SF小説・未来の出来事10 試し読み

 わたしは答えました。
「二人位ですわ。」
羽目太郎監督は納得した顔をすると、
「ようし、それではアンドロイドを入れてくれ。」
と指示する声に、助手は走るようにしてスタジオの一つの小屋のような場所に行ったの。
小屋から出て来たのは筋肉質の男だった。ボディビルダーのような体。その彼はノッシノッシと私の居るベッドまで歩いてくると、両腕を上げてガッツポーズをしたの。その動きは、でも、何か機械的だったし、彼の目を見るとアンドロイドだと分かったわ。
 彼は私の座っているベッドに腰かけると、
「こんにちわ。ビッグロッドって、いいます。?あなたは???」
「ローネって、いいます。」
「グーテンターク。ローネ。」
「ドイツ語で言わなくても、いいわよ。日本語も勉強したの。というより日本語のDVDROMを私の頭の中に入れるだけで日本語の辞書と文法がインストールされるから。それと会話の文例も可能な限り収録されたDVDROMだから、後は私の脳内で、それを活用できるように記憶するのね。そうしたら、すぐに高度な日本語の会話も展開できるわけ。」
ビッグロッドは驚かなかった。その辺がアンドロイドらしい。顔色一つ変えない彼にローネは、
「驚かないの?ああ、あなたの脳も同じなのかしら、わたしと?」
「いえ、違いますよ。でも簡単な会話なら世界の主要な言語は話せます。」
「あなたは、それでは完璧なアンドロイドなのね。」
「ええ、そうです。私は人間では、ありません。」
ローネは全裸なのだ。ビッグロッドの股間をローネは見たが、少しの変化もない。ビッグロッドの脳内は彼女の裸体に反応していないのだ。これでは『アンドロイドはセックスの時、腰を振るのか?』というタイトルどころか、セックスに移る行動もしないではないか。
 羽目太郎監督が出てくると、
「すまないね。ビッグロッドはセイフティモードなんだ。解除するよ。」
と語ると、ビッグロッドの眉間の部分を右手の人差し指で押した。途端にビッグロッドは「おおーっ。むおーっ。」
と叫ぶとローネに、むしゃぶりつき、彼女を抱いた。みるみるビッグロッドの股間は、膨れ上がっていく。
ビッグロッドはローネに挿入したが、それから動かない。ローネとしても快感が得られないので、
「羽目太郎監督!アンドロイドは腰を振りませんよっ。」
とビッグロッドを上に迎えて抗議した。
羽目太郎監督は、
「すみません、ローネさん。ビッグロッドの尻の上にボタンがありますので、それを押してください。」
ローネが右手でビッグロッドの、その辺りを探るとボタンらしいものがあった。それを指で押すとビッグロッドは腰を前後に振り始めた・・・
と、ここまで語るとローネは流太郎に、
「それで私は絶頂を得られたけどビッグロッドは射精しないタイプの奴だったわ。」
と感想を告げた。流太郎は、
「それでAVの撮影は終わりかい?」
「いいえ、まだあるの。次に撮影したのが『セックスミラー号でイクゥ、ヨーロッパの旅』だったわ。」
「セックスミラー号って、なんだ、それ?」
「マイクロバスの大きさで、そのバスの側面にはガラスが覆ってあるのね。」
「マジックミラーのような物か?」
「それは、そうだけど、常識の逆を行くものなのよ。」
「それは?どんなもの?」
「考えたら、わかるでしょ。それはね・・・
ビッグロッドとローネを乗せたマイクロバス『セックスミラー号』はベルギーの某地方の公園に到着した。羽目太郎監督はバスを降りると、公園にいる人達に、
「セックスミラー号が到着したよー。」
とドイツ語で話した。実はベルギー語は古くから存在しないのだ。公園にいた若い男女の数十人はセックスミラー号の周りに集まった。彼らがバスの中を覗くと、ローネとビッグロッドがセックスしているのが見えた。
「わお、すごいな。中が、丸見えだ!」
「これが噂のセックスミラー号ね。日本人って、大胆。グートなAVだわ。」
と彼らはドイツ語で感想を話す。
セックスミラー号の車内では。ローネは真っ暗な中にベッドに横たわり、ビッグロッドを正常位で受け入れていた。
(外からは誰からも見られないし、安心して快感を感じられる。)
そう思うと彼女は自ら進んで、体位変更していった。
ビッグロッドの男の象徴は二時間は屹立に耐えうる。それは電力により作動しているし、メーカーはより長時間、動作するように改良を続けているというのだが・・・。
いきなりビッグロッドの男の象徴は萎えてしまい、彼もグニャリとして動かなくなった。
「どうしたの?ビッグロッド!?」
とローネは叫声的質問を声にだしたが、返答はない。ビッグロッドは見かけは大きく筋肉隆々に見えるが、体重は、そんなにないのだ。ローネは片手でビッグロッドを自分の脇に追いやり、しぼんだ彼のモノを外した。
セックスミラー号の外で監視していた羽目太郎監督は、慌てて車内に入ってきて、
「電源切れだ。車を移動させるから。服を着て。」
と説明する。
ローネが下着と上着とスカートを身に着けると、セックスミラー号は移動を始めた。羽目太郎監督は少し困惑して、
「予想外に電力を消費したようだな。実はビッグロッドにも人工知能があり、眼で見た女との性の行動については様々にプログラミングされている。よって、だが我々には、その行動は推測がつかないものなんだよ。ローネさんが美人だからビッグロッドは頑張ったんだろう。」
「まあ、そうなのかしら。お世辞がうまいわ、監督。」
「いや、人間の男性もね、美人には早く射精したいという一般的な性行動があるというからな。人工知能と言っても結局、我々人間の思考の反映なんだね。」
ローネは、そういうものかな、と思った。ベルギーの何処ででもセックスミラー号の停車は認められていない。限られている場所でだけ停車でき、裸体から性行為までを認めているという。
その場所は大体、低所得者層の住んでいる場所でセックスミラー号の停車が認められているのだ。つまり低所得者は金銭で性衝動を解決できない場合、性犯罪に走りやすいというところから、無料で見れるセックスミラー号が日本から撮影に来たのを許可したらしい。
・・・
とローネは流太郎に語った。ローネに対して流太郎は性欲を感じなかった。彼は立ち上がると、
「楽しい話だった。それだけで君は僕の役に立ったよ。さようなら。又、会える日まで、ね。」
この流太郎の言葉にローネは何らの異を唱えない。流太郎は部屋を出てフロントでアイジのクレジットカードで会計を済ませた。この国では仮想通貨は消滅しているとアイジから流太郎は聞いていた。
銀行の素早い対応が仮想通貨を絶滅に追い込んだらしい。
外へ出ると流太郎は涼しい季節なのを感じた。ここが地球を遠く離れた場所とは思えない。街路樹も地球と違いは、あまりない緑だし、通行人はヨーロッパの人に見える。もっとも、ここは名称がヨーロッポで、スイツの国なのらしい。日本は陽本(ひほん)という国名なのだそうだ。
商店街のような所に入り、パンを店先で売っているところでホットドッグをクレジットカードで買って食べた。店員は陽気なスイツの若者で白い帽子に白い服なのは地球のパン屋と似ていたが、彼はホットドッグらしいものを包んで流太郎に渡すと、
「はい、メルシーボクー。あ、地球の日本の人かな、ありがとうございます。ここのホットドッグは、この星の犬の肉も入ってるんだー。ぼく少し地球の日本語、話せるよー。」
包みを受け取った流太郎は、
「ほんと、ですか。犬の肉なんて食べれますか。」
「あー、食用に飼育された犬ならね。ほら、あそこの写真。」
と彼は店内に飾ってある写真を指で示した。そこには豚のように太ったブルドッグが写真になっていた。
 ホテルに帰るとアイジは、いた。流太郎に優しく、
「ホットドッグを食べなさいよ。わたしはインスタント・ビフテキを食べたから、いいわ。」
「インスタント・ビフテキですか?豪勢ですね。」
「地球のカップ麺と同じく安いのよ。他の惑星に別荘を買いたいから、それとダイエットを兼ねて安いものを昼は食べてるのよね。」
「ホットドッグだと、よく分かりましたね。」
「それは犬の肉の匂いがしたからよ。」
「なるほど、そうですか。鼻が良いな。それでは、いただきます。」
流太郎は包みからホットドッグを取り出して食べた。
牛肉とも豚肉とも違う味で、さすがに犬の肉は、この味かと分かる。
ソファに座ったアイジは、
「まあ、座って食べたら、いいのに。でも、何か働きに行ってもらうわよ。そうしないと、あんた、わたしのヒモになってしまうわ。」
流太郎はアイジに向かい合ったソファに腰を降ろすと、
「もちろんです。でも犬が豚みたいに太れるなんて妙ですね。」
と質問する。
「それはね、豚のDNAを犬に注入すれば、いいの。遺伝子操作は、この星では地球の比ではないから。」
「うん、そうですか、おいしい。働きに行きますよ。でも、何処へ行けば、いいんです?」
「AVパラダイスに行けば、いいわ。そこの社長、わたし知ってるの。何度か仕事も、させてもらったしね。」
流太郎は、(AVパラダイスという会社の話はアンドロイド・ラブドールのローネから聞いている。自分が、そこに働きに行くなんて。でも、いいか、それも。)
アイジのヒモになんか、なりたくない。そんな思いが彼の脳内でデモ行進していた。で、もって、
「行きます。ぼく、やります。AVDD!」
「AVDD!って何の略語?」
「AV出ます、出します、の略語です。」
「そうね、いっぱい出す事になると思うわ。ホットドッグでは精が、つかないわよ。あんたが一人前になるまでに、わたしのクレジットカードを貸してあげる。それで精のつく食べ物を食べなさいよ。」
という事になり、流太郎は昼からAVパラダイスのヨーロッポ支社に赴(おもむ)いた。受付のアンドロイドの若い女性が流太郎を見るなり、
「時さんですね。社長が、お待ちしています。エレベーターで最上階に行ってください。エレベーターは、あちらにあります。」
と右手の白い指を揃えて手のひらと共に、エレベーターの方角を示した。
 流太郎が乗ったエレベーターが開くと、社長室の扉は開いていた。流太郎が一歩、社長室に入ると、社長と羽目太郎監督が、いた。社長は目を輝かせて、
「いよう!時流太郎君だね。初めまして。うちにねー、スポンサーが、ついたんだ。インターネット動画の方でね。ヨーロッポの製薬会社、まあ、言ってみれば性薬会社というか、性の薬を作っているんだね。それ一本でヨーロッポの各国の株式市場に上場しているよ。それだけに固い会社なんだが、男のアソコを硬くするのが使命の会社さ。
AVにスポンサーが、つくなんて地球ではないだろう、え?時君。」
アイジに時の出身星まで聞かされたのだろう、社長は、と思いつつ流太郎は、
「スポンサーが、ついたのならAVは無料で動画配信される、という事ですね。」
「そうなんだよ。驚きだろ?AV生活三十年のオレだけど、こんな事が実現するなんて・・・もう、嬉しくって・・・。」
社長は顔を少し下に向けると感涙を眼に滲ませる。羽目太郎監督は、
「社長、いよいよ、これからですよ。カイザー社ですもんね、スポンサーは。」
と励ますように云うと、社長は、
「ああ。ドイツ語読みでカイゼルなんだ。地球でもドイツは、あるだろ?時君。」
流太郎は、うなずくと、
「ありますよ。地球ではヨーロッポ、いや、ヨーロッパの宗主国なんですが、ベルギーをEUの中心都市に置いて、自分達の国には置かない。ギリシアは永遠の貧困国で、それを巻き込んだユーロで通貨安を成り立たせている。これは計らずしてドイツに有利になったでしょう。」
社長は、
「そうだろうねえ。この星でもスイツ以外は、国名は地球のヨーロッパと同じでね。アフロディナ女王の指針らしいが、それは女神のような女王だから我々の自由に、させてくれる。
女王は君臨すれども統治せず、なんて地球の何処かの国に、あったよね。」
流太郎は、
「ありましたっけ?知りません、そういう事はサイバーセキュリティと関係ありませんから。」
社長は驚いて、
「サイバーセキュリティの仕事をしていたのか、地球では。」
「ええ、それが何だか分からないままに、この星に連れてこられてAV出演です。」
「なに、いいじゃないか。この国のね、いや、この星のAV男優の地位は高いよ。地球ではハリウッドスター並というかね。」
流太郎は、金玉を鷲掴みにされた気がして、
「そんなにも、すごいんですか?この星のAV男優は。」
羽目太郎監督が口を開くと、
「だって全世界配信されるんだよ、この星のAVはね。この星のハメリカは地球のアメリカだけど、かつてはハリウッドみたいな所もあったけど、衰退した自動車産業のデトロイトみたいになっている。それはAV動画に押されたんだ。」
と解説した。
社長は続けて、
「地球のハリウッドも映画を全世界に配給する事で巨万の富を得て来た。この星も似たようなものだったけど、ヨーロッポの逆襲としてAVに白羽の矢を立てたんだ。
そして遂に勝利したんだ、映画にね。陽本のAVもヨーロッポと提携して発展できた。わがAVパラダイスは陽本の最大のAVメーカーで、ヨーロッポ支社とハメリカ支社を持っている。ハメリカ支社では落ちぶれハリウッド、この星では今はハメウッドとよばれているが、そこの映画スターを高給でAVに出させている。彼らも結局のところは金だからね。
今度、カイザー社で、ドイツのね、CMではハメウッド男優のセックスシーン、もちろん演技なしにハメているところをテスト的に収録予定なんだよ。君も時君、ハメウッド男優を抜くくらいの覚悟でAVに出ないとな。」
確かに、この星にはハメリカという国があり、カナダとメキシコに挟まれている。オサンジェルスには丘があり、そこに
HAMEWOOD!
という大きな文字が並んでいるのだ。流太郎は胸を張り、
「ぼくも日本男児、ハメウッド男優を抜きたいです。」
と感慨を洩らした。社長は、
「よくぞ言った。時君、陽本の輸出産業の基幹はAVなんだよ。自動車メーカーより税金を払っているんだから。」
流太郎の目が満月になって、
「素晴らしいですね。高額納税者も、もしかして・・。」
「もしかしなくても陽本の場合、AV男優が十位以内に入る事もある。」
「えっえっ、AV女優じゃないんですか?」
「いや、この星ではね、男優の地位が向上したんだよ。古い時代の地球の日本では肉体労働者の給料は安かった。それが後には、少しマシになったという、あれと同じかなあ。AV男優のストライキがあるところもあるんだ。うちではAV男優の労働組合は、ないんだが。それは高額に出演料を払っているからだね。立ててナンボ、ハメてナンボの世界だろ?」
「そうですねー、ぼくは関西言葉は分かりますけど・・。」
「立てて、いくら、ハメて、いくらだよな?」
「そう!です。それは、それなしにはAV女優も動けませんし。」
「いいAV男優のチンコが世界を救うんだよ。いわば、オレ達は救世の仕事をしているんだ。」
「パートナーの居ない男性をですか。」
「いやいや、女性も、そうさ。裕福な女性はラブボーイを購入して、それで遊べるけど、そんな金のない女性はAVを見て楽しむんだよ。だからカイザー社もCMを出すから女性向けのAVを作れ、と要求してきている。わがAVパラダイスでは、それも製作予定にしているし、時君にも頑張って欲しい。いつの日か、ハメウッド男優を抜けるよ、その位ならスグにでも。今、世界の高額納税者はヨーロッポのAV男優も入るね。地球でもヨーロッパのサッカーが世界的人気でワールドカップをやっているようなものだな。
ヨーロッポのAV男優ってイケメンにしてイクメンなんだ。育児する男子の事じゃなくてな。・・・」
 イク時の顔を競い合う「イクメン・ワールドカップ」だのもあるらしい。というのも日本語のイク、という言葉が「フジヤマ」「ゲイシャ」以上に広まったヨーロッポでは、フランスのAV男優も絶頂時に「イク」と叫ぶのが流行らしい。
もちろん「ブッカケ」「ナカダシ」という言葉は、それなりにヨーロッポでも認識されつつあるという。
社長は講義を続ける。
「まあ、そこのソファに座って、時君。」
流太郎はピンク色の横長のソファに座った。社長と羽目太郎監督は流太郎の前に立っている。社長は、
「イケメンとイクメンでAV男優のランキングがある。イクメン男優の方が女性の投票も多いから、驚きさ。投票に際してプロフィールに年齢・性別・職業を記載の方には、わがAVパラダイスのAVの一割引きネット・クーポンをプレゼント、とかで情報が手に入るんだけどね。
イクメン男優ランキングでは、イク時の男優の顔がズラリとウェブに並ぶから、これを見るのは、おおまか女性だろうと我々は見ているけどね。」
流太郎は自分もイクメン男優ランキングに入るかな、と想像して(おいおいおい、おれは元サイバーセキュリティ対策の・・・)
社長は流太郎の顔を見て、
「ん、君が地球でやっていた仕事の男性という設定でも、いいぞ。」
と言うから流太郎は、
「はい、では、それで、お願いします。」
「おーし、それなら、そうするか。この星のスイツにもレマン湖というのがある。それに対して陽本の女性団体が「湖の名称を変更して欲しい。」と抗議したら、スイツは、どう対応したと思う、時君。」
「ヒマン湖なんて、どうですか。」
「いや、違うね。ハメマン湖に名称を変えたんだ。ワッハッハッハ。」
「ナルホド、粋な対応ですね、スイツも。」
「そうだろう?で、君の第一作目はハメマン湖で採る予定だ。」

 AVパラダイスのヨーロッポ支社はベルギーのブリュッセルにある。ブリュッセルはヨーロッポの首都的存在だ。ベルギーからスイツまでは493キロ程だから、地球の東京と福岡は1000キロ程なので、約半分。とすると、その中間の大阪辺りが500キロ。スイツへの旅は、その程度の距離なのだ。
 ハメマン湖はスイツとフランスの国境にあり、スイツでは湖として最大である。Lac leman が、Lac hamemanとなったのである。陽本の観光客も多く行く。現地で手に入れられる観光パンフレットにはLac hamemanと印刷されている。
現地でタクシーの運転手に、
“Wo Lac hameman?”(日本語での発音としては、ヴォー、ラック、ハメマン?日本語の意味は「ハメマン湖は何処ですか。」)と訊くと、
「ja(ヤー、意味は、はい。)」
と答えて連れて行ってもらえる。ドイツ語ではjaがヤーなので、japanはヤーパン、なのだ。
 ハメマン湖近くの駅で降りた流太郎、AVパラダイス社長、羽目太郎監督はタクシーに乗った。車中で社長は、
「あの列車に載っていた時に思いついたのが、『世界の射精から』というタイトルなんだねー。スポンサーがカイザーだけにヨーロッポロケは簡単さ。列車で旅しつつ、ヨーロッポの美しい風景を映し、列車の便所内でAV男優に女優と絡んで射精してもらうという企画。どうだね、羽目太郎監督。」
羽目太郎監督は両手をポンと叩いて、
「いいじゃないですかー、社長。カイザーがくれる予算は凄いんでしょ?」
「軽音楽を流して『世界の射精から』提供はカイザーです、とやろう、な?時君、どうかね、あん?」
流太郎はハメマン湖に近づく美しすぎる景色に見とれていたが、
「ぼくが絡むんですか、社長。」
「すべてに出なくても、いい。お、ハメマン湖が見えて来たぞー。」
豪華なクルーズ船も湖上に見える。又、湖上に古城らしき建物があるのもハメマン湖の特色だろう。クルーズ船でフランスに行ってもシェンゲン加盟国のため、国境審査はない。
 シェンゲン協定による加盟国は
アイスランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スイツ、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、
である。
地球のヨーロッパでは、この星のスイツがスイスであるだけで、地球のスイスはレマン湖という湖はある。今のところ、日本の女性団体による湖の呼称についての抗議は、行われていない。
つまり、この星の陽本の女性は日本女性と少し違い、行動力があるという事だろう。
シェンゲン協定により三人は、ベルギーからスイツまでパスポートを見せずに辿り着いたのだ。
上記のシェンゲン加盟国はスイツをスイスに変えれば、ヨーロッパ旅行にも役立つだろう。ビルドゥング(教養・ドイツ語)な展開もあるので期待されたし。

