SF小説・未来の出来事17 試し読み

 何処まで降りて行くんだろう、と流太郎は思った。階数表示のボタンを見ると、何と、地下三十階まで、ある。しかし高速のエレベーターなのか、そして途中の階でボタンを押した人がいないらしく、素早く岩石のエレベーターは地下三十階に到達した。
チェリネ・リンポチェが右手の人差し指で優雅にエレベーターの「開く」ボタンを押した。岩石の扉は、横滑りに開いた。地下三十階にしては、明るい部屋が見えた。地下三十階に至るまで、部屋があるから誰かがいる。住んでいる場合も、あるだろう。
仰天したのは、その部屋は五メートル先は壁となっていて、その前に銃を構えた兵士が二人立っていた。彼らはチェリネを見ると敬礼した後、銃を地面に置く。
その兵士の一人が進み出てチェリネに、何かチベット語で話す。流太郎を見て話しているようだ。それについてチェリネがチベット語で答えると、兵士は部屋の奥の壁にあるボタンを押した。壁はスーッと左右に開いた。その先にあるのは地下鉄の駅のような、たたずまいだった。チェリネは流太郎に日本語で、
「さあ、これから電車に乗って更に地下へ下ります。行きましょう。」
と声をかけ、先導して歩く。そのプラットフォームには既に一台だけの電車が二人を待つかのように姿を見せている。
 電車の扉は開いていて、二人が乗ると自動で閉まった。そして電車は動き出す。電車の内部は日本に走っている地下鉄と同じだが、座席のクッションは日本のものより、もっと心地よかった。なだらかな斜面を降りるように電車は走っていく。不思議な事に地下にあるのに電灯など何処にも見えない。それでいて薄明るいのだ。
そして地下に降りて行けば行くほど、明るくなってきた。地中に深く行けば行くほど暗くなるはずだが・・・。
 チェリネの左横に座っている流太郎には次第に明るくなっていく窓の外は驚異そのものだ。もしかして地上に戻っているのでは?と思ってしまうのだ。でも電車が下降して走っているのは実感できる。
窓の外は昼間の明るさになった。電車は遂に並行に走り始めた。山を下りた時のような風景が広がり始める。随分、田舎のようだ。田畑が見えるのだ。農家らしい家が、近くや遠くに散在している。
広い水田の向こうには山が見える。もはや地下鉄ではなく地上を走っている電車だ。流太郎は電車内の天井をフト、見てみた。すると!なんと電車の天井は今までの3倍の高さに、なっているではないか!天井まで6メートルは、あるだろう。何故、天井が高くなったのだろうか。それとも今までに見た社内の天井が低いと錯覚していたのかもしれない。流太郎は横にいるチェリネに、
「いきなり天井が高くなったみたいですが、こんな事は、あるのですか。」
と訊くと、チェリネは平然と、
「これからの対応に必要なのよ。すぐに、分かるわ。」
と答えてくれた。
電車は田園風景の無人駅のような所に着いた。これが地下にある世界だろうか。地上に出ているとしか思えないが、その駅に待っていた人達を見て、流太郎は、ここが紛れもなく地下の世界である事を確信したのだ。
二人連れの男が車内に乗り込んできたが、彼らの身長は三メートルは、ある。巨人二人で一人は肥満体、もう一人は痩せている。流太郎には分からない地下世界の言葉で二人座席に着くと話し始めた。それを日本語にすると、
肥満体の男 「おれたち背が低いから職が見つからないのかもな。」
痩せた男 「それは、そうだ。俺たちは小人なのさ。この世界の平均身長は四メートルだからな。それよりも俺たちは一メートルは低い。」
肥満体の男「ああ、それで精いっぱい食べたが、俺の背は伸びなかったよ。そのかわり、ブクブクと太ってしまった。」
痩せた男「でもよう、この身長だから雇ってくれる仕事も、あるんだ。それで俺たち、コンビを組める。町に着いたら面接だぜ。」
肥満体の男「サーカスには入れれば生活は何とか、なるな。」
痩せた男「面接前から採用は確定している。俺たちの写真をメールで添付して送っただろ?おれのメールボックスにはサーカスの団長から採用内定の返信が届いたよ。」
肥満体の男「おい、俺たちの前にいる、あの男女の二人。奴らは俺たちより背が低いぜ。二メートルもない。奴らもサーカスに面接に行くのか?」
痩せた男「さあ、な。もうサーカスで働いているのかも、しれんぞ。どうやら地上人のようだな。服装で分かるよ、彼らの。」
チェリネには彼らの会話が分かった。彼女は、もう長い間、地下世界へ行っている。十歳になった時から地下世界へチベット密教の指導者に連れられて、この地下鉄に乗り、地下世界の指導者に会っている。その指導者の上に更なる指導者が、いるのだが。その指導者の身長は四メートルは、あった。指導者だけではなく、彼の信者も身長は四メートル位だった。その頃からチェリネは地下世界の言語を学んだ。その地下世界こそシャンバラと呼ばれる理想郷だったのだ。
チベット密教の、とある高僧だけがシャンバラとの交流を保ち続けている。チェリネは幸いにも、その高僧と出会えたのだ。シャンバラというのも一つの広大な世界だ。地上の日本でさえ狭いと言われながら北海道から九州、沖縄と割と広い。北海道と沖縄では気候も全く違う。シャンバラの広さは日本どころではなく、世界一広い国土のロシアより広いのだ。
 これまで地上に伝えられてきたシャンバラの情報は、その、ごく一部に過ぎない。ロシアやアメリカを足で歩いて回るとなると大変な労力を要する。シャンバラとなるとアメリカとロシアとヨーロッパを足したより広い世界だ。
これまでシャンバラに行ったという人達は、そのほんの一部を見たに過ぎない。
地上から、すぐ行ける場所にシャンバラの聖者が住んでいることは、ない。電車に乗って来た巨人を見て驚いている流太郎にチェリネは、
「あの人たちより、もっと大きな人がいるわ。あの人たちはシャンバラの人達の平均身長には及ばないから。」
と解説した。流太郎は、
「電車の天井が高くなった理由が分かりましたよ。僕は最初に、この車両に乗った時に天井を見上げました。その時は地上にある普通の電車の天井の高さだったんです。シャンバラに入ったら天井を高くしないと、いけないわけですね。」
と納得する。チェリネは、
「シャンバラは、とても広いのよ。シャンバラにも海があるし山もある。でも一つの大陸しかシャンバラには、ない。」
と窓の外の悠然とした景色を眺めつつ話す。電車は時速五十キロ程度で走っているようだ。流太郎は、
「それでは大陸の端から端までの移動は大変ですね。この電車だと一年くらい、かかりそうですが。」
と訊いてみると、チェリネは、
「交通機関は他にも、あるのよ。でも、それは、そのうち分かるから。私たちが知りうるシャンバラは、ごく一部だけ。わたしの知っている長老様の上には又、長老様がいる。地上の人間が入れない場所もあるし、仏陀が許可された場所も限られていた。わたしたちチベットにはボン教という仏教伝来以前からの宗教があるけど、これは地下帝国シャンバラとの繋がりがあるわ。そこでボン教はシャンバラの秘法も、いくらか伝えられているの。」
「なるほど、ボン教ですか。知りませんでした。チェリネ・リンポチェのチベット密教にはボン教のものも、あるわけですね。」
「そうです、それでウチは代々、シャンバラと繋がりがある。それで、年に数回はシャンバラに行きます。父は月に一回くらいかな。この可変天井型電車も、わたしたちのために作ってもらったんです。」
「それは、すごい。チェリネ・リンポチェに会わなければ、僕はシャンバラに来る事は、なかったでしょう。」
と感心する事ばかりの流太郎である。
次の無人駅に着くとチェリネは立ち上がり、流太郎に、
「降りますよ。」
と短く言う。
自動扉が開き、二人の斜めの右先からは、さっきとは別の巨人が二人入って来た。彼らの身長は四メートルは、あるだろう。
横目で、その平均身長の巨人を見やりつつ流太郎はチェリネの後から電車を降りる。改札口も駅員も、いなかった。駅舎は石造りでベンチはあるが誰も座っていない。切符も必要では、ないのだろう。先を歩くチェリネに流太郎は、
「この電車はタダだったんですね。」
と訊くとチェリネは振り返らず、
「なにしろ、ここでは電気はフリーエネルギーだから、お金を取る必要ないの。」
と説明してくれた。
流太郎は空を見渡した。明るいが太陽らしきものは見えない。それで、
「太陽は、ないようですね。なぜ、明るいのでしょう。」
と歩きながら聞くと、チェリネは、
「光源は、あるけど地下に太陽は必要ないわ。ここの空は行きつくところが地球の地下の部分になる。人工的な光を、この世界の幾つかの場所で作り出しているの。それで、ここは充分に明るい場所になる。詳しい事は、ここの神官の人に聞くといい。」
と話すと、立ち止まった。道路は車道らしきものも通っているが、自動車やバイクは見ない。歩道にも人は、いなかった。夢幻の世界のようだが風が、そよ風程度で吹いている。見渡すばかりの小麦畑だ。驚くことに小山の斜面にも小麦が連なっている。タクシーは走っていないだろうに、これからチェリネは、どうするのだ?チェリネはスカートのポケットからスマートフォンを取り出すと、何か流太郎には分からない言葉で話した。それから一分経つか、という時に、突如、地平線の向こうから丸い物体が現れて、それは瞬間移動したかのように二人の前に飛んできた。円盤型UFOだ。
それは二人の前で車道に着陸した。中から出てきたのは赤い僧服のチベット僧だ。彼は歩道にいる二人の前に立つと、
「チェリネ。久しぶりだな。さあ、乗れよ。」
チェリネは無言で、うなずくとUFOの中に入ったのだ。流太郎も、そそくさ、と付き従う。天井の高い部屋だった。三人がいる部屋に、運転席らしい部屋のドアが開き身長四メートルの巨人の中年男性が現れ、何か喋った。歓迎の意を感じる言葉だ。
 これから何処か他の惑星に連れ去られるのだろうか?巨人は地球人ではなく宇宙人だとしたら、うなずける話である。
巨人の言葉を日本語で紹介しよう。その巨人はチェリネに、
「あの男は日本人か。」
と訊いた。チェリネは地下世界語で、
「はい、そうです。プロキシマbの女性であるサミアドネさんが連れてきたのです。」
「ほほう、それは興味深いな。何しろ、この地下帝国に日本人が来た事は、まだ、ないのだ。日本人は冒険精神に乏しい。江戸時代は特に、それが顕著だった島国だな。」
「よく、ご存じですわ。マスター、ロギンソン。」
「いや、それほどでもないさ。彼は、なんという名前だね?」
「時・流太郎と、いうそうです。」
「ふむ。地下帝国に初めて来た日本人だ。歓迎してやらねば、な。もちろん、我々だって日本に行く事は、できないのだ。このままではね。さあ、着いたぞ、我らの宮殿へ。」
と巨人のマスター・ロギンソンは快活に話した。五メートルの高さがある円盤の扉が開いた。マスター・ロギンソンの後に続いて円盤に乗っていたチベット僧、チェリネ、流太郎の順に円盤の外へ出る。
 そこは小高い丘の上だった。地上の宮殿に比べて四倍の高さは、ある。白色の壁には太陽光パネルに似たものが取り付けられている。四メートルの巨人のマスター・ロギンソンは入り口の扉の右の壁にあるパネルに右手の人差し指を当てた。指紋認証のドアらしく、すぐに扉が開いた。その扉も高さ五メートルは、ある。ロギンソンは皆を振り返り、
「さあ、中へ入ろう。寛いで、もらいたい。」
とニコヤカに誘う。
中に入って応接ホールのような場所に、すぐ行きついた。そこにあるテーブルやソファは巨大で、四メートルの身長の巨人用の家具だ。
三人がソファに座っても、背中がソファの背もたれに届かない。ロギンソンは、
「背中をつけるために両足は投げ出していいから。」
と背中をソファに着ける事を、すすめる。
三人はロギンソンに言われた通りにした。召使風の男が現れた。彼も巨人で四メートルの身長だ。地下世界語で、
「ロギンソン様。ミルクティーで、ございます。」
ロギンソンは鷹揚に、うなずくと、
「テーブルに置いてくれ。三人には、私のミルクティーの半分のものを。」
巨人の召使が届けてくれたミルクティーを流太郎は、濃度が、とても濃いように感じた。地上のミルクより数倍は濃くて、うまい。チェリネは地下世界語で、
「いつも、おいしく思います。こちらの食べ物や飲み物は地上のものより、どれも美味ですから、もう、地上に帰らなくてもいい気がしますわ。」
とロギンソンに話した。ロギンソンは、
「それは地上に比べて我々の牛の育て方や農作物の作り方が数層倍、進化しているからなのだ。人工太陽も我々の作成したものだからな。そもそも、本物の太陽が地球内部にある、という事などは普通に考えても、ありえない話だろう。そこで、だが実は地上に降り注ぐ太陽光線には有害なものも含まれている。それが地上の人間の寿命を縮める一因でも、あるんだ。それに比べて我々の作った人工太陽には有害な光線は含まれていない。
そのため、我々地下の巨人族は数千年は生きられる。」
と話してくれた。
 人工太陽!それが地下世界を照らしていたのだ。もちろん、その言葉は流太郎には一語も分からなかった。
チェリネは流太郎にコッソリと、
「あの男のチベット僧は二百歳なのよ、あまり地上に出てこないせいと思うけど。」
と日本語で教えてくれた。マスター・ロギンソンは立ち上がると部屋の隅にある箪笥のような家具のあるところへ行った。驚くべきなのは、その箪笥はガラスのように透明で中が見えるのだ。まさかガラスのような壊れやすい素材で作られた箪笥では、ないと思われるが。
そこからヘッドフォンのようなものを取り出すとロギンソンは流太郎の前に来て、そのヘッドフォンを渡すとチェリネに「日本語で説明してあげなさい。」
と示唆する。チェリネは、
「そのヘッドフォンを耳に装着すると、ここの言語が日本語に自動変換されるから、耳に当てるように。」
と流太郎に指示した。
流太郎が耳にヘッドフォンを付けると、マスター・ロギンソンは、
「日本語に変換するヘッドフォンは最近、作られたものだ。チベット語に変換されるものは一番初めに造られている。日本人というのは後発人種で後発国家のようだな。チベットは国家としては貧しいが、豊かな人は精神的にも豊かで我々と交流もある。日本は経済国家として大成して金は、あるようだが、それだけでは・・・。でも君は金持ちそうにも見えないので、しばらく、ここにいてもいい。」
流太郎は思わず、
「はい、ありがとうございます。」
と日本語で話したが、それはマスター・ロギンソンには理解できなかったらしく、
「私もヘッドフォンを耳に付けよう。」
と話し、さっきの透明な箪笥へ行き、ヘッドフォンを耳にして戻って来た。四メートルの身長の人用のヘッドフォンだ。この地下世界では、その寸法のヘッドフォンが標準なのだろう。
ソファに座ると善良そうなロギンソンは、
「これで日本語が分かる。チェリネやライツォン(男のチベット僧)には日本語が分かるからヘッドフォンは必要ない。」
そのヘッドフォンの左と右をつなぐ部分の中央に、小さな集音器みたいなものがあり、そこで日本語を地下世界語に翻訳してマスター・ロギンソンの左右の耳に伝えるらしい。ロギンソンは面白そうに流太郎を見ると、
「日本には仏教があるが、あれは釈迦が本来、教えていたものではないのだよ。」
と話した。それを聞いた流太郎は、
「では贋の仏教だと、いう事ですか??」
「ああ、そうだ。日本の仏教は、すべて中国を経由して伝えられた。それが全部、釈迦が本来、教えていたものではないのだ。真伝の仏教はチベットとタイにある。」
なんという衝撃、それが、でも事実だろう。ロギンソンは続けて、
「真伝の仏教を中国には伝えない、という事を初期の仏教僧は決議した。それで例の達磨の事が気になると思うが。」
と流太郎の返答を待つ顔にロギンソンは、なる。流太郎は、
「達磨って選挙に当選したりしたら両眼を書き入れる、あれですか。」
「そうだ、その達磨だが。これはインチキ・インド人だった。奴はインドの王子だったが真伝の仏教を自分は知っていると公言して中国に、やってくる。面壁九年、悟ることが出来ずに両脚は腐った。この面壁という座法こそ本来の仏教の観想法ではない事は分かるだろう。」
流太郎はチベット密教のゾクチェンの秘法を思い出した。高台から空中を見て座る、という座法だったのだ。それで、
「ええ、そうみたいですね。禅宗の座法は違うようです。それでは釈迦の教えたものとは違うという事、ですか。」
「ああ、日本にある仏教は総て釈迦本来の仏教ではない。故に日本人は宗教に興味を持たないのだ。葬式仏教と割り切られておる。君はチベット密教のゾクチェンで本物に出会え、今、地下世界のシャンバラに来ている。これは日本人としては初めての事だ。本物の釈迦も随分前に我々が地下世界に来させたのだ。私は今、九千歳だから、もちろん、その時の釈迦に会っているよ。」
流太郎は、もう一人の宗教人について聞いてみたくなり、
「キリストは来たのでしょうか。」
マスター・ロギンソンは首を否定的に振ると、
「いや、彼は来ないよ。彼は金星由来の人間だ。地球のものを軽蔑し、ユダヤ教の神殿も荒らした。それは、もちろん、よくない事だ。様々な理由からユダヤ社会で死刑となった。我々は金星由来の人間では、ない。我々はアトランティス大陸からの人間だ。元々の我々の祖先はUFOに乗って他の惑星から地球へ来たのだ。それでUFO製造の方法も代々、アトランティスでは伝えられていた。
金星人は千歳まで生きる人間は、ほぼ、いない。私は九千歳だし、この事実からも金星人が全てに於いて地球人より、優れているとは言えない事が分かるだろう。
金星人ですら知らない生命維持の方法を我々は知っている。」
と話すとロギンソンは流太郎を見る。流太郎は思い出したように、
「インドのババジも不死の人と呼ばれています。」
「彼は二千歳にも、なっていない。インド人のババジは神に助けられている。だが、我々は神に助けてもらったわけではない。いずれにせよ、地上の文明はヨガも含めて、それほど発達しているわけではない。我々のアトランティス、そしてレムリアの文明は超絶的なものだ。それは地下世界に生かされている。」
「アトランティス大陸は沈んだのでは、ありませんか。」
「そうだよ。レムリアも沈没した。が、これは自然現象では、ない。アトランティスとレムリアで戦争を行った際に地殻変動を起こしてしまったのだ。どちらも相手の国を沈没させようと、目論んだ訳だ。それは、両方の国で成功したわけだが・・・。
 私はアトランティス大陸で神官であると同時に科学者でもあった。現代地上文明からすると我々の科学は超科学と呼べるものだ。」
 地底世界の巨人はアトランティス大陸の人だったのだ。ロギンソンは話を続ける。
「アトランティスが沈没する事を事前に予測できた我々はUFOで脱出した。神官と、その家族の数千人はチベットの或る地点から地下へ潜ったのだ。そこには最初から地下太陽が燦燦と優しい光を我々に投げかけて、くれていたのだ。牛や馬も、いた。我々は地下世界の動物をアトランティスから持ち込んだ様々な生物のDNAを使って品種改良していったのだ。
それで我々の食糧は確保されていった。何か聞きたい事が、あるかな?日本人の…君、名前は何というんだね。」
「時・流太郎といいます。」
「ああ、時君ね。私の名前はロギンソン・パウモアという。それでだな、何か聞きたいかね?」
「はい、パウモアさん。アトランティスのUFOは、どこまで飛べるのですか。」
「いい質問だね。地球外にも、行けるよ。プロキシマbまでは簡単さ。地球に似た惑星で、地球から最も近くにあるのがプロキシマbだからだよ。」
プロキシマb!プロキシマ・ケンタウリを回る惑星である。プロキシマ・ケンタウリは太陽系の太陽から4.24光年ほどの距離にある。4.24光年は遠くない距離なのだろうか。流太郎は、
「四年の時間は、それなりの旅行時間と思います。」
と意見を言ってみる。ロギンソンは不敵な微笑みを顔に浮かべ、地上の人間の二倍の大きさの顔だ、
「四年も宇宙空間を旅していられるものかね。四十時間は、かかるがね、プロキシマbへの地球からの到達時間は。」
「四十時間ですか。光速でも四年かかるのに。」
「それは君、光が一番早い速度で移動するという愚かな地上の物理学で考えるからさ。アトランティスの科学は、物理学は、そんな幼稚なものではないのだよ。」
流太郎は光より早いものを想像さえできなかった。しかし、光より早い動力でなければ、プロキシマbに四十時間で辿り着くことは不可能だ。ロギンソンは語る。
「要するに光より早く動くものを空間から取り出して、それをエネルギー源とする。そういうものは、いくらでも取り出せるよ。電気も実は空気中に含まれている。
詳しく教えることは、できないがね。」
ピタリと制止するような語調で話を止めたロギンソンは、
「話ばかりでは面白くないだろう。何度か地下世界に来た地上人は、我々の世界のホンの一部を見たに過ぎない。時君、君はチェリネと同行しているから、もう少し色々なものを見ていけるよ。」
ロギンソン、チェリネ、流太郎は宮殿の庭にあったオープンカーに乗った。ロギンソンが助手席、後部座席にチェリネと流太郎だ。運転は誰が、するのか?
なにせ、四メートルの巨人が、ゆったりと座れる助手席だ。車自体が地上にある車の2.5倍の大きさなのだ。後部座席のチェリネと流太郎は、ゆったりと離れて座っている。あと二人は後部座席に座れそうだ。
 巨大なオープンカーは急発進した。運転席には誰もいない。ハンドルも何処にも見えない。後部座席左側の流太郎は身を乗り出して運転席を見る。運転席の足元を見るとアクセルやブレーキも見当たらない。
ヘッドフォンをしたままの流太郎は同じくヘッドフォンをしたままのロギンソンに聞いてみる。
「ハンドルがないどころか、この車はアクセルやブレーキも見当たりませんね。どうやって動くのですか。」
ロギンソンは悠々と助手席で前方を見ながら、
「ここにリモコンがある。」
と右手を高く上げて、手に握っているリモコンを流太郎に見せる。ロギンソンは続けて、
「スタートを押した。あとは自動運転だ。万一の場合、それは通常には、ありえない事だけれど、リモコンにはブレーキもアクセルもある。ハンドル操作もできる。ハンドル操作は地上のパソコンに指で操作できるものがあるけど、あれと同じだね。右回りと左回りの二通りだよ。それで右へハンドルを切るのと、左へハンドルを切るのと同じになる。」
なんとも便利すぎる自動車だ。走り始めたオープンカーから見える景色は郊外のものだが、爽やかな快晴の空は地底のものとは思われない。しばらく対向車線に車も見えなかった。
海岸線が見えてきた。海水客が、いるらしい。十人ほどの男女の塊が見える。彼らは地底世界の住人らしい。四メートルほどの身長で、しかも彼らはオールヌードだったのだ!
 ロギンソンのオープンカーが通り過ぎるのに気付いた彼らは、車に向かって手を振ってくれた。
四メートルの身長の巨人美女の裸体を流太郎はジックリと眺めてしまった。肌の色は白く日焼けしていない。乳房や尻は白人女性の二倍以上、ある。股間の陰毛地帯も地上の白人女性の二倍の広さで、その下に見える陰スジも二倍は、あるのだろう。
男性のモノも地上の男性の二倍は、ある。まるで小さなバナナが股間に垂れ下がっているようなのだ。だが流太郎は、それらをジックリとは観察しなかった。オープンカーは、そこを低速で通り過ぎて行った。
あれらの人達もアトランティスの末裔なのだろうか。地下世界でのヌーディスト・ビーチ、裸天国海岸なのだ。
助手席のロギンソンは海から吹く風に、大きな長い髪の毛を靡(なび)かせつつ、
「この辺は人口の少ない所なんだが、意外に裸体讃美者が多かったな。だけど法に触れるという事は、ないんだよ。彼らが海岸でセックスをする事も認められている。大抵は海中で性交する場合が多いが、露出趣味のある人達は海岸線を走る自動車に乗っている人達に見えるように性行為を行っているよ。」
その話に流太郎が目の色を変えたのに対して、チェリネは平然としていた。チェリネは、
「公然猥褻罪という法律が、ないらしいわ。むしろ奨励されているのかしら、そうですね、マスター・ロギンソン。」
と話した。ロギンソンは、
「うん、そうだよ。地上での公然わいせつというものは風紀を乱す、とか他の人の性欲を惹起せしめる事への怖れから罪として取り締まるものだろう。我々のようなアトランティス人は他人の性行為で自分の性欲を亢進させられる事は、ないからな。それに第一、地下世界は人口が少ないんだ。我々はキリスト教でも、ないし、原罪思想もない。アダムがイブを知った訳でもない。地上の西洋社会はキリスト教に覆われている。日本も、少なからず影響があるようだね。クリスマスイブにホテルを予約するカップルはイブ・まんこするつもりだろう、キリストでも生むつもりかね。我々にとって、そもそもキリストなんて、どーでも、いーのさ。キリスト教なんてペテンか詐欺の宗教と地下世界では捉えている。そもそも処女懐胎などという事は生物学的にも不可能だ。それを公然と掲げてキリストとやらの神性をゴリ押ししたキリスト教は免罪符などというインチキなものを発行し、ガリレオの地動説を否定したのだ。
ローマ帝国と結びついたキリスト教は権力志向に走る。それはヨーロッパでユダヤ人弾圧へと向かった。
 とにかく、だ。我々はキリストとやら馬小屋で生まれた貧乏人の宗教なんて蚊のうんこ程にも思っていない。時君は、まさかキリスト教じゃ、ないよな?」
「うちは禅宗だったようですが、僕は長男ではないので・・無宗教みたいなものです。」
「それは、いい。アトランティスの神官だったのだよ、わたしは。神を崇める仕事だ。今も続けておるんだ。それでだね、神秘学、オカルトの方でマイトレーヤというのがいるが、あれもアトランティスの神官だったのだよ。キリストは、このマイトレーヤの弟分に、なっておる。あんなの相手にしなくても、いいじゃないか、とマイトレーヤには言ったさ、わたしはね。でも聖者として慕われると無碍にも出来ないのがマイトレーヤの気持ちらしい。
何年に一度かはマイトレーヤも私の宮殿を訪問する。そしてアトランティス時代の神を礼拝して帰るのだ。」
 アトランティス時代の神!それは、今でも実在するのか?!
流太郎は、それに就いて、
「エジプトの神様とは違っているのですか?アトランティス時代の神様は。」
と尋ねる。神官ロギンソンは、
「実在し、我々に教えをくれる有難い神様だ。なお、一神教ではない。当たり前の話だが神は複数、存在する。」
さっきのヌーディストの人達は既に見えなくなって久しかった。
トウモロコシ畑が見えてきた。それは余りにも広くて地平線の遥か彼方にまで続いているかのようだった。ロギンソンは、
「この地底世界では盗みという事が起こらない。あのトウモロコシ畑にある玉蜀黍は誰が取ってもいいのだ。つまり、あの畑は誰のものでもない。みんなの、ものだからだ。この地底世界には農家というものが存在しない。農作物は勝手に豊作となる。害虫も、いない。
長雨や日照りも起きないので不作は一年たりとも起こらない。農作物は余りにも豊富なので農業をやる地底人は、いないのだ。」
流太郎は自動翻訳機のヘッドフォンに両手を当てて、耳の位置を調整すると、
「農業をやる人は、いなくても土地は誰かのものでは、ないのですか?」
と尋ねた。ロギンソンは笑いたくなるのを、こらえた様子で、
「そもそも農地というのは地底世界では誰のものでも、ない。」
と断じた。だから誰でも農作物は取り放題なのだ。それでいて農作物は、なくならないのだろうか?その疑問を流太郎は口から発して、
「限りある農作物では、ないでしょうか。」
「もちろん、有限なものだよ。しかし地底の人間には溢れて余る量なのだ。実際のところだね、誰も取らなかった農作物は、そのまま枯れていく。つまりタダでも余っているんだよ。人間が誰も取らないからといって農作物が嘆き悲しむ訳ではないんだ。地上で農作物が余ると悲しむのは農家の人間なんだ。地上は豊かに実らないものだ。りんご、にしてもそうだし、メロンともなると実りが少なすぎるものだ。それでメロンの価格は高騰する。それでも買う人がいるから、ある価格で一定になる。
それを買えるのが富裕な人間で、買えないのが貧乏人という事になる。貧富というのは地上では、こういうところかも発生する。単に農作物を手に入れられるか、手に入れられないか、という事だけで、だ。
問題なのは地上が貧しい、不足している農作物しか生み出さないからなんだ。アトランティス大陸にも豊かな農作物が存在した。アトランティス大陸は海底に没したが、地下世界に逃げ込んだ我々は又しても豊かな農作物に巡り合えたのだ。」
長い間、道の両端はトウモロコシ畑であったのだが、それが今度はメロン畑になり、それも広大な面積の中にメロンが連なって実っている。あのメロンも、この地下世界では取り放題なのだ。どこまでも続くメロン畑の次はブドウ畑だ。それらの果物は地上のものとは違うのが大きさで、その体積は地上のメロンやブドウの三倍の大きさだ!
スイカのようなメロンもある。
流太郎は訊く。
「あの大きな果物は何と呼ばれていますか。」

SF小説・未来の出来事16 愛欲とは 試し読み

 雲飛は自分の坊主頭をツルリと右手で撫でると、次に、きな子の爆弾のような胸を左右、それぞれを揉む。それから両手で彼女の両胸を同時に揉みしだく。きな子は服の上からとはいえ乳房を揉まれる心地よさに、
「あっ、はっ。気持ちイイ。」
と声を出すと、顔をのけ反らせた。雲飛は立ち上がると自分のズボンとパンツを外した。彼の巨大な肉砲身が全部、きな子の目に映った。(すんごく、太いのね。)と、きな子は思う。僧侶の勃起ペニスを自分の目で見たのは初めてだ。他人の目で見る事は、そもそも、出来るのだろうか?この坊さん、自分とセックスするつもり、だろう。独身の僧侶ならキャバクラにも来るだろうし。それにしても坊さんがチンコ立てて上着だけ着て自分の前に立っているなんて構図は今まで考えた事も、なかったわ。
雲飛は、きな子に、
「おれのモノを見て、セックスする気になっただろう。」
とダメ押しをするように訊く。きな子は、
「ええ、そうみたいですね。」
と投げやりな返事を返した。雲飛は、きな子を抱きかかえるようにして立たせた。それから自分の両手を雲飛は激しく動かして、きな子の上着とスカートを脱がせた。白いブラジャーとショーツだけの全身になった、キャバ嬢の、きな子。どちらも薄い下着なので彼女の赤い乳首と黒の陰毛、それに股間の食い込んだ縦筋は雲飛の目にも明らかに見えた。雲飛は自分の上着とシャツを脱ぐ。全裸になった彼は下着姿のきな子を抱きしめると、分厚い唇を彼女の赤い小さな唇に押し付けて濃厚に口づけを続ける。
 その部屋にも寺らしく仏像があり、その前には経机とリン、など本格的な仏具が並んでいる。
 雲飛は右手を、きな子の股間に入れるとジンワリとショーツは濡れていた。そのショーツを勢いよく雲飛は下に下げると、膝の辺りで、きな子は交互に足を上げてショーツを外した。黒く濃い林のような陰毛が、きな子の淫唇の上に繁茂している。
 雲飛は、きな子を抱きかかえると仏像の前に二人で移動すると、雲飛は自分の両膝を開いて正座した。その上に豊満尻を抱かれた、きな子が両脚を開いて座ると雲飛の股間からニョキリと屹立した肉欲棒、肉欲如意棒が彼女の股間の中心を貫く。二人は仏像の前で合体した。雲飛は彼女の尻を抱いていた両手を、きな子の背中の上に持って来ると合掌した。そして、きな子にも、
「合掌しなさい。きな子。」
と促す。きな子は素直に合掌した。雲飛は合掌した両手を外すと、きな子に、
「合掌を、やめていい。今から動くから、しっかりと私につかまっていなさい。」
と話した。きな子の両手は雲飛の裸の背中に回され、そこをしっかりと抱く。その途端、正座した雲飛は裸の腰を動かし始めた。結構な揺れが、きな子の全身に来た。それは彼女の淫洞窟内を刺激し、快楽を与える。仏像の前でのセックスは、きな子にとっても初めてだったのだ。前後左右に揺れる、きな子の白い裸身は彼女の黒い長い髪と同じく乱れ始める。彼女は赤い唇を開くと、
「あああっ。浄土に行きそうっ。」
と切なげに声を上げる。
雲飛はリンをチーン、と鳴らすと木魚を叩き始めた。右手で木魚を叩き、ポク、ポク、ポク、左手で経文を手に取ると読経を始める。と同時に雲飛は自分の腰を動かすのだ。
『愛欲自在経』
を雲飛は読み上げている・・・。

 所は変わってチベットの流太郎とトントンプー村長は会話を続けている。流太郎は聞きなれない言葉に、それを聞き返した。
「愛欲自在経、ですか。聞い事もない、お経ですよ。」
トントンプー村長は得たり、賢しと、うなずき、
「日本人の、ほとんどは知らんのじゃけどのう。チベット仏教のゾクチェンに、それがあるよ。愛欲自在経を読経しながら女人と交われば生きながら極楽を悉知する、と。」
「はー、極楽三昧ですね。それは、いい。」
「チベット仏教の一つの神髄かと思う。日本の坊主は哀れ、と、わしらは思うとるのじゃが。昔の日本で吉祥天の木像に夢精しよった坊主が、いるという。実際の話でな。それよりもチベット仏教のゾクチェンでは愛欲自在経を読経する際の相手の女は美女を第一義とする、あるのじゃ。」
流太郎は感心して、
「トントンプー村長はゾクチェンを学ばれたのですか。」
と訊いてみると村長は、
「ああ、少しな。だが実践は、しておらん。日本の坊主で愛欲自在経を読経するものも、福岡市郊外の寺におる、という話は聞いているがな、雲・・・なんとかいう坊さんらしい。チベット仏教のゾクチェンを修行して日本に帰ったという。時さん、時に、あんたは福岡市に住んでいるそうじゃな。」
「ええ、福岡市東区香椎ですけど。」
「その坊さんは西の方の郊外にいるらしいな。帰国したら会ってみるのも、いいかも知れん。」
「ええ、そうしてみますよ。」

 福岡市郊外の雲上山、栄海寺での雲飛の、きな子との坐位セックスは頂点に達しようとしていた。射精をこらえるために雲飛は、きな子を抱きかかえて立ち上がり、なおも左手と右手には愛欲自在経と木魚を叩く棒を持っている。この棒はバイというバチが正式名称だ。それらの仏具も、ここの栄海寺にあるものはチベットのものらしい色彩がある。雲飛は射精を、こらえられなくなったのか急速に座り込むと、バイでリンをチーン、と鳴らし、
「愛欲成就、快楽即極楽。」
と愛欲自在経を唱え終わると、正座したまま、きな子の豊満尻の中に連続で二回、射精した。
 二人は快感の渦に巻き込まれたように、しばらく陶然としていたが雲飛の如意肉欲棒も次第に縮小したので、二人は合体から離れた。
 雲飛は裸体で正面からもたれている、きな子に、
「もし貴方が妊娠したら、それは当寺にとっても喜ばしい事ですから、連絡をください。決して堕胎など、せぬように。」
と念を押す。きな子は、
「出産したら、引き取ってくれるのですか。ここへ。」
と真顔で聞く。雲飛は余裕綽々と、
「無論ですよ。貴女が育てますか?」
「いいえ、引き取ってください。その方が、いいと思います。」
雲飛は満足した。もっと、きな子に射精したかったが、妻の快念とのセックスの場合は、これで終わりなので続ける精力も出ない気が雲飛には、した。雲飛は立ち上がると部屋の隅にあるタンスのなかから僧衣を取り出すと下着を着ずに、僧衣を身にまとい眼鏡を取る。
そこには普通の僧侶らしい姿が、あるだけだった。きな子はショーツを履き、ブラジャーをつけて、衣服を着たけれども。

