える。
流太郎は、それを左目で見つつ、栄部伊社長の学歴に驚嘆したのだ。
撮影場所らしい部屋のドアを開けると、そこには人妻らしき女性がソファに座っていた。部屋の広さは狭く、四畳半しかない。栄部伊社長は、
「こちらは梅村性子さん、仮名だけどね。性子さん、地球の日本から来た時流太郎君だよ。」
しっとりとした人妻の性子は立ち上がると、
「初めまして、時さん。」
と話しかけて微笑む。流太郎も、
「初めまして、性子さん。あ、いきなり名前を呼んでしまって。でも、仮名だから、いいでしょ?」
「もちろん、いいわよ。わたし二十五歳なの。歳は誤魔化さないわ。」
流太郎は性子の美乳らしき胸の盛り上がりを見下ろしてしまった。彼女は背は中くらいで、ミニスカートを履いていたのだ。人妻にして人妻らしからぬ雰囲気は、ある。そうでなければAVには出ないだろう。
羽目太郎監督が進み出るとインタビューする。
「奥さんは御主人と、どのくらいセックスレスなんですか?」
「一年くらいかしら。主人は一流企業の部長を勤めています。まだ四十歳ですけどね。」
「ははあ、それでは豊かな暮らしが出来ますね。それにしても四十歳位の男性が奥さんみたいな、お綺麗な人と性交渉がないなんて、本当ですか。」
「本当です。主人は浮気しているんですよ。探偵を雇って調べたんですよ。ラブホテルに入っていくところ、出ていくところを撮影しています、探偵は。」
「それで当社に応募されたんですね。有り難い。」
「ええ。ネットから応募しました。一流企業の会社の部長の妻ですもの。最大手の貴社でなきゃ、いやなんです。」
「ありがとうございます。さっそくですが、奥さん。脱いでもらえますか。」
「ええ、承知しました。」
上品なる若い奥さんは、その場でスグ、全裸になった。一年も夫と性交渉していない、その体は二十五歳の女の色香を発散している。
流太郎としては戸惑いもある。栄部伊社長は四畳半の部屋の窓のカーテンを開けた。四畳半にしては、かなり広い窓だ。湖の中は純粋に透明とはいえない。その中を淡水魚が泳いでいる。
地球のレマン湖の湖岸にはヨーロッパ最大の淡水魚水族館があるが、ここはハメマン湖で、湖岸に水族館はない。その代り、この星の世界の淡水魚を集めてハメマン湖に入れているという。それで種々雑多な淡水魚が見られる。

SF小説・未来の出来事9 試し読み

 静枝はカリスキ氏の舌が自分の唇の中に侵入してきたのを感じると、ウム、ウグと声を洩らしつつ、自分の舌をカリスキ氏の舌に絡め合うのだ。カリスキ氏も又、静枝の舌の感触を自分の舌で味わっている。この聴診器のような部分の内部は人間の皮膚に驚くべく程、似ている。謂わば驚似(きょうじ)とでも表現できる、今までの日本語にはない形容詞が現出する。なにゆえ、驚似という日本語がなかったかというと、驚くほど似ているものが存在していなかったという事だろう。この聴診器様の機器の内部は、それに接したものと同化するという特性を持っている。それでカリスキ氏が舌を当てている部分はカリスキ氏の舌と同化しているのである。その感触を聴診器様の部分から先に出ている紐状のもので、静枝の唇に当てられている聴診器様の内部に転送されている。つまり静枝はカリスキ氏の舌を味わう事になる。のみならず静枝はVR(バーチャルリアリティ)の感覚でカリスキ氏の舌が自分の唇の中に入って来た感覚を味わうのだ。なんと驚くべき機械ではないか。
 次にカリスキ氏は静枝の口に当てたものを彼女の陰部に移動して当てた。自分の聴診器のようなものは口に当てたままで。途端に静枝は自分の女性器がカリスキ氏の舌で舐められているのを感じて、
「ああっ、そんなとこを・・・。カリスキさん、でも、気持ちいい。」
と声を洩らした。
驚くべき事だがカリスキ氏の口に当てている聴診器様の内部は静枝の女性器の皮膚感覚へと変質している。それによってカリスキ氏も直接、静枝のオマンコを舐めている感覚を覚え、自分の股間の屹立したものを益々、硬くしてしまう。遂にカリスキ氏は、
「もう、たまらん!堪えきれない。いくぞー。」
と叫ぶと、自分の口に当てている聴診器様のものを自分の股間に当てた。両手が塞がっているのでカリスキ氏は流太郎に、
「時さん、僕のズボンのファスナーを降ろしてくれ。」
と懇望した。流太郎は急いでカリスキ氏のズボンのチャックを下に降ろす。カリスキ氏は、
「パンツから僕のモノを抜き出してくれよ。」
と再び、懇望するから流太郎は素早くカリスキ氏の棍棒のような物を懇望されるがままに、パンツの外へ出す。カリの太いカリスキ氏の棍棒の先端、つまり亀頭部分に氏は聴診器様の内部に当てた。静枝は、
「ああんっ、入ってきてるわっ、カリスキさんの太いものがっ。」
と頭をのけ反らせつつ、乱れて叫ぶ。
カリスキ氏は腰を前後に振り出すと、静枝は「ああんっ、ああんっ、いくぅー。」
と泣くような声を出す。バーチャルリアリティーとして静枝は自分のオマンコの中にカリスキ氏の極太いモノが出入りしているのを実感した。実際的には二人の間は五十センチは離れているだろう。勿論、二人の性器は直接結合しているのではない。聴診器様の内部は空洞であるが、その部分がカリスキ氏に接している部分が静枝のオマンコに、静枝がオマンコに当てられている聴診器様の内部はカリスキ氏の亀頭や肉の竿に変質している。これが竜宮王国が緑星に提供した機器の最先端な性科学用品らしい。竜宮王国の機器は、もっと、これより先を行くものではあろう。が閑話休題(それは、さておき)カリスキ氏と白花静枝は本当に性交しているように顔を上気させ、二人共、尻を振っている。二人の目は虚ろになり、静枝は赤い彼女の舌を唇から出した。その時、カリスキ氏は、
「もう、限界だ。玄界灘にいなくても、限界・・・でるうっ。」
と叫ぶと、聴診器様の内部にドクッ、ドピュウウッと白い精液を大量に射精した。静枝は長い黒髪の頭を、後ろに反らせるだけ反らすと、「はあうんっ、いいいわぁっ。」
とカリスキ氏の射精を本当に受け止めたかのように感じていた。現実にといえば、カリスキ氏の精液が聴診器様の内部から紐を通して静枝のオマンコに当てられた聴診器様の内部に転送される事はなく、ただ、その液体の感覚を静枝のマンコに伝えるだけでは、あるのだが。この辺も、その機器の地球から見れば最先端と思えるもので、液体が身体にかかる感覚を再現させるという、すぐれた代物だ。軽い電子ビームのようなものが聴診器様の内部に出てくる。それが射精された感覚と同じものとなるのだから、驚きだろう。
更に驚きなのは、こういう思わぬ射精の場面を想定されて作られているのか、カリスキ氏の射精された精液は除湿機能で綺麗に消えていた。それにより聴診器様の内部をティッシュで清掃する必要は微塵もないという便利さだ。カリスキ氏は、まだ快感の余韻に浸っている静枝に自分の聴診器様の内部を見せて、
「大丈夫、安心していい。僕の精液は君のオマンコの中に放出されてはいないから。」
と解説した。静枝は閉じていた両眼を開けると、
「なんだ、バーチャルリアリティーだったんですね。でも本当にセックスしているみたいだったわ。カリスキさんって、とってもテクニシャン。腰の降り方がうまいんですもの。わたし、何回も星の彼方にイキました。」
と告白した。カリスキ氏もパンツを自分のモノにかぶせて、静枝にショーツの端から滑り込ませて当てていた聴診器様のものを取り出すと、
「僕も何度もイキそうなのを堪(こらえ)えたよ。本当に君のオマンコに入れている気分だった。」
と打ち明けると、後ろを向き、流太郎と籾山田を散見した。籾山田の顔は半ば呆然、半ばは驚きの表情だった。流太郎の顔は唖然としていた。籾山田は、
「挿入せずに白花君を絶頂に導いたのには驚いたよ。実は私の女房とは私は、夜の営みが随分と御無沙汰なんだ。カリスキさん、よかったら私の女房とも、してくれないか?その聴診器のようなもので。」
と流太郎には驚きの提案をした。カリスキ氏は聴診器様のものをズボンのポケットにしまうと、
「福丘市の職員として、それは出来ない相談です。でも、困っている市民を助けるのも我々の役目。奥さんを抱けるのなら、いただきます。」
と眉毛一つ動かさずに返答した。籾山田は満足げに、
「それは、よかった。私も自分の女房が自分以外の男に抱かれるのを見たかったんだ。それではね、女房の居る部屋に案内する。」
と話すと、長い廊下を歩きだす。方向としては、牧場へ向かう向きとは正反対の向きに。一番奥の部屋のドアを籾山田が開けると、三人は籾山田を先頭に中へ入る。高級ホテルのスイートルームのような部屋だった。窓際のデスクに一人の女性がパソコンに向かっていたが、籾山田達が入ってくると顔を三人に向けて、
「あら、いらっしゃい。あなた、この方たちは?御客さんなの?」
と人妻に見えない初々しさのある美人顔で問いかける。籾山は、
「ああ、そうさ。それもね、おまえには、いい人になりそうなんだよ。」
睫毛の長い籾山の妻は、その睫毛をパチパチと動かすと立ち上がり、
「こんにちわ。ようこそ、おこの島牧場へ。」
と両手を自分の股間に当てて挨拶した。真っ白な肌で両方の瞳は緑色、紛れもない緑本人だ。西洋梨のように下半身が、ふくらんでいるが彼女の首筋は細く、髪の毛は茶色だ。籾山田は妻に歩み寄ると、
「紹介するよ。私の妻で、美秋子(びあきこ)という名前だ。旧姓は春野田(はるのだ)だけど、それは、どうでもいい事だったかな。美秋子、あちらの紳士の右側がカリスキさんだ。」
カリスキ氏は右手で自分の前髪を撫でつけると、
「初めまして、奥さん。カリスキです。」
と自己紹介する。カリスキ氏は、こっそりと口の中で生唾を飲み込んだ。超絶的な美人だ!まるで冷凍睡眠から目覚めたような籾山田の妻、若妻の美秋子。人妻には見えないから倫理的な問題意識もない。中年の籾山田に対して妻の美秋子は二十代半ばか前半に見える。美秋子の服装は上下とも白で、下着も恐らく白色だろう。美秋子はカリスキ氏に微笑むと、
「初めまして。カリスキさん。ここは私の私室でダブルベッドも、あそこにありますわ。」
と部屋の隅を美秋子は白い指で示した。そこには白のベッドカバーが掛けられた柔らかそうなダブルベッドがある。カリスキ氏は咄嗟に(あのベッドで、この美人を抱ける。)と思うと、又、口中に湧いた生唾を飲み込む。
流太郎は別の視点から春野田美秋子を見ていた。籾山田が地球では株式会社夢春の社長の籾山に、そっくりなのと、その妻の美秋子は地球の籾山の妻の美秋に梨二つなほど似ている。西洋梨のような、その姿態もだ。地球の籾山の妻の旧姓は確か、春野だっただろう。こういうのをパラレルワールドと、いえそうだ。美秋子は流太郎を見ると、
「あら、仕事の方は、いいの?時田君。」
と問いかけた。流太郎は、
「は?私は、こちらで仕事は、していませんが。」
「あら、ごめんなさい。うちの従業員の時田に、貴方がそっくりなものですから、ねえ、松助さん。」
と自分の旦那の方を顧みる。籾山田松助は、
「時田は牧場で働いているよ。この人は時さんといって、地球から来たんだ。」
「あら、そうだったの。そういえば目も黒ね。いえ、時田の目も黒いんです。地球からじゃ、なかったわよね?時田は。」
籾山田松助は、それに答えて、
「地球じゃなかったよ、時田は。それよりカリスキさんとセックスしたくないか?美秋子。」
美秋子は恥ずかし気に、
「いやーね、あなた。時さんも、いるし、ね?時さん。」
と言いつつ流太郎を見る。流太郎は、
「それは構いません。奥さんさえ、よろしければ僕は、ここで見させてもらいます。」
旦那の松助は、
「美秋子。時さんも、ああいっているんだ。おまえとは二年も、してないし、すまないと思っている。」
美秋は照れて、
「うふ、そんな事、ここで言わなくても。でも、あなたの前で、わたし他の男の人に抱かれていいの?」
カリスキ氏は、
「奥さん、素肌と素肌を密着させる事を考えると問題意識もあるでしょう。けどね、あなたと私が指先さえ触れることなくセックスをするというのはバーチャルですが可能ですよ。」
と申し出た。美秋子は納得しない顔で、
「バーチャルに?仮想現実って事?空想の世界に耽るとか、そういう事ね。二人で裸になってベッドに座り、おたがいの性器を見ながら・・・というような事かしら。」
「いえー、そんな全裸になるなんて、そこまでしなくても、いいんです。奥さんは下着まででも十分です。」
「下着をつけたままでセックスできるの?」
「それは仮想現実ですから。」
カリスキ氏は美秋子に歩み寄ると、ズボンのポケットから聴診器様のものを取り出した。美秋子は、それを見ると、
「いやーだ、お医者さんごっこね、それを使って。」
「いえいえ、これを、こうやって。」
カリスキ氏は聴診器の片方を美秋子の唇に、片方を自分の唇に当てた。途端に美秋子はカリスキ氏にキスされた気分になる。カリスキ氏が唇を聴診器様のものから離すと、美秋子はカリスキ氏の唇が自分の唇から離れるのを感じた。彼女は残念そうに、
「もうキスをやめるのね。つまらないわ。」
カリスキ氏は、しかし、
「奥さん、僕は、どうも駄目みたいです。」
と乗り気ではない様子だ。きょとんとした籾山田夫妻にカリスキ氏は続けて、
「さっきね、受付嬢の人と・・・。」
美秋子は、
「白花さんね、彼女と・・・?」
「この機械でセックスしてしまって。それで、もう出すものがないみたいで。そうなると男が立たない、というやつでして。」
美秋子はハハハ、と笑い、
「なるほどね、白花さんにだと全部、出してしまっても可笑しくないわ。でも、わたしの体は火照って、しょうがないわ。松助さん、だめなの?今は?」
旦那の松助は、
「今も無理みたいだよ。時さん、君、どう?僕の家内の美秋子と、するのは?」
と打ち水を振るように問いかけてくる。流太郎は美秋子が、あまりにも地球の籾山の妻、美秋に似ているので抵抗はある。それで答えられないでいると、美秋子は流太郎に近づいて彼の股間を右手で触った。まだ流太郎のそれは充血していなかったが、美秋子の柔らかい白い指先が自分の睾丸と陰茎を握るように動かさないので、ついに激しい血流が流太郎の股間に集結した。美秋子は自分の手の中で大きくなった流太郎の息子に、
「すごいわ。若いのね。主人のより硬くて大きいわ。時さん、わたしと、しましょ。」
カリスキ氏は聴診器様のものを流太郎に渡した。それを受け取った流太郎は、
「これなら奥さん、問題ないですよ。」と云うと、
聴診器を自分の口に、もう一つのそれを美秋子の唇に当てた。二人は即座にキスし合っている感覚を覚える。流太郎は、(なんて柔らかで気持ちいいんだ、奥さんの唇は)と感じ、美秋子も、(男らしい唇ね・・ウットリするわ)と眼を細める。籾山田松助は妻の美秋子が従業員の時田とキスしているような気分になる。二人のバーチャルキスは二十分を超えた。流太郎のズボンの股間は今や、破れんばかりの勢いになっている。カリスキ氏は二人の傍から、
「時さん、もう、そろそろ奥さんとベッドへ行って。」
と指導する。
流太郎は一旦、聴診器様のものから自分の口を外し、美秋子を見た。美秋子も唇を聴診器様のものから外すと流太郎の右手を左手で握り、ダブルベッドへと連れて行く。
美秋子はベッドのそばで流太郎の手を離すと、彼に向き合い、服を脱いでいった。流太郎も美秋子と向き合った。白い上着の下は何と黒の下着を美秋子は身に着けていた。彼女はブラジャーを抱きかかえるように両手で握る。すると!黒色だったブラジャーは透明になったのだ。美秋子が両手をブラジャーから離すと、そこには豊満な果実のような彼女の乳房がハッキリと見えていた。なにせ透明なブラジャーだ。ツンと尖った美秋子の赤い乳首も見える。美秋子は次に、股間のショーツに陰部を隠すように両手を当てる。そして両手を外すと、その股間のショーツも透明となっていた。黒々とした美秋子の陰毛は、かなり多い。流太郎は美秋子の透明な下着姿を上から順番に見ている。もはや全裸に等しい美秋子だった。彼女は、
「タッチすると透明になる下着なのよ。地球には、こんなものは、ないでしょ?」
「ええ、ないです。こういった方面に地球の科学は進歩しません、ようです。」
「そうでしょ。それで男は性欲を失いがちかな、主人にも見せたくて。ね、あなた、どうだった?」
と松助を振り返る美秋。松助は、
「よかったよ。少し息子がびくっとしたかな。」
「よかった。今晩、あなたの前で見せてあげる。聴診器みたいなものでバーチャルセックスなんて、わたしには好まれないものね。それよりリアルに近いセックスがしたいの。」
美秋子はベッドわきのタンスから何かを取り出した。それはクマのぬいぐるみだった。それも分厚いぬいぐるみで、美秋子は、それを流太郎に手渡し、
「服を着たままで、このぬいぐるみを着て、わたしとベッドでセックスしましょ。」
と微笑む。それを身に着けた流太郎は顔は、ぬいぐるみの目だけが空洞になっているから外も見えるが、肝心の男根の部分も厚いぬいぐるみで覆われている。さっきまで元気に隆起していたものも、今は萎びてしまった。それで、
「奥さん、もう全然、立っていませんよ。これでは何にも、なりません。」
「そーお?じゃあ、わたしが、こうすれば?」
美秋子はダブルベッドに仰向けに寝そべると、流太郎に向かって膝を立てて大きく美脚を広げた。彼女の陰部も口を開いた。透明下着なので、それは流太郎にも見えるが自分がクマになったようで、一向に息子は立たない。美秋はベッドに起き直ると、ベッドわきのテーブルからリモコンのような物を取り出す。それを彼女は指で操作した。と、どういう事だろう。
流太郎の脳内に強い電流のような物が走り抜けた。流太郎は、ものを云おうと思ったが、言語は全て忘れていた。とにかく何か叫びたい。ウォーッ、ウォーッと彼は叫んでいた。
 近くにいるカリスキ氏と籾山田は呆気に取られた表情で、夫人の美秋子は透明の下着姿でベッドに座って笑っている。彼は自分の脳内がクマになったと感じた。それは、ぬいぐるみの頭部の内部に、まず電流が走ったような感覚があり、それから言語を失ったような感覚と人間の理性を亡くしたような気持ちになった。眼の前にいるのは透明の下着を身に着けた美人妻だ。クマとしての自分には何の興味もなかった。さっきまで自分は、この美人妻の裸体に近いものを見て下半身の陰茎をあらんばかりに立てていたのだが。
クマ、クマ、クマだ、こんな場所には仲間のクマは、いるはずがない。この外に出よう。きっとクマが、いるはずだ。できればメスのクマに巡り合いたい。クマになった流太郎は施設の玄関に駆け出す。クマになったといっても、ぬいぐるみの中の肉体は人間のままだ。
 施設の玄関に飾ってある高価そうな大きな焼き物の壺を流太郎は右手に取ると、それはカップラーメンのお湯を入れていない状態の重さに感じられた。ウオーッイッ!流太郎は奇怪な叫びをあげると、玄関ドアに、その焼き物の壺を投げつけた。ガシャン!と大音響をあげて壺は細かく割れて落ちた。ドアノブをぬいぐるみのクマの手で開けると流太郎は牧場へ出た。牛、牛、牛の群れが見える。クマなんて何処にも、いないじゃないか。当たり前だ。牧場にクマを飼っている奴など、どの世界にいるんだ。少し先の柵の向こうに森が見える。あの森の中にはクマが、いるかもしれない。クマの流太郎は二本足で走った。ぬいぐるみではないと遠くから見て、そのクマの走り方を見た人は驚いただろう。クマの流太郎は柵を跨ぎ越え、昼なお薄暗い森へと走り入った。
 森の中に一匹のメスのクマがいた。人間の流太郎なら恐怖を覚えるだろう。しかし、今の流太郎の意識はオスのクマなのだ。人間の意識は失っている。そのメスクマは縫いぐるみの流太郎を見ると、オスのクマと思ったらしく、自分の前足を木の幹に掛けて尻を高く突き出した。メスクマは性器を見せている。流太郎は勃起した。すると、それに連動して縫いぐるみの性器を覆っている部分も拡張、拡大したのだ。それでクマの、ぬいぐるみのそれも立身した。そうだ、立身挿入だ!流太郎はメスクマに、のしかかると縫いぐるみで覆われた自分の挿入の道具をメスクマの生殖器に突入させた。獣姦という意識は流太郎には、なかった。メスクマも縫いぐるみのクマとは思っていないようだ。二匹は大木を揺らすほど腰を振った。クマの意識になった流太郎は射精への緊張が人間の時より早い事など、比較する記憶もなく、おっ、という間に射精してしまった。

 施設内では牧場主の籾山田の妻、美秋子が自分の透明になった下着を再び両手で軽く触れると、透明な水着は白色になり、彼女の股間を覆うショーツも彼女の黒き陰毛は反映しなくなった。乳首も同様に見えなくなる。美秋子は手にしたリモコンを操作して、ニヤリと笑みをこぼした。籾山田は、
「何をしたんだ、美秋子。」と聞く。
「クマのぬいぐるみを着た時さんの意識を人間に戻したわ。さあ、外に出ていった時さん、どうなるのかしら?」

 メスクマの前に立っている時流太郎は、意識がクマから人間へと戻った。その途端に目の前に尻を出しているメスクマの姿に恐怖を覚えた。(クマ、だ。こわい。さっきまでは怖くは、なかったのに。)
ただ、メスのクマは気持ちよさそうで、流太郎に襲い掛かってくる気配もない。彼は、そーっと後ろを向くと、ゆっくりと歩き出した。森は、すぐに出た。施設へ帰ろう。牛は流太郎を気にしてもいない。おそらく、ここの牛はクマに襲われた事など一度も、ないのだろう。
立身挿入してしまった。立身挿入?本来の言葉は立身勃起だろう。いや、立身出世だったかな、と流太郎は思惟しつつ、立身勃起という言葉から連想される形態学的なイメージを脳内に沸き上がらせんと試みようとした刹那、施設の入り口は目の前だ。流太郎は美秋子の透明な下着姿を回顧的に想起してしまい、その想起により勃起を惹起されるのでは、と著しく懸念をしたが、さっきの自身の液体放出により、時間の経過が短いために再勃起は現状としては起こってこなかった。
玄関にあるインターフォンから美秋子の声が、
「おかえりなさい、時さん。今、ドアは開くから。」
と聴こえたら、ドアが開いた。中に入って、廊下を一番奥の部屋まで流太郎は歩いた。美秋子のスイートルーム風の部屋のドアは、流太郎が来るのを待っていたかのように自動で開扉した。
 中に入ると牧場主の籾山田が、
「お帰り。君は一時的にクマになったようだね。」
と声を掛けて、ねぎらう。
流太郎はクマのぬいぐるみを脱ぎ捨てると、
「なんだか全く分かりません。自分が人間でなくなり、本当のクマの意識になっていました。さっきはメスのクマと、いや、なんでもありません。」
因みにであるが地球の福岡市の能古島にはクマは、いない。パラレルワールドみたいでも、そういう違いはあるのだ。カリスキ氏は、
「もうすぐ日が暮れるから、おこの島から帰ろう。おこの島には宿泊施設は、ないからね。」
二人は牧場を出て、船着き場まで歩いた。カリスキ氏のスマートフォンが鳴ったようだ。「はい、もしもし。何?地球人女性を連れている?よし、行くよ、今から。」
と答えて通話を切るとカリスキ氏は流太郎に、
「福丘タワーに又、行くから。」
その時、二人の後ろから若い女性の声がした。
「お二人さん!待ってください!」
それは、おこの島牧場で乳搾りをしていた城谷輝美だった。輝美は今は作業着ではなく、私服を着ている。流太郎には益々、輝美は城川康美に似て見えるのだ。輝美は、
「福丘タワーに私も行くんです。連れて行ってください。」
と頼み込むので、カリスキ氏は、
「ああ、いいよ。一緒に行こう。」
三人揃って船に乗り、福丘タワーの近くの船着き場に船が着くのは十分後だった。
福丘タワーの玄関近くに一組の男女が、いた。カリスキ氏、流太郎、城谷輝美と続いて歩いていくと輝美は、
「流一郎さん!待ったかしら?あれ、その人、誰なの。」
と、その男性に声を掛ける。流一郎は、
「やあ、輝美。この人は地球から来た女性だよ。名前を城川康美さんといってね。迷子になったから、僕は、さっきカリスキ氏に電話したんだ。」
流太郎は流一郎という、その男が自分に、そっくりすぎるのを感じた。まるで、そこに鏡があり、自分を映しているような気分だ。だが言わなければ、
「城川君。見つかって、よかった。心配しすぎたよ、本当に。」
康美は、
「時さんも無事で、よかったわ。」
と微笑む。
カリスキ氏は、「その男性は僕の部下なんだ。広いようで狭い福丘市で、よかった。」
その時、又、カリスキ氏のスマートフォンが鳴る。
「はい、あ、これは、どうも。いえ、大丈夫です。二人共、無事でした。ええ、わかりました。」
とカリスキ氏は答えた。通話を切ると流太郎と康美に、
「浜辺へ行こうか。潮風が涼しい。」
歩いてすぐのところが白砂の海辺だ。波は低く、緑色の海。と、その洋上に円盤が突如、現れた。青い光線が空中に静止した円盤から出ると、流太郎と康美は、その光に包まれて円盤の内部へと消えた。
カリスキ氏は右手を高く上げて、円盤に向けて振る。