 社長以外の二人の目にもハメマン湖は見えた。タクシーを降りると社長は歩きながら、
「クルーズ内でロケの予定だよ。時君の初仕事だ。」
と語りかけた。
流太郎は緊張して、
「はい、精いっぱい頑張ります。」
と歩きながら答えた。
 湖畔に巨大な船が停泊していた。豪華クルーズ客船だ。快晴の空の下、船体は黒一色。流太郎は、(この船の中で仕事をするのか。楽しそうだ。)と思いつつ、社長と羽目太郎監督の後を歩いて、そのクルーズ船に乗る。
湖の周りを見渡すと、白い雪化粧のヨーロッポ一の山、モンブラン(因みにドイツの高級ボールペン、モンブランは、この山の名前から名付けられている。)が、その姿を見せていた。ただ、ここはヨーロッポなので、地球のドイツのボールペンメーカーは地球のヨーロッパのモンブランから、名前をつけたので、この星のモンブランではない、というのは書くまでもない事だが。
湖畔には古城が湖上から見えた。この星は地球のパラレルワールドともいえるのだが、SF的パラレルワールドは概念のものとしての世界にとどまる筈だ。全く同じ人や物が別の世界にある、という詭弁的世界など存在しないだろう。
この星は地球と全く同じではない。それでヨーロッポのハメマン湖なのだ。
地球のレマン湖が観光地であるように、この星のハメマン湖も観光地らしい。ただ地球と違うのは空飛ぶ自家用車が湖上の空高く飛んでいる風景だ。十台ほどだろうか。
それは湖の景観保護のため、一時間に飛べる自家用車は台数が限られているのだ。
ハメマン湖の周辺には観光ホテルが立ち並んでいる。駐車場の広いレストランもある。ラブホテルらしきものも散見された。高級ホテルだろうと思われる外観の最上階はバルコニー付きで、スロップシンクつきという念の入りようだ。スロップシンクとは汚水を流すためのものだ。その最上階はスイートルームらしく、キッチンにはディスポーザーも設置されている。ディスポーザーとは生ごみを流しても、下にある部分で分解されて下水処理される。スロップシンクやディスポーザーは2018年頃にも日本にあった。
なのであるからして、この星の高級ホテルにあるのは当たり前で、もっと凄い設備も当然、ある。
が、それは後述される機会も、あるだろう。クルーズ船の甲板で景色を舐め回すように見ている流太郎に、社長は、
「もっと、よく見たいだろう。これで、見てみたまえ。」
とオペラグラスのようなものを手渡してくれた。
そこで流太郎は陽本製のオペラグラスで再度、湖畔の風景を眺望すると、
さっきの高級ホテルの最上階のバルコニーで全裸の白人らしい男女が立ってセックスしていた。若い女がバルコニーの手すりに両手を揃えて、つかまり後ろに高く豊満な尻を突き出している。でっぷりと太った資産家らしい禿げ頭の五十代の男性が愛人らしい、その若い美女の尻をムンズと掴み、腰を振っている。それに合わせて動く若い美女の尻、黒髪。白い乳房も揺れている。
流太郎はオペラグラスの位置を変えてみた。自分で、グルリと回転してみたのだ。すると又しても、高級ホテルの最上階で全裸の男女のセックス。体位は前のカップルと同じだが、男女は逆転して、五十代の資産家らしい女性と、若い男との立ちバックである。これも白人男女で、若い男は金髪で痩せているが筋肉質の甘い顔をした色男。資産家の女性は長い黒髪を振り乱して、五十路とは思えない乳房を後ろから若い男に掴まれて、乱れた尻を振りまくる。
オペラグラスは精度が良く、若い男の肉棒が抜き差しされるのさえ流太郎には見えたのだ。
 社長は流太郎のの顔色を見ると微笑み、
「それは今までの機能で地球にもあるよね。オペラグラスの横にある赤色のボタンを押してごらん。」
と誘うように促した。
流太郎は目からオペラグラスを外すと、オペラグラスの右側に赤いボタンがあるのに気づき、それを押した。社長が、
「よし、それでいい。又、見てみなさいよ、オペラグラスで。」
流太郎が再び目に当ててオペラグラスを見る。立ち位置を変えたため、最初の資産家の男と若い美女のセックスが見えた。彼らは、まだ性交を続けていた。だが、しかし・・・
流太郎の脳内は先ほどとは全く違った反応が起きたのだ。それは感情移入というより、もっと激しい、まるで自分が若い美女を突きまくっているような感覚を自分の脳とペニスに感じたのだ。しかも自分の男性器は、まだ屹立していないのにも拘わらず、雄々しく勃起した感覚で若い美女の肉の洞窟を貫いている、そして突きまくっている、その快美感まで伝わってくのだ。
これはバーチャルリアリティを超越したものなのだ!
資産家は頑張りすぎて息をゼイゼイ、言わせているが、それまで流太郎の呼吸器官には同じ感覚を覚えさせる。
(なんだ?これは!これでは自分が、あの太った金持ちと一体になったのと同じだ!)
やがて資産家は中出して射精した。その感覚も流太郎は味わう。ゴムなしのセックスだったのだ。愛人が孕んでも、ゆとりのある男なのだろう。やがて資産家が、しぼんだチンコを抜き取るところまで流太郎は感じていた。
部屋に二人は全裸のまま戻っていった。その時、流太郎は資産家の精神的、肉体的状態とは縁が切れたのだった。
オペラグラスを眼から外すと流太郎は、
「すごい機能ですね。まるで自分が、あの太った男になってしまったのを感じましたよ。」
と感想を述べると、社長は、
「驚いただろう。そろそろ甲板の下に行こう。ロケが待っている。撮りを押し始めようかな。」
 船上の甲板から広い階段を降りていくと、社交場のような場所があった。が、まだ誰もいない。驚くべきものは社交場の部屋の窓が大きい事で、部屋の床から天井までがガラス張りなのである。この豪華クルーズ客船は、黒い外見だが、それは何と全てマジックミラーだったのだ。
社交場を通りながら流太郎は、部屋いっぱいの壁の窓を右に見て、湖の中が見えるのに驚いた。先を行く社長は立ち止まり流太郎を振り返ると、
「自己紹介をしていなかったね。私は栄部伊・売雄(えいぶい・うるお)という。本名だよ。」
と話すとニカと白い歯を見せた。先を歩きつつ栄部伊社長は、
「珍しい名前だと思うだろうが、時君。栄部伊と言う姓は代々、続いている。私の父親がAVファンだったのでね、それでAVを売る人間になって欲しかったのさ。
父の部屋には数万のAVの地球で謂うDVDみたいなものがあった。十八歳になって大学に入った私は、家に帰ると父の部屋から、その膨大なavdvdを借りて自分の部屋で見ていたんだよ。勿論、それ程のコレクターだから、父は、あるav制作会社の専務だった。社長より暇を持たせてもらっていたらしい。大学では私はAV学部のAV学科で、AV学博士号を取得したよ。二十八歳だった。勿論、論文も出版した。「陽本の基幹産業であるAV業界の今後の発展の基盤となる重要な社会的要因と、その変化に対応した撮影手法の多様化についての段階的方法論」
という少し、ややこしいかもしれないけどね。」
廊下の片側は床から天井までガラス張りだ。廊下のカーペットの色は真紅で、ガラス越しに見える湖の中は地球の十倍の大きさの鯉が泳いでいるのが見える。
流太郎は、それを左目で見つつ、栄部伊社長の学歴に驚嘆したのだ。
撮影場所らしい部屋のドアを開けると、そこには人妻らしき女性がソファに座っていた。部屋の広さは狭く、四畳半しかない。栄部伊社長は、
「こちらは梅村性子さん、仮名だけどね。性子さん、地球の日本から来た時流太郎君だよ。」
しっとりとした人妻の性子は立ち上がると、
「初めまして、時さん。」
と話しかけて微笑む。流太郎も、
「初めまして、性子さん。あ、いきなり名前を呼んでしまって。でも、仮名だから、いいでしょ?」
「もちろん、いいわよ。わたし二十五歳なの。歳は誤魔化さないわ。」
流太郎は性子の美乳らしき胸の盛り上がりを見下ろしてしまった。彼女は背は中くらいで、ミニスカートを履いていたのだ。人妻にして人妻らしからぬ雰囲気は、ある。そうでなければAVには出ないだろう。
羽目太郎監督が進み出るとインタビューする。
「奥さんは御主人と、どのくらいセックスレスなんですか?」
「一年くらいかしら。主人は一流企業の部長を勤めています。まだ四十歳ですけどね。」
「ははあ、それでは豊かな暮らしが出来ますね。それにしても四十歳位の男性が奥さんみたいな、お綺麗な人と性交渉がないなんて、本当ですか。」
「本当です。主人は浮気しているんですよ。探偵を雇って調べたんですよ。ラブホテルに入っていくところ、出ていくところを撮影しています、探偵は。」
「それで当社に応募されたんですね。有り難い。」
「ええ。ネットから応募しました。一流企業の会社の部長の妻ですもの。最大手の貴社でなきゃ、いやなんです。」
「ありがとうございます。さっそくですが、奥さん。脱いでもらえますか。」
「ええ、承知しました。」
上品なる若い奥さんは、その場でスグ、全裸になった。一年も夫と性交渉していない、その体は二十五歳の女の色香を発散している。
流太郎としては戸惑いもある。栄部伊社長は四畳半の部屋の窓のカーテンを開けた。四畳半にしては、かなり広い窓だ。湖の中は純粋に透明とはいえない。その中を淡水魚が泳いでいる。
地球のレマン湖の湖岸にはヨーロッパ最大の淡水魚水族館があるが、ここはハメマン湖で、湖岸に水族館はない。その代り、この星の世界の淡水魚を集めてハメマン湖に入れているという。それで種々雑多な淡水魚が見られる。