 再びチベットに戻って、トントンプー村長と流太郎は話を続けている。村長は、
「キミには自由行動も必要かも知れん。どうだい、外に出てみないかね?」
と予想外の提案をした。流太郎は、
「外に出るって、いっても僕はチベット語を知りませんから、何かの際には困りますよ。」
と抵抗する。村長は、
「いや、なに。そこが面白い処でな。私が渡す眼鏡とイヤフォンを身に着けて外出すれば、いいのさ。」
と自信ありげな様子だ。流太郎は、
「なぜ、そんなものを身に着けるんですか。伊達眼鏡と何のためのイヤフォンでしょう?」
「君がチベット語を知らないと云うからさ。ついでにマスクも、していくんだ。」
「眼鏡にイヤフォンに、マスク。それでは病人に見られます。」
「そう見られてもチベット語が分かれば、いいだろ?お金も多く渡して置こう。キャバクラも街には、あるよ。入って見るように。」
そういう訳で流太郎はトントンプー村長の渡した眼鏡、イヤフォン、マスクをして街に出た。不思議や不思議、なんと不思議にも街の看板の字が眼鏡を通すと日本語に見えるのだ!信じられない、というか、このあたりの看板は日本語のものもあるのかと思い、流太郎は眼鏡を外した。すると看板の文字はチベット文字で、一語も理解できない言葉が看板にあった。又、眼鏡を掛けると、そのチベット文字が日本語になるという何とも不思議なメガネだ。
(こりゃ不思議、というより便利だな。)と流太郎は思いつつ街を歩く。露天商から荷台に乗ったトマトを一個買うと、それを食べる。うまい、そう思いつつ歩き始めた流太郎は、やがて繁華街の中にキャバクラらしき店を見つけたのだ。
 チベット一のキャバクラ、ルナルナ、と、ある。眼鏡を外せばチベット語で書いてあるのだろうが、外したら読めない文字になるから今度は眼鏡は外さない。
 店のドアを開けると、すかさず、その店のチベット人のマダムが呼びかける。
「いらっしゃいませ!ようこそ、あら、日本の方のようね、チベット語、分かりますか。」
流太郎はチベット語など一語も解さない。すると、今のは日本語ではなかったのか。もしや?と思い、日本語で話してみた。
「分かりますよ。今、あなたが話したのはチベット語でしたでしょ。」
それが流太郎の耳には分からないチベット語で相手に通じたらしい。彼の耳には日本語で聞こえているけど。
マダムは目を丸くして、
「まあ、上手なチベット語を話しますね。もちろん、私は日本語は話せません。」
と話す言葉は流太郎の耳には、すべて日本語で聞こえる。トントンプー村長から貰ったイヤフォンは言語を自動変換して耳に伝えるらしい。そしてマスクは喋る日本語をチベット語にする。流太郎は、
「あなたのチベット語も解りますよ。出来ればナンバーワンの女の子を呼んで欲しいな。」
と要望すると、マダムは、
「はい。まだ時間も早いから、ナンバーワンのチェリネを行かせます。一番奥の席に、どうぞ。」
と右手で奥まった上等な場所を指し示した。
 その場所の、ゆったりとしたソファに座ると、チベット美女のチェリネが自分で盆にグラスを二つ乗せて、やってきた。彼女は流太郎の横に座り、グラスに酒を注ぐ。チベットビールだ。
男性のボーイが「トゥクパ」という日本のラーメンみたいで麺が細いうどんのような料理を持ってきた。チェリネは、
「あなた日本人みたいだけど、チベット語うまいらしいですね。」
と話しかけてきたので、流太郎は、
「そうかな?自分でも、よく分からないよ。」
と日本語で話すと、それはマスクを通してチベット語に同時に変換されるから流太郎の耳にもチベット語でしかない。チェリネは、その言葉を聞いて、
「とてもチベット語が、うまいよ。おにいさん。」
と手放しで褒める。
「そうかい?それは嬉しいな。」
兎に角、話してみるしかない。
「くだけたチベット語も素敵。日本から何故、チベットに来たの?」
プロキシマb星人と地下鉄で来た、などとは答えられない。
「ん?社用だよ。ぼくはサイバーセキュリティの会社に勤めているんだ。」
「サイバーセキュリティって、何のことか、分からないわ。」
「インターネット関連さ。」
「ああ、インターネットね。わたしも、お客さんとインターネットで、やりとりしてる。」
チェリネの肌は白く、髪は波だって目は漆黒より少し灰色がかっていて神秘的だ。胸の膨らみが目立つ服を着ている。流太郎は、
「何人も、お得意さんが、いるんだろうね。」
と訊いてみると、
「十人は、いるのよ。対応に大変よ。」
「今日は、僕が一番乗りだね。」
「そう、なりますけど。マスクを外して、お酒を飲みませんか?」
「ああ、そうするよ。」
流太郎は白いマスクを口から外して、チベットビールを飲む。うまい、と思ったらチェリネが、
「日本のビールと比べて、どうですか?」
と訊くので、
「とても、うまいよ。」
と日本語で話した。チェリネは、それを聞いてキョトン、とした顔になる。日本語が分からないのだ。慌ててマスクをすると流太郎は、
「とても、うまい。日本のビールは日本で飲むためのものだね。比較は、難しい。」
と日本語で話しても、その不思議なマスクはチベット語に変換してチェリネの耳に届くのだ。彼女は、それを聞いて、
「よかった。さっきの言葉は、日本語ですか。わたし、少しも分からなかったけど。」
「ああ、そう日本語だった。つい、うっかりして話してしまったね。これからは気を着けよう。」
「いつまでもマスクをしているのは変だわ。料理も食べて欲しいのに。」
「あ、そうだね。食べる時は外すよ。」
「病気なのですか?風邪とか、そういう状態にあるの?」
「そ、そーだね。マスクなしでは、いられないんだ。」
「えー、そうなの。お大事に、してね。」
と云う風に、何とか流太郎は逃げ切った。マスクなしではチェリネとの会話は成り立たないのだ。マスクを外して流太郎は急いで料理を食べた。そして又、マスクをする。
 チェリネは喜んでいるようだ。自分の腕を横にいる流太郎の腕に当てると、
「今日は早く帰れる日なの。わたしの家に、一緒に来ない?泊まって行っても、いいから。」
と意外な話を始めた。

 チェリネの家まで彼女と歩いている流太郎である。午後二時くらいか。キャバクラで働いている彼女は高級マンションで一人暮らしをしているのだろう、と流太郎は思いを巡らせつつ歩く。街に見える看板の文字は総て日本語に見えるのでチベットにいる事を忘れるようだ。こんな凄いメガネを村長のトントンプーは持っていたのだ。それからマスク、イヤフォン。これらも日本語に自動変換する機器なのである。
チベットには一万歳を超える人が何処かにいるという話がある。超絶した文化があるのだろうか。トントンプー村長は、それで、そういうものを所持しているのか。地底王国シャンバラの入り口はチベットにある、という噂もある。
 美人のチェリネは人目を惹く。それで彼女の隣を歩く流太郎も注目されるが素顔でないから幾分、(´▽`) ホッとする。ポタラ宮殿に似た寺院が見えた。チェリネは、その寺院を指さすと、
「チベット密教の寺だけど、興味あるかしら。」
と流太郎に歩きながら質問した。流太郎は、
「ああ、ありますよ。日本の密教とは違うんでしょう。というか、そもそも密教って何だか知らないけど。」
「興味があれば、それでいいの。あそこに入れば分かるわ。」
「観光では入れるのかい。拝観料が、いるんじゃないのかな。」
「あの寺が、わたしの実家よ。」
その一言に流太郎はガツンと脳に一撃を食らった。それで黙ってチェリネに、ついて行く。大きな寺だった。中に入ると参詣客も多い。その人たちを横目に見ながら僧院の中に入るチェリネを流太郎は追う。
 僧院の中は誰もいなかった。チェリネは自分の部屋らしき広い部屋のドアの前に立つと流太郎に、
「わたしの部屋に入りましょう。」
と誘う。流太郎は、うなずく。
靴を履いたまま、二人はチェリネの部屋に入る。ベッドや机は部屋の隅にある。奥に仏像が、あった。チェリネは衣装ダンスの前に歩くと、私服を脱ぎ始めた。すぐに下着姿になり、形のいい乳房が薄いブラジャーに覆われているのが見えた。横幅の広い大きな彼女の尻はスカートを脱ぐと、プルンプルンと揺れる。
一旦、下着姿になるとチェリネは流太郎の方を向いて立った。股間のショーツには陰唇のスジがクッキリと浮き立っている。流太郎との距離は二メートルほど。彼女の乳首も浮き立って見える。
流太郎は少しずつ自分の股間に前進の血液が集まるのを感じつつあった。チェリネは衣装ダンスの中から僧服を取り出すと、それを着る。さっきの下着姿は見えなくななり、女僧とでもいうべき雰囲気のチェリネになった。流太郎の股間の充血は分散した。チェリネは、
「わたしは、この寺院の院長の娘なの。キャバクラには週に何回しか、行かないわ。それ以外は、この僧院で修行か仕事をしています。」
彼女は黒髪に手をやると、右手でスッと髪全体を引いた。パカッと取れたのは彼女のカツラだった。日本の尼僧のように剃毛していず、スポーツ刈りのようなチェリネの頭部である。流太郎は、
「ぼくは、このままでいいですか?マスクとか取った方が、いいかな、と。」
と云ってみる。そうすると言語による意思疎通は出来なくなるのだろうけれど。チェリネは両肩を西洋人のように、すくめて、
「そのマスクをしているから、チベット語を喋れるんでしょ?」
と指摘した。なんだ、知っているのか、と流太郎は思った。
「そう、そうなんですよ。これが、ないと僕はチベット語が話せません。」
と言い、右手の人差し指で自分の白いマスクを指さした。それを見るとチェリネは婉然と微笑み、
「チベット語を話さなくてもいい世界に連れて行ってあげられるわ。そのためにもチベット密教、ゾクチェンの修行をしましょう、今から。」
と流太郎を、いざなうのだ。

 その部屋で流太郎はチベット密教の僧服をもらい、身に着けた。プロキシマbに行くはずでは、なかったのか、と思い出すが、こういう展開も悪くはないのかもしれない。
 結跏趺坐という胡坐(あぐら)に似た姿勢で座り、両手の指を組んで瞑想をする事を流太郎は習った。曼陀羅を指で作るやり方がある。それをチェリネが自分の手で、やるのを真似て流太郎も組めるようになった。
 チェリネは大きな窓を開けた。流太郎の視線は窓の外に出た。丘の上に立っている僧院は、下の方にある街並みを見下ろせた。チェリネは、言う。
「空を見るように。そして何も考えないで。もしも何か、思いが浮かんでも、そのままにしているように。それが、ゾクチェンの瞑想です。」
流太郎は、なるほど、そういうものか、と思った。窓の外に見える赤い建物がチベットの僧院だ。ここの他に、いくつも見える。日本と違って僧の衣服も赤色なのがチベットの特色だろう。真紅というより、えんじ色の赤だ。チェリネも今は、その赤の僧服を着ている。流太郎も身に、まとっているのは赤色の僧服だ。
空を見ていると、ぼーっとしてきた。何も考えが浮かばない。それで、いいのだろう。これがゾクチェンの瞑想なのだ。おや?
流太郎は股間に手を感じた。柔らかい手の感触。その手は流太郎の、おとなしくしている男性器を撫で始め、柔らかに掴む。そして軽く、しごく。チェリネが後ろから流太郎の股間に手を伸ばしているらしい。やがてムクムクと起き始める流太郎のイチモツ、それをグン、と柔らかな手は握ると、次に流太郎の僧服の股間の切れ目から隆起してき始めた肉砲を僧服から出した。マスクをしている流太郎は、
「チェリネさん。何をしているんだ。」
と声を出すと、後ろのチェリネは、
「声を出すと思考が乱れるでしょ。何も考えないで、と言ったわよね。この位で瞑想を止めては、いけない。」
と、たしなめる口調である。
チェリネの右手は柔らかく、気持ちいい。何も考えるな、というのは無理だ。チェリネの手の皮膚は彼女の膣の感触を連想させた。何も考えずにいるとチェリネの全裸を想像した。全勃起しても射精を耐え続けるとチェリネの右手の動きは止まった。彼女は、その場を離れると仏像の祭壇の前から絵のような物を持ってきて、
「これはタピリツァというものです。」
と話すと、その宗教画を流太郎に見せた。仏らしい人物が結跏趺坐を組んでいる。その姿の周りは虹色で囲まれている。驚くべき事に、その仏は全裸であり開かれた股間からは勃起した男根が屹立しているのだ。巨根の仏の男根、こういうものは流太郎は初めて見る。チェリネは、もう一枚の宗教画を持っていた。それを次に流太郎に見せる。
そこには結跏趺坐して勃起した仏に両脚を広げて跨っている若い美女が描かれている。彼らは互いに見つめ合い、座ったまま結合しているのだ!チェリネは、
「チベット密教では肉食を認め、性交も否定しません。むしろセックスは悟りへの一番の近道だと、します。だから私達も、そのうちセックスしなければ、なりませんね。でも、今少しの時間は要します。何故なら、貴方もチベット密教のゾクチェンに習熟しなければ、ならないからです。」
と教え諭した。チェリネの豊満な胸は赤い僧服の上からも、ハッキリと見て取れる。流太郎は、(自分は勿論、チベット密教の初心者だ、やれやれ、これから、どうなるのか)と慨嘆する。僧服の股間から自分もチンコを出しているままで、このままで、いいのか、とは思うのだが。チェリネは、
「今日は、この辺で、いいでしょう。チンコも服の中に、しまってね。」
と云うから流太郎は、そうした。その前に威厳を持って立ったチェリネは、
「わたしの名前はラマ・チェリネ・リンポチェ、と言います。」
と正式な自分の名前を開陳したのだった。
 その日からチベット密教の僧侶としての生活を始めさせられた流太郎である。その日の晩の食事の豪華な事、日本人なら坊主の食事は質素なものだと一般的に思われる。でも、それは日本の話。ここチベットでは僧侶の食事は近くの住民が寄付してくれる。裕福な家程、寄進も多く高価な食べ物が寄付される。チェリネの僧院は特に周辺に富裕な邸宅が多いため、その寄進される食べ物は豪勢なもの、ばかりだ。食卓にはチェリネの父、ラマ・アルビン・リンポチェも現れた。チェリネが連れて来た流太郎を見ると、
「おや、日本の方かな?体験としてチベット密教を修行するのも、よろしい。」
と鼻髭を揺らせてアルビン師は云う。流太郎が本気ではないのは見て取ったようだ。それから、
「風邪でも引いているのかな?お大事ね。」
とアルビン師は云う。さすがに、そのマスクは日本語を自動的にチベット語に変換するものとは気づかない。流太郎は、
「風邪は引いていません。このマスクは日本語をチベット語に変換翻訳してくれる不思議なものです。僕はチベット語を知りません。」
と話すとアルビン師は云う。
「そうなのかね。日本は技術の国だとは知っているが、そんな便利なものも出来たんだねえ。」
流太郎は、
「いえ、日本のモノでは、ありません。トントンプー村長に、もらったのです。」
アルビン師は云う。
「そうか、村長も不思議なものを持っているのう。あ、一人娘のチェリネだよ。わたしも君を指導したいが、中々、忙しくてね。チェリネが指導するから。」
それからテーブルの上に山のように積まれた御馳走の数々を三人で平らげていく事に、なった。

 個室といっても四畳半の部屋を与えられた流太郎。仏像が林立する部屋ではあるが、その仏像の股間は総て勃起した道具を表している。中に結跏趺坐で若い美女と交合する仏像もある。
なんという展開か。籾山に命じられたのはプロキシマbへの出張だったはずが、チベット密教の僧侶として修業するようになるとは。
 次の日の朝、又、豪華な朝食を三人で食べた後、チェリネは、「今日は午前中に葬式があるの。わたしは、そこで読経しなければ、ならない。あなたも、ついてきなさい。」
と流太郎に話した。チェリネの父、アルビン師は静かに微笑んでいる。
 
 チベットの高地平原での葬式は死体を解体してのものだ。赤い広い布で遺体を隠して解体するが、その死体の匂いにハゲワシ達は集まって来た。少し離れたところで待機する鳥たち。
チェリネと流太郎は解体される遺体の近くにいた。赤い布を取り払うとハゲワシが一斉に遺体に集まり、それを食べ始める。チェリネは読経を始めた。流太郎も眼鏡を掛けているからチベット語の経文は日本語に見える。それをマスクをしたまま日本語で話すと、チベット語の読経になる。
死臭は、ものすごく、流太郎は懸命に耐えるのだった。
日本の坊主の葬式は、はるかに遣り易い環境にある。そもそも日本の仏教は葬式が一番の収入源だ。それを楽々、行い高収入であるから、それをチベットの鳥葬と比べれば極楽かもしれない。
 流太郎は日本でも葬式には出た事がないので初体験だった。鳥が食べられるように骨まで細かく砕くため、遺体は何も残らなかった。

 葬式の後は信者の家に呼ばれていたらしく、街から少し離れた場所の大きな民家にチェリネと流太郎は入った。葬儀の死者の親戚の家だった。三十路の女主人のような女性が、
「ようこそ。おいでくださいました。今日は私の夫も仕事を休んで、今朝の葬式に出たものですから家に居ります。あなたっ。」
と広い応接室の外に声を掛ける。すると応接室に入って来たのは三人の男性だ。三人の男の顔は、よく似ている。チベット人らしく陽に焼けた顔ばかりだ。女主人は、
「大した、おもてなしは出来ませんが、少しは出来ます。チェリネ・リンポチェに見せたいものがあります。隣の若い、お坊様にも。」
と打ち明けるように話す。チェリネは座ったまま、目を輝かせて、
「ええ。是非、見せてください。」
と促した。
女主人は三人の男性に目配せした。すると三人の兄弟のような男は長男らしい男が女主人の後ろに立つ。続いて、次男、三男らしき男が並んだ。それを後ろを向いて確認した女主人はスカートを降ろしたのだ。その下には何も彼女は履いていなかった。豊満な尻と、その前の濃い草むらが現れる。チェリネと流太郎は彼らの横姿を見ている。
 女主人の後ろの男がズボンを脱ぐ。パンツの股間は膨らんだ彼は、女主人の尻の穴に自分の陽肉を入れた。彼は腰を振り始め、三分ほどで射精する。そうすると彼の後ろの男と入れ替わり、次男のような、その男もズボンとパンツを脱いで女主人に挿入する。二人の尻は連携して動き、又して三分で射精。
その男も後ろにいる三男らしい男と交代して、同じように尻を振り始める。女主人は流太郎を横目で見ると、
「男の御坊様。わたしに前から入れてください。」
と懇願した。
余りの展開に流太郎はチェリネを横目で見ると、チェリネは、うなずき、行け、という顔をした。後ろから尻の穴に入れられている女主人の前に立ちあがって行った流太郎は、彼女の淫芯が男を誘うように口を少し開けているのを見た。その途端に自分の男根が隆起したのだ。それで彼はズボンとパンツを脱ぎ、女主人と立ったまま結合する。彼女の後ろでは男がグングンと尻の穴を攻めているので、その律動に流太郎も腰の動きを合わせた。女主人は尻の穴と膣の穴を同時に攻められて、快感が彼女の全身を走り巡っているらしい。
チェリネは座ったまま興味深そうに三人の尻の動くのを眺めている。突然、チェリネは言葉を発した。
「オム・マニ・ペメ・フム。性の法悦に至りなさい。オム・ターレー・トゥッターレー・トゥレー・スヴァハー。」
観音菩薩からターラー菩薩の真言がチェリネの口から唱えられると、三人の尻の動きが次第に早くなり、女主人は赤い口を開くと赤い舌を出した。後ろの男が彼女の乳房を服の上から揉みしだき、流太郎は舌を出して女主人の舌と絡め合わせた。絶頂に達した女主人は自分の陰唇と尻の穴を強く締め付ける。前後の二人の男は、その刺激に同時発射して果てるのだった。

 館を後にしたチェリネの銀行口座には、あの女主人からの多額の寄付金が振り込まれている。あの三人の男は兄弟で、しかも、あの女主人の夫なのだ。晩になると、長男、次男、三男の順でベッドに全裸で寝ている女主人に彼らも全裸で体を重ねていく。それで兄弟の性欲が一致する日には一晩、最低三人の男と、その肉棒を女主人は味わっている。チベットでは、こういう多夫一妻制が、あるわけではないが、地方によっては多く存在するのだ。
 チェリネは軽快に歩いていくので、流太郎は追いつくのに懸命だった。あの女主人も裕福な家らしい。多数の信者が、いなくても少数の富裕な信者がいれば宗教家としての生活は、成り立つ。流太郎は、さっきの女主人との交合でチェリネがマントラを唱えた時には至福の性感を覚えたのだった。(チベット密教のマントラは、凄い)と速足で歩きながら流太郎は思っていた。
 その辺りは広壮な民家が並ぶ高級住宅街だ。チベットに対する日本人のイメージは貧しい遅れた国、だろう。それは、かなりの部分、当たっているが、すべてのチベット国民が貧しいと考えるのは早漏、いや、早計である。日本にしても没落の道を歩み始めている。流太郎は日本にいる時に見たものを思い出す。

 福岡市長選挙が始まった。候補者は二人。一人は五十代の男性で元、有名証券会社勤務、重役にまでなった人物だ。東京にある、その会社を退社後、福岡市長選挙に立候補したのだ。当初、誰もいない福岡市長の立候補者だった。その唯一人の立候補者の名前は兜山円太郎という証券界に、ふさわしい本名だが街の噂にも唯、一人の立候補者である兜山の当選確実の声が挙がっていた。
しかし、だ。次に立候補してきたのは何と、ナント、驚きの・・・人工知能ロボット『福岡君』だったのだ!
彼は、といっても外見が男性なだけで、股間にイチモツがあるわけではない。下半身がないタイプのロボットだ。街の選挙ポスター掲示板には、古くからあるやり方だが兜山候補と福岡君のカラー写真が貼られる。それを見る福岡市民も驚きの反応だ。流太郎がチベットに来る前に二人(?)の選挙運動は始まっていた。
これまた昔からある遣り方の選挙運動で街宣車に乗り、スピーカーで自己紹介するというものだ。兜山は証券の営業で鍛えた声を使い、
「兜山で、ございます。どうか、わたしという銘柄に投資してください。お金は、いりません(笑)。選挙用紙に私の名前を書くだけで、よろしいのです。」
と福岡市中を車で回る。一方の福岡君は青い背広に赤色のネクタイで街宣車の助手席に座り、運転手は当然のようにロボット運転手だ。
「福岡市の皆さま、人工知能の福岡君、で御座います。この度、福岡市長選に立候補しました。皆様の力強い一票を是非、わたくしに入れてくださいますよう、お願いします。」
と四十代男性の声で話す。
それを見た市民はスマホで写真や動画を撮影して、SNSに投稿する者も、いる。そのため全世界的に福岡市長選に熱い視線が向けられるようになった。

SF小説・未来の出来事15 試し読み

 スタジオのドアが開いて、一人の金星人女性が優雅に入って来ると、
「ルンドリオ・ザーメントは、行方不明じゃないわ。」
と、その場にいるAVの監督に向かって云った。監督は、
「え?え?え?あなたは一体、全体、誰ですか?」
と、その女性に問いかける。謎の女性は魅惑的に微笑むと、
「名乗る必要は、ない。それより、あなた、」
と流太郎ザーメントに呼びかけて、
「一緒に来なさい。」
流太郎は抵抗した。身動きせずに彼は、
「なんだか分からない人に、ついて行かないのは子供だけじゃ、ないですよ。」
謎の若き美女は、スカートのポケットからピストルを取り出すと流太郎ザーメントの顔に向けて発砲した。ピストルから飛び出したのは弾丸ではなくて、レーザー光線のような青い光だ。その青い光が彼の顔に命中するとともに、スタジオの窓ガラスを通り抜けて流太郎ザーメントは外へ飛び出していった。室内の皆は呆然として動けない。動くと謎の美女にピストルで狙われるかもしれない。
謎の若い美女は凄然と窓ガラスの前に歩いていき、ピタリと立ち止まって窓の外を見た。外から突然、青い光が稲妻のように彼女に降り注ぐと、謎の美女は窓ガラスを通り抜けて窓の外に出て行ったのだ。

 窓の外には小型の円盤が空中に待機していた。謎の美女は円盤内に現れると、そこには流太郎ザーメントが意識を失ったように立っている。
室内には若い女性が謎の美女の指示を待つかのように、身を正して立っている。その女性も端正な顔で長身だ。謎の美女は、その部下らしき若い女性に、
「あの男を連れてくるように。」
と命じた。部下らしき女性は、
「はい、すぐに連れてまいります。」
と快活に応答して室外へと立ち去ると、ほどなく一人の男性を連れて戻った。西洋人風の男が入って来た。ルンドリオ・ザーメントだ。しかし脳の中身は時流太郎。彼を見た時・流太郎の外見のルンドリオ・ザーメントは、
「君は私の姿を持っているのでは、ないか?」
と声を掛ける。
流太郎の外見を持つ男を見たルンドリオ・ザーメントは、
「キミこそ、ぼくの姿を持っているみたいだ。そういう気がする。」
謎の美女は、対面している二人の間に進むと、
「フフフ。どちらも完全に脳内記憶が入れ替わっていないみたいだわ。何処かの悪戯ずきな人が、やったようね。この情報は、わたし達、金星情報局に入ったから、あなた方を連れ出して元に戻すのが私の仕事。」
と話した。それは金星語だったので、傍らにいる女性がザーメント流太郎に日本語訳して話した。先ほどの二人の発言も金星語と日本語で行われたのだ。だから、それを聞いた二人は、それぞれの言語が理解できなかった。
謎の美女は静かに、
「わたしの名前はサニン・ケルメル。金星情報局の惑星間調整課次長なのね。だから瞬間転移ピストルの所持、および使用も認められています。この部屋の隣に手術室があるわ。カリネ、連れて行きなさい。ドクター・メスキリーノが待機しています。」
と助手らしき背の高い女性に命じる。カリネは、
「はい、今、すぐに。それでは、行きましょう。」
と二人に行きましょう、と金星語と日本語で伝えた。

 ドクター・メスキリーノの手術着は右半分が白、左半分が緑色だった。黒いメガネをかけて、鼻の下に、ちょびっと髭を生やした中年の医者だ。椅子に座っていた彼は立ち上がると、
「さあ、そのベッドに二人で並んで寝なさい。」
と金星語で促す。それをカリネは日本語でザーメント流太郎に伝える。
二人は服を着たままダブルベッドの大きさの手術台に寝そべった。二人の頭にヘッドフォンのような物をドクター・メスキリーノは装着させると、手術台の横にある縦長のパネルのスイッチの一つを押す。
強い電流のような刺激が二人の頭に伝わると、二人の顔つきが電撃的に変わった。
「ん?」と流太郎ザーメント。
「おおお。」とザーメント流太郎。
二人の頭の中は外見と同じに戻ったのだ。

 カリネに連れられてサニン・ケルメルのいる部屋に戻った二人に、サニンは、
「正常になったようね。地球人のあなた。お名前は?」
と明晰な日本語で話した。
流太郎は、その発音の見事さに驚くと、
「時・流太郎といいます。」
サニンは楽しそうに、
「あなたの居た地球の一地方に戻してあげますよ。」
と流太郎に日本語で伝えたのだ。

 無事、地球に戻った流太郎は自宅のマンションに帰る。もう日没後だった。会社は明日、行けばいい。ノートパソコンでネットニュースを見る。
最後の証券会社アナリスト辞職
という文字が流太郎の目に入る。人工知能で株式市場を解説するのが常識になった証券会社。対面営業は、かなり大昔になくなり、ほぼほぼ、ネット証券だけになっている。
 碁や将棋も人間同士で対局し、同時に人工知能も何種もあるから、それぞれ競い合い、最後には人間と人工知能との勝負に、なる。その人工知能は電機メーカーで製作して、自社の宣伝にもなるので出場させている。
この人工知能との対局が面白いため、将棋や囲碁は前より盛んになっているほど、だ。
 流太郎の高校の同級生に証券会社に勤めている者がいる。ネット証券で福岡市に本社を持つ会社だ。この会社も福岡市の人工島アイランドシティ2にある。最初の人工島アイランドシティは建物で一杯になったため、二番目の人工島であるアイランドシティ2が埋め立て竣工された。アイランドシティ2は、アイランドシティとは五十メートル程しか離れていないで、二つの人工島は橋で繋がっている。
ネット証券でありながら一部の顧客には対面営業も行っている。丘洲証券という会社名で、読みはオカス証券という。犯す証券と頭の中で読んでしまう人も、いるらしい。その会社に電話すると若い男子社員が、
「はい、おかす証券です。」
と電話に出る。それを聞いた女性客はハッとする場合もあるという。もちろん社名は「犯す」という意図を含めたものでは、ない。人工島は砂洲のような場所にあり、その上の丘の上に会社があるので丘洲証券と社名をつけたのだ。
重役の中には、
「丘洲だと、読みが女を犯すのオカスに聞こえますよ。」
と反対した者がいたが、社長の御貸(おかし)は、
「なに、気にする事は、ないよ。会社の法規登録も終わっているからな。」
と気軽に答えた。この社長も社長としては若い方で四十一歳だが、御貸照男というのが本名だ。おかし・てるお、と読む。犯してるオ、と読み取られる事もあるのだ。
この丘洲証券の自社ビルはアイランドシティ2の南側にあり、ラブホテルのような外観であるのだが、実際に一階は入り口が二つあり、一つは丘洲証券のもので、もう一つはラブホテルの入り口なのだ。つまり丘洲証券の自社ビルの半分はラブホテルなのである。
証券業界は、いつの時代になっても倒産の危機を、まぬがれないもので、その危険を最初から予測して備えているのが丘洲証券ビルなのだ。
 丘洲証券の朝礼で御貸照男社長は、
「我が社も創立十周年を迎えるが、証券業界は依然として厳しい状態にある。だが諸君、心配は要らない。うちのラブホテル経営は順調だ。最近は益々の外国人観光客で賑わっている。中にはアフリカからの宿泊客もいる。その人達は福岡市内に宿泊施設が不足しているために、当社のラブホテルをご利用になるのだ。そのついでに、それらの外国人の御客さんに弊社のネット株取引の英語で書かれたパンフレットも、お渡ししている。手数料の安さのため、海外の顧客も増えている。日本株を欲しい外国人も増大しているからだ。であるから、自社ビルの半分がラブホテルなんて、と嘆かないように。」
そう熱弁を振るうと御貸社長は社員一同を見渡した。全部で十人ほどの正社員で、女子社員は二人だ。女子社員は二人共、アイランドシティ経済専門学校を卒業して、すぐに入社してくれた若い才媛だが、朝礼で紺色の制服を着た二人は並んで立って御貸社長の話を熱心に聞いていた。
アイランドシティ経済専門学校も丘洲証券の経営する学校法人なので、丘洲証券の資金源は、いくつもあるのだ。
この丘洲証券に時・流太郎の高校以来の友人が入社している。彼の名前は玉二義郎(たまに・ぎろう)という。玉握ぎろう、と読んでしまいがちだ。高校時代の呼び名が金玉にぎろう、だったのも仕方ない。玉二は流太郎にアイランドシティ2の喫茶店で、
「社長室に入った事もあるよ。」
と話した。流太郎は、
「御貸社長の?丘洲証券の社長室に?」
と聞き返すと、玉二は、
「ああ、そうだ。机の上の固定電話が鳴ると御貸社長は、受話器を取り、
『はい、丘洲証券です。あ、小星山様、いつも御世話になります。今日の推奨銘柄、で御座いますか?少々、お待ちくださいませ。』
その電話保留にすると社長は、机上のスマートフォンを取り上げた。それを耳に当てると、
「今日の推奨銘柄を教えてくれ。」
と質問した。すると若い男性の声が機械的な口調で、
「はい、今日は新興企業のヤングアゲインがストップ高すると思われます。」
「そうか、あれだな。若返り薬を開発しているという、アザース上場の。」
「ええ、厚生労働省も、そろそろ薬として若返り薬を承認する模様です。」
「上出来だ。すぐ、お客様に知らせる。おう、」
と御貸社長は玉二義郎(たまに・ぎろう)を見ると、
「今、人工知能カブカブ君と話をしていたんだ。人間と話をしていたんではない。」
「サイバーモーメント社製の人工知能ですね?」
「そうだ。」
と答えると御貸社長は固定電話を保留から解除して、
「もしもし、お待たせしました。本日の推奨銘柄はアザースのヤングアゲインです。」
・・・と玉二は流太郎に回顧するように話した。その話を流太郎は、ちょっと思い出したのだ。

 翌日、早く出勤すると社長の籾山が、
「おう、本物の時だな。この前、変な白人が来て自分を時・流太郎だというんだ。やっぱり、あれはニセモノだったのか。」
と考え込む。流太郎は、
「え?何の事ですか、そんな白人が、いたんですか。」
「ああ、いたよ。北九州に仕事を頼んだけど、帰ってこなかった。仕事の方は、してくれていたけどね・・、まあ、いい。よくわからないけど、それが人生さ。て、ことかな?君は整形手術でも、していたのか?白人の外見に。」
「いえ、していませんよ、一度も、そんな事、していませんね。」
「そうだろう。あれは君が白人に変装していた、と解釈する。しばらく出張は、ないから。内勤で頑張ってくれ。」
と籾山は流太郎に指示した。
こうして、又、サイバーセキュリティの仕事が始まった。ノートパソコンに向かいながら、流太郎は今までのAV男優としての仕事を思い出す。退屈な今の仕事より、AVの仕事の方が、やりがいが、あるように思えた。でも、福岡市にはAVの制作会社は、ない。ぼんやりしていると、新入社員の時野・未漸理(ときの・みざり)が、
「時さん、お電話です。」
と声を掛けて来た。保留中の電話を取ると流太郎は、
「はい、お電話代わりました。時です。」
と応対する。電話の声は中年男性の声で、
「お仕事中ですか?」
と聞いてきたので、
「はい、そうですが。セールスなら只今は、受け付けておりません。」
と流太郎は電話を切ろうとした。が、電話の男は、
「セールスじゃないんですよ。こちらも、仕事の話です。」
「ああ、それなら承りますよ。どうぞ。」
「ああ、ありがとう。あなたは時・流太郎さんですね?」
「ええ、そうです。」
「いやあ、あなたの、やりがいのある仕事を御紹介しますよ。」
「やりがいのある?仕事、ですか?ハッキングされやすいサイトなのですか。」
「いやあ、そうじゃないです。ま、それも、お願いしようとは思っていますけどね。」
「ええ、ええ。で、それも、ではない仕事とは、いったい・・?」
「AVの仕事ですよ。AV男優の仕事!です。」
がつーん、と流太郎の頭に電波のようなものが流れた。今さっき、それを考えていたからだろう。流太郎は迷った。こんな電話に応答していて、いいものだろうか。でも、サイバーセキュリティの仕事の事も少し話していたな。それなら続けても、いい。
「うちはサイバーセキュリティの会社ですから、そちらをまず最初に御願いします。」
「分かりました。取り敢えず、まずは我が社へ来てください。」
「場所は、どちらですか。」
「いや、なに、そんなに遠い場所では、ありませんよ。」
「どこですか、御社は。」
「おたくの会社のビルの隣です。アイランドタワーの地下一階にUGジャパンという社名で入っていますよ。地下一階は全部、我が社で入居していますから、すぐに分かる。受付の女の子に連絡しておきますから、まずはエレベーターで降りてすぐの受付の女子に御名前を伝えてもらえれば、いい。」
「それでは、さっそく御伺いします。」

