SF小説・未来の出来事7 試し読み

 湖畔はヤシの木が並んでいる。黄金の湖面は波がない。太陽は何と空に二つ並んでいる。横並びの太陽だ。空を見上げた流太郎は鮫肌輝美子に、
「この星には太陽が二つ、あるんですね。」
「ええ、一つの太陽の光が弱くなると、もう一つの太陽の光が強くなる。それで地球みたいに四季は、ないのよ。つまり冬は、ないのね。」
「夏も、それほど暑くない訳ですか、この星は。」
「そうね、よく分かるわね、それが。」
「なんとなく、ですが、ハハハ。」
その黄金の湖は日本の琵琶湖より広いらしい。キアー、キアーと鳥の鳴き声が空から聴こえた。流太郎が見上げると、そこには金色のカラスが空を飛んでいた。二つの赤い太陽のもと、飛翔するカラスは椰子の木陰に姿を隠した。
 やがて二人はレストランのような建物の横に、ヨットのようなものが何艘か停泊している前に辿り着く。
ヨットに乗るための料金所みたいな場所は、自動券売機みたいなものが立っている。鮫肌輝美子はスマートフォンのようなものをミニスカートのポケットから取り出して券売機に、かざす。二人分のチケットを買ったようだ。券売機の横に警備員らしき男性が立っていた。流太郎が、その警備員をよく見ると彼はロボットらしい。波止場に似た湖畔のヨットに輝美子と乗り込む流太郎。輝美子がヨットを湖に出す。黄金の湖面の色は流太郎に異世界に来ている事を強く感じさせた。二人は並んで座っている。流太郎は口を開かずには、いられない。
「この湖からでも純金は取り出せるんでしょう、すごく多くを。」
輝美子の瞳には金色の湖面が映っている。彼女は答える。
「ええ、でも我が国の金は地球の砂みたいなものよ。地球の何処でも、こんなに恵まれている場所は、ないわ。わたし達から見れば、地球は貧しい国。南出裳部長の上の人は日本で株取引をしているけど、それは景気の流動性のない国で景気をよくするために取引をしているんだそうよ。」
「そうですか、この星では株取引は、ありますか。」
「もちろん、あるわよ。我々もUFOで地球に行くけれど、移動中に株取引をする場合もある。UFOの中の宇宙人って何をしているか、地球の人は考えないでしょう。じっとしていても、つまらないしね。地球の日本でも新幹線に乗って、あるいはリニアモーターカーに乗車中にスマートフォンで株取引は、できる。それと同じですよ、UFO内での株取引は。」
輝美子はヨットの船べりに両手をつくと、空を見上げるようにした。
湖ではヨットは他には見えない。それについて流太郎は、
「今日は、この星も日曜日なんでしょう。この辺は人もあんまり、来ないんですか。」
と質問する。ヨットの揺らぎが、彼には心地よかった。
「この辺は日本で言う田舎なのよ。もう少し暑く成れば人も来るわ。少し富裕な人達は他の惑星へ旅行しに行きます。地球にあるパスポートは、この星にはない。この星の国に軍隊はなくて、他の惑星からの攻撃を想定した軍備が、あるだけよ。だから国は、いくつかあるけど、この星にはパスポートは要らないし、他の惑星に行く際もパスポートは不要よ。いいでしょ、こういう国、星って。」
二つの太陽は均衡した輝きを見せていた。流太郎は夢のような国だ、と思い、
「地球も、いつか、そうあるべきだとは理想論として言われてきましたよ。でも、現実は・・・国の状態は二十世紀と同じですからね。救世主なんて結局、現れなかったし。」
輝美子は投げやりな微笑みを見せると、
「この星では地球は野蛮な星だという事に、なっているのよ。地球を指導している宇宙人なんて、いないわ。地球は観光に適しているとは思われていない。太陽は一つしかないし。むしろビジネス目的なら行ける。わたしも南出裳部長から沢山の報酬を出すから、と言われて地球に行ったわけ。宇宙なんて、とても広すぎるから地球人は、ほんの砂粒みたいな部分しか知らない。太陽が三つあって、夜のない星もあるわ。観光に適した星は、そこね。その星は人類は、何故か存在していなかった。核戦争で絶滅したのかしら。トウモロコシ畑みたいな所のそばにバナナが実っている。高い山に登れば林檎の木があるという素敵な星よ。」
流太郎は眼をギラッとさせ、
「食べ物には困らないんですね、鮫肌さん。」
と合の手を打つ。
「食べ物は、この星でも困る事はないわ。このヨットは水の中にも潜(もぐ)れる。」
鮫肌輝美子はヨットの側面にあるボタンを押した。するとヨットの両側から鉄の壁が突き出して、それは先端が斜めになり両方が接合した。つまり、その鉄の板はヨットの屋根になったのだ。
流太郎は驚いて、その鉄の壁を見ると潜水艦にあるような丸い小さな窓が両側の壁にあり、まだヨットは湖の中に潜っていないようだ。
 輝美子は別のボタンを押す。するとヨットは湖中に潜行し始めた。
丸い窓に見えていた湖上の風景は湖水に変わり、ずんずんと湖底に潜水艦へと変貌したヨットは降りて行っているらしい。
 流太郎は熱心にガラス窓を見ている。それは地球にあるガラスとは違う物質で出来ていて、地球のガラスより硬い。それはガラスにして鋼鉄のように硬いものなのだが、流太郎には透明度の高いガラスに見えた。そこに映ったのは湖中を泳ぐ大きなフグ、さらに深くなると巨大なサメのような生物。それも通り越すと潜水艦ヨットは湖底に着床したらしい、振動もなしに。輝美子は、さらに別のボタンを押すと次にヨットは自動車のように湖底を走り出した。ヨットにして潜水艦、次は自動車に変わる。なんという多性能な乗り物だろう。こんなものが、さりげなく湖に繋いであったなんて。
さぞや高価なレンタル料と思い、流太郎は訊いてみる。
「鮫肌さん、すごい乗り物ですね。随分、高いんでしょう、これ。」
「いいえ、そんなに高い物じゃないわ。地球の日本の煙草、ひと箱位かな。それで一日、乗り回せるわ。」
「そうそう、動力を聞いていなかったな。この乗り物の動力は何ですか。」
「最初は風で、次は調整重力よ。」
「調整重力。って何でしょう、それは。」
「この星にも重力がある。それを多方向に変えられるし、重力の強さも変えられる。はるかな太古に、この星で重力調整機が発明された時は、それはとても高価なものだった。でも生産が進めば価格は下落するもの、今では湖上のレンタルヨットにも使われているのね。」
「はあ、地球でも電化製品は似たような価格の変動ですね。」
「星の重力は下へ引っ張るけど、それを逆にしたり横にしたり出来るから、その力で、この乗り物は動く。UFOタイプは星間重力を応用しているものも、あるわ。」
「セイカン重力?精悍な男性とかの・・・。」
「星と星との重力ね。月と地球は引っ張り合うし、太陽は太陽系の惑星を引っ張っている。でも月や地球も太陽を引っ張るから、拮抗した力が惑星と恒星の距離を生み出して二つは衝突しない太陽系となっている重力を応用するのが、この星の一つの科学。地球人類には想像もできないものね。」
流太郎は沈黙してしまった。湖底を走っていたのが停車したらしい。流太郎は見た。ガラス窓に映っているのは金色の五重塔みたいな建物だ。湖水は金色とはいえ、薄い金色で湖中の中も見えるのである。だからフグもサメも、さっき流太郎は目撃した。
でも五重塔が湖の中に、あるなんて。しかも金色の五重塔だ。その五重の塔の一階の部分が左右に開いた。だが、その中に湖水は流入しない。流太郎が乗ったヨット型多性能乗り物は、その五重の塔の一階に入っていった。
 そこに入ると壁が閉まる。湖水は一滴も入り込まなかった。そこは地下駐車場みたいな場所で、常駐の男性の中年男の警備員がいた。
輝美子はボタンを押して鉄の屋根をヨットの両側に降ろす。
二人の姿を見た警備男性は、
「やあ、いらっしゃい。鮫肌さんでしょう?」
と日本語で聞いた。輝美子は、
「ええ、湖底日本人労働施設って、こちらですか。」
「はいはい、そうですよ。私も、ここで働くには地球の日本語を話せる方がいいと思って勉強しました。施設長から今日、鮫肌さんと日本人が来ると聞きましたから、二人が来たら中へ通すように言われています、施設長からね。さあ、入り口を開けますから。」
と話す、鼻の下に髭を生やした警備員だ。
鮫肌輝美子はヨットの座席を立ち上がると、
「さあ、時君、行くわよ。」
と声をかける。
日本人労働施設に入る?のだろうか、自分が?というより自分も?なのだろうか?
「行かないと、いけないんですか?あそこに。」
「入ってみないとね、貴方も日本人だし。さあ、さあ、お代は要らないから。」
流太郎は動かずに居座っても、いずれは連れて行かれると考え、それなら仕方ないと立ち上がった。
 五重の塔の内部ではあるが、そこは古風なものではなく白い壁の、白い廊下に白いドアが、廊下の両側に並んでいた。ドアが地球のものと違うのはドアノブがない、というところか。どうやって開けるんだ?と流太郎は思ったが、その一つのドアは横に開いた。警備員が手にしたリモコンのようなものでドアを開けたらしい。
そのドアの内部の部屋は大きな図書館ほども広く、本棚みたいなものも並んでいた。図書館にあるような広い机があり、そこに十人ほどの日本人が椅子に座って大きなパソコンに向かっていた。
流太郎は(労働施設って図書館の中でパソコンで仕事をする事か)と、思う。見たところ労働という雰囲気でもない。図書館で司書が座るようなところにいた若い男性の人物が立ち上がると、鮫肌輝美子と流太郎と警備員に近づいてきて、
「ようこそ。施設長から聞いています。鮫肌さんと日本人が来る事は。」
と気軽に話した。流太郎は自分も労働させられるのか、と思い、
「どんな仕事をしているんでしょう?彼らは。」
と尋ねてみた。
若い男性はニッと笑い、
「マイニング(採掘)ですよ。」
と説明する。彼らのしている仕事はマイニングなのか。
「マイニングって仮想通貨のマイニングのような事ですか。」
「そうです。この星の仮想通貨のね。人手が足りないから地球から来てもらったんです。日本人で仕事にあぶれている人は多いから、喜んで来てくれましたよ。UFOから現れて、ハローワークに並んでいる人に声をかける。その時、UFOは人間の肉眼では見えない、それと監視カメラにも写らないように、ある光線で保護膜を掛けておきます。人間の目に見えなくても監視カメラに写っていた、となると後で大問題でしょう。ハローワークにUFOあらわる、なんてね。それは一大センセーションです。そうならないように、していますからマスメディアなどは、もちろん、誰も我々に気づく事はない。それから話しかけて手ごたえのある人には喫茶店に誘って、話をしてみる。
「お仕事を探していますか?いい仕事が、ありますよ。」
とね。そしたら、
「本当ですか。ハローワークでも中々、いい仕事が見つからなくって困っています。」
と中年の男性などは、言いますね。
「四十代、課長クラスの首切りが人件費の軽減には、とてもいいから会社は躊躇うことなく実行するんですよ。もしかして、貴方も、そうですか?」
そうしたら、その男性、首を前に曲げて、
「ええ、上場企業で働いていましたけど、首を切られました。会社で何十年も働いた末に、それです。ハローワークで仕事を見つけていますが、私の前職の会社が、それなりのもので給与面でも、それに該当するものが中々、ないというのもありますね。」
「なるほどね。四十で転職も難しいのは日本では当たり前ですね。ヘッドハンティングは、もう少し年齢が上の人達を狙うものです。四十代が一番、転職しにくいものかもしれませんね。」
「そうですかね、やっぱり。コンピューターエンジニアだったんですが、大昔に比べると人材も多くて、若い人ほど最近の技術に詳しく、ともすると私のような年配は負けてしまいます。それで課長のような仕事をしていたんですが、特に要らないからと肩叩き、で依願退職させられました。退職金は貰ったんですが。毎日、することもなく自分で企業を立ち上げる力もなく、週に三度はハローワークで職探し。しますが、大手企業はね、ハローワークに求人を出さなくてもいいわけですから。で、ネットで職探しも叶いません。
第一、大卒者の仕事がない時代に又、なっているでしょう。」
「ええ、そうみたいですね。」
「何処の企業も人手不足はないです。ベビーブームなんて日本には再び、なかった。だから、そういう世代が辞めて会社は人手不足になる、という、ずっと大昔のような、そう、あれは平成とかいう頃でしたかね、そんなのもなかったでしょう?今までの日本では。」
「ああ、そうですね。人口も減り続けてますよね。又。」
そう答えた私の顔を見て、彼は、
「あなた日本人では、ないんでしょう?やはりヨーロッパの人、ですか。」
と聞いてきたので、
「ええ、北欧ですよ。」
と答えておくと、
「へえー、そうですか。そしたら、あ、そうだ。北欧に仕事があるんですね、だから声を掛けてくれたんだ。」
と嬉しそうです。
「そう、そんなものに近いですかね、ええ、ええ。」
彼は両手を胸の前で組んで、
「お願いします。コンピューター関連なら、一通り出来ますから。」
と私に頼み込む。
「おお、それは、こちらも希望していたところですよ。ご家族は、いらっしゃいますか、貴方。」
「いや、それが独身です。女房はいたんですが、私の給与が彼女の思うように上がらないせいか、イケメンのホストと同棲しているらしいですよ。取り戻すつもりは、ないし。」
「お子さんは、いらっしゃいますか?」
「いえ、ちょっと女房が不妊症らしくてね、ええ。」
「それでは気軽なものじゃないですか。」
「でも北欧でしょう、あなたの会社。」
「ん、まあね、遠いですけど、すぐ行けますよ。心配ないです。」
「パスポートとか作らないと、いけません。それは、県庁に行けば、いいから。暇だから、いいけど、北欧の言葉は何も知りませんよ、私。」
「語学は心配いりませんよ。日本語の分かる人達の部署が、あります。それに、そこは他にも日本から来た人達が働いていますから。」
彼の目は暁の星のように輝きました。
「それは、いいなー。すぐにでも、行きますよ。お国は、どちらですか?」
「行けば分かります。すぐに乗り物を用意しますから。」
と喫茶店を出て、会計は私持ちで。
近くにある広い公園。平日の午前なんて誰も、いません。私は空に向かって指を鳴らす。即座にUFOが私達の目の前に着陸。四十代の元、課長の男性は、
「な、な、なんと空飛ぶ円盤では、ありませんか。あなたは、もしかして、宇宙人?」
と幾分、顔が青ざめています。
「そう、その通りです。でも、ご心配なく。大昔のSFみたいに侵略目的で来ているのでは、ありませんから。」
「そ、そうみたいに見えます、が・・・・。」
「どのみち日本にいたって仕事は、ありませんよ。いい思いの出来るのは一部の日本人だけです。又、そういう社会になっているんです。こんな国に未練が、ありますか。」
と諄々と私は説きました。
「そう言われれば、その通りです。いや、ありがとう。あなたは日本語が巧い。それで声だけ聞いていれば日本人と思ってしまう程です。国際社会というより宇宙社会の時代かもしれませんね。私は運が、いいのかもしれない。行きますよ、貴方の星へ。」
という事で、彼にも宇宙船に乗ってもらえました。」
と、その若い男性は揉み手をして話した。
流太郎は、
「マイニングって地球では電気代が、とても、かかるという事らしいですが。」
と質問すると、その若いレプティリアンは、
「この星ではフリーエネルギーです。電力は無料なんです。」
と即答しました。
流太郎は次に、
「それでは電力会社の給料は、どうやって調達しますか。」
と尋ねると、
「それは、もう、税金ですよ。ですから電力税は、ありますね。」
「電力を使った分の税金、ですね?」
「ええ、そうです。おっしゃる通り。」
「それでは、やはり電気代、ならぬ電力税を多く払うという事になりませんか。」
「それは、その、国家的プロジェクトですから。我々の給料も税金ですから。」
「ああ、なるほど。それなら分かります。」
「仮想通貨のマイニングは我が国の国家予算で支払われます。いずれ、地球の仮想通貨と連動させなければ、ならないと思います。」
壮大な計画だ、と流太郎は思った。
やはり、まずはビットコインとの連動か。でも、他の惑星、それも何万光年も離れた星と仮想通貨を連動させる、には?流太郎は、
「どうやって、連動させますか?」
と聞いてみた。
「あ、それは簡単です。取引所を開設して新規コインを発行する。大昔、月の土地を売買している会社がありましたが、あんな風にするのもいいでしょう。もっとも、月には先住者がいるから本当には月の土地は勝手に売買は、できませんけど。真実を知る国は月から撤退しているでしょう。中国の探査船は、しばらく泳がせておくらしいですが。」
日本が月面に宇宙探査船を着陸させなかったのは経済的にも、よかったのだろう。流太郎は、
「仮想通貨で地球でも大儲けですね。」
と言ってみる。
「ええ、そうですよ。ここでマイニングの仕事に従事しませんか?」
と流太郎は誘われた。
「労働時間は、どの位でしょうか。」
「一日、六時間ほどです。」
なんと短い。それでは労働とは、いえない。地球の感覚としては。
「そんなに短くて、いいんですか。」
と流太郎は訊き返す。
「わが国の平均労働時間は三時間ほどですよ。週休三日制ですね、それに祝日もあります。」
「そんなに休みが、あるんですか、へえー、。」
「ゴールデンウイークは希望する人には二十日休めますよ。」
「二十日も。そんなに休んで、収入の方は大丈夫なんですか。」
「もちろん。そうでなければ休めませんよ。ね、鮫肌さん。」
管理者らしい若い男は輝美子を見て云う。
「ええ、そうです。わたしも今度、十日休む予定ですから。」
それに対して管理者曰(いわ)く、
「鮫肌さん、働きすぎですよ。彼氏と別れたの、いつでしたか。」
「三十年位前かな、ふふふ。」
管理者は流太郎を一瞥すると、
「地球人と、付き合うのもいいかもしれませんね。その人も、でも仕事がないんでしょう?鮫肌さん。だから、ここへ連れて来た。」
と身を乗り出す。
流太郎は慌てて、
「ぼく、仕事はあります。今日は日曜日だから、休みでした。鮫肌さんも、この星が今日は日曜日だと言いましたけど。」
と遮るように口を出す。鮫肌輝美子は落ち着いて、
「この人にはマイニングを見学してもらいたかったのよ。働いてもらう気は、わたしには無いけど。」
と解説した。
若い管理者は両肩を落とすと、
「それは申し訳ありませんでした。ここのマイニングは労働者の自由意思で休日も働きたい人は、働いてもらっています。その分、貰える報酬が増えるからです。現金の他に仮想通貨も支給しますから、株のストックオプション制度に似ていますね。」
と、それでも、まだ流太郎にマイニングしてもらいたさそうだった。輝美子は流太郎の視線を追うと、彼はもうマイニングの作業を見ていなかった。それなので、
「そろそろ、ここを出ましょうか?時さん?」
「は、ええ、出たいですね。」
「それじゃ、若き管理者さん、さようなら。」
「お疲れさまでした、お気をつけて。又、よかったら、この日本人労働施設に、お越しください。」
残念そうな、その管理者の視線を振り払うように流太郎は身を翻して輝美子に続いた。
 潜水艦ヨットに戻った二人は、さっきの警備員に門を開けてもらう。扉というより、その階の壁の全てが開いても湖水は流入してこない。輝美子は右足を押してエンジン、それは重力調整装置だが、を発進させた。潜水艦ヨットは湖水に潜った時、すでにヨットの帆は鉄の屋根の中に降ろされている。流線型の船体を再び、黄金色の湖水の中に辷(すべ)らせていく。
 それにしても、と流太郎は思う。今日は地球では日曜の午後だった。だが、もう、だいぶ時間が経過したから日没へ向かっている筈だが、湖水の中とは言え明るすぎる。時差?なのか。それを聞いてみよう。
「鮫肌さん、今、午後なんでしょう、この星で。」
「いいえ、まだ午前中よ。もうすぐランチタイム。貴方は何を食べる?」
「ぼくとしては夕食になります。何があるか知りませんから、何を食べられるんですか。」
「あら、ごめんなさい。そうだったわね。地球人のあなたが知る由もないわよね、この星の食べ物を。あ、そうそう。お腹がまだ減っていないのなら、このキャンディーをあげるわ。」
潜水艦ヨットの中央にあるテーブルのようなものの中から、輝美子は丸い包みの小さなキャンディーを流太郎に差し出す。それを受け取り、流太郎は両手でキャンディーの包装を開けると、メロンの色をした丸いキャンディーだった。
口に入れると流太郎は、地球のメロンより更に甘い味覚を味わった。
 輝美子は大きな丼のようなものを手にしている。丼の中は空だ。彼女はヨットのパネルの一つのボタンを押すと、
「xqw88::::」
とでも聞こえる、その星の言語で何か話した。何かを注文しているようだ。その話しを終えると輝美子は流太郎に、
「今、食事の注文をしたのよ。」
と話す。
彼女が持つ銀色の丼の中にクリームシチューのようなものが底から湧いてきた。丼の上部に細長いフランスパンが二つ、並んだ。輝美子は流太郎にフランスパンの一つを手渡し、
「食べてみてよ、おいしいよ、これ。」
と勧める。流太郎は、
「ありがとう。いただきます。」と礼を言うと、それを口の中に頬張ると、そのパンの中に細長く切られたメロンが果実として入っていた。(これが本当のメロンパンだな)と流太郎は、舌先の心地よい食感を堪能した。輝美子はフランスパンを食べ終わって、ドンブリの容器を手に持つと右手で丼の側面にあるボタンを押す。すると丼の中のクリームシチューのようなものが噴水のように沸き上がり、彼女は、それを口の中に入れてしまった。
不思議な事に丼の底まで、綺麗にクリームシチューらしきものが無くなっていた。輝美子は、
「それでは、と。上昇するわ。」と宣言する。潜水艦ヨットは湖面に向かって急上昇した。黄金の水の上に現れたヨットは潜水艦の鉄の壁を降ろし、その代りにヨットの帆を広げた。爽やかな、そよかぜが二人の頬を心地よく撫でる。
輝美子は計器盤のようなものを見ると、
「地球の日本では日没のようよ。時さん、ここから帰りなさい。」
「えっ、ここから、どうやって帰るんですか?考えられない事です。」
「貴方を光線に分解して、瞬時に地球へ戻すから。」
輝美子は計器盤にある一つのボタンを押した。その近くから流太郎に投射された黄色い光は、彼を包むと小さなスピーカーのような物の中に吸収された。流太郎の姿は、もう、その星には見えなくなっていた。