SF小説・未来の出来事9 試し読み

 静枝はカリスキ氏の舌が自分の唇の中に侵入してきたのを感じると、ウム、ウグと声を洩らしつつ、自分の舌をカリスキ氏の舌に絡め合うのだ。カリスキ氏も又、静枝の舌の感触を自分の舌で味わっている。この聴診器のような部分の内部は人間の皮膚に驚くべく程、似ている。謂わば驚似(きょうじ)とでも表現できる、今までの日本語にはない形容詞が現出する。なにゆえ、驚似という日本語がなかったかというと、驚くほど似ているものが存在していなかったという事だろう。この聴診器様の機器の内部は、それに接したものと同化するという特性を持っている。それでカリスキ氏が舌を当てている部分はカリスキ氏の舌と同化しているのである。その感触を聴診器様の部分から先に出ている紐状のもので、静枝の唇に当てられている聴診器様の内部に転送されている。つまり静枝はカリスキ氏の舌を味わう事になる。のみならず静枝はVR(バーチャルリアリティ)の感覚でカリスキ氏の舌が自分の唇の中に入って来た感覚を味わうのだ。なんと驚くべき機械ではないか。
 次にカリスキ氏は静枝の口に当てたものを彼女の陰部に移動して当てた。自分の聴診器のようなものは口に当てたままで。途端に静枝は自分の女性器がカリスキ氏の舌で舐められているのを感じて、
「ああっ、そんなとこを・・・。カリスキさん、でも、気持ちいい。」
と声を洩らした。
驚くべき事だがカリスキ氏の口に当てている聴診器様の内部は静枝の女性器の皮膚感覚へと変質している。それによってカリスキ氏も直接、静枝のオマンコを舐めている感覚を覚え、自分の股間の屹立したものを益々、硬くしてしまう。遂にカリスキ氏は、
「もう、たまらん!堪えきれない。いくぞー。」
と叫ぶと、自分の口に当てている聴診器様のものを自分の股間に当てた。両手が塞がっているのでカリスキ氏は流太郎に、
「時さん、僕のズボンのファスナーを降ろしてくれ。」
と懇望した。流太郎は急いでカリスキ氏のズボンのチャックを下に降ろす。カリスキ氏は、
「パンツから僕のモノを抜き出してくれよ。」
と再び、懇望するから流太郎は素早くカリスキ氏の棍棒のような物を懇望されるがままに、パンツの外へ出す。カリの太いカリスキ氏の棍棒の先端、つまり亀頭部分に氏は聴診器様の内部に当てた。静枝は、
「ああんっ、入ってきてるわっ、カリスキさんの太いものがっ。」
と頭をのけ反らせつつ、乱れて叫ぶ。
カリスキ氏は腰を前後に振り出すと、静枝は「ああんっ、ああんっ、いくぅー。」
と泣くような声を出す。バーチャルリアリティーとして静枝は自分のオマンコの中にカリスキ氏の極太いモノが出入りしているのを実感した。実際的には二人の間は五十センチは離れているだろう。勿論、二人の性器は直接結合しているのではない。聴診器様の内部は空洞であるが、その部分がカリスキ氏に接している部分が静枝のオマンコに、静枝がオマンコに当てられている聴診器様の内部はカリスキ氏の亀頭や肉の竿に変質している。これが竜宮王国が緑星に提供した機器の最先端な性科学用品らしい。竜宮王国の機器は、もっと、これより先を行くものではあろう。が閑話休題(それは、さておき)カリスキ氏と白花静枝は本当に性交しているように顔を上気させ、二人共、尻を振っている。二人の目は虚ろになり、静枝は赤い彼女の舌を唇から出した。その時、カリスキ氏は、
「もう、限界だ。玄界灘にいなくても、限界・・・でるうっ。」
と叫ぶと、聴診器様の内部にドクッ、ドピュウウッと白い精液を大量に射精した。静枝は長い黒髪の頭を、後ろに反らせるだけ反らすと、「はあうんっ、いいいわぁっ。」
とカリスキ氏の射精を本当に受け止めたかのように感じていた。現実にといえば、カリスキ氏の精液が聴診器様の内部から紐を通して静枝のオマンコに当てられた聴診器様の内部に転送される事はなく、ただ、その液体の感覚を静枝のマンコに伝えるだけでは、あるのだが。この辺も、その機器の地球から見れば最先端と思えるもので、液体が身体にかかる感覚を再現させるという、すぐれた代物だ。軽い電子ビームのようなものが聴診器様の内部に出てくる。それが射精された感覚と同じものとなるのだから、驚きだろう。
更に驚きなのは、こういう思わぬ射精の場面を想定されて作られているのか、カリスキ氏の射精された精液は除湿機能で綺麗に消えていた。それにより聴診器様の内部をティッシュで清掃する必要は微塵もないという便利さだ。カリスキ氏は、まだ快感の余韻に浸っている静枝に自分の聴診器様の内部を見せて、
「大丈夫、安心していい。僕の精液は君のオマンコの中に放出されてはいないから。」
と解説した。静枝は閉じていた両眼を開けると、
「なんだ、バーチャルリアリティーだったんですね。でも本当にセックスしているみたいだったわ。カリスキさんって、とってもテクニシャン。腰の降り方がうまいんですもの。わたし、何回も星の彼方にイキました。」
と告白した。カリスキ氏もパンツを自分のモノにかぶせて、静枝にショーツの端から滑り込ませて当てていた聴診器様のものを取り出すと、
「僕も何度もイキそうなのを堪(こらえ)えたよ。本当に君のオマンコに入れている気分だった。」
と打ち明けると、後ろを向き、流太郎と籾山田を散見した。籾山田の顔は半ば呆然、半ばは驚きの表情だった。流太郎の顔は唖然としていた。籾山田は、
「挿入せずに白花君を絶頂に導いたのには驚いたよ。実は私の女房とは私は、夜の営みが随分と御無沙汰なんだ。カリスキさん、よかったら私の女房とも、してくれないか?その聴診器のようなもので。」
と流太郎には驚きの提案をした。カリスキ氏は聴診器様のものをズボンのポケットにしまうと、
「福丘市の職員として、それは出来ない相談です。でも、困っている市民を助けるのも我々の役目。奥さんを抱けるのなら、いただきます。」
と眉毛一つ動かさずに返答した。籾山田は満足げに、
「それは、よかった。私も自分の女房が自分以外の男に抱かれるのを見たかったんだ。それではね、女房の居る部屋に案内する。」
と話すと、長い廊下を歩きだす。方向としては、牧場へ向かう向きとは正反対の向きに。一番奥の部屋のドアを籾山田が開けると、三人は籾山田を先頭に中へ入る。高級ホテルのスイートルームのような部屋だった。窓際のデスクに一人の女性がパソコンに向かっていたが、籾山田達が入ってくると顔を三人に向けて、
「あら、いらっしゃい。あなた、この方たちは?御客さんなの?」
と人妻に見えない初々しさのある美人顔で問いかける。籾山は、
「ああ、そうさ。それもね、おまえには、いい人になりそうなんだよ。」
睫毛の長い籾山の妻は、その睫毛をパチパチと動かすと立ち上がり、
「こんにちわ。ようこそ、おこの島牧場へ。」
と両手を自分の股間に当てて挨拶した。真っ白な肌で両方の瞳は緑色、紛れもない緑本人だ。西洋梨のように下半身が、ふくらんでいるが彼女の首筋は細く、髪の毛は茶色だ。籾山田は妻に歩み寄ると、
「紹介するよ。私の妻で、美秋子(びあきこ)という名前だ。旧姓は春野田(はるのだ)だけど、それは、どうでもいい事だったかな。美秋子、あちらの紳士の右側がカリスキさんだ。」
カリスキ氏は右手で自分の前髪を撫でつけると、
「初めまして、奥さん。カリスキです。」
と自己紹介する。カリスキ氏は、こっそりと口の中で生唾を飲み込んだ。超絶的な美人だ!まるで冷凍睡眠から目覚めたような籾山田の妻、若妻の美秋子。人妻には見えないから倫理的な問題意識もない。中年の籾山田に対して妻の美秋子は二十代半ばか前半に見える。美秋子の服装は上下とも白で、下着も恐らく白色だろう。美秋子はカリスキ氏に微笑むと、
「初めまして。カリスキさん。ここは私の私室でダブルベッドも、あそこにありますわ。」
と部屋の隅を美秋子は白い指で示した。そこには白のベッドカバーが掛けられた柔らかそうなダブルベッドがある。カリスキ氏は咄嗟に(あのベッドで、この美人を抱ける。)と思うと、又、口中に湧いた生唾を飲み込む。
流太郎は別の視点から春野田美秋子を見ていた。籾山田が地球では株式会社夢春の社長の籾山に、そっくりなのと、その妻の美秋子は地球の籾山の妻の美秋に梨二つなほど似ている。西洋梨のような、その姿態もだ。地球の籾山の妻の旧姓は確か、春野だっただろう。こういうのをパラレルワールドと、いえそうだ。美秋子は流太郎を見ると、
「あら、仕事の方は、いいの?時田君。」
と問いかけた。流太郎は、
「は?私は、こちらで仕事は、していませんが。」
「あら、ごめんなさい。うちの従業員の時田に、貴方がそっくりなものですから、ねえ、松助さん。」
と自分の旦那の方を顧みる。籾山田松助は、
「時田は牧場で働いているよ。この人は時さんといって、地球から来たんだ。」
「あら、そうだったの。そういえば目も黒ね。いえ、時田の目も黒いんです。地球からじゃ、なかったわよね?時田は。」
籾山田松助は、それに答えて、
「地球じゃなかったよ、時田は。それよりカリスキさんとセックスしたくないか?美秋子。」
美秋子は恥ずかし気に、
「いやーね、あなた。時さんも、いるし、ね?時さん。」
と言いつつ流太郎を見る。流太郎は、
「それは構いません。奥さんさえ、よろしければ僕は、ここで見させてもらいます。」
旦那の松助は、
「美秋子。時さんも、ああいっているんだ。おまえとは二年も、してないし、すまないと思っている。」
美秋は照れて、
「うふ、そんな事、ここで言わなくても。でも、あなたの前で、わたし他の男の人に抱かれていいの?」
カリスキ氏は、
「奥さん、素肌と素肌を密着させる事を考えると問題意識もあるでしょう。けどね、あなたと私が指先さえ触れることなくセックスをするというのはバーチャルですが可能ですよ。」
と申し出た。美秋子は納得しない顔で、
「バーチャルに?仮想現実って事?空想の世界に耽るとか、そういう事ね。二人で裸になってベッドに座り、おたがいの性器を見ながら・・・というような事かしら。」
「いえー、そんな全裸になるなんて、そこまでしなくても、いいんです。奥さんは下着まででも十分です。」
「下着をつけたままでセックスできるの?」
「それは仮想現実ですから。」
カリスキ氏は美秋子に歩み寄ると、ズボンのポケットから聴診器様のものを取り出した。美秋子は、それを見ると、
「いやーだ、お医者さんごっこね、それを使って。」
「いえいえ、これを、こうやって。」
カリスキ氏は聴診器の片方を美秋子の唇に、片方を自分の唇に当てた。途端に美秋子はカリスキ氏にキスされた気分になる。カリスキ氏が唇を聴診器様のものから離すと、美秋子はカリスキ氏の唇が自分の唇から離れるのを感じた。彼女は残念そうに、
「もうキスをやめるのね。つまらないわ。」
カリスキ氏は、しかし、
「奥さん、僕は、どうも駄目みたいです。」
と乗り気ではない様子だ。きょとんとした籾山田夫妻にカリスキ氏は続けて、
「さっきね、受付嬢の人と・・・。」
美秋子は、
「白花さんね、彼女と・・・?」
「この機械でセックスしてしまって。それで、もう出すものがないみたいで。そうなると男が立たない、というやつでして。」
美秋子はハハハ、と笑い、
「なるほどね、白花さんにだと全部、出してしまっても可笑しくないわ。でも、わたしの体は火照って、しょうがないわ。松助さん、だめなの?今は?」
旦那の松助は、
「今も無理みたいだよ。時さん、君、どう?僕の家内の美秋子と、するのは?」
と打ち水を振るように問いかけてくる。流太郎は美秋子が、あまりにも地球の籾山の妻、美秋に似ているので抵抗はある。それで答えられないでいると、美秋子は流太郎に近づいて彼の股間を右手で触った。まだ流太郎のそれは充血していなかったが、美秋子の柔らかい白い指先が自分の睾丸と陰茎を握るように動かさないので、ついに激しい血流が流太郎の股間に集結した。美秋子は自分の手の中で大きくなった流太郎の息子に、
「すごいわ。若いのね。主人のより硬くて大きいわ。時さん、わたしと、しましょ。」
カリスキ氏は聴診器様のものを流太郎に渡した。それを受け取った流太郎は、
「これなら奥さん、問題ないですよ。」と云うと、
聴診器を自分の口に、もう一つのそれを美秋子の唇に当てた。二人は即座にキスし合っている感覚を覚える。流太郎は、(なんて柔らかで気持ちいいんだ、奥さんの唇は)と感じ、美秋子も、(男らしい唇ね・・ウットリするわ)と眼を細める。籾山田松助は妻の美秋子が従業員の時田とキスしているような気分になる。二人のバーチャルキスは二十分を超えた。流太郎のズボンの股間は今や、破れんばかりの勢いになっている。カリスキ氏は二人の傍から、
「時さん、もう、そろそろ奥さんとベッドへ行って。」
と指導する。
流太郎は一旦、聴診器様のものから自分の口を外し、美秋子を見た。美秋子も唇を聴診器様のものから外すと流太郎の右手を左手で握り、ダブルベッドへと連れて行く。
美秋子はベッドのそばで流太郎の手を離すと、彼に向き合い、服を脱いでいった。流太郎も美秋子と向き合った。白い上着の下は何と黒の下着を美秋子は身に着けていた。彼女はブラジャーを抱きかかえるように両手で握る。すると!黒色だったブラジャーは透明になったのだ。美秋子が両手をブラジャーから離すと、そこには豊満な果実のような彼女の乳房がハッキリと見えていた。なにせ透明なブラジャーだ。ツンと尖った美秋子の赤い乳首も見える。美秋子は次に、股間のショーツに陰部を隠すように両手を当てる。そして両手を外すと、その股間のショーツも透明となっていた。黒々とした美秋子の陰毛は、かなり多い。流太郎は美秋子の透明な下着姿を上から順番に見ている。もはや全裸に等しい美秋子だった。彼女は、
「タッチすると透明になる下着なのよ。地球には、こんなものは、ないでしょ?」
「ええ、ないです。こういった方面に地球の科学は進歩しません、ようです。」
「そうでしょ。それで男は性欲を失いがちかな、主人にも見せたくて。ね、あなた、どうだった?」
と松助を振り返る美秋。松助は、
「よかったよ。少し息子がびくっとしたかな。」
「よかった。今晩、あなたの前で見せてあげる。聴診器みたいなものでバーチャルセックスなんて、わたしには好まれないものね。それよりリアルに近いセックスがしたいの。」
美秋子はベッドわきのタンスから何かを取り出した。それはクマのぬいぐるみだった。それも分厚いぬいぐるみで、美秋子は、それを流太郎に手渡し、
「服を着たままで、このぬいぐるみを着て、わたしとベッドでセックスしましょ。」
と微笑む。それを身に着けた流太郎は顔は、ぬいぐるみの目だけが空洞になっているから外も見えるが、肝心の男根の部分も厚いぬいぐるみで覆われている。さっきまで元気に隆起していたものも、今は萎びてしまった。それで、
「奥さん、もう全然、立っていませんよ。これでは何にも、なりません。」
「そーお?じゃあ、わたしが、こうすれば?」
美秋子はダブルベッドに仰向けに寝そべると、流太郎に向かって膝を立てて大きく美脚を広げた。彼女の陰部も口を開いた。透明下着なので、それは流太郎にも見えるが自分がクマになったようで、一向に息子は立たない。美秋はベッドに起き直ると、ベッドわきのテーブルからリモコンのような物を取り出す。それを彼女は指で操作した。と、どういう事だろう。
流太郎の脳内に強い電流のような物が走り抜けた。流太郎は、ものを云おうと思ったが、言語は全て忘れていた。とにかく何か叫びたい。ウォーッ、ウォーッと彼は叫んでいた。
 近くにいるカリスキ氏と籾山田は呆気に取られた表情で、夫人の美秋子は透明の下着姿でベッドに座って笑っている。彼は自分の脳内がクマになったと感じた。それは、ぬいぐるみの頭部の内部に、まず電流が走ったような感覚があり、それから言語を失ったような感覚と人間の理性を亡くしたような気持ちになった。眼の前にいるのは透明の下着を身に着けた美人妻だ。クマとしての自分には何の興味もなかった。さっきまで自分は、この美人妻の裸体に近いものを見て下半身の陰茎をあらんばかりに立てていたのだが。
クマ、クマ、クマだ、こんな場所には仲間のクマは、いるはずがない。この外に出よう。きっとクマが、いるはずだ。できればメスのクマに巡り合いたい。クマになった流太郎は施設の玄関に駆け出す。クマになったといっても、ぬいぐるみの中の肉体は人間のままだ。
 施設の玄関に飾ってある高価そうな大きな焼き物の壺を流太郎は右手に取ると、それはカップラーメンのお湯を入れていない状態の重さに感じられた。ウオーッイッ!流太郎は奇怪な叫びをあげると、玄関ドアに、その焼き物の壺を投げつけた。ガシャン!と大音響をあげて壺は細かく割れて落ちた。ドアノブをぬいぐるみのクマの手で開けると流太郎は牧場へ出た。牛、牛、牛の群れが見える。クマなんて何処にも、いないじゃないか。当たり前だ。牧場にクマを飼っている奴など、どの世界にいるんだ。少し先の柵の向こうに森が見える。あの森の中にはクマが、いるかもしれない。クマの流太郎は二本足で走った。ぬいぐるみではないと遠くから見て、そのクマの走り方を見た人は驚いただろう。クマの流太郎は柵を跨ぎ越え、昼なお薄暗い森へと走り入った。
 森の中に一匹のメスのクマがいた。人間の流太郎なら恐怖を覚えるだろう。しかし、今の流太郎の意識はオスのクマなのだ。人間の意識は失っている。そのメスクマは縫いぐるみの流太郎を見ると、オスのクマと思ったらしく、自分の前足を木の幹に掛けて尻を高く突き出した。メスクマは性器を見せている。流太郎は勃起した。すると、それに連動して縫いぐるみの性器を覆っている部分も拡張、拡大したのだ。それでクマの、ぬいぐるみのそれも立身した。そうだ、立身挿入だ!流太郎はメスクマに、のしかかると縫いぐるみで覆われた自分の挿入の道具をメスクマの生殖器に突入させた。獣姦という意識は流太郎には、なかった。メスクマも縫いぐるみのクマとは思っていないようだ。二匹は大木を揺らすほど腰を振った。クマの意識になった流太郎は射精への緊張が人間の時より早い事など、比較する記憶もなく、おっ、という間に射精してしまった。

 施設内では牧場主の籾山田の妻、美秋子が自分の透明になった下着を再び両手で軽く触れると、透明な水着は白色になり、彼女の股間を覆うショーツも彼女の黒き陰毛は反映しなくなった。乳首も同様に見えなくなる。美秋子は手にしたリモコンを操作して、ニヤリと笑みをこぼした。籾山田は、
「何をしたんだ、美秋子。」と聞く。
「クマのぬいぐるみを着た時さんの意識を人間に戻したわ。さあ、外に出ていった時さん、どうなるのかしら?」

 メスクマの前に立っている時流太郎は、意識がクマから人間へと戻った。その途端に目の前に尻を出しているメスクマの姿に恐怖を覚えた。(クマ、だ。こわい。さっきまでは怖くは、なかったのに。)
ただ、メスのクマは気持ちよさそうで、流太郎に襲い掛かってくる気配もない。彼は、そーっと後ろを向くと、ゆっくりと歩き出した。森は、すぐに出た。施設へ帰ろう。牛は流太郎を気にしてもいない。おそらく、ここの牛はクマに襲われた事など一度も、ないのだろう。
立身挿入してしまった。立身挿入?本来の言葉は立身勃起だろう。いや、立身出世だったかな、と流太郎は思惟しつつ、立身勃起という言葉から連想される形態学的なイメージを脳内に沸き上がらせんと試みようとした刹那、施設の入り口は目の前だ。流太郎は美秋子の透明な下着姿を回顧的に想起してしまい、その想起により勃起を惹起されるのでは、と著しく懸念をしたが、さっきの自身の液体放出により、時間の経過が短いために再勃起は現状としては起こってこなかった。
玄関にあるインターフォンから美秋子の声が、
「おかえりなさい、時さん。今、ドアは開くから。」
と聴こえたら、ドアが開いた。中に入って、廊下を一番奥の部屋まで流太郎は歩いた。美秋子のスイートルーム風の部屋のドアは、流太郎が来るのを待っていたかのように自動で開扉した。
 中に入ると牧場主の籾山田が、
「お帰り。君は一時的にクマになったようだね。」
と声を掛けて、ねぎらう。
流太郎はクマのぬいぐるみを脱ぎ捨てると、
「なんだか全く分かりません。自分が人間でなくなり、本当のクマの意識になっていました。さっきはメスのクマと、いや、なんでもありません。」
因みにであるが地球の福岡市の能古島にはクマは、いない。パラレルワールドみたいでも、そういう違いはあるのだ。カリスキ氏は、
「もうすぐ日が暮れるから、おこの島から帰ろう。おこの島には宿泊施設は、ないからね。」
二人は牧場を出て、船着き場まで歩いた。カリスキ氏のスマートフォンが鳴ったようだ。「はい、もしもし。何?地球人女性を連れている?よし、行くよ、今から。」
と答えて通話を切るとカリスキ氏は流太郎に、
「福丘タワーに又、行くから。」
その時、二人の後ろから若い女性の声がした。
「お二人さん!待ってください!」
それは、おこの島牧場で乳搾りをしていた城谷輝美だった。輝美は今は作業着ではなく、私服を着ている。流太郎には益々、輝美は城川康美に似て見えるのだ。輝美は、
「福丘タワーに私も行くんです。連れて行ってください。」
と頼み込むので、カリスキ氏は、
「ああ、いいよ。一緒に行こう。」
三人揃って船に乗り、福丘タワーの近くの船着き場に船が着くのは十分後だった。
福丘タワーの玄関近くに一組の男女が、いた。カリスキ氏、流太郎、城谷輝美と続いて歩いていくと輝美は、
「流一郎さん!待ったかしら?あれ、その人、誰なの。」
と、その男性に声を掛ける。流一郎は、
「やあ、輝美。この人は地球から来た女性だよ。名前を城川康美さんといってね。迷子になったから、僕は、さっきカリスキ氏に電話したんだ。」
流太郎は流一郎という、その男が自分に、そっくりすぎるのを感じた。まるで、そこに鏡があり、自分を映しているような気分だ。だが言わなければ、
「城川君。見つかって、よかった。心配しすぎたよ、本当に。」
康美は、
「時さんも無事で、よかったわ。」
と微笑む。
カリスキ氏は、「その男性は僕の部下なんだ。広いようで狭い福丘市で、よかった。」
その時、又、カリスキ氏のスマートフォンが鳴る。
「はい、あ、これは、どうも。いえ、大丈夫です。二人共、無事でした。ええ、わかりました。」
とカリスキ氏は答えた。通話を切ると流太郎と康美に、
「浜辺へ行こうか。潮風が涼しい。」
歩いてすぐのところが白砂の海辺だ。波は低く、緑色の海。と、その洋上に円盤が突如、現れた。青い光線が空中に静止した円盤から出ると、流太郎と康美は、その光に包まれて円盤の内部へと消えた。
カリスキ氏は右手を高く上げて、円盤に向けて振る。