 円盤の内部にはアフロディナ女王が玉座に座っていた。竜宮王国の絶対的女王だ。女王は、
「どうでした?緑星は、訪問してみて?」
と二人に御下問なさった。
流太郎は、
「驚きの連続でした。まるでパラレルワールドみたいでしたよ。」
アフロディナ女王は得意げな顔で、
「私の指示で緑星は地球に似せたのよ。これから訪問する星は、それとは違った惑星。何かあっても、わたしが手を回して助けてあげられるのは何処の星でも同じ。だから安心していていい。」
「クマのぬいぐるみには驚きましたね。あれも竜宮王国の発明品ですか?」
「もちろんよ。緑星も科学は地球と同じレベル。私達の関与なしには進化できないわ。あのぬいぐるみは、ね。DNAレベルで人間をクマに変えられるという、ぬいぐるみ。緑星の富裕層の一部にしか輸出していないけど。おこの島牧場の牧場主の夫人が持っているなんて、知らなかった。」
アフロディナ女王は流太郎達の行動を逐一、観察しているのだろうか。だとすれば安心していいのか、それとも不安になるべきか、流太郎は迷った。しかし、地球を離れて何万光年かもしれない宇宙にいる今、アフロディナ女王は本当の女神のような存在だ。次に行く星には何が待っているのだろうか。
円盤の窓の外の景色は星々から緑の草原に変わった。もう着陸したらしい。アフリカのようには見えない。気候的にも暑くない。それは熱気は円盤内に、すぐは入ってこないと流太郎は思う。アフロディナ女王は二人に、
「この星に降りて楽しむのよ。危険はあっても大丈夫。さあ、行きなさい。」
円盤の側面が開く。流太郎と康美は円盤の外に出た。二人にも、ためらいはあったが、アフロディナ女王のゆとりのある威厳に気圧(けお)されたようだ。
この星にも酸素はあった。地球と全く同じ大気だろう。地球と全く同じ星が宇宙には、いくつも存在しても不思議ではなく、むしろ当たり前なのではないだろうか。地球が大宇宙で、たった一つだけある星と考える方が狂気じみている。そして地球人類だけが宇宙で唯一、知性を持ち文明を発展させてきた、などという事など、あり得ないのだ。
ただ、流太郎が空を見上げると秋の日差しであり、太陽は二つ、並んで小さく輝いている。アフロディナ女王が乗った円盤は目に見えない速度で空へと消えていた。別の方向からバサバサバサッと大きな鳥の羽ばたくような音が聞こえた。流太郎と康美が、その音に目を向けると巨大な鷹が二羽飛んできて、その太くて鋭い足の爪で二人を掴む。流太郎に一羽、康美に一羽の巨大な鷹が、二人を空中に運び上げると空を低く、飛んでいく。二人は足元を見ることが、できない。五十メートルは上空にいるのだ。遠くに見えるのは小さな都会の街並みで、今、二人が運ばれているのは、その郊外らしい。
 鷹は降り立った。その前に二人を広大な邸宅の庭に降ろした。何かしら、その建物は研究所の持つ雰囲気である。しかも大企業の所有するような上品な外観だ。庭には数本の樹木があり、鷹二羽は、その樹木の枝に飛び移った。
庭というより研究所の敷地内らしい。建物の側面のドアが開いて、白い研究服を着た三十歳位の男性が現れた。地球のサイバーモーメントの黒沢金雄社長が若くなったような顔だ。二人に近づくと、その研究員は、
「ようこそ、我が宇宙生物研究所へ。」
と何と日本語で話したのだ。流太郎は、
「巨大な鷹に連れられて、ここへ運ばれました。助けてください。」
「ええ、もちろんです。でも、あの鷹は我々が飼育しています。研究所近くで不審な人物を見たら、あの鷹は、ここへその人物を連れてくるようになっています。私は所長の銀田(ぎんだ)といいます。」
「私は地球人で時、といいます。UFOから降ろされたんですよ、自分達の意志とは関係なく、。」
「ほ、そうですか。あなた達は恋人同士には見えないが。」
銀田は康美と流太郎を眺める。康美は、
「恋人同士では、ありません。それが何か問題でも?」
「いや、何ね。問題は、ないけど。この星の人口は一億人位で、国というものは一つしかなく、食べ物に不自由は、しません。あの鷹を見ても解ると思うけど。地球という星は食糧問題など、あるでしょう?」
流太郎は地球を思い出しつつ、
「ええ、ありますよ。アフリカなどでは食べ物がなくて、内戦が続いています。でも、それが他の大陸に飛び火する事は、ないんです。
アフリカ諸国は貧困なため戦力も十九世紀程度の装備だったりします。アフリカ人同士が殺し合って、今、アフリカの人口は1000万人位で。百万人位に減ればいい、なんて予測する学者もいますよ。」
「うむ、そんなものでしょう。ここは宇宙生物研究所ですから、貴方方を研究したいんですよ。我々の先祖は日本人であり、この国は日本語です。我々の先祖はUFOによって連れ去られ、この星で降ろされました。ただ、ここは地球の日本列島のような島国ではなくて、横長の大陸です。
 日本の伝承で「神隠し」なるものが、あるが、あれは全てUFOに連れ去られているのです。」
流太郎と康美は簡単に感嘆し肝胆、相照らされてしまう。銀田は流太郎に近づくと名刺を渡した。
宇宙生物研究所・所長 銀田金玉留
流太郎は、それを手にして、
「ぎんだ・きんたまる、さんですか。」
「いや、そうは読まないでください。かねたまる、と読みます。」
「ああ、そうですね。きんたま、と読むとマズイですかね、この星でも。」
「そうだね、きんたま、は、この星でも男性の睾丸の意がありますからね。親が名付けてくれた名前ですけど、少しは、その辺も考えてくれたらいいのに、金が貯まるようにっていう親の希望でした。」
康美は無関心さを顔に出していたが、本当は笑いたさそうだった。流太郎は、
「その親御さんの望み通り、こんな施設を建設出来たわけですね。」
「あ、いいえ。これは国の施設ですよ。私は国家公務員ですから、金は多くは貰えません。地球の日本の国家公務員より安いものです。ただね、この星では食料が安い。フリーエネルギーに近いもので動力を提供している国ですから電気代も安いし、ガス代も安い。これは、後ほど説明しましょう。とりあえず、研究所の中に入りましょう。あなた方を解剖するわけでも、ないので心配なく。ここから逃げようとしても、又、あの鷹に襲われますからね。」
銀田所長は二人を施設に入れた。
白壁と天井と床も白の施設内だ。廊下は広く幅がある。「天狗の部屋」とパネルに表示してあるドアの前で銀田は立ち止まると、二人に、
「これは、まず見ていった方がいい。」
と話すと、ドアノブを捻って開けた。銀田の後に続いて入った二人が見たものは下着姿の天狗で、二人いた。男女の天狗がガラス張りの向こうに、いた。天狗がいる部屋は六畳は、あるだろう。それを見物できるように、なっている。銀田は、
「マジックミラーだ。向こうから、こちらは見えない。」
と説明した。

SF小説・未来の出来事8 試し読み

 流太郎と康美は、それぞれが手にしたヘッドフォンのようなものを耳に当てた。ヨハンシュタインは二人に、
「それで、よろしい。目を閉じて。」
と指示する。目を閉じた二人は同じものを見ていた。青い海を、である。白い砂浜、というのは形容詞的なもので、砂は白色のものはなく薄茶色が正確な表現だ。その薄茶色の砂が続く砂浜に、流太郎と康美はいる。自分達の姿を見ると水着になっていた。流太郎は紺色の海水パンツだけ、康美は赤色のビキニだけだ。流太郎は康美のビキニ姿を見るのは初めてだ。そもそも、そういう季節や場所に一緒にいた事がない。
 康美のビキニは極薄で胸の部分は彼女の乳首がハッキリと、浮き出ていた。豊満な康美の乳房はビキニが取れてしまいそうな位な曲線を描いている。二人は砂浜に並んで座っていた。康美の左側に流太郎は座っているので、彼女の左側面からビキニ姿を眺める事になる。日焼けのしていない康美の白い肌は、このまま、ここにいれば少しは灼けるだろう。流太郎が康美の白い肩に右手を回そうとした、その時!目の前の海の水が飛沫を上げ、クジラのような潜水艦らしきものが海面に浮上してきた。その潜水艦の上部が開くと、中から若い女性が体にピッタリとくっついている制服姿で現れ、胸のふくらみを揺らせつつ、
「ようこそ、お二人さん!海底の国、竜宮王国へ御案内します。ここまで、泳いでくるのです。」
と誘った。
 当然の事ながら流太郎と康美は、ためらう。いきなり現れた潜水艦と謎の若い美女、その女性の髪は短く、男性一般の髪の長さだというのも特徴の一つで、しかも赤と黄色に染めている。立ち上がらない二人を見て、その女性は、腰のポケットからピストルのような物を取り出した。それを二人に向けて、
「来ないと撃つわよ!来ても撃つわ。楽に来れるようにね。」
と宣告し、ピストルの引き金を引く。
立ち上がった流太郎と康美に、その謎の美女から放たれたピストルの中身は赤いレーザー光線のようなもので、その怪光線は二人をグルグル巻きにすると一秒よりも短い時間で、二人の体を潜水艦上までワープするかのように移動させた。
潮風の匂いがする潜水艦の上に大きく左右に開いた昇降口が見える。若い謎の美女は、
「私の名はエリオンというわ。さあ、そのエスカレーターに乗って。」
潜水艦なのに下り方向に進むエスカレーターが動いていた。竜宮王国の潜水艦の昇降は階段ではない、というのが豪華な話ではないか。
流太郎と康美は水着のまま、(だって着替える暇は、なかった)オレンジ色の手すりのエスカレーターに乗り、潜水艦の内部へ。エリオンは二人の後からエスカレーターに乗った。
 エスカレーターから降りるとエリオンが二人の先に立って、少し歩くと大きなドアの前に移動した。エリオンは、そのドアの壁に向かって、
「女王様、二人をお連れしました。」
と、お伺いを立てた。若い女王様らしき声が、
「お入り、エリオン。二人を連れて。」
と静かな威厳を持つ響きで指図した。ドアは自動のように左側に開く。その部屋の内部は照明も一段よりも三弾は明るい。部屋の奥に玉座に座った女王は右手に錫杖を持っていた。エリオンは自分の左にいる流太郎と康美に、
「女王様に敬意を示すのよ。わたしのように右膝を曲げて。」
と話すと左足は伸ばしたまま、右足を膝の所で曲げて左足の膝の裏の方に足先をひねった。流太郎と康美はエリオンの動作を真似た。
女王は微笑むと、
「よろしい。右足を戻して。ここは竜宮王国の潜水艦『ウミノソコー』です。博多湾から北に百キロ行った海底に、我が竜宮王国は、あります。」
流太郎は聞いてみる。
「女王様。もしかして、その竜宮王国とは、あの浦島太郎が行った竜宮城の事ですか。」
女王は頷(うなず)くと
「その通り。大昔は竜宮城と地上の民が呼んでいた。浦島が助けた亀は、わたしの祖先が飼っていたもの。そして、その亀は自然界の生き物の亀ではなくて、人工の亀だった。」
康美と流太郎は同時に、
「人工の亀!ですか?!!」
「そうです。普通の亀が人間に助けられたからといって、竜宮城の女王に報告するものですか。第一、自然界の亀が人間の言語を分かるわけがない。浦島が亀が話すのを聞いたとしても、それは、わたしの祖先が作った人工亀が話したのよ。人類も今ではAIなんてものを多少作っているけど、わたしの祖先は浦島太郎の頃に既に人口の亀、そして、それは人工知能を持つ亀を作っていたのよ。で、それを海辺に送り、わたしの祖先が雇った少年たちに虐めさせた。それを見た浦島が人工亀を助け、海の中へ帰してやった。
 人工亀はビデオカメラを持つ二つの目で、その浦島の行為を記録していたの。竜宮城に戻って来た人工亀の脳内とも呼ぶべき場所に記録されたビデオデータを女王はパソコンのUSB端子に似たものでスクリーンに再生し、浦島の行為を確認したわけよ。ついでに、その当時の竜宮城の女王は人工亀に、
「誰に貴方は助けられたの?亀君。」と聞いた。人工亀は、
「浦島太郎さんです。」と答えたの。人工亀は助けられた後、浦島太郎に、
「ありがとう。あなたの御名前は?」と聞いた。その位の質問は出来るような人工知能を与えられているの。浦島は、とてもビックリして、(亀が喋った)と思いつつ、当時の人間らしく(この亀は神様の御使いかもしれない)と思ったのでしょう、
「ぼくは浦島太郎といいます。」と答えたのよ。その記録は人工亀の脳内にあるビデオデータに記録されていたわ。今も残っているから、あなた達に見せるわね。」
女王は近くに立っている若い豊満な肉体の美女、その女性は色白でビキニを着ていた。胸の部分は赤で彼女の股間を隠すビキニは黒色。彼女の腰の括(くび)れと、それに反比例する豊かな尻の部分、上向きの乳首が浮き出ている張り切った乳房は、ビキニが取れそうな位だ。その臣下に女王は、
「カナミ。浦島のビデオを二人に見せなさい。」と命ずる。カナミは深く頭を下げると彼女の長い黒髪と、豊満な乳房は揺れ動いて、
「はい、女王様。仰せの通りに。」と下命を排して、ビデオ機器らしき所に尻を左右に揺らせながら移動した。セクシーな胸を揺らせつつカナミはビデオをスタートさせる。女王の右横にスクリーンがあり、そこに太古の日本の浜辺が現れた。
 二、三人の少年が砂辺の亀を苛めている。
「やーい、亀。陸に上がったら、のろまだなあ。」
ポンと少年は足で蹴る。もう一人の少年は、
「動けないのかよー、おい、亀。」そう言って、又も足蹴り。あと一人の少年は、
「丈夫そうな甲羅だなあー。」と言いつつ、亀の甲羅を足で踏みつける。亀は頭と両手、両足を甲羅の中に引っ込めて耐えた。そこへ浦島太郎が現れる。なお亀に備えられたビデオカメラは目二つのみではなく、甲羅に頭を引っ込めた時は硬い甲羅の中央に小さなビデオカメラがあり、それで映像を記録する。なのであるから、いくつもの視点が人工亀にはある。このカメラの切り替えが行われるなども、竜宮王国の当時としては驚くべき技術が見られるであろう。
もっとも、この竜宮王国の一族は家臣も含めて実は・・・なのであるけれど、それは後述されるであろう。
 浦島は、「君達は、何をしている!やめなさい。亀を苛めては、いけない。」と強く叱りつけた。
少年たちは浦島太郎が村一番の力持ちであることを知っているので、
「ごめんなさい。もう、しませんから。」
と口々に謝ると、全力疾走で浜辺を逃げて行った。そして亀との会話、後日の竜宮城への招待へと映像が続いた。
流太郎と康美は目を最大限に開いてスクリーンを見ている。さて、いよいよ浦島太郎は竜宮城から自分の村へ帰るのだが。
手には竜宮城でもらった絶対に開けてはならない玉手箱を抱え、自宅に帰った。それを見た隣の家の若い娘は薄着になって浦島の家に行き、
「浦島さん、帰ったの?琴代よ、入ってもいい?」
中から浦島は、
「ああ、いいよ。おいで、琴代。」と答える。
古びた家だ。琴代も実は浦島が消えて百年後の、隣の家の娘なのだ。その家では代々、長女に琴代と名付けていた。浦島は玉手箱を畳に置くと、胡坐をかいた。琴代は浦島太郎の前で薄い着物を脱ぐと、彼女は下着など来ていないから、白い乳房と股間の黒い茂みは浦島には丸見えだった。竜宮城で贅沢な生活をさせてもらっていたが、女性との性的遭遇は一切なかった。それで浦島は自分の股間の道具に久しぶりに大量の血液の流入を感じた。それは琴代が上から見ても、明らかに分かる剛棒で、琴代は浦島の前に膝を着くと浦島の着物を剥ぎ取る。全裸の琴代の前に座った浦島も又、全裸になった。逞しい胸の筋肉、二の腕の力こぶの浦島の肉体は、それよりも力の入った長い肉の筒を琴代の股間に向けていた。
「好きよー、浦島さん。」
琴代は自分から浦島に抱き着き、両方の太ももを大きく広げて浦島の前に腰を降ろす。その時、右手で浦島の剛棒を握り、自分の股間の唇に当てて、その柔らかな秘部に導きつつ座ったのだ。それで二人は結合した。浦島は随分、久しぶりに女陰を自分の剛棒で味わいつつ、琴代は自分で大きな尻を前後や上下に揺り動かし、浦島が手で触ってくれない時は自分で自分の乳房を掴むと、体をのけぞらし、
「あはーん、浦島さあん・・・。」と声を上げた。琴代は、そらせた裸身を元に戻した時、浦島の横に珍しそうな玉手箱があるのに気づいた。豪奢な宝石の散りばめられた玉手箱だ。琴代は自分で尻を振りつつ快楽に溺れていながらも、
「浦島さん、その玉手箱は何、あんっ。」
とたずねる。浦島は、
「これか、これはね、開けてはいけない玉手箱なんだ。竜宮城でもらったものだよ。」
「竜宮城って、なんなの、それ、あん、いい。開けてみたーい、わたしいぃっ。」
琴代は右手を伸ばして玉手箱に触ると、そのふたを開けてしまった。すると、中から薄い煙のようなものが出て浦島の肉体を包む。そのあと!見る見る、又見るうちに浦島の肉体は百歳過ぎの老爺の体に変貌したのだ!琴代は自分の柔らかな女唇の中の浦島の硬い大きなものが、皴ばんだ柔らかくて小さな老翁のものになったのを感じた。眼の前の浦島の顔には皺が沢山出て、彼の背中は曲がり、髪の毛と眉毛は雪でも積もっているかのように真っ白になった。浦島は、
「琴代ちゃん、だから開けてはいけない玉手箱だったんだよ。ほら、おらの硬いものも柔らかくなったし、あれ、抜けたよ、琴代ちゃんの女の穴から。」と呟く。
琴代は浦島のモノが抜けたのに気づいたが、
「ごめん。でも、浦島さん、わたしのおっぱいを揉んで、口を吸ってよ。」
と懇願するから、浦島は琴代にキスして彼女の白い大きな乳房を揉んだ。
 今の竜宮城の女王の声が、
「そこで、止めて。カナミ。」と命じる。スクリーンの映像は静止する。女王は少し顔を赤くしていたが、
「これからは老爺の浦島がダラダラと琴代を愛撫するだけで、琴代の上に乗った浦島は腹上死します。そういう映像を貴方達は見ない方が、いいでしょう。琴代は死んだ浦島の前で四つん這いになり、大きな白い尻を突き出して、さめざめとなくのですが。実は、それは玉手箱にあるビデオカメラが記録していたのです。その映像は遠隔で竜宮城に転送され記録された。ところが琴代が、この後、怒って玉手箱を取り上げて畳に叩き付けたので、当時のビデオカメラだから壊れてしまったのよ。その後は、壊れないビデオカメラを竜宮城でも研究したし、完成もしました。」
と誇らしげに可愛らしい胸を反らす女王だ。流太郎は、
「玉手箱にもビデオカメラが付属していたなんて知りませんでした。昔話って簡略化されていますね。」と感心する。女王は、
「それは、琴代とのセックスなんて記述できないでしょ。玉手箱の、その後の話は村人も服を着た琴代の証言で作られたのだから。これはビデオを壊されたので、竜宮城から使者を派遣して、当時の村人に変装させて調査させました。琴代は自分が浦島と性交したとは、村人には話さなかったと証言したのよ。」
康美は感心して、
「昔話って、省略が多いんですね。でも、子供に話したりするものだから、そうしないといけないのかも?」
女王は笑みを浮かべ、
「この場合は琴代は浦島の話が、お伽噺になるなんて想像もしなかったでしょう。自分がセックスしている相手が突然、老人になる事も想像も出来なかったでしょうしね。」
流太郎は、
「本当にビックリしました。そもそも竜宮城に太古から、こんな技術があったなんて驚きです。」
女王は、
「ウフフ。竜宮城で浦島太郎に性的抑圧をかけたのも、わたしの祖先だけどね。そこのカナミはビキニだけど、当時の臣下には十二単の着物を着せていたのよ、だから浦島は竜宮城では女性を認識しなかった。今の女王のわたしは臣下に薄着やビキニを着させています。地球温暖化のせいも少しは、あるのかしら。時君、ね、玉手箱を貴方にも・・・」
流太郎はギクリとする。女王は、
「持たせたいけど、それは今回はしない事にしましょう。エリオン 、二人を元の海岸に戻してあげて。」
「かしこまりました。女王様。」
エリオンは女王に向けて膝を曲げての敬礼をすると、康美と流太郎を女王の部屋から連れ出した。流太郎は疑問を口にする。
「竜宮城には連れて行ってもらえないんですか?」
エリオンは答える。
「何事も女王様の思し召しよ。理由は問わないの。」
潜水艦は海面に浮上した。甲板が開いた潜水艦の上部にエスカレーターで昇った三人は、さっきの海岸を近くに見た。エリオンは二人に、「海の中に飛び込んだら、足が海底に届くから泳がなくてもいいわ。さあ。」
流太郎と康美は青い海に足から飛び込む。二人の足は、ゆっくりと海の浅い底に届いた。二人が振り返ると、潜水艦は既に見えなくなっていた。空からワーンワーンワーンという細かい音がした。二人は空を見上げると、そこには巨大なUFOが空中に静止していた。しかも距離は十メートル上空程度で、横幅が百メートルはありそうな大きさだ。あれが落下したら二人とも即死だ。落下への恐怖に二人は震えんばかりだった。UFOからの黄色い光が二人に照射されると、流太郎と康美は光に包まれて上昇した。一秒以内に二人はUFOの内部に現れていた。かなり広い部屋だった。その奥に玉座のような椅子がある。流太郎と康美は「あっ、あなたは!」と驚きの声を上げた。
 玉座に座っていた女性は若く美しい。長髪の先は彼女の肩の下まである。二人が、さっき会った竜宮城の女王だ。女王は微笑と共に、
「ようこそ。潜水艦からUFOへの移動は、容易(たやす)いわ。UFOを海面下に潜らせると、あのクジラ型潜水艦と接合できる。その接合部から、わたし達はUFOへ移った。これから旅になるから、お二人さん、ゆっくりしていってね。二人用の宿泊部屋も、あるからね。
 わたし達の星は何億光年も地球から離れているけど、二泊三日で到着するわ。スウィフト(註・ガリバー旅行記の作者)も、わたし達の祖先が連れて行ったけど、後に発狂してしまった。今日では、そうならないように注意しています。」

 そこで二人の意識が白昼夢から現実に戻った。ヨハンシュタインは、「お目覚めかな。いい夢を見たようだね、お二人さん。」
と話しかけてくる。手術台のようなベッドに寝そべった二人は、視線を天井からヨハンシュタインに移すと、ヨハンシュタインは、
「起き上がっていいよ。どのような夢だった?」
流太郎「竜宮城の女王に会いました。」康美「あら、わたしも同じものを見たわ。」
ヨハンシュタインは、「二人共、同じ白昼夢を見るようになっている。そういう異星人の発明した機械だ。竜宮城か。なるほど。私は、この機械を竜宮星の女王から下賜したのだよ。数億光年も離れた距離にある、その竜宮星は数千年前に地球に到達できる科学を持っていた。その女王の話によると、博多湾の北の海底に竜宮城を建設したらしい。したがって浦島太郎は博多湾沿岸に住んでいた漁民なのだそうだ。何はともあれ、ドイツから来た私にとっては驚きの昔ばなしさ。まだ色々な異星人から貰った機械があるのだが・・・。それは又、これからの機会に。」
窓の外の太陽は既に消えていた。時刻は日没後の時間を迎えている。流太郎と康美はUFO研究センターを辞去した。大通りへ向かう小道には人は二人以外、いなかった。突然!空から赤い光が降り注ぐと流太郎と康美は上空に静止する巨大なUFOに吸い上げられて行った。