 流太郎は気が付くと、地球の日本の自分の部屋にいた。(あれ、今までの体験は夢だったのか・・・)と思ってみる。が、しかし、口の中に残っていた地球のものより甘いメロンの小さな果肉が、舌先に触ると、(やはり、あれは本当にあった事だったんだ!)
部屋は薄暗かった。太陽が沈んでも、しばらくは闇にはならないものだ。それでも部屋には照明が必要だ。流太郎は携帯電話で照明をつけた。これは部屋の外からでも、できる。インターネット接続で可能なもので、別に不思議なものではない。
不思議なのは鮫肌輝美子に連れていかれたレプティリアンの星だ。黄金の湖に、その中にあった五重の塔のマイニング施設。この事を誰かに話したい。今はまだ19:00PMだ。よし、電話を掛けよう。
流太郎はノートパソコンから通話する。パソコンの画面に株式会社夢春の籾山社長の顔が現れた。籾山も自分のパソコンを見ているようだ。籾山は口を開くと、
「日曜の今頃、どうしたんだ?時。」
と聞く、流太郎は、
「社長、今日は、とても不思議な体験をしました。五万光年先のレプティリアンの星に連れていかれたんです。」
「ほ、お。有り得るかもしれんな、そういう話。」
「潜水艦ヨットにも乗せてもらったんです。我が社でも開発できたら、いいと思います、潜水艦ヨットを。」
「そんなものは無理だな。資金なし、技術力なしだ。それより時、営業に行ってもらいたいんだ。明日、会社で話そうと思っていたが、丁度いい、今、話そう。」
「は、どこへ行けば、いいので。」
「あるUFO関係の団体が福岡市内にある。そこのホームページのサイバーセキュリティの依頼が、今さっき突然来た。会社に誰もいない時は、おれの携帯に転送される。日曜だけどな。だから、時。おまえも働いてくれ、とはいっても、そこに訪問するのは明日でいいよ。」
社長の籾山はパソコンの画面の中でニヤッと笑った。流太郎は、
「分かりました。明日、朝一番に行きます。」
「ああ、頼んだぜ。楽しみにしているよ。」
パソコンの画面から籾山社長の顔は消えた。向こうの方で電話を切ったのだ。
 翌朝、流太郎は早朝に出勤した。社長の籾山は、それより早く出社していた。さすがは社長か。籾山は社長の椅子から立ち上がると、
「やあ!早く来てくれると思っていたよ。先週より今週の我が社の株価に期待していい。それよりなによりも、まずサイバーセキュリティの営業に行ってもらいたい。出先は昨日パソコン電話で君に話した福岡市内のUFO関連団体だねー。中央区薬院にあるのさ。とあるビルの一室らしい。私はまだ行った事が、ないビルだ。ビルの名前はパインアップル・ビルらしいよ。地図も渡して置く。君の机の上に置いてあるから。」
籾山は貫禄の出て来た体格になっている。少し、腹も出て来た。流太郎は未だに線のように痩せた体だ。
「分かりました。行ってきます。」
「がんばってくれよ、ね。」
流太郎が部屋を出ていく時、籾山は右手を振った。

 福岡市中央区薬院は福岡市の中心部の天神より南にあり、私鉄の駅としては天神駅の南にある。この天神という名称は、小さな天満宮が祀られているところがあるところから、だ。今ではビルの谷間の中に、ひっそりと存在する。高度なテクノロジーの時代になっても、日本には、このような社が存在し続ける。
それは、かつて羽田空港を建設した際にも起こった、社を取り除けようとすると怪事が起こるからでもあろう。
私鉄の薬院駅を降りると、ビルが乱立している。国道から南へ五分も歩くとタワーマンションが、いくつも見えた。流太郎の小学校の同級生も、あのタワーマンションの中に妻子と住んでいると彼は聞いている。
この薬院ではタワーマンションが増えすぎて、小学校の教室に生徒が入りきれなくなった。それで、どうしたかというと小学校の建物も上に増築していったのだ。タワー小学校みたいに見える建物が流太郎の瞳に反映した。彼は歩道の区分のない道を、のんびりと歩いていく。UFO関係の団体か。福岡市では珍しい組織。いや、組織では、ないのかも。会社でも、ない団体だろう。流太郎にとってUFOとは見慣れて、乗りなれたものなのだが。だが、二十二世紀の今日でも一般的な日本人は空飛ぶ円盤に接触する人は少ない。そもそも明治の前の江戸時代は、もちろん、大正、昭和の初めまでUFOなどというものは誰の口の片隅にも上る話題ではなかった。それは世界的にも、そうではなかろうか。世界で最初にジョージ・アダムスキーがUFOを目撃したのみならず、中から現れた金星人と会話をしたのが1952年で、その会話は、もちろんテレパシーだったそうだ。流太郎の場合、異星人は日本語を知っていた。どころか流暢に話してくれたのだ。地球では外国に行く場合には外国語を知らなければ、いけない。日本に来る外国人は、おぼつかない人もいるけど大抵、日本語は勉強して、来る。地球に来る異星人は地球の言語を学習しているのだろう。それよりも、これから会う団体の主催者は日本人ではないらしい。
メールド・ヨハンシュタインという名前らしい。長年の活動で会員名簿も増え、クレジットカード決済もホームページ上に載せているためサイバーセキュリティが必要だ、そうだ。というのは電話で聞いた話。と頭の中で流太郎は思い出しつつ、目の前に見えたのはキリスト教の教会のような建物だ。
UFOアプローチ・ジャパンと横書きの表札があった。鉄条門のため庭らしきところも見えるが、入れない。と思ったら、スルスルと鉄条門は横に開き、流太郎が通れるくらいの隙間は空いた。(どうしようかな)と流太郎が思っていると、門のところにあるインターフォンのスピーカーから、「時さん、お入りください。」と若い女性の声がした。メールド・ヨハンシュタインは女性だったのか。流太郎は遠慮なく門内に入る。西洋風の庭園を横切ると玄関があり、そこでもチャイムを鳴らす前に玄関のドアは開いたのだ。
 玄関のドアの中にいたのは若い女性で、透明のような白さの肌の若い女性だった。緑色の瞳で、黒く長い髪は彼女の肩の下まで伸びている。流太郎は会釈すると、
「株式会社夢春の時と申します。サイバーセキュリティの件で今日は、お伺いしました。」
その女性はニコリともせず、
「ヨハンシュタインは不在ですが、わたしが応対します。さあ、中へ。」
と明瞭な日本語で話した。
西洋館らしく、靴は脱がなくてもいい。その女性がドアを開けた部屋は事務所らしかった。机は二つあって、ノートパソコンが置かれている。サイバーセキュリティが必要らしい。流太郎は、それらのパソコンを見ながら、
「ハッカーが欲しいのは、お金よりもUFO情報じゃありませんか?」
と尋ねると、その女性は、
「ええ、何度か狙われました。情報の一部はファイルごと持ち去られたものもあります。幸い、それらのファイルは、それ程、機密の高いものではなかったのですが。申し遅れました、わたし、ジェノア・フランシスといいます。」
彼女の瞳は深い湖のような静けさを漂わせている。流太郎は、
「こちらこそ、申し遅れまして、すみません。先ほどは苗字だけでした。時流太郎と申します。」

sf小説・未来の出来事6 試し読み

 それで流太郎は、
「テスラ波で何の情報を送っているんだろう、地球から。」
と綸蘭に聞いてみた。
「バリノさんの話では、地球の全人口とかも送られているらしいわ。」
「そんな事まで!他には、どんなものを?」
「世界各地の気温とか、湿度とかなどもね。スフィンクスの目を通して世界各地を撮影しているらしいけど。」
「エジプトのスフィンクスは、そのために、あったのか!」
 なるほど古代に現れた宇宙人は粋なものだ。美術品的な建造物に実用的な目的を潜ませる。それでエジプト人は何ら怪しみもせず、又、現今までスフィンクスの本当の目的を人類は知らずにいた。綸蘭は続けて、
「その情報は火星にではなく、プレアデスに送られているとも言われています。プレアデス星人は大体において善なる存在だそうだから、地球は安全なのよ。そうでなければ地球人は奴隷以下の存在として扱われていたでしょう。」
流太郎は、善なる宇宙人だからこそ地球人は宇宙人に対して無知でいられたのだろうと思った。数限りなく多くの人達、特にメキシコやマレーシアで目撃されたUFOでさえ、他国のアカデミックなところでは黙視されてきた。それは自分達の拠り所とされる地球の幼稚な科学的根拠が崩壊するからである。そもそも地球の宇宙に対する科学の程度は群盲がゾウの体をあちこちと撫でているのと同じで、ある者はゾウの尻尾を象だと言ったりしている。いずれ天動説が崩れていったように地球人は自分達よりも数万年か数千年進歩した宇宙人の存在を認めなければ、ならなくなるが、天動説を当時の教会が固執したように現代においても地球オンリー説に固執するところが存在する。
一つは頭がいいと己惚れている大学教授らが断固として宇宙人の超科学を否定し、太陽は爆発し続ける星だという今の地球の科学で説明可能なものにしていなければ、更に無知なる大衆の失笑、非難を買うこと必至であるがため、新しい正しいものを否定し続ける。それを旧来のメディアは追随してきた。ところがガリレオ並みの勇気ある人たちが動画共有サイトで火星の真実なども暴露、リークし始めたのは随分前からだ。
博多湾の上に浮かぶ愛高島も世界第一の不思議と称えられても、その原理は今の地球の科学では解明できない。ヘリコプターや飛行機、さらに高度な地点での人工衛星などによって愛高島の島の上を実際に見ることができるのだが、それらのものが出来ていない時代には愛高島は地上からしか見ることが出来なかったのだ。
真上綸蘭は一息つくと、
「一つ下の階で映写室があります。そこで何か面白いものを放映しているみたいだから、行きましょう。」
と若い女性らしく流太郎を誘った。
下の階へ行くエスカレーターのところにいくと、綸蘭は、
「どちらかの手を手すりにかけると、体が浮くわ。見て。」
と説明し、エスカレーターに乗ると右手を手すりに掛けた。すると不思議!綸蘭の体は足の下が数センチは浮き、右手で支えた形になる。
昔、いたイギリスのマジシャン、ダイナモがロンドンを走るバスに片手で手のひらをバスの車体の側面につけ、空中に浮いたままの姿勢でバスが走っていく、という動画共有サイトで見られた光景を思い出してもらえば、分かりやすい。
綸蘭の場合はエスカレーターの手すりに右手で、それを行っている。流太郎は、
「すごいなあ、僕にもできるのかね、それ。」
と後ろ姿の綸蘭に訊くと、エスカレーターで下りゆく綸蘭は、
「誰でも、このエスカレーターでは出来るわ。やってみて。」
と返事をしてきた。
流太郎も右手を手すりにおくと、エスカレーターの上で流太郎の体は数センチ浮上した。
「うわああっ、浮いたよー。」
と叫ぶ流太郎は先にエスカレーターで降りて、その近くに待って立っている綸蘭の睫毛を伏せている笑顔を、下降しながら見た。
 不思議な映写室とドアの上に表示されていた。そこへ入ると、まだ観客はいなかった。やがてブザーのような音がして館内は暗くなる。綸蘭と流太郎は最前列の中央で並んで、映写幕に映るものを見ていくことになる。
大きなスクリーンに石器時代の地球が映し出された。次に現れたのは古代人。簡単な服を着て、手に石の斧を持っている。
次にマンモスが現れる。その時、この古代人が巨人、である事に見ている二人は気づいた。
身長四メートル以上だ。彼はマンモスと戦い、石斧でマンモスを倒した。
ドスンッ!と倒れるマンモスの肉を石斧で切り刻み、巨人は、その肉を抱えられるだけ、抱えて森林の中の洞窟に持ち帰った。その洞窟は巨大なもので、そうでなければ巨人は暮らせないだろう。中には若い女性、おそらくは巨人の妻であろう、これも又、巨人の四メートルはあろうという体を洞窟の中で座って待っていた。
その巨人の女性は胸は、なにも纏わず、白い乳房を露出している。巨大な胸だし、乳首や乳輪も巨大だ。現代の普通の女性の二倍以上の乳房だ。顔や腕、足もその位の大きさで、巨人の女は腰の周りに白い布を巻いている為、陰毛や尻は見えない。
スクリーンに但し書きのような文字が現れ、
これから行われる会話は日本語で字幕として、画面下に現れます。
古代巨人夫妻は会話を始める。妻が、
「わあ、すごい!マンモスなの?今日は。」
と両手を叩いて乳房を揺らせた。
「ああ、簡単に倒せたよ。」
洞窟の中では小さな焚火が燃えている。妻は夫が置いたマンモスの肉の一部を手に取ると、焚火で焼き始めた。彼女は、
「炭も置いているから炭火焼きなのよ。おいしくなるわ、今日の焼肉。」
と古代人にしては知恵がある発言、それとも巨人として当たり前な文化の度合いを示す発言なのか、それを楽しそうに話した。横から見える彼女の姿は尻の膨らみも凄く、百八十センチはヒップサイズとして、あろう。バストも百八十センチほど、あるらしい。ただ洞窟の中では彼女の体と対比するものが、ない。スクリーンで見ていても、黒い長い髪の、白い肌の、目も黒色の成熟した女性としか見えない。
焼肉の二枚目を火にくべようとした時、美巨人女性の腰の布が落ちた。巨人の男は寝そべって、妻を正面から見ていたので、彼女の大きな股間の黒い恥毛と、その下の女の縦の溝を見てしまった。
「おうい、焼肉より、おまえのその足の付け根の穴の方が、おいしそうだなあ。」
と涎を垂らしながら巨人は立ち上がる。その時、巨人のペニスも隆々と勃起していた。勃起すると男の腰の布は落ちるようになっているらしい。巨人の男のペニスサイズは五十センチは、あるだろう。妻は、それを見ると、
「いつみても逞しいわ。早く、ほしい。」
と話すと、二メートル近い白い両脚を広げて寝そべった。
画面に
学術的に作成された映像ですので、真摯に観察しましょう
という但し書きが出た。
巨人の男は妻に、のしかかると五十センチを妻の細長い、現生人類の二倍強の女性器に挿入していった。
巨人であるから荒々しいセックスかというと、そうではなくてスローセックスともいわれるもので、映像は二時間も二人の巨人の性交を描いていた。流太郎は綸蘭の横顔を見たが、彼女は真剣に古代人の性行為を眺めていた。
文章での記述では会話は日本語で表記したが、映像の中では古代語と思しき言語が交わされ、性交中に美巨人女性が発する声も古代語らしく、
「ええあっ。」とか、「あうあうあうんっ。」と聴こえる快感の言語的表現もあった。
二人の身長が四メートル以上という事を頭に入れておかないと、ただの古代人の性交映像と見られてしまうだろう。
性交は終わった。巨人の男は焼けた肉を手に取って食べると、
「よく焼けすぎたな。まあ、ウェルダンだから、いい。」
と焼肉の焼け方の評価をした。
美巨人女も焼肉を食べ、
「おいしい、ね。お腹もいっぱいになると、又、セックスしたくなったわ。今度は外で、しましょう。」
と男の三十センチに戻ったペニスを右手で掴んで立ち上がる。
「おっとっととと。急いで立つと、ちんこ切れてしまうぜ。」
巨人男も慌てて立ち上がる。スクリーンに
野外セックスも学術的興味を持って御観覧ください