 アイランドタワーというビル名からも分かるように超高層ビルでは、あった。流太郎も毎日、自社に通勤の際に眺めていた隣のビルだ。エレベーターは三台、稼働していた。それに乗って地下へ降りると、扉が開いて目の前に受付があり、女子社員が座っていたが、なんと水着で受付に座っていた。若いし美貌で受付にピッタリの女性は赤いビキニとTバックの薄いもので股間を隠している。が、彼女の陰唇の形が浮き出るほど、そこに食い込ませていた。その受付のカウンターは透明のプラスチックで出来ているため、その受付の女子社員の下半身まで流太郎には見えてしまったのだ。
長髪の黒髪の彼女は流太郎を見て微笑む。赤いブラの左右には乳首もクッキリと浮き出ている。訪問客に対するサービス度も日本一らしい。これこそAV会社、というものだ。
 流太郎は半勃起してしまい、ズボンが膨らみをみせないように調整したが、受付の女性は黒い瞳で流太郎の小高く膨らんだ部分を見つめると、
「時・流太郎様ですね。」
と尋ねた。
「ええ、そうです。初めまして。」
「ようこそ、UGジャパンへ。あちらが入り口となっています。と彼女は右手を水平に右の方に差し出して、入るべき場所を示した。そこが社長室らしい。彼女は指で自分の目の前にあるボタンを押すと、
「時様がご来社されました。」
と伝える。流太郎が歩いて数歩すると社長室のドアが開き、中年太りの色の白い男性が現れると、笑顔で、
「やあ、時さん。社長の映・部位太郎(えい・ぶいたろう)と、いいます。よろしく。」
と自己紹介した。時も、
「時・流太郎です。よろしく御願いします。」
と言いつつ身をかがめる。
映社長は、
「さあ、中へどうぞ。」
社長室の窓は広く、そこは博多湾の海中が見えている。このビルの地下一階は、そういうものなのだろう。
映社長と向かい合わせにソファに座った流太郎は博多湾の海中には様々な魚が泳いでいるのが口に咥えるように、よく分かった。熱帯魚も見えたのだ。流太郎は、
「あれは熱帯魚ですね。」
と、その見えた魚を指さして云うと、映社長は、
「ああ、あれね。熱帯魚を飼っていた人達が博多湾に捨てているらしいね。ぼくはクジラも見た事が、ある。」
「そうなんですか?クジラが博多湾に。・・・(絶句)」
「クジラは、まだ捕獲制限がありますからね。世界の海を泳ぎ放題だよ。この窓ガラスを背景にAVを撮る事もある。そんな時は何故かクジラは、いないけどね。(笑)。」
「ここがスタジオにも、なるんですね。」
と流太郎は感心する。
「ああ、そうさ。どこでもAVだよ。社長室までスタジオに出来るのはウチだけだろう。今日は見学だけでも、していって欲しい。超能力青年を呼んでいるから。」
と社長が発言すると、社長室のドアが開いて精悍な青年が入って来た。映社長は、
「超能力者、真下琉望(まげ・るぼう)君だ。」
と彼を流太郎に紹介する。真下はスポーツ刈りの頭を流太郎に向けると、
「真下です。なんでも曲げられますよ、ボクは。」
と豪語した。続けて彼は、
「曲げられるだけじゃなくて、変えられるというのかな。それも、できるよ。」
と云うので流太郎は、
「ぜひ、この目で見たいですね。その力を。」
「ああ、いいともさ。やりますか?監督、いや、社長。」
と問われて、映社長は、
「よし、やろう。ここを撮影現場にする。秋花冬桜を呼ぶか。」
そこで人気AV女優の秋花冬桜が呼ばれて全裸で社長室に入って来た。彼女の下腹部の、なだらかな丘の最下端には惑乱させる黒い毛の密集が、ある。横幅のある丸いバナナのような彼女の乳房だ。秋花は赤い唇を開くと、
「お呼びですか、社長。」
「ああ、君に超能力の実験台に、なってもらおうと思う。」
秋花に続いて撮影スタッフも社長室に入って来た。三脚のついたカメラを持ったカメラマン、光を反射する板を持った照明係、マイクを持った録音係、メガホンを持った監督、助監督、などなど、がゾロゾロ、ガラガラと集合する。
緑色のソファに全裸で座らされた秋花冬桜は映社長に、
「大きく股を開いて。そう。あまり大きく開くと、おまんこが口を開けるから、そうならない程度にね。」
両膝を立てた冬桜の縦のスジは、まだ閉じていた。映社長は、
「真下(まげ)君、始めなさい。」
「はい、いきますよー。」
真下琉望は両足を開いた全裸の秋花に近づいた。彼の視線は秋花の密淫の草丘の下にあるピンク色の窪みを捉えると、
「淫空間を捉えます。」
と宣言して、両手を自分の胸のあたりに上げて、催眠術に掛けるような動きをした。
すると!それに合わせて冬桜の閉じていたオマンコが開き始めたのだ!すすすすすーと全開になる女陰を自分で感じた冬桜は、
「いやんっ!オマンコが勝手に開くぅーっ。」
と叫んだ。
これが超能力者、真下琉望の超魔術力なのだ。もちろん撮影は始まっていた。
冬桜の女陰は満月のように最大限にまで広がる。冬桜は自分の両手は膝の上なので、自然には、そこので陰唇は開かない。まさに真下琉望の超能力の力によって、冬桜の閉じていた陰芯は開かれている。
それを操った真下だが、映社長は彼の股間を見ると、ズシッとズボンが膨らんでいる。映社長は、
「真下君。君の肉欲棒も上に曲がっているよ。ズボンとパンツを脱いで、冬桜のマンコに入れたらいい。いいだろう冬桜?」
とマンコと両膝を開いたソファに座った全裸のAV女優に打診すると、彼女は両手で両眼を覆うと、
「はい、いいです。オマンコに入れてください。」
と答えた。
真下は照れたようにズボンを脱ぎながら、
「冬桜ちゃんにハメる前に面白いものを見せますよ。」
と発言し、パンツを脱いだ。
スタジオにいる人々は、
「おおーっ!」
と歓声を上げる。真下の男棒は超能力者らしく?立派な道具だったのだ。スコーンと上に向かっている真下のモノだが、それをカメラに正面から写るように真下は態勢を変えた。
 カメラは、それをズームアップで捉える。真下は、
「今から、やります。スプーン曲げ、ならぬ勃起チンコ曲げを。」
真下は念を送るように自分の全勃起チンコに両手のひらでサッ、サッ風を送るような動作をした。すると!真下のフル・スタンドアップ・チンコは陰茎の中心部から先が右に曲がったのだ。ぐにゃり、と四十五度は曲がっただろう。
室内は騒然となった。中折れというのはペニスが二つに折れる現象ではなく、立ってもスグ萎える事を言うが、今、真下が見せているチン魔術はペニスが文字通り、右に曲がっている。真下琉望はカメラに向かって、
「これがチンコ・パワーです。」
と大胆に宣言する。
 真下琉望は、
「まだまだ、これから先に、これより凄いものを見せますよ。お楽しみに。ひとまずチンコを元に戻します。えいっ!」
真下は自分の勃起チンコを見つめると気合を掛けた。するとタチマチ、曲がったチンコは元の態勢に戻る。ソファの冬桜のマンコは全開のままだ。真下は、
「冬桜ちゃんと合体します。」
と宣言してソファの秋花冬桜に重なり、勃起肉を彼女に入れていく。ずっぽりと真下の肉棒が冬桜に入ると、二人は尻を振り始める。冬桜は乳房も揺らせつつ、乱れた息を吐き始めた。真下は、
「これから冬桜ちゃんの膣内でボクの勃起チンコを右に左に曲げますよ。」
と発言すると、実際、そのように超能力で肉棒を曲げた。
「ああっ、マンコの中のチンチンが右に左に曲がっていくぅー、こんなの初めて、すっごーい、わ。あふ、あふっ、ああん。」
と激しく乱れる秋花冬桜だった。映社長は、
「レントゲン・ビデオカメラで撮影開始。」
と指示する。
カメラマンの一人はレントゲン・ビデオカメラで秋花冬桜の尻のあたりを撮影する。それには膣内で右に左に曲折する真下琉望の勃起チンコが写っていた。琉望は、
「中折れ立ちフィニッシュ!」
と叫ぶと、勃起チンコの半分から先を上に向けて曲げ、射出し終わった。
 秋花冬桜から離れて立った琉望は、みんなの方に向き直った。彼のモノは元のサイズになり、ダランとしていた。映社長は納得顔で、
「一度の射精で勃起は終わるとは普通の男性だな、君も。」
と云うと琉望は、
「もう、しばらく。三分で大丈夫です。」
と自信ありげな琉望は監督を一瞥する。映社長は、キッチンタイマーをポケットから取り出し、
「三分計るぞ、・・・押した。」
キッチンタイマーが三分経ち、ピピピピ、と鳴り始める。琉望は再びソファに座った秋花冬桜の熟れた乳房の両方の乳首を交互に舐め回した。冬桜は、「あっ、あんっ。あっ、あんっ。」と濃いピンク色の乳首を舐められる度に顔を激しく、のけ反らせて両手を自分の乳房に持っていった。
真下琉望は上半身は服を着たまま、みんなを向いて立つと、彼の下半身の股間のモノは勢いよく直立に近い角度で反り返っていた。琉望は右手の人差し指を立てて、みんなに示すと、
「今から見るものは、みなさんが一度も見た事のないものです。それでは。」
と説明し、身をかがめ床に両膝を着く。それから、うつ伏せに寝そべると、両手と両脚を、うつ伏せのまま高く持ち上げた。その時!同時に真下琉望の肉体は床から持ち上がったのだ!
 うつ伏せのまま、空中に浮揚したのか?いや、そうでは、ない。彼は自分の逸物で全身を支えて、自分を持ち上げたのだ!勃起したチンコ一本で全身を支えている真下琉望!
室内のみんなは驚嘆して、彼と床に着いている一本の肉棒を熱視線で凝視する。カメラは二台で、それを追う。
琉望の金玉は重力に抗せずに床に向けて垂れ下がっているのだが、肉欲棒は二つの金玉が床に届かないように、まるで瞬間接着剤で接着したように亀頭が床に接しているのだ。
 その姿勢のまま、琉望は、
「今から、もっと凄い事になりますよ。では、」
と話すと、そこから信じられない光景が展開した。
ぴょん、ぴょん、ぴょん、と真下琉望はうつ伏せの姿勢で両手と両脚、そして頭や胴体の、いずれもを床に接することなく跳躍して前に移動していく。それは股間の勃起したイチモツが力を加えて床をジャンプしていく姿だった。
おそるべき真下琉望のチン勃起力である。
唖然とする一同が見守る中、琉望は室内を飛び回ると膝を着き、立ちあがってオリンピックの金メダリストがするような勝利のポーズをとる。
それに対して一同は手の空いた人だけ大拍手して大喝采となった。琉望の股間のシンボルは、まだ屹立している。
 映社長は得意げに、
「よかった、最高だ、真下君。これは売れるぞ。今のも撮影したからな。全世界に売れるだろう。手の指で逆立ちする人は、いるが勃起チンコで全身を支えて跳べる人間は、君しか、いないだろう。でかした、ました。じゃなくて、まげ、だったな、君の名前は。」
と真下琉望を絶賛すると、真下は、
「そうです。まげ、るぼう、ですよ。今日は調子が、いいです。秋花冬桜ちゃんの、おっぱいと乳首で、今でもビンと立ち続けているんです、ここが。」
と話して自分の股間を右手の人差し指で示す。続いて彼は出入り口のドアを指さして、
「この地下一階にはUGジャパン所有のプールが、あるんでしょう?社長。」
と尋ねる。映社長はウムと、うなずくと、
「そこで撮影を続行するか?真下君。秋花との水中セックスとか。どうだ?秋花。」
と全裸で座っている秋花冬桜に打診した。秋花は微笑むと、
「いいわよ。監督。真下さんとは初めて絡むし、気持ちよさそう。」
涼し気に応えたので、映社長は、
「よし、それでは室内プールに移行か。」
と行こう、という意味で移行と発音したのだった。

 室内プールは歩いて五分くらいの場所にあった。二十五メートルのプールだ。四季対応の温水プールである。今の季節は春先で少し冷たい日もあるからプールの水温は温泉並みの熱がある。そこまでの廊下を真下は勃起チンコのまま、秋花冬桜はオールヌードで乳房と豊満尻をプルン、プリンと色っぽく淫靡に揺らせつつ歩いてきた。
プール際に集まった皆に映社長は、
「これからプールでの撮影だ。水中カメラも使う。真下君は上着を取るように。」
真下は、それを聞いて、
「はい、脱ぎます。」
と同意すると、ほい、さっ、と上着とシャッを脱ぎ捨てて全裸になったが、胸や腕に筋肉がモリモリで逞しい上半身だ。勃起し続けている股間身も素敵だけど。
 プールの水面は少し湯気が出ている。このプールは夏以外は温泉を引いている。ビルの地下を更に掘り進めて温泉を引き当てた。人工的に温めた水よりも安上がりに使えるし、人間の体にも、いい。映社長は全裸の真下琉望と秋花冬桜に、
「二人並んでプールのそばに立って。」
と指示する。二人は温泉プールを背中にして、並んで立った。まだ真下琉望の股間の砲身は四十五度、上を向いている。映社長は、
「立ったまま結合してプールに飛び込みなさい。」
とメガホンで指示した。真下と秋花はキスをして真下の股間砲は秋花の肉ビラの中に突き進み、ズッポリと収まる。二人は息を合わせてプールに飛び込んだ。
ジャッポーン!!と勢いのいい音がして二人はプールに沈む。水面下に沈んでも、足がプールの底に着くので二人は水の上に顔を出した。カメラマンも水中撮影できるカメラを持ってプールに飛び込む。
・・・・という事で、彼らの水中セックスは二十分ほど続いた。水中に飛び込んだカメラマンも酸素ボンベを背中に背負い、水中の色々な位置、角度から撮影した。その水中カメラは望遠レンズつき、なのでズームアップも多数、駆使された。
真下琉望は射精せずに秋花冬桜から離れたので、映社長は、
「どうした?真下君、最後まで、やらずに?」
とプールサイドに高く立っている監督の椅子から声を掛ける。真下はキリッと顔を引き締めて、
「これから皆さんに人類の誰もが見た事のないものを見てもらいたいのです。」
と言い放ったのだ。映社長は首をひねると、
「人類の誰も見た事がないもの、とは・・・何だね、それ?」
真下はプールの真ん中から全裸の秋花冬桜の隣から、いつの間にかプールサイドに泳いで移動して、プールから上がっている。彼の股間のイチモツは凛凛と急角度のそり身を維持している。プール内のみんなの視線は、真下のイチモツに注がれる。真下は、
「それでは皆さん、始めますよ。カメラさん、撮影してください。それでは!」
真下琉望はプールに飛び込んだ。両手を頭の上に伸ばして飛び込む体勢だった。ドプンッ!!と音がして真下の裸身は水中に消えた。でも一分もしないうちに真下の裸体の後ろの部分がプールに浮かび上がってきた。真下の背中も尻も丸見えだ。と、ここまでは不思議でも何でもない。裸体の男のプールへの飛び込みと、水面への上昇、は見る人は少ないだろうが人類の誰も見た事のないものだろうか。
 AVの撮影現場で見た事がある人は、いるだろう。では、それではない人類初の見せ場とは?
おお!真下琉望は、まだ勃起していた。それだけでは不思議手はなく、なんと!彼はプールの水面に万歳をした格好で浮いているのだ。しかも、彼の裸体の前面は水に接していない。空中浮揚なのか?
いや、そうではない。彼は自分の全体重を勃起チンコで支えていたのだ!不思議な事に彼の勃起亀頭は水面に沈まず、水面上で静止している。物理法則に反して。男子体操選手のように両脚を揃えて、両手は頭の上に万歳三唱のように上げている。
プールスタジオは騒然となった。
「おおー、チンコで水面に浮いているぞ。」
「きゃー、チンコで体を支えているわーっ。沈まないのかしら?」
「確かに人類史上初だ!水中に沈まないチンコ!それで水の上に浮いているーっ。」
と撮影スタッフから色々な声が飛び出した。
両手の親指で逆立ちできる人も、いるだろう。でも、それは固定された床に対して行うものだ。水面に両足で立つ事も通常は不可能だが、超魔術師のような人達で水面に立ち、歩くことは行われた。かのイエス・キリストも水面を歩いた伝説は、ある。が真下琉望は水面に勃起チンコで全身を支えているのだ。映社長は、
「凄いぞ、真下君。トリックは、あり得ないだろう?今の君の体勢には?」
と問いかける。琉望は右手の人差し指でオーケーサインを作ると、
「どういうトリックをプールに作るんですか。今のところ、これが精一杯ですけど、環境が変われば、又、別の事も出来ます。」
と反論した。映社長は考え込んで、
「それなら別のスタジオに移行すれば、いいんだな。」
「そうです。それなら他に展開するものは、ありましょう。」
「よし!次のスタジオに、うつろう。」
という社長の鷲の一声で全員、別の撮影スタジオに移動した。

 次のスタジオはアイススケートの出来る凍った床の場所だった。驚異的にも真下琉望は、そこに入っても勃起していたが、さすがに二分後には寒さのせいか彼のイチモツは萎えてしまう。映社長は、
「真下君に上着だけでも着せてやれ。」
と指示する。スタッフは真下にカイロ付きの赤い分厚いシャツを着せる。臍までの長さのシャツなので真下の股間は丸見えだが、そのシャツでは回復しないらしい。秋花冬桜はアイススケートの女子選手の服装に着替えていた。ただ彼女のパンツの部分は女陰が隠されているのではなく、露出されている。そこが切り取られたパンツを冬桜は履いている。映社長は秋花冬桜に、
「秋花君はアイススケートの選手でも、あったそうだね。」
と聞くと、秋花は自分の股間を両手で隠し、
「ええ、トリプルアクセルが得意技です。」
と答えた。

SF小説・未来の出来事14 試し読み

 金星の若い娼婦の美女、ワナン。今、彼女は1ピクセルの糸も身に纏わぬ姿となっている。それを眼から脳へ伝えられた流太郎は全勃起した。ワナンは彼のシンボルタワーを見て、
「すんごい逞しいわ。わたしも色んな金星人の男のチンコを見て来たけど、一番、太くて長いかもよ。とりあえず脇コキしてみるわ。してもらった事、ないでしょ?」
脇コキ?流太郎は、その語彙を知らなかったので、
「脇コキって何の事か、知らないけど。」
「こうするのよ。手コキより気持ち、いいかも。」
ワナンは身をかがめて、流太郎の全勃起した男のシンボルを自分の右の肩の下の腋に、はさんで前後に擦(こす)った。
手コキや脚コキよりも気持ちイイ、と流太郎は感じる。ワナンの左手は流太郎の右の乳首を、つまんだので2か所から来る感覚に流太郎は放出してしまった・・・という記憶が思い出せたが、これでは自分の職業は思い出せていないのだ。寝ていても思い出せないかも、と思い、彼はベッドから立ち上がった。服は着たまま寝ていたのだ。ララノは、
「焦らなくてもいいわよ。何か、思い出すものがあるかな?」
「うーん。そう急には頭が働かない・・・。」
「この部屋に、じっとしていても頭は働かないでしょう。今日は、この建物から外に出て気分転換をしましょう。金星では昼が続いている時期だから地球とは違った景色や、ものを感じると思うわ。」

 朝食はトウモロコシとパンとクジラの肉だった。部屋にメイド型女性ロボットが運んでくれた。外は明るいのだろう。昼が58日間も続く金星。そのためか地球上のトウモロコシよりも食べ応えがありすぎた。太陽の恵みが違うのだ。地球の日本でも鹿児島の大根は薩摩大根という普通の大根よりも大きなものが出来る。
金星のトウモロコシは地球のトウモロコシとは比べ物に、ならなかった。それでクジラの肉まで食べると朝から満腹になった流太郎、眠りたくなった時、ララノが入ってきて、
「さあ、出かけるわ。金星の太陽は地球の春位の光だから、眩しくもない、あ、あんたは日本人だったわね。サングラスは、いらないでしょ?」
「ええ、沖縄に海水浴に行った時もサングラスなし、で泳ぎました。」
ララノは、ドアを開けた。勝手口のような場所から外に出ると、いまだに太陽が輝いているという感じを流太郎は持った。4140万キロメートル、地球より太陽に近い惑星≪金星≫に流太郎は、今、いる。
地球を一周すると約4万キロなので、それより一千倍以上ある距離が金星と地球にはある。それなのに厚い雲が太陽の光を遮っているため、春の気候が続く。
地球では曇りの日は暗くなるが金星では、そんな暗くならない。空を見上げた流太郎は晴天が見えないのに気づく。前を歩いていたララノは、
「地球のように晴れ間が金星で広がったら灼熱地獄に、なってしまう。太陽系の惑星は、すべて人が住めるようになっているの。水星にも人類は、いるから、いつかは連れて行ってもらえるかもね。」
屋敷内にはヒマワリが一面に花を咲かせている区画があった。地球の菜の花畑のように向日葵が並んでいる林立した状態の風景を流太郎は初めて見たのだった。
春のような季節感の金星でヒマワリが咲いている。排他的な気持ち、現状を変えたくない気持ち、は地球上の誰もが持ってきた思いだ。それは中世ヨーロッパにも、あった。日本にもある。今のままでいい、UFOなんて認めたら変人扱い、いや、下手すると狂人扱いされる。それなら、そんなものは認めない方が、いい、と頭の中は何事も変わらない方を望む。だが、流太郎は金星にいるのだ。
 認めたくないと思う事は、もう、なかった。サイバーセキュリティの仕事を、していればいい、とも思わなかった。これから何があるにせよ、科学が昔より少し進歩しただけの地球、特に日本よりは遥かに面白いだろう。歩きながら流太郎は足取りが軽いのに気づいた。金星の重力は地球と、ほぼ同じなのだ。
大きな金属製の門の前に立つとララノは、右手の人差し指の先端を扉の中央にあるパネルのような場所に当てた。彼女の指紋を捉えた機械は門を左右に開いて開けた。指紋認証による門の開閉らしい。流太郎がララノに続いて門の外に出ると、大きな門扉はユックリと閉じた。
外は地球で謂えば郊外、といった趣の場所だった。自動車というものは走っていなくて、道路の上を円盤が低空飛行していた。それでも地上から五メートルは離れている空飛ぶ円盤だ。ララノは上向き加減で空を見て円盤を見ていたが、流太郎を振り返ると、
「地球ではヒッチハイクっていうものが、できるでしょう?ここ金星でも、それが出来るのよ。」
と明晰な日本語で話すと、空飛ぶ円盤の一つに向かって親指を立てて合図をした。すると、その円盤は急降下して二人の前の道路に着陸したのだ。円盤の側面が開くと中年の青い目をした筋肉質の男が現れた。彼は金星語で何かをララノに話す。ララノも金星語で答えると男は了承したように、うなずき、二人を円盤内へ導いた。
 円盤内は広々として洋式の居間にいるような雰囲気が、あった。運転手は運転席に戻らず、そこにあるソファを示して、
「座っていいよ。ぼくも座る。」
コの字型のソファだった。流太郎には彼の話している金星語は、もちろん分からない。壁にはポスターのような物に金星文字で何か書かれているが、それも流太郎は初めて視界に入れるものだったのだ。この後の若いハンサムな運転手とララノとの会話は金星語で続けられたので、流太郎には一語も理解できない。ララノは座ると、
「自動運転ナビで何処まで行くつまりなのですか?」
と訊く。
「どこに行くか決めていないんだ。だから、しばらくブラブラしているよ、おれの金玉みたいに。」
「きゃっ。あなたの金玉って大きいの?」
「大きい方だろうな。自分じゃ、あまり見ないものだからね、金玉は。」
流太郎には彼らの会話の意味が分からなかったが、性的な話題に移行していると察しては、いる。金星語は音楽的な響きで美しい。と流太郎は感じている。ハンサムな金星青年は流太郎の顔を見ると、
「や?君はAVに出ている役者だろう?昨日、見たよ、自分の部屋で窓のカーテンは開けたままでね。しばらく続く昼の連続の中で見るAVも、いいもんだ。ギャラは、いいんだろう?君の出演料は?」
流太郎は記憶を取り戻した。
そうだ!僕はAVにも時々、出ている。俳優業だけでは生活が苦しい。?頭の中で話している自分の言葉は金星語だ。それに今、自分よりハンサムな青年が話した言葉も金星語だったのに理解できたのは・・・?
ハンサムな青年は好奇に満ちた視線で流太郎を見ると、
「僕の名はロメオ・シーザル。百社は会社を持って、経営している。今は、それぞれの会社の社長に事業は任せているんだ。株の配当だけでも凄い収入だから、遊ぶのが国家のためだと思ってね。君の名はルンドリオ・ザーメントだろ?芸名なのか本名かは、知らないけど。」
ルンドリオ・ザーメント!そうだ、僕は本名で俳優やAV男優を、やっている。母はAV女優だった。その流れに逆らって俳優になったけど、結局は・・・。流太郎は金星語で答えていた。
「そうです。僕の出演作を見てくれて、ありがとう。最新作の【マンコよ永遠なれ】がヒットしたおかげで、印税的収入も入ってきましたよ。」
ロメオ・シーザルは注意深くルンドリオ・ザーメントを見ると、
「でも何だか地球人みたいにも見えるけど、役作りかね、その身振りは?」
「え?あ?何の事、ですか。そのうち地球人役をする事も、あるとは思いますよ。」
「そうだろうねえ。僕も本物の地球人を見た事は、ないけど・・・。立体映画で、よく出てくるね、地球人は。」
流太郎は段々と記憶が蘇ってきて、
「AVの方が待遇が、いいんですよ。毎日、二人のAV女優と絡んで週休三日で一流企業の社長より高い収入ですから。」
と記憶を開陳した。ロメオ・シーザルは少し驚いたようだ。
「そんなに、いいのか?AV男優の仕事は?」
流太郎、今は金星のルンドリオ・ザーメントは胸を張って、
「三日休まないと精が持ちません。その間は豪華な食事を取って休養します。週四日、働いても女とは八人とセックスしますからね。」
ロメオは、
「いーなー。僕は女とは縁がないよ。仕事に忙しいと、そんなものだ。金と女、なんて地球で謂われているが、金だけに特化集中すると女は、なくなるね。ヒッチハイクしている美女を見かけたのも、今回、初めてさ。」
とララノを見ながら話した。ララノは、
「自家用円盤を持つのも、かなりの資産家じゃないと無理ですものね。ヒッチハイクでは円盤トラック、とかに今まで乗せてもらっていましたわ。」
金星では物流も円盤によって、行われる。大型円盤には大量の物資が載せられている。ロメオ・シーザルは満足げな顔をして、
「おれも、この円盤を持つまでには随分と苦労をしたよ。円盤宅配便の仕事を若い頃に、やっていたし、長距離円盤の運転手もした。富裕層の人の金星外飛行のための円盤の運転士も、やった。
地球のような非常に遅れた星でも、月旅行に一般の金持ちが参加できるようになったね。それと似たようなもので、地球のUFO遭遇者は金星の国の政府系の円盤と搭乗員とに出会う事もあるし、見るだけでは国家の円盤なのか、個人所有の円盤なのかは区別は不可能だろう、地球人には。ああ、そう、君はルンドリオ・ザーメント。我が星のAV男優だったね。」
そう話をされて流太郎は、うなずくと、地球人であった流太郎の記憶がなくなっているのにも気づかずに、
「ええ。母は地球を訪問して、多くの地球人男性と性的関係を持ちました。ヨーロッパからアメリカへと渡り歩き、モデルの仕事をしながら二千人の男性とオマンコしたそうです。」
ロメオは目を夜の猫の目のように丸くして、
「ほおお、それは凄いね。金星人と気づかれずに、済んだんだね、君の母上は。」
「ええ。母は教養があり、地球の文明国の言語にも通暁していましたから。ヨーロッパの言語の殆どを知っていましたし、私にも教えてくれましたよ。そういう訳で地球人役をするのにヨーロッパ人の役柄は最適ですよ。」
金星のAVはロケ地が地球の事もあるのだ。地球のAVではロケ地が月になる事もない。もっとも地球上に月面らしき場所を作り、疑似として月に行ったように見せかける事は、出来るのだが。
 ヨーロッパからアメリカを旅しつつ、モデルで稼いで多くの男性とセックスした母、と流太郎の頭は記憶を呼び戻した。ん?本当か?
何か違うような気がするけど・・・それに自分は金星人じゃないような気もするが・・・それでも記憶に蘇るのは金星人としての記憶で、自分も多くの女とセックスして暮らしを立てている。
週休三日で・・・ルンドリオ・ザーメント、自分は人気急上昇中の金星のAV男優なんだ。これが本当なのに、なぜか自分は地球の日本人だったような気もする・・・しかし、記憶がないのだ、夢でも見たんだろう、自分が地球人だったらという希望でも潜在的な無意識の中に持っていたんだろうか・・・

 ララノから、
「うまくいきました。流太郎の脳内にルンドリオ・ザーメントの脳内思考を全て転送完了です。」
と金星のスマートフォンで報告を受けたベルリーナは、
「よし、最上等だわ。それで?ルンドリオ・ザーメントの方には流太郎の脳内思考を転送したわけね?」
「はい、閣下。ついでにルンドリオ・ザーメントを地球に送りました。」
ベルリーナはワクワクするような笑みを浮かべると、
「面白い事に、なりそうだわ。ルンドリオ・ザーメント。金星人は名乗りでもしないと地球人と変わらない外見だからね。もし名乗ったとしても信じてもらえないのが一般的だから、ルンドリオ・ザーメントは金星人と見破られることは、まずない、ない、ふふふ。」

 その頃、東京都町田市郊外の山中に小型の円盤が空から急降下して、広い野原に着陸した。円盤の中から出て来たのは金星人の姿だった。端正な容貌、深い彫りの顔立ち、青い瞳。の彼は背の高いハンサムな青年だ。だが、どこかしら淫蕩な表情もある。
彼の後から出て来たボディガードのような男は、
「ここにタクシーを呼んだ。それに乗って、町田市内へ行き、町田駅前で降りるんだ。君の名前は時・流太郎だ。そうだろ?君。」
と話した。
「え、ええ・・。そうです、僕の名前は時・流太郎・・。ん?ここは東京ですか?」
「そうだよ。何か思い出したかな?」
「僕は福岡市で働いていますよ。東京には出張で時々、来ますけど。出張で来ていたのかな?」
「そうさ。それを我々が円盤に乗せて金星に連れて行ったんだ。正確には我々の頭であるベルリーナ猊下の指示でね。」
「そう・・・だったようですね。それなら福岡に帰らないと。」
「そうだ。町田駅から新横浜駅まで行くと、新幹線に乗れる。君の財布の中を確認したまえ。」
と言われて流太郎になったルンドリオ・ザーメントはズボンのポケットの中に手を入れて財布を取り出すと、中を開いてビックリした。そこには百枚の一万円札が、ギシギシと詰め込まれている。流太郎、になったルンドリオ・ザーメントは、
「こんなに沢山・・財布の中に入れた事がありませんよ、一万円札を。」
と日本語で話す。ボディガード風の男も日本語で、
「それは我々の長のベルリーナ猊下からの下賜金だよ。全部、使っていい。」
季節は春らしいが、東京だけに少し寒い。ルンドリオ・ザーメントは記憶を取り戻して福岡市に戻りたくなった。それで、
「ありがとう。何か、よく分からないけど、これで福岡に帰れますね。」
「ああ、名古屋からリニアモーターカーに乗っても、ゆとりはあるだろう。女も何人も自由に出来るだろうさ、金でね。」
と話すと金星のボディーガードは、ニッ、ニッ、と笑った。

 ウオーんと音がして黄色いタクシーが来た。ルンドリオ・ザーメントは開いたタクシーの後部座席のドアから中に入った。ザーメントは柔らかなシートに背中を当てると、
「新横浜駅へ行ってくれ。」
ロボットのような男の運転手は、
「新横浜?わっしは、その辺の地理を知らないんですよ、だんな。ここは八王子に近いし、そんなとこまで・・。」
「ああ、そうだったな。町田駅の間違いだった。町田駅なら行けるだろう?」
「へい、へい。わっしは人工頭脳を少し入れてもらっているんでさー。でも人間ですよ。その人工頭脳の」
タクシーは走り出した。
「おかげで、普通の運転手より近道を通っていけます。それで、お客さんに評判がいいからって給料は上がりましたし、指名料まで貰ってます、はい。」
森林のような左右の景色が、ぽつぽつと看板が見える風景に変わり、ビルが見え始めた。ルンドリオ・ザーメントは運転手などには興味がなかった。それより福岡市には昔の恋人が、いるはずだ。名前は・・うーん、思い出せない。そのうちに思い出すだろう。株式会社・夢春の社名は思い出せる。籾山松之助という社長の名前も。
 町田の公園から地下道を通って何かの工場のような場所へ行った記憶が・・・一乗院花蓮という名前の令嬢・・・。
流太郎、外見はルンドリオ・ザーメントは外の景色を見ていなかった。運転手が、
「はい、町田駅前です。」
と呼びかけたのでハッとなると窓の外には町田駅が見えた。
 百万円は入っている財布から料金を払う。
「お客さん、おつり・・、あ、お客さん。」
「いいよ。つりは、いらないから。」
とルンドリオ・ザーメントはタクシーを出た。歩いて、すぐの町田駅から新横浜駅までの切符を買うと、すぐに来た電車に乗って横浜の方へと移動する。
横長の椅子に座って前を見たザーメントは、前方に座っている男の目がオレンジなのに気づいた。その他の部分は普通の人間だ。人工の目が手術で埋め込み可能となったのだ。彼は失明したか先天的に盲目だったのだろう。
隣に座った若い女性が、もたれかかるようにザーメントに体を寄せると、彼の股間に右手を伸ばし何気なく触った。彼女は、
「あ、ごめんなさい。」
と謝って右手を引っ込めたが、ザーメントは少し勃起してしまった。停車する駅が増えるにつれて、乗ってくる乗客も増えた。
若い女性も多く乗り込んでくる。丁度、ザーメントの目の前に若い女性の尻が停止した。つまり、背中を向けて、その女性が豊かな尻をピッチリとスカートに包んで立っている。そこへ!
驚くほど長い手が左から伸びて来た。その手はザーメントの目の前の女のスカートの尻を触り、撫でまわす。女は右手で吊革に掴まったまま、少し頭を前に向ける。尻を触られているのに気づいたらしい。その手が人造の手なのはザーメントには分かった。
サイバーモーメントの黒沢社長と福岡市博多区東那珂の社屋で話をしている時に、黒沢は、
「もうすぐ人造ハンド、痴漢もオーケー、が完成するよ。この手は手袋をするように手に付けられる。それが横に三メートルは伸びるんだ。しかも、だよ。若い女の感度のよさそうな尻をマイクロレーダーで探し出し、そこに吸盤のように吸いつくと、その美尻を愛撫する。どうだね、会員制サイトで販売するから一般公開は、されないよ。時君、買わないかね?社員割引で買えるようにするから。」
と、もちかけられた事があった。
その時、社長室で人造ハンド、痴漢もオーケーを見せてもらったのだが、今、電車の中で美しい後ろ姿の若い女性の美尻を撫でまわしているのは人造ハンド、痴漢もオーケーに違いない。流太郎?そう、僕の名前は時・流太郎だ。ルンドリオ・ザーメントという固有名詞が頭の中に時々、浮かぶが・・・人称代名詞なのだろうか、何の名前か分からない。兎も角、流太郎は左の方に視線を向けると、やはり背中を向けた背広の紳士の右手が伸びていた。
流太郎は黒沢社長の解説を思い出す。
「この商品は少し高いけど、高度な機能として、触られた女は『痴漢です』とか声を出せないように、その女性の脳に小さな電流を流し、声帯を抑制させる事ができるんだ。したがって触られている女は快感しか覚えない。」
流太郎は、それに対して、
「確証は、あるのですか。大変な事に、なりそうですけど。」
「いや、既に我が社の女子社員で実験済みだ。秘書の美月美姫にもテストした。彼女ですら声を出せなかったのだからね。」
「それで、とても気になる価格は・・いくらでしょう。」
「なーに、そんなに高くはない。福岡市で小さな新築の家を買える位だよ。」
「それなら高級外車の十倍ですね。高いなあ。」
「と、思うだろう。でもね、会員制サイトの顧客は、いずれも大金持ちばかりなのさ。それに科学で一財産、気づいた人が多いね。何故なら最初に登録してくれたのが、ぼくの古くからの友人で成月(なりつき)博士という某科学系の上場企業の創業者の男でね。この人造ハンド、痴漢もオーケーも一番最初に買ってくれた人だ。」
というのを思い出した流太郎は、今、目の前にある女の美尻を撫でまわしているのも、その先の紳士は成月博士、なのだろうかと思うが、その手は、やがて音もなく凄いスピードで縮むと、三メートルは左に離れた紳士の右腕の中に消えた。
列車は新横浜駅に着いた。流太郎は、さっきの人造の手による痴漢の紳士も新横浜駅で降りたので、紳士を見失わないように後をつけた。紳士は新横浜駅の改札出口を降りると、流太郎とは違って、新幹線乗り場には向かわずに新横浜駅の正面玄関に歩いていく。
流太郎は、その紳士の背中に、
「成月博士!」
と呼びかけてみた。すると、その紳士はピタと足を止めると、後ろを振り返る。黒沢社長と同年代の五十代半ばの男性で、知性に満ちた、その目は真っすぐに流太郎を見ていた。流太郎は成月博士に追いつくと、
「やはり成月博士でしたね。呼び止めてすみません。」
と挨拶した。成月博士の目には青い目をしたハンサムな西洋人が、正確な日本語で自分に話しかけているという状況に、
「いかにも自分は成月だが、君は一体、誰なのだ。私は君を知らんのだが。」
と落ち着いた口調で話した。流太郎は、
「申し遅れて済みません。僕は時・流太郎といいます。福岡市の株式会社夢春でサイバーセキュリティの仕事をしています。仕事の関係でサイバーモーメントの黒沢社長とは懇意にして、いただいています。成月博士の事は黒沢さんから聞いていましたので・・・。」
まさか人造ハンド、痴漢もオーケーの最初の購入者だと聞いたとは流太郎は、いえない。
成月博士は、おお、という顔をして、
「君も福岡なのかい。僕も福岡市出身だ。黒沢君とは同期でね。九州科学技術大学でも同じ組だったんだ。黒沢君は修士号を取得すると就職したが、私は博士号を取得するまで在学したよ。東京の企業に副社長で招聘されたから、そこに就職して、その会社の社長をしていたが、今は会長になっている。立ち話も疲れるだろう。駅ビルの最上階にレストランがある。そこへ行こうか。」
「ええ、お供しますよ、喜び勇んで。」
と答えた流太郎は成月博士に連れられて透明なガラスのエレベーターに乗り、新横浜駅の周辺の景色をエレベーター内で楽しみながら、最上階に到着して開いたドアも透明だった。
 目の前にある中華レストランに成月博士は入っていく。赤いチャイナドレスの女性が二人を案内したが、股間の上辺りまでスカートが切れているので彼女の白い下着、ショーツはチラホラと、よく見えた。赤いスカートに白のパンツである。チャイナドレスだが、若い日本女性だ。
窓際の席のガラスからは横浜港が遠くに見えた。
 成月博士は二人分のランチを注文すると、流太郎に
「なんでも好きな追加注文を、していいよ。しかし、なんだ、君は丸で西洋人だね。」
「ええ、鏡を見ても自分で、そう思います。最近、整形手術をしたのかもしれません。でも、記憶にないんですね。老人でもないのに、おかしいな、とは思いますけど。」
成月博士は威厳のある、うなずき方をすると、
「でも私が黒沢の友人という事は、覚えていた。でも、何故、分かったのかな。私の後ろ姿だけで。」
流太郎は言葉を喉に詰まらせると、
「それは・・ああ、確か黒沢社長に成月博士の写真を見せてもらった記憶が、あるような気がします。」
「後姿の、かね?私の。」
「いえ、電車を降りる時の博士の横顔を見て、そうではないか、と・・。」
「ああ、横顔でか。それなら判断も可能だな。本当は私の痴漢現場も見ているだろ?君。」
正面から心臓に矢を射抜かれた気持ちが流太郎には、して、
「え、ええ。確かに、それは拝見しましたが、でも、あれは人造の手ですから。」
「そうだよ。それでも痴漢に、ほぼ近い。私としては科学的研究の一環としてて、おこなっているのだが、本当はスケベごころも、あるがね。女性も、いい気持ちになれるし、人の手が触っているわけではない。穢される訳ではないからな。」
そう話すと成月博士はモカのコーヒーを、うまそうに飲んだ。流太郎も目の前のテーブルに置かれたモカのコーヒーを飲む。博士は、
「君は東京に住んでいるのかね?」
「いえ、福岡市に住んでいますよ。出張で来ました、東京には。」
「ああ、そうかい。ぼくは横浜に住んでいる。会長だから毎日、会社に行かなくて、いいし。」
「羨ましい御身分ですね。」
「いや、なーに、一つの発明が大金を齎(もたら)す事もある。私の場合、超極薄のコンドームを開発したので、それで社長になれたんだ。ゴムから作るのではなしに、蜘蛛の糸から作ったんだよ。それでゴムより丈夫なんだ。ゴムよりも肌触りが、いいらしいよ。女性の膣内の肌触りの話だがね。」
流太郎の心は関心で高まった。
「それは知りませんでした。僕は地球外の惑星でセックスしている事が多かったものですから。」
成月博士はジッと流太郎の目を見ると、
「地球外の生命体については黒沢君にも聞いているが、私には経験がないから何とも、いえない。ただ、一般人には、その話しは辞めた方が、いい。」
「それは・・誰にも話していないです。もしからしたら・・・。」
と流太郎になったルンドリオ・ザーメントは眼を上の方に向けて、
「ぼくは金星人のような気もしますから。」
と云うと、成月博士は眼を細めて、
「その方が正解な気もするな、君の外見は日本人離れしているからね。黒沢君の発明意欲には感心するよ。僕はコンドーム、一つで財をなしたから、後は遊んでいるんだけどね。黒沢君は修士で卒業、僕は博士だ。実家が裕福だったから博士に、なれたんだけど、人間として、やる気は黒沢君よりもないのかもしれない。黒沢君は父親の会社が倒産したため、修士で卒業しなければ、いけなかった。
貧困は時として人間の、やる気を高めるものさ。ぼくは大富豪でもないのに遊んでいるのは、そこそこの金で満足しているためかな。君は。どんな仕事をしているんだね?」
「サイバーセキュリティの仕事、を主に営業で、やっています。銀行を回ると契約が、結構、取れますよ。」
「銀行は一番、サイバーセキュリティは大事だな。そうだ。私の会社でも検討しても、いい。今度、その話で私の会社に来てもらおう。」
意外なところで仕事の話に繋がった流太郎で、ある。