 円盤の内部にはアフロディナ女王が玉座に座っていた。竜宮王国の絶対的女王だ。女王は、
「どうでした?緑星は、訪問してみて?」
と二人に御下問なさった。
流太郎は、
「驚きの連続でした。まるでパラレルワールドみたいでしたよ。」
アフロディナ女王は得意げな顔で、
「私の指示で緑星は地球に似せたのよ。これから訪問する星は、それとは違った惑星。何かあっても、わたしが手を回して助けてあげられるのは何処の星でも同じ。だから安心していていい。」
「クマのぬいぐるみには驚きましたね。あれも竜宮王国の発明品ですか?」
「もちろんよ。緑星も科学は地球と同じレベル。私達の関与なしには進化できないわ。あのぬいぐるみは、ね。DNAレベルで人間をクマに変えられるという、ぬいぐるみ。緑星の富裕層の一部にしか輸出していないけど。おこの島牧場の牧場主の夫人が持っているなんて、知らなかった。」
アフロディナ女王は流太郎達の行動を逐一、観察しているのだろうか。だとすれば安心していいのか、それとも不安になるべきか、流太郎は迷った。しかし、地球を離れて何万光年かもしれない宇宙にいる今、アフロディナ女王は本当の女神のような存在だ。次に行く星には何が待っているのだろうか。
円盤の窓の外の景色は星々から緑の草原に変わった。もう着陸したらしい。アフリカのようには見えない。気候的にも暑くない。それは熱気は円盤内に、すぐは入ってこないと流太郎は思う。アフロディナ女王は二人に、
「この星に降りて楽しむのよ。危険はあっても大丈夫。さあ、行きなさい。」
円盤の側面が開く。流太郎と康美は円盤の外に出た。二人にも、ためらいはあったが、アフロディナ女王のゆとりのある威厳に気圧(けお)されたようだ。
この星にも酸素はあった。地球と全く同じ大気だろう。地球と全く同じ星が宇宙には、いくつも存在しても不思議ではなく、むしろ当たり前なのではないだろうか。地球が大宇宙で、たった一つだけある星と考える方が狂気じみている。そして地球人類だけが宇宙で唯一、知性を持ち文明を発展させてきた、などという事など、あり得ないのだ。
ただ、流太郎が空を見上げると秋の日差しであり、太陽は二つ、並んで小さく輝いている。アフロディナ女王が乗った円盤は目に見えない速度で空へと消えていた。別の方向からバサバサバサッと大きな鳥の羽ばたくような音が聞こえた。流太郎と康美が、その音に目を向けると巨大な鷹が二羽飛んできて、その太くて鋭い足の爪で二人を掴む。流太郎に一羽、康美に一羽の巨大な鷹が、二人を空中に運び上げると空を低く、飛んでいく。二人は足元を見ることが、できない。五十メートルは上空にいるのだ。遠くに見えるのは小さな都会の街並みで、今、二人が運ばれているのは、その郊外らしい。
 鷹は降り立った。その前に二人を広大な邸宅の庭に降ろした。何かしら、その建物は研究所の持つ雰囲気である。しかも大企業の所有するような上品な外観だ。庭には数本の樹木があり、鷹二羽は、その樹木の枝に飛び移った。
庭というより研究所の敷地内らしい。建物の側面のドアが開いて、白い研究服を着た三十歳位の男性が現れた。地球のサイバーモーメントの黒沢金雄社長が若くなったような顔だ。二人に近づくと、その研究員は、
「ようこそ、我が宇宙生物研究所へ。」
と何と日本語で話したのだ。流太郎は、
「巨大な鷹に連れられて、ここへ運ばれました。助けてください。」
「ええ、もちろんです。でも、あの鷹は我々が飼育しています。研究所近くで不審な人物を見たら、あの鷹は、ここへその人物を連れてくるようになっています。私は所長の銀田(ぎんだ)といいます。」
「私は地球人で時、といいます。UFOから降ろされたんですよ、自分達の意志とは関係なく、。」
「ほ、そうですか。あなた達は恋人同士には見えないが。」
銀田は康美と流太郎を眺める。康美は、
「恋人同士では、ありません。それが何か問題でも?」
「いや、何ね。問題は、ないけど。この星の人口は一億人位で、国というものは一つしかなく、食べ物に不自由は、しません。あの鷹を見ても解ると思うけど。地球という星は食糧問題など、あるでしょう?」
流太郎は地球を思い出しつつ、
「ええ、ありますよ。アフリカなどでは食べ物がなくて、内戦が続いています。でも、それが他の大陸に飛び火する事は、ないんです。
アフリカ諸国は貧困なため戦力も十九世紀程度の装備だったりします。アフリカ人同士が殺し合って、今、アフリカの人口は1000万人位で。百万人位に減ればいい、なんて予測する学者もいますよ。」
「うむ、そんなものでしょう。ここは宇宙生物研究所ですから、貴方方を研究したいんですよ。我々の先祖は日本人であり、この国は日本語です。我々の先祖はUFOによって連れ去られ、この星で降ろされました。ただ、ここは地球の日本列島のような島国ではなくて、横長の大陸です。
 日本の伝承で「神隠し」なるものが、あるが、あれは全てUFOに連れ去られているのです。」
流太郎と康美は簡単に感嘆し肝胆、相照らされてしまう。銀田は流太郎に近づくと名刺を渡した。
宇宙生物研究所・所長 銀田金玉留
流太郎は、それを手にして、
「ぎんだ・きんたまる、さんですか。」
「いや、そうは読まないでください。かねたまる、と読みます。」
「ああ、そうですね。きんたま、と読むとマズイですかね、この星でも。」
「そうだね、きんたま、は、この星でも男性の睾丸の意がありますからね。親が名付けてくれた名前ですけど、少しは、その辺も考えてくれたらいいのに、金が貯まるようにっていう親の希望でした。」
康美は無関心さを顔に出していたが、本当は笑いたさそうだった。流太郎は、
「その親御さんの望み通り、こんな施設を建設出来たわけですね。」
「あ、いいえ。これは国の施設ですよ。私は国家公務員ですから、金は多くは貰えません。地球の日本の国家公務員より安いものです。ただね、この星では食料が安い。フリーエネルギーに近いもので動力を提供している国ですから電気代も安いし、ガス代も安い。これは、後ほど説明しましょう。とりあえず、研究所の中に入りましょう。あなた方を解剖するわけでも、ないので心配なく。ここから逃げようとしても、又、あの鷹に襲われますからね。」
銀田所長は二人を施設に入れた。
白壁と天井と床も白の施設内だ。廊下は広く幅がある。「天狗の部屋」とパネルに表示してあるドアの前で銀田は立ち止まると、二人に、
「これは、まず見ていった方がいい。」
と話すと、ドアノブを捻って開けた。銀田の後に続いて入った二人が見たものは下着姿の天狗で、二人いた。男女の天狗がガラス張りの向こうに、いた。天狗がいる部屋は六畳は、あるだろう。それを見物できるように、なっている。銀田は、
「マジックミラーだ。向こうから、こちらは見えない。」
と説明した。

SF小説・未来の出来事8 試し読み

 流太郎と康美は、それぞれが手にしたヘッドフォンのようなものを耳に当てた。ヨハンシュタインは二人に、
「それで、よろしい。目を閉じて。」
と指示する。目を閉じた二人は同じものを見ていた。青い海を、である。白い砂浜、というのは形容詞的なもので、砂は白色のものはなく薄茶色が正確な表現だ。その薄茶色の砂が続く砂浜に、流太郎と康美はいる。自分達の姿を見ると水着になっていた。流太郎は紺色の海水パンツだけ、康美は赤色のビキニだけだ。流太郎は康美のビキニ姿を見るのは初めてだ。そもそも、そういう季節や場所に一緒にいた事がない。
 康美のビキニは極薄で胸の部分は彼女の乳首がハッキリと、浮き出ていた。豊満な康美の乳房はビキニが取れてしまいそうな位な曲線を描いている。二人は砂浜に並んで座っていた。康美の左側に流太郎は座っているので、彼女の左側面からビキニ姿を眺める事になる。日焼けのしていない康美の白い肌は、このまま、ここにいれば少しは灼けるだろう。流太郎が康美の白い肩に右手を回そうとした、その時!目の前の海の水が飛沫を上げ、クジラのような潜水艦らしきものが海面に浮上してきた。その潜水艦の上部が開くと、中から若い女性が体にピッタリとくっついている制服姿で現れ、胸のふくらみを揺らせつつ、
「ようこそ、お二人さん!海底の国、竜宮王国へ御案内します。ここまで、泳いでくるのです。」
と誘った。
 当然の事ながら流太郎と康美は、ためらう。いきなり現れた潜水艦と謎の若い美女、その女性の髪は短く、男性一般の髪の長さだというのも特徴の一つで、しかも赤と黄色に染めている。立ち上がらない二人を見て、その女性は、腰のポケットからピストルのような物を取り出した。それを二人に向けて、
「来ないと撃つわよ!来ても撃つわ。楽に来れるようにね。」
と宣告し、ピストルの引き金を引く。
立ち上がった流太郎と康美に、その謎の美女から放たれたピストルの中身は赤いレーザー光線のようなもので、その怪光線は二人をグルグル巻きにすると一秒よりも短い時間で、二人の体を潜水艦上までワープするかのように移動させた。
潮風の匂いがする潜水艦の上に大きく左右に開いた昇降口が見える。若い謎の美女は、
「私の名はエリオンというわ。さあ、そのエスカレーターに乗って。」
潜水艦なのに下り方向に進むエスカレーターが動いていた。竜宮王国の潜水艦の昇降は階段ではない、というのが豪華な話ではないか。
流太郎と康美は水着のまま、(だって着替える暇は、なかった)オレンジ色の手すりのエスカレーターに乗り、潜水艦の内部へ。エリオンは二人の後からエスカレーターに乗った。
 エスカレーターから降りるとエリオンが二人の先に立って、少し歩くと大きなドアの前に移動した。エリオンは、そのドアの壁に向かって、
「女王様、二人をお連れしました。」
と、お伺いを立てた。若い女王様らしき声が、
「お入り、エリオン。二人を連れて。」
と静かな威厳を持つ響きで指図した。ドアは自動のように左側に開く。その部屋の内部は照明も一段よりも三弾は明るい。部屋の奥に玉座に座った女王は右手に錫杖を持っていた。エリオンは自分の左にいる流太郎と康美に、
「女王様に敬意を示すのよ。わたしのように右膝を曲げて。」
と話すと左足は伸ばしたまま、右足を膝の所で曲げて左足の膝の裏の方に足先をひねった。流太郎と康美はエリオンの動作を真似た。
女王は微笑むと、
「よろしい。右足を戻して。ここは竜宮王国の潜水艦『ウミノソコー』です。博多湾から北に百キロ行った海底に、我が竜宮王国は、あります。」
流太郎は聞いてみる。
「女王様。もしかして、その竜宮王国とは、あの浦島太郎が行った竜宮城の事ですか。」
女王は頷(うなず)くと
「その通り。大昔は竜宮城と地上の民が呼んでいた。浦島が助けた亀は、わたしの祖先が飼っていたもの。そして、その亀は自然界の生き物の亀ではなくて、人工の亀だった。」
康美と流太郎は同時に、
「人工の亀!ですか?!!」
「そうです。普通の亀が人間に助けられたからといって、竜宮城の女王に報告するものですか。第一、自然界の亀が人間の言語を分かるわけがない。浦島が亀が話すのを聞いたとしても、それは、わたしの祖先が作った人工亀が話したのよ。人類も今ではAIなんてものを多少作っているけど、わたしの祖先は浦島太郎の頃に既に人口の亀、そして、それは人工知能を持つ亀を作っていたのよ。で、それを海辺に送り、わたしの祖先が雇った少年たちに虐めさせた。それを見た浦島が人工亀を助け、海の中へ帰してやった。
 人工亀はビデオカメラを持つ二つの目で、その浦島の行為を記録していたの。竜宮城に戻って来た人工亀の脳内とも呼ぶべき場所に記録されたビデオデータを女王はパソコンのUSB端子に似たものでスクリーンに再生し、浦島の行為を確認したわけよ。ついでに、その当時の竜宮城の女王は人工亀に、
「誰に貴方は助けられたの?亀君。」と聞いた。人工亀は、
「浦島太郎さんです。」と答えたの。人工亀は助けられた後、浦島太郎に、
「ありがとう。あなたの御名前は?」と聞いた。その位の質問は出来るような人工知能を与えられているの。浦島は、とてもビックリして、(亀が喋った)と思いつつ、当時の人間らしく(この亀は神様の御使いかもしれない)と思ったのでしょう、
「ぼくは浦島太郎といいます。」と答えたのよ。その記録は人工亀の脳内にあるビデオデータに記録されていたわ。今も残っているから、あなた達に見せるわね。」
女王は近くに立っている若い豊満な肉体の美女、その女性は色白でビキニを着ていた。胸の部分は赤で彼女の股間を隠すビキニは黒色。彼女の腰の括(くび)れと、それに反比例する豊かな尻の部分、上向きの乳首が浮き出ている張り切った乳房は、ビキニが取れそうな位だ。その臣下に女王は、
「カナミ。浦島のビデオを二人に見せなさい。」と命ずる。カナミは深く頭を下げると彼女の長い黒髪と、豊満な乳房は揺れ動いて、
「はい、女王様。仰せの通りに。」と下命を排して、ビデオ機器らしき所に尻を左右に揺らせながら移動した。セクシーな胸を揺らせつつカナミはビデオをスタートさせる。女王の右横にスクリーンがあり、そこに太古の日本の浜辺が現れた。
 二、三人の少年が砂辺の亀を苛めている。
「やーい、亀。陸に上がったら、のろまだなあ。」
ポンと少年は足で蹴る。もう一人の少年は、
「動けないのかよー、おい、亀。」そう言って、又も足蹴り。あと一人の少年は、
「丈夫そうな甲羅だなあー。」と言いつつ、亀の甲羅を足で踏みつける。亀は頭と両手、両足を甲羅の中に引っ込めて耐えた。そこへ浦島太郎が現れる。なお亀に備えられたビデオカメラは目二つのみではなく、甲羅に頭を引っ込めた時は硬い甲羅の中央に小さなビデオカメラがあり、それで映像を記録する。なのであるから、いくつもの視点が人工亀にはある。このカメラの切り替えが行われるなども、竜宮王国の当時としては驚くべき技術が見られるであろう。
もっとも、この竜宮王国の一族は家臣も含めて実は・・・なのであるけれど、それは後述されるであろう。
 浦島は、「君達は、何をしている!やめなさい。亀を苛めては、いけない。」と強く叱りつけた。
少年たちは浦島太郎が村一番の力持ちであることを知っているので、
「ごめんなさい。もう、しませんから。」
と口々に謝ると、全力疾走で浜辺を逃げて行った。そして亀との会話、後日の竜宮城への招待へと映像が続いた。
流太郎と康美は目を最大限に開いてスクリーンを見ている。さて、いよいよ浦島太郎は竜宮城から自分の村へ帰るのだが。
手には竜宮城でもらった絶対に開けてはならない玉手箱を抱え、自宅に帰った。それを見た隣の家の若い娘は薄着になって浦島の家に行き、
「浦島さん、帰ったの?琴代よ、入ってもいい?」
中から浦島は、
「ああ、いいよ。おいで、琴代。」と答える。
古びた家だ。琴代も実は浦島が消えて百年後の、隣の家の娘なのだ。その家では代々、長女に琴代と名付けていた。浦島は玉手箱を畳に置くと、胡坐をかいた。琴代は浦島太郎の前で薄い着物を脱ぐと、彼女は下着など来ていないから、白い乳房と股間の黒い茂みは浦島には丸見えだった。竜宮城で贅沢な生活をさせてもらっていたが、女性との性的遭遇は一切なかった。それで浦島は自分の股間の道具に久しぶりに大量の血液の流入を感じた。それは琴代が上から見ても、明らかに分かる剛棒で、琴代は浦島の前に膝を着くと浦島の着物を剥ぎ取る。全裸の琴代の前に座った浦島も又、全裸になった。逞しい胸の筋肉、二の腕の力こぶの浦島の肉体は、それよりも力の入った長い肉の筒を琴代の股間に向けていた。
「好きよー、浦島さん。」
琴代は自分から浦島に抱き着き、両方の太ももを大きく広げて浦島の前に腰を降ろす。その時、右手で浦島の剛棒を握り、自分の股間の唇に当てて、その柔らかな秘部に導きつつ座ったのだ。それで二人は結合した。浦島は随分、久しぶりに女陰を自分の剛棒で味わいつつ、琴代は自分で大きな尻を前後や上下に揺り動かし、浦島が手で触ってくれない時は自分で自分の乳房を掴むと、体をのけぞらし、
「あはーん、浦島さあん・・・。」と声を上げた。琴代は、そらせた裸身を元に戻した時、浦島の横に珍しそうな玉手箱があるのに気づいた。豪奢な宝石の散りばめられた玉手箱だ。琴代は自分で尻を振りつつ快楽に溺れていながらも、
「浦島さん、その玉手箱は何、あんっ。」
とたずねる。浦島は、
「これか、これはね、開けてはいけない玉手箱なんだ。竜宮城でもらったものだよ。」
「竜宮城って、なんなの、それ、あん、いい。開けてみたーい、わたしいぃっ。」
琴代は右手を伸ばして玉手箱に触ると、そのふたを開けてしまった。すると、中から薄い煙のようなものが出て浦島の肉体を包む。そのあと!見る見る、又見るうちに浦島の肉体は百歳過ぎの老爺の体に変貌したのだ!琴代は自分の柔らかな女唇の中の浦島の硬い大きなものが、皴ばんだ柔らかくて小さな老翁のものになったのを感じた。眼の前の浦島の顔には皺が沢山出て、彼の背中は曲がり、髪の毛と眉毛は雪でも積もっているかのように真っ白になった。浦島は、
「琴代ちゃん、だから開けてはいけない玉手箱だったんだよ。ほら、おらの硬いものも柔らかくなったし、あれ、抜けたよ、琴代ちゃんの女の穴から。」と呟く。
琴代は浦島のモノが抜けたのに気づいたが、
「ごめん。でも、浦島さん、わたしのおっぱいを揉んで、口を吸ってよ。」
と懇願するから、浦島は琴代にキスして彼女の白い大きな乳房を揉んだ。
 今の竜宮城の女王の声が、
「そこで、止めて。カナミ。」と命じる。スクリーンの映像は静止する。女王は少し顔を赤くしていたが、
「これからは老爺の浦島がダラダラと琴代を愛撫するだけで、琴代の上に乗った浦島は腹上死します。そういう映像を貴方達は見ない方が、いいでしょう。琴代は死んだ浦島の前で四つん這いになり、大きな白い尻を突き出して、さめざめとなくのですが。実は、それは玉手箱にあるビデオカメラが記録していたのです。その映像は遠隔で竜宮城に転送され記録された。ところが琴代が、この後、怒って玉手箱を取り上げて畳に叩き付けたので、当時のビデオカメラだから壊れてしまったのよ。その後は、壊れないビデオカメラを竜宮城でも研究したし、完成もしました。」
と誇らしげに可愛らしい胸を反らす女王だ。流太郎は、
「玉手箱にもビデオカメラが付属していたなんて知りませんでした。昔話って簡略化されていますね。」と感心する。女王は、
「それは、琴代とのセックスなんて記述できないでしょ。玉手箱の、その後の話は村人も服を着た琴代の証言で作られたのだから。これはビデオを壊されたので、竜宮城から使者を派遣して、当時の村人に変装させて調査させました。琴代は自分が浦島と性交したとは、村人には話さなかったと証言したのよ。」
康美は感心して、
「昔話って、省略が多いんですね。でも、子供に話したりするものだから、そうしないといけないのかも?」
女王は笑みを浮かべ、
「この場合は琴代は浦島の話が、お伽噺になるなんて想像もしなかったでしょう。自分がセックスしている相手が突然、老人になる事も想像も出来なかったでしょうしね。」
流太郎は、
「本当にビックリしました。そもそも竜宮城に太古から、こんな技術があったなんて驚きです。」
女王は、
「ウフフ。竜宮城で浦島太郎に性的抑圧をかけたのも、わたしの祖先だけどね。そこのカナミはビキニだけど、当時の臣下には十二単の着物を着せていたのよ、だから浦島は竜宮城では女性を認識しなかった。今の女王のわたしは臣下に薄着やビキニを着させています。地球温暖化のせいも少しは、あるのかしら。時君、ね、玉手箱を貴方にも・・・」
流太郎はギクリとする。女王は、
「持たせたいけど、それは今回はしない事にしましょう。エリオン 、二人を元の海岸に戻してあげて。」
「かしこまりました。女王様。」
エリオンは女王に向けて膝を曲げての敬礼をすると、康美と流太郎を女王の部屋から連れ出した。流太郎は疑問を口にする。
「竜宮城には連れて行ってもらえないんですか?」
エリオンは答える。
「何事も女王様の思し召しよ。理由は問わないの。」
潜水艦は海面に浮上した。甲板が開いた潜水艦の上部にエスカレーターで昇った三人は、さっきの海岸を近くに見た。エリオンは二人に、「海の中に飛び込んだら、足が海底に届くから泳がなくてもいいわ。さあ。」
流太郎と康美は青い海に足から飛び込む。二人の足は、ゆっくりと海の浅い底に届いた。二人が振り返ると、潜水艦は既に見えなくなっていた。空からワーンワーンワーンという細かい音がした。二人は空を見上げると、そこには巨大なUFOが空中に静止していた。しかも距離は十メートル上空程度で、横幅が百メートルはありそうな大きさだ。あれが落下したら二人とも即死だ。落下への恐怖に二人は震えんばかりだった。UFOからの黄色い光が二人に照射されると、流太郎と康美は光に包まれて上昇した。一秒以内に二人はUFOの内部に現れていた。かなり広い部屋だった。その奥に玉座のような椅子がある。流太郎と康美は「あっ、あなたは!」と驚きの声を上げた。
 玉座に座っていた女性は若く美しい。長髪の先は彼女の肩の下まである。二人が、さっき会った竜宮城の女王だ。女王は微笑と共に、
「ようこそ。潜水艦からUFOへの移動は、容易(たやす)いわ。UFOを海面下に潜らせると、あのクジラ型潜水艦と接合できる。その接合部から、わたし達はUFOへ移った。これから旅になるから、お二人さん、ゆっくりしていってね。二人用の宿泊部屋も、あるからね。
 わたし達の星は何億光年も地球から離れているけど、二泊三日で到着するわ。スウィフト(註・ガリバー旅行記の作者)も、わたし達の祖先が連れて行ったけど、後に発狂してしまった。今日では、そうならないように注意しています。」