 二人は晴天の森の中で、長い木の枝の下で立ったまま結合すると、二人は両手を伸ばして木の枝に掴まり、ブランコで揺れるように性交時の結合のまま、空中を揺れた。
二人の巨人を同時に支える木も巨木で、枝も太い。巨人の女は両足の裏を巨人男の尻に絡めている。
サーカスで男女が揺れるものが、あるが、古代の巨人の男女は性交したまま、それも二人が向き合ったままでの結合状態で大きく揺れているのだ。
巨人の男は、
「おお、たまんねえ。次は位置を変えよう。一度、木の枝から降りるべえ。」
と妻に話すと、
「そうするわ、うええ、あうううっ。」
二人は木の枝から離れると、地面に着地し、体を離す。次に巨人の美女は背中を夫に向けて、両脚を大きく開く。夫の巨人は再び五十センチになった、巨大な男根を妻の巨大な女性器に深く挿入、そのまま二人は巨木の枝に手で掴まり、ぶらさがると前後に結合したまま体を揺らせていった。
ここで映像の一部は終了した。
流太郎は、
「続きは、あるんだろう、これ?」
と綸蘭に訊くと、頬を染めた綸蘭は、
「この映写室、まだ一般には公開されていないの。続きは製作中という話よ。」
「あれさー、俳優がやっているんだねー。」
「いいえ、CGによる古代人の再現映像です。」
「それにしては、よく出来ている、凄すぎる。」
「現存の人類の記憶には、ほぼないものをアカーシック・レコードから採取して火星の映像制作会社が作ったものなんです。」
「アカーシック・レコードって、なに、それは。」
「人類の発生から現在までの全ての出来事を記録しているのがアカーシック・レコード。」
「映画は終わったから、出ないといけないんじゃないか。」
「入場者は他に今日はない、というより、まだ一般的に未公開だし、わたしの権限で、いられるのよ。」
「それなら安心だ。僕のアカーシック・レコードも何処かにある、という事だね。」
「誰のも平等にある。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の分まで、あるかは、わからないけど。」
「神話の神様の伊弉諾尊だろう?神界は深い海の深海のように理解できない。」
「それよりも今日は何か動くって、バリノさんが言ってたわ。」
「何が動くんだろう?」
「さあね、それは、わたしにも分からないわ。出ましょう、ここから。」
綸蘭はスラリ、フワリと立ち上がった。映写室を出ると、例の片手で手すりに摑まると足が宙に浮くエスカレーターに乗って、二人は一階に降りた。そこにレストランがあった。
綸蘭はガラスの向こうに見えるメニューを見ると、
「食事にしましょう。時さん、お腹、空腹じゃないの?」
「そういえば、昼になったね。ここのレストラン、変わっているな。」
「最先端のレストランなのよ。牛鰻定食って、面白そう。高いけど、わたし、これにする。」
「僕も、それにするか。真上さん、中に入ろう。」
二人は、その店の前に立つとガラスの扉が開いた。のみならず、二人の立っていた床面が店の中に移動したのだ。それで、二人は歩かずに店内に入っていた。
店内は牛丼屋みたいで、チェーン店とかと違うのは座敷がある。店内は誰もいなかったのだ。店主らしき中年男が、
「いらっしゃい。四人が座れる座敷にどうぞ。うちは高いのか、あまり、お客さんが来ないので貴方達は大歓迎です。」
と声をかけてきた。板前風の白い和服の上下を着た店主は、座敷に向かい合って座った綸蘭と流太郎に、おしぼりと、お茶を持ってきて、
「なんにしましょうか。とりあえず、ぎゅううな定食は、おすすめです。」
と話す。綸蘭は、
「鰻と牛肉が入った丼ものね。」
と訊く。店主は、
「そうだけど、これが御客さん、牛の体の一部が鰻になっている牛を使っているのですよっ。」
と説明する。綸蘭と流太郎は同時に笑うと、流太郎は、
「そんなー、また、また。」
と受け答える。店主は真顔で、
「本当なんですよ。この島の管理者はバリノさん、ていう火星人だけど、」店主は綸蘭を見て、
「話しても、いいのかな真上さん。」
と訊く、綸蘭は、
「ええ、この人になら、いいわよ。」
店主は、うなずき、
「火星で牛と鰻を合成したんだって。」
と言うではないか。流太郎には、よく理解できなかった。
「牛と鰻を、どう合成したんです?」
店主は、
「雄牛の精液に鰻のDNAを混入して、牝牛と交合させたら、できた子牛には腹から鰻のようなものが垂れ下がるそうですよ。それが牛の肉と鰻の肉の混じったモノらしく、おいしいんですよ、とっても。」
流太郎は、
「その鰻には頭は、あるのかなあ。」
店主「頭は、ないそうです。ぎゅううな定食に、しますか?」
二人は、うなずいた。
早くもないが遅くもない出来上がりで、二つの丼が二人の前に置かれた。
流太郎は丼に並んでいる肉に驚く。それは牛肉にウナギの蒲焼きが二つ、くっついたものだ。店主は自慢そうに、
「なるべく牛が生きている時の姿に、したくってね。鰻だけ蒲焼きにするのは面倒ですけど。」
と説明してくれた。
流太郎は食べてみて、鰻と牛肉のくっついた肉の味わいを感じた。
レストランを出て、ピラミッドも出た二人は空に浮かぶ雲を見た。雲の動きから流太郎は、もしかしたら、この浮かぶ島は今、動いているのではないか、思ったのだ。
「真上さん、愛高島は動いているんじゃないの?」
「そうね。東に向かって移動しているみたいよ。」
「浮かぶ島が動くなんて。」
「浮かんでいるだけじゃ物足りないわ。」
島が動く速度としては速いのか遅いのか、流太郎には分からなかった。
だが地上にいる人達は空を見上げて、島が動いているのを見た!
「おい、愛高島が飛行を始めたぞ!」
「ほんとだ!空を飛んでいる!」
博多湾の沿岸から愛高島を眺めていた人達は、東に向かって飛んでいく愛高島を驚嘆のまなこで見つめ続けた。
 愛高島は瀬戸内海を渡り、伊勢湾を通り過ぎ、駿河湾へ到達すると、そこで一時、停止した。
駿河湾は日本で一番深い湾で最深2500メートル、ある。日本一高い山の富士山と対照的だ。
雲を見つめていた綸蘭は、
「止まったわ。腕時計にある位置情報を見るわね。」
彼女は突風が吹くと折れそうな左腕を上げると、多機能腕時計のガラスの面を見る。
「今、愛高島は静岡県の駿河湾の上空よ。」
と笑顔で流太郎に告げる。流太郎は驚くと、
「そんなにも移動したのか。並みのジェット機より速いじゃないか。」
「推進力が反重力だそうだから、自由自在に燃料なしで速度を上げられるらしいわ。」
「反重力とは偉大だね。」
「あなたと、わたしの間にも重力は働いているけど体重の重さの方が勝っているから、自然にしていたら体がくっつく事は、ないの。」
綸蘭と抱き合えれば、それは幸せな重力だ。康美との間には反重力が働いたのだろうか、と流太郎は思った。
愛高島の他の人達は、この移動に気づいていないのかもしれない。地上にいる人々も日曜日に空を見る人は多くはない。釣りをしている人はウキを見ていて、空は見ないものだ。
偶然にも空を見て、駿河湾の上に巨大な島が静止しているのを目撃した人は、UFOを見るよりも驚いた。
やがて愛高島は相模湾へと移動を開始した。相模湾も水深が深く、駿河湾に次いで日本で二番目の深さだ。水深1500メートルの深さのある場所がある。
この相模湾の上でも愛高島は停止した。相模湾の深い場所は小田原より西であるのだが、愛高島は更に江の島の真上に飛行を続け、そこで飛翔を突如、停止した。
日曜日だけに観光客も多く来ていた江の島が、いきなり曇り空のように暗くなった。空を見上げた観光客の若い男が、
「うわあっ、あれは何だっ!!」
と大声を上げたので、周りの人々も一斉に空を見上げる。そこには、江の島よりも大きな円形の巨大な白い物体が浮かんでいるのだ。巨大なUFOに見える。愛高島の底部は火星の白金で作られている。
「UFOか?あれはー。」
「いきなり現れたぞー。」
多くの人は携帯電話でカメラに撮影し始める。へたへた、と座り込む女性も見られた。そこから逃げようにも浮かぶ物体は江の島より大きいのだ。走っても、その白い円から抜けられない。それに過去、大きなUFOはメキシコやマレーシアで多くの人々に目撃された。その時、その人たちは逃げもせず現れた円盤を見ているのだ。
それらの事実から今、江の島にいる観光客も逃げ出そうとする人は、いない。
ただ、あの巨大な江の島より大きな物体が真っ逆さまに落下すれば、そこにいる観光客は全員、圧死するだろうし、江の島神社も全壊する。
とはいえUFO落下事件は、滅多に起こらない。それもあってか人々は冷静でいられた。
学者風の中年男性が口を開き、
「もしかして、あれは福岡市の博多湾に浮かんでいた愛高島ではないか、と思う。」
と右手を自分の顔の眉のあたりに翳(かざ)しつつ、意見した。周りの人達も、
「そういえば、そうだな。あれ位の大きさだった。」
「でも博多湾の上に静止していたんだろう。」
「最初は何処からか、飛んできたはずだよ。」
「何処から、飛んできたんだろう。」
「もしかして地球外から、か。」
「そんな事は、ないさー。あれ位、大きな物体が地球外から飛んで来ればNASAなら気づく。」
「そういえば、そんなニュースもなかったなあ。」
それで愛高島は世界中から注目されている。日本の方からも愛高島の出現をうまく説明できる人物は出てこない。
カメラに撮影しない人達は真っ先に携帯電話で誰かに話していた。
十分もすると愛高島は移動を始める。その速度は一瞬にして江の島を離れ、下にいた観光客らは次の瞬間、愛高島を見失ってしまった。
次に現れた愛高島は東京湾上だ。それから皇居の真上、そしてJRの山手線に沿って東京都区部を一周する。
愛高島のピラミッドの近くの野原にいる真上綸蘭と時流太郎は、携帯電話でバリノの説明を受けた綸蘭が、
「今、東京の山手線に沿って、右回りで動いているそうよ、この愛高島が、ね。」
と話すと、流太郎は、
「信じられないな。動いているのが感じられない。」
「愛高島の周囲に目に見えないバリアを作っているんですよ。それで風も吹かないし、揺れも感じないの。」
「ジェット機よりもリニアよりも揺れないね。」
「この島自体が巨大なUFOなんです。これでも小さな方で、木星の大きさのUFOも火星のものではないけど、存在するんだそうよ。」
「木星と同じサイズのUFOか。それも信じられない話だ。それじゃあ木星もUFOか、という話になるね。」
綸蘭は、それに対して生真面目に、
「月は人工物でUFOのようなもの、という事らしいわよ。」
「またー、そんな事は、ないだろうー。」
「月だって地球より遠くから飛来してきて、地球の軌道と一つになって回っているけど、月の内部は宇宙人が住んでいます。それに月は地球に多大な影響を古来から与えているわ。女性の月経にも月は影響を与えているし、満月に事故がおおいとか、月の重力が海の波を起こすし、これらは宇宙人が人類を実験するために月を送り込んだそうです。火星では小学生でも知っているんですって。」
「月には女神じゃなく、人類をモルモットのように調べる知的生命体がいるのか・・・。」
「神隠しって日本でも古くからあるけど、あれの一部は月に連れられて行っているんです。アポロの乗組員も月の裏側で幽閉されている地球人を見たそうよ。木星や土星の衛星も人工物があるらしいってバリノさんの話ですわ。」
綸蘭の携帯電話が鳴る。
「はい、もしもし、真上です。あ、バリノさん。こんにちわ。え?今、東京都庁の建物の上に、愛高島は停まっているんですか・ええっ?島の底部から、いくらかの下水を出して都庁のビルにかける・・・おしっこ、とか・・アハハッ、面白いわっ、本当ですか?」
「本当だとも。火星から遠隔操作しているんだ。今、都庁のビルの屋上に愛高島の下水を十リットル放出しておいた。」
と愉快に話すバリノの声は綸蘭の横にいる流太郎にも聞こえた。
都庁のビルの屋上には人は誰もいなかったが、第一本庁舎の45階展望室のガラスの窓には愛高島からの下水が流れ落ちて行った。そこの展望室、地上から202メートルの高さにいた人達は、それを見て、
「雨が降って来たよ。」
「それにしては黄色いなー。」
「黄砂の影響だろう、きっと。」
「黄色の雨降る新宿都庁、か。」
と楽しそうに話した。

 自衛隊は愛高島の飛行に気づいていたが、敵機でもないので出動はできない。東京都民は空を見上げる人も少ない、というより、いなかったので愛高島は都民の誰にも気づかれずに新宿から池袋へと飛ぶ。
 池袋ハイスカイトウキョウという八十階建ての高層ビルの真上を愛高島は目指す。そこの展望室は全面のガラス張りだ。
停止した愛高島は底部より下水の放出を開始した。
若いアベックの男女が、その展望室のガラスに流れる黄色い液体に気づいた。女が、
「黄色い雨、かしら。」
「黄色い雨、だろう。」
「幸せの黄色い雨よね、きっと!」
「幸せの黄色いなんとか、とかいう今は太古のような昔の映画に、そういうタイトルあったさ。」
「幸運の前触れっ。わたしたちの、これからの幸福を祝福してくれているのね、神様が、きっと。空から降らせてくださっているのよ、黄色い雨を。」
「ああ、シャワーのように浴びてみたい雨だね。」
若いカップルは愛高島からの下水を飽きる事もなく、眺め続けていた。

 その時、ハイスカイトウキョウの真上にいる綸蘭と流太郎は、携帯電話で綸蘭がバリノの話を聞く。
「えっ!?池袋のハイスカイトウキョウの真上から、又、あれを・・・・。」
「ああ、今度は多めに20リットルのサービスで。よし、終わった。」
「東京の今日の天気は一部、雨だわ・・・ふふふっ。」
と綸蘭は小さな声で呟いた。

 東京都では今、百階建てのビルが建築中だが完成した暁には愛高島の下水放射をバリノ氏は計画中であるという。
 赤羽を過ぎ、上野から東京駅の真上に到着、停止すると、バリノは携帯電話で綸蘭に、
「今から光速で運転して地球を一秒で七回り半してもいいが、別に面白くないから福岡に帰ろう。」
それは光速で行われた。
一秒未満の時間で愛高島は福岡市の博多湾上空の定位置に戻ったのだ。

 城川康美は愛高島に住んでいるわけでは、なかった。マンゴーは売り切れるのが早く、三時には在庫がなくなる。店で置いておける量には限界がある。次の日の早朝に火星から新たにマンゴーを運んでくるのだ。
康美は午後三時過ぎに店を閉めて帰宅する。ヘリコプターで福岡市の地上に戻るのだ。その代り、朝は早い。午前八時には火星から来るマンゴーを受け取りに愛高島には昇っている。
 今は午後三時、康美は愛高島が東京まで移動したのも知らないまま、店を閉めてヘリコプターで地上へ降りて行った。