 それは、さっき流太郎と康美が寝転んで見た白昼夢の巨大なUFOそのもので、その内部に運ばれて立った二人は目の前に、あの女性が座っているのを見た。そう、竜宮城の女王だ。女王の笑顔に二人は抵抗する気持ちを失った。女王は語る。
「今から、わたしたちの星に向かいます。何億光年か地球より離れているけど二泊三日で移動するからね。最速なら五時間で移動できるけど、船酔いならぬ円盤酔いをされても困るから。」
キューンと上昇するような感覚が二人には感じられた。円盤が上昇して地球の大気圏外へ移動した。それでも円盤の室内には塵一つ動いていない。二人の上昇感覚は錯覚なのだろうか。女王は、
「あなた方の耳の中に、さっき一部のレーザービームの塊を残しています。これが今の円盤が上昇するかのような感覚を引き起こしたのですよ。」と説明する。
二人は納得するが、しかし?このままでは。女王は続けて、
「大丈夫よ。わたし達の星に着くまでには、その赤い塊は消えてしまうから。わたしの背後の壁を見なさい。」
女王の背後の壁は白色だったが、巨大な窓が開くように左右に動くと、ガラス張りのように円盤の外の光景が見えた。宇宙空間だ。まるで星だらけの夜空、宇宙には、こんなに星があるのか。
女王は、
「太古の昔、我々の星でも戦争をしました。それは自分達の星の中ではなく、他の星とです。地球人類は大陸間弾道弾などを誇りにしているようですが、我々の星では星間弾道弾を完成させ、他の知的生命体の星を攻撃したのです。
 それに成功して多くの星を植民地ならぬ植民星にしたのですよ。ある時、その星間弾道弾の着弾地点を誤り、その星に大洪水を巻き起こしてしまった。以来、その星は大量の水を放出し続けています。おかげで我々の祖先も、その星には移れず、それ以来、星間弾道弾の使用は控えています。もう、十以上の植民星があるのですもの。わたし達も満足しないといけません。わたし達の民は、それら植民星からの貢ぎ物で生活しています。地球も我々の植民星にする予定でしたが、星間弾道弾の使用を中断している今は、その予定は中断しています。地球は本当は我々の星の植民星になった方が、いいのですよ。そうなれば百以上もの国を一つに、してあげられるし、労働の代わりに食べ物は買わなくていいように、してあげられる。
税金だって無料にしてあげられます。時君、何か質問がありそうね。いいわよ、わたし、女王が答えますから。」
流太郎は立ったまま、
「税金なしで、大丈夫ですか、国は。」と質問する。女王は、
「ええ、もちろんです。地球という国の公務員を無くすのです。軍隊は一番初めに解体させ、竜宮星の軍隊を駐留させますから。地球防衛軍という名称を付与します。又、政府組織は竜宮星から送る要人で運営しますからね。地球の民から税金なんて取りませんわよ、おほほ。」
女王の顔は二十代半ばの美女、それは外観から見えるだけで実際の年齢は二人には分からない。色白で目は濃い緑色だ。彫りが深く鼻が高い女王は、
「労働時間だって一日に四時間で、いいようにしてあげられるわ。冬季と夏季には一週間の休みを与えます。だからこそ、わたし達の植民星の住民は不満を言わないの。それどころか、彼らは感謝しているわ。それでね、余った時間は何をしているかというと、・・・エリオン、ビデオを見せてあげて、二人に。」
「はい、女王様。御意のままに。」
室内にエリオンは見えないのに、壁から彼女の声がした。女王は二人に、
「後ろを向きなさい。」と命じる。二人が体を反転させると、彼らの目の前の壁がスクリーンになっていた。すぐに映写が始まり、立体映像だった。植民星の優雅な生活という文字が空間に浮かぶと踊りを踊るように動いた。映像は或る都市を映していた。タワーマンションが見える。それも二百階は、ありそうな巨大なものだ。昼の三時らしい。会社が終わったらしく、背広に似たものを着た男性が大勢、その超巨大タワーマンションに帰宅している。エレベーターは、すし詰めに近い、とはいえ、ゆとりはある空間だ。その内の一人の中年男性をカメラは追っている。四十代ほどだろうか。黄色人種で日本人と中国人のハーフみたいな、その男性は玄関を開けて帰宅すると、
「ただいまー。今日から竜宮星の植民地政策が始まったよ。労働時間は四時間になった。」
玄関に出迎えたのは二十代半ばの女性で、その男の妻らしい。
「ほんとー、なの?今から夜まで大分、時間があるわね。どうしよう。」
と妻は答える。
背広とネクタイを脱ぐと男性は、
「急に暇になってもなー、する事がない。」
「まだ、三時だし。今からセックスも、どうかと思う。わよね?」
「ナサリーナ(妻の名前らしい)、いい考えだ。今すぐ、セックスしよう。」
「ええ、ASAP。」
「なに?えーえすえーぴー?」
「やだわ、あなた。知らないの?AS SOON AS POSSIBLEアズ スーン アズ パッセブル(可及的速やかに)っていう意味だわ。」
「ああ、そうか。おれの息子もASAP、なーんて。ね」
その夫婦は全裸になった。夫は
「この前は二か月前か。セックスは。」
「いいえ、三か月前だと思う。残業続きだったもの。」
そこは玄関なので二人は寝室へ行く。タワーマンションの百五十階からの展望は、遠くの海まで見える。ナサリーナは寝室のカーテンを閉めようとした。夫は、
「開けたままで、いいよ。外から見る人もいないしね。」
と妻の後ろから話すと、妻の右手を止める。日焼けした妻の背中と尻。妻の乳房を後ろから夫が揉んでやると、彼女は目を閉じて気持ちよさそうだ。その乳房の後ろの背中はビキニの跡が日焼けしていない。もちろんナサリーナの尻も水着で日焼けしていない。そのビキニの形が妻の白い肌で残っている。その妻の、形よく横に張り出した尻に夫の性器は勢いよく立ち上がり、二人は二心同体となった。夫にとっては勤務中に帰宅して妻とセックスをしているような気分もする。妻のナサリーナは、今、後ろから自分の洞窟に入れているのが夫ではない誰かだと空想すると、今までと違った快楽を感じるのだ。夫のハルキンは一時間も妻と結合を続けたのち、
「おおナサリーナ!カフカが海の中に沈んでいく!」
と訳の分からない言葉を発すると、男のクリームソーダを妻の股間の秘口内に勢いよく、ぶちまけたのだ。それを膣内に感じた妻のナサリーナは、
「ああっ、ハルキンっ、谷の底に落ちるぅっっっ。」
とソプラノの美しい響きで快美感を発した。ハルキンは小さくなったムスコをナサリーナのムスメ(膣内)から離して、彼女の首の後ろに優しくキスをすると、
「とっても、よかった。竜宮王国の植民星になって幸せだよ、ぼくたち。」と話すと、妻のナサリーナは目を開けて、
「カフカって、なんなの?」
「ああ。カフカって地球という星の文学者だよ。凄く昔のね。」
「そのカフカが海の中に沈んだの?」
ナサリーナは窓の外に向けた裸体を室内の夫に向けた。昼間の光に妻の股間の黒い茂みは平日には初めて見たものだ。妻の恥毛は逆巻き、縮れている。ハルキンは、
「別に意味は、ないさ。カフカが海に沈んだら思うだろう気分だったのかもしれない。それより、ぼくの股間をみてごらん。」
ナサリーナは視線を夫の顔から股間に移す。
「まあっ。もう元気なのね。今度は立ったまま、来て。」
ナサリーナが両脚を立ったまま開く。恥毛の下の赤い口も開いた。その時、ホ~、ホケキョウ!と玄関のチャイムが鳴る。このタワーマンションでは標準装備で玄関チャイム音は鶯の鳴き声となっている。ハルキンは黒いパンツだけ履くと玄関へ行き、
「はーい。」と答えると、インターフォンから、
「ムラナミさん、郵便局です。」
ドアを開け、ハルキンは郵便物を受け取った。この星の郵便局員の配達の制服は緑色だ。男性局員はハルキンの股間を見ると、
「ムラナミさん、おっきいですね、あそこ。」
「おれの名前はムラアミだよ。ムラナミでは、ない。」
とハルキンは抗議する。
「すみません。失礼しましたー。」
郵便局員はリュックを背負った背中を曲げて、謝るとドアを閉める。タワーマンションの書留は多いため、リュックに入れて配達している。玄関はオートロックだ。ハルキンは寝室に戻ると、妻のナサリーナは、まだ全裸のままでベッドに腰かけている。ナサリーナは、
「書留なの?それ。」
「ああ、そうだよ。でも、あれが終わった後で、よかった。そういえば平日の昼だもの。郵便局員は来るよなあ。開けてみるか、書留。」
ハルキンは薄茶色の大きな封書を手で破いた。中から出てきたのは、数種類のコンドームだ。ハルキンは思い出した様に、
「ああ、そうそう。お試し価格のコンドームを頼んでいたよ。進化したコンドーム。亀頭にだけ被せるタイプ。更に今、開発中の亀頭の先端の小さな穴だけを覆うタイプ。尿道口を覆うわけだ。」
と手に取って、それらのコンドームを眺めながら妻に話す。ナサリーナは、
「亀頭にだけなら亀頭冠に引っ掛ければ、いいけど。」
「ああ、亀頭のカリにね。」
「尿道口だけなら射精したらコンドームは外れないのかしら。」
「それが最先端のコンドーム技術によって、装着されたままなんだ。どうも、この尿道口タイプのものは長く伸びるらしい。縦に伸びるので、女性としては膣の奥にさらにペニスが進む感覚を味わえる。らしいな。」
「子宮に直接、当たったりして。大丈夫、かしら?」
「その辺はね、子宮を傷つけないように、今度は横に広がるんだって。」
「まあ、ほんとに。だったら、すごいわ。あなた、そのコンドーム。わたしにも触らせてよ。」
ナサリーナはベッドの隣に座ってパンツだけ履いている夫のハルキンから尿道口だけを覆うタイプのコンドームを手に取る。そして、
「ん?んんん?この手触り。ゴムというより人間の肌、それも男性の肌だわ。それに特定すると、亀頭の感触が手に感じられるわ。これ、すごいわー。」
ハルキンは妻を横目で見て、
「それは普及版だよ、だから一般的な男性の亀頭の肌感触だ。さらに凄いのは、この会社、オーダーメイド版もある。頼めば、その男性の亀頭と、そっくりの肌の、まあ亀頭の部分は肌とは言えないかもしれないけど、亀頭の肌触りだね、それをコンドームに再現できるんだよ。」
ナサリーナは特大変に驚いて、
「ええええっ!??だったら、ハルキン。あなたの亀頭の感触も、このコンドームに再現できるのね?」
「そうさー、ただね。お金は、かかるよ。それなりに。安月給のオレでは今のところ、無理かな。部長は愛用しているらしいよ。その尿道口のみ覆うタイプのコンドームをね。」
「部長さんも、産児制限に気を使っていらっしゃるのね。で、で?部長さんのは、そのコンドーム、オーダーメイドなの?」
「らしいよ。ボーナスの一部で作らせたそうだ。なにせねー、作るモノがモノだけに、写真で自分の亀頭を取ってインターネットでメールで送るわけにも、いかない。だから直接、この会社に行って、そこの女子社員に亀頭を触ってもらって。もちろん個室で、らしいけど、その女子社員が部長の亀頭の感触を思い出しながら、それをコンドームに再現したそうだ。それを使ったら、部長の奥さんは大喜びで、
『あなた、とても、よかったわ。薄いコンドームなんてものとは全然、違ったわ。まるでコンドームを着けない時のセックスのようだった。あなたが射精した時は、それが長く伸びて子宮に少し当たって、とても気持ちよかったのよ。』
と感謝されたって、さ。」
ナサリーナは期待感で乳房を揺らせると、
「竜宮王国から来月、コンドーム手当、が出るらしいわよ。今朝のネットニュースで見たの。」
「そうなのか。いいぞ、竜宮王国。我が国では開国以来、一度も、そんな手当はなかった歴史がある。」
「出産庁に申請すれば貰えるわ。来月は婚姻届けを出している夫婦にだけだけど、再来月からは未婚でもカップルなら貰えるんですって。」
ハルキンは思案顔で、
「カップルも出産庁に申請するのか?」
「いいえ。出産庁に行くのではなく、カップルは各地方の保健所でコンドームを貰えるのよ。再来月には各保健所にカップルのためのコンドーム交付室が設けられるそうなの。もちろん、そのためにはカップルで保健所に行かなければ、ならない・・・・・・

 再来月になった。ハルキン夫婦のタワーマンションの地下に住む、そこは分譲ではなく賃貸だが、あるカップルは二十代で収入も低いため、コンドームを保健所に貰いに行くことになった。
ハナリンとユータンのカップルである。ユータンは二十五歳の男性、ハナリンは二十一の女子で、同棲生活を送っている。超巨大タワーマンションの地下五階ともなると家賃も安い。B502号が二人の愛を育む同棲の場所だ。
ハナリンは地球のスマートフォンに似た携帯で、ネットニュースを見ると、
「竜宮王国より未婚のカップルにもコンドーム支給、なんですって。」
パートナーのユータンに話しかける。ユータンは痩せた背の高い二枚目の青年だ。彼は優しく、
「それは、すごい。なにせ、この国のコンドームって、やたら高くて買えなかったよな、ハナリン。」
「そーねー。妊娠したら、どうしよーって感じ、をいつも持ちながらセックスするのも気が気じゃないって感じ、がするもの。」
「おれも射精する度、びくびくするよ。もし妊娠したら、おろさないといけないし。」
「そーよねー。そんな事したら水子になってしまって。水子の祟りって怖いらしいわ。」
「まったく、もー。そんなものは、ないだろうけど堕胎の費用が高いもんな。」

SF小説・未来の出来事7 試し読み

 湖畔はヤシの木が並んでいる。黄金の湖面は波がない。太陽は何と空に二つ並んでいる。横並びの太陽だ。空を見上げた流太郎は鮫肌輝美子に、
「この星には太陽が二つ、あるんですね。」
「ええ、一つの太陽の光が弱くなると、もう一つの太陽の光が強くなる。それで地球みたいに四季は、ないのよ。つまり冬は、ないのね。」
「夏も、それほど暑くない訳ですか、この星は。」
「そうね、よく分かるわね、それが。」
「なんとなく、ですが、ハハハ。」
その黄金の湖は日本の琵琶湖より広いらしい。キアー、キアーと鳥の鳴き声が空から聴こえた。流太郎が見上げると、そこには金色のカラスが空を飛んでいた。二つの赤い太陽のもと、飛翔するカラスは椰子の木陰に姿を隠した。
 やがて二人はレストランのような建物の横に、ヨットのようなものが何艘か停泊している前に辿り着く。
ヨットに乗るための料金所みたいな場所は、自動券売機みたいなものが立っている。鮫肌輝美子はスマートフォンのようなものをミニスカートのポケットから取り出して券売機に、かざす。二人分のチケットを買ったようだ。券売機の横に警備員らしき男性が立っていた。流太郎が、その警備員をよく見ると彼はロボットらしい。波止場に似た湖畔のヨットに輝美子と乗り込む流太郎。輝美子がヨットを湖に出す。黄金の湖面の色は流太郎に異世界に来ている事を強く感じさせた。二人は並んで座っている。流太郎は口を開かずには、いられない。
「この湖からでも純金は取り出せるんでしょう、すごく多くを。」
輝美子の瞳には金色の湖面が映っている。彼女は答える。
「ええ、でも我が国の金は地球の砂みたいなものよ。地球の何処でも、こんなに恵まれている場所は、ないわ。わたし達から見れば、地球は貧しい国。南出裳部長の上の人は日本で株取引をしているけど、それは景気の流動性のない国で景気をよくするために取引をしているんだそうよ。」
「そうですか、この星では株取引は、ありますか。」
「もちろん、あるわよ。我々もUFOで地球に行くけれど、移動中に株取引をする場合もある。UFOの中の宇宙人って何をしているか、地球の人は考えないでしょう。じっとしていても、つまらないしね。地球の日本でも新幹線に乗って、あるいはリニアモーターカーに乗車中にスマートフォンで株取引は、できる。それと同じですよ、UFO内での株取引は。」
輝美子はヨットの船べりに両手をつくと、空を見上げるようにした。
湖ではヨットは他には見えない。それについて流太郎は、
「今日は、この星も日曜日なんでしょう。この辺は人もあんまり、来ないんですか。」
と質問する。ヨットの揺らぎが、彼には心地よかった。
「この辺は日本で言う田舎なのよ。もう少し暑く成れば人も来るわ。少し富裕な人達は他の惑星へ旅行しに行きます。地球にあるパスポートは、この星にはない。この星の国に軍隊はなくて、他の惑星からの攻撃を想定した軍備が、あるだけよ。だから国は、いくつかあるけど、この星にはパスポートは要らないし、他の惑星に行く際もパスポートは不要よ。いいでしょ、こういう国、星って。」
二つの太陽は均衡した輝きを見せていた。流太郎は夢のような国だ、と思い、
「地球も、いつか、そうあるべきだとは理想論として言われてきましたよ。でも、現実は・・・国の状態は二十世紀と同じですからね。救世主なんて結局、現れなかったし。」
輝美子は投げやりな微笑みを見せると、
「この星では地球は野蛮な星だという事に、なっているのよ。地球を指導している宇宙人なんて、いないわ。地球は観光に適しているとは思われていない。太陽は一つしかないし。むしろビジネス目的なら行ける。わたしも南出裳部長から沢山の報酬を出すから、と言われて地球に行ったわけ。宇宙なんて、とても広すぎるから地球人は、ほんの砂粒みたいな部分しか知らない。太陽が三つあって、夜のない星もあるわ。観光に適した星は、そこね。その星は人類は、何故か存在していなかった。核戦争で絶滅したのかしら。トウモロコシ畑みたいな所のそばにバナナが実っている。高い山に登れば林檎の木があるという素敵な星よ。」
流太郎は眼をギラッとさせ、
「食べ物には困らないんですね、鮫肌さん。」
と合の手を打つ。
「食べ物は、この星でも困る事はないわ。このヨットは水の中にも潜(もぐ)れる。」
鮫肌輝美子はヨットの側面にあるボタンを押した。するとヨットの両側から鉄の壁が突き出して、それは先端が斜めになり両方が接合した。つまり、その鉄の板はヨットの屋根になったのだ。
流太郎は驚いて、その鉄の壁を見ると潜水艦にあるような丸い小さな窓が両側の壁にあり、まだヨットは湖の中に潜っていないようだ。
 輝美子は別のボタンを押す。するとヨットは湖中に潜行し始めた。
丸い窓に見えていた湖上の風景は湖水に変わり、ずんずんと湖底に潜水艦へと変貌したヨットは降りて行っているらしい。
 流太郎は熱心にガラス窓を見ている。それは地球にあるガラスとは違う物質で出来ていて、地球のガラスより硬い。それはガラスにして鋼鉄のように硬いものなのだが、流太郎には透明度の高いガラスに見えた。そこに映ったのは湖中を泳ぐ大きなフグ、さらに深くなると巨大なサメのような生物。それも通り越すと潜水艦ヨットは湖底に着床したらしい、振動もなしに。輝美子は、さらに別のボタンを押すと次にヨットは自動車のように湖底を走り出した。ヨットにして潜水艦、次は自動車に変わる。なんという多性能な乗り物だろう。こんなものが、さりげなく湖に繋いであったなんて。
さぞや高価なレンタル料と思い、流太郎は訊いてみる。
「鮫肌さん、すごい乗り物ですね。随分、高いんでしょう、これ。」
「いいえ、そんなに高い物じゃないわ。地球の日本の煙草、ひと箱位かな。それで一日、乗り回せるわ。」
「そうそう、動力を聞いていなかったな。この乗り物の動力は何ですか。」
「最初は風で、次は調整重力よ。」
「調整重力。って何でしょう、それは。」
「この星にも重力がある。それを多方向に変えられるし、重力の強さも変えられる。はるかな太古に、この星で重力調整機が発明された時は、それはとても高価なものだった。でも生産が進めば価格は下落するもの、今では湖上のレンタルヨットにも使われているのね。」
「はあ、地球でも電化製品は似たような価格の変動ですね。」
「星の重力は下へ引っ張るけど、それを逆にしたり横にしたり出来るから、その力で、この乗り物は動く。UFOタイプは星間重力を応用しているものも、あるわ。」
「セイカン重力?精悍な男性とかの・・・。」
「星と星との重力ね。月と地球は引っ張り合うし、太陽は太陽系の惑星を引っ張っている。でも月や地球も太陽を引っ張るから、拮抗した力が惑星と恒星の距離を生み出して二つは衝突しない太陽系となっている重力を応用するのが、この星の一つの科学。地球人類には想像もできないものね。」
流太郎は沈黙してしまった。湖底を走っていたのが停車したらしい。流太郎は見た。ガラス窓に映っているのは金色の五重塔みたいな建物だ。湖水は金色とはいえ、薄い金色で湖中の中も見えるのである。だからフグもサメも、さっき流太郎は目撃した。
でも五重塔が湖の中に、あるなんて。しかも金色の五重塔だ。その五重の塔の一階の部分が左右に開いた。だが、その中に湖水は流入しない。流太郎が乗ったヨット型多性能乗り物は、その五重の塔の一階に入っていった。
 そこに入ると壁が閉まる。湖水は一滴も入り込まなかった。そこは地下駐車場みたいな場所で、常駐の男性の中年男の警備員がいた。
輝美子はボタンを押して鉄の屋根をヨットの両側に降ろす。
二人の姿を見た警備男性は、
「やあ、いらっしゃい。鮫肌さんでしょう?」
と日本語で聞いた。輝美子は、
「ええ、湖底日本人労働施設って、こちらですか。」
「はいはい、そうですよ。私も、ここで働くには地球の日本語を話せる方がいいと思って勉強しました。施設長から今日、鮫肌さんと日本人が来ると聞きましたから、二人が来たら中へ通すように言われています、施設長からね。さあ、入り口を開けますから。」
と話す、鼻の下に髭を生やした警備員だ。
鮫肌輝美子はヨットの座席を立ち上がると、
「さあ、時君、行くわよ。」
と声をかける。
日本人労働施設に入る?のだろうか、自分が?というより自分も?なのだろうか?
「行かないと、いけないんですか?あそこに。」
「入ってみないとね、貴方も日本人だし。さあ、さあ、お代は要らないから。」
流太郎は動かずに居座っても、いずれは連れて行かれると考え、それなら仕方ないと立ち上がった。
 五重の塔の内部ではあるが、そこは古風なものではなく白い壁の、白い廊下に白いドアが、廊下の両側に並んでいた。ドアが地球のものと違うのはドアノブがない、というところか。どうやって開けるんだ?と流太郎は思ったが、その一つのドアは横に開いた。警備員が手にしたリモコンのようなものでドアを開けたらしい。
そのドアの内部の部屋は大きな図書館ほども広く、本棚みたいなものも並んでいた。図書館にあるような広い机があり、そこに十人ほどの日本人が椅子に座って大きなパソコンに向かっていた。
流太郎は(労働施設って図書館の中でパソコンで仕事をする事か)と、思う。見たところ労働という雰囲気でもない。図書館で司書が座るようなところにいた若い男性の人物が立ち上がると、鮫肌輝美子と流太郎と警備員に近づいてきて、
「ようこそ。施設長から聞いています。鮫肌さんと日本人が来る事は。」
と気軽に話した。流太郎は自分も労働させられるのか、と思い、
「どんな仕事をしているんでしょう?彼らは。」
と尋ねてみた。
若い男性はニッと笑い、
「マイニング(採掘)ですよ。」
と説明する。彼らのしている仕事はマイニングなのか。
「マイニングって仮想通貨のマイニングのような事ですか。」
「そうです。この星の仮想通貨のね。人手が足りないから地球から来てもらったんです。日本人で仕事にあぶれている人は多いから、喜んで来てくれましたよ。UFOから現れて、ハローワークに並んでいる人に声をかける。その時、UFOは人間の肉眼では見えない、それと監視カメラにも写らないように、ある光線で保護膜を掛けておきます。人間の目に見えなくても監視カメラに写っていた、となると後で大問題でしょう。ハローワークにUFOあらわる、なんてね。それは一大センセーションです。そうならないように、していますからマスメディアなどは、もちろん、誰も我々に気づく事はない。それから話しかけて手ごたえのある人には喫茶店に誘って、話をしてみる。
「お仕事を探していますか?いい仕事が、ありますよ。」
とね。そしたら、
「本当ですか。ハローワークでも中々、いい仕事が見つからなくって困っています。」
と中年の男性などは、言いますね。
「四十代、課長クラスの首切りが人件費の軽減には、とてもいいから会社は躊躇うことなく実行するんですよ。もしかして、貴方も、そうですか?」
そうしたら、その男性、首を前に曲げて、
「ええ、上場企業で働いていましたけど、首を切られました。会社で何十年も働いた末に、それです。ハローワークで仕事を見つけていますが、私の前職の会社が、それなりのもので給与面でも、それに該当するものが中々、ないというのもありますね。」
「なるほどね。四十で転職も難しいのは日本では当たり前ですね。ヘッドハンティングは、もう少し年齢が上の人達を狙うものです。四十代が一番、転職しにくいものかもしれませんね。」
「そうですかね、やっぱり。コンピューターエンジニアだったんですが、大昔に比べると人材も多くて、若い人ほど最近の技術に詳しく、ともすると私のような年配は負けてしまいます。それで課長のような仕事をしていたんですが、特に要らないからと肩叩き、で依願退職させられました。退職金は貰ったんですが。毎日、することもなく自分で企業を立ち上げる力もなく、週に三度はハローワークで職探し。しますが、大手企業はね、ハローワークに求人を出さなくてもいいわけですから。で、ネットで職探しも叶いません。
第一、大卒者の仕事がない時代に又、なっているでしょう。」
「ええ、そうみたいですね。」
「何処の企業も人手不足はないです。ベビーブームなんて日本には再び、なかった。だから、そういう世代が辞めて会社は人手不足になる、という、ずっと大昔のような、そう、あれは平成とかいう頃でしたかね、そんなのもなかったでしょう?今までの日本では。」
「ああ、そうですね。人口も減り続けてますよね。又。」
そう答えた私の顔を見て、彼は、
「あなた日本人では、ないんでしょう?やはりヨーロッパの人、ですか。」
と聞いてきたので、
「ええ、北欧ですよ。」
と答えておくと、
「へえー、そうですか。そしたら、あ、そうだ。北欧に仕事があるんですね、だから声を掛けてくれたんだ。」
と嬉しそうです。
「そう、そんなものに近いですかね、ええ、ええ。」
彼は両手を胸の前で組んで、
「お願いします。コンピューター関連なら、一通り出来ますから。」
と私に頼み込む。
「おお、それは、こちらも希望していたところですよ。ご家族は、いらっしゃいますか、貴方。」
「いや、それが独身です。女房はいたんですが、私の給与が彼女の思うように上がらないせいか、イケメンのホストと同棲しているらしいですよ。取り戻すつもりは、ないし。」
「お子さんは、いらっしゃいますか?」
「いえ、ちょっと女房が不妊症らしくてね、ええ。」
「それでは気軽なものじゃないですか。」
「でも北欧でしょう、あなたの会社。」
「ん、まあね、遠いですけど、すぐ行けますよ。心配ないです。」
「パスポートとか作らないと、いけません。それは、県庁に行けば、いいから。暇だから、いいけど、北欧の言葉は何も知りませんよ、私。」
「語学は心配いりませんよ。日本語の分かる人達の部署が、あります。それに、そこは他にも日本から来た人達が働いていますから。」
彼の目は暁の星のように輝きました。
「それは、いいなー。すぐにでも、行きますよ。お国は、どちらですか?」
「行けば分かります。すぐに乗り物を用意しますから。」
と喫茶店を出て、会計は私持ちで。
近くにある広い公園。平日の午前なんて誰も、いません。私は空に向かって指を鳴らす。即座にUFOが私達の目の前に着陸。四十代の元、課長の男性は、
「な、な、なんと空飛ぶ円盤では、ありませんか。あなたは、もしかして、宇宙人?」
と幾分、顔が青ざめています。
「そう、その通りです。でも、ご心配なく。大昔のSFみたいに侵略目的で来ているのでは、ありませんから。」
「そ、そうみたいに見えます、が・・・・。」
「どのみち日本にいたって仕事は、ありませんよ。いい思いの出来るのは一部の日本人だけです。又、そういう社会になっているんです。こんな国に未練が、ありますか。」
と諄々と私は説きました。
「そう言われれば、その通りです。いや、ありがとう。あなたは日本語が巧い。それで声だけ聞いていれば日本人と思ってしまう程です。国際社会というより宇宙社会の時代かもしれませんね。私は運が、いいのかもしれない。行きますよ、貴方の星へ。」
という事で、彼にも宇宙船に乗ってもらえました。」
と、その若い男性は揉み手をして話した。
流太郎は、
「マイニングって地球では電気代が、とても、かかるという事らしいですが。」
と質問すると、その若いレプティリアンは、
「この星ではフリーエネルギーです。電力は無料なんです。」
と即答しました。
流太郎は次に、
「それでは電力会社の給料は、どうやって調達しますか。」
と尋ねると、
「それは、もう、税金ですよ。ですから電力税は、ありますね。」
「電力を使った分の税金、ですね?」
「ええ、そうです。おっしゃる通り。」
「それでは、やはり電気代、ならぬ電力税を多く払うという事になりませんか。」
「それは、その、国家的プロジェクトですから。我々の給料も税金ですから。」
「ああ、なるほど。それなら分かります。」
「仮想通貨のマイニングは我が国の国家予算で支払われます。いずれ、地球の仮想通貨と連動させなければ、ならないと思います。」
壮大な計画だ、と流太郎は思った。
やはり、まずはビットコインとの連動か。でも、他の惑星、それも何万光年も離れた星と仮想通貨を連動させる、には?流太郎は、
「どうやって、連動させますか?」
と聞いてみた。
「あ、それは簡単です。取引所を開設して新規コインを発行する。大昔、月の土地を売買している会社がありましたが、あんな風にするのもいいでしょう。もっとも、月には先住者がいるから本当には月の土地は勝手に売買は、できませんけど。真実を知る国は月から撤退しているでしょう。中国の探査船は、しばらく泳がせておくらしいですが。」
日本が月面に宇宙探査船を着陸させなかったのは経済的にも、よかったのだろう。流太郎は、
「仮想通貨で地球でも大儲けですね。」
と言ってみる。
「ええ、そうですよ。ここでマイニングの仕事に従事しませんか?」
と流太郎は誘われた。
「労働時間は、どの位でしょうか。」
「一日、六時間ほどです。」
なんと短い。それでは労働とは、いえない。地球の感覚としては。
「そんなに短くて、いいんですか。」
と流太郎は訊き返す。
「わが国の平均労働時間は三時間ほどですよ。週休三日制ですね、それに祝日もあります。」
「そんなに休みが、あるんですか、へえー、。」
「ゴールデンウイークは希望する人には二十日休めますよ。」
「二十日も。そんなに休んで、収入の方は大丈夫なんですか。」
「もちろん。そうでなければ休めませんよ。ね、鮫肌さん。」
管理者らしい若い男は輝美子を見て云う。
「ええ、そうです。わたしも今度、十日休む予定ですから。」
それに対して管理者曰(いわ)く、
「鮫肌さん、働きすぎですよ。彼氏と別れたの、いつでしたか。」
「三十年位前かな、ふふふ。」
管理者は流太郎を一瞥すると、
「地球人と、付き合うのもいいかもしれませんね。その人も、でも仕事がないんでしょう?鮫肌さん。だから、ここへ連れて来た。」
と身を乗り出す。
流太郎は慌てて、
「ぼく、仕事はあります。今日は日曜日だから、休みでした。鮫肌さんも、この星が今日は日曜日だと言いましたけど。」
と遮るように口を出す。鮫肌輝美子は落ち着いて、
「この人にはマイニングを見学してもらいたかったのよ。働いてもらう気は、わたしには無いけど。」
と解説した。
若い管理者は両肩を落とすと、
「それは申し訳ありませんでした。ここのマイニングは労働者の自由意思で休日も働きたい人は、働いてもらっています。その分、貰える報酬が増えるからです。現金の他に仮想通貨も支給しますから、株のストックオプション制度に似ていますね。」
と、それでも、まだ流太郎にマイニングしてもらいたさそうだった。輝美子は流太郎の視線を追うと、彼はもうマイニングの作業を見ていなかった。それなので、
「そろそろ、ここを出ましょうか?時さん?」
「は、ええ、出たいですね。」
「それじゃ、若き管理者さん、さようなら。」
「お疲れさまでした、お気をつけて。又、よかったら、この日本人労働施設に、お越しください。」
残念そうな、その管理者の視線を振り払うように流太郎は身を翻して輝美子に続いた。
 潜水艦ヨットに戻った二人は、さっきの警備員に門を開けてもらう。扉というより、その階の壁の全てが開いても湖水は流入してこない。輝美子は右足を押してエンジン、それは重力調整装置だが、を発進させた。潜水艦ヨットは湖水に潜った時、すでにヨットの帆は鉄の屋根の中に降ろされている。流線型の船体を再び、黄金色の湖水の中に辷(すべ)らせていく。
 それにしても、と流太郎は思う。今日は地球では日曜の午後だった。だが、もう、だいぶ時間が経過したから日没へ向かっている筈だが、湖水の中とは言え明るすぎる。時差?なのか。それを聞いてみよう。
「鮫肌さん、今、午後なんでしょう、この星で。」
「いいえ、まだ午前中よ。もうすぐランチタイム。貴方は何を食べる?」
「ぼくとしては夕食になります。何があるか知りませんから、何を食べられるんですか。」
「あら、ごめんなさい。そうだったわね。地球人のあなたが知る由もないわよね、この星の食べ物を。あ、そうそう。お腹がまだ減っていないのなら、このキャンディーをあげるわ。」
潜水艦ヨットの中央にあるテーブルのようなものの中から、輝美子は丸い包みの小さなキャンディーを流太郎に差し出す。それを受け取り、流太郎は両手でキャンディーの包装を開けると、メロンの色をした丸いキャンディーだった。
口に入れると流太郎は、地球のメロンより更に甘い味覚を味わった。
 輝美子は大きな丼のようなものを手にしている。丼の中は空だ。彼女はヨットのパネルの一つのボタンを押すと、
「xqw88::::」
とでも聞こえる、その星の言語で何か話した。何かを注文しているようだ。その話しを終えると輝美子は流太郎に、
「今、食事の注文をしたのよ。」
と話す。
彼女が持つ銀色の丼の中にクリームシチューのようなものが底から湧いてきた。丼の上部に細長いフランスパンが二つ、並んだ。輝美子は流太郎にフランスパンの一つを手渡し、
「食べてみてよ、おいしいよ、これ。」
と勧める。流太郎は、
「ありがとう。いただきます。」と礼を言うと、それを口の中に頬張ると、そのパンの中に細長く切られたメロンが果実として入っていた。(これが本当のメロンパンだな)と流太郎は、舌先の心地よい食感を堪能した。輝美子はフランスパンを食べ終わって、ドンブリの容器を手に持つと右手で丼の側面にあるボタンを押す。すると丼の中のクリームシチューのようなものが噴水のように沸き上がり、彼女は、それを口の中に入れてしまった。
不思議な事に丼の底まで、綺麗にクリームシチューらしきものが無くなっていた。輝美子は、
「それでは、と。上昇するわ。」と宣言する。潜水艦ヨットは湖面に向かって急上昇した。黄金の水の上に現れたヨットは潜水艦の鉄の壁を降ろし、その代りにヨットの帆を広げた。爽やかな、そよかぜが二人の頬を心地よく撫でる。
輝美子は計器盤のようなものを見ると、
「地球の日本では日没のようよ。時さん、ここから帰りなさい。」
「えっ、ここから、どうやって帰るんですか?考えられない事です。」
「貴方を光線に分解して、瞬時に地球へ戻すから。」
輝美子は計器盤にある一つのボタンを押した。その近くから流太郎に投射された黄色い光は、彼を包むと小さなスピーカーのような物の中に吸収された。流太郎の姿は、もう、その星には見えなくなっていた。