 そこで二人の意識が白昼夢から現実に戻った。ヨハンシュタインは、「お目覚めかな。いい夢を見たようだね、お二人さん。」
と話しかけてくる。手術台のようなベッドに寝そべった二人は、視線を天井からヨハンシュタインに移すと、ヨハンシュタインは、
「起き上がっていいよ。どのような夢だった?」
流太郎「竜宮城の女王に会いました。」康美「あら、わたしも同じものを見たわ。」
ヨハンシュタインは、「二人共、同じ白昼夢を見るようになっている。そういう異星人の発明した機械だ。竜宮城か。なるほど。私は、この機械を竜宮星の女王から下賜したのだよ。数億光年も離れた距離にある、その竜宮星は数千年前に地球に到達できる科学を持っていた。その女王の話によると、博多湾の北の海底に竜宮城を建設したらしい。したがって浦島太郎は博多湾沿岸に住んでいた漁民なのだそうだ。何はともあれ、ドイツから来た私にとっては驚きの昔ばなしさ。まだ色々な異星人から貰った機械があるのだが・・・。それは又、これからの機会に。」
窓の外の太陽は既に消えていた。時刻は日没後の時間を迎えている。流太郎と康美はUFO研究センターを辞去した。大通りへ向かう小道には人は二人以外、いなかった。突然!空から赤い光が降り注ぐと流太郎と康美は上空に静止する巨大なUFOに吸い上げられて行った。

 それは、さっき流太郎と康美が寝転んで見た白昼夢の巨大なUFOそのもので、その内部に運ばれて立った二人は目の前に、あの女性が座っているのを見た。そう、竜宮城の女王だ。女王の笑顔に二人は抵抗する気持ちを失った。女王は語る。
「今から、わたしたちの星に向かいます。何億光年か地球より離れているけど二泊三日で移動するからね。最速なら五時間で移動できるけど、船酔いならぬ円盤酔いをされても困るから。」
キューンと上昇するような感覚が二人には感じられた。円盤が上昇して地球の大気圏外へ移動した。それでも円盤の室内には塵一つ動いていない。二人の上昇感覚は錯覚なのだろうか。女王は、
「あなた方の耳の中に、さっき一部のレーザービームの塊を残しています。これが今の円盤が上昇するかのような感覚を引き起こしたのですよ。」と説明する。
二人は納得するが、しかし?このままでは。女王は続けて、
「大丈夫よ。わたし達の星に着くまでには、その赤い塊は消えてしまうから。わたしの背後の壁を見なさい。」
女王の背後の壁は白色だったが、巨大な窓が開くように左右に動くと、ガラス張りのように円盤の外の光景が見えた。宇宙空間だ。まるで星だらけの夜空、宇宙には、こんなに星があるのか。
女王は、
「太古の昔、我々の星でも戦争をしました。それは自分達の星の中ではなく、他の星とです。地球人類は大陸間弾道弾などを誇りにしているようですが、我々の星では星間弾道弾を完成させ、他の知的生命体の星を攻撃したのです。
 それに成功して多くの星を植民地ならぬ植民星にしたのですよ。ある時、その星間弾道弾の着弾地点を誤り、その星に大洪水を巻き起こしてしまった。以来、その星は大量の水を放出し続けています。おかげで我々の祖先も、その星には移れず、それ以来、星間弾道弾の使用は控えています。もう、十以上の植民星があるのですもの。わたし達も満足しないといけません。わたし達の民は、それら植民星からの貢ぎ物で生活しています。地球も我々の植民星にする予定でしたが、星間弾道弾の使用を中断している今は、その予定は中断しています。地球は本当は我々の星の植民星になった方が、いいのですよ。そうなれば百以上もの国を一つに、してあげられるし、労働の代わりに食べ物は買わなくていいように、してあげられる。
税金だって無料にしてあげられます。時君、何か質問がありそうね。いいわよ、わたし、女王が答えますから。」
流太郎は立ったまま、
「税金なしで、大丈夫ですか、国は。」と質問する。女王は、
「ええ、もちろんです。地球という国の公務員を無くすのです。軍隊は一番初めに解体させ、竜宮星の軍隊を駐留させますから。地球防衛軍という名称を付与します。又、政府組織は竜宮星から送る要人で運営しますからね。地球の民から税金なんて取りませんわよ、おほほ。」
女王の顔は二十代半ばの美女、それは外観から見えるだけで実際の年齢は二人には分からない。色白で目は濃い緑色だ。彫りが深く鼻が高い女王は、
「労働時間だって一日に四時間で、いいようにしてあげられるわ。冬季と夏季には一週間の休みを与えます。だからこそ、わたし達の植民星の住民は不満を言わないの。それどころか、彼らは感謝しているわ。それでね、余った時間は何をしているかというと、・・・エリオン、ビデオを見せてあげて、二人に。」
「はい、女王様。御意のままに。」
室内にエリオンは見えないのに、壁から彼女の声がした。女王は二人に、
「後ろを向きなさい。」と命じる。二人が体を反転させると、彼らの目の前の壁がスクリーンになっていた。すぐに映写が始まり、立体映像だった。植民星の優雅な生活という文字が空間に浮かぶと踊りを踊るように動いた。映像は或る都市を映していた。タワーマンションが見える。それも二百階は、ありそうな巨大なものだ。昼の三時らしい。会社が終わったらしく、背広に似たものを着た男性が大勢、その超巨大タワーマンションに帰宅している。エレベーターは、すし詰めに近い、とはいえ、ゆとりはある空間だ。その内の一人の中年男性をカメラは追っている。四十代ほどだろうか。黄色人種で日本人と中国人のハーフみたいな、その男性は玄関を開けて帰宅すると、
「ただいまー。今日から竜宮星の植民地政策が始まったよ。労働時間は四時間になった。」
玄関に出迎えたのは二十代半ばの女性で、その男の妻らしい。
「ほんとー、なの?今から夜まで大分、時間があるわね。どうしよう。」
と妻は答える。
背広とネクタイを脱ぐと男性は、
「急に暇になってもなー、する事がない。」
「まだ、三時だし。今からセックスも、どうかと思う。わよね?」
「ナサリーナ(妻の名前らしい)、いい考えだ。今すぐ、セックスしよう。」
「ええ、ASAP。」
「なに?えーえすえーぴー?」
「やだわ、あなた。知らないの?AS SOON AS POSSIBLEアズ スーン アズ パッセブル(可及的速やかに)っていう意味だわ。」
「ああ、そうか。おれの息子もASAP、なーんて。ね」
その夫婦は全裸になった。夫は
「この前は二か月前か。セックスは。」
「いいえ、三か月前だと思う。残業続きだったもの。」
そこは玄関なので二人は寝室へ行く。タワーマンションの百五十階からの展望は、遠くの海まで見える。ナサリーナは寝室のカーテンを閉めようとした。夫は、
「開けたままで、いいよ。外から見る人もいないしね。」
と妻の後ろから話すと、妻の右手を止める。日焼けした妻の背中と尻。妻の乳房を後ろから夫が揉んでやると、彼女は目を閉じて気持ちよさそうだ。その乳房の後ろの背中はビキニの跡が日焼けしていない。もちろんナサリーナの尻も水着で日焼けしていない。そのビキニの形が妻の白い肌で残っている。その妻の、形よく横に張り出した尻に夫の性器は勢いよく立ち上がり、二人は二心同体となった。夫にとっては勤務中に帰宅して妻とセックスをしているような気分もする。妻のナサリーナは、今、後ろから自分の洞窟に入れているのが夫ではない誰かだと空想すると、今までと違った快楽を感じるのだ。夫のハルキンは一時間も妻と結合を続けたのち、
「おおナサリーナ!カフカが海の中に沈んでいく!」
と訳の分からない言葉を発すると、男のクリームソーダを妻の股間の秘口内に勢いよく、ぶちまけたのだ。それを膣内に感じた妻のナサリーナは、
「ああっ、ハルキンっ、谷の底に落ちるぅっっっ。」
とソプラノの美しい響きで快美感を発した。ハルキンは小さくなったムスコをナサリーナのムスメ(膣内)から離して、彼女の首の後ろに優しくキスをすると、
「とっても、よかった。竜宮王国の植民星になって幸せだよ、ぼくたち。」と話すと、妻のナサリーナは目を開けて、
「カフカって、なんなの?」
「ああ。カフカって地球という星の文学者だよ。凄く昔のね。」
「そのカフカが海の中に沈んだの?」
ナサリーナは窓の外に向けた裸体を室内の夫に向けた。昼間の光に妻の股間の黒い茂みは平日には初めて見たものだ。妻の恥毛は逆巻き、縮れている。ハルキンは、
「別に意味は、ないさ。カフカが海に沈んだら思うだろう気分だったのかもしれない。それより、ぼくの股間をみてごらん。」
ナサリーナは視線を夫の顔から股間に移す。
「まあっ。もう元気なのね。今度は立ったまま、来て。」
ナサリーナが両脚を立ったまま開く。恥毛の下の赤い口も開いた。その時、ホ~、ホケキョウ!と玄関のチャイムが鳴る。このタワーマンションでは標準装備で玄関チャイム音は鶯の鳴き声となっている。ハルキンは黒いパンツだけ履くと玄関へ行き、
「はーい。」と答えると、インターフォンから、
「ムラナミさん、郵便局です。」
ドアを開け、ハルキンは郵便物を受け取った。この星の郵便局員の配達の制服は緑色だ。男性局員はハルキンの股間を見ると、
「ムラナミさん、おっきいですね、あそこ。」
「おれの名前はムラアミだよ。ムラナミでは、ない。」
とハルキンは抗議する。
「すみません。失礼しましたー。」
郵便局員はリュックを背負った背中を曲げて、謝るとドアを閉める。タワーマンションの書留は多いため、リュックに入れて配達している。玄関はオートロックだ。ハルキンは寝室に戻ると、妻のナサリーナは、まだ全裸のままでベッドに腰かけている。ナサリーナは、
「書留なの?それ。」
「ああ、そうだよ。でも、あれが終わった後で、よかった。そういえば平日の昼だもの。郵便局員は来るよなあ。開けてみるか、書留。」
ハルキンは薄茶色の大きな封書を手で破いた。中から出てきたのは、数種類のコンドームだ。ハルキンは思い出した様に、
「ああ、そうそう。お試し価格のコンドームを頼んでいたよ。進化したコンドーム。亀頭にだけ被せるタイプ。更に今、開発中の亀頭の先端の小さな穴だけを覆うタイプ。尿道口を覆うわけだ。」
と手に取って、それらのコンドームを眺めながら妻に話す。ナサリーナは、
「亀頭にだけなら亀頭冠に引っ掛ければ、いいけど。」
「ああ、亀頭のカリにね。」
「尿道口だけなら射精したらコンドームは外れないのかしら。」
「それが最先端のコンドーム技術によって、装着されたままなんだ。どうも、この尿道口タイプのものは長く伸びるらしい。縦に伸びるので、女性としては膣の奥にさらにペニスが進む感覚を味わえる。らしいな。」
「子宮に直接、当たったりして。大丈夫、かしら?」
「その辺はね、子宮を傷つけないように、今度は横に広がるんだって。」
「まあ、ほんとに。だったら、すごいわ。あなた、そのコンドーム。わたしにも触らせてよ。」
ナサリーナはベッドの隣に座ってパンツだけ履いている夫のハルキンから尿道口だけを覆うタイプのコンドームを手に取る。そして、
「ん?んんん?この手触り。ゴムというより人間の肌、それも男性の肌だわ。それに特定すると、亀頭の感触が手に感じられるわ。これ、すごいわー。」
ハルキンは妻を横目で見て、
「それは普及版だよ、だから一般的な男性の亀頭の肌感触だ。さらに凄いのは、この会社、オーダーメイド版もある。頼めば、その男性の亀頭と、そっくりの肌の、まあ亀頭の部分は肌とは言えないかもしれないけど、亀頭の肌触りだね、それをコンドームに再現できるんだよ。」
ナサリーナは特大変に驚いて、
「ええええっ!??だったら、ハルキン。あなたの亀頭の感触も、このコンドームに再現できるのね?」
「そうさー、ただね。お金は、かかるよ。それなりに。安月給のオレでは今のところ、無理かな。部長は愛用しているらしいよ。その尿道口のみ覆うタイプのコンドームをね。」
「部長さんも、産児制限に気を使っていらっしゃるのね。で、で?部長さんのは、そのコンドーム、オーダーメイドなの?」
「らしいよ。ボーナスの一部で作らせたそうだ。なにせねー、作るモノがモノだけに、写真で自分の亀頭を取ってインターネットでメールで送るわけにも、いかない。だから直接、この会社に行って、そこの女子社員に亀頭を触ってもらって。もちろん個室で、らしいけど、その女子社員が部長の亀頭の感触を思い出しながら、それをコンドームに再現したそうだ。それを使ったら、部長の奥さんは大喜びで、
『あなた、とても、よかったわ。薄いコンドームなんてものとは全然、違ったわ。まるでコンドームを着けない時のセックスのようだった。あなたが射精した時は、それが長く伸びて子宮に少し当たって、とても気持ちよかったのよ。』
と感謝されたって、さ。」
ナサリーナは期待感で乳房を揺らせると、
「竜宮王国から来月、コンドーム手当、が出るらしいわよ。今朝のネットニュースで見たの。」
「そうなのか。いいぞ、竜宮王国。我が国では開国以来、一度も、そんな手当はなかった歴史がある。」
「出産庁に申請すれば貰えるわ。来月は婚姻届けを出している夫婦にだけだけど、再来月からは未婚でもカップルなら貰えるんですって。」
ハルキンは思案顔で、
「カップルも出産庁に申請するのか?」
「いいえ。出産庁に行くのではなく、カップルは各地方の保健所でコンドームを貰えるのよ。再来月には各保健所にカップルのためのコンドーム交付室が設けられるそうなの。もちろん、そのためにはカップルで保健所に行かなければ、ならない・・・・・・

 再来月になった。ハルキン夫婦のタワーマンションの地下に住む、そこは分譲ではなく賃貸だが、あるカップルは二十代で収入も低いため、コンドームを保健所に貰いに行くことになった。
ハナリンとユータンのカップルである。ユータンは二十五歳の男性、ハナリンは二十一の女子で、同棲生活を送っている。超巨大タワーマンションの地下五階ともなると家賃も安い。B502号が二人の愛を育む同棲の場所だ。
ハナリンは地球のスマートフォンに似た携帯で、ネットニュースを見ると、
「竜宮王国より未婚のカップルにもコンドーム支給、なんですって。」
パートナーのユータンに話しかける。ユータンは痩せた背の高い二枚目の青年だ。彼は優しく、
「それは、すごい。なにせ、この国のコンドームって、やたら高くて買えなかったよな、ハナリン。」
「そーねー。妊娠したら、どうしよーって感じ、をいつも持ちながらセックスするのも気が気じゃないって感じ、がするもの。」
「おれも射精する度、びくびくするよ。もし妊娠したら、おろさないといけないし。」
「そーよねー。そんな事したら水子になってしまって。水子の祟りって怖いらしいわ。」
「まったく、もー。そんなものは、ないだろうけど堕胎の費用が高いもんな。」