 康美は自宅へ直行する。暇だからネットサーフィンをする。元々、康美はインターネット関連会社に勤めていた。マンゴーの販売は接客であり、聊(いささ)か疲れたのだ。
誰かに任せたい。そうすれば三時で終わることもなく、若返るマンゴーは販売される。
求人など自分のブログに書けば、いい。
マンゴー販売責任者募集します
 福岡市の愛高島でマンゴーを販売してくれる方、資格、経験は問いません。二十五歳までの女性の方を募集しています。
そうキーボードでパソコンを打つと、康美のブログは更新された。
(これで、誰か来るわ。)康美は「株 投資顧問 福岡」で検索した。すると一番目に出たのが、株カイヤスカーという福岡市にある顧問会社だ。
そのサイトで無料会員登録を康美は、したのだ。彼女は貯金ばかり、しても、しょうがないと思った。それで株式投資を始めようと思ったのだ。すぐに返信が来た。

 ご登録、ありがとうございます。株カイヤスカー代表取締役の蕪山で、ございます。弊社では南区高宮にて株式セミナーなども開催しております。お時間が、ございましたら是非、お立ち寄りください。
明日の午後、四時もセミナー開催の予定です。

 そのメールには、その他に無料推薦銘柄としてマザーズの株式会社夢春も取り上げられていた。
康美は、それを見ると、
「明日の午後四時なら愛高島の仕事が終わって、すぐ行けるわ、よし、決めた!」
と独り言を呟く。
その時、康美の携帯電話が鳴り出した。
「はい、城川です。」
「初めまして、こんにちわ。相出(そうで)澄香(すみか)と申します。」
「ええ、初めまして。それで、ご用件は何でしょう。」
「社長のブログ、拝見しました。わたし、ぜひ、働きたいんです。マンゴー販売の仕事です。」
「ああ、見てくれました。もちろん、募集中ですし、あなたが第一番目に応募してくれましたわ、相出さん。」
「そうですか。わたし、曾曾祖母の名前は相出スネといいます。余計な事だと思いますけど。」
「まあ、面白いわ。フルネームを名乗ると同意した事になりますね。」
「ええ、そうです。わたしも社長の仕事の募集に同意します。」
「ありがとう。面接には、いつ、来ますか。」
「今からでは、どうでしょう。」
「いいわよ。会社は愛高島にあるけど面接場所は、わたしの自宅に来てね。」
そこで相出澄香は康美の香椎のマンションに面接に来る事になった。
十分もすると、康美の部屋に玄関チャイムが鳴る。玄関前が映像で見れるので康美は玄関の中にある小さなパネルに映った相出澄香の可愛い顔を見ることが出来た。十代のような美少女、未成年なら雇用するのは難しいな、と康美は思いつつ玄関を開けた。
相出澄香は笑窪を浮かべて、
「こんにちわ。相出です。」
「待ってたわ。上がって、中に。」
「はい、お邪魔しまーす。」
元気な相出の明るい声は康美の心も明るくした。
 少しでもマンゴーを置けるように康美は住居を変えて、3DKのマンションを借りている。その一室は事務室のような役目にしていた。応接テーブルと椅子も揃えていた。人を雇いたくなったのでネット通販で購入していた。康美は澄香に、
「そこに座って。面接を始めます。」
澄香は着席、康美は彼女に相対して座ると、
「履歴書もPDFファイルで送ってもらったもので、いいです。あれで貴女の履歴は見ましたよ。ですから、それについては合格ね。」
澄香は嬉しさ満面になり、
「では、わたし採用ですね?」
「あなたの明るい笑顔と声も、いいわね。明日から働いてもらいます。」
康美は印刷した澄香の履歴書を自分の机から持ってきて手に取ると、
「えーっと、短大卒業後、サイバーモーメントの子会社である中国料理レストラングループ『食べチャイナ』に入社。そこでは、どんな仕事を経験したの?」
「レストラン業務全般と、主に接客です。マンゴーのデザートも客席に、よく運びました。」
「ああ、それでは慣れたものですね。お客さんにマンゴーを売るのは。」
「わたしサイバーモーメントの黒沢社長が接待する貴賓室にも、よく料理とマンゴーを運びました。」
「貴賓室って、レストラン内にあるの?」
「サイバーモーメントの本社にあります。」
「『食べチャイナ』にも個室は、あるわよね?」
「それは、ほとんどの店にあります。わたしが研修を受けたのは、『食べチャイナ』高宮店です。ちょっと高めの価格設定でも、お客さんが来店してくれます。」
「若返るマンゴーも高いけど、買ってもらえるから、あなたには適人適所だわ。」
「わたし、まだ若いから若返っても、しょうがないですけど(笑)。」
「いずれ貴女も歳は取るわ。二十五歳より上に行っても、若返るとしたら・・・いいと思わない?」
澄香は両眼を斜め上に向けて宙を見るような顔をして、
「いい、と思います。社長も若く見えます。それはマンゴーの影響ですか。」
「そうなのよ。若返ってしまったの。実は、このマンゴーはね・・・。」
康美は思いとどまり、
「秘密があるけど、いずれ教えてもらえるかと思う。」
「へえ、そうなんですか。知りたいです、社長。」
「許可がいると思うから、その話は、ここまでで。面接は終わりですよ。明日、朝八時前五分までに、ここへ出社よ。」
「はい、社長。それでは失礼します。」
相出澄香は積極的に立ち上がると部屋を出る。康美も玄関まで見送った。

 翌朝、指定された時間に澄香は出社してきた。
「おはようございます。」と挨拶する彼女の上着は黄色でスカートは赤。黄色と赤で、よく目立つ。スカートは膝まである長さ。昨日と違って澄香は胸のふくらみが良く分かる上着を着ている。康美は、
「相出さん、お早う。貴女の胸、大きくて、いい形よ。」
「うふ。接客には必要ですもの、女なら。」
と可愛い声で澄香は答えた。
康美は、
「屋上に行くわよ。このマンションに。」
と指示して二人はエレベーターに乗る。屋上に着いた二人はエレベーターを出ると、すぐにヘリコプターの爆音がして降下してきた。
後部座席に二人が乗ると、運転手は若い男性でパイロット風な外見だ。彼は何も言わずに、二人が着席するとヘリを上昇させた。
愛高島まで十分も、かからなかっただろう。ヘリコプターを降りた澄香は、
「うわあ、すごいな。これが浮かぶ島、愛高島なんですね。社長。ヘリコプターは専用ですか。」
「毎日乗るから、私のマンションの屋上に来てくれるの。」
深緑色のヘリコプターは爆音を立てて、上昇して島を出ていく。又、そこから下降して二人には見えなくなった。
康美は続けて、
「今から、あのヘリは他の人達を載せて又、愛高島に来るわ。さあ、店に行くわよ。」
康美の歩調に合わせて澄香も歩く。澄香は康美より少し身長は低いが、胸の大きさは同じくらいだ。 
 シャッターの降りた店舗の前に立つ康美は、ハンドバックからリモコンを取り出してシャッターを上げた。
康美は澄香にマンゴーの在庫の場所や、レジスターの扱い方などを教え、その他の業務も習得させた。十時の開店時には接客を任せた。九時には今までも来ているアルバイトの女性に澄香を紹介した。
新人ながら店舗の責任は澄香に康美は一任して、その日は後ろで見ているだけで、店舗業務は滑らかに流動した。

sf小説・未来の出来事5 試し読み

メレニは、
「パーティには他のクラスからも来るわ。流太郎が見た事もない人も来るから。楽しみね。」
と教唆した。

 そんな楽しさを想像したりと、流太郎が期待にも似た気持ちでいると時間が経つのは速いものだ。そのパーティ会場に流太郎は、いた。立食パーティみたいな会場であった。飲み放題、食べ放題。百人はいる大きな会場だ。流太郎は黒い背広を着たハンサムな若い男性に、
「こんにちわ。日本から来ましたね、あなたは?」
と声を掛けられた。
「はい、そうです。ぼくは講師の助手です。初めまして。」
「ぼくも初めまして、ですが、あなたは学校で見た事ありますよ。」
「そうですか。気が付きませんでした。」
「地球の日本にいるのですが、ちょっと二か月ほど、ここで日本語を更に学んだのです。」
「わざわざ火星へ?日本にいたのなら、日本語は学べませんか?」
「それがねえ。私本来の姿に戻れないでしょう、日本では。長い時間ね。」
「はあ、あなた本来の姿・・・それは人間誰しも、人前では幾分、取り繕った顔をするものですよ。そういうのがストレスが溜まる、って事もありますよね。分かります、分かります。」
その男は歯を見せて笑うと、
「ははははは。その程度のものなら火星に来るものですか。私本来の姿、とは、こうですよ。」
流太郎が見ているハンサム男の顔は、みるみるうちに蛇のような顔になった。歯は牙が尖って見えた。
流太郎は驚きと恐怖で、
「なななな、それが貴方の本当の姿・・・。」
「ええ、レプティリアンとも地球で呼ばれているタイプの宇宙人、正確には火星人なのでね。」
男の顔は蛇のような顔のまま、ニッ、と笑う。流太郎の背中はゾクゾクしたが、
「シェイプシフトとかいうアレですね。メレニさんや僕が会ったソリゲムさん、ダリモ部長やセロナさん、それに、ここの校長先生もみんな地球の北欧の人を神秘的にした感じの人間なのに、あなたは・・・。」
「国が違えば火星人も異なるのさ。僕は、この国に留学する事を認められている。地球で謂えばビザも持っている。それがねえ地球も、いずれそうなると思うけど、僕らのビザは君達のスマートフォンに類似した、それより進化した携帯の中にね、ビザを持っているんだ。だから入国審査官には、それを火星のスマートフォンで見せれば、いい。見せてあげよう。」
蛇男はズボンのポケットからスマートフォンらしきものを取り出して画面を操作すると、流太郎に見せた。
そこには火星のアルファベットと数字らしきものが表示されていて、ビザらしきデザインのものが見えた。流太郎は、
「これは初見です。ほー、すごいですね。カードのビザなんて紛失する事もありますよね。そしたら大変ですもん。」
「だから地球は遅れている。僕は月への入国ビザも、このスマートフォン、火星ではスマートフォンとは呼ばないけど、君への便宜上、そう呼ばせてもらうが、この中に収めてある。」
「月、というと月面の月ですか。アメリカのアポロが行かなくなって百年以上、経ってますけど。」
蛇男はスマートフォンらしきものをポケットにしまうと、
「月はね、地球に見えない裏側には億単位の宇宙人がいる。円盤の基地や建物、その他、文明を示すものは地球からは見えないんだ。」
その蛇男、レプティリアンの顔などは近くにいる火星人にも見えるはずだが、誰も驚いたりしないようだ。驚きの顔は流太郎だけで、流太郎は、
「それで月には何もない、と思われていたんですね。」
と相槌をカン、と打った。
「月の裏側を探査しようとしたアポロは、彼らの円盤に攻撃された。命からがらのアポロの乗組員達を知ったNASAは、二度と月への宇宙計画を行わなかったんだ。まあ、その方が身の為だね。インターネットの動画共有サイトでは、少しリークされているよ数十年前から。」
「そうなんですか、では竹取物語の、かぐや姫の話しも本当とか。」
「月に帰るとか、そうだろう。昔の人間が想像だけで、そんな事を想いつかない。それは、ともかく、僕は日本で株取引をしている。」
「ああ、デイトレーダーの方ですか。僕も株には興味があります。」
「今度、教えてやろう。日本では蕪山得男(かぶやま・とくお)と名乗っている。戸籍なんて上野に行けば失業者から、いくつでも買えるからね。」
流太郎は蕪山から名刺を貰った。そこには福岡市の蕪山の住所が載っていた。流太郎は嬉しそうに、
「福岡市に住んでいるんですね、蕪山さん。高宮・・鴻巣山の上の方みたいですね。」
「ああ、電話かけてから訪ねて来いよ。デイトレーダーだと外に出る時間も短いから人間の外観になっている時間も短くて、いいからな。」
蕪山の手は指は長くて爪も長く、肌は鮫肌でウロコがあった。
株をやっているから蕪山か、と流太郎は思った。本当は火星のレプティリアン、爬虫類型宇宙人なのだ、蕪山さんは、と流太郎は思うが火星人の株取引を知りたい、と思い、
「蕪山さんは、明日からでも日本へ、福岡市へ戻るんですか。」
「ああ、今日から戻るよ。君は、いつまでも火星にいるのか?」
「そういうつもりも、ないです。火星では日本語講師が関の山ですから。」
「だろう?だったらさ、早めに地球に帰って何かした方が、いい。」
「そうします。蕪山さん、マンゴープリンが、お好きのようですね。さっきから、そればかし食べてますよ。」
「うん、地球人にシェイプシフトすると暑いんだよ。それでマンゴーが、おいしいのさ。」
「ちょっと失礼します、蕪山さん。」
「ああ、いいよ。次は地球でな、会おう。」

 流太郎は少し離れた場所で立食しているメレニのところに行くと、
「メレニさん。ぼく、地球に帰りたいんです。」
と心境を打ち明けた。
「まあ、そうなの、いいわ、あなたは日本語講師助手として数年勤務しているから、国の円盤で地球に送ってもらえるわ。その代り、この火星での仕事は地球では秘密にしておいてね。」
「分かりました。というより、火星での体験を話したって誰も本当だとは思ってくれませんし、頭が狂っていると思われるに決まっていますから、話はしませんよ。」
「そうね、でも秘密を強いる訳ではないから、話していい、と思える人がいたら話してもいい。何故なら、火星に来ている地球人って結構、多いからね。」
なんだ、そうなのか、と流太郎は思った。

 翌日、メレニの話通り、時・流太郎は国のUFOで地球へ帰った。火星人とはいえ、公務員らしき態度の船員に、
「あれが君のマンションですか?」
と香椎駅前にあるマンションの上空から尋ねられたので、
「そうです。屋上で降ろしてもらえませんか。」
「ああ、そうするよ。火星での勤務、ご苦労さん。」
と、ねぎらわれて流太郎は自分のマンションの屋上に降りることが出来た。
(もう、二年にもなるのか。でも一応、分譲マンションだから家賃滞納の心配はなし、管理費と修繕積立金は安いから銀行口座の引き落としで、なんとかなっている筈だ。)
と回想した。
 屋上から自分の部屋に戻ると、電気もガスも止められないでいた。水道も、ちゃんと出た。それらも銀行引き落としだったのだ。パソコンはWINDOWS37が、まだ使えた。起動させてオンラインバンキングの自分の口座を見ると、まだ貯金があった。次にビットコインの口座を見る。
(やはり騰がったな。ビットコインは。火星ではビットコインに似たもので光熱費は払える、とメレニさんは話していたけど。)
日本株は、と見ると上がったのもあれば、下がったのも、ある。ほぼほぼ、同じ株価のものも多い。
ネットニュースを見れば、リニアモーターカーが鹿児島に向けて建設を計画中だそうだ。
リニアより揺れない、というより、全く揺れない火星の空飛ぶ円盤に乗った経験からすると、リニアなんて、と流太郎は考えてしまう。
鹿児島では桜島が爆発したらしく、それの被害に会わなかったところにリニアを通す計画らしい。
とにかく今は昼間だ。会社に電話しよう。携帯電話で流太郎は籾山に連絡を取る。籾山が出て、
「もしもし?おう、時じゃないか。どこに行っていたんだ。」
「ちょっとした事情がありまして、その訳は追い追い、話しますから、今日から出社します。」
「ああ、いいけど君の席は、もうないから、明日までに机とか椅子は何とか、しよう。今日は、そんな状態だけど、来るなら来いよ。」
「はい、行きます、今すぐ。」
という事で、今はマザーズ上場企業の株式会社夢春に流太郎は出社する事になった。

 籾山も今は社長室を使っている。そこに入った流太郎は元気そうな籾山を見て、
「お早うございます。お元気そうで何よりも素晴らしい。」
と挨拶した。籾山は鷹揚に頷くと、
「君も元気で何よりさ。一体、何処に蒸発していたのかい。」
「蒸発だなんて液体ではないんですから、僕は。火星に連れていかれたんです。信じてもらえないと思いますけど。」
籾山は好奇の目を光らせると、
「信じるも何もだね、僕も火星には行ったよ。それどころか、-これは内緒の話だがね、うちの大株主の一人は火星人なんだ。」
流太郎は、そういう時代なんだと思ってみた。だから納得顔で、
「そうでしょう、うちも、そこまでいかないと発展しませんですものね。」
「ああ、技術屋の会社としてはね。火星人からの技術供与は、我が社の向上には必要欠くべからざるものだな。パリノさん、彼が大株主だけど、その人は火星の医師で、エレクトロニクスの方面は得意じゃないらしい。」
「医学でもコンピューターを使う事は、あるのではないですか?」
「あるらしいけど、パリノさんはプログラムを作ったりできる人じゃないから、直接的にはパリノさんからの技術協力は無理だけど。十歳若返るマンゴーが火星にあるらしいよ。」
それを聞いた流太郎は、
「それを輸入販売すれば、絶大な販売業績が出ますよ、籾山さん!!」
「でも、それはパリノさんの兄さんの領域らしいけどね。」
と籾山は嘆息した。