食事も終わると流太郎の中身のルンドリオ・ザーメントは成月博士の自宅へ連れていかれた。博士の家は横浜の港が見える高台の丘の上に立つ豪邸だった。若い女性が玄関に出迎えたので、流太郎は、
「娘さんですか?大学にでも、通っているとか?」
と聞くと博士は、
「いや、妻だよ。彼女は二十一だ。去年、結婚したんだ。」
博士の奥さんは薔薇のような微笑みを浮かべると、
「いらっしゃい、ようこそ。お上がりください。」
と流太郎に話しかけた。
 日本風の広い居間に博士と流太郎は歩いて入った。黒塗りの艶のいい木肌のテーブルに向かい合って四つの椅子がある。博士と流太郎は向かい合って座る。成月博士は、
「君は時流太郎には見えない。僕は日本人の時君を知っているからだ。ただ、時君の頭脳は持っているようだね。」
と看破したように指摘した。
ルンドリオ・ザーメントは平然と、
「それは、そうかもしれないけど。なんだか僕も分からないんです。しかし、記憶は蘇ります。自分は福岡市の時流太郎だという記憶です。それに日本語しか話せませんし。」
とスラスラと話した。
成月博士はフム、という顔をすると、
「まあ、いい。黒沢と電話で話したけど、時流太郎は行方不明だそうだ。宇宙人に連れ去られたのではないか、と我々は推測していた。でも、君は、もしかしたら改造された時・流太郎かもしれんな。」
と話すと、つくづくと流太郎の顔、というよりルンドリオ・ザーメントの顔を見た。続けて成月博士は、
「前に見た時クンも中々の男前だったが、君には妖しい性的魅力がある。AVに出れば人気男優になれるだろう。」
「そういえば、色々な惑星でAVに出ていた記憶があります。」
「そうなのか。ただ、しかし、地球ではAVに出た事は、ないだろう?」
「ない・・・と思います。どうですか、それは・・・ない気がします。」
「ともかく、福岡市に帰った方が、いい。黒沢も楽しみにしている。私は君を、どうこうする力はない。隠居した老人みたいな身分でね。新幹線で帰ると、いい。いや、今日は泊まりなさい、うちに。明日ね、リニアモーターカーが新横浜から乗れるんだ。」
時流太郎は目を輝かせると、
「お金は、いっぱい持っています。リニアって運賃は高いのでしょう?」
「そうだろうね。格安航空機より高いかもな。ただ、旅客機は空高く飛ぶから周りに何もなくて、どの位の速度で移動しているのかが実感できない。リニアも地下を走るから、その辺は旅客機と同じようなモノだろうけど、地を走っているという実感は、あるよ。」
その居間の壁には大きな風景画が飾ってあったが、湖水に浮かぶ小舟が動いている。湖面も、さざ波が立って、まるで動画のように動いているのに流太郎は気づいた。流太郎の視線に気づいた成月博士は、
「動く油絵だよ。人が見ると動き出す、という優れた代物なんだ。」
「人の視線を捉える?油絵ですか?」
「そうだ。実は人間の視線は、ある波動を出している。もっと、面白い商品を開発中だ。出して、君に見せよう。」
成月博士は立ち上がると、部屋の隅に行き、そこに床に立てかけてある大きな油絵を持つと、風景画の上に設置した。
その絵は十二単(ひとえ)を身にまとった女性の全身像が描かれていた。流太郎は目を凝らすようにして、その着物の着膨れしたような女性を眺めると、なんと!その若い美女の衣服は壱枚、一枚と脱げていくでは、ないか!
とうとう最後の一枚になり、それが落ちると全裸になった。絵だけに人物は動かない。表情も変わらない、微笑の長い黒髪の美女。全裸になると、彼女の股間は黒い陰毛が密生していた。
成月博士は、その絵の横に立ったまま、
「どうだね?これには相当な開発時間が必要だった。十二単のように絵の上に重ね塗りをしていくんだ。それが人間の視線によって、一枚、一枚溶けていくようにした。そういうものだから、この絵は黒いパッケージに入れて販売しなければ、いけない。
ある有名な画伯の絵のために、販売価格も高額なものになるが、既に十人の顧客に予約を、もらっている。これが我が社の新商品だ。」
自信ありげに語る成月博士だった。
 あくる日、流太郎は新横浜駅まで成月博士に連れて行ってもらうと、確かにリニアモーターカーの開通で、今日から乗れるという。ホームで成月博士は、リニアに乗る前の中身だけは流太郎のルンドリオ・ザーメントに、
「黒沢君に、よろしく伝えてくれたまえ。マジックハンド、痴漢もオーケーは時々、使っていると。」
北欧人のような流太郎は、
「お伝えします。それでは成月博士、ごきげんよう。」
と応えると、リニアに乗り込む。
そこから京都までは、今までにない移動感覚を味わった流太郎である。京都駅で新幹線に乗り換えるために、一旦、改札を出て新幹線の切符売り場へ行くと、
あと一週間で博多までリニアは開通します
という看板を流太郎は目にした。

SF小説・未来の出来事13 試し読み

 黒沢は時に、うなずくと、
「ああ、記憶を取り戻したい。でも、自分だけの力、では無理のようだ。なにか専門の医師にでも、見てもらえば、いいのかもしれない。」
時は、
「脳神経外科医あたりが、いいんでは、ないでしょうか。僕も詳しくは知りませんけど。」
と提案すると黒沢は、
「そうだね。そうしよう。君は、いい医者を知らないかね?」
「知りません。インターネットで検索すれば、見つかりますよ。」
「そうだな。そうするか。」
黒沢はズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、ネット検索を始める。
「脳神経外科 福岡市」で検索すると、一番上に出たのは、
能田脳神経外科
というのが検索結果である。黒沢は、
「アイランドシティにある能田神経外科が、いいんだろうな。知らないか?ここを。時君。」
と訊いた。流太郎は、
「知りません。通勤途次では見ませんね。」
黒沢は、
「今から行ってくるよ。君は又、どうして、ここへ来ているんだ?」
と不思議そうな顔をして聞く。流太郎は、
「営業ですよ。我が社の株式会社夢春と何か提携いただくものが、あれば、というものですが。」
「ああ、そうだな。しかし、さっき君は土星とかなんとか言っていたが・・・ああ、頭が痛くなってきた・・・。」
「記憶を取り戻すと、分かると思いますよ。医師の助けが必要でしょう。それでは、これで失礼します。」
流太郎は立ち上がると一礼して社長室を出て行った。

 ロボット運転手に運転させて、黒沢はアイランドシティに行った。
「おう、ここで、いいよ。停めてくれ。」
と黒沢が指示すると、停車した車内から黒沢は歩道に降りた。能田脳神経外科の看板が見える。三階建ての建物になっている。入院患者も、いるのだろう。
 玄関を入って受付で診察を頼むと、女性ロボットは笑顔で、
「かしこまりました。椅子に座って、お待ちください。」
と話した。
健康保険及び社会保険など、既に廃止されている日本だ。医療費を引き下げないと患者は来ない。その窮余の策として病院が、いち早くロボットを使い始めた。医療事務などロボットにも出来る。それと受付も。一度、購入すれば電気代も要らない、それは太陽エネルギーで充電できるからだ。二、三人の患者の後、黒沢は名前を呼ばれたので診察室に入った。白衣を着た太った中年男性が院長の能田らしい。彼は黒沢に、
「やあ、どうぞ、そこに、お掛け下さい。」
黒沢は能田の前に座った。すると能田は、
「それで?今日は、どういう調子ですか?頭の具合は。」
とニコヤカに尋ねてくる。
「それが頭は何ともないんですが、記憶の方でチョット思い出せない事が、あるのです。」
「ほほう。思い出せない記憶なんて、いくらでも、ありますよ、人間には。」
「それが。思い出したい特異体験が、あるらしいんです。」
「そうなんですか。あなたは耳が悪いのですか?耳にイヤホンを、つけておられるが。」
黒沢はハッとした。耳に手をやると、そこにはイヤホンが、ある。これは何だろう?これこそが土星で、もらったものなのだろうか?
「ああ、これですね?いや、私は耳は、すこぶる、いいのでイヤホンなんて、していなかったんですけど、何故、イヤホンをしているのかが分かりません。」
能田は鼻の下の髭を右手で、いじくると、
「それも忘れたようですね。ちょっと、そのイヤホンを見せてもらえますか。」
と請うので黒沢はイヤホンを耳から取って、能田に渡す。
能田は、それを受け取ると手のひらに乗せてジロジロと見る。
「これは地球のイヤホンでは、ないようです。」
そう能田は断言した。
「地球のイヤホンでは、ない?とすると、何処のイヤホンですか。」
と黒沢は問う。能田は落ち着いた表情で、
「恐らく土星でしょう。土星の物質で、出来ているみたいです。」
黒沢の頭の中で、土星という言葉が鳴り響く。そういえば時・流太郎も土星で黒沢に会ったとか、自分を見つけてくれた、とか、そんな話をしていた。では自分は土星に行ったのだろうか?分からない。覚えていない。記憶に残っていない。
「能田先生も土星に行かれた事が、あるのですか?」
と黒沢は聞くと、
「いいえ、ありませんが、私の知人にUFOマニアがいて、彼は土星人とコンタクトを取り土星に行ったんです。帰って来た時、土星の物質を色々と見せてもらったが、その中に、このイヤホンもあったからね。」
「何に使うんでしょう、このイヤホンは。」
「ああ、なんでも土星語が分かるイヤホン、というか日本語に翻訳してくれるらしいですよ。それで土星語を知らなくても、意味が分かるそうです。」
それでも黒沢の記憶は蘇らなかった。能田は興味深げに黒沢の顔を見ると、
「貴方は土星に行ったのかも、しれませんね。レントゲン検査を、しましょう。」
レントゲンはドイツの科学者、ヴイルヘルム・コンラート・レントゲンが発見したものだ。レントゲンという言葉は小学生でも知っているが、その由来については意外と知られていない。
 能田にレントゲン撮影された黒沢は、写真を見た能田に、
「CTスキャンも現在では大変進んでいますからね。どうも貴方の脳の海馬が少し、やられています。」
「海馬?が、ですか。」
「そうです、この海馬がないと人は記憶が出来なくなります。あなたの海馬の損傷は偶発的なものか、人工的なものかは分かりません。ただ、この程度は治せるものですが、完全には治るかどうかは断言できません。手術しますか?」
「ええ、お願いします。」
という事で黒沢は、手術室で能田に脳の手術をして、もらった。メスによる切開ではなく、レーザービームのような光線を黒沢の頭に当てるというものだった。診察室に戻ると能田は、
「土星の記憶は戻りましたか?」
と尋ねたので、黒沢は土星での出来事を思い出そうとする。
ドセルノ・・・大金持ちだ。彼は黒沢に、
「時・流太郎なる人物を探したいのかね。いいとも、何か彼の遺留品は、あるかな。」
と問いかけたのだ。黒沢は、
「地球には、あるでしょう。ここには私は、時の遺留品など持っていませんよ。」
「よし、地球に君を戻そう。UFOなら数分以内に帰れるさ。」
地球に戻った黒沢は、株式会社夢春を訪ねた。
社長の籾山に黒沢は、
「何か時君の遺留品は、残っていないか。」
と訊くと籾山は、
「会社の机の中に彼のハンカチが残っていました。今も、そのままにしています。取り出しましょうか。」
「ああ、そうして欲しいね。」
籾山は時の会社の机の所に行き、引き出しの中からピンク色のハンカチを取り出した。それを黒沢に渡すと、
「これが時の遺留品ですが、これで、どうなるんでしょう?」

「土星人からの提案なので、私には分からないんだ。これを借りていくよ。」
「ええ、大丈夫でしょう。もし時が戻ってきても、ハンカチがない理由は私が話しておきます。」
それからドセルノに連絡してUFOが来て、又、土星に行った。ドセルノに時のピンクのハンカチを渡すと、
「これが彼の持っていたものです。」
と黒沢は説明した。ドセルノは満足げに、うなずくと、
「よし、これを宇宙捜索機に、かけてみよう。」
室内にある大型のコンピューターのような機械の前に行くと、ドセルノは時のピンクのハンカチを、その機械の中に入れた。
ドセルノは機械のパネルを操作した。数分後、機械を立って見つめていたドセルノは、
「時君の居場所が分かったよ。地球から数万光年は離れている星、それも地球とソックリな星にいる。その星に我々は行くことが出来る。もちろん三日は、かかるけどね。」
と黒沢に振り向いて話したのだ。黒沢にとっては、それは驚きと喜びだった。黒沢はドセルノに、
「是非、その星に連れて行ってください。三日なんて、あっという間ですよ。おっ、という間かな。その三日とは土星の三日なんでしょう?」
と問いかける。ドセルノは確信的に、
「もちろん、土星の三日だ。地球の時間なら一日は十時間。君も、もう土星の一日に慣れただろう?」
「はい、今では、すっかり土星の一日、一週間には慣れました。」
「でも、一年は経っていないから、年には慣れていないだろう。」
「それは・・そうですね、土星の一年は地球の七年でしたっけ?」
「それは土星の四季だ。春とか夏の期間だよ。土星の一年は地球の二十九年と、ちょっと。君は黒沢君、土星の一年も、この星に居てくれるか?」
「それは、ちょっと、どうでしょう。仕事があるなら、いいのですが。」
「今のところAVの仕事しか、ないけどな。」
「そんな・・・私は地球では科学関係の会社を経営していた人間です。土星の科学関係の・・・。」
「いや、それは君には理解不能な土星の科学だよ。地球でも幼稚園生に大学の講義が分からないように、いや、それ以上の隔たりが地球と土星の科学では、あるからな。君を教育するのに、どの位の時間が、かかるか・・・。それよりもチンポも二本に、なったしAVの仕事を享受するのは簡単だからな。」
黒沢は、そんなものかと思った。時流太郎は今、何をしているのだろう。黒沢が沈黙したので、それを了解の意味に受け取ったドセルノは、
「さあ、円盤に乗ろう。時君の星に行くよ。」
と黒沢を誘った。

 快適な宇宙の旅、とでも言おうか。六時間たつと四時間と少し眠って土星の一日を空飛ぶ円盤の中で過ごしていると、三日たったら窓の外に青い星が見えた。あれが地球に近似した星なのだろうか。ドセルノは黒沢の視線を追って、
「そうだ。あれが地球のパラレルとも言える星さ。今から、あの星の陽本(ひほん)に着陸するよ。」
ドセルノは胸に付けたマイクに聞こえるように、
「着陸に入り給え。」
と操縦手に指示した。ぐいーん、という感覚で窓の外は、その星の外気圏、熱圏、中間圏、成層圏を通過し、対流圏に到達した。
空から下を見ると日本列島に似た形の島があり、そこの東京の辺りに円盤は着陸した。円盤は、とあるビルの屋上に着地した。ビジネスのビルらしい。ドセルノが、
「さあ、降りよう。ここは巨大で高層なビルだけど、下に降りれば、すぐに理由は分かるさ。」
と円盤から降りて説明して、先だって下へ降りる階段を降りて行ったので、黒沢も急いで後を追った。
最上階と思われる所はモーテルのような宿泊所も見えた。レストランもある。なんのビジネスのビルなのだろう?そうこうするうちに行き止まりか、と黒沢には思えたが、そこはドアで自動で開いたのであった。中も部屋で、そこはラウンジのようだ。受付に女性が座っている。ドセルノは彼女に近づくと、
「社長には話してあります。ドセルノと言います。」
と日本語で話した。ここは、日本なのか?若い女性は、にこやかに微笑むと、
「お待ちください、お呼びします。」
と答えて、自分の机の前のボタンを押して、
「社長。お客様です、ドセルノ様が、いらっしゃっています。」
と話した。
その受付の女性の前面にあるドアが開くと、背広を着た中年紳士が現れた。彼はドセルノを見ると、
「おや、ドセルノ様。お早い、お着きですね。」
と云うと軽く頭を下げた。ドセルノは、
「栄部伊・売雄(えいぶい・うるお)君、お早う。さっそくの御出迎え、感謝するよ。時・流太郎君に会うために来たのだ。」
「ああ、・・・時、でございますね。時は今、撮影中で、ございます。」
ドセルノは、
「そこを、なんとか、してくれないか。」
栄部伊社長は少し考えて、
「それでは、撮影現場に来ていただきます。ついて来て下さい。」
栄部伊社長はエレベーターに歩いていく。ドセルノと黒沢が後から来ると、開いたエレベーターに三人は乗り、下に下降して、すぐに降りた。天井の高い場所だった、その階は。撮影スタジオは、そんなものだろう。
撮影スタジオとドアに印字してある。なんともパラレルな世界。言語も同じなのだ。ドセルノは、こういう交流があるために日本語が巧いのだろう。栄部伊社長は閉まっているだろうドアにカードを、かざすとドアは開いた。中に入ると巨人の女が全裸で横たわっている。身長は四メートル程か。
その巨人の女は大きく両脚を開脚して普通の身長の男が、その女に全裸でかぶさっていた。時・流太郎が、その男だったのだ!
巨人女とのセックスを撮影中だった。
身長四メートルの、その女の肌は白く、顔立ちは地球の北欧の女性のようだ。彼女の膣の長さは三十センチ近くあり、時流太郎の勃起肉棒をもってしても湖水に大根という感じだろう。
時流太郎の身長は百七十センチほどなので、倍以上の身長の女とのセックスだ。流太郎は自分の頭の上に両手を伸ばして巨人の女の乳房を揉んでいた。彼女の乳房は地球の女性の倍はある。乳首が硬くなって立っているが、それも地球の女性の二倍、顔も二倍はある。既に流太郎は勃起肉砲を彼女に挿入して、腰を前後に振っている。
巨人女は、
「ぁっはっ、ああああっ、あ、あん、あん、あんっ。いくぅぅぅ。」
と日本語で悶えている。
黒沢は栄部伊社長に、
「あの巨人の女性は日本語を話せるんですか?」
と訊くと栄部伊社長は、
「北欧出身だけど日本育ちの女性ですよ。なんでも地底人だったそうです。北極のあたりに地球の地底に行ける洞窟があるらしいですよ。そこは、いつもは閉じていて岩石で塞がれています。中からしか開けないらしい。十五の時に、その洞窟から北欧のスウェーデンに出て来た時は、身長は三メートル以上あって大騒ぎとなりました。誰が養育するのか、という問題も出てきます。そこで私が後見人となって彼女を養父として引き取り、今日まで養育しました。
AV女優になるかについては、彼女の自由意思で決めてもらいましたよ。」
流太郎は腰を光速のような速度で前後させている。巨人美女は長い睫毛を伏せて目を閉じ、口を半ば開けると赤い長い舌を出して、
「あああっ、ああああっ、とぶーっ。」
と悶えると、顔を、のけ反らせる。
流太郎と巨人美女は同時に絶頂に達した。時のチン長で、こうも彼女がイクとは、と黒沢は思った。彼女の巨大な膣口から流太郎は肉砲身を抜き出すと、なんと、彼は自分の肉砲に十数センチのシリコン製のバイブレーターのような物を装着していたのだった。
それでチン長は倍には、なっている。だから、あの巨人美女は満足したんだ、と黒沢は思惟する。
 栄部伊社長は二人に近づくと、
「次の撮影まで十分は休憩。アレナ、服を着ていいよ。」
と養女の娘に慮(おもんばか)った。
「はい、パパ。」
と彼女は大きな声を出す。そういえば悶え声の大きさも地球の女性の二倍は、大きかったのだ。栄部伊社長はドセルノと黒沢に、
「アレナの撮影では録音マイクは、要らないのですよ。」
と苦笑する。ドセルノは、
「そういうものでしょうね。アレナさんを土星に呼びたいのだが、どうですか?」
「うーん、今のところ撮影が立て込んでいましてね。最近にない空前の大ヒットですよ。なにせ本物の巨人女性とのセックスですからね。コンピューターグラフィックのような技術では製作していない、と大評判、アレナはウチの万札箱ですよ。」
ドセルノは押してくるように、
「土星でも大うけするでしょう。土星の人口は、ここより多いですよ。」
「そうでしょうけど、この星の特に陽本のファンの期待に応えたいので、もうしばらく、お待ちください。」
ドセルノは渋々といった表情で、
「わかりました。待ちますよ。金よりファンですな、うん、うん。」
と了解したらしい。
アレナはブラジャーだけして、彼女のための特製椅子に座った。そして脚を広げているので広大な恥毛と長大なマンコのスジは見られている。その辺は、あっけらかんかんとした彼女、歳は二十歳位に見える。
時は全裸で黒沢達の方を振り返った。長いシリコンのついたペニスを、ブランとさせて。黒沢を見ると驚きの表情で時は、
「黒沢さん!僕は信じられません、あなたが、ここに来るなんて!」
と声を上げる。
黒沢は、
「随分、探したよ。土星の科学技術で君を発見してもらったんだ。」
黒沢の横にいるドセルノがニヤリとした。時は、
「そうだったのですか。でも、地球に帰る気がしません。この星で、この陽本(ひほん)で僕は満足した生活、特に性の生活には満足しています。AV男優は地球の日本では、半ば嘲りの視線で見られますが、僕は今年、AV文化勲章を貰えるんですよ。そしたら生涯年金として地球で裕福に過ごせる額のお金を毎年、もらえます。籾山さんも、いい人で給与も割と高くもらえるけど、この星のAV男優の収入には遠く及ばないんです。」
黒沢は少し驚きながら、
「AV文化勲章なのか、うーむ。」
と唸る。時は、
「授賞式は陽本経済新聞デジタル版、というより、ここでは紙の版は、ありませんけど、動画配信されますよ。僕は、その勲章を胸に付けてAV撮影もする予定です。」
「陽(ひ)経新聞というのかな、ここでは。」
「ええ、そうです。AVパラダイスの株の時価総額は陽本一ですよ。という事は、この星では一番なんです。ひほん一なんです。配当も一番出してくれる、我々の給料も世界一、というか、この星の世界で、ですけど。地球にいた頃、サイバーセキュリティの仕事をしていた頃は、今に比べれば貧乏でしたね。」
流太郎は遠くを見つめるような目をして過去を振り返っているようだ。黒沢は少し、たじたじとなり、
「ああ、すまなかったね。地球に帰ってもサイバーセキュリティなんて仕事しか君には、ないだろうし。なんとか考えてみよう。株式会社夢春の籾山君とも話して見るさ・だから、考え直してもらえるかもしれないから。」
時は、そんな事には、ならないだろうという顔をした。そして次の撮影が始まった。

 アレナはベッドに座る。巨大なベッドだ。身長四メートルの彼女が横になれる広さと長さだ。それのダブルのべっどなので、なおさら大きい。時は彼女の前に立ち、あそこも立てた。先端にはシリコン製バイブレーターのような物を、つけているからペニスの長さは二倍となる。それを口に含んだアレナは両手を次に流太郎の両脚の太ももを持つと、自分の両肩に掛けさせた。
流太郎はアレナの背中に足の裏をかけ、背中を真っすぐに保つ。その姿勢は流太郎の背中と腹筋の強さが必要だ。その姿勢のまま、勃起させた肉砲身をアレナに、しゃぶらせている。
体操選手の様な、その流太郎の姿態を見て黒沢は、(鍛えられているな、時君も)と思う。
巨人の女のフェラチオシーン。その地球の女性、いや、その星の女性より二倍は長い赤い舌で肉筒を舐められるのも流太郎には、たまらない快感を齎(もたら)した。アレナは、しゃぶり終わると流太郎をベッドに降ろし、自分は四つん這いになる。後背位でのセックスを求めるアレナ。高く突き出された白い巨大な尻の間に見える長大の縦の肉欲スジは流太郎のムスコの突入を欲しているような形状を呈している。彼女は立膝だが、その足が長いので流太郎は立ったままアレナ巨大なマンコに肉砲を突き入れた。
「あああっ、はっ、あんっ、いい。」
とリズミカルな躍動的なヨガリ声を出すアレナ。既に彼女の白い大きな尻は流太郎の腰の動きに連動するかのように大きく揺れている。
「いくーっ。いくーっ、あっ、とぶー。」
と甘く可愛い声を、しかし大音声で発するアレナである。
「ああん、銀河系が落ちてくるぅぅぅっ。」
と脳内の感覚をもらす喘ぎ声をアレナは出すと、自分で自分の両方の白いパイナップルの様な乳房を、ぐにゃりと掴む。本当にパイナップル大の乳房だ。流太郎は彼女の普通の女性の二倍の膣圧を感じつつ射精を、こらえなければ、ならない。巨大なベッドは少し、ギシ、ギシと音を立てた。
時々、アレナが顔を流太郎に向けて目を閉じたまま、唇を突き出してキスを求めても流太郎の顔は彼女には届かない。精一杯、流太郎は両手を伸ばしてアレナのパイナップル乳を双方、つかんで揉み狂う。アレナはアヘ顔になり、赤い舌を出すと両眼を鼻の上部に向けて寄せた。流太郎は同時にアレナの白い背中を舌を出して舐め上げると、彼女は、
「あふっ、いくーーー。」
と叫ぶと流太郎の勃起肉筒を強く締めたので、流太郎は、たまらず、
連続射精、二回をしてしまった。
羽目太郎監督は、
「はい、いいよ。ここまてで、カットするから。休憩だよー。」
と汗だくの二人に伝える。
黒沢は心の中に焦りを感じた。時流太郎は、この星から地球には戻らないかもしれない。AV王国、陽本。その基幹産業で働く地球出身のAV男優・時・流太郎。黒沢は栄部伊社長に、
「時君はAVに出る時は、何の名前で出ていますか?」
と訊くと、
「地球・龍太郎ですよ。りゅう、は竜の方の龍で、字画の多い龍の字です。」
地球龍太郎。なんとも、いい名前ではないか。もしかして時の適職、いや天職なのかもしれない。だが・・・と黒沢は思う。(地球に連れて帰りたい)
休憩して椅子に座っている流太郎に黒沢は近づいていくと、
「城川康美の事は覚えているだろう?」
と、身を流太郎に、かがめて聞く。ボンヤリとした目で流太郎は、
「まだ・・覚えていますが・・・。」
「彼女から君への伝言がある。録音しているから、これを聞きなさい。」
黒沢は小さな手の中に入るほどの大きさの録音再生機をズボンのポケットから取り出し、親指でスイッチを押した。
『時さん、康美です。地球からいなくなって、時さん、もう、随分時間が経ちましたね。なんだか、わたし寂しくなりました。仕事は人に任せて、いられます。やっぱり、わたしには時さんしか、いないみたい。黒沢社長と帰ってきませんか、地球に。」
と康美の声が再生された。
時は急に立ち上がると栄部伊社長の方を向き、
「社長。申し訳ありませんが、地球に帰りたいと思います。」
と宣言した。
栄部伊社長は不愉快そうな顔をして、
「何故だね?この星での暮らしに不満でもあるのか?さっきの録音再生の声の女性が地球での君の彼女みたいだが、そのためか?地球に帰りたいのは。」
と言い返す。流太郎は確信的に、
「そうです。もう一度、彼女とやり直したいんです。」
「だが、この星の紙幣や硬貨は地球では何の役にも立たないし、地球のいかなる国の貨幣通過には替えられないんだ。君は無一文で地球に帰るのだぞ。」
と栄部伊社長は確かめるように流太郎に打診する。流太郎は、
「お金より康美の方が大事なんです。帰らせてください、地球に。栄部伊社長、お願いします。」
時流太郎は頭を下げた。それを見ると栄部伊社長は、
「よし。分かったよ。でも、ここへ戻りたくなったら、すぐには帰れないだろう。ドセルノさんの都合次第だからだ。」
と話すと、ドセルノは、
「黒沢君を通して都合は、つけよう。土星と、この星では通貨交換が可能だからビジネスの存在が成り立つ。地球と土星は、まだ貨幣の交換が不可能だ。それで土星人の我々としては地球に、それほど興味を持たない。とはいえ地球の例えば金(きん)は土星に持ち帰らるが。土星には天王星や海王星という豊かな資源を持っている。帰りに立ち寄ってみよう。」
という事で流太郎は地球に帰還する事となった。

 ドセルノの円盤内で何日か経つと、流太郎は窓の外に青く輝く星を見た。その部屋にはドセルノと黒沢もいて、ドセルノは、
「あれが海王星だ。海王星の四季のそれぞれは、41年もある。春の始まりに生まれたら、42歳で夏になるというわけだ。地球の日本人の寿命を80歳とするなら、四季の内、二つの季節しか海王星では生きられない事になる。
一年が海王星では地球の164年だから。」
そのドセルノの話に黒沢は尋ねる。
「海王星人って、いるのでしょうか。」
「今のところ、我々でも発見していない。それでも、いないとは言えないだろう。海王星に降り立つには超巨大台風を避けなければ、いけない。その台風とは地球では大暗班(だいあんはん)と呼ばれる時速2000キロメートルのものだ。これは地球の日本の東京から福岡までを一時間で往復する風なのだ。」
海王星を通過した円盤の窓の外に見えたのは、又しても青い星。ドセルノは、
「天王星だよ、あれは。土星の外側にある星だから土星人は、この星に行くことを既に何万年も前から試みている。そして、そこに限りない資源を見つけた。その一つがダイアモンドの海なのだ。」
「えーっ。」と流太郎。
「ほおーっ。」と黒沢。続けてドセルノは、
「天王星の一年は地球の84年。つまり天王星に住んでいると生まれたのが春だとしよう。そうしたら冬の終わりに死ぬ事になる。寿命が84歳だとしたら、だ。つまり天王星人は一生に四季を一つずつしか体験できないのが普通という事だ。」
円盤は急降下した。ドセルノの話したダイヤモンドの海らしきものが見える。キラキラと白く輝く海、それはダイヤモンドの輝きで、これは比喩ではなく、本物の液体ダイヤモンドが宏大に広がっている。その上を円盤は低空飛行した。
そのダイヤモンドの海を見ながら黒沢は、
「一体、どれほどのダイヤが出来るのか、想像も、つきません。」
とドセルノに話すと、
「我々土星人は、あれからダイヤを作り出している。地球の油田どころの規模ではない。それを他の惑星に売りに出している。地球でも少々、売っているよ。あまり大規模には地球でではダイヤモンドの輸出は、していないけどね。」
どこまでも広がるダイヤモンドの海だった。天王星にダイヤモンドの海がある、という事実は流太郎も知らなかった。
あの海の中からバケツ一杯に液体ダイヤモンドを、すくいあげ、それを康美に渡したら、どうだろう。地球では、それは液体から固体に変わっている筈だ。
あれだけダイヤがあればダイヤモンドの家も作れそうだ。と目を輝かせる流太郎にドセルノは、
「君が想像するかもしれないように土星にはダイヤモンドの家がある。大抵の場合はダイヤは通貨に替える。つまり売るのが普通だがね。」
と解説してくれた。
急上昇した円盤は素晴らしい速度で地球に向かっているらしい。とても巨大な惑星が見えた。ドセルノは解説する。
「あれは木星だよ。木星の一日も地球の時間にすると10時間。木星は幸運の星と地球の占星術では言われている。幸運の女神には後ろ髪がない、というのも素早く通り過ぎるのが幸運だからだ。
土星人も木星人も似たような一日を持つ。木星は傾斜することなしに太陽を回っているため、どの場所に同じように太陽光線が降り注ぐ。そのため地球の赤道直下のような場所ばかりだ。地球の黒人は木星から追放された者の子孫なんだ。木星人は大体、肌の色は黒い。我々土星人とは反対に。木星にもアンモニアの雲がある。
だから土星によく似ているんだ。時速360キロの風も木星では吹く場所がある。」
占星術なんて、という顔をした流太郎にドセルノは、
「惑星からの地球への影響が、ないとする考えの方が正しくは、ない。地球の占星術でも惑星の影響、太陽、月の影響を元にしている。土星の占星術は、もっと高度なものだが。
木星は強い電波を出しているのだ。22.2メガヘルツの電波も地球に届いたことが過去、検出されている。
ん?時君、メガヘルツは、よく分からないだろう。黒沢君、説明してあげなさい。」
「はい、ドセルノさん。」
と黒沢が話をし始めた。
「電波というのは波だ。揺れでもある。一秒間に揺れる波の振幅数がヘルツ。一秒間に一度揺れたら1ヘルツ。メガは百万回揺れたら1メガヘルツ。だから22メガヘルツとは、一秒間に電波が2千2百万回揺れた事になる。この揺らぎが木星から地球に届いているというのがドセルノさんの話さ。」
ドセルノは、
「その通り。これだけでも木星が地球上に与えている影響が分かるだろう。他にも地球の科学で検出できない影響力も木星から地球に来ているのだよ。一説によると地球の黒猫は木星から連れてこられたとも云う。地球の一日の二十四時間に対応できず、黒猫は夜中に目を覚ましたりするというのが、その理由だ。木星は一日が十時間だからね。木星の電波は幸運の電波だという事だろう。木星と土星は、同じような時間で自転している。これは太陽系の惑星の神秘の一つだろう。」
流太郎は、
「木星は寒そうですけど、」
と反論するとドセルノは、
「木星第一の衛星イオには活火山がある。このイオは地球の衛星の月と同じほどの大きさだ。イオの地下にはマグマの海もあるんだ。そこからの熱は相当なものがあるから、木星は暖かい。それに地軸が傾いていないために、太陽光線を直接、受ける。地球人が想像するような世界ではないのだよ、木星は。」
と断言した。ドセルノは付け加えるように、
「イオには標高の高い山もあって、ボオサウレ山脈は1万8千2百メートルある。こういう火山が爆発すれば、その熱量は大変なものだ。」
地球のエベレスト山の倍以上の高さ。太陽系で一番高い山は準惑星ベスタのレアシルヴィアの中央丘で2万2千キロメートル。次が火星のオリンポス山の2万1900メートル。
流太郎は地球にあるものは小さいものだ、と思った。と思ったら窓の外には青い地球があった。
そこが自分の故郷なんだ。康美は、どうしているのだろう・・・?