SF小説・未来の出来事7 試し読み

 湖畔はヤシの木が並んでいる。黄金の湖面は波がない。太陽は何と空に二つ並んでいる。横並びの太陽だ。空を見上げた流太郎は鮫肌輝美子に、
「この星には太陽が二つ、あるんですね。」
「ええ、一つの太陽の光が弱くなると、もう一つの太陽の光が強くなる。それで地球みたいに四季は、ないのよ。つまり冬は、ないのね。」
「夏も、それほど暑くない訳ですか、この星は。」
「そうね、よく分かるわね、それが。」
「なんとなく、ですが、ハハハ。」
その黄金の湖は日本の琵琶湖より広いらしい。キアー、キアーと鳥の鳴き声が空から聴こえた。流太郎が見上げると、そこには金色のカラスが空を飛んでいた。二つの赤い太陽のもと、飛翔するカラスは椰子の木陰に姿を隠した。
 やがて二人はレストランのような建物の横に、ヨットのようなものが何艘か停泊している前に辿り着く。
ヨットに乗るための料金所みたいな場所は、自動券売機みたいなものが立っている。鮫肌輝美子はスマートフォンのようなものをミニスカートのポケットから取り出して券売機に、かざす。二人分のチケットを買ったようだ。券売機の横に警備員らしき男性が立っていた。流太郎が、その警備員をよく見ると彼はロボットらしい。波止場に似た湖畔のヨットに輝美子と乗り込む流太郎。輝美子がヨットを湖に出す。黄金の湖面の色は流太郎に異世界に来ている事を強く感じさせた。二人は並んで座っている。流太郎は口を開かずには、いられない。
「この湖からでも純金は取り出せるんでしょう、すごく多くを。」
輝美子の瞳には金色の湖面が映っている。彼女は答える。
「ええ、でも我が国の金は地球の砂みたいなものよ。地球の何処でも、こんなに恵まれている場所は、ないわ。わたし達から見れば、地球は貧しい国。南出裳部長の上の人は日本で株取引をしているけど、それは景気の流動性のない国で景気をよくするために取引をしているんだそうよ。」
「そうですか、この星では株取引は、ありますか。」
「もちろん、あるわよ。我々もUFOで地球に行くけれど、移動中に株取引をする場合もある。UFOの中の宇宙人って何をしているか、地球の人は考えないでしょう。じっとしていても、つまらないしね。地球の日本でも新幹線に乗って、あるいはリニアモーターカーに乗車中にスマートフォンで株取引は、できる。それと同じですよ、UFO内での株取引は。」
輝美子はヨットの船べりに両手をつくと、空を見上げるようにした。
湖ではヨットは他には見えない。それについて流太郎は、
「今日は、この星も日曜日なんでしょう。この辺は人もあんまり、来ないんですか。」
と質問する。ヨットの揺らぎが、彼には心地よかった。
「この辺は日本で言う田舎なのよ。もう少し暑く成れば人も来るわ。少し富裕な人達は他の惑星へ旅行しに行きます。地球にあるパスポートは、この星にはない。この星の国に軍隊はなくて、他の惑星からの攻撃を想定した軍備が、あるだけよ。だから国は、いくつかあるけど、この星にはパスポートは要らないし、他の惑星に行く際もパスポートは不要よ。いいでしょ、こういう国、星って。」
二つの太陽は均衡した輝きを見せていた。流太郎は夢のような国だ、と思い、
「地球も、いつか、そうあるべきだとは理想論として言われてきましたよ。でも、現実は・・・国の状態は二十世紀と同じですからね。救世主なんて結局、現れなかったし。」
輝美子は投げやりな微笑みを見せると、
「この星では地球は野蛮な星だという事に、なっているのよ。地球を指導している宇宙人なんて、いないわ。地球は観光に適しているとは思われていない。太陽は一つしかないし。むしろビジネス目的なら行ける。わたしも南出裳部長から沢山の報酬を出すから、と言われて地球に行ったわけ。宇宙なんて、とても広すぎるから地球人は、ほんの砂粒みたいな部分しか知らない。太陽が三つあって、夜のない星もあるわ。観光に適した星は、そこね。その星は人類は、何故か存在していなかった。核戦争で絶滅したのかしら。トウモロコシ畑みたいな所のそばにバナナが実っている。高い山に登れば林檎の木があるという素敵な星よ。」
流太郎は眼をギラッとさせ、
「食べ物には困らないんですね、鮫肌さん。」
と合の手を打つ。
「食べ物は、この星でも困る事はないわ。このヨットは水の中にも潜(もぐ)れる。」
鮫肌輝美子はヨットの側面にあるボタンを押した。するとヨットの両側から鉄の壁が突き出して、それは先端が斜めになり両方が接合した。つまり、その鉄の板はヨットの屋根になったのだ。
流太郎は驚いて、その鉄の壁を見ると潜水艦にあるような丸い小さな窓が両側の壁にあり、まだヨットは湖の中に潜っていないようだ。
 輝美子は別のボタンを押す。するとヨットは湖中に潜行し始めた。
丸い窓に見えていた湖上の風景は湖水に変わり、ずんずんと湖底に潜水艦へと変貌したヨットは降りて行っているらしい。
 流太郎は熱心にガラス窓を見ている。それは地球にあるガラスとは違う物質で出来ていて、地球のガラスより硬い。それはガラスにして鋼鉄のように硬いものなのだが、流太郎には透明度の高いガラスに見えた。そこに映ったのは湖中を泳ぐ大きなフグ、さらに深くなると巨大なサメのような生物。それも通り越すと潜水艦ヨットは湖底に着床したらしい、振動もなしに。輝美子は、さらに別のボタンを押すと次にヨットは自動車のように湖底を走り出した。ヨットにして潜水艦、次は自動車に変わる。なんという多性能な乗り物だろう。こんなものが、さりげなく湖に繋いであったなんて。
さぞや高価なレンタル料と思い、流太郎は訊いてみる。
「鮫肌さん、すごい乗り物ですね。随分、高いんでしょう、これ。」
「いいえ、そんなに高い物じゃないわ。地球の日本の煙草、ひと箱位かな。それで一日、乗り回せるわ。」
「そうそう、動力を聞いていなかったな。この乗り物の動力は何ですか。」
「最初は風で、次は調整重力よ。」
「調整重力。って何でしょう、それは。」
「この星にも重力がある。それを多方向に変えられるし、重力の強さも変えられる。はるかな太古に、この星で重力調整機が発明された時は、それはとても高価なものだった。でも生産が進めば価格は下落するもの、今では湖上のレンタルヨットにも使われているのね。」
「はあ、地球でも電化製品は似たような価格の変動ですね。」
「星の重力は下へ引っ張るけど、それを逆にしたり横にしたり出来るから、その力で、この乗り物は動く。UFOタイプは星間重力を応用しているものも、あるわ。」
「セイカン重力?精悍な男性とかの・・・。」
「星と星との重力ね。月と地球は引っ張り合うし、太陽は太陽系の惑星を引っ張っている。でも月や地球も太陽を引っ張るから、拮抗した力が惑星と恒星の距離を生み出して二つは衝突しない太陽系となっている重力を応用するのが、この星の一つの科学。地球人類には想像もできないものね。」
流太郎は沈黙してしまった。湖底を走っていたのが停車したらしい。流太郎は見た。ガラス窓に映っているのは金色の五重塔みたいな建物だ。湖水は金色とはいえ、薄い金色で湖中の中も見えるのである。だからフグもサメも、さっき流太郎は目撃した。
でも五重塔が湖の中に、あるなんて。しかも金色の五重塔だ。その五重の塔の一階の部分が左右に開いた。だが、その中に湖水は流入しない。流太郎が乗ったヨット型多性能乗り物は、その五重の塔の一階に入っていった。
 そこに入ると壁が閉まる。湖水は一滴も入り込まなかった。そこは地下駐車場みたいな場所で、常駐の男性の中年男の警備員がいた。
輝美子はボタンを押して鉄の屋根をヨットの両側に降ろす。
二人の姿を見た警備男性は、
「やあ、いらっしゃい。鮫肌さんでしょう?」
と日本語で聞いた。輝美子は、
「ええ、湖底日本人労働施設って、こちらですか。」
「はいはい、そうですよ。私も、ここで働くには地球の日本語を話せる方がいいと思って勉強しました。施設長から今日、鮫肌さんと日本人が来ると聞きましたから、二人が来たら中へ通すように言われています、施設長からね。さあ、入り口を開けますから。」
と話す、鼻の下に髭を生やした警備員だ。
鮫肌輝美子はヨットの座席を立ち上がると、
「さあ、時君、行くわよ。」
と声をかける。
日本人労働施設に入る?のだろうか、自分が?というより自分も?なのだろうか?
「行かないと、いけないんですか?あそこに。」
「入ってみないとね、貴方も日本人だし。さあ、さあ、お代は要らないから。」
流太郎は動かずに居座っても、いずれは連れて行かれると考え、それなら仕方ないと立ち上がった。
 五重の塔の内部ではあるが、そこは古風なものではなく白い壁の、白い廊下に白いドアが、廊下の両側に並んでいた。ドアが地球のものと違うのはドアノブがない、というところか。どうやって開けるんだ?と流太郎は思ったが、その一つのドアは横に開いた。警備員が手にしたリモコンのようなものでドアを開けたらしい。
そのドアの内部の部屋は大きな図書館ほども広く、本棚みたいなものも並んでいた。図書館にあるような広い机があり、そこに十人ほどの日本人が椅子に座って大きなパソコンに向かっていた。
流太郎は(労働施設って図書館の中でパソコンで仕事をする事か)と、思う。見たところ労働という雰囲気でもない。図書館で司書が座るようなところにいた若い男性の人物が立ち上がると、鮫肌輝美子と流太郎と警備員に近づいてきて、
「ようこそ。施設長から聞いています。鮫肌さんと日本人が来る事は。」
と気軽に話した。流太郎は自分も労働させられるのか、と思い、
「どんな仕事をしているんでしょう?彼らは。」
と尋ねてみた。
若い男性はニッと笑い、
「マイニング(採掘)ですよ。」
と説明する。彼らのしている仕事はマイニングなのか。
「マイニングって仮想通貨のマイニングのような事ですか。」
「そうです。この星の仮想通貨のね。人手が足りないから地球から来てもらったんです。日本人で仕事にあぶれている人は多いから、喜んで来てくれましたよ。UFOから現れて、ハローワークに並んでいる人に声をかける。その時、UFOは人間の肉眼では見えない、それと監視カメラにも写らないように、ある光線で保護膜を掛けておきます。人間の目に見えなくても監視カメラに写っていた、となると後で大問題でしょう。ハローワークにUFOあらわる、なんてね。それは一大センセーションです。そうならないように、していますからマスメディアなどは、もちろん、誰も我々に気づく事はない。それから話しかけて手ごたえのある人には喫茶店に誘って、話をしてみる。
「お仕事を探していますか?いい仕事が、ありますよ。」
とね。そしたら、
「本当ですか。ハローワークでも中々、いい仕事が見つからなくって困っています。」
と中年の男性などは、言いますね。
「四十代、課長クラスの首切りが人件費の軽減には、とてもいいから会社は躊躇うことなく実行するんですよ。もしかして、貴方も、そうですか?」
そうしたら、その男性、首を前に曲げて、
「ええ、上場企業で働いていましたけど、首を切られました。会社で何十年も働いた末に、それです。ハローワークで仕事を見つけていますが、私の前職の会社が、それなりのもので給与面でも、それに該当するものが中々、ないというのもありますね。」
「なるほどね。四十で転職も難しいのは日本では当たり前ですね。ヘッドハンティングは、もう少し年齢が上の人達を狙うものです。四十代が一番、転職しにくいものかもしれませんね。」
「そうですかね、やっぱり。コンピューターエンジニアだったんですが、大昔に比べると人材も多くて、若い人ほど最近の技術に詳しく、ともすると私のような年配は負けてしまいます。それで課長のような仕事をしていたんですが、特に要らないからと肩叩き、で依願退職させられました。退職金は貰ったんですが。毎日、することもなく自分で企業を立ち上げる力もなく、週に三度はハローワークで職探し。しますが、大手企業はね、ハローワークに求人を出さなくてもいいわけですから。で、ネットで職探しも叶いません。
第一、大卒者の仕事がない時代に又、なっているでしょう。」
「ええ、そうみたいですね。」
「何処の企業も人手不足はないです。ベビーブームなんて日本には再び、なかった。だから、そういう世代が辞めて会社は人手不足になる、という、ずっと大昔のような、そう、あれは平成とかいう頃でしたかね、そんなのもなかったでしょう?今までの日本では。」
「ああ、そうですね。人口も減り続けてますよね。又。」
そう答えた私の顔を見て、彼は、
「あなた日本人では、ないんでしょう?やはりヨーロッパの人、ですか。」
と聞いてきたので、
「ええ、北欧ですよ。」
と答えておくと、
「へえー、そうですか。そしたら、あ、そうだ。北欧に仕事があるんですね、だから声を掛けてくれたんだ。」
と嬉しそうです。
「そう、そんなものに近いですかね、ええ、ええ。」
彼は両手を胸の前で組んで、
「お願いします。コンピューター関連なら、一通り出来ますから。」
と私に頼み込む。
「おお、それは、こちらも希望していたところですよ。ご家族は、いらっしゃいますか、貴方。」
「いや、それが独身です。女房はいたんですが、私の給与が彼女の思うように上がらないせいか、イケメンのホストと同棲しているらしいですよ。取り戻すつもりは、ないし。」
「お子さんは、いらっしゃいますか?」
「いえ、ちょっと女房が不妊症らしくてね、ええ。」
「それでは気軽なものじゃないですか。」
「でも北欧でしょう、あなたの会社。」
「ん、まあね、遠いですけど、すぐ行けますよ。心配ないです。」
「パスポートとか作らないと、いけません。それは、県庁に行けば、いいから。暇だから、いいけど、北欧の言葉は何も知りませんよ、私。」
「語学は心配いりませんよ。日本語の分かる人達の部署が、あります。それに、そこは他にも日本から来た人達が働いていますから。」
彼の目は暁の星のように輝きました。
「それは、いいなー。すぐにでも、行きますよ。お国は、どちらですか?」
「行けば分かります。すぐに乗り物を用意しますから。」
と喫茶店を出て、会計は私持ちで。
近くにある広い公園。平日の午前なんて誰も、いません。私は空に向かって指を鳴らす。即座にUFOが私達の目の前に着陸。四十代の元、課長の男性は、
「な、な、なんと空飛ぶ円盤では、ありませんか。あなたは、もしかして、宇宙人?」
と幾分、顔が青ざめています。
「そう、その通りです。でも、ご心配なく。大昔のSFみたいに侵略目的で来ているのでは、ありませんから。」
「そ、そうみたいに見えます、が・・・・。」
「どのみち日本にいたって仕事は、ありませんよ。いい思いの出来るのは一部の日本人だけです。又、そういう社会になっているんです。こんな国に未練が、ありますか。」
と諄々と私は説きました。
「そう言われれば、その通りです。いや、ありがとう。あなたは日本語が巧い。それで声だけ聞いていれば日本人と思ってしまう程です。国際社会というより宇宙社会の時代かもしれませんね。私は運が、いいのかもしれない。行きますよ、貴方の星へ。」
という事で、彼にも宇宙船に乗ってもらえました。」
と、その若い男性は揉み手をして話した。
流太郎は、
「マイニングって地球では電気代が、とても、かかるという事らしいですが。」
と質問すると、その若いレプティリアンは、
「この星ではフリーエネルギーです。電力は無料なんです。」
と即答しました。
流太郎は次に、
「それでは電力会社の給料は、どうやって調達しますか。」
と尋ねると、
「それは、もう、税金ですよ。ですから電力税は、ありますね。」
「電力を使った分の税金、ですね?」
「ええ、そうです。おっしゃる通り。」
「それでは、やはり電気代、ならぬ電力税を多く払うという事になりませんか。」
「それは、その、国家的プロジェクトですから。我々の給料も税金ですから。」
「ああ、なるほど。それなら分かります。」
「仮想通貨のマイニングは我が国の国家予算で支払われます。いずれ、地球の仮想通貨と連動させなければ、ならないと思います。」
壮大な計画だ、と流太郎は思った。
やはり、まずはビットコインとの連動か。でも、他の惑星、それも何万光年も離れた星と仮想通貨を連動させる、には?流太郎は、
「どうやって、連動させますか?」
と聞いてみた。
「あ、それは簡単です。取引所を開設して新規コインを発行する。大昔、月の土地を売買している会社がありましたが、あんな風にするのもいいでしょう。もっとも、月には先住者がいるから本当には月の土地は勝手に売買は、できませんけど。真実を知る国は月から撤退しているでしょう。中国の探査船は、しばらく泳がせておくらしいですが。」
日本が月面に宇宙探査船を着陸させなかったのは経済的にも、よかったのだろう。流太郎は、
「仮想通貨で地球でも大儲けですね。」
と言ってみる。
「ええ、そうですよ。ここでマイニングの仕事に従事しませんか?」
と流太郎は誘われた。
「労働時間は、どの位でしょうか。」
「一日、六時間ほどです。」
なんと短い。それでは労働とは、いえない。地球の感覚としては。
「そんなに短くて、いいんですか。」
と流太郎は訊き返す。
「わが国の平均労働時間は三時間ほどですよ。週休三日制ですね、それに祝日もあります。」
「そんなに休みが、あるんですか、へえー、。」
「ゴールデンウイークは希望する人には二十日休めますよ。」
「二十日も。そんなに休んで、収入の方は大丈夫なんですか。」
「もちろん。そうでなければ休めませんよ。ね、鮫肌さん。」
管理者らしい若い男は輝美子を見て云う。
「ええ、そうです。わたしも今度、十日休む予定ですから。」
それに対して管理者曰(いわ)く、
「鮫肌さん、働きすぎですよ。彼氏と別れたの、いつでしたか。」
「三十年位前かな、ふふふ。」
管理者は流太郎を一瞥すると、
「地球人と、付き合うのもいいかもしれませんね。その人も、でも仕事がないんでしょう?鮫肌さん。だから、ここへ連れて来た。」
と身を乗り出す。
流太郎は慌てて、
「ぼく、仕事はあります。今日は日曜日だから、休みでした。鮫肌さんも、この星が今日は日曜日だと言いましたけど。」
と遮るように口を出す。鮫肌輝美子は落ち着いて、
「この人にはマイニングを見学してもらいたかったのよ。働いてもらう気は、わたしには無いけど。」
と解説した。
若い管理者は両肩を落とすと、
「それは申し訳ありませんでした。ここのマイニングは労働者の自由意思で休日も働きたい人は、働いてもらっています。その分、貰える報酬が増えるからです。現金の他に仮想通貨も支給しますから、株のストックオプション制度に似ていますね。」
と、それでも、まだ流太郎にマイニングしてもらいたさそうだった。輝美子は流太郎の視線を追うと、彼はもうマイニングの作業を見ていなかった。それなので、
「そろそろ、ここを出ましょうか?時さん?」
「は、ええ、出たいですね。」
「それじゃ、若き管理者さん、さようなら。」
「お疲れさまでした、お気をつけて。又、よかったら、この日本人労働施設に、お越しください。」
残念そうな、その管理者の視線を振り払うように流太郎は身を翻して輝美子に続いた。
 潜水艦ヨットに戻った二人は、さっきの警備員に門を開けてもらう。扉というより、その階の壁の全てが開いても湖水は流入してこない。輝美子は右足を押してエンジン、それは重力調整装置だが、を発進させた。潜水艦ヨットは湖水に潜った時、すでにヨットの帆は鉄の屋根の中に降ろされている。流線型の船体を再び、黄金色の湖水の中に辷(すべ)らせていく。
 それにしても、と流太郎は思う。今日は地球では日曜の午後だった。だが、もう、だいぶ時間が経過したから日没へ向かっている筈だが、湖水の中とは言え明るすぎる。時差?なのか。それを聞いてみよう。
「鮫肌さん、今、午後なんでしょう、この星で。」
「いいえ、まだ午前中よ。もうすぐランチタイム。貴方は何を食べる?」
「ぼくとしては夕食になります。何があるか知りませんから、何を食べられるんですか。」
「あら、ごめんなさい。そうだったわね。地球人のあなたが知る由もないわよね、この星の食べ物を。あ、そうそう。お腹がまだ減っていないのなら、このキャンディーをあげるわ。」
潜水艦ヨットの中央にあるテーブルのようなものの中から、輝美子は丸い包みの小さなキャンディーを流太郎に差し出す。それを受け取り、流太郎は両手でキャンディーの包装を開けると、メロンの色をした丸いキャンディーだった。
口に入れると流太郎は、地球のメロンより更に甘い味覚を味わった。
 輝美子は大きな丼のようなものを手にしている。丼の中は空だ。彼女はヨットのパネルの一つのボタンを押すと、
「xqw88::::」
とでも聞こえる、その星の言語で何か話した。何かを注文しているようだ。その話しを終えると輝美子は流太郎に、
「今、食事の注文をしたのよ。」
と話す。
彼女が持つ銀色の丼の中にクリームシチューのようなものが底から湧いてきた。丼の上部に細長いフランスパンが二つ、並んだ。輝美子は流太郎にフランスパンの一つを手渡し、
「食べてみてよ、おいしいよ、これ。」
と勧める。流太郎は、
「ありがとう。いただきます。」と礼を言うと、それを口の中に頬張ると、そのパンの中に細長く切られたメロンが果実として入っていた。(これが本当のメロンパンだな)と流太郎は、舌先の心地よい食感を堪能した。輝美子はフランスパンを食べ終わって、ドンブリの容器を手に持つと右手で丼の側面にあるボタンを押す。すると丼の中のクリームシチューのようなものが噴水のように沸き上がり、彼女は、それを口の中に入れてしまった。
不思議な事に丼の底まで、綺麗にクリームシチューらしきものが無くなっていた。輝美子は、
「それでは、と。上昇するわ。」と宣言する。潜水艦ヨットは湖面に向かって急上昇した。黄金の水の上に現れたヨットは潜水艦の鉄の壁を降ろし、その代りにヨットの帆を広げた。爽やかな、そよかぜが二人の頬を心地よく撫でる。
輝美子は計器盤のようなものを見ると、
「地球の日本では日没のようよ。時さん、ここから帰りなさい。」
「えっ、ここから、どうやって帰るんですか?考えられない事です。」
「貴方を光線に分解して、瞬時に地球へ戻すから。」
輝美子は計器盤にある一つのボタンを押した。その近くから流太郎に投射された黄色い光は、彼を包むと小さなスピーカーのような物の中に吸収された。流太郎の姿は、もう、その星には見えなくなっていた。