 流太郎は気が付くと、地球の日本の自分の部屋にいた。(あれ、今までの体験は夢だったのか・・・)と思ってみる。が、しかし、口の中に残っていた地球のものより甘いメロンの小さな果肉が、舌先に触ると、(やはり、あれは本当にあった事だったんだ!)
部屋は薄暗かった。太陽が沈んでも、しばらくは闇にはならないものだ。それでも部屋には照明が必要だ。流太郎は携帯電話で照明をつけた。これは部屋の外からでも、できる。インターネット接続で可能なもので、別に不思議なものではない。
不思議なのは鮫肌輝美子に連れていかれたレプティリアンの星だ。黄金の湖に、その中にあった五重の塔のマイニング施設。この事を誰かに話したい。今はまだ19:00PMだ。よし、電話を掛けよう。
流太郎はノートパソコンから通話する。パソコンの画面に株式会社夢春の籾山社長の顔が現れた。籾山も自分のパソコンを見ているようだ。籾山は口を開くと、
「日曜の今頃、どうしたんだ?時。」
と聞く、流太郎は、
「社長、今日は、とても不思議な体験をしました。五万光年先のレプティリアンの星に連れていかれたんです。」
「ほ、お。有り得るかもしれんな、そういう話。」
「潜水艦ヨットにも乗せてもらったんです。我が社でも開発できたら、いいと思います、潜水艦ヨットを。」
「そんなものは無理だな。資金なし、技術力なしだ。それより時、営業に行ってもらいたいんだ。明日、会社で話そうと思っていたが、丁度いい、今、話そう。」
「は、どこへ行けば、いいので。」
「あるUFO関係の団体が福岡市内にある。そこのホームページのサイバーセキュリティの依頼が、今さっき突然来た。会社に誰もいない時は、おれの携帯に転送される。日曜だけどな。だから、時。おまえも働いてくれ、とはいっても、そこに訪問するのは明日でいいよ。」
社長の籾山はパソコンの画面の中でニヤッと笑った。流太郎は、
「分かりました。明日、朝一番に行きます。」
「ああ、頼んだぜ。楽しみにしているよ。」
パソコンの画面から籾山社長の顔は消えた。向こうの方で電話を切ったのだ。
 翌朝、流太郎は早朝に出勤した。社長の籾山は、それより早く出社していた。さすがは社長か。籾山は社長の椅子から立ち上がると、
「やあ!早く来てくれると思っていたよ。先週より今週の我が社の株価に期待していい。それよりなによりも、まずサイバーセキュリティの営業に行ってもらいたい。出先は昨日パソコン電話で君に話した福岡市内のUFO関連団体だねー。中央区薬院にあるのさ。とあるビルの一室らしい。私はまだ行った事が、ないビルだ。ビルの名前はパインアップル・ビルらしいよ。地図も渡して置く。君の机の上に置いてあるから。」
籾山は貫禄の出て来た体格になっている。少し、腹も出て来た。流太郎は未だに線のように痩せた体だ。
「分かりました。行ってきます。」
「がんばってくれよ、ね。」
流太郎が部屋を出ていく時、籾山は右手を振った。

 福岡市中央区薬院は福岡市の中心部の天神より南にあり、私鉄の駅としては天神駅の南にある。この天神という名称は、小さな天満宮が祀られているところがあるところから、だ。今ではビルの谷間の中に、ひっそりと存在する。高度なテクノロジーの時代になっても、日本には、このような社が存在し続ける。
それは、かつて羽田空港を建設した際にも起こった、社を取り除けようとすると怪事が起こるからでもあろう。
私鉄の薬院駅を降りると、ビルが乱立している。国道から南へ五分も歩くとタワーマンションが、いくつも見えた。流太郎の小学校の同級生も、あのタワーマンションの中に妻子と住んでいると彼は聞いている。
この薬院ではタワーマンションが増えすぎて、小学校の教室に生徒が入りきれなくなった。それで、どうしたかというと小学校の建物も上に増築していったのだ。タワー小学校みたいに見える建物が流太郎の瞳に反映した。彼は歩道の区分のない道を、のんびりと歩いていく。UFO関係の団体か。福岡市では珍しい組織。いや、組織では、ないのかも。会社でも、ない団体だろう。流太郎にとってUFOとは見慣れて、乗りなれたものなのだが。だが、二十二世紀の今日でも一般的な日本人は空飛ぶ円盤に接触する人は少ない。そもそも明治の前の江戸時代は、もちろん、大正、昭和の初めまでUFOなどというものは誰の口の片隅にも上る話題ではなかった。それは世界的にも、そうではなかろうか。世界で最初にジョージ・アダムスキーがUFOを目撃したのみならず、中から現れた金星人と会話をしたのが1952年で、その会話は、もちろんテレパシーだったそうだ。流太郎の場合、異星人は日本語を知っていた。どころか流暢に話してくれたのだ。地球では外国に行く場合には外国語を知らなければ、いけない。日本に来る外国人は、おぼつかない人もいるけど大抵、日本語は勉強して、来る。地球に来る異星人は地球の言語を学習しているのだろう。それよりも、これから会う団体の主催者は日本人ではないらしい。
メールド・ヨハンシュタインという名前らしい。長年の活動で会員名簿も増え、クレジットカード決済もホームページ上に載せているためサイバーセキュリティが必要だ、そうだ。というのは電話で聞いた話。と頭の中で流太郎は思い出しつつ、目の前に見えたのはキリスト教の教会のような建物だ。
UFOアプローチ・ジャパンと横書きの表札があった。鉄条門のため庭らしきところも見えるが、入れない。と思ったら、スルスルと鉄条門は横に開き、流太郎が通れるくらいの隙間は空いた。(どうしようかな)と流太郎が思っていると、門のところにあるインターフォンのスピーカーから、「時さん、お入りください。」と若い女性の声がした。メールド・ヨハンシュタインは女性だったのか。流太郎は遠慮なく門内に入る。西洋風の庭園を横切ると玄関があり、そこでもチャイムを鳴らす前に玄関のドアは開いたのだ。
 玄関のドアの中にいたのは若い女性で、透明のような白さの肌の若い女性だった。緑色の瞳で、黒く長い髪は彼女の肩の下まで伸びている。流太郎は会釈すると、
「株式会社夢春の時と申します。サイバーセキュリティの件で今日は、お伺いしました。」
その女性はニコリともせず、
「ヨハンシュタインは不在ですが、わたしが応対します。さあ、中へ。」
と明瞭な日本語で話した。
西洋館らしく、靴は脱がなくてもいい。その女性がドアを開けた部屋は事務所らしかった。机は二つあって、ノートパソコンが置かれている。サイバーセキュリティが必要らしい。流太郎は、それらのパソコンを見ながら、
「ハッカーが欲しいのは、お金よりもUFO情報じゃありませんか?」
と尋ねると、その女性は、
「ええ、何度か狙われました。情報の一部はファイルごと持ち去られたものもあります。幸い、それらのファイルは、それ程、機密の高いものではなかったのですが。申し遅れました、わたし、ジェノア・フランシスといいます。」
彼女の瞳は深い湖のような静けさを漂わせている。流太郎は、
「こちらこそ、申し遅れまして、すみません。先ほどは苗字だけでした。時流太郎と申します。」

sf小説・未来の出来事6 試し読み

 それで流太郎は、
「テスラ波で何の情報を送っているんだろう、地球から。」
と綸蘭に聞いてみた。
「バリノさんの話では、地球の全人口とかも送られているらしいわ。」
「そんな事まで!他には、どんなものを?」
「世界各地の気温とか、湿度とかなどもね。スフィンクスの目を通して世界各地を撮影しているらしいけど。」
「エジプトのスフィンクスは、そのために、あったのか!」
 なるほど古代に現れた宇宙人は粋なものだ。美術品的な建造物に実用的な目的を潜ませる。それでエジプト人は何ら怪しみもせず、又、現今までスフィンクスの本当の目的を人類は知らずにいた。綸蘭は続けて、
「その情報は火星にではなく、プレアデスに送られているとも言われています。プレアデス星人は大体において善なる存在だそうだから、地球は安全なのよ。そうでなければ地球人は奴隷以下の存在として扱われていたでしょう。」
流太郎は、善なる宇宙人だからこそ地球人は宇宙人に対して無知でいられたのだろうと思った。数限りなく多くの人達、特にメキシコやマレーシアで目撃されたUFOでさえ、他国のアカデミックなところでは黙視されてきた。それは自分達の拠り所とされる地球の幼稚な科学的根拠が崩壊するからである。そもそも地球の宇宙に対する科学の程度は群盲がゾウの体をあちこちと撫でているのと同じで、ある者はゾウの尻尾を象だと言ったりしている。いずれ天動説が崩れていったように地球人は自分達よりも数万年か数千年進歩した宇宙人の存在を認めなければ、ならなくなるが、天動説を当時の教会が固執したように現代においても地球オンリー説に固執するところが存在する。
一つは頭がいいと己惚れている大学教授らが断固として宇宙人の超科学を否定し、太陽は爆発し続ける星だという今の地球の科学で説明可能なものにしていなければ、更に無知なる大衆の失笑、非難を買うこと必至であるがため、新しい正しいものを否定し続ける。それを旧来のメディアは追随してきた。ところがガリレオ並みの勇気ある人たちが動画共有サイトで火星の真実なども暴露、リークし始めたのは随分前からだ。
博多湾の上に浮かぶ愛高島も世界第一の不思議と称えられても、その原理は今の地球の科学では解明できない。ヘリコプターや飛行機、さらに高度な地点での人工衛星などによって愛高島の島の上を実際に見ることができるのだが、それらのものが出来ていない時代には愛高島は地上からしか見ることが出来なかったのだ。
真上綸蘭は一息つくと、
「一つ下の階で映写室があります。そこで何か面白いものを放映しているみたいだから、行きましょう。」
と若い女性らしく流太郎を誘った。
下の階へ行くエスカレーターのところにいくと、綸蘭は、
「どちらかの手を手すりにかけると、体が浮くわ。見て。」
と説明し、エスカレーターに乗ると右手を手すりに掛けた。すると不思議!綸蘭の体は足の下が数センチは浮き、右手で支えた形になる。
昔、いたイギリスのマジシャン、ダイナモがロンドンを走るバスに片手で手のひらをバスの車体の側面につけ、空中に浮いたままの姿勢でバスが走っていく、という動画共有サイトで見られた光景を思い出してもらえば、分かりやすい。
綸蘭の場合はエスカレーターの手すりに右手で、それを行っている。流太郎は、
「すごいなあ、僕にもできるのかね、それ。」
と後ろ姿の綸蘭に訊くと、エスカレーターで下りゆく綸蘭は、
「誰でも、このエスカレーターでは出来るわ。やってみて。」
と返事をしてきた。
流太郎も右手を手すりにおくと、エスカレーターの上で流太郎の体は数センチ浮上した。
「うわああっ、浮いたよー。」
と叫ぶ流太郎は先にエスカレーターで降りて、その近くに待って立っている綸蘭の睫毛を伏せている笑顔を、下降しながら見た。
 不思議な映写室とドアの上に表示されていた。そこへ入ると、まだ観客はいなかった。やがてブザーのような音がして館内は暗くなる。綸蘭と流太郎は最前列の中央で並んで、映写幕に映るものを見ていくことになる。
大きなスクリーンに石器時代の地球が映し出された。次に現れたのは古代人。簡単な服を着て、手に石の斧を持っている。
次にマンモスが現れる。その時、この古代人が巨人、である事に見ている二人は気づいた。
身長四メートル以上だ。彼はマンモスと戦い、石斧でマンモスを倒した。
ドスンッ!と倒れるマンモスの肉を石斧で切り刻み、巨人は、その肉を抱えられるだけ、抱えて森林の中の洞窟に持ち帰った。その洞窟は巨大なもので、そうでなければ巨人は暮らせないだろう。中には若い女性、おそらくは巨人の妻であろう、これも又、巨人の四メートルはあろうという体を洞窟の中で座って待っていた。
その巨人の女性は胸は、なにも纏わず、白い乳房を露出している。巨大な胸だし、乳首や乳輪も巨大だ。現代の普通の女性の二倍以上の乳房だ。顔や腕、足もその位の大きさで、巨人の女は腰の周りに白い布を巻いている為、陰毛や尻は見えない。
スクリーンに但し書きのような文字が現れ、
これから行われる会話は日本語で字幕として、画面下に現れます。
古代巨人夫妻は会話を始める。妻が、
「わあ、すごい!マンモスなの?今日は。」
と両手を叩いて乳房を揺らせた。
「ああ、簡単に倒せたよ。」
洞窟の中では小さな焚火が燃えている。妻は夫が置いたマンモスの肉の一部を手に取ると、焚火で焼き始めた。彼女は、
「炭も置いているから炭火焼きなのよ。おいしくなるわ、今日の焼肉。」
と古代人にしては知恵がある発言、それとも巨人として当たり前な文化の度合いを示す発言なのか、それを楽しそうに話した。横から見える彼女の姿は尻の膨らみも凄く、百八十センチはヒップサイズとして、あろう。バストも百八十センチほど、あるらしい。ただ洞窟の中では彼女の体と対比するものが、ない。スクリーンで見ていても、黒い長い髪の、白い肌の、目も黒色の成熟した女性としか見えない。
焼肉の二枚目を火にくべようとした時、美巨人女性の腰の布が落ちた。巨人の男は寝そべって、妻を正面から見ていたので、彼女の大きな股間の黒い恥毛と、その下の女の縦の溝を見てしまった。
「おうい、焼肉より、おまえのその足の付け根の穴の方が、おいしそうだなあ。」
と涎を垂らしながら巨人は立ち上がる。その時、巨人のペニスも隆々と勃起していた。勃起すると男の腰の布は落ちるようになっているらしい。巨人の男のペニスサイズは五十センチは、あるだろう。妻は、それを見ると、
「いつみても逞しいわ。早く、ほしい。」
と話すと、二メートル近い白い両脚を広げて寝そべった。
画面に
学術的に作成された映像ですので、真摯に観察しましょう
という但し書きが出た。
巨人の男は妻に、のしかかると五十センチを妻の細長い、現生人類の二倍強の女性器に挿入していった。
巨人であるから荒々しいセックスかというと、そうではなくてスローセックスともいわれるもので、映像は二時間も二人の巨人の性交を描いていた。流太郎は綸蘭の横顔を見たが、彼女は真剣に古代人の性行為を眺めていた。
文章での記述では会話は日本語で表記したが、映像の中では古代語と思しき言語が交わされ、性交中に美巨人女性が発する声も古代語らしく、
「ええあっ。」とか、「あうあうあうんっ。」と聴こえる快感の言語的表現もあった。
二人の身長が四メートル以上という事を頭に入れておかないと、ただの古代人の性交映像と見られてしまうだろう。
性交は終わった。巨人の男は焼けた肉を手に取って食べると、
「よく焼けすぎたな。まあ、ウェルダンだから、いい。」
と焼肉の焼け方の評価をした。
美巨人女も焼肉を食べ、
「おいしい、ね。お腹もいっぱいになると、又、セックスしたくなったわ。今度は外で、しましょう。」
と男の三十センチに戻ったペニスを右手で掴んで立ち上がる。
「おっとっととと。急いで立つと、ちんこ切れてしまうぜ。」
巨人男も慌てて立ち上がる。スクリーンに
野外セックスも学術的興味を持って御観覧ください