黒沢と流太郎の二人を降ろすとドセルノの円盤は地球外へ飛び去った。サイバーモーメントの社屋の屋上から透明な膜で包まれたドセルノの円盤は二人には見えなかった。階段を降りた二人は社長室へ入り、黒沢は流太郎に、
「ソファに座り給え。久しぶりの地球だろう。」
と声を掛ける。
座った流太郎は、
「ええ、そうですけど、あの星の陽本と変わりない空気ですし。特に地球に帰って来たという印象は感じません。」
と感慨を洩らす。
 黒沢は手を額に当てると、眼を閉じかけた。流太郎は、
「どうしました?黒沢さん?」
と気遣うと、
「いや、なに土星での暮らしに慣れたものだから、すぐ眠くなる。時差ボケどころではないよ。」
と苦笑する。自分が土星でAVに出ていた事を、まだ流太郎には話していない。そ・う・い・え・ば、自分の性器は土星では地球でとは違ったものに、なっていたような・・・・よく、思い出せない。ただ、AVに出ていた事は、あった気がする。

SF小説・未来の出来事12 試し読み

 今北武人、本名は今竹・武子(いまだけ・たけこ)なので結婚に際して改名して本名も今北武人にした。女性から男性になると、このように改名も必要になる。共和筋代は今竹筋代に名前が変わった。今北武人、これからは男子トイレで用を足す。だが少し注意が必要だ。何故なら彼のペニスは二本ある。土星の男性の性器を移植したので二股ペニスなのだ。隣の男性の性器を見る人物も多くはないとはいえ、用心した方がいい、と武人は考えたのだ。
小用は、どちらのペニスからも流せる。両方から放出するのは自宅の便所で、やってみた。後は上か下か、の違いだ。意識的に上の方から出したいと思うと、そこから尿は流れるし、下のペニスから放出したいと思えば、下のペニスから放流させられるように武人は、なった。
 それで公衆便所では武人は二本のペニスの内、一本だけをズボンの外に出して放尿した。小用は、これでいい。だがセックスの場合は?筋代の国会での日程の都合で、新婚旅行は熱海となった。日帰りの新婚旅行。一泊は、できないので昼に休憩として休む部屋を借りた。断崖絶壁のような場所に建つ、泊りと休憩の出来るモーテルのような建物で、大きな窓からは広い海が見えた。二時間、そこで休んで又、東京へ帰る。二時間は、たっぷりとセックスが出来る。
武人も筋代も既に全裸だ。立ったまま抱き合うとキスをする。武人は二股ペニスの一本を勃起させた。筋代の右手は武人の股間を、まさぐって一本の硬くなったものを握ってしまった。二人の唇が離れると筋代は武人の股間を見下ろす。二股ペニスだ。上下に分かれている。思わず筋代は、
「二本も御チンチンが、あるのね。土星人のペニス?」
武人は筋代の裸の肩を抱いたまま、
「ああ、これが土星人の男性チンコのデファクトスタンダードだよ。もっと興奮すれば二本とも勃起するだろう。」
「興奮させたいなー、武人さん?」
筋代が答えると、武人は妻の彼女を横抱きに抱いて、抱え上げた。お姫様抱っこ、という奴だ。それから白いベッドに筋代を降ろすと、仰向けの彼女の両脚を大きく開かせた。そして妻になった彼女の女性器を、たっぷりと見た後、舌を伸ばして舐め回した。
「あああっ、わたし、まだ処女なの・・・でもっ、いい。」
筋代は眉間に皺を見せて、眼を閉じている。
 いきなり武人は妻の処女膜を破り、かつ又、彼女の肛門にもペニスを挿入した。二本とも、しっかりと勃起していたのだ。筋代は夫になった武人のダブルペニスで女の穴と尻の穴を埋められ、二か所から来る強い快感は、今まで味わう事のなかったものだった。
 その性の甘美な攻撃を受けつつ、筋代は土星影夫が話した事を思い出していた。
「わしは都内でタクシーに乗る時、二人の成人した女子大生と相乗りする。わしが後部座席の真ん中に座り、二人の女子大生を左右の横に座らせる。運転手はロボットだ。だからタクシーセックスしようとも見向きもしない。都心から郊外へ、例えば高尾山まで走らせて、その間、タクシーセックスを楽しむのだよ。女子大生二人は、最初からショーツを履いていない。スカートは履いているがね。だから座ったまま、尻を少し浮かせて、彼女達はスカートを尻の上まで、めくる。それから、わしはズボンを膝まで降ろし、二本のペニスを出す。わしのペニスは左右に、ついている。土星では上下に、ついている男と、わしのような左右に、ぶら下がっているいる男と二通りだ。そこで女子大生二人に、わしの太ももの上に乗ってもらう。ぷにゅプニュした彼女たちの柔らかい尻は、わしの左右のペニスを二本とも元気づけて、かちんこちん、ぼっきん、と勃起させる。
それは非常に長くなるから、彼女達が少し尻を浮かせて尻を降ろすと彼女達の愛欲の穴にズッポリと入り込む。
わしは右の手は右側の女子大生の右乳、左手は左側の女子大生の左の乳房を揉んでやる。それでだね、このタクシーセックスは我慢大会でも、あるんだ。それは彼女達が感じても平静な顔をしているという我慢だな。道路をタクシーが走っている時は、車中を見る人もいないけど、信号待ちでタクシーが停車していると、歩道の通行人がタクシーの車内を見ていく時も、ある。
その間も、わしの二本の勃起した喜張したペニスは、松茸のような亀頭を彼女達の初々しい淫裂の中にズイーンと挿入している。彼女達は顔の表情を平静に保とうとするが、わしの手は左右の彼女達の黒い茂みの湿原を、まさぐっている。スカートの中でな。クリちゃんを弄ると、二人は声を上げそうになるんじゃ。大抵の通行人はタクシーの中など見て行かないが、中には女子大生の横顔をジッと見ていく男性もいるね。
高尾山に着くと同時に、わしは二人の女子大生に射精してやるよ、ワハハハハ。」
気に入った女子大生は円盤で土星に連れて行くそうだ。という話を筋代は二穴を夫の武人に突きまくられつつ、思い出していた・・・。

 土星影夫と株式会社・夢春の籾山松之助社長は社長室で会談している。土星は黒の背広姿の黒いネクタイを手で直すと、
「ビルの玄関のロータリーにタクシーを待たせておる。女子大生二人が乗っているが、いいかね?」
と尋ねたので籾山社長は、
「ええ、構いません。自社ビルですから。ロボット警備員を立たせていたでしょう?我が社の玄関付近に。」
「ああ、見たよ。フェイクの銃だろうけど、それを軍人のように肩に掛けていたからな。少し驚いた。」
「もちろん、本物の銃は持てませんからね。出るのは水、水鉄砲ですよ。向こう見ず、な奴には鉄砲水、ですわ、ははは。それが水でもアンモニアの水ですから。もちろん銃の中に密閉されているので匂わないんです。」
「へー、そうかね。IOSのサイバーセキュリティにも進出したんだろう、最近は。」
「ええ、サイバーセキュリティも分野が増えて助かります。」
ここでIOSについて解説しよう。
IOSとはインターネット・オブ・セックスの略語である。大昔に勃興したIOTに似ているが、IOSの場合は、セックスに関するインターネット技術の事をいう。
IOTで玄関のカギをスマートフォンで開けたりする事は大昔からあった。だが地球人のネット技術ではIOSに就いては程遠かったのだ。そこで土星影夫によって、もたらされたインターネットの技術がIOSなのである。この技術はサイバーモーメントに伝えられた。それというのも土星人、土星影夫の女性の好みが日本人女性だった、という、ただ、それだけの理由で。
世界初のIOSとは。例えば単身赴任ほどではなくても、海外出張などは商社などでは、若いうちから発生するものだ。その度、その旅に妻を連れていけるものではない。そんな時、インターネットによって、夜の楽しみを失わずに、すむのだ。
パソコンの画面では対応していないので、サイバーモーメント社製のIOSに対応したディスプレイを購入する。それをパソコンに繋いで、実現する。
ニューヨークだろうがパリ、ロンドン、アムステルダム、ベルリン、チューリッヒ、何処でもいい。ホテルでインターネットの出来るホテルに泊まっていれば、出張先から夫はサイバーモーメント社製のディスプレイをパソコンに繋ぐ。それから日本の妻に電話する。
「おーい、今からIOSするぞー。」
と。すると妻は、
「いいわ。わたしも準備する。」
とサイバーモーメント社製のディスプレイを稼働させる。夫は妻の裸体やマンコを思い出して勃起すると、それをディスプレイに写すのだ。パソコンカメラのようになっている、ものに。
そうすると、それはインターネットで日本の妻のパソコンに転送され、更にサイバーモーメント社製のディスプレイに夫の勃起したモノが大写しで映る。
そこまでは昔から出来るものであるが、IOSは、ここからが凄いのだ。妻は夫の勃起チンコを見て、
「凄いわ、あなた。早く頂戴。」
と、せがむと夫は、
「よし、いくぞぉぉぉっ。」
と答えてサイバーモーメント社製のディスプレイを操作するのだ。
すると瞬時にして、妻のディスプレイから夫の勃起チンコが立体的に現れる。妻は感嘆の目で、
「まあ!あなたのモノと、そっくりだわ。」
と話すと海外のホテルの夫は、
「そうだろう?IOSは本物のチンコそっくりの物体を出せるんだよ。触ってご覧、ぼくの、その画面から出たものに。」
「うん。触った。ホログラムのような幻像では、ないみたいね。」
「ああ、物体だよ。それはね、大昔からある3Dプリンターみたいな技術らしいよ。君もね、ディスプレイを操作して自分のマンコを映すんだ。」
「ええ、恥ずかしいけど、やるわ。」
妻はスカートとショーツを脱いでディスプレイのカメラに写した。すると、おお!海外のホテルの部屋のディスプレイに妻のマンコが大写しで実物大で写され、更にそれは、画面から浮き出て本物の女性器が出現した。夫は感嘆の声を、
「すごい。可愛い、おまえのマンコが出て来た。膣の深さも君のと同じらしい。」
「やだ。そうなの?」
「だろうね。入れるよ。」
「ええ、入れてっ!」
夫は勃起したモノをディスプレイから出た妻のマンコに入れた。日本にいる妻は、
「ああっ、入って来たーっ。本物みたいっ。いくぅぅぅ。」
妻が見ている画面から夫のモノは伸びて、画面に股間を近づけていた妻の秘所にグウウウンッ、と侵入したのだ。
海外のホテルの部屋の夫は本物の自分の肉竿と亀頭にも、妻の洞窟の感触を感じている。夫は画面から浮き出た妻の女性器に挿入しているのだ。
こうして二人は夫が出張しても夜の愛の営みを欠かす事がない。ただし、このIOSのサイバーモーメント社製のディスプレイは、いささか高価であるのでエリートサラリーマン向けではある。サイバーモーメントは廉価版は検討していない。本物である度合いを下げれば、もっと廉価で提供できるのだが、それをすると品質の悪さを体験した購入者が正規版を購入するとは思えないからである。
 さて、このIOS製品、「何処からでもセックス」は当然、サイバーセキュリティが必要になる。そうしないと夫婦の性器の個人情報が漏洩するからである。
それについての技術も土星影夫が株式会社・夢春の籾山社長に伝授した。
 新婚ほやほやの今北筋代は国会の昼の休憩時間中、トイレに入った。そこでサイバーモーメント社製の小型ディスプレイを取り出す。そこからは夫の自分の第一秘書の武人の勃起チンコがニョキッと現れる。筋代は食事をする前に、このIOS機器で性欲処理をする。夫の武人を第一秘書にしたものの、彼が忙しくなりすぎて、国会開会中は昼にセックスできなくなっていた。それで第一秘書の夫の武人も男性便所でサイバーモーメント社製のディスプレイに自分の硬直したモノを画面に浮き出た妻の女穴に挿入して三分で果てるように努力した。もちろん、二股ペニスの一本を使用するのだけれど。
 第一秘書、第二秘書、政策秘書の三人が筋代が給料を払わなくていい秘書だ。それは他の国会議員も同様で、私設秘書は自分で給与を支払う。筋代の私設秘書は女性で、国会には連れてこない。筋代程度の国会議員では私設秘書を一人雇うのが限界だった。
次期の選挙でも筋代は共和筋代という名前で選挙に出るし、国会でも「共和筋代君」と議長に呼ばれている。これは選挙民のためである。特に筋代は同性愛者からの支持も強かった。

 ミスタードーター尻山益男を都知事にするための支持票集めも共和筋代が行った。そして遂に東京都知事初のお釜の知事が誕生したのだった。何せ東京都には日本一、同性愛者が多いのは二十世紀から続いている。尻山益男は東京都知事選挙でオープンカーに乗り、
「おかまの尻山で御座います。力の限り、戦ってまいります。特に、同性愛者の皆さん、尻山に暖かい一票を、お願いします。」
と力説して遊説して回った。
その結果のトップ当選と、なった。東京都庁ビル七階の都知事室に座った尻山は、都知事室に集まった都庁幹部に、
「これからは東京都の改革に取り組みます。よろしくね。」
と挨拶した。都知事室は知事一人の部屋ではない。
 こうやって新しい都政が始まった。都知事は何の力もないものだろうか。いや、それは違った。新宿二丁目にあるお釜バーの近くの街路を歩く通行人は、
「おや、突然、工事が始まったな。」
「そうだな、木を植えるらしい。」
「都知事がオカマだからだろう。」
「いや尻山都知事は両刀使いらしいよ。」
何本もの新しい樹木が植えられ、更に何十本の小さな緑、お釜バーのある辺りには特に、びっしりと路上に緑が植えられた。細い路地の多い場所は緑が全くなかった。それが豹のように素早く様変わりしたのだ。

 土星影夫は株式会社・夢春の自社ビルの社長室で籾山と対峙している。最上階の部屋の大きな窓からは朝鮮半島へと繋がる青い海が見える。土星は葉巻を深く吸い込み、それを吐き出して、
「という訳で東京都知事は尻山というオカマに、なったんだ。この尻山の耳には私の指令を絶対に聞く装置が埋め込まれている。これで都知事は私が自在に動かせる訳だよ。」
仰天した籾山は、
「それも土星の科学なのですか。」
「そうさ。でも土星では、この装置に対する対抗策が出来たから使い物にならない。それで地球人に試そうという事でね。」
「都知事を思いのままに動かして、どうします?何か、得でも?」
「あるともさ。東京都の予算を知っているか?10兆円は、あるんだよ。それを少なめに公表すれば、一兆単位で金が浮いてくる。その金を仮想通貨に変えて海外に送れば、もはや調べようがないんだ。尻山には、その事について話してある。もちろん、彼?も反論は、しなかった。基金の残高だって三兆円は、あるんだ。都債を発行しても金は集められる。そもそも夏のオリンピックを日本で開催できるのも東京都しかない、という位、日本は金のない国なのさ。アメリカなんてアトランタでもロサンジェルスでもオリンピックが開ける。アトランタはコカ・コーラの力だったろうけど。
東京都の無電柱化なども大昔の知事の推進で行われた。尻山君を動かせれば東京都は私の思いのままになる。」
籾山は口を挟む、
「福岡県の予算は二兆程度ですから、東京都は、その五倍ですね。羨ましい限りです。」
「何も只で東京都の予算を貰おうとは言わない。IOSの普及なども、それなりの価格で行ってやる。それが東京都民へのプレゼントさ。」
「なるほどですね。それなら本当に合法的な話だなあ。」
「それで君はIOSのサイバーセキュリティを売れば、いいんだよ。」
「それは有難く承ります。」
という二人の密談だった。夜は土星影夫のために籾山松之助が用意した女がホテルで待っている。籾山の社屋は福岡市の人工島、アイランドシティにあるが、ここにはホテルは建設されていないので、空に浮かぶ島、愛高島に泊まりに行く。
 愛高島は以前に出て来た博多湾に浮かぶ巨大な島だ。実は、これは火星人によって持ち来たらされたもので、経営権は火星人のパリノ・ユーワクが持っている。今では、ここには最初はなかった建物も出来ている。ラブホテルも、そうだ。この愛高島は治外法権となっていて、日本国も干渉しない立場を取っていた。
 という事で土星影夫が泊まりに行くのは愛高島のラブホテルだ。しかも福岡市内の女子大生、二人を連れて。彼女達の目的の一つは、お金にあるが土星のタフなセックス力も彼女達の魅力だった。土星影夫のペニスは左右に分かれている。それで勃起すると左右のペニスは六十センチにもなるので、自分の太ももに、それぞれの女子大生を尻を向けさせて乗せて巨棒を挿入できる。女子大生も全部の土星の巨棒を自分の女穴に咥えこみ切れないので、途中までにしている。それも一つの体位だった。
愛高島のラブホテルは豪華な宮殿のような外観で最上階はスイートルーム、そこで今、土星影夫は二人の女子大生、アンアンとイクネと大きな風呂に入っている。美船杏杏(みふね・あんあん)と空荷幾音(そらに・いくね)というのが彼女達の本名だ。二人はアイランドシティにある大学の情報工学部に学ぶ二十二歳の卒業間際の胸と尻の発育した女子だ。二人は中洲の地下街にあるバーで飲んでいたら、土星影夫が入ってきてカウンターの席にいる二人の横に腰を降ろした。茶色の山高帽をかぶった土星は彼女達に、
「君達は女子大生?」
と穏やかに聞いた。
「ええ、」と杏杏。「そうです。」と幾音。杏杏は西洋人風な外見で、幾音は日本女性風な容貌だ。土星はニヤニヤして、
「君達は、お金を欲しくないか?」
「欲しい。」と杏杏。「わたしも欲しいです。」と幾音。
「おじさんと遊んだら、お金、あげるよ。」
二人の脳裏に肉体関係という光景が浮かんだ。肩幅も広く紳士風の男性が土星だ。六十歳位か。杏杏と幾音は自分達の目を見合わせると、次に土星の方を向いて、
「遊びたーいな。」と杏杏。「遊びましょう、おじさん。」と幾音。
土星は満足げに、
「よし、それでは愛高島に行くよ。」
それから中洲中央公園にある愛高島行のヘリポートで、三人はヘリに乗った。愛高島の飛行場からロボット運転手のタクシーに乗って、宮殿に見えるラブホテルに着くと、フロントでは男性ロボット従業員がニコヤカに三人を迎えた。
 この時代、ラブホテルのフロントはロボットが大勢を占めていた。裁判所も地方裁判所の裁判官は人工知能AIロボット、だ。六法全書を全てインプットし、過去百年の判例を全て入力する。それで正確無比な判決を下すロボット裁判官の誕生になった。
素人に判決を出させる陪審員制度は日本では廃止されている。
 証券会社のアナリストなども姿を消しつつある。人工知能に解説させるのだ、世界の市況などについてを。老舗の証券会社に勤めるアナリスト、庄権太郎(しょう・けんたろう)も馘になり、まだ五十歳の彼は六本木のホストになった。銀座のバーを回って株の営業もしていた権太郎にはホステスのファンもいたので、それらのバーのホステスがホストクラブに来た時に、
「やあ、こんにちわ。晩だけど、こんにちは。晩だけど、バンバン、いくぜ。」
と挨拶するとホステスは、
「まあ、庄権太郎さんじゃない。庄権・太郎さん。」
と話す。権太郎は、
「いや、庄権・太郎じゃなくて、庄・権太郎なんです、ぼくは。アハハ。それに証券会社を馘になりまして、ほぼほぼ無職みたいなもんですよ。でもホストって鉄板級の盤石な職業だと思うね。さわ、さりながら、頑張らないと、お客さん、つかないでしょう。だから、よろしくお願いします。ほぼほぼ、来てくれますか、毎日でも、キレッキレに。」
と返すから、ホステスの真麻は、
「キレッキレに来ますよ。権太郎さん、夜のストップ高、してくれます?」
「ああ、やりますよ。ほぼほぼ、鉄板級です。もうすぐ閉店だから、それからは渋谷のラブホテルで真麻さんと一発。」
「何発でもストップ高してください。」
そうして閉店後に渋谷のラブホテルで庄権太郎とホステスの真麻はベッドを楽しんだ。フランスベッドで四つん這いになった全裸のナンバーワンホステスの横幅の広い尻を庄権太郎の隆起した肉筒が突きまくる。かれは腰を振りながら右手でガッツポーズを取りつつ、
「おれのチンポはフルに急上昇?チャートは右肩上がりな勃起チンポで真麻のオマンコ、ストップ高さ~♪」
「きゃあーーー、ストップ高、いくうーーーーーーーーっ!」
鉄板級の庄権太郎の肉強棒はホステス真麻のGスポットをアクメに達せさせたのだ。さすがは元・証券アナリスト!

 土星影夫はバーで既に女子大生・アンアンとイクネに仮想通貨を渡していた。スマートフォンで彼女達の取引所口座に送ったのだ。アンアンは、
「この仮想通貨、これから上がりそうですね。楽しみです。」
と話すと土星は、
「上がるだろう、間違いなく。」
と断言した。市場を操作するのは土星影夫の得意技だ。前払いの安心感から彼女達、女子大生は土星と共に愛高島に行った。
そして今、十人は入れそうな浴槽に三人で入っている。泡の出る風呂だ。土星は左右の女子大生の裸の肩に手を回すと、
「いやあ気持ちいいなー。泡のついたままでセックスしよう。この風呂場は広い。中近東の王様の気分だよ。いや、ハーレムかな、ここは。」
それから、その両手を下げるとアンアンとイクネの片方の乳房を揉む。「はあっ。」とアンアン。「い、やっん。」とイクネは声を上げた。それと同時に土星の二股ペニスは長大化していく。それは伸びて杏杏と幾音の柔らかな、むっちりとした太ももに触れた。アンアンは、
「土星さんのモノ、大きすぎますぅー。」
と驚く。土星の右手はアンアンの股間に下がっていき、彼女の淫唇を縦の裂け目に沿って下から上になぞる。洋風な彼女の顔は乱れて、
「ああっ、はあっ。」
と乱れた。土星はアンアンに、「全部は入れないから、安心しなさい。」
と言いつつ、彼女の耳に息を吹きかける。耳もアンアンの性感帯らしく、彼女は頭を後方に、のけ反らせて、「ああっ、やんっ。」と乳房を震わせた。
 二人は自分の太ももに土星の長大なモノが触れているのを感じた。物干し竿のように長くなるのではないか?と思われるソレは地球の人類のモノより進化したモノだった。土星の二つの亀頭はアンアンとイクネのマンコを探り当てると柔らかく侵入した。つまり陰茎のそれぞれの先端が逆Uの字型のように曲がったのだ。それが左右両方で、まるでミサイルが標的を狙ったかのように進行したのだ。ミサイルも、その角度では曲がれないだろうという位、曲がる柔軟な土星の陰茎だ。矢印で表すと↓↑↓のような形で、中心と左右の矢印が繋がった陰茎を想像してもらいたい。
 アンアンとイクネは地球の男では起こらない陰茎の曲がり具合に驚いたのは、自分の女性器にソレが挿入した後だった。アンアンは(おチンチンが勃起して曲がってるわ。なんか蛇が身を捩ったみたい。でも、ああ、いい、太くて長いわっ、オマンコ壊れそうっ!)と思い、イクネは(すごーい。自在に曲がった御チンチンだわ。それでいて亀頭は充実してカリが凄いわ、ああっ、奥まですぐ届くーっ、マンコ、壊れるー)と脳内で思考しつつ日本女性らしく裸身を乱した。二十分もハメ続けた土星影夫は射精せずに二刀流の日本の男刀を引き抜くと、二本とも勃起させたまま、風呂から上がり、
「寝室に行こう。以降は寝室に移行だ。」
と二人に話すと、裸体のまま浴室を出る。杏杏と幾音は空になった自分のオマンコを土星の肉筒で満たしてもらいたくなって、たまらなさそうにジャブッ、ジャブッと音を立てて浴槽を出て浴室を出た。スイートルームだから寝室の壁やドアはなく、三人が寝そべられる横幅のフランスベッドが、あった。その横の空間には大きなハンモックも吊るしてある。そこにも三人は寝れるハンモックだ。
そのベッドとハンモックの間で土星は二本の勃起した長大なペニスを天井に向けて屹立させて、浴室から出て来た二人の美人女子大生を待っていた。六十センチの長さは、あろうかというジャイアント・ペニスだ。文学好きの幾音は(ペニスに死す、なんて事にならなければ、いいけど。)と思い、杏杏は(立ったままでも横に分かれているから、わたし達を向かい合って同時挿入されるかも)と期待する。
土星は、両腕を横に広げると女体を抱く前の構えをして、
「さあ、私に抱き着いて来るんだ。早い者勝ちだ。」
と誘惑した。二人は裸体のまま、若い豊満なおっぱいをプリンプリンと揺らせて、スイカのような尻を左右に揺らせて土星に駆け寄ったが、僅かな差でアンアンが先に土星の腕の中に納まった。すると、である。土星の右側の屹立したモノは、しなやかに下降するとアンアンの腹部を撫でるように滑り、一度、その亀頭は床に頭を向けた。それから潜望鏡が水面に上がってくるように、鎌首をもたげたペニスはアンアンの太ももの間の秘女苑にズブゥーッ、と亀頭を沈めて行った。アンアンの後ろにいる裸身のイクネは、それを見てしまった。土星の左のペニスは、どうなったのだろう。
 既に土星と杏杏は交わり、キスして舌も絡め合っている。遅れた幾音はボンヤリと二人の立ったままのセックスを見ていると、頭がポ~ッとなって自分の股間の秘部から蜜が滲んでくるのを感じた。彼女の秘蜜で、ある。が、それに気づいたのか土星はアンアンから唇を外すと、
「イクネ。私の後ろに回りなさい。そして私の背中を見て立つんだ。」
「はい、そうします。」
イクネは乳房を揺らして駆け巡り、土星の逞しい裸の背中を見て立った。すると!土星の左のペニスは何と、彼の股間を抜けて後ろに伸びて来たのだ。それに驚いたイクネは両足を横に開いてみた。土星のジャイアント・ペニスはイクネのオマンコを正確に探り当て、イクネは、その亀頭のついた蛇のような、くねって曲がった肉筒に女秘苑を貫かれたのだ。イクネは、
「あはんんんっ、いいっ。」
と息を弾ませて喘いだ。土星は、こうして自分の前後の美人女子大生の裸身を同時に貫いている。アンアンは土星の肩のあたりを、イクネは土星の腰のあたりに両手で抱き着いている。二人は桃色に滲んだ新鮮な大きな尻を土星のビッグ・ペニスの動きに合わせて激しく揺らせたり、ゆっくりと揺らせたりしている。
土星は二本のペニスから快感を得られるのである。

 福岡市博多区東那珂にあるサイバーモーメント本社の社長室に土星影夫は上下の黒の背広姿で黒沢金雄社長と歓談していた。土星は、椅子から身を乗り出すと、
「土星の技術を又、教えたい。土星にも法律があるが土星意外の星で土星にとって脅威とならない技術は売ってもいい事になっている。それを君のところで製品として売り出して、もらいたい。君のところは上場は、せんのかな。」
黒沢は自分の鼻髭を触ると、
「上場したら株主の言う事を聞かないといけませんから。私は技術者として地球の人の意見は聞きたくないんです。」
「なるほどな。君は優れた技術者だ。いくつもの発明もある。わしも感心しているものもあるよ。どうだね?土星に遊びに来ないか?」
「それは喜んで行きます。その前に気になる事が、ありまして・・。」
「何だね?気になる事って、うん?」
「株式会社・夢春の社員が行方不明なんですよ。」
「ほーお、調べられないのかな、地球の遣り方で。」
「はあ、さっぱりですよ。もしかして地球外に、いるかも、とか思いまして。」
「それなら探せないだろうな。月に幽閉されても、地球人には誰にも分からんのだ、大昔からな。かぐや姫も、おとぎ話ではなく実話だ。月はね衛星と思われているが、実は巨大なUFOなのだ。それで地球には裏側を絶対に見せない。神隠しなんてのも月に連れ去られて幽閉、強制労働させられて地球に帰らなかった人も多いんだ。それで、その社員が月に捕えられているのなら、わしにも手は出せん。
 月の国との土星の協定でね。アメリカのアポロは、あまりにも月の裏側に行ったために攻撃されてロケットのある部分を破壊された。月の科学は地球より進みすぎているから。傲慢なのは大半の地球人の方だ。日本人も未発達科学を聖典のように信じ込んでおる。ガリレオみたいに裁判にかけられるわけではないが、宇宙人の存在も地動説なのさ。」
黒沢社長は深く考えに沈んだ。そして、
「では、どうする事も出来ないわけですか、特に月に捕えられている場合は・・・。」
「いや、月でなければ連れ戻せるかもしれん。でね、その機器を手元に持っていないから、土星に行こう。土星のワシの自宅には、あるよ、そういう機械がね。」
「土星さん、ぜひ、土星に連れて行ってください。お願いします。」
黒沢は座ったまま深く頭を下げた。土星は立ち上がると黒沢に近づき、優しく右手を黒沢の左の肩に置くと、
「そうしよう。この社屋の屋上にUFOを呼ぼうか。」

 昼の社の屋上に現れたUFOだって、人間の目には見えないように保護バリアを掛けている。土星の円盤で快適な宇宙の旅。土星の環に、ぶつからないようにして円盤は土星影夫の自宅に着陸する。土星は一日が十時間で終わり、四季が長い。29年もある太陽の周りを回る公転周期を4で割ると、七年と少しになる。つまり土星の春夏秋冬は、それぞれ七年と少しになるのだ。
土星にはアンモニアの雲がある。その雲は凍ったアンモニアが混じっているのだ。
土星影夫の自宅は地下にある。そこでは温泉もあるし、暖かな空間だ。ソファも温水が中を通っていて温められている。黒沢は前から疑問に思っていたことを質問した。温水ソファの、ぬくもりを腕に感じながら、
「土星には何故、アンモニアの雲があるのですか。」
土星影夫は夕焼けのような笑顔を浮かべると、
「それは太古の昔、我々が原始生活で土星の地面に直接、小便をしていたんだ。なにせ男はペニスが二本あり、そのため尿が出る頻度が高くなった。それは新陳代謝をよくするから、我々は長い寿命があるんだがね。その尿が蒸発して大気まで上昇すると氷となって雲に混じった。それを君達、地球人は観察している。が原因は分からなかっただろう。」
と解説したので黒沢は、
「なるほど。そうだったのですか。では我々地球人類もペニスが二本あったら地球の雲にはアンモニアが含まれるわけですね。」
「そうだったろうね。ただ、我々の祖先も円盤で地球に飛来しては人間の女とセックスした。そこで日本のペニスの男子も生まれた事もあったが、銀河連邦の盟約で
地球の男子を土星人のように、すべからず
と決められて、二本のペニスの地球の男性は一本は切り取られたんだね。アンモニアの雲が出来るのを防ぐためだったらしい。」
黒沢は笑いたいのを、こらえると、
「地球からも探査機が打ち上げられて、かなり詳細な事まで分かっています、が。」
土星は悪戯そうな目で、
「あれは真実のデータを地球には送っていない。何故なら我々土星人が地球の探査機に手を加えているからだ。土星の気温や衛星の観測データは狂わせている。それは火星に打ち上げられた探査機も火星人が捜査しているとの情報は知っているよ。火星人と仲がいい土星人もいるから。」

SF小説・未来の出来事11 試し読み

 人間の船長は、
「ああ、そうしてくれ。もうすぐブルネイだと栄部伊社長に報告するんだ。」

 栄部伊社長の船室にはロボットのマネキンのような像がある。そのマネキンロボットが、
「栄部伊社長、もうすぐブルネイです。」
と口を開いて話した。
新作AVを部屋に投影された立体映像で見ていた栄部伊社長は、
「ああ、ありがとう。君の燃料は、まだ、大丈夫か?」
「気にしないで下さい、社長。自分で補給できます。」
「分かっているさ。君の人工知能の会話力を試したんだ。」
「社長の質問に答えられなくなった時は、私の脳を部品交換して下さいね。」
「そうしよう。そうするともさ。」
栄部伊社長は、それぞれ個室にいる三人に同時に連絡が取れるマイクに向かって、
「又、船を降りて観光できる。その前に水上の町が見れるよ。船室の窓から見れるからね、それは。」
と話した。
正午前の十一時位の時間だった。ブルネイといっても、この星の国の名前でパラレルワールドみたいだが、同じ建物があるわけではない。
地球のブルネイと違って、この星のブルネイの建物は鉄筋であり、ガラス張りの家屋も多い。四人を載せているクルーズ船以外にも、観光船は、よく、その水上都市を回る。
四人は船の窓から、その川の上に立っている鉄筋の建物を見ていた。川の底深くに建物を支える四本の大きな、重い鉄の柱が突き刺さっているから、川面の上、三メートルの辺りに住居の一階がある。
流太郎は驚いたのだ。その一階のガラス張りの川の上の家の部屋で男女がセックスをしているのが見えたからだ。
流太郎は(カーテン位、閉めたらいいのにな。丸々、見え放題だよ。男が四つん這いの女を後ろから突きまくっている・・・。)と思いつつ、眺めている。クルーズ船は最低の速度で川を運行し始めた。
流太郎の室内スピーカーから羽目太郎監督の声が、
「時君。今見えている住民のセックスは撮影自由なんだ。」
と楽しそうに話してきた。
「えっ?本当ですか?僕、カメラないですけど・・。」
「住民からの申し出が、あったんだよ。君ぃ、スマートフォンは持ってるだろ?」
「あ、そうか。この星の女性に貰ったものが、あります。」
「それで撮影できるよ。僕も個人的にスマートフォンで撮影している。縦長の画面は後から編集すればいいし。」
水上の家のガラス窓は大きなもので、レースのカーテンも閉めずにセックスに励んでいる住民達は一軒の家だけでは、なかった。クルーズ船が通過する時に見える方向からだけでも、ほとんど全ての民家は朝から性交に励んでいる。今日は日曜らしい。体位も各家で様々で、ガラス窓の前に裸身の女性が外を向いて立ち、少し開いた脚の付け根を見事に勃起した男のシンボルが、若いその乳房の豊満な女のマンコを激しく出入りしている。
生で見れる水上の家の住民の性交図絵だ。愛空美壺も時々、唾を飲み込んで自分の船室から眺めていた。彼女はポーッとすると、自分の股間に手を伸ばして性唇を両側共に右手の二本の指で、なぞると、
「はあっ、あたしもイキそうっ。」
と快美な艶声を洩らし、右手の開いた人差し指と中指で自分の淫芯と淫唇を愛撫する。彼女は大きく股を広げて、長い髪の頭をのけ反らせた。
 水上街ともいえる地帯には消防署もある。が、火事など一度もないらしく、男女の消防署員が梯子車の高い梯子の上でセックスしていた。男が後ろから女の消防署員の捲り上がったスカートの中の降ろされたショーツの上から極太な欲棒を挿入し、制服の上から女子消防署員の乳房を揉みまくっていた。
愛空美壺はクルーズ船の窓をボタンで押して開けると、涼しいそよ風が彼女の黒髪を優しく撫でた。女子消防署員の大きな快感の声が、窓を閉めていた時よりもハッキリと美壺には聴こえた。

 結局、ブルネイには上陸せずにクルーズ船は先に向かった。栄部伊社長の話では日本の本社に急用が出来たらしい。ブルネイの東にあるパプアニューギニアの南の海上を進むと、南の先の海上にオーストラリアが見えた。
更に東へ進むと、ソロモン諸島を抜けてから、北西に進路を変えた。
栄部伊社長の声が、
「鹿児島の桜島が見えるよー。」
と、みんなの部屋に告げた。なるほど窓の外には白い煙を上げている島が見える。が、それは数分の事。クルーズ船は全速力に近い速度で九州の西側の海を北上し始めた。
 やがて長崎の海を通過して、佐賀県の唐津辺りにクルーズ船は辿り着くと速度を落として、ゆったりと航行を始めた。
だが、しかし、ここは地球の日本ではなく、他の惑星の陽本なのだ。流太郎は船室のマイクで栄部伊社長に質問した。
「今は唐津の海上と思いますけど、地名は、それでいいんですか。」
船室のスピーカーが栄部伊社長の返答を伝える。
「そうだよ。地名はね、陽本は地球の日本と全く同じなんだ。」
「この惑星の名前は、一体、なんというんですか。」
「ああ、やはり陽本語では地球で、いいんだ。」
「でも別の惑星でしょ。」
「そうだね。何万光年は離れている。我々の科学でも地球には行けないね。だけど竜宮王国のUFOに乗せてもらって、私も地球の日本に行った事は、ある。」
流太郎は、その話しに驚き、
「で、どうでした、日本は。」
「あー、AVの卑下は続いているようだね。それはオマンコ行為主体の製作にも原因は、あるだろう。陽本のAVはオマンコ一本鎗では、ないから陽本の基幹産業にも為りえたのだよ。」
そういうものだろう、と流太郎は思った。栄部伊社長は続けて、
「陽本のAVの映像テクニックは、普通の映像より遥か雲の上まで違いがある。100K映像も間近さ。」
うーん、うなるような映像だ、と流太郎は思う。
「その100K映像も我がAVパラダイスの映像技術部で開発したものだ。なお、次は101k映像を開発中なんだ。」
と得意げに話す栄部伊社長である。

 クルーズ船は博多港に到着した。陽本の地名は地球の日本と、ほぼ同じだ。ただ地名は同じでも外観は全く違う。それに陽本の博多湾には空に浮かぶ島の愛高島が、ない。
豪華クルーズ客船を降りた四人は、港に隣接したコンビニに入った。栄部伊社長は先導してコンビニの成人向けコーナーに三人を連れて行く。そこを見ると社長は、
「あったぞ。我が社の最新作が。」と言いつつ指で示した所は、地球のDVDを十六分の一位にしたサイズの大きさが棚に並んでいた。流太郎は、
「随分小さいですね。DVDも、ここまで小さいとスマホでも見れそうな気がします。」
と意見を云うと栄部伊社長は、
「そうだ、その通り。これはスマホで見れるDVDだ。だから、これを装填できるタイプのスマホが今、陽本で売れている。そのスマホも我がAVパラダイスSUで作っている。SUはセックス・ユーティリティーの略ではあるけれど、陽本の携帯業界ではナンバーワンとなった。それもSUが我が社の子会社になり、AVを年齢制限なしに誰でも見れるようにしたのが発展の原因だった。
それにSUは元々、スーパー・ユーティリティーという社名の略語だったけど、我が社の子会社になってからはセックス・ユーティリティーを社名にしている。」
流太郎は、
「未成年には、いいんでしょうかねえ、その社名。」
と聞いてみると、社長は、
「ああ、大丈夫だ。政治屋を抱きこんで国会で法案を通させてある。それに陽本は無修正は当たり前。地球の日本から来た君には説明しておかないとね。」
ニヤリと、そこで笑った栄部伊社長である。社長は手に出来る限りのミニDVDを持ち、レジに立っている若い女性アンドロイドに手渡したのだ。
陽本のコンビニ店員は、すべてアンドロイドらしい。コンビニを出てタクシーに乗った四人だが、流太郎は、さっき見た光景から起こる疑問を口にする。タクシーの助手席に座っている栄部伊社長に、
「コンビニの店員もアンドロイドだったですね。手の動きも器用なモノでした。社長に包装されたDVDを手渡して、「ありがとうございました。」と、お礼を言いつつ見せた笑顔も、並の僕らの日本女性よりは綺麗だったです。ところで、それなら失業者が増えませんか。陽本では?」
博多港からタクシーは東区に向かっているようだ。栄部伊社長は、
「ああ、その点は地球人の君には気になるね。でも、地球だって農耕に従事していた人達が他の産業に移行したように、わが陽本でもだね。そのような産業への移行が、行われた。何処に移ったと思う?時君。」
「あ、ええ。分かりません、今のところ。」
「AV産業に移行したんだ。お陰でAV女優にも男優にも不足はないどころか、陽本の最高学府に入学するより難関な競争倍率になっている位だ。というのもね、陽本で最も初任給の高い産業はAV制作会社で、具体的な社名を上げるとAVパラダイス社の初任給が陽本では一番高い。
それでね、大学生が就きたい職業の一番にAV制作会社とはアンケートには答えていないけど、大卒の応募者を他の業界と比べると、やはりAV制作会社が一番多いんだよ。だからアンケートには、嘘をついているわけだ。陽本経済新聞のアンケートだったけどね。陽経と略して呼ばれているけどね。もちろん紙で発行は、されていないよ。全部デジタルで、のみだ。陽本の経済は陽経新聞で分かるけど、記者の中にはアンドロイドも、いるらしい。」
そうなのか、と流太郎は思った。で、その感想を伝える。
「それで日本の輸出の基幹産業にAVは、なったわけですね。」
「それだけでは、ないと思うが、まあコンビニにも仕事が無くなった女子大生とかが、よく応募してくれるしね。それから家庭教師もアンドロイドを雇う家庭もあるから、大学生のアルバイトも減っているからね。・・・。」