 パリノ・ユーワクの兄、パリノ・ユーワクは、十歳若返るマンゴーの果実を地球に輸出する事に決めた。
販売場所は何と、博多湾上空に浮かぶ巨大な島、で行われる。この巨大な空中に浮かぶ島は、巨大な反重力によって支えられている。そもそも重力などは地球が消滅しない限り、永久にあるものだから、反重力も同じく存在し続ける。太陽光発電でさえ、太陽が沈んだ後にはエネルギーを採れないが、反重力は夜にも、その力を保ち続けるのだ。
 パリノは城川康美に、
「この若返るマンゴーは高価な値段で売りたい。あの浮かぶ島、それは愛高島(あいたかしま)と福岡市からの愛称募集で決まった名称だがね、そこで一個、百万円辺りで売ろうと思うよ。」
康美は、もはや自営業者となっていた。その愛高島にはヘリコプターで時々、訪れた事もある。観光ヘリコプターが空に浮かぶ島へ飛んでいる。島の大体は火星で作られたものだが、そこに宿泊施設などは地球側、というより日本の企業側で作らなければ、ならない。
パリノは康美の事務所で、マンゴー販売を持ち掛けた。康美は社長の椅子に腰かけて、
「それは賛成です。妹の貴美は行方不明になりましたし、何か有意義な事をしたいんです。妹が、いなくなって張り合いがないところもありました。若返りは実証されているのですか、そのマンゴーで?」
パリノは部屋で康美の前に立ったまま、
「もちろんさ。火星人に効くものは地球人にも効く。まず、君に試してほしいね。」
康美は期待で胸がワクワクと雲が湧く思いになって、
「やりますわ!わたしも二十六、若返りたいな。」
と心境を吐露した。
 パリノは上着のポケットの中からマンゴーを取り出すと、
「これが、その十歳若返るマンゴーだ。果実のままだから、皮をむいて食べてごらんよ。」
康美は立ち上がると手渡されたマンゴーを受け取り、事務所の片隅の調理の出来る場所に行って、ナイフでマンゴーの皮を剥き、食べられるように切り分けた。そのひと切れを口にすると、ビタミン剤の強力な味がして、全身に電流が走ったような感覚がした。何か体が軽い。五歳、若返った感じ。鏡のある所に歩いて、自分を鏡で見ると確かに自分は二十一に戻ったようだ。康美はパリノを振り返ると、
「若返りましたわ、パリノさん。でも、五歳だけみたいですよ。」
と嬉しそうな声を出す。パリノも喜ばしい顔で、
「それで、いいんだ。君が十歳若返ると十六になる。それでは未成年者に逆戻りだからね。君はもう自営業、会社に行かなくていいから、会社の人達に見られて奇妙がられることもないよ。」
「そうですわ。でも、父には時々、会います。だから、びっくりしますわ、父は。」
「彼は科学者だし、その火星のマンゴーの事も話していい。だが、他の地球人には秘密にしておいてくれ。若返るマンゴーはネットショップで売り出す。だけど取りに来る場所は浮かぶ島に来てもらうんだ。」
こうして若返るマンゴーは日本初、発売となった。
十歳、若返るマンゴー
なんてインターネットで見ても、すぐ信じる人は、いない。お試しサンプル、無料というので試しに送ってもらった人が、
「確かに少し若返った。よし、買いたい。でも百万円じゃあ・・・。」
とネットで呟いたので大反響を竜巻のように巻き起こし、その噂は旋回して日本中を駆け巡ったのであった。
 購入場所は博多湾に浮かぶ海抜五百メートルの浮かぶ島。観光ヘリで訪れる事が、できる。一日に浮かぶ島に飛ぶヘリコプターも限られている為、日曜祭日には予約が殺到している。
康美はパリノがUFOで浮かぶ島まで朝晩、康美のマンションから送迎した。人間の目には見えないUFOにすれば、誰にも気づかれない訳なのだ。そのUFOでは香椎駅前の康美のマンションから浮かぶ島「愛高島」まで一秒以内に到達できる。標高五百メートルの愛高島は、冬の今、とても寒い。
観光客が来る前の販売所の室内で、パリノは康美に、こう話した。
「今日は寒いね。太陽の表面温度は実は、たったの26℃なんだから。」
何の冗談かと康美は思い、聞き返す。
「なんですか、その話。太陽の表面温度は6000℃だと習いましたが。」
「ワハハハハ。それが天動説と同じで、科学的という間違った迷信、いや迷推測によるものなんだ。太陽が高温を発しているのなら地表から五百メートルも離れて高い、この愛高島が何故、こんなに寒いのだね?」
「それは寒気団が来るからではないですか?」
「それは、あるだろうけど富士山やエベレスト山は頂上付近は、いつも雪で覆われている。実は、かなり昔、アメリカのNASAは太陽の表面温度を計測し、それが26℃である事を突き止めたが発表しなかった。だがインターネットでは漏れ伝わっている。」
「では、太陽熱とは一体何でしょう?」
「T線と呼ばれるものが太陽から出ていて、それが惑星の大気に触れて気温が上昇するのだ。だから太陽に地球より近い金星にも高度な文明を持つ人達が、存在する。」
「金星!??金星って、とても高温で・・・でもないんですね、太陽は平穏な平温としたら。」
「そうだ。金星には厚い雲もある。そもそも太陽は燃える塊ではない。なのだから金星には快適に住める空間は、あるんだ。NASAも太陽の温度を知っていながら、探査船を金星に飛ばさないのは科学的常識、それは大昔の天動説と同じだが、太陽は爆発している燃える星、というものに敬意(笑)を表してだろう。」
康美は新たに金星の謎の一つを少し知った気がした。随分昔、金星に行った、と主張した人々は世間から冷笑されていったものだ。地動説と違ってガリレオ裁判みたいなものは、ないけれど世の中の人間は自分で体験しないものは、世論に動かされる。それで大衆操作は可能だ。百パーセント近くの人間は月にさえ行けないのだ。どうして金星に行けるだろう。
その自分が体験不可能な事に就いては、マスコミュニケーション、マスメディアの打ち出す説を正当なものとする、というのが大衆心理なのだ。康美はパリノに、
「若返るマンゴーも火星からの輸入、という事は知らせない方が、いいんですね?」
「無論の論だよ。愛高島にしたって科学者共は隕石の巨大なもの、と結論付けた。山や川もあるのにだ。(笑)、我々が愛高島を地球へ運んでくるスピードは、巨大な隕石が地球に向かう速度と同じにした。停止も我々がしたのであって、自然現象ではない。
若返るマンゴーは火星の赤道直下で栽培された、品種改良のものだ。これも自然発生のものではない。自然は偉大だ、と思われるところもあっても、人工的手段がなければ快適な生活は望めないのは火星も地球も同じだよ。」
「冬は服を多く着ますものね、人間は。」
康美は首に巻いたマフラーに手を当てつつ、そう言う。
パリノは、うなずくと、
「医学も又、人工的な手段そのものだな。ところで若返った康美君、君は恋人に何か言われなかったかね?若くなったね、とか。」
「いいえ、恋人はいませんし、付き合っている人もいませんから。」
パリノの目に希望の光が滲み出ると、
「おお、そうかね。では私の第三夫人になるかい?」
「それは今少し、考えさせてください。火星で生きていくかどうか、もう少し考えたいんです。」
「ふうむ、いいだろう。君は、いつまでも二十一歳で、いられるよ。」
「え?え?え?どういう事ですか、それは。」
「又、二十六になったら、若返るマンゴーを食べれば、いい。」
「それなら二十五歳になったら食べると、二十歳に?」
「いや、それは無理だろう。最初に若返った年齢までしか戻れないみたいだ。火星での人体の治験で分かっている。だから君は二十一歳までしか戻れない。それでも、いつまでも二十一歳に戻りつつづけられるかと言うと、それは無理なのも火星の治験で分かっている。とはいえ、何回かは戻れるからね。」

 時・流太郎は、博多湾に面した少し高い山、愛宕山から浮かぶ島、愛高島を一人で眺めると、
(すごいなあ、あれは。大きな島が海の上に浮いているようだ。)と思う。ジャンパーのポケットから精度のいい双眼鏡を取り出すと、目に当てて、愛高島を見る。
なにか販売所のような所があって、おや?康美が、いるではないか!!何で、あんなところにいるんだろう。それに若返ったような康美ではあるみたいで。二十一歳ぐらいに見えるぞ。おれが教えていた専門学校を卒業して、すぐの頃の康美に似ている。それなら妹なのだろうか、康美の。
康美には双子の妹、貴美がいたが。その貴美の行方が分からなくなっている。もしかしたら、あそこにいるのは貴美?なのだろうか。それに彼女の隣には北欧の白人男性らしき人もいる。彼は何者、だろう。
愛宕神社の境内の北側から双眼鏡で愛高島を眺める流太郎の両肩に鳩が二羽、飛び乗ってきて一緒の方向を鳩たちも眺めている。

 愛高島のパリノに携帯電話が鳴る。店先にいたパリノは店の奥に引っ込むと、
「もしもし、どうしたんだ。」
「ダレダカ、ワカリマセンガ、ソウガンキョウデ、ソコヲミテイル青年が、います。」
「ああ、人工ロボット、カンシー君、お勤め、ご苦労さん。そのロボット風の話し方も、やめたらどうだ、もう。」
「分かりました。でも、プログラムされたワタシです。最初の喋り方は、この方が、いいのかも、と。」
カンシーはパリノが愛高島の近くに停止させているUFOに乗せているロボットだ。そのUFOは人間の目やレーダーにすら!映らない透明な保護光線で円盤の船体を包んでいる。
パリノの身辺警護をカンシーは受け持っている。
パリノは気になって、
「話し方は君に任せよう、カンシー君。双眼鏡で島を見ている人々は多くいるだろう。私に危害を加える地球人は、いない筈だが。」
「ソウデハ、アリマセンガ、パリノさん、あなたより城川康美さんに、その青年は双眼鏡の焦点を当てているみたいデス。」
「ふうむ、そうか。でも、いいじゃないか。康美は美人だし、双眼鏡で見ていて美人が見えたら、そう、眼鏡をかけても見たい時もあるさ。」
「ソウデスネ。で、ワタシは、その青年に向けて探査光線を発しました。帰って来た光線波を分析装置の画面で見ると、
『元、恋人』と、なっています。」