 二人は晴天の森の中で、長い木の枝の下で立ったまま結合すると、二人は両手を伸ばして木の枝に掴まり、ブランコで揺れるように性交時の結合のまま、空中を揺れた。
二人の巨人を同時に支える木も巨木で、枝も太い。巨人の女は両足の裏を巨人男の尻に絡めている。
サーカスで男女が揺れるものが、あるが、古代の巨人の男女は性交したまま、それも二人が向き合ったままでの結合状態で大きく揺れているのだ。
巨人の男は、
「おお、たまんねえ。次は位置を変えよう。一度、木の枝から降りるべえ。」
と妻に話すと、
「そうするわ、うええ、あうううっ。」
二人は木の枝から離れると、地面に着地し、体を離す。次に巨人の美女は背中を夫に向けて、両脚を大きく開く。夫の巨人は再び五十センチになった、巨大な男根を妻の巨大な女性器に深く挿入、そのまま二人は巨木の枝に手で掴まり、ぶらさがると前後に結合したまま体を揺らせていった。
ここで映像の一部は終了した。
流太郎は、
「続きは、あるんだろう、これ?」
と綸蘭に訊くと、頬を染めた綸蘭は、
「この映写室、まだ一般には公開されていないの。続きは製作中という話よ。」
「あれさー、俳優がやっているんだねー。」
「いいえ、CGによる古代人の再現映像です。」
「それにしては、よく出来ている、凄すぎる。」
「現存の人類の記憶には、ほぼないものをアカーシック・レコードから採取して火星の映像制作会社が作ったものなんです。」
「アカーシック・レコードって、なに、それは。」
「人類の発生から現在までの全ての出来事を記録しているのがアカーシック・レコード。」
「映画は終わったから、出ないといけないんじゃないか。」
「入場者は他に今日はない、というより、まだ一般的に未公開だし、わたしの権限で、いられるのよ。」
「それなら安心だ。僕のアカーシック・レコードも何処かにある、という事だね。」
「誰のも平等にある。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の分まで、あるかは、わからないけど。」
「神話の神様の伊弉諾尊だろう?神界は深い海の深海のように理解できない。」
「それよりも今日は何か動くって、バリノさんが言ってたわ。」
「何が動くんだろう?」
「さあね、それは、わたしにも分からないわ。出ましょう、ここから。」
綸蘭はスラリ、フワリと立ち上がった。映写室を出ると、例の片手で手すりに摑まると足が宙に浮くエスカレーターに乗って、二人は一階に降りた。そこにレストランがあった。
綸蘭はガラスの向こうに見えるメニューを見ると、
「食事にしましょう。時さん、お腹、空腹じゃないの?」
「そういえば、昼になったね。ここのレストラン、変わっているな。」
「最先端のレストランなのよ。牛鰻定食って、面白そう。高いけど、わたし、これにする。」
「僕も、それにするか。真上さん、中に入ろう。」
二人は、その店の前に立つとガラスの扉が開いた。のみならず、二人の立っていた床面が店の中に移動したのだ。それで、二人は歩かずに店内に入っていた。
店内は牛丼屋みたいで、チェーン店とかと違うのは座敷がある。店内は誰もいなかったのだ。店主らしき中年男が、
「いらっしゃい。四人が座れる座敷にどうぞ。うちは高いのか、あまり、お客さんが来ないので貴方達は大歓迎です。」
と声をかけてきた。板前風の白い和服の上下を着た店主は、座敷に向かい合って座った綸蘭と流太郎に、おしぼりと、お茶を持ってきて、
「なんにしましょうか。とりあえず、ぎゅううな定食は、おすすめです。」
と話す。綸蘭は、
「鰻と牛肉が入った丼ものね。」
と訊く。店主は、
「そうだけど、これが御客さん、牛の体の一部が鰻になっている牛を使っているのですよっ。」
と説明する。綸蘭と流太郎は同時に笑うと、流太郎は、
「そんなー、また、また。」
と受け答える。店主は真顔で、
「本当なんですよ。この島の管理者はバリノさん、ていう火星人だけど、」店主は綸蘭を見て、
「話しても、いいのかな真上さん。」
と訊く、綸蘭は、
「ええ、この人になら、いいわよ。」
店主は、うなずき、
「火星で牛と鰻を合成したんだって。」
と言うではないか。流太郎には、よく理解できなかった。
「牛と鰻を、どう合成したんです?」
店主は、
「雄牛の精液に鰻のDNAを混入して、牝牛と交合させたら、できた子牛には腹から鰻のようなものが垂れ下がるそうですよ。それが牛の肉と鰻の肉の混じったモノらしく、おいしいんですよ、とっても。」
流太郎は、
「その鰻には頭は、あるのかなあ。」
店主「頭は、ないそうです。ぎゅううな定食に、しますか?」
二人は、うなずいた。
早くもないが遅くもない出来上がりで、二つの丼が二人の前に置かれた。
流太郎は丼に並んでいる肉に驚く。それは牛肉にウナギの蒲焼きが二つ、くっついたものだ。店主は自慢そうに、
「なるべく牛が生きている時の姿に、したくってね。鰻だけ蒲焼きにするのは面倒ですけど。」
と説明してくれた。
流太郎は食べてみて、鰻と牛肉のくっついた肉の味わいを感じた。
レストランを出て、ピラミッドも出た二人は空に浮かぶ雲を見た。雲の動きから流太郎は、もしかしたら、この浮かぶ島は今、動いているのではないか、思ったのだ。
「真上さん、愛高島は動いているんじゃないの?」
「そうね。東に向かって移動しているみたいよ。」
「浮かぶ島が動くなんて。」
「浮かんでいるだけじゃ物足りないわ。」
島が動く速度としては速いのか遅いのか、流太郎には分からなかった。
だが地上にいる人達は空を見上げて、島が動いているのを見た!
「おい、愛高島が飛行を始めたぞ!」
「ほんとだ!空を飛んでいる!」
博多湾の沿岸から愛高島を眺めていた人達は、東に向かって飛んでいく愛高島を驚嘆のまなこで見つめ続けた。
 愛高島は瀬戸内海を渡り、伊勢湾を通り過ぎ、駿河湾へ到達すると、そこで一時、停止した。
駿河湾は日本で一番深い湾で最深2500メートル、ある。日本一高い山の富士山と対照的だ。
雲を見つめていた綸蘭は、
「止まったわ。腕時計にある位置情報を見るわね。」
彼女は突風が吹くと折れそうな左腕を上げると、多機能腕時計のガラスの面を見る。
「今、愛高島は静岡県の駿河湾の上空よ。」
と笑顔で流太郎に告げる。流太郎は驚くと、
「そんなにも移動したのか。並みのジェット機より速いじゃないか。」
「推進力が反重力だそうだから、自由自在に燃料なしで速度を上げられるらしいわ。」
「反重力とは偉大だね。」
「あなたと、わたしの間にも重力は働いているけど体重の重さの方が勝っているから、自然にしていたら体がくっつく事は、ないの。」
綸蘭と抱き合えれば、それは幸せな重力だ。康美との間には反重力が働いたのだろうか、と流太郎は思った。
愛高島の他の人達は、この移動に気づいていないのかもしれない。地上にいる人々も日曜日に空を見る人は多くはない。釣りをしている人はウキを見ていて、空は見ないものだ。
偶然にも空を見て、駿河湾の上に巨大な島が静止しているのを目撃した人は、UFOを見るよりも驚いた。
やがて愛高島は相模湾へと移動を開始した。相模湾も水深が深く、駿河湾に次いで日本で二番目の深さだ。水深1500メートルの深さのある場所がある。
この相模湾の上でも愛高島は停止した。相模湾の深い場所は小田原より西であるのだが、愛高島は更に江の島の真上に飛行を続け、そこで飛翔を突如、停止した。
日曜日だけに観光客も多く来ていた江の島が、いきなり曇り空のように暗くなった。空を見上げた観光客の若い男が、
「うわあっ、あれは何だっ!!」
と大声を上げたので、周りの人々も一斉に空を見上げる。そこには、江の島よりも大きな円形の巨大な白い物体が浮かんでいるのだ。巨大なUFOに見える。愛高島の底部は火星の白金で作られている。
「UFOか?あれはー。」
「いきなり現れたぞー。」
多くの人は携帯電話でカメラに撮影し始める。へたへた、と座り込む女性も見られた。そこから逃げようにも浮かぶ物体は江の島より大きいのだ。走っても、その白い円から抜けられない。それに過去、大きなUFOはメキシコやマレーシアで多くの人々に目撃された。その時、その人たちは逃げもせず現れた円盤を見ているのだ。
それらの事実から今、江の島にいる観光客も逃げ出そうとする人は、いない。
ただ、あの巨大な江の島より大きな物体が真っ逆さまに落下すれば、そこにいる観光客は全員、圧死するだろうし、江の島神社も全壊する。
とはいえUFO落下事件は、滅多に起こらない。それもあってか人々は冷静でいられた。
学者風の中年男性が口を開き、
「もしかして、あれは福岡市の博多湾に浮かんでいた愛高島ではないか、と思う。」
と右手を自分の顔の眉のあたりに翳(かざ)しつつ、意見した。周りの人達も、
「そういえば、そうだな。あれ位の大きさだった。」
「でも博多湾の上に静止していたんだろう。」
「最初は何処からか、飛んできたはずだよ。」
「何処から、飛んできたんだろう。」
「もしかして地球外から、か。」
「そんな事は、ないさー。あれ位、大きな物体が地球外から飛んで来ればNASAなら気づく。」
「そういえば、そんなニュースもなかったなあ。」
それで愛高島は世界中から注目されている。日本の方からも愛高島の出現をうまく説明できる人物は出てこない。
カメラに撮影しない人達は真っ先に携帯電話で誰かに話していた。
十分もすると愛高島は移動を始める。その速度は一瞬にして江の島を離れ、下にいた観光客らは次の瞬間、愛高島を見失ってしまった。
次に現れた愛高島は東京湾上だ。それから皇居の真上、そしてJRの山手線に沿って東京都区部を一周する。
愛高島のピラミッドの近くの野原にいる真上綸蘭と時流太郎は、携帯電話でバリノの説明を受けた綸蘭が、
「今、東京の山手線に沿って、右回りで動いているそうよ、この愛高島が、ね。」
と話すと、流太郎は、
「信じられないな。動いているのが感じられない。」
「愛高島の周囲に目に見えないバリアを作っているんですよ。それで風も吹かないし、揺れも感じないの。」
「ジェット機よりもリニアよりも揺れないね。」
「この島自体が巨大なUFOなんです。これでも小さな方で、木星の大きさのUFOも火星のものではないけど、存在するんだそうよ。」
「木星と同じサイズのUFOか。それも信じられない話だ。それじゃあ木星もUFOか、という話になるね。」
綸蘭は、それに対して生真面目に、
「月は人工物でUFOのようなもの、という事らしいわよ。」
「またー、そんな事は、ないだろうー。」
「月だって地球より遠くから飛来してきて、地球の軌道と一つになって回っているけど、月の内部は宇宙人が住んでいます。それに月は地球に多大な影響を古来から与えているわ。女性の月経にも月は影響を与えているし、満月に事故がおおいとか、月の重力が海の波を起こすし、これらは宇宙人が人類を実験するために月を送り込んだそうです。火星では小学生でも知っているんですって。」
「月には女神じゃなく、人類をモルモットのように調べる知的生命体がいるのか・・・。」
「神隠しって日本でも古くからあるけど、あれの一部は月に連れられて行っているんです。アポロの乗組員も月の裏側で幽閉されている地球人を見たそうよ。木星や土星の衛星も人工物があるらしいってバリノさんの話ですわ。」
綸蘭の携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし、真上です。あ、バリノさん。こんにちわ。え?今、東京都庁の建物の上に、愛高島は停まっているんですか・ええっ?島の底部から、いくらかの下水を出して都庁のビルにかける・・・おしっこ、とか・・アハハッ、面白いわっ、本当ですか?」
「本当だとも。火星から遠隔操作しているんだ。今、都庁のビルの屋上に愛高島の下水を十リットル放出しておいた。」
と愉快に話すバリノの声は綸蘭の横にいる流太郎にも聞こえた。
都庁のビルの屋上には人は誰もいなかったが、第一本庁舎の45階展望室のガラスの窓には愛高島からの下水が流れ落ちて行った。そこの展望室、地上から202メートルの高さにいた人達は、それを見て、
「雨が降って来たよ。」
「それにしては黄色いなー。」
「黄砂の影響だろう、きっと。」
「黄色の雨降る新宿都庁、か。」
と楽しそうに話した。

 自衛隊は愛高島の飛行に気づいていたが、敵機でもないので出動はできない。東京都民は空を見上げる人も少ない、というより、いなかったので愛高島は都民の誰にも気づかれずに新宿から池袋へと飛ぶ。
 池袋ハイスカイトウキョウという八十階建ての高層ビルの真上を愛高島は目指す。そこの展望室は全面のガラス張りだ。
停止した愛高島は底部より下水の放出を開始した。
若いアベックの男女が、その展望室のガラスに流れる黄色い液体に気づいた。女が、
「黄色い雨、かしら。」
「黄色い雨、だろう。」
「幸せの黄色い雨よね、きっと!」
「幸せの黄色いなんとか、とかいう今は太古のような昔の映画に、そういうタイトルあったさ。」
「幸運の前触れっ。わたしたちの、これからの幸福を祝福してくれているのね、神様が、きっと。空から降らせてくださっているのよ、黄色い雨を。」
「ああ、シャワーのように浴びてみたい雨だね。」
若いカップルは愛高島からの下水を飽きる事もなく、眺め続けていた。

 その時、ハイスカイトウキョウの真上にいる綸蘭と流太郎は、携帯電話で綸蘭がバリノの話を聞く。
「えっ!?池袋のハイスカイトウキョウの真上から、又、あれを・・・・。」
「ああ、今度は多めに20リットルのサービスで。よし、終わった。」
「東京の今日の天気は一部、雨だわ・・・ふふふっ。」
と綸蘭は小さな声で呟いた。

 東京都では今、百階建てのビルが建築中だが完成した暁には愛高島の下水放射をバリノ氏は計画中であるという。
 赤羽を過ぎ、上野から東京駅の真上に到着、停止すると、バリノは携帯電話で綸蘭に、
「今から光速で運転して地球を一秒で七回り半してもいいが、別に面白くないから福岡に帰ろう。」
それは光速で行われた。
一秒未満の時間で愛高島は福岡市の博多湾上空の定位置に戻ったのだ。

 城川康美は愛高島に住んでいるわけでは、なかった。マンゴーは売り切れるのが早く、三時には在庫がなくなる。店で置いておける量には限界がある。次の日の早朝に火星から新たにマンゴーを運んでくるのだ。
康美は午後三時過ぎに店を閉めて帰宅する。ヘリコプターで福岡市の地上に戻るのだ。その代り、朝は早い。午前八時には火星から来るマンゴーを受け取りに愛高島には昇っている。
 今は午後三時、康美は愛高島が東京まで移動したのも知らないまま、店を閉めてヘリコプターで地上へ降りて行った。

 康美は自宅へ直行する。暇だからネットサーフィンをする。元々、康美はインターネット関連会社に勤めていた。マンゴーの販売は接客であり、聊(いささ)か疲れたのだ。
誰かに任せたい。そうすれば三時で終わることもなく、若返るマンゴーは販売される。
求人など自分のブログに書けば、いい。
マンゴー販売責任者募集します
 福岡市の愛高島でマンゴーを販売してくれる方、資格、経験は問いません。二十五歳までの女性の方を募集しています。
そうキーボードでパソコンを打つと、康美のブログは更新された。
(これで、誰か来るわ。)康美は「株 投資顧問 福岡」で検索した。すると一番目に出たのが、株カイヤスカーという福岡市にある顧問会社だ。
そのサイトで無料会員登録を康美は、したのだ。彼女は貯金ばかり、しても、しょうがないと思った。それで株式投資を始めようと思ったのだ。すぐに返信が来た。

 ご登録、ありがとうございます。株カイヤスカー代表取締役の蕪山で、ございます。弊社では南区高宮にて株式セミナーなども開催しております。お時間が、ございましたら是非、お立ち寄りください。
明日の午後、四時もセミナー開催の予定です。

 そのメールには、その他に無料推薦銘柄としてマザーズの株式会社夢春も取り上げられていた。
康美は、それを見ると、
「明日の午後四時なら愛高島の仕事が終わって、すぐ行けるわ、よし、決めた!」
と独り言を呟く。
その時、康美の携帯電話が鳴り出した。
「はい、城川です。」
「初めまして、こんにちわ。相出(そうで)澄香(すみか)と申します。」
「ええ、初めまして。それで、ご用件は何でしょう。」
「社長のブログ、拝見しました。わたし、ぜひ、働きたいんです。マンゴー販売の仕事です。」
「ああ、見てくれました。もちろん、募集中ですし、あなたが第一番目に応募してくれましたわ、相出さん。」
「そうですか。わたし、曾曾祖母の名前は相出スネといいます。余計な事だと思いますけど。」
「まあ、面白いわ。フルネームを名乗ると同意した事になりますね。」
「ええ、そうです。わたしも社長の仕事の募集に同意します。」
「ありがとう。面接には、いつ、来ますか。」
「今からでは、どうでしょう。」
「いいわよ。会社は愛高島にあるけど面接場所は、わたしの自宅に来てね。」
そこで相出澄香は康美の香椎のマンションに面接に来る事になった。
十分もすると、康美の部屋に玄関チャイムが鳴る。玄関前が映像で見れるので康美は玄関の中にある小さなパネルに映った相出澄香の可愛い顔を見ることが出来た。十代のような美少女、未成年なら雇用するのは難しいな、と康美は思いつつ玄関を開けた。
相出澄香は笑窪を浮かべて、
「こんにちわ。相出です。」
「待ってたわ。上がって、中に。」
「はい、お邪魔しまーす。」
元気な相出の明るい声は康美の心も明るくした。
 少しでもマンゴーを置けるように康美は住居を変えて、3DKのマンションを借りている。その一室は事務室のような役目にしていた。応接テーブルと椅子も揃えていた。人を雇いたくなったのでネット通販で購入していた。康美は澄香に、
「そこに座って。面接を始めます。」
澄香は着席、康美は彼女に相対して座ると、
「履歴書もPDFファイルで送ってもらったもので、いいです。あれで貴女の履歴は見ましたよ。ですから、それについては合格ね。」
澄香は嬉しさ満面になり、
「では、わたし採用ですね?」
「あなたの明るい笑顔と声も、いいわね。明日から働いてもらいます。」
康美は印刷した澄香の履歴書を自分の机から持ってきて手に取ると、
「えーっと、短大卒業後、サイバーモーメントの子会社である中国料理レストラングループ『食べチャイナ』に入社。そこでは、どんな仕事を経験したの?」
「レストラン業務全般と、主に接客です。マンゴーのデザートも客席に、よく運びました。」
「ああ、それでは慣れたものですね。お客さんにマンゴーを売るのは。」
「わたしサイバーモーメントの黒沢社長が接待する貴賓室にも、よく料理とマンゴーを運びました。」
「貴賓室って、レストラン内にあるの?」
「サイバーモーメントの本社にあります。」
「『食べチャイナ』にも個室は、あるわよね?」
「それは、ほとんどの店にあります。わたしが研修を受けたのは、『食べチャイナ』高宮店です。ちょっと高めの価格設定でも、お客さんが来店してくれます。」
「若返るマンゴーも高いけど、買ってもらえるから、あなたには適人適所だわ。」
「わたし、まだ若いから若返っても、しょうがないですけど(笑)。」
「いずれ貴女も歳は取るわ。二十五歳より上に行っても、若返るとしたら・・・いいと思わない?」
澄香は両眼を斜め上に向けて宙を見るような顔をして、
「いい、と思います。社長も若く見えます。それはマンゴーの影響ですか。」
「そうなのよ。若返ってしまったの。実は、このマンゴーはね・・・。」
康美は思いとどまり、
「秘密があるけど、いずれ教えてもらえるかと思う。」
「へえ、そうなんですか。知りたいです、社長。」
「許可がいると思うから、その話は、ここまでで。面接は終わりですよ。明日、朝八時前五分までに、ここへ出社よ。」
「はい、社長。それでは失礼します。」
相出澄香は積極的に立ち上がると部屋を出る。康美も玄関まで見送った。

 翌朝、指定された時間に澄香は出社してきた。
「おはようございます。」と挨拶する彼女の上着は黄色でスカートは赤。黄色と赤で、よく目立つ。スカートは膝まである長さ。昨日と違って澄香は胸のふくらみが良く分かる上着を着ている。康美は、
「相出さん、お早う。貴女の胸、大きくて、いい形よ。」
「うふ。接客には必要ですもの、女なら。」
と可愛い声で澄香は答えた。
康美は、
「屋上に行くわよ。このマンションに。」
と指示して二人はエレベーターに乗る。屋上に着いた二人はエレベーターを出ると、すぐにヘリコプターの爆音がして降下してきた。
後部座席に二人が乗ると、運転手は若い男性でパイロット風な外見だ。彼は何も言わずに、二人が着席するとヘリを上昇させた。
愛高島まで十分も、かからなかっただろう。ヘリコプターを降りた澄香は、
「うわあ、すごいな。これが浮かぶ島、愛高島なんですね。社長。ヘリコプターは専用ですか。」
「毎日乗るから、私のマンションの屋上に来てくれるの。」
深緑色のヘリコプターは爆音を立てて、上昇して島を出ていく。又、そこから下降して二人には見えなくなった。
康美は続けて、
「今から、あのヘリは他の人達を載せて又、愛高島に来るわ。さあ、店に行くわよ。」
康美の歩調に合わせて澄香も歩く。澄香は康美より少し身長は低いが、胸の大きさは同じくらいだ。 
 シャッターの降りた店舗の前に立つ康美は、ハンドバックからリモコンを取り出してシャッターを上げた。
康美は澄香にマンゴーの在庫の場所や、レジスターの扱い方などを教え、その他の業務も習得させた。十時の開店時には接客を任せた。九時には今までも来ているアルバイトの女性に澄香を紹介した。
新人ながら店舗の責任は澄香に康美は一任して、その日は後ろで見ているだけで、店舗業務は滑らかに流動した。

sf小説・未来の出来事5 試し読み

メレニは、
「パーティには他のクラスからも来るわ。流太郎が見た事もない人も来るから。楽しみね。」
と教唆した。

 そんな楽しさを想像したりと、流太郎が期待にも似た気持ちでいると時間が経つのは速いものだ。そのパーティ会場に流太郎は、いた。立食パーティみたいな会場であった。飲み放題、食べ放題。百人はいる大きな会場だ。流太郎は黒い背広を着たハンサムな若い男性に、
「こんにちわ。日本から来ましたね、あなたは?」
と声を掛けられた。
「はい、そうです。ぼくは講師の助手です。初めまして。」
「ぼくも初めまして、ですが、あなたは学校で見た事ありますよ。」
「そうですか。気が付きませんでした。」
「地球の日本にいるのですが、ちょっと二か月ほど、ここで日本語を更に学んだのです。」
「わざわざ火星へ?日本にいたのなら、日本語は学べませんか?」
「それがねえ。私本来の姿に戻れないでしょう、日本では。長い時間ね。」
「はあ、あなた本来の姿・・・それは人間誰しも、人前では幾分、取り繕った顔をするものですよ。そういうのがストレスが溜まる、って事もありますよね。分かります、分かります。」
その男は歯を見せて笑うと、
「ははははは。その程度のものなら火星に来るものですか。私本来の姿、とは、こうですよ。」
流太郎が見ているハンサム男の顔は、みるみるうちに蛇のような顔になった。歯は牙が尖って見えた。
流太郎は驚きと恐怖で、
「なななな、それが貴方の本当の姿・・・。」
「ええ、レプティリアンとも地球で呼ばれているタイプの宇宙人、正確には火星人なのでね。」
男の顔は蛇のような顔のまま、ニッ、と笑う。流太郎の背中はゾクゾクしたが、
「シェイプシフトとかいうアレですね。メレニさんや僕が会ったソリゲムさん、ダリモ部長やセロナさん、それに、ここの校長先生もみんな地球の北欧の人を神秘的にした感じの人間なのに、あなたは・・・。」
「国が違えば火星人も異なるのさ。僕は、この国に留学する事を認められている。地球で謂えばビザも持っている。それがねえ地球も、いずれそうなると思うけど、僕らのビザは君達のスマートフォンに類似した、それより進化した携帯の中にね、ビザを持っているんだ。だから入国審査官には、それを火星のスマートフォンで見せれば、いい。見せてあげよう。」
蛇男はズボンのポケットからスマートフォンらしきものを取り出して画面を操作すると、流太郎に見せた。
そこには火星のアルファベットと数字らしきものが表示されていて、ビザらしきデザインのものが見えた。流太郎は、
「これは初見です。ほー、すごいですね。カードのビザなんて紛失する事もありますよね。そしたら大変ですもん。」
「だから地球は遅れている。僕は月への入国ビザも、このスマートフォン、火星ではスマートフォンとは呼ばないけど、君への便宜上、そう呼ばせてもらうが、この中に収めてある。」
「月、というと月面の月ですか。アメリカのアポロが行かなくなって百年以上、経ってますけど。」
蛇男はスマートフォンらしきものをポケットにしまうと、
「月はね、地球に見えない裏側には億単位の宇宙人がいる。円盤の基地や建物、その他、文明を示すものは地球からは見えないんだ。」
その蛇男、レプティリアンの顔などは近くにいる火星人にも見えるはずだが、誰も驚いたりしないようだ。驚きの顔は流太郎だけで、流太郎は、
「それで月には何もない、と思われていたんですね。」
と相槌をカン、と打った。
「月の裏側を探査しようとしたアポロは、彼らの円盤に攻撃された。命からがらのアポロの乗組員達を知ったNASAは、二度と月への宇宙計画を行わなかったんだ。まあ、その方が身の為だね。インターネットの動画共有サイトでは、少しリークされているよ数十年前から。」
「そうなんですか、では竹取物語の、かぐや姫の話しも本当とか。」
「月に帰るとか、そうだろう。昔の人間が想像だけで、そんな事を想いつかない。それは、ともかく、僕は日本で株取引をしている。」
「ああ、デイトレーダーの方ですか。僕も株には興味があります。」
「今度、教えてやろう。日本では蕪山得男(かぶやま・とくお)と名乗っている。戸籍なんて上野に行けば失業者から、いくつでも買えるからね。」
流太郎は蕪山から名刺を貰った。そこには福岡市の蕪山の住所が載っていた。流太郎は嬉しそうに、
「福岡市に住んでいるんですね、蕪山さん。高宮・・鴻巣山の上の方みたいですね。」
「ああ、電話かけてから訪ねて来いよ。デイトレーダーだと外に出る時間も短いから人間の外観になっている時間も短くて、いいからな。」
蕪山の手は指は長くて爪も長く、肌は鮫肌でウロコがあった。
株をやっているから蕪山か、と流太郎は思った。本当は火星のレプティリアン、爬虫類型宇宙人なのだ、蕪山さんは、と流太郎は思うが火星人の株取引を知りたい、と思い、
「蕪山さんは、明日からでも日本へ、福岡市へ戻るんですか。」
「ああ、今日から戻るよ。君は、いつまでも火星にいるのか?」
「そういうつもりも、ないです。火星では日本語講師が関の山ですから。」
「だろう?だったらさ、早めに地球に帰って何かした方が、いい。」
「そうします。蕪山さん、マンゴープリンが、お好きのようですね。さっきから、そればかし食べてますよ。」
「うん、地球人にシェイプシフトすると暑いんだよ。それでマンゴーが、おいしいのさ。」
「ちょっと失礼します、蕪山さん。」
「ああ、いいよ。次は地球でな、会おう。」