 家庭教師はアンドロイド
 陽本ではロボット産業は家庭教師用アンドロイドを開発した。広い邸宅の場合、買い取って自宅に置いておいてもいいが、その場合、一括払いとなり、高額な価格となる。
大抵の場合、宅配形式の家庭教師アンドロイドの配達と回収が多くの家庭で希望されている。
これら家庭教師アンドロイドは下半身は、彫刻の胸像の下の部分が台になっているように、腕も足もないタイプのモノだった。それを宅配し、二時間後とか三時間後に回収する軽トラックが走り回っている。そうした中でAVパラダイス社は何と、手足のついた、しかも歩ける、手も動かせる家庭教師アンドロイドを開発、販売したのだ。
女性版は家庭教師・ミス・スタディと名付けられたが、ラブドールを身体としている。で、まだ長距離を歩いたりする事は出来ないので宅配形式で運ばれているが、家庭内では歩ける力を持っている。AVパラダイス社としては、その家庭教師アンドロイドが長時間持つように原子力発電タイプを開発中だ。ともあれ、ミス・スタディの体は洋服を着ていても魅力的だ。歩く時はプルン、プルンと大きな尻を左右に振って歩くし、乳房も揺らせている。目は大きく睫毛も長い。
 茨山家では二浪して二十歳になっても受験勉強をしている長男の針摺(はりす)のために、家庭教師アンドロイド、ミス・スタディを頼んだ。
 夜の七時、夕食を食べ終えた茨山針摺は受験勉強に取り掛かろうとしていた。その時、部屋のドアがノックされる。針摺の部屋は六畳で空中浮揚した机と同じく、空中に浮揚した薄型のベッドがある。これらは永久反重力装置によって、永久に宙に浮いたままなのである。
これらの反重力製品は陽本でも一般普及しているわけではない。超金持ち層だけが持っている贅沢品である。ドアのノックの音は柔らかなものだった。それに対して針摺は、
「はい。なんですか?開けていいよ。」
と答えた。
木星の扉が開くと、そこにはモデル並みの美女がスラリと立っているではないか、しかもミニスカートに薄い上着で。その上着の薄さは彼女の、ふっくらとした形の良い乳房を浮き上がらせ乳首まで見えるほどだ。彼女が何も言わないので針摺は、
「どちら様ですか。お初に、お目にかかりますが。」
と椅子に座ったまま、聞いた。彼女は紅の唇を開くと、
「今日から私、貴方の家庭教師になったミス・スタディと言います、よろしくね。」
ミス・スタディは右目でウインクした。針摺は、(なんだ、家庭教師だったのか)と思うと、
「ぼく、数学が苦手なんです。よろしく、お願いします。」
と不得意教科を打ち明けた。ミス・スタディは部屋に入り、ドアを閉めると針摺に近づき、
「私、得意なのは数学だわ。国語は苦手かな。」
「外人だから陽本語は苦手なのですか。」
「いえ、そういう訳ではないわ。ミス・スタディっていうのは通称名。名壷(なこ)って研究所の人が名付けてくれたけど。」
「研究所で働いているんですか。名壷さん。」
「そうね。それより勉強、始めようか。」
「はい、お願いします。」
陽本では高校の教科書も電子書籍である。実は、この電子書籍のリーダーもAVパラダイスの子会社が製作している。社名は「陽本電子書籍ツール株式会社」では、あるが。それをタップして机の上に開いた針摺の背中に覆いかぶさるようにして名壷は豊満な若い体を近づけた。針摺の鼻は彼女の甘い香りを嗅ぎ取った。名壷の右手は針摺の股間に伸びていた。
そこは硬く張り上がったズボンがあり、彼女の右手は、その伸び切ったモノを感じて、
「キミ、元気よく立ってるわよ。ここ。」
と針摺の勃起した筒をズボンの上から軽く握った。針摺は慌てて、
「すみません。名壷先生の匂いと、あっ、それから、おっぱいと乳首が背中に当たってます。」
「うふ。可愛いわね。これじゃ勉強できないわよね。私とセックスしましょ。そうすれば頭もスッキリして、勉強できるわよ。」
名壷は自分から服を脱ぎ始めた。案の定石通り、彼女はノーブラ、ノーショーツだったのだ。肌はミルクのように白く、形のいい乳房は乳首が上向きに尖っていた。腰の上のクビレも彼女の尻の大きさを目立たせる。密生している股間の陰毛は、ところどころ縮れていて、黒いそれは、でもその下の彼女のピンクの縦の女唇を隠してはいなかった。男の亀頭を咥えたくて待っているような、その形は二十歳の受験生、茨山針摺の男の伸縮棒を最大限に伸長させたのだ。
その美裸体を露わに針摺に正面から見せながら、驚くほどの素早さで針摺の衣服と下着を脱がせた。
それから名壷は机に向かって座っている全裸で勃起している針摺に跨ると、自分の右手で彼の膨れ上がった亀頭と硬度を最大限に持つ肉竿を右手で握ると、自分の愛欲の洞窟に沈めて行った。
名壷は深く針摺の剛棒に貫かれ、
「あふん、いいっ、すごーい。」
と叫ぶと、首を斜めに傾け、両手を彼の両肩に掛けて、桃色のスイカのような尻を振り始めた。
針摺は強く柔らかく締め付ける名壷先生の女窟を男の中心棒で感じると、もう堪らなくなり、
「いきます、名壷先生っ。」
と叫ぶと、大量に美女家庭教師の愛欲の洞窟に自分の授精可能液を放出した。
それでダラリと力を失った針摺のモノだったが、名壷の滑るような膣壁に緩急自在に締められると、又、勢いづいて硬直させてしまった。

 四人を乗せたタクシーは東区のアイランドシティに入った。流太郎の知る限り、ここは地球の日本の福岡市東区の人口島、アイランドシティと本当に良く似ている。とはいえ、何処か少しの違いは、ある。
それは福岡市のアイランドシティは企業のビルは少なくて、住宅としてのマンションが多い。ここは、その逆で企業のビルが、ほとんどのようだ。それで看板が多く目につく。それに独創的なビルが多い。Uの逆の形のビル。Ωオメガの字に近い形のビルも見えた。
高層ビルは百階は、ありそうだ。もしかするとAVパラダイスの本社も、ここにあるのでは???と想起する流太郎。栄部伊社長に、
「AVパラダイスの本社は、この人口島にあるんですか?」
と訊くと、
「その通りだ。もちろん最初は君達の星の日本と同じように、AV制作会社は包京にあった。君達の星の東京だね。まあ包京と書くと包茎とも読めるけどね。だもんで、包茎では、いかん皮の向けた亀頭を持とう、という事で、ではないと思うが、うちの親父が福丘市で創業したのがAVパラダイスなんだ。おっ、着いたよ。本社にな。」
タクシーは百階建てのビル、壁面はマジックミラーのような外壁のビルの前に停まった。栄部伊社長を先頭に四人は本社ビルに入る。一階総合受付には総合案内のコーナーがあり、若い女性が全裸で座っていた。でも、彼女はアンドロイドだ。
流太郎は、それは目で見て分かったのだ。栄部伊社長は流太郎の視線を追うと、
「あまり高度な女性アンドロイドを置くと、受付には置けないね。それで少し性能の悪い、外見もアンドロイドと分かるような女性ロボを置いている。だが、それは飽く迄、外見だ。人工知能の方は地球の人間のIQ180位は、あるかな。受付は会社の顔だからね。生身の女性を置くより安上がりになる。それは会社としての経費としては、時間をかけて取り戻すんだが、ボーナスも払わなくて、いいし。原子力エネルギーと電気の二つの動力で動いてくれる。そのうち原子力エネルギーだけにする予定だけど。エレベーターが降りて来た。乗ろうか。」
四人どころか十人は乗れそうな大きな広いエレベーターだ。それがマジックミラーの外壁に沿って上昇するので、高くなると海が見える。クジラが潮を吹いている姿が流太郎には見えた。そのクジラが海面から跳び上がったのだ。ものすごく大きな波が、その周りに起こる。流太郎は、
「イルカ並みですね。」
と感想を伝えると、羽目太郎監督は、
「イルカクジラという名前だよ。クジラにイルカのDNAを混ぜた実験的な新しい哺乳動物で、福丘湾から出ていく事はない。」
「へえ、何故ですか。」と流太郎。
「餌を定期的に福丘市で、やっているのさ。」と羽目太郎監督が単純明快な回答をした。
百階は社長室だけなのでエレベーターが開くと、すぐに社長室に入る事となる。しかし、そこは意外に小さな部屋だった。ビルのフロア全ての広さほどは、ない。その代りドアが幾つも見えるので部屋が沢山あるのだろう。
凹の字型のソファがあり、三人は、そちらに座り社長は凹の字型の前面にあるソファに座った。栄部伊社長は話し始める。
「このフロアはスタジオもあれば、ゲストルームもある。福丘市は陽本の地理的中心ではないので、泊りがけで来るAV女優、男優が泊れる場所があるよ。ドアには、それぞれの部屋の特徴を示す名称が記載されている。そのドアを入ると、そこは豪華なホテルだった、というものさ。」
流太郎と愛空美壺は、ひどく感心したようだ。社長は続けて、
「羽目太郎君も自宅に帰らず、この階にある、ここから行けるホテルに泊まり続けて仕事を時々してもらったりする。なあ、羽目君。」
社長は向き合った場所に座った羽目太郎に目線を向けた。
「そうです。どんな高級ホテルのスイートルームよりも豪華で、本当に有難いですよ、社長。」
社長は、
「いや気に入ってくれて、何よりだ。作っておいて、良かった。時君と愛空さんも泊まって行って、いい。愛空さんには宿泊費を渡すより、その方が、こちらとしても、いいしね。時君は金も持っていないだろう。地球の通貨は使えないしなあ。」
と流太郎の方を向く。流太郎は、
「アイジさんに貰ったクレジットカードは使えませんよ。もう、二度と会わないかもしれないです、アイジさんには。」
栄部伊社長はポンと強く両手を叩くと、
「時君にはウチの専属男優になってもらう。それで生活の心配というか寝る所は、あるしな。マンションに一人住まいするまでは、ここのフロアのホテルに泊まっていいから。気に入ったAV女優との交際は自由だよ、ウチはね。」
と励ますように話す。
 地球から何万光年も離れた惑星でAV男優として働くようになった流太郎。地球での社長、籾山松之助は今、どうしているだろう。サイバーモーメントの黒沢社長は?それに日本は?地球は?どうなったのだろうか。

 籾山松之助は流太郎が、いなくなってからは右腕を失ったような不便さを感じていた。そんな或る日、サイバーモーメントの黒沢社長からパソコンに電話が鳴った。大昔のスカイプに似たものだが、付属装置なしで話せるのだ。それに対応したパソコンの新製品をサイバーモーメント社で開発したというので、昨日、籾山は自分の机の上に届いた箱から開いて、そのパソコンを設置していた。
 ♪ルルル、♪ルルルとノートパソコンが通話が届いた事を知らせる。籾山は、その電話を使うためのノートパソコンのボタンを指で押した。するとパソコンの画面に黒沢社長の椅子に座った姿が映り、
「おはよう、籾山君。どうだね、我が社の開発した新しいパソコン電話は。」
「素晴らしいですよ。画像も鮮明度が違いますね。」
「その鮮明度を、もっと感じられるよ。」
と言い放った黒沢社長の姿は椅子に座ったまま、パソコンから飛び出すと籾山の目の前の空間に停止した。椅子の軸足は床に接しているので、その場に黒沢社長が座っているように見える。籾山は(立体映像だろう。初めて見た。)と思い、
「いや、驚きました。ノートパソコンから社長が飛び出てくるとは。」
「パソコンの画面から映像を投射できる。私の体を触ってご覧。映像だと分かるよ。」
籾山は椅子から立ち上がり、黒沢社長に近づくと、その胴体に触れてみたが籾山の手は、そこを潜り抜けた。籾山の手は奇術のように黒沢社長の腹の中に入っている。籾山は手を抜いた。投射された映像の黒沢社長は笑い、
「わはははは。こちらには何の感覚も感じないね。もし、痛みなどを感じたら、それこそ大変だ。社外では君だけに見れる我が社のサイトを教えよう。URLは・・・。」
黒沢はアドレスを教えた。
籾山はノートパソコンに近づくと、日本製のブラウザを立ち上げ、黒沢に教えてもらったアドレスをキーボードで打ちこむ。すると今まで見た事のないサイバーモーメントのページが出て来た。
火星旅行が出来るサングラス
という製品がある。新商品だ。サングラスをかけると、火星に行けるのだろうか。テレポーテーションするとかして。籾山は、いたく興味深そうに、その黒のサングラスを眺めて、
「火星旅行の疑似体験ですね、黒沢さん。」
と質問した。部屋の中にいる黒沢の映像は、
「そうだよ。サングラスの中に火星の風景や建物が映る。この前、火星人のパリノさんにUFOで火星に連れて行ってもらった時、撮影したものなんだ。欧米の人間は冒涜的なほど宇宙を、そして、その星について妄想的科学の世界に浸らせている。哀れな日本人は、それを愚直にも信じ込んでいる。何せキリスト教の耐えがたいまでの捏造も欧米の人々は信じているから、地球という星の外にある世界なら、どんなものでも信じるだろう。火星は砂漠でないと彼らには困るんだよ。どうしてだか、それが分かるかな、籾山君。」
「さあ?何故ですかねー。」
「アメリカの先行利益のためさ。地球の殆どの人達が火星は砂漠だけ、と思い込んでいる間にアメリカで大量に人を火星に送っては、住めるところを領土にしてしまうんだ。と考えられるね。」
「なるほど。日本が行ける時には火星は、すべてアメリカの領土とか。」
「火星人がいるから、すべては無理だけどね。その問題はパリノさんに訊いてみるのも、いいかもしれない。」
「パリノさんに電話出来るのは黒沢社長だけじゃないですか。」
「君は、まだパリノさんに電話した事は、ないのか。」
「それ専用の携帯電話を持っていませんからね。」
「じゃあ今度、パリノさんに伝えておくよ。ところでね、東京では、ひどい事になっている。」
「ほう。何がですか。」
「ダークフォースが現れたんだ。地球侵略をもくろんでいるらしい。どうも土星人らしいがね。」
黒沢社長の話は、こうだ。
 東京都知事に選ばれた中年の男性は新宿の御釜バーで長いこと働いていたミスター・ドーターという中性子。その男は丸で中性子爆弾のような破壊力を持っているという。
今や東京は日本のオカマのメッカでもある。草食系というよりオカマ系男子の増大は全国一で、男性同士の結婚も日本一の都市、いや世界一であるという。実はオカマのカップルには利点がある。それは男女のカップルには、ないものだ。どういうものかというと、男女のカップル、それは元来、普通は男女、なのだが、ホモカップルの場合、気分次第で男役と女役を逆転できるという事なのだ。
つまり昨日まで女としてのオカマが、ある日突然、男になり、男だった方が女になることが出来るという点にある。又、両方とも女で、いたい場合はレズカップルのようにもなれる。男女の逆転は、一方の男が自分の尻の穴を提供すれば、いい。そうやって首都、東京の男性同士の結婚は増えて来たのだ。
ミスター・ドーターの場合も同棲男性に対して男になったり、女になったりした経験を持つ。
ミスター・ドーター四十歳、戸籍の上では一応、男性。は都知事に就任すると同時に髭を生やし始めた。お釜バーの店の経営は人に任せたが、どこかナヨナヨとした態度や動作は残っているので、ヒゲで男らしく見せようというのだ。
 こんな彼、ミスター・ドーターは政界に打って出る気は、さらさら、なかった。或る日、新宿の店に来た、暗い顔つきの宇宙人みたいな顔の男、その男は山高帽を被り、眼を半分ほど、その帽子で隠してカウンターに座り、となりに座った店の可愛い若いオカマの尻を撫でながら、
「マスター、あんた都知事になる気は、ないかい?」
と尻山益男(しりやま・ますお)に聞いてきたのだ。尻山益男とはミスター・ドーターの本名である。店の源氏名がミスター・ドーターであったわけではなく、彼(?)は愛愛と言うのが源氏名だった。益男は肩より下まで伸ばした髪に右手を当てながら、
「ま!だって、あたし、オカマですもの。立候補したオカマなんて、いませんわ、今まで日本で。と思いますけど。うっふん。」
と自己の矜持を誇るかの返答だ。茶色の背広の上下の宇宙人みたいな背の高い山高帽の男は、
「それは昔や大昔の話だろ。今の日本は、オカマでいっぱい。だから、と言うか、特に東京は多いのさ。それで選挙に当選するというのは数の力で質ではないよ。又、良識あるインテリジェントがオカマを嫌いとは限らないさ。」
と持ち掛ける。益男は、
「そうですね。うちにも学者の先生や作家さんも来ますわ。」
「だろう?ま、作家は良識あるとは言えないかもしれないがね。世の中の常識は覆されるためにあるんだ。アメリカだって大昔、既に黒人の大統領が出ている。そんなのアメリカ開国当時や黒人を奴隷として扱っていた当時には全く考えられなかった事だ。東京都知事にオカマが当選するというのも不思議じゃあない。私達で君を応援する事に決めたんだ。そんなに応援しなくても君は都知事に当選するのは確実と、我々のコンピューターは結論を出しているのさ。」
益男は、この宇宙人みたいな山高帽の男をマジマジと見ると、
「そう・・かも、しれない・・という気がしてきたな。そういえば都内には特に隠れオカマとか隠れニューハーフ?が、いるんですって。とある某有名大学の学長さんも二刀流だとか、聞いたもの。」
「そうだろ?宮本武蔵も二刀流だけど、あっちの方も二刀流だったのでは、という話もある。伊織という養子だか弟子だかは忘れたけど、伊織の尻の穴に自分の一刀流を嵌め捲っていたらしい。」
「そうでしたかー、大昔の剣豪・武蔵。あたしも武蔵の長い竿で尻をついてもらいたいナ。」
夢見る瞳の益男に宇宙人の風貌の男は、
「まるでマスターは娘のようだから、ミスター・ドーターと呼ばせてもらうよ。」
「まあ、嬉しい。素敵なニックネームね。」
このミスター・ドーターが都知事になって、何をおこなっていったのかなどは、その場の誰もが、いや都内の誰もが想像もしなかった事であろう。
ミスター・ドーター、都知事に当選!とネットニュースの一面に載ったのは、それから数か月の後の話だ。対立候補に大差の票を着けてのトップ当選だった。
 ミスター・ドーターは東京都の条例を新しく作り、施行した。同性愛に批判的な記事を出した出版社及び、その国会議員を即日、逮捕させたのだ。東京地方検察庁で起訴された、それらの輩の面々は東京地方裁判所で有罪判決が下り、懲役三年の実刑となり起訴猶予は、なかったのである。というのも当然乍ら陪審員は、すべて同性愛者だったのだ。東京高等裁判所に再審を請求するものの、すべて却下されたのであった。こうしてミスター・ドーターの都政は始まったのである。

・・・。」投影された映像の黒沢社長は語る。
「そんなわけで東京出張の際は気を付けた方が、いい。東京都の条例は他の地方にはない魅力的なもので、いっぱいになっている。」
と皮肉で語るのだ。籾山は警戒するような表情で、
「気楽に東京の街を歩けないようですね。」
と投影されている黒沢社長の映像に答える。
「それは、そうだな。それに、だねー。尻山益男氏はニューセックス党を結成したらしい。」
「そうなんですかー。ニューセックス、ニューハーフではなくて。」
「ああ、ニューハーフなんて、もう古いんだよ。尻の穴を掘られたい時もあるけど、女のマンコも突きたい時がある。そんな人達はニューハーフではなくて、ニューセックスなんだろうなー。」
ニューセックスのオナニーはユニークなものだ。パソコンでデジタルなグラビア美女のフル・ヘアヌードを見る。完全な性転換をしていないので、彼(?)のチンコは立つ。次にパソコンの画面に、もうひとつのウインドウを立ち上げて、筋肉モリモリの男の写真画像を最大幅で見ると、自分の右手は指を揃えて尻の穴に差し入れる。
「あおっ、いい。」
その筋肉モリモリマンに犯されているところを想像するのだ。そして自分の右手の指を尻の穴に出し入れする。チンコは立てたまま。時々、左手で勃起チンコを、しごきつつ、右手は激しく尻の穴を出入りしている。

SF小説・未来の出来事10 試し読み

 わたしは答えました。
「二人位ですわ。」
羽目太郎監督は納得した顔をすると、
「ようし、それではアンドロイドを入れてくれ。」
と指示する声に、助手は走るようにしてスタジオの一つの小屋のような場所に行ったの。
小屋から出て来たのは筋肉質の男だった。ボディビルダーのような体。その彼はノッシノッシと私の居るベッドまで歩いてくると、両腕を上げてガッツポーズをしたの。その動きは、でも、何か機械的だったし、彼の目を見るとアンドロイドだと分かったわ。
 彼は私の座っているベッドに腰かけると、
「こんにちわ。ビッグロッドって、いいます。?あなたは???」
「ローネって、いいます。」
「グーテンターク。ローネ。」
「ドイツ語で言わなくても、いいわよ。日本語も勉強したの。というより日本語のDVDROMを私の頭の中に入れるだけで日本語の辞書と文法がインストールされるから。それと会話の文例も可能な限り収録されたDVDROMだから、後は私の脳内で、それを活用できるように記憶するのね。そうしたら、すぐに高度な日本語の会話も展開できるわけ。」
ビッグロッドは驚かなかった。その辺がアンドロイドらしい。顔色一つ変えない彼にローネは、
「驚かないの?ああ、あなたの脳も同じなのかしら、わたしと?」
「いえ、違いますよ。でも簡単な会話なら世界の主要な言語は話せます。」
「あなたは、それでは完璧なアンドロイドなのね。」
「ええ、そうです。私は人間では、ありません。」
ローネは全裸なのだ。ビッグロッドの股間をローネは見たが、少しの変化もない。ビッグロッドの脳内は彼女の裸体に反応していないのだ。これでは『アンドロイドはセックスの時、腰を振るのか?』というタイトルどころか、セックスに移る行動もしないではないか。
 羽目太郎監督が出てくると、
「すまないね。ビッグロッドはセイフティモードなんだ。解除するよ。」
と語ると、ビッグロッドの眉間の部分を右手の人差し指で押した。途端にビッグロッドは「おおーっ。むおーっ。」
と叫ぶとローネに、むしゃぶりつき、彼女を抱いた。みるみるビッグロッドの股間は、膨れ上がっていく。
ビッグロッドはローネに挿入したが、それから動かない。ローネとしても快感が得られないので、
「羽目太郎監督!アンドロイドは腰を振りませんよっ。」
とビッグロッドを上に迎えて抗議した。
羽目太郎監督は、
「すみません、ローネさん。ビッグロッドの尻の上にボタンがありますので、それを押してください。」
ローネが右手でビッグロッドの、その辺りを探るとボタンらしいものがあった。それを指で押すとビッグロッドは腰を前後に振り始めた・・・
と、ここまで語るとローネは流太郎に、
「それで私は絶頂を得られたけどビッグロッドは射精しないタイプの奴だったわ。」
と感想を告げた。流太郎は、
「それでAVの撮影は終わりかい?」
「いいえ、まだあるの。次に撮影したのが『セックスミラー号でイクゥ、ヨーロッパの旅』だったわ。」
「セックスミラー号って、なんだ、それ?」
「マイクロバスの大きさで、そのバスの側面にはガラスが覆ってあるのね。」
「マジックミラーのような物か?」
「それは、そうだけど、常識の逆を行くものなのよ。」
「それは?どんなもの?」
「考えたら、わかるでしょ。それはね・・・
ビッグロッドとローネを乗せたマイクロバス『セックスミラー号』はベルギーの某地方の公園に到着した。羽目太郎監督はバスを降りると、公園にいる人達に、
「セックスミラー号が到着したよー。」
とドイツ語で話した。実はベルギー語は古くから存在しないのだ。公園にいた若い男女の数十人はセックスミラー号の周りに集まった。彼らがバスの中を覗くと、ローネとビッグロッドがセックスしているのが見えた。
「わお、すごいな。中が、丸見えだ!」
「これが噂のセックスミラー号ね。日本人って、大胆。グートなAVだわ。」
と彼らはドイツ語で感想を話す。
セックスミラー号の車内では。ローネは真っ暗な中にベッドに横たわり、ビッグロッドを正常位で受け入れていた。
(外からは誰からも見られないし、安心して快感を感じられる。)
そう思うと彼女は自ら進んで、体位変更していった。
ビッグロッドの男の象徴は二時間は屹立に耐えうる。それは電力により作動しているし、メーカーはより長時間、動作するように改良を続けているというのだが・・・。
いきなりビッグロッドの男の象徴は萎えてしまい、彼もグニャリとして動かなくなった。
「どうしたの?ビッグロッド!?」
とローネは叫声的質問を声にだしたが、返答はない。ビッグロッドは見かけは大きく筋肉隆々に見えるが、体重は、そんなにないのだ。ローネは片手でビッグロッドを自分の脇に追いやり、しぼんだ彼のモノを外した。
セックスミラー号の外で監視していた羽目太郎監督は、慌てて車内に入ってきて、
「電源切れだ。車を移動させるから。服を着て。」
と説明する。
ローネが下着と上着とスカートを身に着けると、セックスミラー号は移動を始めた。羽目太郎監督は少し困惑して、
「予想外に電力を消費したようだな。実はビッグロッドにも人工知能があり、眼で見た女との性の行動については様々にプログラミングされている。よって、だが我々には、その行動は推測がつかないものなんだよ。ローネさんが美人だからビッグロッドは頑張ったんだろう。」
「まあ、そうなのかしら。お世辞がうまいわ、監督。」
「いや、人間の男性もね、美人には早く射精したいという一般的な性行動があるというからな。人工知能と言っても結局、我々人間の思考の反映なんだね。」
ローネは、そういうものかな、と思った。ベルギーの何処ででもセックスミラー号の停車は認められていない。限られている場所でだけ停車でき、裸体から性行為までを認めているという。
その場所は大体、低所得者層の住んでいる場所でセックスミラー号の停車が認められているのだ。つまり低所得者は金銭で性衝動を解決できない場合、性犯罪に走りやすいというところから、無料で見れるセックスミラー号が日本から撮影に来たのを許可したらしい。
・・・
とローネは流太郎に語った。ローネに対して流太郎は性欲を感じなかった。彼は立ち上がると、
「楽しい話だった。それだけで君は僕の役に立ったよ。さようなら。又、会える日まで、ね。」
この流太郎の言葉にローネは何らの異を唱えない。流太郎は部屋を出てフロントでアイジのクレジットカードで会計を済ませた。この国では仮想通貨は消滅しているとアイジから流太郎は聞いていた。
銀行の素早い対応が仮想通貨を絶滅に追い込んだらしい。
外へ出ると流太郎は涼しい季節なのを感じた。ここが地球を遠く離れた場所とは思えない。街路樹も地球と違いは、あまりない緑だし、通行人はヨーロッパの人に見える。もっとも、ここは名称がヨーロッポで、スイツの国なのらしい。日本は陽本(ひほん)という国名なのだそうだ。
商店街のような所に入り、パンを店先で売っているところでホットドッグをクレジットカードで買って食べた。店員は陽気なスイツの若者で白い帽子に白い服なのは地球のパン屋と似ていたが、彼はホットドッグらしいものを包んで流太郎に渡すと、
「はい、メルシーボクー。あ、地球の日本の人かな、ありがとうございます。ここのホットドッグは、この星の犬の肉も入ってるんだー。ぼく少し地球の日本語、話せるよー。」
包みを受け取った流太郎は、
「ほんと、ですか。犬の肉なんて食べれますか。」
「あー、食用に飼育された犬ならね。ほら、あそこの写真。」
と彼は店内に飾ってある写真を指で示した。そこには豚のように太ったブルドッグが写真になっていた。
 ホテルに帰るとアイジは、いた。流太郎に優しく、
「ホットドッグを食べなさいよ。わたしはインスタント・ビフテキを食べたから、いいわ。」
「インスタント・ビフテキですか?豪勢ですね。」
「地球のカップ麺と同じく安いのよ。他の惑星に別荘を買いたいから、それとダイエットを兼ねて安いものを昼は食べてるのよね。」
「ホットドッグだと、よく分かりましたね。」
「それは犬の肉の匂いがしたからよ。」
「なるほど、そうですか。鼻が良いな。それでは、いただきます。」
流太郎は包みからホットドッグを取り出して食べた。
牛肉とも豚肉とも違う味で、さすがに犬の肉は、この味かと分かる。
ソファに座ったアイジは、
「まあ、座って食べたら、いいのに。でも、何か働きに行ってもらうわよ。そうしないと、あんた、わたしのヒモになってしまうわ。」
流太郎はアイジに向かい合ったソファに腰を降ろすと、
「もちろんです。でも犬が豚みたいに太れるなんて妙ですね。」
と質問する。
「それはね、豚のDNAを犬に注入すれば、いいの。遺伝子操作は、この星では地球の比ではないから。」
「うん、そうですか、おいしい。働きに行きますよ。でも、何処へ行けば、いいんです?」
「AVパラダイスに行けば、いいわ。そこの社長、わたし知ってるの。何度か仕事も、させてもらったしね。」
流太郎は、(AVパラダイスという会社の話はアンドロイド・ラブドールのローネから聞いている。自分が、そこに働きに行くなんて。でも、いいか、それも。)
アイジのヒモになんか、なりたくない。そんな思いが彼の脳内でデモ行進していた。で、もって、
「行きます。ぼく、やります。AVDD!」
「AVDD!って何の略語?」
「AV出ます、出します、の略語です。」
「そうね、いっぱい出す事になると思うわ。ホットドッグでは精が、つかないわよ。あんたが一人前になるまでに、わたしのクレジットカードを貸してあげる。それで精のつく食べ物を食べなさいよ。」
という事になり、流太郎は昼からAVパラダイスのヨーロッポ支社に赴(おもむ)いた。受付のアンドロイドの若い女性が流太郎を見るなり、
「時さんですね。社長が、お待ちしています。エレベーターで最上階に行ってください。エレベーターは、あちらにあります。」
と右手の白い指を揃えて手のひらと共に、エレベーターの方角を示した。
 流太郎が乗ったエレベーターが開くと、社長室の扉は開いていた。流太郎が一歩、社長室に入ると、社長と羽目太郎監督が、いた。社長は目を輝かせて、
「いよう!時流太郎君だね。初めまして。うちにねー、スポンサーが、ついたんだ。インターネット動画の方でね。ヨーロッポの製薬会社、まあ、言ってみれば性薬会社というか、性の薬を作っているんだね。それ一本でヨーロッポの各国の株式市場に上場しているよ。それだけに固い会社なんだが、男のアソコを硬くするのが使命の会社さ。
AVにスポンサーが、つくなんて地球ではないだろう、え?時君。」
アイジに時の出身星まで聞かされたのだろう、社長は、と思いつつ流太郎は、
「スポンサーが、ついたのならAVは無料で動画配信される、という事ですね。」
「そうなんだよ。驚きだろ?AV生活三十年のオレだけど、こんな事が実現するなんて・・・もう、嬉しくって・・・。」
社長は顔を少し下に向けると感涙を眼に滲ませる。羽目太郎監督は、
「社長、いよいよ、これからですよ。カイザー社ですもんね、スポンサーは。」
と励ますように云うと、社長は、
「ああ。ドイツ語読みでカイゼルなんだ。地球でもドイツは、あるだろ?時君。」
流太郎は、うなずくと、
「ありますよ。地球ではヨーロッポ、いや、ヨーロッパの宗主国なんですが、ベルギーをEUの中心都市に置いて、自分達の国には置かない。ギリシアは永遠の貧困国で、それを巻き込んだユーロで通貨安を成り立たせている。これは計らずしてドイツに有利になったでしょう。」
社長は、
「そうだろうねえ。この星でもスイツ以外は、国名は地球のヨーロッパと同じでね。アフロディナ女王の指針らしいが、それは女神のような女王だから我々の自由に、させてくれる。
女王は君臨すれども統治せず、なんて地球の何処かの国に、あったよね。」
流太郎は、
「ありましたっけ?知りません、そういう事はサイバーセキュリティと関係ありませんから。」
社長は驚いて、
「サイバーセキュリティの仕事をしていたのか、地球では。」
「ええ、それが何だか分からないままに、この星に連れてこられてAV出演です。」
「なに、いいじゃないか。この国のね、いや、この星のAV男優の地位は高いよ。地球ではハリウッドスター並というかね。」
流太郎は、金玉を鷲掴みにされた気がして、
「そんなにも、すごいんですか?この星のAV男優は。」
羽目太郎監督が口を開くと、
「だって全世界配信されるんだよ、この星のAVはね。この星のハメリカは地球のアメリカだけど、かつてはハリウッドみたいな所もあったけど、衰退した自動車産業のデトロイトみたいになっている。それはAV動画に押されたんだ。」
と解説した。
社長は続けて、
「地球のハリウッドも映画を全世界に配給する事で巨万の富を得て来た。この星も似たようなものだったけど、ヨーロッポの逆襲としてAVに白羽の矢を立てたんだ。
そして遂に勝利したんだ、映画にね。陽本のAVもヨーロッポと提携して発展できた。わがAVパラダイスは陽本の最大のAVメーカーで、ヨーロッポ支社とハメリカ支社を持っている。ハメリカ支社では落ちぶれハリウッド、この星では今はハメウッドとよばれているが、そこの映画スターを高給でAVに出させている。彼らも結局のところは金だからね。
今度、カイザー社で、ドイツのね、CMではハメウッド男優のセックスシーン、もちろん演技なしにハメているところをテスト的に収録予定なんだよ。君も時君、ハメウッド男優を抜くくらいの覚悟でAVに出ないとな。」
確かに、この星にはハメリカという国があり、カナダとメキシコに挟まれている。オサンジェルスには丘があり、そこに
HAMEWOOD!
という大きな文字が並んでいるのだ。流太郎は胸を張り、
「ぼくも日本男児、ハメウッド男優を抜きたいです。」
と感慨を洩らした。社長は、
「よくぞ言った。時君、陽本の輸出産業の基幹はAVなんだよ。自動車メーカーより税金を払っているんだから。」
流太郎の目が満月になって、
「素晴らしいですね。高額納税者も、もしかして・・。」
「もしかしなくても陽本の場合、AV男優が十位以内に入る事もある。」
「えっえっ、AV女優じゃないんですか?」
「いや、この星ではね、男優の地位が向上したんだよ。古い時代の地球の日本では肉体労働者の給料は安かった。それが後には、少しマシになったという、あれと同じかなあ。AV男優のストライキがあるところもあるんだ。うちではAV男優の労働組合は、ないんだが。それは高額に出演料を払っているからだね。立ててナンボ、ハメてナンボの世界だろ?」
「そうですねー、ぼくは関西言葉は分かりますけど・・。」
「立てて、いくら、ハメて、いくらだよな?」
「そう!です。それは、それなしにはAV女優も動けませんし。」
「いいAV男優のチンコが世界を救うんだよ。いわば、オレ達は救世の仕事をしているんだ。」
「パートナーの居ない男性をですか。」
「いやいや、女性も、そうさ。裕福な女性はラブボーイを購入して、それで遊べるけど、そんな金のない女性はAVを見て楽しむんだよ。だからカイザー社もCMを出すから女性向けのAVを作れ、と要求してきている。わがAVパラダイスでは、それも製作予定にしているし、時君にも頑張って欲しい。いつの日か、ハメウッド男優を抜けるよ、その位ならスグにでも。今、世界の高額納税者はヨーロッポのAV男優も入るね。地球でもヨーロッパのサッカーが世界的人気でワールドカップをやっているようなものだな。
ヨーロッポのAV男優ってイケメンにしてイクメンなんだ。育児する男子の事じゃなくてな。・・・」
 イク時の顔を競い合う「イクメン・ワールドカップ」だのもあるらしい。というのも日本語のイク、という言葉が「フジヤマ」「ゲイシャ」以上に広まったヨーロッポでは、フランスのAV男優も絶頂時に「イク」と叫ぶのが流行らしい。
もちろん「ブッカケ」「ナカダシ」という言葉は、それなりにヨーロッポでも認識されつつあるという。
社長は講義を続ける。
「まあ、そこのソファに座って、時君。」
流太郎はピンク色の横長のソファに座った。社長と羽目太郎監督は流太郎の前に立っている。社長は、
「イケメンとイクメンでAV男優のランキングがある。イクメン男優の方が女性の投票も多いから、驚きさ。投票に際してプロフィールに年齢・性別・職業を記載の方には、わがAVパラダイスのAVの一割引きネット・クーポンをプレゼント、とかで情報が手に入るんだけどね。
イクメン男優ランキングでは、イク時の男優の顔がズラリとウェブに並ぶから、これを見るのは、おおまか女性だろうと我々は見ているけどね。」
流太郎は自分もイクメン男優ランキングに入るかな、と想像して(おいおいおい、おれは元サイバーセキュリティ対策の・・・)
社長は流太郎の顔を見て、
「ん、君が地球でやっていた仕事の男性という設定でも、いいぞ。」
と言うから流太郎は、
「はい、では、それで、お願いします。」
「おーし、それなら、そうするか。この星のスイツにもレマン湖というのがある。それに対して陽本の女性団体が「湖の名称を変更して欲しい。」と抗議したら、スイツは、どう対応したと思う、時君。」
「ヒマン湖なんて、どうですか。」
「いや、違うね。ハメマン湖に名称を変えたんだ。ワッハッハッハ。」
「ナルホド、粋な対応ですね、スイツも。」
「そうだろう?で、君の第一作目はハメマン湖で採る予定だ。」