 流太郎は気が付くと、地球の日本の自分の部屋にいた。(あれ、今までの体験は夢だったのか・・・)と思ってみる。が、しかし、口の中に残っていた地球のものより甘いメロンの小さな果肉が、舌先に触ると、(やはり、あれは本当にあった事だったんだ!)
部屋は薄暗かった。太陽が沈んでも、しばらくは闇にはならないものだ。それでも部屋には照明が必要だ。流太郎は携帯電話で照明をつけた。これは部屋の外からでも、できる。インターネット接続で可能なもので、別に不思議なものではない。
不思議なのは鮫肌輝美子に連れていかれたレプティリアンの星だ。黄金の湖に、その中にあった五重の塔のマイニング施設。この事を誰かに話したい。今はまだ19:00PMだ。よし、電話を掛けよう。
流太郎はノートパソコンから通話する。パソコンの画面に株式会社夢春の籾山社長の顔が現れた。籾山も自分のパソコンを見ているようだ。籾山は口を開くと、
「日曜の今頃、どうしたんだ?時。」
と聞く、流太郎は、
「社長、今日は、とても不思議な体験をしました。五万光年先のレプティリアンの星に連れていかれたんです。」
「ほ、お。有り得るかもしれんな、そういう話。」
「潜水艦ヨットにも乗せてもらったんです。我が社でも開発できたら、いいと思います、潜水艦ヨットを。」
「そんなものは無理だな。資金なし、技術力なしだ。それより時、営業に行ってもらいたいんだ。明日、会社で話そうと思っていたが、丁度いい、今、話そう。」
「は、どこへ行けば、いいので。」
「あるUFO関係の団体が福岡市内にある。そこのホームページのサイバーセキュリティの依頼が、今さっき突然来た。会社に誰もいない時は、おれの携帯に転送される。日曜だけどな。だから、時。おまえも働いてくれ、とはいっても、そこに訪問するのは明日でいいよ。」
社長の籾山はパソコンの画面の中でニヤッと笑った。流太郎は、
「分かりました。明日、朝一番に行きます。」
「ああ、頼んだぜ。楽しみにしているよ。」
パソコンの画面から籾山社長の顔は消えた。向こうの方で電話を切ったのだ。
 翌朝、流太郎は早朝に出勤した。社長の籾山は、それより早く出社していた。さすがは社長か。籾山は社長の椅子から立ち上がると、
「やあ!早く来てくれると思っていたよ。先週より今週の我が社の株価に期待していい。それよりなによりも、まずサイバーセキュリティの営業に行ってもらいたい。出先は昨日パソコン電話で君に話した福岡市内のUFO関連団体だねー。中央区薬院にあるのさ。とあるビルの一室らしい。私はまだ行った事が、ないビルだ。ビルの名前はパインアップル・ビルらしいよ。地図も渡して置く。君の机の上に置いてあるから。」
籾山は貫禄の出て来た体格になっている。少し、腹も出て来た。流太郎は未だに線のように痩せた体だ。
「分かりました。行ってきます。」
「がんばってくれよ、ね。」
流太郎が部屋を出ていく時、籾山は右手を振った。

 福岡市中央区薬院は福岡市の中心部の天神より南にあり、私鉄の駅としては天神駅の南にある。この天神という名称は、小さな天満宮が祀られているところがあるところから、だ。今ではビルの谷間の中に、ひっそりと存在する。高度なテクノロジーの時代になっても、日本には、このような社が存在し続ける。
それは、かつて羽田空港を建設した際にも起こった、社を取り除けようとすると怪事が起こるからでもあろう。
私鉄の薬院駅を降りると、ビルが乱立している。国道から南へ五分も歩くとタワーマンションが、いくつも見えた。流太郎の小学校の同級生も、あのタワーマンションの中に妻子と住んでいると彼は聞いている。
この薬院ではタワーマンションが増えすぎて、小学校の教室に生徒が入りきれなくなった。それで、どうしたかというと小学校の建物も上に増築していったのだ。タワー小学校みたいに見える建物が流太郎の瞳に反映した。彼は歩道の区分のない道を、のんびりと歩いていく。UFO関係の団体か。福岡市では珍しい組織。いや、組織では、ないのかも。会社でも、ない団体だろう。流太郎にとってUFOとは見慣れて、乗りなれたものなのだが。だが、二十二世紀の今日でも一般的な日本人は空飛ぶ円盤に接触する人は少ない。そもそも明治の前の江戸時代は、もちろん、大正、昭和の初めまでUFOなどというものは誰の口の片隅にも上る話題ではなかった。それは世界的にも、そうではなかろうか。世界で最初にジョージ・アダムスキーがUFOを目撃したのみならず、中から現れた金星人と会話をしたのが1952年で、その会話は、もちろんテレパシーだったそうだ。流太郎の場合、異星人は日本語を知っていた。どころか流暢に話してくれたのだ。地球では外国に行く場合には外国語を知らなければ、いけない。日本に来る外国人は、おぼつかない人もいるけど大抵、日本語は勉強して、来る。地球に来る異星人は地球の言語を学習しているのだろう。それよりも、これから会う団体の主催者は日本人ではないらしい。
メールド・ヨハンシュタインという名前らしい。長年の活動で会員名簿も増え、クレジットカード決済もホームページ上に載せているためサイバーセキュリティが必要だ、そうだ。というのは電話で聞いた話。と頭の中で流太郎は思い出しつつ、目の前に見えたのはキリスト教の教会のような建物だ。
UFOアプローチ・ジャパンと横書きの表札があった。鉄条門のため庭らしきところも見えるが、入れない。と思ったら、スルスルと鉄条門は横に開き、流太郎が通れるくらいの隙間は空いた。(どうしようかな)と流太郎が思っていると、門のところにあるインターフォンのスピーカーから、「時さん、お入りください。」と若い女性の声がした。メールド・ヨハンシュタインは女性だったのか。流太郎は遠慮なく門内に入る。西洋風の庭園を横切ると玄関があり、そこでもチャイムを鳴らす前に玄関のドアは開いたのだ。
 玄関のドアの中にいたのは若い女性で、透明のような白さの肌の若い女性だった。緑色の瞳で、黒く長い髪は彼女の肩の下まで伸びている。流太郎は会釈すると、
「株式会社夢春の時と申します。サイバーセキュリティの件で今日は、お伺いしました。」
その女性はニコリともせず、
「ヨハンシュタインは不在ですが、わたしが応対します。さあ、中へ。」
と明瞭な日本語で話した。
西洋館らしく、靴は脱がなくてもいい。その女性がドアを開けた部屋は事務所らしかった。机は二つあって、ノートパソコンが置かれている。サイバーセキュリティが必要らしい。流太郎は、それらのパソコンを見ながら、
「ハッカーが欲しいのは、お金よりもUFO情報じゃありませんか?」
と尋ねると、その女性は、
「ええ、何度か狙われました。情報の一部はファイルごと持ち去られたものもあります。幸い、それらのファイルは、それ程、機密の高いものではなかったのですが。申し遅れました、わたし、ジェノア・フランシスといいます。」
彼女の瞳は深い湖のような静けさを漂わせている。流太郎は、
「こちらこそ、申し遅れまして、すみません。先ほどは苗字だけでした。時流太郎と申します。」

sf小説・未来の出来事6 試し読み

 それで流太郎は、
「テスラ波で何の情報を送っているんだろう、地球から。」
と綸蘭に聞いてみた。
「バリノさんの話では、地球の全人口とかも送られているらしいわ。」
「そんな事まで!他には、どんなものを?」
「世界各地の気温とか、湿度とかなどもね。スフィンクスの目を通して世界各地を撮影しているらしいけど。」
「エジプトのスフィンクスは、そのために、あったのか!」
 なるほど古代に現れた宇宙人は粋なものだ。美術品的な建造物に実用的な目的を潜ませる。それでエジプト人は何ら怪しみもせず、又、現今までスフィンクスの本当の目的を人類は知らずにいた。綸蘭は続けて、
「その情報は火星にではなく、プレアデスに送られているとも言われています。プレアデス星人は大体において善なる存在だそうだから、地球は安全なのよ。そうでなければ地球人は奴隷以下の存在として扱われていたでしょう。」
流太郎は、善なる宇宙人だからこそ地球人は宇宙人に対して無知でいられたのだろうと思った。数限りなく多くの人達、特にメキシコやマレーシアで目撃されたUFOでさえ、他国のアカデミックなところでは黙視されてきた。それは自分達の拠り所とされる地球の幼稚な科学的根拠が崩壊するからである。そもそも地球の宇宙に対する科学の程度は群盲がゾウの体をあちこちと撫でているのと同じで、ある者はゾウの尻尾を象だと言ったりしている。いずれ天動説が崩れていったように地球人は自分達よりも数万年か数千年進歩した宇宙人の存在を認めなければ、ならなくなるが、天動説を当時の教会が固執したように現代においても地球オンリー説に固執するところが存在する。
一つは頭がいいと己惚れている大学教授らが断固として宇宙人の超科学を否定し、太陽は爆発し続ける星だという今の地球の科学で説明可能なものにしていなければ、更に無知なる大衆の失笑、非難を買うこと必至であるがため、新しい正しいものを否定し続ける。それを旧来のメディアは追随してきた。ところがガリレオ並みの勇気ある人たちが動画共有サイトで火星の真実なども暴露、リークし始めたのは随分前からだ。
博多湾の上に浮かぶ愛高島も世界第一の不思議と称えられても、その原理は今の地球の科学では解明できない。ヘリコプターや飛行機、さらに高度な地点での人工衛星などによって愛高島の島の上を実際に見ることができるのだが、それらのものが出来ていない時代には愛高島は地上からしか見ることが出来なかったのだ。
真上綸蘭は一息つくと、
「一つ下の階で映写室があります。そこで何か面白いものを放映しているみたいだから、行きましょう。」
と若い女性らしく流太郎を誘った。
下の階へ行くエスカレーターのところにいくと、綸蘭は、
「どちらかの手を手すりにかけると、体が浮くわ。見て。」
と説明し、エスカレーターに乗ると右手を手すりに掛けた。すると不思議!綸蘭の体は足の下が数センチは浮き、右手で支えた形になる。
昔、いたイギリスのマジシャン、ダイナモがロンドンを走るバスに片手で手のひらをバスの車体の側面につけ、空中に浮いたままの姿勢でバスが走っていく、という動画共有サイトで見られた光景を思い出してもらえば、分かりやすい。
綸蘭の場合はエスカレーターの手すりに右手で、それを行っている。流太郎は、
「すごいなあ、僕にもできるのかね、それ。」
と後ろ姿の綸蘭に訊くと、エスカレーターで下りゆく綸蘭は、
「誰でも、このエスカレーターでは出来るわ。やってみて。」
と返事をしてきた。
流太郎も右手を手すりにおくと、エスカレーターの上で流太郎の体は数センチ浮上した。
「うわああっ、浮いたよー。」
と叫ぶ流太郎は先にエスカレーターで降りて、その近くに待って立っている綸蘭の睫毛を伏せている笑顔を、下降しながら見た。
 不思議な映写室とドアの上に表示されていた。そこへ入ると、まだ観客はいなかった。やがてブザーのような音がして館内は暗くなる。綸蘭と流太郎は最前列の中央で並んで、映写幕に映るものを見ていくことになる。
大きなスクリーンに石器時代の地球が映し出された。次に現れたのは古代人。簡単な服を着て、手に石の斧を持っている。
次にマンモスが現れる。その時、この古代人が巨人、である事に見ている二人は気づいた。
身長四メートル以上だ。彼はマンモスと戦い、石斧でマンモスを倒した。
ドスンッ!と倒れるマンモスの肉を石斧で切り刻み、巨人は、その肉を抱えられるだけ、抱えて森林の中の洞窟に持ち帰った。その洞窟は巨大なもので、そうでなければ巨人は暮らせないだろう。中には若い女性、おそらくは巨人の妻であろう、これも又、巨人の四メートルはあろうという体を洞窟の中で座って待っていた。
その巨人の女性は胸は、なにも纏わず、白い乳房を露出している。巨大な胸だし、乳首や乳輪も巨大だ。現代の普通の女性の二倍以上の乳房だ。顔や腕、足もその位の大きさで、巨人の女は腰の周りに白い布を巻いている為、陰毛や尻は見えない。
スクリーンに但し書きのような文字が現れ、
これから行われる会話は日本語で字幕として、画面下に現れます。
古代巨人夫妻は会話を始める。妻が、
「わあ、すごい!マンモスなの?今日は。」
と両手を叩いて乳房を揺らせた。
「ああ、簡単に倒せたよ。」
洞窟の中では小さな焚火が燃えている。妻は夫が置いたマンモスの肉の一部を手に取ると、焚火で焼き始めた。彼女は、
「炭も置いているから炭火焼きなのよ。おいしくなるわ、今日の焼肉。」
と古代人にしては知恵がある発言、それとも巨人として当たり前な文化の度合いを示す発言なのか、それを楽しそうに話した。横から見える彼女の姿は尻の膨らみも凄く、百八十センチはヒップサイズとして、あろう。バストも百八十センチほど、あるらしい。ただ洞窟の中では彼女の体と対比するものが、ない。スクリーンで見ていても、黒い長い髪の、白い肌の、目も黒色の成熟した女性としか見えない。
焼肉の二枚目を火にくべようとした時、美巨人女性の腰の布が落ちた。巨人の男は寝そべって、妻を正面から見ていたので、彼女の大きな股間の黒い恥毛と、その下の女の縦の溝を見てしまった。
「おうい、焼肉より、おまえのその足の付け根の穴の方が、おいしそうだなあ。」
と涎を垂らしながら巨人は立ち上がる。その時、巨人のペニスも隆々と勃起していた。勃起すると男の腰の布は落ちるようになっているらしい。巨人の男のペニスサイズは五十センチは、あるだろう。妻は、それを見ると、
「いつみても逞しいわ。早く、ほしい。」
と話すと、二メートル近い白い両脚を広げて寝そべった。
画面に
学術的に作成された映像ですので、真摯に観察しましょう
という但し書きが出た。
巨人の男は妻に、のしかかると五十センチを妻の細長い、現生人類の二倍強の女性器に挿入していった。
巨人であるから荒々しいセックスかというと、そうではなくてスローセックスともいわれるもので、映像は二時間も二人の巨人の性交を描いていた。流太郎は綸蘭の横顔を見たが、彼女は真剣に古代人の性行為を眺めていた。
文章での記述では会話は日本語で表記したが、映像の中では古代語と思しき言語が交わされ、性交中に美巨人女性が発する声も古代語らしく、
「ええあっ。」とか、「あうあうあうんっ。」と聴こえる快感の言語的表現もあった。
二人の身長が四メートル以上という事を頭に入れておかないと、ただの古代人の性交映像と見られてしまうだろう。
性交は終わった。巨人の男は焼けた肉を手に取って食べると、
「よく焼けすぎたな。まあ、ウェルダンだから、いい。」
と焼肉の焼け方の評価をした。
美巨人女も焼肉を食べ、
「おいしい、ね。お腹もいっぱいになると、又、セックスしたくなったわ。今度は外で、しましょう。」
と男の三十センチに戻ったペニスを右手で掴んで立ち上がる。
「おっとっととと。急いで立つと、ちんこ切れてしまうぜ。」
巨人男も慌てて立ち上がる。スクリーンに
野外セックスも学術的興味を持って御観覧ください