 流太郎は少し離れた場所で立食しているメレニのところに行くと、
「メレニさん。ぼく、地球に帰りたいんです。」
と心境を打ち明けた。
「まあ、そうなの、いいわ、あなたは日本語講師助手として数年勤務しているから、国の円盤で地球に送ってもらえるわ。その代り、この火星での仕事は地球では秘密にしておいてね。」
「分かりました。というより、火星での体験を話したって誰も本当だとは思ってくれませんし、頭が狂っていると思われるに決まっていますから、話はしませんよ。」
「そうね、でも秘密を強いる訳ではないから、話していい、と思える人がいたら話してもいい。何故なら、火星に来ている地球人って結構、多いからね。」
なんだ、そうなのか、と流太郎は思った。

 翌日、メレニの話通り、時・流太郎は国のUFOで地球へ帰った。火星人とはいえ、公務員らしき態度の船員に、
「あれが君のマンションですか?」
と香椎駅前にあるマンションの上空から尋ねられたので、
「そうです。屋上で降ろしてもらえませんか。」
「ああ、そうするよ。火星での勤務、ご苦労さん。」
と、ねぎらわれて流太郎は自分のマンションの屋上に降りることが出来た。
(もう、二年にもなるのか。でも一応、分譲マンションだから家賃滞納の心配はなし、管理費と修繕積立金は安いから銀行口座の引き落としで、なんとかなっている筈だ。)
と回想した。
 屋上から自分の部屋に戻ると、電気もガスも止められないでいた。水道も、ちゃんと出た。それらも銀行引き落としだったのだ。パソコンはWINDOWS37が、まだ使えた。起動させてオンラインバンキングの自分の口座を見ると、まだ貯金があった。次にビットコインの口座を見る。
(やはり騰がったな。ビットコインは。火星ではビットコインに似たもので光熱費は払える、とメレニさんは話していたけど。)
日本株は、と見ると上がったのもあれば、下がったのも、ある。ほぼほぼ、同じ株価のものも多い。
ネットニュースを見れば、リニアモーターカーが鹿児島に向けて建設を計画中だそうだ。
リニアより揺れない、というより、全く揺れない火星の空飛ぶ円盤に乗った経験からすると、リニアなんて、と流太郎は考えてしまう。
鹿児島では桜島が爆発したらしく、それの被害に会わなかったところにリニアを通す計画らしい。
とにかく今は昼間だ。会社に電話しよう。携帯電話で流太郎は籾山に連絡を取る。籾山が出て、
「もしもし?おう、時じゃないか。どこに行っていたんだ。」
「ちょっとした事情がありまして、その訳は追い追い、話しますから、今日から出社します。」
「ああ、いいけど君の席は、もうないから、明日までに机とか椅子は何とか、しよう。今日は、そんな状態だけど、来るなら来いよ。」
「はい、行きます、今すぐ。」
という事で、今はマザーズ上場企業の株式会社夢春に流太郎は出社する事になった。

 籾山も今は社長室を使っている。そこに入った流太郎は元気そうな籾山を見て、
「お早うございます。お元気そうで何よりも素晴らしい。」
と挨拶した。籾山は鷹揚に頷くと、
「君も元気で何よりさ。一体、何処に蒸発していたのかい。」
「蒸発だなんて液体ではないんですから、僕は。火星に連れていかれたんです。信じてもらえないと思いますけど。」
籾山は好奇の目を光らせると、
「信じるも何もだね、僕も火星には行ったよ。それどころか、-これは内緒の話だがね、うちの大株主の一人は火星人なんだ。」
流太郎は、そういう時代なんだと思ってみた。だから納得顔で、
「そうでしょう、うちも、そこまでいかないと発展しませんですものね。」
「ああ、技術屋の会社としてはね。火星人からの技術供与は、我が社の向上には必要欠くべからざるものだな。パリノさん、彼が大株主だけど、その人は火星の医師で、エレクトロニクスの方面は得意じゃないらしい。」
「医学でもコンピューターを使う事は、あるのではないですか?」
「あるらしいけど、パリノさんはプログラムを作ったりできる人じゃないから、直接的にはパリノさんからの技術協力は無理だけど。十歳若返るマンゴーが火星にあるらしいよ。」
それを聞いた流太郎は、
「それを輸入販売すれば、絶大な販売業績が出ますよ、籾山さん!!」
「でも、それはパリノさんの兄さんの領域らしいけどね。」
と籾山は嘆息した。

 パリノ・ユーワクの兄、パリノ・ユーワクは、十歳若返るマンゴーの果実を地球に輸出する事に決めた。
販売場所は何と、博多湾上空に浮かぶ巨大な島、で行われる。この巨大な空中に浮かぶ島は、巨大な反重力によって支えられている。そもそも重力などは地球が消滅しない限り、永久にあるものだから、反重力も同じく存在し続ける。太陽光発電でさえ、太陽が沈んだ後にはエネルギーを採れないが、反重力は夜にも、その力を保ち続けるのだ。
 パリノは城川康美に、
「この若返るマンゴーは高価な値段で売りたい。あの浮かぶ島、それは愛高島(あいたかしま)と福岡市からの愛称募集で決まった名称だがね、そこで一個、百万円辺りで売ろうと思うよ。」
康美は、もはや自営業者となっていた。その愛高島にはヘリコプターで時々、訪れた事もある。観光ヘリコプターが空に浮かぶ島へ飛んでいる。島の大体は火星で作られたものだが、そこに宿泊施設などは地球側、というより日本の企業側で作らなければ、ならない。
パリノは康美の事務所で、マンゴー販売を持ち掛けた。康美は社長の椅子に腰かけて、
「それは賛成です。妹の貴美は行方不明になりましたし、何か有意義な事をしたいんです。妹が、いなくなって張り合いがないところもありました。若返りは実証されているのですか、そのマンゴーで?」
パリノは部屋で康美の前に立ったまま、
「もちろんさ。火星人に効くものは地球人にも効く。まず、君に試してほしいね。」
康美は期待で胸がワクワクと雲が湧く思いになって、
「やりますわ!わたしも二十六、若返りたいな。」
と心境を吐露した。
 パリノは上着のポケットの中からマンゴーを取り出すと、
「これが、その十歳若返るマンゴーだ。果実のままだから、皮をむいて食べてごらんよ。」
康美は立ち上がると手渡されたマンゴーを受け取り、事務所の片隅の調理の出来る場所に行って、ナイフでマンゴーの皮を剥き、食べられるように切り分けた。そのひと切れを口にすると、ビタミン剤の強力な味がして、全身に電流が走ったような感覚がした。何か体が軽い。五歳、若返った感じ。鏡のある所に歩いて、自分を鏡で見ると確かに自分は二十一に戻ったようだ。康美はパリノを振り返ると、
「若返りましたわ、パリノさん。でも、五歳だけみたいですよ。」
と嬉しそうな声を出す。パリノも喜ばしい顔で、
「それで、いいんだ。君が十歳若返ると十六になる。それでは未成年者に逆戻りだからね。君はもう自営業、会社に行かなくていいから、会社の人達に見られて奇妙がられることもないよ。」
「そうですわ。でも、父には時々、会います。だから、びっくりしますわ、父は。」
「彼は科学者だし、その火星のマンゴーの事も話していい。だが、他の地球人には秘密にしておいてくれ。若返るマンゴーはネットショップで売り出す。だけど取りに来る場所は浮かぶ島に来てもらうんだ。」
こうして若返るマンゴーは日本初、発売となった。
十歳、若返るマンゴー
なんてインターネットで見ても、すぐ信じる人は、いない。お試しサンプル、無料というので試しに送ってもらった人が、
「確かに少し若返った。よし、買いたい。でも百万円じゃあ・・・。」
とネットで呟いたので大反響を竜巻のように巻き起こし、その噂は旋回して日本中を駆け巡ったのであった。
 購入場所は博多湾に浮かぶ海抜五百メートルの浮かぶ島。観光ヘリで訪れる事が、できる。一日に浮かぶ島に飛ぶヘリコプターも限られている為、日曜祭日には予約が殺到している。
康美はパリノがUFOで浮かぶ島まで朝晩、康美のマンションから送迎した。人間の目には見えないUFOにすれば、誰にも気づかれない訳なのだ。そのUFOでは香椎駅前の康美のマンションから浮かぶ島「愛高島」まで一秒以内に到達できる。標高五百メートルの愛高島は、冬の今、とても寒い。
観光客が来る前の販売所の室内で、パリノは康美に、こう話した。
「今日は寒いね。太陽の表面温度は実は、たったの26℃なんだから。」
何の冗談かと康美は思い、聞き返す。
「なんですか、その話。太陽の表面温度は6000℃だと習いましたが。」
「ワハハハハ。それが天動説と同じで、科学的という間違った迷信、いや迷推測によるものなんだ。太陽が高温を発しているのなら地表から五百メートルも離れて高い、この愛高島が何故、こんなに寒いのだね?」
「それは寒気団が来るからではないですか?」
「それは、あるだろうけど富士山やエベレスト山は頂上付近は、いつも雪で覆われている。実は、かなり昔、アメリカのNASAは太陽の表面温度を計測し、それが26℃である事を突き止めたが発表しなかった。だがインターネットでは漏れ伝わっている。」
「では、太陽熱とは一体何でしょう?」
「T線と呼ばれるものが太陽から出ていて、それが惑星の大気に触れて気温が上昇するのだ。だから太陽に地球より近い金星にも高度な文明を持つ人達が、存在する。」
「金星!??金星って、とても高温で・・・でもないんですね、太陽は平穏な平温としたら。」
「そうだ。金星には厚い雲もある。そもそも太陽は燃える塊ではない。なのだから金星には快適に住める空間は、あるんだ。NASAも太陽の温度を知っていながら、探査船を金星に飛ばさないのは科学的常識、それは大昔の天動説と同じだが、太陽は爆発している燃える星、というものに敬意(笑)を表してだろう。」
康美は新たに金星の謎の一つを少し知った気がした。随分昔、金星に行った、と主張した人々は世間から冷笑されていったものだ。地動説と違ってガリレオ裁判みたいなものは、ないけれど世の中の人間は自分で体験しないものは、世論に動かされる。それで大衆操作は可能だ。百パーセント近くの人間は月にさえ行けないのだ。どうして金星に行けるだろう。
その自分が体験不可能な事に就いては、マスコミュニケーション、マスメディアの打ち出す説を正当なものとする、というのが大衆心理なのだ。康美はパリノに、
「若返るマンゴーも火星からの輸入、という事は知らせない方が、いいんですね?」
「無論の論だよ。愛高島にしたって科学者共は隕石の巨大なもの、と結論付けた。山や川もあるのにだ。(笑)、我々が愛高島を地球へ運んでくるスピードは、巨大な隕石が地球に向かう速度と同じにした。停止も我々がしたのであって、自然現象ではない。
若返るマンゴーは火星の赤道直下で栽培された、品種改良のものだ。これも自然発生のものではない。自然は偉大だ、と思われるところもあっても、人工的手段がなければ快適な生活は望めないのは火星も地球も同じだよ。」
「冬は服を多く着ますものね、人間は。」
康美は首に巻いたマフラーに手を当てつつ、そう言う。
パリノは、うなずくと、
「医学も又、人工的な手段そのものだな。ところで若返った康美君、君は恋人に何か言われなかったかね?若くなったね、とか。」
「いいえ、恋人はいませんし、付き合っている人もいませんから。」
パリノの目に希望の光が滲み出ると、
「おお、そうかね。では私の第三夫人になるかい?」
「それは今少し、考えさせてください。火星で生きていくかどうか、もう少し考えたいんです。」
「ふうむ、いいだろう。君は、いつまでも二十一歳で、いられるよ。」
「え?え?え?どういう事ですか、それは。」
「又、二十六になったら、若返るマンゴーを食べれば、いい。」
「それなら二十五歳になったら食べると、二十歳に?」
「いや、それは無理だろう。最初に若返った年齢までしか戻れないみたいだ。火星での人体の治験で分かっている。だから君は二十一歳までしか戻れない。それでも、いつまでも二十一歳に戻りつつづけられるかと言うと、それは無理なのも火星の治験で分かっている。とはいえ、何回かは戻れるからね。」

 時・流太郎は、博多湾に面した少し高い山、愛宕山から浮かぶ島、愛高島を一人で眺めると、
(すごいなあ、あれは。大きな島が海の上に浮いているようだ。)と思う。ジャンパーのポケットから精度のいい双眼鏡を取り出すと、目に当てて、愛高島を見る。
なにか販売所のような所があって、おや?康美が、いるではないか!!何で、あんなところにいるんだろう。それに若返ったような康美ではあるみたいで。二十一歳ぐらいに見えるぞ。おれが教えていた専門学校を卒業して、すぐの頃の康美に似ている。それなら妹なのだろうか、康美の。
康美には双子の妹、貴美がいたが。その貴美の行方が分からなくなっている。もしかしたら、あそこにいるのは貴美?なのだろうか。それに彼女の隣には北欧の白人男性らしき人もいる。彼は何者、だろう。
愛宕神社の境内の北側から双眼鏡で愛高島を眺める流太郎の両肩に鳩が二羽、飛び乗ってきて一緒の方向を鳩たちも眺めている。

 愛高島のパリノに携帯電話が鳴る。店先にいたパリノは店の奥に引っ込むと、
「もしもし、どうしたんだ。」
「ダレダカ、ワカリマセンガ、ソウガンキョウデ、ソコヲミテイル青年が、います。」
「ああ、人工ロボット、カンシー君、お勤め、ご苦労さん。そのロボット風の話し方も、やめたらどうだ、もう。」
「分かりました。でも、プログラムされたワタシです。最初の喋り方は、この方が、いいのかも、と。」
カンシーはパリノが愛高島の近くに停止させているUFOに乗せているロボットだ。そのUFOは人間の目やレーダーにすら!映らない透明な保護光線で円盤の船体を包んでいる。
パリノの身辺警護をカンシーは受け持っている。
パリノは気になって、
「話し方は君に任せよう、カンシー君。双眼鏡で島を見ている人々は多くいるだろう。私に危害を加える地球人は、いない筈だが。」
「ソウデハ、アリマセンガ、パリノさん、あなたより城川康美さんに、その青年は双眼鏡の焦点を当てているみたいデス。」
「ふうむ、そうか。でも、いいじゃないか。康美は美人だし、双眼鏡で見ていて美人が見えたら、そう、眼鏡をかけても見たい時もあるさ。」
「ソウデスネ。で、ワタシは、その青年に向けて探査光線を発しました。帰って来た光線波を分析装置の画面で見ると、
『元、恋人』と、なっています。」

sf小説・未来の出来事4 試し読み

福岡市の東区にある人工島!、アイランドシティに野球場ほどの広さを持つゲームセンターが、ある。平日の午前中は人は少ないかというと、そうでもなく年金生活者の老人が、屯していた。このゲームセンターには未成年者立ち入り禁止のコーナーがある。
福岡市にプロ野球球団が無くなったのも、ただ野球を見るよりも、その成人向けゲームに人気が出たため、とも言われている。そこに、貴美はバリノを連れて行った。入り口でバリノの前に立った貴美は、
「クレジットカードで成人か、どうかは認証判断されます。バリノさんはクレジットカードを、お持ちですか。」
と聞く。バリノはズボンのポケットに手を入れ、
「ああ、持っているよ。世界共通のをね。ビットコインじゃ、ダメなのかね。」
「そう、ビットコインカードでも大丈夫ですわ。説明不足で、御免なさい。ビットコインは世界共通の通貨ですものね。」
仮想通貨は日本でも、相当数の種類が出ていたが、それらの大半はビットコインと連動している。
貴美とバリノはビットコインカードで、そのゲームセンターの成人向け入り口を通過した。
二人の目に留まったのは、ダッチワイフのような女性の姿だった。とても人形とは思えない。着ているものは下着だけ。目もダッチワイフや人形のそれとは違う。常に動いているのだ。瞬きもしている。肌の色は白く、両手はダラリと下がっている。透けた下着で乳首と陰毛は浮き出ている。これで入場料を払った甲斐がある、というものだ。身長は百六十センチほどの美女のダッチワイフ、又、ラブドールとも呼ばれるものが進化している。立札には、
この奥には部屋があります。そこに、わたしを連れて行って下さるとドアを閉めて、貴方の好きにしてください。その前に十万円はカード払いで、どうぞ。
と書いてあるではないか。バリノは日本語を読むことも出来るので、
「これは、すごいな。貴美さん、貴女も一緒においで。」
と貴美を誘う。
「ええ、行きます。バリノさん、何処まで、この人形と、されるのか、見たいですわ。」
と貴美は答えた。
バリノがビットコインカードで十万円を支払うと、なんと、そのラブドールは先に立って歩き、部屋のドアを開けたのだ!驚きつつ中に入る二人の後から、ラブドールは入ると部屋のドアを閉め、ウインクした。
その部屋はダブルベッドのあるラブホテル風の部屋だった。ツインの部屋の広さ。窓には赤いカーテンが、かかっている。ラブドールは臀部を左右に振りつつ歩いてくると、バリノの前で立ち止まる。バリノは、
「君はレズは好みでは、ないかね?」
と、そのラブドールに話した。すると、
「いえ、わたしは男の人を好きになるように作られました。女性には興味は、アアリマセン。」
という自動音声の女性のような声でラブドールは答えると、次に、
「わたし、キミ、といいます。」
と話したから貴美は、ビックリした。自分の名前も貴美だからだ。バリノは、
「ほう、貴美さん、同じ名前だね。でも、よく答えてくれるなあ、このラブドール。」
と感想を漏らすと、ラブドール・キミは、
「だってワタシ、大学まで出てますもの。」
と話したではないか!バリノは、
「何処の大学かね。」
「福岡で作られたから、九州大学に通いましたの。福岡市の西の方にあります。文学部でしたのよ。」
と、スラスラっと流れる水のように答えた。
ラブドールが大学に行く時代なのだ。只の夜の愛玩人形と思ってはいけない。でも・・・?バリノは、
「君は歩けるのかね?」と簡易な質問をする。微笑んだラブドール・キミは、
「フルマラソン、できます。福岡市で大昔から行われている福岡市民マラソンにも、毎年出ますから。」
「順位は、どれくらいかね。」
「真ん中より上くらいです。そんなに早くは、ありません。」
「そんな時は、燃料補給をする人が、いるんだろう?」
「いえ、朝、出る前に、わたしのオーナーが充電してくれます。電気自動車と同じ原理なんです。もしもの時は、道路沿いの電気自動車用スタンドに寄って、給電します。セルフなんです、大抵、利用するのは。」
すごいスタミナだ。むしろ、燃費というより電費のいいラブドールなのだろう。バリノは、これを作った日本の技師に感動して、
「火星にはラブドールは、ないんだよ。必要ないからね。」
と貴美に話す。貴美は、
「そうなんですの。ありそうで、ないのですね。火星には。女性が沢山いるから、とか。」
「そう、いう事かな。ラブドールは地球では女性に不足する場合のためにある。長期航海の船員とか、だけど火星では長旅は、ないといってもいいから。」
バリノはラブドール・キミの前に立つと、ブラジャーを外した。美形の、揺れ動く白い乳房が現れた。
貴美とバリノの目が、キミの桃のような胸部へ移動する。バリノは、それを揉んでみたかったが、貴美がいるので放擲した。キミはバリノの手が自分の乳房を掴まないので、
「あれ、私の胸、魅力ありませんか?」
と聞いてくる。驚くべき事は、キミの表情に悲しみの色が浮かんでいる事だ。つまり、このラブドールは表情筋を持っているかのように作られている。バリノは貴美に、
「驚いたよ。一体、この精巧な人形を誰が作っているのかね?輸入物なのか、貴美君。」
「これは黒沢のサイバーモーメントの子会社、『ラブドールメーカー』が作っています。そこは勿論、福岡市にありますわ。西区の森林地帯に、です。」
ラブドール・キミは返答しないバリノの前で、上半身を屈めると股間を覆う白いショーツを立ったまま、脱ぎ始めた。最も魅力的なのは彼女の表情よりも、その女性器が存在する部分、それを隠すかのような性毛の密生の分布状況、および縮れ具合、大陰唇の成熟したふくらみ、など二十歳の女性が持つものをキミは持っているのだ。
バリノは貴美が、いなければ勃起したかもしれない。貴美はバリノの反応を見ている。時々、バリノの股間に貴美は視線を走らせていた。だがズボンの中心は愛を叫ぼうとは、しない。それで貴美は(自制心が強いのかしら、それとも性的不能?)と思う。
バリノはキミに何もしようとは、しない。ただ、彼の視線はキミの股間を注視している。そして、
「見事なものだ。ラブドールは地球のものを色々と集めていたけど、これは最高級品だよ。顔の表情が動くものは、見た事がない。このラブドールは、小さなコンピューターを内部に持っている筈だ。私が反応しなかった場合も、それに対応するデータを打ち込まれている。今のショーツを脱ぐ行為もね。」
小さなスーパーコンピューターを、キミの頭部の内部に、入れてあるのかもしれない。
そのように説明するバリノを見て、貴美はバリノが自分の性欲を抑えようとしているのではないか、と思ったりもするが、
「ラブドールメーカーでも最高級品を、ここに納品しているのですわ。わたしは女性ですので、それほど興味が、ありませんけれども。」
受け答えする。そして大胆にも、
「バリノさん、ここで、このラブドールを抱かれては、いかがですか。」
と提案した。
「うん、いや、それほど性欲に飢えていないんだ。このラブドールの使用料は中洲のソープランド、よりも安いな。」
「まあ、そうなのですか。わたし、中洲のソープの相場は知りませんわ。それでなのですね、ここは平日の夜とか、休日には行列が出来ているって聞きましたけど。」
突然、それに、キミが答えたので、或る意味で気味が悪いわけだが、
「でも、わたくし、一日に五人までしか相手を勤めませんの。大陰唇の摩耗を防ぐためです。そのようにプログラムされています。機械は何でも、そうなのです。過度な負荷は故障に繋がります。バイクや自動車の制限速度も、そうです、ですので六人を相手にすると、わたくし、動作停止となり、ラブドール技師を呼んでもらわないと、いけなくなります。女性器と乳房の損傷を防ぐためです、一日、五人までの性交相手の人数制限は。二時間も、わたしの、おっぱいを吸い続けた人もいたわ。それで、わたしの乳首は立ちっぱなしでした。」
バリノは興味深そうに、
「一人につき二時間は相手をするのかね。」
と聞くと、ラブドール・キミは、
「そうです。だから十時間の性労働ですけど、わたしには処女膜は、ありませんでしたし、そう、最近、わたしを製作したラブドールメーカーは、処女膜付きのラブドールを開発中だとか。それで、その完成後の商売に於ける得失について検討中なんだそうです。それは人間の女性が処女膜を失う際に感じる苦痛、それが喜びに変ずるため、その現象を引き起こした相手の男性に対する心理的な従属意識を起こす、とはいえ、女性により、処女膜を捧げた男性に生涯の貞潔を誓う女性の圧倒的な減少が、かなり前の日本で起こっていた事なども研究課題となっています。要はヒーメン(処女膜)をラブドールに付帯させる事が、顧客サービスの向上になるか、という事らしいです。」
それを聞いてバリノは、
「なるほどね。昔、というより大昔の日本人女性が、大半、そうであったような処女性のラブドールなら、一人の顧客に従属してしまうという懼れだな。だが火星にはラブドールは、ないから、私には良く分からないな。君の体は十分に鑑賞した。それでは。貴美さん、行こうか。」
「はい、そうした方が、いいみたいですわ。」
二人はラブドールには見えない女性(!)を、そのままにして、部屋を出た。
火星人バリノとしても、ラブドールよりは目の横にいる城川貴美の方に興味がある。貴美も処女である気がする。さすれば、わが男根を貴美のヒーメンに貫通なさせしめば、彼女は我に従属せん、とは前時代的な発想であろうか。さは、さりながら、かなり昔の日本のAVですら処女喪失をAV男優と、という例はある。それはバリノも日本の歴史として火星の学校で、『日本AV史』の講座で受講した。
そうだっ!とバリノは考えつく。今まで日本のAVは火星に密輸という形が黙認されてきたが、関係各庁に連絡して許認可事業として始めよう、火星での日本のAV販売を始めるのだ。
だが餅は餅屋、AVはAV屋だ。それに火星には地球にはない、すごいものがある。それを輸出してみよう。それは、そのうち明らかにするが。
AV屋については、すぐに解決する。バリノの知り合いの若い医師は日本のAVを持ちうる限り、持っている。とはいえ、ほぼ、ほぼ、過去のものになってしまうのは致し方ない。貴美はバリノを見て、
「ぼんやりしていますわ、バリノさん。あそこの長椅子に腰かけると、無料で花火が見れますわ。」
「あっ?ああ、そうだね。ゲームセンター内に大きな池があるなあ。あの池の向こうに花火が見えるのか。」
二人は並んでソファのような長椅子に座って、疑似夜空を眺めた。バリノの思考は先ほどのAV好きの医師、ミタリーに戻っていく。
火星ではAVなどは作られていない。それは火星人男性が聖人君子だからではなく、火星人女性の数が多いのだ。それで一夫多妻を認めているが、それでも、そう何人でも妻には出来ない。そのような事情から火星では性産業は皆無に等しい。
そういう中で独身医師ミタリーは地球の医者と違って経済力もない。そのため、結婚もしてない、それが百五十年も続くとなると地球の、それも特に日本のAVに興味をエベレスト山のように持っても不思議な事では、なかろう。
そんな医師ミタリーをバリノは、自分の医院で働くように誘ったが、ミタリーは、
「独立開業医の方が自由だから。それに親の遺産で、あと百年は自分の食い扶持なんて持っていますよ。暇な時は日本のAVを見て右手を動かしていますし。」
とスッキリした顔で答えるのだった。ミタリーは美形の男性、日本の格言に「色男、金と力は、なかりけり」に該当するわけだが、火星には女性が多いため、プレイボーイでもある。それに飽き足りずに、余暇は日本のAVで、というわけだ。少々古いとはいえ、日本のアダルトビデオ、アダルト動画に該博な知見を所有する医師、ミタリーである。妹がミタリーにはいて、ミタリーナという。関西弁の「見たりーな。」とは発音が似ているとはいえ、英語と日本語の発音以上に相違はある。だから関西弁で「ミタリーナ」とミタリーの妹に云っても通じないであろう。
ミタリーナも独身の美女だ。西欧の美女を百倍位綺麗にすると、ミタリーナとなる、そういう形容で想像されたい。目の色は緑色、それは兄のミタリーも同じだ。
バリノはスクリーンに映る花火を見つつ、
(ミタリーにラブドール・キミの事を教えてやりたい。)と思うのだった。
 花火は立体的なものとはいえ、火星の映像技術に比べれば、つまらないもの、なのでバリノは、アレを日本に火星から輸入する事を考える。(ミタリーは妹も一度、使った事がある、と言ったな。それについてはミタリーに聞くことにしよう、帰星後に。)数分で火星に戻れるので帰星という表現も何かと思われるが。
 貴美に連れられて美少女ゲームの大型版など、あったがロリコン趣味のないバリノには興味が、なかった。それで、
「もう、いいから、出よう。」
と貴美にバリノは語った。
それでも時間というものは早く過ぎていた。外は冬空で雪が降りそうだ。バリノは空を見上げて、太陽の位置を見ると、
「貴美さん。昼食に行きなさい。私は、あの森林みたいな公園で待っているから。」
と自分の意思を伝える。貴美はバリノをチラリと見ると、
「寒くないですか、バリノさん。アイランドシティ地下街は暖房が強いですわ。それに食事・・・。」
「火星から携帯食を持ってきているよ。地球の食べ物は日本に限らず苦手だ。」
「栄養価が、あまりないからですねえ。」
「それは、そうだな、味覚の違いさ。火星の農作物も進んでいる、という事だ。地球では農業は何千年の昔から、あまり変わりがないだろう。それより、ひとまず君は食事へ行きなさい。」
「はい、一時には戻りますわ。」
 バリノは遠ざかる貴美の背中を見送ると、森林のような公園に入った。火星の樹木より生育の悪いものだ、とバリノは思う。火星では砂漠と森林と、はっきりと対比できる樹木の生息頒布なのだ。
バリノにとっては殺伐とした風景なので、木製ベンチに腰掛け、コートの中からタブレットパソコンのようなものを取り出し、操作する。画面にミタリーの顔が映る。ミタリーにもバリノの顔が見えるらしい。バリノは火星語で、もちろん火星語といっても複数の言語があるのは地球と同じだ。むしろ、地球の言語が火星と同じように複数ある、と言うべきかもしれない。周囲に人もいないので、
「やあ、ミタリー、寝るところじゃなかったのかい?」
イタリア人みたいなミタリーの顔が答える。
「まだまだ、これからだよ。さっきまで急患を執刀していたからね。これから遊ぶんだ。」
「それは、この場合、よかった。地球まで来ないか?」
「空飛ぶ円盤は所有していないんだ。まだまだ富裕層とは言えないからね。」
「私のを貸すよ。私の家へ来て、私の執事に連絡してくれ。執事には私から電話しておくから。」
「そう?それなら、行くよ。バリノさんの地球位置情報は、今もぼくの携帯に出ているよ。日本、かな、それも福岡市東区のアイランドシティの公園だろう?」
「そうだ。日本時間の午後一時までに来れるかい?」
「やってみるよ、行けそうだ。それでは。」
バリノは携帯を切ると、火星の自宅の執事に電話した。
「ああ、ラソー君か。今から私の後輩のミタリーという男が来るから、円盤のカギを渡してくれ。」
「かしこまりました、旦那様。それだけで、よろしいので?」
「それだけだよ。よろしく、な。」
「夜食前の仕事、でございます。速やかにミタリー様、御到着後に実行いたします。」
バリノは携帯通話を止め、ズボンのポケットに入れると、ゆったりとしたコートの中から携帯食を取り出すと、乾燥マンゴーと牛肉、豚肉、鶏肉を混ぜ合わせた乾パンらしきものを食べる。火星にも牛や豚は、いるのだ。ただ、地下で飼育されている為、決して地球からの探査船では見つけられない。火星の地表から大量の水が無くなる前に、火星人は家畜を地下に移動させておいた。それにより、地上で生活する者は地下の家畜の肉を購入する事になる。
もっとも野生の牛、鶏に近い鳥、その他の動物は火星の少ない水と緑のある地帯で生息している。
一時前、五分になる頃、貴美が小走りに公園に戻ってくると、
「バリノさん、お待たせしましたか?」
とベンチに座ったバリノに聞いた。
「いや、待ったほどではないね。」
その時、空から白色の円形UFOが貴美の後ろに降り立つ。バリノには見えたが、貴美は気づかない。それほど音もなく着陸したのだ。
バリノは、にやつくと、
「火星から、後輩が来たよ。後ろを見てごらん。」
と貴美に呼びかける。
振り返った貴美の目に反映されたのは、イタリア人みたいな顔の若い男性と、その背後の着地した空飛ぶ円盤だった。その男、ミタリーは貴美を見て右手を挙げると、
「はーい、初めまして。僕も火星人なんだ。バリノさんと親しいのかい?」
と流暢な日本語で話しかけて来た。貴美は、
「え、ええ、割とですけど親しくさせてもらっています。でも、それはビジネスでの、お付き合いですわ。」
「それなら僕も、そのビジネスの仲間入りをさせて欲しい、いいかい?」
「ええ、もちろんですわ。わたしが力になれれば。」
それにしても、ミタリーの円盤は、あのまま公園に待機させておくのだろうか。ミタリーは、
「あの円盤を空中で待機させておこう。地球人の不可視の光線領域に円盤を置けば、いいから。」
と貴美に分かるように説明すると、ズボンのポケットからリモコンを出してボタンを押す。すると円盤は垂直に上昇して、貴美の目には見えなくなった。2017年頃だって日本の上空には沢山の空飛ぶ円盤が飛行していたはずだ。地球人には見えない形で。
軽やかに動くミタリーを見てバリノは、
「地球の重力は火星の三倍なのに、元気がいいね。」
と感心するから、
「時々、地球に来てますよ。日本は初めてだけど。アメリカでなら、何人もの女と一晩で肉体関係を持てたけど。ん?日本語のモテるっていう言葉、肉体関係を持てる、という意味なのかな。女にモテるというけど。まあ、それより、日本は楽しみだね。日本語は話せるように家庭教師に来てもらったから。日本人のね。」
ある日本語教師の話
 私、東京で外国人相手に日本語教師をしていました。三十代、独身、当たり前ですか、大学の文学部を出ましたけど仕事がなくて。それで日本への留学生やら、外国からの商社マンなどに語学教室で雇われて、日本語を教えていました。給料は高くなく、サイバーセキュリティとかの仕事が花形の世の中、文学部出なんて、せいぜい学校の国語の教師がオチとされています。
マンションの屋上に出て、私は夜空の星を眺めながら、
「どこかに、いい仕事が、ありませんか、神様。」
と懇願するように願ったのです。すると、私の頭の中で、
(いい仕事あるよ、私が連れて行こう。)
と声がするではありませんか。
「えっ、どこです?貴方は神様ですか。」
と尋ねると、
「ここだよ、目の前に現れるから。」
と声がしたと同時に、私の目の前に小型のUFOが出現して、マンションの屋上に着陸しました。
中から現れたのはイタリア人みたいな男性で、
「火星で私の日本語の先生になってくれ、そうしたら、うまいものを食べさせてやるし、いい女も抱かせてやる。」
と励ますように話してくれます。信じられないし、夢かなと思っていると、
「私は神様ではないよ。火星にはね、人間の思考を拾い上げる機械がある。それでUFOの中から、マンションの屋上に一人でいる君を見た。そこでだ、その思考解読機の照準を君に合わせたら、君が(どこかに、いい仕事が、ありませんか、)と願っている事が分かったのさ。」
明快な答えです。それで、
「それなら、どうか、私を火星に連れて行ってください。日本語を教えます。」
と頼むと、
「よし、決まりだよ、円盤に乗ろう。」
と誘われ、火星に行きました。そこで豪華な食事を食べさせられ、いい女、といっても地球の日本人でした、と毎晩、夜の楽しみを満喫して、朝と昼、その火星人が仕事がない時に日本語を教えました。