 AVパラダイスのヨーロッポ支社はベルギーのブリュッセルにある。ブリュッセルはヨーロッポの首都的存在だ。ベルギーからスイツまでは493キロ程だから、地球の東京と福岡は1000キロ程なので、約半分。とすると、その中間の大阪辺りが500キロ。スイツへの旅は、その程度の距離なのだ。
 ハメマン湖はスイツとフランスの国境にあり、スイツでは湖として最大である。Lac leman が、Lac hamemanとなったのである。陽本の観光客も多く行く。現地で手に入れられる観光パンフレットにはLac hamemanと印刷されている。
現地でタクシーの運転手に、
“Wo Lac hameman?”(日本語での発音としては、ヴォー、ラック、ハメマン?日本語の意味は「ハメマン湖は何処ですか。」)と訊くと、
「ja(ヤー、意味は、はい。)」
と答えて連れて行ってもらえる。ドイツ語ではjaがヤーなので、japanはヤーパン、なのだ。
 ハメマン湖近くの駅で降りた流太郎、AVパラダイス社長、羽目太郎監督はタクシーに乗った。車中で社長は、
「あの列車に載っていた時に思いついたのが、『世界の射精から』というタイトルなんだねー。スポンサーがカイザーだけにヨーロッポロケは簡単さ。列車で旅しつつ、ヨーロッポの美しい風景を映し、列車の便所内でAV男優に女優と絡んで射精してもらうという企画。どうだね、羽目太郎監督。」
羽目太郎監督は両手をポンと叩いて、
「いいじゃないですかー、社長。カイザーがくれる予算は凄いんでしょ?」
「軽音楽を流して『世界の射精から』提供はカイザーです、とやろう、な?時君、どうかね、あん?」
流太郎はハメマン湖に近づく美しすぎる景色に見とれていたが、
「ぼくが絡むんですか、社長。」
「すべてに出なくても、いい。お、ハメマン湖が見えて来たぞー。」
豪華なクルーズ船も湖上に見える。又、湖上に古城らしき建物があるのもハメマン湖の特色だろう。クルーズ船でフランスに行ってもシェンゲン加盟国のため、国境審査はない。
 シェンゲン協定による加盟国は
アイスランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スイツ、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、
である。
地球のヨーロッパでは、この星のスイツがスイスであるだけで、地球のスイスはレマン湖という湖はある。今のところ、日本の女性団体による湖の呼称についての抗議は、行われていない。
つまり、この星の陽本の女性は日本女性と少し違い、行動力があるという事だろう。
シェンゲン協定により三人は、ベルギーからスイツまでパスポートを見せずに辿り着いたのだ。
上記のシェンゲン加盟国はスイツをスイスに変えれば、ヨーロッパ旅行にも役立つだろう。ビルドゥング(教養・ドイツ語)な展開もあるので期待されたし。

 社長以外の二人の目にもハメマン湖は見えた。タクシーを降りると社長は歩きながら、
「クルーズ内でロケの予定だよ。時君の初仕事だ。」
と語りかけた。
流太郎は緊張して、
「はい、精いっぱい頑張ります。」
と歩きながら答えた。
 湖畔に巨大な船が停泊していた。豪華クルーズ客船だ。快晴の空の下、船体は黒一色。流太郎は、(この船の中で仕事をするのか。楽しそうだ。)と思いつつ、社長と羽目太郎監督の後を歩いて、そのクルーズ船に乗る。
湖の周りを見渡すと、白い雪化粧のヨーロッポ一の山、モンブラン(因みにドイツの高級ボールペン、モンブランは、この山の名前から名付けられている。)が、その姿を見せていた。ただ、ここはヨーロッポなので、地球のドイツのボールペンメーカーは地球のヨーロッパのモンブランから、名前をつけたので、この星のモンブランではない、というのは書くまでもない事だが。
湖畔には古城が湖上から見えた。この星は地球のパラレルワールドともいえるのだが、SF的パラレルワールドは概念のものとしての世界にとどまる筈だ。全く同じ人や物が別の世界にある、という詭弁的世界など存在しないだろう。
この星は地球と全く同じではない。それでヨーロッポのハメマン湖なのだ。
地球のレマン湖が観光地であるように、この星のハメマン湖も観光地らしい。ただ地球と違うのは空飛ぶ自家用車が湖上の空高く飛んでいる風景だ。十台ほどだろうか。
それは湖の景観保護のため、一時間に飛べる自家用車は台数が限られているのだ。
ハメマン湖の周辺には観光ホテルが立ち並んでいる。駐車場の広いレストランもある。ラブホテルらしきものも散見された。高級ホテルだろうと思われる外観の最上階はバルコニー付きで、スロップシンクつきという念の入りようだ。スロップシンクとは汚水を流すためのものだ。その最上階はスイートルームらしく、キッチンにはディスポーザーも設置されている。ディスポーザーとは生ごみを流しても、下にある部分で分解されて下水処理される。スロップシンクやディスポーザーは2018年頃にも日本にあった。
なのであるからして、この星の高級ホテルにあるのは当たり前で、もっと凄い設備も当然、ある。
が、それは後述される機会も、あるだろう。クルーズ船の甲板で景色を舐め回すように見ている流太郎に、社長は、
「もっと、よく見たいだろう。これで、見てみたまえ。」
とオペラグラスのようなものを手渡してくれた。
そこで流太郎は陽本製のオペラグラスで再度、湖畔の風景を眺望すると、
さっきの高級ホテルの最上階のバルコニーで全裸の白人らしい男女が立ってセックスしていた。若い女がバルコニーの手すりに両手を揃えて、つかまり後ろに高く豊満な尻を突き出している。でっぷりと太った資産家らしい禿げ頭の五十代の男性が愛人らしい、その若い美女の尻をムンズと掴み、腰を振っている。それに合わせて動く若い美女の尻、黒髪。白い乳房も揺れている。
流太郎はオペラグラスの位置を変えてみた。自分で、グルリと回転してみたのだ。すると又しても、高級ホテルの最上階で全裸の男女のセックス。体位は前のカップルと同じだが、男女は逆転して、五十代の資産家らしい女性と、若い男との立ちバックである。これも白人男女で、若い男は金髪で痩せているが筋肉質の甘い顔をした色男。資産家の女性は長い黒髪を振り乱して、五十路とは思えない乳房を後ろから若い男に掴まれて、乱れた尻を振りまくる。
オペラグラスは精度が良く、若い男の肉棒が抜き差しされるのさえ流太郎には見えたのだ。
 社長は流太郎のの顔色を見ると微笑み、
「それは今までの機能で地球にもあるよね。オペラグラスの横にある赤色のボタンを押してごらん。」
と誘うように促した。
流太郎は目からオペラグラスを外すと、オペラグラスの右側に赤いボタンがあるのに気づき、それを押した。社長が、
「よし、それでいい。又、見てみなさいよ、オペラグラスで。」
流太郎が再び目に当ててオペラグラスを見る。立ち位置を変えたため、最初の資産家の男と若い美女のセックスが見えた。彼らは、まだ性交を続けていた。だが、しかし・・・
流太郎の脳内は先ほどとは全く違った反応が起きたのだ。それは感情移入というより、もっと激しい、まるで自分が若い美女を突きまくっているような感覚を自分の脳とペニスに感じたのだ。しかも自分の男性器は、まだ屹立していないのにも拘わらず、雄々しく勃起した感覚で若い美女の肉の洞窟を貫いている、そして突きまくっている、その快美感まで伝わってくのだ。
これはバーチャルリアリティを超越したものなのだ!
資産家は頑張りすぎて息をゼイゼイ、言わせているが、それまで流太郎の呼吸器官には同じ感覚を覚えさせる。
(なんだ?これは!これでは自分が、あの太った金持ちと一体になったのと同じだ!)
やがて資産家は中出して射精した。その感覚も流太郎は味わう。ゴムなしのセックスだったのだ。愛人が孕んでも、ゆとりのある男なのだろう。やがて資産家が、しぼんだチンコを抜き取るところまで流太郎は感じていた。
部屋に二人は全裸のまま戻っていった。その時、流太郎は資産家の精神的、肉体的状態とは縁が切れたのだった。
オペラグラスを眼から外すと流太郎は、
「すごい機能ですね。まるで自分が、あの太った男になってしまったのを感じましたよ。」
と感想を述べると、社長は、
「驚いただろう。そろそろ甲板の下に行こう。ロケが待っている。撮りを押し始めようかな。」
 船上の甲板から広い階段を降りていくと、社交場のような場所があった。が、まだ誰もいない。驚くべきものは社交場の部屋の窓が大きい事で、部屋の床から天井までがガラス張りなのである。この豪華クルーズ客船は、黒い外見だが、それは何と全てマジックミラーだったのだ。
社交場を通りながら流太郎は、部屋いっぱいの壁の窓を右に見て、湖の中が見えるのに驚いた。先を行く社長は立ち止まり流太郎を振り返ると、
「自己紹介をしていなかったね。私は栄部伊・売雄(えいぶい・うるお)という。本名だよ。」
と話すとニカと白い歯を見せた。先を歩きつつ栄部伊社長は、
「珍しい名前だと思うだろうが、時君。栄部伊と言う姓は代々、続いている。私の父親がAVファンだったのでね、それでAVを売る人間になって欲しかったのさ。
父の部屋には数万のAVの地球で謂うDVDみたいなものがあった。十八歳になって大学に入った私は、家に帰ると父の部屋から、その膨大なavdvdを借りて自分の部屋で見ていたんだよ。勿論、それ程のコレクターだから、父は、あるav制作会社の専務だった。社長より暇を持たせてもらっていたらしい。大学では私はAV学部のAV学科で、AV学博士号を取得したよ。二十八歳だった。勿論、論文も出版した。「陽本の基幹産業であるAV業界の今後の発展の基盤となる重要な社会的要因と、その変化に対応した撮影手法の多様化についての段階的方法論」
という少し、ややこしいかもしれないけどね。」
廊下の片側は床から天井までガラス張りだ。廊下のカーペットの色は真紅で、ガラス越しに見える湖の中は地球の十倍の大きさの鯉が泳いでいるのが見える。
流太郎は、それを左目で見つつ、栄部伊社長の学歴に驚嘆したのだ。
撮影場所らしい部屋のドアを開けると、そこには人妻らしき女性がソファに座っていた。部屋の広さは狭く、四畳半しかない。栄部伊社長は、
「こちらは梅村性子さん、仮名だけどね。性子さん、地球の日本から来た時流太郎君だよ。」
しっとりとした人妻の性子は立ち上がると、
「初めまして、時さん。」
と話しかけて微笑む。流太郎も、
「初めまして、性子さん。あ、いきなり名前を呼んでしまって。でも、仮名だから、いいでしょ?」
「もちろん、いいわよ。わたし二十五歳なの。歳は誤魔化さないわ。」
流太郎は性子の美乳らしき胸の盛り上がりを見下ろしてしまった。彼女は背は中くらいで、ミニスカートを履いていたのだ。人妻にして人妻らしからぬ雰囲気は、ある。そうでなければAVには出ないだろう。
羽目太郎監督が進み出るとインタビューする。
「奥さんは御主人と、どのくらいセックスレスなんですか?」
「一年くらいかしら。主人は一流企業の部長を勤めています。まだ四十歳ですけどね。」
「ははあ、それでは豊かな暮らしが出来ますね。それにしても四十歳位の男性が奥さんみたいな、お綺麗な人と性交渉がないなんて、本当ですか。」
「本当です。主人は浮気しているんですよ。探偵を雇って調べたんですよ。ラブホテルに入っていくところ、出ていくところを撮影しています、探偵は。」
「それで当社に応募されたんですね。有り難い。」
「ええ。ネットから応募しました。一流企業の会社の部長の妻ですもの。最大手の貴社でなきゃ、いやなんです。」
「ありがとうございます。さっそくですが、奥さん。脱いでもらえますか。」
「ええ、承知しました。」
上品なる若い奥さんは、その場でスグ、全裸になった。一年も夫と性交渉していない、その体は二十五歳の女の色香を発散している。
流太郎としては戸惑いもある。栄部伊社長は四畳半の部屋の窓のカーテンを開けた。四畳半にしては、かなり広い窓だ。湖の中は純粋に透明とはいえない。その中を淡水魚が泳いでいる。
地球のレマン湖の湖岸にはヨーロッパ最大の淡水魚水族館があるが、ここはハメマン湖で、湖岸に水族館はない。その代り、この星の世界の淡水魚を集めてハメマン湖に入れているという。それで種々雑多な淡水魚が見られる。

SF小説・未来の出来事9 試し読み

 静枝はカリスキ氏の舌が自分の唇の中に侵入してきたのを感じると、ウム、ウグと声を洩らしつつ、自分の舌をカリスキ氏の舌に絡め合うのだ。カリスキ氏も又、静枝の舌の感触を自分の舌で味わっている。この聴診器のような部分の内部は人間の皮膚に驚くべく程、似ている。謂わば驚似(きょうじ)とでも表現できる、今までの日本語にはない形容詞が現出する。なにゆえ、驚似という日本語がなかったかというと、驚くほど似ているものが存在していなかったという事だろう。この聴診器様の機器の内部は、それに接したものと同化するという特性を持っている。それでカリスキ氏が舌を当てている部分はカリスキ氏の舌と同化しているのである。その感触を聴診器様の部分から先に出ている紐状のもので、静枝の唇に当てられている聴診器様の内部に転送されている。つまり静枝はカリスキ氏の舌を味わう事になる。のみならず静枝はVR(バーチャルリアリティ)の感覚でカリスキ氏の舌が自分の唇の中に入って来た感覚を味わうのだ。なんと驚くべき機械ではないか。
 次にカリスキ氏は静枝の口に当てたものを彼女の陰部に移動して当てた。自分の聴診器のようなものは口に当てたままで。途端に静枝は自分の女性器がカリスキ氏の舌で舐められているのを感じて、
「ああっ、そんなとこを・・・。カリスキさん、でも、気持ちいい。」
と声を洩らした。
驚くべき事だがカリスキ氏の口に当てている聴診器様の内部は静枝の女性器の皮膚感覚へと変質している。それによってカリスキ氏も直接、静枝のオマンコを舐めている感覚を覚え、自分の股間の屹立したものを益々、硬くしてしまう。遂にカリスキ氏は、
「もう、たまらん!堪えきれない。いくぞー。」
と叫ぶと、自分の口に当てている聴診器様のものを自分の股間に当てた。両手が塞がっているのでカリスキ氏は流太郎に、
「時さん、僕のズボンのファスナーを降ろしてくれ。」
と懇望した。流太郎は急いでカリスキ氏のズボンのチャックを下に降ろす。カリスキ氏は、
「パンツから僕のモノを抜き出してくれよ。」
と再び、懇望するから流太郎は素早くカリスキ氏の棍棒のような物を懇望されるがままに、パンツの外へ出す。カリの太いカリスキ氏の棍棒の先端、つまり亀頭部分に氏は聴診器様の内部に当てた。静枝は、
「ああんっ、入ってきてるわっ、カリスキさんの太いものがっ。」
と頭をのけ反らせつつ、乱れて叫ぶ。
カリスキ氏は腰を前後に振り出すと、静枝は「ああんっ、ああんっ、いくぅー。」
と泣くような声を出す。バーチャルリアリティーとして静枝は自分のオマンコの中にカリスキ氏の極太いモノが出入りしているのを実感した。実際的には二人の間は五十センチは離れているだろう。勿論、二人の性器は直接結合しているのではない。聴診器様の内部は空洞であるが、その部分がカリスキ氏に接している部分が静枝のオマンコに、静枝がオマンコに当てられている聴診器様の内部はカリスキ氏の亀頭や肉の竿に変質している。これが竜宮王国が緑星に提供した機器の最先端な性科学用品らしい。竜宮王国の機器は、もっと、これより先を行くものではあろう。が閑話休題(それは、さておき)カリスキ氏と白花静枝は本当に性交しているように顔を上気させ、二人共、尻を振っている。二人の目は虚ろになり、静枝は赤い彼女の舌を唇から出した。その時、カリスキ氏は、
「もう、限界だ。玄界灘にいなくても、限界・・・でるうっ。」
と叫ぶと、聴診器様の内部にドクッ、ドピュウウッと白い精液を大量に射精した。静枝は長い黒髪の頭を、後ろに反らせるだけ反らすと、「はあうんっ、いいいわぁっ。」
とカリスキ氏の射精を本当に受け止めたかのように感じていた。現実にといえば、カリスキ氏の精液が聴診器様の内部から紐を通して静枝のオマンコに当てられた聴診器様の内部に転送される事はなく、ただ、その液体の感覚を静枝のマンコに伝えるだけでは、あるのだが。この辺も、その機器の地球から見れば最先端と思えるもので、液体が身体にかかる感覚を再現させるという、すぐれた代物だ。軽い電子ビームのようなものが聴診器様の内部に出てくる。それが射精された感覚と同じものとなるのだから、驚きだろう。
更に驚きなのは、こういう思わぬ射精の場面を想定されて作られているのか、カリスキ氏の射精された精液は除湿機能で綺麗に消えていた。それにより聴診器様の内部をティッシュで清掃する必要は微塵もないという便利さだ。カリスキ氏は、まだ快感の余韻に浸っている静枝に自分の聴診器様の内部を見せて、
「大丈夫、安心していい。僕の精液は君のオマンコの中に放出されてはいないから。」
と解説した。静枝は閉じていた両眼を開けると、
「なんだ、バーチャルリアリティーだったんですね。でも本当にセックスしているみたいだったわ。カリスキさんって、とってもテクニシャン。腰の降り方がうまいんですもの。わたし、何回も星の彼方にイキました。」
と告白した。カリスキ氏もパンツを自分のモノにかぶせて、静枝にショーツの端から滑り込ませて当てていた聴診器様のものを取り出すと、
「僕も何度もイキそうなのを堪(こらえ)えたよ。本当に君のオマンコに入れている気分だった。」
と打ち明けると、後ろを向き、流太郎と籾山田を散見した。籾山田の顔は半ば呆然、半ばは驚きの表情だった。流太郎の顔は唖然としていた。籾山田は、
「挿入せずに白花君を絶頂に導いたのには驚いたよ。実は私の女房とは私は、夜の営みが随分と御無沙汰なんだ。カリスキさん、よかったら私の女房とも、してくれないか?その聴診器のようなもので。」
と流太郎には驚きの提案をした。カリスキ氏は聴診器様のものをズボンのポケットにしまうと、
「福丘市の職員として、それは出来ない相談です。でも、困っている市民を助けるのも我々の役目。奥さんを抱けるのなら、いただきます。」
と眉毛一つ動かさずに返答した。籾山田は満足げに、
「それは、よかった。私も自分の女房が自分以外の男に抱かれるのを見たかったんだ。それではね、女房の居る部屋に案内する。」
と話すと、長い廊下を歩きだす。方向としては、牧場へ向かう向きとは正反対の向きに。一番奥の部屋のドアを籾山田が開けると、三人は籾山田を先頭に中へ入る。高級ホテルのスイートルームのような部屋だった。窓際のデスクに一人の女性がパソコンに向かっていたが、籾山田達が入ってくると顔を三人に向けて、
「あら、いらっしゃい。あなた、この方たちは?御客さんなの?」
と人妻に見えない初々しさのある美人顔で問いかける。籾山は、
「ああ、そうさ。それもね、おまえには、いい人になりそうなんだよ。」
睫毛の長い籾山の妻は、その睫毛をパチパチと動かすと立ち上がり、
「こんにちわ。ようこそ、おこの島牧場へ。」
と両手を自分の股間に当てて挨拶した。真っ白な肌で両方の瞳は緑色、紛れもない緑本人だ。西洋梨のように下半身が、ふくらんでいるが彼女の首筋は細く、髪の毛は茶色だ。籾山田は妻に歩み寄ると、
「紹介するよ。私の妻で、美秋子(びあきこ)という名前だ。旧姓は春野田(はるのだ)だけど、それは、どうでもいい事だったかな。美秋子、あちらの紳士の右側がカリスキさんだ。」
カリスキ氏は右手で自分の前髪を撫でつけると、
「初めまして、奥さん。カリスキです。」
と自己紹介する。カリスキ氏は、こっそりと口の中で生唾を飲み込んだ。超絶的な美人だ!まるで冷凍睡眠から目覚めたような籾山田の妻、若妻の美秋子。人妻には見えないから倫理的な問題意識もない。中年の籾山田に対して妻の美秋子は二十代半ばか前半に見える。美秋子の服装は上下とも白で、下着も恐らく白色だろう。美秋子はカリスキ氏に微笑むと、
「初めまして。カリスキさん。ここは私の私室でダブルベッドも、あそこにありますわ。」
と部屋の隅を美秋子は白い指で示した。そこには白のベッドカバーが掛けられた柔らかそうなダブルベッドがある。カリスキ氏は咄嗟に(あのベッドで、この美人を抱ける。)と思うと、又、口中に湧いた生唾を飲み込む。
流太郎は別の視点から春野田美秋子を見ていた。籾山田が地球では株式会社夢春の社長の籾山に、そっくりなのと、その妻の美秋子は地球の籾山の妻の美秋に梨二つなほど似ている。西洋梨のような、その姿態もだ。地球の籾山の妻の旧姓は確か、春野だっただろう。こういうのをパラレルワールドと、いえそうだ。美秋子は流太郎を見ると、
「あら、仕事の方は、いいの?時田君。」
と問いかけた。流太郎は、
「は?私は、こちらで仕事は、していませんが。」
「あら、ごめんなさい。うちの従業員の時田に、貴方がそっくりなものですから、ねえ、松助さん。」
と自分の旦那の方を顧みる。籾山田松助は、
「時田は牧場で働いているよ。この人は時さんといって、地球から来たんだ。」
「あら、そうだったの。そういえば目も黒ね。いえ、時田の目も黒いんです。地球からじゃ、なかったわよね?時田は。」
籾山田松助は、それに答えて、
「地球じゃなかったよ、時田は。それよりカリスキさんとセックスしたくないか?美秋子。」
美秋子は恥ずかし気に、
「いやーね、あなた。時さんも、いるし、ね?時さん。」
と言いつつ流太郎を見る。流太郎は、
「それは構いません。奥さんさえ、よろしければ僕は、ここで見させてもらいます。」
旦那の松助は、
「美秋子。時さんも、ああいっているんだ。おまえとは二年も、してないし、すまないと思っている。」
美秋は照れて、
「うふ、そんな事、ここで言わなくても。でも、あなたの前で、わたし他の男の人に抱かれていいの?」
カリスキ氏は、
「奥さん、素肌と素肌を密着させる事を考えると問題意識もあるでしょう。けどね、あなたと私が指先さえ触れることなくセックスをするというのはバーチャルですが可能ですよ。」
と申し出た。美秋子は納得しない顔で、
「バーチャルに?仮想現実って事?空想の世界に耽るとか、そういう事ね。二人で裸になってベッドに座り、おたがいの性器を見ながら・・・というような事かしら。」
「いえー、そんな全裸になるなんて、そこまでしなくても、いいんです。奥さんは下着まででも十分です。」
「下着をつけたままでセックスできるの?」
「それは仮想現実ですから。」
カリスキ氏は美秋子に歩み寄ると、ズボンのポケットから聴診器様のものを取り出した。美秋子は、それを見ると、
「いやーだ、お医者さんごっこね、それを使って。」
「いえいえ、これを、こうやって。」
カリスキ氏は聴診器の片方を美秋子の唇に、片方を自分の唇に当てた。途端に美秋子はカリスキ氏にキスされた気分になる。カリスキ氏が唇を聴診器様のものから離すと、美秋子はカリスキ氏の唇が自分の唇から離れるのを感じた。彼女は残念そうに、
「もうキスをやめるのね。つまらないわ。」
カリスキ氏は、しかし、
「奥さん、僕は、どうも駄目みたいです。」
と乗り気ではない様子だ。きょとんとした籾山田夫妻にカリスキ氏は続けて、
「さっきね、受付嬢の人と・・・。」
美秋子は、
「白花さんね、彼女と・・・?」
「この機械でセックスしてしまって。それで、もう出すものがないみたいで。そうなると男が立たない、というやつでして。」
美秋子はハハハ、と笑い、
「なるほどね、白花さんにだと全部、出してしまっても可笑しくないわ。でも、わたしの体は火照って、しょうがないわ。松助さん、だめなの?今は?」
旦那の松助は、
「今も無理みたいだよ。時さん、君、どう?僕の家内の美秋子と、するのは?」
と打ち水を振るように問いかけてくる。流太郎は美秋子が、あまりにも地球の籾山の妻、美秋に似ているので抵抗はある。それで答えられないでいると、美秋子は流太郎に近づいて彼の股間を右手で触った。まだ流太郎のそれは充血していなかったが、美秋子の柔らかい白い指先が自分の睾丸と陰茎を握るように動かさないので、ついに激しい血流が流太郎の股間に集結した。美秋子は自分の手の中で大きくなった流太郎の息子に、
「すごいわ。若いのね。主人のより硬くて大きいわ。時さん、わたしと、しましょ。」
カリスキ氏は聴診器様のものを流太郎に渡した。それを受け取った流太郎は、
「これなら奥さん、問題ないですよ。」と云うと、
聴診器を自分の口に、もう一つのそれを美秋子の唇に当てた。二人は即座にキスし合っている感覚を覚える。流太郎は、(なんて柔らかで気持ちいいんだ、奥さんの唇は)と感じ、美秋子も、(男らしい唇ね・・ウットリするわ)と眼を細める。籾山田松助は妻の美秋子が従業員の時田とキスしているような気分になる。二人のバーチャルキスは二十分を超えた。流太郎のズボンの股間は今や、破れんばかりの勢いになっている。カリスキ氏は二人の傍から、
「時さん、もう、そろそろ奥さんとベッドへ行って。」
と指導する。
流太郎は一旦、聴診器様のものから自分の口を外し、美秋子を見た。美秋子も唇を聴診器様のものから外すと流太郎の右手を左手で握り、ダブルベッドへと連れて行く。
美秋子はベッドのそばで流太郎の手を離すと、彼に向き合い、服を脱いでいった。流太郎も美秋子と向き合った。白い上着の下は何と黒の下着を美秋子は身に着けていた。彼女はブラジャーを抱きかかえるように両手で握る。すると!黒色だったブラジャーは透明になったのだ。美秋子が両手をブラジャーから離すと、そこには豊満な果実のような彼女の乳房がハッキリと見えていた。なにせ透明なブラジャーだ。ツンと尖った美秋子の赤い乳首も見える。美秋子は次に、股間のショーツに陰部を隠すように両手を当てる。そして両手を外すと、その股間のショーツも透明となっていた。黒々とした美秋子の陰毛は、かなり多い。流太郎は美秋子の透明な下着姿を上から順番に見ている。もはや全裸に等しい美秋子だった。彼女は、
「タッチすると透明になる下着なのよ。地球には、こんなものは、ないでしょ?」
「ええ、ないです。こういった方面に地球の科学は進歩しません、ようです。」
「そうでしょ。それで男は性欲を失いがちかな、主人にも見せたくて。ね、あなた、どうだった?」
と松助を振り返る美秋。松助は、
「よかったよ。少し息子がびくっとしたかな。」
「よかった。今晩、あなたの前で見せてあげる。聴診器みたいなものでバーチャルセックスなんて、わたしには好まれないものね。それよりリアルに近いセックスがしたいの。」
美秋子はベッドわきのタンスから何かを取り出した。それはクマのぬいぐるみだった。それも分厚いぬいぐるみで、美秋子は、それを流太郎に手渡し、
「服を着たままで、このぬいぐるみを着て、わたしとベッドでセックスしましょ。」
と微笑む。それを身に着けた流太郎は顔は、ぬいぐるみの目だけが空洞になっているから外も見えるが、肝心の男根の部分も厚いぬいぐるみで覆われている。さっきまで元気に隆起していたものも、今は萎びてしまった。それで、
「奥さん、もう全然、立っていませんよ。これでは何にも、なりません。」
「そーお?じゃあ、わたしが、こうすれば?」
美秋子はダブルベッドに仰向けに寝そべると、流太郎に向かって膝を立てて大きく美脚を広げた。彼女の陰部も口を開いた。透明下着なので、それは流太郎にも見えるが自分がクマになったようで、一向に息子は立たない。美秋はベッドに起き直ると、ベッドわきのテーブルからリモコンのような物を取り出す。それを彼女は指で操作した。と、どういう事だろう。
流太郎の脳内に強い電流のような物が走り抜けた。流太郎は、ものを云おうと思ったが、言語は全て忘れていた。とにかく何か叫びたい。ウォーッ、ウォーッと彼は叫んでいた。
 近くにいるカリスキ氏と籾山田は呆気に取られた表情で、夫人の美秋子は透明の下着姿でベッドに座って笑っている。彼は自分の脳内がクマになったと感じた。それは、ぬいぐるみの頭部の内部に、まず電流が走ったような感覚があり、それから言語を失ったような感覚と人間の理性を亡くしたような気持ちになった。眼の前にいるのは透明の下着を身に着けた美人妻だ。クマとしての自分には何の興味もなかった。さっきまで自分は、この美人妻の裸体に近いものを見て下半身の陰茎をあらんばかりに立てていたのだが。
クマ、クマ、クマだ、こんな場所には仲間のクマは、いるはずがない。この外に出よう。きっとクマが、いるはずだ。できればメスのクマに巡り合いたい。クマになった流太郎は施設の玄関に駆け出す。クマになったといっても、ぬいぐるみの中の肉体は人間のままだ。
 施設の玄関に飾ってある高価そうな大きな焼き物の壺を流太郎は右手に取ると、それはカップラーメンのお湯を入れていない状態の重さに感じられた。ウオーッイッ!流太郎は奇怪な叫びをあげると、玄関ドアに、その焼き物の壺を投げつけた。ガシャン!と大音響をあげて壺は細かく割れて落ちた。ドアノブをぬいぐるみのクマの手で開けると流太郎は牧場へ出た。牛、牛、牛の群れが見える。クマなんて何処にも、いないじゃないか。当たり前だ。牧場にクマを飼っている奴など、どの世界にいるんだ。少し先の柵の向こうに森が見える。あの森の中にはクマが、いるかもしれない。クマの流太郎は二本足で走った。ぬいぐるみではないと遠くから見て、そのクマの走り方を見た人は驚いただろう。クマの流太郎は柵を跨ぎ越え、昼なお薄暗い森へと走り入った。
 森の中に一匹のメスのクマがいた。人間の流太郎なら恐怖を覚えるだろう。しかし、今の流太郎の意識はオスのクマなのだ。人間の意識は失っている。そのメスクマは縫いぐるみの流太郎を見ると、オスのクマと思ったらしく、自分の前足を木の幹に掛けて尻を高く突き出した。メスクマは性器を見せている。流太郎は勃起した。すると、それに連動して縫いぐるみの性器を覆っている部分も拡張、拡大したのだ。それでクマの、ぬいぐるみのそれも立身した。そうだ、立身挿入だ!流太郎はメスクマに、のしかかると縫いぐるみで覆われた自分の挿入の道具をメスクマの生殖器に突入させた。獣姦という意識は流太郎には、なかった。メスクマも縫いぐるみのクマとは思っていないようだ。二匹は大木を揺らすほど腰を振った。クマの意識になった流太郎は射精への緊張が人間の時より早い事など、比較する記憶もなく、おっ、という間に射精してしまった。

 施設内では牧場主の籾山田の妻、美秋子が自分の透明になった下着を再び両手で軽く触れると、透明な水着は白色になり、彼女の股間を覆うショーツも彼女の黒き陰毛は反映しなくなった。乳首も同様に見えなくなる。美秋子は手にしたリモコンを操作して、ニヤリと笑みをこぼした。籾山田は、
「何をしたんだ、美秋子。」と聞く。
「クマのぬいぐるみを着た時さんの意識を人間に戻したわ。さあ、外に出ていった時さん、どうなるのかしら?」

 メスクマの前に立っている時流太郎は、意識がクマから人間へと戻った。その途端に目の前に尻を出しているメスクマの姿に恐怖を覚えた。(クマ、だ。こわい。さっきまでは怖くは、なかったのに。)
ただ、メスのクマは気持ちよさそうで、流太郎に襲い掛かってくる気配もない。彼は、そーっと後ろを向くと、ゆっくりと歩き出した。森は、すぐに出た。施設へ帰ろう。牛は流太郎を気にしてもいない。おそらく、ここの牛はクマに襲われた事など一度も、ないのだろう。
立身挿入してしまった。立身挿入?本来の言葉は立身勃起だろう。いや、立身出世だったかな、と流太郎は思惟しつつ、立身勃起という言葉から連想される形態学的なイメージを脳内に沸き上がらせんと試みようとした刹那、施設の入り口は目の前だ。流太郎は美秋子の透明な下着姿を回顧的に想起してしまい、その想起により勃起を惹起されるのでは、と著しく懸念をしたが、さっきの自身の液体放出により、時間の経過が短いために再勃起は現状としては起こってこなかった。
玄関にあるインターフォンから美秋子の声が、
「おかえりなさい、時さん。今、ドアは開くから。」
と聴こえたら、ドアが開いた。中に入って、廊下を一番奥の部屋まで流太郎は歩いた。美秋子のスイートルーム風の部屋のドアは、流太郎が来るのを待っていたかのように自動で開扉した。
 中に入ると牧場主の籾山田が、
「お帰り。君は一時的にクマになったようだね。」
と声を掛けて、ねぎらう。
流太郎はクマのぬいぐるみを脱ぎ捨てると、
「なんだか全く分かりません。自分が人間でなくなり、本当のクマの意識になっていました。さっきはメスのクマと、いや、なんでもありません。」
因みにであるが地球の福岡市の能古島にはクマは、いない。パラレルワールドみたいでも、そういう違いはあるのだ。カリスキ氏は、
「もうすぐ日が暮れるから、おこの島から帰ろう。おこの島には宿泊施設は、ないからね。」
二人は牧場を出て、船着き場まで歩いた。カリスキ氏のスマートフォンが鳴ったようだ。「はい、もしもし。何?地球人女性を連れている?よし、行くよ、今から。」
と答えて通話を切るとカリスキ氏は流太郎に、
「福丘タワーに又、行くから。」
その時、二人の後ろから若い女性の声がした。
「お二人さん!待ってください!」
それは、おこの島牧場で乳搾りをしていた城谷輝美だった。輝美は今は作業着ではなく、私服を着ている。流太郎には益々、輝美は城川康美に似て見えるのだ。輝美は、
「福丘タワーに私も行くんです。連れて行ってください。」
と頼み込むので、カリスキ氏は、
「ああ、いいよ。一緒に行こう。」
三人揃って船に乗り、福丘タワーの近くの船着き場に船が着くのは十分後だった。
福丘タワーの玄関近くに一組の男女が、いた。カリスキ氏、流太郎、城谷輝美と続いて歩いていくと輝美は、
「流一郎さん!待ったかしら?あれ、その人、誰なの。」
と、その男性に声を掛ける。流一郎は、
「やあ、輝美。この人は地球から来た女性だよ。名前を城川康美さんといってね。迷子になったから、僕は、さっきカリスキ氏に電話したんだ。」
流太郎は流一郎という、その男が自分に、そっくりすぎるのを感じた。まるで、そこに鏡があり、自分を映しているような気分だ。だが言わなければ、
「城川君。見つかって、よかった。心配しすぎたよ、本当に。」
康美は、
「時さんも無事で、よかったわ。」
と微笑む。
カリスキ氏は、「その男性は僕の部下なんだ。広いようで狭い福丘市で、よかった。」
その時、又、カリスキ氏のスマートフォンが鳴る。
「はい、あ、これは、どうも。いえ、大丈夫です。二人共、無事でした。ええ、わかりました。」
とカリスキ氏は答えた。通話を切ると流太郎と康美に、
「浜辺へ行こうか。潮風が涼しい。」
歩いてすぐのところが白砂の海辺だ。波は低く、緑色の海。と、その洋上に円盤が突如、現れた。青い光線が空中に静止した円盤から出ると、流太郎と康美は、その光に包まれて円盤の内部へと消えた。
カリスキ氏は右手を高く上げて、円盤に向けて振る。