sf小説・未来の出来事4 試し読み

福岡市の東区にある人工島!、アイランドシティに野球場ほどの広さを持つゲームセンターが、ある。平日の午前中は人は少ないかというと、そうでもなく年金生活者の老人が、屯していた。このゲームセンターには未成年者立ち入り禁止のコーナーがある。
福岡市にプロ野球球団が無くなったのも、ただ野球を見るよりも、その成人向けゲームに人気が出たため、とも言われている。そこに、貴美はバリノを連れて行った。入り口でバリノの前に立った貴美は、
「クレジットカードで成人か、どうかは認証判断されます。バリノさんはクレジットカードを、お持ちですか。」
と聞く。バリノはズボンのポケットに手を入れ、
「ああ、持っているよ。世界共通のをね。ビットコインじゃ、ダメなのかね。」
「そう、ビットコインカードでも大丈夫ですわ。説明不足で、御免なさい。ビットコインは世界共通の通貨ですものね。」
仮想通貨は日本でも、相当数の種類が出ていたが、それらの大半はビットコインと連動している。
貴美とバリノはビットコインカードで、そのゲームセンターの成人向け入り口を通過した。
二人の目に留まったのは、ダッチワイフのような女性の姿だった。とても人形とは思えない。着ているものは下着だけ。目もダッチワイフや人形のそれとは違う。常に動いているのだ。瞬きもしている。肌の色は白く、両手はダラリと下がっている。透けた下着で乳首と陰毛は浮き出ている。これで入場料を払った甲斐がある、というものだ。身長は百六十センチほどの美女のダッチワイフ、又、ラブドールとも呼ばれるものが進化している。立札には、
この奥には部屋があります。そこに、わたしを連れて行って下さるとドアを閉めて、貴方の好きにしてください。その前に十万円はカード払いで、どうぞ。
と書いてあるではないか。バリノは日本語を読むことも出来るので、
「これは、すごいな。貴美さん、貴女も一緒においで。」
と貴美を誘う。
「ええ、行きます。バリノさん、何処まで、この人形と、されるのか、見たいですわ。」
と貴美は答えた。
バリノがビットコインカードで十万円を支払うと、なんと、そのラブドールは先に立って歩き、部屋のドアを開けたのだ!驚きつつ中に入る二人の後から、ラブドールは入ると部屋のドアを閉め、ウインクした。
その部屋はダブルベッドのあるラブホテル風の部屋だった。ツインの部屋の広さ。窓には赤いカーテンが、かかっている。ラブドールは臀部を左右に振りつつ歩いてくると、バリノの前で立ち止まる。バリノは、
「君はレズは好みでは、ないかね?」
と、そのラブドールに話した。すると、
「いえ、わたしは男の人を好きになるように作られました。女性には興味は、アアリマセン。」
という自動音声の女性のような声でラブドールは答えると、次に、
「わたし、キミ、といいます。」
と話したから貴美は、ビックリした。自分の名前も貴美だからだ。バリノは、
「ほう、貴美さん、同じ名前だね。でも、よく答えてくれるなあ、このラブドール。」
と感想を漏らすと、ラブドール・キミは、
「だってワタシ、大学まで出てますもの。」
と話したではないか!バリノは、
「何処の大学かね。」
「福岡で作られたから、九州大学に通いましたの。福岡市の西の方にあります。文学部でしたのよ。」
と、スラスラっと流れる水のように答えた。
ラブドールが大学に行く時代なのだ。只の夜の愛玩人形と思ってはいけない。でも・・・?バリノは、
「君は歩けるのかね?」と簡易な質問をする。微笑んだラブドール・キミは、
「フルマラソン、できます。福岡市で大昔から行われている福岡市民マラソンにも、毎年出ますから。」
「順位は、どれくらいかね。」
「真ん中より上くらいです。そんなに早くは、ありません。」
「そんな時は、燃料補給をする人が、いるんだろう?」
「いえ、朝、出る前に、わたしのオーナーが充電してくれます。電気自動車と同じ原理なんです。もしもの時は、道路沿いの電気自動車用スタンドに寄って、給電します。セルフなんです、大抵、利用するのは。」
すごいスタミナだ。むしろ、燃費というより電費のいいラブドールなのだろう。バリノは、これを作った日本の技師に感動して、
「火星にはラブドールは、ないんだよ。必要ないからね。」
と貴美に話す。貴美は、
「そうなんですの。ありそうで、ないのですね。火星には。女性が沢山いるから、とか。」
「そう、いう事かな。ラブドールは地球では女性に不足する場合のためにある。長期航海の船員とか、だけど火星では長旅は、ないといってもいいから。」
バリノはラブドール・キミの前に立つと、ブラジャーを外した。美形の、揺れ動く白い乳房が現れた。
貴美とバリノの目が、キミの桃のような胸部へ移動する。バリノは、それを揉んでみたかったが、貴美がいるので放擲した。キミはバリノの手が自分の乳房を掴まないので、
「あれ、私の胸、魅力ありませんか?」
と聞いてくる。驚くべき事は、キミの表情に悲しみの色が浮かんでいる事だ。つまり、このラブドールは表情筋を持っているかのように作られている。バリノは貴美に、
「驚いたよ。一体、この精巧な人形を誰が作っているのかね?輸入物なのか、貴美君。」
「これは黒沢のサイバーモーメントの子会社、『ラブドールメーカー』が作っています。そこは勿論、福岡市にありますわ。西区の森林地帯に、です。」
ラブドール・キミは返答しないバリノの前で、上半身を屈めると股間を覆う白いショーツを立ったまま、脱ぎ始めた。最も魅力的なのは彼女の表情よりも、その女性器が存在する部分、それを隠すかのような性毛の密生の分布状況、および縮れ具合、大陰唇の成熟したふくらみ、など二十歳の女性が持つものをキミは持っているのだ。
バリノは貴美が、いなければ勃起したかもしれない。貴美はバリノの反応を見ている。時々、バリノの股間に貴美は視線を走らせていた。だがズボンの中心は愛を叫ぼうとは、しない。それで貴美は(自制心が強いのかしら、それとも性的不能?)と思う。
バリノはキミに何もしようとは、しない。ただ、彼の視線はキミの股間を注視している。そして、
「見事なものだ。ラブドールは地球のものを色々と集めていたけど、これは最高級品だよ。顔の表情が動くものは、見た事がない。このラブドールは、小さなコンピューターを内部に持っている筈だ。私が反応しなかった場合も、それに対応するデータを打ち込まれている。今のショーツを脱ぐ行為もね。」
小さなスーパーコンピューターを、キミの頭部の内部に、入れてあるのかもしれない。
そのように説明するバリノを見て、貴美はバリノが自分の性欲を抑えようとしているのではないか、と思ったりもするが、
「ラブドールメーカーでも最高級品を、ここに納品しているのですわ。わたしは女性ですので、それほど興味が、ありませんけれども。」
受け答えする。そして大胆にも、
「バリノさん、ここで、このラブドールを抱かれては、いかがですか。」
と提案した。
「うん、いや、それほど性欲に飢えていないんだ。このラブドールの使用料は中洲のソープランド、よりも安いな。」
「まあ、そうなのですか。わたし、中洲のソープの相場は知りませんわ。それでなのですね、ここは平日の夜とか、休日には行列が出来ているって聞きましたけど。」
突然、それに、キミが答えたので、或る意味で気味が悪いわけだが、
「でも、わたくし、一日に五人までしか相手を勤めませんの。大陰唇の摩耗を防ぐためです。そのようにプログラムされています。機械は何でも、そうなのです。過度な負荷は故障に繋がります。バイクや自動車の制限速度も、そうです、ですので六人を相手にすると、わたくし、動作停止となり、ラブドール技師を呼んでもらわないと、いけなくなります。女性器と乳房の損傷を防ぐためです、一日、五人までの性交相手の人数制限は。二時間も、わたしの、おっぱいを吸い続けた人もいたわ。それで、わたしの乳首は立ちっぱなしでした。」
バリノは興味深そうに、
「一人につき二時間は相手をするのかね。」
と聞くと、ラブドール・キミは、
「そうです。だから十時間の性労働ですけど、わたしには処女膜は、ありませんでしたし、そう、最近、わたしを製作したラブドールメーカーは、処女膜付きのラブドールを開発中だとか。それで、その完成後の商売に於ける得失について検討中なんだそうです。それは人間の女性が処女膜を失う際に感じる苦痛、それが喜びに変ずるため、その現象を引き起こした相手の男性に対する心理的な従属意識を起こす、とはいえ、女性により、処女膜を捧げた男性に生涯の貞潔を誓う女性の圧倒的な減少が、かなり前の日本で起こっていた事なども研究課題となっています。要はヒーメン(処女膜)をラブドールに付帯させる事が、顧客サービスの向上になるか、という事らしいです。」
それを聞いてバリノは、
「なるほどね。昔、というより大昔の日本人女性が、大半、そうであったような処女性のラブドールなら、一人の顧客に従属してしまうという懼れだな。だが火星にはラブドールは、ないから、私には良く分からないな。君の体は十分に鑑賞した。それでは。貴美さん、行こうか。」
「はい、そうした方が、いいみたいですわ。」
二人はラブドールには見えない女性(!)を、そのままにして、部屋を出た。
火星人バリノとしても、ラブドールよりは目の横にいる城川貴美の方に興味がある。貴美も処女である気がする。さすれば、わが男根を貴美のヒーメンに貫通なさせしめば、彼女は我に従属せん、とは前時代的な発想であろうか。さは、さりながら、かなり昔の日本のAVですら処女喪失をAV男優と、という例はある。それはバリノも日本の歴史として火星の学校で、『日本AV史』の講座で受講した。
そうだっ!とバリノは考えつく。今まで日本のAVは火星に密輸という形が黙認されてきたが、関係各庁に連絡して許認可事業として始めよう、火星での日本のAV販売を始めるのだ。
だが餅は餅屋、AVはAV屋だ。それに火星には地球にはない、すごいものがある。それを輸出してみよう。それは、そのうち明らかにするが。
AV屋については、すぐに解決する。バリノの知り合いの若い医師は日本のAVを持ちうる限り、持っている。とはいえ、ほぼ、ほぼ、過去のものになってしまうのは致し方ない。貴美はバリノを見て、
「ぼんやりしていますわ、バリノさん。あそこの長椅子に腰かけると、無料で花火が見れますわ。」
「あっ?ああ、そうだね。ゲームセンター内に大きな池があるなあ。あの池の向こうに花火が見えるのか。」
二人は並んでソファのような長椅子に座って、疑似夜空を眺めた。バリノの思考は先ほどのAV好きの医師、ミタリーに戻っていく。
火星ではAVなどは作られていない。それは火星人男性が聖人君子だからではなく、火星人女性の数が多いのだ。それで一夫多妻を認めているが、それでも、そう何人でも妻には出来ない。そのような事情から火星では性産業は皆無に等しい。
そういう中で独身医師ミタリーは地球の医者と違って経済力もない。そのため、結婚もしてない、それが百五十年も続くとなると地球の、それも特に日本のAVに興味をエベレスト山のように持っても不思議な事では、なかろう。
そんな医師ミタリーをバリノは、自分の医院で働くように誘ったが、ミタリーは、
「独立開業医の方が自由だから。それに親の遺産で、あと百年は自分の食い扶持なんて持っていますよ。暇な時は日本のAVを見て右手を動かしていますし。」
とスッキリした顔で答えるのだった。ミタリーは美形の男性、日本の格言に「色男、金と力は、なかりけり」に該当するわけだが、火星には女性が多いため、プレイボーイでもある。それに飽き足りずに、余暇は日本のAVで、というわけだ。少々古いとはいえ、日本のアダルトビデオ、アダルト動画に該博な知見を所有する医師、ミタリーである。妹がミタリーにはいて、ミタリーナという。関西弁の「見たりーな。」とは発音が似ているとはいえ、英語と日本語の発音以上に相違はある。だから関西弁で「ミタリーナ」とミタリーの妹に云っても通じないであろう。
ミタリーナも独身の美女だ。西欧の美女を百倍位綺麗にすると、ミタリーナとなる、そういう形容で想像されたい。目の色は緑色、それは兄のミタリーも同じだ。
バリノはスクリーンに映る花火を見つつ、
(ミタリーにラブドール・キミの事を教えてやりたい。)と思うのだった。
 花火は立体的なものとはいえ、火星の映像技術に比べれば、つまらないもの、なのでバリノは、アレを日本に火星から輸入する事を考える。(ミタリーは妹も一度、使った事がある、と言ったな。それについてはミタリーに聞くことにしよう、帰星後に。)数分で火星に戻れるので帰星という表現も何かと思われるが。
 貴美に連れられて美少女ゲームの大型版など、あったがロリコン趣味のないバリノには興味が、なかった。それで、
「もう、いいから、出よう。」
と貴美にバリノは語った。
それでも時間というものは早く過ぎていた。外は冬空で雪が降りそうだ。バリノは空を見上げて、太陽の位置を見ると、
「貴美さん。昼食に行きなさい。私は、あの森林みたいな公園で待っているから。」
と自分の意思を伝える。貴美はバリノをチラリと見ると、
「寒くないですか、バリノさん。アイランドシティ地下街は暖房が強いですわ。それに食事・・・。」
「火星から携帯食を持ってきているよ。地球の食べ物は日本に限らず苦手だ。」
「栄養価が、あまりないからですねえ。」
「それは、そうだな、味覚の違いさ。火星の農作物も進んでいる、という事だ。地球では農業は何千年の昔から、あまり変わりがないだろう。それより、ひとまず君は食事へ行きなさい。」
「はい、一時には戻りますわ。」
 バリノは遠ざかる貴美の背中を見送ると、森林のような公園に入った。火星の樹木より生育の悪いものだ、とバリノは思う。火星では砂漠と森林と、はっきりと対比できる樹木の生息頒布なのだ。
バリノにとっては殺伐とした風景なので、木製ベンチに腰掛け、コートの中からタブレットパソコンのようなものを取り出し、操作する。画面にミタリーの顔が映る。ミタリーにもバリノの顔が見えるらしい。バリノは火星語で、もちろん火星語といっても複数の言語があるのは地球と同じだ。むしろ、地球の言語が火星と同じように複数ある、と言うべきかもしれない。周囲に人もいないので、
「やあ、ミタリー、寝るところじゃなかったのかい?」
イタリア人みたいなミタリーの顔が答える。
「まだまだ、これからだよ。さっきまで急患を執刀していたからね。これから遊ぶんだ。」
「それは、この場合、よかった。地球まで来ないか?」
「空飛ぶ円盤は所有していないんだ。まだまだ富裕層とは言えないからね。」
「私のを貸すよ。私の家へ来て、私の執事に連絡してくれ。執事には私から電話しておくから。」
「そう?それなら、行くよ。バリノさんの地球位置情報は、今もぼくの携帯に出ているよ。日本、かな、それも福岡市東区のアイランドシティの公園だろう?」
「そうだ。日本時間の午後一時までに来れるかい?」
「やってみるよ、行けそうだ。それでは。」
バリノは携帯を切ると、火星の自宅の執事に電話した。
「ああ、ラソー君か。今から私の後輩のミタリーという男が来るから、円盤のカギを渡してくれ。」
「かしこまりました、旦那様。それだけで、よろしいので?」
「それだけだよ。よろしく、な。」
「夜食前の仕事、でございます。速やかにミタリー様、御到着後に実行いたします。」
バリノは携帯通話を止め、ズボンのポケットに入れると、ゆったりとしたコートの中から携帯食を取り出すと、乾燥マンゴーと牛肉、豚肉、鶏肉を混ぜ合わせた乾パンらしきものを食べる。火星にも牛や豚は、いるのだ。ただ、地下で飼育されている為、決して地球からの探査船では見つけられない。火星の地表から大量の水が無くなる前に、火星人は家畜を地下に移動させておいた。それにより、地上で生活する者は地下の家畜の肉を購入する事になる。
もっとも野生の牛、鶏に近い鳥、その他の動物は火星の少ない水と緑のある地帯で生息している。
一時前、五分になる頃、貴美が小走りに公園に戻ってくると、
「バリノさん、お待たせしましたか?」
とベンチに座ったバリノに聞いた。
「いや、待ったほどではないね。」
その時、空から白色の円形UFOが貴美の後ろに降り立つ。バリノには見えたが、貴美は気づかない。それほど音もなく着陸したのだ。
バリノは、にやつくと、
「火星から、後輩が来たよ。後ろを見てごらん。」
と貴美に呼びかける。
振り返った貴美の目に反映されたのは、イタリア人みたいな顔の若い男性と、その背後の着地した空飛ぶ円盤だった。その男、ミタリーは貴美を見て右手を挙げると、
「はーい、初めまして。僕も火星人なんだ。バリノさんと親しいのかい?」
と流暢な日本語で話しかけて来た。貴美は、
「え、ええ、割とですけど親しくさせてもらっています。でも、それはビジネスでの、お付き合いですわ。」
「それなら僕も、そのビジネスの仲間入りをさせて欲しい、いいかい?」
「ええ、もちろんですわ。わたしが力になれれば。」
それにしても、ミタリーの円盤は、あのまま公園に待機させておくのだろうか。ミタリーは、
「あの円盤を空中で待機させておこう。地球人の不可視の光線領域に円盤を置けば、いいから。」
と貴美に分かるように説明すると、ズボンのポケットからリモコンを出してボタンを押す。すると円盤は垂直に上昇して、貴美の目には見えなくなった。2017年頃だって日本の上空には沢山の空飛ぶ円盤が飛行していたはずだ。地球人には見えない形で。
軽やかに動くミタリーを見てバリノは、
「地球の重力は火星の三倍なのに、元気がいいね。」
と感心するから、
「時々、地球に来てますよ。日本は初めてだけど。アメリカでなら、何人もの女と一晩で肉体関係を持てたけど。ん?日本語のモテるっていう言葉、肉体関係を持てる、という意味なのかな。女にモテるというけど。まあ、それより、日本は楽しみだね。日本語は話せるように家庭教師に来てもらったから。日本人のね。」
ある日本語教師の話
 私、東京で外国人相手に日本語教師をしていました。三十代、独身、当たり前ですか、大学の文学部を出ましたけど仕事がなくて。それで日本への留学生やら、外国からの商社マンなどに語学教室で雇われて、日本語を教えていました。給料は高くなく、サイバーセキュリティとかの仕事が花形の世の中、文学部出なんて、せいぜい学校の国語の教師がオチとされています。
マンションの屋上に出て、私は夜空の星を眺めながら、
「どこかに、いい仕事が、ありませんか、神様。」
と懇願するように願ったのです。すると、私の頭の中で、
(いい仕事あるよ、私が連れて行こう。)
と声がするではありませんか。
「えっ、どこです?貴方は神様ですか。」
と尋ねると、
「ここだよ、目の前に現れるから。」
と声がしたと同時に、私の目の前に小型のUFOが出現して、マンションの屋上に着陸しました。
中から現れたのはイタリア人みたいな男性で、
「火星で私の日本語の先生になってくれ、そうしたら、うまいものを食べさせてやるし、いい女も抱かせてやる。」
と励ますように話してくれます。信じられないし、夢かなと思っていると、
「私は神様ではないよ。火星にはね、人間の思考を拾い上げる機械がある。それでUFOの中から、マンションの屋上に一人でいる君を見た。そこでだ、その思考解読機の照準を君に合わせたら、君が(どこかに、いい仕事が、ありませんか、)と願っている事が分かったのさ。」
明快な答えです。それで、
「それなら、どうか、私を火星に連れて行ってください。日本語を教えます。」
と頼むと、
「よし、決まりだよ、円盤に乗ろう。」
と誘われ、火星に行きました。そこで豪華な食事を食べさせられ、いい女、といっても地球の日本人でした、と毎晩、夜の楽しみを満喫して、朝と昼、その火星人が仕事がない時に日本語を教えました。

sf小説・未来の出来事3 試し読み

流太郎は康美と会えるのを忘れていた。服を全部脱いで、湖面に飛び込む。バシャーンと音がして、全身、流太郎は湖水に浸(つ)かった。
その音に気付いたのか、あの白人美女人魚が水中を進んで流太郎に近づいてきた。白い両手を伸ばして流太郎に抱きつき、キスをした。
三十秒も水中でキスをしていると、流太郎には息が苦しい。それを見た人魚は上へと進む。湖面の上に顔を出した二人は、まだキスをしていた。それを見たソリゲムとセロナは、ニコニコとする。
やがて人魚は唇を離し、くるっと背中を向けた。流太郎が右手を伸ばすと彼女の女性器に触れてしまったのだ。
美女人魚は右手を後ろに伸ばして、流太郎の上を向いた男性自身をつかむと、自分の肉厚の女性器へと引く。流太郎は後ろから彼女を抱く。二人は水中で結びついてしまったのだ。
流太郎が、ぎこちなく腰を動かすと美女人魚は背中と頭部を反らし、せつなげな声を洩らした。
流太郎が液体を放出するまで三十分は持った。
ソリゲムとセロナは黙って、それを見ていた。
流太郎の両手は湖水の下で彼女の乳房を、揉んだり、掴んだり、又、彼女の白い大きな尻を掴んだりもしたのだが、湖上のソリゲム達には、それは見えない。
人魚美女のピンクの乳首が硬く尖るのも、見えなかった。
流太郎の小さな分身が勤めを終えて、元の大きさになると美女人魚は彼を離れ、裸身を反転させて流太郎にキスをする。唇を離すと、
「アナタ、ステキデス。アナタノ、ジュニアモ、カタクテ、イイ。モシ、ヨケレバ、アナタモ、ニンギョニナッテ、ワタシト、クラシマセンカ。マイニチ、ココデ、イマイジョウニ、タノシメルカラ、ネ?」
と日本語で話した。流太郎は彼女の白い肩を抱いて、
「日本語が話せますね。アメリカの人でしょう?」
「そう、わたし、日本に留学したのよ。おじさんが日本からアメリカに帰化した人。」
流太郎は、でも、・・・と躊躇する。それは、そうだろう。人魚になるには勇気が、要(い)る。それで、
「人魚になるのは、できるか、どうか。でも、ぼくには今のが初体験でした。」
と告白すると、青い瞳で美女人魚は流太郎を見つめ、
「そうだったの。チェリーボーイを卒業させてあげられて、わたしも嬉しい。わたしの住むところ、洞窟の中にあります。来ない?」
「どうかな、」
と答えてソリゲムの方を向き、
「ソリゲムさん、まだ、時間、ありますかー?」
と聞くと、ソリゲムは、
「残念だけど、別の場所も君に見せたいんだ。男にも、なったし、又、ここに来ることもあるよ。美人さんには、そう言って、って、聞こえましたか?日本語、分かるでしょう。」
美女人魚は微笑むと、ソリゲムの方を向いて、
「それでは、しばしの、お別れです。又、会いたい。」
名残惜しげな顔をして、湖水の下に姿を消した。

 車に戻った流太郎は、服を着る。セロナは冷静に流太郎の股間のモノも眺めていた。
白鳥の車は湖面から飛び立った。今度は、何処へ行くのだろう。

 流太郎が連れられて来た火星の国は、広大な国土を持つようだ。それが、どうも地球からは見えない火星の裏側にあるらしい。白鳥の車は地球で謂えば赤道直下の地帯に飛行中となったらしく、熱気が漂う。山の中腹に温泉らしいものが見えた。ソリゲムは流太郎に、
「さっき、裸になったけど、今度は温泉だよ。又、脱いでいいから。」
と無責任そうに呼びかける。
眼下に見える温泉は直径二十五メートル程の、大きな温泉だが、誰もいないようだ。流太郎は、それを眼にして、
「誰もいないようですね。」
と声に出すと、ソリゲムは、
「だって、今日は平日だからね。それに交通は不便なところだし。というより最寄りの道路からでさえ、徒歩三時間だよ。乗り物なしに来る火星人は、いないよ。」
と事情を語った。
白鳥の車は、その温泉のすぐそばの野原に降りた。車を出れば一メートルで温泉に入れる。ソリゲムは流太郎に、
「疲れただろう、この温泉は体に、いいよ。」
と運転席から振り返って言う。
「さっき、湖に入ったばかりだし・・・。」
と、ためらう流太郎。温泉というよりプールみたいだ。セロナが勇気づけるように、
「誰もいないし、わたし達の目は気にしなくていいから。」
と云うので、流太郎は、
「それでは失礼しまして、裸になります。」
と答えると車を降りて服を脱ぎ、温泉に浸かった。
ザポーン、と音を立てて湯の中に入ると、膝を曲げて尻が湯の底の土に届く。
地球の温泉より、ぬるめの湯加減だろう。硫黄の匂いみたいなものは鼻に感じられた。火星で温泉に入るなんて・・・と空を見上げた流太郎の目に小さな円盤が見え、それはグングングーンと大きくなると白鳥の車の横に急降下して着地した。
ソリゲムとセロナは少し驚いた風だったが、円盤内から初老の老人の火星人が出てくると、口を並べて、
「ダリモ部長!」と呼びかけた。その人物の後ろから、地球の日本の京都の舞妓の衣装を着た若い女性が、日傘をさして降りてくる。
ダリモ部長はセロナとソリゲムに、
「おはよう、もうすぐ昼だがね。ああ、ロケハンか。あの青年だろ、今回のドキュメンタリーの主役は。」
とニヤニヤっとしながら、流太郎を見る。流太郎はドギマギビクリ、とした。ソリゲムは、
「そうです。今日は部長は、お休みと聞きましたが。」
「ああ、休みさ。だから君達に指示は、しない。日本の芸者を連れて来ている。」
それは流太郎には見るだけで、分かる。京都の舞妓に見られるような髪型、に簪、白粉に口紅、で彼女の目は黒目が大きく人形のように均整が取れて、紫の着物を着ている。彼らも温泉から一メートルの距離だ。流太郎は湯の中とはいえ、透けて見えるかもと股間を両手で隠す。ダリモ部長は、それを見ると、
「霧乃、おまえも温泉に入りなさい。」
と舞妓に話す。霧乃と呼ばれた、その舞妓は嬉しそうに、
「はーい。脱ぎますわ、全部。」
と答えて、シャン、シャン、サラサラ、と着物をすべて外した。雪景色のように白い裸身に、簪も外して長く垂れている黒髪、それと同じ色で少し縮れた足の付け根の陰毛、丸く、横から見たら上を向いたような乳房と乳首、が印象的で彼女は全身、どこも隠さないままで流太郎の近くに、パシャ、パシャ、と湯の跳ねる音をさせて近づく。
流太郎は舞妓の全裸など見た事もなく、彼女の体から、ほんのりと甘い香りもしてきて陶然となるのだが、霧乃は流太郎の正面に脚を横にして座ったのだ。透明な湯なだけに、霧乃の乳房は透けて見える。流太郎は勢いよく自分の股間の分身が立ち上がるのを感じた。それを見る霧乃は微笑むと、
「手で隠さなくても、いいでしょ。わたしも何も隠さなかったんだから。わたしの下の毛まで見たくせに。」
と、甘く詰(なじ)る。
流太郎は観念したように両手を離した。雄々しい竿が湯の中に立つ。霧乃は眼を更に大きくして、
「太くて長いわ。早く頂戴。」
霧乃は両目を閉じて、両手を流太郎の方に差し伸べた。流太郎は彼女に、にじり寄り抱き寄せて接吻を開始した。霧乃の柔らかい手の指が流太郎の背中に回される。
霧乃の白い太ももは、湯の中で大きく開かれていた。流太郎は霧乃の大きな白い尻を抱えると持ち上げて、胡坐(あぐら)をかいた自分の太ももの上に降ろす。二人の性器は湯水のなかで結びつく。
口を開いた霧乃は自分で腰を動かしている。ぴったりと抱き合った二人は、流太郎が自分の胸の上で霧乃の大きな乳房が乳首と共に、形を崩すまで押し付けられているのを感じるほど密着している。
太陽は灼熱の光を二人に注いだ。それをエネルギー源としたのか、二人は一時間も結合していたのだ。
セロナは火星語でソリゲムに、
「すごいね、あの二人。」
と話す。ソリゲムは、
「カメラは、もう回し始めているから大丈夫だよ。」
「この部分もノーカットでいくのね。」
「そうしないと面白くないだろ。さっきの美女人魚との性交もカメラに入れているから。」
「時って童貞じゃ、なかったのかしら?」
「その分、エネルギーがあるね。」
ダリモ部長も感心して二人の結合後の動きを見ている。ダリモ部長、ソリゲムとセロナ、と横並びで温泉の中の二人の愛交を見ているのだ。霧乃の方が積極的に動き、自分で赤い舌を出して流太郎の唇の中に挿し込んだり、流太郎の両手を導いて自分の大きな柔らかい乳房を揉ませたりしている。
流太郎も火星人三人に近くで見られている事も、忘れてしまった。霧乃の方は見られても平気なようだ。それは・・・