sf小説・未来の出来事3 試し読み

流太郎は康美と会えるのを忘れていた。服を全部脱いで、湖面に飛び込む。バシャーンと音がして、全身、流太郎は湖水に浸(つ)かった。
その音に気付いたのか、あの白人美女人魚が水中を進んで流太郎に近づいてきた。白い両手を伸ばして流太郎に抱きつき、キスをした。
三十秒も水中でキスをしていると、流太郎には息が苦しい。それを見た人魚は上へと進む。湖面の上に顔を出した二人は、まだキスをしていた。それを見たソリゲムとセロナは、ニコニコとする。
やがて人魚は唇を離し、くるっと背中を向けた。流太郎が右手を伸ばすと彼女の女性器に触れてしまったのだ。
美女人魚は右手を後ろに伸ばして、流太郎の上を向いた男性自身をつかむと、自分の肉厚の女性器へと引く。流太郎は後ろから彼女を抱く。二人は水中で結びついてしまったのだ。
流太郎が、ぎこちなく腰を動かすと美女人魚は背中と頭部を反らし、せつなげな声を洩らした。
流太郎が液体を放出するまで三十分は持った。
ソリゲムとセロナは黙って、それを見ていた。
流太郎の両手は湖水の下で彼女の乳房を、揉んだり、掴んだり、又、彼女の白い大きな尻を掴んだりもしたのだが、湖上のソリゲム達には、それは見えない。
人魚美女のピンクの乳首が硬く尖るのも、見えなかった。
流太郎の小さな分身が勤めを終えて、元の大きさになると美女人魚は彼を離れ、裸身を反転させて流太郎にキスをする。唇を離すと、
「アナタ、ステキデス。アナタノ、ジュニアモ、カタクテ、イイ。モシ、ヨケレバ、アナタモ、ニンギョニナッテ、ワタシト、クラシマセンカ。マイニチ、ココデ、イマイジョウニ、タノシメルカラ、ネ?」
と日本語で話した。流太郎は彼女の白い肩を抱いて、
「日本語が話せますね。アメリカの人でしょう?」
「そう、わたし、日本に留学したのよ。おじさんが日本からアメリカに帰化した人。」
流太郎は、でも、・・・と躊躇する。それは、そうだろう。人魚になるには勇気が、要(い)る。それで、
「人魚になるのは、できるか、どうか。でも、ぼくには今のが初体験でした。」
と告白すると、青い瞳で美女人魚は流太郎を見つめ、
「そうだったの。チェリーボーイを卒業させてあげられて、わたしも嬉しい。わたしの住むところ、洞窟の中にあります。来ない?」
「どうかな、」
と答えてソリゲムの方を向き、
「ソリゲムさん、まだ、時間、ありますかー?」
と聞くと、ソリゲムは、
「残念だけど、別の場所も君に見せたいんだ。男にも、なったし、又、ここに来ることもあるよ。美人さんには、そう言って、って、聞こえましたか?日本語、分かるでしょう。」
美女人魚は微笑むと、ソリゲムの方を向いて、
「それでは、しばしの、お別れです。又、会いたい。」
名残惜しげな顔をして、湖水の下に姿を消した。

 車に戻った流太郎は、服を着る。セロナは冷静に流太郎の股間のモノも眺めていた。
白鳥の車は湖面から飛び立った。今度は、何処へ行くのだろう。

 流太郎が連れられて来た火星の国は、広大な国土を持つようだ。それが、どうも地球からは見えない火星の裏側にあるらしい。白鳥の車は地球で謂えば赤道直下の地帯に飛行中となったらしく、熱気が漂う。山の中腹に温泉らしいものが見えた。ソリゲムは流太郎に、
「さっき、裸になったけど、今度は温泉だよ。又、脱いでいいから。」
と無責任そうに呼びかける。
眼下に見える温泉は直径二十五メートル程の、大きな温泉だが、誰もいないようだ。流太郎は、それを眼にして、
「誰もいないようですね。」
と声に出すと、ソリゲムは、
「だって、今日は平日だからね。それに交通は不便なところだし。というより最寄りの道路からでさえ、徒歩三時間だよ。乗り物なしに来る火星人は、いないよ。」
と事情を語った。
白鳥の車は、その温泉のすぐそばの野原に降りた。車を出れば一メートルで温泉に入れる。ソリゲムは流太郎に、
「疲れただろう、この温泉は体に、いいよ。」
と運転席から振り返って言う。
「さっき、湖に入ったばかりだし・・・。」
と、ためらう流太郎。温泉というよりプールみたいだ。セロナが勇気づけるように、
「誰もいないし、わたし達の目は気にしなくていいから。」
と云うので、流太郎は、
「それでは失礼しまして、裸になります。」
と答えると車を降りて服を脱ぎ、温泉に浸かった。
ザポーン、と音を立てて湯の中に入ると、膝を曲げて尻が湯の底の土に届く。
地球の温泉より、ぬるめの湯加減だろう。硫黄の匂いみたいなものは鼻に感じられた。火星で温泉に入るなんて・・・と空を見上げた流太郎の目に小さな円盤が見え、それはグングングーンと大きくなると白鳥の車の横に急降下して着地した。
ソリゲムとセロナは少し驚いた風だったが、円盤内から初老の老人の火星人が出てくると、口を並べて、
「ダリモ部長!」と呼びかけた。その人物の後ろから、地球の日本の京都の舞妓の衣装を着た若い女性が、日傘をさして降りてくる。
ダリモ部長はセロナとソリゲムに、
「おはよう、もうすぐ昼だがね。ああ、ロケハンか。あの青年だろ、今回のドキュメンタリーの主役は。」
とニヤニヤっとしながら、流太郎を見る。流太郎はドギマギビクリ、とした。ソリゲムは、
「そうです。今日は部長は、お休みと聞きましたが。」
「ああ、休みさ。だから君達に指示は、しない。日本の芸者を連れて来ている。」
それは流太郎には見るだけで、分かる。京都の舞妓に見られるような髪型、に簪、白粉に口紅、で彼女の目は黒目が大きく人形のように均整が取れて、紫の着物を着ている。彼らも温泉から一メートルの距離だ。流太郎は湯の中とはいえ、透けて見えるかもと股間を両手で隠す。ダリモ部長は、それを見ると、
「霧乃、おまえも温泉に入りなさい。」
と舞妓に話す。霧乃と呼ばれた、その舞妓は嬉しそうに、
「はーい。脱ぎますわ、全部。」
と答えて、シャン、シャン、サラサラ、と着物をすべて外した。雪景色のように白い裸身に、簪も外して長く垂れている黒髪、それと同じ色で少し縮れた足の付け根の陰毛、丸く、横から見たら上を向いたような乳房と乳首、が印象的で彼女は全身、どこも隠さないままで流太郎の近くに、パシャ、パシャ、と湯の跳ねる音をさせて近づく。
流太郎は舞妓の全裸など見た事もなく、彼女の体から、ほんのりと甘い香りもしてきて陶然となるのだが、霧乃は流太郎の正面に脚を横にして座ったのだ。透明な湯なだけに、霧乃の乳房は透けて見える。流太郎は勢いよく自分の股間の分身が立ち上がるのを感じた。それを見る霧乃は微笑むと、
「手で隠さなくても、いいでしょ。わたしも何も隠さなかったんだから。わたしの下の毛まで見たくせに。」
と、甘く詰(なじ)る。
流太郎は観念したように両手を離した。雄々しい竿が湯の中に立つ。霧乃は眼を更に大きくして、
「太くて長いわ。早く頂戴。」
霧乃は両目を閉じて、両手を流太郎の方に差し伸べた。流太郎は彼女に、にじり寄り抱き寄せて接吻を開始した。霧乃の柔らかい手の指が流太郎の背中に回される。
霧乃の白い太ももは、湯の中で大きく開かれていた。流太郎は霧乃の大きな白い尻を抱えると持ち上げて、胡坐(あぐら)をかいた自分の太ももの上に降ろす。二人の性器は湯水のなかで結びつく。
口を開いた霧乃は自分で腰を動かしている。ぴったりと抱き合った二人は、流太郎が自分の胸の上で霧乃の大きな乳房が乳首と共に、形を崩すまで押し付けられているのを感じるほど密着している。
太陽は灼熱の光を二人に注いだ。それをエネルギー源としたのか、二人は一時間も結合していたのだ。
セロナは火星語でソリゲムに、
「すごいね、あの二人。」
と話す。ソリゲムは、
「カメラは、もう回し始めているから大丈夫だよ。」
「この部分もノーカットでいくのね。」
「そうしないと面白くないだろ。さっきの美女人魚との性交もカメラに入れているから。」
「時って童貞じゃ、なかったのかしら?」
「その分、エネルギーがあるね。」
ダリモ部長も感心して二人の結合後の動きを見ている。ダリモ部長、ソリゲムとセロナ、と横並びで温泉の中の二人の愛交を見ているのだ。霧乃の方が積極的に動き、自分で赤い舌を出して流太郎の唇の中に挿し込んだり、流太郎の両手を導いて自分の大きな柔らかい乳房を揉ませたりしている。
流太郎も火星人三人に近くで見られている事も、忘れてしまった。霧乃の方は見られても平気なようだ。それは・・・

 ダリモ部長が京都の舞妓、霧乃を身請けして火星に連れてきて半年になる。その間、ダリモ部長は霧子に指の爪先すら触れない。広い邸宅内から霧乃を出さない。娯楽の映像ですら男性の写っていないものを見せる。
京都で毎日のように男性に接していた霧乃は、性的に臨界点に到達していた。年齢は二十二歳、経験した男性は三人ほどだが、その男性は、それぞれ霧乃の旦那の時、毎日、朝と晩、霧乃と性交していた。
一人の旦那と終わっても、三日もすれば次の旦那が出来る。舞妓として座敷に出て、家に帰る、そこは旦那が購入した2LDKの高級マンションだ。だから十九の歳から、盆も正月も休みなく旦那が霧乃と愛交するほど彼女の裸身は素晴らしかった。
三人の旦那から、あらゆる体位で交わられ、時には二時間も続く事もあったのだ。二十二歳になった時、旦那の事業が不振になった為、霧乃は妾というか愛人をやめた。そこに現れたのが火星人のダリモ部長だったのだ。
愛人契約と云っても二人の間で決める事で、斡旋者が、いるわけではない。
古風な日本建築の広い座敷で、ダリモ部長は傍にいる霧乃に、
「君を不思議なところに連れていきたいんだがね。」
と持ち掛けた。
「不思議なとこって、どこどすの?」
「日本じゃないとこさ。」
とダリモ部長の日本語はセロナやソリゲムより巧い。
「ほな、アメリカどすか?」
「さあねえ、眼をつぶって、ご覧。」
「はいな。」
霧乃には既に一億円ほど渡してある。座ったまま眼を閉じた霧乃の横を抜け、ダリモ部長は座敷の庭園に面した廊下に立つと、携帯電話のようなものをズボンのポケットから出すと、
「準備完了。来てくれ。」
と命じた。すると三秒後には庭園の真上、十メートルの高さに空飛ぶ円盤が現れ、青い光がダリモ部長と霧乃を包むと上空の円盤内に引き上げた。見る人がいたとしても、青い光だけだろう。現れた円盤といっても人間の目やレーダーには映らない防護波で守られている。おまけに青い光ですら人間の目には透明に見える。
かくして円盤内に移動したダリモ部長と霧乃だが、ダリモ部長が、
「もう、眼を開けて、いいよ。」
と云うのでパッチリと眼を開いた霧乃は、
「ま。宇宙船みたいやわ。もしかして、空飛ぶ円盤どすか、ここ。」
思ったまま、を云う。ダリモ部長は、
「ああ、鋭いね。そうさ、私は実は火星人なのだよ。」
霧乃はクス、と笑うと、
「そんなの冗談ですねー。でも、誰も、うちの体、触らんのに不思議やわ。」
と真顔になる。ダリモ部長は笑顔で、
「火星に着けば、信じるよ、霧乃。」
と話すのだった。

 火星に着いて、あちこちに連れていかれれば、霧乃も信ぜざるを得なかった。夜になっても空には地球は見えないのでは、あったが、それは地球からは見えない裏側の火星だからだ。
三人の旦那に愛撫され続けた霧乃の体は、どうしても男性を求めてしまうのだが、ダリモ部長の気を引こうとしても通じなかった。
そんな時、温泉に連れていかれて裸の流太郎を見た時、彼に抱かれたいと思い、行動したのは不思議ではない。
三人の旦那は避妊具を着けていたが、流太郎は、そんなものは着けていない。それだけに強烈な快感を霧乃は覚え、(ここが火星の温泉だなんて)、と思いつつ、流太郎が終わった後でも、両脚を流太郎の腰に挟んで、しばらく離さなかった。そして流太郎に自分から接吻した。
長い二十分の口づけが終わると流太郎は三人の火星人に気づき、霧乃から離れて立ち上がると、ソリゲムに、
「このまま、いたら、お湯で府焼けてしまいそうです。」
と少し恥ずかし気な顔を見せる。両手で股間は隠しては、いるが。ソリゲムは、
「もう昼だから食事にしよう。日本風に弁当を持ってきている。ダリモ部長!部長は、どうされますか。」
ダリモは、
「わしらは円盤内で食べるよ。霧乃、着物を着なさい。」
と娘に話すように湯の中に座っている全裸の彼女に話しかけた。
彼女の顔は性の陶酔を味わった後の顔だが、
「はい、ただいま。」
と舞妓らしく答えると、ザブンと音を立てて白い裸身で立ち上がって、温泉を出ると着物を着ていった。

 白鳥の車の中で弁当箱を貰った流太郎は、その弁当が日本の四倍もある大きさなのに驚いた。開けてみて、更にびっくりしたのは、蓋のあるカップの中で小さい魚が泳いでいた。流太郎は、
「この魚、生きていますよ。食べられますか。」
と声を発した。セロナは、
「その液体にも味付けがしてあるし、魚は生きたまま食べるのが一番栄養があるのだからね。」
と説明すると、彼女はスプーンみたいなもので、その小魚を掬(すく)い、食べてしまった。流太郎も、それに倣(なら)う。うまい、喉の中を生きた魚が下っていくのは、白魚を想起させた。
流太郎は何とか食べ終わり、
「ご馳走様です。四食食べた気がします。」
と謝意を発言したら、ソリゲムは、
「よーし。少し休んで、これからゲームセンターに行くよ。」
と話した。流太郎は、
「屋根なしの車だと、いきなり雨が降ったら困りませんか。」
と訊いてみる。ソリゲムは、
「火星のこの地方は、滅多に雨が降らない。降ってきたら屋根は出せるよ。そうでない時は日光浴にもなるし、車の屋根は出さないね。そろそろ、行くか。」
セロナは、うなずき、
「行きましょうよ、ゲームセンターに。」
白鳥は羽根を羽ばたかせ、車は上へと上昇した。