 円盤の内部にはアフロディナ女王が玉座に座っていた。竜宮王国の絶対的女王だ。女王は、
「どうでした?緑星は、訪問してみて?」
と二人に御下問なさった。
流太郎は、
「驚きの連続でした。まるでパラレルワールドみたいでしたよ。」
アフロディナ女王は得意げな顔で、
「私の指示で緑星は地球に似せたのよ。これから訪問する星は、それとは違った惑星。何かあっても、わたしが手を回して助けてあげられるのは何処の星でも同じ。だから安心していていい。」
「クマのぬいぐるみには驚きましたね。あれも竜宮王国の発明品ですか?」
「もちろんよ。緑星も科学は地球と同じレベル。私達の関与なしには進化できないわ。あのぬいぐるみは、ね。DNAレベルで人間をクマに変えられるという、ぬいぐるみ。緑星の富裕層の一部にしか輸出していないけど。おこの島牧場の牧場主の夫人が持っているなんて、知らなかった。」
アフロディナ女王は流太郎達の行動を逐一、観察しているのだろうか。だとすれば安心していいのか、それとも不安になるべきか、流太郎は迷った。しかし、地球を離れて何万光年かもしれない宇宙にいる今、アフロディナ女王は本当の女神のような存在だ。次に行く星には何が待っているのだろうか。
円盤の窓の外の景色は星々から緑の草原に変わった。もう着陸したらしい。アフリカのようには見えない。気候的にも暑くない。それは熱気は円盤内に、すぐは入ってこないと流太郎は思う。アフロディナ女王は二人に、
「この星に降りて楽しむのよ。危険はあっても大丈夫。さあ、行きなさい。」
円盤の側面が開く。流太郎と康美は円盤の外に出た。二人にも、ためらいはあったが、アフロディナ女王のゆとりのある威厳に気圧(けお)されたようだ。
この星にも酸素はあった。地球と全く同じ大気だろう。地球と全く同じ星が宇宙には、いくつも存在しても不思議ではなく、むしろ当たり前なのではないだろうか。地球が大宇宙で、たった一つだけある星と考える方が狂気じみている。そして地球人類だけが宇宙で唯一、知性を持ち文明を発展させてきた、などという事など、あり得ないのだ。
ただ、流太郎が空を見上げると秋の日差しであり、太陽は二つ、並んで小さく輝いている。アフロディナ女王が乗った円盤は目に見えない速度で空へと消えていた。別の方向からバサバサバサッと大きな鳥の羽ばたくような音が聞こえた。流太郎と康美が、その音に目を向けると巨大な鷹が二羽飛んできて、その太くて鋭い足の爪で二人を掴む。流太郎に一羽、康美に一羽の巨大な鷹が、二人を空中に運び上げると空を低く、飛んでいく。二人は足元を見ることが、できない。五十メートルは上空にいるのだ。遠くに見えるのは小さな都会の街並みで、今、二人が運ばれているのは、その郊外らしい。
 鷹は降り立った。その前に二人を広大な邸宅の庭に降ろした。何かしら、その建物は研究所の持つ雰囲気である。しかも大企業の所有するような上品な外観だ。庭には数本の樹木があり、鷹二羽は、その樹木の枝に飛び移った。
庭というより研究所の敷地内らしい。建物の側面のドアが開いて、白い研究服を着た三十歳位の男性が現れた。地球のサイバーモーメントの黒沢金雄社長が若くなったような顔だ。二人に近づくと、その研究員は、
「ようこそ、我が宇宙生物研究所へ。」
と何と日本語で話したのだ。流太郎は、
「巨大な鷹に連れられて、ここへ運ばれました。助けてください。」
「ええ、もちろんです。でも、あの鷹は我々が飼育しています。研究所近くで不審な人物を見たら、あの鷹は、ここへその人物を連れてくるようになっています。私は所長の銀田(ぎんだ)といいます。」
「私は地球人で時、といいます。UFOから降ろされたんですよ、自分達の意志とは関係なく、。」
「ほ、そうですか。あなた達は恋人同士には見えないが。」
銀田は康美と流太郎を眺める。康美は、
「恋人同士では、ありません。それが何か問題でも?」
「いや、何ね。問題は、ないけど。この星の人口は一億人位で、国というものは一つしかなく、食べ物に不自由は、しません。あの鷹を見ても解ると思うけど。地球という星は食糧問題など、あるでしょう?」
流太郎は地球を思い出しつつ、
「ええ、ありますよ。アフリカなどでは食べ物がなくて、内戦が続いています。でも、それが他の大陸に飛び火する事は、ないんです。
アフリカ諸国は貧困なため戦力も十九世紀程度の装備だったりします。アフリカ人同士が殺し合って、今、アフリカの人口は1000万人位で。百万人位に減ればいい、なんて予測する学者もいますよ。」
「うむ、そんなものでしょう。ここは宇宙生物研究所ですから、貴方方を研究したいんですよ。我々の先祖は日本人であり、この国は日本語です。我々の先祖はUFOによって連れ去られ、この星で降ろされました。ただ、ここは地球の日本列島のような島国ではなくて、横長の大陸です。
 日本の伝承で「神隠し」なるものが、あるが、あれは全てUFOに連れ去られているのです。」
流太郎と康美は簡単に感嘆し肝胆、相照らされてしまう。銀田は流太郎に近づくと名刺を渡した。
宇宙生物研究所・所長 銀田金玉留
流太郎は、それを手にして、
「ぎんだ・きんたまる、さんですか。」
「いや、そうは読まないでください。かねたまる、と読みます。」
「ああ、そうですね。きんたま、と読むとマズイですかね、この星でも。」
「そうだね、きんたま、は、この星でも男性の睾丸の意がありますからね。親が名付けてくれた名前ですけど、少しは、その辺も考えてくれたらいいのに、金が貯まるようにっていう親の希望でした。」
康美は無関心さを顔に出していたが、本当は笑いたさそうだった。流太郎は、
「その親御さんの望み通り、こんな施設を建設出来たわけですね。」
「あ、いいえ。これは国の施設ですよ。私は国家公務員ですから、金は多くは貰えません。地球の日本の国家公務員より安いものです。ただね、この星では食料が安い。フリーエネルギーに近いもので動力を提供している国ですから電気代も安いし、ガス代も安い。これは、後ほど説明しましょう。とりあえず、研究所の中に入りましょう。あなた方を解剖するわけでも、ないので心配なく。ここから逃げようとしても、又、あの鷹に襲われますからね。」
銀田所長は二人を施設に入れた。
白壁と天井と床も白の施設内だ。廊下は広く幅がある。「天狗の部屋」とパネルに表示してあるドアの前で銀田は立ち止まると、二人に、
「これは、まず見ていった方がいい。」
と話すと、ドアノブを捻って開けた。銀田の後に続いて入った二人が見たものは下着姿の天狗で、二人いた。男女の天狗がガラス張りの向こうに、いた。天狗がいる部屋は六畳は、あるだろう。それを見物できるように、なっている。銀田は、
「マジックミラーだ。向こうから、こちらは見えない。」
と説明した。

SF小説・未来の出来事8 試し読み

 流太郎と康美は、それぞれが手にしたヘッドフォンのようなものを耳に当てた。ヨハンシュタインは二人に、
「それで、よろしい。目を閉じて。」
と指示する。目を閉じた二人は同じものを見ていた。青い海を、である。白い砂浜、というのは形容詞的なもので、砂は白色のものはなく薄茶色が正確な表現だ。その薄茶色の砂が続く砂浜に、流太郎と康美はいる。自分達の姿を見ると水着になっていた。流太郎は紺色の海水パンツだけ、康美は赤色のビキニだけだ。流太郎は康美のビキニ姿を見るのは初めてだ。そもそも、そういう季節や場所に一緒にいた事がない。
 康美のビキニは極薄で胸の部分は彼女の乳首がハッキリと、浮き出ていた。豊満な康美の乳房はビキニが取れてしまいそうな位な曲線を描いている。二人は砂浜に並んで座っていた。康美の左側に流太郎は座っているので、彼女の左側面からビキニ姿を眺める事になる。日焼けのしていない康美の白い肌は、このまま、ここにいれば少しは灼けるだろう。流太郎が康美の白い肩に右手を回そうとした、その時!目の前の海の水が飛沫を上げ、クジラのような潜水艦らしきものが海面に浮上してきた。その潜水艦の上部が開くと、中から若い女性が体にピッタリとくっついている制服姿で現れ、胸のふくらみを揺らせつつ、
「ようこそ、お二人さん!海底の国、竜宮王国へ御案内します。ここまで、泳いでくるのです。」
と誘った。
 当然の事ながら流太郎と康美は、ためらう。いきなり現れた潜水艦と謎の若い美女、その女性の髪は短く、男性一般の髪の長さだというのも特徴の一つで、しかも赤と黄色に染めている。立ち上がらない二人を見て、その女性は、腰のポケットからピストルのような物を取り出した。それを二人に向けて、
「来ないと撃つわよ!来ても撃つわ。楽に来れるようにね。」
と宣告し、ピストルの引き金を引く。
立ち上がった流太郎と康美に、その謎の美女から放たれたピストルの中身は赤いレーザー光線のようなもので、その怪光線は二人をグルグル巻きにすると一秒よりも短い時間で、二人の体を潜水艦上までワープするかのように移動させた。
潮風の匂いがする潜水艦の上に大きく左右に開いた昇降口が見える。若い謎の美女は、
「私の名はエリオンというわ。さあ、そのエスカレーターに乗って。」
潜水艦なのに下り方向に進むエスカレーターが動いていた。竜宮王国の潜水艦の昇降は階段ではない、というのが豪華な話ではないか。
流太郎と康美は水着のまま、(だって着替える暇は、なかった)オレンジ色の手すりのエスカレーターに乗り、潜水艦の内部へ。エリオンは二人の後からエスカレーターに乗った。
 エスカレーターから降りるとエリオンが二人の先に立って、少し歩くと大きなドアの前に移動した。エリオンは、そのドアの壁に向かって、
「女王様、二人をお連れしました。」
と、お伺いを立てた。若い女王様らしき声が、
「お入り、エリオン。二人を連れて。」
と静かな威厳を持つ響きで指図した。ドアは自動のように左側に開く。その部屋の内部は照明も一段よりも三弾は明るい。部屋の奥に玉座に座った女王は右手に錫杖を持っていた。エリオンは自分の左にいる流太郎と康美に、
「女王様に敬意を示すのよ。わたしのように右膝を曲げて。」
と話すと左足は伸ばしたまま、右足を膝の所で曲げて左足の膝の裏の方に足先をひねった。流太郎と康美はエリオンの動作を真似た。
女王は微笑むと、
「よろしい。右足を戻して。ここは竜宮王国の潜水艦『ウミノソコー』です。博多湾から北に百キロ行った海底に、我が竜宮王国は、あります。」
流太郎は聞いてみる。
「女王様。もしかして、その竜宮王国とは、あの浦島太郎が行った竜宮城の事ですか。」
女王は頷(うなず)くと
「その通り。大昔は竜宮城と地上の民が呼んでいた。浦島が助けた亀は、わたしの祖先が飼っていたもの。そして、その亀は自然界の生き物の亀ではなくて、人工の亀だった。」
康美と流太郎は同時に、
「人工の亀!ですか?!!」
「そうです。普通の亀が人間に助けられたからといって、竜宮城の女王に報告するものですか。第一、自然界の亀が人間の言語を分かるわけがない。浦島が亀が話すのを聞いたとしても、それは、わたしの祖先が作った人工亀が話したのよ。人類も今ではAIなんてものを多少作っているけど、わたしの祖先は浦島太郎の頃に既に人口の亀、そして、それは人工知能を持つ亀を作っていたのよ。で、それを海辺に送り、わたしの祖先が雇った少年たちに虐めさせた。それを見た浦島が人工亀を助け、海の中へ帰してやった。
 人工亀はビデオカメラを持つ二つの目で、その浦島の行為を記録していたの。竜宮城に戻って来た人工亀の脳内とも呼ぶべき場所に記録されたビデオデータを女王はパソコンのUSB端子に似たものでスクリーンに再生し、浦島の行為を確認したわけよ。ついでに、その当時の竜宮城の女王は人工亀に、
「誰に貴方は助けられたの?亀君。」と聞いた。人工亀は、
「浦島太郎さんです。」と答えたの。人工亀は助けられた後、浦島太郎に、
「ありがとう。あなたの御名前は?」と聞いた。その位の質問は出来るような人工知能を与えられているの。浦島は、とてもビックリして、(亀が喋った)と思いつつ、当時の人間らしく(この亀は神様の御使いかもしれない)と思ったのでしょう、
「ぼくは浦島太郎といいます。」と答えたのよ。その記録は人工亀の脳内にあるビデオデータに記録されていたわ。今も残っているから、あなた達に見せるわね。」
女王は近くに立っている若い豊満な肉体の美女、その女性は色白でビキニを着ていた。胸の部分は赤で彼女の股間を隠すビキニは黒色。彼女の腰の括(くび)れと、それに反比例する豊かな尻の部分、上向きの乳首が浮き出ている張り切った乳房は、ビキニが取れそうな位だ。その臣下に女王は、
「カナミ。浦島のビデオを二人に見せなさい。」と命ずる。カナミは深く頭を下げると彼女の長い黒髪と、豊満な乳房は揺れ動いて、
「はい、女王様。仰せの通りに。」と下命を排して、ビデオ機器らしき所に尻を左右に揺らせながら移動した。セクシーな胸を揺らせつつカナミはビデオをスタートさせる。女王の右横にスクリーンがあり、そこに太古の日本の浜辺が現れた。
 二、三人の少年が砂辺の亀を苛めている。
「やーい、亀。陸に上がったら、のろまだなあ。」
ポンと少年は足で蹴る。もう一人の少年は、
「動けないのかよー、おい、亀。」そう言って、又も足蹴り。あと一人の少年は、
「丈夫そうな甲羅だなあー。」と言いつつ、亀の甲羅を足で踏みつける。亀は頭と両手、両足を甲羅の中に引っ込めて耐えた。そこへ浦島太郎が現れる。なお亀に備えられたビデオカメラは目二つのみではなく、甲羅に頭を引っ込めた時は硬い甲羅の中央に小さなビデオカメラがあり、それで映像を記録する。なのであるから、いくつもの視点が人工亀にはある。このカメラの切り替えが行われるなども、竜宮王国の当時としては驚くべき技術が見られるであろう。
もっとも、この竜宮王国の一族は家臣も含めて実は・・・なのであるけれど、それは後述されるであろう。
 浦島は、「君達は、何をしている!やめなさい。亀を苛めては、いけない。」と強く叱りつけた。
少年たちは浦島太郎が村一番の力持ちであることを知っているので、
「ごめんなさい。もう、しませんから。」
と口々に謝ると、全力疾走で浜辺を逃げて行った。そして亀との会話、後日の竜宮城への招待へと映像が続いた。
流太郎と康美は目を最大限に開いてスクリーンを見ている。さて、いよいよ浦島太郎は竜宮城から自分の村へ帰るのだが。
手には竜宮城でもらった絶対に開けてはならない玉手箱を抱え、自宅に帰った。それを見た隣の家の若い娘は薄着になって浦島の家に行き、
「浦島さん、帰ったの?琴代よ、入ってもいい?」
中から浦島は、
「ああ、いいよ。おいで、琴代。」と答える。
古びた家だ。琴代も実は浦島が消えて百年後の、隣の家の娘なのだ。その家では代々、長女に琴代と名付けていた。浦島は玉手箱を畳に置くと、胡坐をかいた。琴代は浦島太郎の前で薄い着物を脱ぐと、彼女は下着など来ていないから、白い乳房と股間の黒い茂みは浦島には丸見えだった。竜宮城で贅沢な生活をさせてもらっていたが、女性との性的遭遇は一切なかった。それで浦島は自分の股間の道具に久しぶりに大量の血液の流入を感じた。それは琴代が上から見ても、明らかに分かる剛棒で、琴代は浦島の前に膝を着くと浦島の着物を剥ぎ取る。全裸の琴代の前に座った浦島も又、全裸になった。逞しい胸の筋肉、二の腕の力こぶの浦島の肉体は、それよりも力の入った長い肉の筒を琴代の股間に向けていた。
「好きよー、浦島さん。」
琴代は自分から浦島に抱き着き、両方の太ももを大きく広げて浦島の前に腰を降ろす。その時、右手で浦島の剛棒を握り、自分の股間の唇に当てて、その柔らかな秘部に導きつつ座ったのだ。それで二人は結合した。浦島は随分、久しぶりに女陰を自分の剛棒で味わいつつ、琴代は自分で大きな尻を前後や上下に揺り動かし、浦島が手で触ってくれない時は自分で自分の乳房を掴むと、体をのけぞらし、
「あはーん、浦島さあん・・・。」と声を上げた。琴代は、そらせた裸身を元に戻した時、浦島の横に珍しそうな玉手箱があるのに気づいた。豪奢な宝石の散りばめられた玉手箱だ。琴代は自分で尻を振りつつ快楽に溺れていながらも、
「浦島さん、その玉手箱は何、あんっ。」
とたずねる。浦島は、
「これか、これはね、開けてはいけない玉手箱なんだ。竜宮城でもらったものだよ。」
「竜宮城って、なんなの、それ、あん、いい。開けてみたーい、わたしいぃっ。」
琴代は右手を伸ばして玉手箱に触ると、そのふたを開けてしまった。すると、中から薄い煙のようなものが出て浦島の肉体を包む。そのあと!見る見る、又見るうちに浦島の肉体は百歳過ぎの老爺の体に変貌したのだ!琴代は自分の柔らかな女唇の中の浦島の硬い大きなものが、皴ばんだ柔らかくて小さな老翁のものになったのを感じた。眼の前の浦島の顔には皺が沢山出て、彼の背中は曲がり、髪の毛と眉毛は雪でも積もっているかのように真っ白になった。浦島は、
「琴代ちゃん、だから開けてはいけない玉手箱だったんだよ。ほら、おらの硬いものも柔らかくなったし、あれ、抜けたよ、琴代ちゃんの女の穴から。」と呟く。
琴代は浦島のモノが抜けたのに気づいたが、
「ごめん。でも、浦島さん、わたしのおっぱいを揉んで、口を吸ってよ。」
と懇願するから、浦島は琴代にキスして彼女の白い大きな乳房を揉んだ。
 今の竜宮城の女王の声が、
「そこで、止めて。カナミ。」と命じる。スクリーンの映像は静止する。女王は少し顔を赤くしていたが、
「これからは老爺の浦島がダラダラと琴代を愛撫するだけで、琴代の上に乗った浦島は腹上死します。そういう映像を貴方達は見ない方が、いいでしょう。琴代は死んだ浦島の前で四つん這いになり、大きな白い尻を突き出して、さめざめとなくのですが。実は、それは玉手箱にあるビデオカメラが記録していたのです。その映像は遠隔で竜宮城に転送され記録された。ところが琴代が、この後、怒って玉手箱を取り上げて畳に叩き付けたので、当時のビデオカメラだから壊れてしまったのよ。その後は、壊れないビデオカメラを竜宮城でも研究したし、完成もしました。」
と誇らしげに可愛らしい胸を反らす女王だ。流太郎は、
「玉手箱にもビデオカメラが付属していたなんて知りませんでした。昔話って簡略化されていますね。」と感心する。女王は、
「それは、琴代とのセックスなんて記述できないでしょ。玉手箱の、その後の話は村人も服を着た琴代の証言で作られたのだから。これはビデオを壊されたので、竜宮城から使者を派遣して、当時の村人に変装させて調査させました。琴代は自分が浦島と性交したとは、村人には話さなかったと証言したのよ。」
康美は感心して、
「昔話って、省略が多いんですね。でも、子供に話したりするものだから、そうしないといけないのかも?」
女王は笑みを浮かべ、
「この場合は琴代は浦島の話が、お伽噺になるなんて想像もしなかったでしょう。自分がセックスしている相手が突然、老人になる事も想像も出来なかったでしょうしね。」
流太郎は、
「本当にビックリしました。そもそも竜宮城に太古から、こんな技術があったなんて驚きです。」
女王は、
「ウフフ。竜宮城で浦島太郎に性的抑圧をかけたのも、わたしの祖先だけどね。そこのカナミはビキニだけど、当時の臣下には十二単の着物を着せていたのよ、だから浦島は竜宮城では女性を認識しなかった。今の女王のわたしは臣下に薄着やビキニを着させています。地球温暖化のせいも少しは、あるのかしら。時君、ね、玉手箱を貴方にも・・・」
流太郎はギクリとする。女王は、
「持たせたいけど、それは今回はしない事にしましょう。エリオン 、二人を元の海岸に戻してあげて。」
「かしこまりました。女王様。」
エリオンは女王に向けて膝を曲げての敬礼をすると、康美と流太郎を女王の部屋から連れ出した。流太郎は疑問を口にする。
「竜宮城には連れて行ってもらえないんですか?」
エリオンは答える。
「何事も女王様の思し召しよ。理由は問わないの。」
潜水艦は海面に浮上した。甲板が開いた潜水艦の上部にエスカレーターで昇った三人は、さっきの海岸を近くに見た。エリオンは二人に、「海の中に飛び込んだら、足が海底に届くから泳がなくてもいいわ。さあ。」
流太郎と康美は青い海に足から飛び込む。二人の足は、ゆっくりと海の浅い底に届いた。二人が振り返ると、潜水艦は既に見えなくなっていた。空からワーンワーンワーンという細かい音がした。二人は空を見上げると、そこには巨大なUFOが空中に静止していた。しかも距離は十メートル上空程度で、横幅が百メートルはありそうな大きさだ。あれが落下したら二人とも即死だ。落下への恐怖に二人は震えんばかりだった。UFOからの黄色い光が二人に照射されると、流太郎と康美は光に包まれて上昇した。一秒以内に二人はUFOの内部に現れていた。かなり広い部屋だった。その奥に玉座のような椅子がある。流太郎と康美は「あっ、あなたは!」と驚きの声を上げた。
 玉座に座っていた女性は若く美しい。長髪の先は彼女の肩の下まである。二人が、さっき会った竜宮城の女王だ。女王は微笑と共に、
「ようこそ。潜水艦からUFOへの移動は、容易(たやす)いわ。UFOを海面下に潜らせると、あのクジラ型潜水艦と接合できる。その接合部から、わたし達はUFOへ移った。これから旅になるから、お二人さん、ゆっくりしていってね。二人用の宿泊部屋も、あるからね。
 わたし達の星は何億光年も地球から離れているけど、二泊三日で到着するわ。スウィフト(註・ガリバー旅行記の作者)も、わたし達の祖先が連れて行ったけど、後に発狂してしまった。今日では、そうならないように注意しています。」

 そこで二人の意識が白昼夢から現実に戻った。ヨハンシュタインは、「お目覚めかな。いい夢を見たようだね、お二人さん。」
と話しかけてくる。手術台のようなベッドに寝そべった二人は、視線を天井からヨハンシュタインに移すと、ヨハンシュタインは、
「起き上がっていいよ。どのような夢だった?」
流太郎「竜宮城の女王に会いました。」康美「あら、わたしも同じものを見たわ。」
ヨハンシュタインは、「二人共、同じ白昼夢を見るようになっている。そういう異星人の発明した機械だ。竜宮城か。なるほど。私は、この機械を竜宮星の女王から下賜したのだよ。数億光年も離れた距離にある、その竜宮星は数千年前に地球に到達できる科学を持っていた。その女王の話によると、博多湾の北の海底に竜宮城を建設したらしい。したがって浦島太郎は博多湾沿岸に住んでいた漁民なのだそうだ。何はともあれ、ドイツから来た私にとっては驚きの昔ばなしさ。まだ色々な異星人から貰った機械があるのだが・・・。それは又、これからの機会に。」
窓の外の太陽は既に消えていた。時刻は日没後の時間を迎えている。流太郎と康美はUFO研究センターを辞去した。大通りへ向かう小道には人は二人以外、いなかった。突然!空から赤い光が降り注ぐと流太郎と康美は上空に静止する巨大なUFOに吸い上げられて行った。

 それは、さっき流太郎と康美が寝転んで見た白昼夢の巨大なUFOそのもので、その内部に運ばれて立った二人は目の前に、あの女性が座っているのを見た。そう、竜宮城の女王だ。女王の笑顔に二人は抵抗する気持ちを失った。女王は語る。
「今から、わたしたちの星に向かいます。何億光年か地球より離れているけど二泊三日で移動するからね。最速なら五時間で移動できるけど、船酔いならぬ円盤酔いをされても困るから。」
キューンと上昇するような感覚が二人には感じられた。円盤が上昇して地球の大気圏外へ移動した。それでも円盤の室内には塵一つ動いていない。二人の上昇感覚は錯覚なのだろうか。女王は、
「あなた方の耳の中に、さっき一部のレーザービームの塊を残しています。これが今の円盤が上昇するかのような感覚を引き起こしたのですよ。」と説明する。
二人は納得するが、しかし?このままでは。女王は続けて、
「大丈夫よ。わたし達の星に着くまでには、その赤い塊は消えてしまうから。わたしの背後の壁を見なさい。」
女王の背後の壁は白色だったが、巨大な窓が開くように左右に動くと、ガラス張りのように円盤の外の光景が見えた。宇宙空間だ。まるで星だらけの夜空、宇宙には、こんなに星があるのか。
女王は、
「太古の昔、我々の星でも戦争をしました。それは自分達の星の中ではなく、他の星とです。地球人類は大陸間弾道弾などを誇りにしているようですが、我々の星では星間弾道弾を完成させ、他の知的生命体の星を攻撃したのです。
 それに成功して多くの星を植民地ならぬ植民星にしたのですよ。ある時、その星間弾道弾の着弾地点を誤り、その星に大洪水を巻き起こしてしまった。以来、その星は大量の水を放出し続けています。おかげで我々の祖先も、その星には移れず、それ以来、星間弾道弾の使用は控えています。もう、十以上の植民星があるのですもの。わたし達も満足しないといけません。わたし達の民は、それら植民星からの貢ぎ物で生活しています。地球も我々の植民星にする予定でしたが、星間弾道弾の使用を中断している今は、その予定は中断しています。地球は本当は我々の星の植民星になった方が、いいのですよ。そうなれば百以上もの国を一つに、してあげられるし、労働の代わりに食べ物は買わなくていいように、してあげられる。
税金だって無料にしてあげられます。時君、何か質問がありそうね。いいわよ、わたし、女王が答えますから。」
流太郎は立ったまま、
「税金なしで、大丈夫ですか、国は。」と質問する。女王は、
「ええ、もちろんです。地球という国の公務員を無くすのです。軍隊は一番初めに解体させ、竜宮星の軍隊を駐留させますから。地球防衛軍という名称を付与します。又、政府組織は竜宮星から送る要人で運営しますからね。地球の民から税金なんて取りませんわよ、おほほ。」
女王の顔は二十代半ばの美女、それは外観から見えるだけで実際の年齢は二人には分からない。色白で目は濃い緑色だ。彫りが深く鼻が高い女王は、
「労働時間だって一日に四時間で、いいようにしてあげられるわ。冬季と夏季には一週間の休みを与えます。だからこそ、わたし達の植民星の住民は不満を言わないの。それどころか、彼らは感謝しているわ。それでね、余った時間は何をしているかというと、・・・エリオン、ビデオを見せてあげて、二人に。」
「はい、女王様。御意のままに。」
室内にエリオンは見えないのに、壁から彼女の声がした。女王は二人に、
「後ろを向きなさい。」と命じる。二人が体を反転させると、彼らの目の前の壁がスクリーンになっていた。すぐに映写が始まり、立体映像だった。植民星の優雅な生活という文字が空間に浮かぶと踊りを踊るように動いた。映像は或る都市を映していた。タワーマンションが見える。それも二百階は、ありそうな巨大なものだ。昼の三時らしい。会社が終わったらしく、背広に似たものを着た男性が大勢、その超巨大タワーマンションに帰宅している。エレベーターは、すし詰めに近い、とはいえ、ゆとりはある空間だ。その内の一人の中年男性をカメラは追っている。四十代ほどだろうか。黄色人種で日本人と中国人のハーフみたいな、その男性は玄関を開けて帰宅すると、
「ただいまー。今日から竜宮星の植民地政策が始まったよ。労働時間は四時間になった。」
玄関に出迎えたのは二十代半ばの女性で、その男の妻らしい。
「ほんとー、なの?今から夜まで大分、時間があるわね。どうしよう。」
と妻は答える。
背広とネクタイを脱ぐと男性は、
「急に暇になってもなー、する事がない。」
「まだ、三時だし。今からセックスも、どうかと思う。わよね?」
「ナサリーナ(妻の名前らしい)、いい考えだ。今すぐ、セックスしよう。」
「ええ、ASAP。」
「なに?えーえすえーぴー?」
「やだわ、あなた。知らないの?AS SOON AS POSSIBLEアズ スーン アズ パッセブル(可及的速やかに)っていう意味だわ。」
「ああ、そうか。おれの息子もASAP、なーんて。ね」
その夫婦は全裸になった。夫は
「この前は二か月前か。セックスは。」
「いいえ、三か月前だと思う。残業続きだったもの。」
そこは玄関なので二人は寝室へ行く。タワーマンションの百五十階からの展望は、遠くの海まで見える。ナサリーナは寝室のカーテンを閉めようとした。夫は、
「開けたままで、いいよ。外から見る人もいないしね。」
と妻の後ろから話すと、妻の右手を止める。日焼けした妻の背中と尻。妻の乳房を後ろから夫が揉んでやると、彼女は目を閉じて気持ちよさそうだ。その乳房の後ろの背中はビキニの跡が日焼けしていない。もちろんナサリーナの尻も水着で日焼けしていない。そのビキニの形が妻の白い肌で残っている。その妻の、形よく横に張り出した尻に夫の性器は勢いよく立ち上がり、二人は二心同体となった。夫にとっては勤務中に帰宅して妻とセックスをしているような気分もする。妻のナサリーナは、今、後ろから自分の洞窟に入れているのが夫ではない誰かだと空想すると、今までと違った快楽を感じるのだ。夫のハルキンは一時間も妻と結合を続けたのち、
「おおナサリーナ!カフカが海の中に沈んでいく!」
と訳の分からない言葉を発すると、男のクリームソーダを妻の股間の秘口内に勢いよく、ぶちまけたのだ。それを膣内に感じた妻のナサリーナは、
「ああっ、ハルキンっ、谷の底に落ちるぅっっっ。」
とソプラノの美しい響きで快美感を発した。ハルキンは小さくなったムスコをナサリーナのムスメ(膣内)から離して、彼女の首の後ろに優しくキスをすると、
「とっても、よかった。竜宮王国の植民星になって幸せだよ、ぼくたち。」と話すと、妻のナサリーナは目を開けて、
「カフカって、なんなの?」
「ああ。カフカって地球という星の文学者だよ。凄く昔のね。」
「そのカフカが海の中に沈んだの?」
ナサリーナは窓の外に向けた裸体を室内の夫に向けた。昼間の光に妻の股間の黒い茂みは平日には初めて見たものだ。妻の恥毛は逆巻き、縮れている。ハルキンは、
「別に意味は、ないさ。カフカが海に沈んだら思うだろう気分だったのかもしれない。それより、ぼくの股間をみてごらん。」
ナサリーナは視線を夫の顔から股間に移す。
「まあっ。もう元気なのね。今度は立ったまま、来て。」
ナサリーナが両脚を立ったまま開く。恥毛の下の赤い口も開いた。その時、ホ~、ホケキョウ!と玄関のチャイムが鳴る。このタワーマンションでは標準装備で玄関チャイム音は鶯の鳴き声となっている。ハルキンは黒いパンツだけ履くと玄関へ行き、
「はーい。」と答えると、インターフォンから、
「ムラナミさん、郵便局です。」
ドアを開け、ハルキンは郵便物を受け取った。この星の郵便局員の配達の制服は緑色だ。男性局員はハルキンの股間を見ると、
「ムラナミさん、おっきいですね、あそこ。」
「おれの名前はムラアミだよ。ムラナミでは、ない。」
とハルキンは抗議する。
「すみません。失礼しましたー。」
郵便局員はリュックを背負った背中を曲げて、謝るとドアを閉める。タワーマンションの書留は多いため、リュックに入れて配達している。玄関はオートロックだ。ハルキンは寝室に戻ると、妻のナサリーナは、まだ全裸のままでベッドに腰かけている。ナサリーナは、
「書留なの?それ。」
「ああ、そうだよ。でも、あれが終わった後で、よかった。そういえば平日の昼だもの。郵便局員は来るよなあ。開けてみるか、書留。」
ハルキンは薄茶色の大きな封書を手で破いた。中から出てきたのは、数種類のコンドームだ。ハルキンは思い出した様に、
「ああ、そうそう。お試し価格のコンドームを頼んでいたよ。進化したコンドーム。亀頭にだけ被せるタイプ。更に今、開発中の亀頭の先端の小さな穴だけを覆うタイプ。尿道口を覆うわけだ。」
と手に取って、それらのコンドームを眺めながら妻に話す。ナサリーナは、
「亀頭にだけなら亀頭冠に引っ掛ければ、いいけど。」
「ああ、亀頭のカリにね。」
「尿道口だけなら射精したらコンドームは外れないのかしら。」
「それが最先端のコンドーム技術によって、装着されたままなんだ。どうも、この尿道口タイプのものは長く伸びるらしい。縦に伸びるので、女性としては膣の奥にさらにペニスが進む感覚を味わえる。らしいな。」
「子宮に直接、当たったりして。大丈夫、かしら?」
「その辺はね、子宮を傷つけないように、今度は横に広がるんだって。」
「まあ、ほんとに。だったら、すごいわ。あなた、そのコンドーム。わたしにも触らせてよ。」
ナサリーナはベッドの隣に座ってパンツだけ履いている夫のハルキンから尿道口だけを覆うタイプのコンドームを手に取る。そして、
「ん?んんん?この手触り。ゴムというより人間の肌、それも男性の肌だわ。それに特定すると、亀頭の感触が手に感じられるわ。これ、すごいわー。」
ハルキンは妻を横目で見て、
「それは普及版だよ、だから一般的な男性の亀頭の肌感触だ。さらに凄いのは、この会社、オーダーメイド版もある。頼めば、その男性の亀頭と、そっくりの肌の、まあ亀頭の部分は肌とは言えないかもしれないけど、亀頭の肌触りだね、それをコンドームに再現できるんだよ。」
ナサリーナは特大変に驚いて、
「ええええっ!??だったら、ハルキン。あなたの亀頭の感触も、このコンドームに再現できるのね?」
「そうさー、ただね。お金は、かかるよ。それなりに。安月給のオレでは今のところ、無理かな。部長は愛用しているらしいよ。その尿道口のみ覆うタイプのコンドームをね。」
「部長さんも、産児制限に気を使っていらっしゃるのね。で、で?部長さんのは、そのコンドーム、オーダーメイドなの?」
「らしいよ。ボーナスの一部で作らせたそうだ。なにせねー、作るモノがモノだけに、写真で自分の亀頭を取ってインターネットでメールで送るわけにも、いかない。だから直接、この会社に行って、そこの女子社員に亀頭を触ってもらって。もちろん個室で、らしいけど、その女子社員が部長の亀頭の感触を思い出しながら、それをコンドームに再現したそうだ。それを使ったら、部長の奥さんは大喜びで、
『あなた、とても、よかったわ。薄いコンドームなんてものとは全然、違ったわ。まるでコンドームを着けない時のセックスのようだった。あなたが射精した時は、それが長く伸びて子宮に少し当たって、とても気持ちよかったのよ。』
と感謝されたって、さ。」
ナサリーナは期待感で乳房を揺らせると、
「竜宮王国から来月、コンドーム手当、が出るらしいわよ。今朝のネットニュースで見たの。」
「そうなのか。いいぞ、竜宮王国。我が国では開国以来、一度も、そんな手当はなかった歴史がある。」
「出産庁に申請すれば貰えるわ。来月は婚姻届けを出している夫婦にだけだけど、再来月からは未婚でもカップルなら貰えるんですって。」
ハルキンは思案顔で、
「カップルも出産庁に申請するのか?」
「いいえ。出産庁に行くのではなく、カップルは各地方の保健所でコンドームを貰えるのよ。再来月には各保健所にカップルのためのコンドーム交付室が設けられるそうなの。もちろん、そのためにはカップルで保健所に行かなければ、ならない・・・・・・

 再来月になった。ハルキン夫婦のタワーマンションの地下に住む、そこは分譲ではなく賃貸だが、あるカップルは二十代で収入も低いため、コンドームを保健所に貰いに行くことになった。
ハナリンとユータンのカップルである。ユータンは二十五歳の男性、ハナリンは二十一の女子で、同棲生活を送っている。超巨大タワーマンションの地下五階ともなると家賃も安い。B502号が二人の愛を育む同棲の場所だ。
ハナリンは地球のスマートフォンに似た携帯で、ネットニュースを見ると、
「竜宮王国より未婚のカップルにもコンドーム支給、なんですって。」
パートナーのユータンに話しかける。ユータンは痩せた背の高い二枚目の青年だ。彼は優しく、
「それは、すごい。なにせ、この国のコンドームって、やたら高くて買えなかったよな、ハナリン。」
「そーねー。妊娠したら、どうしよーって感じ、をいつも持ちながらセックスするのも気が気じゃないって感じ、がするもの。」
「おれも射精する度、びくびくするよ。もし妊娠したら、おろさないといけないし。」
「そーよねー。そんな事したら水子になってしまって。水子の祟りって怖いらしいわ。」
「まったく、もー。そんなものは、ないだろうけど堕胎の費用が高いもんな。」