 二人は晴天の森の中で、長い木の枝の下で立ったまま結合すると、二人は両手を伸ばして木の枝に掴まり、ブランコで揺れるように性交時の結合のまま、空中を揺れた。
二人の巨人を同時に支える木も巨木で、枝も太い。巨人の女は両足の裏を巨人男の尻に絡めている。
サーカスで男女が揺れるものが、あるが、古代の巨人の男女は性交したまま、それも二人が向き合ったままでの結合状態で大きく揺れているのだ。
巨人の男は、
「おお、たまんねえ。次は位置を変えよう。一度、木の枝から降りるべえ。」
と妻に話すと、
「そうするわ、うええ、あうううっ。」
二人は木の枝から離れると、地面に着地し、体を離す。次に巨人の美女は背中を夫に向けて、両脚を大きく開く。夫の巨人は再び五十センチになった、巨大な男根を妻の巨大な女性器に深く挿入、そのまま二人は巨木の枝に手で掴まり、ぶらさがると前後に結合したまま体を揺らせていった。
ここで映像の一部は終了した。
流太郎は、
「続きは、あるんだろう、これ?」
と綸蘭に訊くと、頬を染めた綸蘭は、
「この映写室、まだ一般には公開されていないの。続きは製作中という話よ。」
「あれさー、俳優がやっているんだねー。」
「いいえ、CGによる古代人の再現映像です。」
「それにしては、よく出来ている、凄すぎる。」
「現存の人類の記憶には、ほぼないものをアカーシック・レコードから採取して火星の映像制作会社が作ったものなんです。」
「アカーシック・レコードって、なに、それは。」
「人類の発生から現在までの全ての出来事を記録しているのがアカーシック・レコード。」
「映画は終わったから、出ないといけないんじゃないか。」
「入場者は他に今日はない、というより、まだ一般的に未公開だし、わたしの権限で、いられるのよ。」
「それなら安心だ。僕のアカーシック・レコードも何処かにある、という事だね。」
「誰のも平等にある。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の分まで、あるかは、わからないけど。」
「神話の神様の伊弉諾尊だろう?神界は深い海の深海のように理解できない。」
「それよりも今日は何か動くって、バリノさんが言ってたわ。」
「何が動くんだろう?」
「さあね、それは、わたしにも分からないわ。出ましょう、ここから。」
綸蘭はスラリ、フワリと立ち上がった。映写室を出ると、例の片手で手すりに摑まると足が宙に浮くエスカレーターに乗って、二人は一階に降りた。そこにレストランがあった。
綸蘭はガラスの向こうに見えるメニューを見ると、
「食事にしましょう。時さん、お腹、空腹じゃないの?」
「そういえば、昼になったね。ここのレストラン、変わっているな。」
「最先端のレストランなのよ。牛鰻定食って、面白そう。高いけど、わたし、これにする。」
「僕も、それにするか。真上さん、中に入ろう。」
二人は、その店の前に立つとガラスの扉が開いた。のみならず、二人の立っていた床面が店の中に移動したのだ。それで、二人は歩かずに店内に入っていた。
店内は牛丼屋みたいで、チェーン店とかと違うのは座敷がある。店内は誰もいなかったのだ。店主らしき中年男が、
「いらっしゃい。四人が座れる座敷にどうぞ。うちは高いのか、あまり、お客さんが来ないので貴方達は大歓迎です。」
と声をかけてきた。板前風の白い和服の上下を着た店主は、座敷に向かい合って座った綸蘭と流太郎に、おしぼりと、お茶を持ってきて、
「なんにしましょうか。とりあえず、ぎゅううな定食は、おすすめです。」
と話す。綸蘭は、
「鰻と牛肉が入った丼ものね。」
と訊く。店主は、
「そうだけど、これが御客さん、牛の体の一部が鰻になっている牛を使っているのですよっ。」
と説明する。綸蘭と流太郎は同時に笑うと、流太郎は、
「そんなー、また、また。」
と受け答える。店主は真顔で、
「本当なんですよ。この島の管理者はバリノさん、ていう火星人だけど、」店主は綸蘭を見て、
「話しても、いいのかな真上さん。」
と訊く、綸蘭は、
「ええ、この人になら、いいわよ。」
店主は、うなずき、
「火星で牛と鰻を合成したんだって。」
と言うではないか。流太郎には、よく理解できなかった。
「牛と鰻を、どう合成したんです?」
店主は、
「雄牛の精液に鰻のDNAを混入して、牝牛と交合させたら、できた子牛には腹から鰻のようなものが垂れ下がるそうですよ。それが牛の肉と鰻の肉の混じったモノらしく、おいしいんですよ、とっても。」
流太郎は、
「その鰻には頭は、あるのかなあ。」
店主「頭は、ないそうです。ぎゅううな定食に、しますか?」
二人は、うなずいた。
早くもないが遅くもない出来上がりで、二つの丼が二人の前に置かれた。
流太郎は丼に並んでいる肉に驚く。それは牛肉にウナギの蒲焼きが二つ、くっついたものだ。店主は自慢そうに、
「なるべく牛が生きている時の姿に、したくってね。鰻だけ蒲焼きにするのは面倒ですけど。」
と説明してくれた。
流太郎は食べてみて、鰻と牛肉のくっついた肉の味わいを感じた。
レストランを出て、ピラミッドも出た二人は空に浮かぶ雲を見た。雲の動きから流太郎は、もしかしたら、この浮かぶ島は今、動いているのではないか、思ったのだ。
「真上さん、愛高島は動いているんじゃないの?」
「そうね。東に向かって移動しているみたいよ。」
「浮かぶ島が動くなんて。」
「浮かんでいるだけじゃ物足りないわ。」
島が動く速度としては速いのか遅いのか、流太郎には分からなかった。
だが地上にいる人達は空を見上げて、島が動いているのを見た!
「おい、愛高島が飛行を始めたぞ!」
「ほんとだ!空を飛んでいる!」
博多湾の沿岸から愛高島を眺めていた人達は、東に向かって飛んでいく愛高島を驚嘆のまなこで見つめ続けた。
 愛高島は瀬戸内海を渡り、伊勢湾を通り過ぎ、駿河湾へ到達すると、そこで一時、停止した。
駿河湾は日本で一番深い湾で最深2500メートル、ある。日本一高い山の富士山と対照的だ。
雲を見つめていた綸蘭は、
「止まったわ。腕時計にある位置情報を見るわね。」
彼女は突風が吹くと折れそうな左腕を上げると、多機能腕時計のガラスの面を見る。
「今、愛高島は静岡県の駿河湾の上空よ。」
と笑顔で流太郎に告げる。流太郎は驚くと、
「そんなにも移動したのか。並みのジェット機より速いじゃないか。」
「推進力が反重力だそうだから、自由自在に燃料なしで速度を上げられるらしいわ。」
「反重力とは偉大だね。」
「あなたと、わたしの間にも重力は働いているけど体重の重さの方が勝っているから、自然にしていたら体がくっつく事は、ないの。」
綸蘭と抱き合えれば、それは幸せな重力だ。康美との間には反重力が働いたのだろうか、と流太郎は思った。
愛高島の他の人達は、この移動に気づいていないのかもしれない。地上にいる人々も日曜日に空を見る人は多くはない。釣りをしている人はウキを見ていて、空は見ないものだ。
偶然にも空を見て、駿河湾の上に巨大な島が静止しているのを目撃した人は、UFOを見るよりも驚いた。
やがて愛高島は相模湾へと移動を開始した。相模湾も水深が深く、駿河湾に次いで日本で二番目の深さだ。水深1500メートルの深さのある場所がある。
この相模湾の上でも愛高島は停止した。相模湾の深い場所は小田原より西であるのだが、愛高島は更に江の島の真上に飛行を続け、そこで飛翔を突如、停止した。
日曜日だけに観光客も多く来ていた江の島が、いきなり曇り空のように暗くなった。空を見上げた観光客の若い男が、
「うわあっ、あれは何だっ!!」
と大声を上げたので、周りの人々も一斉に空を見上げる。そこには、江の島よりも大きな円形の巨大な白い物体が浮かんでいるのだ。巨大なUFOに見える。愛高島の底部は火星の白金で作られている。
「UFOか?あれはー。」
「いきなり現れたぞー。」
多くの人は携帯電話でカメラに撮影し始める。へたへた、と座り込む女性も見られた。そこから逃げようにも浮かぶ物体は江の島より大きいのだ。走っても、その白い円から抜けられない。それに過去、大きなUFOはメキシコやマレーシアで多くの人々に目撃された。その時、その人たちは逃げもせず現れた円盤を見ているのだ。
それらの事実から今、江の島にいる観光客も逃げ出そうとする人は、いない。
ただ、あの巨大な江の島より大きな物体が真っ逆さまに落下すれば、そこにいる観光客は全員、圧死するだろうし、江の島神社も全壊する。
とはいえUFO落下事件は、滅多に起こらない。それもあってか人々は冷静でいられた。
学者風の中年男性が口を開き、
「もしかして、あれは福岡市の博多湾に浮かんでいた愛高島ではないか、と思う。」
と右手を自分の顔の眉のあたりに翳(かざ)しつつ、意見した。周りの人達も、
「そういえば、そうだな。あれ位の大きさだった。」
「でも博多湾の上に静止していたんだろう。」
「最初は何処からか、飛んできたはずだよ。」
「何処から、飛んできたんだろう。」
「もしかして地球外から、か。」
「そんな事は、ないさー。あれ位、大きな物体が地球外から飛んで来ればNASAなら気づく。」
「そういえば、そんなニュースもなかったなあ。」
それで愛高島は世界中から注目されている。日本の方からも愛高島の出現をうまく説明できる人物は出てこない。
カメラに撮影しない人達は真っ先に携帯電話で誰かに話していた。
十分もすると愛高島は移動を始める。その速度は一瞬にして江の島を離れ、下にいた観光客らは次の瞬間、愛高島を見失ってしまった。
次に現れた愛高島は東京湾上だ。それから皇居の真上、そしてJRの山手線に沿って東京都区部を一周する。
愛高島のピラミッドの近くの野原にいる真上綸蘭と時流太郎は、携帯電話でバリノの説明を受けた綸蘭が、
「今、東京の山手線に沿って、右回りで動いているそうよ、この愛高島が、ね。」
と話すと、流太郎は、
「信じられないな。動いているのが感じられない。」
「愛高島の周囲に目に見えないバリアを作っているんですよ。それで風も吹かないし、揺れも感じないの。」
「ジェット機よりもリニアよりも揺れないね。」
「この島自体が巨大なUFOなんです。これでも小さな方で、木星の大きさのUFOも火星のものではないけど、存在するんだそうよ。」
「木星と同じサイズのUFOか。それも信じられない話だ。それじゃあ木星もUFOか、という話になるね。」
綸蘭は、それに対して生真面目に、
「月は人工物でUFOのようなもの、という事らしいわよ。」
「またー、そんな事は、ないだろうー。」
「月だって地球より遠くから飛来してきて、地球の軌道と一つになって回っているけど、月の内部は宇宙人が住んでいます。それに月は地球に多大な影響を古来から与えているわ。女性の月経にも月は影響を与えているし、満月に事故がおおいとか、月の重力が海の波を起こすし、これらは宇宙人が人類を実験するために月を送り込んだそうです。火星では小学生でも知っているんですって。」
「月には女神じゃなく、人類をモルモットのように調べる知的生命体がいるのか・・・。」
「神隠しって日本でも古くからあるけど、あれの一部は月に連れられて行っているんです。アポロの乗組員も月の裏側で幽閉されている地球人を見たそうよ。木星や土星の衛星も人工物があるらしいってバリノさんの話ですわ。」
綸蘭の携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし、真上です。あ、バリノさん。こんにちわ。え?今、東京都庁の建物の上に、愛高島は停まっているんですか・ええっ?島の底部から、いくらかの下水を出して都庁のビルにかける・・・おしっこ、とか・・アハハッ、面白いわっ、本当ですか?」
「本当だとも。火星から遠隔操作しているんだ。今、都庁のビルの屋上に愛高島の下水を十リットル放出しておいた。」
と愉快に話すバリノの声は綸蘭の横にいる流太郎にも聞こえた。
都庁のビルの屋上には人は誰もいなかったが、第一本庁舎の45階展望室のガラスの窓には愛高島からの下水が流れ落ちて行った。そこの展望室、地上から202メートルの高さにいた人達は、それを見て、
「雨が降って来たよ。」
「それにしては黄色いなー。」
「黄砂の影響だろう、きっと。」
「黄色の雨降る新宿都庁、か。」
と楽しそうに話した。

 自衛隊は愛高島の飛行に気づいていたが、敵機でもないので出動はできない。東京都民は空を見上げる人も少ない、というより、いなかったので愛高島は都民の誰にも気づかれずに新宿から池袋へと飛ぶ。
 池袋ハイスカイトウキョウという八十階建ての高層ビルの真上を愛高島は目指す。そこの展望室は全面のガラス張りだ。
停止した愛高島は底部より下水の放出を開始した。
若いアベックの男女が、その展望室のガラスに流れる黄色い液体に気づいた。女が、
「黄色い雨、かしら。」
「黄色い雨、だろう。」
「幸せの黄色い雨よね、きっと!」
「幸せの黄色いなんとか、とかいう今は太古のような昔の映画に、そういうタイトルあったさ。」
「幸運の前触れっ。わたしたちの、これからの幸福を祝福してくれているのね、神様が、きっと。空から降らせてくださっているのよ、黄色い雨を。」
「ああ、シャワーのように浴びてみたい雨だね。」
若いカップルは愛高島からの下水を飽きる事もなく、眺め続けていた。

 その時、ハイスカイトウキョウの真上にいる綸蘭と流太郎は、携帯電話で綸蘭がバリノの話を聞く。
「えっ!?池袋のハイスカイトウキョウの真上から、又、あれを・・・・。」
「ああ、今度は多めに20リットルのサービスで。よし、終わった。」
「東京の今日の天気は一部、雨だわ・・・ふふふっ。」
と綸蘭は小さな声で呟いた。

 東京都では今、百階建てのビルが建築中だが完成した暁には愛高島の下水放射をバリノ氏は計画中であるという。
 赤羽を過ぎ、上野から東京駅の真上に到着、停止すると、バリノは携帯電話で綸蘭に、
「今から光速で運転して地球を一秒で七回り半してもいいが、別に面白くないから福岡に帰ろう。」
それは光速で行われた。
一秒未満の時間で愛高島は福岡市の博多湾上空の定位置に戻ったのだ。

 城川康美は愛高島に住んでいるわけでは、なかった。マンゴーは売り切れるのが早く、三時には在庫がなくなる。店で置いておける量には限界がある。次の日の早朝に火星から新たにマンゴーを運んでくるのだ。
康美は午後三時過ぎに店を閉めて帰宅する。ヘリコプターで福岡市の地上に戻るのだ。その代り、朝は早い。午前八時には火星から来るマンゴーを受け取りに愛高島には昇っている。
 今は午後三時、康美は愛高島が東京まで移動したのも知らないまま、店を閉めてヘリコプターで地上へ降りて行った。

 康美は自宅へ直行する。暇だからネットサーフィンをする。元々、康美はインターネット関連会社に勤めていた。マンゴーの販売は接客であり、聊(いささ)か疲れたのだ。
誰かに任せたい。そうすれば三時で終わることもなく、若返るマンゴーは販売される。
求人など自分のブログに書けば、いい。
マンゴー販売責任者募集します
 福岡市の愛高島でマンゴーを販売してくれる方、資格、経験は問いません。二十五歳までの女性の方を募集しています。
そうキーボードでパソコンを打つと、康美のブログは更新された。
(これで、誰か来るわ。)康美は「株 投資顧問 福岡」で検索した。すると一番目に出たのが、株カイヤスカーという福岡市にある顧問会社だ。
そのサイトで無料会員登録を康美は、したのだ。彼女は貯金ばかり、しても、しょうがないと思った。それで株式投資を始めようと思ったのだ。すぐに返信が来た。

 ご登録、ありがとうございます。株カイヤスカー代表取締役の蕪山で、ございます。弊社では南区高宮にて株式セミナーなども開催しております。お時間が、ございましたら是非、お立ち寄りください。
明日の午後、四時もセミナー開催の予定です。

 そのメールには、その他に無料推薦銘柄としてマザーズの株式会社夢春も取り上げられていた。
康美は、それを見ると、
「明日の午後四時なら愛高島の仕事が終わって、すぐ行けるわ、よし、決めた!」
と独り言を呟く。
その時、康美の携帯電話が鳴り出した。
「はい、城川です。」
「初めまして、こんにちわ。相出(そうで)澄香(すみか)と申します。」
「ええ、初めまして。それで、ご用件は何でしょう。」
「社長のブログ、拝見しました。わたし、ぜひ、働きたいんです。マンゴー販売の仕事です。」
「ああ、見てくれました。もちろん、募集中ですし、あなたが第一番目に応募してくれましたわ、相出さん。」
「そうですか。わたし、曾曾祖母の名前は相出スネといいます。余計な事だと思いますけど。」
「まあ、面白いわ。フルネームを名乗ると同意した事になりますね。」
「ええ、そうです。わたしも社長の仕事の募集に同意します。」
「ありがとう。面接には、いつ、来ますか。」
「今からでは、どうでしょう。」
「いいわよ。会社は愛高島にあるけど面接場所は、わたしの自宅に来てね。」
そこで相出澄香は康美の香椎のマンションに面接に来る事になった。
十分もすると、康美の部屋に玄関チャイムが鳴る。玄関前が映像で見れるので康美は玄関の中にある小さなパネルに映った相出澄香の可愛い顔を見ることが出来た。十代のような美少女、未成年なら雇用するのは難しいな、と康美は思いつつ玄関を開けた。
相出澄香は笑窪を浮かべて、
「こんにちわ。相出です。」
「待ってたわ。上がって、中に。」
「はい、お邪魔しまーす。」
元気な相出の明るい声は康美の心も明るくした。
 少しでもマンゴーを置けるように康美は住居を変えて、3DKのマンションを借りている。その一室は事務室のような役目にしていた。応接テーブルと椅子も揃えていた。人を雇いたくなったのでネット通販で購入していた。康美は澄香に、
「そこに座って。面接を始めます。」
澄香は着席、康美は彼女に相対して座ると、
「履歴書もPDFファイルで送ってもらったもので、いいです。あれで貴女の履歴は見ましたよ。ですから、それについては合格ね。」
澄香は嬉しさ満面になり、
「では、わたし採用ですね?」
「あなたの明るい笑顔と声も、いいわね。明日から働いてもらいます。」
康美は印刷した澄香の履歴書を自分の机から持ってきて手に取ると、
「えーっと、短大卒業後、サイバーモーメントの子会社である中国料理レストラングループ『食べチャイナ』に入社。そこでは、どんな仕事を経験したの?」
「レストラン業務全般と、主に接客です。マンゴーのデザートも客席に、よく運びました。」
「ああ、それでは慣れたものですね。お客さんにマンゴーを売るのは。」
「わたしサイバーモーメントの黒沢社長が接待する貴賓室にも、よく料理とマンゴーを運びました。」
「貴賓室って、レストラン内にあるの?」
「サイバーモーメントの本社にあります。」
「『食べチャイナ』にも個室は、あるわよね?」
「それは、ほとんどの店にあります。わたしが研修を受けたのは、『食べチャイナ』高宮店です。ちょっと高めの価格設定でも、お客さんが来店してくれます。」
「若返るマンゴーも高いけど、買ってもらえるから、あなたには適人適所だわ。」
「わたし、まだ若いから若返っても、しょうがないですけど(笑)。」
「いずれ貴女も歳は取るわ。二十五歳より上に行っても、若返るとしたら・・・いいと思わない?」
澄香は両眼を斜め上に向けて宙を見るような顔をして、
「いい、と思います。社長も若く見えます。それはマンゴーの影響ですか。」
「そうなのよ。若返ってしまったの。実は、このマンゴーはね・・・。」
康美は思いとどまり、
「秘密があるけど、いずれ教えてもらえるかと思う。」
「へえ、そうなんですか。知りたいです、社長。」
「許可がいると思うから、その話は、ここまでで。面接は終わりですよ。明日、朝八時前五分までに、ここへ出社よ。」
「はい、社長。それでは失礼します。」
相出澄香は積極的に立ち上がると部屋を出る。康美も玄関まで見送った。

 翌朝、指定された時間に澄香は出社してきた。
「おはようございます。」と挨拶する彼女の上着は黄色でスカートは赤。黄色と赤で、よく目立つ。スカートは膝まである長さ。昨日と違って澄香は胸のふくらみが良く分かる上着を着ている。康美は、
「相出さん、お早う。貴女の胸、大きくて、いい形よ。」
「うふ。接客には必要ですもの、女なら。」
と可愛い声で澄香は答えた。
康美は、
「屋上に行くわよ。このマンションに。」
と指示して二人はエレベーターに乗る。屋上に着いた二人はエレベーターを出ると、すぐにヘリコプターの爆音がして降下してきた。
後部座席に二人が乗ると、運転手は若い男性でパイロット風な外見だ。彼は何も言わずに、二人が着席するとヘリを上昇させた。
愛高島まで十分も、かからなかっただろう。ヘリコプターを降りた澄香は、
「うわあ、すごいな。これが浮かぶ島、愛高島なんですね。社長。ヘリコプターは専用ですか。」
「毎日乗るから、私のマンションの屋上に来てくれるの。」
深緑色のヘリコプターは爆音を立てて、上昇して島を出ていく。又、そこから下降して二人には見えなくなった。
康美は続けて、
「今から、あのヘリは他の人達を載せて又、愛高島に来るわ。さあ、店に行くわよ。」
康美の歩調に合わせて澄香も歩く。澄香は康美より少し身長は低いが、胸の大きさは同じくらいだ。 
 シャッターの降りた店舗の前に立つ康美は、ハンドバックからリモコンを取り出してシャッターを上げた。
康美は澄香にマンゴーの在庫の場所や、レジスターの扱い方などを教え、その他の業務も習得させた。十時の開店時には接客を任せた。九時には今までも来ているアルバイトの女性に澄香を紹介した。
新人ながら店舗の責任は澄香に康美は一任して、その日は後ろで見ているだけで、店舗業務は滑らかに流動した。