 ダリモ部長が京都の舞妓、霧乃を身請けして火星に連れてきて半年になる。その間、ダリモ部長は霧子に指の爪先すら触れない。広い邸宅内から霧乃を出さない。娯楽の映像ですら男性の写っていないものを見せる。
京都で毎日のように男性に接していた霧乃は、性的に臨界点に到達していた。年齢は二十二歳、経験した男性は三人ほどだが、その男性は、それぞれ霧乃の旦那の時、毎日、朝と晩、霧乃と性交していた。
一人の旦那と終わっても、三日もすれば次の旦那が出来る。舞妓として座敷に出て、家に帰る、そこは旦那が購入した2LDKの高級マンションだ。だから十九の歳から、盆も正月も休みなく旦那が霧乃と愛交するほど彼女の裸身は素晴らしかった。
三人の旦那から、あらゆる体位で交わられ、時には二時間も続く事もあったのだ。二十二歳になった時、旦那の事業が不振になった為、霧乃は妾というか愛人をやめた。そこに現れたのが火星人のダリモ部長だったのだ。
愛人契約と云っても二人の間で決める事で、斡旋者が、いるわけではない。
古風な日本建築の広い座敷で、ダリモ部長は傍にいる霧乃に、
「君を不思議なところに連れていきたいんだがね。」
と持ち掛けた。
「不思議なとこって、どこどすの?」
「日本じゃないとこさ。」
とダリモ部長の日本語はセロナやソリゲムより巧い。
「ほな、アメリカどすか?」
「さあねえ、眼をつぶって、ご覧。」
「はいな。」
霧乃には既に一億円ほど渡してある。座ったまま眼を閉じた霧乃の横を抜け、ダリモ部長は座敷の庭園に面した廊下に立つと、携帯電話のようなものをズボンのポケットから出すと、
「準備完了。来てくれ。」
と命じた。すると三秒後には庭園の真上、十メートルの高さに空飛ぶ円盤が現れ、青い光がダリモ部長と霧乃を包むと上空の円盤内に引き上げた。見る人がいたとしても、青い光だけだろう。現れた円盤といっても人間の目やレーダーには映らない防護波で守られている。おまけに青い光ですら人間の目には透明に見える。
かくして円盤内に移動したダリモ部長と霧乃だが、ダリモ部長が、
「もう、眼を開けて、いいよ。」
と云うのでパッチリと眼を開いた霧乃は、
「ま。宇宙船みたいやわ。もしかして、空飛ぶ円盤どすか、ここ。」
思ったまま、を云う。ダリモ部長は、
「ああ、鋭いね。そうさ、私は実は火星人なのだよ。」
霧乃はクス、と笑うと、
「そんなの冗談ですねー。でも、誰も、うちの体、触らんのに不思議やわ。」
と真顔になる。ダリモ部長は笑顔で、
「火星に着けば、信じるよ、霧乃。」
と話すのだった。

 火星に着いて、あちこちに連れていかれれば、霧乃も信ぜざるを得なかった。夜になっても空には地球は見えないのでは、あったが、それは地球からは見えない裏側の火星だからだ。
三人の旦那に愛撫され続けた霧乃の体は、どうしても男性を求めてしまうのだが、ダリモ部長の気を引こうとしても通じなかった。
そんな時、温泉に連れていかれて裸の流太郎を見た時、彼に抱かれたいと思い、行動したのは不思議ではない。
三人の旦那は避妊具を着けていたが、流太郎は、そんなものは着けていない。それだけに強烈な快感を霧乃は覚え、(ここが火星の温泉だなんて)、と思いつつ、流太郎が終わった後でも、両脚を流太郎の腰に挟んで、しばらく離さなかった。そして流太郎に自分から接吻した。
長い二十分の口づけが終わると流太郎は三人の火星人に気づき、霧乃から離れて立ち上がると、ソリゲムに、
「このまま、いたら、お湯で府焼けてしまいそうです。」
と少し恥ずかし気な顔を見せる。両手で股間は隠しては、いるが。ソリゲムは、
「もう昼だから食事にしよう。日本風に弁当を持ってきている。ダリモ部長!部長は、どうされますか。」
ダリモは、
「わしらは円盤内で食べるよ。霧乃、着物を着なさい。」
と娘に話すように湯の中に座っている全裸の彼女に話しかけた。
彼女の顔は性の陶酔を味わった後の顔だが、
「はい、ただいま。」
と舞妓らしく答えると、ザブンと音を立てて白い裸身で立ち上がって、温泉を出ると着物を着ていった。

 白鳥の車の中で弁当箱を貰った流太郎は、その弁当が日本の四倍もある大きさなのに驚いた。開けてみて、更にびっくりしたのは、蓋のあるカップの中で小さい魚が泳いでいた。流太郎は、
「この魚、生きていますよ。食べられますか。」
と声を発した。セロナは、
「その液体にも味付けがしてあるし、魚は生きたまま食べるのが一番栄養があるのだからね。」
と説明すると、彼女はスプーンみたいなもので、その小魚を掬(すく)い、食べてしまった。流太郎も、それに倣(なら)う。うまい、喉の中を生きた魚が下っていくのは、白魚を想起させた。
流太郎は何とか食べ終わり、
「ご馳走様です。四食食べた気がします。」
と謝意を発言したら、ソリゲムは、
「よーし。少し休んで、これからゲームセンターに行くよ。」
と話した。流太郎は、
「屋根なしの車だと、いきなり雨が降ったら困りませんか。」
と訊いてみる。ソリゲムは、
「火星のこの地方は、滅多に雨が降らない。降ってきたら屋根は出せるよ。そうでない時は日光浴にもなるし、車の屋根は出さないね。そろそろ、行くか。」
セロナは、うなずき、
「行きましょうよ、ゲームセンターに。」
白鳥は羽根を羽ばたかせ、車は上へと上昇した。

 やがて郊外のゲームセンターみたいな所の駐車場らしき場所に、白鳥の車は降り立った。平日のゲームセンターらしく、人、というより火星人の客は、何処にも見えない。
入場する時もセロナが会社から貰っているというクレジットカードのようなものを改札口みたいなところに通して、三人が入った。もちろん、改札口で三人分とボタンを押す。では、五人でも三人分を押せば、と考える人間は火星には、いないが万一、というより億一、そんな場合のために入り口にはセンサーがあり、地球の自動ドアが開くように、三人分は三人しか通れないようになっている。
ゲームセンターの中は、華やかな照明で地球の野球場の広さはあるゲームセンターとしては、広大なものだ。
何と宿泊施設まである。火星の連休ともなると、泊りがけでゲームをしに来るらしい。
セロナは流太郎にクレジットカードのようなものを手渡し、
「これをゲーム機の前で改札口のように入れれば、いいから。一人で遊んでいて、いいわよ。」
と日本語で話した。
流太郎はキラキラとした照明で気分が高揚していたので、ボーリング場のようなところへ入る。一人ずつ入る広さのもので個室ボーリング場らしい。そこに入ると、地球のボーリング場そっくりだが、レーンの先に立っているのは美女人魚が十人、もちろん人形だが並んでいる。しかも上半身は全裸なので乳房も顕わだ。
流太郎はボールを取って、人魚ピンに向かって転がした。よく見ると金髪の陰毛まで見える。当たった!ストライクだ。全部の美女人魚が仰向けに倒れた。スコアを点ける人が、いない?そんなものは、デジタル画面に記録されて表示されている。
火星のボウリング場は、その点でも地球とは比べ物にならない。因みに、であるが流太郎は男性専用ボーリング場に入った。女性専用のボウリング場は、どうなっているのか、というと、全裸の金髪男性の人形がピンで並んでいる。しかして、その美男男性の股間のモノは堂々と、ぶらさがっているではないか!
しかも、それは女性が投げたボウルに当たると、ブラブラと睾丸及び陰茎が揺れるのだ。倒れないピンも美男金髪の性器の揺れを眺めて、女性ボウラーは満足する。
倒れてしまっては性器も横倒れになるので、すべての金髪全裸男性のピンを倒さず揺らすように試みる女性まで、出てきている。このようなボウリング場ではあるが、地球とは違って未成年者も出入りできる。
流太郎は、それほどの結果は出せなかったが、全部のピンが毎回倒れるより、全裸の金髪美女人魚の人形が残っている方が、面白かったのだ。
ボウリング場内には案内の火星人女性が、受付にいるが、それ以外は無人の施設だった。
そこを出ると、ゲームセンター内に戻る。歩いていると、地球のプリクラ撮影機のようなものに気づいたので、流太郎はクレジットカードらしきものを入れて料金を払い、中に入った。中はプリクラ撮影機の倍は広い。火星語は分からないので、緑色のボタンを押すと、流太郎の頭にシャワーのように光線が降った。すると!
座っている流太郎の横に幽霊よりは鮮明に、亡き父親が現れたのだ!
横にいる気配に流太郎は、横目で見て、
「父さん、父さんじゃないかっ。」
と横を向く。
三年前に死んだ父親の流一が、そこに立っていた。
時・流一は機械工学を専門とする技術者で、コンピューターを専門領域としていた。流一は息子の流太郎を見下ろすと、
「ああ、そうだよ。霊界から来たんだ。その機械はね、今、会いたい人、それも死んだ人を呼び出せる機械なんだ。今のところ火星と金星にあるんだが、地球には勿論、ない。そこで、我々地球人には無縁だった。霊界にいてもね。今回、私が初めてだろう、火星に呼ばれた日本人の霊界からの登場は。」
と語る。
流太郎は、かねてから訊いてみたかった事を尋ねる。
「父さんの死は謎めいていた、と母さんから聞いたけど、本当は、どうなんだろう。」
流一は回顧する。
「ああ、私は殺されたのさ。それも私の友人に。」
「ええっ、それは一体、誰なんだよ。僕は知らないと思うけど。」
「そうかもな、ただ、名前は言うよ。城川康一という会社の社長だ。」
電撃が流太郎の脳内を駆け巡る。
「城川・・・康一。もしかして娘の名前が康美とか・・・。」
「そうだよ。知っているのか、彼を。そして、彼の娘を。」
「ああ、もしかして同一名で違う人達かも、しれないけど。」
「北九州の人間だよ、彼は。」
「それなら、間違いなさそうだ。でも、どうして・・・。」
「それは城川康一の妻である女性はね、元は、私の恋人だったのだよ。城川は、それを自分の彼女にしたがった。が、なびかない彼女を諦めさせるために、私を殺した。」
そんな事・・なら城川康美は殺人者の娘、なのか。
「ひどい話だけど、父さん、城川を恨んでいないか。」
と流太郎は聞く。
父の流一は穏やかな顔で、
「いいや、もう、どうでもいい話だよ。父さんはね、あの世で豊かな暮らしをしているんだ。それに送ってくれたのが友人だった城川さ。だから、もう、いいんだ。」
「うーん、そんなものかね。」
「そんなものさ、他に何か聞きたい事は、あるか。」
「そうだなあ、何もないわけではないけど、聞けばショックを受けそうだし。」
「そうだなあ、霊界の事は知らない方が、いいよ。では元気で頑張れよ。」
「ああ、そうするよ。では、又、いつか。」
父の流一の霊体は消えた。
 流太郎は座席を立って外へ出る。ソリゲムとセロナが並んで立っていた。ソリゲムは、
「君に渡したクレジットカードには、位置特定機能がある。地球のGPSより優れたものだけど、このように広い場所では役に立つね。時刻は夕方になった。もうすぐ日没だから、ここを出よう。」
と話す。
ゲームセンターを出て、白鳥の車に乗ると再び空に舞い上がった。
 
 空から見てもホテルのような建物の屋上に、白鳥の車は降りる。屋上駐車場、という外観だ。ソリゲムを先頭にセロナ、流太郎の順でエレベーターのようなもので階下に降りる。階数表示は火星の数字のため、流太郎には見当がつかなかった。
直ぐに開いた扉から出たら、そこが、そのホテルのラウンジだ。受付のホテルマンも二人、背広に似たものを着て立っている。ピンク色の背広だ。地球の白人より色白の肌で、身長は二メートルほどだろうか。流太郎は自分が小さく感じられた。ソリゲムとセロナも二メートルはある背丈だ。

SF 試し 読み sf小説・未来の出来事2

 火星の美女検査官エスノの前に、天井から一人の全裸の美女が降り立った。エスノと、ほぼ同じ身長なので流太郎にはエスノが見えなくなり、全裸の金髪の美人を見てしまうのだ。
白い肌、豊かな胸、体の中心にある金色の恥毛の下には縦のスジ、が、ありありと流太郎には見えた。女神のようだが、生身の人間で、しかも彼女は微笑を浮かべて流太郎に近づいてきた。
流太郎は抵抗できずに立ったまま、自分の男の肉筒も天井に向けてしまったのである。
エスノは、うっとりと流太郎の突起したものを見て、
「合格よ。その女性は天井から投射された映像なのね。」
と解説すると、パネルのスイッチをひねる。
すると、すぐに流太郎の目の前の金髪の全裸美女は幻のように消えてしまった。
それでも流太郎の勃起状態は持続していた。エスノは備え付けのマイクに向かって、
「メレニさん、お入りください。」
と呼びかける。
ドアが開いてメレニが入ってきて、流太郎の全裸、および元気横溢した股間の男の棒を眺めると、
「まあっ、素敵だわっ。」
と火星語で思わず叫んだ。メレニは両手を自分の両頬に当てて、しばらく流太郎を見ていたが、一向に衰えない彼の勃起に感心して両手を両頬から外すと、流太郎のそばに寄り、彼の長くなったものを優しく握ったのだ。
流太郎は自分の硬直したものに触れたメレニの右手の柔らかさに、射精してしまいそうになったが、その流太郎の歯を食いしばった顔をメレニは見て、
「こんな事で、出したら駄目よ。」
と話すと手を離す。
メレニはエスノに、
「彼のものを元に戻して。」
と催促する。エスノは、
「はい、それでは。」
とパネルの他のボタンを押す。
すると今度は天井から、筋肉ムキムキっとした海水パンツ一つの男性が降りてきた。
と、途端に流太郎の勢いよく天井を向いていたものは、だらりと萎えてしまったのだ。
メレニは満足げに、
「これで流太郎はゲイではない事も証明されたわ。ありがとう。」
と白衣の美女検査官エスノに感謝して、その検査は終わったのだった。
 あとは下着と服を着た流太郎はメレニに連れられて、区役所の戸籍受付みたいなところへ行き、登録用紙にメレニが火星語で所定の項目を記入すると係にカウンター越しに渡す。
それを受け取った中年男性らしい火星人は、用紙と流太郎を見比べて火星語で、
「ああ、結構です。逞しい男性ですね。検査の結果は未婚男子で性的経験は、なし、となっています。」
メレニは少し驚いて、
「まあ、完璧な童貞なのね。まあ!」
「今時の地球人には珍しいでしょう。それだけに精子の状態も良好のようです。」
「そんな事まで、分かるのかしら。」
「ええ、最初に浴びせた光線から判定できるのですよ。もちろん、地球人女子の判定もできますが、メレニさんは今回は、この地球人男子だけを所有希望なのですね。」
「はい。今のところ、地球人女性まで手に入れられるか、どうか・・・。」
「よろしい。それでは手続きに入ります。」
中年火星人は用紙を機械に入れた。二秒もせずに別の所からプラスチックに似たカードが出てきた。それを役人は手に取ると、メレニに渡して、
「地球人所有証明書です。万一、この地球人が誘拐されでもした場合、あるいは行方不明の場合は、この証明書を近くの捜査機関に提出してください。」
「分かりました、ありがとう。」
メレニは流太郎の所有証明書を手にすると、ズボンのポケットに入れた。火星では女性はスカートは履かない。それは火星の重力の関係だ。つまり、風が吹いてスカートが、めくれ上がった場合、そのスカートの元に戻る時間は地球の三倍は、かかるためである。

 地球では。南極の火山、エレバス山(標高3794m)が大噴火した。それと同時に周辺の火山も山の頂上から火柱を噴き上げ始めた。
南極を覆う厚い氷は解け始め、海面の水位は上昇した。
それらの海水は、世界の海辺の都市を目指して流れて行った。
ニューヨーク、東京、その他、多くの都市では津波が襲った。
「うわあ、津波だあぁぁぁっ。」
「逃げろー、というより逃げている。」
この南極の火山爆発は世界中にニュースとして、たちまち広まったので世界の臨海都市の住民、ビジネスマンらは一早く、逃亡して避難していた。
その日の世界の株価は大暴落した。

 火星では、パリノ・ユーワクがパソコンに似た画面を見て、
「よおし、大成功だ。地球の康美に電話するか。」
と独り言を云って、携帯電話を手に取ると、耳に当てて、それから手を離した。すると不思議や、不思議!携帯電話はパリノ・ユーワクの耳元で空中に浮いているでは、ないか!!!