 やがて郊外のゲームセンターみたいな所の駐車場らしき場所に、白鳥の車は降り立った。平日のゲームセンターらしく、人、というより火星人の客は、何処にも見えない。
入場する時もセロナが会社から貰っているというクレジットカードのようなものを改札口みたいなところに通して、三人が入った。もちろん、改札口で三人分とボタンを押す。では、五人でも三人分を押せば、と考える人間は火星には、いないが万一、というより億一、そんな場合のために入り口にはセンサーがあり、地球の自動ドアが開くように、三人分は三人しか通れないようになっている。
ゲームセンターの中は、華やかな照明で地球の野球場の広さはあるゲームセンターとしては、広大なものだ。
何と宿泊施設まである。火星の連休ともなると、泊りがけでゲームをしに来るらしい。
セロナは流太郎にクレジットカードのようなものを手渡し、
「これをゲーム機の前で改札口のように入れれば、いいから。一人で遊んでいて、いいわよ。」
と日本語で話した。
流太郎はキラキラとした照明で気分が高揚していたので、ボーリング場のようなところへ入る。一人ずつ入る広さのもので個室ボーリング場らしい。そこに入ると、地球のボーリング場そっくりだが、レーンの先に立っているのは美女人魚が十人、もちろん人形だが並んでいる。しかも上半身は全裸なので乳房も顕わだ。
流太郎はボールを取って、人魚ピンに向かって転がした。よく見ると金髪の陰毛まで見える。当たった!ストライクだ。全部の美女人魚が仰向けに倒れた。スコアを点ける人が、いない?そんなものは、デジタル画面に記録されて表示されている。
火星のボウリング場は、その点でも地球とは比べ物にならない。因みに、であるが流太郎は男性専用ボーリング場に入った。女性専用のボウリング場は、どうなっているのか、というと、全裸の金髪男性の人形がピンで並んでいる。しかして、その美男男性の股間のモノは堂々と、ぶらさがっているではないか!
しかも、それは女性が投げたボウルに当たると、ブラブラと睾丸及び陰茎が揺れるのだ。倒れないピンも美男金髪の性器の揺れを眺めて、女性ボウラーは満足する。
倒れてしまっては性器も横倒れになるので、すべての金髪全裸男性のピンを倒さず揺らすように試みる女性まで、出てきている。このようなボウリング場ではあるが、地球とは違って未成年者も出入りできる。
流太郎は、それほどの結果は出せなかったが、全部のピンが毎回倒れるより、全裸の金髪美女人魚の人形が残っている方が、面白かったのだ。
ボウリング場内には案内の火星人女性が、受付にいるが、それ以外は無人の施設だった。
そこを出ると、ゲームセンター内に戻る。歩いていると、地球のプリクラ撮影機のようなものに気づいたので、流太郎はクレジットカードらしきものを入れて料金を払い、中に入った。中はプリクラ撮影機の倍は広い。火星語は分からないので、緑色のボタンを押すと、流太郎の頭にシャワーのように光線が降った。すると!
座っている流太郎の横に幽霊よりは鮮明に、亡き父親が現れたのだ!
横にいる気配に流太郎は、横目で見て、
「父さん、父さんじゃないかっ。」
と横を向く。
三年前に死んだ父親の流一が、そこに立っていた。
時・流一は機械工学を専門とする技術者で、コンピューターを専門領域としていた。流一は息子の流太郎を見下ろすと、
「ああ、そうだよ。霊界から来たんだ。その機械はね、今、会いたい人、それも死んだ人を呼び出せる機械なんだ。今のところ火星と金星にあるんだが、地球には勿論、ない。そこで、我々地球人には無縁だった。霊界にいてもね。今回、私が初めてだろう、火星に呼ばれた日本人の霊界からの登場は。」
と語る。
流太郎は、かねてから訊いてみたかった事を尋ねる。
「父さんの死は謎めいていた、と母さんから聞いたけど、本当は、どうなんだろう。」
流一は回顧する。
「ああ、私は殺されたのさ。それも私の友人に。」
「ええっ、それは一体、誰なんだよ。僕は知らないと思うけど。」
「そうかもな、ただ、名前は言うよ。城川康一という会社の社長だ。」
電撃が流太郎の脳内を駆け巡る。
「城川・・・康一。もしかして娘の名前が康美とか・・・。」
「そうだよ。知っているのか、彼を。そして、彼の娘を。」
「ああ、もしかして同一名で違う人達かも、しれないけど。」
「北九州の人間だよ、彼は。」
「それなら、間違いなさそうだ。でも、どうして・・・。」
「それは城川康一の妻である女性はね、元は、私の恋人だったのだよ。城川は、それを自分の彼女にしたがった。が、なびかない彼女を諦めさせるために、私を殺した。」
そんな事・・なら城川康美は殺人者の娘、なのか。
「ひどい話だけど、父さん、城川を恨んでいないか。」
と流太郎は聞く。
父の流一は穏やかな顔で、
「いいや、もう、どうでもいい話だよ。父さんはね、あの世で豊かな暮らしをしているんだ。それに送ってくれたのが友人だった城川さ。だから、もう、いいんだ。」
「うーん、そんなものかね。」
「そんなものさ、他に何か聞きたい事は、あるか。」
「そうだなあ、何もないわけではないけど、聞けばショックを受けそうだし。」
「そうだなあ、霊界の事は知らない方が、いいよ。では元気で頑張れよ。」
「ああ、そうするよ。では、又、いつか。」
父の流一の霊体は消えた。
 流太郎は座席を立って外へ出る。ソリゲムとセロナが並んで立っていた。ソリゲムは、
「君に渡したクレジットカードには、位置特定機能がある。地球のGPSより優れたものだけど、このように広い場所では役に立つね。時刻は夕方になった。もうすぐ日没だから、ここを出よう。」
と話す。
ゲームセンターを出て、白鳥の車に乗ると再び空に舞い上がった。
 
 空から見てもホテルのような建物の屋上に、白鳥の車は降りる。屋上駐車場、という外観だ。ソリゲムを先頭にセロナ、流太郎の順でエレベーターのようなもので階下に降りる。階数表示は火星の数字のため、流太郎には見当がつかなかった。
直ぐに開いた扉から出たら、そこが、そのホテルのラウンジだ。受付のホテルマンも二人、背広に似たものを着て立っている。ピンク色の背広だ。地球の白人より色白の肌で、身長は二メートルほどだろうか。流太郎は自分が小さく感じられた。ソリゲムとセロナも二メートルはある背丈だ。

SF 試し 読み sf小説・未来の出来事2

 火星の美女検査官エスノの前に、天井から一人の全裸の美女が降り立った。エスノと、ほぼ同じ身長なので流太郎にはエスノが見えなくなり、全裸の金髪の美人を見てしまうのだ。
白い肌、豊かな胸、体の中心にある金色の恥毛の下には縦のスジ、が、ありありと流太郎には見えた。女神のようだが、生身の人間で、しかも彼女は微笑を浮かべて流太郎に近づいてきた。
流太郎は抵抗できずに立ったまま、自分の男の肉筒も天井に向けてしまったのである。
エスノは、うっとりと流太郎の突起したものを見て、
「合格よ。その女性は天井から投射された映像なのね。」
と解説すると、パネルのスイッチをひねる。
すると、すぐに流太郎の目の前の金髪の全裸美女は幻のように消えてしまった。
それでも流太郎の勃起状態は持続していた。エスノは備え付けのマイクに向かって、
「メレニさん、お入りください。」
と呼びかける。
ドアが開いてメレニが入ってきて、流太郎の全裸、および元気横溢した股間の男の棒を眺めると、
「まあっ、素敵だわっ。」
と火星語で思わず叫んだ。メレニは両手を自分の両頬に当てて、しばらく流太郎を見ていたが、一向に衰えない彼の勃起に感心して両手を両頬から外すと、流太郎のそばに寄り、彼の長くなったものを優しく握ったのだ。
流太郎は自分の硬直したものに触れたメレニの右手の柔らかさに、射精してしまいそうになったが、その流太郎の歯を食いしばった顔をメレニは見て、
「こんな事で、出したら駄目よ。」
と話すと手を離す。
メレニはエスノに、
「彼のものを元に戻して。」
と催促する。エスノは、
「はい、それでは。」
とパネルの他のボタンを押す。
すると今度は天井から、筋肉ムキムキっとした海水パンツ一つの男性が降りてきた。
と、途端に流太郎の勢いよく天井を向いていたものは、だらりと萎えてしまったのだ。
メレニは満足げに、
「これで流太郎はゲイではない事も証明されたわ。ありがとう。」
と白衣の美女検査官エスノに感謝して、その検査は終わったのだった。
 あとは下着と服を着た流太郎はメレニに連れられて、区役所の戸籍受付みたいなところへ行き、登録用紙にメレニが火星語で所定の項目を記入すると係にカウンター越しに渡す。
それを受け取った中年男性らしい火星人は、用紙と流太郎を見比べて火星語で、
「ああ、結構です。逞しい男性ですね。検査の結果は未婚男子で性的経験は、なし、となっています。」
メレニは少し驚いて、
「まあ、完璧な童貞なのね。まあ!」
「今時の地球人には珍しいでしょう。それだけに精子の状態も良好のようです。」
「そんな事まで、分かるのかしら。」
「ええ、最初に浴びせた光線から判定できるのですよ。もちろん、地球人女子の判定もできますが、メレニさんは今回は、この地球人男子だけを所有希望なのですね。」
「はい。今のところ、地球人女性まで手に入れられるか、どうか・・・。」
「よろしい。それでは手続きに入ります。」
中年火星人は用紙を機械に入れた。二秒もせずに別の所からプラスチックに似たカードが出てきた。それを役人は手に取ると、メレニに渡して、
「地球人所有証明書です。万一、この地球人が誘拐されでもした場合、あるいは行方不明の場合は、この証明書を近くの捜査機関に提出してください。」
「分かりました、ありがとう。」
メレニは流太郎の所有証明書を手にすると、ズボンのポケットに入れた。火星では女性はスカートは履かない。それは火星の重力の関係だ。つまり、風が吹いてスカートが、めくれ上がった場合、そのスカートの元に戻る時間は地球の三倍は、かかるためである。

 地球では。南極の火山、エレバス山(標高3794m)が大噴火した。それと同時に周辺の火山も山の頂上から火柱を噴き上げ始めた。
南極を覆う厚い氷は解け始め、海面の水位は上昇した。
それらの海水は、世界の海辺の都市を目指して流れて行った。
ニューヨーク、東京、その他、多くの都市では津波が襲った。
「うわあ、津波だあぁぁぁっ。」
「逃げろー、というより逃げている。」
この南極の火山爆発は世界中にニュースとして、たちまち広まったので世界の臨海都市の住民、ビジネスマンらは一早く、逃亡して避難していた。
その日の世界の株価は大暴落した。

 火星では、パリノ・ユーワクがパソコンに似た画面を見て、
「よおし、大成功だ。地球の康美に電話するか。」
と独り言を云って、携帯電話を手に取ると、耳に当てて、それから手を離した。すると不思議や、不思議!携帯電話はパリノ・ユーワクの耳元で空中に浮いているでは、ないか!!!

これは反重力に、よって浮いているのだ。ちょっと火星でも高価な携帯電話では、あるのだが富裕層のパリノは手にできる代物だ。
空中に停止している携帯電話のボタンを押すと、一つ押すだけで康美に電話は掛けられた。
地球の康美は携帯電話が鳴ったので、手に取って、
「もしもし、パリノさん?」
「おーう、康美か。きのう、日経平均を売っただろう、私に言われた通り。」
「はい、パリノさんの株式取引口座の三百億円分、売りましたけど。」
「今朝から世界中の株価が暴落中だ。日経平均も下がっているはずだが・・・。」
「見てみますわ、パリノさん。」
康美は自室のパソコンを起動させ、未来証券のパリノ名義のオンライン講座を開いた。
株価ボードには日経平均が五万円から四万円に向かって暴落中だ。ストップ安、なのだ。康美は、
「日経平均はストップ安です、パリノさん。」
「それは火星からも見えるよ。買戻しは、まだ先だ。儲けの三割は康美君、君に上げるから。」
「うわあ、それで一生、暮らせます。嬉しいな。」
「何々、これしきはね、序の口という奴さ。今後も、私の株式口座で取引してもらいたい。ついでにFXも。」
「そうだわ、FXも、やってみたかったんです。」
「通貨は、こんな天災では変化は、ないんだが。他の要因では大いに変動する。一ドル50¥だろ、今。」
「そうですね、あ、今、49円になりました。」
「ううん。ニューヨークも津波だからね。退避的に円が買われる。」
「でも、パリノさん、何故、南極からの津波が事前に分かったんですか?」
「ははははは。それは、火星から南極の火山を爆発させたのさ。」
ぎょっ、と康美の胸は反応した。
火星から南極の火山を爆発させるとは。なんと恐ろしい火星の科学だろう。それに合わせて日経平均の指数連動ものを売っておけば、いいのだ。特に日本人は臆病だからニューヨーク・ダウより、はるかに株価は下がっていく。
黙ってしまった康美にパリノは、
「なに、僕が爆発させたりは、しないよ。そういう情報が伝わって来た。我が国の機密情報だからね。実は我が国には、株取引省というものが、あって、火星各国の株だけではなく、地球各国の株も口座を数千は開いて持っているのさ。」
なんだか夢の又夢みたいな話だと、康美は思った。

火星のバリノ・ユーワクは会議室めいた部屋で三人に話す。
「既に随分昔から、火星の他の国では主にアメリカ人を地球から連れ去って奴隷として教育し、使っていたりするんだが。他国に干渉しないのが火星の国家間の取り決めで、我が国としては一応、火星に地球人を連れて行くのには同意がいる。それは連れて行った後、でもいいんだ。
我々もロボットを開発は、してきたが、やはり、地球の人間にはロボットにない良さ、がある。ロボットに感情を生み出させるのは、我々、火星の文明でも難しかった。というより、いまだ、できていない。それが地球人の奴隷使用として他国では、行われることにより、ロボット以上の使用感を得られるというわけだね。」
ここでバリノは、三人を見渡した。
黒沢は、
「では、私達も奴隷になるので?」
と聞いてみた。するとバリノは暗闇のランプのような笑顔で、
「いいや、君達にはビジネスパートナーとして働いてもらう。私は医師として、希望を失った日本人に未来への光明を与えたいんだ。」
と地球の方を見るような謎めいた目をバリノは示現した。
籾山は、
「確かに大格差社会となった日本です。世界の工場は中国から東南アジアを経てインド、それからアフリカへ移っています。日本の工業製品は北アフリカで製造され、地中海を渡ってヨーロッパに輸出されています。日本国内は人口が増えたが、就職氷河期どころか冬眠期のようです。ロボットが作業の大部分を奪い、人工知能AIは株式相場のアナリストを失職させました。
証券各社は不必要なストラテジストなる単に口先で生きて、証券取引をしない無能な輩に人件費を払わずに生き延びようとしました。それを行わなかった証券会社は倒産しましたよ。」
黒沢は、うなずくと引き継いで、
「確かに証券会社の解説屋は無能の阿呆ばかりですよ。今ではどの証券会社は人工知能AIに株式市況の解説を、やらせています。」
と力説した。
バリノは目を日の出のように輝かせると、
「ほお。確かに日本の証券不況は証券会社にいた無能な人間によるものも大きいと、火星の日本経済史学講座では教えている。うん、だが、そんな事は、いい。立体スクリーンで君達に見せたいものが、あるんだ。」
バリノはテーブルに置いてあった、リモコンのようなものを手にすると、スイッチを押す。すると映写スクリーンもない彼らの横に、動物園のようなものが映った。
部屋は地球で映画を見る時のように、暗くしているわけでもない。それなのに、まるで部屋の中に動物園が現れたような現出感がある。
しかも、それは映像には見えず、実物かと思えるような立体感のあるもので、馬が映ったが、それは、そこに馬がいるかのようだ。
だが!地球の三人は自分の目に疑問符をつけた。その馬の顔は、なんと!!人間の顔ではないか!
しかも、四本の足のうち、前足の二本は人間の手をしている。とはいえ、その前足の太さは後ろ脚と同じ馬並みの太さだ。その体重を支えるために進化したのか、人間の手とは言え、人間の手の二倍はある。
その馬がヒヒーン、と、いななく代わりに、
「あ、どちらさまか知りませんが、映してもらって、ありがとうございます。」
と人間の顔、それも日本人の顔の口を動かして室内の四人に、話しかけた。
黒沢は心の動揺を制止すると、
「これは一体・・・?!」
とバリノに問いかけた。
バリノは愉快そうに、
「これは日本人の動物園だよ。」
と解答するではないか。続けて、
「もちろん本人の希望と了解のもとに、火星の技術で地球の馬と日本人を合成したのだ。それはウマく、いった、などと洒落にはならんがね。そうそう、なんでも、うまくいくよ。」
籾山は不気味な感慨を持ち、
「人間と馬・・・どういう日本の人でしょう。」
バリノは、
「失業して派遣で働いて、そこも仕事のない男だった。中年前の若者だよ。顔が馬に似ていたので、私が、火星でウマい話があるよ、と誘ったんだ。・・・・・

は派遣労働で働いていたが、ある日、派遣の仕事もなくなってしまった。東京の私立大学を出たが、就職できなかった。彼より優れた人工知能は、いくらでも開発されていたのだ。
営業職は、あるにはあったが彼は話下手で、面接に行けば全て不採用となった。
なにがしかの貯金は、どんどん減る。そんな日曜日に真井は埼玉県秩父地方の山の方へ旅に出る。それは何故・・・彼は、とうとう自殺を決意したのだ。
(生きていても仕方ない。親からの仕送りなんて・・・)真井の両親はブラジルのコーヒー農園で、生涯を終わるまで労働する予定だ。それは日本で借金をして、返済できなくなり、ブラジルで奴隷的に働くことで借金をなくしてもらう契約をしたからだ。
こういった借金返済への救済措置は日本では、進んでいる。特に若い女性の借金返済不能者は、むしろ業者によっては歓迎された。そういった女性は、中国の富裕層が女中として使用する。
 ブラジルの奴隷的労働より、ましのように見えるが、中国人の女中というのは表向きで、彼女たちは夜の労働もある。それは性労働であるのだ。
それが無しには高額な金額を払ってまで、日本人の若い女性を女中として雇うなど、しないだろう。
真井の妹、は両親の借金のために中国の富裕層に売られた。日本の金融業者は契約書に、静未の署名をさせている。
第六条
 雇用主の夜の生活も拒絶せずに、性的要求にも従う事。これに同意なき場合には、雇用者の通告により、南極基地の某所にて複数の男性の性の要求に従事させる。
一定の期間、雇用者との夜の性労働が存立していた場合においては、その拒絶の意思を表示せる場合に於いては、南極へ送致することは軽減され、遠洋漁業者の性生活に労務すれば、宜しきを得る。

 静未は二十歳の男を知らない処女だった。男を知っている処女、という言葉があるとすれば奇妙なもので、女子大の三年生の時に親の破産に遭い、金融業者がマンションの彼女の自室に来た。
「真井静未さんですね?」
玄関のインターフォンが午後の六時に、彼女に呼びかけた。
「はい、そうですけど、どなたですか。」
「こちらは債権の回収をしています。日没金融という会社です。」
「ええっ?わたし、借金なんて、していませんよ。」
「へへへ。あなたがねー、お嬢さん、してなくても、おたくの御両親が借金をしているんだ。」
「そっ、そうなんですかー。でも、返せば、いいでしょ。」
「ふふふふふっ。返してもらっているとか、返せる見込みがある、とかならね、お嬢さん、うちらの仕事は、ないんです。」
「という事は、・・・・。」
「ドアを開けてもらいますよ、早く。」
「でも、・・・・。」
「我々と話をしないなら、あなたの両親は全身を臓器提供して死ぬことに、なるんだけど。」
静未は大きな胸の中を動転させて、
「今、開けますから。」
と答えると、玄関を開けた。
日没金融の男はサングラスをしていた。彼の目に映った静未は、均整が取れて豊かな胸のふくらみと、くびれた腰、少しミニの赤いスカートの大きな横の広がり、肉感的で濡れているような赤い唇、男を蠱惑するような大きな瞳、肩まである長い黒髪を見た。
(こいつは、いけるぜ。上玉、というより超玉だ。おれが先に、いただきたいが商品に傷をつけられねえからなー。紳士的に説得しよう。)
静未は日没金融の男の話を聞き、両親に電話して、その話が本当なのを知ると、自分の身を売る決意をした。
 は妹の静未から携帯電話で、
「お兄ちゃん、わたし、中国の金持ちに売られる事になったの。」
と話を受けた。
「えっ、どうしてだあ。」
「だって、お父さんが返せない借金が、あるんですもの。」
「それで、お前の学費は今まで・・・」
「わたし、キャバクラとモデルをやって稼いでいたの。でもね、体は売らなかったわ。芸能事務所と違って、モデルの事務所は枕で営業は、しないから。」
「そうだったのか。それなのに・・・中国の金持ちに売られるって、体まで要求されるんだろ。」
「そうみたい。でも、仕方ない・・・。」
兄の新太は超絶句した。
「すまん。俺も、何とかしてやりたいけど・・。」
「いいのよ。どうせ、いずれ、わたしも男に抱かれるんですもの。」
電話は切断した。
その日、真井新太は自殺を決断したのだ。
埼玉の山の中ともなれば、人通りもなく、木の枝にロープを巻いて首を吊ろうと新太は考えたのだ。
夕焼けの空が赤い。新太は牧歌的風景の秩父地方を見下ろす山の中腹辺りの大木に、ロープを巻き付け、首を入れた。
その時に!
「待てよっ!」
と男の声がした。新太は、ぶら下がるのを止めて、
(誰だろう?)と、周囲を見渡したが、誰もいない。
と、突然、目の前に直径二十メートルほどのアダムスキー型円盤が、キラキラと輝きを放って出現した。それは停止すると、地面から三十センチのところに浮いている。円盤前部の扉が開いた。それは、そこに扉があったようには見えなかった。
中から日焼けした医者のような人物が、新太の前に少し重そうに歩いて来ると、
「やあ。驚かなくてもいい、といったところで驚くのが当たり前だよな。私はね、火星から来たんだよ。冗談では、ないんだ。地球の重力は火星の三倍は、あるからね。まあ、そのための筋力トレーニングもしているんだがね。地球を歩く時などの。で、だな。とにかく自殺は、やめた方が、いい。」
火星からの男性らしき人物は、新太の首からロープの輪を外すと、
「自殺したかった理由は、円盤内で聞こう。さあ、おいで。」
新太は有難いやら、衝撃的な驚愕などで心を振幅させつつ、その火星人の後に、ついて行った。
新太が円盤内に乗ると、扉は閉まり、そこには扉があったとは見えない灰色の壁が、あるだけだった。
テーブルと椅子が多人数、座れるものが見えたが、なんと!椅子もテーブルも、その脚部の先端は円盤の床面に接していない。つまり、二十センチは浮いているのだ。
火星人はニヤリと笑みを湖水の、さざ波のように浮かべて、
「まあ、かけたまえ。浮いた椅子も初めて見るだろう?」
「ええ、それでは、お邪魔します。」
と答えて新太は火星人の前に腰かけた。テーブルを挟んで、向かい合ったのだ。火星人は先に椅子に座っていた。
円盤の天井から盆に載せられたコップと菓子皿が、スルスルスル、と降りてきてテーブルに載せられると、それを支えていた金属製の手のようなものは上に上がり、天井の中に消える。
新太は、うわあ、夢の中にいるのか、と思ってしまう。しかし、夢でないのは目の前の火星人が明確な日本語で、
「私の名前はバリノ・ユーワク。日本語風に発音している。火星語では君の耳には聞き取れないからね。さっき、円盤内の拡大カメラで地上を見ていた時に、君が自殺しようとしているのを見たんだ。」
と話しかけてくるではないか。
新太は感謝の気持ちで胸を充たして、
「ありがとう、ございました。でも、状況てのは変わらないんですよね。」
「ふむふむ。これを頭につけてくれ。」
バリノはヘッドフォンのようなものを、新太に手渡した。
「ええ、つけます。なんですか、これ?」
と問いつつも、新太は頭に、それを装着した。
「これは、うん。今、見てみるよ。」
バリノはテーブルの上の閉じたノートパソコンのようなものを、開いて起動させた。
そして、その画面を見ているバリノは、
「おお、分かったぞ。君の自殺しようとした原因が。」
と落ち着き払っている。
新太は、
「何故、分かったんですか、バリノさん。」
「いやね、君の頭につけているものは、君の脳内思考を、この地球のパソコンに似たものに電波のような形で転送する。
それで、ここには日本語で、妹は、もうだめだし、自殺したい、という君の考えが出て来たんだ。」
「へえええ?なんという機械でしょう。確かに地球上には、ありませんよ、そんなもの。円盤の中に、僕はいるし、火星の超科学ですか、これは?」
「うん、これはまだ、昔の発明品なんだ。今は、もっと、すごいのが出ているよ。医師の私にも手が出ないものも、ある。それにね、地球でも麻酔薬なんてのは、医者にしか扱えないように、使用許可のいる機械もある。そうしないと火星人にも稀に、悪い奴が、いるしね。
で、という事は、うう?妹さんは、売られるのか?金持ちの中国人に?」
「ズバット当たりです。今晩辺り、抱かれるんじゃないかと思います。妹は肌も白人並みに白いのに、海水浴が好きで、割と日焼けしています。秋には白くなるんですけど、それでビキニを付けたところだけが陽に焼けずに白いんですよ。」
「ほ、ほ。いやに詳しいな。」
「ええ、妹が中学一年生まで風呂に一緒に時々、入ってやったものですから。」
「ははあ、そうだろうな。何、女子大の三年生か。中二ぐらいから、生理が始まるものね。それで恥ずかしくなって、兄の君にも裸を見せなくなったんだな。」
「そうなんです、って、妹に生理が始まったのか、なんて聞けませんけど。それに十八までに妹の胸は、大きくなっていたし、近くを僕が家の中で通っても、ぷるん、ぷるんと胸を揺らせて妹が通り過ぎたりしました。
それに、お尻も大きくて、それを左右に揺らせて歩くんですよ。妹は男と、付き合った事がなくて。それで。」
「処女だというのかね。」
「ええ、多分、そうでしょう。高校三年の夏の終わり、つまり夏休みが終わって学校に行った帰りに、自動車が妹に、ついてきて、車の中から、
『おい、一緒に乗らないかー。』
と暴走族風の若い男に声を掛けられたそうです。妹は走って家に帰ると、ぼくに、その事を話して、
「お兄ちゃん、一緒に帰ってよー。」
と頼んだんです。
妹は部活動をしていたし、僕は部活動はしないで家に帰っていましたから、時間を合わせて妹が校門を出たところで待ってやって、一緒に帰っていたんです。」
「なるほどねー、それで、処女で、いられたのかなー、おお、妹さんの顔と全身が、もちろん大学生の姿で、この火星のパソコンのパネルに映っているよ。ほれ。」
バリノは、画面を新太の方に向けた。