これは反重力に、よって浮いているのだ。ちょっと火星でも高価な携帯電話では、あるのだが富裕層のパリノは手にできる代物だ。
空中に停止している携帯電話のボタンを押すと、一つ押すだけで康美に電話は掛けられた。
地球の康美は携帯電話が鳴ったので、手に取って、
「もしもし、パリノさん?」
「おーう、康美か。きのう、日経平均を売っただろう、私に言われた通り。」
「はい、パリノさんの株式取引口座の三百億円分、売りましたけど。」
「今朝から世界中の株価が暴落中だ。日経平均も下がっているはずだが・・・。」
「見てみますわ、パリノさん。」
康美は自室のパソコンを起動させ、未来証券のパリノ名義のオンライン講座を開いた。
株価ボードには日経平均が五万円から四万円に向かって暴落中だ。ストップ安、なのだ。康美は、
「日経平均はストップ安です、パリノさん。」
「それは火星からも見えるよ。買戻しは、まだ先だ。儲けの三割は康美君、君に上げるから。」
「うわあ、それで一生、暮らせます。嬉しいな。」
「何々、これしきはね、序の口という奴さ。今後も、私の株式口座で取引してもらいたい。ついでにFXも。」
「そうだわ、FXも、やってみたかったんです。」
「通貨は、こんな天災では変化は、ないんだが。他の要因では大いに変動する。一ドル50¥だろ、今。」
「そうですね、あ、今、49円になりました。」
「ううん。ニューヨークも津波だからね。退避的に円が買われる。」
「でも、パリノさん、何故、南極からの津波が事前に分かったんですか?」
「ははははは。それは、火星から南極の火山を爆発させたのさ。」
ぎょっ、と康美の胸は反応した。
火星から南極の火山を爆発させるとは。なんと恐ろしい火星の科学だろう。それに合わせて日経平均の指数連動ものを売っておけば、いいのだ。特に日本人は臆病だからニューヨーク・ダウより、はるかに株価は下がっていく。
黙ってしまった康美にパリノは、
「なに、僕が爆発させたりは、しないよ。そういう情報が伝わって来た。我が国の機密情報だからね。実は我が国には、株取引省というものが、あって、火星各国の株だけではなく、地球各国の株も口座を数千は開いて持っているのさ。」
なんだか夢の又夢みたいな話だと、康美は思った。

火星のバリノ・ユーワクは会議室めいた部屋で三人に話す。
「既に随分昔から、火星の他の国では主にアメリカ人を地球から連れ去って奴隷として教育し、使っていたりするんだが。他国に干渉しないのが火星の国家間の取り決めで、我が国としては一応、火星に地球人を連れて行くのには同意がいる。それは連れて行った後、でもいいんだ。
我々もロボットを開発は、してきたが、やはり、地球の人間にはロボットにない良さ、がある。ロボットに感情を生み出させるのは、我々、火星の文明でも難しかった。というより、いまだ、できていない。それが地球人の奴隷使用として他国では、行われることにより、ロボット以上の使用感を得られるというわけだね。」
ここでバリノは、三人を見渡した。
黒沢は、
「では、私達も奴隷になるので?」
と聞いてみた。するとバリノは暗闇のランプのような笑顔で、
「いいや、君達にはビジネスパートナーとして働いてもらう。私は医師として、希望を失った日本人に未来への光明を与えたいんだ。」
と地球の方を見るような謎めいた目をバリノは示現した。
籾山は、
「確かに大格差社会となった日本です。世界の工場は中国から東南アジアを経てインド、それからアフリカへ移っています。日本の工業製品は北アフリカで製造され、地中海を渡ってヨーロッパに輸出されています。日本国内は人口が増えたが、就職氷河期どころか冬眠期のようです。ロボットが作業の大部分を奪い、人工知能AIは株式相場のアナリストを失職させました。
証券各社は不必要なストラテジストなる単に口先で生きて、証券取引をしない無能な輩に人件費を払わずに生き延びようとしました。それを行わなかった証券会社は倒産しましたよ。」
黒沢は、うなずくと引き継いで、
「確かに証券会社の解説屋は無能の阿呆ばかりですよ。今ではどの証券会社は人工知能AIに株式市況の解説を、やらせています。」
と力説した。
バリノは目を日の出のように輝かせると、
「ほお。確かに日本の証券不況は証券会社にいた無能な人間によるものも大きいと、火星の日本経済史学講座では教えている。うん、だが、そんな事は、いい。立体スクリーンで君達に見せたいものが、あるんだ。」
バリノはテーブルに置いてあった、リモコンのようなものを手にすると、スイッチを押す。すると映写スクリーンもない彼らの横に、動物園のようなものが映った。
部屋は地球で映画を見る時のように、暗くしているわけでもない。それなのに、まるで部屋の中に動物園が現れたような現出感がある。
しかも、それは映像には見えず、実物かと思えるような立体感のあるもので、馬が映ったが、それは、そこに馬がいるかのようだ。
だが!地球の三人は自分の目に疑問符をつけた。その馬の顔は、なんと!!人間の顔ではないか!
しかも、四本の足のうち、前足の二本は人間の手をしている。とはいえ、その前足の太さは後ろ脚と同じ馬並みの太さだ。その体重を支えるために進化したのか、人間の手とは言え、人間の手の二倍はある。
その馬がヒヒーン、と、いななく代わりに、
「あ、どちらさまか知りませんが、映してもらって、ありがとうございます。」
と人間の顔、それも日本人の顔の口を動かして室内の四人に、話しかけた。
黒沢は心の動揺を制止すると、
「これは一体・・・?!」
とバリノに問いかけた。
バリノは愉快そうに、
「これは日本人の動物園だよ。」
と解答するではないか。続けて、
「もちろん本人の希望と了解のもとに、火星の技術で地球の馬と日本人を合成したのだ。それはウマく、いった、などと洒落にはならんがね。そうそう、なんでも、うまくいくよ。」
籾山は不気味な感慨を持ち、
「人間と馬・・・どういう日本の人でしょう。」
バリノは、
「失業して派遣で働いて、そこも仕事のない男だった。中年前の若者だよ。顔が馬に似ていたので、私が、火星でウマい話があるよ、と誘ったんだ。・・・・・

は派遣労働で働いていたが、ある日、派遣の仕事もなくなってしまった。東京の私立大学を出たが、就職できなかった。彼より優れた人工知能は、いくらでも開発されていたのだ。
営業職は、あるにはあったが彼は話下手で、面接に行けば全て不採用となった。
なにがしかの貯金は、どんどん減る。そんな日曜日に真井は埼玉県秩父地方の山の方へ旅に出る。それは何故・・・彼は、とうとう自殺を決意したのだ。
(生きていても仕方ない。親からの仕送りなんて・・・)真井の両親はブラジルのコーヒー農園で、生涯を終わるまで労働する予定だ。それは日本で借金をして、返済できなくなり、ブラジルで奴隷的に働くことで借金をなくしてもらう契約をしたからだ。
こういった借金返済への救済措置は日本では、進んでいる。特に若い女性の借金返済不能者は、むしろ業者によっては歓迎された。そういった女性は、中国の富裕層が女中として使用する。
 ブラジルの奴隷的労働より、ましのように見えるが、中国人の女中というのは表向きで、彼女たちは夜の労働もある。それは性労働であるのだ。
それが無しには高額な金額を払ってまで、日本人の若い女性を女中として雇うなど、しないだろう。
真井の妹、は両親の借金のために中国の富裕層に売られた。日本の金融業者は契約書に、静未の署名をさせている。
第六条
 雇用主の夜の生活も拒絶せずに、性的要求にも従う事。これに同意なき場合には、雇用者の通告により、南極基地の某所にて複数の男性の性の要求に従事させる。
一定の期間、雇用者との夜の性労働が存立していた場合においては、その拒絶の意思を表示せる場合に於いては、南極へ送致することは軽減され、遠洋漁業者の性生活に労務すれば、宜しきを得る。

 静未は二十歳の男を知らない処女だった。男を知っている処女、という言葉があるとすれば奇妙なもので、女子大の三年生の時に親の破産に遭い、金融業者がマンションの彼女の自室に来た。
「真井静未さんですね?」
玄関のインターフォンが午後の六時に、彼女に呼びかけた。
「はい、そうですけど、どなたですか。」
「こちらは債権の回収をしています。日没金融という会社です。」
「ええっ?わたし、借金なんて、していませんよ。」
「へへへ。あなたがねー、お嬢さん、してなくても、おたくの御両親が借金をしているんだ。」
「そっ、そうなんですかー。でも、返せば、いいでしょ。」
「ふふふふふっ。返してもらっているとか、返せる見込みがある、とかならね、お嬢さん、うちらの仕事は、ないんです。」
「という事は、・・・・。」
「ドアを開けてもらいますよ、早く。」
「でも、・・・・。」
「我々と話をしないなら、あなたの両親は全身を臓器提供して死ぬことに、なるんだけど。」
静未は大きな胸の中を動転させて、
「今、開けますから。」
と答えると、玄関を開けた。
日没金融の男はサングラスをしていた。彼の目に映った静未は、均整が取れて豊かな胸のふくらみと、くびれた腰、少しミニの赤いスカートの大きな横の広がり、肉感的で濡れているような赤い唇、男を蠱惑するような大きな瞳、肩まである長い黒髪を見た。
(こいつは、いけるぜ。上玉、というより超玉だ。おれが先に、いただきたいが商品に傷をつけられねえからなー。紳士的に説得しよう。)
静未は日没金融の男の話を聞き、両親に電話して、その話が本当なのを知ると、自分の身を売る決意をした。
 は妹の静未から携帯電話で、
「お兄ちゃん、わたし、中国の金持ちに売られる事になったの。」
と話を受けた。
「えっ、どうしてだあ。」
「だって、お父さんが返せない借金が、あるんですもの。」
「それで、お前の学費は今まで・・・」
「わたし、キャバクラとモデルをやって稼いでいたの。でもね、体は売らなかったわ。芸能事務所と違って、モデルの事務所は枕で営業は、しないから。」
「そうだったのか。それなのに・・・中国の金持ちに売られるって、体まで要求されるんだろ。」
「そうみたい。でも、仕方ない・・・。」
兄の新太は超絶句した。
「すまん。俺も、何とかしてやりたいけど・・。」
「いいのよ。どうせ、いずれ、わたしも男に抱かれるんですもの。」
電話は切断した。
その日、真井新太は自殺を決断したのだ。
埼玉の山の中ともなれば、人通りもなく、木の枝にロープを巻いて首を吊ろうと新太は考えたのだ。
夕焼けの空が赤い。新太は牧歌的風景の秩父地方を見下ろす山の中腹辺りの大木に、ロープを巻き付け、首を入れた。
その時に!
「待てよっ!」
と男の声がした。新太は、ぶら下がるのを止めて、
(誰だろう?)と、周囲を見渡したが、誰もいない。
と、突然、目の前に直径二十メートルほどのアダムスキー型円盤が、キラキラと輝きを放って出現した。それは停止すると、地面から三十センチのところに浮いている。円盤前部の扉が開いた。それは、そこに扉があったようには見えなかった。
中から日焼けした医者のような人物が、新太の前に少し重そうに歩いて来ると、
「やあ。驚かなくてもいい、といったところで驚くのが当たり前だよな。私はね、火星から来たんだよ。冗談では、ないんだ。地球の重力は火星の三倍は、あるからね。まあ、そのための筋力トレーニングもしているんだがね。地球を歩く時などの。で、だな。とにかく自殺は、やめた方が、いい。」
火星からの男性らしき人物は、新太の首からロープの輪を外すと、
「自殺したかった理由は、円盤内で聞こう。さあ、おいで。」
新太は有難いやら、衝撃的な驚愕などで心を振幅させつつ、その火星人の後に、ついて行った。
新太が円盤内に乗ると、扉は閉まり、そこには扉があったとは見えない灰色の壁が、あるだけだった。
テーブルと椅子が多人数、座れるものが見えたが、なんと!椅子もテーブルも、その脚部の先端は円盤の床面に接していない。つまり、二十センチは浮いているのだ。
火星人はニヤリと笑みを湖水の、さざ波のように浮かべて、
「まあ、かけたまえ。浮いた椅子も初めて見るだろう?」
「ええ、それでは、お邪魔します。」
と答えて新太は火星人の前に腰かけた。テーブルを挟んで、向かい合ったのだ。火星人は先に椅子に座っていた。
円盤の天井から盆に載せられたコップと菓子皿が、スルスルスル、と降りてきてテーブルに載せられると、それを支えていた金属製の手のようなものは上に上がり、天井の中に消える。
新太は、うわあ、夢の中にいるのか、と思ってしまう。しかし、夢でないのは目の前の火星人が明確な日本語で、
「私の名前はバリノ・ユーワク。日本語風に発音している。火星語では君の耳には聞き取れないからね。さっき、円盤内の拡大カメラで地上を見ていた時に、君が自殺しようとしているのを見たんだ。」
と話しかけてくるではないか。
新太は感謝の気持ちで胸を充たして、
「ありがとう、ございました。でも、状況てのは変わらないんですよね。」
「ふむふむ。これを頭につけてくれ。」
バリノはヘッドフォンのようなものを、新太に手渡した。
「ええ、つけます。なんですか、これ?」
と問いつつも、新太は頭に、それを装着した。
「これは、うん。今、見てみるよ。」
バリノはテーブルの上の閉じたノートパソコンのようなものを、開いて起動させた。
そして、その画面を見ているバリノは、
「おお、分かったぞ。君の自殺しようとした原因が。」
と落ち着き払っている。
新太は、
「何故、分かったんですか、バリノさん。」
「いやね、君の頭につけているものは、君の脳内思考を、この地球のパソコンに似たものに電波のような形で転送する。
それで、ここには日本語で、妹は、もうだめだし、自殺したい、という君の考えが出て来たんだ。」
「へえええ?なんという機械でしょう。確かに地球上には、ありませんよ、そんなもの。円盤の中に、僕はいるし、火星の超科学ですか、これは?」
「うん、これはまだ、昔の発明品なんだ。今は、もっと、すごいのが出ているよ。医師の私にも手が出ないものも、ある。それにね、地球でも麻酔薬なんてのは、医者にしか扱えないように、使用許可のいる機械もある。そうしないと火星人にも稀に、悪い奴が、いるしね。
で、という事は、うう?妹さんは、売られるのか?金持ちの中国人に?」
「ズバット当たりです。今晩辺り、抱かれるんじゃないかと思います。妹は肌も白人並みに白いのに、海水浴が好きで、割と日焼けしています。秋には白くなるんですけど、それでビキニを付けたところだけが陽に焼けずに白いんですよ。」
「ほ、ほ。いやに詳しいな。」
「ええ、妹が中学一年生まで風呂に一緒に時々、入ってやったものですから。」
「ははあ、そうだろうな。何、女子大の三年生か。中二ぐらいから、生理が始まるものね。それで恥ずかしくなって、兄の君にも裸を見せなくなったんだな。」
「そうなんです、って、妹に生理が始まったのか、なんて聞けませんけど。それに十八までに妹の胸は、大きくなっていたし、近くを僕が家の中で通っても、ぷるん、ぷるんと胸を揺らせて妹が通り過ぎたりしました。
それに、お尻も大きくて、それを左右に揺らせて歩くんですよ。妹は男と、付き合った事がなくて。それで。」
「処女だというのかね。」
「ええ、多分、そうでしょう。高校三年の夏の終わり、つまり夏休みが終わって学校に行った帰りに、自動車が妹に、ついてきて、車の中から、
『おい、一緒に乗らないかー。』
と暴走族風の若い男に声を掛けられたそうです。妹は走って家に帰ると、ぼくに、その事を話して、
「お兄ちゃん、一緒に帰ってよー。」
と頼んだんです。
妹は部活動をしていたし、僕は部活動はしないで家に帰っていましたから、時間を合わせて妹が校門を出たところで待ってやって、一緒に帰っていたんです。」
「なるほどねー、それで、処女で、いられたのかなー、おお、妹さんの顔と全身が、もちろん大学生の姿で、この火星のパソコンのパネルに映っているよ。ほれ。」
バリノは、画面を新太の方に向けた。